説明

電解研磨加工方法および装置

【課題】電解研磨と機械研磨とを同時に行う研磨加工方法および装置を提供すること。
【解決手段】電解液3中に加工ワーク1,2を浸漬し、その電解液3と加工ワーク1,2との間に電圧を印加して、前記加工ワーク1,2を電解研磨する電解研磨加工方法において、研磨材を含まない電解液3中に一対の加工ワーク1,2を浸漬するとともにそれらの加工ワーク1,2を前記電解液3を介して対向させて配置し、前記電解液3を介して対向している加工対象面がその面方向に相対移動するように、少なくとも一方の加工ワークを駆動することにより共ずりを生じさせ、かつ前記電解液3といずれかの加工ワークとの間に電圧を印加して研磨加工を行うことを特徴とする電解研磨加工方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、加工ワークの表面処理のための研磨加工方法およびその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、加工ワークを最終的な目標の形状とする工程において、その加工ワークの表面処理を施すために、加工ワークに電圧をかけて、電気的な手法である電解加工を行いつつ、加工ワークと砥粒・砥石(工具)もしくは加工ワーク同士とに相対速度を与えて、機械的な手法である砥粒や砥石などによる研削もしくは研磨を行うことが、機械部品の製造工程において行われている。
【0003】
このような砥粒・砥石による研磨もしくは研削である機械加工と加工ワーク・工具・電解液に電圧を印加する電解加工とを組み合わせた複合加工によって被加工物の形状創成加工や表面仕上げ加工を行う技術が知られている。その一例として特許文献1では、電解液中に浸漬された加工ワークと工具とに電圧を印加して加工ワークの表面仕上げ加工を行う方法が記載されている。
【0004】
この特許文献1に記載された表面仕上げ加工である電解研削複合超仕上げ方法とは、遊離砥粒を混入した不動態化しやすい電解液中において、加工ワークと非電導性砥粒を電導性材料の表面に固着した工具とに電圧を印加して電流を流しながら、工具と加工ワークとの間に相対運動を与える加工方法である。この方法によれば、工具表面の砥粒および電解液に混入した遊離状態の砥粒によって被加工物の研削もしくは研磨が行われる。そして、その機械的な研削により加工ワーク表面の不動態被膜が除去され、同時にその機械的な研削により電気的に活性化された加工面が実質的な電解作用を受ける超仕上げ加工が施されることで、加工ワークの表面は目標とされる表面粗度を得ることができる。
【0005】
また、特許文献2に記載された装置では、工具である電導性の砥石に加工ワークに向けて相対的に接近するように不動態被膜の成長速度と同程度の切り込み速度が与えられ、工具と加工ワークとがその加工面を同一平面として相対的に回転運動を行いながら研磨が行われる。その際、砥石には負の電圧が印加されて、また、加工ワークには正の電圧が印加されている。そして、前記回転運動による研磨が不動態被膜を除去しつつ電解研磨が施され、寸法測定器により加工取り代が測定されて目標とされる表面粗度を得ることができる。
【0006】
【特許文献1】特公平1−38612号公報
【特許文献2】特開平6−55346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に示した従来の研磨加工では、電解液中に分散されている遊離砥粒が加工ワークに付着する為、その電解液と遊離砥粒との混合液の洗浄をする洗浄工程が煩雑化されてしまう虞がある。さらに、現状、遊離砥粒を用いていない工程において、新たに遊離砥粒を用いることで、洗浄工程の改造や新規設備の導入などが発生し、コストが増加してしまう。
【0008】
また、特許文献1および特許文献2に記載された電解研磨と機械研磨とを同時に行う複合研磨加工方法は、歯車の製造工程で行われるラッピング加工などの共ずり加工においても適用可能である。例えば、歯車の製造工程において、まず歯切りや熱処理などを行ったのち、仕上げ工程にラッピング加工を行う場合、一般に研磨剤(ラッピング剤)を介してワーク同士を擦り合わせる共ずり加工が行われる。歯車のかみ合い運動中に作用する滑り速度と、ラッピング中に与える負荷による法線力との二つによって研磨加工が行われる。これによりワーク同士の形状精度や表面粗度が向上され、またワーク同士を擦り合わせてワーク同士のあたりを確認することが行われる。さらに、歯車に対してラッピング加工を施すことにより、歯車の使用時の回転抵抗や騒音が低減できる。
【0009】
この共ずり加工においては、両加工ワークが工具であるとともに被加工物であるため、片方のみの加工を集中的に行うことはできない。そのため、加工の仕上がり度合いが双方の加工ワークで異なる場合や粗材状態での加工ワーク双方の面粗度が異なる場合などにおいて、面粗度の劣るワークの面粗度を確保するため、目標を満足している面粗度が良好なワークも加工せざるを得ず生産性が落ちることがある。また、片方のワークの形状に誤差等がある場合には、他方のワークにもその影響が及んで、その形状の精度が低下する可能性がある。
【0010】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、電解加工と機械加工とを共に効率よく行うことのできる加工方法およびその装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、電解液中に加工ワークを浸漬し、その電解液と加工ワークとの間に電圧を印加して、前記加工ワークを電解研磨する電解研磨加工方法において、研磨材を含まない電解液中に一対の加工ワークを浸漬するとともにそれらの加工ワークを前記電解液を介して対向させて配置し、前記電解液を介して対向している加工対象面がその面方向に相対移動するように、少なくとも一方の加工ワークを駆動することにより共ずりを生じさせ、かつ前記電解液といずれかの加工ワークとの間に電圧を印加して研磨加工を行うことを特徴とする電解研磨加工方法である。
【0012】
また、請求項2の発明は、電解液中に加工ワークを浸漬し、その電解液と加工ワークとの間に電圧を印加して、前記加工ワークを電解研磨する電解研磨加工装置において、一対の加工ワークを浸漬する、研磨材を含まない電解液と、前記電解液を介して対向している加工対象面がその面方向に相対移動するように、少なくとも一方の加工ワークを駆動することにより共ずりを生じさせる駆動機構と、前記電解液といずれかの加工ワークとの間に電圧を印加する電源装置とを備えていることを特徴とする電解研磨加工装置である。
【0013】
さらに、請求項3の発明は、前記電圧を印加するワークを、前記加工ワーク間で切り換え可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電解研磨加工方法もしくは請求項2に記載の電解研磨加工装置である。
【発明の効果】
【0014】
したがって、請求項1の発明および請求項2の発明によれば、電解液に研磨材が含まていないので、加工ワークに付着する砥粒などの洗浄工程における負荷を低減できる。また、一対の加工ワークを対向させて駆動させ、かつ少なくとも一方の加工ワークと電解液とに電圧を印加することにより、加工ワークの研磨面である接触部位では、陽極として酸化することによる、電解中に加工ワーク表面に生成される不動態被膜の除去が加工ワークの研磨面同士の相対運動により行われ、そして不動態被膜が除去された表面で効率よく電解研磨を行うことができる。
【0015】
さらに、請求項3の発明によれば、前記加工ワークのいずれか一方に優先的に電圧を印加することができ、共ずりの行われている前記加工ワーク各々の加工進捗度や加工精度に合わせて電解研削もしくは電解研磨を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。図1にこの発明にかかる第一の具体例を示す。図1において、符号1,2はこの発明で対象とする二つの加工ワークであり、ワーク同士が回転して駆動力を伝達できる回転伝達要素であればよい。ここでは、二つの加工ワークは例えば平歯車であって、モーターなどの動力源(図示せず)によって駆動される駆動側加工ワーク1と、その駆動側加工ワーク1からトルクを受ける被駆動側加工ワーク2である。
【0017】
前記駆動側加工ワーク1と前記被駆動側加工ワーク2とは加工面が互いに平行となるように対向させて配置されている。つまり、正しく両加工ワーク(ギヤセット)1,2が噛合するように、取付け位置(MD=マウンティングディスタンス)が決められ、設計通りに配置されている。この前記駆動側加工ワーク1と前記被駆動側加工ワーク2との取り付け位置は回転中心の距離が調整可能になっている。つまり両加工ワーク1,2の噛合状態が調節可能となっている。また、両加工ワーク1,2は共ずり加工による機械加工と同時に電解加工も行うため、その材質は電導性を持つ材質で構成されている。
【0018】
駆動側加工ワーク1には図示しない動力源の軸がつながっており、図示しない回転数調整機構ともつながっている。そして、前記動力源からの動力により駆動し、回転数が調整可能となっている。また、被駆動側加工ワーク2は制動力を与えるために図示しないブレーキトルク調整機構が設けられて、ブレーキトルクは調整可能となっている。なお、回転数調整機構とブレーキトルク調整機構とは、逆の構成つまり駆動側加工ワーク1側にブレーキ調整機構を設け、被駆動側加工ワーク2側に動力源と回転数調整機構が設けられる構成としても構わない。
【0019】
この電導性を有する駆動側加工ワーク1と被駆動側加工ワーク2とは塑性加工液の機能を有する電解液3で満たされた槽4の中に浸漬されている。また、駆動側加工ワーク1と被駆動側加工ワーク2とのいずれか一方の加工ワークが電源装置5の陽極に導線6などにより接続され、すなわちアノード側(電子を残してイオン化する電極側(酸化側))とされる構成となる。ここでは、便宜上、図1のように被駆動側加工ワーク2が電源装置5の陽極に接続されている。一方電解液3は電源装置5の陰極に導線6などで接続され、すなわちカソード側(Hイオンなどが電子と中和してH原子になり、電解反応中にHガスを発生する電極側(還元側))とされる構成となる。なお、電解液3は、加工ワークの陽極分解が行える液体であればよく、硝酸アンモニウム(NaNO)、硝酸カリウム(KNO)等やまた、それと他の物質との混合液であり、また塩素系極圧添加剤などを混合することで塑性加工液の機能も有する。
【0020】
また、電源装置5には電圧・電流等の調整機構、もしくは電圧・電流のパルス発生機構のうちいずれか一つ以上を有し、槽4内の電流密度などが種々に調整可能とされている。これにより電解加工を行うことによる電解液3の成分変化を考慮し調節可能に、加工ワークに対して電圧・電流を付与できるという効果を奏する。
【0021】
上記図1に示す構成によると、槽4内において駆動側加工ワーク1に駆動力が与えられて、その駆動力が前記駆動側加工ワーク1と噛合された被駆動側加工ワーク2に伝えられる。そして駆動側加工ワーク1と被駆動側加工ワーク2とが共に回転し、電解液3の膜を超えて前記両加工ワーク1,2とが接触しながら相対運動がおこり、前記両加工ワーク1,2が研磨加工される。この共ずり加工における両加工ワーク1,2の研磨のメカニズムの詳細が、図5において両加工ワーク1,2の加工面の拡大図(加工接触面の断面図)により示されている。両加工ワーク1,2は電解液3の膜を超えて互いに法線力を受けながら接触して擦り合わせ運動が行われ、研磨加工が行われる。
【0022】
また、同時に被駆動側加工ワーク2は正の電極に通電されているので、被駆動側加工ワーク2に陽極酸化による電解反応が起こり、その加工表面が溶解し、研磨加工される。このとき、陽極として電解反応させていることにより、被駆動側加工ワーク2の表面に不動態被膜が生ずる。
【0023】
この不動態被膜は、電解液3を介して両加工ワーク1,2とが相対運動することにより研磨加工され除去される。不動態被膜が除去された被駆動側加工ワーク2の加工表面において、不動態被膜が除去された加工面は活性化されて電解作用による研磨により平滑で光沢のある研磨面が得られ、面粗度向上が図られる。
【0024】
つぎに図1に示した構成による研磨加工工程をその一例を示す図2の線図に基づいて説明する。図2の線図では、横軸に時刻を表し、縦軸に両加工ワーク1,2の回転数と被駆動側加工ワーク2にかかるブレーキトルクと電源装置5によって印加される電圧とがそれぞれ時間的変化を表すかたちで示されている。この発明の一例である図1の構成において、研磨加工の開始から作業を完了するまでの間に、目的とする両加工ワーク1,2の表面粗度を得るための複合研磨加工が行われる。そして各種調整機構が設けられていることから、効率的および効果的に加工を行うことができる。この各種調整機構とは駆動側加工ワーク1に動力源とともに備えられた回転数調整機構と被駆動側加工ワーク2に備えられた制動力(ブレーキトルク)調整機構と電源装置5にいずれか一つ以上が備えられた電圧・電流等の調整機構、もしくは電圧・電流のパルス発生機構とで構成されている。
【0025】
図2に示される回転数とブレーキトルクと電圧とは、加工時間T10からT11の間において、時刻T10から適切な値が回転数とブレーキトルクと電圧との初期値として設定されて、共ずり加工による面粗度向上および不動態被膜の除去が行われつつ、電源装置5とともに備えられた電圧・電流等の調整機構もしくは電圧・電流のパルス発生機構にて電圧・電流等の調整または電圧・電流パルスの調整が行われ電解加工が実施される。また、駆動側加工ワーク1の入力回転数を設定および/または被駆動側加工ワーク2のブレーキトルクを設定することにより、加工部位での法線力を調整することができ、適切かつ十分な機械的研磨を行うことができる。また、この法線力の調整は両加工ワーク1,2の中心軸間の距離が調節可能となっているため、その噛合状態の調節を行うことで可能とされている。
【0026】
なお、図2に示す研磨加工工程中では回転数とブレーキトルクと電圧とが研磨加工の終了する時刻T11間際まで一定になっているが、図2の線図に示される回転数・ブレーキトルク・電圧の時系列の変化は、その一例を表したものであり、前記各種調整機構により回転数・ブレーキトルク・電圧は作業中であっても、両加工ワーク1,2の加工進捗具合や加工精度状態などの要因により調整することができる。そして目的とする両加工ワーク1,2の面粗度や精度を得ることができ、研磨加工行程を効率的かつ効果的に行うことができる。
【0027】
図3はこの発明にかかる第二の具体例を示す図である。図3において、図1の構成と同様に、符号1,2はこの発明で対象とする二つの加工ワークであって、ワーク同士が回転して駆動力を伝達できる回転伝達要素であればよい。ここでは、二つの加工ワークは例えば平歯車であって、モーターなどの動力源(図示せず)によって駆動される駆動側加工ワーク1と被駆動側加工ワーク2とする。
【0028】
前記駆動側加工ワーク1と前記被駆動側加工ワーク2とは加工面が互いに平行となるように対向させて配置されている。つまり、正しく両加工ワーク(ギヤセット)1,2が噛合するように、取付け位置(MD=マウンティングディスタンス)が決められ、設計通りに配置されている。この前記駆動側加工ワーク1と前記被駆動側加工ワーク2との取り付け位置は回転中心の距離が調整可能になっている。つまり両加工ワーク1,2の噛合状態が調節可能となっている。また、両加工ワーク1,2の共ずり加工による機械加工と同時に電解加工も行うため、その歯車の材質は電導性を持つ材質で構成されている。
【0029】
図1と同様に駆動側加工ワーク1には図示しない動力源の軸がつながっており、図示しない回転数調整機構ともつながっている。そして、前記動力源からの動力により駆動し、回転数が調整可能となっている。また、被駆動側加工ワーク2は制動力を与えるために図示しないブレーキトルク調整機構が設けられて、ブレーキトルクは調整可能となっている。なお、図1と同様に回転数調整機構とブレーキトルク調整機構とは、逆の構成つまり駆動側加工ワーク1側にブレーキ調整機構を設け、被駆動側加工ワーク2側に動力源と回転数調整機構が設けられる構成としても構わない。
【0030】
図1の構成と同様にこの電導性を有する駆動側加工ワーク1と被駆動側加工ワーク2とは塑性加工液の機能を有する電解液3で満たされた槽4の中に浸漬されている。そして駆動側加工ワーク1と被駆動側加工ワーク2とが電源装置5の陽極にスイッチング装置7を介して切替可能に導線6などにより接続される。そして研磨加工工程中、両加工ワーク1,2のいずれか一方の加工ワークが陽極側に通電される。すなわちアノード側(電子を残してイオン化する電極側(酸化側))とされる構成となる。一方電解液3は電源装置5の陰極に導線6などで接続され、すなわちカソード側(Hイオンなどが電子と中和してH原子になり、電解反応中にHガスを発生する電極側(還元側))とされる構成となる。なお、電解液3は、加工ワークの陽極分解が行える液体であればよく、硝酸アンモニウム(NaNO)、硝酸カリウム(KNO)等やまた、それと他の物質との混合液であり、塑性加工液の機能も有する。
【0031】
また、電源装置5もしくはスイッチング装置7には電圧・電流等の調整機構、もしくは電圧・電流のパルス発生機構のうちいずれか一つ以上を有し、槽4内の電流密度などが種々に調整可能とされている。これにより電解加工を行うことによる電解液3の成分変化を考慮し調整可能に加工ワークに対して電圧・電流を付与できるという効果を奏する。なお、電源装置5とスイッチング装置7とは電圧・電流等の調整機構や電圧・電流のパルス発生機構のうちいずれか一つ以上を有し一体となっている構成であってもよい。
【0032】
上記図3に示す構成によると、図1の構成と同様に、槽4内において駆動側加工ワーク1に駆動力が与えられて、その駆動力が前記駆動側加工ワーク1と噛合された被駆動側加工ワーク2に伝えられる。そして駆動側加工ワーク1と被駆動側加工ワーク2とが共に回転し、電解液3の膜を超えて前記両加工ワーク1,2とが接触しながら相対運動がおこり、前記両加工ワーク1,2が研磨加工される。この共ずり加工における両加工ワーク1,2の研磨のメカニズムの詳細が、図5において両加工ワーク1,2の加工面の拡大図(加工接触面の断面図)により示されている。両加工ワーク1,2は電解液3の膜を超えて互いに法線力を受けながら接触して擦り合わせ運動が行われ、研磨加工が行われる。
【0033】
同時にスイッチング装置7を介して、切替可能に駆動側加工ワーク1もしくは被駆動側加工ワーク2に正の電極が通電されている。このスイッチング装置7に電圧・電流等の出力先の切替え機構が備わっている。そして正の電極に回路が閉じられている加工ワークに陽極酸化による電解反応が起こり、その加工表面が溶解し、研磨加工される。このとき、陽極として電解反応させていることにより、正の電極につなげられている加工ワークに不動態被膜が生ずる。
【0034】
この不動態被膜は、電解液3を介して両加工ワーク1,2とが相対運動することにより研磨加工され除去される。不動態被膜が除去された加工ワークの加工表面において、不動態被膜が除去された加工面は活性化されて電解作用による研磨により平滑で光沢のある研磨面が得られ、面粗度向上が図られる。
【0035】
つぎに図3に示した構成による研磨加工工程をその一例を示す図4の線図に基づいて説明する。図4の線図では、横軸に時刻を表し、縦軸にスイッチング装置7を介して電源装置5によって両加工ワーク1,2に印加される電圧とがそれぞれ時間的変化を表すかたちで示されている。この発明の一例である図3の構成において、研磨加工の開始から作業を完了するまでの間に、目的とする両加工ワーク1,2の表面粗度を得るための複合研磨加工が行われる。そして各種調整機構が設けられていることから、効率的および効果的に加工を行うことができる。この各種調整機構とは駆動側加工ワーク1に動力源とともに備えられた回転数調整機構と被駆動側加工ワーク2に備えられた制動力(ブレーキトルク)調整機構と電源装置5もしくはスイッチング装置7にいずれか一つ以上が備えられた電圧・電流等の調整機構、もしくは電圧・電流のパルス発生機構とで構成されている。
【0036】
図4に示される電圧は、加工時間T20からT21の間において、時刻T20から適切な値が電圧の初期値として設定されて、共ずり加工による面粗度向上および不動態被膜の除去が行われつつ、電源装置5もしくはスイッチング装置7とともに備えられた電圧・電流等の調整機構もしくは電圧・電流のパルス発生機構にて電圧・電流等の調整または電圧・電流パルスの調整が行われ電解加工が実施される。また、図4に示すように両加工ワーク1,2にかかる電圧はスイッチング装置7により断続的にパルス電圧が掛けられる。
【0037】
図4の研磨加工工程中の両加工ワーク1,2にかかる電圧の波形によるとパルス電圧が駆動側加工ワーク1と被駆動側加工ワーク2とに交互に掛けられている。このパルス電圧は両加工ワーク1,2の加工度合いによって一方により高い頻度で電圧を掛けて集中的に電解研磨加工を施すことがスイッチング装置7の切り替え機能により可能とされている。
【0038】
なお、図4の線図では回転数・ブレーキトルクの時系列の変化は示されていないが、図2の線図と同様に機械研磨加工が行われる。駆動側加工ワーク1の入力回転数を設定および/または被駆動側加工ワーク2のブレーキトルクを設定することにより、加工部位での法線力を調整することができ、適切かつ十分な機械的研磨を行うことができる。また、この法線力の調整は両加工ワーク1,2の中心軸間の距離が調節可能となっているため、その噛合状態の調節を行うことで可能とされている。また前記各種調整機構により回転数・ブレーキトルク・電圧は作業中であっても、両加工ワーク1,2の加工進捗具合や加工精度状態などの要因により調整することができる。そして目的とする両加工ワーク1,2の面粗度や加工精度を得ることができ、研磨加工行程を効率的かつ効果的に行うことができる。
【0039】
上記図1および図3の二つの構成例においては、加工ワークは駆動側加工ワーク1と被駆動側加工ワーク2との二つとする構成を示したが、同時に噛合い駆動可能な回転伝達要素であれば加工ワークの数は二つに限定されず、二つ以上とする構成としてもよい。
【0040】
図6にこの発明にかかる第三の具体例を示す。図6において、符号8,9はこの発明で対象とする二つの加工ワークであり、ワーク同士の平面もしくは曲面が接する形状のものであればよい。ここでは、二つの加工ワークは接触面が平面で構成される加工ワーク8,9である。この両加工ワーク8,9は共ずり加工による機械加工と同時に電解加工も行うため、その材質は電導性を持つ材質で構成されている。
【0041】
加工ワーク8は加工面が槽4内に固定されている加工ワーク9に対して互いに平行すなわち同一平面移動可能となるように対向させて配置されている。そして、加工ワーク8の上部側には面同士に圧力を付与する切り込み機構10が設けられている。この切り込み機構10にはさらに揺動装置11が接続されている。この切り込み機構10は、切り込み度合いが調整可能に構成されている。また、揺動装置11は、揺動させる速度または加速度が調整可能な構成とされている。
【0042】
この電導性を有する加工ワーク8,9は槽4内の塑性加工液の機能を有する電解液3中に一部もしくは全体が浸漬されている。また、加工ワーク8,9のいずれか一方の加工ワークが電源装置5の陽極に導線6などにより接続され、すなわちアノード側(電子を残してイオン化する電極側(酸化側))とされる構成となる。ここでは、便宜上、図6のように加工ワーク8が電源装置5の陽極に接続されている。一方電解液3は電源装置5の陰極に導線6などで接続され、すなわちカソード側(Hイオンなどが電子と中和してH原子になり、電解反応中にHガスを発生する電極側(還元側))とされる構成となる。なお、電解液3は、加工ワークの陽極分解が行える液体であればよく、硝酸アンモニウム(NaNO)、硝酸カリウム(KNO)等やまた、それと他の物質との混合液であり、塑性加工液の機能も有する。
【0043】
また、電源装置5には電圧・電流等の調整機構、もしくは電圧・電流のパルス発生機構のうちいずれか一つ以上を有し、槽4内の電流密度などが種々に調整可能とされている。これにより電解加工を行うことによる電解液3の成分変化を考慮し調節可能に、加工ワークに対して電圧・電流を付与できるという効果を奏する。
【0044】
上記図6に示す構成によると、槽4内において加工ワーク8と加工ワーク9とに切り込み機構10により加工面垂直方向に力が加えられて、かつ揺動装置11により加工ワーク8に加工面接線方向に速度もしくは加速度が与えられることにより、電解液3の膜を超えて前記両加工ワーク8,9とが接触しながら相対運動がおこり擦り合わせによる機械研磨である共ずり加工が行われる。
【0045】
このとき、切り込み機構10と揺動装置11とによる研磨加工により、陽極として電解しているために発生する不動態被膜の除去を行い、加工面を電気的に活性化して電解研磨が行われ、目標とする面粗度などが得られる。
【0046】
また、同時に加工ワーク8は正の電極に通電されているので、加工ワーク8に陽極酸化による電解反応が起こり、その加工表面が溶解し、研磨加工される。このとき、陽極として電解反応させていることにより、加工ワーク表面8に不動態被膜が生ずる。
【0047】
この不動態被膜は、電解液3を介して両加工ワーク8,9とが相対運動することにより研磨加工され除去される。不動態被膜が除去された加工ワーク8の加工表面において、不動態被膜が除去された加工面は活性化されて電解作用による研磨により平滑で光沢のある研磨面が得られ、面粗度向上が図られる。なお不動態被膜の成長速度に合わせて除去するために、切り込み機構10により両加工ワーク8,9に加えられる圧力を調整することが可能である。
【0048】
つぎに図6に示した構成による研磨加工工程をその一例を示す図7の線図に基づいて説明する。図7の線図では、横軸に時刻を表し、縦軸に両加工ワーク8,9にかかる圧力と電源装置5によって印加される電圧とがそれぞれ時間的変化を表すかたちで示されている。この発明の一例である図6の構成において、研磨加工の開始から作業を完了するまでの間に、目的とする両加工ワーク8,9の表面粗度を得るための複合研磨加工が行われる。そして各種調整機構が設けられていることから、効率的および効果的に加工を行うことができる。この各種調整機構とは加工ワーク8にともに切り込み機構10に備えられた切り込み度合い調整機構と揺動装置11に備えられた揺動速度調整機構と電源装置5にいずれか一つ以上が備えられた電圧・電流等の調整機構、もしくは電圧・電流のパルス発生機構とで構成されている。
【0049】
図7に示される圧力と電圧とは、加工時間T30からT31の間において、時刻T30から適切な値が圧力と電圧との初期値として設定されて、共ずり加工による面粗度向上および不動態被膜の除去が行われつつ、電源装置5とともに備えられた電圧・電流等の調整機構もしくは電圧・電流のパルス発生機構にて電圧・電流等の調整または電圧・電流パルスの調整が行われ電解加工が実施される。また、加工ワーク8の切り込み度合いを調整することにより、加工部位での圧力を調整することができ、適切かつ十分な機械的研磨を行うことができる。また、加工ワーク8の揺動速度を調整することにより、加工時間の短縮や相対的に研磨加工速度を遅らせてより精度の高い研磨が可能となる。
【0050】
なお、図7に示す研磨加工工程中では圧力と電圧とが研磨加工の終了する時刻T31間際まで一定になっているが、図7の線図に示される圧力・電圧の時系列の変化は、その一例を表したものであり、前記各種調整機構により圧力・電圧は作業中であっても、両加工ワーク8,9の加工進捗具合や加工精度状態などの要因により調整することができる。そして目的とする両加工ワーク8,9の面粗度や精度を得ることができ、研磨加工行程を効率的かつ効果的に行うことができる。
【0051】
図8にこの発明にかかる第三の具体例を示す。図8において、符号8,9はこの発明で対象とする二つの加工ワークであり、ワーク同士の平面もしくは曲面が接する形状のものであればよい。ここでは、二つの加工ワークは接触面が平面で構成される加工ワーク8,9である。この両加工ワーク8,9は共ずり加工による機械加工と同時に電解加工も行うため、その材質は電導性を持つ材質で構成されている。
【0052】
加工ワーク8は加工面が槽4内に固定されている加工ワーク9に対して互いに平行すなわち同一平面移動可能となるように対向させて配置されている。そして、加工ワーク8の上部側には面同士に圧力を付与する切り込み機構10が設けられている。この切り込み機構10にはさらに揺動装置11が接続されている。この切り込み機構10は、切り込み度合いが調整可能に構成されている。また、揺動装置11は、揺動させる速度または加速度が調整可能な構成とされている。
【0053】
図6の構成と同様にこの電導性を有する加工ワーク8,9は槽4内の塑性加工液の機能を有する電解液3中に一部もしくは全体が浸漬されている。そして加工ワーク8,9が電源装置5の陽極に素一鎮撫回路7を介して導線6などにより接続される。そして研磨加工工程中、両加工ワーク8,9のいずれか一方の加工ワークが陽極側に通電される。すなわちアノード側(電子を残してイオン化する電極側(酸化側))とされる構成となる。一方電解液3は電源装置5の陰極に導線6などで接続され、すなわちカソード側(Hイオンなどが電子と中和してH原子になり、電解反応中にHガスを発生する電極側(還元側))とされる構成となる。なお、電解液3は、加工ワークの陽極分解が行える液体であればよく、硝酸アンモニウム(NaNO)、硝酸カリウム(KNO)等やまた、それと他の物質との混合液であり、塑性加工液の機能も有する。
【0054】
また、電源装置5もしくはスイッチング装置7には電圧・電流等の調整機構、もしくは電圧・電流のパルス発生機構のうちいずれか一つ以上を有し、槽4内の電流密度などが種々に調整可能とされている。これにより電解加工を行うことによる電解液3の成分変化を考慮し調節可能に、加工ワークに対して電圧・電流を付与できるという効果を奏する。なお、電源装置5とスイッチング装置7とは電圧・電流等の調整機構や電圧・電流のパルス発生機構のうちいずれか一つ以上を有し一体となっている構成であってもよい。
【0055】
上記図8に示す構成によると、槽4内において加工ワーク8と加工ワーク9とに切り込み機構10により加工面垂直方向に力が加えられて、かつ揺動装置11により加工ワーク8に加工面接線方向に速度もしくは加速度が与えられることにより、電解液3の膜を超えて前記両加工ワーク8,9とが接触しながら相対運動がおこり擦り合わせによる機械研磨である共ずり加工が行われる。
【0056】
このとき、切り込み機構10と揺動装置11とによる研磨加工により、陽極として電解しているために発生する不動態被膜の除去を行い、加工面を電気的に活性化して電解研磨が行われ、目標とする面粗度などが得られる。
【0057】
また、同時にスイッチング装置7を介して、切替可能に加工ワーク8,9は正の電極に通電されている。このスイッチング装置7に電圧・電流等の出力先の切替え機構が備わっている。そして正の電極に回路が閉じられている加工ワークに陽極酸化による電解反応が起こり、その加工表面が溶解し、研磨加工される。このとき、陽極として電解反応させていることにより、被駆動側加工ワーク表面に不動態被膜が生ずる。
【0058】
この不動態被膜は、電解液3を介して両加工ワーク8,9とが相対運動することにより研磨加工され除去される。不動態被膜が除去された加工ワーク8,9の加工表面において、不動態被膜が除去された加工面は活性化されて電解作用による研磨により平滑で光沢のある研磨面が得られ、面粗度向上が図られる。なお不動態被膜の成長速度に合わせて除去するために、切り込み機構10により両加工ワーク8,9に加えられる圧力を調整することが可能である。
【0059】
つぎに図8に示した構成による研磨加工工程をその一例を示す図9の線図に基づいて説明する。図9の線図では、横軸に時刻を表し、縦軸にスイッチング装置7を介して電源装置5によって両加工ワーク8,9に印加される電圧とがそれぞれ時間的変化を表すかたちで示されている。この発明の一例である図8の構成において、研磨加工の開始から作業を完了するまでの間に、目的とする両加工ワーク8,9の表面粗度を得るための複合研磨加工が行われる。そして各種調整機構が設けられていることから、効率的および効果的に加工を行うことができる。この各種調整機構とは加工ワーク8とともに切り込み機構10に備えられた切り込み度合い調整機構と揺動装置11に備えられた揺動速度調整機構と電源装置5もしくはスイッチング装置7にいずれか一つ以上が備えられた電圧・電流等の調整機構、もしくは電圧・電流のパルス発生機構とで構成されている。
【0060】
図9に示される電圧は、加工時間T40からT41の間において、時刻T30から適切な値が電圧の初期値として設定されて、共ずり加工による面粗度向上および不動態被膜の除去が行われつつ、電源装置5もしくはスイッチング装置7とともに備えられた電圧・電流等の調整機構もしくは電圧・電流のパルス発生機構にて電圧・電流等の調整または電圧・電流パルスの調整が行われ電解加工が実施される。また、図9に示すように両加工ワーク8,9にかかる電圧はスイッチング装置7により断続的にパルス電圧が掛けられる。
【0061】
また、加工ワーク8の切り込み度合いを調整することにより、加工部位での圧力を調整することができ、適切かつ十分な機械的研磨を行うことができる。また、加工ワーク8の揺動速度を調整することにより、加工時間の短縮や相対的に研磨加工速度を遅らせてより精度の高い研磨が可能となる。
【0062】
図9の研磨加工工程中の両加工ワーク8,9にかかる電圧の波形によるとパルス電圧が両加工ワーク8,9に交互に掛けられている。このパルス電圧は両加工ワーク8,9の加工度合いによって一方により高い頻度で電圧を掛けて集中的に電解研磨加工を施すことがスイッチング装置7の切り替え機能により可能とされている。
【0063】
なお、図9に示す研磨加工工程中では圧力と電圧とが研磨加工の終了する時刻T41間際まで一定になっているが、図9の線図に示される圧力・電圧の時系列の変化は、その一例を表したものであり、前記各種調整機構により圧力・電圧は作業中であっても、両加工ワーク8,9の加工進捗具合や加工精度状態などの要因により調整することができる。そして目的とする両加工ワーク8,9の面粗度や精度を得ることができ、研磨加工行程を効率的かつ効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】この発明にかかる第一の具体例を模式的に示す図である。
【図2】この発明にかかる第一の具体例における加工時間と駆動側加工ワークの入力回転数と被駆動側加工ワークに作用するブレーキトルクと両加工ワークのうち少なくとも一方に印加された電圧との関係の一例を模式的に示す線図である。
【図3】この発明にかかる第二の具体例を模式的に示す図である。
【図4】この発明にかかる第二の具体例における加工時間と加工ワークの揺動速度と加工ワークにかかる圧力と駆動側加工ワークに印加された電圧と被駆動側加工ワークに印加された電圧との関係の一例を模式的に示す線図である。
【図5】この発明の互いに対向させた両加工ワークの加工面の詳細を模式的に示す図である。
【図6】この発明にかかる第三の具体例を模式的に示す図である。
【図7】この発明にかかる第三の具体例における加工時間と加工ワークにかかる圧力と加工ワークに印加された電圧との関係の一例を模式的に示す線図である。
【図8】この発明にかかる第四の具体例を模式的に示す図である。
【図9】この発明にかかる第四の具体例における加工時間と加工ワークに印加された電圧との関係の一例を模式的に示す線図である。
【符号の説明】
【0065】
1…駆動側加工ワーク、 2…被駆動側加工ワーク、 3…電解液、 4…槽、 5…電源装置、 6…導線、 7…スイッチング装置、 8,9…加工ワーク、 10…切り込み機構、 11…揺動装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液中に加工ワークを浸漬し、その電解液と加工ワークとの間に電圧を印加して、前記加工ワークを電解研磨する電解研磨加工方法において、
研磨材を含まない電解液中に一対の加工ワークを浸漬するとともにそれらの加工ワークを前記電解液を介して対向させて配置し、前記電解液を介して対向している加工対象面がその面方向に相対移動するように、少なくとも一方の加工ワークを駆動することにより共ずりを生じさせ、かつ前記電解液といずれかの加工ワークとの間に電圧を印加して研磨加工を行うことを特徴とする電解研磨加工方法。
【請求項2】
電解液中に加工ワークを浸漬し、その電解液と加工ワークとの間に電圧を印加して、前記加工ワークを電解研磨する電解研磨加工装置において、
一対の加工ワークを浸漬する、研磨材を含まない電解液と、
前記電解液を介して対向している加工対象面がその面方向に相対移動するように、少なくとも一方の加工ワークを駆動することにより共ずりを生じさせる駆動機構と、
前記電解液といずれかの加工ワークとの間に電圧を印加する電源装置と
を備えていることを特徴とする電解研磨加工装置。
【請求項3】
前記電圧を印加するワークを、前記加工ワーク間で切り換え可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電解研磨加工方法もしくは請求項2に記載の電解研磨加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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