説明

電解液組成物及びその製造方法並びに当該電解液組成物を含むアルミ電解コンデンサ駆動用電解液

【課題】各種電気化学デバイスのイオン伝導体として用いた場合に、周辺部材の腐食やイオン伝導性の低下が生じ難い電解液組成物及びこれを用いた電解液およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の電解液組成物は、下記一般式(I)で表されるイミダゾリニウム誘導体と、トリシアノメチドからなるイオン性化合物と、溶媒を含み、且つ、アルカリ金属イオンを1000ppm以下、および、ハロゲンイオンを500ppm以下含む。


(式中、R1,R3,R4およびR5は、互いに独立して、水素、または、炭素数1〜3のアルキル基を示し、R2は、炭素数1〜3のアルキル基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液組成物、及び、その製造方法、並びに当該電解液組成物を用いたアルミ電解コンデンサ駆動用電解液に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオンとアニオンとの組み合わせにより構成されるイオン性化合物は、イオン伝導性を有することから、一次電池、リチウム(イオン)二次電池や燃料電池等の充電及び放電機構を有する電池の他、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、太陽電池、エレクトロクロミック表示素子等の電気化学デバイス等のイオン伝導性材料として用いられている。
【0003】
例えば、上述のような電気化学デバイスのイオン伝導性材料として用いられるイオン性化合物としては、トリエチルアミンとマレイン酸やフタル酸との塩や、テトラアルキルアンモニウムとマレイン酸やフタル酸の塩や、オニウムカチオンとトリシアノメチリドアニオン、ジシアナミドアニオン、チオイソシアネートアニオン等からなるイオン性化合物が記載されている(特許文献1)。また、非特許文献1には、出発原料にアルカリ金属やハロゲンを含む出発原料を用いてイオン性化合物を製造する例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−227909号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】イオン性液体−開発の最前線と未来(p.9〜16)、2003年4月15日第2刷発行、発行所:株式会社シーエムシー出版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び非特許文献1に記載されているように、上記イオン性化合物は、アルカリ金属やハロゲンを対イオンとするアニオン塩とカチオン塩との交換反応により合成される。したがって、アルカリ金属やハロゲン等が含まれる原料を用いた場合には、生成物中にイオン性化合物以外のイオン成分が含まれる場合がある。特に、ナトリウムイオン等のアルカリ金属や塩化物イオン等のハロゲンを対イオンとして含むアニオン塩やカチオン塩を原料とした場合、これらのイオン成分が、イオン性化合物が用いられる各種電気化学デバイスにおいて、電極材料を腐食させたり、また、電解液として用いた場合には、電解液のpHを変動させて、封止剤等の周辺部材を劣化させたり、電極に形成された酸化皮膜を劣化させる原因となるといった問題があった。
【0007】
本発明は、上記事情に着目してなされた発明で、その目的は、各種電気化学デバイスのイオン伝導体として用いた場合に、周辺部材の腐食やイオン伝導性の低下が生じ難い電解液組成物及びこれを用いた電解液を提供することである。また、本発明は、上述のような不純なイオン成分の少ない、電解液組成物を製造する方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電解液組成物とは、下記一般式(I)で表されるイミダゾリニウム誘導体と、トリシアノメチドからなるイオン性化合物と、溶媒を含み、且つ、アルカリ金属イオンを1000ppm以下、及び、ハロゲンイオンを500ppm以下含むところに特徴を有する。
【0009】
【化1】

(式中、R1,R3,R4およびR5は、互いに独立して、水素、または、炭素数1〜3のアルキル基を示し、R2は、炭素数1〜3のアルキル基を示す。)
【0010】
本発明の電解液組成物は、当該組成物中に含まれる上記イオン成分(アルカリ金属イオンやハロゲンイオン)が低減されているので、これを電解液として使用した場合に、例えば、電極や周辺部材の腐食、陽極酸化皮膜化成性の阻害、電解液のイオン伝導性の低下等が起こり難いものである。したがって、イオン伝導性材料として良好なイオン伝導性能を維持することができる。
【0011】
本発明の電解液組成物中、上記イオン性化合物は1質量%〜60質量%含まれているのが好ましい。
【0012】
上記イオン性化合物は、上記イミダゾリニウム誘導体の塩と、トリシアノメチドのアルカリ金属塩との塩交換反応により得られるものであるのが好ましく、さらに、上記塩交換反応の後、溶媒抽出法により精製して得られたものであるのが望ましい。塩交換反応により、イオン性化合物が容易に得られ、また、当該反応の後に、塩交換反応生成物からイオン性化合物を抽出することにより、電解液組成物中の不純なイオン成分を低減することができる。
【0013】
また、上記溶媒は、γ−ブチロラクトンであるのが望ましい。
【0014】
本発明の電解液組成物の製造方法とは、上述の電解液組成物の製造方法であって、
イミダゾリニウム誘導体の塩と、トリシアノメチドのアルカリ金属塩とを反応させて塩交換を行う塩交換工程と、
上記塩交換工程で得られた生成物を溶媒抽出法により精製する精製工程、
とを、この順で含むところに特徴を有する。
【0015】
上記工程を含む製造方法によれば、不純なイオン成分(アルカリ金属イオン及びハロゲンイオン等)の含有量が少ない電解液組成物を提供することができる。
【0016】
また、上述の電解液組成物を用いたアルミ電解コンデンサ駆動用電解液は推奨される本発明の実施態様である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電解液組成物は、出発原料や、製造工程に由来する不純なイオン成分の含量が少ないものである。従って、本発明の電解液組成物を用いた電解液は、電解液の性能劣化や周辺部材の腐食が生じ難いものである。また、本発明法によれば、上述のような不純なイオン成分の少ない電解液組成物を工業的なスケールで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】電解コンデンサのコンデンサ素子の一形態を示す概略斜視図である。
【図2】アルミ電解コンデンサの一形態を示す断面模式図である。
【図3】アルミニウム電解コンデンサの要部切断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<電解液組成物>
本発明の電解液組成物とは、上記一般式(I)で表されるイミダゾリニウム誘導体と、トリシアノメチドからなるイオン性化合物と、溶媒を含み、且つ、アルカリ金属イオンを1000ppm以下、ハロゲンイオン(Cl-)を500ppm以下含むところに特徴を有するものである。
【0020】
本発明の電解液組成物中におけるアルカリ金属イオン濃度は1000ppm以下である。アルカリ金属イオンが電解液組成物中に存在すると、電解液組成物を電解液等のイオン伝導性材料として用いたときに、電解液系内に混入した水の加水分解反応により生じたOH-と、アルカリ金属イオンとが水酸化物、例えば、アルカリ金属イオンがナトリウムイオン(Na+)であれば、NaOHを形成する。しかしながら、電解液中でNaOHは、ナトリウムイオンと水酸化物イオンとが電離した状態で存在するため、電解液のpHが上昇し(アルカリ性)、その結果、強アルカリ成分により電極材料が溶解され、電気化学デバイスの性能が劣化するといった不良が生じ易くなる。
【0021】
したがって、電解液組成物中のアルカリ金属イオン量はできるだけ低減することが望ましく、好ましくは500ppm以下であり、より好ましくは100ppm以下であり、さらに好ましくは20ppm以下である。このようなイオン成分は電解液中に含まれないのが好ましいが(0ppm)、製造工程等で、出発原料に係るイオン成分が含まれる場合には、後述する本発明の方法により、これらのイオン成分を低減することが好ましい。なお、アルカリ金属イオン含有量の下限は0.1ppmであれば、上述のような問題が生じ難いので好ましい。より好ましい下限は0.01ppmであり、さらに好ましくは0.001ppmである。
【0022】
なお、アルカリ金属イオンの中でも、Na+,Li+,K+の電解液組成物中における存在量を上記範囲とすることが好ましく、存在量の一層の低減が望まれるものとしては、Na+,K+が挙げられ、特にNa+の存在量を上記範囲とすることが好ましい。
【0023】
一方、ハロゲンイオンは、電解液中に混入した水の電気分解により生成する水素イオン(H+)と結合し、ハロゲン化水素を形成する。例えば、塩化物イオン(Cl-)は、水素イオン(H+)と結合しHClを形成するが、電解液中では、水素イオンと塩化物イオンは電離して存在するため、電解液のpHが低下する(酸性)。その結果、電解液中に生成した強酸性成分により電極材料が溶解し、電気化学デバイスの性能の低下を引き起こす。また、ハロゲンイオンは電極材料と反応して電極材料を腐食させる場合がある。
【0024】
したがって、本発明では、電解液組成物中のハロゲンイオン量を500ppm以下としている。好ましくは100ppm以下であり、より好ましくは10ppm以下であり、さらに好ましくは5ppm以下である。アルカリ金属イオン同様、ハロゲンイオンも、電解液組成物中に含まれていないのが好ましいが(0ppm)、0.1ppm程度であれば、上述のような問題は生じ難い。より好ましい下限は0.01ppmであり、さらに好ましくは0.001ppmである。F-、Cl-、Br-、I-のハロゲンイオンの中でも、特にCl-の電解液組成物中における存在量を上述の範囲とすることが好ましい。
【0025】
本発明の電解液組成物は、上記アルカリ金属イオン、ハロゲンイオンの他、硫酸イオン(SO42-)及び/又は硝酸イオン(NO3-)の含有量が500ppm以下であるのが好ましい。硫酸イオンや硝酸イオンも、電極材料を腐食させたり、pHを低下させ、電解液の性能を劣化させる虞があるからである。より好ましくは、硫酸イオン及び/又は硝酸イオンの含有量が100ppm以下であり、さらに好ましくは10ppm以下である。もちろん、硫酸イオンや硝酸イオンが含まれないのは本発明の電解液組成物の好ましい態様ではあるが、硫酸イオン及び/又は硝酸イオンの含有量は0.1ppm程度であれば、上述のような問題は生じ難いので許容される。より好ましい下限は0.01ppmであり、さらに好ましくは0.001ppmである。
【0026】
これらの不純なイオン成分は、例えば、イオン性化合物の原料となるアニオンあるいはカチオンの対イオンとして含まれる場合の他、これらのアニオン塩、カチオン塩の合成において用いられた原料、中間体及び精製工程等に由来するものと考えられる。なお、これらのイオン成分量の測定方法は、実施例において詳述する。
【0027】
次に、本発明の電解液組成物に含まれるイオン性化合物について説明する。本発明に係るイオン性化合物とは、イミダゾリニウム誘導体(カチオン)と、トリシアノメチド(アニオン)からなるものである(置換テトライミダゾリニウムトリシアノメチド)。まず、イミダゾリニウム誘導体から説明する。
【0028】
本発明に係るイミダゾリニウム誘導体は、下記一般式(I)の構造を有するものである。
【0029】
【化2】

【0030】
上記一般式(I)中、R1,R3,R4およびR5は、互いに独立して、水素、または、炭素数1〜3のアルキル基を示し、R2は、炭素数1〜3のアルキル基を示す。R2に水素以外の置換基を有することで、イミダゾリニウム環の熱安定性が向上する。なお、R1,R3,R4およびR5が炭素数4以上のアルキル基である場合には、立体的要因によりイオン伝導度が下がるため、好ましくない。
【0031】
なお、上記一般式(I)は、下記一般式(I−1)、(I−2)で示される構造と等価である。
【0032】
【化3】

【0033】
上記一般式(I)に示されるように、本発明に係るイミダゾリニウム誘導体は、アミジン骨格部分(−N(R1)−C(R2)−N(R3)−)において、電荷が非局在化した安定な構造となっている。したがって、当該構造を有するイオン性化合物は、イオンへの解離が促進され、高いイオン伝導性を示すものと考えられる。また、上記骨格を有するイミダゾリニウム誘導体は、コンデンサ使用時に電解液中に生成する水酸化物イオンの捕捉能も有する。したがって、上記一般式(I)で表されるイミダゾリニウム誘導体をカチオン成分として含むイオン性化合物をコンデンサの電解液として使用することで、電解生成物による液性の変化や周辺部材の腐食等が抑制され、長期に亘って安定なイオン伝導性を発揮するものとなる。
【0034】
具体的なイミダゾリニウム誘導体としては、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム、2−エチル−1,3,4−トリメチルイミダゾリニウム、1,3−ジメチル−2,4−ジエチルイミダゾリニウム、1,2−ジメチル−3,4−ジエチルイミダゾリニウム、1−メチル−2,3,4−トリエチルイミダゾリニウム、1,2,3,4−テトラエチルイミダゾリニウム、1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウム、2−エチル−1,3−ジメチルイミダゾリニウム、1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリニウム、1,3−ジメチル−2−n−プロピルイミダゾリニウム、1,2,3−トリエチルイミダゾリニウム等が挙げられる。中でも、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム、1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム及び1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウムがより好ましい。
【0035】
本発明に係るイオン性化合物は、下記式(III)により表されるトリシアノメチドアニオンを、上記イミダゾリニウム誘導体と塩を構成するアニオンとして含有する。
【0036】
【化4】

【0037】
上記トリシアノメチドアニオンを含むイオン性化合物は、優れたイオン伝導度を有すると共にpH安定性にも優れ、さらに、電極等の耐腐食性にも優れるものである。また、トリシアノメチドアニオンを上述のイミダゾリニウム誘導体の対アニオンとすることで、低比抵抗なイオン伝導体となる。したがって、本発明に係るイオン性化合物とは、下記式で表されるイオン性化合物である(置換イミダゾリニウムトリシアノメチド)。
【0038】
【化5】

【0039】
上記イミダゾリニウム誘導体とトリシアノメチドアニオンとからなる置換イミダゾリニウムトリシアノメチドは、イミダゾリニウム誘導体の有する置換基(R1〜R5)にもよるが、おおよそ−20℃〜50℃の融点を有し、150℃〜380℃の熱分解温度を示す。
【0040】
上記イオン性化合物は、本発明の電解液組成物100質量%中1質量%〜60質量%含まれているのが好ましい。より好ましくは3質量%〜50質量%であり、さらに好ましくは5質量%〜40質量%であり、さらに一層好ましくは20質量%〜40質量%である。イオン性化合物量が少なすぎる場合には、電解液として用いた場合に高いイオン伝導度が得られ難い場合があり、一方、過剰に用いると電解液の粘度が上昇し、高いイオン伝導度が得られ難い場合がある。
【0041】
本発明の電解液組成物は溶媒を含む。溶媒としては、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエ−テル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、2,6−ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、クラウンエーテル等のエーテル類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等のカーボネート類;炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジフェニル、炭酸メチルフェニル等の鎖状炭酸エステル類;炭酸エチレン、炭酸プロピレン、2,3−ジメチル炭酸エチレン、炭酸ブチレン、炭酸ビニレン、2−ビニル炭酸エチレン等の環状炭酸エステル類;蟻酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル等の脂肪族カルボン酸エステル類;安息香酸メチル、安息香酸エチル等の芳香族カルボン酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等の環状エステル類;リン酸トリメチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル類;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、2−メチルグルタロニトリル等のニトリル類;N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルピロリドン、N−ビニルピロリドン等のアミド類;ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン等の硫黄化合物類:エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のアルコール類;ジメチルスルホキシド、メチルエチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド類;ベンゾニトリル、トルニトリル等の芳香族ニトリル類;ニトロメタン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、エーテル類、カーボネート類、鎖状炭酸エステル類、環状炭酸エステル類、脂肪族エステル類、環状エステル類がより好ましく、カーボネート類、環状エステル類がさらに好ましく、特に、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類が好ましく、最も好ましいのはγ−ブチロラクトンである。
【0042】
溶媒は、本発明の電解液組成物100質量%中40質量%〜99質量%含まれているのが好ましい。より好ましくは50質量%〜97質量%であり、さらに好ましくは60質量%〜95質量%である。
【0043】
また、本発明の電解液組成物100質量%中の水分量は、5質量%以下であるのが好ましく、より好ましくは2質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下であり、より一層好ましくは0.5質量%以下である。初期の耐電圧特性や電気特性を長期的に維持するためには電解液組成物中の水分量が少ないほど好ましいからである。なお、水分量は0質量%であるのが望ましいが、水分量の下限は0.001質量%程度であればよい。
【0044】
本発明の電解液組成物は、上述のイオン性化合物等とは異なるその他の電解質塩、窒素含有有機化合物および他の任意の添加物を含んでいても良い。
【0045】
本発明の電解液組成物に含み得るその他の電解質塩としては、過塩素酸テトラエチルアンモニウム等の過塩素酸の四級アンモニウム塩;(C254NBF4等のテトラフルオロ硼酸の四級アンモニウム塩;(C254NPF6等の四級アンモニウム塩;(CH34P・BF4、(C254P・BF4等の四級ホスホニウム塩等が好適なものとして例示できる。これらの中でも、溶解性やイオン伝導度の点から、四級アンモニウム塩が好適に用いられる。その他の電解質塩は、本発明に係るイオン性化合物と溶媒の総和100質量部に対して1質量部〜1000質量部用いるのが好ましい。より好ましくは10質量部〜300質量部であり、さらに好ましくは50質量部〜200質量部である。
【0046】
本発明の電解液組成物に含まれ得る他の任意成分としては、例えば、無機酸化物微粒子及び下記添加剤が挙げられる。上記無機酸化物微粒子としては、非電子伝導性で、電気化学的に安定なものが好ましく、イオン伝導性を有するものがより好ましい。このような無機酸化物微粒子としては、例えば、α,β,γ−アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、チタン酸バリウム、ハイドロタルサイト等のセラミックス微粒子が挙げられる。
【0047】
添加剤としては、例えば、電気伝導率の向上、熱安定性の向上、水和や溶解による電極劣化の抑制、ガス発生の抑制、耐電圧の向上、濡れ性の改善等、目的に応じて、任意の適切な添加剤を採用することができる。具体的な添加剤としては、例えば、p−ニトロフェノール、m−ニトロアセトフェノン、p−ニトロ安息香酸等のニトロ化合物、ピラジン、ピリジンなどの含窒素芳香族複素環化合物、リン酸ジブチル、リン酸モノブチル、リン酸ジオクチル、オクチルホスホン酸モノオクチル、リン酸等のリン化合物、ホウ酸またはホウ酸と多価アルコール(エチレングリコール、グリセリン、マンニトール、ポリビニルアルコール等)や多糖類との錯化合物等のホウ素化合物、ニトロソ化合物、尿素化合物、ヒ素化合物、チタン化合物、ケイ酸化合物、アルミン酸化合物、硝酸及び亜硝酸化合物、2−ヒドロキシ−N−メチル安息香酸、ジ(トリ)ヒドロキシ安息香酸等の安息香酸類、グルコン酸、重クロム酸、ソルビン酸、ジカルボン酸、EDTA、フルオロカルボン酸、ピクリン酸、スベリン酸、アジピン酸、セバシン酸、ヘテロポリ酸(タングステン酸、モリブデン酸)、ゲンチシン酸、ボロジゲンチシン酸、サリチル酸、N−アミノサリチル酸、ボロジピロカテコール、バモン酸、ボン酸、ボロジレゾルシル酸、レゾルシル酸、グルタル酸、ジチオカルバミン酸等の酸類、そのエステル、そのアミド及びその塩、シランカップリング剤、シリカ、アミノシリケート等のケイ素化合物、トリエチルアミン、ヘキサメチレンテトラミン等のアミン化合物、L−アミノ酸類、ベンゾール、多価フェノール、8−オキシキノリン、ハイドロキノン、N−メチルピロカテコール、キノリンおよびチオアニソール、チオクレゾール、チオ安息香酸等の硫黄化合物、ソルビトール、L−ヒスチジン等が挙げられる。
【0048】
これら任意の添加剤は、本発明に係るイオン性化合物と溶媒の総和100質量部に対して0.1質量部〜50質量部用いるのが好ましい。より好ましくは0.1質量部〜25質量部であり、さらに好ましくは0.1質量部〜10質量部である。
【0049】
本発明の電解液組成物の形態は特に限定されず、上記イオン性化合物が固体の場合には、上述の成分全てを混合した形態;上記成分を全て個別の状態で保存し、あるいは、いくつかの成分を混合物の状態とし、電解液とする際に全ての成分を混合する形態:であっても良い。一方、上記イオン性化合物が液状である場合には、液状のイオン性化合物に、その他の成分を混合(分散、溶解)した形態;イオン性化合物と、その他の成分とを別個に保存し(その他の成分は、個別であっても、一部または全部が混合状態であってもよい)、電解液とする際に全ての成分を混合する形態等が挙げられる。
【0050】
<製法>
本発明の製造方法とは、上記電解液組成物の製造方法であって、上記イミダゾリニウム誘導体を含む塩と、トリシアノメチドアニオンを含む塩とを反応させて塩交換を行う塩交換工程と、当該塩交換工程で得られた生成物を溶媒抽出法により精製する精製工程とを、この順で含むものであるのが好ましい。上記塩交換工程は、大掛かりな反応装置が不要であり、また、室温下で反応が進行するため好ましい。
【0051】
上記イミダゾリニウム誘導体を含む塩としては、上記イミダゾリニウム誘導体の対アニオンとして、有機酸を含むもの、無機酸を含むもののいずれも使用することができる。イミダゾリニウム誘導体の対アニオンを構成する有機酸としては、例えば、酢酸、ソルビン酸、サリチル酸、N−アミノサリチル酸、グルコン酸、ゲンチシン酸、ボロジゲンチシン酸、ボン酸、フルオロカルボン酸等のモノカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、グルタル酸、シュウ酸、フマル酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、シクロへキサンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸等のジカルボン酸、EDTA等の多価カルボン酸、ピクリン酸およびアルキル炭酸(R−CO3-:Rは炭素数6以下の飽和または不飽和炭化水素基)等が挙げられる。一方、無機酸としては、例えば、BF4-、PF6-、AsF6-、SbF6-、AlCl4-、HSO4-、ClO4-、CH3SO3-、CF3SO3-、CH3CO2-、(CF3SO22-、Cl-、Br-、I-、CO32-、および、NO3-等が挙げられる。
【0052】
これらの中でも、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸等の多価カルボン酸、アルキル炭酸、Cl-、Br-、I-、BF4-、HSO4-、CO32-等の無機酸が好ましく、より好ましくはフタル酸、アルキル炭酸である。
【0053】
なお、イミダゾリニウムを含む塩が対イオンとしてハロゲンイオンを有する場合、あるいは、イミダゾリニウム誘導体の製造工程でハロゲンイオンを含む場合には、本発明の電解液組成物中に含まれるハロゲンイオンは、イミダゾリニウム誘導体に由来するものとなる。
【0054】
上記イミダゾリニウム誘導体を含む塩は、従来公知の方法により製造することができる。例えば、N−非置換イミダゾリンを、ジメチル炭酸やジエチル炭酸等と反応させてN−アルキル化イミダゾリニウム炭酸塩を得た後、フタル酸塩とする製法(特開平8−67672号公報、特開平10−17554号公報、特開平11−322720号公報、特開2001−316372号公報、特開2003−40869号公報等参照)や、N−アセチル−N,N’−ジアルキルエチレンジアミン類を環化させ、N,N’−ジアルキルイミダゾリニウム有機酸塩を得る製法(特開2003−40869号公報、特開平11−322720号公報参照)、及び、NaHの存在下でアルキル化剤により、N−置換イミダゾリンをアルキル化する方法(Chem.Ber.1987,120.2053-2064)等が挙げられる。
【0055】
トリシアノメチドアニオンを含む塩としては、上記トリシアノメチドをアニオンとするものであれば良く、対カチオンは特に限定されない。本発明で使用可能なトリシアノメチドアニオンを含む塩としては、例えば、トリシアノメチドナトリウム、トリシアノメチドカリウム、トリシアノメチドアンモニウム及びトリシアノメチドリチウム等が挙げられる。したがって、トリシアノメチドアニオンを含む塩が対イオンとしてアルカリ金属を有する場合、あるいは、トリシアノメチドアニオンを含む塩の製造工程でアルカリ金属イオンを含む場合には、本発明の電解液組成物中に含まれるアルカリ金属イオンは、トリシアノメチドに由来するものとなる。
【0056】
上記トリシアノメチドアニオンを含む塩の製造方法も特に限定されず、従来公知の方法を採用することできる。例えば、マロノニトリルを脱プロトン化した後、塩化シアンやフェニルシアネートあるいはブロモシアニドによりシアン化し、トリシアノメチドの塩を得る方法、マロノニトリルをハロゲン化した後、シアン化カリウムと反応させて、トリシアノメチドのカリウム塩を得る方法、等はいずれも採用することができる(WO2008/019852、Ber. Dtsch. Chem. One. Totalone. 1896, 29, 1168、Bulletin. Soc. Chim. Fr. 1954,948、US4059433、DD48614、WO98/29389)。
【0057】
イミダゾリニウム誘導体を含む塩と、トリシアノメチドアニオンを含む塩とは、1.0:0.25〜1.0:5.0(モル比)で混合し、反応させることが好ましい。より好ましくは1.0:0.5〜1.0:2.0であり、さらに好ましくは1.0:0.8〜1.0:1.2である。上記範囲内であれば、出発原料が過剰に残留したり、出発原料に由来する副生物や不純物が生成する虞が少ないからである。
【0058】
上記塩交換反応は、溶媒の存在下で行うことが望ましい。反応を均一且つ速やかに進行させられるからである。反応溶媒としては、イミダゾリニウム誘導体の塩またはトリシアノメチドアニオンを含む塩の少なくとも一方を溶解させ得るものであればよく、例えば、後述する抽出溶媒と同じものが使用できる。
【0059】
塩交換反応時の温度は5℃〜150℃、より好ましくは10℃〜100℃、さらに好ましくは10℃〜80℃とするのが好ましく、反応時間は0.01時間〜50時間、より好ましくは0.1時間〜25時間であり、さらに好ましくは0.1時間〜10時間である。
【0060】
上記反応後、得られた生成物を精製する。これにより、イオン性化合物に含まれる不純物(金属イオン、塩化物イオンやその他のハロゲン化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、シアンイオン等、出発原料や塩交換反応に由来するイオン性不純物等)が除去され、イオン性化合物の純度が高まり、より良好なイオン伝導性を示すと共に、不純なイオン成分に由来する経時的なイオン伝導性の低下や、周辺部材の腐食等の問題が生じ難いものとなる。
【0061】
上述のように、本発明に係るイオン性化合物は、上記イミダゾリニウム誘導体塩とトリシアノメチド塩とを混合し塩交換反応を行うことで得られる。しかしながら、従来公知の方法により得られるイミダゾリニウム誘導体塩及びトリシアノメチドアニオン塩は、いずれも対イオンとして、アルカリ金属イオン、炭酸イオンまたはフタル酸イオン等を含んでおり、これら原料に由来する対イオン成分が生成物に含まれる場合がある。特に、上記対イオン成分の中でもアルカリ金属イオンがコンデンサ駆動用の電解液に含まれる場合には、電極を腐食させる、イオン伝導性を低下させる等、コンデンサの寿命に好ましくない影響を及ぼす虞があり、かかる観点からも、目的生成物からアルカリ金属を除去すること、あるいは、その含有量を極低レベルにまで低減することが求められていた。
【0062】
精製方法としては、水、有機溶媒、およびこれらの混合溶媒での洗浄、再沈殿法、溶媒抽出法、再結晶法、晶析法及びクロマトグラフィーによる精製法が挙げられる。なお、本発明では、溶媒抽出法を採用する。上記精製法の中でも、溶媒抽出法は簡便であり、十分な効果が得られるため好ましい。また、溶媒抽出法は、短時間で効率よく目的物を精製でき、大規模な設備も不要であるため、工業的にも実施が容易である。
【0063】
好ましい抽出溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、tert−アミルアルコール、ネオペンチルアルコール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、3−メチル−3−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、3,3−ジメチル−2−ブタノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、2−メチル−3−ヘキサノール、2,4−ジメチル−3−ペンタノール、1−オクタノ−ル、2−オクタノ−ル、3−オクタノ−ル、2−エチル−ノナノール、2,4,4−トリメチル−1−ペンタノ−ル、1−ノナノール、2−ノナノール、2,6−ジメチル−4−ヘプタノール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール、1−デカノール、2−デカノール、4−デカノール、及び、3,7−ジメチル−1−オクタノール等の脂肪族モノアルコール類;シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の脂環式モノアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−ジヒドロキシ−2−ブテン、1,2−ジヒドロキシ−3−ブテン及びグリセリン等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン及びメチルイソプロピルケトン等のケトン類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、ブチルエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、テトラヒドロフラン及びテトラヒドロピラン等のエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等のエステル類;n−ペンタン、n−へキサン、メチルペンタン、n−ヘプタン、メチルへキサン、ジメチルペンタン、n−オクタン、メチルヘプタン、ジメチルへキサン、トリメチルペンタン、ジメチルヘプタン、n−デカン等の直鎖状、あるいは、分岐状の脂肪族飽和炭化水素類;1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン等の直鎖状、あるいは、分岐状の脂肪族不飽和炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン等の芳香族炭化水素類;シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン等の脂環式化合物類;クロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン、ジクロロエチレン、トリクロロエチレンおよびテトラクロロエチレン等の含ハロゲン溶媒類等が挙げられる。これらの中でも、水、ケトン類、エーテル類、エステル類、脂肪族飽和炭化水素及び含ハロゲン溶媒が好ましく、特に好ましいものとしては、水、メチルエチルケトン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、酢酸ブチルおよびヘキサンが例示できる。これらの溶媒は単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いるのが好ましい。上記例示の溶媒を2種以上混合して用いる場合、抽出溶媒は、水と1種以上の他の溶媒とを組み合わせて用いるのが好ましい。水を用いることにより、アルカリ金属イオン及びハロゲンイオンを効率的に水相に抽出でき、イオン性化合物から除くことができる。なお、好ましい抽出溶媒の組み合わせとしては、水と層分離すること、及び、イオン性化合物の回収率の観点から、水/へキサン、水/メチルエチルケトン、水/ジメチルエーテル、水/ジエチルエーテル、水/酢酸ブチル及び水/ジクロロメタンの組み合わせが挙げられ、より好ましくは水/ジエチルエーテル、水/酢酸ブチルである。
【0064】
抽出溶媒として用いる水は、フィルターやイオン交換膜、逆浸透膜等、各種濾材を備えた超純水装置で処理した、超純水(イオン抵抗1.0MΩ・cm以上)であるのが好ましい。
【0065】
得られたイオン性化合物を、上述の溶媒や、必要により用いられる上記イオン性化合物とは異なるその他の電解質および添加物等と混合することで、本発明の電解液組成物が得られる。なお、上記イオン性化合物以外の成分の配合量は、上述した電解液組成物中における好ましい含有量となるようにすればよい。
【0066】
<電解液>
上述のように、本発明の電解液組成物は溶媒を含むため、そのまま電解液として用いることができる。また、本発明の電解液組成物を、上記溶媒とは異なる溶媒に溶解させて、電解液として用いてもよい。本発明の電解液に含まれる溶媒としては特に限定されず、用途や所望の特性に応じて適宜適切な溶媒を採用すればよい。なお、イオン伝導度を向上させる観点からは、上記溶媒は有機溶媒を含むものが好ましい。
【0067】
本発明の電解液のイオン伝導度は、代表的には1mS/cm以上、好ましくは5mS/cm以上、さらに好ましくは10mS/cm以上である。なお、本明細書において「イオン伝導度」とは、25℃にて測定した値をいう。
【0068】
<用途>
本発明の電解液組成物および電解液は、あらゆる電気化学デバイスに用い得る。代表的には、リチウム二次電池、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ等に好適に用いられる。これらの中でも、アルミ電解コンデンサの電解液として用いるのが好ましいので、以下においては、本発明の電解液を用いたアルミ電解コンデンサについて説明する。
【0069】
本発明に係るアルミ電解コンデンサとは、代表的には、図1に示すような、陽極アルミ箔1、陰極アルミ箔2、陽極箔と陰極箔との間に挟まれたセパレータ(電解紙)3およびリード線4,4を有するコンデンサ素子10と;上述した本発明の電解液と;図3に示すような、有底筒状の外装ケース6と;外装ケースを密封する封口体5とを基本構成要素として構成される。より具体的には、本発明に係るアルミ電解コンデンサは、コンデンサ素子10に上記電解液を含浸し、当該コンデンサ素子を有底筒状の外装ケース6に収納し、外装ケースの開口部に封口体5を装着するとともに、外装ケースの端部に絞り加工を施して外装ケースを密封することにより得られる。
【0070】
具体例として、アルミ電解コンデンサの一形態を、図2の断面模式図に示す。上記陽極アルミ箔1としては、例えば、純度99%以上のアルミニウム箔を酸性溶液中で化学的または電気化学的にエッチングして拡面処理した後、ホウ酸アンモニウム、リン酸アンモニウムまたはアジピン酸アンモニウム等の水溶液中で化成処理を行い、その表面に陽極酸化皮膜層を形成したものを用いることができる。上記陰極アルミ箔2としては、例えば、表面の一部または全部に、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化タンタルおよび窒化ニオブから選ばれる1種以上の金属窒化物、および/または、チタン、ジルコニウム、タンタルおよびニオブから選ばれる1種以上の金属より構成される皮膜を形成したアルミニウム箔を用いることができる。
【0071】
皮膜の形成方法としては、蒸着法、メッキ法、塗布法等を挙げることができ、皮膜を形成する部分としては、陰極アルミ箔の全面に被覆してもよいし、必要に応じて陰極アルミ箔の一部、例えば陰極アルミ箔の一面のみに金属窒化物および/または金属を被覆してもよい。
【0072】
上記リード線4は、好ましくは、陽極アルミ箔および陰極アルミ箔に接する接続部(図示せず)、丸棒部4aおよび外部接続部4bより構成される。このリード線4は、代表的には、接続部においてそれぞれステッチや超音波溶接等の手段により陽極アルミ箔および陰極アルミ箔に電気的に接続されている。接続部および丸棒部4aは、好ましくは、高純度のアルミニウムより形成される。外部接続部4bは、好ましくは、はんだメッキを施した銅メッキ鉄鋼線より形成される。また、陰極アルミ箔2との接続部および丸棒部4aの表面の一部または全部に、ホウ酸アンモニウム水溶液、リン酸アンモニウム水溶液またはアジピン酸アンモニウム水溶液等による陽極酸化処理によって酸化アルミニウム層を形成したり、Al23、SiO2、ZrO2等より構成されるセラミックスコーティング層等の絶縁層を形成することができる。
【0073】
上記外装ケース6は、好ましくは、アルミニウムより構成される。上記封口体5は、代表的には、リード線4をそれぞれ導出する貫通孔を備える。封口体5は、好ましくは、ブチルゴム等の弾性ゴムより構成される。具体的には、イソブチレンとイソプレンとの共重合体からなる生ゴムに補強剤(カーボンブラック等)、増量剤(クレイ、タルク、炭酸カルシウム等)、加工助剤(ステアリン酸、酸化亜鉛等)、加硫剤等を添加して混練した後、圧延、成型したゴム弾性体を用いることができる。加硫剤としては、アルキルフェノールホルマリン樹脂;過酸化物(ジクミルペルオキシド、1,1−ジ−(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン等);キノイド(p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシム等);イオウ等を用いることができる。なお、封口体の表面をテフロン(登録商標)等の樹脂でコーティングしたり、ベークライト等の板を貼り付けたりすると、溶媒蒸気の透過性が低減し得るので更に好ましい。上記セパレータ(電解紙)3としては、上述のように、通常、マニラ紙やクラフト紙等の紙が用いられるが、ガラス繊維、ポリプロピレン、ポリエチレン等の不織布を用いることもできる。
【0074】
本発明に係るアルミ電解コンデンサは、ハーメチックシール構造や樹脂ケースに密閉した構造(例えば、特開平8−148384号公報参照)であってもよい。ゴム封止構造のアルミ電解コンデンサの場合、ある程度ゴムを通して気体が透過するため、高温環境下においてはコンデンサ内部から大気中へ溶媒が揮発し、また、高温高湿環境下においては大気中からコンデンサ内部へ水分が混入する虞があり、このような過酷な環境の下では、コンデンサは静電容量の減少等の好ましくない特性変化を起こす虞がある。一方、ハーメチックシール構造や樹脂ケースに密閉した構造のコンデンサにおいては、気体の透過量が極めて小さいため、このような過酷な環境下においても安定した特性を示し得る。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0076】
[イオン伝導度の測定]
下記実施例で得られたイオン性化合物をγ−ブチロラクトン(BASF社製、エレクトリックグレード)に溶解させ、イオン性化合物濃度35質量%の電解液を調製した。
【0077】
インピーダンスアナライザー(ソーラトロン社製「SI1260」)を用い、SUS電極を使用して、25℃の温度条件下、複素インピーダンス法により、電解液のイオン伝導度の測定を行った。
【0078】
[イオン成分含有量の測定]
(1)ICPによる測定(Li+,Na+,K+等の陽イオン類及びI-の測定)
機器:ICP発光分析装置 ICPE−9000(島津製作所製)
方法:サンプル2gを超純水(18.2MΩ・cm超)で10倍に希釈し、測定溶液とした。
【0079】
(2)イオンクロマトグラフィーによる測定(Cl-,Br-,SO42-等の陰イオン類の測定)
機器:イオンクロマトグラフィーシステム ICS−3000(日本ダイオネクス社製)
分離モード:イオン交換
検出器:電気伝導度検出器CD−20
カラム:アニオン分析用カラム AS17−C(日本ダイオネクス社製)
方法:サンプル0.3gを超純水(18.2MΩ・cm超)で100倍に希釈し、測定溶液とした。
【0080】
[水分測定]
平沼産業(株)製水分測定装置「AQ−2000」を用いて、試料中の水分量を測定した。なお、試料注入量は0.1mlとし、発生液には「ハイドラナール アクアライトRS−A」(平沼産業株式会社販売)にサリチル酸を10%添加したものを使用し、対極液には「アクアライトCN」(関東化学株式会社製)を使用した。
試料は、外気に触れないよう注射器を用いて試料注入口より注入した。
【0081】
[NMR測定]
NMR測定装置(400MHz、「UNITYplus-400」、バリアン社製)を用いた。重溶媒にはDMSOを用いた。測定は、温度:25℃、積算回数:16回で行った。
【0082】
[熱分解開始温度の測定]
下記合成例で得られたイオン性化合物5mgをアルミパンに入れ、30℃から500℃まで10℃/minで昇温し、初期質量から2%減少したときの温度を示差熱熱重量同時測定装置(「EX STAR6000 TG/DTA」、セイコーインスツルメンツ社製)を用いて測定し、熱分解開始温度とした。
【0083】
[pHの測定]
下記合成例で得られたイオン性化合物をγ−ブチロラクトン溶液に溶解させて調製した濃度35質量%のγ−ブチロラクトン溶液15gと超純水(18.2MΩ・cm超)15gとを混合してpH測定用の試料溶液を調製した。
【0084】
試料溶液30gを、ガラス隔膜つきH型セルに入れ、アルミ電極(電極面積:1cm2)を浸漬し、直流電源装置(松定プレシジョン社製「PL−650−0.1(品番)」)を用いて、20mA(電圧フリー)で定電流電気分解処理を、85℃で4時間行った。電気分解前後における電解液のpHをpHメーター(IQ Scientific Instruments, Inc製「IQ150」)で測定し、pH変化量を算出した。また、測定後の電極表面外観を目視にて観察した。
【0085】
[融点]
下記合成例で得られたイオン性化合物約5mgを密封式アルミパンに封入し、示差走査熱量分析装置(「DSC6220」、セイコーインスツルメンツ社製)を用いて融点の測定を行った。測定温度範囲は−70℃〜60℃とした。予めサンプルを60℃にて10分保持した後、2℃/分で降温し、発熱ピークが見られた温度を融点とした。
【0086】
合成例1 2,4−ジメチルイミダゾリンの合成
温度計、攪拌棒、還流管を備えた500mlの反応容器に、1,2−ジアミノプロパン200.0g(2.70mol)と、アセトニトリル130g(3.17mol、1.11eq.)およびシステイン塩酸塩21.9g(0.193mol、0.103eq.)を加え、1時間還流させた。発泡の停止により反応の終了を確認した後、反応溶液を放冷して、油状黄色の粗生成物を得た。ガスクロマトグラフィー(「製品名GCMS-QP2010 Plus」、島津製作所社製)で分析したところ、粗生成物中には、出発原料であるジアミノプロパンは確認されず、アセトニトリルも約0.5%しか確認されなかった。
【0087】
得られた粗生成物を減圧蒸留(85〜89℃/8mmHg)により精製して、無色油状の目的化合物を得た(収量:215.6g、2.20mol、収率:81%、GC純度(面積百分率):99.997%)。得られた目的物の水分量は1.5%であった。生成物の構造は、1H−NMR、13C−NMR及びGC/MSにて確認した。
1H-NMR(DMSO):δ3.736-3.663(m、1H)、3.504-3.449(dd、1H)、2.928-2.881(dd、1H)、1.699(d、3H)、1.014(d、3H)
【0088】
合成例2 テトラメチルイミダゾリニウム炭酸塩の合成
合成例1で得られた2,4−ジメチルイミダゾリン70g(0.713mol)を乾燥処理し、容量1lのオートクレーブ中で、炭酸ジメチル193g(2.140mol)、メタノール143gと混合し、130℃で1時間攪拌した。発生するガスを抜き、内圧を常圧に戻しながら同温度で22時間攪拌した。その後、反応液を放冷し、40℃で3時間減圧乾燥し、27.6g(0.136mol)の粗生成物(茶褐色粘性液体)を得た。
【0089】
合成例3 テトラメチルイミダゾリニウムフタル酸塩の合成
ドライボックス中、2lのフラスコ内で、乾燥したテトラメチルイミダゾリニウム炭酸塩27.6g(0.136mol)の粗生成物(合成例2)とメタノール146gを混合し、ここにフタル酸22.7g(0.136mol)を徐々に加えた後、30分攪拌した。その後、70℃で3時間減圧乾燥し、テトラメチルイミダゾリニウムフタル酸塩の粗生成物(薄茶色粘性液体)を得た(29.2g、0.1mol)。
【0090】
合成例4 テトラメチルイミダゾリニウムヨウ素塩の合成
温度計及び攪拌子を備えた1lのフラスコに、合成例1で得られた2,4−ジメチルイミダゾリン19.3g(0.2mol)、ナトリウムハイドライド5.3g(0.22mol)及びテトラヒドロフラン(THF)240gを加えた後、フラスコを−78℃のドライアイス/アセトン浴に浸漬した。内温を確認した後(−78℃)、ヨウ化メチル55.9g(0.4mol)を加えて1時間攪拌した。発泡の停止を確認した後、反応溶液を室温(25℃)に戻し、溶媒を減圧留去して、粗テトラメチルイミダゾリニウムヨウ素塩を得た(目的物とNaIとの混合物、収量:80.5g)。
【0091】
合成例5 トリシアノメチドのナトリウム塩(NaTCM)の製造
温度計、攪拌棒、還流管を備え付けた反応容器にマロノニトリル130g(1.96mol)、水690g、85質量%リン酸水溶液19g(0.16mol)を入れ、攪拌した。次いで、この混合溶液に50質量%水酸化ナトリウム溶液71gを加えてpHを7.5に調整した。その後、液温を25℃〜30℃に調整し、50質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加して混合溶液をpH6.5からpH7.5に保ちながら、クロロシアン323g(5.26mol)を約2時間かけて加え、茶色の透明溶液を得た。その後、この溶液の液性がpH7.0からpH7.5になるように50質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、2時間攪拌した(水酸化ナトリウム水溶液の添加量の合計は140gであった)。
【0092】
得られた反応溶液を55℃、1kPaで減圧乾燥した後、固化物をアセトン200mlで洗浄し、洗浄液を集め、加熱下(55℃)で溶媒を留去し、乳白色固体のNaTCM(218g、1.93mol)を得た。
【0093】
合成例6 テトラメチルイミダゾリニウムトリシアノメチド塩の合成−1
分液ロートに、合成例3で得られたテトラメチルイミダゾリニウムのフタル酸塩11.1g(0.038mol)を塩化メチレン200gに溶解させ、ここに1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液40g(0.04mol)を加えて洗浄し、有機相を除去した。次いで、分液ロートに、再度塩化メチレン200gを加え、分液ロート内の水相と混合した(塩化メチレン水溶液)。
【0094】
次いで、合成例5で得られたNaTCM8.75g(0.077mol)を超純水(18.2MΩ・cm超)182gに溶解させ、これを、上記塩化メチレン水溶液と分液ロート内で混合した。その後、有機相を抽出し、加熱下(50℃)で、塩化メチレンを減圧留去させた後、55℃、1kPaで20時間減圧乾燥して、約10gのテトラメチルイミダゾリニウムトリシアノメチド塩(TMImzTCM、イオン性化合物)を得た。なお、生成物の熱分解温度は343℃で、融点は−10℃であり、この生成物に含まれる水分量は170ppmであった。
1H-NMR(DMSO):δ4.10-3.96(1H)、3.91-3.85(1H)、2.983(3H)、2.955(1H)、2.157(3H)、1.238-1.217(3H)
【0095】
合成例7 テトラメチルイミダゾリニウムトリシアノメチド塩の合成−2
上記合成例4で得られたテトラメチルイミダゾリニウムヨウ素塩とNaIとの混合物80.5g(テトラメチルイミダゾリニウムヨウ素塩として、約0.2mol)に、合成例5で得られたトリシアノメチドのナトリウム塩45.2g(0.4mol)、水200g、クロロホルム200gを加え、十分に攪拌し、塩交換反応を行った。分液ロートにて有機相を抽出し、溶媒を減圧留去した後、55℃、1kPaで20時間減圧乾燥してテトラメチルイミダゾリニウムトリシアノメチドを得た。生成物の確認は1H-NMRにより行った。なお、生成物に含まれる水分量は200ppmであった。
【0096】
合成例8 カリウムトリシアノメチドの合成
温度計、攪拌棒、還流管及び滴下ロートを備え付けた反応容器に、マロノニトリル28g(0.42mol)、水250g、臭化カリウム21g(0.18mol)を加え、内温を5℃〜10℃に保ちながら、攪拌下、臭素136gを2時間45分かけてゆっくりと滴下した。滴下終了後、内温を5℃〜10℃に保ちながら、さらに2時間攪拌した。その後、析出した結晶を冷水(5℃)で洗浄し、55℃で2時間減圧乾燥して、粗ジブロモマロノニトリル(臭化カリウムとの混合物)99g(0.29mol)を得た。
【0097】
次いで、温度計、攪拌棒、還流管を備え付けた反応容器に、1,2−ジメトキシエタン414g、シアン化カリウム51g(0.78mol)を加え、内温を15℃に保ちながら、攪拌下、得られた粗ジブロモマロノニトリル99g(0.29mol)を1時間かけて加えた。添加終了後、室温(25℃)でさらに2時間攪拌した後、内温を徐々に上げて、85℃で還流させながら2時間攪拌した。その後、反応液を熱ろ過し、ろ液を室温まで冷却した後に、ジエチルエーテル486gを加えたところ、白色結晶が析出した。この白色結晶をろ別した後、メタノール100gを加えて不溶分(KBr及びKCN)を取り除き、メタノールを減圧留去させて、カリウムトリシアノメチドを得た42g(0.33mol)。
【0098】
合成例9 テトラメチルイミダゾリニウムトリシアノメチドの合成−3
分液ロート内で、テトラメチルイミダゾリニウムのフタル酸塩11.1g(0.038mol)を塩化メチレン201gに溶解させ、ここに1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液40g(0.04mol)を加え混合して洗浄し、有機相を分離した。水相に、さらに塩化メチレン201g加えて混合し塩化メチレン水溶液を得た。
【0099】
次いで、合成例8で得られたカリウムトリシアノメチド10g(0.077mol)を超純水(18.2MΩ・cm超)208gに溶解させ、これを、上記塩化メチレン水溶液と分液ロートで混合した。有機相を抽出し、加熱下(50℃)、塩化メチレンを減圧留去させた後、55℃、1kPaで20時間減圧乾燥して、約5gのテトラメチルイミダゾリニウムトリシアノメチド塩(TMImzTCM)を得た。なお、生成物に含まれる水分量は130ppmであった。1H-NMR測定を行ったところ、合成例6と同様のスペクトルが得られた。
【0100】
合成例10 テトラメチルイミダゾリニウムトリシアノメチド塩の合成−4
合成例2で得られたテトラメチルイミダゾリニウム炭酸塩7.68g(0.038mol)を塩化メチレン139gに溶解させた。
【0101】
次いで、合成例5で得られたナトリウムトリシアノメチド8.75g(0.077mol)を超純水(18.2MΩ・cm超)182gに溶解させ、上記塩化メチレン溶液と分液ロートで混合した。有機相を抽出し、加熱下(50℃)、塩化メチレンを減圧留去した後、55℃、1kPaで20時間減圧乾燥して、テトラメチルイミダゾリニウムトリシアノメチド塩(TMImzTCM)3.1g(0.01mol)を得た。1H-NMR測定を行ったところ、合成例6と同様のスペクトルが得られた。
【0102】
合成例11 テトラメチルイミダゾリニウムトリシアノメチド塩の合成−5
テトラメチルイミダゾリニウムフタル酸塩11.1g(0.038mol)を酢酸ブチル200gに溶解させ、ここに1mol/lの水酸化ナトリウム40g(0.04mol)を加え、分液ロート内で混合して洗浄し、有機相を除去した。その後、水相に、さらに酢酸ブチル200gを加え、混合し、酢酸ブチル水溶液を得た。
【0103】
次いで、合成例5で得られたナトリウムトリシアノメチド8.75g(0.077mol)を超純水(18.2MΩ・cm超)182gに溶解させ、上記酢酸ブチル溶液と分液ロート内で混合した。有機相を抽出し、加熱下(50℃)、酢酸ブチルを減圧留去した後、55℃、1kPaで20時間減圧乾燥して、テトラメチルイミダゾリニウムトリシアノメチド塩1.6g(0.007mol)を得た。1H-NMR測定を行ったところ、合成例6と同様のスペクトルが得られた。
【0104】
合成例12 テトラメチルイミダゾリニウムトリシアノメチド塩の合成−6
テトラメチルイミダゾリニウムフタル酸塩11.1g(0.038mol)を塩化メチレン200gに溶解させ、ここに1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液40g(0.04mol)を加え混合し、洗浄した後、有機相を除去し、水相を得た。
【0105】
次いで、合成例5で得られたナトリウムトリシアノメチド8.75g(0.077mol)を超純水(18.2MΩ・cm超)182gに溶解させ、上記水相と室温で混合し、均一透明な水溶液を得た。
【0106】
加熱下(50℃)で、得られた水溶液から約150gの水を減圧留去した後、得られた溶液を5℃に冷却すると沈殿物が生成した。得られた沈殿物をろ過し、水10mlで洗浄した後、55℃、1kPaで22時間減圧乾燥して、テトラメチルイミダゾリニウムトリシアノメチド塩2.3g(0.01mol)を得た。1H-NMR測定により、生成物がテトラメチルイミダゾリニウムトリシアノメチドであることを確認した。
【0107】
合成例13 テトラメチルイミダゾリニウムトリシアノメチド塩の合成−7
テトラメチルイミダゾリニウムフタル酸塩11.1g(0.038mol)を塩化メチレン200gに溶解させ、ここに1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液40g(0.04mol)を加え、混合、洗浄して有機相を分離し、水相を得た。
【0108】
次いで、合成例8で得られたカリウムトリシアノメチド10.0g(0.077mol)を超純水(18.2MΩ・cm超)182gに溶解させ、上記水相と室温(25℃)で混合し、均一透明な水溶液を得た。
【0109】
加熱下(50℃)、得られた水溶液から約150gの水を減圧留去させた後、この溶液5℃に冷却したところ、沈殿物が生成した。得られた沈殿物をろ過し、水10mlで洗浄した後、55℃、1kPaで22時間減圧乾燥して、テトラメチルイミダゾリニウムトリシアノメチド塩2.2g(0.01mol)を得た。1H-NMR測定により、生成物がテトラメチルイミダゾリニウムトリシアノメチドであることを確認した。
【0110】
合成例14 テトラメチルイミダゾリニウムトリシアノメチド塩の合成−8
テトラメチルイミダゾリニウム炭酸塩7.68g(0.038mol)およびナトリウムトリシアノメチド8.75g(0.077mol)を超純水(18.2MΩ・cm超)182gに溶解させた。
【0111】
加熱下(50℃)で、この水溶液から約150gの水を減圧留去させた後、残りの水溶液を5℃に冷却したところ、沈殿物が生成した。得られた沈殿物をろ過し、水10mlで洗浄した後、55℃、1kPaで22時間減圧乾燥して、テトラメチルイミダゾリニウムトリシアノメチド塩2.1g(0.01mol)を得た。1H-NMR測定により、生成物がテトラメチルイミダゾリニウムトリシアノメチドであることを確認した。
【0112】
上記合成例6〜合成例14で得られたテトラメチルイミダゾリニウムトリシアノメチド塩(イオン性化合物)の物性を表1に示す。また、上記合成例で得られたテトラメチルイミダゾリニウムトリシアノメチド塩35質量部とγ−ブチロラクトン65質量部とを混合し電解液組成物1〜8を調製し、上記測定方法に従って、電解液組成物の各種物性を測定した。結果を表2に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
表1より、溶媒抽出法により生成した合成例6〜合成例11のイオン性化合物は、出発原料等にアルカリイオン及びハロゲンイオンが含まれていても、これらの不純なイオン成分の含有量が十分に低減されていることが分かる。これに対して、合成例12,13及び合成例14は、再沈殿法によりイオン性化合物の精製を行った例であるが、合成例6〜合成例11のイオン性化合物と比較してアルカリ金属イオン又はハロゲンイオンの含有量が多いものであった。この結果から、抽出精製を行うことにより、効率よく不純なイオン成分を除去できることが分かる。
【0115】
【表2】

【0116】
表2より、No.1〜No.5の電解液組成物は、電解液組成物中に含まれるアルカリ金属イオンの含有量及びハロゲンイオンの含有量が少ないため、電気分解前後におけるpHの変化が少なく、また、電極表面にも変化は見られなかった。したがって、No.1〜No.5の電解液組成物は、各種電気化学デバイスのイオン伝導材料として用いても、経時的なイオン伝導性能の低下や周辺部材の腐食が生じ難いものであると考えられる。
【0117】
これに対して、No.6〜No.8の電解液組成物は、No.1〜No.5に比べてpHの変化量も大きく、電極表面の白化も観察された。No.6の電解液組成物はナトリウムイオン、No.7の電解液組成物はカリウムイオンの含有量が多いため、電気分解の進行に従ってpHが上昇し、電解液中に生成した強アルカリ性成分により、陽極が腐食してしまったものと考えられる。また、No.8の電解液組成物は、塩化物イオンの含有量が2200ppmと多いため、電気分解の進行に従ってpHが低下し、電解液中に生成した強酸性成分により、陰極が腐食してしまったものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の電解液組成物およびこれを用いた電解液は、電解液組成物中に含まれる不純なイオン成分が少ないため、経時的なイオン伝導性能の低下や周辺部材の腐食が生じ難い。したがって、これをイオン伝導材料として用いることで信頼性の高い電気化学デバイスを提供することができる。本発明の電解液は、例えば、一次電池、二次電池や燃料電池等の充電/放電機構を有する電池、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、太陽電池、エレクトロクロミック表示素子等の電気化学デバイスに好適に用いられ得る。これらの中でも、アルミ電解コンデンサに特に好適に用いられ得る。
【0119】
また、本発明の製法によれば、経時的なイオン伝導性能の低下が生じ難く、信頼性の高い電解液組成物を工業的なスケールで製造することができる。
【符号の説明】
【0120】
1 陽極箔
2 陰極箔
3 セパレータ(電解紙)
4 リード線
5 封口体
6 外装ケース
10 コンデンサ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるイミダゾリニウム誘導体と、トリシアノメチドからなるイオン性化合物と、溶媒を含み、且つ、アルカリ金属イオンを1000ppm以下、および、ハロゲンイオンを500ppm以下含むことを特徴とする電解液組成物。
【化1】

(式中、R1,R3,R4およびR5は、互いに独立して、水素、または、炭素数1〜3のアルキル基を示し、R2は、炭素数1〜3のアルキル基を示す。)
【請求項2】
上記イオン性化合物を1質量%〜60質量%含む請求項1に記載の電解液組成物。
【請求項3】
上記イオン性化合物が、上記イミダゾリニウム誘導体の塩と、トリシアノメチドのアルカリ金属塩との塩交換反応により得られるものである請求項1または2に記載の電解液組成物。
【請求項4】
上記イオン性化合物が、上記イミダゾリニウム誘導体の塩と、トリシアノメチドのアルカリ金属塩との塩交換反応の後、抽出精製して得られるものである請求項1〜3のいずれか一項に記載の電解液組成物。
【請求項5】
上記溶媒が、γ−ブチロラクトンである請求項1〜4のいずれか一項に記載の電解液組成物。
【請求項6】
上記一般式(I)で表されるイミダゾリニウム誘導体とトリシアノメチドからなるイオン性化合物と、溶媒を含む請求項1〜5のいずれかに記載の電解液組成物の製造方法であって、
イミダゾリニウム誘導体の塩と、トリシアノメチドのアルカリ金属塩とを反応させて塩交換を行う塩交換工程と、
上記塩交換工程で得られた生成物を溶媒抽出法により精製する精製工程、
とを、この順で含むことを特徴とする電解液組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の電解液組成物を用いることを特徴とするアルミ電解コンデンサ駆動用電解液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−171087(P2010−171087A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10351(P2009−10351)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】