説明

霊芝胞子抽出物及び霊芝胞子製剤

【課題】 抗癌作用等の種々の薬理作用を発揮することが可能な霊芝胞子抽出物及び霊芝胞子製剤を提供する。
【解決手段】 霊芝胞子抽出物は、霊芝胞子を80〜100%の含水メタノール又は60〜100%の含水エタノールでアルコール抽出してなるものである。霊芝胞子製剤は、霊芝胞子抽出物を含有するものである。図1(a)は、アルコール抽出に用いられる抽出溶媒中のメタノール(MeOH)濃度と、ヒト白血病細胞株(HL60細胞)に対する抗癌効果との関係を調べた結果を示す棒グラフであり、図1(b)は同じくエタノール(EtOH)濃度と抗癌効果との関係を調べた結果を示す棒グラフである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品や健康食品等に利用される霊芝胞子抽出物、及び医薬品製剤や健康食品製剤等として利用される霊芝胞子製剤に関する。より詳しくは、高い抗癌作用を有する霊芝胞子抽出物及び霊芝胞子製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
霊芝胞子は、霊芝の胞子部分であり、霊芝が成熟する頃に菌傘に現れる褐色の粉末である。霊芝胞子は、栄養分の宝庫であるとともに、霊芝の有効成分を多く含んでいる。霊芝胞子は、豊富なタンパク質、多種類のアミノ酸、多糖類、トリテルペノイド、アルカロイド、ビタミン類等を主成分とし、それらの成分によって、霊芝子実体の75倍程度の腫瘍抑制効果や免疫増強効果を有しており、特に癌の補助治療に適している。癌の補助治療では、主に免疫力を高める作用を利用して癌の増殖及び拡散を抑制する。この場合、T−リンパ球の増殖、マクロファージの呑食能力の増大、キラーT細胞やナチュラルキラー(NK)細胞等の活性化が図られる。
【0003】
さらに、霊芝胞子は、癌細胞の増殖を直接的に抑制する作用を有することも知られている。癌細胞の増殖にはテロメラーゼの関与が一因として挙げられるが、霊芝胞子にはこのテロメラーゼ活性を抑える作用があることが確認されている。また、霊芝胞子製剤は、人体内のCAD酵素(Caspase-activated DNase)及びカスパーゼ(Caspase)を活性化させて癌細胞のDNAを切断し、その増殖力を失わせることにより、癌細胞を死滅させることも報告されている。
【0004】
霊芝胞子製剤は、癌の補助治療食品として、中国で人気の高いサプリメントである。最近、日本でも「星火霊芝宝」等の様々な製品が輸入されるようになった。星火霊芝宝は、霊芝胞子を主成分に霊芝微粉末及び冬虫夏草菌糸体を合わせた天然の健康食品である。冬虫夏草は、免疫機能を迅速に回復させ、癌細胞の拡散を防ぐ機能を持つ。また、衰弱した胃腸機能を回復させ、霊芝胞子の吸収を良くするため、併せて摂取することで相乗効果を得られるというメリットもある(非特許文献1,2参照)。
【非特許文献1】“霊芝胞子 日本上陸!”、[online]、(株)オカゼリ薬局 市民病院前店、[平成17年7月28日検索]、インターネット<URL: http://www.okazeri.com/sabpage-9.htm>
【非特許文献2】“イスクラ健康食品 明細 星火霊芝宝(せいかれいしほう)”、[online]、イスクラ産業株式会社、[平成17年7月28日検索]、インターネット<URL: http://www.iskra.co.jp/j/products/herbDetail.asp?drugID=51>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、霊芝胞子について鋭意研究を行った結果、霊芝胞子をアルコール抽出した抽出物が、抽出前のものに比べて抗癌作用を指標とした薬理作用を飛躍的に増強させることを見出した。そして、これらの知見に基づいて、本発明を完成するに至った。本発明の目的とするところは、抗癌作用等の種々の薬理作用を発揮することが可能な霊芝胞子抽出物及び霊芝胞子製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の霊芝胞子抽出物は、霊芝胞子を80〜100%の含水メタノール又は60〜100%の含水エタノールで抽出してなることを要旨とする。
【0007】
請求項2に記載の霊芝胞子抽出物は、請求項1に記載の発明において、抗癌作用を有することを要旨とする。
請求項3に記載の霊芝胞子製剤は、請求項1又は請求項2に記載の霊芝胞子抽出物を含有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、抗癌作用等の種々の薬理作用を発揮することが可能な霊芝胞子抽出物及び霊芝胞子製剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の霊芝胞子抽出物及び霊芝胞子製剤を具体化した一実施形態を説明する。
本実施形態の霊芝胞子抽出物は、霊芝胞子をアルコール抽出することにより得られるアルコール抽出物よりなる。霊芝胞子抽出物は、夾雑物を除去して特定の有効成分の濃度を高めるためのアルコール抽出する工程を経て製造されたものであるため、霊芝胞子に備わった既知又は未知の様々な薬理作用が大幅に増強されている。このため、霊芝胞子抽出物は、抗癌作用を始めとして、様々な薬理作用を有効に発揮することができる。
【0010】
霊芝胞子は、霊芝の胞子部分である。霊芝は、サルノコシカケ科(Polyporaceae)霊芝属(Ganoderma)真菌赤芝(Ganoderma lucidum)と紫芝(Ganoderma japonicum;別名マンネンタケ)の総称である。霊芝胞子には、主に赤芝の胞子が含まれている。霊芝胞子は、各種腫瘤、白血病、化学療法・放射線治療の増効解毒、生活習慣病、不眠症、老化防止等の適応に用いられている。
【0011】
霊芝胞子は、主に霊芝酸等のトリテルペノイドによって、癌細胞DNAの破壊による癌細胞の増殖抑制作用、抗放射線作用、保肝解毒作用、消炎作用、抗アレルギー作用、鎮静止痛作用、肝・骨髄・血液正常細胞の核酸・タンパク質合成促進作用等の薬理作用を発揮する。霊芝胞子は、主にβ−グルカン等の霊芝多糖によって、免疫増強作用、抗腫瘍作用、抗酸化作用、血糖降下作用、正常細胞の核酸・タンパク質合成促進作用等の薬理作用を発揮する。霊芝胞子は、主に多種類の脂肪酸によって、視力を高める作用、視神経細胞の修復作用、眼圧低下作用等の薬理作用を発揮する。霊芝胞子は、主にヌクレオシドやプリン類によって、鎮静作用、血脂降下作用、血液粘度降下作用、血小板凝集抑制作用、微小循環改善作用、ヘモグロビン酸素運搬能上昇作用等の薬理作用を発揮する。霊芝胞子は、主にタンパク質、ペプチド、アミノ酸類によって、滋養強壮作用、免疫調節作用等の薬理作用を発揮する。
【0012】
また、霊芝胞子は、生体のバランスを整え、自然治癒力を高める作用を有する。即ち、個体レベルでは、中枢神経系統の調節作用、内分泌系統の調節作用、免疫系統の調節作用等の薬理作用を有し、器官レベルでは、強心・保肝・利肺作用、消化器系機能増強作用、抗刺激性潰瘍作用、泌尿器系機能増強作用、中枢神経系統鎮静安定作用等の薬理作用を有し、細胞レベル以下では、正常細胞のDNAポリメラーゼ活性上昇作用、正常細胞のスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)活性上昇作用、ヘモグロビン酸素携帯能力の増強作用、肝・骨髄・血液正常細胞の核酸・タンパク質の合成促進作用、癌細胞のDNA合成抑制作用、アダプトゲン様作用、血圧の恒常性維持作用等の薬理作用を有する。
【0013】
霊芝胞子の抗腫瘍作用については、固形癌細胞及び白血病細胞のいずれに対しても有効であり、免疫増強作用、アポトーシス誘導作用、DNA合成抑制作用、分化促進作用、転移防止作用等の薬理作用を有している。免疫増強作用は、上述したように主にβ−グルカンにより担われており、胸腺/体重比率を増加させたり、血清中凝集素、T−リンパ球、T細胞転化力、マクロファージ、NK細胞の働きを高めたり、キラーT細胞を活性化させてインターロイキン1(IL−1)、腫瘍壊死因子・アルファ(TNF−α)、インターフェロン・ガンマ(IFN−γ)の分泌を促進させたりする。IL−1、TNF−α及びIFN−γはまた、癌細胞にアポトーシスを誘導することにより、癌細胞の縮小や消失に効果を有する。アポトーシス誘導作用は、癌細胞のテロメラーゼ活性を抑えたり、癌細胞のDNAトポイソメラーゼI,II活性を抑えたり、CAD酵素及びカスパーゼを賦活させたり、セラミド脂質性受容体を刺激したりすることにより、癌細胞を死滅させる。
【0014】
また、霊芝胞子は、消炎・抗アレルギー作用に基づいて、喘息、慢性気管支炎、硬皮症、進行性肌萎縮症等の免疫性疾患の治療に利用されたり、抗放射線作用及び造血促進作用に基づいて、血小板減少性紫斑、再生不良性貧血、放射・化学療法による白血球減少の治療に利用されたり、鎮静・鎮痛作用に基づいて、不眠症の治療、脳卒中の回復、痛覚閾値の低下等に利用されたりする。
【0015】
アルコール抽出は、常法に従って実施されればよく、具体的には、霊芝胞子を抽出溶媒に浸漬(必要に応じて撹拌してもよい)させ、該抽出溶媒に抽出される成分を回収することにより実施される。なお、霊芝胞子は、必要に応じて、外側を覆う殻を破壊した状態でアルコール抽出に供されてもよい。抽出溶媒には、80〜100%の含水メタノール又は60〜100%の含水エタノールが用いられる。但し、80〜100%の含水メタノールには100%メタノールも含まれ、60〜100%の含水エタノールには100%エタノールも含まれることとする。抽出溶媒に含まれるメタノールの濃度が80%未満の場合、及びエタノール濃度が60%未満の場合、いずれも、特定の有効成分の濃度を十分に高めることが困難になる。
【0016】
本実施形態の霊芝胞子抽出物は、抽出溶媒を含んだままの状態、該抽出溶媒を別の溶媒(ジメチルスルホキシド(DMSO)あるいは100%エタノール等)に置換した状態、及び粉末化された状態のいずれの状態であってもよい。霊芝胞子抽出物は、主に抗癌作用を効果・効能とする医薬品や健康食品等の有効成分として利用される。霊芝胞子抽出物は、癌細胞及び癌化しつつある異常細胞のいずれにも効果を有するため、健康食品の有効成分として利用される場合には、癌の発生を抑える癌予防剤となり得る。
【0017】
本実施形態の霊芝胞子製剤は、上記霊芝胞子抽出物(アルコール抽出物)を含む製剤であり、中医薬等の医薬品又は健康食品として利用される。霊芝胞子製剤は、霊芝胞子抽出物を含むため、霊芝胞子に備わった上記種々の薬理作用のうちの少なくとも一種の作用(効能・効果)を発揮することができる。特に、抗癌剤、癌の補助治療剤又は癌の予防剤として有用である。
【0018】
霊芝胞子製剤は、主に服用(経口摂取)することにより投与されるが、血管内投与、経皮投与、直腸投与、経肺投与、経鼻投与、点眼投与等のあらゆる投与方法を採用することが可能である。剤形としては、特に限定されないが、例えば、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤、注射剤等が挙げられる。霊芝胞子製剤には、霊芝胞子抽出物以外の別の成分や各種添加剤が含有されていてもよい。別の成分としては、特に限定されないが、例えば、霊芝微粉末、冬中夏草菌糸体等が挙げられる。添加剤としては、賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等が挙げられる。
【0019】
前記実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 本実施形態の霊芝胞子抽出物は、霊芝胞子を80〜100%の含水メタノール又は60〜100%の含水エタノールでアルコール抽出してなるものである。霊芝胞子抽出物は、特定の有効成分の濃度を高めるためのアルコール抽出を経て製造されたものであるため、霊芝胞子に備わった様々な薬理作用が大幅に増強されている。このため、霊芝胞子抽出物は、抗癌作用を始めとして、様々な薬理作用を有効に発揮することができる。
【0020】
・ 本実施形態の霊芝胞子製剤は、霊芝胞子抽出物を含有するため、抗癌作用を始めとして、様々な薬理作用を有効に発揮することができる。
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
【0021】
・ アルコール抽出に用いられる抽出溶媒中には、無機塩、有機塩、緩衝剤、pH調整剤等が含有されていても構わない。
・ 霊芝胞子抽出物を、パン、ケーキ、スナック菓子等の嗜好品、牛乳やヨーグルト等の乳製品、清涼飲料等の飲料品に含有させてもよい。即ち、霊芝胞子抽出物を一般の食品や飲料品に含有させてもよい。
【0022】
・ 霊芝胞子抽出物は、公知の精製技術を用いて精製することにより、特定の薬理作用を特に増強させた霊芝胞子精製物とすることも可能である。この場合、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等を利用することが可能である。例えば、オクタデシルシリル(ODS)基等を備えた逆相液体クロマトグラフィーを行う場合、移動相として70〜75%程度のアセトニトリルを含む水溶液で溶出される分画に、高い抗癌作用を有する有効成分が含有されることとなる。
【実施例】
【0023】
<予備検討試験>
星火霊芝宝(イスクラ産業社製)を80%の含水メタノールで70℃、50時間抽出した後、高速遠心(12,000rpm×30分、4℃)にて上清と残渣とを分離した。得られた上清をエバポレーターにて乾固することにより、熱水メタノール抽出物を得た。得られた星火霊芝宝の熱水メタノール抽出物について、ヒト癌細胞株に対するアポトーシス誘導効果及びテロメラーゼ活性抑制効果、並びにマウス腹腔マクロファージに対する活性化効果をそれぞれ検討した。
【0024】
その結果、星火霊芝宝の熱水メタノール抽出物は、ヒト血球系癌細胞株(HL60細胞)に対して強力に細胞死を誘導した。その細胞死は、アポトーシスの特徴であるホスファチジルセリンの露出及びDNA断片化を示したことから、熱水メタノール抽出物は癌細胞にアポトーシスを誘導することが明らかとなった。さらに、熱水メタノール抽出物は、市販の抗癌剤が効きにくいとされるヒト固形癌細胞株(ヒト乳癌細胞株(HBL−100)、ヒト子宮癌細胞株(HeLa)、ヒト大腸癌細胞株(Caco−2)、ヒト腎臓癌細胞株(OS−RC−2))にも細胞死を引き起こした。また、星火霊芝宝の熱水メタノール抽出物は、これらの癌細胞の不死化に関わるテロメラーゼ活性を強力に抑制した。この抑制作用は、テロメラーゼヘの直接的な酵素阻害作用であることが確認された。一方、星火霊芝宝の熱水メタノール抽出物は、マウス腹腔マクロファージの貪食を促進させる傾向が認められた。さらに、熱水メタノール抽出物は、マウス腹腔マクロファージからのリポ多糖(LPS)誘発TNFの放出を促進させた。また、熱水メタノール抽出物は、チオグリコール酸誘導マクロファージからの膨大なTNF放出に対しては抑制効果を発揮した。
【0025】
次に、星火霊芝宝を構成する霊芝胞子微粉末、霊芝微粉末及び冬虫夏草菌糸体のそれぞれについて、上記星火霊芝宝の場合と同様に熱水メタノール抽出物をそれぞれ調製し、細胞死誘導効果について検討した。その結果、いずれの抽出物にも細胞死誘導効果が認められた。抽出物の濃度あたりでは、霊芝胞子微粉末の熱水メタノール抽出物に最も強い活性が認められた。これらの結果は、星火霊芝宝の熱水メタノール抽出物が癌細胞へのアポトーシス誘導やテロメラーゼ活性の阻害を介して癌細胞の無限増殖に歯止めをかける一方で、炎症反応に関わるマクロファージの活性化を抑えながら、癌細胞を駆逐するマクロファージの活性化を引き起す可能性を示唆している。これらの知見は、星火霊芝宝及び霊芝胞子の優れた抗癌活性の作用機序の一部を説明し得る。
【0026】
<霊芝胞子抽出物の調製>
イスクラ産業(株)より提供を受けた霊芝胞子微粉末5gをハイブリバックソフト(コスモバイオ社製のS−1021、200×300mm)に入れ、5倍量の各種抽出溶媒(25mL)をそれぞれ加えた後、ハイブリバックソフト内を2時間陰圧にすることにより脱気処理した。引き続き、ハイブリバックソフトを密封し、4℃で48時間静置することによりアルコール抽出を行った。抽出溶媒としては、水、40%含水メタノール、60%含水メタノール、80%含水メタノール、100%メタノール、40%含水エタノール、60%含水エタノール、80%含水エタノール及び100%エタノールのいずれかを用いた。なお、これらの抽出溶媒中に含まれる各種アルコールの濃度は、調製時における人為的な誤差を若干含んでいるが、概ね示された濃度となるように調製されている。48時間のアルコール抽出を行った後、高速遠心(12,000rpm×30分、4℃)にて上清と残渣(微粉末)とを分離した。得られた各上清をエバポレーターにて乾固し、各上清に含まれる固形分の重量を測定した。また、高速遠心後の各残渣に水25mLを加えて同様に水抽出した後、高速遠心して上清を得た後、エバポレーターにて乾固した。
【0027】
<霊芝胞子抽出物の抗癌作用1>
(抽出溶媒におけるアルコール濃度の検討)
上記<霊芝胞子抽出物の調製>で得られた各固形分を2%のジメチルスルホキシド(DMSO)及び10%ウシ胎児血清(FCS)を含む細胞培養液に適宜希釈させながら溶解した。次に、10%FCSを含む細胞培養液に1×10個/mLの濃度で懸濁させたヒト白血病細胞株(HL60細胞)を96穴のプレート(IWAKI社製)に50μLずつ播種した後、前記各固形分を溶解させた細胞培養液を50μLずつプレートの各穴内に加え、各固形分が図1(a)、(b)に示す終濃度となるようにした。そして、37℃、5%COの条件で24時間培養した。また、コントロール群として、霊芝胞子由来の固形分を含まない細胞培養液のみを添加したものも同様に試験した。
【0028】
24時間の培養後、MTT法に従って各穴内の細胞生存率を求めた。即ち、5mg/mLのMTT(3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazolium bromide)を各穴内に20μLずつ加え、37℃、5%COの条件で1.5時間インキュベートした。続いて、100μLの溶解液(20%のSDS及び50%のN,N-dimethylformamideからなる)を加えることによりMTTとの反応を停止させた。引き続いて、37℃、5%COの条件で一晩培養し後、570nmでの吸光度をそれぞれ測定した。得られた各吸光度の値を生細胞数に比例した値とし、コントロール群の吸光度の値に対する割合をそれぞれ求め、各穴内の細胞生存率とした。結果を図1(a)、(b)に示す。
【0029】
その結果、霊芝胞子微粉末を80%以上のメタノール(MeOH)又は60%以上のエタノール(EtOH)でアルコール抽出した霊芝胞子抽出物に高い抗癌効果が確認された。また、データは示さないが、高速遠心後の残渣を水抽出したものには、抗癌効果が認められなかった。
【0030】
<霊芝胞子抽出物の抗癌作用2>
(抽出時間及び脱気処理の影響)
上記<霊芝胞子抽出物の調製>と同様の方法で、霊芝胞子微粉末を100%エタノールでアルコール抽出した。なおこのとき、アルコール抽出を4℃で2日間実施したものと、4℃で8日間実施したものとの2種類の霊芝胞子抽出物を作製し、それぞれについて上記<霊芝胞子抽出物の抗癌作用1>と同様の方法で、HL60細胞の生存率を求めた。結果を図2(a)、(b)に示す。その結果、4℃で2日間アルコール抽出を行えば十分であることが示された。
【0031】
一方、上記<霊芝胞子抽出物の調製>と同様の方法で、霊芝胞子微粉末を100%エタノールでアルコール抽出した。なおこのとき、脱気処理したものと、脱気処理していないものとの2種類の霊芝胞子抽出物を作製し、それぞれについて上記<霊芝胞子抽出物の抗癌作用1>と同様の方法で、HL60細胞の生存率を求めた。結果を図2(c)、(d)に示す。その結果、脱気処理は、製造コストという観点から特に実施しなくてもよいことが示された。
【0032】
<正常細胞に対する霊芝胞子抽出物の影響>
上記<霊芝胞子抽出物の調製>において、霊芝胞子微粉末を100%エタノールでアルコール抽出した霊芝胞子抽出物を、正常ヒト末梢血リンパ球及び正常ラット脳神経細胞の培養液にそれぞれ添加し、37℃、5%COの条件で培養した。なお、ヒト末梢血リンパ球は24時間培養し、ラット脳神経細胞は48時間培養した。また、コントロール群として、霊芝胞子由来の固形分を含まない細胞培養液のみを添加したものも同様に試験した。所定時間の培養後、各細胞を顕微鏡下で観察するとともに、上記<霊芝胞子抽出物の抗癌作用1>と同様の方法で各細胞の生存率をそれぞれ求めた。ヒト末梢血リンパ球についての結果を図3に示す。
【0033】
その結果、ヒト末梢血リンパ球及びラット脳神経細胞はいずれも、顕微鏡下で各コントロール群と全く同様の細胞形態を示すとともに、各コントロール群と同様にほとんど死滅していなかった。さらに、図3より、上記<霊芝胞子抽出物の抗癌作用2>において癌細胞株の増殖を抑制したのと同様の条件で、ヒト末梢血リンパ球に霊芝胞子抽出物を処理しただけでは、正常細胞の生存率に全く影響を与えなかった(特に図2(a)との比較)。ラット脳神経細胞についても全く同様であった。
【0034】
<霊芝胞子抽出物の分画>
上記<霊芝胞子抽出物の調製>と同様の方法で、霊芝胞子微粉末を100%エタノールでアルコール抽出することにより霊芝胞子抽出物を作製した。次に、得られた霊芝胞子抽出物を下記液体クロマグラフィー分離条件で分離しながら分画した。得られた各分画をエバポレーターにて乾固した後、2%DMSO及び10%FCSを含む細胞培養液に段階希釈しながら溶解させた後、上記<霊芝胞子抽出物の抗癌作用1>と同様の方法で、HL60細胞の生存率を求めた。また、コントロールとして、霊芝胞子由来の固形分を含まない群(DMSO control)、及び、分離前の霊芝胞子抽出物を含む群(100% EtOH抽出物)についても同様に生存率を求めた。液体クロマトグラフィーの結果を図4(a)に示し、細胞生存率の結果を図4(b)に示す。
【0035】
液体クロマグラフィー分離条件
カラム :TSKGel ODS 80TM(東ソー)
カラム温度 :室温
流速 :1mL/分
検出波長 :254nm
分離液 :溶液A(0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)含有水溶液)と、
溶液B(0.1%TFA含有アセトニトリル溶液)との混合液
移動相 : 0〜 5分;90%溶液A+10%溶液B
5〜10分;10〜60%溶液Bのグラジエント溶出
10〜30分;60〜90%溶液Bのグラジエント溶出
30〜40分;100%溶液B
分画 :5分毎(分画1〜8)
図4(a)には、上記分離条件で霊芝胞子抽出物を分離したときのクロマトグラム(実線)と、移動相に含まれるアセトニトリルの濃度(点線)とが示されている。図4(b)には、希釈倍率毎に、左から順に、DMSO control、分画1〜8、100% EtOH抽出物の生存率が棒グラフとしてそれぞれ示されている。これらの結果より、15〜20分の間の保持時間で溶出される分画4に高い抗癌効果が確認された。分画4は、約70〜75%のアセトニトリル濃度で溶出されるものであり、254nmの波長の光を吸収する主要なピークを4つ備えていることも示された。
【0036】
アルコール抽出及び分画の条件から推測すると、分画4に含まれる有効成分は、アルコール及び有機溶媒に親和性の高い物質であり、β−グルカン等の親水性の多糖類とは明確に区別されるであろうことが強く示唆される。よって、本実施例の霊芝胞子抽出物による抗癌作用は、非水溶性であることを特徴とする未知の生理活性物質(非水溶性の物質)によって担われている可能性が高い。一方、従来より、β−グルカン等の霊芝多糖類が抗癌作用に重要であることが報告されている。これらの事柄は、次のように矛盾なく説明することが可能である。即ち、霊芝胞子が水を主体とする化学反応場を構成する生体内で薬理作用を発揮する場合、β−グルカン等の霊芝多糖類が前記非水溶性の物質を可溶化させたり安定化させたりすることにより、該非水溶性の物質が生体内のターゲット分子と反応しやすくなるという作用機序が導出される。そして、本実施例の霊芝胞子抽出物、霊芝胞子精製物及びそれらの製造方法は、このような薬理作用に関する作用機序の解明に対して一石を投じる可能性が高く、今後の天然物由来の抗癌剤の開発に多大な貢献をするものと考えられる。
【0037】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記霊芝胞子よりも抗癌作用が増強されてなる請求項2に記載の霊芝胞子抽出物。
・ 霊芝胞子を80〜100%の含水メタノール又は60〜100%の含水エタノールで抽出してなる霊芝胞子抽出物よりなる抗癌剤。このように構成した場合、高い抗癌作用を発揮することが可能な抗癌剤を提供することができる。
【0038】
・ 霊芝胞子を80〜100%の含水メタノール又は60〜100%の含水エタノールで抽出した霊芝胞子抽出物を、逆相液体クロマトグラフィーで精製してなる抗癌剤。
・ 霊芝胞子抽出物の製造方法であって、霊芝胞子を80〜100%の含水メタノール又は60〜100%の含水エタノールで抽出することを特徴とする霊芝胞子抽出物の製造方法。このように構成した場合、高い薬理作用を発揮することが可能な霊芝胞子抽出物を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】(a)は実施例の抽出溶媒中のメタノール濃度と抗癌効果との関係を調べた結果を示す棒グラフ、(b)は同じくエタノール濃度と抗癌効果との関係を調べた結果を示す棒グラフ。
【図2】(a)及び(b)は実施例の抽出時間と抗癌効果との関係を調べた結果を示す棒グラフ、(c)及び(d)は同じく脱気処理の有無と抗癌効果との関係を調べた結果を示す棒グラフ。
【図3】実施例の正常ヒト末梢血リンパ球に対する霊芝胞子抽出物の影響を調べた結果を示す棒グラフ。
【図4】(a)は実施例の霊芝胞子抽出物を逆相液体クロマトグラフィーにて分離したときのクロマトグラムを示し、(b)は該クロマトグラフィーにおいて分画した分画1〜8の抗癌効果を調べた結果を示す棒グラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
霊芝胞子を80〜100%の含水メタノール又は60〜100%の含水エタノールで抽出してなる霊芝胞子抽出物。
【請求項2】
抗癌作用を有することを特徴とする請求項1に記載の霊芝胞子抽出物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の霊芝胞子抽出物を含有する霊芝胞子製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−45713(P2007−45713A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−228849(P2005−228849)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(591082650)イスクラ産業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】