説明

電解反応装置ならびにそれを用いる炭酸ジエステルの製造方法

【課題】アルコキシ化合物と一酸化炭素を効率的に電解反応させて炭酸ジエステルと水素を得るための電解反応装置を提供する。
【解決手段】反応容器1の内部に陽極4と陰極2A、及び反応容器1の外部に陽極4と陰極2A間に電圧を印加する手段9を有する電解反応装置。反応容器1が多孔質の作用極(陽極4)により、対極(陰極2A)を設置した第1室2と対極を設置しない第2室3に区分されている。気体状の一酸化炭素と液体状のアルコキシ化合物とを多孔質作用極4中の空隙において効率よく接触させながら炭酸エステルを製造し、一方、対極2Aで水素を発生させる。未反応の一酸化炭素を第2室3から、副生水素を第1室2から取り出しながら、第1室2で炭酸ジエステルを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコキシ化合物と一酸化炭素を効率的に電解反応させて炭酸ジエステルを得るための電解反応装置と、この電解反応装置を用いる炭酸ジエステルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電極における電子の授受による酸化還元反応を一般に電解反応という。この反応では物質から電子を受け取る陽極と、物質に電子を与える陰極、及び両極間に電圧を印加し、電子を陽極から陰極へと移動させる手段が必要である。即ち、陽極では酸化反応、陰極では還元反応が同時に起こる。
【0003】
電解反応による有機化合物の合成については、従来から多数の研究例があるが、工業的に利用されているものは極めて限られている。実用化されている例としては、アクリロニトリルからアジポニトリルを製造するプロセスが知られている。これは陽極にニッケル鋼、陰極にCdまたはCd/Pb合金を使用した電解セル中で、各々の電極で下記式(1)、(2)の反応を行い、結果として、下記式(3)の反応で生成物を得るものである(非特許文献1)。
【0004】
陽極: 2CH=CH−CN+2e+2H→NC−(CH−CN (1)
陰極: HO→0.5O+2H+2e (2)
2CH=CH−CN+HO→0.5O+NC−(CH−CN (3)
【0005】
この反応は原料が均一な液体であるため、作用極と対極は同一の反応空間に置くことができる。
【0006】
一方、原料が2種以上であり、気体と液体である場合や、親水性液体と疎水性液体のように互いに混和せず、2液相を形成する場合は、原料同士の接触が制限されるために、電解反応の効率は低下する。通常の反応においては、気液の接触では液体中に気体を吹き込む方法、液液接触では攪拌して液滴を分散させる方法が一般的であるが、電解反応においてはさらに電極とも接触させる必要があるために、反応の効率を上げることは容易ではない。
【0007】
この課題を解決するために、三相界面電解法が考案されている(非特許文献2)。これは多孔質膜陽極及び多孔質膜陰極と電解質膜を一体化させたユニット膜を使用する方法であり、このユニット膜を隔膜として、反応器を2室に区分することで、性質の異なる2つの原料、例えば親水性の原料と疎水性の原料をユニット膜の両側から別々に供給しながら電解反応を行うことができる。電解反応は多孔質膜中に形成される三相界面(液相Aまたは気相/電極(固体)/液相B)で進行すると考えられている。
【0008】
従来、この三相界面電解法による電解反応として、例えば以下のような電解合成例などが報告されている。
【0009】
(1) ユニット膜の陽極側から疎水性のシクロヘキサン、陰極側から水を供給しながら反応させて、陽極液中にシクロヘキサノンを合成する反応(非特許文献2)
cy−C12+HO→cy−C10O+4H+4e
(2) ユニット膜の陽極側から気相の一酸化炭素、ユニット膜の電解質中に液相のメタノールを供給し、多孔質膜陰極から外部(気相中)へ副生水素を抜き出しながら反応させて、ユニット膜の電解質中に炭酸ジメチルを合成する反応(非特許文献2)
2CHOH+CO→(CHCO+2H+2e
(3) ユニット膜の陽極側からエチレン水溶液、陰極側から酸素を供給しながら反応させて、陽極液中にアセトアルデヒドを合成する反応(非特許文献3)
+HO+1/2O→CHCHO+H
【0010】
上記用途に使用する電解反応器としては、例えば後述の特許文献1に記載されたものがある。
【0011】
炭酸ジエステルは、電解液等の溶媒、アルキル化剤、カルボニル化剤等の合成原料、ガソリンやディーゼル燃料の添加剤、ポリカーボネートやポリウレタンの原料等として広く使用されている。
【0012】
従来、炭酸ジエステルの製造方法としては、ホスゲン法、酸化的カルボニル化法、エステル交換法などが知られているが、このうち、有害物質であるホスゲンを用いない方法が求められている。
このため、電解液溶媒として需要の伸びている炭酸ジアルキルは、古くはホスゲン法で製造されていたが、近年は酸化的カルボニル化法やエステル交換法で製造されるケースが増えている。
【0013】
一方、電解反応で炭酸ジエステルを製造する試みもいくつか知られている。例えば、ハロゲン(フッ素を除く)を含有する電解質の存在下で、1価もしくは2価アルコールと一酸化炭素とを電解反応させて炭酸ジメチル、炭酸エチレンを得る方法が開示されている(特許文献2)。また、周期表VIII族触媒と塩素、臭素又はヨウ素を含有する電解質の存在下で、アルコールと一酸化炭素とを電解反応させて炭酸ジメチルを得る方法も開示されている(特許文献3)。さらには、支持電解質の存在下、白金族元素を含む陽極を用いてアルコールと一酸化炭素とを電解反応させて、炭酸エステルとギ酸エステルを同時に製造する方法が開示されている(特許文献4)。
【0014】
また、プロトン伝導膜を介して陽極と陰極とが形成された隔膜により、反応器内を陽極側と陰極側の2つの反応空間に区画した反応器を用いて、陽極側の反応空間にアルコール及び一酸化炭素を供給し、陰極側の反応空間に酸素を供給し、陽極と陰極に電圧を印加して電解酸化還元反応を行なうことにより、陽極側で炭酸ジエステルを、陰極側で水を生成させることが開示されている(特許文献5)。この方法では、陰極に担持された触媒と水との接触、爆発混合気体の形成を防止することができる。
【0015】
さらに、基質と還元性物質を含む系の電解酸化を行うための有機電解反応装置であって、ケーシング、アノード活物質からなりイオン伝導性あるいは活性種伝導性であるアノード、カソード活物質からなりイオン伝導性あるいは活性種伝導性であるカソード、及び該ケーシングの外側に設けられて該アノードと該カソードに接続された該アノードと該カソードの間に電圧を印加するための手段を包含し、該アノードと該カソードは該ケーシング中に間隔を置いて設けられ、該ケーシングの内部が、該アノードの内側と該カソードの内側の間に形成された中間室と、該アノードの外側にあるアノード室とに仕切られていることを特徴とする有機電解反応装置を使用して、メタノールと一酸化炭素から炭酸ジメチルを合成することが開示されている(特許文献1)。
【0016】
しかしながら、上記従来の電解反応では、炭素数が2以上の脂肪族有機ヒドロキシ化合物、炭素数が5以上の脂環式有機ヒドロキシ化合物あるいは芳香族有機ヒドロキシ化合物、具体的にはフェノール等と一酸化炭素との反応は効率的に進行せず、炭酸ジエステルが全く生成しないか、あるいは生成しても収率、選択率とも極めて低く、満足できるものではなかった。
【0017】
本発明者らは、前述の課題を解決すべく鋭意検討した結果、有機ヒドロキシ化合物類をアルコキシアニオンに変換することで一酸化炭素との反応が効率よく進行し、従来の方法では製造することができなかった炭素数が2以上の鎖状脂肪族有機ヒドロキシ化合物、炭素数が5以上の脂環式有機ヒドロキシ化合物及び芳香族有機ヒドロキシ化合物から炭酸ジエステルが得られる事を見出した(特許文献6)。
【0018】
上記発明により炭酸ジエステルの合成反応に関する改良は達成されたが、炭酸ジエステルの合成プロセスの面からは、更なる課題が残されている。その一つが未反応の一酸化炭素と反応副生物として生成する水素の分離に関するものである。
【0019】
即ち、本発明者らは、特許文献6において、炭酸ジエステルの電解合成は、図2に示すような作用極と対極をイオン透過性の隔膜で区切った2室型セル、及び図3に示すような作用極と対極を同一空間に設置した1室型セルのいずれでも達成できることを示したが、いずれのセルでも、以下に示すように、工業的な実用化のためには、更なる改良が必要である。
【0020】
図2において、10は反応容器(電解セル)であり、陽極室11を構成する有底円筒形状の容器部と、陰極室12を構成する有底円筒形状の容器部とが円筒状の連通部13で連結された構造を有する。陽極室11の底部には陽極11Aとして前述の白金族元素担持触媒を含有する導電性固体電極が設けられ、陰極室12には陰極12Aが設けられ、これら陽極11Aと陰極12Aが電源19に接続されている。また、連通部13には、イオン透過性の隔膜14が設けられている。11B,12Bは、各々の電極室の上部をおおうための栓である。15は陽極室11内の反応液に一酸化炭素を供給するためのガス供給管である。このガス供給管は、He等の不活性気体を流通させるためのガス供給管を兼ねている。16はHe等の不活性気体を流通させるためのガス供給管である。17、18はガスサンプリング管を兼ねたガス抜き管である。
【0021】
この電解反応装置では、陽極室11に、有機ヒドロキシ化合物と塩基性物質もしくはアルコキシ化合物を含む反応液を、陰極室12に、有機ヒドロキシ化合物を含む反応液を投入し、ガス供給管15より一酸化炭素を供給し、電源19により陽極11Aと陰極12Aとの間に通電すると、陽極室11内で陽極11Aの炭素電極に含まれる白金族元素担持触媒の存在下、有機ヒドロキシ化合物と塩基性物質との反応で生成したアルコキシ化合物と一酸化炭素とが電解反応し、炭酸ジエステルが生成する。なお、同時に一酸化炭素の酸化で二酸化炭素が生成することがある。一方、陰極室12では、水素イオンが還元されて水素ガスが発生する。
【0022】
図3において、20は反応容器(電解セル)であり、有底円筒形の容器部20Aとその上部開口をおおうための栓20Bを有する。容器部20Aの底部には陽極21として前述の炭素電極が設けられている。また、栓20Bから、容器部20A内の高さ方向の中間位置まで陰極22が挿入されている。これら陽極21と陰極22が電源23に接続されている。24は、電源23と陽極21とを導通する集電体である。25は容器部20A内の反応液に一酸化炭素を供給するためのガス供給管である。このガス供給管25は、He等の不活性気体を流通させるためのガス供給管を兼ねている。26はガスサンプリング管を兼ねたガス抜き管である。
【0023】
この電解反応装置では、容器部20Aに、有機ヒドロキシ化合物と塩基性物質あるいはアルコキシ化合物を含む反応液を投入し、ガス供給管25より一酸化炭素を供給し、電源23により陽極21と陰極22との間に通電すると、容器部20A内の陽極21の炭素電極に含有される白金族元素担持触媒の存在下、有機ヒドロキシ化合物と塩基性物質との反応で生成したアルコキシ化合物と一酸化炭素とが電解反応し、炭酸ジエステルが生成する。一方、陰極22近傍では、水素イオンが還元されて水素ガスが発生する。
【0024】
図2,3の電解反応装置のうち、図2の2室型セルを用いるものでは、未反応の一酸化炭素を陽極(作用極)側から、副生水素を陰極(対極)側からそれぞれ取り出せる点で有利であるが、両極間に隔膜を挟む構造のため両極間の抵抗が大きくなり、この結果、消費電力が大きい。
一方、図3の1室型セルを用いるものは、両極間の抵抗を小さくすることができ、かつ構造も単純である点で有利であるが、未反応の一酸化炭素と副生水素が混合した状態で得られるので、これらを外部で分離する必要がある。
このように、特許文献6に開示された電解反応装置は、いずれも工業的な実用化のためには、更なる改良が必要である。
【0025】
なお、特許文献1に記載された反応器に特許文献6における電解反応を適用し、陽極側の反応空間から未反応の一酸化炭素、陰極側の反応空間から副生水素を取り出しながら中間室から炭酸ジエステルを得ることも可能ではあるが、該反応器は構造が複雑で実プラントへの適用は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】特許第4201703号公報
【特許文献2】米国特許第4,131,521号公報
【特許文献3】米国特許第4,310,393号公報
【特許文献4】特開平6−173057号公報
【特許文献5】特開平6−73582号公報
【特許文献6】特願2009−028581
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】Kirk Othmer,Encyclopedia of Chemical Technology vol.8,710−713
【非特許文献2】触媒,46_4(2004)313−319
【非特許文献3】Res.Chem.Intermed.,32_3−4(2006)373−385
【非特許文献4】Applied Catalysis,A:General,254(2003)5−25
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
本発明は上記の問題点に鑑み、アルコキシ化合物と一酸化炭素を効率的に、かつ工業的に有利な方法で電解反応させて炭酸ジエステルを得るための電解反応装置、及びそれを用いる炭酸ジエステルの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明者らは、前述の課題を解決すべく鋭意検討した結果、内部に陽極と陰極を有する反応容器とこの陽極と陰極間に電圧を印加する手段を有し、反応容器が、陰極を有し、室内で該陰極とアルコキシ化合物を含む反応液が接触し得る構造を有する第1室と、一酸化炭素を含むガスを保持し得る構造の第2室とからなり、該第1室と第2室が白金族元素を含有する多孔質の陽極により分離されている反応容器を用いることで、上記の課題を解決できることを見出した。
【0030】
即ち、白金族元素の存在下で一酸化炭素とアルコキシ化合物が反応して炭酸ジエステルが生成する電解反応において、上記反応容器を使用することで、第2室内の気体状の一酸化炭素と第1室内の液体状のアルコキシ化合物を陽極の多孔質作用極中の空隙において効率よく接触させながら炭酸エステルを製造し、一方、対極(陰極)で水素を発生させることで未反応の一酸化炭素を第2室から取り出すと共に、副生水素を第1室から取り出しながら第1室で炭酸ジエステルを製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0031】
即ち、本発明は以下を要旨とするものである。
【0032】
[1] アルコキシ化合物と一酸化炭素とを白金族元素の存在下に電解反応させて炭酸ジエステルを得るための電解反応装置であって、反応容器と、該反応容器内に設けられた陽極及び陰極と、該反応容器外に設けられた該陽極及び陰極間に電圧を印加する手段とを有し、該反応容器が、陰極を有し、室内で該陰極とアルコキシ化合物を含む反応液とが接触し得る構造を有する第1室と、一酸化炭素を含むガスを保持し得る構造の第2室とを有し、該第1室と第2室とが白金族元素を含有する多孔質の陽極により分離されていることを特徴とする電解反応装置。
【0033】
[2] 前記陽極が、1次粒子径が100nm以下の導電性カーボンよりなる担体上に白金族元素を担持させてなる白金族元素担持触媒を含む多孔質電極であることを特徴とする[1]に記載の電解反応装置。
【0034】
[3] 前記陽極が、BET比表面積が100m/g以上の導電性カーボンよりなる担体上に白金族元素を担持させてなる白金族元素担持触媒を含む多孔質電極であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の電解反応装置。
【0035】
[4] 前記陽極が、導電性カーボンよりなる担体上に白金族元素を担持させてなる白金族元素担持触媒を含む多孔質電極であり、該導電性カーボンがカーボンブラックであることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載の電解反応装置。
【0036】
[5] 前記陽極が、導電性カーボンよりなる担体上に白金族元素を担持させてなる白金族元素担持触媒と導電性助剤とを混合して成形してなることを特徴とする[1]ないし[4]のいずれかに記載の電解反応装置。
【0037】
[6] 該白金族元素がパラジウムであることを特徴とする[1]ないし[5]のいずれかに記載の電解反応装置。
【0038】
[7] [1]ないし[6]のいずれかに記載の電解反応装置の反応容器の第1室にアルコキシ化合物を含む反応液を供給し、第2室に一酸化炭素を含むガスを供給して電解反応により炭酸ジエステルを生成させることを特徴とする炭酸ジエステルの製造方法。
【0039】
[8] 前記アルコキシ化合物が、有機ヒドロキシ化合物と塩基性物質を反応液中に含有させることにより該反応液中で生成されたものであることを特徴とする[7]に記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【0040】
[9] 前記アルコキシ化合物がフェノキシ化合物であり、前記炭酸ジエステルが炭酸ジフェニルであることを特徴とする[7]又は[8]に記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【0041】
[10] [9]に記載の方法により製造された炭酸ジフェニルを原料として用いることを特徴とする芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、アルコキシ化合物と一酸化炭素を効率的に、かつ工業的に有利な方法で電解反応させて、炭酸ジエステルを製造することができる。
【0043】
即ち、本発明に係る電解反応は、陽極側でアルコキシ化合物と一酸化炭素の酸化反応が進行して炭酸ジエステルを生成するとともに、陰極側では水素イオンが還元されて水素ガスが発生する。未反応一酸化炭素と副生水素ガスを混合状態で取り出すと、分離が困難であるため、一酸化炭素を含むガス供給の場と水素発生の場は分離されていることが好ましい。本発明の電解反応装置では、原料である一酸化炭素を含むガスが供給される第2室と、水素が発生する第1室とを分離しているので、これらのガスの分離を行う必要がなく、効率的である。
また、第1室と第2室の分離が、触媒である白金族元素を含む多孔質陽極により行われることにより、第1室側から液体原料、第2室側から気体原料を効率良く接触させることができ、また、陽極と陰極との間の抵抗を小さくすることができるため、使用電力の低減が可能である。
本発明の電解反応装置は上記の点で、工業的に有利な電解反応による炭酸ジエステルの製造を可能とする効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施の形態に係る電解反応装置を示す構成図である。
【図2】特許文献6に開示される2室型電解反応装置を示す構成図である。
【図3】特許文献6に開示される1室型電解反応装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0046】
[電解反応装置]
本発明の電解反応装置は、反応容器の内部に陽極と陰極、及び反応容器の外部に陽極と陰極間に電圧を印加する手段を有し、反応容器が、陰極を有し、室内で該陰極とアルコキシ化合物を含む反応液が接触し得る構造を有する第1室と、一酸化炭素を含むガスを保持し得る構造の第2室とを有し、第1室と第2室が白金族元素を含有する多孔質の陽極により分離されているものである。この電解反応装置は、アルコキシ化合物と一酸化炭素を白金族元素の存在下で電解反応させて炭酸ジエステルを得る(以下、「本発明の電解反応」と称することがある。)ために用いられる。
【0047】
本発明に係る反応容器は、本発明の電解反応を行うための原料であるアルコキシ化合物を含む反応液及び一酸化炭素を含むガスを保持することができる構造であれば特に制限はなく、材質、形状、容積等は、該反応容器中で行われる本発明の電解反応の規模や条件によって適宜選択することができる。具体的には、容器材質には樹脂、ガラス、金属等が用いられ、第1室と第2室はいずれも有底円筒形や、有底角筒形、直方体状等のものが挙げられる。また、第1室と第2室はその形状や容積、材質が異なるものでもよい。
【0048】
また、第1室は原料であるアルコキシ化合物を含む反応液を保持するため、該反応液の供給口を有することが好ましい。また、該反応液を循環させる場合には、供給口、排出口、及び外部に循環用のポンプや溶液タンク等を有するものであってもよい。
【0049】
第1室に設置される陰極の陰極材は、通常の電解反応に使用できるものであれば、形状、材質ともに制限はないが、水素過電圧の低いものが好ましい。具体的には炭素、白金、カドミウム、鉛、金及びそれらを含む合金等を用いることができる。
【0050】
陰極の設置箇所は、第1室において電解反応が起こり得るいずれの場所でもよいが、電極間抵抗を減じるためにはできるだけ陽極に近接して設置することが好ましい。その際、両極間の短絡を防止するためのセパレータを設置してもよい。
【0051】
一方、第2室は、同じく原料である一酸化炭素を含むガスを保持するため、該ガスの供給口や余剰ガスの出口等を備えることが好ましい。
【0052】
第1室と第2室は、白金族元素を含有する多孔質の陽極によって分離されている。ここで、「陽極により分離されている」とは、第1室中の反応液と第2室中の一酸化炭素が、いずれも電解反応が充分に行われるように陽極に接触し得る状態であり、かつ両室に保持されている物質や電解反応により生成する物質が互いに混ざりあわないような状態になっていることをいう。
具体的には、例えば、板状の陽極を、第1室と第2室を分離する壁として存在させるような形態等(後掲の図1)が挙げられるが、両室を隔てる壁の全てが陽極である必要はない。
【0053】
陽極としては、多孔質の材質で製造された通常の導電性固体電極(以下、「導電性多孔質固体電極」と称することがある。)であって、白金族元素を含有するものを用いることができる。
【0054】
前述の如く、一般に、気体原料と液体原料、あるいは疎水性液体原料と親水性液体原料のように、本来混和しない2種以上の原料を反応させて生成物を得ようとする場合、触媒反応では2相に分離した原料と触媒の3者が効率よく接触することが必要である。そのために気泡あるいは液滴の粒径をできるだけ小さくする(すなわち気液あるいは液液の接触面積をできるだけ大きくする)工夫がなされている。電解合成反応においても気泡あるいは液滴の粒径を小さくして接触面積を大きくする必要があるが、さらに電極は固体であり、その表面で電子の授受が行われることにより反応が進行するため、気体/固体/液体、もしくは液体/固体/液体の三相の界面における接触効率を高くする必要がある。
【0055】
そこで、本発明の電解反応装置では、陽極に導電性多孔質固体電極を用いることにより、上記三相の界面における接触効率の問題を解決している。ここで言う導電性多孔質固体電極とは、電極内部に微細な空隙を有し、その空隙部に液体原料や気体原料が浸透することで三相の接触が行われる電極のことである。この導電性多孔質固体電極の空隙(孔)の内径が小さすぎると原料が電極内に浸透できず、逆に大きすぎると原料が異相側に洩れて隔膜の用を成さなくなる。従って、導電性多孔質固体電極の孔径は、その最小径として原料であるアルコキシ化合物や一酸化炭素及び生成物である炭酸ジエステルの分子径以上であることが必要である。一方、最大径は、電極の厚みや素材、反応条件の影響を受けるため状況に応じた設計が必要になる。
【0056】
このような観点から、陽極の導電性多孔質固体電極の空隙の直径(多孔質の孔径)は、一般には1nm以上1000nm以下、好ましくは5nm以上500nm以下、さらに好ましくは10nm以上100nm以下である。
【0057】
このような導電性多孔質固体電極は、例えば、炭素や金属を主成分とする導電性粉末とポリテトラフルオロエチレンのようなバインダー粉末を混練し、圧延成形して作製することができる。この導電性多孔質固体電極の製造に当たり、例えば、導電性多孔質固体電極を作製する際の混練材料中に、下述する白金族元素の1種又は2種以上を混合することにより、該導電性多孔質固体電極に、白金族元素を含有させて、本発明の電解反応装置で用いられる、白金族元素を含有する多孔質の陽極を製造することができる。
【0058】
白金族元素を、上記導電性多孔質固体電極を構成する導電性素材(以下、これを「担体」と称することがある)の表面に担持させる(以下、これを「白金族元素担持触媒」と称することがある)場合、担体は、導電性カーボンすなわち導電性を有する炭素微粒子が好ましい。さらに、導電性カーボンとしては、1次粒子径が100nm以下、好ましくは50nm以下の導電性カーボンの微粒子、またはそれらの凝集体を用いることが好ましい。
【0059】
ここで、1次粒子径とは透過型電子顕微鏡のような電子顕微鏡を用いて分散させた複数の粒子を撮影し、写真から観察されたそれらの個々の粒子径の平均値を言う。粒子径の算出の際には、写真から観察される粒子の形状が柱状等でアスペクト比が大きい場合には、短辺長さを粒子径として用いることとし、平均値を求める際に用いる粒子数に特に制限はないが、できるだけ多い粒子を観察した方が好ましく、具体的には100個以上、さらにこのましくは1000個以上、例えば5000〜10000個の粒子を観察するとよい。平均値の算出の際には市販の粒子径測定用のソフトウェアを使用してもよい。
【0060】
1次粒子径100nm以下というような極微細粒子状の導電性カーボンを担体として使用することにより、担体の体積固有抵抗値が低下し、電気伝導性が向上することにより、触媒及び電極性能が向上し、これにより、反応効率が高められることが考えられる。
【0061】
さらに、この導電性カーボンとしては、BET比表面積が100m/g以上、特に200m/g以上の、比表面積の大きい導電性カーボンを使用するのが、触媒単位重量あたりの反応点を増加させるという点で好ましい。
【0062】
ここで導電性カーボンのBET比表面積は、通常用いられるいずれの方法で測定されたものでも良いが、具体的には例えば、次のようにして測定される。
まず、試料を試料管(吸着セル)に入れて加熱しながら真空排気し、脱ガス後の試料重量を測定する。次にセル内に窒素ガスを送り込んで試料表面に窒素ガスを吸着させながら圧力の変化に対する吸着量の変化をプロットする。このグラフから試料表面にだけ吸着したガス分子吸着量をBET吸着等温式より求める。窒素分子は予め吸着占有面積がわかっているので、ガス吸着量より試料の表面積を測定することができる。
【0063】
本態様で用いる導電性カーボンの1次粒子径の下限及びBET比表面積の上限には特に制限はないが、製造法上の限界や機械的強度の制限により、通常、導電性カーボンの1次粒子径は10nm以上であり、BET比表面積は10000m/g以下である。
【0064】
導電性カーボンのカーボン素材としては特に制限はないが、好ましくは、カーボンブラック、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン、賦活処理した炭素繊維等が挙げられる。これらは1種を単独で使用しても良いし2種以上を併用しても良い。このうち、カーボンブラックが担体としての入手容易性、価格などの点から好ましい。
【0065】
一方、本発明で用いられる白金族元素としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。これらのうち、目的の反応が効率的に進行することからパラジウムが好ましい。
【0066】
導電性カーボンを用いた白金族元素担持触媒の製造方法は特に制限はないが、導電性カーボンを分散させた水中に、白金族元素の塩類を溶解した水溶液を所定量滴下し、蒸発乾固させる方法などが挙げられる。これをさらに水素気流下で60〜500℃程度に加熱することにより、担体上の白金族元素の塩類を還元させて、白金族金属が単体として導電性カーボン上に担持された白金族元素担持触媒を得ることができる。
【0067】
このようにして得られる白金族元素担持触媒の白金族元素の担持量は、通常、導電性カーボンに対して0.01〜75重量%程度であり、好ましくは0.1〜50重量%である。この担持量は少な過ぎると、これを用いて製造される陽極の白金族元素含有量が少なくなることにより触媒効果が不足し、多過ぎると陽極から脱離して不活性化するので経済的でない。
【0068】
かくして得られた該白金族元素担持触媒に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなバインダーを加えて成形することにより、本発明の電解反応装置に好適な白金族元素担持触媒を含む導電性多孔質固体電極の陽極を製造することができる。あるいは、白金族元素担持触媒を、上記バインダー及び白金族元素を担持していない導電性助剤と共に混練して成形することによっても、陽極を製造することができる。
【0069】
ここで使用する導電性助剤としては、白金族元素担持触媒の白金族元素の担体として用いられる導電性カーボンと同じものを使用してもよいし、異なるものを使用しても良いが、粉体抵抗率が0.5Ω・cm以下、好ましくは0.25Ω・cm以下の導電性素材を使用するのが好ましい。導電性助剤を併用することにより、電極内部抵抗が抑制されるという効果が奏されるが、用いる導電性助剤の粉体抵抗率が0.5Ω・cmを超えると、電極内の抵抗が大きくなり電流効率が低下する。導電性助剤の粉体抵抗率の下限には特に制限はないが、通常0.01Ω・cm程度である。
【0070】
上記粉体抵抗率は、試料に4本の針状の電極(四探針プローブ)を直線上に置き、外側の二探針間に一定電流を流し、内側の二探針間に生じる電位差を測定して求めることができる(四探針法)。
【0071】
陽極の製造に用いる導電性助剤としては、具体的には、カーボンブラック等のカーボン粉末、炭素繊維、カーボンフレーク、炭素超短繊維(カーボンナノチューブ)等のカーボン系素材、銀、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、鉄、ステンレス、黄銅等の粉末、フレーク、繊維等の形態の金属系素材、金属酸化物微粒子を金属でドープした金属酸化物系素材、無電解メッキ、酸化錫コートした粉末及び繊維等の導電被覆系素材等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。これらのうち導電性素材としての性能及び入手の容易さを考慮するとカーボン系素材や金属系素材が好ましく、カーボン系素材がより好ましい。
【0072】
これらの導電性助剤の大きさ(粒径や繊維径等)には特に制限はないが、過度に大きいと成形性が悪くなり、過度に小さいと多量に導入しないと導電経路が形成されず、多量に導入すると組織が密になり多孔性が失われるため、粒状の導電性助剤であれば、前述の1次粒子径で10nm〜100μm程度、繊維状の導電性助剤であれば、平均繊維径が5nm〜50μmで、平均繊維長が0.1〜1000μm程度のものが好ましい。
【0073】
このような白金族元素担持触媒を含む導電性多孔質固体電極よりなる陽極に含まれる白金属元素量が少ないと反応速度が低下し、多すぎると陽極から脱離して不活性化するので経済的でない。従って、陽極の白金属元素の含有量は、これを用いる反応系に応じて適宜選択することができるが、例えば、陽極の電極面積(幾何学的面積)当たりの白金属元素の含有量として0.1μmol/cm以上が好ましく、1μmol/cm以上がさらに好ましい。また20μmol/cm以下が好ましく、15μmol/cm以下がさらに好ましい。
【0074】
従って、陽極の成形に当たって用いられる、バインダーや導電性助剤は、得られる陽極の電極面積あたりの白金族元素担持量が上記範囲となるように適宜その使用量を調整して白金族元素担持触媒と混合して用いられる。
【0075】
以下に、本発明の電解反応装置の実施の形態の一例を示す図1を参照して、本発明の電解反応装置の装置構成をより具体的に説明する。
【0076】
図1において、1は反応容器(電解セル)であり、2が陰極2Aを設置した第1室で、3が第2室であり、第1室2と第2室3は、白金族元素担持触媒を含む導電性多孔質固体電極である陽極4で分離されている。また、陽極4と陰極2Aは、反応容器外部に設置された電源9に接続されている。2B,3Bはそれぞれ第1室2、第2室3の上部をおおうための栓である。5は第2室3に一酸化炭素を供給するための一酸化炭素供給管である。この一酸化炭素供給管5は、He等の不活性気体を流通させるためのガス供給管を兼ねている。6は、ヘリウム等の不活性気体を第1室2に流通させるためのヘリウムガス供給管である。7は余剰の未反応一酸化炭素を抜き出すためのガス抜き管であり、8はガスサンプリング管を兼ねたガス抜き管である。
【0077】
この電解反応装置では、反応容器1の第1室2に、アルコキシ化合物を含む反応液(後述のように、有機ヒドロキシ化合物と塩基性物質を含む反応液であってもよい。)を供給し、第2室3に、一酸化炭素供給管5より一酸化炭素を含むガスを供給し、電源9により陽極4と陰極2Aとの間に通電すると、陽極4の空隙内で白金族元素触媒の存在下、アルコキシ化合物(有機ヒドロキシ化合物と塩基性物質との反応で生成したアルコキシ化合物であってもよい。)と一酸化炭素とが電解反応し、炭酸ジエステルが生成する。生成した炭酸ジエステルは第1室2の液中に拡散する。一方、第1室2に設置された陰極2A上では、水素イオンが還元されて水素ガスが発生する。なお、反応に先立ち、一酸化炭素あるいはヘリウムガス供給管5、6からヘリウム等の不活性気体を第1室2及び第2室3に流通させることにより、反応系の水分量を低減することができる。
【0078】
なお、図1の電解反応装置は、第1室2及び第2室3が有底円筒形状の容器形状であり、これらが円筒形の連通部4Aで連結され、この連通部4Aに白金族元素担持触媒を含む導電性多孔質固体電極よりなる陽極4が設けられていることにより、第1室2と第2室3とが分離されているが、本発明の電解反応装置は、何らこのような形態のものに限定されるものではない。
【0079】
前述の特許文献6で開示された図2の電解反応装置と、本発明の電解反応装置とは、陽極の設置位置が異なる。この相違点により、図2の装置では両極間の抵抗が大きいが、本発明の電解反応装置は、両極間の抵抗が小さく、反応効率を高めることができ、工業化プロセスとした際に大きな電力を必要としないため実用的である。
【0080】
また、特許文献6で開示された、図3の電解反応装置に対して、本発明の電解反応装置は、反応容器が第1室と第2室とに分割されている点が異なる。前述の如く、図3の反応容器では反応容器の外部で未反応一酸化炭素と副生水素の分離操作が必要となるが、本発明の電解反応装置では、原料である一酸化炭素を含むガスが供給される第1室と、水素が発生する第2室とを分離しているので、これらのガスの分離を行う必要がなく、効率的である。
【0081】
[炭酸ジエステルの製造方法]
本発明の炭酸ジエステルの製造方法は、上述の本発明の電解反応装置の反応容器の第1室にアルコキシ化合物を含む反応液(後述のように、有機ヒドロキシ化合物と塩基性物質を含む反応液であってもよい。)を供給し、第2室に一酸化炭素を含むガスを供給して、アルコキシ化合物(有機ヒドロキシ化合物と塩基性物質との反応で生成したアルコキシ化合物であってもよい。)と一酸化炭素とを、白金族元素を含む触媒の存在下に電解反応させて炭酸ジエステルを製造する方法である。
本発明の電解反応は、具体的には、下記式(1)で表されるアルコキシ化合物と一酸化炭素との反応で、下記反応式(2)に従って、炭酸ジエステルを生成させるものである。
【0082】
RO (1)
(Rは、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、或いは芳香族炭化水素基を表し、これらの炭化水素基は、置換基を有していても良い。また、Xは、ROと塩を成すカチオン種を示す。但し、Xは水素イオン(H)ではない。)
2RO+CO → RO−C(=O)−OR+2e+2X (2)
【0083】
なお、本明細書において、「アルコキシ」とは、上記式(1)においてRが脂肪族(即ち鎖状)炭化水素基又は脂環式炭化水素基である一般的な有機化学命名法上の「アルコキシ」だけでなく、Rが芳香族炭化水素基である「アリーロキシ」も包含するものである。
【0084】
また、本発明の方法は、1種類のアルコキシ化合物を用いて炭酸ジエステル(RO−C(=O)−OR)を製造する方法に限らず、2種類以上のアルコキシ化合物を用いて、エステル部分の異なる炭酸ジエステルを製造する方法、例えば、アルコキシ化合物(R)とアルコキシ化合物(R)とを用いて、炭酸ジエステル(RO−C(=O)−OR)を製造する方法をも包含する(ここで、R,RはRと同義であり、R≠Rである。)。
【0085】
反応に使用するアルコキシ化合物を、後述の如く、有機ヒドロキシ化合物(即ち、後掲の式(4)で表される有機ヒドロキシ化合物)と塩基性物質とを電解反応装置内で反応させて、有機ヒドロキシ化合物の水素イオンを脱離することにより製造する場合、式(2)で生成したXは下記式(3)によりアルコキシ化合物(1)を生成し、その際に生じたHは陰極で還元されて水素ガスとなる。
【0086】
ROH+X → RO+H (3)
(R、Xは式(1)におけると同義である。)
【0087】
従って、本反応では炭酸ジエステルとともに水素ガスが副生する。
なお、前述の如く、図3に示した1室型セルで電解反応を行うと一酸化炭素と水素が混在するため、これらを分離する煩雑な操作が必要になる。
また、図2に示した2室型セルでは一酸化炭素供給の場と水素生成の場を分離できるのでこれらを分離する操作は必要なくなるが、図2の2室型セルでは陽極と陰極間の距離が離れる上に隔膜による抵抗が加わるため大きな印加電圧が必要となり、電解反応の効率が低下する。
【0088】
<アルコキシ化合物>
本発明において、原料として使用するアルコキシ化合物は、前記式(1)で表されるものであるが、前記式(1)において、Rとしては、飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基、飽和又は不飽和の脂環式炭化水素基、或いは芳香族炭化水素基が挙げられる。また、これらの炭化水素基が有していても良い置換基としては、例えば、アルキル基、ヒドロキシ基、アリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、スルホン酸基、スルホン基、アミノ基などが挙げられる。
【0089】
より具体的には、Rとしては、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、アリル基、クロチル基などの飽和もしくは不飽和の、直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基、好ましくは炭素数2以上、より好ましくは炭素数2〜10の直鎖又は分岐のアルキル基又はアルケニル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘキセニル基などの飽和もしくは不飽和の脂環式炭化水素基、好ましくは炭素数5以上、より好ましくは炭素数5〜10のシクロアルキル基又はシクロアルケニル基;ベンジル基やα−フェニルエチル基のようなアラルキル基;フェニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基などのアリール基又は置換アリール基、又はこれらの誘導体(水素原子が、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、スルホン酸基、スルホン基、アミノ基などで置換されたもの)などの、置換基を有していても良い炭素数6以上の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0090】
これらのうち、Rとしては、特に炭素数2以上、好ましくは炭素数2〜10の鎖状脂肪族炭化水素基、炭素数5以上、好ましくは炭素数5〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6以上、好ましくは炭素数6〜14の芳香族炭化水素基等、とりわけフェニル基が好ましく、これにより、従来、特に電解反応による合成が困難であった、これらのアルコキシ基をエステル部分に有する炭酸ジエステルを工業的に有利に合成することができる。なお、ここで「炭素数」とは、当該基が置換基を有する場合、その置換基の炭素数も含めた炭素数である。ROは上記Rと酸素原子が結合してできたアニオン種を示し、対応するカチオン種により1価のアニオンのみならず、2価以上の価数を持つアニオンでもよい。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、Xは、ROと塩を成すカチオン種を示し、Xとしてはリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン又はマグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属イオン、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、トリフェニルアンモニウム、ジメチルアニリニウム、ピリジニウム等の3級アンモニウムカチオン、ジイソプロピルアンモニウム等の2級アンモニウムカチオン、メチルアンモニウム、エチルアンモニウム、プロピルアンモニウム、ブチルアンモニウム、ベンジルアンモニウム等の1級アンモニウムカチオン、NHによって表されるアンモニウムカチオン、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウムなどの4級アンモニウムカチオンが挙げられる。Xは1価のカチオンのみならず、2価以上のカチオンであってもよい。これらは1種を単独で使用しても良いし、2種以上を併用してもよい。
ROで表されるフェノキシド化合物としては、ナトリウムフェノキシド、リチウムフェノキシド、カリウムフェノキシド等が挙げられる。
【0091】
反応に使用するアルコキシ化合物は、有機ヒドロキシ化合物(即ち、下記式(4)で表される有機ヒドロキシ化合物)と塩基性物質とを反応させて、有機ヒドロキシ化合物の水素イオンを脱離することにより製造してもよい。このアルコキシ化合物は、電解反応装置内で電解反応と同時進行で合成しても良いし、別途合成しても良い。
【0092】
R−OH (4)
(Rは、式(1)におけると同義である。)
【0093】
アルコキシ化合物の調製に使用する有機ヒドロキシ化合物としては、具体的には、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、アリルアルコール、クロチルアルコール等の飽和もしくは不飽和の、直鎖又は分岐の脂肪族アルコール、好ましくは炭素数2以上、より好ましくは炭素数2〜10の直鎖又は分岐の飽和又は不飽和脂肪族アルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール、メチルシクロヘキサノール、3−ヒドロキシ−1−シクロヘキセン、4−ヒドロキシ−1−シクロヘキセン等の飽和又は不飽和脂環式アルコール、好ましくは炭素数5以上、より好ましくは炭素数5〜10の飽和又は不飽和脂環式アルコール、ベンジルアルコール、ヒドロキシベンジルアルコール、ジフェニルカルビノール等のアリール置換アルコール、フェノール、クレゾール、キシレノール、ナフトール、ヒドロキシアントラセンなどの芳香族有機ヒドロキシ化合物又はそれらの誘導体(芳香環の水素原子がアルキル基、アリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、スルホン酸基、アミノ基、などで置換されたもの)が挙げられる。
【0094】
アルコキシ化合物の調製に使用する塩基性物質は、有機ヒドロキシ化合物との反応性に応じて選択する必要があるが、金属リチウム、金属ナトリウム、金属カリウムなどのアルカリ金属又は金属カルシウム、金属マグネシウム等のアルカリ土類金属、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属又は水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、リチウムハイドライドやナトリウムハイドライドなどのアルカリ金属又はカルシウムハイドライド、マグネシウムハイドライド等のアルカリ土類金属の水素化物、酢酸ナトリウムや炭酸カリウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属の酢酸塩、炭酸塩等の弱酸塩、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリフェニルアミン、ジイソプロピルアミン、ジメチルアニリン、ピリジン等のアミン類、三菱化学社製ダイヤイオン(登録商標)SA10Aなどの塩基性イオン交換樹脂などを挙げることが出来る。これらは1種を単独で使用しても良いし2種以上を併用しても良い。
【0095】
塩基性物質の使用量は、有機ヒドロキシ化合物からアルコキシ化合物を生成させることができる反応当量以上であれば良い。また、塩基性物質は、電解反応に先立ちその必要量を供給する他、電解反応中に複数回に分けて分割供給したり、連続供給したりすることもできる。
【0096】
<支持電解質>
本発明の電解反応では、反応を促進するために支持電解質を使用することができる。
【0097】
支持電解質としては、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のアルカリ金属のハロゲン化物;次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸リチウム、次亜ヨウ素酸カリウム、次亜ヨウ素酸リチウム等のアルカリ金属の次亜ハロゲン酸塩;塩素酸カリウム、塩素酸リチウム等のアルカリ金属のハロゲン酸塩;過塩素酸ナトリウム、過ヨウ素酸ナトリウム等のアルカリ金属の過ハロゲン酸塩;塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、ヨウ化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム等のアルキル四級アンモニウムのハロゲン化物;過塩素酸テトラブチルアンモニウム、過塩素酸テトラメチルアンモニウム等のアルキル四級アンモニウムの過ハロゲン酸塩等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0098】
ただし、前述したアルコキシ化合物や、該アルコキシ化合物を生成させるために添加する塩基性物質が電解質として機能し、別途支持電解質を添加する必要がない場合がある。支持電解質を添加しなければ、反応後の目的物と支持電解質との分離操作が不要となり、工業上有利である。
【0099】
<溶媒>
本発明の電解反応では、溶媒を使用しても良いし、使用しなくても良い。溶媒を使用する場合には、電解反応に不活性な(酸化電位の高い)溶媒を選択する必要がある。このような溶媒としては、例えば、アセトニトリル、四塩化炭素、ジクロロメタン(塩化メチレン)、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0100】
反応基質としてのアルコキシ化合物を、原料となる有機ヒドロキシ化合物が含まれた反応液に、塩基性物質を添加することで調製する場合には、上記溶媒中に有機ヒドロキシ化合物を溶解して用いることができる。溶媒中の有機ヒドロキシ化合物の濃度は、任意の範囲で選択できるが、0.01mol/L以上が好ましく、0.1mol/L以上がさらに好ましい。また、該濃度の上限は、有機ヒドロキシ化合物に対する支持電解質の溶解度によって決まるため、適宜選択することができるが、有機ヒドロキシ化合物に対する支持電解質の溶解度が低い場合は、有機ヒドロキシ化合物の濃度を低く抑える必要がある。有機ヒドロキシ化合物が支持電解質をよく溶かす場合や、支持電解質を使用しない場合は、必ずしも溶媒を使用する必要はない。溶媒を使用しない場合は反応後の目的物と溶媒との分離操作が不要となり、工業上有利である。
【0101】
<水分量>
本発明の電解反応では、反応液中の水分により反応が阻害される傾向があるので、水分含有量の少ない原料や溶媒を使用するなどして、反応液中の水分量を好ましくは5重量%以下、より好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは1000重量ppm以下、最も好ましくは800重量ppm以下とする。反応液中の水分量は少ないほど反応効率の面では有利であるが、反応液中の水分量を0.1重量ppm未満とするのは操作に困難が伴い、経済的に不利となるため、通常、反応液中の水分量は0.1重量ppm以上である。
【0102】
上記反応液中の水分量とは、本発明の電解反応装置の反応容器の第1室内の反応液に含有される水分量を示す。具体的には、電解反応を回分式で実施する場合は反応開始前の該反応液の水分量を示し、連続式で実施する場合は第1室へ供給する反応液中の水分量を示す。反応液中の水分量の測定方法としては、当該反応液をサンプリングし、これをカールフィッシャー水分計などで測定する方法が挙げられる。
【0103】
反応液中の水分量を上記範囲とするためには、原料や溶媒から水を除去する方法が用いられ、この具体的な方法としては、一般的に用いられる水分除去方法のうちのいかなる方法でも良いが、例えば、蒸留による脱水、モレキュラーシーブ等の水分吸着材による吸着脱水、膜分離による脱水等が挙げられる。
【0104】
また、反応に先立ち、反応液中に窒素やヘリウムのような不活性気体を流通させて、残存する水分や酸素を除去することも有効である。さらに、反応に先立ち、反応液中に一酸化炭素を流通させて反応液中に溶存する一酸化炭素濃度を高めておくことで反応初期の反応速度を向上させることができる。
【0105】
<一酸化炭素>
本発明において、アルコキシ化合物と反応させる一酸化炭素を含むガスは、本発明の電解反応装置において、陽極で区切られて対極を設置しない第2室に気体状で供給される。この一酸化炭素は陽極の空隙内でアルコキシ化合物を含む反応液と接触する。液中の一酸化炭素濃度は飽和溶解度以上にすることはできず、しかも飽和溶解度に達するまでに一定以上の時間を要するが、ミクロ的には液中における気体成分の濃度は気液界面付近において最も高濃度になるので、この方法により電解反応を効率よく進めることができる。
【0106】
本発明の電解反応装置の反応容器の第2室に供給する一酸化炭素を含むガスは、一酸化炭素単体でもよいし、一酸化炭素を含む複数のガス混合物でもよい。一酸化炭素と混合するガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素、メタン、エタン、プロパン等の1種又は2種以上を必要に応じ、任意の比率で使用することができる。
【0107】
<反応条件>
本発明の電解反応において、反応温度は、反応基質が固化しない範囲で自由に設定できる。好ましくは0℃〜200℃、さらに好ましくは20℃〜100℃であるが、一般的には室温程度(例えば20〜30℃程度)で実施される。反応温度を低くするためには、冷却のための設備が必要になり経済的に不利となる。また、反応温度を高くすると、反応基質の蒸発を抑えるために加圧する必要が生じるほか、原料の熱分解等の反応が起きやすくなる。
【0108】
反応圧力は減圧とすることもできるが、通常は、常圧あるいは加圧下で行うことができる。好ましくは1〜15気圧である。1気圧より低い圧力では、導電性多孔質固体電極の陽極内で反応液に溶解するCO濃度が低下して反応速度が低下し、好ましくなく、15気圧を超えると設備費用が高価となる。
【0109】
本発明の電解反応は、定電位電解、定電流電解のいずれも可能である。定電位電解の場合は電位が低いと反応が進行せず、高いとアルコキシ化合物を生成させるために添加した塩基性物質の酸化が進行して反応が進行しなくなる。好ましい電位は0.01V (vs.Ag/AgCl)以上、さらに好ましくは0.1V(vs.Ag/AgCl)以上である。また、好ましくは5V(vs.Ag/AgCl)以下、さらに好ましくは2V(vs.Ag/AgCl)以下である。
【0110】
また、定電流電解の場合は電流密度が低いと反応が進行せず、高いと電解反応装置の抵抗に応じて電解電位が高くなって有機ヒドロキシ化合物や塩基性物質の直接酸化が進行して選択率が低下する。好ましい電流密度は抵抗値に左右されるため、電流密度、電解電位を好ましい範囲とするためにも抵抗値をできる限り低くすることが好ましい。
【0111】
電解反応時間は、適宜選択されるが、回分式の場合、例えば0.1〜24時間程度である。
【0112】
本発明の電解反応は、回分式で行っても良いが、好ましくは連続式で行われる。
なお、前述の本発明の電解反応装置は、単一の反応容器で構成する必要はなく、複数の反応容器を直列、あるいは並列に接続して構成しても良い。本発明の電解反応装置を複数の反応容器で構成する場合、回収ラインからの反応生成物に含まれる未反応の有機ヒドロキシ化合物、アルコキシ化合物、塩基性物質、一酸化炭素等の原料物質は同一又は異なる反応容器の供給ラインに循環しても良い。
【0113】
<炭酸ジエステルの回収>
本発明の電解反応で生成した炭酸ジエステルは、それ自体公知の通常の方法で回収される。回収方法としては、例えば、蒸留や抽出、あるいは晶析による方法が挙げられる。
【0114】
<炭酸ジエステルの用途>
本発明の電解反応により製造された炭酸ジフェニルは、公知の方法により製造された炭酸ジフェニルと同様の用途で使用することができ、例えば、ジヒドロキシ化合物とエステル交換反応させて芳香族ポリカーボネートを製造する際の原料として使用することができる。上記芳香族ポリカーボネートの製造方法も本発明の範囲に含まれる。
その他、本発明により製造された炭酸ジエステルは、電解液等の溶媒、アルキル化剤、カルボニル化剤等の合成原料、ガソリンやディーゼル燃料の添加剤、ポリウレタンの原料等として、広範な用途に有用である。
【実施例】
【0115】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0116】
[実施例1]
(1)白金族元素担持触媒の調製
200mLのビーカーに、イオン交換水80mLと導電性カーボン担体として1次粒子径40nm及びBET比表面積800m/gのカーボンブラック(ケッチェンブラック・インターナショナル社製「カーボンECP」、以下「ECP」と略称する。)650mgを加え、マグネティックスターラーで撹拌しながら、濃度0.03mo1/Lの塩化パラジウム酸(HPdCl)水溶液4.19mLを滴下した。全ての溶液を滴下し終えた後に、100℃に加熱したホットプレート上に、溶液が入ったビーカーを置き、水分が無くなるまで蒸発乾固させることにより、黒色状の粉末を得た。この黒色状粉末にはPd金属基準で2.06重量%の塩化パラジウム(PdCl)が含まれていた。これを150℃で1時間、次いで300℃で2時間、水素気流中(20mL/min)で処理することにより、担持されたPd2+が水素還元によりPdとなり、Pdが導電性カーボン担体に担持された黒色状粉末の白金族元素担持触媒を得た。この白金族元素担持触媒のPd担持量は、導電性カーボンに対して2.06重量%である。
【0117】
(2)白金族元素担持触媒を含む多孔質電極(陽極)の作製
上記(1)で得られた白金族元素担持触媒の黒色状粉末155mg(Pd含有量30μmol)にバインダーとしてポリテトラフルオロエチレン粉末(ダイキン社製、F−104)を40mg添加してメノウ乳鉢で混練した。それを120℃のホットプレート上で圧延し、丸いシート状に成形して電極面積2cm(幾何学的面積)、厚さ約1.6mmの白金族元素担持触媒を含む導電性多孔質固体電極(陽極)を作製した。この白金族元素担持触媒を含む導電性多孔質固体電極の電極面積当たりのPd担持量は6μmol/cmである。また、空隙の直径(多孔質の孔径)は10〜10000nmである。
【0118】
(3)電解反応
上記方法により作製した白金族元素担持触媒を含む導電性多孔質固体電極を陽極4として設けた、図1に示す電解反応装置を用いて定電流電解を行った。
陰極2Aとしては白金ワイヤーを使用した。第1室2の反応液には、反応溶媒としてのアセトニトリル(和光純薬社製、有機合成用)40mLに、有機ヒドロキシ化合物としてフェノール(和光純薬社製、特級)を30mmol、アルコキシ化合物として無水ナトリウムフェノキシド(Alfa
Aeser社製)を0.5mmol、支持電解質として塩化リチウム(和光純薬社製、特級)を0.78mmol加えたものを用いた。溶媒のアセトニトリルは事前に300℃で10時間焼成したモレキュラーシーブズ3A(和光純薬社製、化学用)を100mLあたり約5g添加し、時々振り混ぜながら、12時間以上置いて脱水した。
【0119】
ガス供給管5及び6からヘリウム(ジャパンヘリウムセンター社製、純度99.9995%)を900mL/Hrで10分間流通させることにより第1室2内の反応液に溶存する酸素及び水分、並びに、第2室3内の空気及び水分を除去した後、第2室3に一酸化炭素を含むガス(日本酸素社製、純度99.95%)を900mL/Hrで流通させながら、電流密度を0.2mA/cmとして3時間、室温(約25℃)、常圧で定電流電解を行った。
【0120】
第1室2内の電解反応液は適時サンプリングを行い、ガスクロマトグラフィー(検出器:FID、カラム島津製作所社製GC−2010、ZB−1キャピラリーカラム、φ0.25mm×30m、分析条件:インジェクション温度220℃、カラム温度190℃一定、検出器温度250℃)を用いて分析した(分析の際には内部標準物質としてフェナントレン(和光純薬社製、特級)を0.004%になるように加えた)。
【0121】
反応終了後の反応生成物も同様の方法で分析を行った、また、ガスサンプリング管8からのサンプリングガス中の二酸化炭素はガスクロマトグラフィー(検出器:TCD、カラム島津製作所社製GC−8A、PorapakQパックドカラム、70℃恒温分析)で、水素はガスクロマトグラフィー(検出器:TCD、カラム島津製作所社製GC−8A、活性炭カラム(4mm×2m)、120℃恒温分析)で分析した。
【0122】
その結果、炭酸ジフェニル(以下DPC)の生成量は7.8μmolで、DPC生成の電流効率は約35%であった。サンプリングガス中からは電流効率約61%に相当する量の水素が検出された。3時間反応した時点の触媒のターンオーバー数(以下TON)は0.65mol−DPC/mol−Pdであった。結果の概要を表1に示した。
【0123】
[比較例1]
電解反応を図2に示した2室型セルで行ったこと以外は、実施例1と同様にして炭酸ジフェニルを電解反応により製造した。陽極11A及び陰極12Aとしては、それぞれ実施例1におけると同様のものを用いた。隔膜14としてはガラスフィルターを使用した。また、陽極室11に実施例1で用いたものと同じ反応液を、陰極室12に無水ナトリウムフェノキシドを加えないことを除いて実施例1と同じ反応液を投入し、陽極室11に実施例1と同様に一酸化炭素を流通させながら電流密度を0.2mA/cmとして3時間、定電流電解を行った。
【0124】
実施例1と同じ手順で分析した結果、炭酸ジフェニル(以下DPC)の生成量は7.2μmolで、DPC生成の電流効率は約32%であった。サンプリングガス中からは電流効率約68%に相当する量の水素が検出された。3時間反応した時点の触媒のTONは0.60mol−DPC/mol−Pdであった。
【0125】
[比較例2]
電解反応を図3に示した1室型セルで行ったこと以外は、実施例1と同様にして炭酸ジフェニルを電解反応により製造した。陽極21及び陰極22としては、それぞれ実施例1におけると同様のものを用いた。反応容器20には実施例1で用いたものと同じ反応液を供給し、実施例1と同様に一酸化炭素を流通させながら電流密度を0.2mA/cmとして3時間、定電流電解を行った。
【0126】
実施例1と同じ手順で分析した結果、炭酸ジフェニル(以下DPC)の生成量は6.4μmolで、DPC生成の電流効率は約29%であった。サンプリングガス中からは電流効率約82%に相当する量の水素が検出された。3時間反応した時点の触媒のTONは0.53mol−DPC/mol−Pdであった。
【0127】
上記実施例1及び比較例1,2の結果を表1にまとめる。
【0128】
【表1】

【0129】
表1より、本発明の電解反応装置によれば、高い電流効率で炭酸ジエステルを効率的に製造することができることが分かる。しかも、この電解反応装置では、原料である一酸化炭素を含むガスが供給される第2室と、水素が発生する第1室とを分離しているので、反応容器の外部でこれらのガスの分離を行う必要がなく、効率的である。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明は、電解液やポリカーボネートの原料等として有用な炭酸ジフェニル等の炭酸ジエステルを、ホスゲン等の毒性物質を使用することなく、工業的に実用化し得る程度に効率よく製造する電解反応装置及び炭酸ジエステルの製造方法を提供するものである。
【符号の説明】
【0131】
1 反応容器(電解セル)
2 第1室
2A 陰極
2B 栓
3 第2室
3B 栓
4 陽極
4A 連通部
5 一酸化炭素供給管
6 ヘリウムガス供給管
7 ガス抜き管
8 ガス抜き管
9 電源
10 反応容器(電解セル)
11 陽極室
11A 陽極
11B 栓
12 陰極室
12A 陰極
12B 栓
13 連通部
14 隔膜
15 ガス供給管
16 ガス供給管
17 ガス抜き管
18 ガス抜き管
19 電源
20 反応容器(電解セル)
20A 容器部
20B 栓
21 陽極
22 陰極
23 電源
24 集電体
25 ガス供給管
26 ガス抜き管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシ化合物と一酸化炭素とを白金族元素の存在下に電解反応させて炭酸ジエステルを得るための電解反応装置であって、
反応容器と、該反応容器内に設けられた陽極及び陰極と、該反応容器外に設けられた該陽極及び陰極間に電圧を印加する手段とを有し、
該反応容器が、
陰極を有し、室内で該陰極とアルコキシ化合物を含む反応液とが接触し得る構造を有する第1室と、
一酸化炭素を含むガスを保持し得る構造の第2室とを有し、
該第1室と第2室とが白金族元素を含有する多孔質の陽極により分離されている
ことを特徴とする電解反応装置。
【請求項2】
前記陽極が、1次粒子径が100nm以下の導電性カーボンよりなる担体上に白金族元素を担持させてなる白金族元素担持触媒を含む多孔質電極であることを特徴とする請求項1に記載の電解反応装置。
【請求項3】
前記陽極が、BET比表面積が100m/g以上の導電性カーボンよりなる担体上に白金族元素を担持させてなる白金族元素担持触媒を含む多孔質電極であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電解反応装置。
【請求項4】
前記陽極が、導電性カーボンよりなる担体上に白金族元素を担持させてなる白金族元素担持触媒を含む多孔質電極であり、該導電性カーボンがカーボンブラックであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の電解反応装置。
【請求項5】
前記陽極が、導電性カーボンよりなる担体上に白金族元素を担持させてなる白金族元素担持触媒と導電性助剤とを混合して成形してなることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の電解反応装置。
【請求項6】
該白金族元素がパラジウムであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の電解反応装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の電解反応装置の反応容器の第1室にアルコキシ化合物を含む反応液を供給し、第2室に一酸化炭素を含むガスを供給して電解反応により炭酸ジエステルを生成させることを特徴とする炭酸ジエステルの製造方法。
【請求項8】
前記アルコキシ化合物が、有機ヒドロキシ化合物と塩基性物質を反応液中に含有させることにより該反応液中で生成されたものであることを特徴とする請求項7に記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【請求項9】
前記アルコキシ化合物がフェノキシ化合物であり、前記炭酸ジエステルが炭酸ジフェニルであることを特徴とする請求項7又は8に記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法により製造された炭酸ジフェニルを原料として用いることを特徴とする芳香族ポリカーボネートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−184772(P2011−184772A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53358(P2010−53358)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】