説明

電解処理装置および電解処理方法

【課題】本発明は、裏周り量を減少させるために電気絶縁板と帯状体との間隔を狭めても帯状体の傷付きや搬送不良が生じることのない電解処理装置および電解処理方法を提供する。
【解決手段】電解液が貯留され、内部をアルミニウムウェブWが搬送される電解槽1と、アルミニウムウェブWの搬送経路Pに沿って配設され、直流または交流が印加される電極2と、搬送経路PにおけるアルミニウムウェブWの両側縁部近傍に対応する部分において、搬送経路Pを挟んで電極2と相対するように配設されているとともに、搬送経路Pに相対する側の表面がアルミニウムウェブWの表面よりも高い硬度を有し、前記表面における内側の側縁部に搬送経路Pの中央部に向かって薄くなる方向の勾配が形成された絶縁板3と、を備えることを特徴とする電解処理装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解処理装置および電解処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムウェブの片面を電解粗面化して平版印刷版用の支持体ウェブを製造する場合のように、金属の帯状体の片面を電解液中で電気化学的に処理をする場合には、反対側の面への電流の回り込みによって皮膜が生成する裏周りを抑制する必要がある。
【0003】
帯状体を電解処理する際の裏周りを抑制する方法としては、たとえば、帯状金属板の電解処理が行われる領域における電極とは反対側の表面に電気絶縁板を近接、配置して電解処理を行う方法がある(特許文献1)。
【0004】
上記電解処理方法に使用される電気絶縁板としては、電気鍍金槽内を通過する被鍍金部材の側縁部の周辺に設けられる電気鍍金用エッジマスクなどが使用できる。このような電気鍍金用エッジマスクとしては、鍍金槽側に支持される支持部と、支持部に支持されて被鍍金部材の側縁部の長手方向に連続して接触可能とされる板状の絶縁部材と、絶縁部材を常に被鍍金部材の側縁部に向けて弾発する弾発部材とを有するものがある(特許文献2)。
【特許文献1】特開昭57−047894号公報
【特許文献2】実開昭61−073666公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、裏周り量を減少させるために電気絶縁板と帯状体との間隔を狭めていくと、上記電気絶縁板がプラスチックスのように比較的軟質な材料から形成されている場合には、帯状体の側縁が電気絶縁板に食い込み、帯状体における側縁が電気絶縁板に食い込んだ部分に傷付きや変形、破断などが生じる可能性がある。また、帯状体が電気絶縁板の表面に密着する結果、帯状体に大きな抵抗が生じ、帯状体の搬送不良が生じる可能性がある。
【0006】
本発明は、上記問題を解決すべく成されたもので、裏周り量を減少させるために電気絶縁板と帯状体との間隔を狭めても帯状体の傷付きや搬送不良が生じることのない電解処理装置および電解処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、所定の方向に搬送される帯状体を、電解液中で電気化学的処理する電解処理装置において、前記電解液が貯留され、内部を帯状体が搬送される電解槽と、前記帯状体の前記電解槽中における搬送経路に沿って配設され、直流または交流が印加される電極と、前記搬送経路における帯状体の両側縁部近傍に対応する部分において、前記搬送経路を挟んで前記電極と相対するように配設されているとともに、前記搬送経路に相対する側の表面が帯状体の表面よりも高い硬度を有し、前記表面における内側の側縁部に前記搬送経路の中央部に向かって薄くなる方向の勾配が形成された絶縁板と、
【0008】
を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、所定の方向に搬送される帯状体を、電解液中で電気化学的処理する電解処理装置において、前記電解液が貯留され、内部を帯状体が搬送される電解槽と、前記帯状体の前記電解槽の内部における搬送経路に沿って配設され、直流または交流が印加される電極と、前記搬送経路における全幅に亘って前記搬送経路を挟んで前記電極と相対するように配設されているとともに、前記搬送経路に相対する側の表面が帯状体の表面よりも高い硬度を有し、前記表面に所定の間隔で凹陥部、貫通孔、または溝が形成された絶縁板と、を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の電解処理装置において、前記絶縁板の搬送方向上流側の端部には、前記搬送方向に沿って前記帯状体の搬送経路に向かって近接するように勾配が形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、所定の方向に搬送される帯状体を、電解液中で電気化学的処理する電解処理方法において、前記電解液が貯留されている電解槽の内側に、前記帯状体が搬送される搬送経路に沿って電極を配設し、前記搬送経路に相対する側の表面が帯状体の表面よりも高い硬度を有し、前記表面における内側の側縁部に前記搬送経路の中央部に向かって薄くなる方向の勾配が形成された絶縁板を、前記搬送経路における帯状体の両側縁部近傍に対応する部分において、前記搬送経路を挟んで前記電極と相対するように配設し、前記帯状体を、前記搬送経路に沿って前記電解槽中を搬送しつつ、前記電極に直流または交流を印加して前記帯状体を電気化学的処理することを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、所定の方向に搬送される帯状体を、電解液中で電気化学的処理する電解処理方法であって、前記電解液が貯留されている電解槽の内側に、前記帯状体が搬送される搬送経路に沿って電極を配設し、前記搬送経路に相対する側の表面が帯状体の表面よりも高い硬度を有し、前記表面に所定の間隔で凹陥部、貫通孔、突出部、または溝が形成された絶縁板を、前記搬送経路における全幅に亘って前記搬送経路を挟んで前記電極と相対するように配設し、前記帯状体を、前記搬送経路に沿って前記電解槽中を搬送しつつ、前記電極に直流または交流を印加して前記帯状体を電気化学的処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明においては、帯状体は、側縁部においてのみ絶縁板と接触するから、絶縁板を帯状体の搬送経路に近接させても、帯状体が全面で絶縁板に密着して帯状体の搬送不良が生じることが防止される。また、絶縁板の搬送経路に面する側の面は帯状体の表面よりも高い硬度を有し、しかも内側の側縁部には搬送経路中央部に向かって薄くなる方向の勾配が付されているから、電解処理中の帯状体が絶縁板に食い込んで損傷することが防止される。
【0014】
請求項2の発明においては、絶縁板における帯状体と接触する表面に凹陥部、貫通孔、または溝が形成されているから、絶縁板を帯状体の搬送経路に近接させても、帯状体が全面で絶縁板に密着して帯状体の搬送不良が生じることが防止される。また、前記表面は、帯状体の表面よりも高い硬度を有しているから、前記面への帯状体の食い込みも防止できる。
【0015】
請求項3の発明によれば、絶縁板を帯状体の搬送経路に近接させたときに絶縁板の搬送方向上流側の端部で帯状体が傷付くことが効果的に防止される。
【0016】
請求項4の発明によれば、請求項1のところで述べたのと同様の理由により、電解処理中における帯状体の絶縁板への密着、および帯状体の絶縁板への食い込みが防止される。
【0017】
請求項5の発明によれば、請求項2のところで述べたのと同様の理由により、電解処理中における帯状体の絶縁板への密着、および帯状体の絶縁板への食い込みが防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
1.実施形態1
【0019】
本発明の電解処理装置の一例であって、アルミニウムウェブの片面を電気化学的に粗面化するのに使用される電解粗面化装置について説明する。
【0020】
[構成]
【0021】
実施形態1に係る電解粗面化装置100は、図1に示すように、内部に酸性電解液が貯留されるとともに、電解粗面化しようとするアルミニウムウェブWが水平方向に沿って搬送され、上面が開放された有底容器である電解槽1と、電解槽1の内部におけるアルミニウムWの搬送経路Pの上方に配設された一群の電極2と、電解槽1の内部における搬送経路Pの下方に配設された絶縁板3と、電解槽1内部においてアルミニウムウェブWを搬送経路Pに沿って案内する案内ローラ4とを有する。
【0022】
したがって、絶縁板3は、アルミニウムウェブWの搬送経路を挟んで電極2の反対側に配設されている。
【0023】
絶縁板3と搬送経路Pとの間隔、言い換えれば絶縁板3と搬送されるアルミニウムウェブWとの間隔は0〜10mmの範囲が好ましい。
【0024】
なお、電解粗面化装置100においては、搬送経路Pを挟んで上方に電極2を、下方に絶縁板3を配設する代わりに、図2に示すように、搬送経路Pを挟んで上方に絶縁板3を、下方に電極2を配設してもよい。
【0025】
電極2としては、ブロック状の小電極2Aを矢印aで示されるアルミニウムウェブWの搬送方向に沿って配設したものが使用される。小電極2Aはグラファイト焼結体などによって形成される。隣接する2つの小電極2Aの間には絶縁板を介装することが好ましい。小電極2Aは夫々が交流電源(図示せず。)に接続されている。
【0026】
絶縁板3は、図3に示すように、電解槽1の底面における両方の側壁近傍に1枚ずつ、合計2枚配設されている。したがって、絶縁板3は、搬送経路Pの両側縁部に配設されているということができ、換言すれば、搬送経路PにおけるアルミニウムウェブWの両側縁部近傍に対応する部分において、搬送経路Pを挟んで電極2と相対するように配設されているということができる。
【0027】
絶縁板3は、ガラス、セラミックスなど、アルミニウムウェブWよりも硬度の高い材料で形成されている。しかし、絶縁板3としては、プラスチック製の板状部材の表面に適宜の手段により、ガラスまたはセラミックスの表面層を設けたものも包含される。
【0028】
図1および図2に示すように、絶縁板3の搬送方向aに対して上流側の端部3Aにおける搬送経路Pに相対する側の面には、搬送経路Pに向かって近接するように勾配が形成されている。また、図3および図4に示すように、絶縁板3の内側の側縁部3Bにおける搬送経路Pに相対する側の面には、搬送経路Pの中央部に向かって薄くなる方向の勾配が設けられている。
【0029】
絶縁板3は、図3に示すように、電解槽1の底面に固定されたスペーサ5を介して装着されているが、より詳細には、図4に示すように、スペーサ5に設けられた凹陥部6に嵌装され、固定ブラケット7で凹陥部6から逸脱しないように固定されている。凹陥部6は、絶縁板3よりも大きな幅を有しているから、絶縁板3と凹陥部6の壁面との間には逃げが形成される。したがって、電解粗面化中に電解槽1の材質と絶縁板3の材質との熱膨張率の違いにより、絶縁板3が熱応力を受けて破損することが防止される。
【0030】
[作用]
【0031】
以下、電解粗面化装置100の作用について説明する。
【0032】
先ず、電解槽1に酸性電解液を満たす。酸性電解液としては、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸、およびスルホン酸から選択される無機または有機の強酸である酸性電解質の溶液が使用される。酸性電解質は2種以上を併用してもよい。また、酸性電解質の濃度は、1〜10質量%程度が好ましい。
【0033】
次いで、アルミニウムウェブWを、案内ローラ4で案内して搬送経路Pに沿って電解槽1内部を搬送するとともに、電解槽1外で接地ローラ(図示せず。)に接触させて接地状態とする。この状態で各小電極2Aに交流電圧を印加してアルミニウムウェブWの電極2に相対する側の面を電解粗面化する。
【0034】
電解粗面化中においては、絶縁板3によって、アルミニウムウェブWの電極2に相対する側とは反対側の面へ電流が遮蔽されるから、前記面が粗面化される裏周りが発生する幅である裏周り量を小さくすることができる。また、絶縁板3の表面硬度はアルミニウムウェブWよりも高いから、絶縁板3の傷付きやアルミニウムウェブWの絶縁板3への食い込みが防止さされる。また、絶縁板3は、アルミニウムウェブWの両側縁部にしか接触しないから、アルミニウムウェブWが絶縁板3に密着することによる搬送不良の発生が効果的に防止される。
【0035】
2.実施形態2
【0036】
[構成]
【0037】
本発明の電解処理装置に包含される電解粗面化装置の別の例について以下に説明する。
【0038】
実施形態2に係る電解粗面化装置110の構成を図5に示す。図5において図1〜図4と同一の符号は、これらの符号が図1〜図4において示す構成要素と同一の構成要素を示す。
【0039】
図5に示すように、電解槽11は、上面が開放された有底容器であって、内部が仕切り12によって複数の小室11Aに区分されている。小室11Aは夫々仕切り13によって2つの区画11Bに区画されているが、仕切り13を介して隣接する2つの区画11Bは仕切り13の下方で互いに連通している。
【0040】
電解槽11のアルミニウムウェブWが導入される側および導出される側の内壁、および仕切り12の両面には電極2が設けられ、仕切り13の両面には絶縁板3が設けられている。
【0041】
電解槽11の外側における夫々の仕切り12の上方には案内ローラ14が1対ずつ設けられ、電解槽11の内側における仕切り13の下方には案内ローラ15が設けられている。案内ローラ14と案内ローラ15とにより、アルミニウムウェブWは、図5において矢印aで示すように電極2と絶縁板3との間を垂直方向に案内される。
【0042】
電極2および絶縁板3の構成は実施形態1のところで説明したとおりである。なお、絶縁板3には、搬送方向aに対して上流側の端部3Aに傾斜面が形成されている点も実施形態1と同様である。
【0043】
[作用]
【0044】
以下、電解粗面化装置110の作用について説明する。
【0045】
先ず、電解槽11に酸性電解液を満たす。酸性電解液については実施形態1と同様である。
【0046】
次いで、アルミニウムウェブWを、案内ローラ14および15で案内して電解槽11の区画11B内を上方から下方へ、または下方から上方へ垂直に搬送するとともに、電解槽1外で接地ローラ(図示せず。)に接触させて接地状態とする。この状態で電極2の夫々の小電極2Aに交流電圧を印加してアルミニウムウェブWの電極2に相対する側の面を電解粗面化する。
【0047】
電解粗面化中の絶縁板3の機能および効果については実施形態1のところで述べたとおりである。
【0048】
3.実施形態3
【0049】
本発明の電解処理装置に包含される電解粗面化装置であってアルミニウムウェブを水平に搬送しつつ、アルミニウムウェブの片面を電気化学的に粗面化するものの別の例について説明する。
【0050】
[構成]
【0051】
実施形態3に係る電解粗面化装置120は、図6に示すように、実施形態1と同様の電解槽1と、電解槽1の内部におけるアルミニウムWの搬送経路Pの上方に配設された一群の電極2と、電解槽1の内部における搬送経路Pの下方に配設された絶縁板30と、電解槽1内部においてアルミニウムウェブWを搬送経路Pに沿って案内する案内ローラ4とを有する。
【0052】
したがって、絶縁板30は、アルミニウムウェブWの搬送経路を挟んで電極2の反対側に配設されている。
【0053】
絶縁板30と搬送経路Pとの間隔、言い換えれば絶縁板30と搬送されるアルミニウムウェブWとの間隔は0〜10mmの範囲が好ましい。
【0054】
電極2の構成については実施形態1のところで説明したとおりである。
【0055】
絶縁板30は、図7に示すように、搬送経路Pの全幅に亘って設けられ、スペーサ5を介して電解槽1の底部に配設されている。なお、スペーサ5と絶縁板3との間には逃げが設けられ、絶縁板30とスペーサ5と電解槽1との熱膨張率の差に起因する電解粗面化時の熱応力によって絶縁板30が破損することが防止される。
【0056】
絶縁板30は、絶縁板3と同様にガラス、セラミックスなど、アルミニウムウェブWよりも硬度の高い材料で形成されている。しかし、プラスチック製の板状部材の表面に適宜の手段により、ガラスまたはセラミックスの表面層を設けたものも絶縁板30として使用される。
【0057】
図6に示すように、絶縁板30の搬送方向aに対して上流側の端部30Aにおける搬送経路Pに相対する側の面には、搬送経路Pに向かって近接するように勾配が形成されている。また、図8〜図10に示すように、絶縁板30の搬送経路Pに相対する側の面には、貫通孔31、凹陥部32、または溝33が一定の間隔で形成されている。なお、貫通孔31や凹陥部32に代えて突出部を一定の間隔で設けてもよい。
【0058】
貫通孔31、凹陥部32、および突出部を設ける場合は、配列に特に制限はないが、搬送方向aに平行な方向および直交する方向にそって配列することが好ましい。また、貫通孔31、凹陥部32、および突出部の直径は、2〜10mmが好適であり、特に3〜7mmが好適である。また、貫通孔31、凹陥部32、および突出部の搬送方向aに平行な方向および搬送方向aに直交する方向の間隔は1〜100mmが好適であり、特に20〜70mmが好適であり、更に30〜60mmが好適である。なお、貫通孔31、凹陥部32、および突出部の間隔は、隣接する2つの貫通孔31、凹陥部32、または突出部の中心点間の距離である。
【0059】
また、溝33を設ける場合は、溝33は、搬送方向aに対して平行な方向に沿って設けてもよいが、図10に示すように搬送方向aに対して直交する方向に設けることが好ましい。溝33の幅は1〜10mmが好ましく、中でも2〜7mmが好ましく、特に2〜6mmの範囲が好ましい。溝33の間隔は1〜100mmが好適であり、特に20〜70mmが好適であり、更に30〜60mmが好適である。なお、溝33の間隔は、隣り合う2つの溝33の中心間の距離である。
【実施例】
【0060】
1.実施例1、2
【0061】
実施形態1に記載の電解粗面化装置100を用いてアルミニウムウェブを粗面化した。アルミニウムウェブとしては、厚さ0.3mm、幅1000mmの純アルミニウムを用い、搬送速度50m/minで、電極2の各小電極2Aに電流密度75〜125A/dm、60Hzの正弦波電流を印加し、粗面化面の表面粗さの目標値を0.5μmとして電解粗面化を行った。酸性電解液としては、濃度10〜18g/リットルの塩酸水溶液を用いた。
【0062】
電解粗面化装置100においては、電極2の幅を1500mmとし、絶縁板3として厚さ10mm、幅200mmのパイレックス(登録商標)ガラスを用い、内側縁から15mmの範囲に傾斜面を設けた。また、アルミニウムウェブWは、絶縁板3の内側から100mmの範囲に重なるように搬送した。
【0063】
また、アルミニウムウェブWと絶縁板3とのクリアランスは10mm(実施例1)、および0mm(実施例2)とした。
【0064】
上記条件でアルミニウムウェブWの表面粗面化を行い、裏周り量については、アルミニウムウェブWの絶縁板3に面した側の面の側縁部に形成された粗面化部の幅を物差しで測定して求めた。また、アルミニウムウェブWの前記面の傷付きや変形については目視で評価した。
【0065】
結果を表1に示す。
【0066】
2.比較例1,2
【0067】
絶縁板3としてパイレックス(登録商標)ガラス板に代えて同一寸法、同一形状の塩化ビニル樹脂版を用いた以外は実施例1および2と同様の手順および条件でアルミニウムウェブWの電解粗面化を行った。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

表1の結果から明らかなように、絶縁板3とアルミニウムウェブWとのクリアランスが10mmであった実施例1では裏周り量は20mmと多かったが、絶縁板3とアルミニウムウェブWとを接触状態とした実施例2では裏周り量を4mmまで削減できた。このことから、アルミニウムウェブWと絶縁板3との間隔が小さいほど、裏周りを抑制できることが判る。
【0069】
実施例1および2と比較例1および2とを比較すると、アルミニウムウェブWよりも高度の高いパイレックス(登録商標)ガラス板で絶縁板3を形成した実施例1および2においては、アルミニウムウェブWおよび絶縁板3の何れにも目視では損傷や変形を認めることはできなかった。
【0070】
これに対し、絶縁板3とアルミニウムウェブWとのクリアランスを大きく採った比較例1においては、アルミニウムウェブWには傷付きや変形は見られなかったものの、絶縁板3のアルミニウムウェブWに面する側の面には、多数の傷が生じたことが目視で確認された。一方、絶縁板3とアルミニウムウェブWとを接触状態とした比較例2では、アルミニウムウェブWのエッジ部、即ち両側縁部が絶縁板33に食い込み、搬送が継続できなくなかった。
【0071】
3.実施例3,4、比較例3
【0072】
実施例3,4、および比較例3では実施形態3に係る電解粗面化装置120を用いてアルミニウムウェブWを搬送した。
【0073】
但し、実施例3では、図8に示すように電極2に相対する側の面に貫通孔31を全面に設けた厚さ10mm、幅1200mmのパイレックス(登録商標)ガラス板を絶縁板30として用い、実施例4では、図10に示すように電極2に相対する側の面に搬送方向aに直交する方向の溝33を設けた同寸法のパイレックス(登録商標)ガラス板を絶縁板30として用いた。そして、比較例3では前記面がフラット状に形成された同寸法のパイレックス(登録商標)ガラス板を絶縁板30として用いた。実施例3では、貫通孔31の直径を5mmとし、搬送方向aに平行な方向および直交する方向の間隔を50mmとした。また、実施例4では、溝33の幅を3mmとし、間隔を50mmとした。結果を表2に示す
【0074】
【表2】

表2に示すように、絶縁板30の表面に孔または溝を形成した実施例3および4では裏周り量は4mmと少ないうえに、アルミニウムウェブWの表面の傷付き、変形は見られなかった。これに対し、表面がフラットな絶縁板30を用いた比較例3ではアルミニウムウェブWが絶縁板30と密着して搬送不能に陥った。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の電解処理装置および電解粗面化方法を適用できる帯状体はアルミニウムウェブには限定されず、普通鋼鈑やステンレス鋼鈑、チタニウム板など、各種金属の帯状体なども包含される。また、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、エチレンプロピレン共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体などの各種のプラスチックのフィルムの表面に蒸着や鍍金などによりアルミニウムや銀、銅などの金属層や酸化錫などの導電性酸化物皮膜を形成した帯状体も包含される。
【0076】
また、本発明の電解処理装置および電解粗面化方法を適用できる電気化学的処理は、酸性電解液中における交流によるアルミニウムウェブの電解粗面化には限定されず、たとえば直流によるアルミニウムウェブ表面への陽極酸化皮膜の形成や着色アルマイト処理、普通鋼鈑やステンレス鋼鈑の帯状体への各種鍍金処理等も前記電気化学的処理に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図1は、実施形態1に係る電解粗面化装置につき、アルミニウムウェブWの搬送方向に沿って切断した断面を示す概略断面図である。
【図2】図2は、実施形態1に係る電解粗面化装置の別の例につき、アルミニウムウェブWの搬送方向に沿って切断した断面を示す概略断面図である。
【図3】図3は、実施形態1に係る電解粗面化装置につき、幅方向に沿って切断した断面を示す断面図である。
【図4】図4は、実施形態1に係る電解粗面化装置において絶縁板を電解槽に装着する装着構造を示す拡大図である。
【図5】図5は、実施形態2に係る電解粗面化装置につき、アルミニウムウェブWが導入、導出される方向に沿って切断した断面を示す概略断面図である。
【図6】図6は、実施形態3に係る電解粗面化装置につき、アルミニウムウェブWの搬送方向に沿って切断した断面を示す概略断面図である。
【図7】図7は、実施形態3に係る電解粗面化装置につき、幅方向に沿って切断した断面を示す断面図である。
【図8】図8は、実施形態3に係る電解粗面化装置が備える絶縁板の電極に相対する側の面の形状の一例を示す斜視図である。
【図9】図9は、実施形態3に係る電解粗面化装置が備える絶縁板の電極に相対する側の面の形状の別の一例を示す斜視図である。
【図10】図10は、実施形態3に係る電解粗面化装置が備える絶縁板の電極に相対する側の面の形状の更に別の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0078】
1 電解槽
2 電極
2A 小電極
3 絶縁板
3A 端部
3B 側縁部
4 案内ローラ
5 スペーサ
6 凹陥部
7 固定ブラケット
11 電解槽
11B 区画
11A 小室
14 案内ローラ
15 案内ローラ
30 絶縁板
30A 端部
31 貫通孔
32 凹陥部
33 溝
100 電解粗面化装置
110 電解粗面化装置
120 電解粗面化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の方向に搬送される帯状体を、電解液中で電気化学的処理する電解処理装置であって、
前記電解液が貯留され、内部を帯状体が搬送される電解槽と、
前記帯状体の前記電解槽中における搬送経路に沿って配設され、直流または交流が印加される電極と、
前記搬送経路における帯状体の両側縁部近傍に対応する部分において、前記搬送経路を挟んで前記電極と相対するように配設されているとともに、前記搬送経路に相対する側の表面が帯状体の表面よりも高い硬度を有し、前記表面における内側の側縁部に前記搬送経路の中央部に向かって薄くなる方向の勾配が形成された絶縁板と、
を備えることを特徴とする電解処理装置。
【請求項2】
所定の方向に搬送される帯状体を、電解液中で電気化学的処理する電解処理装置であって、
前記電解液が貯留され、内部を帯状体が搬送される電解槽と、
前記帯状体の前記電解槽中における搬送経路に沿って配設され、直流または交流が印加される電極と、
前記搬送経路の全幅に亘って前記搬送経路を挟んで前記電極と相対するように配設されているとともに、前記搬送経路に相対する側の表面が帯状体の表面よりも高い硬度を有し、前記表面に所定の間隔で凹陥部、貫通孔、突出部、または溝が形成された絶縁板と、
を備えることを特徴とする電解処理装置。
【請求項3】
前記絶縁板の搬送方向上流側の端部には、前記搬送方向に沿って前記帯状体の搬送経路に向かって近接するように勾配が形成されている請求項1または2に記載の電解処理装置
【請求項4】
所定の方向に搬送される帯状体を、電解液中で電気化学的処理する電解処理方法であって、
前記電解液が貯留されている電解槽の内側に、前記帯状体が搬送される搬送経路に沿って電極を配設し、
前記搬送経路に相対する側の表面が帯状体の表面よりも高い硬度を有し、前記表面における内側の側縁部に前記搬送経路の中央部に向かって薄くなる方向の勾配が形成された絶縁板を、前記搬送経路における帯状体の両側縁部近傍に対応する部分において、前記搬送経路を挟んで前記電極と相対するように配設し、
前記帯状体を、前記搬送経路に沿って前記電解槽中を搬送しつつ、前記電極に直流または交流を印加して前記帯状体を電気化学的処理することを特徴とする電解処理方法。
【請求項5】
所定の方向に搬送される帯状体を、電解液中で電気化学的処理する電解処理方法であって、
前記電解液が貯留されている電解槽の内側に、前記帯状体が搬送される搬送経路に沿って電極を配設し、
前記搬送経路に相対する側の表面が帯状体の表面よりも高い硬度を有し、前記表面に所定の間隔で凹陥部、貫通孔、突出部、または溝が形成された絶縁板を、前記搬送経路における全幅に亘って前記搬送経路を挟んで前記電極と相対するように配設し、
前記帯状体を、前記搬送経路に沿って前記電解槽中を搬送しつつ、前記電極に直流または交流を印加して前記帯状体を電気化学的処理することを特徴とする電解処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−221570(P2009−221570A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69926(P2008−69926)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】