説明

電解液、ゲル電解質及びリチウムイオン二次電池

【課題】γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン類及び/又はプロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の分岐鎖を有する環状カーボネート類を含みながらも、二次電池に使用可能であり且つサイクル寿命特性が優れる電解液、該電解液を用いたゲル電解質、及び該電解液若しくは該ゲル電解質を用いたリチウムイオン二次電池の提供。
【解決手段】<1>(C)塩素、フッ素若しくはホウ素を含む、有機リチウム塩又は無機リチウム塩、前記有機リチウム塩に該当しない(A)有機酸のリチウム塩及び(B)ホウ素化合物が、ラクトン類及び/又は分岐鎖を有する環状カーボネート類を含む非水溶媒に配合されてなることを特徴とする電解液。<2>前記(A)有機酸のリチウム塩が、炭素数1〜6の脂肪族カルボン酸及び炭素数7〜8の芳香族カルボン酸のリチウム塩からなる群から選択される1種以上含むことを特徴とする<1>に記載の電解液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液、該電解液を用いたゲル電解質、及び該電解液又はゲル電解質を用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、鉛蓄電池やニッケル水素電池に比べて、エネルギー密度及び起電力が高いという特徴を有するため、小型化及び軽量化が要求される携帯電話やノートパソコン等の電源として広く使用されている。
一般に、従来のリチウムイオン二次電池の多くは、負極、正極ならびにその両極の短絡を防止するセパレータから構成されており、前記セパレータに電解液が保持されている。当該電解液として、塩素、フッ素若しくはホウ素を含む、有機リチウム塩又は無機リチウム塩を非水溶媒に溶解させたものが従来使用されている。
【0003】
従来のリチウムイオン二次電池の負極としては、金属リチウム、リチウム合金、リチウムを吸蔵及び放出し得る炭素系材料、金属酸化物等が使用される。また、従来のリチウムイオン二次電池の正極としては、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、オリビン型リン酸鉄リチウム等の遷移金属酸化物が使用される。
従来のリチウムイオン二次電池の電解液としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、メチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチルカーボネート等の各種非水溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ素リチウム(LiBF)、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドリチウム(LiN(SOCF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、三フッ化メタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、六フッ化アンチモン酸リチウム(LiSbF)、六フッ化ヒ素酸リチウム(LiAsF)、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C)等の塩素、フッ素若しくはホウ素を含む、有機リチウム塩又は無機リチウム塩を溶解させた非水系電解液が使用されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
リチウムイオン二次電池に使用される非水溶媒は、リチウム塩を電離させる程度に誘電率が高いこと、少なくとも−30〜60℃の広い温度領域で使用可能であることが求められる。この要求を満たすために、環状カーボネート(環状炭酸エステル)であるエチレンカーボネートと、粘度の低いジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の環構造を有さない鎖状カーボネート(鎖状炭酸エステル)とを混合した非水系溶媒が、一般に広く用いられている。しかし、エチレンカーボネートを混合した電解液は、低温において、粘性が高くなってイオン伝導度が低くなる問題、エチレンカーボネートやリチウム塩が析出してしまう問題があった。これらの問題は、エチレンカーボネートの融点が30℃以上であることが原因の一つである。これらの問題を解決する従来方法として、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどの分岐鎖を有する環状カーボネート類(環状炭酸エステル類)や、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンなどのラクトン類を用いた非水溶媒の使用が知られている(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3369583号公報
【特許文献2】特許第4407205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のリチウムイオン二次電池の負極において、負極活物質として黒鉛や非晶質炭素等の炭素材料が使用されている場合、電解液に含まれるプロピレンカーボネートやブチレンカーボネートが、充電の際に当該炭素材料に対して共挿入されて更に還元分解される。その結果、当該炭素材料の層状構造が破壊されるので、当該負極表面上に良好な固体電解質様の界面被膜(以下、SEIという。)が形成されず、二次電池として機能し難いという問題がある。
また、当該電解液にγ−ブチロラクトンやγ−バレロラクトンが含まれる場合においても、これらが充電時に還元分解するため、良好なSEIの形成が妨げられ、二次電池として機能し難いという問題がある。このような問題があるにも関わらず、当該電解液を二次電池に使用して繰り返し充電を行った場合、すぐに電池の容量が著しく低下してしまう問題、すなわちサイクル寿命特性が悪いという問題がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン類及び/又はプロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の分岐鎖を有する環状カーボネート類を含みながらも、二次電池に使用可能であり且つサイクル寿命特性が優れる電解液、該電解液を用いたゲル電解質、及び該電解液若しくは該ゲル電解質を用いたリチウムイオン二次電池の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に記載の電解液は、(C)塩素、フッ素若しくはホウ素を含む、有機リチウム塩又は無機リチウム塩、前記有機リチウム塩に該当しない(A)有機酸のリチウム塩及び(B)ホウ素化合物が、ラクトン類及び/又は分岐鎖を有する環状カーボネート類を含む非水溶媒に配合されてなることを特徴とする。
本発明の請求項2に記載の電解液は、請求項1において、前記(A)有機酸のリチウム塩が、炭素数1〜6の脂肪族カルボン酸及び炭素数7〜8の芳香族カルボン酸のリチウム塩からなる群から選択される1種以上含むことを特徴とする。
本発明の請求項3に記載の電解液は、請求項1又は2において、前記(A)有機酸のリチウム塩が、ギ酸リチウム、酢酸リチウム、プロピオン酸リチウム、酪酸リチウム、イソ酪酸リチウム、シュウ酸リチウム、マロン酸リチウム、コハク酸リチウム、グルタル酸リチウム、アジピン酸リチウム、マレイン酸リチウム、フマル酸リチウム、フタル酸リチウム及び安息香酸リチウムからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする。
本発明の請求項4に記載の電解液は、請求項1〜3のいずれか一項において、前記(C)塩素、フッ素若しくはホウ素を含む、有機リチウム塩又は無機リチウム塩の配合量:前記(A)有機酸のリチウム塩の配合量が99:1〜50:50(モル比)であることを特徴とする。
本発明の請求項5に記載の電解液は、請求項1〜4のいずれか一項において、前記(B)ホウ素化合物が、ハロゲン化ホウ素及び/又はハロゲン化ホウ素錯体であることを特徴とする。
本発明の請求項6に記載の電解液は、請求項1〜5のいずれか一項において、前記(B)ホウ素化合物が、三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体であることを特徴とする。
本発明の請求項7に記載の電解液は、請求項1〜6のいずれか一項において、前記(B)ホウ素化合物が、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジn−ブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジtert−ブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素tert−ブチルメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体、三フッ化ホウ素メタノール錯体、三フッ化ホウ素プロパノール錯体、及び三フッ化ホウ素フェノール錯体からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする。
本発明の請求項8に記載の電解液は、請求項1〜7のいずれか一項において、(C)塩素、フッ素若しくはホウ素を含む、有機リチウム塩又は無機リチウム塩が、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ素リチウム(LiBF)、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドリチウム(LiN(SOCF)、三フッ化メタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、六フッ化アンチモン酸リチウム(LiSbF)、六フッ化ヒ素酸リチウム(LiAsF)、及びテトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C)からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする。
本発明の請求項9に記載の電解液は、請求項1〜8のいずれか一項において、前記分岐鎖を有する環状カーボネート類が、プロピレンカーボネート又はブチレンカーボネートであることを特徴とする。
本発明の請求項10に記載の電解液は、請求項1〜9のいずれか一項において、前記ラクトン類がγ−ブチロラクトン又はγ−バレロラクトンであることを特徴とする。
本発明の請求項11に記載の電解液は、請求項1〜10のいずれか一項において、さらに、分岐鎖を有さない環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、エーテル類、カルボン酸エステル類、ニトリル類、アミド類及びスルホン類からなる群から選択される1種以上が配合されてなることを特徴とする。
本発明の請求項12に記載のゲル電解質は、請求項1〜11のいずれか一項に記載の電解液に、さらに(D)マトリクスポリマーが配合されてなることを特徴とする。
本発明の請求項13に記載のリチウムイオン二次電池は、請求項1〜11のいずれか一項に記載の電解液又は請求項12に記載のゲル電解質を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電解液によれば、有機リチウム塩若しくは無機リチウム塩及び前記有機リチウム塩に該当しない有機酸のリチウム塩並びにホウ素化合物を組み合わせて含むことによって優れたサイクル寿命特性を示すリチウムイオン二次電池が得られる。また、本発明の電解液中に、低温における粘性の増加やリチウム塩の析出を防止するための、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン類及び/又はプロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の分岐鎖を有する環状カーボネート類が含まれているので、広い温度範囲で当該電解液を使用することができ、且つ、当該電解液中に有機リチウム塩若しくは無機リチウム塩及び有機酸のリチウム塩並びにホウ素化合物が配合されているので、優れたサイクル寿命特性を有するリチウムイオン二次電池が得られる。
本発明のゲル電解質によれば、優れたサイクル寿命特性を有するリチウムイオン二次電池が得られ、当該リチウムイオン二次電池から電解液が漏出する虞を低減することができる。
本発明のリチウムイオン二次電池は、優れたサイクル寿命特性を有するので、繰り返し充放電を行った場合でも十分な容量を維持できる。また、電解液若しくはゲル電解質中にラクトン類及び/又は分岐鎖を有する環状カーボネート類を含むので、無機リチウム塩、有機リチウム塩及び有機酸のリチウム塩が充分に電離する。このため本発明にかかる電解液若しくはゲル電解質を用いたリチウムイオン二次電池は優れた電池特性を有し、且つ広い温度領域で使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<<電解液>>
本発明の電解液は(C)塩素、フッ素若しくはホウ素を含む、有機リチウム塩又は無機リチウム塩、前記有機リチウム塩に該当しない(A)有機酸のリチウム塩及び(B)ホウ素化合物が、分岐鎖を有する環状カーボネート類及び/又はラクトン類を含む非水溶媒に配合されてなるものである。
例えば(C)有機リチウム塩又は無機リチウム塩を非水溶媒に溶解させた電解液に(A)有機酸のリチウム塩及び(B)ホウ素化合物を添加することにより、本発明の電解液を得ることができる。前記非水溶媒が、例えばプロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の分岐鎖を有する環状カーボネート類、及びγ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン類からなる群から選択される一種以上からなる電解液、又は前記一種以上を含有する電解液を用いたリチウムイオン二次電池は、サイクル寿命特性が優れる。
【0011】
<(C)有機リチウム塩又は無機リチウム塩>
本発明における(C)塩素、フッ素若しくはホウ素を含む、有機リチウム塩又は無機リチウム塩は、非水溶媒中に溶解するものであれば特に限定されず、好ましいものとしては、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ素リチウム(LiBF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化アンチモン酸リチウム(LiSbF)、六フッ化ヒ素酸リチウム(LiAsF)、六フッ化タンタル酸リチウム(LiTaF)、六フッ化ニオブ酸リチウム(LiNbF)、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C)、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム(LiN(FSO)、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドリチウム(LiN(SOCF)、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドリチウム(LiN(SO)、三フッ化メタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)等が例示できる。
前記有機リチウム塩は、カルボン酸のリチウム塩以外の有機リチウム塩であることが好ましい。
前記有機リチウム塩又は無機リチウム塩は、LiPF、LiBF、又はLiN(SOCFであることが更に好ましい。
【0012】
前記有機リチウム塩又は無機リチウム塩は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すれば良い。前記有機リチウム塩又は無機リチウム塩の配合量は特に限定されず、例えば、前記有機リチウム塩又は無機リチウム塩や非水溶媒の種類に応じて適宜調節すれば良い。通常は、[有機リチウム塩又は無機リチウム塩の配合量(モル数)]/[配合された物質の総重量]の質量モル濃度が0.2以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましい。このような範囲とすることで、電解液のイオン伝導度が一層向上する。また、前記質量モル濃度の上限値は本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、3.0であることが好ましく、2.0であることがより好ましい。
【0013】
<非水溶媒>
本発明における非水溶媒とは、水以外の溶媒を意味し、好適には有機溶媒である。前記非水溶媒の好適な具体例としては、前記非水溶媒は、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の分岐鎖を有する環状カーボネート類(分岐鎖を有する環状炭酸エステル類)、及びγ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン類から選択される一種以上を含むもの又は前記一種以上からなるものである。
【0014】
前記非水溶媒は、必要に応じて、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、1,2−ジフルオロエチレンカーボネート等の分岐鎖を有さない環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の環状構造を有さない鎖状カーボネート類、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチルー1,3−ジオキソラン等のエーテル類、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチルなどのカルボン酸エステル類、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル等のニトリル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類及びスルホラン、ジメチルスルホキシド等のスルホン類からなる群から選択される一種以上が含まれていても良い。
【0015】
前記分岐鎖を有する環状カーボネート類として、以下の一般式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0016】
【化1】

【0017】
一般式(I)中、R1、R2、R3及びR4は互いに独立して、水素原子、炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数1〜10のシクロアルキル基を表し、R1、R2、R3及びR4のうち、何れか一つ以上は水素原子以外の前記アルキル基若しくは前記シクロアルキル基である。前記アルキル基同士の末端が結合して環を形成していてもよい。
例えば、R1がエチル基であり且つR2、R3及びR4が水素原子である場合、当該分岐鎖状カーボネートは1,2−ブチレンカーボネートである。また、例えばR1及びR4がメチル基であり且つR2及びR3が水素原子である場合、当該分岐鎖状カーボネートは2,3−ブチレンカーボネートである。
【0018】
前記非水溶媒は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0019】
<(A)有機酸のリチウム塩>
本発明における(A)有機酸のリチウム塩は、前記(C)成分の有機リチウム塩に該当しないものであり、且つ当該塩中に、炭素原子及び有機酸をなす基を有するものであれば特に制限されない。前記有機酸をなす基としてはカルボキシル基の他、弱い酸性を示すヒドロキシフェニル基等の水酸基、が例示できる。
本発明における(A)有機酸のリチウム塩は、カルボン酸のリチウム塩が好ましい。また、(A)有機酸のリチウム塩において、リチウム塩を構成する酸基の数は、特に限定されない。例えば前記有機酸がカルボン酸の場合、そのカルボン酸のカルボキシル基の数は1〜4であることが好ましい。このような範囲とすることで、前記(A)有機酸のリチウム塩の非水溶媒への溶解性が一層向上する。
また、前記弱い酸性を示す水酸基のリチウム塩として、4−ヒドロキシフェニル基のリチウム塩、即ちリチウムフェノキシド、が例示できる。
【0020】
前記カルボン酸のリチウム塩は、脂肪族カルボン酸、脂環式カルボン酸及び芳香族カルボン酸のいずれのリチウム塩でもよく、1価カルボン酸及び多価カルボン酸のいずれのリチウム塩でもよい。好ましくは、炭素数1〜6の脂肪族カルボン酸のリチウム塩又は炭素数7〜8の芳香族カルボン酸のリチウム塩である。より具体的な好ましい前記カルボン酸のリチウム塩としては、ギ酸リチウム、酢酸リチウム、プロピオン酸リチウム、酪酸リチウム、イソ酪酸リチウム、シュウ酸リチウム、乳酸リチウム、酒石酸リチウム、マレイン酸リチウム、フマル酸リチウム、マロン酸リチウム、コハク酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウム、グルタル酸リチウム、アジピン酸リチウム、フタル酸リチウム、安息香酸リチウムが例示できる。より好ましい前記カルボン酸のリチウム塩としては、ギ酸リチウム、シュウ酸リチウム、マロン酸リチウム、コハク酸リチウムが例示できる。
【0021】
本明細書で例示したリチウム塩を構成する有機酸が多価の有機酸である場合、当該リチウム塩としては、その価数と同じ数以下のLi原子を含有するものが挙げられる。例えば、シュウ酸は2価カルボン酸であるから、シュウ酸のリチウム塩としては、「シュウ酸モノリチウム(シュウ酸水素リチウム)」と「シュウ酸ジリチウム(シュウ酸ニリチウム)」があるが、これらを単に「シュウ酸リチウム塩」と表記している。すなわち、本明細書及び特許請求の範囲においては、特に明記しない限り、いずれの有機酸のリチウム塩も、その価数に関わらず、単に「有機酸リチウム」と表記している。「有機リチウム塩又は無機リチウム塩」の表記においても同様である。
【0022】
(A)有機酸のリチウム塩は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すれば良い。前記有機酸のリチウム塩の配合量(添加量)は特に限定されず、例えば、前記有機酸のリチウム塩の種類や前記非水溶媒の種類に応じて適宜調節すれば良い。通常は、前記、(C)有機リチウム塩又は無機リチウム塩の配合量:(A)有機酸のリチウム塩の配合量が99.5:0.5〜50:50(モル比)であることが好ましく、99:1〜50:50であることがより好ましく、99:1〜70:30であることがさらに好ましい。ここで示した比はモル比であり、当該電解液に配合された前記(C)成分のモル数と、当該電解液に配合された前記(A)成分のモル数との比を意味する。
上記範囲のモル比とすることで、(A)有機酸のリチウム塩が良好なSEIの形成に寄与し、本発明の効果が一層顕著に現れ得る。
【0023】
<(B)ホウ素化合物>
本発明における(B)ホウ素化合物は、種々の公知のホウ素化合物を使用できる。例えば好ましいものとして具体的には、三フッ化ホウ素(BF)等のハロゲン化ホウ素;三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体(BFO(CH)、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BFO(C)、三フッ化ホウ素ジn−ブチルエーテル錯体(BFO(C)、三フッ化ホウ素ジtert−ブチルエーテル錯体(BFO((CHC))、三フッ化ホウ素tert−ブチルメチルエーテル錯体(BFO((CHC)(CH))、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体(BFOC)等のハロゲン化ホウ素アルキルエーテル錯体;三フッ化ホウ素メタノール錯体(BFHOCH)、三フッ化ホウ素プロパノール錯体(BFHOC)、三フッ化ホウ素フェノール錯体(BFHOC)等のハロゲン化ホウ素アルコール錯体;三フッ化ホウ素ピペリジニウム錯体、三フッ化ホウ素エチルアミン錯体等のハロゲン化ホウ素アミン錯体;2,4,6−トリメトキシボロキシン等の2,4,6−トリアルコキシボロキシン;ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリ−n−プロピル、ホウ酸トリ−n−ブチル、ホウ酸トリ−n−ペンチル、ホウ酸トリ−n−ヘキシル、ホウ酸トリ−n−ヘプチル、ホウ酸トリ−n−オクチル、ホウ酸トリイソプロピル、ホウ酸トリオクタデシル等のホウ酸トリアルキル;ホウ酸トリフェニル等のホウ酸トリアリール;トリス(トリメチルシリル)ボラート等のトリス(トリアルキルシリル)ボラートが例示できる。
より好ましいものとしては、BF等のハロゲン化ホウ素;BFO(CH、BFO(C、BFO(C、BFO((CHC)、BFO((CHC)(CH)、BFOC等のハロゲン化ホウ素アルキルエーテル錯体;BFHOCH、BFHOC、BFHOC等のハロゲン化ホウ素アルコール錯体が例示できる。
(B)ホウ素化合物は、(A)有機酸のリチウム塩において、リチウムイオンのアニオン部からの解離を促進し、非水溶媒への溶解性を向上させる機能を有していると推測される。
【0024】
(B)ホウ素化合物は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0025】
(B)ホウ素化合物の配合量は適宜調節することができる。例えば、(B)ホウ素化合物の種類や(A)有機酸のリチウム塩の種類に応じて適宜調節すれば良い。通常は、[(B)ホウ素化合物の配合量(モル数)]/[配合された(A)有機酸のリチウム塩中のリチウム原子のモル数]のモル比が0.7以上であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましく、0.9以上であることがさらに好ましい。このような範囲とすることで、各種非水溶媒に対する(A)有機酸のリチウム塩の溶解度が一層向上する。また、前記モル比の上限値は本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、1.5であることが好ましく、1.3であることがより好ましく、1.2であることがさらに好ましい。
【0026】
<その他の成分>
本発明の電解液は、(C)有機リチウム塩又は無機リチウム塩、前記非水溶媒、(A)有機酸のリチウム塩及び(B)ホウ素化合物以外に、本発明の効果を妨げない範囲内において、その他の成分が配合されていても良い。
【0027】
<電解液の製造方法>
本発明の電解液は、(C)有機リチウム塩又は無機リチウム塩、前記非水溶媒、(A)有機酸のリチウム塩及び(B)ホウ素化合物、並びに必要に応じてその他の成分を適宜配合することで、製造できる。各成分の配合時の添加順序、温度、時間等の各条件は、配合成分の種類に応じて任意に調節できる。
【0028】
<<ゲル電解質>>
本発明のゲル電解質は、本発明の電解液に、さらに(D)マトリクスポリマーが配合されてなるものである。(D)マトリクスポリマーは架橋ゲル構造を有するものであってもよい。本発明のゲル電解質は、リチウムイオン二次電池における電解液の代わりに若しくは電解液と併用して使用することができる。本発明のゲル電解質はゲル状であるため、当該リチウムイオン二次電池から当該ゲル電解質が漏れる虞は極めて少ない。
【0029】
<(D)マトリクスポリマー>
本発明のゲル電解質における(D)マトリクスポリマーの種類は特に限定されず、ゲル又は固体電解質分野で公知のものが適宜使用できる。
(D)マトリクスポリマーの好ましいものとして具体的には、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系ポリマー;ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン−六フッ化アセトン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系ポリマー;ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリアクリルアミド、エチレンオキシドユニットを含むポリアクリレート等のポリアクリル系ポリマー;ポリアクリロニトリル;ポリホスファゼン;ポリシロキサンが例示できる。
【0030】
(D)マトリクスポリマーは、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すれば良い。
本発明において、(D)マトリクスポリマーは、ポリエーテル系ポリマー、フッ素系ポリマー、ポリアクリル系ポリマー、ポリアクリロニトリル、ポリホスファゼン及びポリシロキサンからなる群から選択される一種以上であることが好ましく、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−6フッ化プロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン−六フッ化アセトン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリホスファゼン及びポリシロキサンからなる群から選択される一種以上であることがより好ましい。
【0031】
(D)マトリクスポリマーの配合量は特に限定されず、その種類に応じて適宜調節すれば良いが、配合成分の総量に占める(D)マトリクスポリマーの配合量は、2〜50質量%であることが好ましい。下限値以上とすることで、ゲル電解質からなる膜強度を一層向上させることができる。
【0032】
<ゲル電解質の製造方法>
本発明のゲル電解質は、本発明の電解液、マトリクスポリマー、及び必要に応じてその他の成分を適宜配合することで、製造できる。各成分の配合時の添加順序、温度、時間等の各条件は、配合成分の種類に応じて任意に調節できる。
【0033】
<リチウムイオン二次電池>
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記本発明の電解液若しくはゲル電解質を用いて得られたことを特徴とする。
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の電解液若しくはゲル電解質を用いること以外は、従来のリチウムイオン二次電池と同様の構成とすることができ、例えば、負極、正極、セパレータ及び前記電解液を備えて構成される。
【0034】
前記負極の材質は特に限定されないが、金属リチウム、リチウム合金、リチウムを吸蔵及び放出し得る炭素系材料、金属酸化物等が例示でき、これら材質からなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
前記正極の材質は特に限定されないが、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、オリビン型リン酸鉄リチウム、リチウムコバルト・ニッケル・マンガン複合酸化物等の遷移金属酸化物が例示でき、これら材質からなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
【0035】
前記セパレータの材質は特に限定されないが、微多孔性の高分子膜、不織布、ガラスファイバー等が例示でき、これら材質からなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
【0036】
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は、特に限定されず、円筒型、角型、コイン型、シート型、ラミネート型等、種々のものに調節できる。
【0037】
本発明のリチウムイオン二次電池は、公知の方法に従って、例えば、グローブボックス内又は乾燥空気雰囲気下で、前記電解液若しくはゲル電解質及び電極を使用して製造すれば良い。
【実施例】
【0038】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
(1)使用した化学物質
本実施例で使用した化学物質を以下に示す。
・(C)塩素、フッ素若しくはホウ素を含む、有機リチウム塩又は無機リチウム塩
六フッ化リン酸リチウム(LiPF)(キシダ化学社製)
・(A)有機酸のリチウム塩の原料
ギ酸(アルドリッチ社製)
シュウ酸(アルドリッチ社製)
コハク酸(アルドリッチ社製)
水酸化リチウム・一水和物(LiOH・HO)(アルドリッチ社製)
・(B)ホウ素化合物
三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BFO(C)(アルドリッチ社製)
三フッ化ホウ素ジn−ブチルエーテル錯体(BFO(C)(アルドリッチ社製)
三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体(BFOC)(アルドリッチ社製)
・非水溶媒
エチレンカーボネート(以下、ECと略記する)(キシダ化学社製)
ジメチルカーボネート(以下、DMCと略記する)(キシダ化学社製)
エチルメチルカーボネート(以下、EMCと略記する)(キシダ化学社製)
γ−ブチロラクトン(以下、GBLと略記する)(キシダ化学社製)
プロピレンカーボネート(以下、PCと略記する)(キシダ化学社製)
【0040】
(2)(A)有機酸のリチウム塩の調製
(2−1)ギ酸リチウムの調製
ギ酸(20.0g、434.5mmol)を丸底フラスコに量り取り、これを50mLの蒸留水に溶解させた。これにLiOH・HO(17.87g、426.0mmol)を100mLの蒸留水に溶かした溶液をゆっくりと滴下した。室温で24時間撹拌した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶液を濃縮した。濃縮した溶液を200mLのアセトニトリルにゆっくりと滴下し、析出した固体を再度アセトニトリルにて洗浄した後、乾燥させることによって白色粉末のギ酸リチウムを得た。
【0041】
(2−2)シュウ酸リチウムの調製
シュウ酸(10.0g、111mmol)を丸底フラスコに量り取り、これを100mLの蒸留水に溶解させた。これにLiOH・HO(9.23g、220mmol)を100mLの蒸留水に溶かした溶液をゆっくりと滴下した。室温で24時間撹拌した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶液を濃縮した。濃縮した溶液を200mLのアセトニトリルにゆっくりと滴下し、析出した固体を再度アセトニトリルにて洗浄した後、乾燥させることによって白色粉末のシュウ酸リチウムを得た。
【0042】
(2−3)コハク酸リチウムの調製
コハク酸(10.0g、84.7mmol)を丸底フラスコに量り取り、これを50mLの蒸留水に溶解させた。これにLiOH・HO(7.27g、169.8mmol)を100mLの蒸留水に溶かした溶液をゆっくりと滴下した。室温で24時間撹拌した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶液を濃縮した。濃縮した溶液を200mLのアセトニトリルにゆっくりと滴下し、析出した固体を再度アセトニトリルにて洗浄した後、乾燥させることによって白色粉末のコハク酸リチウムを得た。
【0043】
(3)電解液及びセルの製造
以下に示す実施例及び比較例における操作は、すべてドライボックス内で行った。
【0044】
[実施例1]
<電解液の製造>
(C)成分としてLiPF(0.807g、5.31mmol)及び非水溶媒としてGBLをサンプル瓶に量り取り、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgとなるように混合することにより電解液(1a)を得た。また、(A)成分として上記(2−2)で得られたシュウ酸リチウム(0.284g、2.79mmol)、(B)成分としてBFO(C(0.792g、5.58mmol)及び非水溶媒としてGBLをサンプル瓶に量り取り、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgとなるように混合することにより電解液(2a)を得た。
上記で得られた電解液(1a)90重量部に対し、電解液(2a)を10重量部加えることにより、本実施例にて用いた電解液を得た。
【0045】
<コイン型セルの製造>
負極(宝泉株式会社製)及び正極(宝泉株式会社製)を直径16mmの円盤状に打ち抜いた。また、セパレータとしてガラスファイバーを直径17mmの円盤状に打ち抜いた。得られた正極、セパレータ及び負極をこの順にSUS製の電池容器(CR2032)内で積層し、上記で得られた電解液をセパレータ、負極及び正極に含浸させ、さらに負極上に、SUS製の板(厚さ1.2mm、直径16mm)を載せ、蓋をすることによりコイン型セルを製造した。
【0046】
[実施例2]
非水溶媒として、GBLに代えてPCを使用して、電解液(1a)及び電解液(2a)を製造したこと以外は、実施例1と同様の方法で電解液の製造ならびにコイン型セルを製造した。
【0047】
[実施例3]
非水溶媒として、GBLに代えてEC及びGBLの混合溶媒(EC:GBL=30:70(体積比))を使用して、電解液(1a)及び電解液(2a)を製造したこと以外は、実施例1と同様の方法で電解液の製造ならびにコイン型セルを製造した。
【0048】
[実施例4]
非水溶媒として、GBLに代えてEMC及びGBLの混合溶媒(EMC:GBL=50:50(体積比))を使用して、電解液(1a)及び電解液(2a)を製造したこと以外は、実施例1と同様の方法で電解液の製造ならびにコイン型セルを製造した。
【0049】
[実施例5]
実施例3で得られた電解液(1a)99重量部に対し、実施例3で得られた電解液(2a)を1重量部加えることにより電解液を製造したこと以外は、実施例3と同様の方法で電解液の製造ならびにコイン型セルを製造した。
[実施例6]
実施例3で得られた電解液(1a)95重量部に対し、実施例3で得られた電解液(2a)を5重量部加えることにより電解液を製造したこと以外は、実施例3と同様の方法で電解液の製造ならびにコイン型セルを製造した。
[実施例7]
実施例3で得られた電解液(1a)80重量部に対し、実施例3で得られた電解液(2a)を20重量部加えることにより電解液を製造したこと以外は、実施例3と同様の方法で電解液の製造ならびにコイン型セルを製造した。
[実施例8]
実施例3で得られた電解液(1a)50重量部に対し、実施例3で得られた電解液(2a)を50重量部加えることにより電解液を製造したこと以外は、実施例3と同様の方法で電解液の製造ならびにコイン型セルを製造した。
[実施例9]
<電解液の製造>
(C)成分としてLiPF(0.807g、5.31mmol)及び非水溶媒としてEMC及びGBLの混合溶媒(EMC:GBL=50:50(体積比))をサンプル瓶に量り取り、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgとなるように混合することにより電解液(1a)を得た。また、(A)成分として上記(2−2)にて得られたシュウ酸リチウム(0.183g、1.80mmol)、(B)成分としてBFO(C(0.712g、3.60mmol)並びに非水溶媒としてEMC及びGBLの混合溶媒(EMC:GBL=50:50(体積比))をサンプル瓶に量り取り、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgとなるように混合することにより電解液(2a)を得た。
上記で得られた電解液(1a)90重量部に対し、電解液(2a)を10重量部加えることにより、本実施例にて用いた電解液を得た。
【0050】
<コイン型セルの製造>
負極(宝泉株式会社製)及び正極(宝泉株式会社製)を直径16mmの円盤状に打ち抜いた。また、セパレータとしてガラスファイバーを直径17mmの円盤状に打ち抜いた。得られた正極、セパレータ及び負極をこの順にSUS製の電池容器(CR2032)内で積層し、上記で得られた電解液をセパレータ、負極及び正極に含浸させ、さらに負極上に、SUS製の板(厚さ1.2mm、直径16mm)を載せ、蓋をすることによりコイン型セルを製造した。
【0051】
[実施例10]
<電解液の製造>
(C)成分としてLiPF(0.807g、5.31mmol)及び非水溶媒としてEMC及びGBLの混合溶媒(EMC:GBL=50:50(体積比))をサンプル瓶に量り取り、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgとなるように混合することにより電解液(1a)を得た。また、(A)成分として上記(2−2)にて得られたシュウ酸リチウム(0.170g、1.67mmol)、(B)成分としてBFOC(0.467g、3.34mmol)に、非水溶媒としてEMC及びGBLの混合溶媒(EMC:GBL=50:50(体積比))をサンプル瓶に量り取り、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgとなるように混合することにより電解液(2a)を得た。
上記で得られた電解液(1a)90重量部に対し、電解液(2a)を10重量部加えることにより、本実施例にて用いた電解液を得た。
【0052】
<コイン型セルの製造>
負極(宝泉株式会社製)及び正極(宝泉株式会社製)を直径16mmの円盤状に打ち抜いた。また、セパレータとしてガラスファイバーを直径17mmの円盤状に打ち抜いた。得られた正極、セパレータ及び負極をこの順にSUS製の電池容器(CR2032)内で積層し、上記で得られた電解液をセパレータ、負極及び正極に含浸させ、さらに負極上に、SUS製の板(厚さ1.2mm、直径16mm)を載せ、蓋をすることによりコイン型セルを製造した。
【0053】
[実施例11]
<電解液の製造>
(C)成分としてLiPF(0.807g、5.31mmol)及び非水溶媒としてEMC及びGBLの混合溶媒(EMC:GBL=50:50(体積比))をサンプル瓶に量り取り、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgとなるように混合することにより電解液(1a)を得た。また、(A)成分として上記(2−1)にて得られたギ酸リチウム(0.174g、3.35mmol)、(B)成分としてBFO(C(0.475g、3.35mmol)並びに非水溶媒としてEMC及びGBLの混合溶媒(EMC:GBL=50:50(体積比))をサンプル瓶に量り取り、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgとなるように混合することにより電解液(2a)を得た。
上記で得られた電解液(1a)90重量部に対し、電解液(2a)を10重量部加えることにより、本実施例にて用いた電解液を得た。
【0054】
<コイン型セルの製造>
負極(宝泉株式会社製)及び正極(宝泉株式会社製)を直径16mmの円盤状に打ち抜いた。また、セパレータとしてガラスファイバーを直径17mmの円盤状に打ち抜いた。得られた正極、セパレータ及び負極をこの順にSUS製の電池容器(CR2032)内で積層し、上記で得られた電解液をセパレータ、負極及び正極に含浸させ、さらに負極上に、SUS製の板(厚さ1.2mm、直径16mm)を載せ、蓋をすることによりコイン型セルを製造した。
【0055】
[実施例12]
<電解液の製造>
(C)成分としてLiPF(0.807g、5.31mmol)及び非水溶媒としてEMC及びGBLの混合溶媒(EMC:GBL=50:50(体積比))をサンプル瓶に量り取り、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgとなるように混合することにより電解液(1a)を得た。また、(A)成分として上記(2−3)にて得られたコハク酸リチウム(0.221g、1.70mmol)、(B)成分としてBFO(C(0.483g、3.41mmol)並びに非水溶媒としてEMC及びGBLの混合溶媒(EMC:GBL=50:50(体積比))をサンプル瓶に量り取り、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgとなるように混合することにより電解液(2a)を得た。
上記で得られた電解液(1a)90重量部に対し、電解液(2a)を10重量部加えることにより、本実施例にて用いた電解液を得た。
【0056】
<コイン型セルの製造>
負極(宝泉株式会社製)及び正極(宝泉株式会社製)を直径16mmの円盤状に打ち抜いた。また、セパレータとしてガラスファイバーを直径17mmの円盤状に打ち抜いた。得られた正極、セパレータ及び負極をこの順にSUS製の電池容器(CR2032)内で積層し、上記で得られた電解液をセパレータ、負極及び正極に含浸させ、さらに負極上に、SUS製の板(厚さ1.2mm、直径16mm)を載せ、蓋をすることによりコイン型セルを製造した。
【0057】
[比較例1]
実施例1で得られた電解液(1a)のみを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で電解液の製造ならびにコイン型セルを製造した。
[比較例2]
実施例2で得られた電解液(1a)のみを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で電解液の製造ならびにコイン型セルを製造した。
[比較例3]
実施例3で得られた電解液(1a)のみを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で電解液の製造ならびにコイン型セルを製造した。
[比較例4]
比較例1で使用した電解液(1a)において、非水溶媒として、GBLに代えてEC及びPCの混合溶媒(EC:PC=30:70(体積比))を使用したこと以外は、比較例1と同様の方法で電解液の製造ならびにコイン型セルを製造した。
[比較例5]
実施例4で得られた電解液(1a)のみを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で電解液の製造ならびにコイン型セルを製造した。
[比較例6]
比較例1で使用した電解液(1a)において、非水溶媒として、GBLに代えてEMC及びPCの混合溶媒(EMC:PC=50:50(体積比))を使用したこと以外は、比較例1と同様の方法で電解液の製造ならびにコイン型セルを製造した。
【0058】
(4)電池性能の評価
実施例1〜12及び比較例1〜6のコイン型セルについて、25℃において0.2Cの定電流定電圧充電を、上限電圧4.2Vとして電流値が0.1Cに収束するまで行った後、0.2Cの定電流放電を2.7Vまで行った。その後、充放電電流を1Cとして同様の方法で、充放電サイクルを数回〜数十回程度繰り返し行い電池の状態を安定化させた。その後、充放電電流を1Cとして同様の方法で、充放電サイクルを繰り返し行い、100サイクルでの容量維持率(100サイクル目の放電容量(mAh)/1サイクル目の放電容量(mAh))×100を算出した。なお、100サイクルの充放電試験が不可能だった場合においては、容量維持率が80%になったときのサイクル数(表記「80%(サイクル数)」)、ならびに50%になったときのサイクル数(表記「50%(サイクル数)」)を示した。なお5サイクル以内に容量が半分以下に低下したものは「充放電不可」と判断した。結果を表2に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
実施例1〜4の結果から明らかなように、(C)成分としてLiPFを用いた電解液において、(A)成分のシュウ酸リチウムと(B)成分のBFO(Cとを組み合わせて添加することにより、非水溶媒として、プロピレンカーボネートなどの分岐鎖を有する環状炭酸エステル類や、γ−ブチロラクトンなどのラクトン類を溶媒として含んでいても、十分な充放電特性(サイクル寿命特性)を示した。
また、実施例5〜8の結果から明らかなように、シュウ酸リチウムとBFO(Cの添加量を様々に変えた場合でも、実施例1〜4と同様の結果が得られた。
また、実施例9〜10の結果から明らかなように、(B)成分として異なる構造のホウ素化合物を配合した場合でも、実施例1〜8と同様の結果が得られた。
また、実施例11〜12の結果から明らかなように、(A)成分として異なる構造の有機酸リチウムを配合した場合でも、実施例1〜10と同様の結果が得られた。
一方、比較例1〜6の結果から明らかなように、リチウム塩としてLiPFだけを用いた場合においては、プロピレンカーボネート等の分岐鎖を有する環状炭酸エステル類やγ−ブチロラクトン等のラクトン類が溶媒に含まれていると、様々の非水溶媒の組み合わせにおいても、良好な充放電挙動を示さなかった。この原因は、当該電解液が(A)成分及び(B)成分を含有していないことにある。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、電気デバイスの分野で利用可能である。例えばキャパシタ、リチウムイオン二次電池の分野で利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(C)塩素、フッ素若しくはホウ素を含む、有機リチウム塩又は無機リチウム塩、前記有機リチウム塩に該当しない(A)有機酸のリチウム塩及び(B)ホウ素化合物が、ラクトン類及び/又は分岐鎖を有する環状カーボネート類を含む非水溶媒に配合されてなることを特徴とする電解液。
【請求項2】
前記(A)有機酸のリチウム塩が、炭素数1〜6の脂肪族カルボン酸及び炭素数7〜8の芳香族カルボン酸のリチウム塩からなる群から選択される1種以上含むことを特徴とする請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
前記(A)有機酸のリチウム塩が、ギ酸リチウム、酢酸リチウム、プロピオン酸リチウム、酪酸リチウム、イソ酪酸リチウム、シュウ酸リチウム、マロン酸リチウム、コハク酸リチウム、グルタル酸リチウム、アジピン酸リチウム、マレイン酸リチウム、フマル酸リチウム、フタル酸リチウム及び安息香酸リチウムからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電解液。
【請求項4】
前記(C)塩素、フッ素若しくはホウ素を含む、有機リチウム塩又はの無機リチウム塩の配合量:前記(A)有機酸のリチウム塩の配合量が99:1〜50:50(モル比)であることを特徴とする請求項1〜3に記載の電解液。
【請求項5】
前記(B)ホウ素化合物が、ハロゲン化ホウ素及び/又はハロゲン化ホウ素錯体であることを特徴とする請求項1〜4いずれか一項に記載の電解液。
【請求項6】
前記(B)ホウ素化合物が、三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体であることを特徴とする請求項1〜5いずれか一項に記載の電解液。
【請求項7】
前記(B)ホウ素化合物が、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジn−ブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジtert−ブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素tert−ブチルメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体、三フッ化ホウ素メタノール錯体、三フッ化ホウ素プロパノール錯体、及び三フッ化ホウ素フェノール錯体からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の電解液。
【請求項8】
前記(C)塩素、フッ素若しくはホウ素を含む有機リチウム塩又は無機リチウム塩が、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ素リチウム、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドリチウム、三フッ化メタンスルホン酸リチウム、六フッ化アンチモン酸リチウム、六フッ化ヒ素酸リチウム、及びテトラフェニルホウ酸リチウムからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の電解液。
【請求項9】
前記分岐鎖を有する環状カーボネート類が、プロピレンカーボネート又はブチレンカーボネートであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の電解液。
【請求項10】
前記ラクトン類がγ−ブチロラクトン又はγ−バレロラクトンであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の電解液。
【請求項11】
さらに、分岐鎖を有さない環状カーボネート、鎖状カーボネート、エーテル類、カルボン酸エステル類、ニトリル類、アミド類及びスルホン類からなる群から選択される1種以上が配合されてなることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の電解液。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の電解液に、さらに(D)マトリクスポリマーが配合されてなることを特徴とするゲル電解質。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の電解液又は請求項12に記載のゲル電解質を用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。

【公開番号】特開2012−252799(P2012−252799A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122452(P2011−122452)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】