説明

電解銅メッキ用添加剤、該添加剤を含有する電解銅メッキ浴及び該メッキ浴を使用する電解銅メッキ方法

【課題】建浴後の経時的な劣化が殆どなく、且つより微細な構造であっても溝や穴に電解銅メッキによって銅を良好に埋め込むことを可能にする、電解銅メッキ用添加剤、該添加剤を必須の有効成分として含有する電解銅メッキ浴、及びこの銅メッキ浴を用いた電解銅メッキ方法の提供。
【解決手段】以下の一般式(1)で表される化合物からなる電解銅メッキ用添加剤:


(式中、R〜Rは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜3の置換基を有していてもよい炭素数5〜9のシクロアルキル基であり、R〜Rの全てが同時に水素原子であることは無く、Mは、アルカリ金属、アンモニウムまたは1価の有機アンモニウムを表す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解銅メッキ用添加剤この添加剤を必須の有効成分として含有する電解銅メッキ浴、及びこの銅メッキ浴を用いた電解銅メッキ方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高集積化電子回路の製造におけるダマシン法など、溝や穴に電解銅メッキによって銅を埋め込む処理が行われているが、その際、溝や穴の底部における銅メッキの成長より壁面における銅メッキの成長が早くなると、溝や穴の内部にボイドを生じ、良好な銅メッキを行うことができなかった。
【0003】
この問題を解決するために、例えば特許文献1には、a)金属イオン源;b)2以上の酸を含む電解質;及びc)任意に1以上の添加剤を含む電解めっき浴(請求項1);2以上の酸が有機酸、無機酸又はこれらの混合物から選択される請求項1記載の電解めっき浴(請求項2);有機酸がアルキルスルホン酸、アリールスルホン酸、カルボン酸又はハロゲン化水素酸から選択される請求項2に記載の電解めっき浴(請求項3);無機酸が硫酸、燐酸、硝酸、ハロゲン化水素酸、スルファミン酸又はフルオロホウ酸から選択される請求項2に記載の電解めっき浴(請求項4);2以上の酸が約1から約350g/Lの量で存在する請求項1に記載の電解めっき浴(請求項5);金属イオン源が銅イオン源である請求項1に記載の電解めっき浴(請求項6);銅イオン源が硫酸銅、酢酸銅、フルオロホウ酸銅又は硝酸銅から選択される請求項6に記載の電解めっき浴(請求項7);銅イオンが約1から約300g/Lの量で存在する請求項6に記載の電解めっき浴(請求項8);1以上の添加剤が促進剤、抑制剤、レベラー、グレインリファイナー、及び湿潤剤から選択される請求項1に記載の電解めっき浴(請求項8)が開示されている。また、特許文献1の[0034]〜[0036]段落には、促進剤(光沢剤)として、XOS−S−R−SH、XOS−R−S−S−R−SOX、XO−Ar−S−S−Ar−SOX(式中、Rは、任意に置換したアルキル基及び好ましくは1から6の炭素原子を有するアルキル基であり、より好ましくは1から4の炭素原子を有するアルキル基である;Arは、任意に置換したフェニル基又はナフチル基等の任意に置換したアリール基である;及びXは、ナトリウム又はカリウム等の対イオンである。)が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、以下の一般式(1)で表わされる化合物からなる銅めっき用添加剤:
【化1】

(式中、R及びRは水素、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1〜6アルキル基、若しくは炭素原子数1〜3の置換基を有していてもよい炭素原子数5〜9のシクロアルキル基であり、それぞれ同一でも異なっていてもよいが、R及びRの全てが同時に水素であることは無い。Mはアルカリ金属、アンモニウム、若しくは1価の有機アンモニウムを表し、nは1〜7の数を表す)が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−302789号公報 特許請求の範囲 [0034] 、[0035]、[0036]段落
【特許文献2】特開2005−48256号公報 特許請求の範囲
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された促進剤は、ある程度効果を発揮するものの、建浴後のメッキ浴の経時的な劣化が著しく、また、実用的な促進効果も未だ不十分であるという問題点がある。また、特許文献2に開示されている銅メッキ用添加剤は、経時的な劣化はある程度抑えられるものの促進効果の改善は不十分であった。より微細な構造の高集積化電子回路の効率的な製造が望まれる中で、より安定で且つ効果的な電解銅メッキ用添加剤が望まれているのが現状である。
【0007】
従って、本発明の目的は、建浴後の経時的な劣化が殆どなく、且つより微細な構造であっても溝や穴に電解銅メッキによって銅を良好に埋め込むことを可能にする、電解銅メッキ用添加剤、該添加剤を必須の有効成分として含有する電解銅メッキ浴、及びこの銅メッキ浴を用いた電解銅メッキ方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、以下の一般式(1)で表される化合物からなる電解銅メッキ用添加剤である:
【化2】

(式中、R〜Rは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜3の置換基を有していてもよい炭素数5〜9のシクロアルキル基であり、R〜Rの全てが同時に水素原子であることは無く、Mは、アルカリ金属、アンモニウムまたは1価の有機アンモニウムを表す)
【0009】
また、本発明は、上記電解銅メッキ用添加剤を含有する水溶液であることを特徴とする電解銅メッキ浴にある。
【0010】
更に、本発明は、上記電解銅メッキ浴を用いることを特徴とする電解銅メッキ方法にある。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果は、建浴後のメッキ浴の経時的な劣化が殆どなく、且つより繊細な構造であっても溝や穴に電解銅メッキによってボイドを生じさせることなく銅を良好に埋め込むことを可能にする、電解銅メッキ用添加剤、該添加剤を必須の有効成分として含有する電解銅メッキ浴、及び該メッキ浴を用いた電解銅メッキ方法を提供したことにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の電解銅メッキ用添加剤は、以下の一般式(1)で表される化合物よりなる:
【化3】

【0013】
一般式(1)において、R〜Rは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜3の置換基を有していてもよい炭素数5〜9のシクロアルキル基であり、それぞれ同一でも異なっていてもよいが、R〜Rの全てが同時に水素であると本発明の効果は得られない。なお、R〜Rがアルキル基の場合は、炭素数が1〜4であるものが好ましく、シクロアルキル基の場合は、置換基が不在のもの、若しくは炭素数1の置換基を有するものが好ましく、シクロアルキル基の炭素数としては、5または6が好ましい。
【0014】
ここで、前記アルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、第2ブチル、第3ブチル、ペンチル、イソペンチル、第3ペンチル、ヘキシル等が挙げられる。また、前記シクロアルキル基としては、シクロペンチル、シクロヘキシル、メチルシクロペンチル、メチルシクロヘキシル等が挙げられる。これらの中で、メチル基は水溶性が最も大きいために好ましい。
【0015】
また、一般式(1)において、Mは、アルカリ金属、アンモニウムまたは1価の有機アンモニウムを表す。ここで、アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。また、1価の有機アンモニウムとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等のアルカノールアンモニウム、メチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム等のアルキルアンモニウムが挙げられる。なお、Mは、アルカリ金属またはアンモニウムであることが好ましい。
【0016】
なお、一般式(1)で表される化合物は、合成が容易で、コスト的にも有利な対称形の化合物がより好ましい。
【0017】
本発明の電解銅メッキ用添加剤として好ましい一般式(1)で表される化合物の具体例を以下に示す:
【化4】

【0018】
次に、本発明の電解銅メッキ浴について説明する。本発明の電解銅メッキ浴は、上記一般式(1)で表される化合物からなる本発明の電解銅メッキ用添加剤を必須の有効成分として含有する水溶液である。本発明の効果をより顕著に得る観点からその好ましい濃度は、0.1〜100mg/リットル、より好ましくは0.5〜50mg/リットル、更に好ましくは1〜30mg/リットルである。
【0019】
本発明の電解銅メッキ浴に配合される本発明の電解銅メッキ用添加剤以外の成分は、従来公知の電解銅メッキ浴と同様に使用すればよい。例えば、銅の供給源である銅塩としては、硫酸銅、酢酸銅、フルオロホウ酸銅、硝酸銅等が挙げられ、電解質である無機酸としては、硫酸、燐酸、硝酸、ハロゲン化水素、スルファミン酸、ホウ酸、フルオロホウ酸等が挙げられる。
【0020】
本発明の電解銅メッキ浴は、特に、硫酸銅及び硫酸をベースとするメッキ浴が好適である。この場合、好ましくは、硫酸銅(CuSO・5HOとして)10〜300g/リットル、より好ましくは100〜300g/リットル、硫酸20〜400g/リットル、より好ましくは30〜150g/リットルとすることが効率的である。
【0021】
更に、本発明の電解銅メッキ浴には、塩化物イオンをメッキ浴中で20〜150mg/リットルとなるように配合することが好ましい。塩化物イオン源としては特に限定されないが、例えばNaClやHClなどを使用することができる。
【0022】
更に、本発明の電解銅メッキ浴には、銅メッキ抑制剤を配合することが好ましい。銅メッキ抑制剤としては、例えば酸素含有高分子有機化合物を使用することができ、具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンランダムコポリマー、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられる。本発明の効果を顕著に得る観点からこれら酸素含有高分子有機化合物は、好ましくは分子量500〜100000、より好ましくは1000〜10000であることがよい。同様の観点から酸素含有高分子有機化合物の使用量は、メッキ浴中において好ましくは20〜5000mg/リットル、より好ましくは50〜3000mg/リットル用いるのがよい。
【0023】
更に、本発明の電解銅メッキ浴には、レベラーを配合してもよい。レベラーとしては、染料或はその誘導体、アミド化合物、チオアミド化合物、アミノカルボン酸化合物、窒素を含有する複素環化合物、チオ尿素類等が挙げられる。これらは通常、0.1〜100mg/リットル、好ましくは0.5〜50mg/リットル、さらに好ましくは1〜30mg/リットルの濃度で用いられる。
【0024】
上記レベラーの具体例としては、オーラミン、ヤーヌスグリーン、ヤーヌスブラック、メチルバイオレット、クリスタルバイオレット、C.I.(Color Index)ベーシックレッド2、トルイジンブルー、C.I.ダイレクトイエロー1、C.I.ベーシックブラック2、3−アミノ−6−ジメチルアミノ−2−メチルフェナジン一塩酸等の染料及びこれらの染料の誘導体、コハク酸イミド、2'−ビス(2−イミダゾリン)などのイミダゾリン類、イミダゾール類、ベンゾイミダゾール類、インドール類、2−ビニルピリジン、4−アセチルピリジン、4−メルカプト−2−カルボキシルピリジン、2,2'−ビピリジル、フェナントロリンなどのピリジン類、キノリン類、イソキノリン類、アニリン、3,3',3''−ニトリロ三プロピオン酸、ジアミノメチレンアミノ酢酸、グリシン、N−メチルグリシン、ジメチルグリシン、β−アラニン、システイン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アミノ吉草酸、オルニチン、チオ尿素、1,3−ジメチルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、ジエチルチオ尿素、N,N'−ジイソプロピルチオ尿素、アリルチオ尿素、アセチルチオ尿素、エチレンチオ尿素、1,3−ジフェニルチオ尿素、二酸化チオ尿素等が挙げられる。
【0025】
本発明の電解銅メッキ浴には、銅メッキ浴に添加できることが知られているその他の添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲内で任意に用いることができる。
【0026】
その他の添加剤としては、アントラキノン誘導体、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、アルカンスルホン酸、アルカンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸エステル、ヒドロキシアルカンスルホン酸、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩、ヒドロキシアルカンスルホン酸エステル、ヒドロキシアルカンスルホン酸有機酸エステル等が挙げられる。特にヒドロキシアルカンスルホン酸を使用するとアスペクト比の大きいトレンチやビアに対しても銅析出の偏りを無くすことによるボイド発生防止効果が得られるので、これを使用するのが好ましく、ヒドロキシアルカンスルホン酸としてはイセチオン酸が好ましい。ヒドロキシアルカンスルホン酸の好適な使用量は、本発明の電解銅メッキ用添加剤1に対して質量比で0.1〜10倍が良好な添加効果を示す範囲である。
【0027】
本発明の電解銅メッキ方法は、電解銅メッキ浴として本発明の電解銅メッキ浴を使用する他は従来の電解銅メッキ方法と同様に行えばよい。例えば、メッキ浴温度は、15〜40℃、好ましくは20〜30℃であり、電流密度は、1.0〜30A/dm、好ましくは2.0〜5A/dmの範囲内である。また、メッキ浴の撹拌方法は、空気撹拌、急速液流撹拌、撹拌羽根等による機械撹拌等を使用することができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例によって更に説明するが、これらに限定されるものではないことを理解されたい。
実施例1及び比較例1
下記に記載した配合の電解銅メッキ浴について、電流密度−電位差測定を行った。結果を図1に示す。図1から電解銅メッキ用添加剤として上記化合物2を用いた電解銅メッキ浴は、類似化合物である添加剤を使用した比較例と比べて電流を通し易いことを確認した。このことは、電解銅メッキ時のメッキ促進効果が大きいことを意味する。
【0029】
(配合)
実施例1:硫酸銅5水和物200g/リットル、硫酸50g/リットル、数平均分子量3 000のポリエチレングリコール(PEG3000)100mg/リットル、 化合物2=10mg/リットル、塩酸50mg/リットル
比較例1:硫酸銅5水和物200g/リットル、硫酸50g/リットル、数平均分子量3 000のポリエチレングリコール(PEG3000)100mg/リットル、 下記式の比較化合物1=10mg/リットル、塩酸50mg/リットル
【0030】
比較化合物1
【化5】

【0031】
実施例2〜9、比較例2〜5
表1及び2に示した割合で各電解銅メッキ浴を建浴(調製)した。次に、径30μm、アスペクト比1.0のビアを作成したプリント基板に対して、表1の配合の各電解銅メッキ浴を、建浴直後、建浴後60分、建浴後24時間の3種類の状態で用い、陰極電流密度2A/dm、浴温30℃、メッキ時間30分間の条件で電解銅メッキを行った。得られたプリント基板についてビア部の断面を走査型電子顕微鏡で観察し、ボイドの有無を評価した。結果を表1及び2に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
比較化合物2
【化6】

【0035】
表1及び表2から判るとおり、本発明の電解銅メッキ用添加剤を使用した電解銅メッキ浴で電解銅メッキした場合は、建浴後のメッキ浴の経時劣化も見られず、且つ良好に銅を埋め込むことができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
建浴後の経時的な劣化が殆どなく、且つより微細な構造であっても溝や穴にボイドを生じさせること無く銅を良好に埋め込むことを可能にする電解銅メッキ浴を提供するので、高集積化電子回路の製造におけるダマシン法など、溝や穴に電解銅メッキによって銅を埋め込む用途に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例1及び比較例1で得られた電解銅メッキ浴の電流密度−電位差測定の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(1)で表される化合物からなる電解銅メッキ用添加剤:
【化1】

(式中、R〜Rは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜3の置換基を有していてもよい炭素数5〜9のシクロアルキル基であり、R〜Rの全てが同時に水素原子であることは無く、Mは、アルカリ金属、アンモニウムまたは1価の有機アンモニウムを表す)
【請求項2】
上記一般式(1)において、R〜Rが水素原子またはメチル基であり、R〜Rの全てが同時に水素原子であることは無い、請求項1記載の電解銅メッキ用添加剤。
【請求項3】
請求項1または2記載の電解銅メッキ用添加剤を含有する水溶液であることを特徴とする電解銅メッキ浴。
【請求項4】
更に、硫酸銅、硫酸、塩化物イオン及び酸素含有高分子有機化合物を含有する、請求項3記載の電解銅メッキ浴。
【請求項5】
請求項3または4記載の電解銅メッキ浴を用いることを特徴とする電解銅メッキ方法。

【図1】
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