説明

電解質膜およびその製法ならびにその用途

【課題】燃料クロスオーバーが低く、イオン伝導度の湿度依存性が小さな電解質膜を提供し、さらには、燃料枯渇状態から燃料を供給して発電するまで立ち上がりがよく、また高温低加湿状態でも高出力が達成できる膜電極複合体および燃料電池を提供する。
【解決手段】電解質膜3は、PKa値が−17.0以上5.0以下の酸性基AHを含み、PKb値が−6.0以上4.0以下の水代替基Bを含有する。該電解質膜の製造方法は、酸性基AHおよび/または水代替基Bを含む電解質膜に、水代替基Bを含む物質および/または水代替基B前駆体を含む物質および/または酸性基AHを含む物質および/または酸性基AH前駆体を含む物質を、含浸または充填する工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜およびその製法ならびにそれを用いた膜電極複合体や燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、排出物が少なく、かつエネルギー効率が高く、環境への負担の低い発電装置である。このため、近年の地球環境保護への高まりの中で再び脚光を浴びている。従来の大規模発電施設に比べ、比較的小規模の分散型発電施設、自動車や船舶など移動体の発電装置として、将来的にも期待されている発電装置である。また、小型移動機器、ロボット、携帯機器の電源としても注目されており、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池に替わり、携帯電話やパソコンなどへの搭載が期待されている。
【0003】
高分子電解質型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell)においては、水素ガスを燃料とする従来の高分子電解質型燃料電池(以下、PEFCと記載する場合がある)に加えて、メタノールなどの燃料を直接供給する直接型燃料電池も注目されている。直接型燃料電池は、従来のPEFCに比べて出力が低いものの、燃料が液体で改質器を用いないために、エネルギー密度が高くなり、一充填あたりの携帯機器の使用時間が長時間になるという利点がある。
【0004】
高分子電解質型燃料電池は通常、発電を担う反応の起こるアノードとカソードの電極と、アノードとカソードとの間でプロトン伝導体となる高分子電解質膜とが、膜電極複合体(MEA)を構成し、このMEAがセパレータによって挟まれたセルをユニットとして構成されている。ここで、電極は、ガス拡散の促進と集(給)電を行う電極基材(ガス拡散電極あるいは集電体とも云う)と、実際に電気化学的反応場となる電極触媒層とから構成されている。たとえばPEFCのアノード電極では、水素ガスなどの燃料がアノード電極の触媒層で反応してプロトンと電子を生じ、電子は電極基材に伝導し、プロトンは高分子電解質膜へと伝導する。このため、アノード電極には、ガスの拡散性、電子伝導性、プロトン伝導性が良好なことが要求される。一方、カソード電極では、酸素や空気などの酸化ガスがカソード電極の触媒層で、高分子電解質膜から伝導してきたプロトンと、電極基材から伝導してきた電子とが反応して水を生成する。このため、カソード電極においては、ガス拡散性、電子伝導性、プロトン伝導性とともに、生成した水を効率よく排出することも必要となる。
【0005】
また、PEFCの中でも、メタノールなどを燃料とする直接型燃料電池においては、水素ガスを燃料とする従来のPEFCとは異なる性能が要求される。すなわち、直接型燃料電池においては、アノード電極ではメタノール水溶液などの燃料がアノード電極の触媒層で反応してプロトン、電子、二酸化炭素を生じ、電子は電極基材に伝導し、プロトンは高分子電解質に伝導し、二酸化炭素は電極基材を通過して系外へ放出される。このため、従来のPEFCのアノード電極の要求特性に加えて、メタノール水溶液などの燃料透過性や二酸化炭素の排出性も要求される。さらに、直接型燃料電池のカソード電極では、従来のPEFCと同様な反応に加えて、電解質膜を透過したメタノールなどの燃料と酸素あるいは空気などの酸化ガスがカソード電極の触媒層で、二酸化炭素と水を生成する反応も起こる。このため、従来のPEFCよりも生成水が多くなるため、さらに効率よく水を排出することが必要となる。
【0006】
従来、高分子電解質膜として“ナフィオン(登録商標)”(デュポン社製、商品名)に代表されるパーフルオロ系プロトン伝導性ポリマー膜が使用されてきた。しかし、これらのパーフルオロ系プロトン伝導性ポリマー膜は、直接型燃料電池においてはメタノールなどの燃料透過が大きく、電池出力やエネルギー効率が十分でないという問題があった。また、低含水率状態でのイオン伝導度が不十分であるといった問題がある。すなわち、クラスターチャンネルの中で水を介してプロトン伝導するため、イオン伝導度が湿度による膜含水率に大きく依存する。さらに、パーフルオロ系プロトン伝導性ポリマーは、フッ素を使用するという点から価格も非常に高いものである。
【0007】
従来のパーフルオロ系プロトン伝導性ポリマー膜とは異なる非パーフルオロ系プロトン伝導性ポリマー膜として、オルガノシロキサン骨格と、PKaが3以下酸性酸化物となる金属元素および/または半金属元素を有する無機成分を含むプロトン伝導体(特許文献1)、メソゲン基とPKaが1.5以下の酸性基を有する重合体を含むプロトン伝導材料(特許文献2)およびこれらの文献に記載されている従来技術が挙げられる。
【0008】
特許文献1では、PKaが3以下の官能基を必須としているが、その定義、測定または計算方法の記載がなく、得られるプロトン伝導体の伝導度、および強度のバランスでは実用に耐えうる燃料電池は作製できなかった。
【0009】
特許文献2でも、特許文献1同様、PKaの定義、測定または計算方法の記載がなく、実施例に挙げられているポリマーのPKa値も明らかではない。また、含有する酸性基は、PKa1.5以下のプロトン供与基であり、低含水率下ではプロトン伝導が低下すると推測され、実用に耐えうる燃料電池は作製できなかった。
【特許文献1】特開2002−245846号公報
【特許文献2】特開2004−323805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、燃料クロスオーバーが低く、イオン伝導度の湿度依存性が小さな電解質膜を提供し、さらには、燃料枯渇状態から燃料を供給して発電するまで立ち上がりがよく、また高温低加湿状態でも高出力が達成できる膜電極複合体および燃料電池を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明の電解質膜は、S1式で定義されるPKa値が−17.0以上5.0以下の酸性基AHを含み、かつS2式で定義されるPKb値が−6.0以上4.0以下の水代替基Bを含有することを特徴とするものである。
【0012】
【数1】

【0013】
(AH:酸性基、B:水代替基、PKaおよびPKb:平衡定数の対数をとったもの、[ ]:濃度)
また、本発明の膜電極複合体および燃料電池は、かかる電解質膜を用いて構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低燃料クロスオーバーとイオン伝導度の湿度依存性が小さな電解質膜の提供が可能となり、かかる電解質膜からなる膜電極複合体を用いることによって、高出力な燃料電池を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0016】
本発明の電解質膜は、S1式で定義されるPKa値が−17.0以上5.0以下の酸性基AHを含み、かつS2式で定義されるPKb値が−6.0以上4.0以下の水代替基Bを含有することが必要である。
【0017】
【数2】

【0018】
(AH:酸性基、B:水代替基、PKaおよびPKb:平衡定数の対数をとったもの、[ ]:濃度)
PKa値が−17.0以上5.0以下の酸性基AHはプロトン供与基として必須であり、PKb値が−6.0以上4.0以下の水代替基Bは低含水状態でも、該水代替基Bを介してプロトンを伝導させるために必須である。さらに、該水代替基Bが電解質膜中に存在することで、含水率を低下させることができ、燃料クロスオーバーが低減する。
【0019】
PKa値が−17.0以上、5以下であればプロトン伝導度が良好となる。PKa値が−17.0以上0.0以下がより好ましい。
【0020】
また、PKb値が−6.0以上であれば、水と同程度にプロトンを放しやすくなり、PKb値が4.0以下であれば水と同程度にプロトンを受け取りやすくなる。PKb値が−5.0以上3.0以下がより好ましい。
【0021】
本発明のPKa値は以下の方法で測定できる。
【0022】
本発明ではS1式でPKa値を定義しているが、pH=-log[H]であるので、S1式はpKa=−log([A-]/[AH])+pHと書き直すことができる。この式より、 −log([A-]/[AH])=0、すなわちの[A-]/[AH]=1の状態のpHがpKaである。
【0023】
具体的な測定方法例としては、酸性基AHを含む電解質膜原料の水溶液に、所定の濃度のNaOH水溶液などのアルカリを加えて、通常公知の中和滴定により、pH測定を行い、[A-]=[AH]、すなわち、50%中和が進んだときのpHをpKa値とする。50%中和が進んだ状態のpHは、中和滴定曲線の傾きが最小になったときの値である。
【0024】
PKb値についても同様に、S2式がpKb=−log([B]/[BH+])+pHと書き直すことができ、水代替基Bを含む電解質膜原料の水溶液に、HCl等の酸を加えて通常公知の中和滴定を行ない、50%中和が進んだとき、すなわち、中和滴定曲線の傾きが最小になったときのpHをpKb値とする。
【0025】
pKa値およびpKb値の測定方法において、電解質膜粉末の分散量や滴定に用いる酸、アルカリの種類、濃度、pH計測、滴定装置、器具などは適宜実験的に決定するものであり、通常公知の方法を使用できる。
【0026】
また、あらかじめ既知の、酸性基AHおよび/またはこの前駆体や水代替基Bおよび/またはこの前駆体を含む電解質膜の原料を使用する場合、上記の測定を行わなくても、 Pliego, J. R., Jr.; Riveros, J. M. Phys. Chem. Chem. Phys. 2002, 4, 1622.や岩波講座 現代化学9 酸塩基と酸化還元(岩波書店)、化学便覧(基礎編)丸善などに記載のpKa値およびpKb値を用いて、使用する原料を選択することができる。
【0027】
また、酸性基AH、水代替基Bを含む電解質膜のpKa値およびpKb値を測定する場合は、電解質膜を凍結粉砕機などで微粉末化し、500nm以下の電解質粉末を、所定量、水に分散させた分散液を作製し、上記中和滴定の試料として用いることができる。
【0028】
本発明中のPKa値が−17.0以上5.0以下の酸性基AHとしては、プロトン交換能を有するものが好ましい。このような官能基としては、スルホン酸基( −SO2(OH) )、硫酸基( −OSO2(OH) )、スルホンイミド基( −SO2NHSO2R(Rは有機基を表す。) )、ホスホン酸基( −PO(OH)2 )、リン酸基( −OPO(OH)2 )、カルボン酸基( −CO(OH) )、およびこれらの塩等から選択される一種以上を好ましく採用することができる。これらの酸性基は2種類以上含むことができ、組み合わせることにより好ましくなる場合がある。組み合わせはポリマーの構造などにより適宜決められる。中でも、高プロトン伝導度の点から少なくともスルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基のいずれかを有することがより好ましく、耐加水分解性の点から少なくともスルホン酸基を有することが最も好ましい。
【0029】
本発明の電解質膜がスルホン酸基を有する場合、そのスルホン酸基密度は、プロトン伝導性および燃料クロスオーバー抑制の点から0.1〜5.0mmol/gが好ましく、より好ましくは0.5〜3.5mmol/g、さらに好ましくは1.0〜3.5mmol/gである。スルホン酸基密度を0.1mmol/g以上とすることにより、伝導度すなわち燃料電池の出力性能を維持することができ、また5.0mmol/g以下とすることで、燃料電池用電解質膜として使用する際に、十分な燃料遮断性および含水時の機械的強度を得ることができる。
【0030】
ここで、スルホン酸基密度とは、電解質膜の単位乾燥重量当たりに導入されたスルホン酸基のモル量であり、この値が大きいほどスルホン化の度合いが高いことを示す。スルホン酸基密度は、元素分析、中和滴定あるいは核磁気共鳴スペクトル法等により測定が可能である。スルホン酸基密度測定の容易さや精度の点で、元素分析が好ましく、通常はこの方法で分析を行う。ただし、スルホン酸基以外に硫黄源を含む場合など元素分析法では正確なスルホン酸基密度の算出が困難な場合には中和滴定法を用いるものとする。さらに、これらの方法でもスルホン酸基密度の決定が困難な場合においては、核磁気共鳴スペクトル法を用いることが可能である。
【0031】
本発明中のPKb値が−6.0以上4.0以下の水代替基Bとしては、-OH、-O-Si(OH)、-COOH、-Ar-NH、-(NO2-Ar-NH2、-SO2-NH2、-CO-NH2(Ar、Arは、アリーレン基を表す)より選択される一種類以上からなる
ことが好ましく、プロトンの受け渡し能力が水(PKb=−1.74)とより近い点から-OH, -O-Si(OH)3, -Ph-NH2, -(NO2)2PhNH2, -CO-NH2より選択される一種類以上からなることがさらに好ましい。
【0032】
水代替基を有する、具体的な例としては、ビニルアルコール、ビニルアニリン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、アクリルアミド、カルボキシメチルセルロースヒドロキシプロピルセルロースなどから選択される一種以上の重合体、共重合体、オリゴマーまたは縮合物などが挙げられるが、ここに挙げた例以外でも多数の化合物があり、PKb値が本発明の範囲内であれば特に制限はない。
【0033】
本発明中の酸性基AHおよび水代替基Bはポリマーの官能基として電解質膜中に存在してもよいし、添加剤として存在してもよい。また、酸性基AHと水代替基Bの両方の基を有するポリマーでも、別々に有するポリマーの複合体でもよい。特に、酸性基AHを有する電解質膜や多孔質膜中に、水代替基Bを有する単量体や化合物を含浸または充填させ、それらを重合や反応によって酸性基AHを有する電解質膜中や多孔質膜に固定化することが好ましい。また、逆に水代替基Bを有する電解質膜や多孔質膜中に、酸性基AHを有する単量体や化合物を含浸または充填させ、それらを重合や反応によって水代替基Bを有する電解質膜中や多孔質膜に固定化してもよい。
【0034】
本発明における、酸性基AHを有する電解質膜用のポリマーの種類としては、耐加水分解性や耐燃料性、また、高温での燃料電池の運転を想定した場合の耐熱性に優れるポリマーが好ましい。
【0035】
その具体例としては、酸性基含有ポリフェニレンオキシド、酸性基含有ポリエーテルケトン、酸性基含有ポリエーテルエーテルケトン、酸性基含有ポリエーテルスルホン、酸性基含有ポリエーテルエーテルスルホン、酸性基含有ポリエーテルホスフィンオキシド、酸性基含有ポリエーテルエーテルホスフィンオキシド、酸性基含有ポリフェニレンスルフィド、酸性基含有ポリアミド、酸性基含有ポリイミド、酸性基含有ポリエーテルイミド、酸性基含有ポリイミダゾール、酸性基含有ポリオキサゾール、酸性基含有ポリフェニレンなどの、酸性基を有する芳香族炭化水素系ポリマーが挙げられる。ここで、酸性基については前述のとおりである。
【0036】
これらポリマーの合成方法は、前記した特性や要件を満足できれば特に限定されるものではなく、例えば重合して得たポリマーに酸性基またはその誘導体を導入してもよく、モノマーに酸性基またはその誘導体を導入後、該モノマーを重合して得ても構わない。
【0037】
また、燃料クロスオーバー低減の観点から、上記電解質膜が9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン由来の成分、フェノールフタレイン由来の成分、および4,4’−ジヒドロキシテトラフェニルメタン由来の成分から選ばれた少なくとも1種を含有することが好ましく、ポリエーテルエーテルケトン骨格であることがさらに好ましい。
【0038】
本発明の高分子電解質膜、それらが非架橋構造を有する場合、それらのGPC法による重量平均分子量は1万〜500万が好ましく、より好ましくは3万〜100万である。重量平均分子量を1万以上とすることで、実用に供しうる機械的強度を得ることができる。一方、500万以下とすることで、十分な溶解性を得ることができ、溶液粘度が高くなりすぎるのを防ぎ良好な加工性を維持することができる。
【0039】
以下に本発明の一例として、酸性基AHを有する電解質膜や多孔質膜中に、水代替基Bを有する単量体や化合物を含浸または充填させ、それらを重合や反応によって酸性基AHを有する電解質膜中や多孔質膜に固定化する場合の態様を説明する。
【0040】
まず、酸性基AHを有する電解質膜や多孔質膜の説明であるが、酸性基AHとして例えばスルホン酸基を有する重合体を膜へ転化する方法としては、−SO3M型(Mは金属)のポリマーを溶液状態より製膜し、その後高温で熱処理し、プロトン置換して膜とする方法が挙げられる。前記の金属Mはスルホン酸と塩を形成しうるものであればよいが、価格および環境負荷の点からはLi、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Wなどが好ましく、これらの中でもLi、Na、K、Ca、Sr、Baがより好ましく、Li、Na、Kがさらに好ましい。
【0041】
前記熱処理の温度としては、燃料遮断性の点で200〜500℃が好ましく、250〜400℃がより好ましく、300〜350℃がさらに好ましい
また、熱処理時間としては、プロトン伝導性および生産性の点で1分〜24時間が好ましく、3分〜1時間がより好ましく、5分〜30分がさらに好ましい。
【0042】
−SO3M型のポリマーを溶液状態より製膜する方法としては例えば、粉砕した−SO3M型のポリマーをMの塩またはMの水酸化物の水溶液に浸漬し、水で充分洗浄した後、乾燥し、次に非プロトン性極性溶媒等に溶解して溶液を調製し、該溶液よりガラス板あるいはフィルム上に適当なコーティング法で塗布し、溶媒を除去し、酸処理する方法を例示することができる。
【0043】
コーティング法としては、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、カーテンコート、フローコート、スピンコート、スクリーン印刷などの手法が適用できる。
【0044】
製膜に用いる溶媒としては、高分子化合物を溶解し、その後に除去し得るものであればよく、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、γ−ブチロラクトン、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、あるいはイソプロパノールなどのアルコール系溶媒が好適に用いられる。
【0045】
本発明の電解質膜の膜厚としては、通常3〜2000μmのものが好適に使用される。実用に耐える膜の強度を得るには3μmより厚い方が好ましく、膜抵抗の低減つまり発電性能の向上のためには2000μmより薄い方が好ましい。膜厚のより好ましい範囲は5〜1000μm、さらに好ましい範囲は10〜500μmである。
【0046】
膜厚は、種々の方法で制御できる。例えば、溶媒キャスト法で製膜する場合は、溶液濃度あるいは基板上への塗布厚により制御することができるし、また、例えばキャスト重合法で製膜する場合は板間のスペーサー厚みによって調製することもできる。
【0047】
また、本発明の電解質膜には、通常の高分子化合物に使用される可塑剤、安定剤あるいは離型剤等の添加剤を、本発明の目的に反しない範囲内で添加することができる。
【0048】
本発明の電解質膜は、必要に応じて放射線照射などの手段によって高分子構造を架橋せしめることもできる。架橋せしめることにより、燃料クロスオーバーおよび燃料に対する膨潤をさらに抑制する効果が期待でき、機械的強度が向上し、より好ましくなる場合がある。放射線照射の種類としては例えば、電子線照射やγ線照射を挙げることができる。
【0049】
また、酸性基AHを有する電解質膜は多孔質膜であってもよい。多孔質膜としては、酸性基AHを有し、空隙率が5〜80体積%、空隙の孔径の平均が50nm未満であることが、燃料遮断性の観点から好ましい。該多孔質体構成する重合体としては、熱硬化性樹脂でもよいし結晶性または非晶性の熱可塑性樹脂でもよいし、また無機物や無機酸化物や有機無機複合体などが含まれていてもよいが、空隙を形成でき、また、空隙の内部に酸性基AHが存在できるように構成されているものを用いる。
【0050】
従って重合体を構成する単量体の1種以上は、酸性基AHを有するか、または後処理で酸性基AHが導入可能なものが好ましい。ここでの「導入」とは、重合体自身に酸性基AHが化学的に結合された状態や酸性基AHを有する物質が重合体表面に強く吸着された状態や酸性基AHを有する物質がドープされた状態などのように、洗浄等の物理的手段により容易に酸性基AHが脱離されない状態にすることをさす。
【0051】
また、酸性基AHを有する繰り返し単位とそうでない繰り返し単位とが、交互に共存し、酸性基AHを有する繰り返し単位の繰り返しの連続性がプロトン伝導を損なわない程度に適度に分断されていることが好ましい。そうすることにより、酸性基AHを有する繰り返し単位の部分が水などを過剰に含有することを防ぎ、すなわち燃料クロスオーバーを低く抑えることができる。加えて、電解質膜の耐水性も向上させ、クラックの発生や崩壊を防ぐこともできる。
【0052】
つまり、酸性基AHを有するか導入可能な単量体とそうでない単量体との共重合体が好ましい。さらに、燃料クロスオーバーとプロトン伝導度のバランスから、酸性基AHを有する単位とそうでない単位が交互に連結されている、すなわち交互重合の部分が多く存在することが好ましい。
【0053】
この思想を実現する手段として、ビニル単量体の重合が挙げられる。特に、交互共重合の繰り返し単位を多く有する共重合体は、ビニル単量体のe値が正のものと負のものとを共重合することで得ることができる。ここでのe値とは、単量体のビニル基やラジカル末端の荷電状態を表し、「POLYMER HANDBOOK」(J.BRANDRUPら著)等に詳細に記載されているQe概念のe値である。
【0054】
ビニル単量体の具体例を挙げると、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、m−エチルスチレン、p−エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、クロロスチレン、1,1−ジフェニルエチレン、ビニルナフタレン、ビニルビフェニル、インデン、アセナフチレンなどの芳香族ビニル単量体、メチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、等の(メタ)アクリル系単量体、N−メチルマレイミド、N−n−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−o−メチルフェニルマレイミドマレイミド、N−m−メチルフェニルマレイミド、N−p−メチルフェニルマレイミド、N−o−ヒドロキシフェニルマレイミド、N−m−ヒドロキシフェニルマレイミド、N−p−ヒドロキシフェニルマレイミド、N−o−メトキシフェニルマレイミド、N−m−メトキシフェニルマレイミド、N−p−メトキシフェニルマレイミド、N−o−クロロフェニルマレイミド、N−m−クロロフェニルマレイミド、N−p−クロロフェニルマレイミド、N−o−カルボキシフェニルマレイミド、N−m−カルボキシフェニルマレイミド、N−p−カルボキシフェニルマレイミド、N−o−ニトロフェニルマレイミド、N−m−ニトロフェニルマレイミド、N−p−ニトロフェニルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−イソブチルマレイミド、N−tert−ブチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ベンジルマレイミド、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、マレイン酸、フマール酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、メタリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スルホメチルスチレン、p−スチレンスルホン酸、p−スチレンスルホン酸ナトリウム、p−スチレンスルホン酸カリウム、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸ナトリウム塩、ビニル安息香酸カリウム塩、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルスルホン酸、ビニル硫酸、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレートなどの含フッ素単量体等が挙げられる。
【0055】
中でも、酸性基AHの導入の容易さや重合作業性の観点からスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルビフェニル、インデン、アセナフチレンなどの芳香族ビニル単量体の使用が好ましい。
【0056】
また、組み合わせとしては、e値が負のスチレンやα−メチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体を選択した場合、先述した理由からe値が正で酸性基AHの導入が困難なビニル単量体の使用が好ましく、燃料クロスオーバー抑制効果の観点から、アクリロニトリル、メタクリロニトリ、N−フェニルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ベンジルマレイミド、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレートなどの含フッ素単量体が好ましい。
【0057】
また、架橋構造を有することがより好ましい。架橋構造を有することにより、水分や燃料の浸入に対する高分子鎖間の広がりを抑えることができる。そのため、プロトン伝導に対して過剰な水分含量を低く抑えることができ、また、燃料に対する膨潤や崩壊も抑制できることから、結果的に燃料クロスオーバーを低減できる。また、高分子鎖を拘束できるため耐熱性、剛性、耐薬品性なども付与できる。さらに、重合後に酸性基AHを導入する場合には、空隙内壁部に効率よく選択的に酸性基AHを導入することが可能となる。ここでの架橋は、化学架橋であっても物理架橋であってもよい。この架橋構造は例えば、多官能単量体の共重合や電子線、γ線などの放射線照射によって形成できる。特に多官能単量体による架橋が経済的観点から好ましい。
【0058】
架橋構造の形成に採用される多官能単量体の具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロール(ジ/トリ)(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン(ジ/トリ)(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール(ジ/トリ/テトラ)(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール(ジ/トリ/テトラ/ペンタ/ヘキサ)(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリル酸ビフェノール、ビスフェノキシエタノール(メタ)フルオレンジアクリレート、などの多価アルコールのジ−、トリ−、テトラ−、ペンタ−、ヘキサ−(メタ)アクリレート類、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(好ましくはポリエチレングリコール部分の平均分子量;400〜1000程度)、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド30モル付加物のジ(メタ)アクリレート、グリセリンエチレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、グリセリンエチレンオキサイド付加物のトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物のトリ(メタ)アクリレート、ソルビトールエチレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ソルビトールエチレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ソルビトールエチレンオキサイド付加物のトリ(メタ)アクリレート、ソルビトールエチレンオキサイド付加物のテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールエチレンオキサイド付加物のペンタ(メタ)アクリレートおよびソルビトールエチレンオキサイド付加物のヘキサ(メタ)アクリレート等のポリオキシエチレン系ポリエーテル類、o−ジビニルベンゼン、m−ジビニルベンゼン、p−ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレンなどの芳香族多官能単量体、ジ(メタ)アクリル酸エステル、ジ(メタ)アクリル酸ジアリルエステル、アジピン酸ジビニルなどのエステル類、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、ジアリルフタレートなどのジアリル化合物、ブタジエン、ヘキサジエン、ペンタジエン、1,7−オクタジエンなどのジエン類、ジクロロホスファゼンを原料として重合性多官能基を導入したホスファゼン骨格を有する単量体、トリアリルジイソシアヌレートなどの異原子環状骨格を有する多官能単量体、ビスマレイミド、メチレンビスアクリルアミド類などが挙げられる。
【0059】
これらの中でも、機械的強度や酸性基AHの導入時の耐薬品性の観点から、ジビニルベンゼンなどの芳香族多官能単量体類、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノキシエタノール(メタ)フルオレンジアクリレートなどの多価アルコールのジ−、トリ−、テトラ−、ペンタ−、ヘキサ−(メタ)アクリレート類が特に好ましい。
【0060】
以上のような単量体から得られる共重合体の分子量としては、形態保持の観点から、重量平均分子量で4000以上であることが好ましい。また、架橋構造でもよいことから上限には特に制限はない。
【0061】
また、架橋構造の形成に用いる多官能単量体は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0062】
架橋構造を有する多孔質膜にはその空隙の内部に酸性基AHが存在している。内部とは空隙の内表面及び空隙部分それ自身をいう。好ましくは空隙の内表面に酸性基AHが存在している状態である。空隙の内部以外の部分にも酸性基AHが存在していることは差し支えない。酸性基AHが存在しているとは、重合体自身に酸性基AHが化学的に結合された状態や、酸性基AHを有する物質が重合体表面に強く吸着された状態や、酸性基AHを有する物質が空隙内に保持された状態などのことを言い、洗浄等の物理的手段により容易に酸性基AHが空隙内から脱離されない状態である。
【0063】
該架橋構造を有する多孔質膜に酸性基AHを導入するにあたり、重合前の単量体があらかじめ酸性基AHを有していてもよいが、重合後に酸性基AHを導入してもよい。原料の選択性の広さ、モノマー調整の容易性からは、重合後に酸性基AHを導入するのが良い。
【0064】
すなわち、酸性基AHを導入可能な単量体と開孔剤とを含む単量体組成物から膜状の重合体を得た後、または、酸性基AH導入可能な重合体と開孔剤とを含む重合体組成物から製膜した後、膜中から開孔剤を除去する工程と、重合体に酸性基AHを導入する工程を含むものである。
【0065】
酸性基AHを導入可能な単量体としては、前述のように、ビニル単量体の内e値が負のスチレンやα−メチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体を採用することができる。 これらを含む前述のようなビニル単量体の重合としては例えばラジカル重合が作業性の観点で好ましい。ラジカル発生性開始剤としては、各種パーオキシド化合物、アゾ化合物、過酸化物、セリウムアンモニウム塩などが挙げられる。
【0066】
その具体例としては、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル、1,1´−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2´−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2´−アゾビス(2−シクロプロピルプロピオニトリル)、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2´−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]フォルムアミド、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリルなどのアゾニトリル化合物、2,2´−アゾビス(2−メチル−N−フェニルプロピオンアミジン)二塩基酸塩などのアゾアミジン化合物、2,2´−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩基酸塩などの環状アゾアミジン化合物、2,2´−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}などのアゾアミド化合物、2,2´−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)などのアルキルアゾ化合物、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、過酸化ベンゾイルなどの過酸化物、硫酸第2セリウムアンモニウム、硝酸第2セリウムアンモニウム等のセリウムアンモニウム塩などが挙げられる。
【0067】
また、放射線、電子線、紫外線などを利用した光開始剤による重合も利用することができる。光開始剤としては、カルボニル化合物、過酸化物、アゾ化合物、硫黄化合物、ハロゲン化合物および金属塩などが挙げられる。
【0068】
また、多官能単量体を含む場合は、熱や光を利用したキャスト重合による成形および製膜が好ましい。キャスト重合とは、各種単量体や開孔剤および開始剤などを混合したものを、ガスケットやスペーサーにより所定のクリアランスに設定した2枚の板、シート、フィルムの間に注入し、熱や光などのエネルギーを与えることにより重合する方法であり、枚葉式でも連続式でもよい。
【0069】
例えば、使用する単量体組成物に、“ダロキュア(登録商標)”、“イルガキュア(登録商標)”(CIBA社製)等に代表される光開始剤を0.01〜2重量部程度添加した組成物溶液を、2枚の石英ガラスや、ポリエチレン、ポリプロピレンまたは非晶性ポリオレフィン製などのシート間に注入し、密封し、紫外線灯を用いて照度0.01〜100mW/cm2程度、0.1秒〜1時間程度にて光照射して重合することができる。
【0070】
重合体に求める特性として、プロトン伝導性を優先させる場合には、重合体の内部まで酸性基AHを導入することも好ましく、そのためには、重合前の単量体中にあらかじめ酸性基AHの導入を補助する開孔剤を添加しておいた上で重合することが有効である。該開孔剤は、それ自身が直接的に酸性基AHを導入する能力を有している必要はない。すなわち、酸性基AHを導入可能な物質の重合体中への浸透を、自ら、分解、反応、蒸発、昇華、あるいは流出等し酸性基AHを導入可能な物質、またはそれを含有する溶剤と置換することにより少なくとも開孔剤の一部分が除去され、重合体の表層だけではなく、重合体内部の酸性基AH導入可能な部分にも酸性基AHが導入されやすくするものである。
【0071】
開孔剤は、重合あるいは製膜の際に単量体組成物あるいは重合体組成物の一部を占め、重合あるいは製膜の後にこれを除去することで多孔質体の内部に空隙を形成せしめるものである。
【0072】
開孔剤の種類としては、重合体の材料との相溶性、抽出や分解に使用する薬液や溶剤および加熱、溶剤浸漬、光、電子線、放射線処理などの開孔剤除去方法によって有機化合物、溶剤類、可溶性ポリマー類、塩類、金属類などから適宜選択できる。開孔剤は液体状であっても粉末状であってもよいし、使用した単量体からなるオリゴマーや未反応単量体や副生成物を開孔剤として積極的に残すような手法をとってもよい。
【0073】
また、酸性基AH導入後に重合体中に開孔剤の一部が残留しても、反応によって生成したものが残留しても電解質膜に悪影響を与えないものを選択するのが好ましい。
【0074】
また、重合前に開孔剤を配合する場合は、重合温度よりもその沸点や分解温度が高い開孔剤が好ましい。
【0075】
開孔剤の具体例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、メチルセロソルブ、ジグライム、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、γ−ブチロラクトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,4−ジオキサン、四塩化炭素、ジクロロメタン、ニトロメタン、ニトロエタン、酢酸、無水酢酸、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ−n−オクチル、リン酸トリオクチル、デカリン、デカン、ヘキサデカン、等が挙げられ、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0076】
また開孔剤の使用量は、使用する開孔剤と単量体の組み合わせや所望の空隙率、孔径により適宜設定するとよいが、開孔剤も含めた全組成物中の1〜80重量%添加するのが好ましく、より好ましくは5〜50重量%、さらに好ましくは10〜30重量%である。1重量%以上であれば重合体内部まで酸性基AHが導入されやすく、プロトン伝導度が良好となる。また、80重量%以下であれば、低融点水含量が減少し、燃料透過量が小さくなり好ましい。
【0077】
膜状の重合体を得た後、または、重合体組成物から製膜した後、膜中から開孔剤を除去する。空隙形成のためである。
【0078】
開孔剤を除去する手段としては例えば、開孔剤を除去可能な溶剤中に、膜を浸漬するとよい。開孔剤を除去可能な溶剤としては、水および有機溶剤の中から適宜選択される。有機溶剤としては例えば、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、ジクロロメタン、パークロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素、ニトロメタン、ニトロエタン等のニトロ化炭化水素、メタノール、エタノールなどのアルコール類、トルエン、ベンゼンなどの芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、デカンなどの脂肪族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル類、アセトニトリルなどのニトリル類等が好ましい。また、これらのうち1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0079】
重合体から開孔剤を除去した後、前記溶剤は乾燥等によって除いてもよく、除かなくてもよい。
【0080】
次に、膜中の前記重合体に酸性基AHを導入させることについて説明する。開孔剤を含む重合体から製膜された膜を電解質膜とするためには、少なくとも膜中の空隙内部に酸性基AHを存在させることが好ましく、そのために酸性基AH導入剤によって酸性基AHを導入させる。ここでいう酸性基AH導入剤は、酸性基AHを、重合体を構成する酸性基AH可能な繰り返し単位の一部に導入することができる化合物であり、通常公知のものを使用することができる。酸性基AH導入剤の具体例としては、スルホン酸基を導入する場合は、濃硫酸、クロロスルホン酸あるいは発煙硫酸、三酸化硫黄等が好適であり、反応制御の容易さおよび生産性の観点で最も好ましいのはクロロスルホン酸である。またスルホンイミド基を導入する場合はスルホンアミドが好適である。
【0081】
膜中の前記共重合体に酸性基AHを導入させるためには、具体的には、酸性基AH導入剤または酸性基AH導入剤と溶剤の混合物中に膜を浸漬する手段を採用すればよい。酸性基AH導入剤と混合する溶剤は、酸性基AH導入剤と反応しないかまたは反応が激しくなく、重合体内に浸透可能であれば使用できる。かかる溶剤の例を挙げると、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、ジクロロメタン、パークロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素、ニトロメタン、ニトロエタン等のニトロ化炭化水素、アセトニトリルなどのニトリル類等が好ましい。溶剤および酸性基AH導入剤は単一でも二種類以上の混合物でもよい。
【0082】
膜中からの開孔剤の除去と、重合体中への酸性基AHの導入とを同一の工程で行うことも、工程数短縮の点で好ましい。
【0083】
より具体的には、開孔剤を除去可能な溶剤に酸性基AH導入剤(たとえば上記スルホン化剤)を添加してなる溶液中に膜を浸漬することにより、膜中からの開孔剤の除去と重合体への酸性基AHの導入(スルホン化)とを同時に行うことが好ましい。この場合、膜中の開孔剤が、酸性基AHを含む溶液に置換されながら除去されることになる。この方法は、酸性基AHの導入の度合いを精度よく制御できるという点からも好ましい。この場合、開孔剤を除去可能な溶剤としては、酸性基AH導入剤と反応しないかまたは反応が激しくなく、重合体内に浸透可能なものを用いる。また、開孔剤を除去可能な溶剤は単一系でも二種類以上の混合系でもよい。
【0084】
製膜前の単量体/重合体組成物中に酸性基AHの導入を補助するための酸性基AH導入助剤が含有されている場合には、酸性基AH導入助剤も除去可能な溶剤であることが好ましい。
【0085】
以上のような観点から、開孔剤を除去可能な溶剤としては例えば、クロロホルムや1,2−ジクロロエタン、ジクロロメタン、パークロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素、ニトロメタン、ニトロエタン等のニトロ化炭化水素、アセトニトリルなどのニトリル類等が好ましい。
【0086】
また、本発明の電解質膜には、本発明の目的を損なわない範囲で、他の成分を共重合せしめたり、他の高分子化合物をブレンドしたりすることができる。また、その特性を損なわない範囲で、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系、チオエーテル系およびリン系の各種抗酸化剤等の安定剤や、可塑剤、着色剤に代表される各種添加剤を添加することができる。
【0087】
また、本発明の電解質膜には、前述の諸特性に悪影響をおよぼさない範囲内で機械的強度、熱安定性、加工性などの向上を目的に、各種ポリマー、エラストマー、フィラー、微粒子、各種添加剤などを含有させてもよい。
【0088】
本発明の電解質膜を用いてなるものである。その形状としては、前述の膜状の他、板状、繊維状、中空糸状、粒子状、塊状など使用用途によって様々な形態をとりうる。
【0089】
これらのような形状への加工は、押し出し成形、プレス成形、キャスト重合法などにより行うことができるが、電解質膜に三次元架橋構造を付与する場合には、ガラス板や連続ベルト間での加熱や光を利用したキャスト重合法が好ましい。
【0090】
上記酸性基AHを含有する電解質用ポリマーに水代替基Bを有するおよび/または水代替基Bの前駆体を有する物質を含ませる方法としては、両者が溶媒に溶解する場合は、溶液混合した後、製膜して電解質膜を得ることができる。また、先述の酸性基AHを含有する電解質膜や酸性基AHを含有する多孔質膜を作製後、水代替基Bを有する物質またはその溶液を該電解質膜や該多孔質膜に含浸または充填または塗布し、加熱やUV照射などで水代替基Bを有する物質を重合または縮合させる方法などが挙げられる。この場合、水代替基Bを有する物質と酸性基AHを有する物質が混合していても差し支えない。
【0091】
また、水代替基Bを有するおよび/または水代替基Bの前駆体を有する物質を炭酸ガスなどの超臨界液体で酸性基AHを含有する電解質用ポリマーや膜に含浸させることも好ましい例である。水代替基Bは電解質膜全体に均一に存在していた方が、水代替基として効率よく働けるので好ましい。
【0092】
本発明の膜電極複合体は、本発明の電解質膜を用いてなり、電極触媒層および電極基材からなる電極からなる。電極触媒層は、電極反応を促進する電極触媒、電子伝導体、イオン伝導体などを含む層である。電極触媒層に含まれる電極触媒としては例えば、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、金などの貴金属触媒が好ましく用いられる。これらの内の1種類を単独で用いてもよいし、合金、混合物など、2種類以上を併用してもよい。
【0093】
電極触媒層に含まれる電子伝導体(導電材)としては、電子伝導性や化学的な安定性の点から炭素材料、無機導電材料が好ましく用いられる。なかでも、非晶質、結晶質の炭素材料が挙げられる。例えば、チャネルブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが電子伝導性と比表面積の大きさから好ましく用いられる。ファーネスブラックとしては、キャボット社製“バルカン(登録商標)XC−72”、“バルカン(登録商標)P”、“ブラックパールズ(登録商標)880”、“ブラックパールズ(登録商標)1100”、“ブラックパールズ(登録商標)1300”、“ブラックパールズ(登録商標)2000”、“リーガル(登録商標)400”、ケッチェンブラック・インターナショナル社製“ケッチェンブラック(登録商標)”EC、EC600JD、三菱化学社製#3150、#3250などが挙げられ、アセチレンブラックとしては電気化学工業社製“デンカブラック(登録商標)”などが挙げられる。またカーボンブラックのほか、天然の黒鉛、ピッチ、コークス、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、フラン樹脂などの有機化合物から得られる人工黒鉛や炭素なども使用することができる。これらの炭素材料の形態としては、不定形粒子状のほか繊維状、鱗片状、チューブ状、円錐状、メガホン状のものも用いることができる。また、これら炭素材料を後処理加工したものを用いてもよい。
【0094】
また、電子伝導体は、触媒粒子と均一に分散していることが電極性能の点で好ましい。このため、触媒粒子と電子伝導体は予め塗液として良く分散しておくことが好ましい。さらに、電極触媒層として、触媒と電子伝導体とが一体化した触媒担持カーボン等を用いることも好ましい実施態様である。この触媒担持カーボンを用いることにより、触媒の利用効率が向上し、電池性能の向上および低コスト化に寄与できる。ここで、電極触媒層に触媒担持カーボンを用いた場合においても、電子伝導性をさらに高めるために導電剤を添加することも可能である。このような導電剤としては、上述のカーボンブラックが好ましく用いられる。
【0095】
電極触媒層に用いられるイオン伝導性を有する物質(イオン伝導体)としては、一般的に、種々の有機、無機材料が公知であるが、燃料電池に用いる場合には、イオン伝導性を向上するスルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基などのイオン性基を有するポリマー(イオン伝導性ポリマー)が好ましく用いられる。なかでも、イオン性基の安定性の観点から、フルオロアルキルエーテル側鎖とフルオロアルキル主鎖とから構成されるイオン伝導性を有するポリマー、あるいは本発明の高分子電解質材料が好ましく用いられる。パーフルオロ系イオン伝導性ポリマーとしては、例えばデュポン社製の“ナフィオン(登録商標)”、旭化成社製の“Aciplex(登録商標)”、旭硝子社製“フレミオン(登録商標)”などが好ましく用いられる。これらのイオン伝導性ポリマーは、溶液または分散液の状態で電極触媒層中に設ける。この際に、ポリマーを溶解あるいは分散化する溶媒は特に限定されるものではないが、イオン伝導性ポリマーの溶解性の点から極性溶媒が好ましい。
【0096】
前記、触媒と電子伝導体類は通常粉体であるので、イオン伝導体はこれらを固める役割を担うことが通常である。イオン伝導体は、電極触媒層を作製する際に電極触媒粒子と電子伝導体とを主たる構成物質とする塗液に予め添加し、均一に分散した状態で塗布することが電極性能の点から好ましいものであるが、電極触媒層を塗布した後にイオン伝導体を塗布してもよい。ここで、電極触媒層にイオン伝導体を塗布する方法としては、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、カーテンコート、フローコートなどが挙げられ、特に限定されるものではない。電極触媒層に含まれるイオン伝導体の量としては、要求される電極特性や用いられるイオン伝導体の伝導度などに応じて適宜決められるべきものであり、特に限定されるものではないが、重量比で1〜80%の範囲が好ましく、5〜50%の範囲がさらに好ましい。イオン伝導体は、少な過ぎる場合はイオン伝導度が低く、多過ぎる場合はガス透過性を阻害する点で、いずれも電極性能を低下させることがある。
【0097】
電極触媒層には、上記の触媒、電子伝導体、イオン伝導体の他に、種々の物質を含んでいてもよい。特に、電極触媒層中に含まれる物質の結着性を高めるために、上述のイオン伝導性ポリマー以外のポリマーを含んでもよい。このようなポリマーとしては例えば、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリパーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)などのフッ素原子を含むポリマー、これらの共重合体、これらのポリマーを構成するモノマー単位とエチレンやスチレンなどの他のモノマーとの共重合体、あるいは、ブレンドポリマーなどを用いることができる。これらポリマーの電極触媒層中の含有量としては、重量比で5〜40%の範囲が好ましい。ポリマー含有量が多すぎる場合、電子およびイオン抵抗が増大し電極性能が低下する傾向がある。
【0098】
また電極触媒層は、燃料が液体や気体の場合には、その液体や気体が透過しやすい構造を有していることが好ましく、電極反応に伴う副生成物質の排出も促す構造が好ましい。
【0099】
電極基材としては、電気抵抗が低く、集電あるいは給電を行えるものを用いることができる。また、前記電極触媒層を集電体兼用で使用する場合は、特に電極基材を用いなくてもよい。電極基材の構成材としては、たとえば、炭素質、導電性無機物質が挙げられ、例えば、ポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛及び膨張黒鉛などの炭素材、ステンレススチール、モリブデン、チタンなどが例示される。これらの、形態は特に限定されず、たとえば繊維状あるいは粒子状で用いられるが、燃料透過性の点から炭素繊維などの繊維状導電性物質(導電性繊維)が好ましい。導電性繊維を用いた電極基材としては、織布あるいは不織布いずれの構造も使用可能である。たとえば、東レ(株)製カーボンペーパーTGPシリーズ、SOシリーズ、E-TEK社製カーボンクロスなどが用いられる。
【0100】
織布としては、平織、斜文織、朱子織、紋織、綴織など、特に限定されること無く用いられる。また、不織布としては、抄紙法、ニードルパンチ法、スパンボンド法、ウォータージェットパンチ法、メルトブロー法によるものなど特に限定されること無く用いられる。また編物であってもよい。これらの布帛において、特に炭素繊維を用いた場合、耐炎化紡績糸を用いた平織物を炭化あるいは黒鉛化した織布、耐炎化糸をニードルパンチ法やウォータージェットパンチ法などによる不織布加工した後に炭化あるいは黒鉛化した不織布、耐炎化糸あるいは炭化糸あるいは黒鉛化糸を用いた抄紙法によるマット不織布などが好ましく用いられる。特に、薄く強度のある布帛が得られる点から不織布を用いるのが好ましい。
【0101】
電極基材に炭素繊維からなる導電性繊維を用いた場合、炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などがあげられる。
【0102】
また電極基材には、水の滞留によるガス拡散・透過性の低下を防ぐための撥水処理や、水の排出路を形成するための部分的撥水、親水処理や、抵抗を下げるための炭素粉末の添加等を行うこともできる。
【0103】
本発明の高分子電解質型燃料電池においては、電極基材と電極触媒層の間に、少なくとも無機導電性物質と疎水性ポリマーを含む導電性中間層を設けることが好ましい。特に、電極基材が空隙率の大きい炭素繊維織物や不織布である場合、導電性中間層を設けることで、電極触媒層が電極基材にしみ込むことによる性能低下を抑えることができる。
【0104】
本発明の高分子電解質膜を使用して、電極触媒層あるいは電極触媒層と電極基材を用いて膜電極複合体(MEA)を作製する方法は特に限定されるものではない。公知の方法(例えば、「電気化学」1985, 53, 269.記載の化学メッキ法、「ジャーナル オブ エレクトロケミカル サイエンス」(J. Electrochem. Soc.): Electrochemical Science and Technology, 1988, 135(9), 2209. 記載のガス拡散電極の熱プレス接合法など)を適用することが可能である。熱プレスにより一体化することは好ましい方法であるが、その温度や圧力は、高分子電解質膜の厚さ、水分率、電極触媒層や電極基材により適宜選択すればよい。また、高分子電解質膜が含水した状態でプレスしてもよいし、イオン伝導性を有するポリマーで接着してもよい。
【0105】
本発明の燃料電池の燃料としては、酸素、水素およびメタン、エタン、プロパン、ブタン、メタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、エチレングリコール、ギ酸、酢酸、ジメチルエーテル、ハイドロキノン、シクロヘキサンなどの炭素数1〜6の有機化合物およびこれらと水との混合物等が挙げられ、1種または2種以上の混合物でもよい。特に発電効率や電池全体のシステム簡素化の観点から炭素数1〜6の有機化合物を含む燃料が好適に使用され、発電効率の点でとりわけ好ましいのはメタノール水溶液である。
【0106】
膜電極複合体に供給される燃料中の炭素数1〜6の有機化合物の含有量は1〜99.8重量%が好ましい。含有量を1重量%以上とすることで実用的な高いエネルギー容量を得ることができ、99.8重量%以下とすることで発電効率が上がり、実用的な高い出力を得ることができる。
【0107】
メタノール水溶液を用いる場合、メタノールの濃度としては、使用する燃料電池のシステムによって適宜選択されるが、できる限り高濃度のほうが長時間駆動の観点から好ましい。例えば、送液ポンプや送風ファンなど発電に必要な媒体を膜電極複合体に送るシステムや、冷却ファン、燃料希釈システム、生成物回収システムなどの補機を有するアクティブ型燃料電池はメタノールの濃度30〜100%以上の燃料を燃料タンクや燃料カセットにより注入し、0.5〜29%程度に希釈して、またはそのまま膜電極複合体に送ることが好ましく、補機がないパッシブ型の燃料電池はメタノールの濃度が10〜100%の範囲の燃料が好ましい。
【0108】
また、本発明の膜電極複合体は複数枚のスタック状で使用しても並べた状態で使用してもよい。また、燃料電池は使用する機器に内蔵してもよいし、外付けのユニットとして使用してもよい。また、メンテナンスの観点から、燃料電池セルから膜電極複合体が脱着可能な構成であることも好ましい。
【0109】
また、水素などの気体を燃料とした携帯用機器用燃料電池はそれらのガスが外部に漏れ出さない構造が安全上および長時間駆動の観点から好ましく、少なくとも水素極であるアノード側は密閉状態で使用することが好ましい。カソードは周辺機器などを減らす目的で空気を自然吸気する構造が好ましい。アノード側は水素発生装置や水素ボンベ、水素吸蔵合金などの圧力で陽圧であることが好ましく、0.1MPa〜0.0001MPaが好ましい。好ましくは0.05MPa〜0.001Mpaである。取り出す電流によるが、自然対流でも発電は可能である。
【0110】
本発明の燃料電池の用途としては、移動体の電力供給源が好ましいものである。特に、携帯電話、パソコン、PDA、ビデオカメラ(カムコーダー)、デジタルカメラ、ハンディターミナル、RFIDリーダー、デジタルオーディオプレイヤー、各種ディスプレー類などの携帯機器、電動シェーバー、掃除機等の家電、電動工具、家庭用電力供給機、乗用車、バスおよびトラックなどの自動車、二輪車、電動アシスト付自転車、電動カート、電動車椅子や船舶および鉄道などの移動体、各種ロボットなどの電力供給源として好ましく用いられる。特に携帯用機器では、電力供給源だけではなく、携帯機器に搭載した二次電池の充電用にも使用され、さらには二次電池やキャパシタ、太陽電池と併用するハイブリッド型電力供給源としても好適に利用できる。
【実施例】
【0111】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明はこれらに限定されるものではない
(1)イオン伝導度A
試料を25℃の純水に24時間浸漬した後、25℃、相対湿度50〜80%の雰囲気中に取り出し、できるだけ素早く定電位交流インピーダンス法でプロトン伝導度を測定した。
【0112】
測定装置としては、Solartron製電気化学測定システム(Solartron 1287 Electrochemical InterfaceおよびSolartron 1255B Frequency Response Analyzer)を使用した。サンプルは、φ2mmおよびφ10mmの2枚の円形電極(ステンレス製)間に加重1kgをかけて挟持した。有効電極面積は0.0314cm2である。サンプルと電極の界面には、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)の15%水溶液を塗布した。25℃において、交流振幅50mVの定電位インピーダンス測定を行い、膜厚方向のイオン伝導度Aを求めた。
(2)イオン伝導度B
試料を90℃、相対湿度50%の恒温高湿槽中、定電位交流インピーダンス法でイオン伝導度Bを測定した。
【0113】
測定装置としては、Solartron製電気化学測定システム(Solartron 1287 Electrochemical InterfaceおよびSolartron 1255B Frequency Response Analyzer)を使用した。サンプルは幅10mm程度、長さ10〜30mm程度の膜を用いた。サンプルは、測定直前まで90℃、相対湿度50%の恒温高湿槽中に放置した。電極として、直径100μmの白金線(2本)を使用した。電極はサンプル膜の表側と裏側に、互いに平行にかつサンプル膜の長手方向に対して直交するように配置した。白金線間の電解質膜部分は露出するようにセットした。
(3)メタノール透過量
膜状の試料を25℃の純水に24時間浸漬した後、20℃において30重量%メタノール水溶液を用いて測定した。
【0114】
H型セル間にサンプル膜を挟み、一方のセルには純水(60mL)を入れ、他方のセルには30重量%メタノール水溶液(60mL)を入れた。セルの容量は各80mLであった。また、セル間の開口部面積は1.77cm2であった。20℃において両方のセルを撹拌した。1時間、2時間および3時間経過時点で純水中に溶出したメタノール量を島津製作所製ガスクロマトグラフィ(GC−2010)で測定し定量した。グラフの傾きから単位時間あたりのメタノール透過量を求めた。
【0115】
[参考例]
(1)イオン性基を有した高分子材料の合成例1
4,4’−ジフルオロベンゾフェノン109.1gを発煙硫酸(50%SO)150mL中、100℃で10h反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩200gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶し、ジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを得た。(収量181g、収率86%)。
【0116】
炭酸カリウムを6.9g、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンを16g、および4,4'−ジフルオロベンゾフェノンを6g、および前記ジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン6gを用いて、N−メチル−2−ピロリドン中、190℃で重合を行った。多量の水で再沈することで精製を行い、ポリマーAを得た。
【0117】
(2)イオン性基を有した高分子材料の合成例2
炭酸カリウムを6.9g、4,4’−ジヒドロキシテトラフェニルメタンを14g、および4,4'−ジフルオロベンゾフェノンを7g、および前記合成例1のジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン5gを用いて、N−メチル−2−ピロリドン中、190℃で重合を行った。多量の水で再沈することで精製を行い、ポリマーBを得た。
【0118】
(3)電解質膜A、Bの作製例
上記ポリマーAおよびポリマーBをそれぞれN−メチル−2−ピロリドンに溶解し固形分25%の塗液とした。当該塗液をガラス板上に流延塗布し、70℃にて30分さらに100℃にて1時間乾燥して膜厚72μmのフィルムを得た。さらに、窒素ガス雰囲気下、200〜300℃まで1時間かけて昇温し、300℃で10分間加熱する条件で熱処理した後、放冷し、1N塩酸に12時間以上浸漬してプロトン置換した後に、大過剰量の純水に1日間以上浸漬して充分洗浄し電解質膜Aおよび電解質膜Bを得た。
【0119】
(4)電解質膜Cの作製例
ビーカーにスチレン10g、ジビニルベンゼン5g、シクロヘキシルマレイミド10g、開孔剤であるプロピレンカーボネートを30g、重合開始剤である2,2´−アゾビスイソブチロニトリル0.1gを仕込み、マグネチックスターラーにて撹拌し均一に溶解し単量体組成物溶液とした。
【0120】
厚み5mmで30cm×30cmサイズのガラス板2枚の間隔が0.2mmとなるようにガスケットで調整したモールドを準備し、ガラス板間に上記の単量体組成物溶液をガスケット内が満たされるまで注入した。
【0121】
次に65℃の熱風乾燥機内で8時間、板間で重合したのち、ガラス板間から重合体の膜を取り出した。
【0122】
開孔剤の除去とイオン性基の導入として、上記の膜状の重合体を、5重量%のクロロスルホン酸を添加した1,2−ジクロロエタン中に30分間浸漬した後、洗浄液が中性になるまで水洗し、高分子電解質膜を得た。
【0123】
[実施例1]
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)1gを水5gに溶解し、さらにテトラエトキシシランを0.5g加え、0℃に冷却し、均一な溶液になるまで撹拌し水代替基含有溶液Aを得た。
【0124】
所定のサイズにカットした電解質膜Aをポリエチレン袋に入れ、さらに所定量の上記水代替基含有溶液Aを加え、電解質膜Aが完全に浸漬する状態にした後、ヒートシーラーで密封した。8hr浸漬後、密封したポリエチレン袋のコーナー部分をカットし、過剰な水代替基含有溶液Aを流し出し、次いでポリエチレン袋ごと、水代替基含有溶液Aを含浸した電解質膜Aを二枚のガラス板ではさみ、80℃で12時間加熱した。その後、ポリエチレン袋から水代替基含有溶液Aを含浸した電解質膜Aを取り出し、水洗して電解質膜Dを得た。スルホン酸基である酸性基AHのPKaは−3.0であり、テトラエトキシシラン由来の水代替基BのPKbは0.42であった。また、イオン伝導度A、B、プロトン透過量は“ナフィオン(登録商標)117”の測定値を1として規格化した値を表1にまとめた。
【0125】
[実施例2、3]
実施例1の電解質膜Aを電解質膜B、Cに変更した以外は、実施例1と同様に行ない、電解質膜E、Fを得た。
【0126】
これらの、イオン伝導度A、B、プロトン透過量は“ナフィオン(登録商標)117”の測定値を1として規格化した値を表1にまとめた。
【0127】
[実施例4]
アクリルアミド1g、水1g、エタノール0.5g、過硫酸カリウム0.1gを撹拌混合し、均一な溶液になるまで撹拌し水代替基含有溶液Bを得た。この水代替基含有溶液Bと水代替基含有溶液Aとを変更した以外は実施例1と同様に行い電解質膜Gを得た。スルホン酸基である酸性基AHのPKaは−3.0であり、アクリルアミド由来の水代替基BのPKbは1.78であった。また、電解質膜Gのイオン伝導度A、B、プロトン透過量は“ナフィオン(登録商標)117”の測定値を1として規格化した値を表1にまとめた。
【0128】
[実施例5]
ビニルアニリン1g、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル0.1gを撹拌混合し、均一な溶液になるまで撹拌し水代替基含有溶液Cを得た。この水代替基含有溶液Cと水代替基含有溶液Aとを変更した以外は実施例1と同様に行い電解質膜Hを得た。スルホン酸基である酸性基AHのPKaは−3.0であり、ビニルアニリン由来の水代替基のPKbは3.68であった。また、電解質膜Hのイオン伝導度A、B、プロトン透過量は“ナフィオン(登録商標)117”の測定値を1として規格化した値を表1にまとめた。
【0129】
[比較例1〜3]
水代替基を含まない、電解質膜A、B、Cについても比較としてイオン伝導度A、B、プロトン透過量を測定し、“ナフィオン(登録商標)117”の測定値を1として規格化した値を表1にまとめた。
【0130】
[実施例6]膜電極複合体A
2枚の炭素繊維クロス基材に20%四フッ化エチレン溶液にて撥水処理を行ったのち、四フッ化エチレンを20%含むカーボンブラック分散液を塗工し、焼成して電極基材を作製した。
【0131】
1枚の電極基材上に、Pt−Ru担持カーボンと“ナフィオン(登録商標)”溶液とからなるアノード電極触媒塗液を塗工し、乾燥してアノード電極を作製した。
【0132】
また、もう1枚の電極基材上に、Pt担持カーボンと“ナフィオン(登録商標)”溶液とからなるカソード電極触媒塗液を塗工し、乾燥して、カソード電極を作製した。
【0133】
上記で得られた電解質膜Dを、アノード電極とカソード電極とで夾持し、加熱プレスすることで膜電極複合体Aを作製した。
【0134】
[実施例7]膜電極複合体B
2枚の炭素繊維クロス基材に20%四フッ化エチレン溶液にて撥水処理を行ったのち、四フッ化エチレンを20%含むカーボンブラック分散液を塗工し、焼成して電極基材を作製した。
【0135】
2枚の電極基材上に、Pt担持カーボンと“ナフィオン(登録商標)”溶液とからなる電極触媒塗液を塗工し、乾燥して電極を作製した。
【0136】
上記で得られた電解質膜Gを、2枚の電極で夾持し、加熱プレスすることで膜電極複合体Bを作製した。
【0137】
[実施例8]燃料電池Aの評価
得られた膜電極複合体Aをエレクトロケム社製セルにセットし、アノード側に30%メタノール水溶液、カソード側に空気を流して燃料電池とした。
【0138】
電解質膜Dを使用したMEAの方が“ナフィオン(登録商標)”117膜を使用したMEAより優れた特性を有していた。
【0139】
[実施例9]燃料電池Bの評価
得られた膜電極複合体Bを評価セルにセットし燃料電池セルを作製した。この燃料電池セルをセル温度:90℃、燃料ガス:水素、酸化ガス:空気、ガス利用率:アノード70%/カソード40%において電流−電圧(I−V)測定を行ったところ、電解質膜Gを使用したMEAの方が“ナフィオン(登録商標)”117膜を使用したMEAより優れた特性を有していた。
【0140】
[実施例10]
電解質膜Dを膜厚15μmに調整し実施例7と同様に膜電極複合体Cを得た。これをカソード側が自然吸気できるように開口部(カソード集電板を貫通している)を有するセルにセットした。セルのイメージ図を図1および図2に示す。なお、アノード側の水素流路はサーペンタイン状のものを使用した。アノード側に水素ガスを0.01MPaの圧力で供給し、出口を封止して実質密閉状態にした。水素ガスは実質的に無加湿、セル温度26℃に設定し、電流−電圧測定を行った。
【0141】
その結果、最高出力250mW/cmの出力が得られ、室温無加湿状態でも良好な発電特性を示した。
【0142】
【表1】

【0143】
表1から明らかなように、実施例は比較例よりイオン伝導度Bが良好で、プロトン透過量を小さくできる。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明の電解質膜は、種々の電気化学装置(例えば、燃料電池、水電解装置、クロロアルカリ電解装置等)に適用可能である。これら装置の中でも、燃料電池用に好適であり、特にメタノール水溶液や水素を燃料とする燃料電池に好適である。
【0145】
本発明の膜電極複合体、燃料電池の用途としては、特に限定されないが、特に移動体の電力供給源が好ましいものである。特に、携帯電話、パソコン、PDA、ビデオカメラ(カムコーダー)、デジタルカメラ、ハンディターミナル、RFIDリーダー、デジタルオーディオプレイヤー、各種ディスプレー類などの携帯機器、電動シェーバー、掃除機等の家電、電動工具、家庭用電力供給機、乗用車、バスおよびトラックなどの自動車、二輪車、電動アシスト付自転車、電動カート、電動車椅子や船舶および鉄道などの移動体、各種ロボットなどの電力供給源として好ましく用いられる。特に携帯用機器では、電力供給源だけではなく、携帯機器に搭載した二次電池の充電用にも使用され、さらには二次電池やキャパシタ、太陽電池と併用するハイブリッド型電力供給源としても好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】評価用セルのカソード集電板斜視図側イメージ図
【図2】評価セル断面図
【符号の説明】
【0147】
1 :開口部
2 :カソード集電板
3 :電解質膜
4 :カソード電極
5 :アノード電極
6 :ガスケット
7 :水素ガス供給口
8 :封止材
9 :アノード集電板
10:リード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記S1式で定義されるPKa値が−17.0以上5.0以下の酸性基AHを含み、かつ下記S2式で定義されるPKb値が−6.0以上4.0以下の水代替基Bを含有することを特徴とする電解質膜。
【数1】

(AH:酸性基、B:水代替基、PKaおよびPKb:平衡定数の対数をとったもの、[ ]:濃度)
【請求項2】
上記水代替基Bが-OH、-O-Si(OH)、-COOH、-Ar-NH、-(NO2-Ar-NH2、-SO2-NH2、-CO-NH2より選択される一種類以上からなる請求項1に記載の電解質膜。(Ar、Arはアリーレン基を表す)
【請求項3】
上記水代替基Bが-OH、-O-Si(OH)、-Ph-NH、-(NO2-Ph-NH2、-CO-NH2より選択される一種類以上からなる請求項1または2に記載の電解質膜。(Phはフェニレンを表す)
【請求項4】
上記電解質膜が9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン由来の成分、フェノールフタレイン由来の成分、および4,4’−ジヒドロキシテトラフェニルメタン由来の成分から選ばれた少なくとも1種を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項5】
三次元架橋体である請求項1〜4のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の電解質膜を製造する方法であって、酸性基AHを含む電解質膜に、水代替基Bを含む物質および/または水代替基B前駆体を含む物質を、含浸および/または充填する工程、ならびに水代替基Bを含む電解質膜に、酸性基AHを含む物質および/または酸性基AH前駆体を含む物質を、含浸および/または充填する工程、の内少なくとも1つの工程を有することを特徴とする電解質膜の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の電解質膜を用いることを特徴とする膜電極複合体。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の電解質膜を用いることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−149651(P2007−149651A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288329(P2006−288329)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 燃料電池・水素技術開発部 委託研究「固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発 要素技術開発 高性能炭化水素系電解質膜の研究開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】