説明

電解コンデンサ電極用アルミニウム箔およびその製造方法

【課題】未エッチングに起因する点状光沢斑の発生を抑制することができ、静電容量が高い電解コンデンサ電極用アルミニウム箔およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】高純度のアルミニウム材料を圧延することにより広幅のコイル材10に形成し、そのコイル材10の状態で焼鈍を行った後に、その焼鈍後のコイル材10を所定幅にスリットすることにより電解コンデンサ電極用アルミニウム箔20を製造することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度アルミニウム箔にエッチングを施すことにより製造される電解コンデンサ電極用アルミニウム箔およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサ電極用アルミニウム箔は、高純度のアルミニウム箔にエッチングを施すことにより製造されている。エッチングによって、アルミニウム箔の表面に多数のトンネルピットが形成され、アルミニウム箔の表面積が拡大し、静電容量の高い電解コンデンサ電極用アルミニウム箔が得られるのである。
しかしながら、このようなエッチングをして得られるアルミニウム箔には、点状の光沢斑が生じ易く、点状光沢斑が過大に発生すると静電容量が低下したり、これら点状光沢斑により光沢にむらが生じ、製品価値を著しく低下させるという問題がある。
点状光沢斑とは、アルミニウム箔にエッチング処理を施す際、局部的かつ散点状に未エッチング部が生じて、アルミニウム箔の光沢がエッチン後にも残存している領域のことであり、この未エッチング部における光の反射率が、エッチング部における光の反射率よりも大きいために、光沢にむらが発生する。
【0003】

これらの対応として、例えば、特許文献1には、(100)面を持つ結晶粒の割合の変動が少ない方が、且つ、表面酸化被膜の厚さの変動が少ない方が、点状光沢が発生しにくいとの知見から、アルミニウム純度が99.98%以上の圧延アルミニウム箔中における(100)面を持つ結晶粒の占有率の平均値が95%以上、占有率の値のバラツキが2.5%未満で、アルミニウム箔表面に形成されている酸化被膜の耐電圧の平均値が1.2〜1.8Vで、耐電圧の値のバラツキが8%未満の電解コンデンサ陽極用アルミニウム箔が提案されている。このようなアルミニウム箔は、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延及び中間焼鈍を施した後、圧下率15〜20%で最終冷間圧延を施し、有機溶剤を用いて洗浄した後、特定の条件で最終焼鈍を施すことにより得られることが記載されている。(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−309836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の方法によれば、未エッチングに起因する点状光沢斑の発生を抑制することが期待できるが、上記の製造方法によってもなお点状光沢斑の発生を完全には防止しきれなかった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、点状光沢斑の発生を抑制することができ、静電容量が高い電解コンデンサ電極用アルミニウム箔およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
点状光沢斑の発生原因はアルミニウム箔の圧延中に付着する銅粉や鉄粉の異物と考えられる。アルミニウム箔に5μm以上の異物が付着した状態で焼鈍を行うと、その周囲(約0.1mmφ)は、その異物から発生するガス、または異物周辺にトラップされる圧延油の影響を受け、著しくエッチング性が低下し、点状光沢斑を発生させる。
このことから、最終焼鈍工程前のスリット工程、洗浄工程、圧延工程において、圧延工程で用いる圧延油の濾過、洗浄工程で用いる洗浄液の濾過、スリット工程で用いるスリット刃の清掃、及び各工程で用いるロールの清掃を行い、特に圧延油を濾過することにより、銅粉や鉄粉の異物の多くを除去して焼鈍を行っているが、それでもなお、点状光沢斑の発生を完全には防止することができなかった。
本発明者が検討を繰り返した結果、点状光沢斑の発生原因として考えられる銅粉や鉄粉の異物(以下、銅鉄系の異物という)の他、化学繊維などの繊維系異物においても同様の点状光沢斑が生じるものであることが判明した。また、繊維系異物の多くは、焼鈍前のスリット時におけるライン駆動前もしくは初期の低速運転時に落下し、巻き込まれることによりアルミニウム箔の表面に付着していることを見出した。繊維系異物の付着は、ほこり等によるものであるから、クリーンルーム等の管理された環境で作業すれば回避可能であるが、費用面で有効とは言い難い。
本発明者は、点状光沢斑の発生を防止するために、アルミニウム箔に対する繊維系異物の付着を防止することが重要であるとの結論に至り、以下のような解決手段とした。
【0008】
本発明の電解コンデンサ電極用アルミニウム箔の製造方法は、アルミニウム材料を圧延して広幅のコイル材に形成し、焼鈍を行った後に、前記コイル材を所定幅にスリットすることを特徴とする。
【0009】
本発明の電解コンデンサ電極用アルミニウム箔の製造方法では、500℃以上の不活性ガス、又は還元性ガス中で2時間以上の焼鈍を行った後に、コイル材を所定幅にスリットして電解コンデンサ電極用アルミニウム箔を製造する。焼鈍前にコイル材に付着した銅鉄系の異物は、圧延の際に圧延油によって洗い流され、コイル材の表面の異物は除去された状態で焼鈍される。焼鈍後にコイル材をスリットする際には、繊維系の異物や銅鉄系の異物が付着しても、容易に離脱し易いとともに、これらの異物が高温に加熱されて熱変質することがなく、その後のエッチング処理において未エッチングに起因する点状光沢斑の発生を抑制することができる。
【0010】
本発明の電解コンデンサ電極用アルミニウム箔の製造方法において、前記焼鈍は、横向きに配置した前記コイル材の端部の少なくとも下側半分が、アルミニウム薄膜で包むように覆われた状態でなされるとよい。
本発明の電解コンデンサ電極用アルミニウム箔の製造方法において、前記焼鈍は、横向きに配置した前記コイル材の全面又は端面が、前記アルミニウム薄膜で包むように覆われた状態でなされるとよい。
【0011】
スリット処理前に焼鈍を行う場合、焼鈍時のコイル材の重量が大きいために熱ダレが大きくなり、コイル材の下側部分に隙間が生じ易い。そのため、その隙間部分においては、熱による影響を受け易く、端部酸化が発生し易くなる。
端部酸化は、一旦熱分解された成分(圧延油の残渣、酸化被膜等)がコイル材の外側に排出され、コイル材の端面に再付着することで発生する。そのため、焼鈍時においては、コイル材端部の少なくとも下側半分を、アルミニウム薄膜で包むように覆われた状態で焼鈍を行うことで、端部酸化を軽減させることができる。また、コイル材の全面または端面をアルミニウム薄膜でカバーして目隠しすることによっても、端部酸化を軽減することができる。
【0012】
本発明の電解コンデンサ電極用アルミニウム箔は、表面に存在する最大長0.5mm以上の点状光沢斑の数が、10個/m以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、未エッチングに起因する点状光沢斑の発生を抑制することができ、静電容量が高い電解コンデンサ電極用アルミニウム箔を製造することできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】コイル材を説明する図である。
【図2】コイル状の電解コンデンサ電極用アルミニウム箔を説明する図である。
【図3】コイル材の熱ダレを説明する図である。
【図4】アルミニウム薄膜で端部を覆った状態のコイル材を示す図である。
【図5】熱ダレにより生じる端部酸化部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の電解コンデンサ電極用アルミニウム箔の製造方法の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
本発明においては、高純度のアルミニウム材料の鋳塊を、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延、中間焼鈍、最終冷間圧延、必要に応じて洗浄を行うことにより、図1に示すように広幅のコイル材10を形成する。そして、コイル材10の状態で焼鈍を行った後に、その焼鈍後のコイル材10を所定幅にスリットして、複数個のコイル状に形成された電解コンデンサ電極用アルミニウム箔20を製造する。その後、これら電解コンデンサ電極用アルミニウム箔20にエッチング処理を施すことにより、電解コンデンサ電極用のアルミニウムエッチング箔を製造する。
【0016】
この一連の工程中、圧延の際に、コイル材10の表面に銅鉄系の異物が付着することがあるが、異物の大部分は圧延油によって洗い流される。そして、コイル材10は、図3に示すように、横向きにシャフト11に支持され、また、図4に示すように、コイル材10の端部の少なくとも下側半分をアルミニウム薄膜12で包むように覆われた状態で焼鈍される。焼鈍は、500℃以上の不活性ガス又は還元性ガス中で2時間以上施される。焼鈍後、コイル材10は、所定幅にスリットされる。
【0017】
本実施形態のように、焼鈍前にコイル材10のスリット処理を行わない場合には、図3に一点鎖線Aで示すように、焼鈍時のコイル材10の重量が大きいために、その自重による熱ダレが大きくなり、コイル材10の下側に隙間が生じ易い。コイル材10の隙間部分においては、焼鈍時に熱による影響を受け易く、端部酸化が発生し易くなる。その結果、図5に示すように、皮膜が厚く形成された部分(端部酸化部15)が、コイル材10の端部だけではなく、内側に大きく入り込んで形成されてしまう。
端部酸化は、一旦熱分解された成分(圧延油の残渣、酸化被膜等)がコイル材10の外側に排出され、そのコイル材10の端面に再付着することで発生する。そのため、焼鈍時においては、コイル材10の端面の少なくとも下側半分(熱ダレにより開き易い部分)を、アルミニウム薄膜等で包むようにして覆われた状態で焼鈍を行うことで、端部酸化を軽減させることができる。
本実施形態においては、図4に示すように、焼鈍時において、コイル材10の端面をアルミニウム薄膜12により覆っており、そのアルミニウム薄膜12を、コイル材10に密着させずに隙間をあけて覆うことで、コイル材10から排出された油分等がアルミニウム薄膜12の内面に付着し、コイル材10への再付着が防止される。これにより、コイル材10の端部酸化を軽減させている。
なお、アルミニウム薄膜12を、コイル材10の端面だけではなく、コイル材10の全面を覆った状態で焼鈍することによっても、端部酸化を低減することができる。
【0018】
次に、このようにして焼鈍されたコイル材10を所定幅にスリットするとともに、適宜の長さに切断する。これにより、一個の広幅のコイル材10から所定幅にスリットされたコイル状の電解コンデンサ電極用アルミニウム箔20が複数個作製される(図2)。そして、これらの電解コンデンサ電極用アルミニウム箔20は、スリット後に、エッチング処理が施され、電解コンデンサ電極用のアルミニウムエッチング箔が製造される。
【0019】
本実施形態の製造方法においては、コイル材10の焼鈍後にスリットを行うので、スリットの際に繊維系の異物や銅鉄系の異物が付着することがあっても、電解コンデンサ電極用アルミニウム箔20の表面は乾燥しているので、これら異物と電解コンデンサ電極用アルミニウム箔20との密着性は低くなっている。そのため、エッチング処理時に、電解コンデンサ電極用アルミニウム箔20の表面に付着した異物を容易に離脱させることができる。また、スリットにより異物が付着するのは焼鈍後であるため、これらの異物が高温に加熱されて熱変質することがなく、その後のエッチング処理において未エッチングに起因する点状光沢斑の発生を抑制することができ、その結果、静電容量が高い電解コンデンサ電極用アルミニウム箔を製造することできる。
【実施例】
【0020】
本発明の効果を確認するために行った実施例について説明する。
4N純度(99.99質量%)のアルミニウムにおいて、Si;10〜20ppm、Fe;10〜20ppm、Cu;40〜60ppm、Pb;0.5〜2.0ppm、残部が不可避不純物からなるアルミニウムスラブを、定法にて圧延を行い、途中、中間熱処理を行い、厚さ100〜130μm、1030mm幅の4〜5tonのコイル材を作製した。なお、各試料は、表1に示す条件で作製した。
試料1〜3においては、1030mm幅の4〜5tonのコイル材をそのまま用い、あらかじめ1000mm長さの範囲を目視観察し、付着している繊維系異物の個数を計測した。
また、試料2は繊維系異物の計測後に、コイル材の全面を50μmの軟質アルミニウム箔(アルミニウム薄膜)にて覆い、試料3はコイル材の端面部分だけ軟質アルミニウム箔にて覆った状態とした。
試料4〜6においては、それぞれ1030mm幅のコイル材の中央部をスリットし、515mm幅で300〜600kgの10〜16巻の二次コイル材を作製し、2000mm長さの範囲を目視観察し、付着している繊維系異物の個数を計測した。
また、繊維系異物の計測後に、試料5は二次コイル材の全面を軟質アルミニウム箔にて覆い、試料6は二次コイル材の端面部分だけ軟質アルミニウム箔にて覆った状態とした。
【0021】
そして、試料1〜6のそれぞれについて、還元性ガス雰囲気中で550℃、8hの焼鈍を行った。その後、試料1〜3のコイル材については、中央および端部をスリットするとともに、適宜の長さに切断し、500mm幅の300〜600kgに切断されたコイル状の電解コンデンサ電極用アルミニウム箔を10〜16巻作製した。また、試料4〜6の二次コイル材は、両端部をスリットして500mm幅のコイル状に形成された電解コンデンサ電極用アルミニウム箔とした。
各試料1〜6を所定幅(500mm幅)に切断後、各電解コンデンサ電極用アルミニウム箔の外周部よりサンプリングを行い、エッチング処理を行った。エッチング面積は、10cm×5cmの範囲とし、試料毎に10枚ずつエッチングを行った。エッチングは、1モル濃度塩酸+3モル濃度硫酸の混酸溶液75℃中にて電流密度200mA/cmの直流電解を60秒行った。得られたエッチング箔表面に存在する最大長0.5mm以上の点状光沢斑の個数を目視で計測し、1コイル当たり500cmを評価し、電解コンデンサ電極用アルミニウム箔の数を加味して、電解コンデンサ電極用アルミニウム箔の1m当りの点状光沢斑の個数を算出した。
また、所定幅に切断されたコイル材の端部を観察し、端部酸化による変色領域が端面より5mm以内の範囲に収まっていた場合を「◎」、5mmを超えて10mm以内に収まっていた場合を「○」、10mmを超えて変色が確認されたものを「△」として、評価を行った。これらの結果を表2に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1に示される結果から明らかなように、焼鈍前にコイル材のスリットを行わない場合、アルミニウム箔表面の点状光沢斑の発生を抑制することができる。また、焼鈍時にコイル材の全面または端面をアルミニウム薄膜で覆うことにより、端部酸化を軽減できることがわかる。
【0024】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこの記載に限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
また、点状光沢斑は、未エッチングが原因であるが、全くエッチングされないものに限らず、若干のエッチングはされるが、他のエッチング部よりエッチングの程度が小さいために、他のエッチング部より光沢があるものも含む。
【符号の説明】
【0025】
10 コイル材
11 シャフト
12 アルミニウム薄膜
15 端部酸化部
20 電解コンデンサ電極用アルミニウム箔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム材料を圧延して広幅のコイル材に形成し、焼鈍を行った後に、前記コイル材を所定幅にスリットすることを特徴とする電解コンデンサ電極用アルミニウム箔の製造方法。
【請求項2】
前記焼鈍は、横向きに配置した前記コイル材の端部の少なくとも下側半分が、アルミニウム薄膜で包むように覆われた状態でなされることを特徴とする請求項1記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム箔の製造方法。
【請求項3】
前記焼鈍は、横向きに配置した前記コイル材の全面又は端面が、前記アルミニウム薄膜で包むように覆われた状態でなされることを特徴とする請求項2記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム箔の製造方法。
【請求項4】
表面に存在する最大長0.5mm以上の点状光沢数の数が、10個/m以下であることを特徴とする電解コンデンサ電極用アルミニウム箔。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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