説明

電解質膜及びその製造方法並びに燃料電池

【課題】本発明は、高いプロトン伝導性を有すると共に優れた耐燃料透過性を有する電解質膜を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、細孔を有する多孔質基材と、架橋電解質ポリマーと、を含有し、前記架橋電解質ポリマーは、プロトン解離性ビニルモノマーと一分子中に少なくとも3つのC=C二重結合を有する架橋剤との共重合体であると共に、前記細孔の少なくとも一部を充填しており、前記架橋剤と前記プロトン解離性ビニルモノマーとの総量に占める前記架橋剤の割合が5mol%以上であり、前記架橋剤に由来するC=C二重結合の残存率が25mol%以下である電解質膜を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電解質膜及びその製造方法並びに燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池用電解質膜として、スルホン酸基をはじめとする、プロトン解離性官能基を有するポリマーを含有する電解質膜が知られている。なかでも、(i)燃料電池内で生成する水、及びメタノールなどの液体燃料への膨潤及び溶解が抑制され、(ii)燃料の透過が抑制され、(iii)高いプロトン伝導性を有する電解質膜へのニーズが高い。
【0003】
近年、上記(i)〜(iii)の特性を向上する目的で、ポリオレフィン又はポリイミドを基材とする、水及び液体燃料に実質的に膨潤したり溶解したりすることのない、疎水性の多孔質基材にプロトン解離性官能基を有するポリマーを充填した電解質膜が開発されている。なかでも、充填するプロトン解離性官能基を有するポリマーの水及び液体燃料への膨潤及び溶解を分子レベルで抑え、より一層上記(i)〜(iii)の特性を向上させる目的で、プロトン解離性官能基と共に架橋構造を有するポリマーを充填した電解質膜が開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、スルホン酸基を有するビニルモノマーと多官能アリル又はメタリル化合物とを必須構成モノマーとする架橋電解質ポリマーの混合液を多孔質基材に含浸させた後、これを重合する工程を含む架橋電解質膜の製造方法であって、上記多官能アリル又はメタリル化合物としてトリアリルイソシアヌレートを用いる製造方法並びにそれにより得られる電解質膜が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−32302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが、上記特許文献1を始めとする従来の電解質膜について検討したところ、従来の電解質膜は、高いプロトン伝導性を有していたとしても、メタノールなどの燃料の透過を抑制する特性(以下、「耐燃料透過性」)が低いことを見出した。本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、高いプロトン伝導性を有すると共に優れた耐燃料透過性を有する電解質膜及びその製造方法、並びにその電解質膜を用いた燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく検討を行った結果、架橋剤として、一分子中に少なくとも3つのC=C二重結合を有するものを用いた場合、従来の製造方法により電解質膜を得ると、その電解質膜中にC=C二重結合が相当量残存していることを見出した。一般に、電解質膜中にC=C二重結合が多く残存すると、耐燃料透過性が低くなるものと推測される。従来、C=C二重結合が相当量残存する領域で、残存するC=C二重結合量を相対的に少なくすると、耐燃料透過性は改善されるものの、プロトン伝導性が低下してしまい、両特性を十分に満足することは困難であった。ところが、本発明者らが電解質膜中に残存するC=C二重結合量について更に検討したところ、電解質膜中のC=C二重結合の残存量を従来よりも少なくすると、驚くべきことに、耐燃料透過性を優れたものとできるのみでなく、プロトン伝導性をさほど損なうことなく、高く維持することも可能になることを知見した。そして、本発明者らは電解質膜中に残存するC=C二重結合を中心として更に詳細に検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0008】
[1]細孔を有する多孔質基材と、架橋電解質ポリマーと、を含有し、
前記架橋電解質ポリマーは、プロトン解離性ビニルモノマーと一分子中に少なくとも3つのC=C二重結合を有する架橋剤との共重合体であると共に、前記細孔の少なくとも一部を充填しており、
前記架橋剤と前記プロトン解離性ビニルモノマーとの総量に占める前記架橋剤の割合が5mol%以上であり、
前記架橋剤に由来するC=C二重結合の残存率が25mol%以下である電解質膜。
[2]前記架橋剤がトリ(メタ)アリルイソシアヌレートを含む、上記[1]の電解質膜。
[3]上記[1]又は[2]の電解質膜の製造方法であって、
多孔質基材の細孔中に、プロトン解離性ビニルモノマーと一分子中に少なくとも3つのC=C二重結合を有する架橋剤とを含む混合液を充填する工程と、
前記充填する工程の後に、前記混合物を重合し、前記架橋剤に由来するC=C二重結合の残存率を25mol%以下に調整する工程と、
を含む製造方法。
[4]前記調整する工程において、前記混合物を光重合と熱重合との組み合わせによって重合する、上記[3]の電解質膜の製造方法。
[5]上記[1]又は[2]の電解質膜と、電極と、を備える燃料電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、高いプロトン伝導性を有すると共に優れた耐燃料透過性を有する電解質膜及びその製造方法、並びにその電解質膜を用いた燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本明細書における「(メタ)アクリル」とは「アクリル」及びそれに対応する「メタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」及びそれに対応する「メタクリレート」を意味し、「(メタ)アクリロイル」とは「アクリロイル」及びそれに対応する「メタクリロイル」を意味し、「(メタ)アリル」とは「アリル」及びそれに対応する「メタリル」を意味する。
【0011】
本実施形態の電解質膜は、多孔質基材と架橋電解質ポリマーとを含有し、その架橋電解質ポリマーは、プロトン解離性ビニルモノマーと一分子中に少なくとも3つのC=C二重結合を有する架橋剤との共重合体であると共に、上記細孔の少なくとも一部を充填している電解質膜である。その電解質膜中に残存する架橋剤由来のC=C二重結合の数は、上記架橋剤が有するC=C二重結合の総数に対して25mol%以下である。この電解質膜は、その膜中に残存する架橋剤由来のC=C二重結合の数を、架橋剤が有するC=C二重結合の総数に対して25mol%以下、すなわち、架橋剤に由来するC=C二重結合の残存率を25mol%以下にするよう、C=C二重結合の反応率を高めたものである。これにより、メタノールなどの燃料に対する耐燃料透過性とプロトン伝導性とのバランスが良好になり、燃料電池、特に固体高分子型燃料電池や、直接メタノール型燃料電池をはじめとする直接燃料型燃料電池に好適に用いることが可能である。
【0012】
以下、本実施形態の電解質膜を具体的に説明する。
【0013】
本実施形態において、プロトン解離性ビニルモノマーは、分子内に少なくとも1つのC=C二重結合と少なくとも1つのプロトン解離性官能基とを有するビニルモノマーである。プロトン解離性官能基としては、例えば、スルホン酸基、ホスホン酸基、硫酸基、リン酸基、カルボン酸基が挙げられ、プロトン解離性ビニルモノマーがこれらのうちの少なくとも1種の官能基を有すると好ましい。このようなプロトン解離性ビニルモノマーとしては、例えば、ビニルスルホン酸、ビニルホスホン酸、(メタ)アクリル酸、ビニル酢酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、スルホブチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸及びこれらの塩が挙げられ、好ましく用いられる。これらの中でも、1つのプロトン解離性官能基あたりの分子量が小さく、かつプロトン解離性官能基のプロトンが解離しやすい観点から、ビニルスルホン酸、ビニルホスホン酸、ビニル酢酸が好ましく、ビニルスルホン酸がより好ましい。このような好ましいプロトン解離性ビニルモノマーを用いると、当量重量(EW)が小さく、単位重量あたりのプロトン解離性官能基の数が多く、高いプロトン伝導性を有する電解質膜を得やすくなる。また、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、特に2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸は重合性が良好な点で好ましい。これらのプロトン解離性ビニルモノマーは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。なお、プロトン解離性ビニルモノマーは常温で液体であることが好ましいが、固体であってもよい。
【0014】
本実施形態において、架橋剤は、一分子中に少なくとも3つのC=C二重結合を有する架橋剤である。該架橋剤は、上記プロトン解離性ビニルモノマー、水又は各種有機溶剤と均一に混合液を形成するものであれば特に限定されるものではない。かかる架橋剤としては、例えば、トリ(メタ)アリルイソシアヌレート、トリ(メタ)アリルシアヌレート、トリ(メタ)アリルアミン、トリ(メタ)アリルホルマール、トリ(メタ)アリルトリメリテート、トリ(メタ)アリルホスフェートなどのトリ(メタ)アリル化合物、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどのトリ(メタ)アクリレート化合物、テトラ(メタ)アリルテレフタレートアミド、テトラビニルテトラメチルシクロシロキサン、並びにそれらの誘導体が挙げられる。これらの中では、本発明の目的をより有効かつ確実に達成する観点から、分子中に3つのC=C二重結合を有する架橋剤が好ましく、トリ(メタ)アリル化合物及びその誘導体がより好ましく、トリ(メタ)アリルイソシアヌレート及びトリ(メタ)アリルシアヌレート並びにそれらの誘導体が更に好ましく、下記一般式(1)で表されるトリ(メタ)アリルイソシアヌレート及びその誘導体が特に好ましく、トリ(メタ)アリルイソシアヌレートが極めて好ましい。これらの架橋剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0015】
【化1】

ここで、式(1)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はハロゲン原子を示す。上記アルキル基としては、炭素数1〜3のアルキル基、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられ、ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、フッ素原子が挙げられる。
【0016】
プロトン解離性ビニルモノマーと架橋剤との組合せとしては、特に限定されないが、例えば、プロトン解離性ビニルモノマーとしてビニルスルホン酸及び/又は2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を採用する場合、架橋剤としてトリ(メタ)アリルイソシアヌレートを採用することが好ましい。
【0017】
本実施形態の電解質膜が含有する多孔質基材は、従来、電解質膜に用いられている多孔質膜であれば特に限定されないが、疎水性の多孔質基材が好ましく、その材料としては、例えば、多孔質ガラス、多孔質セラミックスに代表される無機材料、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミドに代表される樹脂が挙げられる。かかる多孔質基材は、三次元網目構造を有する通流体性の細孔を有する多孔質基材である。上記材料は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中では、ポリエチレン、ポリプロピレンに代表されるポリオレフィン系ホモポリマー及びコポリマー、又は、ポリフッ化ビニリデンポリマー及びコポリマーが好ましく、多孔質基材がこれらを主成分とするものであると好ましい。ここで、「主成分」とは、多孔質基材の全体量を基準として50質量%以上含まれる成分であることを意味し、好ましくは70質量%以上含まれ、より好ましくは90質量%、更に好ましくは100質量%含まれる成分である。
【0018】
多孔質基材の厚みは10〜100μmであると好ましく、15〜60μmであるとより好ましい。また、多孔質基材の気孔率は25〜70%であると好ましく、30〜55%であるとより好ましい。この気孔率は、多孔質基材の見掛け体積と質量と膜密度(すなわち材料密度)とから、(体積−質量/膜密度)/体積×100により算出される。多孔質基材の厚み25μm換算での透気度は200〜900秒/100ccであると好ましく、300〜800秒/100ccであるとより好ましい。この透気度は、市販のガーレー式透気度計を用いて、直径28.6mm、645mm2の面積を空気100ccが通過する時間を測定して、その時間で表される。
【0019】
多孔質基材が樹脂から構成される場合、その細孔内に充填されるプロトン解離性ビニルモノマーと架橋剤とから得られる架橋電解質ポリマーの含水膨張を抑えるため、多孔質基材を構成する樹脂の重量平均分子量(GPC法により測定)は25万以上であると好ましく、また、二軸方向(TD方向、MD方向)に3×3〜10×10倍の延伸処理がなされた強度の高い基材であると好ましい。多孔質基材は、5×5〜10×10倍の延伸処理がなされたものであるとより好ましい。
【0020】
本実施形態の電解質膜において、残存する架橋剤由来のC=C二重結合の数は、上記架橋剤が有するC=C二重結合の総数に対して25mol%以下、すなわち0〜25mol%である(以下、これを「残存二重結合率」という)。その残存二重結合率は、0〜20mol%であるとより好ましい。本発明者らが新たに得た知見によると、残存二重結合率が25mol%以下であることにより、プロトン伝導性に優れ、しかも良好な耐燃料透過性を有する電解質膜となる。残存二重結合率は、後述の実施例における測定法に準じて測定される。
【0021】
本実施形態の電解質膜の製造方法は、好ましくは、多孔質基材の細孔中に、プロトン解離性ビニルモノマーと一分子中に少なくとも3つのC=C二重結合を有する架橋剤とを含む混合液を充填する(A)工程と、上記充填する工程の後に、上記混合物を重合し、上記架橋剤に由来するC=C二重結合の残存率を25mol%以下に調整する(B)工程とを含む製造方法である。このような製造方法を採用することは、高いプロトン伝導性を有すると共に優れた耐燃料透過性を有する電解質膜を実現する観点から好ましい。
【0022】
上記(A)工程において準備される混合液において、(a)プロトン解離性ビニルモノマーと(b)架橋剤との混合比を調整することによっても、電解質膜の耐燃料透過性やプロトン伝導性が影響を受ける。それらの混合比は、架橋剤に対するプロトン解離性ビニルモノマーのモル比((a)/(b))として、好ましくは10/90〜95/5であり、より好ましくは60/40〜95/5である。
【0023】
より具体的には、例えば、好ましいプロトン解離性ビニルモノマーである(a)ビニルスルホン酸を用い、好ましい架橋剤である(b)トリアリルイソシアヌレートを用いる場合、架橋剤に対するプロトン解離性ビニルモノマーのモル比((a)/(b))が60/40〜90/10であると好ましい。この混合比を上記好ましい範囲とすることは、プロトン伝導性と耐燃料透過性とを両立する観点から好ましい。さらには、疎水性の多孔質基材への混合液の含浸性を向上させ、均一な混合液の形成を実現し、良好な電解質膜を作製する観点から好ましい。
【0024】
また、好ましいプロトン解離性ビニルモノマーである(a)2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を用い、好ましい架橋剤である(b)トリアリルイソシアヌレートを用いる場合、架橋剤に対するプロトン解離性ビニルモノマーのモル比((a)/(b))が60/40〜95/5であると好ましい。この混合比を上記好ましい範囲とすることは、プロトン伝導性と耐燃料透過性とを両立する観点から好ましい。さらには、疎水性の多孔質基材への混合液の含浸性を向上させ、均一な混合液の形成を実現し、良好な電解質膜を作製する観点から好ましい。
【0025】
混合液は、プロトン解離性ビニルモノマー及び架橋剤の他に、必要に応じて添加剤を加えることができ、そのような添加剤としては、例えば、触媒、硬化剤、界面活性剤が挙げられる。これらの添加剤は、電解質ポリマーを得るために、プロトン解離性ビニルモノマー及び架橋剤と共に用いられる公知の添加剤であってもよい。混合液は、均一な状態、すなわち目視により沈殿物の形成や2相分離が確認できない状態のものが好ましい。混合液に含有されるプロトン解離性ビニルモノマー、架橋剤及び添加剤の混合物が液状の場合は、その混合物を混合液としてそのまま用いることができる。また、上記混合物が液状でない場合は、水及び/又は有機溶剤に上記混合物を溶解した均一な混合液を用いることができる。水及び/又は有機溶剤に混合物を溶解する場合、混合物の濃度が10〜90質量%であると好ましく、20〜70質量%であるとより好ましい。
【0026】
重合開始剤以外の添加剤を用いる場合、その混合液中の含有割合は、プロトン解離性ビニルモノマーと架橋剤との合計100質量部に対して、5質量部以下であると好ましく、1質量部以下であるとより好ましい。また、添加剤として重合開始剤を用いる場合、重合開始に必要な最小限量に留める観点から、その混合液中の含有割合は、プロトン解離性ビニルモノマーと架橋剤との合計100質量部に対して、0.001〜5質量部であると好ましく、0.01〜3質量部であるとより好ましい。
【0027】
上述の混合液は、必要に応じて、プロトン解離性ビニルモノマーに溶解可能であり、少なくとも1つのC=C二重結合を有する、非解離性モノマーを含有してもよい。この場合、混合液中の非解離性モノマーの含有比は、解離性モノマーの含有比を超えないことが好ましい。非解離性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0028】
混合液の粘度は、多孔質基材への良好な含浸性を保つため、40℃で好ましくは100000cP以下、より好ましくは10000cP以下、更に好ましくは1000cP以下である。また、混合液中の解離性モノマーと非解離性モノマーとの合計量は、混合液の全量を基準として90質量%以上であると好ましく、95質量%以上であるとより好ましい。混合液の粘度を上述の範囲に調整することで、上記モノマーの濃度が上述のように高濃度であっても、混合液を直接多孔質基材に良好に含浸することができ、混合液中の各モノマーを重合させて架橋電解質ポリマーを得たときに、溶媒の脱落が抑制され、得られる電解質膜の水素及びメタノールなどの燃料に対する耐燃料透過性を一層良好にすることが可能になり好ましい。
【0029】
上記(A)工程においては、上記混合液を多孔質基材に充填する。その具体的な方法としては、混合液中に多孔質基材を浸漬する方法、多孔質基材に混合液を刷毛などを用いて塗布する方法、多孔質基材に混合液を吹き付ける方法が挙げられる。なお、これらの方法に先立って、多孔質基材に高エネルギー線を照射してもよい。高エネルギー線としては、例えば、プラズマ、紫外線、電子線、γ線等、公知の高エネルギー線が挙げられる。これらの高エネルギー線は、多孔質基材を励起させ、反応開始点を生成させ、これと混合液中の各モノマーとが反応するので、重合開始剤を用いなくても、架橋電解質ポリマーを形成することができる。
【0030】
上記(B)工程において、多孔質基材に充填した混合液中のプロトン解離性ビニルモノマーと架橋剤とを、加熱による熱重合及び/又は紫外線などの光照射による光重合により重合して多孔質基材の細孔中に充填された架橋電解質ポリマーを得る。多孔質基材が上述のように高エネルギー線を照射されていない場合、混合液は重合開始剤としてラジカル重合開始剤を含有すると好ましい。ラジカル重合開始剤は、公知のものであってもよく、熱重合開始剤、光重合開始剤が例示される。熱重合開始剤としては、例えば、アゾ系化合物、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩、過酸エステル、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物が挙げられる。光重合開始剤としては、例えば、ベンゾインエーテル系開始剤、アセトフェノン系開始剤、ベンゾフェノン系開始剤、チオキサントン系開始剤、ベンジル、キノン、チオアクリドン及びこれらの誘導体が挙げられる。これらのラジカル重合開始剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0031】
光重合を行う場合の紫外線などの光線の照射量及び照射時間、熱重合を行う場合の加熱温度及び加熱時間は、残存二重結合率を25mol%以下にするよう調整される。例えば、残存二重結合率を低減するには、光線の照射時間や加熱時間を長くしたり、光線の照射量を多くしたり、加熱温度を高くしたりする方法が挙げられる。また、光重合後に熱重合を行ってもよい。
【0032】
本実施形態の燃料電池は、本実施形態の電解質膜を備える他は、公知の構成を備えていればよい。また、本実施形態の燃料電池は、公知の方法に従って、本実施形態の電解質膜の両面にそれぞれ、陽極、陰極となるガス拡散電極を密着させ、ついで膜全体を集電体で挟むことで作製される。
【0033】
ガス拡散電極は特に限定されず、公知のものであってもよい。例えば、ガス拡散電極は、公知の方法に従って、白金、又は白金と例えばルテニウム等の異種金属との合金からなる微粒子を担持した、カーボンブラック粉末を、公知の解離性プロトンを有する官能基を含む重合体やPTFEなどの疎水性樹脂バインダーで保持した多孔質体のシートであってもよい。かかるガス拡散電極は、公知の方法、例えば、予め支持体上にガス拡散電極を作製した後にホットプレスにより電解質膜と密着させる方法、あるいは、電解質膜上に直接ガス拡散電極を形成する方法などにより、電解質膜に密着させる。
【0034】
集電体は、導電性カーボン板などの導電性材料からなり、陰極側には燃料ガス若しくは液体、陽極側には酸化剤ガスの流路となる溝が形成されている。
【0035】
固体高分子型燃料電池では、例えば、陰極側には水素ガスが、陽極側には空気が供給され、次の反応により電気エネルギーが生成する。
陰極:H2→2H++2e-
陽極:1/2O2+2H++2e-→H2
【0036】
直接燃料供給型燃料電池の例として直接メタノール型燃料電池の例を挙げると、陰極側にはメタノール水溶液が、陽極側には空気が供給され、次の反応により電気エネルギーが生成する。
陰極:CH3OH+H2O→CO2+6H++6e-
陽極:3/2O2+6H++6e-→3H2
【0037】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、本発明の電解質膜の製造方法は、プロトン解離性ビニルモノマーと一分子中に少なくとも3つのC=C二重結合を有する架橋剤とを含有する混合液を準備する工程と、その混合液中のプロトン解離性ビニルモノマーを重合してポリマー前駆体を得る工程と、ポリマー前駆体を得る工程を経た混合液を多孔質基材に含浸する工程と、多孔質基材に含浸した混合液中のポリマー前駆体と架橋剤とを重合して多孔質基材の細孔中に充填された架橋電解質ポリマーを得る工程とを有してもよい。ポリマー前駆体を得るには、例えば、低圧水銀ランプを所定の時間混合液に照射したり、低温で所定の時間重合したりすればよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例、比較例にて本発明を更に詳細に説明する。なお、本実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0039】
〔プロトン伝導性の評価(プロトン伝導度の測定)〕
40℃、水中における膜面方向のプロトン伝導度(S/cm)を、4端子法により測定した交流インピーダンスから求め、この値を電解質膜の厚み(cm)で除し単位厚み当たりのプロトン伝導度(S/cm2)を求め、プロトン伝導性の指標とした。
【0040】
〔メタノール透過性の評価(メタノール透過度の測定)〕
フロー式ガス・蒸気・液体透過率測定装置であるGTR−20XFAFC(商品名、GTRテック株式会社)を用い、電解質膜を40℃に制御されたチャンバー内の透過面積1.54cm2のセルにセットした。電解質膜の上面と接触するように30質量%メタノール水溶液を循環させ、電解質膜の下面と接触するように乾燥ヘリウムを流量200cc/minで流し、メタノールを浸透気化させた。電解質膜の下面と接触させた後のヘリウムを、ガスサンプラーを設けた六方バルブにより一定間隔で採取し、ガスクロマトグラフフィによりヘリウム中のメタノール量を定量した。そのメタノール量の経時変化を追跡し、一定になった時点のメタノール量から一日当たり、電解質膜の単位面積当たりのメタノール透過度(g/m2・日)を求め、メタノール透過性の指標とした。
【0041】
〔残存二重結合率の測定〕
凍結粉砕した後の電解質膜の試料をNMR測定に供した。NMR測定は13C固体NMR法(CPMAS法)で行った。150ppm付近のピーク(トリアリルイソシアヌレート(TAIC)のC=O結合)と130ppm付近のピーク(TAICのC=C二重結合)との比率から残存二重結合量を求めた。より詳細には、TAICのC=O結合ピーク強度としての145ppm〜158ppmの積分値からC=O結合の数を求め、TAICのC=C二重結合ピーク強度としての127ppm〜137ppmの積分値から、電解質膜中に残存するC=C二重結合の数を求めることにより残存二重結合率(%)を得た。なお、表中の値は、5回測定した平均値を、±2.5%の範囲で5%刻みに区切った値である。例えば、上記平均値が17.5%以上22.5%未満である場合は20%とした。
【0042】
[実施例1]
まず、プロトン解離性ビニルモノマーであるビニルスルホン酸(VSA)70質量部(84mol%)と、架橋剤であるトリアリルイソシアヌレート(TAIC)30質量部(16mol%)と、光重合開始剤である2,4−ジエチル−9H−チオキサンテン−9−オン0.05質量部とを混合して、それらの均一な混合液を得た。その混合液に、多孔質基材である、ポリエチレン多孔質膜(厚み16μm、気孔率38%、透気度340秒/100cc)を浸漬し、混合液を多孔質基材に含浸させた。次いで、多孔質基材を混合液から引き上げ、ポリエチレン袋に密封して余分な混合液を除去した。こうして混合液を含浸した多孔質基材をポリエチレン袋から取り出し、2枚の石英ガラス板で挟んだ後、高圧水銀ランプを15分間照射して多孔質基材に含浸されたビニルスルホン酸とトリアリルイソシアヌレートとを重合した。その後の多孔質基材を100℃のオーブン内に20時間収容して上記重合を完了させた。最後に、重合を完了させた後の多孔質基材をオーブンから取り出し、水洗して基材表面に付着した余分な電解質を取り除くことにより、電解質膜を得た。得られた電解質膜の評価結果を表1に示す。
【0043】
[実施例2]
多孔質基材を100℃のオーブン内に20時間収容する代わりに4時間収容する以外は実施例1と同様にして、電解質膜を得た。得られた電解質膜の評価結果を表1に示す。
【0044】
[実施例3]
多孔質基材を100℃のオーブン内に20時間収容する代わりに0.5時間収容する以外は実施例1と同様にして、電解質膜を得た。得られた電解質膜の評価結果を表1に示す。
【0045】
[実施例4]
多孔質基材を100℃のオーブン内に20時間収容する代わりに10分間収容する以外は実施例1と同様にして、電解質膜を得た。得られた電解質膜の評価結果を表1に示す。
【0046】
[実施例5]
まず、プロトン解離性ビニルモノマーであるビニルスルホン酸70質量部と、架橋剤であるトリアリルイソシアヌレート30質量部と、熱重合開始剤である2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1’−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}1質量部とを混合して、それらの均一な混合液を得た。その混合液に、多孔質基材である、ポリエチレン多孔質膜(厚み16μm、気孔率38%、透気度340秒/100cc)を浸漬し、混合液を多孔質基材に含浸させた。次いで、多孔質基材を混合液から引き上げ、ポリプロピレンシートで挟んで余分な混合液を除去した。こうして混合液を含浸した多孔質基材をを90℃のオーブン内に8時間収容して多孔質基材中に含浸されたビニルスルホン酸とトリアリルイソシアヌレートとの重合を完了させた。最後に、重合を完了させた後の多孔質基材をオーブンから取り出し、水洗して基材表面に付着した余分な電解質を取り除くことにより、電解質膜を得た。得られた電解質膜の評価結果を表1に示す。
【0047】
[実施例6]
まず、プロトン解離性ビニルモノマーである2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)45質量部(92mol%)と、架橋剤であるトリアリルイソシアヌレート5質量部(8mol%)と、光重合開始剤である2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン)0.05質量部と、ノニオン性界面活性剤であるフタージェント251(商品名、株式会社ネオス製)0.5質量部と、水15質量部と、N,N−ジメチルホルムアミド35質量部とを混合して、それらの均一な混合液を得た。その混合液に、多孔質基材である、ポリエチレン多孔質膜(厚み16μm、気孔率38%、透気度340秒/100cc)を浸漬し、混合液を多孔質基材に含浸させた。次いで、多孔質基材を混合液から引き上げ、ポリエチレン袋に密封して余分な混合液を除去した。こうして混合液を含浸した多孔質基材をポリエチレン袋から取り出し、2枚の石英ガラス板で挟んだ後、高圧水銀ランプを15分間照射して多孔質基材に含浸された2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とトリアリルイソシアヌレートとの重合を完了させた。最後に、重合を完了させた後の多孔質基材を水洗して、基材表面に付着した余分な電解質を取り除くことにより、電解質膜を得た。得られた電解質膜の評価結果を表1に示す。
【0048】
[比較例1]
多孔質基材を100℃のオーブン内に20時間収容する代わりにオーブンに保管しないで重合を完了する以外は実施例1と同様にして、電解質膜を得た。得られた電解質膜の評価結果を表1に示す。
【0049】
[比較例2]
多孔質基材に高圧水銀ランプを15分間照射する代わりに10分間照射し、多孔質基材を100℃のオーブン内に20時間収容する代わりに、オーブンに保管しないで重合を完了する以外は実施例1と同様にして、電解質膜を得た。得られた電解質膜の評価結果を表1に示す。
【0050】
[比較例3]
多孔質基材に高圧水銀ランプを15分間照射する代わりに5分間照射し、多孔質基材を100℃のオーブン内に20時間収容する代わりにオーブンに保管しない以外は実施例6と同様にして、電解質膜を得た。得られた電解質膜の評価結果を表1に示す。
【0051】
[比較例4]
多孔質基材に高圧水銀ランプを15分間照射する代わりに高圧水銀ランプを2分間照射する以外は実施例6と同様にして、電解質膜を得た。得られた電解質膜の評価結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1の結果から下記のことが分かる。すなわち、C=C二重結合の残存率が25mol%を臨界値として、残存率が20mol%以下の領域においては、良好なプロトン伝導性(伝導性が高い)と良好なメタノール透過性(透過度が低い)とが両立されていた。また、VSA/TAIC系の方が、AMPS/TAIC系よりも、良好なプロトン伝導性と良好なメタノール透過性とを、より両立していた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の電解質膜は燃料電池、特に固体高分子型燃料電池や、直接メタノール型燃料電池をはじめとする直接燃料型燃料電池に好適に使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔を有する多孔質基材と、架橋電解質ポリマーと、を含有し、
前記架橋電解質ポリマーは、プロトン解離性ビニルモノマーと一分子中に少なくとも3つのC=C二重結合を有する架橋剤との共重合体であると共に、前記細孔の少なくとも一部を充填しており、
前記架橋剤と前記プロトン解離性ビニルモノマーとの総量に占める前記架橋剤の割合が5mol%以上であり、
前記架橋剤に由来するC=C二重結合の残存率が25mol%以下である電解質膜。
【請求項2】
前記架橋剤がトリ(メタ)アリルイソシアヌレートを含む、請求項1記載の電解質膜。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電解質膜の製造方法であって、
多孔質基材の細孔中に、プロトン解離性ビニルモノマーと一分子中に少なくとも3つのC=C二重結合を有する架橋剤とを含む混合液を充填する工程と、
前記充填する工程の後に、前記混合物を重合し、前記架橋剤に由来するC=C二重結合の残存率を25mol%以下に調整する工程と、
を含む製造方法。
【請求項4】
前記調整する工程において、前記混合物を光重合と熱重合との組み合わせによって重合する、請求項3記載の電解質膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の電解質膜と、電極と、を備える燃料電池。

【公開番号】特開2010−182538(P2010−182538A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25183(P2009−25183)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】