説明

電解プロセス用陰極

本発明は、塩素アルカリ電気分解における水素発生に特に適した電解プロセス用の陰極に関し、パラジウムを含有する保護ゾーンと、白金もしくはルテニウムを含有する物理的に異なる触媒活性化ゾーン〔必要に応じて酸化力の高い金属酸化物(好ましくは、酸化クロムまたは酸化プラセオジム)と混合する〕とを含む被膜が施されているニッケル基材からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電解プロセス用の電極に関し、さらに詳細には、工業的電解プロセスでの水素発生に適した陰極に関する。
【背景技術】
【0002】
以後、塩素アルカリ電気分解を陰極での水素発生を伴う典型的な工業的電解プロセスとして述べるが、本発明は特定の応用分野に限定されない。電解業界においては、競争力は種々のファクターと関連していて、そのうちの主たるものがエネルギー消費量の低減(電解電圧と直接関係がある)である。従って、種々の構成部材においてエネルギー消費量の低減に向けての多くの努力〔例えば、抵抗降下(温度、電解質濃度、電極間ギャップ、ならびに陽極もしくは陰極過電圧等のプロセスパラメーターに依存する)〕が必要となる。陽極過電圧の問題(基本的にはより重大な問題)はこれまで、初めは適切な触媒で被覆されたグラファイト基材をベースにして、そして最近では適切な触媒で被覆されたチタン基材をベースにしてより一層高性能の触媒陽極を開発することによって対処されてきた(塩素アルカリ電気分解の場合は、特に、塩素発生過電圧の低下が注力されている)。これとは逆に、触媒作用のない化学抵抗性材料(例えば炭素鋼)で造られた電極を使用した場合に当然発生する陰極過電圧は、長年にわたって受け入れられてきた。それにもかかわらず市場は、腐食という観点からは実効的でない炭素鋼陰極を利用して、ますます高濃度の腐食性生成物を求めている。さらに、エネルギーコストが増大することから、陰極での水素発生を容易にするために、触媒を使用することが益々好都合となっている。これらの要求を取り除くための、当業界において知られている最も一般的な対策は、ニッケル基材(炭素鋼より化学抵抗性が高い)と、酸化ルテニウムもしくは白金をベースにした触媒物質との使用によって代表される。例えば、米国特許第4,465,580号と第4,238,311号は、酸化ルテニウムと酸化ニッケルとの混合物の被膜を有するニッケル陰極を開示しており、該陰極は、長年にわたって、旧世代の炭素鋼陰極に対する、より高価ではあるが技術的により優れた代替陰極となってきた。しかしながらこのような陰極は、おそらくは基材に対する被膜の接着力が弱いことから、耐用年数がかなり限定されている。
【0003】
ニッケル基材に対する触媒被膜の接着力の大幅な改良が、欧州特許第298055号に開示の陰極によってもたらされた。該陰極は、白金もしくは他の貴金属とセリウム化合物とで活性化され、同時的もしくは逐次的に施され、そして、セリウムで希釈された、あるいは好ましい実施態様においては保護機能を有するセリウムの多孔質層で被覆された、白金もしくは他の貴金属をベースとする触媒被膜を得るべく熱分解されるニッケル基材を含む。このときセリウムの役割は、実際には、存在する可能性のある鉄ベースの不純物(貴金属の触媒活性にとって有害であることが分かっている)を消滅させることにある。先行技術を凌ぐ改良にもかかわらず、欧州特許第298055号の陰極は、触媒活性と電解条件下での安定性が、現在の工業プロセスのニーズに対してまだ充分とは言えない。特に、欧州特許第298055号の被膜は、時々発生する電流反転(一般には、工業用プラントの機能不全時に起こる)によって著しく損傷されやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4,465,580号
【特許文献2】米国特許第4,238,311号
【特許文献3】欧州特許第298055号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の1つの目的は、工業的電解プロセス用の(特に、陰極での水素発生を伴う電解プロセス用の)新規陰極組成物を提供することである。
【0006】
本発明の他の目的は、先行技術の配合物より高い触媒活性を有する、工業的電解プロセス用の陰極組成物を提供することである。
【0007】
本発明のさらに他の目的は、通常のプロセス条件において先行技術の配合物より長い持続時間を有することを特徴とする、工業的電解プロセス用の陰極組成物を提供することである。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、先行技術の配合物と比較して偶発的な電流反転に対するより高い耐性を有する、工業的電解プロセス用の陰極組成物を提供することである。
【0009】
上記の目的および他の目的は、下記の説明によって明らかになるであろう。下記の説明は本発明を限定することを意図したものではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって規定される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様においては、本発明は、ニッケル基材上にもたらされていて、2つの別個のゾーンを含む被膜が施されている、電解プロセス用陰極〔塩化アルカリブラインの電気分解(塩素アルカリプロセス)において使用するのが特に適している〕からなり、前記2つの別個のゾーンは、(それぞれ)パラジウムと必要に応じて銀を含んでいて、特に電流反転現象に対する保護機能を有する第1のゾーン(保護ゾーン)、及び、白金及び/又はルテニウムを含んでいて(必要に応じて少量のロジウムを混合)、陰極での水素発生に対する触媒機能を有する第2の活性ゾーン(活性化ゾーン)である。活性化ゾーンに含有されている白金とルテニウム、ならびに保護ゾーンに含有されているパラジウムと銀は、少なくともある程度は酸化物の形態をとってよい。本発明の説明全体にわたって、ある特定の元素の存在は、金属形態またはゼロ酸化状態に限定されることを意図していない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1の好ましい実施態様においては、白金及び/又はルテニウムをベースとする水素発生用触媒を含有する外側活性化層とニッケル基材との中間にある別個の層中にパラジウムが含有されている。本発明の第2の好ましい実施態様においては、白金及び/又はルテニウムをベースとする水素発生用触媒を含有する活性化層内に分散された島の中にパラジウムが隔離されている。
【0012】
科学文献から公知のように、パラジウムそれ自体は、陰極での水素発生を触媒するのにある程度は適しているけれども、本発明による配合物においては、かなり高活性の触媒部位が得られることから、相当量の水素発生がパラジウム部位に起こりにくくなる(このことは当業者には明らかであろう)。これとは逆に、パラジウムは、本発明の陰極の耐用年数増大(特に、関連した電解装置の偶発的な機能不全によって電流反転が繰り返し起こるという条件において)という驚くべき効果をもたらす。特定の理論で拘束されるつもりはないが、通常の電解操作時に、パラジウムが(特に銀と組み合わせると)水素化物を形成し、電流反転の場合にこの水素化物がイオン化され、これによって陰極電位が、ルテニウムと白金の顕著な溶解現象を引き起こすだけの充分に高い値にシフトするのが防止される、と仮定することができる。従って、パラジウム(又はより好ましくはパラジウム/銀混合物)は、通常の機能状態が回復されるとすぐに、電流反転事象時にイオン化された水素を放出できる可逆性の水素スポンジ(reversible hydrogen sponge)として挙動すると思われる(自己水素化効果:self-hydridisation effect)。1つの好ましい実施態様においては、Agが20モル%のパラジウム/銀混合物を使用するのが有利であるが、Agのモル濃度は15〜25%の範囲(この濃度範囲でも、最適の自己水素化官能性を示す)であってよい。
【0013】
1つの好ましい実施態様においては、本発明の陰極の触媒成分(白金及び/又はルテニウムをベースとし、必要に応じて少量のロジウムを含有する)が、陰極放電条件下において、高い酸化力を有する酸化物の形態で存在する元素を加えると安定化される。実際、驚くべきことに、CrやPr等の元素を加えると、触媒の安定性に寄与しつつ触媒活性を保持することができる、ということが観察された〔例えば、PrをPtに対して、好ましくは1:1のモル比にて(あるいは、いずれの場合も1:2〜2:1の好ましいモル比にて)加えると、特に効果的であることが判明している〕。このような有益な効果は、酸化ルテニウムをベースとする活性化の場合にも観察された。プラセオジムがこの機能に対して特に適していることが判明したという事実は、高い酸化力を有する酸化物を形成できる他の希土類元素群も一般には、白金またはルテニウムをベースとする触媒に安定性を付与するのに適している、と仮定することを可能にする。
【0014】
塩素アルカリ電解プロセス用陰極の配合物に特に適した本発明の1つの実施態様においては、ニッケル基材〔例えば、メッシュ、発泡もしくは打抜きシート、あるいはパラレル・スランテッド・ストリップ(parallel slanted strips)の集成体(当業界ではルーバーとして知られている)〕に、0.8〜5g/mの貴金属を含有する触媒層(活性化ゾーン)と0.5〜2g/mのPdを含有(必要に応じてAgと混合)する保護ゾーン(触媒活性化層と基材との間の中間層の形態にて、あるいは触媒活性化層内に分散された島の形態のいずれかにて)とで構成される二重被膜が施されている。本発明による触媒被膜の貴金属組み込み量とは、ここでは白金及び/又はルテニウムの含量(必要に応じて少量のロジウムを加える)を意図しており、特に、ロジウムの含量は、活性化ゾーン中の全貴金属含量の10〜20重量%であるのが好ましい。
【0015】
本発明の陰極の製造は、パラジウム含有中間層からなる保護ゾーンに活性化ゾーンをオーバーレイする(overlay)という実施態様の場合には特にデリケートな操作である。当業界に公知のように、酸性溶液(例えば硝酸によって)においてパラジウム前駆体(必要に応じて銀前駆体と混合)からスタートして陰極を製造するときには、実際には、このような中間層をニッケル基材に固定するのが最適である。このように、ニッケル基材は表面が幾らか溶解し、その後の熱分解によりニッケル/酸化パラジウム混合相が形成される。この混合相は、モルホロジー特性に関して、下にあるニッケル基材との相容性が特に良く、従って中間層の接着性が最適になる。他方、その後の活性化層の付着は、アルコール溶液(さらに好ましくは含水アルコール溶液)が使用されるときに驚くほど良好であることが判明している。特に好ましい実施態様においては、保護ゾーンを中間層の形で含むニッケル基材上陰極の製造の場合は、2種の個別の溶液〔すなわち、第1のPd前駆体(例えば硝酸Pd(II))水溶液(例えば硝酸で酸性化され、必要に応じてAg前駆体を含有する);および第2の含水アルコール溶液(例えば、2−プロパノールとオイゲノールと水との混合物中にジアミノ二硝酸Pt(II)もしくはニトロシル硝酸Ru(III)を含有し、必要に応じて少量のロジウム前駆体(例えば塩化Rh(III))を加え、そして必要に応じてCr(III)、Pr(III)、または他の希土類元素塩化物を加える)〕が調製される。パラジウム含有水溶液からスタートして、2種の溶液のそれぞれを、複数回のコーティング(例えば2〜4回のコーティング)にて施し、ある被膜とその次の被膜との間で熱分解処理(一般には、選択される前駆体に応じて400〜700℃の温度にて)を行う。第2の溶液の最後のコーティングを施した後に、最終的な熱処理を行うことにより、過電圧、性能持続時間、および電流反転耐性に関して高性能の陰極が得られる。上記の前駆体は、最終的な熱処理を限定された温度で行うことで、全体としてのコストが受け入れ可能であること、および基材への接着性に関しても最適な性能を有することを特徴とする陰極を得るのに特に適している。他の前駆体も、本発明の要旨を逸脱することなく使用することができる。
【0016】
活性化ゾーン内に保護ゾーンをパラジウム高含量の島の形でもたらすという実施態様にしたがった陰極の製造は、パラジウム、ルテニウム、及び/又は白金の、そして必要に応じてさらなる金属(例えば、クロム、プラセオジム、もしくは他の希土類元素)の同じ前駆体を、好ましくは含水アルコール溶液にて、さらに好ましくは2−プロパノールとオイゲノールと水との混合物中の溶液にて複数回のコーティング(例えば2〜4回のコーティング)を施し、引き続き各コーティングの後に400〜700℃にて熱処理を行うことによって果たすのが有利である。この方法は、パラジウムの金属格子が白金およびルテニウムの金属格子と異なるために、通常の条件下では、パラジウムはこれらの元素と合金を形成することが不可能であるということをうまく利用しており、この結果、物理的に異なった保護ゾーンと活性化ゾーンが得られる。パラジウム高含量の相(保護ゾーン)は、活性化ゾーン内の島の中に隔離されやすく、選択的な水素吸収部位として作用し、偶発的な電流反転現象が生じたときに特に有用である。
【0017】
下記の実施例を考察することにより本発明の理解がより深まるはずである。なお、これらの実施例によって本発明が限定されることはない。
【実施例】
【0018】
実施例1
菱形のメッシュ(4×8mmの対角線)を有する、厚さ1mmで30cm×30cmのニッケルネット(当業者に公知のサンドブラスト工程、脱脂工程、および洗浄工程を施した)に、硝酸Pd(II)とAgNOを溶解して得た水溶液(硝酸で酸性化した)を3回コーティングし、各コーティングの後に、熱処理を450℃にて15分行い、0.92g/mのPdデポジットと0.23g/mのAgデポジットを得た。こうして得られたパラジウム/銀層に、25重量%の2−プロパノールと30重量%のオイゲノールと45重量%の水を含有する含水アルコール中にジアミノ二硝酸Pt(II)を溶解して得られた溶液を4回コーティングし、各コーティングの後に、熱処理を475℃にて15分行って2g/mのPtデポジットを得た。
【0019】
このようにして得た陰極の触媒活性を、膜型の塩化ナトリウムブライン電解セル中において、90℃の温度および6kA/mの電流密度にて32%NaOHを生成させて測定し、Pt−Ce被膜で活性化される類似のニッケルネットからなる先行技術の陰極(欧州特許第298055号の実施例1に開示、Ptの組み込み量は同等の2g/m)と比較した。
【0020】
8時間の試験において、セル(どちらの場合も、酸化チタンと酸化ルテニウムでコーティングされた同等のチタン陽極が取り付けられている)の電圧は、本発明の陰極に対しては約3.10Vの値にて、そして欧州特許第298055号の陰極に対しては約3.15Vの値にて安定していた。
【0021】
2つの陰極の電流反転に対する耐性を、標準的なサイクリックボルタンメトリー試験によって比較した。この試験は、特定のプロセス条件において10mV/秒のスキャン速度にて、不活性化が観察されるまで(触媒活性の消失;陰極電位が3kA/mにて−1.02V/NHEの値を超えない)、分極を−1.05V/NHEから+0.5V/NHEに、そしてこの逆に交互に変える。
【0022】
この試験の後、先行技術の陰極が4回の電流反転に対して耐性を示すのに対して、本発明の陰極は、特定の実験条件にて25回の電流反転に対して耐性を示した。
【0023】
この試験から、本発明の陰極のほうが先行技術の陰極より電流反転に対する耐性が高い、ということがわかった(触媒活性は少なくとも同等)。さらに、当業者には公知のことであるが、電流反転に対する耐性がより高いということは、通常の操作条件での全体としての性能持続時間がより長いということを示している。
【0024】
実施例2
菱形のメッシュ(4×8mmの対角線)を有する、厚さ1mmで30cm×30cmのニッケルネット(当業者に公知のサンドブラスト工程、脱脂工程、および洗浄工程を施した)に、硝酸Pd(II)を溶解して得た水溶液(硝酸で酸性化した)を3回コーティングし、各コーティングの後に、熱処理を450℃にて15分行い、1g/mのPdデポジットを得た。こうして得られたパラジウム層に、25重量%の2−プロパノールと30重量%のオイゲノールと45重量%の水を含有する含水アルコール中にジアミノ二硝酸Pt(II)と硝酸Pr(III)を1:1のモル比にて溶解して得た溶液を4回コーティングし、各コーティングの後に、熱処理を475℃にて15分行って2.6g/mのPtデポジットと1.88g/mのPrデポジットを得た。
【0025】
このようにして得た陰極の触媒活性を、実施例1の場合と同じ試験によって測定し、Pt−Ce被膜で活性化される類似のニッケルネットからなる先行技術の陰極(欧州特許第298055号の実施例1に開示、Ptの組み込み量は同等の2.6g/m)と比較した。
【0026】
8時間の試験において、セルの電圧は、本発明の陰極に対しては約3.05Vの値にて、そして欧州特許第298055号の陰極に対しては約3.12Vの値にて安定していた。
【0027】
2つの陰極の電流反転に対する耐性を、実施例1の標準的なサイクリックボルタンメトリー試験によって比較した。
【0028】
この試験の後、先行技術の陰極が3回の電流反転に対して耐性を示すのに対して、本発明の陰極は、特定の実験条件にて29回の電流反転に対して耐性を示した。
【0029】
実施例3
菱形のメッシュ(4×8mmの対角線)を有する、厚さ1mmで30cm×30cmのニッケルネット(当業者に公知のサンドブラスト工程、脱脂工程、および洗浄工程を施した)に、25重量%の2−プロパノールと30重量%のオイゲノールと45重量%の水を含有する含水アルコール中に、硝酸Pd(II)、ジアミノ二硝酸Pt(II)、および硝酸Cr(III)を溶解して得た溶液を5回コーティングし、各コーティングの後に、熱処理を475℃にて15分行って2.6g/mのPtデポジットと1.18g/mのCrデポジットを得た。
【0030】
このようにして得た陰極の触媒活性を、上記実施例の場合と同じ試験によって測定し、Pt−Ce被膜で活性化される類似のニッケルネットからなる先行技術の陰極(欧州特許第298055号の実施例1に開示、Ptの組み込み量は同等の3.6g/m)と比較した。
【0031】
8時間の試験において、セルの電圧は、本発明の陰極に対しては約3.05Vの値にて、そして欧州特許第298055号の陰極に対しては約3.09Vの値にて安定していた。
【0032】
2つの陰極の電流反転に対する耐性を、上記実施例の標準的なサイクリックボルタンメトリー試験によって比較した。
【0033】
この試験の後、先行技術の陰極が4回の電流反転に対して耐性を示すのに対して、本発明の陰極は、特定の実験条件にて20回の電流反転に対して耐性を示した。
【0034】
実施例4
菱形のメッシュ(4×8mmの対角線)を有する、厚さ1mmで30cm×30cmのニッケルネット(当業者に公知のサンドブラスト工程、脱脂工程、および洗浄工程を施した)に、硝酸Pd(II)、ジアミノ二硝酸Pt(II)、塩化Rh(III)、および硝酸Pr(III)を含有する水溶液(硝酸で酸性化する)を5回コーティングし、各コーティングの後に、熱処理を500℃にて12分行って1.5g/mのPtデポジット、0.3g/mのRhデポジット、1g/mのPdデポジット、および2.8g/mのPrデポジットを得た。
【0035】
このようにして得た陰極の触媒活性を、上記実施例の場合と同じ試験によって測定し、Pt−Ce被膜で活性化される類似のニッケルネットからなる先行技術の陰極(欧州特許第298055号の実施例1に開示、Ptの組み込み量は同等の3g/m)と比較した。
【0036】
8時間の試験において、セルの電圧は、本発明の陰極に対しては約3.02Vの値にて、そして欧州特許第298055号の陰極に対しては約3.08Vの値にて安定していた。
【0037】
2つの陰極の電流反転に対する耐性を、上記実施例の標準的なサイクリックボルタンメトリー試験によって比較した。
【0038】
この試験の後、先行技術の陰極が4回の電流反転に対して耐性を示すのに対して、本発明の陰極は、特定の実験条件にて25回の電流反転に対して耐性を示した。
【0039】
上記の説明は本発明を限定することを意図しておらず、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施態様に従って使用することができ、その範囲は添付の特許請求の範囲によって一義的に規定される。
【0040】
本特許出願の説明と特許請求の範囲の全体にわたって、“含む(comprise)”という用語とそのバリエーション〔例えば、“含むこと(comprising)”や“含む(comprises)”〕は、他の要素や追加物の存在を除外することを意図していない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被膜が施されたニッケル基材を含んで構成される電解プロセス用陰極であって、前記被膜が、保護ゾーンと触媒活性化ゾーンからなる2つの物理的に異なるゾーンを含み、前記保護ゾーンがパラジウムを含有し、前記活性化ゾーンが、水素発生用の白金及び/又はルテニウム触媒を含有する、前記電解プロセス用陰極。
【請求項2】
前記保護ゾーン中のパラジウムに、銀を15〜25%のモル比で混合する、請求項1に記載の陰極。
【請求項3】
前記保護ゾーンがニッケル基材と接触している中間層からなり、前記活性化ゾーンが外側触媒層からなる、請求項1または2に記載の陰極。
【請求項4】
水素発生用の前記触媒が、クロムと希土類元素からなる群から選択される追加元素の少なくとも1種の酸化物をさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の陰極。
【請求項5】
パラジウムを含む前記保護ゾーンが、前記活性化ゾーン内に分散された島からなる、請求項1または2に記載の陰極。
【請求項6】
水素発生用の前記触媒が、クロムと希土類元素からなる群から選択される追加元素の少なくとも1種の酸化物をさらに含む、請求項5に記載の陰極。
【請求項7】
前記追加元素がプラセオジムであって、Pt:Prモル比が1:2〜2:1である、請求項4または6に記載の陰極。
【請求項8】
元素として表わされるPdの特定の組み込み量が0.5〜2g/mであって、元素として表わされるPtとRuの、全体としての特定の組み込み量が0.8〜5g/mである、請求項1〜7項のいずれか一項に記載の陰極。
【請求項9】
前記活性化ゾーンが、ロジウムを、前記活性化ゾーン中の全貴金属組み込み量の10〜20%という特定の組み込み量にて含有する、請求項1〜8項のいずれか一項に記載の陰極。
【請求項10】
少なくとも1種の熱分解可能なPd化合物を含有する水溶液を調製する工程;
少なくとも1種の熱分解可能なPt化合物及び/又はRu化合物を含有する含水アルコール溶液を調製する工程;
前記水溶液を複数サイクルにてニッケル基材に施し、各サイクル後に熱分解処理を行ってパラジウム含有デポジットを得る工程;
ならびに、前記含水アルコール溶液を複数サイクルにて前記パラジウム含有デポジットに施し、各サイクル後に熱分解処理を行ってPt含有デポジット及び/又はRu含有デポジットを得る工程;を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の陰極の製造方法。
【請求項11】
前記水溶液が硝酸Pd(II)を含有する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記含水アルコール溶液が、Pt(II)及び/又はRu(III)の少なくとも1種の化合物を、2−プロパノールとオイゲノールと水との混合物中に含有する、請求項10または11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記Pt(II)の化合物がジアミノ二硝酸Pt(II)であって、前記Ru(III)の化合物がニトロシル硝酸Ru(III)である、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
少なくとも1種の熱分解可能なPd化合物を含有する水溶液を調製する工程;
少なくとも1種の熱分解可能なPt化合物及び/又はRu化合物と、クロムおよび希土類元素からなる群から選択される元素の少なくとも1種の熱分解可能な化合物とを含有する含水アルコール溶液を調製する工程;前記水溶液を複数サイクルにてニッケル基材に施し、各サイクル後に熱分解処理を行ってパラジウム含有デポジットを得る工程;ならびに、
前記含水アルコール溶液を複数サイクルにて前記パラジウム含有デポジットに施し、各サイクル後に熱分解処理を行って、Pt及び/又はRuと、クロムおよび希土類元素からなる群から選択される元素の少なくとも1種の酸化物とを混合状態にて含有するデポジットを得る工程;を含む、請求項4に記載の陰極の製造方法。
【請求項15】
前記水溶液が硝酸Pd(II)を含有する、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記含水アルコール溶液が、Pt(II)及び/又はRu(III)の少なくとも1種の化合物と、クロムおよび希土類元素からなる群から選択される元素の少なくとも1種の化合物とを、2−プロパノールとオイゲノールと水との混合物中に含有する、請求項14または15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記Pt(II)及び/又はRu(III)の少なくとも1種の化合物がジアミノ二硝酸Pt(II)又はニトロシル硝酸Ru(III)であって、前記クロムおよび希土類元素からなる群から選択される元素の少なくとも1種の化合物が硝酸Pr(III)または硝酸Cr(III)である、請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
少なくとも1種の熱分解可能なPd化合物と少なくとも1種の熱分解可能なPt化合物及び/又はRu化合物とを含有する含水アルコール溶液を調製する工程;ならびに、
前記含水アルコール溶液を複数サイクルにてニッケル基材に施し、各サイクル後に熱分解処理を行って、Pt及び/又はRuを含有するデポジットとパラジウムを含有する隔離された島とを得る工程;を含む、請求項5または6に記載の陰極の製造方法。
【請求項19】
前記含水アルコール溶液が、クロムと希土類元素からなる群から選択される元素の少なくとも1種の化合物をさらに含有する、請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
前記含水アルコール溶液が少なくとも1種のAg化合物をさらに含有し、前記隔離された島がAgを含有する、請求項18または19に記載の製造方法。
【請求項21】
前記少なくとも1種のPd化合物が硝酸Pd(II)であって、前記Pt化合物及び/又はRu化合物がジアミノ二硝酸Pt(II)もしくはニトロシル硝酸Ru(III)である、請求項18〜20のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項22】
前記クロムと希土類元素からなる群から選択される元素の少なくとも1種の化合物が硝酸Pr(III)もしくは硝酸Cr(III)である、請求項19〜21のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項23】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の陰極を少なくとも1つ含む、塩化アルカリブラインを電気分解するためのセル。

【公表番号】特表2010−506050(P2010−506050A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531830(P2009−531830)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【国際出願番号】PCT/EP2007/060728
【国際公開番号】WO2008/043766
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(507128654)インドゥストリエ・デ・ノラ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ (29)
【Fターム(参考)】