説明

電解質保持板形成用スラリー組成物、電解質保持板形成用グリーンシート及びこれらを用いた電解質保持板並びにこれらの製造方法

【課題】水溶媒を使用してリチウムアルミネートからなる電解質保持板を製造するための電解質保持板形成用スラリー組成物、電解質保持板形成用グリーンシート及びこれらを用いた電解質保持板並びにこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】α−リチウムアルミネートと、水溶性結合剤と、水とを含有し、pH10−13である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)などの燃料電池に用いられる電解質保持板を製造するための電解質保持板形成用スラリー組成物、電解質保持板形成用グリーンシート及びこれらを用いた電解質保持板並びにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)は、リチウムアルミネート(LiAlO)電解質保持板に、炭酸リチウム(LiCO)と炭酸ナトリウム(NaCO)もしくは炭酸カリウム(KCO)を溶融含浸させた電解質板、多孔質ニッケルで形成されたアノード、多孔質酸化ニッケルで形成されたカソード、各電極に反応ガスを供給するアノードガス流路室及びカソード流路室などで構成され、約650℃の動作温度で電気エネルギーを発生する。
【0003】
MCFCの電解質保持板は約650℃の温度域において炭酸リチウムと炭酸ナトリウム等の混合炭酸塩を含浸保持する目的で使用されるため、このような混合炭酸塩に対する高い保持性や、耐アルカリ性、耐熱性などの特性が要求される。さらに電解質保持板はアノードガス流路室とカソードガス流路室とのガスの拡散を防ぎ且つ溶融塩の良好なイオン導電性を阻害しない特性を有することが要求される。
【0004】
このような電解質保持板に電解質が安定に保持されるためには、炭酸塩と反応しないこと、毛細管現象を利用できる程度の空孔径が小さい電解質保持材であること、クラックなどの欠陥がなく約650℃の動作時においても破損しないことが必要となる。
【0005】
このような要求を満たす電解質保持板として、現在ではリチウムアルミネートが使用されている。リチウムアルミネートとしては、γ−リチウムアルミネート(γ−LiAlO;正方晶)の他、同じ組成で構造の異なるα型(菱面体系)およびβ型(斜方晶)が知られている。これまでMCFCの運転環境下では、γ−LiAlO粉が最も安定とされていたが、長時間の発電を行うと徐々にα−LiAlOへと相転移することなども明らかになり、α−LiAlOが注目されている。
【0006】
また、電解質保持板を製造する方法としては、リチウムアルミネートと混合炭酸塩の混合粉末を常温で加圧し500℃前後で焼結するペースト法や460℃から490℃の温度範囲で加圧するホットプレス法、または、リチウムアルミネート原料粉と反応しない有機溶媒と結合剤などを添加して成形し、焼結して作成したのちに炭酸塩を含浸するマトリックス法などが適用されてきた。
【0007】
このうちマトリックス法の中には抄紙法、ドクターブレード法、カレンダーロール法および電気泳動法などがあるが、ドクターブレード法は生産能力が優れており大型化が容易であること、表面性が良いことなどから均質な電解質保持板の製造に適している。このため、大面積MCFC電解質保持板に関してはドクターブレード法による製造が主に適用されている。
【0008】
このため、現状では、ドクターブレード法を適用し電解質保持板を製造する場合の結合剤には有機溶媒への溶解性や強度、安定性、接着性などの観点からポリビニルブチラールが一般的に使用されている。したがって、有機溶媒を使用する以上は、スラリーの取り扱い時または、グリーンシート作製時に引火性を伴い、時には爆発の危険性を有している。引火や爆発の危険性を防ぐためには設備の着火源をなくし静電気や火花の発生を防ぐなどすべての製造装置において防爆装置を使用しなければならない。このため、製造設備としてはコスト高の要因となり、また、防爆設備を導入した場合、製造に関わる作業者への徹底した安全に関する教育や、安全器具装着の義務付け、さらに教育を受けた限定された作業者に製造を委ねなければならないという問題がある。
【0009】
したがって、MCFCの電解質保持板を製造するにあたり、引火性の無い無公害の水を溶媒に使用するプロセスを開発できれば、製造装置のコストを安価にでき製造作業者を限定することなく、製造コストの低い電解質保持板を得ることができる。
【0010】
ここで、水溶媒を用いた電解質保持板製造に関しては、例えば、主原料に水酸化リチウムアルミニウムまたはリチウムアルミネートの水和物を用い、水溶剤系のバインダーを用いたドクターブレード法による製造プロセスが提案されている(特許文献1参照)。
【0011】
しかしながら、この提案によれば製造過程にLiAlOの比表面積の大きな微粒子を生成させるため550℃から700℃の熱処理を経る必要があり、コスト増の要因となっているため、実用化には至っていない。
【0012】
一方、近年、α−LiAlOについてその原料粉の製造法が改良され、溶融塩中で長時間高温に曝されても粒子構造が変化せず、優れた耐アルカリ性、耐熱性ならびに高水準の保持性能を発揮するα−LiAlO粉体製造方法が提供されているが、このようなα−LiAlO粉を水溶媒でスラリーとして成形について詳細検討を行った事例はない。
【0013】
【特許文献1】特開平6−290799号公報
【特許文献2】特開2000−195531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上述した事情に鑑み、水溶媒を使用してリチウムアルミネートからなる電解質保持板を製造するための電解質保持板形成用スラリー組成物、電解質保持板形成用グリーンシート及びこれらを用いた電解質保持板並びにこれらの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決する本発明の第1の態様は、α−リチウムアルミネートと、水溶性結合剤と、水とを含有し、pH10−13であることを特徴とする電解質保持板形成用スラリー組成物にある。
【0016】
かかる第1の態様では、水溶性結合剤を用い、pHをアルカリ性に維持することにより、α−リチウムアルミネートが均一に分散した安定したスラリーとなり、所望の空隙率で平均細孔径の電解質保持板を得ることができる。
【0017】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の電解質保持板形成用スラリー組成物において、前記水溶性結合剤が、メチルセルロース及びポリビニルアルコールの少なくとも一種であることを特徴とする電解質保持板形成用スラリー組成物にある。
【0018】
かかる第2の態様では、所定の結合剤を用いることにより、比較的低温で焼失させることができ、所望の空隙率で平均細孔径の電解質保持板を得ることができる。
【0019】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様に記載の電解質保持板形成用スラリー組成物において、前記α−リチウムアルミネートが、比表面積が5〜9m/gである粉末であることを特徴とする電解質保持板形成用スラリー組成物にある。
【0020】
かかる第3の態様では、所望の比表面積を有するα−リチウムアルミネートを用いることにより、水系で安定したスラリーとすることができ、所望の空隙率で平均細孔径の電解質保持板を得ることができる。
【0021】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様に記載の電解質保持板形成用スラリー組成物において、α−リチウムアルミネート100質量部に対して、水が150重量部以下含有されることを特徴とする電解質保持板形成用スラリー組成物にある。
【0022】
かかる第4の態様では、所定の含水率とすることにより、析出物などのなく、比較的長期に亘って保存することができるグリーンシートを得ることができ、所望の空隙率で平均細孔径の電解質保持板を得ることができる。
【0023】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様に記載の電解質保持板形成用スラリー組成物において、炭酸リチウム及び炭酸リチウム水和物の少なくとも一種を含有することを特徴とする電解質保持板形成用スラリー組成物にある。
【0024】
かかる第5の態様では、炭酸リチウム又は炭酸リチウム水和物の存在により、pHがアルカリ性に保持され、安定したスラリーとなり、所望の空隙率で平均細孔径の電解質保持板を得ることができる。
【0025】
本発明の第6の態様は、第1〜5の何れかの態様に記載の電解質保持板形成用スラリー組成物において、可塑剤、分散剤及び消泡剤から選択される少なくとも一種を含有することを特徴とする電解質保持板形成用スラリー組成物にある。
【0026】
かかる第6の態様では、可塑剤、分散剤、消泡剤などを含有することのより、より均一でより安定したスラリーとすることができ、所望の空隙率で平均細孔径の電解質保持板を得ることができる。
【0027】
本発明の第7の態様は、第1〜6の何れかの態様に記載の電解質保持板形成用スラリー組成物をシート状に成形し、乾燥したことを特徴とする電解質保持板形成用グリーンシートにある。
【0028】
かかる第7の態様では、水溶性結合剤を用い、pHをアルカリ性に維持したことにより、α−リチウムアルミネートが均一に分散した安定したスラリーから形成されたものであるので、所望の空隙率で平均細孔径の電解質保持板を得ることができる。
【0029】
本発明の第8の態様は、第7の態様に記載の電解質保持板形成用グリーンシートを400℃〜500℃で熱処理して少なくとも前記水溶性結合剤を焼失させた、空隙率が50〜66%、平均細孔径が0.2〜0.5μmの多孔質体であることを特徴とする電解質保持板にある。
【0030】
かかる第8の態様では、水溶性結合剤を用い、pHをアルカリ性に維持したことにより、α−リチウムアルミネートが均一に分散した安定したスラリーから形成されたグリーンシートを400〜500℃で熱処理することにより、水溶性結合剤などを焼失させ、所望の空隙率で平均細孔径の電解質保持板を得ることができる。
【0031】
本発明の第9の態様は、第1〜6の何れかの態様に記載の電解質保持板形成用スラリー組成物をシート状に成形し、乾燥することを特徴とする電解質保持板形成用グリーンシートの製造方法にある。
【0032】
かかる第9の態様では、水溶性結合剤を用い、pHをアルカリ性に維持したことにより、α−リチウムアルミネートが均一に分散した安定したスラリーを成形して乾燥することにより、所望の空隙率で平均細孔径の電解質保持板を得ることができるグリーンシートとすることができる。
【0033】
本発明の第10の態様は、第1〜6の何れかの態様に記載の電解質保持板形成用スラリー組成物をシート状に成形し、乾燥して電解質保持板形成用グリーンシートとし、400℃〜500℃で熱処理して少なくとも前記水溶性結合剤を焼失させて多孔質体とすることを特徴とする電解質保持板の製造方法にある。
【0034】
かかる第10の態様は、水溶性結合剤を用い、pHをアルカリ性に維持したことにより、α−リチウムアルミネートが均一に分散した安定したスラリーを成形して乾燥することにより電解質保持板形成用グリーンシートとし、これを400〜500℃で熱処理することにより、水溶性結合剤などを焼失させ、所望の空隙率で平均細孔径の電解質保持板を得ることができる。
【0035】
本発明の第11の態様は、第10の態様に記載の電解質保持板の製造方法において、前記熱処理を、前記電解質保持板形成用グリーンシートを燃料電池に設置した後に行うことを特徴とする電解質保持板の製造方法にある。
【0036】
かかる第11の態様では、グリーンシートの熱処理を燃料電池内で行い、所望の電解質保持板とすることができる。
【0037】
本発明の第12の態様は、第10又は11の態様に記載の電解質保持板の製造方法において、前記多孔質体が、空隙率が50〜66%、平均細孔径が0.2〜0.5μmであることを特徴とする電解質保持板の製造方法にある。
【0038】
かかる第12の態様では、所望の空隙率で平均細孔径の電解質保持板を得ることができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、水溶性結合剤を用い、pHをアルカリ性に維持することにより、α−リチウムアルミネートが均一に分散した安定したスラリーとすることができ、これを成形して乾燥すれば、比較長期間に亘って保存することができるグリーンシートとすることができ、これを400〜500℃で熱処理することにより、所望の空隙率で平均細孔径の電解質保持板を得ることができる。さらに、引火性の無い、無公害の水溶媒を使用した電解質保持板の製造が可能になり、製造のコストを安価にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0041】
本発明の電解質保持板形成用スラリー組成物は、α−リチウムアルミネートと、水溶性結合剤と、水とを含有し、pH10−13である。
【0042】
ここで、α−リチウムアルミネートは、α型のアルミン酸リチウムであるが、BET比表面積が、1〜10m/gである粉末で製造可能であるが、BET比表面積が、5〜9m/gである粉末を用いるのが好ましい。水に対して安定で、所望の空隙率及び細孔径を有する電解質保持板を得ることができるからである。このようなα−リチウムアルミネートは、平均粒子径としてはサブミクロンオーダーであり、例えば、特開2000−195531号公報に開示された製造方法により製造することができる。
【0043】
また、本発明では、有機溶媒を用いず、溶媒として水を用いる。水としては、脱イオン水、蒸留水、純水などを用いることができる。
【0044】
水溶性結合剤とは、水溶性のバインダーであり、α−リチウムアルミネートと反応せず、所望の温度で焼失することができるものであれば、公知のものを用いることができる。α−リチウムアルミネートとの親和性やスラリーの安定性、並びに500℃以下の温度で焼失(脱脂ともいう)することができるものとしては、メチルセルロールやポリビニルアルコールが好ましいが、エチルセルロールやポリビニルアセタールなどを用いることもできる。
【0045】
このような水溶性結合剤の分子量なども特に限定されないが、形成されるスラリーの粘度に影響するので、電解質保持板形成用スラリーの用途、成形法などに適した粘度となるように選定すればよい。後述するように、メチルセルロールを用いた場合には、重合度が4〜1500のメチルセルロースを用いることができるが、重合度が15程度のものが好ましいことがわかった。
【0046】
水溶性結合剤の含有量は、α−リチウムアルミネートの粉末同士の接着力に影響し、少なすぎると、グリーンシートとしたときの強度が十分では無くなる傾向となる。後述するように、メチルセルロースを用いた場合には、2重量%のメチルセルロース水溶液を用いた場合には接着力が低すぎる傾向が確認されたので、これ以上の濃度とするのが好ましい。すなわち、詳細は後述するが、3〜7重量%のメチルセルロース水溶液を、α−リチウムアルミネート100重量部に対して、150重量部程度又はそれより少ない量を添加するのが好ましい。α−リチウムアルミネートの凝集を防止し且つグリーンシートの製造効率を向上させ、また、グリーンシートとしたときに析出物などの不都合が生じないために好ましいからである。
【0047】
また、水や水溶性結合剤の含有量は、水溶性結合剤の分子量と同様にスラリー粘度に影響する。
【0048】
電解質保持板形成用スラリー組成物は、α−リチウムアルミネートを凝集させないで均一に分散させたものとするためには、一般的にはボールミル混合やビーズミル混合により製造されるが、このような混合方法が適用できるスラリー濃度とするのが好ましい。ボールミル混合に最適なスラリー粘度は50〜500mpa・sであり、ビーズミル混合に最適なスラリー濃度は50〜1000mpa・sであるが、グリーンシートを製造する上では水溶媒が少ない方が効率的であるので、500〜1000mpa・sのスラリー粘度とし、ビーズミル混合を採用するのが好ましい。勿論、これに限定されず、他のスラリー粘度、他の混合方法を採用してもよい。
【0049】
本発明の電解質保持板形成用スラリー組成物は、必要に応じて、可塑剤、分散剤、消泡剤など他の添加剤を含有してもよいが、pHが10〜13の範囲に調整されている必要がある。
【0050】
α−リチウムアルミネートは、製造方法によっては、原料である炭酸リチウムが不純物として含有される可能性があり、これによりアルカリ性を呈する。本発明の電解質保持板形成用スラリー組成物は、このアルカリ性を維持するような、水溶性結合剤や他の添加剤を混合したものである。例えば、可塑剤、分散剤や消泡剤を選定する場合には、中性又はアルカリ性を呈するものを用いるのが好ましい。また、スラリーのpH10〜13の範囲となるように、アルカリ成分を添加してもよいが、スラリーの安定性を考慮すると、炭酸リチウムをアルカリ成分として添加するのが好ましい。
【0051】
また、本発明の電解質保持板形成用スラリー組成物は、必要に応じて可塑剤を添加してもよい。このような可塑剤は、形成したグリーンシートの柔軟性や表面の平滑性を改善するものであり、例えば、グリセリンなどを挙げることができる。
【0052】
また、分散剤、消泡剤なども必要に応じて添加してもよい。これら分散剤、消泡剤は、α−リチウムアルミネートと反応せず、また、アルカリ性又は少なくとも中性を呈するものを用いるのが好ましい。
【0053】
ここで、分散剤は、原料粉をできるだけ1次粒子まで分散させ、原料粉同士を密な状態として結合剤で結合させるために有効であり、これにより空隙率を高めることができ、また、平均空孔径を低下させることができる。
【0054】
また、消泡剤としては、上述したおとり、原料粉と反応する物質は不向きであり、原料粉のある無しに無関係でpHが一定であることが好ましい。
【0055】
このような本発明の電解質保持板形成用スラリー組成物は、上述した原料を均一に分散させてスラリー組成物としたものであるが、好ましくは、水溶性結合剤を水溶液とし、α−リチウムアルミネートの粉末及び必要に応じて他の添加剤を混合し、ボールミル混合やビーズミル混合などの公知の方法により混合して均一なスラリーとしたものである。
【0056】
本発明の電解質保持板形成用スラリー組成物は、シート状に成形し、乾燥することにより、電解質保持板形成用グリーンシートを製造することができる。
【0057】
このように電解質保持板形成用グリーンシートを製造するには、各種塗布法などにより塗布し、乾燥する必要がある。塗布法としては、ドクターブレード法、スピンコート法など各種方法を挙げることができ、また、乾燥は自然乾燥や加熱乾燥などにより行えばよい。
【0058】
本発明の電解質形成用グリーンシートは、400℃〜500℃で熱処理して少なくとも水溶性結合剤を焼失させることにより、空隙率が50〜66%、平均細孔径が0.2〜0.5μmの多孔質体である電解質保持板とすることができる。空隙率は上述した範囲より小さいと燃料電池としての性能を十分に発揮できず、一方、大きいほど燃料電池の性能を向上させることができるが、上述した範囲を超えると機械的強度が十分でない傾向となる。また、平均細孔径は、小さいほど炭酸溶融塩などの電解質の保持力が向上し、上述した範囲の平気細孔径を有することにより、長期間運転においても炭酸塩を良好に保持することができる。何れにしても、電池の高電圧化という観点とすると高い空孔率が望ましく、長寿命化という観点からすると低い平均空孔径が望ましい。
【0059】
ここで、熱処理の方法は特に限定されないが、400℃〜500℃の熱処理で水溶性結合材を焼失させて多孔質体とすることができるので、アノード、カソード及びグリーンシートとを組み合わせて燃料電池を構成し、燃料電池の昇温過程において熱処理をし、電解質保持板とすることができる。勿論、通常の製造工程でグリーンシートを熱処理して電解質保持板としてもよい。また、この場合、500℃以上の温度で熱処理してもよいことはいうまでもない。
【実施例】
【0060】
以下、実施例について試験例を参照しながら詳述する。
【0061】
以下の実施例で使用したα−LiAlO粉は日本化学工業製(比表面積:5m/g)であり、重合度が15のメチルセルロースを水溶性結合剤として使用した。溶媒には純水を用い10mmφの99.9%アルミナボールを使用した混合用ボールで混合した。具体的な配合手順は、3重量%、5重量%、7重量%の水溶性結合剤溶液を調製し、これにα−LiAlO粉を添加して混合し、電解質保持板形成用スラリー組成物を製造した。また、各スラリー組成物から、グリーンシートを作製した。
【0062】
各条件で調整したスラリーは原料粉40gを基準として各種調整剤を添加し、幅150mm長さ600mm程度のドクターブレード装置にてグリーンシートを作製した。ドクターは2段式のナイフエッジ型を使用し、1段目のドクターは高さ3mmとし、2段目のドクター高さは1.0mmとした。乾燥条件は温度23〜25℃、湿度30%以下に制御されたドライルーム内での自然乾燥とし乾燥時間は17〜20hrとした。
【0063】
表1に実施例A1〜A7の配合を示す。A1は3%結合剤溶液を200重量部添加したスラリー、A2は5%結合剤溶液を200重量部添加したスラリー、A3は7%結合剤溶液を200重量部添加したスラリー、A4は3%結合剤溶液を250重量部添加したスラリー、A5は3%結合剤溶液を150重量部添加したスラリー、A6は3%結合剤溶液を125重量部添加したスラリー、A7は3%結合剤溶液を100重量部添加したスラリーである。なお、表1には記載していないが、スラリーには高分子分散剤(ポリカルボン酸アンモニウム水溶液:サンノプコ製SNディスパーサント5468)1重量部、消泡剤(サンノプコ製SNデフォーマー157)2.5重量部、可塑剤してグリセリン5重量部を添加した。
【0064】
これらの電解質保持板形成用スラリー組成物についてのpHを表1に示す。この結果、全てのスラリーがpH11〜12を呈することがわかった。また、各スラリー組成物から製造した電解質保持板の重量換算空孔率は60%前後の値であり、平均空孔径は0.3〜0.5μmであった。
【0065】
【表1】

【0066】
表2には、実施例B1〜B11の配合を示す。これらのスラリー組成物の製造は実施例A1〜A7と同様に行った。
【0067】
【表2】

【0068】
(試験例1)
実施例B1〜B11において、結合剤水溶液にα−LiAlOを添加して混合した際のスラリー粘度をメチルセルロールの重合度で整理した結果を図1に示す。
【0069】
図1より重合度の低い結合剤溶液ほどスラリー粘度は低下し、また同じ結合剤溶液ではその濃度の低いスラリーほど粘度は低くなる傾向があるが、何れかの結合剤溶液においても結合剤濃度が2%以下の場合には原料粉であるLiAlO粉に対し接着力が弱まる傾向が確認され、0.5m程度のグリーンシートとしては作製できるが成形後のシート移動時に割れを生じやすい等のハンドリング性が極端に悪化し、結合剤としての役割を果たし難い傾向にあることが分かった。また、重合度4のメチルセルロースでは5%濃度の結合剤溶液においても原料粉への接着力が弱くハンドリング性の悪いシートとなる傾向となることが分かった。
【0070】
原料粉の分散には、衝撃・衝突やせん断などの方法があるが、本実施例で用いている原料粉は平均粒子径がサブミクロンオーダーであるため、凝集した粒子をほぐす機能が必要となる。このため、せん断機能を持った混合方法が必要となる。代表的な混合方法はボールミルによる分散であるが、ボールミル混合による分散のための最適なスラリー粘度はおおよそ50〜500mpa・sとされている。しかしながら、ボールミルでは分散の安定化に長時間を要するため生産要求量に容易に対応ができないなどの問題点がある。この点を改善し、高生産性、システム化したもののひとつにビーズミルによる混合法があり、この方法を用いれば粘度50〜1000mpa・s程度のスラリー粘度まで対応でき、かつ短時間で分散が可能となる。スラリー混合や脱泡の観点からすると粘度は低いほど良く、グリーンシート成形や乾燥時間短縮のためには粘度が高い(溶剤量を極力少なくする)方が良いため、大量生産のためには粘度500〜1000mpa・s程度とすることが望ましい。この点を考慮すると図1の結果から濃度重合度15の結合剤を用いることで、結合剤濃度の低い3%結合剤溶液が最も大量生産に適した粘度を持ったスラリー組成物であることが分かった。
【0071】
(試験例2)
実施例A1〜A7から、3%結合剤溶液をベースに結合剤溶液部数を100重量部、125重量部、150重量部、200重量部及び250重量部としてスラリー中の水分量を変化させた場合、さらに水部数を200重量部とし結合剤濃度を変化させた場合のスラリーについて、グリーンシートを作製し、その表面状態の観察を行った。
【0072】
表面観察には各サンプルを切り出し金蒸着を行ったのち電子顕微鏡にて表面の形状を調べた。図2(a)はりん片状析出物なし、図2(b)はりん片状析出物ありの代表的なSEM写真である。この現象はグリーンシート表面(乾燥上面)について発生する現象であり、シート下面では何れの条件においても見られなかった。これらのように、製作条件によってグリーンシート表面にりん片状析出物がある場合と、無いもしくは確認できない場合があり、さらにシート上面でのみ見られる現象であることから原料粉中の物質が混合過程において水に溶解し、グリーンシートの乾燥過程において水の蒸発する上面において再析出する現象であると推察される。これらの析出物と水溶媒部数との関係を図3に示す。図3に示すように、析出物は結合剤の濃度もしくは部数には依存せず、結合剤溶液中の水溶媒部数でうまく整理でき、水部数150部以下ではりん片状析出物は見られないかもしくはほとんど確認できなかった。なお、このりん片状析出物についてはグリーンシートを脱脂することで消失するため、実用上は問題ないと考えられる。しかしながら、表面での析出現象は抑制もしくは製造過程で制御可能なものとするほうが望ましいと考えられ、この点においては水部数を150重量部以下に抑えるほうが良いと考えられる。このようにグリーンシート表面上に析出するりん片状析出物は添加する水部数で制御可能であることを明らかとなった。
【0073】
(試験例3)
グリーンシート上に析出するりん片状析出物を特定するため、以下の検討を行った。
【0074】
原料粉中に存在する物質としてはα−LiAlOもしくは原料粉を合成する際に使用しているLiCO粉、Al粉であるが、このうち水に溶解し再析出する可能性のある物質はα−LiAlOまたはLiCO粉と考えられる。そこで、この2種の物質についてFactSage(Aqualib−Web)を利用してLiAlO(α、β、γの区別なし)が水に溶解した場合の等電点(pH)を計算した。20℃においてLiAlOが水と完全に反応した場合には溶液中にHO、Li、OH、LiOHが液体として存在し、Alが固体として存在する。そのときのpHは14.6と計算される。一方、LiCOが水と反応した場合には20℃において溶液中にHO、Li、CO2−、HCO、OH、LiOH、が液体として存在し、LiCOが固体として存在する。そのときのpHは11.5と計算される。
【0075】
本計算は概略の計算であるが、LiAlO粉溶解とLiCO粉溶解ではpHが異なるため、スラリーのpHを測定することで溶解・再析出物質がどちらであるかの検討は可能と考えられた。そこで、実際に作製したスラリーのpHは表1に示したとおり、何れもpH11〜12の範囲となっている。この事実から、水にLiCOが溶解した際に計算されるpH 11.5とほぼ同じ値であり、溶解種はLiCOと推察される。しかし、650℃における脱脂工程を経た電解質保持板ではこのりん片状析出物は消失していることから、760℃付近に融点を持つLiCOとして存在するのではなく、LiCO水和物などの形で再析出しているものと考えられる。
【0076】
ここで、LiCO試薬を水に溶解・再析出させSEMにて析出物の形状確認試験を行った結果を図4に示す。この結果、図4の写真は、図2(b)とほぼ同一の形状をした析出物を確認でき、グリーンシート状に析出したりん片状析出物はLiCOもしくはその水和物である可能性が高いと推察される。
【0077】
以上の検討から、これまでLiAlO粉は水と反応し、粒成長し易いと言われていたが、本試験に使用したα−LiAlO粉は製造法の改良により水に対して安定な粉末であると共に、粉体製造過程において混入しているLiCOが溶媒である水に溶解することで、スラリーのpHを11〜12程度のアルカリ性に保ちLiAlO粉と水との反応を抑制していると推定され、この結果、水を溶媒として使用してもα−LiAlO粉の粒成長を引き起こさなかったものと考えられる。
【0078】
(試験例4)
実施例A1〜A7の各スラリー組成物について、結合剤部数と脱泡前のスラリー粘度との関係について調べ、結合剤部数で整理した結果を図5に示す。なお、スラリーの粘度は東機産業(株)製(TVB−10M)粘度計を使用して測定した。
【0079】
この結果、結合剤溶液の濃度を変化させたほうが3%結合剤溶液の部数を変化させるよりもスラリー粘度の変化は大きいことがわかった。また、3%結合剤溶液について着目すると、結合剤溶液が100重量部(水部数97重量部)のときスラリー粘度は約900mpa・sとなり、ビーズミルで分散可能な上限と考えられる。ボールミルによる混合を考えた場合には先に述べたように500mpa・s以下の粘度にする必要があり同図から150重量部の結合剤溶液を使用すべきという結果が得られた。さらに、試験例3で示したようにシート表面でのりん片状析出物を抑制するためには水部数は150重量部以下であることが条件となるため、総合的に判断すると、結合剤としては重合度15のメチルセルロースが最適であり、その濃度は3重量%溶液とすること、またα−LiAlO粉に対する結合剤溶液の添加部数は150重量部が適当であることが分かった。
【0080】
(試験例5)
下記表3に示す分散剤を用いて、原料粉の分散性評価を行った。なお、分散性の評価には比色管を用いた沈降時間評価を実施した。
【0081】
比色管試験では原料粉10gを秤量し各分散剤を0.05〜0.1wt%添加後、ミキサーで15分間混合したのち比色管に入れ透明層、サスペンション層(白濁層)、沈殿層の高さを一定時間毎に測定した。
【0082】
この結果、表3に示したようにSNディスパーサント5468と5023が最も沈殿速度が遅く、次いでノプコサントRFA、SNディスパーサント5020の順となった。このうちノプコサントRFAとSNディスパーサント5023は別途実施したグリーンシート作製時に使用するキャリアシートに対し“はじき”傾向が強く、グリーンシート作製時に短部が定着しづらい傾向が見られたため、分散剤としては不適切と判断した。そこで、この“はじき”の改善を目的とし、ノプコサントRFAに湿潤剤を微量添加し分散性の評価を行ったが、何れも良好な結果を得ることができず、分散剤としてはSNディスパーサント5468が適していることがわかった。
【0083】
【表3】

【0084】
(試験例6)
表4に示した消泡剤について、そのpHと原料粉を添加した場合のpHを測定することで消泡剤の評価を行った。
【0085】
この結果、原料粉のある無しに無関係でpHが一定である条件を満たす消泡剤としてはSNデフォーマー157とSNデフォーマー260、及びSNデフォーマー485であることがわかった。また、原料粉と水溶媒を混合したときのスラリーpHは11.6と塩基性を示すため消泡剤としては塩基性であることが望ましいので、このような点を考慮するとSNデフォーマー157が中性〜塩基性であり原料粉と反応しないことから消泡剤として適していることがわかった。
【0086】
【表4】

【0087】
(実施例C)
上述した各実施例は、使用した容器が500mL、スラリー量が100mL程度と少なく、混合用ボールも10mmΦのみを使用したが、大面積グリーンシート作製装置用として、2Lのポリエチレン容器を使用し、α−LiAlO粉に対して3重量%の結合剤溶液を150重量部添加したがスラリー(S1)に分散剤(SNディスパーサント5468)1重量部、消泡剤(SNデフォーマー157)2.5重量部を添加し(S2)、全容量600mLを調合した。混合用ボールには10mmφと5mmφの99.9%アルミナボール重量比1:2で使用した。そして、回転速度100rpmで混合し、3時間毎にスラリーを40mL取り出し、粘度測定、脱泡後、条件出し用試験装置を用いてシート成形した。その後、脱脂して化学分析を行った。
【0088】
グリーンシート作製には幅600mm、長さ800mm(面積約0.5m)のドクターブレード装置を使用した。ドクターは1段式の円柱型ブレードを使用し、グリーンシートの厚みが0.45mm程度となるようブレード高さを設定した。乾燥はグリーンシート上部への温風等供給は行わず、シート成形の下部に電気ヒーターを配置し、設定温度を30℃とした。
【0089】
スラリーの攪拌時間と作製した電解質保持板の空孔率(以下;重量換算空孔率)の関係を調べるため、実施例A5のスラリー1000mLを用いてボールミルにて攪拌3h毎に40mL程度のスラリーを取り出しシート成形し、24時間までのデータを取得した。作製したシートは電気炉にて脱脂し、水銀ポロシメータ(島津製作所製オートポア9250)にて空孔径分布、平均細孔径、空孔率(以下;Hgポロシメータ空孔率)を測定した。
【0090】
図6にスラリーS1の混合時間と成形した重量換算空孔率の推移の関係を示す。
【0091】
40mLで成形した電解質保持板の重量換算空孔率は攪拌時間が長くなるほど小さくなるが、18時間以上の攪拌では重量換算空孔率はほぼ一定の値56%を示し、下限値となることが分かった。
【0092】
一方、全量600mLを大面積グリーンシート作製装置で作製しても59%程度の空孔率しか得られなかった。これは先に実施した3時間おきのデータは初期において600mLのスラリーであったものが、3時間毎に40mL抜き出してシート成形する方法と取ったため、600mL全量を18時間混合した場合と比較すると160mLもスラリー容量が減少しているため、ボールミル中の混合用ボールとスラリーの比率が変化し原料粉の分散が進んだことに起因すると考えられる。しかしながら600mLのスラリーに対しても24時間の混合では重量換算空孔率は下限値56%まで低下させることができる。
【0093】
なお、ここでの電解質保持板は夕刻に原材料の秤量、およびボールミルによる混合を開始し、翌午前中は前回製作したシートの取り出しおよび計測、昼間にグリーンシート成形を行う工程で行ったものであり、これが最適であった。この場合、21時間程度で攪拌を終了させることが最も効率的であることから、製作時間を短縮するための方策を検討したところ、分散性能を向上させるため分散剤添加量を調整することで混合中のスラリー粘度を調整することが可能となり、混合時間を調整できることを見出した。これにより、分散剤2重量部を添加することで21時間攪拌においても56%の空孔率を得ることができた。
【0094】
図7はスラリー(S2)で作製した電解質保持板(脱脂後)の水銀ポロシメータを用いて測定したHg空孔径と平均細孔径の関係を示したものである。また、Hgポロシメータ空孔率と重量換算空孔率の関係を図8に示す。図7から重量換算空孔率が若干空孔率としては低く見積もられる傾向があるが、Hgポロシメータ空孔率との間には良い相関性が見られることを確認した。このことから、作製した部材の空孔径評価には、脱脂工程などの前処理に時間の掛かる水銀ポロシメータ測定を行わなくても、作製したグリーンシートを切り出し、その体積および重量から見積もられる空孔率で評価可能であることを示している。また、図8から空孔率と平均細孔径には良い直線関係が得られ、目標仕様を満たす電解質保持板を作製するためには55%〜59%の重量換算空孔率を持った電解質保持板を作製する必要があり、そのときの平均細孔径は0.2〜0.3μmの間となることが分かった。
【0095】
また、図9には、脱脂後の空孔径分布を示した。図から明らかなように、0.2μm辺りに鋭い単一ピークを持った電解質保持板が形成されていることが確認できた。
【0096】
一方、電解質より空孔径の大きな電解質保持板が必要となり、炭酸塩の保持力を高めるためには、平均細孔径は小さいことが望ましい。このような観点から原料粉の性状を変更し、比表面積5m/gから比表面積7〜10m/gの粉体に変更し、これを使用した場合についても検討した結果を図8に示す。この結果、空孔率を60%に維持しつつ平均細孔径を0.2μmに低下できることが確認された。また、原料粉の比表面積をより大きくすることで、空孔率および平均細孔径を調整できることが分かった。
【0097】
(試験例7)
実施例CのスラリーS2を用いて成形したグリーンシートを650℃で脱脂して電解質保持板とし、この電解質保持板0.5gを、濃リン酸4mL+濃硫酸5mLの混酸で全量を加熱溶解させ、Li、Alの含有率測定を行った。Liは原子吸光法、AlについてはICP分析法にて定量した。また、他に、XRD測定、比表面積測定を行った。
【0098】
図10(a)は酸溶解した溶液中のLi量を測定した結果である。この結果、テープ成形後の試料は未処理原料と比較してわずかに含有率が低くなっているが、テープ成形条件による含有率の差異は認められなかった。また、組成式LiAlOから計算されるLi含有率10.5%に対して、何れの試料も大幅に低い結果が得られたが、原因についは不明である。
【0099】
図10(b)はAlの含有率である。テープ成形条件による差異が認められ、TL180705−1ではAl含有量が多い傾向となった。これはTL180704−1では混合用ボールにジルコニアを使用し、TL180705−1ではアルミナボールを使用したために、混合用ボールからの混入があったためと考えられ、本質的にはAl含有量に大差は生じていないと考えられる。しかしながら何れの試料も、計算値(40.9%)よりも大幅に低いが、本理由については不明である。
【0100】
図10(c)はLi/Alモル比である。各試料間に有意な差は認められなかったが、すべての試料でAlに対してLiが80%程度しか含まれていないことが分かる。
【0101】
図11は比表面積の比較データである。未処理粉に比べ、テープ成形後の粉体のほうが比表面積が若干大きくなる程度であることが分かった。これは、ボールミルによる混合で十分な原料粉の分散ができたためと考えられる。
【0102】
また、図12はXRDによる回折パターンであるが回折パターンの形状については、未処理粉およびテープ成形後の脱脂粉の間には、明確な違いは確認できなかった。
【0103】
以上から、未処理粉とテープ成形後の粉体性状の違いはAl含有量の若干の相違が見られるが、これは、ボールからのAlの混入と考えられ、この点を除けば、ほとんど違いは見られず、水を溶媒として用いることで粉体に特別な影響は及ぼしていないことが確認できた。
【0104】
(実施例D)
実施例CのスラリーS2を用い、グリーンシートを作製し、電極部材と共に燃料電池に設置した後、燃料電池の昇温過程において脱脂して炭酸塩を含浸させ、650℃において発電試験を行った。なお、比較のため、有機溶媒を使用した電解質板セルについても同様に発電試験を行った。
【0105】
表5には発電試験に供した本実施例の電解質板セルの材料組合せ詳細仕様を示す。比較例の電解質板セルを18CI−1、実施例の電解質板セルを18CI−2とした。
【0106】
実施例及び比較例に使用した電極は共に同一のロットから切り出し、同一仕様の部材を使用し、異なる部材は電解質保持板のみとした。また、発電開始までの昇温過程も両セル共に同じとした。さらに、実施例と同一仕様の小型セル(電極面積5cm程度)についても700時間程度の発電試験を実施した。
【0107】
【表5】

【0108】
図13はで本出願人が開発した性能表示式によって解析した発電初期におけるセル性能の性能要因分析試験結果である。
【0109】
有機溶媒を使用した比較例のセル(18CI−1)と実施例の水系電解質板セル(18C−2)を比較すると、電解質板厚みが若干薄い分内部抵抗による電圧降下が少ない。その他の過電圧による電圧降下はほぼ同等であり、性能面での相違は見られないことが分かった。また、カソードからのクロスリークによるアノードの出口N2濃度は0.5%程度の低いレベルに収まっており、開路電圧もほぼ理論値どおりの値を示していることからセルの健全性も確認することができた。
【0110】
図14は実施例の小型セルの電解質板断面の(a)試験前の電解質板写真、(b)700時間発電後、および(c)α−LiAlO原料粉、(d)は有機溶媒で作製の電解質保持板の断面SEM写真である。短時間の運転ではあるが、試験前と試験後のα−LiAlO粒子形状と間には有意な差異は見られず、また、原料粉や有機溶媒を用いて作製した電解質保持板との粒子径に有意な差異は見られず、水を溶媒として作製した電解質保持板を使用しても発電初期において粒子が肥大化もしくは微細化するような傾向は無いことが明らかになった。
【0111】
(実施例及び試験例の結果)
1)グリーンシート表面に存在するりん片状析出物はスラリーのpH測定からLiCOもしくはLiCOの水和物と推察され、脱脂過程において消失する。このため電解質板機能維持の観点からは問題は生じないこと、さらにりん片状析出物についてはスラリー混合時の原料粉に対する水の添加量を少なくすることで、抑制可能であることが明らかになった。
【0112】
2)水系スラリーを用いてα−LiAlO電解質保持板を作製するためには結合剤として重合度15程度のメチルセルロースを使用すること、また結合力を保持するため3重量%濃度の水溶液を使用することが重要であることが明らかとなった。
【0113】
3)電解質保持板の空孔率を調整する手段として分散剤が大きく関与しており、本原料粉に対してはアニオン系のポリカルボン酸アンモニウム水溶液が適していること、消泡剤については原料粉との反応を避けるため中性〜塩基性のものが適していることが明らかになった。
【0114】
4)スラリーの混合時間と電解質保持板空孔率の関係が明らかになり、分散剤添加量を調整することで目的とする空孔率を得るための混合時間を調整することが可能となった。また、本プロセス技術を用いれば空孔率55%〜65%、平均細孔径0.2μm〜0.5μmの範囲で電解質保持板の製造が可能となった。
【0115】
5)成形後のテープ評価や発電試験後の電解質保持板粒子形状評価から、原料粉との有意な差異は認められず、良好な電解質保持板を作製できた。
【0116】
6)有機溶媒を用いたプロセスにて作製した電解質保持板と、本発明の水系電解質保持板を用いて発電試験を行った結果、有機溶媒で作製した電解質板セルと同等の良好な性能を有し、これまで開発が諦められていた水系電解質保持板が有効であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】実施例B1〜B11において、結合剤水溶液にα−LiAlOを添加して混合した際のスラリー粘度をメチルセルロールの重合度で整理した結果を示す図である。
【図2】実施例の表面の形状の電子顕微鏡写真である。
【図3】析出物と水溶媒部数との関係を示す図である。
【図4】LiCOを析出させた電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例A1〜A7の各スラリー組成物について、結合剤部数と脱泡前のスラリー粘度との関係を示す図である。
【図6】実施例Cのスラリーの混合時間と成形した重量換算空孔率の推移の関係を示す図である。
【図7】スラリー(S2)で作製した電解質保持板(脱脂後)の水銀ポロシメータを用いて測定したHg空孔径と平均細孔径の関係を示す図である。
【図8】スラリー(S2)で作製した電解質保持板(脱脂後)のHgポロシメータ空孔率と重量換算空孔率の関係を示す図である。
【図9】実施例Cの電解質保持板の空孔径分布を示す図である。
【図10】試験例7の成形テープの化学分析の結果を示す図である。
【図11】試験例7の比表面積の比較データを示す図である。
【図12】XRDによる回折パターンを示す図である。
【図13】実施例Dの発電初期におけるセル性能の性能要因分析試験結果を示す図である。
【図14】実施例の小型セルの電解質板等の電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−リチウムアルミネートと、水溶性結合剤と、水とを含有し、pH10−13であることを特徴とする電解質保持板形成用スラリー組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の電解質保持板形成用スラリー組成物において、前記水溶性結合剤が、メチルセルロース及びポリビニルアルコールの少なくとも一種であることを特徴とする電解質保持板形成用スラリー組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電解質保持板形成用スラリー組成物において、前記α−リチウムアルミネートが、比表面積が5〜9m/gである粉末であることを特徴とする電解質保持板形成用スラリー組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の電解質保持板形成用スラリー組成物において、α−リチウムアルミネート100質量部に対して、水が150重量部以下含有されることを特徴とする電解質保持板形成用スラリー組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の電解質保持板形成用スラリー組成物において、炭酸リチウム及び炭酸リチウム水和物の少なくとも一種を含有することを特徴とする電解質保持板形成用スラリー組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の電解質保持板形成用スラリー組成物において、可塑剤、分散剤及び消泡剤から選択される少なくとも一種を含有することを特徴とする電解質保持板形成用スラリー組成物。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の電解質保持板形成用スラリー組成物をシート状に成形し、乾燥したことを特徴とする電解質保持板形成用グリーンシート。
【請求項8】
請求項7に記載の電解質保持板形成用グリーンシートを400℃〜500℃で熱処理して少なくとも前記水溶性結合剤を焼失させた、空隙率が50〜66%、平均細孔径が0.2〜0.5μmの多孔質体であることを特徴とする電解質保持板。
【請求項9】
請求項1〜6の何れかに記載の電解質保持板形成用スラリー組成物をシート状に成形し、乾燥することを特徴とする電解質保持板形成用グリーンシートの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜6の何れかに記載の電解質保持板形成用スラリー組成物をシート状に成形し、乾燥して電解質保持板形成用グリーンシートとし、400℃〜500℃で熱処理して少なくとも前記水溶性結合剤を焼失させて多孔質体とすることを特徴とする電解質保持板の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の電解質保持板の製造方法において、前記熱処理を、前記電解質保持板形成用グリーンシートを燃料電池に設置した後に行うことを特徴とする電解質保持板の製造方法。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の電解質保持板の製造方法において、前記多孔質体が、空隙率が50〜66%、平均細孔径が0.2〜0.5μmであることを特徴とする電解質保持板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−123831(P2008−123831A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306202(P2006−306202)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(598023425)株式会社電力テクノシステムズ (7)
【Fターム(参考)】