説明

電解液流通型電池

【課題】自己放電を抑制することができる電解液流通型電池を提供する。
【解決手段】電解液流通型電池の一例であるレドックスフロー電池1は、電池セル10と、電解液を貯蔵する電解液タンク20と、電解液を電解液タンク20と電池セル10との間で循環させるための循環経路30と、循環経路30に電解液を循環させる循環ポンプ40と、を備える。循環経路30は、電解液を電解液タンク20から電池セル10に送る往路配管31と、電解液を電池セル10から電解液タンク20に戻す復路配管32とを有する。そして、電池セル10より低い位置に設置され、電池セル10内の電解液を回収するための回収空間部50と、電池セル10と回収空間部50とを連通する回収通路51と、回収通路51を開閉する第1開閉手段55と、往路配管31を開閉する第2開閉手段56と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己放電を抑制することができる電解液流通型電池に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、地球温暖化への対策として、風力や太陽光などの再生可能エネルギーを利用した風力発電や太陽光発電の導入が世界的に推進されている。これらの発電出力は、天候に影響されるため、大量に導入が進むと、周波数や電圧の維持が困難になるといった電力系統の運用に際しての問題が提起されている。この問題への対策の一つとして、大容量の蓄電池を設置して、出力変動の平滑化、余剰電力の貯蔵、負荷平準化などを図ることが提案されている。
【0003】
大容量の蓄電池の一つにレドックスフロー電池などの電解液流通型電池がある。レドックスフロー電池は、正極電極と負極電極との間に隔膜を介在させた電池セルに正極電解液及び負極電解液をそれぞれ供給して充放電を行う。電解液には、酸化還元により価数が変化する金属イオンを含有する水溶液が一般的に使用されている。レドックスフロー電池としては、例えば、正極電解液に鉄イオン水溶液、負極電解液にクロムイオン水溶液を用いた鉄‐クロム系レドックスフロー電池の他、正負極の電解液にバナジウムイオン水溶液を用いたバナジウム系レドックスフロー電池がよく知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図9は、従来の電解液流通型電池(レドックスフロー電池)を説明するための概要図である。レドックスフロー電池4は、電池セル10を備える。電池セル10は、イオンを透過することができる隔膜101で正極セル102と負極セル103とに区画され、正極セル102には正極電極104が、負極セル103には負極電極105がそれぞれ内蔵されている。また、レドックスフロー電池4は、正極用及び負極用にそれぞれ、電解液を貯蔵する電解液タンク20と、電解液を電解液タンク20と電池セル10(正極セル102、負極セル103)との間で循環させるための循環経路30と、循環経路30に電解液を循環させる循環ポンプ40と、を備える。循環経路30は、電解液を電解液タンク20から電池セル10(正極セル102、負極セル103)に送る往路配管31と、電解液を電池セル10(正極セル102、負極セル103)から電解液タンク20に戻す復路配管32とを有する。
【0005】
レドックスフロー電池4では、電解液タンク20の下部と電池セル10の下部とを連通するように往路配管31が接続され、電解液タンク20の上部と電池セル10の上部とを連通するように復路配管32が接続されている。そして、正極側及び負極側のそれぞれにおいて、循環ポンプ40が起動されることで、電解液タンク20から往路配管31を介して電解液が電池セル10に送られる。電池セル10に供給された電解液は、電池セル10の下方から内部を通って上方に排出され、復路配管32を介して電解液タンク20に戻されて循環する。電池セル10内では、電池反応(充放電反応)が行われる。なお、図9に示すレドックスフロー電池4では、正負極の電解液にバナジウムイオン水溶液を用いた場合を例に挙げている。また、図9中の電池セル内の実線矢印は充電反応を、破線矢印は放電反応をそれぞれ示す。
【0006】
レドックスフロー電池の電池セルは、一般に、正極電極と隔膜と負極電極とを有する複数の単位セルを積層させたセルスタックと呼ばれる形態で利用される。図10は、セルスタックを説明するための概要図である。セルスタック200は、双極板201を有するセルフレーム202、正極電極104、隔膜101、負極電極105、双極板201を有するセルフレーム202を順に繰り返し積層した構造となっている。図10に示すセルスタック200では、両側に一対のエンドプレート210を配置し、ボルトなどの締付部材220で両エンドプレート210を締め付けることで構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006‐147374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電解液流通型電池(レドックスフロー電池)の自己放電を抑制することが望まれている。
【0009】
レドックスフロー電池では、その仕様(出力/容量)などにも依るが、例えば170kW/8時間の仕様の場合、電池セル(セルスタック)と正負極用の各電解液タンク、各循環経路及び各循環ポンプとの基本構成を1ユニット(基本ユニット)とし、これを4ユニット組み合わせてシステムを構築することが挙げられる。つまり、上記した仕様のレドックスフロー電池(基本ユニット×4基)では、電池セルが4基、正負極用の電解液タンクがそれぞれ4基(正極電解液タンク4基+負極電解液タンク4基、計8基)必要となる。また、上記した仕様の場合、1基本ユニットのレドックスフロー電池において、例えば、電池セル1基あたりの重量は1500kg以上であり、電解液タンク1基あたりに貯蔵される電解液量は20m3(20000リットル)程度である。
【0010】
一方、レドックスフロー電池のレイアウトとして、図9に例示するように、電池セル10と電解液タンク20とを略水平に並設することが考えられる。上述したように電池セルは重量物であることから、電池セルを電解液タンクと同じように地面や床に設置することで、電池セルを支持するための堅牢な架台を設ける必要がなく、また、メンテナンスも行い易い。特に、電解液タンクに対してより高い位置に電池セルを設置する、即ち架台を高くする場合は、耐震設計を満たすように架台に堅牢性、強度が要求されることからコスト高となる。一方で、電解液タンクを埋設することも考えられるが、上述したように電解液タンクは大容積であることから、電解液タンクを埋設するコストが高い。よって、電池セルと電解液タンクとを略水平に並設することのメリットは大きいと考えられる。
【0011】
しかし、従来のレドックスフロー電池では、電池セルと電解液タンクとを略水平に並設した場合、循環ポンプが停止したとき、電池セル内の電解液の液面と電解液タンク内の電解液の液面とが等しくなり、電池セル内に電解液が残存することになる(図9参照)。なお、循環ポンプは、例えばメンテナンス時に停止させる他、電池の使用目的(用途)によって、起動と停止を繰り返す場合がある。そして、電池セル内に電解液が残存すると、次のような問題がある。
【0012】
(1)電池セル内で自己放電が起こり、電池の放電容量がその分低下する。
(2)自己放電により電解液が発熱することに伴い、電池セルを構成する部材(隔膜や電極など)の温度が上昇することで、これら部材の劣化が促進する。特に、循環ポンプの起動と停止が頻繁に繰り返されるような用途では、部材の劣化が著しい。
【0013】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、自己放電を抑制することができる電解液流通型電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の電解液流通型電池は、電池セルと、電解液を貯蔵する電解液タンクと、電解液を電解液タンクから電池セルに送る往路配管と、電解液を電池セルから電解液タンクに戻す復路配管とを有する循環経路と、循環経路に電解液を循環させる循環ポンプと、を備える。そして、電池セルより低い位置に設置され、電池セル内の電解液を回収するための回収空間部と、電池セルと回収空間部とを連通する回収通路と、回収通路を開閉する第1開閉手段と、を備えることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、循環ポンプを停止させたとき、第1開閉手段を介して回収通路を開けることで、回収通路を通して電池セル内の電解液を回収空間部に回収することができる。よって、循環ポンプが停止したときに、電池セル内の電解液を抜くことができ、従来の電池に比較して電池セル内に残存する電解液量を低減することができる。一方、循環ポンプを起動し、循環経路に電解液を循環させて電池を運転しているときは、第1開閉手段を介して回収通路を閉じて、電解液が回収空間部に流入しないようにする。したがって、電池セル内に電解液が残存することによる自己放電を抑制することができ、自己放電による放電容量の低下、並びに、自己放電による電解液の発熱によって生じる電池セル10の構成部材の劣化を低減することができる。特に、電池セルと電解液タンクとが略水平に並設されている場合、又は電解液タンクが電池セルよりも高い位置に設置されている場合にその効果を発揮する。なお、回収空間部は、正極用と負極用にそれぞれ設けることが好ましいが、正極用又は負極用のいずれか一方にのみ設ければ、同様の効果が期待できる。
【0016】
ここで、回収空間部は電池セルより低い位置に設置されているので、回収通路を開ければ、そのまま自然に電池セル内の電解液を回収空間部に導くことができる。また、回収空間部は、電池セル内の電解液を回収するためのもの(容器)であり、その大きさ(容積)も電解液タンクに比較して極めて小さくすることが可能である。よって、回収空間部を電池セルの下方に設置することは容易である。回収空間部は、例えば扁平容器状に形成したり、管を蛇行させて形成してもよい。
【0017】
本発明の電解液流通型電池の一形態としては、回収空間部の容積が電池セル内に流通する電解液の液量と同等以上であることが挙げられる。
【0018】
この構成によれば、電池セル内に流通する電解液の液量と同等以上の容積を回収空間部に確保することで、循環ポンプが停止したときに、電池セル内に残存する電解液を完全に抜くことができる。その結果、自己放電をより確実に抑制することができる。ここで、上記した仕様の場合、電池セル1基あたりの電池セルの容積は、正極セル、負極セル共に100〜200リットル程度であり、電池セルの容積と電池セル内に流通する電解液量とは略等しい。よって、回収空間部の容積は、正負極の各セルの容積に合わせて、例えば100〜200リットル程度とすることが挙げられる。回収空間部の容積は、電池セル内に流通する電解液量と同等以上であればよく、電池セル内に流通する電解液量より大きくしてもよい。その場合、回収空間部が過剰に大きくならないように、電池セル内に流通する電解液量の例えば4倍以下にするとよい。
【0019】
本発明の電解液流通型電池の一形態としては、第1開閉手段がバルブであることが挙げられる。
【0020】
この構成によれば、バルブを用いることで、第1開閉手段を容易に実現できる。第1開閉手段に使用するバルブは、回収通路の開閉が可能なものであれば、特に限定されるものではなく、手動バルブ又は自動バルブのいずれでもよい。
【0021】
本発明の電解液流通型電池の一形態としては、第1開閉手段が自動バルブであり、第1開閉手段を制御する第1開閉手段制御部を有し、第1開閉手段制御部は、循環ポンプが停止するときに、第1開閉手段を介して回収通路を開けることが挙げられる。
【0022】
この構成によれば、第1開閉手段制御部を有することで、循環ポンプ停止時に、回収通路が自動的に開いて、電池セル内の電解液を抜く作業を自動で行うことができる。また、電池セル内の液抜き作業を自動で行うので、手動で行う場合に比較して簡便であり、ヒューマンエラーも防ぐことができる。自動バルブには、例えば電動式やエア式のものを用いることができる。
【0023】
さらに、上記した第1開閉手段制御部を有する形態において、第1開閉手段制御部は、循環ポンプが起動するときに、第1開閉手段を介して回収通路を閉じることが好ましい。
【0024】
この構成によれば、循環ポンプ起動時に、回収通路が自動的に閉じて、電池の運転中は、循環させる電解液が回収空間部に流入しない。
【0025】
本発明の電解液流通型電池の一形態としては、往路配管を開閉する第2開閉手段を備えることが挙げられる。
【0026】
この構成によれば、循環ポンプを停止させたとき、第2開閉手段を介して往路配管を閉じることで、電解液タンクの電解液が往路配管を通って回収空間部に流入しないようにすることができる。一方、循環ポンプを起動し、電池を運転しているときは、第2開閉手段を介して往路配管を開けて、循環経路に電解液を循環させる。
【0027】
上記した第2開閉手段を備える形態において、第2開閉手段がバルブであることが挙げられる。
【0028】
この構成によれば、バルブを用いることで、第2開閉手段を容易に実現できる。第2開閉手段に使用するバルブは、往路配管の開閉が可能なものであれば、特に限定されるものではなく、手動バルブ又は自動バルブのいずれでもよい。
【0029】
上記した第2開閉手段を備える形態において、第2開閉手段が自動バルブであり、第2開閉手段を制御する第2開閉手段制御部を有し、第2開閉手段制御部は、循環ポンプが停止するときに、第2開閉手段を介して往路配管を閉じることが挙げられる。
【0030】
この構成によれば、第2開閉手段制御部を有することで、循環ポンプ停止時に、往路配管が自動的に閉じて、往路配管を閉じる作業を自動で行うことができる。また、往路配管の閉鎖作業を自動で行うので、手動で行う場合に比較して簡便であり、ヒューマンエラーも防ぐことができる。自動バルブには、例えば電動式やエア式のものを用いることができる。
【0031】
さらに、上記した第2開閉手段制御部を有する形態において、第2開閉手段制御部は、循環ポンプが起動するときに、第2開閉手段を介して往路配管を開けることが好ましい。
【0032】
この構成によれば、循環ポンプ起動時に、往路配管が自動的に開いて、電池の運転を開始することができる。
【0033】
より好ましくは、第1開閉手段及び第2開閉手段がそれぞれ自動バルブであり、第1開閉手段を制御する第1開閉手段制御部と、第2開閉手段を制御する第2開閉手段制御部とを有する制御手段を備える形態が挙げられる。制御手段は、循環ポンプが停止するときに、第2開閉手段制御部により第2開閉手段を介して往路配管を閉じると共に、第1開閉手段制御部により第1開閉手段を介して回収通路を開ける。また、循環ポンプが起動するときに、第1開閉手段制御部により第1開閉手段を介して回収通路を閉じると共に、第2開閉手段制御部により第2開閉手段を介して往路配管を開ける。
【0034】
この構成は、上記した第1開閉手段制御部及び第2開閉手段制御部を有する形態である。よって、この構成によれば、循環ポンプ停止時に、回収通路が自動的に開くと共に往路配管が自動的に閉じて、電解液タンクの電解液が往路配管を通って回収空間部に流入しないようにしながら、回収通路を通して電池セル内の電解液を回収空間部に自動的に回収することができる。また、循環ポンプ起動時に、回収通路が自動的に閉じると共に往路配管が自動的に開いて、循環させる電解液が回収空間部に流入しないようにしながら、電池の運転を開始することができる。即ち、循環ポンプの状態に応じた回収通路及び往路配管の開閉作業を完全に自動化することができ、電池セル内の液抜き作業や電池の運転開始作業を正確に自動で行うことができる。そのため、これら作業を確実かつ正確に実行することができるので、特に、循環ポンプの停止・起動が繰り返されるような用途に適用した場合に効果が大きい。
【0035】
本発明の電解液流通型電池の一形態としては、往路配管に、電解液タンク内の電解液の液面より高い位置に配設される高位置部が設けられ、電解液タンク内の気相部分と高位置部とを連通し、電解液タンク内の気相を高位置部に移動させるための第1気相配管を備えることが挙げられる。
【0036】
この構成によれば、往路配管に高位置部が設けられることで、循環ポンプを停止させたとき、電解液タンクの電解液が高位置部を越えて電池セル側に流れないようにすることができる。よって、電解液タンクの電解液が往路配管を通って回収空間部に流入しないようにすることができる。この場合、上述したような第2開閉手段(例、バルブ)を省略することが可能である。また、第1気相配管を備えることで、電解液タンク内の気相が高位置部に移動し、往路配管(高位置部)が負圧になることを防ぎ、電解液タンクの電解液がサイフォンの原理で電池セル側に流れるのを防止できる。この第1気相配管には、往路配管の電解液が第1気相配管に逆流しないようにチェッキ弁を設けることが好ましい。その他、チェッキ弁の代わりにバルブを用いて、循環ポンプ停止時に、このバルブを介して第1気相配管を開けるようにしてもよい。なお、往路配管の高位置部は少なくとも一つあればよい。
【0037】
本発明の電解液流通型電池の一形態としては、回収空間部と電解液タンクとを連通し、回収空間部内の電解液を電解液タンクに復帰させるための復帰配管と、復帰配管を介して、回収空間部内の電解液を電解液タンクに送液する送液ポンプと、を備えることが挙げられる。
【0038】
この構成によれば、回収空間部内の電解液を復帰配管を介し送液ポンプを用いて電解液タンクに送液することで、回収空間部に回収された電解液を再使用することができる。なお、回収空間部内の電解液を電解液タンクに戻す作業(電解液タンクへの液戻し作業)は、作業員が手作業で行うこともできるが、循環ポンプの停止・起動が繰り返されるような用途の場合、この構成を適用することで作業を効率的に実行することができる。また、この電解液タンクへの液戻し作業は、例えば、電池セル内の液抜き作業時や、電池の運転中に行うことが挙げられる。
【0039】
上記した送液ポンプを備える形態において、送液ポンプが電動ポンプ又はエアポンプであることが挙げられる。
【0040】
送液ポンプには、電動ポンプやエアポンプを用いることができる。これらポンプは汎用性が高く、実現も容易である。エアポンプを使用する場合、例えば、回収空間部にエアポンプからエア(気体)を供給し、その圧力で回収空間部内の電解液を押出し、復帰配管を介して回収空間部内の電解液を電解液タンクに圧送することが挙げられる。
【0041】
上記した送液ポンプを備える形態において、二次電池或いは無停電電源装置を有し、二次電池或いは無停電電源装置(UPS:Uninterruptible Power Supply)から送液ポンプに電力を供給することが挙げられる。
【0042】
送液ポンプ(例、電動ポンプやエアポンプ)の電源に商用電源を用いた場合、停電時に、送液ポンプによる電解液タンクへの液戻し作業を行うことができない。そこで、この構成によれば、送液ポンプの電源に二次電池或いは無停電電源装置を用いることで、停電時であっても、送液ポンプによる電解液タンクへの液戻し作業を実行することができる。
【0043】
上記した送液ポンプを備える形態において、電池セルから送液ポンプに電力を供給することが挙げられる。
【0044】
本発明の電解液流通型電池では、自己放電を抑制することを目的として、循環ポンプの停止時に、電池セル内の液抜き作業が行われる。ここで、電池セル内の電解液が完全に抜け切るまでにはある程度の時間がかかり、この間は電池セルに電圧が発生する。つまり、この間は電池セルから送液ポンプへの電力供給が可能となる。そこで、この構成によれば、送液ポンプの電源に電池セルを用いることで、電池セル内の液抜き作業中に発生する電池セルの電圧を有効利用して、送液ポンプによる電解液タンクへの液戻し作業を実行することができる。また、送液ポンプの電源として二次電池或いは無停電電源装置を別途有する必要がない。一方で、電池セルから電力を供給し送液ポンプを運転することで、電池セルの電圧がなくなった(電池の発電能力がなくなった)場合は、電池セル内に電解液が一部残存するようなことがあっても、そもそも自己放電が生じ得ないので、電池セル内の液抜き作業を中止してもよい。
【0045】
上記した送液ポンプを備える形態において、電解液タンク内の気相部分と回収空間部とを連通し、電解液タンク内の気相を回収空間部に移動させるための第2気相配管を備えることが好ましい。
【0046】
回収通路を閉じた状態で送液ポンプを起動し、回収空間部内の電解液を電解液タンクに送液すると、回収空間部が負圧になり、回収空間部が破損する虞がある。この構成によれば、第2気相配管を備えることで、電解液タンク内の気相が回収空間部に移動し、回収空間部が負圧になることを防ぎ、回収空間部の破損を防止できる。つまり、回収通路を開閉の状態に関係なく、例えば電池の運転中などであっても、送液ポンプによる電解液タンクへの液戻し作業が行い易い。
【0047】
上記した送液ポンプを備える形態において、回収空間部内の電解液の液量を検知する液量検知手段と、送液ポンプを制御する送液ポンプ制御部と、を有し、液量検知手段が、回収空間部内の電解液の液量が所定の上限以上になったことを検知したとき、送液ポンプ制御部が送液ポンプを起動し、送液ポンプが送液を開始することが挙げられる。
【0048】
この構成によれば、回収空間部内の電解液量が所定の上限以上になったときに、送液ポンプが自動的に送液を開始するので、電解液タンクへの液戻し作業を自動で行うことができ、電池セル内の液抜き作業を繰り返し行うことができる。また、電解液タンクへの液戻し作業を自動で行うので、手動(手作業)で行う場合に比較して簡便であり、ヒューマンエラーも防ぐことができる。
【0049】
液量検知手段は、回収空間部内の電解液量を検知可能なものであれば、特に限定されるものではなく、例えばセンサやスイッチを使用することができる。センサとしては、例えば、光学式、静電容量式、超音波式、フロート式などの各種液面レベルセンサや液量センサが挙げられる。スイッチとしては、例えば、フロートスイッチなどのレベルスイッチが挙げられる。
【0050】
上記した送液ポンプ制御部を有する形態において、液量検知手段が、回収空間部内の電解液の液量が所定の下限以下になったことを検知したとき、送液ポンプ制御部が送液ポンプを停止し、送液ポンプが送液を停止することが好ましい。
【0051】
この構成によれば、回収空間部内の電解液量が所定の下限以下になったとき、送液ポンプが自動的に送液を停止するので、電解液タンクへの液戻し作業を自動で終了することができる。
【0052】
上記した送液ポンプ制御部を有する形態において、送液ポンプ制御部がタイマーを有し、タイマーにより送液ポンプの起動から所定の時間が経過したことを検知したとき、送液ポンプ制御部が送液ポンプを停止し、送液ポンプが送液を停止することが好ましい。
【0053】
この構成によれば、送液ポンプの起動から所定の時間が経過したとき、送液ポンプが自動的に送液を停止するので、電解液タンクへの液戻し作業を自動で終了することができる。この場合、液量検知手段により回収空間部内の電解液の液量が所定の下限以下になったことを検知する必要がない。
【0054】
上記した第2開閉手段を備える形態において、停電時に、第2開閉手段が作動して往路配管を開け、電解液タンクから電池セルに電解液を供給することで、電池セルから循環ポンプに電力を供給することが挙げられる。
【0055】
本発明において、循環ポンプが停止した状態では、電池セル内の電解液が回収空間部に回収され、電池セル内が空になっている。この構成によれば、停電時などの非常事態に、往路配管が開き、電解液タンク内と電池セル内との液圧(ヘッド圧)差で電解液が電解液タンクから電池セルに往路配管を通って自動的に供給される。そして、電池セル内に電解液が供給されることで、電池セルの電圧が上昇し、電池セルから循環ポンプへの電力供給が可能となる。この電力を循環ポンプに供給することで、循環ポンプを起動して、電池の運転を開始することができる。電池の運転開始後、電池セルから循環ポンプに電力を供給し続けることで、停電時などの非常事態であっても、電池の運転を続けることが可能である。
【0056】
本発明の電解液流通型電池の一形態としては、レドックスフロー電池であることが挙げられる。
【0057】
レドックスフロー電池としては、特に限定されるものではなく、例えば、正負極の電解液が以下の(1)〜(5)のいずれかであることが挙げられる。
(1)正極電解液は、マンガンイオンを含有し、負極電解液は、チタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、亜鉛イオン、及びスズイオンから選択される少なくとも一種の金属イオンを含有する。
(2)正極電解液は、マンガンイオン及びチタンイオンの双方を含有し、負極電解液は、チタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、亜鉛イオン、及びスズイオンから選択される少なくとも一種の金属イオンを含有する。
(3)正負極の電解液はそれぞれ、マンガンイオン及びチタンイオンの双方を含有する。
(4)正負極の電解液はそれぞれ、バナジウムイオンを含有する。
(5)正極電解液は、鉄イオンを含有し、負極電解液は、チタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、亜鉛イオン、及びスズイオンから選択される少なくとも一種の金属イオンを含有する。
【0058】
正負極の電解液を上記(1)〜(5)のいずれかとすることで、本発明の電解液流通型電池システムに好適なレドックスフロー電池を構成することができる。特に、上記(1)、(2)の電解液として、正極活物質にマンガンイオン、負極活物質に上記列挙したチタンイオンやバナジウムイオンなどを用いることで、高い起電力が得られる。上記(3)の電解液として、正極活物質にマンガンイオン、負極活物質にチタンイオンを用いることで、高い起電力が得られる。さらに、上記(2)、(3)の電解液として、正極活物質をマンガンイオンとし、別途チタンイオンを含有することで、高い起電力が得られる上に、電池抵抗の増加につながる析出物の発生を効果的に抑制することができる。上記(5)の電解液としては、正極電解液が鉄イオンを含有し、負極電解液がクロムイオンを含有する構成が好適である。
【発明の効果】
【0059】
本発明の電解液流通型電池は、循環ポンプが停止したときに、電池セル内の電解液を抜くことができ、自己放電を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施の形態1に係るレドックスフロー電池を説明するための概要図であり、循環ポンプが起動した状態を示す。
【図2】実施の形態1に係るレドックスフロー電池を説明するための概要図であり、循環ポンプが停止した状態を示す。
【図3】実施の形態1に係るレドックスフロー電池における制御手段の機能ブロック図である。
【図4】実施の形態1に係るレドックスフロー電池における制御手段の動作シーケンスを示すフローチャートである。
【図5】実施の形態2に係るレドックスフロー電池を説明するための概要図であり、循環ポンプが起動した状態を示す。
【図6】実施の形態2に係るレドックスフロー電池を説明するための概要図であり、循環ポンプが停止した状態を示す。
【図7】実施の形態3に係るレドックスフロー電池を説明するための概要図である。
【図8】変形例7に係るレドックスフロー電池を説明するための概要図である。
【図9】従来のレドックスフロー電池を説明するための概要図である。
【図10】セルスタックを説明するための概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本発明の実施の形態を、図を用いて説明する。なお、以下に説明する実施の形態では、バナジウム系レドックスフロー電池を例に挙げて説明する。図中、同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0062】
(実施の形態1)
図1、2に示す実施の形態1に係るレドックスフロー電池1は、電池セル10と正負極用の各電解液タンク20、各循環経路30及び各循環ポンプ40との基本構成を備える点は、図8を用いて説明した従来のレドックスフロー電池4と同様である。よって、ここでは、基本構成についての説明は省略し、従来の電池との相違点を中心に説明する。
【0063】
レドックスフロー電池1は、電池セル10内の電解液を回収するための回収空間部50と、電池セル10と回収空間部50とを連通する回収通路51と、回収通路51を開閉する第1開閉手段55と、往路配管31を開閉する第2開閉手段56と、を備える。この例では、回収空間部50、回収通路51、第1開閉手段55及び第2開閉手段56は、正極用と負極用にそれぞれ設けられている。また、このレドックスフロー電池1は、電池セル10と電解液タンク20とが略水平に並設されている。
【0064】
回収空間部50は、電池セル10より低い位置に設置されており、この例では、電池セル10(正極セル102、負極セル103)内に流通する電解液の液量と同等以上の容積(例えば100〜200リットル程度)を有している。回収空間部50は、例えば扁平容器状のタンクである。また、この例では、電池セル10の下部と回収空間部50とを回収通路51で直接接続している。
【0065】
第1開閉手段55及び第2開閉手段56はバルブであり、この例では、自動バルブを用いている。また、レドックスフロー電池1は、図3に示すように、第1開閉手段55を制御する第1開閉手段制御部91と、第2開閉手段56を制御する第2開閉手段制御部92とを有する制御手段90を備える。この制御手段90は、コンピュータや、リレーなどを用いたシーケンス回路で実現できる。制御手段90は、循環ポンプ40の状態、例えは循環ポンプ40の停止/起動信号に応じて、次のように動作する。循環ポンプ40が停止するときに、第2開閉手段制御部92により第2開閉手段56を介して往路配管31を閉じると共に、第1開閉手段制御部91により第1開閉手段55を介して回収通路51を開ける。また、循環ポンプ40が起動するときに、第1開閉手段制御部91により第1開閉手段55を介して回収通路51を閉じると共に、第2開閉手段制御部92により第2開閉手段56を介して往路配管31を開ける(図1〜3参照)。
【0066】
循環ポンプ40の停止又は起動時におけるレドックスフロー電池1の動作について、図4に示すフローチャートを用いて説明する。
【0067】
循環ポンプ40が起動し、循環経路30に電解液を循環させて運転しているときは、往路配管31が開いており、従来の電池と同様に、電解液タンク20から往路配管31を介して電解液が電池セル10に送られ、電池セル10内を通った電解液は、復路配管32を介して電解液タンク20に戻されて循環する。また、回収通路51は閉じられており、運転中は、循環経路30に循環させる電解液が回収空間部50に流入しない(図1参照)。
【0068】
次に、循環ポンプ40が停止するときは、回収通路51が自動的に開いて、回収通路51を通して電池セル10(正極セル102、負極セル103)内の電解液を回収空間部50に回収する。即ち、電池セル10内の電解液が抜かれる。また、このとき、往路配管31が自動的に閉じて、電解液タンク20の電解液が往路配管31を通って回収空間部50に流入しない(図2参照)。具体的には、図4の制御手段のフローチャートに示すように、循環ポンプ40の停止/起動信号を受信し、循環ポンプ40の停止信号である場合は、循環ポンプ40を停止し、第2開閉手段56を介して往路配管31を閉じ、第1開閉手段55を介して回収通路51を開けて終了する。ここで、回収通路51を開く前に往路配管31を閉じておくと、電解液タンク20の電解液が往路配管31を通って回収空間部50に流入することを確実に防止できて好ましい。
【0069】
再び、循環ポンプ40が起動し、運転を開始するときは、回収通路51が自動的に閉じると共に往路配管31が自動的に開いて、循環経路30に循環させる電解液が回収空間部50に流入しないようにしながら、循環経路30に電解液を循環させて運転を開始する(図1参照)。具体的には、図4の制御手段のフローチャートに示すように、循環ポンプ40の停止/起動信号を受信し、循環ポンプ40の起動信号である場合は、第1開閉手段55を介して回収通路51を閉じ、第2開閉手段56を介して往路配管31を開け、循環ポンプ40を起動して終了する。ここでも、往路配管31を開く前に回収通路51を閉じておくと、循環経路30に循環させる電解液が回収空間部50に流入することを確実に防止できて好ましい。
【0070】
以上説明した実施の形態1に係るレドックスフロー電池1は、循環ポンプ40が停止したときに、電池セル10内の電解液を抜くことができるので、電池セル10内に電解液が残存することによる自己放電を抑制することができる。よって、自己放電による電池の放電容量の低下、並びに、自己放電による電解液の発熱に起因する電池セル10の構成部材の劣化を低減することができる。また、回収空間部50の容積が電池セル10内に流通する電解液の液量と同等以上であるので、電池セル10内に残存する電解液を完全に抜くことができる。さらに、制御手段により、循環ポンプ40の状態に応じて回収通路51及び往路配管31の開閉作業を自動で行うので、電池セル内の液抜き作業や電池の運転開始作業を正確に自動で行うことができる。特に、循環ポンプ40の停止・起動が繰り返されるような用途では、これら作業を確実かつ正確に実行することができるので、効果が大きい。
【0071】
(実施の形態2)
図5、6に示す実施の形態2に係るレドックスフロー電池2は、往路配管31に高位置部35が設けられている点が、図1、2を用いて説明した実施の形態1に係るレドックスフロー電池1と相違する。よって、ここでは、レドックスフロー電池1との相違点を中心に説明する。
【0072】
レドックスフロー電池2は、レッドクスフロー電池1の第2開閉手段56に替えて、往路配管31に、電解液タンク20内の電解液21の液面より高い位置に配設される高位置部35が設けられている。また、電解液タンク20内の気相部分22と高位置部35とを連通し、電解液タンク20内の気相を高位置部35に移動させるための第1気相配管60を備える。この第1気相配管60には、チェッキ弁61が設けられている。この例では、正極用と負極用の往路配管31に高位置部35がそれぞれ設けられている。
【0073】
循環ポンプ40の停止又は起動時におけるレドックスフロー電池2の動作を説明する。
【0074】
循環ポンプ40が起動し、循環経路30に電解液を循環させて運転しているときは、従来の電池と同様に、電解液タンク20から往路配管31を介して電解液が電池セル10に送られ、電池セル10内を通った電解液は、復路配管32を介して電解液タンク20に戻されて循環する。また、レドックスフロー電池1と同様に、回収通路51は閉じられており、運転中は、循環経路30に循環させる電解液が回収空間部50に流入しない(図5参照)。
【0075】
次に、循環ポンプ40が停止したときは、回収通路51が自動的に開いて、回収通路51を通して電池セル10(正極セル102、負極セル103)内の電解液を回収空間部50に回収する。また、このとき、往路配管31内の電解液の液面が電解液タンク20内の電解液の液面と等しくなり、電解液タンク20の電解液が高位置部35を越えて電池セル10側に流れない。よって、電解液タンク20の電解液が往路配管31を通って回収空間部50に流入しない(図6参照)。つまり、レドックスフロー電池2では、往路配管31に高位置部35を設けると共に、この高位置部35に第1気相配管60を接続することで、電解液タンク20の電解液が回収空間部50に流入することを防止している。これに対し、レドックスフロー電池1では、循環ポンプ40の停止時に、第2開閉手段56を介して往路配管31を閉じることで、電解液タンク20の電解液が回収空間部50に流入することを防止している。
【0076】
再び、循環ポンプ40が起動し、運転を開始するときは、レドックスフロー電池1と同様に、回収通路51が自動的に閉じ、循環経路30に循環させる電解液が回収空間部50に流入しないようにしながら、循環経路30に電解液を循環させて運転を開始する(図5参照)。
【0077】
以上説明した実施の形態2に係るレドックスフロー電池2は、実施の形態1に係るレドックスフロー電池1のように往路配管31に第2開閉手段56を設けなくても、簡易な構成で同様の効果が期待できる。また、電解液タンク20内の気相部分と高位置部35とを第1気相配管60で接続することで、電池セル内の液抜き作業時に電解液タンク20内の気相が高位置部35に移動し、往路配管31(高位置部35)が負圧になることを防ぎ、電解液タンク20の電解液がサイフォンの原理で電池セル10側に流れるのを防止できる。さらに、第1気相配管60にチェッキ弁61を設けたことにより、往路配管31の電解液が第1気相配管60に逆流することもない。
【0078】
次に、上記した実施の形態1、2に係るレドックスフロー電池1、2における各種変形例を説明する。
【0079】
(変形例1)
上記したレドックスフロー電池1、2では、電池セル10の下部と回収空間部50とを回収通路51で直接接続する場合を例に説明したが、電池セル10の下部に変えて、電池セル10より下方に位置する往路配管31の途中に回収通路51を接続してもよい。この場合、レドックスフロー電池1の場合は、第2開閉手段56よりも電池セル10側の往路配管31の途中に回収通路51を接続し、レドックスフロー電池2の場合は、高位置部35よりも電池セル10側の往路配管31の途中に回収通路51を接続する。
【0080】
(変形例2)
上記したレドックスフロー電池1では、第1開閉手段55及び第2開閉手段56を自動バルブとし、回収通路51及び往路配管31の開閉作業を制御手段により自動で行う場合を例に説明したが、第1開閉手段55及び第2開閉手段56のいずれか一方又は両方を手動バルブとしてもよい。この場合、循環ポンプ40の停止又は起動時に、手動バルブとした第1開閉手段55及び第2開閉手段56のいずれか一方又は両方を手動で操作して、回収通路51及び往路配管31のいずれか一方又は両方の開閉作業を手動で行う。また、同様に、上記したレドックスフロー電池2においても、第1開閉手段55を手動バルブとしてもよく、この場合、循環ポンプ40の停止又は起動時に、第1開閉手段55を手動で操作して、回収通路51の開閉作業を手動で行う。
【0081】
(変形例3)
上記したレドックスフロー電池1、2では、回収空間部50を正極用と負極用にそれぞれ設ける場合を例に説明したが、回収空間部50を正極用又は負極用のいずれか一方にのみ設けてもよい。この場合であっても、自己放電を抑制する効果が期待できる。
【0082】
(変形例4)
上記したレドックスフロー電池1において、停電時に、第2開閉手段56が作動して往路配管31を開け、電解液タンク20から電池セル10に電解液を供給することで、電池セル10から循環ポンプ40に電力を供給する構成を追加してもよい。
【0083】
上記したレドックスフロー電池1では、図2に示すように、循環ポンプ40が停止した状態では、電池セル10内の電解液が回収空間部50に回収され、電池セル10内が空になっており、一方で、電解液タンク20には電解液が貯蔵されている。そこで、停電時などの非常事態に、第2開閉手段56が作動して往路配管31を自動的に開くように構成しておけば、電解液タンク20内と電池セル10内とのヘッド圧差で電解液が電解液タンク20から電池セル10に往路配管31を通って自動的に供給される。そして、電池セル10内に電解液が供給されることで、電池セル10の電圧が上昇し、電池セル10から循環ポンプ40への電力供給が可能となる。この電力を循環ポンプ40に供給することで、循環ポンプ40を起動して、電池の運転を開始することができる。電池の運転開始後、電池セル10から循環ポンプ40に電力を供給し続けることで、停電時などの非常事態であっても、電池の運転を続けることが可能である。なお、第2開閉手段56が手動バルブの場合は、停電時などの非常事態に、第2開閉手段56を手動で操作して往路配管31を開けてもよい。また、この構成を追加する場合、停電時などの非常事態に、第1開閉手段55を介して回収通路51を閉じておくことが好ましく、第1開閉手段55が作動して回収通路51を自動的に閉じるように構成しておくことが好ましい。
【0084】
停電時に第2開閉手段56が作動して往路配管31を自動的に開くように構成するには、例えば、第2開閉手段作動用の補助電源(例、二次電池や無停電電源装置)を別途用意し、この補助電源から第2開閉手段56に電力を供給すればよい。また同様に、停電時に第1開閉手段55が作動して回収通路51を自動的に閉じるように構成するには、例えば、第1開閉手段作動用の補助電源(例、二次電池や無停電電源装置)を別途用意し、この補助電源から第1開閉手段55に電力を供給すればよい。
【0085】
(実施の形態3)
図7に示す実施の形態3に係るレドックスフロー電池3は、復帰配管70と送液ポンプ71とを備える点が、図1、2を用いて説明した実施の形態1に係るレドックスフロー電池1と相違する。よって、ここでは、レドックスフロー電池1との相違点を中心に説明する。
【0086】
レドックスフロー電池3は、回収空間部50と電解液タンク20とを連通し、回収空間部50内の電解液を電解液タンク20に復帰させるための復帰配管70と、復帰配管70を介して、回収空間部50内の電解液を電解液タンク20に送液する送液ポンプ71と、を備える。
【0087】
送液ポンプ71は、この例では、電動ポンプであり、復帰配管70の途中に取り付けられている。また、復帰配管70は、回収空間部50の下部と電解液タンク20の上部とを連通するように接続されている。ここで、送液ポンプには、エアポンプを用いることもできる。エアポンプを使用する場合、例えば、回収空間部50にエアポンプを取り付け、エアポンプからエア(気体)を供給して、その圧力で回収空間部50内の電解液を押出し、復帰配管70を介して回収空間部50内の電解液を電解液タンク20に圧送することが考えられる。
【0088】
上述したように、循環ポンプ40の停止時には、電池セル10内の電解液が回収空間部50に回収される。レドックスフロー電池3によれば、回収空間部50内の電解液を復帰配管70を介し送液ポンプ71を用いて電解液タンク20に送液する(戻す)ことができ、回収空間部50に回収された電解液を再使用することができる。特に、循環ポンプ40の停止・起動が繰り返されるような用途では、送液ポンプ71により電解液タンクへの液戻し作業を効率的に実行することができるので、効果が大きい。なお、電解液タンクへの液戻し作業は、作業員が手動ポンプやバケツなどを用いて手作業で行うことができることは勿論である。また、この電解液タンクへの液戻し作業は、例えば、電池セル内の液抜き作業時や、電池の運転中に行うことが挙げられる。
【0089】
ここでは、実施の形態1に係るレドックスフロー電池1に、復帰配管70と送液ポンプ71とを追加する場合を例に挙げて説明したが、実施の形態2に係るレドックスフロー電池2においても、復帰配管と送液ポンプとを同様に追加することができることは勿論である。
【0090】
(変形例5)
上記したレドックスフロー電池3において、二次電池或いは無停電電源装置などの補助電源を有し、この補助電源から送液ポンプに電力を供給する構成を追加してもよい。
【0091】
送液ポンプ71(例、電動ポンプやエアポンプ)の電源に商用電源を用いた場合、停電時に、送液ポンプ71による電解液タンクへの液戻し作業を行うことができない。そこで、送液ポンプ71の電源に補助電源(例、二次電池や無停電電源装置)を用いることで、停電時であっても、送液ポンプ71による電解液タンクへの液戻し作業を実行することができる。
【0092】
(変形例6)
上記したレドックスフロー電池3において、電池セル10から送液ポンプ71に電力を供給する構成を追加してもよい。
【0093】
電池セル内の液抜き作業時、電池セル10内の電解液が完全に抜け切るまでにはある程度の時間を要し、この間は電池セル10に電圧が発生する。つまりこの間は電池セル10から送液ポンプ40への電力供給が可能となる。そこで、送液ポンプ71の電源に電池セル10を用いることで、電池セル10内の液抜き作業中に発生する電池セル10の電圧を有効利用して、送液ポンプ71による電解液タンクへの液戻し作業を実行することができる。また、送液ポンプ71の電源として二次電池或いは無停電電源装置を別途有する必要がない。一方で、電池セル10から電力を供給し送液ポンプ71を運転することで、電池セル10の電圧がなくなった(電池の発電能力がなくなった)場合は、電池セル10内に電解液が一部残存するようなことがあっても、そもそも自己放電が生じ得ないので、電池セル内の液抜き作業を中止してもよい。
【0094】
(変形例7)
上記したレドックスフロー電池3において、図8に示すように、電解液タンク20内の気相部分と回収空間部50とを連通し、電解液タンク20内の気相を回収空間部50に移動させるための第2気相配管80を備える構成を追加してもよい。
【0095】
図7に示すレドックスフロー電池3において、第1開閉手段55を介して回収通路51を閉じた状態で送液ポンプ71を起動し、回収空間部50内の電解液を電解液タンク20に送液すると、回収空間部が負圧になり、回収空間部が破損する虞がある。そこで、図8に示すように、電解液タンク20内の気相部分と回収空間部50とを第2気相配管80で接続することで、送液ポンプ71による電解液タンクへの液戻し作業時に電解液タンク20内の気相が回収空間部50に移動し、回収空間部50が負圧になることを防ぎ、回収空間部50の破損を防止できる。つまり、回収通路51を開閉の状態に関係なく、例えば電池の運転中などであっても、送液ポンプ71による電解液タンクへの液戻し作業が行い易い。
【0096】
(変形例8)
上記したレドックスフロー電池3において、回収空間部50内の電解液の液量を検知する液量検知手段と、送液ポンプ71を制御する送液ポンプ制御部と、を有する構成を追加してもよい。
【0097】
液量検知手段は、回収空間部50内の電解液量を検知可能なものであれば、特に限定されるものではなく、例えばセンサやスイッチを使用することができる。センサとしては、例えば、光学式、静電容量式、超音波式、フロート式などの各種液面レベルセンサや液量センサが挙げられる。スイッチとしては、例えば、フロートスイッチなどのレベルスイッチが挙げられる。また、送液ポンプ制御部は、上述した第1開閉手段制御部と第2開閉手段制御部とを有する制御手段(コンピュータ)に組み込む他、リレーなどを用いたシーケンス回路で実現してもよい。
【0098】
この変形例8のレドックスフロー電池では、液量検知手段が、回収空間部50内の電解液の液量が所定の上限以上になったことを検知したとき、送液ポンプ制御部が送液ポンプ71を起動し、送液ポンプ71が送液を開始する。よって、回収空間部50内の電解液量が所定の上限以上になったときに、送液ポンプ71が自動的に送液を開始するので、電解液タンク20への液戻し作業を自動で行うことができる。また、電池セル内の液抜き作業を繰り返し行っても、回収空間部50内が回収された電解液で満杯になることがない。さらに、回収空間部50の容積が電池セル10内に流通する電解液量より小さい場合であっても、電池セル10内の電解液が完全に抜け切るまで電池セル内の液抜き作業を支障なく実行することができる。
【0099】
(変形例9)
上記した変形例8のレドックスフロー電池において、液量検知手段が、回収空間部50内の電解液の液量が所定の下限以下になったことを検知したとき、送液ポンプ制御部が送液ポンプ71を停止し、送液ポンプ71が送液を停止する構成を追加してもよい。
【0100】
この変形例9のレドックスフロー電池では、回収空間部50内の電解液量が所定の下限以下になったとき、送液ポンプ71が自動的に送液を停止するので、電解液タンクへの液戻し作業を自動で終了することができる。
【0101】
(変形例10)
上記した変形例8のレドックスフロー電池において、送液ポンプ制御部がタイマーを有し、タイマーにより送液ポンプ71の起動から所定の時間が経過したことを検知したとき、送液ポンプ制御部が送液ポンプ71を停止し、送液ポンプ71が送液を停止する構成を追加してもよい。
【0102】
この変形例10のレドックスフロー電池では、送液ポンプ71の起動から所定の時間が経過したとき、送液ポンプ71が自動的に送液を停止するので、電解液タンクへの液戻し作業を自動で終了することができる。上記した変形例9のレドックスフロー電池では、液量検知手段により回収空間部50内の電解液の液量が所定の下限以下になったことを検知する必要がある。これに対し、この変形例10のレッドクスフロー電池では、タイマーを用いるため、液量検知手段により回収空間部50内の電解液の液量が所定の下限以下になったことを検知しなくてもよい。そのため、液量検知手段は、回収空間部内の電解液の液量が所定上限になったことのみを検知すればよく、上記したセンサやスイッチの数を減らすことができる。
【0103】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、電解液の種類や、第1開閉手段及び第2開閉手段に用いるバルブの種類などを適宜変更してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の電解液流通型電池は、出力変動の平滑化、余剰電力の貯蔵、負荷平準化などを図ることを目的とした大容量蓄電池に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0105】
1,2,3,4 電解液流通型電池(レドックスフロー電池)
10 電池セル
101 隔膜 102 正極セル 103 負極セル
104 正極電極 105 負極電極
20 電解液タンク
21 電解液 22 気相部分
30 循環経路
31 往路配管 32 復路配管 35 高位置部
40 循環ポンプ
200 セルスタック
201 双極板 202 セルフレーム
210 エンドプレート 220 締結部材
50 回収空間部 51 回収通路
55 第1開閉手段 56 第2開閉手段
60 第1気相配管 61 チェッキ弁
70 復帰配管 71 送液ポンプ
80 第2気相配管
90 制御手段
91 第1開閉手段制御部 92 第2開閉手段制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池セルと、
電解液を貯蔵する電解液タンクと、
前記電解液を前記電解液タンクから前記電池セルに送る往路配管と、前記電解液を前記電池セルから前記電解液タンクに戻す復路配管とを有する循環経路と、
前記循環経路に前記電解液を循環させる循環ポンプと、を備える電解液流通型電池であって、
前記電池セルより低い位置に設置され、前記電池セル内の前記電解液を回収するための回収空間部と、
前記電池セルと前記回収空間部とを連通する回収通路と、
前記回収通路を開閉する第1開閉手段と、を備えることを特徴とする電解液流通型電池。
【請求項2】
前記回収空間部の容積が、前記電池セル内に流通する前記電解液の液量と同等以上であることを特徴とする請求項1に記載の電解液流通型電池。
【請求項3】
前記第1開閉手段が、バルブであることを特徴とする請求項1又は2に記載の電解液流通型電池。
【請求項4】
前記第1開閉手段が、自動バルブであり、
前記第1開閉手段を制御する第1開閉手段制御部を有し、
前記第1開閉手段制御部は、前記循環ポンプが停止するときに、前記第1開閉手段を介して前記回収通路を開けることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電解液流通型電池。
【請求項5】
前記第1開閉手段制御部は、前記循環ポンプが起動するときに、前記第1開閉手段を介して前記回収通路を閉じることを特徴とする請求項4に記載の電解液流通型電池。
【請求項6】
前記往路配管を開閉する第2開閉手段を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の電解液流通型電池。
【請求項7】
前記第2開閉手段が、バルブであることを特徴とする請求項6に記載の電解液流通型電池。
【請求項8】
前記第2開閉手段が、自動バルブであり、
前記第2開閉手段を制御する第2開閉手段制御部を有し、
前記第2開閉手段制御部は、前記循環ポンプが停止するときに、前記第2開閉手段を介して前記往路配管を閉じることを特徴とする請求項6又は7に記載の電解液流通型電池。
【請求項9】
前記第2開閉手段制御部は、前記循環ポンプが起動するときに、前記第2開閉手段を介して前記往路配管を開けることを特徴とする請求項8に記載の電解液流通型電池。
【請求項10】
前記第1開閉手段及び第2開閉手段がそれぞれ、自動バルブであり、
前記第1開閉手段を制御する第1開閉手段制御部と、前記第2開閉手段を制御する第2開閉手段制御部とを有する制御手段を備え、
前記制御手段は、
前記循環ポンプが停止するときに、前記第2開閉手段制御部により前記第2開閉手段を介して前記往路配管を閉じると共に、前記第1開閉手段制御部により前記第1開閉手段を介して前記回収通路を開け、
前記循環ポンプが起動するときに、前記第1開閉手段制御部により前記第1開閉手段を介して前記回収通路を閉じると共に、前記第2開閉手段制御部により前記第2開閉手段を介して前記往路配管を開けることを特徴とする請求項6又7に記載の電解液流通型電池。
【請求項11】
前記往路配管に、前記電解液タンク内の前記電解液の液面より高い位置に配設される高位置部が設けられ、
前記電解液タンク内の気相部分と前記高位置部とを連通し、前記電解液タンク内の気相を前記高位置部に移動させるための第1気相配管を備えることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の電解液流通型電池。
【請求項12】
前記回収空間部と前記電解液タンクとを連通し、前記回収空間部内の前記電解液を前記電解液タンクに復帰させるための復帰配管と、
前記復帰配管を介して、前記回収空間部内の前記電解液を前記電解液タンクに送液する送液ポンプと、を備えることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の電解液流通型電池。
【請求項13】
前記送液ポンプが、電動ポンプ又はエアポンプであることを特徴とする請求項12に記載の電解液流通型電池。
【請求項14】
二次電池或いは無停電電源装置を有し、
前記二次電池或いは無停電電源装置から前記送液ポンプに電力を供給することを特徴とする請求項12又は13に記載の電解液流通型電池。
【請求項15】
前記電池セルから前記送液ポンプに電力を供給することを特徴とする請求項12又は13に記載の電解液流通型電池。
【請求項16】
前記電解液タンク内の気相部分と前記回収空間部とを連通し、前記電解液タンク内の気相を前記回収空間部に移動させるための第2気相配管を備えることを特徴とする請求項12〜15のいずれか一項に記載の電解液流通型電池。
【請求項17】
前記回収空間部内の前記電解液の液量を検知する液量検知手段と、
前記送液ポンプを制御する送液ポンプ制御部と、を有し、
前記液量検知手段が、前記回収空間部内の前記電解液の液量が所定の上限以上になったことを検知したとき、前記送液ポンプ制御部が前記送液ポンプを起動し、前記送液ポンプが送液を開始することを特徴とする請求項12〜16のいずれか一項に記載の電解液流通型電池。
【請求項18】
前記液量検知手段が、前記回収空間部内の前記電解液の液量が所定の下限以下になったことを検知したとき、前記送液ポンプ制御部が前記送液ポンプを停止し、前記送液ポンプが送液を停止することを特徴とする請求項17に記載の電解液流通型電池。
【請求項19】
前記送液ポンプ制御部がタイマーを有し、
前記タイマーにより前記送液ポンプの起動から所定の時間が経過したことを検知したとき、前記送液ポンプ制御部が前記送液ポンプを停止し、前記送液ポンプが送液を停止することを特徴とする請求項17に記載の電解液流通型電池。
【請求項20】
停電時に、前記第2開閉手段が作動して前記往路配管を開け、前記電解液タンクから前記電池セルに電解液を供給することで、前記電池セルから前記循環ポンプに電力を供給することを特徴とする請求項6〜10のいずれか一項に記載の電解液流通型電池。
【請求項21】
レドックスフロー電池であることを特徴とする請求項1〜20のいずれか一項に記載の電解液流通型電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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