説明

青果物用劣化抑制剤および劣化抑制方法

【課題】 青果物の外観の劣化を抑制し、且つ保存性を改善することが可能な青果物用劣化抑制剤を提供すること。
【解決手段】 エタノール、保湿成分、中鎖脂肪酸および水を含有することを特徴とする青果物用劣化抑制剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青果物の、カビや細菌による劣化および経時的な外観の劣化を防止する青果物用劣化抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
果実や野菜等の青果物は収穫後、組織の劣化が進行し、青果物本来の色調や外観が失われていく。その原因としては、カビや細菌の繁殖、劣化組織の浸潤等が挙げられる。特にイチゴ等の果実やカットフルーツでは劣化の進行速度が速く、スーパー等の店頭で劣化した果実は消費者から敬遠される傾向にある。また、洋菓子の飾り付けなどの用途においても外観の劣化や保存性が問題となっており、改善が望まれていた。
【0003】
このような青果物の劣化を抑制する方法としては、一般に冷蔵保存が行われているが、商品が大量にある場合には冷蔵庫の確保が困難である上、果実の劣化は時間の経過とともに進行するため、冷蔵によりこれを防止するためには流通過程においても冷蔵装置付きの輸送車等を利用する必要があり、保存コストや輸送コストの上昇が避けられなかった。
【0004】
このような背景から、冷蔵保存によらず、青果物をアルコール等を含有する薬剤で処理する方法が検討されている。
【0005】
特許文献1には、10〜70重量%のエタノール、0.5〜20重量%のゼラチン(但し、70〜130ブルームのゼリー強度を有するもの。)、0.05〜5重量%の抗菌性物質及び適当量の水を含有する食品の表面処理剤が開示されている。特許文献1の表面処理剤はゼラチンを添加することにより被膜を形成させ、抗菌性物質の食品表面への付着性を高めることによって充分に抗菌作用を発揮させようとするものである。しかしかかる表面処理剤を青果物に使用した場合、青果物表面にゼラチンによる被膜が形成されるため、外観が不自然になる問題があった。また、生のまま食すことの多い果実に使用した場合、本来の食感が損なわれる傾向にあった。
【特許文献1】特許第2990914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は青果物の外観の劣化を抑制し、且つ保存性を改善することが可能な青果物用劣化抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、エタノール、保湿成分、中鎖脂肪酸および水を含有する水溶液で青果物を処理することにより、青果物本来の外観、食感を維持しつつ、保存性も改善できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、エタノール、保湿成分、中鎖脂肪酸および水を含有することを特徴とする青果物用劣化抑制剤を提供する。また、本発明は、上記青果物用劣化抑制剤で青果物を処理することを特徴とする青果物の劣化抑制方法も提供する。
【0009】
本発明の青果物用劣化抑制剤に使用するエタノールとしては、特に制限は無く、一般に食品工業用途に用いられているエタノールであればよい。本発明の青果物用劣化抑制剤はまた、食品防腐用途に用いられるアルコールの変性剤、例えば、フレーバーH−No4、フレーバーH−No9等を含有していてもよい。
【0010】
エタノールの割合は青果物用劣化抑制剤全重量に対して10〜65重量%が好ましく、15〜30重量%がより好ましい。エタノールの割合が10重量%未満の場合には、抗菌効果が不十分となる場合があり、65重量%を超える場合にはエタノールの作用により青果物表面が脱水、脱色されるおそれがある。
【0011】
本発明の青果物用劣化抑制剤に含有させる保湿成分は、青果物に含まれる水分の蒸発を抑制するものであって、食品に使用可能なものであれば特に制限されない。例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マルチトール等の糖アルコールおよびベタインなどのアミノ酸等が挙げられる。その中でも青果物の味質へ与える影響が少ないグリセリンが好ましい。保湿成分は2種以上を併用してもよい。
【0012】
保湿成分の割合は青果物用劣化抑制剤全重量に対して0.1〜1.5重量%が好ましく、0.2〜1.0重量%がより好ましい。保湿成分の割合が0.1重量%未満の場合、外観の劣化抑制効果が不十分となる場合がある。また1.5重量%を超える場合、外観の劣化抑制効果はあるものの青果物の表面に不自然な艶が発生することがある。
【0013】
本発明の青果物用劣化抑制剤に含有させる中鎖脂肪酸は、炭素原子数8〜12の脂肪酸である。例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸およびステアリン酸が挙げられ、これらの1種以上を含有させる。その中でもカプリン酸がエタノールへの溶解性、青果物の外観に与える影響の少なさおよび抗菌効果の点でより好ましい。
【0014】
中鎖脂肪酸の割合は青果物用劣化抑制剤全重量に対して0.001〜0.01重量%が好ましく、0.003〜0.005重量%がより好ましい。中鎖脂肪酸の割合が0.001重量%未満の場合、抗菌効果が充分に発揮されない場合がある。また、0.01重量%を超える場合、中鎖脂肪酸独特の臭いにより青果物本来の風味が損なわれることがある。
【0015】
本発明の青果物用劣化抑制剤に用いる水としてはイオン交換水、蒸留水等の精製水、水道水および地下水、伏流水等の天然水のいずれであってもよい。
【0016】
本発明の青果物用劣化抑制剤を製造するには、特別な操作は必要なく、エタノール、保湿成分、中鎖脂肪酸および水を上記割合の範囲内で混合すればよい。混合して得られた青果物用劣化抑制剤はそのまま使用しても良いし、エタノール、保湿成分および中鎖脂肪酸の割合が上記範囲内であれば、必要に応じて更に水で希釈して使用してもよい。
【0017】
また本発明の青果物用劣化抑制剤は、水溶液のpHを6.0〜8.0の範囲とするのが抗菌効果および外観の劣化抑制効果の点で好ましく、pHを6.5〜7.7の範囲とするのがより好ましい。pHを上記範囲に調整するために、pH調整剤を使用してもよい。pH調整剤としてはクエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム等の有機酸塩が挙げられる。
【0018】
本発明の青果物用劣化抑制剤には、青果物本来の味質や風味に影響を与えない範囲でさらに安定化剤、酸化防止剤等の成分を含有させてもよい。これらの成分を添加する場合も、pHによる青果物の変性を防止するために青果物用劣化抑制剤のpHが6.0〜8.0の範囲となるようにするのが好ましい。
【0019】
本発明の青果物用劣化抑制剤の使用方法としては、青果物を浸漬する方法または青果物に噴霧する方法が挙げられ、青果物の種類や形態によって適宜選択すればよい。青果物を浸漬により処理する際は、青果物の表面全体が青果物用劣化抑制剤と接触するようにするのが好ましい。好ましい浸漬時間は、青果物の種類や使用する劣化抑制剤の組成によって異なるが、浸漬時間が長時間におよぶと青果物表面が劣化し易いため、短時間の処理が好ましい。例えば、カットしていないイチゴを処理する場合には、浸漬時間は60秒間以内が好ましく、0.5〜30秒間以内がより好ましく、1〜10秒間以内であれば更に好ましい。またカットした形態の青果物を処理する場合には、切り口からの脱水を防止するため青果物表面全体に青果物用劣化抑制剤を噴霧する方法が好ましい。
【0020】
青果物用劣化抑制剤の使用時の液温は常温であればよいが、鮮度低下を最小限に抑えられる点で1〜15℃程度が好ましい。また、処理後の青果物は特に冷蔵保存する必要はないが、冷蔵保存により抗菌効果および表面の劣化抑制効果の持続時間が延長されるため、輸送に時間を要する場合や長時間保管する場合には冷蔵保存するのが好ましい。
【0021】
本発明の青果物用劣化抑制剤および劣化抑制方法が適用可能な青果物は、特に限定されるものではなく、例えばイチゴ、サクランボ、ブドウ、メロン、スイカ、パイナップル等の果実、キュウリ、トマト等の野菜に適用することができる。また青果物は収穫したそのままの状態であっても、カットした状態であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の青果物用変質防止剤を使用することにより、青果物本来の外観および色調が長時間保持され、且つ処理後の保存性も良好な青果物を得ることが可能となる。
【0023】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0024】
[実施例1〜2および比較例1〜2]
方法:表1に示す各水溶液150mlを調製し、そこにイチゴ5個を5秒間および3分間浸漬した。水溶液から取り出したイチゴを15℃の恒温器内で保存し、24時間後、48時間後および72時間後の外観を観察し、下記の評価基準で比較した。
【0025】
評価基準
−: 色、つやが試験開始時と同等
±: 色、つやが試験開始時に比べ、わずかに劣る
+: 色、つやが試験開始時に比べ、劣る
++:色、つやが試験開始時に比べ、大幅に劣る
【0026】
結果:本発明の青果物用変質防止剤で処理したイチゴは、外観の劣化開始時が遅く、外観保持効果が高かった。外観観察の結果を表2(浸漬時間:5秒間)および表3(浸漬時間:3分間)に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表2:外観観察結果(浸漬時間:5秒間)
【表2】

【0029】
表3 外観観察結果(浸漬時間:3分間)
【表3】

【0030】
[実施例3および比較例3]
実施例2で使用した青果物用変質防止剤と同一組成の水溶液150mlを調製し、そこにイチゴ10個を2秒間および10秒間浸漬した。水溶液から取り出したイチゴをカップ(口径:10cm、深さ:4.5cm)に入れ、15℃の恒温器内で保存し、24時間後、48時間後および72時間後にカビが発生したイチゴの数を確認した。また、比較例3として水洗いしただけのイチゴを同様に保存し、カビが発生したイチゴの数を確認した。結果を表4に示す。
【0031】
表4:カビが発生したイチゴの数(検体10個あたり)
【表4】

【0032】
[実施例4および比較例4〜5]
方法:表5に示す処方の各水溶液をそれぞれ150ml調製し、そこに0.5cmの長さにカットしたキュウリ5個を10秒間浸漬した。水溶液から取り出したキュウリをシャーレに入れ、15℃の恒温器内で保存し、24時間後、48時間後および72時間後に外観を観察し、下記の評価基準で対照と比較した。
【0033】
評価基準
− :色、つやが試験開始時と同等
± :色、つやが試験開始時に比べ、わずかに劣る
+ :色、つやが試験開始時に比べ、劣る
++:色、つやが試験開始時に比べ、大幅に劣る
【0034】
結果:本発明の青果物用変質防止剤で処理したキュウリは、切り口や表面の劣化が抑制され、劣化開始時間が最も遅かった。また、色調も試験開始時と同等の色調が維持されていた。外観観察の結果を表6に示す。
【0035】
【表5】

【0036】
表6:外観観察結果(浸漬時間:10秒間)
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノール、保湿成分、中鎖脂肪酸および水を含有することを特徴とする青果物用劣化抑制剤。
【請求項2】
エタノールの割合が10〜65重量%である請求項1記載の青果物用劣化抑制剤。
【請求項3】
保湿成分の割合が0.1〜1.5重量%である請求項1または2記載の青果物用劣化抑制剤。
【請求項4】
中鎖脂肪酸の割合が0.001〜0.01重量%である請求項1〜3いずれかに記載の青果物用劣化抑制剤。
【請求項5】
保湿成分がグリセリンである請求項1〜4いずれかに記載の青果物用劣化抑制剤。
【請求項6】
中鎖脂肪酸がカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸およびステアリン酸から選択される1種以上である請求項1〜5いずれかに記載の青果物用劣化抑制剤。
【請求項7】
pHが6.0〜8.0である請求項1〜6いずれかに記載の青果物用劣化抑制剤。
【請求項8】
エタノール15〜30重量%、グリセリン0.2〜1.0重量%、カプリン酸0.003〜0.005重量%および水を含有し、pH6.0〜8.0である青果物用劣化抑制剤。
【請求項9】
請求項1〜8いずれかに記載の青果物用劣化抑制剤で青果物を処理することを特徴とする青果物の劣化抑制方法。
【請求項10】
青果物の処理方法が、浸漬処理または噴霧処理である請求項9記載の青果物の劣化抑制方法。
【請求項11】
青果物の処理方法が浸漬処理であり、浸漬時間が60秒間以内であることを特徴とする請求項9記載の青果物の劣化抑制方法。