説明

電話端末

【課題】音声データ通信中における通信状況の悪化に応じて、通話音声が途切れることなく、別個の通信回線へ自動的に切り替える。
【解決手段】回線切替判定部16で、使用中通信回線の通信状況の悪化が確認された場合、他の通信回線のうち最良な新たな通信回線への回線切替を指示し、呼制御処理部17で、回線切替の指示に応じて、切替先として新たな通信回線の自端末IPアドレスを指定したメディア変更要求を相手電話端末20へ通知し、通信制御部14で、メディア変更要求の通知後、音声処理部13の接続先を、新たな通信回線と対応する音声パケット送受信部12へ切り替え、新たな通信回線と対応する音声パケット送受信部12で、通信回線切替前の自端末SSRCおよび相手端末SSRCを、通信回線切替後も継続して用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声データ通信技術に関し、特に音声パケットを用いた音声データ通信中の音声品質を改善するための通信制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
通信網を介して音声パケットをやり取りするVoIP技術を用いて、電話端末間で音声データ通信を行う音声データ通信では、通信回線の通信状況が悪化した場合、通話品質の低下に繋がる。
特に、通信網を代表するインターネットでは、通信品質が保障されていないベストエフォート型の通信回線となる。また、携帯電話やスマートフォンでは、通信回線の一部に無線区間が存在するため、移動に伴う電波環境の変化に応じて通信状況が悪化する場合もある。したがって、このような通信状況の悪化により、音声パケットのパケットロス(パケット消失)やパケット遅延の増大が発生した場合、通話音声に音切れ、すなわち無音区間が発生して、通話品質が低下する。
【0003】
このような音声データ通信における通話品質を改善する技術として、音声データ通信の通話品質に関するパラメータを調整する技術が提案されている(例えば、特許文献1など参照)。この技術では、パラメータとして、パケット送信間隔、揺らぎ吸収バッファ受信時間、コーデックを調整するものである。
この他、前方誤り訂正技術(FEC:Forward Error Correction)がある。前方誤り訂正技術とは、送信側で、送信データとは別個の修復用データを送信することにより冗長性を持たせ、受信側で、欠損したデータを修復用データに基づき修復する技術である。また、前方誤り訂正技術のほか、欠損した音声パケットをその前後の音声パケットから推定する技術や、一部欠損した音声パケットを低音量で再生する技術もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−072957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来技術では、通信回線におけるパケットロス発生率が比較的低く、通信状況の悪化が突発的な場合には有効であるが、トラヒックの増大や電波環境の変化に応じて、通信状況の悪化が継続する場合には、通話品質を改善できないという問題点があった。
また、通信状況の悪化が継続する場合、音声通話中の通信回線を、通話者の操作により、相手電話端末との間で別の通信回線で接続し直す方法も考えられるが、通話音声が完全に途切れてしまうという問題点がある。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、音声データ通信中における通信状況の悪化に応じて、通話音声が途切れることなく、別個の通信回線へ自動的に切替可能な通信制御技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するために、本発明にかかる電話端末は、IPアドレスの異なる複数の通信回線と接続し、これら通信回線のうち予め選択された自端末IPアドレスと対応する通信回線を介して、通話音声データを含むRTP(Real-time Transport Protocol)パケットを、相手電話端末との間で送受信することにより、当該相手電話端末との間で音声データ通信を行う電話端末であって、音声データ通信の開始時に、呼制御サーバを介して相手電話端末との間で、当該音声データ通信に用いる通信回線に関する自端末IPアドレスと相手端末IPアドレスとを含む呼制御情報をやり取りするとともに、当該音声データ通信に用いるRTPパケットにより、当該RTPパケットに関する自端末SSRCと相手端末SSRCとを含むRTP制御情報をやり取りする呼制御処理部を備えるものである。
【0008】
これに加えて、電話回線ごとに設けられて、自端末から相手電話端末への送話音声データを含むRTPパケットを生成し、当該RTPパケットのヘッダ部に相手端末SSRCを格納した後、当該通信回線を介して当該相手電話端末へ送信し、当該通信回線を介して相手電話端末からRTPパケットを受信し、これらRTPパケットのうち当該RTPパケットのヘッダ部に自端末SSRCを含むRTPパケットから、当該相手電話端末から自端末への受話音声データを取得する音声パケット送受信部と、入力された送話音声を符号化することにより音声パケット送信部から送信する送信音声データを生成するとともに、音声パケット受信部で取得した受話音声データを復号化することにより受話音声を再生する音声処理部と、自端末IPアドレスの通信回線と対応する音声パケット送受信部を音声処理部と接続して、音声処理部で生成された送話音声データを当該音声パケット送受信部へ通知するとともに、当該音声パケット送受信部で取得した受話音声データを音声処理部へ通知する通信制御部と、通信回線のうち、音声データ通信で使用している使用中通信回線の通信状況と、使用中通信回線以外の他の通信回線の通信状況とを、それぞれ監視する通信状況監視部と、使用中通信回線の通信状況と基準値とを比較して当該使用中通信回線の回線切替要否を判定し、当該通信状況が基準値より悪化した場合、他の通信回線のうち通信状況の最良な新たな通信回線への回線切替を指示する通信回線切替判定部とを備えるものである。
【0009】
そして、呼制御処理部で、回線切替の指示に応じて、使用中通信回線の切替先として新たな通信回線の自端末IPアドレスを指定したメディア変更要求を、相手電話端末へ通知し、通信制御部で、メディア変更要求の通知後、音声処理部の接続先を、使用中通信回線と対応する音声パケット送受信部から、新たな通信回線と対応する音声パケット送受信部へ切り替えて、音声処理部で生成された送話音声データを当該音声パケット送受信部に通知するとともに、当該音声パケット送受信部で取得した受話音声データを音声処理部へ通知することにより、音声データ通信で用いる通信回線を新たな通信回線へ切り替え、新たな通信回線と対応する音声パケット送受信部で、通信回線切替前に用いていた自端末SSRCおよび相手端末SSRCを、通信回線切替後も継続して用いるようにしたものである。
【0010】
この際、通信状況監視部で、使用中通信回線で受信したRTPパケットのパケットロス率またはパケット遅延時間に関する計測結果と、相手電話端末で計測されてRTCP(RTP Control Protocol)パケットで通知された、使用中通信回線で送信したRTPパケットのパケットロス率またはパケット遅延時間に関する計測結果との、いずれか一方または両方に基づいて、当該使用中通信回線の通信状況を監視するようにしてもよい。
【0011】
また、通信状況監視部で、他の通信回線を介して相手電話端末との間で計測用パケットを送受信して計測したスループットに基づいて、他の通信回線の通信状況を監視するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、通信回線切替前後において、電話端末の自端末IPアドレスが変更されるものの、RTPパケットの自端末SSRCは変更されない。このため、通信回線切替前後の音声パケット送受信部間で、RTPパケットの連携処理を行うことなく、通信回線切替前後におけるRTPパケットを、1つの音声ストリームとして、通信制御部へ通知することができる。したがって、音声データ通信中における通信状況の悪化に応じて、通話音声が途切れることなく、別個の通信回線へ自動的に切り替えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】電話端末の構成を示すブロック図である。
【図2】切替判定情報の構成例である。
【図3】電話端末による通信回線切替処理を示すシーケンス図である。
【図4A】電話端末の通信回線切替動作例を示す説明図である。
【図4B】電話端末の通信回線切替動作例(続き)を示す説明図である。
【図4C】電話端末の通信回線切替動作例(続き)を示す説明図である。
【図4D】電話端末の通信回線切替動作例(続き)を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[発明の原理]
まず、本発明の原理について説明する。
音声データ通信などのストリーミング系データ通信で用いられるRTP(Real-time Transport Protocol)は、データをパケットに格納してリアルタイムに転送することを目的としたプロトコルである。RTPは、UDP(User Datagram Protocol)の上位プロトコルとして機能するが、基本的にはトランスポート層やネットワーク層のプロトコルに依存しない。また、RTPには、リソースの確保やQoS(Quality of Service)の保証を行う品質制御機能は設けられていないが、最小限の送達確認や監視を行うための制御プロトコルとしてRTCP(RTP Control Protocol)が用意されている。通信端末は、このRTCPによって通知された実行帯域幅や遅延時間などの通信状況に応じて、RTPにおけるデータ送信を調整するものとなる。
【0015】
RTPでは、セッションと呼ばれる参加者のグループが規定されている。参加者ごとのセッションの識別には、ネットワークアドレス、データを送信するポートの組、データを受信するポートの組が使用される。参加者は、複数のセッションに同時に参加することも可能である。1つのセッションに参加している参加者を識別するための情報として、SSRC(Synchrozination Source)と呼ばれる32bitの識別子が設けられている。このSSRCは、セッションごとに変わる一時的な識別子である。
【0016】
SSRCは、通信端末でランダムに選択される値であり、RTP通信に用いるRTPパケットのヘッダに自端末のSSRCを付与することにより、各参加者間、すなわち通信端末でやり取りされる。この際、各通信端末は、相手端末から最初に受信したRTPパケットヘッダに付与されているSSRCを取得し、当該相手端末の相手端末SSRCとして保存する。
これにより、送信側は、当該RTP通信のRTPパケットを送信する際、当該RTPパケットのヘッダに、保存しておいた相手端末SSRCを付与して送信する。したがって、RTPパケットの送信先IPアドレスが変更されてもSSRCが同一であれば、送信先IPアドレスが異なるRTPパケットを、同一セッションの1つの音声ストリームを構成するデータとして受信側で受信でき、途切れることなく再生できる。
【0017】
本発明は、このようなRTPパケットのSSRCによる参加者の識別機能に着目し、SIP(Session Initiation Protocol)に代表される、音声データ通信用の一般的な呼制御プロトコルのメディア変更機能で、音声データ通信に用いる通信回線の自端末IPアドレスを変更することにより、通信回線を切り替えるとともに、この際、通信回線切替前にRTPパケットで用いていたSSRCと同じものを、通信回線切替後のRTPパケットで用いることにより、通信回線の切替前後におけるRTPパケットを、1つの音声ストリームとして受信側で認識できるようにしたものである。
【0018】
次に、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
[電話端末の構成]
まず、図1を参照して、本発明の一実施の形態にかかる電話端末10について説明する。図1は、電話端末の構成を示すブロック図である。
【0019】
この電話端末10は、呼制御サーバ30による呼制御に基づいて、通信網50を介して接続された相手電話端末20との間で、通話音声データをRTPパケットで送受信することにより、音声データ通信を行う機能を有している。電話端末10については、有線回線に接続された一般的なIP電話装置でもよく、携帯電話端末やスマートフォンであってもよい
通信網50は、インターネットや携帯電話網など、パケット通信を実現する通信網である。呼制御サーバ30は、一般的な呼制御サーバであり、SIPなどの呼制御プロトコルに基づいて、音声データ通信に関する呼制御を行う機能を有している。
【0020】
本実施の形態は、電話回線ごとに設けた音声パケット送受信部で、自端末10から相手電話端末20への送話音声データを含むRTPパケットを生成し、当該RTPパケットのヘッダ部に相手端末SSRCを格納した後、当該通信回線を介して当該相手電話端末20へ送信し、当該通信回線を介して相手電話端末20からRTPパケットを受信し、これらRTPパケットのうち当該RTPパケットのヘッダ部に自端末SSRCを含むRTPパケットから、当該相手電話端末20から自端末10への受話音声データを取得するようにしたものである。
【0021】
そして、回線切替判定部で、使用中通信回線の通信状況の悪化が確認された場合、使用中通信回線以外の他の通信回線のうち最良な新たな通信回線への回線切替を指示し、呼制御処理部で、回線切替の指示に応じて、使用中通信回線の切替先として新たな通信回線の自端末IPアドレスを指定したメディア変更要求を、相手電話端末20へ通知し、通信制御部で、メディア変更要求の通知後、音声処理部の接続先を、新たな通信回線と対応する音声パケット送受信部へ切り替え、新たな通信回線と対応する音声パケット送受信部で、通信回線切替前に用いていた自端末SSRCおよび相手端末SSRCを、通信回線切替後も継続して用いるようにしたものである。
【0022】
次に、図1を参照して、本実施の形態にかかる電話端末10の構成について詳細に説明する。
電話端末10には、主な機能部として、データ通信部11、音声パケット送受信部12、音声パケット送受信部12、音声処理部13、通信制御部14、通信状況監視部15、回線切替判定部16、呼制御処理部17、および記憶部18が設けられている。
【0023】
データ通信部11は、専用のデータ通信回路からなり、通信網50と接続されたIPアドレスの異なる複数の通信回線と接続し、これら通信回線のうち予め通信制御部14により選択された自端末IPアドレスと対応する通信回線を介して、呼制御サーバ30や相手電話端末20との間で、呼制御メッセージや音声データを含む各種パケットを送受信することにより、データ通信を行う機能を有している。
【0024】
音声パケット送受信部12(12A,12B,〜,12N)は、電話回線ごとに設けられて、自端末から相手電話端末20への送話音声データを含むRTPパケットを生成し、当該RTPパケットのヘッダ部に相手端末SSRCを格納した後、当該通信回線を介して相手電話端末20へ送信する機能と、当該通信回線を介して相手電話端末20からRTPパケットを受信し、これらRTPパケットのうち当該RTPパケットのヘッダ部に自端末SSRCを含むRTPパケットから、相手電話端末20から自端末への受話音声データを取得する機能とを有している。
【0025】
また、音声パケット送受信部12のうち、新たな通信回線と対応する音声パケット送受信部は、通信回線切替前に用いていた自端末SSRCおよび相手端末SSRCを、通信回線切替後も継続して用いる機能を有している。
この際、自端末SSRCおよび相手端末SSRCは、後述するように、呼制御処理部17により記憶部18に保存されるため、記憶部18を参照すれば通信回線切替前に用いていた自端末SSRCおよび相手端末SSRCを取得することができる。
【0026】
音声処理部13は、マイクMICから入力された送話音声信号を符号化することにより音声パケット送受信部12から送信する送信音声データを生成し、通信制御部14へ出力する機能と、音声パケット送受信部12で取得されて通信制御部14から入力された受話音声データを復号化することにより受話音声を再生し、スピーカSPから出力する機能とを有している。
【0027】
通信制御部14は、呼制御処理部17で相手電話端末20との間でやり取りした自端末IPアドレスの通信回線と対応する音声パケット送受信部12を音声処理部13と接続して、音声処理部13で生成された送話音声データを当該音声パケット送受信部12へ通知する機能と、当該音声パケット送受信部12で取得した受話音声データを音声処理部13へ通知する機能とを有している。
【0028】
また、通信制御部14は、呼制御処理部17によるメディア変更要求の通知後、音声処理部13の接続先を、使用中通信回線と対応する音声パケット送受信部12から、新たな通信回線と対応する音声パケット送受信部12へ切り替えて、音声処理部13で生成された送話音声データを当該音声パケット送受信部12に通知するとともに、当該音声パケット送受信部12で取得した受話音声データを音声処理部13へ通知することにより、音声データ通信で用いる通信回線を新たな通信回線へ切り替える機能を有している。
【0029】
通信状況監視部15は、通信網50と接続されたIPアドレスの異なる複数の通信回線のうち、音声データ通信用の使用中通信回線の通信状況を監視する機能と、使用中通信回線以外の他の通信回線の通信状況を監視する機能とを有している。
通信状況監視部15には、主な処理部として、ロス・遅延監視部15Aとスループット監視部15Bとが設けられている。
【0030】
ロス・遅延監視部15Aは、使用中通信回線を介して相手電話端末20との間でやり取りしたRTPパケットに関するパケットロス率を逐次計測する機能と、使用中通信回線を介して相手電話端末20との間でやり取りしたRTCPパケットのパケット遅延時間(パケット往復所要時間)を逐次計測する機能と、相手電話端末20で計測されてRTCPパケットで通知された、パケットロス率およびパケット遅延時間を取得する機能とを有している。
【0031】
スループット監視部15Bは、使用中通信回線以外の他の通信回線を介して相手電話端末20との間で計測用パケットをやり取りすることにより、他の通信回線に関するスループット(通信速度)を計測する機能を有している。
【0032】
回線切替判定部16は、通信状況監視部15で得られた、使用中通信回線の通信状況と基準値とを比較して当該使用中通信回線の回線切替要否を判定する機能と、通信状況が基準値より悪化した場合、使用中通信回線以外の他の通信回線のうち通信状況の最良な新たな通信回線への回線切替を指示する機能とを有している。この際、基準値と比較する通信状況、すなわちパケットロス率やパケット遅延時間については、ロス・遅延監視部15Aで計測した値と、相手電話端末20で計測された値のいずれか一方を用いてもよい。また、これら両方の値を用いる場合には、両方の値の平均値や最大値などの統計値を用いてもよい。
【0033】
呼制御処理部17は、相手電話端末20との間で音声データ通信を開始する際、データ通信部11を介して呼制御サーバ30との間で呼制御メッセージを送受信することにより、当該音声データ通信に用いる通信回線に関する自端末IPアドレスと相手電話端末20の相手端末IPアドレスとを含む呼制御情報をやり取りする機能と、当該音声データ通信開始時に、当該音声データ通信で用いる自端末SSRCを生成し、データ通信部11を介して相手電話端末20との間で呼制御メッセージを送受信することにより、自端末SSRCと相手電話端末20の相手端末SSRCとを含むRTP制御情報をやり取りする機能とを有している。
【0034】
また、呼制御処理部17は、回線切替判定部16からの回線切替の指示に応じて、音声データ通信用の通信回線の切替先として新たな通信回線の自端末IPアドレスを指定したメディア変更要求を、データ通信部11から呼制御サーバ30を介して相手電話端末20へ通知する機能を有している。
【0035】
記憶部18は、半導体メモリやハードディスクなどの記憶装置からなり、相手電話端末20との音声データ通信に用いる各種処理データやプログラムを記憶と、各種処理データを各機能部へ提供する機能とを有している。
記憶部18で記憶する主な処理情報としては、呼制御処理部17により、各通信回線の自端末IPアドレスのほか、相手電話端末20との間でやり取りした、自端末IPアドレスや相手端末IPアドレスを含む呼制御情報、自端末SSRCや相手端末SSRCを含むRTP制御情報、さらには通信状況監視部15で取得した各通信回線の通信状況を示す計測結果と通信回線の切替判定に用いる各種基準値とからなる切替判定情報がある。
【0036】
図2は、切替判定情報の構成例である。ここでは、通信状況データとして、パケットロス率、パケット遅延時間、スループットが用いられており、これら通信状況データごとに、基準値が登録されている。また、パケットロス率およびパケット遅延時間については、ロス・遅延監視部15Aにより取得された、使用中通信回線である通信回線Aに関する値として、自端末で計測したものと相手電話端末20で計測して通知されたものとが登録されている。また、スループットについては、スループット監視部15Bにより自端末で計測された、使用中通信回線以外の他の通信回線B〜Nに関する値が登録されている。
【0037】
これら機能部のうち、音声パケット送受信部12、音声処理部13、通信制御部14、通信状況監視部15、回線切替判定部16、および呼制御処理部17については、専用のLSIで実現してもよく、CPUとその周辺回路とを有する演算処理部で記憶部18内のプログラムを実行することにより実現してもよい。なお、電話端末10には、これら機能部のほか、利用者の操作を検出するダイヤルキーなどの操作入力部や、電話番号などの各種情報を画面表示する画面表示部が設けられている。
【0038】
[実施の形態の動作]
次に、図3を参照して、本実施の形態にかかる電話端末の動作について説明する。図3は、電話端末による通信回線切替処理を示すシーケンス図である。ここでは、SIPに準拠した呼制御メッセージを、呼制御サーバ30を介して相手電話端末20との間でやり取りする場合を例として説明するが、例えばH.323などの呼制御プロトコルでも同様にして適用できる。
【0039】
まず、利用者による発信操作に応じて、電話端末10の呼制御処理部17は、音声データ通信に使用する通信回線の自端末IPアドレスを含む発信要求(INVITE)メッセージを呼制御サーバ30へ送信する(ステップ100)。これに応じて、呼制御サーバ30から相手電話端末20へ着信通知(INVITE)メッセージが送信されるとともに(ステップ101)、電話端末10に対して処理中(100 Trying)メッセージが返送される(ステップ102)。
相手電話端末20は、呼制御サーバ30から着信通知を受信した場合、利用者に対する着信表示を開始するとともに、呼制御サーバ30に対して処理中(100 Trying)メッセージを返送する(ステップ103)。
【0040】
この後、利用者による応答操作に応じて(ステップ104)、相手電話端末20は、呼制御サーバ30へ、音声データ通信に使用する通信回線の自端末IPアドレスを含む応答(200 OK)メッセージを送信する(ステップ105)。この応答メッセージは、呼制御サーバ30から電話端末10へ通知される。
電話端末10の呼制御処理部17は、呼制御サーバ30からの応答メッセージに応じて、相手電話端末20から通知されたIPアドレスを相手端末IPアドレスとして記憶部18へ登録するとともに、確認(ACK)メッセージ返送する(ステップ106)。この確認メッセージは、呼制御サーバ30から相手電話端末20へ通知される。
【0041】
次に、呼制御処理部17は、自端末SSRCを生成して記憶部18へ登録するとともに(ステップ107)、相手電話端末20も、自端末端末SSRCを生成して記憶部18へ登録する(ステップ108)。
【0042】
この後、電話端末10と相手電話端末20との間で、RTPパケットを用いた音声データ通信が開始される(ステップ110)。この際、電話端末10と相手電話端末20は、RTPパケットのヘッダに自端末のSSRCを付与して互いに送信し、それぞれ最初に受信したRTPパケットのヘッダに付与されている相手端末SSRCを取得して、記憶部18へ登録する。
また、電話端末10の通信制御部14は、記憶部18から取得した音声データ通信用の自端末IPアドレスに基づいて、使用する通信回線と対応する音声パケット送受信部12Aと音声処理部13とを接続する。
【0043】
これにより、マイクMICから入力された送話音声が、音声処理部13で送話音声データに符号化された後、音声パケット送受信部12でRTPパケットに格納されるとともに、記憶部18から取得した相手端末SSRCがヘッダ部に格納されて、相手電話端末20へ送信される。
また、音声パケット送受信部12で受信されたRTPパケットのうち、記憶部18から取得した自端末SSRCがヘッダ部に格納されているRTPパケットから、受話音声データが取得されて、音声処理部13で受話音声に復号化され、スピーカSPから再生出力される。
【0044】
電話端末10の通信状況監視部15は、音声データ通信の開始に応じて、ロス・遅延監視部15Aにより、使用中通信回線に関する通信状況として、逐次、RTPパケットのパケットロス率やパケット遅延時間の計測を開始し(ステップ111)、計測結果を記憶部18へ登録する。この際、相手電話端末20において、使用中通信回線に関する通信状況の監視が開始された場合(ステップ112)、その計測結果がRTCPパケットにより通知される(ステップ113)。呼制御処理部17は、この計測結果を取得して記憶部18へ登録する。
【0045】
また、通信状況監視部15は、音声データ通信の開始に応じて、スループット監視部15Bにより、使用中通信回線以外の他の通信回線に関する通信状況として、一定間隔で、スループットの計測を開始し(ステップ114)、計測結果を記憶部18へ登録する。
【0046】
このようにして、各通信回線の通信状況の監視を開始した後、例えば図2に示したように、使用中通信回線のパケットロス率が基準値を上回った場合、電話端末10の回線切替判定部16は、他の通信回線のうち通信状況が最良な新たな通信回線を選択し(ステップ120)、新たな通信回線への回線切替を指示する。
【0047】
この回線切替指示に応じて、呼制御処理部17は、新たな通信回線の自端末IPアドレスを指定したメディア変更要求(re−INVITE)メッセージを、呼制御サーバ30へ送信する(ステップ121)。
このメディア変更要求は、呼制御サーバ30を介して相手電話端末20へ通知され、これに応じた相手電話端末20からの応答(200 OK)メッセージが、呼制御サーバ30を介して電話端末10へ通知される(ステップ122)。また、この応答メッセージに応じた確認(ACK)メッセージが、呼制御サーバ30を介して相手電話端末20へ通知される(ステップ123)。
【0048】
このようにしてメディア変更要求が相手電話端末20へ通知された後、電話端末10の通信制御部14は、音声処理部13の接続先を、使用中通信回線と対応する音声パケット送受信部12から、新たな通信回線と対応する音声パケット送受信部12へ切り替える。これにより、音声データ通信で用いる通信回線が新たな通信回線へ切り替えられる(ステップ124)。また、相手電話端末20では、RTPパケットの送信先アドレスが、新たな通信回線の自端末IPアドレスへ変更される(ステップ125)。
【0049】
この後、新たな通信回線を用いた音声データ通信を開始する際、呼制御処理部17は、自端末SSRCを新たに生成せず、記憶部18に登録されている、通信回線切替前の自端末SSRCを用いる。
これにより、新たな通信回線と対応する音声パケット送受信部12は、通信回線切替後の自端末SSRCと相手端末SSRCとして、通信回線切替前の自端末SSRCと相手端末SSRCを用いて、電話端末10と相手電話端末20との間で、RTPパケットを用いた音声データ通信が開始される(ステップ126)。
【0050】
したがって、通信回線切替前後において、電話端末10の自端末IPアドレスが変更されるものの、RTPパケットの自端末SSRCは変更されない。このため、通信回線切替前後の音声パケット送受信部12間で、RTPパケットの連携処理を行うことなく、通信回線切替前後におけるRTPパケットを、1つの音声ストリームとして、通信制御部14へ通知することができる。
【0051】
[本実施の形態の動作例]
次に、図4A〜図4Dを参照して、本実施の形態にかかる電話端末10の通信回線切替動作例について説明する。図4A〜図4Dは、電話端末の通信回線切替動作例を示す説明図である。
【0052】
ここでは、電話端末10に2つの通信回線A,Bが接続されており、通信回線Aの自端末IPアドレスは「a」であり、通信回線Bの自端末IPアドレスは「b」である。また、相手電話端末20には通信回線Xが接続されており、通信回線Xの自端末IPアドレスは「x」である。なお、通信回線A,Bは、電話端末10から見た便宜上の名前であり、相手電話端末20から見た場合、いずれも通信回線Xと見なされる。
【0053】
まず、図4Aに示すように、電話端末10の通信回線Aが選択されて、相手電話端末20との間で音声データ通信が開始されたものとする。この際、電話端末10の自端末SSRCは「M」であり、通信回線A,Bの両方で共用される。また、相手電話端末20の相手端末SSRCは「N」である。このため、電話端末10から送信されるRTPパケットのヘッダ部には、相手端末SSRC「N」が格納されており、相手電話端末20から送信されるRTPパケットのヘッダ部には、自端末SSRC「M」が格納されている。
【0054】
このようにして、音声データ通信が開始された後、図4Bに示すように、電話端末10で使用中通信回線Aに関する通信状況として、パケットロス率およびパケット遅延時間の計測が開始されるとともに、相手電話端末20においても、使用中通信回線Xに関する通信状況として、パケットロス率およびパケット遅延時間の計測が開始される。また、電話端末10では、使用中通信回線A以外の他の通信回線、ここでは通信回線Bに関する通信状況として、スループットが計測される。
【0055】
このような音声データ通信状態において、使用中通信回線Aにおいて、通信状況の悪化が確認された場合、図4Cに示すように、電話端末10から呼制御サーバ30を介して相手電話端末20へ、新たな通信回線Bへのメディア変更要求が通知される。
これにより、図4Dに示すように、電話端末10で通信回線Aから通信回線Bへの切り替えが行われるとともに、相手電話端末20でRTPパケットの送信先アドレスが、通信回線Bに対応するIPアドレス「b」へ変更される。
【0056】
この際、自端末SSRCは、通信回線切替前の値が継続して利用される。このため、通信回線Aで受信したRTPパケットと、通信回線Bで受信したRTPパケットとを、1つの音声ストリームとして、電話端末10で極めて容易に処理することが可能となる。
【0057】
[本実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、電話回線ごとに設けた音声パケット送受信部12で、自端末10から相手電話端末20への送話音声データを含むRTPパケットを生成し、当該RTPパケットのヘッダ部に相手端末SSRCを格納した後、当該通信回線を介して当該相手電話端末20へ送信し、当該通信回線を介して相手電話端末20からRTPパケットを受信し、これらRTPパケットのうち当該RTPパケットのヘッダ部に自端末SSRCを含むRTPパケットから、当該相手電話端末20から自端末10への受話音声データを取得するようにしたものである。
【0058】
そして、回線切替判定部16で、使用中通信回線の通信状況の悪化が確認された場合、使用中通信回線以外の他の通信回線のうち最良な新たな通信回線への回線切替を指示し、呼制御処理部17で、回線切替の指示に応じて、使用中通信回線の切替先として新たな通信回線の自端末IPアドレスを指定したメディア変更要求を、相手電話端末20へ通知し、通信制御部14で、メディア変更要求の通知後、音声処理部13の接続先を、新たな通信回線と対応する音声パケット送受信部12へ切り替え、新たな通信回線と対応する音声パケット送受信部12で、通信回線切替前に用いていた自端末SSRCおよび相手端末SSRCを、通信回線切替後も継続して用いるようにしたものである。
【0059】
これにより、通信回線切替前後において、電話端末10の自端末IPアドレスが変更されるものの、RTPパケットの自端末SSRCは変更されない。このため、通信回線切替前後の音声パケット送受信部12間で、RTPパケットの連携処理を行うことなく、通信回線切替前後におけるRTPパケットを、1つの音声ストリームとして、通信制御部14へ通知することができる。したがって、音声データ通信中における通信状況の悪化に応じて、通話音声が途切れることなく、別個の通信回線へ自動的に切り替えることが可能となる。
【0060】
また、電話端末10において、自端末IPアドレスが異なる通信回線であっても、通信網50上における経路は同一となる場合もあるが、通信回線を確立した際、通信網50内におけるトラヒック状況に応じて、最良の経路を採る。したがって、電話端末10に接続されている各通信回線の通信状況は、それぞれ個別に変化する。このため、使用中通信回線の通信状況が悪化した場合、他の通信回線からより良い通信状況の通信回線を選択することにより、音声データ通信の通話品質を改善することが可能となる。
【0061】
また、本実施の形態では、通信状況監視部15で、使用中通信回線で受信したRTPパケットのパケットロス率またはパケット遅延時間に関する計測結果と、相手電話端末で計測されてRTCP(RTP Control Protocol)パケットで通知された、使用中通信回線で送信したRTPパケットのパケットロス率またはパケット遅延時間に関する計測結果との、いずれか一方または両方に基づいて、当該使用中通信回線の通信状況を監視するようにしたので、極めて正確かつ容易に通信状況を監視することができる。
なお、電話端末が使用する通信回線が無線回線の場合、通信回線の通信状況として、電波強度を計測するようにしてもく、無線回線の通信状況を極めて正確に監視することができる。
【0062】
また、本実施の形態では、通信状況監視部15で、他の通信回線を介して相手電話端末20との間で計測用パケットを送受信して計測したスループットに基づいて、他の通信回線の通信状況を監視するようにしたので、実際に音声データ通信を行っていない他の通信回線についても、極めて正確かつ容易に通信状況を監視することができる。
【0063】
[実施の形態の拡張]
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0064】
10…電話端末、11…データ通信部、12,12A,12B,〜,12N…音声パケット送受信部、13…音声処理部、14…通信制御部、15…通信状況監視部、15A…ロス・遅延監視部、15B…スループット監視部、16…回線切替判定部、17…呼制御処理部、18…記憶部、20…相手電話端末、30…呼制御サーバ、50…通信網。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IPアドレスの異なる複数の通信回線と接続し、これら通信回線のうち予め選択された自端末IPアドレスと対応する通信回線を介して、通話音声データを含むRTP(Real-time Transport Protocol)パケットを、相手電話端末との間で送受信することにより、当該相手電話端末との間で音声データ通信を行う電話端末であって、
前記音声データ通信の開始時に、呼制御サーバを介して前記相手電話端末との間で、当該音声データ通信に用いる通信回線に関する自端末IPアドレスと相手端末IPアドレスとを含む呼制御情報をやり取りするとともに、当該音声データ通信に用いるRTPパケットにより、当該RTPパケットに関する自端末SSRCと相手端末SSRCとを含むRTP制御情報をやり取りする呼制御処理部と、
前記電話回線ごとに設けられて、自端末から前記相手電話端末への送話音声データを含むRTPパケットを生成し、当該RTPパケットのヘッダ部に前記相手端末SSRCを格納した後、当該通信回線を介して当該相手電話端末へ送信し、当該通信回線を介して前記相手電話端末からRTPパケットを受信し、これらRTPパケットのうち当該RTPパケットのヘッダ部に前記自端末SSRCを含むRTPパケットから、当該相手電話端末から自端末への受話音声データを取得する音声パケット送受信部と、
入力された送話音声を符号化することにより前記音声パケット送信部から送信する前記送信音声データを生成するとともに、前記音声パケット受信部で取得した前記受話音声データを復号化することにより受話音声を再生する音声処理部と、
前記自端末IPアドレスの通信回線と対応する前記音声パケット送受信部を前記音声処理部と接続して、前記音声処理部で生成された前記送話音声データを当該音声パケット送受信部へ通知するとともに、当該音声パケット送受信部で取得した前記受話音声データを前記音声処理部へ通知する通信制御部と、
前記通信回線のうち、前記音声データ通信で使用している使用中通信回線の通信状況と、前記使用中通信回線以外の他の通信回線の通信状況とを、それぞれ監視する通信状況監視部と、
前記使用中通信回線の前記通信状況と基準値とを比較して当該使用中通信回線の回線切替要否を判定し、当該通信状況が前記基準値より悪化した場合、前記他の通信回線のうち通信状況の最良な新たな通信回線への回線切替を指示する通信回線切替判定部とを備え、
前記呼制御処理部は、前記回線切替の指示に応じて、前記使用中通信回線の切替先として前記新たな通信回線の自端末IPアドレスを指定したメディア変更要求を、前記相手電話端末へ通知し、
前記通信制御部は、前記メディア変更要求の通知後、前記音声処理部の接続先を、前記使用中通信回線と対応する前記音声パケット送受信部から、前記新たな通信回線と対応する前記音声パケット送受信部へ切り替えて、前記音声処理部で生成された前記送話音声データを当該音声パケット送受信部に通知するとともに、当該音声パケット送受信部で取得した前記受話音声データを前記音声処理部へ通知することにより、前記音声データ通信で用いる通信回線を前記新たな通信回線へ切り替え、
前記新たな通信回線と対応する前記音声パケット送受信部は、通信回線切替前に用いていた前記自端末SSRCおよび前記相手端末SSRCを、通信回線切替後も継続して用いる
ことを特徴とする電話端末。
【請求項2】
請求項1に記載の電話端末において、
前記通信状況監視部は、前記使用中通信回線で受信した前記RTPパケットのパケットロス率またはパケット遅延時間に関する計測結果と、前記相手電話端末で計測されてRTCP(RTP Control Protocol)パケットで通知された、前記使用中通信回線で送信した前記RTPパケットのパケットロス率またはパケット遅延時間に関する計測結果との、いずれか一方または両方に基づいて、当該使用中通信回線の通信状況を監視することを特徴とする電話端末。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電話端末において、
前記通信状況監視部は、前記他の通信回線を介して前記相手電話端末との間で計測用パケットを送受信して計測したスループットに基づいて、前記他の通信回線の通信状況を監視することを特徴とする電話端末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【公開番号】特開2013−51591(P2013−51591A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189195(P2011−189195)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(304020498)サクサ株式会社 (678)
【Fターム(参考)】