説明

電解液および電池

【課題】初期効率および高温保存特性を向上させることができる電解液およびそれを用いた電池を提供する。
【解決手段】正極21と負極22とがセパレータ23および電解質層24を介して積層されている。電解質層24は、電解液と高分子化合物とを含み、ゲル状となっている。電解液は、炭酸エチレンと炭酸プロピレンと炭酸ビニレンとトリフェニルフォスフェートとを含んでいる。これにより、初期効率および高温保存特性が改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、添加剤を含む電解液およびそれを用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話,PDA(Personal Digital Assistant;個人用携帯型情報端末機器)あるいはノート型コンピュータに代表される携帯型電子機器の小型化、軽量化が精力的に進められ、その一環として、それらの駆動電源である電池、特に二次電池のエネルギー密度の向上が強く望まれている。高エネルギー密度を得ることができる二次電池としては、負極に炭素材料などのリチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能な材料を用いたリチウムイオン二次電池が商品化され、市場が拡大している。
【0003】
また、高エネルギー密度を得ることができる二次電池としては、負極にリチウム金属を用い、負極反応にリチウム金属の析出および溶解反応のみを利用したリチウム金属二次電池がある。リチウム金属二次電池は、リチウム金属の理論電気化学当量が2054mAh/cm3 と大きく、リチウムイオン二次電池で用いられる黒鉛の2.5倍にも相当するので、リチウムイオン二次電池を上回る高いエネルギー密度を得られるものと期待されている。これまでも、多くの研究者等によりリチウム金属二次電池の実用化に関する研究開発がなされている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
更に、最近では負極の容量がリチウムの吸蔵および放出による容量成分と、リチウムの析出および溶解による容量成分とを含み、かつその和により表される二次電池が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。これは、負極にリチウムを吸蔵および放出することが可能な炭素材料を用い、充電の途中においてその炭素材料の表面にリチウムを析出させるようにしたものである。この二次電池によれば、リチウム金属二次電池と同様に高エネルギー密度を達成させることが期待できる。
【0005】
これらの二次電池では、溶媒として炭酸エチレンおよび炭酸プロピレンが用いられる。しかし、炭酸プロピレンは、初回充電の際に、負極において分解しやすいので、ガスが発生してしまうと共に、初期効率が低下してしまう。そこで、炭酸ビニレンを混合することにより、炭酸プロピレンの分解反応を抑制することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【非特許文献1】ジャンポール・ガバノ(Jean-Paul Gabano)編,「リチウム・バッテリーズ(Lithium Batteries )」,ロンドン,ニューヨーク,アカデミック・プレス(Academic Press),1983年
【特許文献1】国際公開第01/22519号パンフレット
【特許文献2】特開2001−167797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、炭酸ビニレンあるいは炭酸エチレンは、正極側(酸化側)での安定性が十分ではなく、高温環境下において満充電状態で保存すると分解されてしまい、フィルム状の外装部材を用いた場合には、膨れてしまうという問題があった。特に、炭酸ビニレンについては、混合量が少なくても、膨れに対する影響が大きいという問題があった。
【0007】
ところで、最近では、更なる高エネルギー密度化を図るために、上限充電電圧を高くすることにより、すなわち、充電時の正極電位を高くすることにより、正極の利用率を向上させることが提案されており、この場合には、炭酸ビニレンは更に分解され易くなってしまうという問題がある。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、初期効率および高温保存特性を向上させることができる電解液およびそれを用いた電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による電解液は、炭酸エチレンと、炭酸プロピレンと、炭酸ビニレンと、トリフェニルフォスフェートとを含むものである。
【0010】
本発明による電池は、正極および負極と共に電解液を備えたものであって、電解液は、炭酸エチレンと、炭酸プロピレンと、炭酸ビニレンと、トリフェニルフォスフェートとを含むものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電解液および電池によれば、炭酸エチレンと、炭酸プロピレンと、炭酸ビニレンと、トリフェニルフォスフェートとを含むようにしたので、初期効率の低下を抑制しつつ、高温保存特性を向上させることができる。特に、フィルム状の外装部材を用いた場合には、膨れを抑制することができるので効果的である。
【0012】
また、電解液におけるトリフェニルフォスフェートの含有量を0.5質量%以上10質量%以下とするようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【0013】
更に、完全充電状態における正極の電位を4.35V以上6.05V以下の範囲内とした場合には、より高い効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施の形態に係る二次電池の一構成例を分解して表すものである。この二次電池は、電極反応物質としてリチウムを用い、負極の容量が、リチウムの吸蔵および放出による容量成分により表されるいわゆるリチウムイオン二次電池である。この二次電池は、正極リード11および負極リード12が取り付けられた巻回電極体20をフィルム状の外装部材31の内部に収納した構成を有している。
【0016】
正極リード11および負極リード12は、それぞれ例えば短冊状であり、外装部材31の内部から外部に向かい例えば同一方向にそれぞれ導出されている。正極リード11は、例えばアルミニウム(Al)などの金属材料により構成されており、負極リード12は、例えばニッケル(Ni)などの金属材料により構成されている。
【0017】
外装部材31は、例えば、ナイロンフィルム,アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムをこの順に張り合わせた矩形状のラミネートフィルムにより構成されている。外装部材31は、例えば、ポリエチレンフィルム側と巻回電極体20とが対向するように配設れており、各外縁部が融着あるいは接着剤により互いに密着されている。
【0018】
外装部材31と正極リード11および負極リード12との間には、正極リード11および負極リード12と、外装部材31の内側との密着性を向上させ、外気の侵入を防止するための密着フィルム32が挿入されている。密着フィルム32は、正極リード11および負極リード12に対して密着性を有する材料により構成され、例えば、正極リード11および負極リード12が上述した金属材料により構成される場合には、ポリエチレン,ポリプロピレン,変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂により構成されることが好ましい。
【0019】
図2は、図1に示した巻回電極体20のII−II線に沿った断面構造を表すものである。巻回電極体20は、一対の正極21と負極22とをセパレータ23および電解質層24を介して積層し、巻回したものであり、最外周部は保護テープ25により保護されている。
【0020】
正極21は、例えば、正極集電体21Aと、この正極集電体21Aの両面あるいは片面に設けられた正極活物質層21Bとを有している。正極集電体21Aには、例えば長手方向における一方の端部に正極活物質層21Bが設けらず露出している部分があり、この露出部分に正極リード11が取り付けられている。正極集電体21Aは、例えば、アルミニウムなどの金属材料により構成されている。
【0021】
正極活物質層21Bは、例えば、正極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種または2種以上を含んで構成されている。リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、リチウム酸化物,リチウムリン酸化物,リチウム硫化物あるいはリチウムを含む層間化合物などのリチウム含有化合物が適当であり、2種以上を混合して用いてもよい。特に、エネルギー密度を高くするには、一般式Lix MIO2 あるいはLiy MIIPO4 で表されるリチウム複合酸化物あるいはリチウムリン酸化物が好ましい。なお、式中、MIおよびMIIは1種類以上の遷移金属を表し、例えば、コバルト(Co),ニッケル,マンガン(Mn),鉄(Fe),アルミニウム,バナジウム(V),チタン(Ti)およびジルコニウム(Zr)のうちの少なくとも1種が好ましい。xおよびyの値は電池の充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10の範囲内の値である。Lix MIO2 で表されるリチウム複合酸化物の具体例としては、LiCoO2 ,LiNiO2 ,LiNi0.5 Co0.5 2 ,LiNi0.5 Co0.2 Mn0.3 2 、あるいはスピネル型結晶構造を有するLiMn2 4 などが挙げられる。また、Liy MIIPO4 で表されるリチウムリン酸化物の具体例としては、LiFePO4 ,LiFe0.5 Mn0.5 PO4 などが挙げられる。
【0022】
正極活物質層21Bは、また、例えば導電剤を含んでおり、必要に応じて更に結着剤を含んでいてもよい。導電剤としては、例えば、黒鉛,カーボンブラックあるいはケッチェンブラックなどの炭素材料が挙げられ、1種または2種以上が混合して用いられる。また、炭素材料の他にも、導電性を有する材料であれば金属材料あるいは導電性高分子材料などを用いるようにしてもよい。結着剤としては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム,フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエンゴムなどの合成ゴム、またはポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料が挙げられ、1種または2種以上が混合して用いられる。
【0023】
負極22は、例えば、負極集電体22Aと、この負極集電体22Aの両面あるいは片面に設けられた負極活物質層22Bとを有している。負極集電体22Aには、例えば長手方向における一方の端部に負極活物質層22Bが設けられず露出している部分があり、この露出部分に負極リード12が取り付けられている。負極集電体22Aは、例えば、銅(Cu)などの金属材料により構成されている。
【0024】
負極活物質層22Bは、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種または2種以上を含んで構成されており、必要に応じて、例えば正極活物質層21Bと同様の結着剤を含んでいてもよい。
【0025】
なお、この二次電池では、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電容量が、正極21の充電容量よりも大きくなっており、充電の途中において負極22にリチウム金属が析出しないようになっている。
【0026】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、炭素材料が挙げられる。具体的に例を挙げれば、難黒鉛化性炭素,人造黒鉛,天然黒鉛,熱分解炭素類,コークス類,グラファイト類,ガラス状炭素類,有機高分子化合物焼成体,繊維状炭素,活性炭あるいはカーボンブラックなどがある。このうち、コークス類には、ピッチコークス,ニードルコークスあるいは石油コークスなどがある。有機高分子化合物焼成体というのは、フェノール樹脂やフラン樹脂等の高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、これらの炭素材料に加えて、他の負極材料の1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0027】
セパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン,ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂製の多孔質膜、またはセラミック製の多孔質膜により構成されており、これら2種以上の多孔質膜を積層した構造とされていてもよい。中でも、ポリオレフィン製の多孔質膜はショート防止効果に優れ、かつシャットダウン効果による電池の安全性向上を図ることができるので好ましい。特に、ポリエチレンは、100℃以上160℃以下の範囲内においてシャットダウン効果を得ることができ、かつ電気化学的安定性にも優れているので、セパレータ23を構成する材料として好ましい。また、ポリプロピレンも好ましく、他にも化学的安定性を備えた樹脂であればポリエチレンあるいはポリプロピレンと共重合させたり、またはブレンド化することで用いることができる。
【0028】
電解質層24は、例えば、電解液と、この電解液を保持する高分子化合物とを含み、いわゆるゲル状となった電解質により構成されている。電解液は、例えば、非水溶媒などの溶媒と、この溶媒に溶解された電解質塩とを含有している。
【0029】
溶媒は、炭酸エチレンと炭酸プロピレンとを含んでいる。炭酸エチレンは、初回充電時に還元されて負極22に被膜を形成することにより、初回効率を向上させることができるが、酸化分解され易く、一方、炭酸プロピレンは、酸化分解され難いが、負極22においてガスの発生を伴う還元分解反応が進行してしまい、初回効率を低下させてしまう。よって、双方の欠点を補うためにこれらを混合して用いる。
【0030】
溶媒としては、また、炭酸ビニレンを含んでいる。炭酸プロピレンと炭酸エチレンとは還元電位が近く、炭酸プロピレンの分解反応を抑制するには、多量の炭酸エチレンを混合することが必要になるが、炭酸ビニレンは、炭酸プロピレンの還元電位よりも十分に高い電位で還元されるので、少量でも炭酸プロピレンの分解反応を抑制することができ、初回効率を向上させることができるからである。但し、炭酸ビニレンは、炭酸エチレンよりも酸化され易い。
【0031】
炭酸ビニレンの含有量は、溶媒において、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。少ないと炭酸プロピレンの分解反応を抑制する効果が十分ではなく、多いと内部抵抗が上昇してしまうからである。
【0032】
溶媒としては、これらに加えて、他の溶媒を混合して用いてもよい。他の溶媒としては、炭酸ブチレン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルフォルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、ジメチルスルフォキシド、燐酸トリメチルなどが挙げられる。他の溶媒には、1種を単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0033】
電解質塩としては、例えば、LiAsF6 ,LiPF6 ,LiBF4 ,LiClO4 ,LiB(C6 5 4 ,LiCH3 SO3 ,LiCF3 SO3 ,LiN(CF3 SO2 2 ,LiN(C2 5 SO2 2 ,LiC(CF3 SO2 3 ,LiAlCl4 ,LiSi2 6 ,LiClあるいはLiBrなどのリチウム塩が挙げられ、いずれか1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.5mol/kg以上3.0mol/kg以下の範囲内であることが好ましい。この範囲外ではイオン伝導度の極端な低下により十分な電池特性が得られなくなる虞があるからである。
【0035】
電解液は、更に、トリフェニルフォスフェート(PO(OC6 5 3 )を含んでいる。高温環境下において充電状態で保存すると、炭酸ビニレンは酸化分解され易くなるが、トリフェニルフォスフェートを含むことにより、炭酸ビニレンの分解により生じた高活性なラジカルを捕捉することができると考えられ、電池の膨れを抑制し、高温保存特性を向上させることができるからである。
【0036】
トリフェニルフォスフェートの含有量は、電解液において、0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましい。少ないと、高温保存特性を向上させる効果が十分ではなく、多くても初期効率が低下してしまうからである。
【0037】
高分子化合物は、溶媒を吸収してゲル化するものであればよく、例えば、ポリフッ化ビニリデンあるいはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体などのフッ素系高分子化合物、ポリエチレンオキサイドあるいはポリエチレンオキサイドを含む架橋体などのエーテル系高分子化合物、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレートあるいはポリメタクリレートを繰返し単位として含むものなどが挙げられる。特に、酸化還元安定性の点からは、フッ素系高分子化合物が望ましい。高分子化合物には、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
なお、この二次電池の完全充電時における開回路電圧(すなわち電池電圧)は4.20Vでもよいが、4.20Vよりも高く4.30V以上6.00V以下の範囲内になるように設計されていることが好ましい。すなわち、この二次電池では、負極22の対リチウム金属電位が0.05Vとなっているので、完全充電時における正極21の電位が4.35V以上6.05V以下の範囲内となるように設計されていることが好ましい。電池電圧を高くすることによりエネルギー密度を大きくすることができると共に、本実施の形態によれば、上述した電解液を用いているので、電池電圧を高くしても、優れた初期効率および高温保存特性を得ることができるからである。その場合、電池電圧を4.20Vとする場合よりも、同じ正極材料でも単位質量当たりのリチウムの放出量が多くなるので、それに応じて正極材料と負極材料との量が調整される。
【0039】
この二次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0040】
まず、例えば、正極材料と結着剤と必要に応じて導電剤とを混合して正極合剤を調製し、N−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させることにより正極合剤スラリーを作製する。次いで、この正極合剤スラリーを正極集電体21Aの両面あるいは片面に塗布し乾燥させ、圧縮成型して正極活物質層21Bを形成し、正極21を作製する。続いて、例えば、正極集電体21Aに正極リード11を、例えば超音波溶接あるいはスポット溶接により接合する。そののち、電解液と高分子化合物とを用意し、高分子化合物に電解液を保持させ、正極活物質層21Bの上、すなわち正極21の両面あるいは片面に電解質層24を形成する。
【0041】
また、例えば、負極材料と結着剤とを混合して負極合剤を調製し、N−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させることにより負極合剤スラリーを作製する。次いで、この負極合剤スラリーを負極集電体22Aの両面あるいは片面に塗布し乾燥させ、圧縮成型して負極活物質層22Bを形成し、負極22を作製する。続いて、負極集電体22Aに負極リード12を、例えば超音波溶接あるいはスポット溶接により接合すると共に、負極活物質層22Bの上、すなわち負極22の両面あるいは片面に、正極21と同様にして電解質層24を形成する。
【0042】
そののち、電解質層24が形成された正極21と負極22とをセパレータ23を介して積層して巻回し、最外周部に保護テープ25を接着して巻回電極体20を形成する。最後に、例えば、外装部材31に巻回電極体20を挟み込み、外装部材31の外縁部同士を熱融着などにより密着させて封入する。その際、正極リード11および負極リード12と外装部材31との間には密着フィルム32を挿入する。これにより、図1および図2に示した二次電池が完成する。
【0043】
また、上述の二次電池は次のように作製してもよい。まず、上述したようにして正極21および負極22を作製し、正極21および負極22に正極リード11および負極リード12を取り付けたのち、正極21と負極22とをセパレータ23を介して積層して巻回し、最外周部に保護テープ25を接着して、巻回電極体20の前駆体である巻回体を形成する。次いで、この巻回体を外装部材31で挟み、一辺を除く外周縁部を熱融着して袋状とし、外装部材31の内部に収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、必要に応じて重合開始剤および重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を用意し、外装部材31の内部に注入する。
【0044】
電解質用組成物を注入したのち、外装部材31の開口部を真空雰囲気下で熱融着して密閉する。次いで、必要に応じて熱を加えて、モノマーを重合させて高分子化合物とすることによりゲル状の電解質層24を形成し、図1および図2に示した二次電池を組み立てる。
【0045】
この二次電池では、充電を行うと、正極活物質層21Bからリチウムイオンが放出され、電解質層24を介して、負極活物質層22Bに吸蔵される。次いで、放電を行うと、負極活物質層22Bからリチウムイオンが放出され、電解質層24を介して正極活物質層21Bに吸蔵される。本実施の形態では、電解液に炭酸エチレンと炭酸ビニレンとが含まれているので、炭酸プロピレンの分解が抑制され、初期効率が改善される。また、トリフェニルフォスフェートが含まれているので、高温環境下において充電状態で保存しても、炭酸ビニレンの分解によるガス発生が抑制され、高温保存特性が改善される。
【0046】
このように本実施の形態に係る二次電池によれば、電解液に、炭酸エチレンと、炭酸プロピレンと、炭酸ビニレンと、トリフェニルフォスフェートとを含むようにしたので、初期効率の低下を抑制しつつ、高温保存特性を向上させることができる。また、フィルム状の外装部材を用いているので、膨れを抑制することができる。
【0047】
更にまた、電解液におけるトリフェニルフォスフェートの含有量を0.5質量%以上10質量%以下とするようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【0048】
加えて、完全充電状態における正極21の電位を4.35V以上6.05V以下の範囲内とした場合には、より高い効果を得ることができる。
【0049】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係る二次電池は、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出による容量成分と、リチウムの析出および溶解による容量成分とを含み、かつその和により表されるものである。
【0050】
この二次電池は、負極活物質層の構成が異なることを除き、他は第1の実施の形態に係る二次電池と同様の構成を有しており、同様にして製造することができる。よって、ここでは、図1および図2を参照し、同一の符号を用いて説明する。なお、同一部分についての詳細な説明は省略する。
【0051】
負極活物質層22Bは、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電容量が正極21の充電容量よりも小さくなるように調節されている。これにより、この二次電池では、充電の過程において、開回路電圧が過充電電圧よりも低い時点で負極22にリチウム金属が析出し始めるようになっており、負極22の容量は、リチウムの吸蔵および放出による容量成分と、リチウムの析出および溶解による容量成分とを含み、かつその和により表される。従って、この二次電池では、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料とリチウム金属との両方が負極活物質として機能し、負極活物質層22Bに含まれるリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料はリチウム金属が析出する際の基材となっている。
【0052】
なお、過充電電圧というのは、電池が過充電状態になった時の開回路電圧を指し、例えば、日本蓄電池工業会(電池工業会)の定めた指針の一つである「リチウム二次電池安全性評価基準ガイドライン」(SBA G1101)に記載され定義される「完全充電」された電池の開回路電圧よりも高い電圧を指す。また換言すれば、各電池の公称容量を求める際に用いた充電方法、標準充電方法、もしくは推奨充電方法を用いて充電した後の開回路電圧よりも高い電圧を指す。
【0053】
これにより、この二次電池では、高いエネルギー密度を得ることができると共に、サイクル特性および急速充電特性を向上させることができるようになっている。この二次電池は、負極22にリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料を用いるという点では従来のリチウムイオン二次電池と同様であり、また、負極22にリチウム金属を析出させるという点では従来のリチウム金属二次電池と同様である。
【0054】
また、この二次電池では、完全充電時における開回路電圧(すなわち電池電圧)は、4.20Vでもよいが、4.20Vよりも高く4.35V以上6.05V以下の範囲内になるように設計されていることが好ましい。すなわち、この二次電池では、充電の過程において、負極22にリチウムが析出するようになっており、負極22の対リチウム金属電位が0Vまで低下するようになっているので、完全充電時における正極21の電位が4.35V以上6.05V以下の範囲内となるように設計されていることが好ましい。電池電圧を高くすることによりエネルギー密度を大きくすることができると共に、本実施の形態によれば、上述した電解液を用いているので、電池電圧を高くしても、優れた初期効率および高温保存特性を得ることができるからである。その場合、電池電圧を4.20Vとする場合よりも、同じ正極材料でも単位質量当たりのリチウムの放出量が多くなるので、それに応じて正極材料と負極材料との量が調整される。
【0055】
この二次電池では、充電を行うと、正極21からリチウムイオンが放出され、電解質層24を介して、まず、負極22に含まれるリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料に吸蔵される。更に充電を続けると、開回路電圧が過充電電圧よりも低い状態において、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料の表面にリチウム金属が析出し始める。そののち、充電を終了するまで負極22にはリチウム金属が析出し続ける。次いで、放電を行うと、まず、負極22に析出したリチウム金属がイオンとなって溶出し、電解質層24を介して、正極21に吸蔵される。更に放電を続けると、負極22中のリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料に吸蔵されたリチウムイオンが放出され、電解質層24を介して正極21に吸蔵される。本実施の形態では、電解液に炭酸エチレンと炭酸ビニレンとが含まれているので、炭酸プロピレンの分解が抑制され、初期効率が改善される。また、トリフェニルフォスフェートが含まれているので、高温環境下において充電状態で保存しても、炭酸ビニレンの分解によるガス発生が抑制され、高温保存特性が改善される。
【0056】
このように本実施の形態に係る二次電池においても、電解液に、炭酸エチレンと、炭酸プロピレンと、炭酸ビニレンと、トリフェニルフォスフェートとを含むようにしたので、第1の実施の形態に係る二次電池と同様に、初期効率の低下を抑制しつつ、高温保存特性を向上させることができる。
【実施例】
【0057】
更に、本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。
【0058】
(実施例1−1)
負極の容量が、リチウムの吸蔵および放出による容量成分により表されるいわゆるリチウムイオン二次電池を作製した。その際、電池は図1,2に示したものとした。まず、正極材料としてコバルト酸リチウム(LiCoO2 )と、導電剤としてグラファイトと、結着剤としてポリフッ化ビニリデンとを混合して正極合剤を調製した。次いで、この正極合剤を溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させて正極合剤スラリーとしたのち、アルミニウム箔よりなる正極集電体21Aに均一に塗布して乾燥させ、ロールプレス機で圧縮成型して正極活物質層22Bを形成し、正極22を作製した。そののち、正極集電体21Aの一端にアルミニウム製の正極リード11を取り付けた。
【0059】
また、負極材料として人造黒鉛と、結着剤としてポリフッ化ビニリデンとを混合して負極合剤を調製した。次いで、この負極合剤を溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させて負極合剤スラリーとしたのち、銅箔よりなる負極集電体22Aに均一に塗布して乾燥させ、ロールプレス機で圧縮成型して負極活物質層22Bを形成し、負極22を作製した。その際、正極21の充電容量と負極材料との充電容量比(正極21/負極材料)を0.95として、負極の容量が、リチウムの吸蔵および放出による容量成分により表されるようにした。また、完全充電時における開回路電圧が4.20Vとなるように(すなわち、完全充電時における正極21の電位が4.25Vとなるように)設計した。そののち、負極集電体22Aの一端にニッケル製の負極リード12を取り付けた。
【0060】
続いて、溶媒として炭酸エチレンと炭酸プロピレンとを、炭酸エチレン:炭酸プロピレン=6:4の質量比で混合した混合溶媒に、炭酸ビニレンと、トリフェニルフォスフェートとを加え、更に、電解質塩としてLiPF6 を溶解して電解液を作製した。電解液における炭酸ビニレンの含有量は2質量%とし、トリフェニルフォスフェートの含有量は2質量%とした。また、電解液におけるLiPF6 の濃度は0.7mol/kgとした。
【0061】
次に、得られた電解液を高分子化合物であるヘキサフルオロプロピレンとフッ化ビニリデンとの共重合体に保持させることにより、正極21および負極22のそれぞれにゲル状の電解質層24を形成した。共重合体におけるヘキサフルオロプロピレンの割合は、6.9質量%とした。
【0062】
そののち、電解質層24をそれぞれ形成した正極21と負極22とを、厚み20μmのポリエチレンフィルムからなるセパレータ23を介して積層し、巻回して巻回電極体20を作製した。
【0063】
得られた巻回電極体20をラミネートフィルムよりなる外装部材31に挟み込み、減圧封入することにより図1および図2に示した二次電池を作製した。
【0064】
実施例1−1に対する比較例1−1として、トリフェニルフォスフェートを用いなかったことを除き、他は実施例1−1と同様にして二次電池を作製した。また、比較例1−2,1−3として、トリフェニルフォスフェートに代えて、トリメチルフォスフェート(PO(OCH3 3 )、またはトリエチルフォスフェート(PO(OC2 5 3 )を用いたことを除き、他は実施例1−1と同様にして二次電池を作製した。更に、比較例1−4として、炭酸ビニレンを用いなかったことを除き、他は実施例1−1と同様にして二次電池を作製した。なお、トリメチルフォスフェート、およびトリエチルフォスフェートは、トリフェニルフォスフェートと同様に、リン酸エステルに分類されるものである。
【0065】
作製した実施例1−1および比較例1−1〜1−4の二次電池について、初期効率を次のようにして調べた。まず、23℃で0.1Cの定電流定電圧充電を上限4.2Vまで総充電時間を12時間として行い、続いて23℃で0.2Cの定電流放電を終止電圧3.0Vまで行うことにより充放電を行った。初期効率は、このときの充電容量に対する放電容量の維持率、すなわち(放電容量/充電容量)×100(%)から求めた。結果を表1に示す。なお、0.1C,0.2Cは、理論容量を、それぞれ10時間,5時間で放電しきる電流値である。また、充電上限電圧における正極21の電位は4.25Vであり、負極22の電位は0.05Vである。
【0066】
また、高温充電保存特性を次のようにして調べた。まず、23℃で1Cの定電流定電圧充電を上限4.2Vまで総充電時間を2.5時間として行った。そののち、60℃で30日間保存した。高温充電保存特性は、保存後における電池の膨れ量、すなわち、(保存後の電池の厚み)−(保存前の電池の厚み)から求めた。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1から分かるように、炭酸ビニレンとトリフェニルフォスフェートとを用いた実施例1−1によれば、トリフェニルフォスフェートを用いていない比較例1−1、あるいは他のリン酸エステルを用いた比較例1−2,1−3よりも、高温保存後における膨れ量が小さく、また、炭酸ビニレンを用いていない比較例1−4よりも、初期効率が向上した。
【0069】
すなわち、電解液に炭酸エチレンと炭酸プロピレンとに加えて、炭酸ビニレンとトリフェニルフォスフェートとを含むようにすれば、初期効率および高温保存特性を向上させることができることが分かった。
【0070】
(実施例2−1〜2−5)
電解液におけるトリフェニルフォスフェートの含有量を変化させたことを除き、他は実施例1−1と同様にして二次電池を作製した。電解液におけるトリフェニルフォスフェートの含有量は、実施例2−1では0.2質量%とし、実施例2−2では0.5質量%とし、実施例2−3では5質量%とし、実施例2−4では10質量%とし、実施例2−5では15質量%とした。
【0071】
実施例2−1〜2−5の二次電池について、実施例1−1と同様にして初期効率および高温保存特性を調べた。結果を表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
表2から分かるように、電解液におけるトリフェニルフォスフェートの含有量が多くなるに伴い、初期効率は低下し、高温保存後における膨れ量は小さくなる傾向が観られた。
【0074】
すなわち、電解液におけるトリフェニルフォスフェートの含有量を0.5質量%以上10質量%以下とするようにすれば、好ましいことが分かった。
【0075】
(実施例3−1,3−2)
電解液における炭酸ビニレンの含有量を3質量%または1質量%としたことを除き、他は実施例1−1と同様にして二次電池を作製した。
【0076】
実施例3−1,3−2に対する比較例3−1〜3−3として、トリフェニルフォスフェートを用いず、更に、電解液おける炭酸ビニレンの含有量を3質量%,2質量%または1質量%としたことを除き、他は実施例3−1,3−2と同様にして二次電池を作製した。また、比較例3−4として、トリフェニルフォスフェートおよび炭酸ビニレンを用いなかったことを除き、他は実施例3−1,3−2と同様にして二次電池を作製した。
【0077】
作製した実施例3−1,3−2および比較例3−1〜3−4の二次電池について、実施例1−1と同様にして高温保存特性を調べた。結果を表3に示す。
【0078】
【表3】

【0079】
表3から分かるように、トリフェニルフォスフェートを用いた実施例1−1,3−1,3−2によれば、これを用いていない比較例3−1〜3−3よりも、それぞれ高温保存後における膨れ量が小さかった。また、炭酸ビニレンを用いていない比較例1−4,3−4では、トリフェニルフォスフェートを用いることにより、高温保存後における膨れ量が小さくなったが、その改善効果は、炭酸ビニレンを用いた場合に比べて低かった。
【0080】
すなわち、炭酸ビニレンの含有量を変化させても、トリフェニルフォスフェートを用いるようにすれば、高温保存特性を向上させることができることが分かった。
【0081】
(実施例4−1,4−2)
正極材料としてのLiCoO2 に代えて、他の正極材料を用いたことを除き、他は実施例1−1と同様にして二次電池を作製した。具体的には、実施例4−1ではLiMn0.33Co0.33Ni0.332 とし、実施例4−2ではLiMn2 4 とした。
【0082】
実施例4−1に対する比較例4−1,4−2として、トリフェニルフォスフェート、または炭酸ビニレンを用いなかったことを除き、他は実施例4−1と同様にして二次電池を作製した。また、実施例4−2に対する比較例4−3,4−4として、トリフェニルフォスフェート、または炭酸ビニレンを用いなかったことを除き、他は実施例4−2と同様にして二次電池を作製した。
【0083】
作製した実施例4−1,4−2および比較例4−1〜4−4の二次電池について、実施例1−1と同様にして初期効率および高温保存特性を調べた。結果を表4に示す。
【0084】
【表4】

【0085】
表4から分かるように、実施例1−1と同様に、炭酸ビニレンとトリフェニルフォスフェートとを用いた実施例4−1または実施例4−2によれば、トリフェニルフォスフェートを用いなかった比較例4−1または比較例4−3よりも、それぞれ高温保存後における膨れ量が小さく、また、炭酸ビニレンを用いなかった比較例1−2または比較例1−4よりも、それぞれ初期効率が向上した。
【0086】
すなわち、他の正極材料を用いて場合にも、電解液に炭酸エチレンと炭酸プロピレンとに加えて、炭酸ビニレンとトリフェニルフォスフェートとを含むようにすれば、初期効率および高温保存特性を向上させることができることが分かった。
【0087】
(実施例5−1〜5−4)
正極材料と負極材料との充填量を変化させ、完全充電時における開回路電圧を変えたことを除き、他は実施例1−1と同様にして二次電池を作製した。完全充電時における開回路電圧は、実施例5−1では4.1Vとなるように、実施例5−2では4.3Vとなるように、実施例5−3では4.4Vとなるように、実施例5−4では4.5Vとなるように設計した。なお、完全充電時における正極21の電位は、実施例5−1では4.15Vとなるように、実施例5−2では4.35Vとなるように、実施例5−3では4.45Vとなるように、実施例5−4では4.55Vとなるように設計されている。
【0088】
実施例5−1〜5−4に対する比較例5−1〜5−4として、トリフェニルフォスフェートを用いなかったことを除き、他は実施例5−1〜5−4と同様にして二次電池を作製した。
【0089】
実施例5−1〜5−4および比較例5−1〜5−4の二次電池について、初期効率および高温保存特性を調べた。具体的には、充電上限電圧を、実施例5−1および比較例5−1では4.1Vとし、実施例5−2および比較例5−2では4.3Vとし、実施例5−3および比較例5−3では4.4Vとし、実施例5−4および比較例5−4では4.5Vとしたこと除き、他は実施例1−1と同様にして、初期効率および高温保存特性を調べた。結果を表5および図3に示す。なお、充電上限電圧における正極21の電位は、実施例5−1および比較例5−1では4.15Vであり、実施例5−2および比較例5−2では4.35Vであり、実施例5−3および比較例5−3では4.45Vであり、実施例5−4および比較例5−4では4.55Vである。
【0090】
【表5】

【0091】
表5から分かるように、トリフェニルフォスフェートを用いた実施例5−1〜5−4によれば、トリフェニルフォスフェートを用いていない比較例5−1〜5−4よりも、それぞれ高温保存後における膨れ量が小さかった。また、充電上限電圧を4.3V以上とした、すなわち、充電上限電圧における正極21の電位を4.35Vとした実施例5−2〜5−4において、特に高い効果が観られた。
【0092】
すなわち、完全充電時における開回路電圧を高くしても、トリフェニルフォスフェートを用いるようにすれば、高温保存特性を向上させることができ、特に、完全充電状態における正極21の電位を4.35V以上6.05V以下の範囲内とした場合に、より高い効果を得ることができることが分かった。
【0093】
(実施例6−1)
正極21の充電容量と負極材料との充電容量比(正極21/負極材料)を1.10として、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出による容量成分と、リチウムの析出および溶解による容量成分とを含み、かつその和により表されるようにしたことを除き、他は実施例1−1と同様にして二次電池を作製した。なお、完全充電時における開回路電圧が4.20Vとなるように、すなわち、完全充電時における正極21の電位が4.20Vとなるように設計した。
【0094】
実施例6−1の二次電池について、実施例1−1と同様にして、初期効率および高温保存特性を調べた。結果を表6に示す。なお、充電上限電圧における正極21の電位は4.20Vであり、負極22の電位は0Vである。
【0095】
【表6】

【0096】
表6から分かるように、実施例1−1と同様に、炭酸ビニレンとトリフェニルフォスフェートとを用いた実施例6−1によれば、初期効率が向上し、高温保存後における膨れ量が小さかった。
【0097】
すなわち、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出による容量成分と、リチウムの析出および溶解による容量成分とを含み、かつその和により表される二次電池の場合にも、電解液に炭酸エチレンと炭酸プロピレンとに加えて、炭酸ビニレンとトリフェニルフォスフェートとを含むようにすれば、初期効率および高温保存特性を向上させることができることが分かった。
【0098】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、巻回構造を有する二次電池を具体的に挙げて説明したが、本発明は、円筒型,コイン型,シート型,ボタン型あるいは角型などの他の形状を有する二次電池、または正極および負極を複数積層した他の積層構造を有する二次電池についても同様に適用することができる。
【0099】
また、上記実施の形態および実施例では、電極反応物質としてリチウムを用いる場合について説明したが、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの長周期型周期表における他の1族の元素、またはマグネシウムあるいはカルシウム(Ca)などの長周期型周期表における2族の元素、またはアルミニウムなどの他の軽金属、またはリチウムあるいはこれらの合金を用いる場合についても、本発明を適用することができ、同様の効果を得ることができる。その際、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質あるいは溶媒などは、その電極反応物質に応じて選択される。
【0100】
更に、上記実施の形態および実施例では、電解液を高分子化合物に保持させたゲル状の電解質を用いる場合について説明したが、これらの電解質に代えて、他の電解質を用いるようにしてもよい。他の電解質としては、例えば、液状の電解質である電解液、イオン伝導性を有する固体電解質と電解液とを混合したもの、あるいは固体電解質とゲル状の電解質とを混合したものが挙げられる。
【0101】
固体電解質には、例えば、イオン伝導性を有する高分子化合物に電解質塩を分散させた高分子固体電解質、またはイオン伝導性ガラスあるいはイオン性結晶などよりなる無機固体電解質を用いることができる。このとき、高分子化合物としては、例えば、ポリエチレンオキサイドあるいはポリエチレンオキサイドを含む架橋体などのエーテル系高分子化合物、ポリアクリレートあるいはポリメタクリレートなどのエステル系高分子化合物を単独あるいは混合して、または分子中に共重合させて用いることができる。また、無機固体電解質としては、窒化リチウムあるいはヨウ化リチウムなどを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明一実施の形態に係る二次電池の構成を表す分解斜視図である。
【図2】図1に示した巻回電極体のII−II線に沿った構成を表す断面図である。
【図3】完全充電時における正極の電位と、高温保存後における膨れ量との関係を表す特性図である。
【符号の説明】
【0103】
11…正極リード、12…負極リード、20…巻回電極体、21…正極、21A…正極集電体、21B…正極活物質層、22…負極、22A…負極集電体、22B…負極活物質層、23…セパレータ、24…電解質層、25…保護テープ、31…外装部材、32…密着フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸エチレンと、炭酸プロピレンと、炭酸ビニレンと、トリフェニルフォスフェートとを含むことを特徴とする電解液。
【請求項2】
トリフェニルフォスフェートの含有量は、0.1質量%以上10質量%以下であることを特徴とする請求項1記載の電解液。
【請求項3】
正極および負極と共に電解液を備えた電池であって、
前記電解液は、炭酸エチレンと、炭酸プロピレンと、炭酸ビニレンと、トリフェニルフォスフェートとを含む
ことを特徴とする電池。
【請求項4】
前記電解液におけるトリフェニルフォスフェートの含有量は、0.5質量%以上10質量%以下であることを特徴とする請求項3記載の電池。
【請求項5】
前記正極,前記負極および前記電解液を、フィルム状の外装部材の内部に収納したことを特徴とする請求項3記載の電池。
【請求項6】
完全充電状態における正極の電位が4.35V以上6.05V以下の範囲内であることを特徴とする請求項3記載の電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−134245(P2007−134245A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−327932(P2005−327932)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】