説明

電解質膜とフィルムの接合方法、燃料電池の製造方法

【課題】本発明は、触媒電極層を備える電解質膜に補強フィルムを貼り付ける技術の容易化を図ることを目的とする。
【解決手段】触媒電極層を備える電解質膜と、電解質膜を補強するための第1のフィルムとの接合方法は、第1のフィルムと第2のフィルムとを積層した積層フィルムと、触媒電極層を備える電解質膜と、を用意する用意工程と、積層フィルムの第1のフィルムに設定される内側領域と、内側領域の外周部に形成される外側領域との境界に切り込みを設けるカット工程と、外側領域との境界に切り込みが設けられた内側領域と触媒電極層とを接触させた状態で、積層フィルムと電解質膜とを熱圧着する圧着工程と、熱圧着された積層フィルムと電解質膜の積層体から、第2のフィルムとともに第1のフィルムの内側領域を剥離する剥離工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒電極層を備える電解質膜と、電解質膜を補強するためのフィルムとの接合方法、燃料電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、触媒電極層を備える電解質膜において、薄膜化による強度の低下やハンドリング性の低下を抑制するために、電解質膜の触媒電極層が形成されていない領域に額縁形状の補強フィルムを貼る技術が知られている。しかし、補強フィルムは非常に薄いため、予め額縁形状にカットされた補強フィルムを電解質膜に貼る場合には、電解質膜に形成されている触媒電極層との位置合わせが容易ではなかった。また、額縁形状の補強フィルムは、ロール状にできないなど取扱が容易ではなかった。一方、シート状の補強フィルムを電解質膜に貼り付けた後に額縁状にカットする場合には、カットの際に電解質膜に損傷が生じる虞があった。
【0003】
この問題を解決するために、額縁形状にハーフカットを施した補強フィルムをハーフカットした面が電解質膜と接するようにして電解質膜に貼り付け、その後、ハーフカットを施していない面側からさらにハーフカットすることによって、電解質膜に額縁形状の補強フィルムを貼り付ける技術が知られている。(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−027227号公報
【特許文献2】特開2010−120293号公報
【特許文献3】特開2008−149642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の技術は、例えば、電解質膜に貼り付けられた補強フィルムに対してハーフカットを施すため、ハーフカットの際に電解質膜に損傷が生じる虞が依然として残っていた。このように、電解質膜に対して補強フィルムを貼り付ける技術についてはなお改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、触媒電極層を備える電解質膜に補強フィルムを貼り付ける技術の容易化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の少なくとも一部を解決するために、本願発明は、以下の態様または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
触媒電極層を備える電解質膜と、前記電解質膜を補強するための第1のフィルムとの接合方法であって、
前記第1のフィルムと、前記第1のフィルムと異なる第2のフィルムと、を積層した積層フィルムと、前記触媒電極層を備える電解質膜と、を用意する用意工程と、
前記積層フィルムの前記第1のフィルムに設定される内側領域と、前記内側領域の外周部に形成される外側領域との境界に切り込みを設けるカット工程と、
前記外側領域との境界に切り込みが設けられた前記内側領域と前記触媒電極層とを接触させた状態で、前記積層フィルムと前記電解質膜とを熱圧着する圧着工程と、
熱圧着された前記積層フィルムと前記電解質膜の積層体から、前記第2のフィルムとともに前記第1のフィルムの前記内側領域を剥離する剥離工程と、を備える接合方法。
【0009】
この構成によれば、積層フィルムと電解質膜とを熱圧着した後、第2のフィルムとともに第1のフィルムの内側領域を剥離するため、触媒電極層を備える電解質膜に補強フィルムを容易に貼り付けることができる。
【0010】
[適用例2]
適用例1に記載の接合方法において、
前記用意工程は、主面の一部の領域に触媒電極層が形成されている電解質膜を用意する工程を含み、
前記カット工程は、前記電解質膜に形成されている前記触媒電極層の形状を前記内側領域の形状として前記第1のフィルムに切り込みを入れる工程を含み、
前記剥離工程は、前記電解質膜において前記触媒電極層が形成されていない領域に額縁形状の前記第1のフィルムの前記外側領域を残した状態で、前記第2のフィルムとともに前記第1のフィルムの前記内側領域を剥離する工程を含む、接合方法。
【0011】
この構成によれば、積層フィルムと電解質膜とを熱圧着した後、電解質膜の触媒電極層が形成されていない領域に第1のフィルムの内側領域を残した状態で、第2のフィルムとともに第1のフィルムの外側領域を剥離するため、触媒電極層を備える電解質膜に額縁形状の補強フィルムを容易に貼り付けることができる。
【0012】
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載の接合方法において、
前記用意工程において用意する前記触媒電極層を備える電解質膜は、前記触媒電極層の表面に前記電解質膜とは異なる試験用の電解質膜を熱圧着し、前記試験用の電解質膜に対して180°剥離試験を実施したときの試験力が5N/m以下であり、
前記圧着工程において前記積層フィルムと前記電解質膜との熱圧着は、圧着温度が150℃以下であり、圧着圧力が2MPa以下であり、圧着時間が0分より大きく20分以下である、接合方法。
【0013】
この構成によれば、第2のフィルムとともに第1のフィルムの一部を容易に剥離することができる。
【0014】
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれかに記載の接合方法において、
前記第1のフィルムは、ポリエチレンナフタレートにより形成され、
前記第2のフィルムは、ポリエチレンテレフタラートにより形成されている、接合方法。
【0015】
この構成によれば、電解質膜を第1のフィルムによって補強することにより、電解質膜の強度の低下やハンドリングの低下を抑制することができる。
【0016】
[適用例5]
燃料電池の製造方法であって、
適用例1ないし適用例4のいずれかに記載の接合方法によって前記第1のフィルムが接合された前記電解質膜を用意する工程と、
前記第1のフィルムが接合された前記電解質膜の両側にガス拡散層を配置する工程と、
前記ガス拡散層と前記電解質膜との積層体の両側に一対のセパレータを配置する工程と、を備える燃料電池の製造方法。
【0017】
この構成によれば、補強フィルムを貼り付けた電解質膜を備える燃料電池を容易に製造することができる。
【0018】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、膜電極接合体と補強フィルムとの接合方法や、膜電極接合体と補強フィルムとの接合方法を工程の一部に含む燃料電池の製造方法や、燃料電池に用いられる積層体の製造方法、製造装置、および、これらの方法を装置に実行させるための制御プログラムなどの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1実施例における触媒層付き電解質膜と補強フィルムとの接合方法の流れを示すフローチャートである。
【図2】触媒層付き電解質膜と2層フィルムの概略構成を説明するための説明図である。
【図3】2層フィルムをハーフカットした状態を説明するための説明図である。
【図4】触媒層付き電解質膜と2層フィルムとを接合した状態を説明するための説明図である。
【図5】積層体から搬送フィルムを剥離した状態を例示した説明図である。
【図6】従来例における触媒層付き電解質膜と補強フィルムとの接合方法を説明するための説明図である。
【図7】第2実施例における触媒層付き電解質膜と補強フィルムとの接合方法を説明するための説明図である。
【図8】変形例おける2層フィルムのハーフカット状態を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
A.第1実施例:
図1は、第1実施例における触媒層付き電解質膜と補強フィルムとの接合方法の流れを示すフローチャートである。触媒層付き電解質膜と補強フィルムとを接合するにあたり、まず、接合対象となる触媒層付き電解質膜と、補強フィルムを一部に含む2層フィルムを用意する(ステップS110)。
【0021】
図2は、触媒層付き電解質膜と2層フィルムの概略構成を説明するための説明図である。図2(a)は、触媒層付き電解質膜200と2層フィルム300を斜めから見た状態を例示した説明図であり、触媒層付き電解質膜200を半透明で示している。図2(b)は、触媒層付き電解質膜200と2層フィルム300を横から見た状態を例示した説明図である。触媒層付き電解質膜200は、電解質膜210と、触媒電極層220とを備えている。
【0022】
電解質膜210は、固体高分子材料としてのフッ素系スルホン酸ポリマーにより形成された高分子電解質膜(例えばナフィオン(登録商標)膜:NRE212)であり、湿潤状態において良好なプロトン伝導性を有する。なお、電解質膜210としては、ナフィオン(登録商標)に限定されず、例えば、アシプレックス(登録商標)やフレミオン(登録商標)等の他のフッ素系スルホン酸膜を用いてもよい。また、電解質膜210として、フッ素系ホスホン酸膜、フッ素系カルボン酸膜、フッ素炭化水素系グラフト膜、炭化水素系グラフト膜、芳香族膜等を用いてもよい。本実施例の電解質膜210は、矩形形状を有している。
【0023】
触媒電極層220は、電解質膜210の一方の主面(図2の下方側)の一部の領域に形成され、電解質膜210よりも小さい矩形形状を有している。そのため、電解質膜210は、触媒電極層220が形成された主面(図2の下方側)において、触媒電極層220の外周部に触媒電極層220が配置されていない額縁形状の外周領域210fを有している。
【0024】
触媒電極層220は、燃料電池に用いられたときにアノード電極もしくはカソード電極として機能する。触媒電極層220は、例えば、電気化学反応を進行する触媒金属(例えば、白金)を担持したカーボン粒子(触媒担持担体)と、プロトン伝導性を有する高分子電解質(例えばフッ素系樹脂)を含んで構成されている。導電性担体としては、カーボン粒子の他に、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のほか、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物等を用いることができる。また、触媒金属としては、白金の他に、例えば、白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウム等を用いることができる。
【0025】
本実施例の触媒層付き電解質膜200は、触媒電極層220の表面に電解質膜210とは異なる別個の電解質膜を熱圧着し、180°剥離試験を実施したときの試験力が5N/m以下となる触媒層形成法(例えば、スピンコート法等)を用いて形成される。これは、後述するように、触媒層付き電解質膜200に2層フィルムを接合させたときに、触媒電極層220と補強フィルム310との間の粘着力を調整するためである。本実施例の触媒層付き電解質膜200は、上述した試験力が得られる作製方法であれば、触媒インクを基材に塗布・乾燥させて作製した触媒層シートを電解質膜210の表面に圧着する方法に限定されず、触媒インクを電解質膜210に直接塗布する方法であってもよい。
【0026】
2層フィルム300は、補強フィルム310と、搬送フィルム320とを備えている。補強フィルム310は、耐酸性を有し、電解質膜210のガラス転移点よりも高温環境下での耐熱性を有しているシートを使用することが好ましい。本実施例では、補強フィルム310は、PEN(ポリエチレンナフタレート)により形成されている。補強フィルム310の材料としては、PET(ポリエチレンテレフタラート)等、PEN(ポリエチレンナフタレート)以外のポリエステル系高分子化合物であってもよいし、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル(硬質)、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリウレタン、熱硬化性ガラス充填シリコーンなどであってもよい。
【0027】
搬送フィルム320は、PET(ポリエチレンテレフタラート)を基材とした微粘着シートなどを使用することができる。搬送フィルム320の材料としては、PET(ポリエチレンテレフタラート)以外に、上記で示した補強フィルム310と同様の材料を使用することができる。補強フィルム310と搬送フィルム320は、同種の材料であってもよいし、異種の材料であってもよい。2層フィルム300は、補強フィルム310と搬送フィルム320とが搬送フィルム320が備える微粘着によって所定の粘着力で接合されている。なお、本実施例の補強フィルム310は、特許請求の範囲における「第1のフィルム」に該当する。また、搬送フィルム320は、特許請求の範囲における「第2のフィルム」に該当する。次に、用意した2層フィルム300のハーフカットをおこなう(ステップS120)。
【0028】
図3は、2層フィルムをハーフカットした状態を説明するための説明図である。図3(a)は、触媒層付き電解質膜200とハーフカットされた2層フィルム300を斜めから見た状態を例示した説明図であり、触媒層付き電解質膜200を半透明で示している。図3(b)は、触媒層付き電解質膜200とハーフカットされた2層フィルム300を横から見た状態を例示した説明図である。
【0029】
2層フィルム300のハーフカットは、搬送フィルム320に切り込み(カット)を入れず、補強フィルム310を2つの領域に分断するように切り込み(カット)を入れることによっておこなわれる。補強フィルム310は、中心部付近に位置する矩形形状の内側領域310pと、内側領域310pの外周部に位置する額縁状の外側領域310fとの境界に切り込みが設けられる。これにより、補強フィルム310の内側領域310pと外側領域310fは分断される。内側領域310pの形状は、触媒層付き電解質膜200に形成される触媒電極層220の形状と同じである。そのため、後述するように、触媒層付き電解質膜200と2層フィルム300とを積層したときに、内側領域310pは、触媒電極層220と外周が一致するように接する。補強フィルム310の切り込みは、例えば、トムソン刃、ロータリーダイカッター等を用いておこなうことができる。2層フィルム300をハーフカットした後、触媒層付き電解質膜200と2層フィルム300とを熱圧着による接合をおこなう(ステップS130)。
【0030】
図4は、触媒層付き電解質膜と2層フィルムとを接合した状態を説明するための説明図である。図4(a)は、触媒層付き電解質膜200と2層フィルム300との積層体100を斜めから見た状態を例示した説明図であり、触媒層付き電解質膜200を半透明で示している。図4(b)は、その積層体100を横から見た状態を例示した説明図である。
【0031】
積層体100は、触媒層付き電解質膜200の電解質膜210が形成されている主面(図3の下方側)と、2層フィルム300の補強フィルム310側(図3の上方側)とが接するようにして、触媒層付き電解質膜200と2層フィルム300が積層されている。このとき、触媒層付き電解質膜200と2層フィルム300は、触媒層付き電解質膜200の触媒電極層220の位置と、補強フィルム310の内側領域310pの位置が一致し、電解質膜210の外周領域210fの位置と、補強フィルム310の外側領域310fの位置が一致するように接触している。
【0032】
触媒層付き電解質膜200と2層フィルム300との熱圧着は、図示しない熱圧着装置を用いて、積層体100をその積層方向から加圧しつつ加熱することによっておこなわれる。熱圧着装置としては、例えば、熱圧平面プレス、熱圧ロールプレス等を用いることができる。熱圧着処理の処理条件としては、熱圧着によって生じる補強フィルム310の内側領域310pと触媒電極層220との間の粘着力FA1が、補強フィルム310と搬送フィルム320との間の粘着力FA2よりも小さくなり(FA1<FA2)、また、熱圧着によって生じる補強フィルム310の外側領域310fと電解質膜210の外周領域210fとの間の粘着力FA3が、補強フィルム310と搬送フィルム320との間の粘着力FA2よりも大きくなる(FA3>FA2)ように積層体100に対する加熱温度、加圧圧力、熱圧着処理時間が調整される。
【0033】
例えば、本実施例では、積層体100に対する加熱温度を150℃以下、加圧圧力を2MPa以下、熱圧着処理時間を0分より大きく20分以下、より好ましくは、5秒以上5分以下とすることによって、上記の条件を満たすことができる。触媒層付き電解質膜200と2層フィルム300との熱圧着をおこなった後、積層体100から搬送フィルム320の剥離をおこなう(ステップS140)。
【0034】
図5は、積層体から搬送フィルムを剥離した状態を例示した説明図である。図5(a)は、積層体100と剥離した搬送フィルム320を斜めから見た状態を例示した説明図であり、触媒層付き電解質膜200を半透明で示している。図5(b)は、積層体100と剥離した搬送フィルム320を横から見た状態を例示した説明図である。
【0035】
上述したように、積層体100は、補強フィルム310の内側領域310pと触媒電極層220との間の粘着力FA1が、補強フィルム310と搬送フィルム320との間の粘着力FA2よりも小さく(FA1<FA2)、補強フィルム310の外側領域310fと電解質膜210外周領域210fとの間の粘着力FA3が、補強フィルム310と搬送フィルム320との間の粘着力FA2よりも大きい(FA3>FA2)ため、積層体100から搬送フィルム320を剥離すると、搬送フィルム320の剥離にともに補強フィルム310の内側領域310pも剥離する。これにより、触媒層付き電解質膜200は、電解質膜210の外周領域210fに補強フィルム310の外側領域310fのみが貼られた状態となる。すなわち、補強フィルムによって補強された触媒層付き電解質膜が完成する。以後、この完成品を触媒層付きフィルム補強電解質膜とも呼ぶ。
【0036】
以上の説明からわかるように、本実施例の積層体100は、
(1)搬送フィルム320が備える微粘着の程度
(2)電解質膜210に形成した触媒電極層220の形成方法
(3)触媒層付き電解質膜200と2層フィルム300との熱圧着条件
の3つが調整されることによって、まず、補強フィルム310と搬送フィルム320との間の粘着力FA2が、補強フィルム310の内側領域310pと触媒電極層220との間の粘着力FA1よりも大きく(FA2>FA1)なっている。そのため、積層体100から搬送フィルム320を剥離したときに、補強フィルム310の内側領域310pが搬送フィルム320から剥離することを抑制している。
【0037】
また、上記(1)〜(3)が調整されることによって、補強フィルム310と搬送フィルム320との間の粘着力FA2が、電解質膜210外周領域210fと補強フィルム310の外側領域310fとの間の粘着力FA3よりも小さく(FA2<FA3)なっている。そのため、積層体100から搬送フィルム320を剥離したときに、補強フィルム310の外側領域310fが電解質膜210の外周領域210fから剥離することを抑制している。
【0038】
図6は、従来例における触媒層付き電解質膜と補強フィルムとの接合方法を説明するための説明図である。図6(a)に示す触媒層付き電解質膜500は、本実施例の触媒層付き電解質膜200と同様の構成を備えている。すなわち、触媒層付き電解質膜500は、触媒電極層220と対応する触媒電極層520と、外周領域210fと対応する外周領域510fを備えている。補強フィルム600は、本実施例の補強フィルム310の外側領域310fと同様の構成を備えている。すなわち、補強フィルム600は、触媒電極層520と対応する形状の開口部を備えた額縁状の単層フィルムである。
【0039】
従来、触媒層付き電解質膜に補強フィルムを貼り付ける工程では、額縁状の補強フィルム600の単体を直接、図6(b)のように触媒層付き電解質膜500の外周領域510fに貼り付けていた。しかし、この場合、補強フィルム600と触媒層付き電解質膜500との位置合わせが難しく、補強フィルム600に凹凸が発生しやすかった。また、熱圧着時に加熱による寸法変化によって、シワや折れが発生しやすかった。また、補強フィルム600は、額縁状のため、ロール状に巻き取ることができず、また搬送が容易ではなかった。このように従来の補強フィルム600は、ハンドリング性が悪かった。
【0040】
一方、本実施例の本実施例の補強フィルム310は、搬送フィルム320によって形状が維持されるため、電解質膜210の外周領域210fに貼り付けるときのハンドリング性がよく、補強フィルム310に凹凸が発生しにくい。また、熱圧着時にシワや折れが発生しにくい。また、補強フィルム310は、ロール状に巻き取ることができ、搬送も容易となる。
【0041】
B.第2実施例:
第1実施例では、所定の大きさに裁断された枚葉状の触媒層付き電解質膜200と、枚葉状の2層フィルム300との接合方法について説明したが、第2実施例では、未裁断の帯状の触媒層付き電解質膜200と、帯状の2層フィルム300との接合方法について説明する。第2実施例の触媒層付き電解質膜200や帯状の2層フィルム300は、第1実施例の触媒層付き電解質膜200や帯状の2層フィルム300と同じ材料により形成され、形状のみが異なる。
【0042】
図7は、第2実施例における触媒層付き電解質膜と補強フィルムとの接合方法を説明するための説明図である。図7(a)は、2層フィルムのハーフカット工程を例示した説明図である。図7(b)は、触媒層付き電解質膜と2層フィルムとの熱圧着工程を例示した説明図である。図7(c)は、搬送フィルムの剥離工程を例示した説明図である。図7(a)に示すように、まず、帯状の2層フィルム300を図示しないロールから順次引き出し、搬送方向(図7(a)矢印方向)に搬送しつつ、搬送路上のロータリーダイカッター710によってハーフカットをおこなう。これにより、帯状の2層フィルム300には、所定の間隔ごとに内側領域310pが複数形成される。
【0043】
2層フィルム300にハーフカットを施した後、図7(b)に示すように、熱圧ロールプレス720によって、帯状の2層フィルム300と帯状の触媒層付き電解質膜200とを熱圧着する。このとき、触媒層付き電解質膜200と2層フィルム300は、触媒層付き電解質膜200の触媒電極層220の位置と、補強フィルム310の内側領域310pの位置が一致し、電解質膜210の外周領域210fの位置と、補強フィルム310の外側領域310fの位置が一致するように接合される。これにより、2層フィルム300と触媒層付き電解質膜200とが接合された積層体100が形成される。
【0044】
積層体100を形成した後、図7(c)に示すように、スリッター730によって、積層体100から搬送フィルム320の剥離をおこなう。このとき、搬送フィルム320の剥離とともに、補強フィルム310の内側領域310pが剥離する。搬送フィルム320と、補強フィルム310の内側領域310pを剥離した帯状の積層体100を所定の大きさに順次裁断することによって、触媒層付きフィルム補強電解質膜が完成する。
【0045】
C.評価例:
本実施例によって製造された触媒層付きフィルム補強電解質膜についての初期発電性能および耐クロスリーク性についての評価をおこなうため、初期発電性能試験およびサイクル耐久試験をおこなった。評価試験は3つのサンプル(実験例1、比較例1、比較例2)に対してそれぞれおこなった。実施例1の触媒層付きフィルム補強電解質膜は、第2実施例で示した接合方法を用いて製造した。
【0046】
比較例1の触媒層付きフィルム補強電解質膜は、以下の手順で製造した。
(1)帯状の単層の補強フィルムの一方の主面に対して、内側領域の外周のハーフカットを施す。
(2)ハーフカットを施した加工側主面が電解質膜と接するようにして、補強フィルムと触媒層付き電解質膜とを熱圧着する。
(3)熱圧着された補強フィルムに対して、加工側主面と反対側の主面となる表側主面からハーフカットをおこなって、補強フィルムの内側領域を取り除く。
(4)補強フィルムの内側領域が取り除かれた帯状の積層体を枚葉状となるように裁断する。
【0047】
比較例2の触媒層付きフィルム補強電解質膜は、上述の比較例(図6)で示した接合方法を用いて製造した。すなわち、単層の額縁形状の補強フィルムを枚葉状の触媒層付き電解質膜に貼り付けることによって製造した。
【0048】
実施例1、比較例1および比較例2の触媒層付きフィルム補強電解質膜を用いてそれぞれ燃料電池セルを構成し、初期発電性能試験(セル温度80℃、過加湿条件、電流密度1.0A/cm)における出力電位(V)を測定した。その結果、
実施例1:0.586(V)、比較例1:0.569(V)、比較例2:0.574(V)、となった。
【0049】
実施例1の出力電位は、比較例1の出力電位よりも高い値となっていることから、本発明に係る接合方法を使用すれば、従来の接合方法を使用した場合よりも、発電性能の高い触媒層付きフィルム補強電解質膜を製造することができることがわかる。また、実施例1の出力電位は、比較例2の出力電位と同程度の値となっていることから、本発明に係る接合方法を使用すれば、帯状の積層体を順次裁断する連続工程によって触媒層付きフィルム補強電解質膜を製造した場合であっても、従来の接合方法で非連続的に製造した触媒層付きフィルム補強電解質膜と同程度以上の発電性能を備えていることがわかる。このことから、本発明を適用した連続工程よっても、剥離面のバリや剥離カス等による初期ダメージや、フィルムの複層化によるコンタミの影響は少ないと考えられる。
【0050】
次に、実施例1、比較例1および比較例2の触媒層付きフィルム補強電解質膜を用いた燃料電池セルに対してサイクル耐久試験を実施し、クロスリークの発生に至るまでの耐久時間(hr)を測定した。サイクル耐久試験では、セル温度を80℃とし、開回路状態と電流密度が0.1A/cmとなる状態とを90秒ずつ繰り返した。クロスリークの発生の有無は、触媒層付きフィルム補強電解質膜の一方の主面と接する密閉空間側を加圧し、他方の主面と接する密閉空間側の圧力の上昇の有無から検出した。その結果、各耐久時間は、
実施例1:230(hr)、比較例1:60(hr)、比較例2:215(hr)、
となった。
【0051】
実施例1の耐久時間は、比較例1の耐久時間よりも長いことから、本発明に係る接合方法を使用すれば、従来の接合方法を使用した場合よりも、発電性能の高い触媒層付きフィルム補強電解質膜を製造することができることがわかる。なお、比較例1の触媒層付きフィルム補強電解質膜は、耐久試験により額縁状の補強フィルムの開口端付近に裂けが生じることによって、60(hr)の比較的短時間でクロスリークが生じた。これは、触媒層付きフィルム補強電解質膜の製造時に電解質膜と補強フィルムとの積層体に対して、補強フィルムの表側主面からハーフカットをおこなったときに、刃によって電解質膜に損傷が生じためと考えられる。また、実施例1の耐久時間は、比較例2の耐久時間と同程度となっていることから、本発明に係る接合方法を使用すれば、帯状の積層体を順次裁断する連続工程によって触媒層付きフィルム補強電解質膜を製造した場合であっても、従来の接合方法で非連続的に製造した触媒層付きフィルム補強電解質膜と同程度以上の耐久性を備えていることがわかる。
【0052】
D.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0053】
D−1.変形例1:
図8は、変形例おける2層フィルムのハーフカット状態を説明するための説明図である。本実施例では、2層フィルム300のハーフカットは、搬送フィルム320に切り込み(カット)を入れず、補強フィルム310を2つの領域に分断するように切り込み(カット)を入れるものとして説明したが、図8(a)の2層フィルム300bのように、補強フィルム310のみではなく、搬送フィルム320の一部にも切り込みが設けられてもよい。また、図8(b)に示す層フィルム300cのように、補強フィルム310が2つに分断されない程度に切り込みが設けられてもよい。また、2層フィルム300のハーフカットは、ミシン目状に切り込みが設けられてもよい。
【0054】
D−2.変形例2:
本実施例では、触媒層付き電解質膜200は、電解質膜210の一方の主面のみに触媒電極層220が形成されているものとして説明したが、触媒層付き電解質膜200は、膜電極接合体(MEA)のように、電解質膜の両側に触媒電極層が形成されていてもよい。
【0055】
D−3.変形例3:
本実施例では、補強フィルム310と搬送フィルム320により構成された2層のフィルムを使用したが、補強フィルム310を一部に含む複層フィルムであれば、2層に限定されず3層以上のフィルムであってもよい。また、実施例では、フィルムによって電解質膜210を補強する構成について説明したが、本発明はフィルム以外の補強用面材を電解質膜210に接合する方法に対しても適用することができる。
【0056】
D−4.変形例4:
本実施例では、触媒層付き電解質膜200と2層フィルム300とを積層したときに、内側領域310pの外周と触媒電極層220と外周とが一致するものとして説明したが、内側領域310pの外周と触媒電極層220と外周とは必ずしも一致しなくてもよい。例えば、内側領域310pの外周は、触媒電極層220の外周の内側もしくは外側に位置してもよい。また、触媒電極層220と内側領域310pはともに矩形形状を有しているものとして説明したが、それぞれ矩形以外の形状を有していてもよい。
【0057】
D−5.変形例5:
補強フィルム310の内側領域310pと触媒電極層220との間の粘着力FA1は、電解質膜210に形成した触媒電極層220の形成方法や、触媒層付き電解質膜200と2層フィルム300との熱圧着条件以外の要素によってその粘着力が調整されてもよい。例えば、熱圧プレスの形状を内側領域310pと対応する部分がプレスされないような形状とすることによって粘着力FA1を低下させてもよい。
【0058】
D−6.変形例6:
本実施例で説明した接合方法を工程の一部に含んだ燃料電池の製造方法としても実現することができる。例えば、まず、MEAに対して本実施例の接合方法を用いて補強フィルムを貼り付け、補強フィルム付きMEAを製造する。その補強フィルム付きMEAの両側をガス拡散層で挟持し、さらに、その両側を一対のセパレータによって挟持して燃料電池セルを作成する。この燃料電池セルを複数積層することによってスタック構造を有する燃料電池を製造することができる。
【0059】
なお、ガス拡散層は、多孔質のガス拡散層基材により構成することができる。ガス拡散層基材としては、例えば、カーボンペーパーやカーボンクロス等のカーボン多孔質体や、金属メッシュや発泡金属等の金属多孔質体を用いることができる。また、ガス拡散層は、撥水性を得るために、ガス拡散層基材が、撥水ペーストによりコーティング(撥水処理)され、撥水層が形成されていてもよい。なお、撥水ペーストとしては、例えば、カーボン粉末と撥水性樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリプロピレン等)との混合溶液を用いることができる。
【0060】
また、セパレータは、ガス遮断性および電子伝導性を有する部材によって構成することができる。セパレータとしては、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボン等のカーボン製部材や、プレス成形したステンレス鋼などの金属部材によって形成することができる。
【符号の説明】
【0061】
100…積層体
200…触媒層付き電解質膜
210…電解質膜
220…触媒電極層
300…2層フィルム
310…補強フィルム
320…搬送フィルム
500…電解質膜
520…触媒電極層
600…補強フィルム
710…ロータリーダイカッター
720…熱圧ロールプレス
730…スリッター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒電極層を備える電解質膜と、前記電解質膜を補強するための第1のフィルムとの接合方法であって、
前記第1のフィルムと、前記第1のフィルムと異なる第2のフィルムと、を積層した積層フィルムと、前記触媒電極層を備える電解質膜と、を用意する用意工程と、
前記積層フィルムの前記第1のフィルムに設定される内側領域と、前記内側領域の外周部に形成される外側領域との境界に切り込みを設けるカット工程と、
前記外側領域との境界に切り込みが設けられた前記内側領域と前記触媒電極層とを接触させた状態で、前記積層フィルムと前記電解質膜とを熱圧着する圧着工程と、
熱圧着された前記積層フィルムと前記電解質膜の積層体から、前記第2のフィルムとともに前記第1のフィルムの前記内側領域を剥離する剥離工程と、を備える接合方法。
【請求項2】
請求項1に記載の接合方法において、
前記用意工程は、主面の一部の領域に触媒電極層が形成されている電解質膜を用意する工程を含み、
前記カット工程は、前記電解質膜に形成されている前記触媒電極層の形状を前記内側領域の形状として前記第1のフィルムに切り込みを入れる工程を含み、
前記剥離工程は、前記電解質膜において前記触媒電極層が形成されていない領域に額縁形状の前記第1のフィルムの前記外側領域を残した状態で、前記第2のフィルムとともに前記第1のフィルムの前記内側領域を剥離する工程を含む、接合方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の接合方法において、
前記用意工程において用意する前記触媒電極層を備える電解質膜は、前記触媒電極層の表面に前記電解質膜とは異なる試験用の電解質膜を熱圧着し、前記試験用の電解質膜に対して180°剥離試験を実施したときの試験力が5N/m以下であり、
前記圧着工程において前記積層フィルムと前記電解質膜との熱圧着は、圧着温度が150℃以下であり、圧着圧力が2MPa以下であり、圧着時間が0分より大きく20分以下である、接合方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の接合方法において、
前記第1のフィルムは、ポリエチレンナフタレートにより形成され、
前記第2のフィルムは、ポリエチレンテレフタラートにより形成されている、接合方法。
【請求項5】
燃料電池の製造方法であって、
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の接合方法によって前記第1のフィルムが接合された前記電解質膜を用意する工程と、
前記第1のフィルムが接合された前記電解質膜の両側にガス拡散層を配置する工程と、
前記ガス拡散層と前記電解質膜との積層体の両側に一対のセパレータを配置する工程と、を備える燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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