説明

電解装置

【課題】水の供給流量を増加してもデッドゾーンの発生を防止できるとともに、電解効率の向上を図ることのできる電解装置を提供することにある。
【解決手段】電解槽がアノード室と中間室とカソード室から構成された3室型の電解装置であって、前記アノード室と中間室の間に、陰イオン交換膜と電極が配置され、前記カソード室と中間室の間に、陽イオン交換膜と電極が配置され、前記アノード室と中間室とカソード室は夫々2個の流入口を備えたので、水の供給流量を増加してもデッドゾーンの発生を防止できるとともに、電解効率の向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気分解によってアルカリ性の還元水と酸性の酸化水を得ることのできる電解装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、電解装置は隔膜のない1室型と1枚の隔膜で2槽に分割した2室型とアノード室、中間室、カソード室の3層に分割した3室型とに分類される。
本発明は、水の電気分解を効率よく行うことのできる3室型の電解装置である。
図1に示すように3室型の電解装置は、通常、中間室1に水(H2O)と食塩(NaCl)又は塩化カリウム(KCl)等の支持電解質と称される液体を入れ、食塩を電気分解して、ナトリウムイオン(Na)と塩素イオン(Cl-)に分解し、ナトリウムイオン(Na)が溶け込んだカソード室2の水を高還元水、塩素イオン(Cl-)が溶け込んだアノード室3の水を高酸化水とします。また、カソード室2と中間室1との間、及び中間室1とアノード室3との間は、イオン交換膜、電極で仕切られている。
【0003】
図7は、従来の3室型の電解装置におけるアノード室3またはカソード室2を示す説明図である。図に示すように原水入口4は、底壁に平行に一箇所(本実施例では右側)に設けられるとともに、電解水出口5は側壁に平行で且つ垂直方向に設けられている。このような構成のカソード室2及びアノード室3は、電極とイオン交換膜を介して中間室1の両側にOリング或いはパッキン7で水密性を保持しつつボルトナット8で接続されている。
以上のように構成された電解装置において、下端右側の原水入口4から供給された原水は、図8に示すように大きな矢印で示す旋回流6と小さな流れ9とが生じ、電極への通電によりカソード室2から高還元水が、アノード室3から高酸化水が発生し、電解水出口5から排出される。
また、特許文献1等にもカソード室から高還元水が、アノード室から高酸化水の生成される3室型の電解システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3988827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の図7、8に示すような3室型の電解装置においては、図8から明らかなように、アノード室或いはカソード室において原水入口4からの流量が非常に少ない場合には、原水が電解槽全体に行き渡るが、原水の流量が多くなるに従って、左上の部分にデッドゾーン(停滞域)Dが生じ、原水の均等な供給が困難となり、電解効率が低下するという問題が存在した。
また、中間室は、支持電解質を循環して使用するが、通常、流量を約1L/分〜2L/分とする。流量が少なく、流速が遅いと中間室にイオンが充分に供給されず、使用するイオン量に対して供給されるイオン量が足りなくなり、電解効率が低下する問題があった。電解効率の比較表からも明らかなように、流量が約1L/分〜2L/分の間では、やはり中間室においてもデッドゾーンが生じている。
本発明は上記実情に鑑み提案されたもので、アノード室或いはカソード室に夫々2個の流入口を設けるとともに、夫々の流入口を左右対称に対向配置したので、原水の供給流量を増加してもデッドゾーン(停滞域)の発生を防止することができる上に、電解効率を向上することのできる電解装置を提供することを目的とする。
また、中間室においても、デッドゾーンの発生を防止し、イオンを十分に行き渡らせる為に流入口を2個設け、電解効率を向上することのできる電解装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は電解槽がアノード室と中間室とカソード室から構成された3室型の電解装置であって、前記アノード室と中間室の間に、陰イオン交換膜と電極が配置され、前記カソード室と中間室の間に、陽イオン交換膜と電極が配置され、前記アノード室と中間室とカソード室は夫々2個の流入口を備えたことを特徴としている。
【0007】
また、本発明において、前記流入口は、各電解槽において夫々左右対称に対向配置されたことを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明において、前記流入口から供給される水量が等しいことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明は前記した構成からなるので、以下に説明するような効果を奏することができる。
【0010】
本発明では、電解槽がアノード室と中間室とカソード室から構成された3室型の電解装置であって、前記アノード室と中間室の間に、陰イオン交換膜と電極が配置され、前記カソード室と中間室の間に、陽イオン交換膜と電極が配置され、前記アノード室と中間室とカソード室は夫々2個の流入口を備えたので、水の供給流量を増加してもデッドゾーンの発生を防止できるとともに、電解効率を向上することができる。
【0011】
また、本発明では、前記流入口は、各電解槽において夫々左右対称に対向配置されたので、入口からの水の供給流量を増加してもデッドゾーンの発生を防止し、電解効率の低下を低減することができる。
【0012】
また、本発明では、前記流入口から供給される水量が等しいので、入口からの水の供給流量を増加してもデッドゾーンの発生を防止し、電解効率の低下を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、3室型の電解装置の一例を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の電解装置における、アノード室またはカソード室を示す説明図である。
【図3】図3は、同電解装置の縦断面図である。
【図4】図4は、同電解装置のアノード室またはカソード室における水流の方向を示す説明図である。
【図5】図5は、同電解装置における酸化水の電解効率の結果を示す図である。
【図6】図6は、同電解装置における還元水の電解効率の結果を示す図である。
【図7】図7は、従来の電解装置におけるアノード室またはカソード室を示す説明図である。
【図8】図8は、従来の電解装置のアノード室またはカソード室における水流の方向を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の電解装置は、アノード室、カソード室或いは中間室に夫々2個の水流入口を設けるとともに、夫々の流入口を左右対称に対向配置したので、水の供給流量を増加してもデッドゾーンの発生を防止することができる上に、電解効率を向上することができる。
【実施例1】
【0015】
以下、一実施の形態を示す図面に基づいて本発明を詳細に説明する。図2は、本発明の電解装置における、アノード室21またはカソード室23を示す説明図、図3は本発明の電解装置の縦断面図である。ここで、電解装置20は、電解槽がアノード室21と中間室22とカソード室23から構成された3室型のものであって、前記アノード室21と中間室22の間に、陰イオン交換膜24と電極25が配置され、前記カソード室23と中間室22の間に、陽イオン交換膜26と電極27が配置され、前記アノード室21と中間室22とカソード室23は夫々2個の流入口28、29と1個の電解水出口30を備えている。
【0016】
また、流入口28、29は、各電解槽において夫々左右対称に対向配置されている。そして、アノード室21と中間室22とカソード室23は、シール部材であるOリング或いはパッキン31を介して密封されるとともに、ボルト・ナット32により組立てられる。本実施の形態において、各電解槽は、矩形状をしており、底壁に平行に流入口28、29が左右に対向して配置されている。また、流入口28、29等しい断面形状をしており、等しい量の原水を供給することができる。更に、電解水出口30は、天井壁に対して垂直方向で且つ右側壁に沿って配置されている。
【0017】
中間室22もアノード室21、カソード室23と同様な矩形状をしており、底壁に平行で且つ所定の距離を有して流入口34、35が左右に対向して配置されている。また、流入口34、35は等しい断面形状をしており、等しい量の水と食塩等を供給することができる。更に、排出口36は、天井壁に対して垂直方向で且つ右側壁から所定距離を有して配置されており、排出された水等は循環して再度流入口34、35から供給される。
【0018】
以上のような構成の本発明の電解装置20によれば、図4に示すように原水が左右の流入口28、29から等しい量、等速度で供給されるので中央で衝突し、流速が抑制されるとともに、電解槽全体に平均して行き渡り、平行な上昇流33となって電解水出口30方向へ向かうこととなる。したがって、電解槽内にデッドゾーンが発生することなく、電解効率が低下することがない。
【0019】
図5及び表1は、本発明の電解装置における酸化水の電解効率の結果を示す図である。結果は、他社の電解装置と、従来の流入口が1つの電解装置と、本発明の流入口が2つ電解装置とを比較したものである。
流量が0.60(L/分)では、各装置とも pHは2.28、2.21、2.20と効率にそれ程差がない。つまり、従来の装置と本発明の装置とのpHの差は、0.01であり、効率比は1.02である。また、他社装置と本発明装置とのpHの差は、0.08であり、効率比は1.2である。
【0020】
流量が、1.60(L/分)では、各装置に差が現れ本発明の電解装置では、pHが2.4であり、従来の流入口が1つの電解装置では、2.5丁度、他社の装置では2.88である。つまり、従来の装置と本発明の装置とのpHの差は、0.10であり、効率比は1.26である。また、他社装置と本発明装置とのpHの差は、0.48であり、効率比は3.02である。
更に流量が増して3.20(L/分)では、他社の装置と従来の流入口が1つの電解装置とが略等しいpH3.05、3.00の値を示し、本発明の電解装置では、pHが2.7を示す。つまり、従来の装置と本発明の装置とのpHの差は、0.30であり、効率比は2.00である。また、他社装置と本発明装置とのpHの差は、0.35であり、効率比は2.24である。
【0021】
流量が3.50(L/分)では、他社の装置がpH3.10、従来の流入口が1つの電解装置では、pH3.13と値が逆転し、本発明の電解装置では、pHが2.80と高い酸性を示す。つまり、従来の装置と本発明の装置とのpHの差は、0.33であり、効率比は2.14である。また、他社装置と本発明装置とのpHの差は、0.30であり、効率比は2.00である。
このように本発明の電解装置と従来の流入口が1つの電解装置とを比較すると、流量が多くなるに従って電解効率の差が顕著となる。また、他社装置は、電解槽が狭く、流量が少ないときは良好であるが、流量が増すと本発明及び、従来の装置に比べ、かなりの流速があり電解効率が極端に低下する。つまり、本発明の電解装置では、流量が増してもアノード室において高い電解効率を示すことが判る。
【0022】
【表1】

【0023】
図6及び表2は、本発明の電解装置における還元水の電解効率の結果を示す図である。流量が0.10(L/分)と少ない場合では、他社の装置がpH12.35、従来の流入口が1つの電解装置では、pH11.94、本発明の電解装置では、pHが12.00であり、他社の装置が高いアルカリ性を示す。つまり、従来の装置と本発明の装置とのpHの差は、0.06であり、効率比は1.15である。また、他社装置と本発明装置とのpHの差は、−0.35であり、効率比は0.45である。
【0024】
流量が0.75(L/分)では、他社の装置がpH11.80、従来の流入口が1つの電解装置では、pH11.84、本発明の電解装置では、pHが11.90であり、本発明の装置が高いアルカリ性を示して逆転する。つまり、従来の装置と本発明の装置とのpHの差は、0.06であり、効率比は1.15である。また、他社装置と本発明装置とのpHの差は、0.10であり、効率比は1.26である。
流量が1.60(L/分)では、他社の装置がpH11.31、従来の流入口が1つの電解装置では、pH11.20、本発明の電解装置では、pHが11.45であり、本発明の装置が高いアルカリ性を示す。つまり、従来の装置と本発明の装置とのpHの差は、0.25であり、効率比は1.78である。また、他社装置と本発明装置とのpHの差は、0.14であり、効率比は1.38である。
【0025】
流量が3.60(L/分)では、他社の装置がpH10.88、従来の流入口が1つの電解装置では、pH10.71、本発明の電解装置では、pHが11.00であり、本発明の装置が高いアルカリ性を示す。
つまり、従来の装置と本発明の装置とのpHの差は、0.29であり、効率比は1.95である。また、他社装置と本発明装置とのpHの差は、0.12であり、効率比は1.32である。
このように本発明の電解装置と従来の流入口が1つの電解装置とを比較すると、流量が多くなるに従って電解効率の差が顕著となる。流量が0.5(L/分)程度では、pHに差がないが、流量が多くなるとpHに差が出る。また、また、他社装置と本発明装置との電解効率の違いを検討すると、酸化水の結果と若干異なる。この違いは、NaイオンとCLイオンのイオン化傾向の違いから来るものである。このように流量が、少ない場合では他社装置が優れた値を示すが0.75(L/分)以上では、常に本発明の電解効率が優れている。
【0026】
【表2】

【0027】
なお、上記説明では、電解水出口が1つの場合について説明したが、これに限ることなく、複数の電解水出口を設けてもよい。
【符号の説明】
【0028】
20 電解装置
21 アノード室
22 中間室
23 カソード室
24 陰イオン交換膜
25 電極
26 陽イオン交換膜
27 電極
28 流入口
29 流入口
30 電解水出口
31 Oリング或いはパッキン
32 ボルト・ナット
33 上昇流
34 流入口
35 流入口
36 排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解槽がアノード室と中間室とカソード室から構成された3室型の電解装置であって、
前記アノード室と中間室の間に、陰イオン交換膜と電極が配置され、
前記カソード室と中間室の間に、陽イオン交換膜と電極が配置され、
前記アノード室と中間室とカソード室は夫々2個の流入口を備えたことを特徴とする電解装置。
【請求項2】
前記流入口は、各電解槽において夫々左右対称に対向配置されたことを特徴とする請求項1に記載の電解装置。
【請求項3】
前記流入口から供給される水量が等しいことを特徴とする請求項1または2に記載の電解装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−106151(P2012−106151A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254724(P2010−254724)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(506112340)株式会社レドックス (3)
【Fターム(参考)】