説明

電解プロセス用の基本セルおよび関連するモジュール型電解装置

塩素アルカリ電気分解に適した、セパレータを備える電気分解セルは、電流分配器によって押し付けられた弾性の導電性素子によってセパレータと接触した状態に保たれた平面可撓性カソードと、セパレータを支持する穿孔シートまたはメッシュからなるアノードを有する。セルは、個々に事前に組み立てられ、その終端のセルのみが電源に接続される電解装置を形成するためのモジュール構成の基本ユニットとして用いるのに適し、隣接するセルの電気的導通は、各セルの境界を定めるシェルの外部アノード壁面に固定された導電性接触細長片によって確実にされる。カソード電流分配器およびアノード構造体の剛性、および導電性素子の弾性は共同して、均一な圧力分布によってカソードからセパレータへの一様な接触を維持し、一方、接触細長片に対する適切な機械的負荷を確実にする。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
工業用電気分解プロセス、たとえば水素および酸素の生成のための水の電気分解、ならびにアルカリブライン(鹹水)、特に塩素、苛性ソーダ、および水素の生成を対象とする塩化ナトリウムブラインの電気分解は、一般には図1に示されるタイプの電解装置にて行われる。図1の参照番号が示すのは、1は電解装置、2は基本セルであり、そのモジュール構成が電解装置を形成し、3および4はそれぞれ外部整流器の正極および負極への接続部、5は多数の基本セルの支持体であり、これは電解装置の下に配置することができ、または電解装置の側面に沿って対にて位置する片持ち梁として形成することができ、6および7はタイロッドまたは油圧ジャッキ(図面には示さず)によって加えられる圧力であり、この圧力は周辺ガスケット(図面には示さず)と共同で環境へのプロセス流体の気密シールを確実にし、一部のタイプの電解装置ではまた様々なセルの間の電気的導通を改善することを目的とする。電解装置はまた、電気分解すべき溶液を供給し、生成物および残留使用済み溶液を回収することを可能にする適当なノズルおよび油圧接続を装備する(やはり分かりやすくするために図面では省いている)。
【0002】
図2は矢印8に示される方向に沿った、負極に接続された電解装置の終端部の断面を表し、産業慣行での一般的な設計による終端の素子および多数の個々の二極性素子を示す。参照番号が示すのは、
9は、壁面10と、カソード垂直細長片12によって支持された穿孔シートまたはメッシュからなるカソード11とを備えた終端のカソード素子であり、
13は、壁面10ならびに、穿孔シートまたはメッシュからなりそれぞれカソードのおよびアノードの垂直細長片12および15によって支持されたカソード11およびアノード14を備える個々の二極性素子であり、
16および17は周辺ガスケットであり、外部タイロッドまたはジャッキによって発生された圧縮力の下でセパレータ18(たとえば、多孔質隔膜またはイオン交換膜)を締め付け、環境へのカソード区画およびアノード区画内に含まれる電解液および電気分解生成物の気密シールを確実にする。
【0003】
図2の概略図では分かりやすくするために様々な内部構成要素が別々のものとして示されており、慣行では、セパレータ18はアノード14に接触してそれを支持し、一方、カソード11はたとえば1〜2mmの隙間だけ間隔があけられる。高さが1〜1.5メートルおよび長さが2〜3メートルになり得る二極性素子13の大きさを考えると、カソードとアノードの必要な平面性および平行度を得るのは構築の著しい難しさを伴うことが明らかである。さらに電解装置1の組み立ては、アノード表面が作業者に面した状態で、接着剤で固定された必要な周辺ガスケットを用いて2つの面上に設けられた二極性素子の関連する支持体の垂直位置決めの定期的繰り返し、およびその後のアノード表面およびガスケット上へのセパレータの適用を含む、一連の作業を行わなければならない作業スタッフによる特別な注意を必要とし、このような組み立てシーケンスの難しさの中でも留意されるべきであることは、セパレータが滑り落ちる傾向によりその正確な位置決めが複雑になること、および互いに異なる二極性素子の相互の整合を保つ必要があることである。
【0004】
支持体上に位置決めされた多数の二極性素子は、最後に外部環境への必要な気密シールを確実にするために外部タイロッドまたは油圧ジャッキによって圧縮され、この段階においては様々な二極性素子のいかなるわずかな不整合、さらにはセパレータのわずかな滑りもセパレータを損傷し得ることになり正常な機能が妨げられる。これが起きないときでも、場合によりカソードとアノードの平行度および関連する隙間の公差からの変移により電流分布の不均一性を生じ、電気分解の品質、および特にセパレータがイオン交換膜からなる場合はセパレータの寿命に悪影響を及ぼす。さらに二極性素子および/またはセパレータの機能不良の場合は、交換のための介入は外部タイロッドまたは油圧ジャッキによって加えられた圧縮を解放する必要があり、これは結果としてセパレータに対する二極性素子の相互の滑りの可能性を伴い、この状態はそれに続くタイロッドまたは油圧ジャッキの締め直しの過程でさらなる損傷となり得る。
【0005】
図3の概略図は矢印8で示された方向に沿った、異なるタイプの電解装置の負の終端部分の断面を表し、この場合は電解装置は、単一セル型設計による多数の個々のセル19によって形成される。それぞれの個々のセル19は、外部周辺に沿って配置された一連のボルト22によって相互に固く締められたカソードシェル20およびアノードシェル21の2つのシェルを備え、ボルトによって発生された圧縮の下にカソードガスケット23とアノードガスケット24はそれらの間にセパレータ25を締め付け、外部環境への気密シールを確実にする。2つのシェル20および21には、それぞれ26および27として示されるカソードのおよびアノードの垂直内部細長片が設けられ、それらにはそれぞれカソードのおよびアノードの穿孔シートまたはメッシュ28および29が固定され、最後に、電解装置の様々な個々のセルの間の電気的導通を確実にすることを目的として、カソードのおよびアノードの内部細長片に対応してアノードシェル21の外面に配置された垂直接触細長片30が設けられる。
【0006】
図2の場合のように図3の場合も、カソード、アノード、およびセパレータは、セル内部構造を分かりやすくするために別々の要素として表されており、慣行では、セパレータは支持するアノードと接触し、一方、カソードは予め規定された有限の隙間にある。単一セル型のそれぞれの個々のセルはさらに、接触細長片30と整合され、電気絶縁材料、好ましくはその化学的不活性によりPTFEから作られたスペーサ31および32を備える。スペーサ31および32の機能は最も重要であり特に単一セル設計を特徴付け、外部タイロッドまたは油圧ジャッキの圧縮の効果の下で、その厚さが注意深く較正されたスペーサ(厚さはたとえば0.1mm未満の機械的公差で、1〜2mmに設定される)は、セパレータを損傷せずに互いに締め付け、周辺ガスケットの圧縮の調整を可能にし、わずかではあるが構造体のたわみを生じて、構築の公差からの一貫した変移の場合も、ほぼ一定でかつ予め規定された隙間での優れた平行度を確実にする。さらにスペーサは、外部タイロッドまたは油圧ジャッキの機械的負荷を外部接触細長片上に集中させて、最小の電気抵抗を保証するのに十分な圧力を発生することを可能にする。スペーサの圧力が加えられるアノード表面は、もちろんセパレータを損傷するのを避けるように適切に平らにされる。
【0007】
上記に示した設計の利点は本質的に、工場の組み立て部門において水平位置にて各単一セルを個々に組み立てることができることであり、この水平位置はシェル、ガスケット、スペーサ、および特にセパレータの相互の位置決めを大幅に容易にする。組み立て作業が周辺のボルト締めの封止により終了した後に単一セルは支持体上に置かれ、すべての多数の個々のセルを位置決めした後に、組立体は外部タイロッドまたは油圧ジャッキの作用の下で締め付けられて様々なセルの間の電気的導通、およびカソードとアノードの間の予め規定された隙間での平行度を達成する。最後に単一セル設計は、セパレータの損傷を防止することを可能し、カソードとアノードの予め規定された隙間での平行度のおかげで、電流の均一な分布を達成して電解プロセスの良好な品質および長いセパレータ寿命を確実にする。さらに単一セルの機能不良の場合は、この場合も保守手順は外部タイロッドまたは油圧ジャッキによって加えられた圧力の解放を必要とするが、個々のセルを開ける必要はなく、様々な内部構成要素の内部資産には触れられず、したがって可能性のある、機能不良の単一セルを交換するための介入が、後続するタイロッドまたは油圧ジャッキの締め付け段階において損傷を必ず伴うということはなくなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記に示した技術は、約1〜2mmのカソード・アノード隙間をもたらし、産業慣行では、これまで満足できると見なされてきた単位生成物当たりの特定の電気エネルギー消費によって特徴付けられるが、それにもかかわらず電気エネルギーの価格の絶え間ない増加は、顕著なエネルギー節約をもたらすことができる新規な設計へと推し進めている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書に示される新規な単一セル設計はこの目的を、個々のセルの上面図を表す図4に図式化されるように、カソードからアノードへの隙間をなくすことによって達成する。図3の図面と共通な要素(シェル、周辺ガスケット、セパレータ、アノード垂直細長片、アノード、および接触細長片)は同じ参照番号で示され、差異のある要素は、それに固定された穿孔シートまたはメッシュ34を有する低くされたカソード細長片33と、たとえば、1つまたは複数の金属線から得られる互いに貫入した複数のコイルによって形成される、並置された2つ以上の波形の導電性金属布またはマットからなる弾性素子35と、カソードとして働く薄い穿孔シートまたは可撓性平面メッシュ36とからなる。カソード垂直細長片33を低くすることによって、弾性素子35を導入するための必要な余地を生じることが可能になる。
【0010】
事前に組み立てられたセルが支持体上に据え付けられ、タイロッドまたは油圧ジャッキによって加えられる圧力を受けるときには、シートまたはメッシュ34は弾性素子35を圧縮し、同様に弾性素子35はカソード36をアノード29によって支持されるセパレータ25に対して圧縮する。素子35の弾性は、アノード29と、実質的に弾性素子へのかつそれを跨がって可撓性カソードへの電流分配素子として働くシートまたはメッシュ34との理想的な平面性および平行度からの避けられない小さな変移とは無関係に、カソード36がセパレータと連続的にかつ一様に接触したまま保たれることを確実にする。このようにして、動作時に電流が一様に分配され、その結果、エネルギー消費がそれに左右される個々のセル電圧が最小化されることが保証される。
【0011】
図4の概略図から分かるように、弾性素子35を用いることはスペーサ31および32をなくす必要があり、シートまたはメッシュ34とアノード29の平行度からの変移に対応して、セパレータ25のアノードに対する過剰な圧縮が発生され、その結果膜を損傷し得るという明らかなリスクを生じる。このリスクは、シートまたはメッシュ34およびアノード29が補強されその剛性が増加されれば、かつ/または隣接するカソード細長片33の間およびアノード細長片27の間の距離が減少されれば軽減されるが、このような2つの対策は、材料の使用量の増加、および結果として接触細長片30の数も増やす必要性のための追加のコストを当然伴う。
【0012】
1つの代替的実施形態は、シートまたはメッシュ34のみの厚さを増加させ、アノード細長片27のそれぞれの対の間にV字形の垂直素子37を導入することによって必要なアノード剛性を確実にし、垂直素子37はプラスチック材料から製造することができ、その場合は強制的に挿入され、または金属から製造することができ、その場合は任意選択で溶接スポットによって固定される。素子37の先端38は、アノード29のシートまたはメッシュに対する直線的な接合面として働き、それによりアノード29のたわみは、その厚さ、またはアノード細長片の数それにしたがって接触細長片の数を、増やすことを必要とせずに大幅に低減される。素子37はまた有利には、適切な寸法に作られれば、内部再循環を促進するものとして働くことができる。最後に、素子37の端部は、弾性素子35によって加えられる圧力を、部分的にアノード細長片27の末端へ、したがって接触細長片30の末端へ逃がし、隣接するセルのそれぞれの対の間の低い接触抵抗を保つのに有効に寄与する。
【0013】
弾性素子に結合された可撓性平面シートまたはメッシュの形のカソードを利用した、このカソードからアノードへの隙間がゼロの設計の適用は特に、上述のように、電解装置支持体上での位置決めを始める前にセルの事前組み立てを行うことができる単一セル型の技術に特に適している。特に、関連する組み立て工場部門にて行われる事前組み立ては水平位置でのセルで行われ、したがってカソードおよび関連する弾性圧力素子の位置決め、さらにセパレータの位置決めは、大幅に容易になる。逆に言えば、多数の二極性素子からなる図2の電解装置のタイプへの適用は、上述のセパレータの滑りおよび二極性素子の不整合のリスクの他に、カソードの滑り、および弾性素子の下方向のたわみおよび滑りの不都合が生じ、この理由から、関連するガスケット、セパレータ、カソード、および弾性素子を有する多数の二極性素子は締め付けるとすぐに、その後の機能の正常性に悪影響を生じる圧力分布異常が生じ得るので非常に問題がある。
【0014】
弾性圧力素子に結合されたカソードを利用する、カソードからアノードへの隙間がゼロの設計の有効性は、膜による塩素アルカリ電気分解用の試験的電解装置に対して検証された。電解装置は水平位置にて事前に組み立てられ、その後にそれらの支持体上に据え付けられた8個の単一セルを装備した。セルは標準の工業サイズ(高さが1.2メートルで長さが2.7メートル)であり、それぞれは関連する内部構成要素(カソード細長片、電流分配器として働く剛性のメッシュ、直径が約0.2mmの互いに貫通した二線コイルから形成された高さが0.6mで長さが2.7mの2つのマットからなる弾性素子、水素発生のための触媒被覆を備える可撓性平面カソード)と同時にニッケル製のカソードシェルと、関連する内部構成要素(アノード細長片、V字形支持素子、塩素発生のための触媒被覆を備えるアノード、接触電気抵抗を最小にするためにニッケル膜で被覆されたチタン製の外部接触細長片)と同時にチタン製のアノードシェルと、化学的耐性のあるゴムのガスケットと、米国デュポン社によって製造されるN2030タイプの陽イオン交換膜とを備える。
【0015】
電解装置は、32重量パーセントの苛性ソーダ、210g/lの出口濃度での塩化ナトリウムブラインを用いて、90℃にて5KA/mの電流密度にて動作させた。約1週間の安定化期間の後に、セルは2.90Vの平均電圧によって特性化され、これは6ヶ月の動作の後にほぼ変化せず、そこで電気分解は中断され、2つの単一セルがそれらの支持体から移動されて開かれ、それらの構成要素の目視検査を受けた。検査では顕著な変化は示されず、特に2つの膜は、カソードの異常な圧縮によって発生されるしわまたは他の痕跡が実際上ない表面を示した。2つのセルは再び組み立てられ、電解装置の支持体上に再び据え付けられ次いで始動され、検査された2つのセルを含む単一セルの電圧は停止する前の値に戻った。
【0016】
比較として、同じ構造を有するが圧力マットのない、図3の構造による1.5mmのカソードからアノードへの隙間によって特性化されるセルを装備した電解装置の場合は、同じ膜および動作条件での平均セル電圧は約3.15Vであり、これは生成物の苛性ソーダのトン当たり約170KWhのエネルギー消費量の顕著な増加に相当する。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードシェルとアノードシェルとを備える基本電気分解セルであって、前記カソードシェルおよび前記アノードシェルは、周辺カソードガスケットと、周辺アノードガスケットと、セパレータとを介在して周辺のボルト締めによって相互に締め付けられ、前記カソードシェルは、複数の垂直な内部カソード細長片上に固定された穿孔シートまたはメッシュの形の電流分配器と、前記電流分配器に電気的に接触し、前記セパレータと一様に接触する穿孔シートまたはメッシュの形の可撓性カソードと、前記電流分配器と前記可撓性カソードの間に配置された導電性弾性素子とを含み、前記アノードシェルは、複数の垂直な内部アノード細長片に接して固定された前記セパレータと一様に接触する穿孔シートまたはメッシュの形のアノードと、前記内部アノード細長片に直接対応して外部に配置された複数の導電性アノード接触細長片とを含む、セル。
【請求項2】
前記アノードが、前記内部アノード細長片のそれぞれの対の間に導入されたV字形素子の先端によってさらに支持される、請求項1に記載のセル。
【請求項3】
前記弾性素子が、少なくとも2つの並置された波形の布状体からなる、請求項1に記載のセル。
【請求項4】
前記弾性素子が、互いに貫入した複数のコイルのマットからなる、請求項1に記載のセル。
【請求項5】
前記互いに貫入した複数のコイルが、少なくとも2つの金属線から形成される、請求項4に記載のセル。
【請求項6】
前記セパレータはイオン交換膜であり、前記カソードシェル、前記剛性の電流分配器、前記カソード細長片、前記カソード、および前記弾性素子は、ニッケル製であり、前記アノードシェル、前記内部アノード細長片、および前記アノードは、チタン製であり、前記外部アノード接触細長片は、ニッケル層で被覆されたチタン製である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のセル。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の、個別に事前に組み立てられた複数の基本セルのモジュール構成からなる電解装置。

【公表番号】特表2012−508822(P2012−508822A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543756(P2011−543756)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【国際出願番号】PCT/EP2009/065214
【国際公開番号】WO2010/055152
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(502043101)ウデノラ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ (14)
【Fターム(参考)】