説明

電解質及びその製造方法、含フッ素環状化合物、含フッ素スルホンイミド化合物、含フッ素環状化合物前駆体及びその製造方法、並びに、燃料電池

【課題】酸素透過性及びプロトン伝導性に優れた電解質及びその製造方法、含フッ素環状化合物、含フッ素スルホンイミド化合物及び含フッ素環状化合物前駆体、並びに、燃料電池を提供すること。
【解決手段】主鎖又は側鎖に、構成原子数が3以上8以下である含フッ素環状構造と、一般式:−[SO2NMSO2−(CRf5Rf6)k]a−SO2NMSO2−(Mは、水素又はアルカリ金属、Rf5、Rf6は、それぞれフッ素又は炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基、a、kは、それぞれ1以上の整数)で表されるスルホンイミド構造とを備えた電解質及びその製造方法。このような電解質の原料に用いられる含フッ素環状化合物、含フッ素スルホンイミド化合物及び含フッ素環状化合物前駆体、並びに、このような電解質を用いた燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質及びその製造方法、含フッ素環状化合物、含フッ素スルホンイミド化合物、含フッ素環状化合物前駆体及びその製造方法、並びに、燃料電池に関し、さらに詳しくは、ガス(酸素)透過性及びプロトン伝導性に優れた電解質及びその製造方法、このような電解質の原料として使用することが可能な含フッ素環状化合物及び含フッ素スルホンイミド化合物、含フッ素環状化合物の原料として使用することが可能な含フッ素環状化合物前駆体及びその製造方法、並びに、このような電解質を用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、固体高分子電解質膜の両面に電極が接合された膜電極接合体(MEA)を基本単位とする。また、固体高分子型燃料電池において、電極は、一般に、拡散層と触媒層の二層構造をとる。拡散層は、触媒層に反応ガス及び電子を供給するためのものであり、カーボンペーパー、カーボンクロス等が用いられる。また、触媒層は、電極反応の反応場となる部分であり、一般に、白金等の電極触媒を担持したカーボンと固体高分子電解質(触媒層アイオノマ)との複合体からなる。
【0003】
このようなMEAを構成する電解質膜あるいは触媒層アイオノマには、耐酸化性に優れた炭化フッ素系電解質(例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成(株)製)、フレミオン(登録商標、旭硝子(株)製)等。)を用いるのが一般的である。また、炭化フッ素系電解質は、耐酸化性に優れるが、一般に極めて高価である。そのため、固体高分子型燃料電池の低コスト化を図るために、炭化水素系電解質の使用も検討されている。
【0004】
しかしながら、固体高分子型燃料電池を車載用動力源等として用いるためには、解決すべき課題が残されている。例えば、固体高分子型燃料電池において、高い性能を得るためには、電池の作動温度は高い方が好ましく、そのためには、電解質膜の耐熱性が高いことがこのましい。しかしながら、従来のフッ素系電解質膜は、高温における機械的強度が低いという問題がある。
また、燃料電池車の普及のために、燃料電池の低コスト化が課題となっている。そのためには、触媒に利用する白金量を減らす必要があり、白金量を減らすためには、プロトン伝導と酸素透過度の高い触媒層アイオノマの開発が必要である。
【0005】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1、2には、スルホン酸基を持つセグメントAと、スルホン酸基を持たないセグメントBとを、ヨウ素移動重合を用いて共重合させることにより得られるブロックポリマーが開示されている。
同文献には、−OH基を有する有機溶媒を含む溶媒又は水に、得られたブロックポリマを溶解又は分散させて液状組成物とし、これを用いて固体高分子型燃料電池の電極を作製すると、ガス拡散性に優れるガス拡散電極が得られる点が記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、カソード側の触媒層アイオノマ(カソード樹脂)として、PDD/PSVE共重合体(PDD:ペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)、PSVE:CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2H)を用いた固体高分子型燃料電池が開示されている。
同文献には、カソード樹脂の比表面積が3m2/g以上である場合、触媒表面に反応ガスが速く到達し、実質上反応速度が速くなる点が記載されている。
【0007】
また、特許文献4には、脂肪族環状構造を有するパーフルオロカーボンに基づく繰り返し単位と、含フッ素ビニル化合物に基づく繰り返し単位とを含む共重合体からなる含フッ素イオン交換樹脂、及びこれを用いたガス拡散電極が開示されている。
同文献には、このような含フッ素イオン交換樹脂の酸素透過係数が5×10-12[cm3(Normal)・cm/cm2・s・Pa]以上である点が記載されている。
【0008】
また、特許文献5には、カーボン担体に貴金属を担持させた触媒粒子と、触媒粒子表面に形成される固体高分子電解質被膜と、触媒粒子を結着させるフッ素樹脂とを備えた電極、及び、これを用いた固体高分子型燃料電池が開示されている。
また、特許文献6には、ヨウ素移動重合法を用いた含フッ素系多元セグメント化ポリマーの製造方法が開示されている。
また、特許文献7、8には、フッ素系の親水性セグメントAと、疎水性セグメントBとが、化学結合を介して交互に結合している構造を備えた電解質が開示されている。
【0009】
また、非特許文献1には、パーフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソールにヨウ素を作用させ、ジオキソールを得る方法が開示されている。
さらに、非特許文献2には、ジヨードパーフルオロカーボンのスルホニルフルオライド化が開示されている。
【0010】
電極の撥水性を確保するには、EWの大きい電解質を触媒層アイオノマとして使用することが有効である。しかしながら、この方法は、電極の導電性が低くなり、電池性能が低下する。また、ガス透過性が低下するため、触媒表面へのガスの供給が遅くなる。そのため、濃度過電圧が高くなり、出力が低下する。
この問題を解決するために、特許文献5に開示されているように、触媒層に撥水化剤(フッ素樹脂)を添加することも行われている。しかしながら、十分に撥水化するために電極中の撥水化剤の量を多くすると、撥水化剤は絶縁体のため、電極の電気抵抗が増大する。また、電極が厚くなるため、ガス透過性が低下し、出力が低下する。
電極の導電性の低下を補うためには、例えば、触媒の担体であるカーボン材料の導電性や、触媒を被覆するイオン交換樹脂のイオン導電性を高めることが必要である。しかしながら、十分な導電性と十分な撥水性を同時に満足する電極を得るのは困難であり、高出力かつ長期的に安定な固体高分子型燃料電池を得ることは容易ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−212246号公報
【特許文献2】特開2002−216804号公報
【特許文献3】特開2002−208406号公報
【特許文献4】特開2003−36856号公報
【特許文献5】特開平05−36418号公報
【特許文献6】特公昭58−4723号公報
【特許文献7】特開2009−187936号公報
【特許文献8】特開2009−140832号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】J.Org.Chem. 1993, 58-972-973
【非特許文献2】J.Fluorine Chem. 1993, 60, 93-100
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、酸素透過性、撥水性及びプロトン伝導性に優れた電解質及びその製造方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、このような電解質の原料として用いられる新規な含フッ素環状化合物及び含フッ素スルホンイミド化合物、並びに、このような含フッ素環状化合物の原料として用いられる新規な含フッ素環状化合物前駆体及びその製造方法を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、このような酸素透過性、撥水性及びプロトン伝導性に優れた電解質を用いた燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために本発明に係る電解質は、以下の構成を備えていることを要旨とする。
(1)前記電解質は、主鎖又は側鎖に、含フッ素環状構造とスルホンイミド構造とを備えている。
(2)前記含フッ素環状構造は、
(a)環の構成原子数が、3以上8以下であり、
(b)前記環の構成原子が、1個以上の酸素と2個以上の炭素とからなり(但し、前記酸素原子は、2個以上連続して結合していない)、
(c)前記炭素上の置換基が、フッ素又は炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基であり、(但し、前記置換基を構成する前記パーフルオロアルキル基は、エーテル結合及び/又はスルホニル結合を含んでいても良い)
(d)前記環内に架橋を含まない
構造を備えている。
(3)前記スルホンイミド構造は、次の(1)式で表される構造を備えている。
−[SO2NMSO2−(CRf5Rf6)k]a−SO2NMSO2− ・・・(1)
但し、
Mは、水素又はアルカリ金属。
Rf5、Rf6は、それぞれ、フッ素又は炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基。Rf5、Rf6を構成する前記パーフルオロアルキル基は、それぞれ、エーテル結合及び/又はスルホニル結合を含んでいても良い。
aは、0以上100以下の整数。
kは、1以上20以下の整数。
【0015】
本発明に係る電解質は、特に、次の(2)式で表される構造を備えているものが好ましい。
【化1】

【0016】
但し、
Pは、(3.1)〜(3.4)式のいずれかで表される含フッ素環状構造。
Mは、水素又はアルカリ金属。
Rf1〜Rf8は、それぞれ、フッ素又は炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基。Rf1〜Rf8を構成する前記パーフルオロアルキル基は、それぞれ、エーテル結合及び/又はスルホニル結合を含んでいても良い。
aは、0以上100以下の整数。
kは、1以上20以下の整数。
nは、1以上の整数。
mは、0以上20以下の整数。
【0017】
本発明に係る含フッ素環状化合物の1番目は、次の(4.1)〜(4.4)式のいずれかで表される構造を備えていることを要旨とする。
【化2】

【0018】
但し、
Rf1〜Rf4は、それぞれ、フッ素又は炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基。Rf1〜Rf4を構成する前記パーフルオロアルキル基は、それぞれ、エーテル結合及び/又はスルホニル結合を含んでいても良い。
Xは、ハロゲン又はNH2
nは、1以上の整数。
【0019】
本発明に係る含フッ素環状化合物の2番目は、次の(5)式で表される構造を備えていることを要旨とする。
【化3】

【0020】
但し、
Pは、(3.1)〜(3.4)式のいずれかで表される含フッ素環状構造。
Mは、水素又はアルカリ金属。
Rf1〜Rf8は、それぞれ、フッ素又は炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基。Rf1〜Rf8を構成する前記パーフルオロアルキル基は、それぞれ、エーテル結合及び/又はスルホニル結合を含んでいても良い。
Xは、ハロゲン又はNH2
aは、0以上100以下の整数。
kは、1以上20以下の整数。
nは、1以上の整数。
mは、0以上20以下の整数。
【0021】
本発明に係る含フッ素スルホンイミド化合物は、次の(6)式で表される構造を備えていることを要旨とする。
【化4】

【0022】
但し、
Mは、水素又はアルカリ金属。
Rf5〜Rf8は、それぞれ、フッ素又は炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基。Rf5〜Rf8を構成する前記パーフルオロアルキル基は、それぞれ、エーテル結合及び/又はスルホニル結合を含んでいても良い。
Xは、ハロゲン又はNH2
aは、0以上100以下の整数。
kは、1以上20以下の整数。
m'は、1以上20以下の整数。
【0023】
本発明に係る含フッ素環状化合物前駆体は、次の(7)式で表される構造を備えていることを要旨とする。
【化5】

【0024】
但し、
Pは、(3.1)〜(3.4)式のいずれかで表される含フッ素環状構造。
Mは、水素又はアルカリ金属。
Rf1〜Rf8は、それぞれ、フッ素又は炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基。Rf1〜Rf8を構成する前記パーフルオロアルキル基は、それぞれ、エーテル結合及び/又はスルホニル結合を含んでいても良い。
Xは、ハロゲン又はNH2
Yは、フッ素以外のハロゲン。
aは、0以上100以下の整数。
kは、1以上20以下の整数。
nは、1以上の整数。
mは、0以上20以下の整数。
【0025】
本発明に係る含フッ素環状化合物前駆体の製造方法は、次の(8)式で表される構造を備えた含フッ素スルホンイミド化合物と、(9.1)〜(9.4)式のいずれかで表される構造を備えた含フッ素環状炭素炭素二重結合化合物とを反応させる反応工程を備えている。
【化6】

【0026】
但し、
Mは、水素又はアルカリ金属。
Rf1〜Rf8は、それぞれ、フッ素又は炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基。Rf1〜Rf8を構成する前記パーフルオロアルキル基は、それぞれ、エーテル結合及び/又はスルホニル結合を含んでいても良い。
Xは、ハロゲン又はNH2
Yは、フッ素以外のハロゲン。
aは、0以上100以下の整数。
kは、1以上20以下の整数。
m'は、1以上20以下の整数。
【0027】
本発明に係る電解質の製造方法の1番目は、(4.1)〜(4.4)式の何れかで表される構造を備えた1種又は2種以上の含フッ素環状化合物と、(6)式で表される構造を備えた1種又は2種以上の含フッ素スルホンイミド化合物とを反応させる反応工程を備えている。
本発明に係る電解質の製造方法の2番目は、(5)式で表される構造を備えた1種又は2種以上の含フッ素環状化合物と、(6)式で表される構造を備えた1種又は2種以上の含フッ素スルホンイミド化合物とを反応させる反応工程を備えている。
さらに、本発明に係る燃料電池は、本発明に係る電解質を用いたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る電解質は、分子内に含フッ素環状構造を備えているので、電解質の酸素透過性及び撥水性が向上する。また、本発明に係る電解質は、スルホンイミド構造を備えおり、これに含まれるスルホンイミド基(−SO2NHSO2−)は、強酸基として機能する。そのため、これらを高分子の主鎖又は側鎖に導入すると、高い酸素透過性及び撥水性を保ったまま、電解質のプロトン伝導性を高めることができる。
さらに、PTFEや環状構造を含むパーフルオロ主鎖は、一般に結晶性が高く、ガラス転移温度Tgが高温になると予想される。これに対し、本発明に係る電解質は、スルホンイミド構造を有しているので、電解質に柔軟性を与えることができ、製膜性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 電解質]
[1.1. 構成]
本発明に係る電解質は、主鎖又は側鎖に、含フッ素環状構造とスルホンイミド構造とを備えている。
【0030】
[1.1.1. 含フッ素環状構造]
「含フッ素環状構造」とは、
(a)環の構成原子数が、3以上8以下であり、
(b)環の構成原子が、1個以上の酸素と2個以上の炭素とからなり(但し、酸素原子は、2個以上連続して結合していない)、
(c)炭素上の置換基が、フッ素又は炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基であり(但し、置換基を構成するパーフルオロアルキル基は、エーテル結合及び/又はスルホニル結合を含んでいても良い)、
(d)前記環内に架橋を含まない
構造を備えているものをいう。
なお、炭素上の置換基を構成するパーフルオロアルキル基は、直鎖や枝分かれ、環状構造を有していても良い。
【0031】
含フッ素環状構造において、環の構成原子数が多くなるほど、酸素透過性が向上する。一方、環の構成原子数が多くなりすぎると、EWが大きくなり、プロトン伝導度が低下する。従って、環の構成原子数は、3以上8以下である必要がある。環の構成原子数は、好ましくは、5〜6である。
また、環を構成する炭素上の置換基がパーフルオロアルキル基である場合、パーフルオロアルキル基の炭素数が多くなるほど、酸素透過性が向上する。一方、パーフルオロアルキル基の炭素数が多くなりすぎると、EWが大きくなり、プロトン伝導度が低下する。従って、パーフルオロアルキル基の炭素数は、1〜10である必要がある。
【0032】
[1.1.2. スルホンイミド構造]
「スルホンイミド構造」とは、次の(1)式で表される構造を備えているものをいう。スルホンイミド構造は、スルホンイミド基(−SO2NMSO2−)のみからなるものでも良く、あるいは、スルホンイミド基に加えてパーフルオロアルキル基(−(CRf5Rf6)k−)をさらに含んでいても良い。
−[SO2NMSO2−(CRf5Rf6)k]a−SO2NMSO2− ・・・(1)
但し、
Mは、水素又はアルカリ金属。
Rf5、Rf6は、それぞれ、フッ素又は炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基。Rf5、Rf6を構成する前記パーフルオロアルキル基は、それぞれ、エーテル結合及び/又はスルホニル結合を含んでいても良い。
aは、0以上100以下の整数。
kは、1以上20以下の整数。
なお、Rf5、Rf6を構成するパーフルオロアルキル基は、直鎖や枝分かれ、環状構造を有していても良い。
【0033】
Rf5又はRf6がパーフルオロアルキル基である場合、パーフルオロアルキル基の炭素数が多くなるほど、酸素透過性が向上する。一方、パーフルオロアルキル基の炭素数が多くなりすぎると、EWが大きくなり、プロトン伝導度が低下する。従って、パーフルオロアルキル基の炭素数は、1〜10である必要がある。
(1)式中、a及びkは、それぞれ、繰り返し単位の繰り返し数を表す。a及び/又はkが2以上である場合、繰り返し単位の中に含まれるRf5及び/又はRf6は、互いに同一であっても良く、あるいは、繰り返し単位毎に異なっていても良い。
一般に、aが大きくなるほど、プロトン伝導度が向上する。一方、aが大きくなる過ぎると、水に溶解する。従って、aは、0以上100以下である必要がある。aは、さらに好ましくは、0以上50以下、さらに好ましくは、0以上30以下である。
スルホンイミド基の少なくとも一端に−(CRf5Rf6)k−が結合していると、スルホンイミド基は強酸基として機能する。しかしながら、kが大きくなりすぎると、かえってプロトン伝導度が低下する。従って、kは、1以上20以下である必要がある。kは、さらに好ましくは、3以上8以下である。
【0034】
[1.1.3. その他の分子構造]
電解質は、直鎖型でも良く、あるいは、分岐型でも良い。含フッ素環状構造とスルホンイミド構造は、主鎖又は側鎖のいずれか一方に含まれていても良く、あるいは、双方に含まれていても良い。また、電解質には、1種類の含フッ素環状構造及び/又は1種類のスルホンイミド構造を備えていても良く、あるいは、2種以上の含フッ素環状構造及び/又はスルホンイミド構造を備えていても良い。
【0035】
さらに、含フッ素環状構造とスルホンイミド構造とは、直接、結合していても良く、あるいは、他の基を介して結合していても良い。
他の基としては、具体的には、
(1)−(CRf7Rf8)m−(Rf7、Rf8は、それぞれ、フッ素又は炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基(パーフルオロアルキル基は、エーテル結合及び/又はスルホニル結合を含んでいても良く、直鎖や枝分かれ、環状構造を有していても良い)、mは1以上の整数)、
(2)−SO2NMSO2−(Mは、水素又はアルカリ金属)、
などがある。
【0036】
[1.2. 具体例]
本発明に係る電解質は、次の(2)式で表される構造を備えているものが好ましい。
【化7】

【0037】
但し、
Pは、(3.1)〜(3.4)式のいずれかで表される含フッ素環状構造。
Mは、水素又はアルカリ金属。
Rf1〜Rf8は、それぞれ、フッ素又は炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基。Rf1〜Rf8を構成する前記パーフルオロアルキル基は、それぞれ、エーテル結合及び/又はスルホニル結合を含んでいても良い。
aは、0以上100以下の整数。
kは、1以上20以下の整数。
nは、1以上の整数。
mは、0以上20以下の整数。
なお、Rf1〜Rf8を構成するパーフルオロアルキル基は、直鎖や枝分かれ、環状構造を有していても良い。
【0038】
(2)式中、Pは、含フッ素環状構造であり、(3.1)〜(3.4)式のいずれかで表される構造を持つ。電解質中には、(3.1)〜(3.4)式で表されるいずれか1種の含フッ素環状構造が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
【0039】
Rf1〜Rf8は、それぞれ、フッ素又はパーフルオロアルキル基を表す。Rf1〜Rf8がパーフルオロアルキル基である場合、パーフルオロアルキル基の炭素数が多くなるほど、酸素透過性が向上する。一方、パーフルオロアルキル基の炭素数が多くなりすぎると、EWが大きくなり、プロトン伝導度が低下する。従って、パーフルオロアルキル基の炭素数は、それぞれ、1〜10である必要がある。
(2)式中、a、k、m及びnは、それぞれ、繰り返し単位の繰り返し数を表す。a、k、m及び/又はnが2以上である場合、繰り返し単位の中に含まれるRf1〜Rf8は、それぞれ、互いに同一であっても良く、あるいは、繰り返し単位毎に異なっていても良い。
【0040】
a及びkの詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
nは、含フッ素環状構造の繰り返し数を表す。nは、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に選択することができる。すなわち、電解質は、a及び/又はnが相対的に小さいランダム共重合体又は交互共重合体であっても良く、あるいは、a及びnが相対的に大きいブロック共重合体であっても良い。
(2)式中、mは、0であっても良い。この場合、含フッ素環状構造Pとスルホンイミド基(−SO2NMSO2−)が直接、結合している電解質となる。一方、mが大きくなりすぎると、プロトン伝導度が低下する。従って、mは、20以下である必要がある。
【0041】
[2. 含フッ素環状化合物]
本発明において、「含フッ素環状化合物」とは、分子内に含フッ素環状構造を備えた化合物をいう。含フッ素環状化合物は、本発明に係る電解質を製造するための原料として用いることができる。
含フッ素環状化合物の分子量は、特に限定されるものではなく、いわゆる「モノマ」だけでなく、相対的に分子量の大きい「オリゴマ」や「ポリマ」も含まれる。
【0042】
[2.1. 含フッ素環状化合物の具体例1]
含フッ素環状化合物の第1の具体例は、次の(4.1)〜(4.4)式のいずれかで表される構造を備えたものからなる。(4.1)〜(4.4)式で表される含フッ素環状化合物を用いて本発明に係る電解質を製造する場合、含フッ素環状化合物は、後述する含フッ素スルホンイミド化合物と組み合わせて用いられる。
【化8】

【0043】
但し、
Rf1〜Rf4は、それぞれ、フッ素又は炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基。Rf1〜Rf4を構成する前記パーフルオロアルキル基は、それぞれ、エーテル結合及び/又はスルホニル結合を含んでいても良い。
Xは、ハロゲン又はNH2
nは、1以上の整数。
なお、Rf1〜Rf4を構成するパーフルオロアルキル基は、直鎖や枝分かれ、環状構造を有していても良い。
【0044】
(4.1)〜(4.4)式で表される含フッ素環状化合物は、いずれも2個の−SO2X基を持つ。この場合、各Xは、同一であっても良く、あるいは、互いに異なっていても良い。(4.1)〜(4.4)式で表される含フッ素環状化合物の製造を容易化するには、各Xは、同一であるのが好ましい。
nは、含フッ素環状構造の繰り返し数を表す。nの大きさは、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に選択することができる。
(4.1)〜(4.4)式に関するその他の点については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0045】
[2.2. 含フッ素環状化合物の具体例2]
含フッ素環状化合物の第2の具体例は、次の(5)式で表される構造を備えたものからなる。(5)式で表される含フッ素環状化合物を用いて本発明に係る電解質を製造する場合、含フッ素環状化合物は、単独で用いても良く、あるいは、後述する含フッ素スルホンイミド化合物と組み合わせて用いても良い。
【化9】

【0046】
但し、
Pは、(3.1)〜(3.4)式のいずれかで表される含フッ素環状構造。
Mは、水素又はアルカリ金属。
Rf1〜Rf8は、それぞれ、フッ素又は炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基。Rf1〜Rf8を構成する前記パーフルオロアルキル基は、それぞれ、エーテル結合及び/又はスルホニル結合を含んでいても良い。
Xは、ハロゲン又はNH2
aは、0以上100以下の整数。
kは、1以上20以下の整数。
nは、1以上の整数。
mは、0以上20以下の整数。
なお、Rf1〜Rf8を構成するパーフルオロアルキル基は、直鎖や枝分かれ、環状構造を有していても良い。
【0047】
(5)式で表される含フッ素環状化合物は、2個の−SO2X基を持つ。この場合、各Xは、同一であっても良く、あるいは、互いに異なっていても良い。Xの一方がハロゲンで他方がNH2である場合、(5)式で表される含フッ素環状化合物のみで本発明に係る電解質を製造することができる。両端のXが互いに異なる含フッ素環状化合物は、後述する方法により比較的容易に製造することができる。
nは、含フッ素環状構造の繰り返し数を表す。aは、含フッ素スルホンイミド構造の繰り返し数を表す。nの大きさは、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に選択することができる。
(5)式に関するその他の点については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0048】
[3. 含フッ素スルホンイミド化合物]
本発明において、「含フッ素スルホンイミド化合物」とは、スルホンイミド基(−SO2NMSO2−)を含む化合物、又は、スルホンイミド基を生成可能な化合物をいう。スルホンイミド基の両端に炭素原子を含む基が結合している場合、両端の基は、パーフルオロアルキル基であることが好ましい。少なくとも一端が−SO2X基からなる含フッ素スルホンイミド化合物は、本発明に係る電解質又は含フッ素環状化合物前駆体を製造するための原料として用いることができる。
含フッ素スルホンイミド化合物の分子量は、特に限定されるものではなく、いわゆる「モノマ」だけでなく、「オリゴマ」や「ポリマ」も含まれる。
【0049】
電解質の製造に用いられる含フッ素スルホンイミド化合物は、具体的には、次の(6)式で表される構造を備えている。
【化10】

【0050】
但し、
Mは、水素又はアルカリ金属。
Rf5〜Rf8は、それぞれ、フッ素又は炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基。Rf5〜Rf8を構成する前記パーフルオロアルキル基は、それぞれ、エーテル結合及び/又はスルホニル結合を含んでいても良い。
Xは、ハロゲン又はNH2
aは、0以上100以下の整数。
kは、1以上20以下の整数。
m'は、1以上20以下の整数。
なお、Rf5〜Rf8を構成するパーフルオロアルキル基は、直鎖や枝分かれ、環状構造を有していても良い。
【0051】
(6)式で表される含フッ素スルホンイミド化合物は、2個の−SO2X基を持つ。この場合、各Xは、同一であっても良く、あるいは、互いに異なっていても良い。含フッ素スルホンイミド化合物の製造を容易化するには、各Xは、同一であるのが好ましい。
aは、含フッ素スルホンイミド構造の繰り返し数を表す。
m'は、パーフルオロアルキル基の繰り返し数を表す。m’が大きくなりすぎると、プロトン伝導度が低下する。従って、m'は、1以上20以下である必要がある。
(6)式に関するその他の点については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0052】
[4. 含フッ素環状化合物前駆体]
本発明において、「含フッ素環状化合物前駆体」とは、比較的穏やかな官能基変換により含フッ素環状化合物を生成することが可能な化合物をいう。
含フッ素環状化合物前駆体の分子量は、特に限定されるものではなく、いわゆる「モノマ」だけでなく、「オリゴマ」や「ポリマ」も含まれる。
【0053】
次の(7)式に、含フッ素環状化合物前駆体の一例を示す。
【化11】

【0054】
但し、
Pは、(3.1)〜(3.4)式のいずれかで表される含フッ素環状構造。
Mは、水素又はアルカリ金属。
Rf1〜Rf8は、それぞれ、フッ素又は炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基。Rf1〜Rf8を構成する前記パーフルオロアルキル基は、それぞれ、エーテル結合及び/又はスルホニル結合を含んでいても良い。
Xは、ハロゲン又はNH2
Yは、フッ素以外のハロゲン。
aは、0以上100以下の整数。
kは、1以上20以下の整数。
nは、1以上の整数。
mは、0以上20以下の整数。
なお、Rf1〜Rf8を構成するパーフルオロアルキル基は、直鎖や枝分かれ、環状構造を有していても良い。
【0055】
Yは、フッ素以外のハロゲンを表す。Yは、特にヨウ素が好ましい。
(7)式に関するその他の点については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0056】
[5. 含フッ素環状化合物前駆体の製造方法]
本発明に係る含フッ素環状化合物前駆体の製造方法は、
次の(8)式で表される構造を備えた含フッ素スルホンイミド化合物と、(9.1)〜(9.4)式のいずれかで表される構造を備えた含フッ素環状炭素炭素二重結合化合物とを反応させる反応工程を備えている。
【化12】

【0057】
但し、
Mは、水素又はアルカリ金属。
Rf1〜Rf8は、それぞれ、フッ素又は炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基。Rf1〜Rf8を構成する前記パーフルオロアルキル基は、それぞれ、エーテル結合及び/又はスルホニル結合を含んでいても良い。
Xは、ハロゲン又はNH2
Yは、フッ素以外のハロゲン。
aは、0以上100以下の整数。
kは、1以上20以下の整数。
m'は、1以上20以下の整数。
なお、Rf1〜Rf8を構成するパーフルオロアルキル基は、直鎖や枝分かれ、環状構造を有していても良い。
【0058】
(8)式で表される含フッ素スルホンイミド化合物は、一端が−SO2X基からなり、他端がYからなる。この点が、(6)式で表される含フッ素スルホンイミド化合物とは異なる。Yは、特に、ヨウ素が好ましい。
「含フッ素環状炭素炭素二重結合化合物(以下、単に「二重結合化合物」ともいう)とは、分子内に炭素炭素二重結合を持ち、かつ、炭素炭素二重結合が開裂したときに、上述した「含フッ素環状構造」を生成するものをいう。
(8)式及び(9.1)〜(9.4)式に関するその他の点については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0059】
(8)式で表される含フッ素スルホンイミド化合物及び(9.1)〜(9.4)式で表される二重結合化合物は、市販されているか、あるいは、類似の構造を有する化合物を出発原料に用いて、公知の方法により製造することができる。
例えば、(8)式で表される含フッ素スルホンイミド化合物の内、a=0であるものは、非特許文献2に記載の方法により製造することができる。
また、例えば、(8)式で表される含フッ素スルホンイミド化合物の内、a>0であるものは、a=0である含フッ素スルホンイミド化合物と特許文献7に記載の化合物とを反応させることにより製造することができる。
【0060】
次の(10a)式に、含フッ素環状化合物前駆体の合成反応の一例を示す。なお、(10b)式には、含フッ素環状化合物前駆体から含フッ素環状化合物を合成する合成反応の一例も併せて示した。(10b)式については、後述する。
例えば、(9.1)式に示す二重結合化合物と、I−(CF2)m−[SO2NHSO2−(CF2)k]a−SO2NH2とを反応させると、二重結合が開裂する。その結果、(10a)式の右辺に示す含フッ素環状化合物前駆体が得られる。
その他の含フッ素環状化合物前駆体も同様であり、(10a)式と同様の方法により製造することができる。
【0061】
【化13】

【0062】
[6. 含フッ素環状化合物の製造方法]
本発明に係る含フッ素環状化合物は、種々の方法により製造することができる。
【0063】
[6.1. 具体例1]
第1の具体例は、上述した含フッ素環状化合物前駆体を出発原料に用いる方法である。
(10b)式に、含フッ素環状化合物前駆体から含フッ素環状化合物を合成する合成反応の一例を示す。
(10a)式で得られた含フッ素環状化合物前駆体を、Na224、Cl2、及び、KFと順次反応させると、末端の−Iが−SO2Na、−SO2Cl及び−SO2Fに順次変換される。その結果、(10b)式の右辺に示す含フッ素環状化合物が得られる。
【0064】
なお、両端が−SO2NH2基からなる含フッ素環状化合物は、例えば、(10b)式の右辺に示す含フッ素環状化合物とNH3とをさらに反応させ、左端の−SO2F基を−SO2NH2基に変換することにより製造することができる。
また、両端が−SO2F基からなる含フッ素環状化合物は、(10a)式の左辺に示す含フッ素スルホンイミド化合物に代えて、右端が−SO2F基である含フッ素スルホンイミド化合物を出発原料に用いることにより合成することができる。
【0065】
[6.2. 具体例2]
第2の具体例は、上述した二重結合化合物を出発原料に用いる方法である。次の(11)式に、二重結合化合物から含フッ素環状化合物を合成する合成反応式の一例を示す。
まず、(9.1)式に示す二重結合化合物と、ジヨードパーフルオロカーボン(I(CF2)mI、m≧1)とを反応させる(非特許文献2参照)。これにより、含フッ素環状構造の両末端が−Iである含フッ素環状化合物前駆体が得られる。
次に、得られた含フッ素環状化合物前駆体を、Na224、Cl2、及び、KFと順次反応させると、末端の−Iが−SO2Na、−SO2Cl及び−SO2Fに順次変換される。その結果、(11)式の右辺に示す含フッ素環状化合物が得られる。
【0066】
【化14】

【0067】
なお、(11)式において、n=1である含フッ素環状化合物を合成する場合、ジヨードパーフルオロカーボンに代えて、ヨウ素分子(I2)でヨウ素化することができる(非特許文献1参照)。
その他の含フッ素環状化合物も同様であり、上述した方法と同様の方法により製造することができる。
【0068】
[7. 含フッ素スルホンイミド化合物の製造方法]
含フッ素スルホンイミド化合物は、一般式:XO2S−(CRf5Rf6)k−SO2Xで表され、かつ、両端のXがハロゲンであるパーフルオロジスルホニルハライドと、一般式:H2NO2S−(CRf5Rf6)k−SO2NH2で表されるパーフルオロジスルホンアミドとを縮合反応させることにより製造することができる。
この時、塩基存在下で縮合反応を行うと、縮合反応を促進させることができる。塩基としては、具体的には、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、DBU(ジアザバイシクロウンデセン)、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)などがある。
【0069】
両端の−SO2X基のXが、双方ともハロゲン又は−NH2からなる含フッ素スルホンイミド化合物は、例えば、合成時に何れか一方の原料を過剰に加えることにより製造することができる。
また、両端の−SO2X基の一方のXがハロゲン(例えば、F)で他方が−NH2である含フッ素スルホンイミド化合物は、例えば、
(1)両端が−SO2NH2基からなる含フッ素スルホンイミド化合物に対し、一端が加水分解された化合物:FO2S(CRf5Rf6)SO3Hを1/2当量作用させることにより、一端が−SO3H基、他端が−SO2NH2基である化合物を合成し、
(2)これとPCl5とを、POCl3の存在下で加熱することにより、−SO3H基を−SO2Cl基とし、
(3)さらに−SO2Cl基を、KFとを反応させることにより、−SO2F基に変換する
ことにより製造することができる。
【0070】
[8. 電解質の製造方法]
本発明に係る電解質は、種々の方法により製造することができる。
【0071】
[8.1. 具体例1]
第1の具体例は、(4.1)〜(4.4)式のいずれかで表される構造を備えた1種又は2種以上の含フッ素環状化合物と、(6)式で表される構造を備えた1種又は2種以上の含フッ素スルホンイミド化合物とを反応させる方法である。
各含フッ素環状化合物及び各含フッ素スルホンイミド化合物は、それぞれ2個の−SO2X基を持つ。原料間で縮合反応を生じさせるためには、これらの−SO2X基の内、少なくとも1個がスルホニルハライド基(X=ハロゲン)であり、かつ、少なくとも1個がスルホンアミド基(X=NH2)である必要がある。
しかしながら、主鎖又は側鎖に、含フッ素環状構造と含フッ素スルホンイミド構造を任意の割合で導入するためには、原料中に含まれる−SO2X基の内、2個以上がスルホニルハライド基であり、かつ、2個以上がスルホンアミド基であるのが好ましい。原料中に含まれるスルホニルハライド基の数とスルホンイミド基の数が同数である場合、理想的には、両端を除くすべての−SO2X基から−SO2NHSO2−基が生成する。
縮合反応は、上述したように塩基存在下で行うのが好ましい。
【0072】
[8.2 具体例2]
第2の具体例は、(5)式で表される構造を備えた1種又は2種以上の含フッ素環状化合物と、(6)式で表される構造を備えた1種又は2種以上の含フッ素スルホンイミド化合物とを反応させる方法である。
この場合、
(1)原料中の−SO2X基には、スルホニルハライド基とスルホンアミド基とが同数含まれているのが好ましい点、及び、
(2)縮合反応は塩基存在下で行うのが好ましい点
は、第1の具体例と同様である。
【0073】
次の(12)式に、合成反応式の一例を示す。DIPEAやTEAのような塩基存在下で、両末端がスルホニルフロライド基である含フッ素スルホンイミド化合物と、両末端がスルホンアミド基である含フッ素環状化合物とを反応させると、縮合反応が進行する.その結果、(12)式の右辺に示す構造を備えた電解質が得られる。
【0074】
【化15】

【0075】
[9. 燃料電池]
本発明に係る燃料電池は、本発明に係る電解質を用いたことを特徴とする。本発明に係る電解質は、電解質膜又は触媒層アイオノマのいずれれに用いても良い。本発明に係る電解質は、酸素透過性が高いので、特にカソード側の触媒層アイオノマとして好適である。
【0076】
[10. 電解質及びその製造方法、含フッ素環状化合物、含フッ素スルホンイミド化合物、含フッ素環状化合物前駆体及びその製造方法、並びに、燃料電池の作用]
本発明に係る電解質は、分子内に含フッ素環状構造を備えているので、電解質の酸素透過性及び撥水性が向上する。また、本発明に係る電解質は、スルホンイミド構造を備えおり、これに含まれるスルホンイミド基(−SO2NHSO2−)は、強酸基として機能する。そのため、これらを高分子の主鎖又は側鎖に導入すると、高い酸素透過性及び撥水性を保ったまま、電解質のプロトン伝導性を高めることができる。
さらに、PTFEや環状構造を含むパーフルオロ主鎖は、一般に結晶性が高く、ガラス転移温度Tgが高温になると予想される。これに対し、本発明に係る電解質は、スルホンイミド構造を有しているので、電解質に柔軟性を与えることができ、製膜性が向上する。
【0077】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係る電解質及びその製造方法は、固体高分子型燃料電池、水電解装置、ハロゲン化水素酸電解装置、食塩電解装置、酸素及び/又は水素濃縮器、湿度センサ、ガスセンサ等の各種電気化学デバイスに用いられる電解質膜や触媒層アイオノマとして用いることができる。
本発明に係る含フッ素環状化合物、及び含フッ素スルホンイミド化合物は、本発明に係る電解質を製造するための原料として用いることができる。
本発明に係る含フッ素環状化合物前駆体は、本発明に係る含フッ素環状化合物を製造するための原料として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた電解質。
(1)前記電解質は、主鎖又は側鎖に、含フッ素環状構造とスルホンイミド構造とを備えている。
(2)前記含フッ素環状構造は、
(a)環の構成原子数が、3以上8以下であり、
(b)前記環の構成原子が、1個以上の酸素と2個以上の炭素とからなり(但し、前記酸素原子は、2個以上連続して結合していない)、
(c)前記炭素上の置換基が、フッ素又は炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基であり(但し、前記置換基を構成する前記パーフルオロアルキル基は、エーテル結合及び/又はスルホニル結合を含んでいても良い)、
(d)前記環内に架橋を含まない
構造を備えている。
(3)前記スルホンイミド構造は、次の(1)式で表される構造を備えている。
−[SO2NMSO2−(CRf5Rf6)k]a−SO2NMSO2− ・・・(1)
但し、
Mは、水素又はアルカリ金属。
Rf5、Rf6は、それぞれ、フッ素又は炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基。Rf5、Rf6を構成する前記パーフルオロアルキル基は、それぞれ、エーテル結合及び/又はスルホニル結合を含んでいても良い。
aは、0以上100以下の整数。
kは、1以上20以下の整数。
【請求項2】
次の(2)式で表される構造を備えた請求項1に記載の電解質。
【化1】

但し、
Pは、(3.1)〜(3.4)式のいずれかで表される含フッ素環状構造。
Mは、水素又はアルカリ金属。
Rf1〜Rf8は、それぞれ、フッ素又は炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基。Rf1〜Rf8を構成する前記パーフルオロアルキル基は、それぞれ、エーテル結合及び/又はスルホニル結合を含んでいても良い。
aは、0以上100以下の整数。
kは、1以上20以下の整数。
nは、1以上の整数。
mは、0以上20以下の整数。
【請求項3】
次の(4.1)〜(4.4)式のいずれかで表される構造を備えた含フッ素環状化合物。
【化2】

但し、
Rf1〜Rf4は、それぞれ、フッ素又は炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基。Rf1〜Rf4を構成する前記パーフルオロアルキル基は、それぞれ、エーテル結合及び/又はスルホニル結合を含んでいても良い。
Xは、ハロゲン又はNH2
nは、1以上の整数。
【請求項4】
次の(5)式で表される構造を備えた含フッ素環状化合物。
【化3】

但し、
Pは、(3.1)〜(3.4)式のいずれかで表される含フッ素環状構造。
Mは、水素又はアルカリ金属。
Rf1〜Rf8は、それぞれ、フッ素又は炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基。Rf1〜Rf8を構成する前記パーフルオロアルキル基は、それぞれ、エーテル結合及び/又はスルホニル結合を含んでいても良い。
Xは、ハロゲン又はNH2
aは、0以上100以下の整数。
kは、1以上20以下の整数。
nは、1以上の整数。
mは、0以上20以下の整数。
【請求項5】
次の(6)式で表される構造を備えた含フッ素スルホンイミド化合物。
【化4】

但し、
Mは、水素又はアルカリ金属。
Rf5〜Rf8は、それぞれ、フッ素又は炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基。Rf5〜Rf8を構成する前記パーフルオロアルキル基は、それぞれ、エーテル結合及び/又はスルホニル結合を含んでいても良い。
Xは、ハロゲン又はNH2
aは、0以上100以下の整数。
kは、1以上20以下の整数。
m'は、1以上20以下の整数。
【請求項6】
次の(7)式で表される構造を備えた含フッ素環状化合物前駆体。
【化5】

但し、
Pは、(3.1)〜(3.4)式のいずれかで表される含フッ素環状構造。
Mは、水素又はアルカリ金属。
Rf1〜Rf8は、それぞれ、フッ素又は炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基。Rf1〜Rf8を構成する前記パーフルオロアルキル基は、それぞれ、エーテル結合及び/又はスルホニル結合を含んでいても良い。
Xは、ハロゲン又はNH2
Yは、フッ素以外のハロゲン。
aは、0以上100以下の整数。
kは、1以上20以下の整数。
nは、1以上の整数。
mは、0以上20以下の整数。
【請求項7】
次の(8)式で表される構造を備えた含フッ素スルホンイミド化合物と、(9.1)〜(9.4)式のいずれかで表される構造を備えた含フッ素環状炭素炭素二重結合化合物とを反応させる反応工程を備えた含フッ素環状化合物前駆体の製造方法。
【化6】

但し、
Mは、水素又はアルカリ金属。
Rf1〜Rf8は、それぞれ、フッ素又は炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル基。Rf1〜Rf8を構成する前記パーフルオロアルキル基は、それぞれ、エーテル結合及び/又はスルホニル結合を含んでいても良い。
Xは、ハロゲン又はNH2
Yは、フッ素以外のハロゲン。
aは、0以上100以下の整数。
kは、1以上20以下の整数。
m'は、1以上20以下の整数。
【請求項8】
請求項3に記載の1種又は2種以上の含フッ素環状化合物と、請求項5に記載の1種又は2種以上の含フッ素スルホンイミド化合物とを反応させる反応工程を備えた電解質の製造方法。
【請求項9】
請求項4に記載の1種又は2種以上の含フッ素環状化合物と、請求項5に記載の1種又は2種以上の含フッ素スルホンイミド化合物とを反応させる反応工程を備えた電解質の製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の電解質を用いた燃料電池。

【公開番号】特開2012−38515(P2012−38515A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176492(P2010−176492)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】