説明

青色発光蛍光体の製造方法

【課題】波長146nmや波長172nmの真空紫外光励起に特に適したSMS青色発光蛍光体の製造方法を提供する。
【解決手段】Sr源粉末とMg源粉末とSi源粉末とEu源粉末とを含む混合物を焼成してSMS青色発光蛍光体を製造するに際して、Sr源粉末に、SrCO3とSrBr2とを99.9:0.1〜95:5の範囲のモル比にて含む粉末を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SrとMgとSiとEuとを含み、メルウィナイトと同じ結晶構造を有するケイ酸塩をEuで付活した青色発光蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空紫外光や紫外光などの光によって励起されると青色光を発光する青色発光蛍光体は、プラズマディスプレイパネル(PDP)、冷陰極蛍光ランプ(CCFL)及び白色発光ダイオード(白色LED)などの青色発光源として利用されている。PDPでは、Xeガスの放電により発生する波長146nmと波長172nmの真空紫外光が青色発光蛍光体の励起光に用いられる。CCFLでは、Hgガスの放電により発生する波長254nmの紫外光が青色発光蛍光体の励起光に用いられる。白色LEDでは、半導体発光素子にて発生する波長350〜430nmの光が青色発光蛍光体の励起光に用いられる。
【0003】
青色発光蛍光体としては、SrとMgとSiとEuとを含み、メルウィナイト(Ca3MgSi28)と同じ結晶構造を有するケイ酸塩をEuで付活した青色発光蛍光体(以下、SMS青色発光蛍光体ともいう)が知られている。例えば、Sr3MgSi28の組成式で示されるケイ酸塩をEuで付活したSMS青色発光蛍光体が知られている。SMS青色発光蛍光体は、Sr源粉末とMg源粉末とSi源粉末とEu源粉末とを混合し、得られた粉末混合物を焼成することによって製造するのが一般的である。
【0004】
特許文献1には、蛍光体の製造方法として、酸化ケイ素とストロンチウムを含む無機化合物と付活剤とを含む粉体を、粉砕媒体とともに揺動回転機能を有する混合装置内で、前記混合装置を揺動回転させることにより混合する混合工程と、前記混合工程において混合された粉体混合物を焼成する焼成工程とを含む方法が記載されている。この特許文献1には、ストロンチウムを含む無機化合物の例として、フッ化ストロンチウム、塩化ストロンチウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化ストロンチウムなどのストロンチウムのハロゲン化物、炭酸ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、酸化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、シュウ酸ストロンチウム、硫酸ストロンチウムが挙げられている。また、特許文献1には、焼成の際、粉体混合物に反応促進剤(フラックス)を混合してもよいとの記載があり、反応促進剤の例として、酸化ホウ素、フッ化アルミニウム、LiF、NaF、KF、LiCl、NaCl、KCl、Li2CO3、Na2CO3、K2CO3、NaHCO3、NH4Cl、NH4I、MgF2、CaF2、SrF2、BaF2、MgCl2、CaCl2、SrCl2、BaCl2、MgI2、CaI2、SrI2、BaI2が挙げられている。
【0005】
特許文献2には、結晶格子歪みの小さいSMS青色発光蛍光体は発光強度と熱に対する安定性が高いことが記載されていて、この結晶格子歪みの小さいSMS青色発光蛍光体を製造する方法として、Sr源粉末とMg源粉末とSi源粉末とEu源粉末との混合物を塩素化合物の存在下で焼成する方法が記載されている。この特許文献2の実施例では、SrCO3粉末とSrCl2・6H2O粉末と4MgCO3・Mg(OH)2・4H2O粉末(塩基性炭酸マグネシウム粉末)とSiO2粉末とEu23粉末を混合した混合物を焼成してSMS青色発光蛍光体を製造している。なお、この特許文献2の実施例ではSMS青色発光蛍光体の発光強度は波長254nmの紫外光を励起光に用いて測定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−163135号公報
【特許文献2】特開2010−209206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1には、蛍光体の製造原料として用いることができるSr源や反応促進剤(フラックス)について種々の化合物が例示されている。しかしながら、特許文献1には、これらの化合物の特定の組み合わせに関する記載はない。
【0008】
一方、特許文献2にはSrCO3粉末とSrCl2・6H2O粉末とを併用して製造したSMS青色発光蛍光体は波長254nmの紫外光での励起において高い発光強度と熱に対する安定性を示すことが記載されている。しかしながら、特許文献2には、PDPにおいて蛍光体の励起光として用いられる波長146nmや波長172nmの真空紫外光での励起に対するSMS青色発光蛍光体の発光強度については記載がない。
従って、本発明の目的は、PDP用の青色発光蛍光体として有利に用いることができる、すなわち波長146nmや波長172nmの真空紫外光での励起に特に適したSMS青色発光蛍光体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、Sr源粉末とMg源粉末とSi源粉末とEu源粉末とを含む混合物を焼成してSMS青色発光蛍光体を製造するに際して、Sr源粉末にSrCO3とSrBr2とを99.9:0.1〜95:5の範囲のモル比にて含む粉末を用いて製造したSMS青色発光蛍光体は、Sr源粉末にSrCO3粉末を単独で使用して製造したSMS青色発光蛍光体やSrCO3粉末とSrCl2粉末を併用して製造したSMS青色発光蛍光体と比べて、波長146nmや波長172nmの真空紫外光での励起に対する発光強度が高くなることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
従って、本発明は、Sr源粉末とMg源粉末とSi源粉末とEu源粉末とを含む混合物を焼成して、メルウィナイトと同じ結晶構造を有するケイ酸塩をEuで付活した青色発光蛍光体を製造する方法において、Sr源粉末が、SrCO3とSrBr2とを99.9:0.1〜95:5の範囲のモル比にて含む粉末であることを特徴とする青色発光蛍光体の製造方法にある。
【0011】
本発明の青色発光蛍光体の製造方法の好ましい態様は、次の通りである。
(1)SrCO3とSrBr2とのモル比が99.8:0.2〜97:3の範囲にある。
(2)Sr源粉末が、SrCO3粉末とSrBr2粉末との混合物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法を利用して製造したSMS青色発光蛍光体は、Xeガスの放電によって発生する波長146nmや波長172nmの真空紫外光での励起に対する発光強度が高いことから、PDPの青色発光源の蛍光体として有利に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のSMS青色発光蛍光体の製造方法は、Sr源粉末とMg源粉末とSi源粉末とEu源粉末とを含む混合物を焼成してSMS青色発光蛍光体を製造する方法の改良であって、その主な特徴点は、Sr源粉末にSrCO3とSrBr2とを含む粉末を用いる点にある。SrCO3とSrBr2の割合は、モル比で99.9:0.1〜95:5の範囲、好ましくは99.8:0.2〜97:3の範囲にある。Sr源粉末の例としては、SrCO3とSrBr2とを含む組成物の粉末及びSrCO3粉末とSrBr2粉末の混合物を挙げることができる。Sr源粉末はSrCO3粉末とSrBr2粉末の混合物であることが好ましい。
【0014】
本発明において、Sr源粉末以外の原料粉末、すなわちMg源粉末、Si源粉末及びEu源粉末はそれぞれ、酸化物粉末であってもよいし、水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩(塩基性炭酸塩を含む)、硝酸塩、シュウ酸塩などの加熱により酸化物を生成する化合物の粉末であってもよい。上記の原料粉末はそれぞれ一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0015】
本発明において、Sr源粉末を含む各原料粉末は、純度が99質量%以上であることが好ましい。また、各原料粉末の平均粒子径は、5μm以下であることが好ましく、0.01〜5μmの範囲にあることが好ましい。
【0016】
Sr源粉末、Mg源粉末、Si源粉末、Eu源粉末の配合比は、原料粉末混合物中のSr、Mg、Si及びEuの含有量がMgの量を1モルとしたときに、SrとEuとの合計が2.9〜3.1モルの範囲の量で、Siが1.9〜2.1モルの範囲の量となり、さらにEuが0.001〜0.2モルの範囲の量となる割合であることが好ましい。
【0017】
原料粉末の混合方法には、乾式混合法及び湿式混合法のいずれかの方法を採用することができる。湿式混合法で原料粉末を混合する場合は、回転ボールミル、振動ボールミル、遊星ミル、ペイントシェーカー、ロッキングミル、ロッキングミキサー、ビーズミル、撹拌機などを用いることができる。溶媒には、水や、エタノール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコールを用いることができる。
【0018】
原料粉末混合物の焼成は、大気雰囲気下にて仮焼した後、還元性ガス雰囲気下にて焼成する方法によって実施することが好ましい。大気雰囲気下での仮焼温度は一般に600〜850℃の範囲の温度である。仮焼時間は一般に0.5〜100時間の範囲にある。還元性ガスとしては、0.5〜5.0体積%の水素と99.5〜95.0体積%の不活性気体とを含む混合ガスを挙げることができる。不活性気体の例としては、アルゴン及び窒素を挙げることができる。還元性ガス雰囲気下での焼成温度は一般に900〜1300℃の範囲の温度である。焼成時間は、一般に0.5〜100時間の範囲にある。
【0019】
焼成により得られたSMS青色発光蛍光体は、必要に応じて分級処理、塩酸や硝酸などの鉱酸による酸洗浄処理、ベーキング処理を行なってもよい。
【0020】
本発明の製造方法により得られるSMS青色発光蛍光体は、メルウィナイト(Ca3MgSi28)と同じ結晶構造を有するケイ酸塩をEuで付活した青色発光蛍光体である。メルウィナイトと同じ結晶構造を有することは、X線回折パターンより確認することができる。
【0021】
本発明の製造方法により得られるSMS青色発光蛍光体は、Sr3MgSi28の組成式で示されるケイ酸塩をEuで付活した青色発光蛍光体であってもよいし、Sr3MgSi28の組成式で示されるケイ酸塩の一部をBrで置換したケイ酸塩をEuで付活した青色発光蛍光体であってもよい。但し、Brの含有量は、Mgの含有量を1モルとしたときに一般に0.03モル以下である。さらに、本発明の製造方法により得られるSMS青色発光蛍光体はBaやCaを含有していてもよい。但し、Baの含有量は、Mgの含有量を1モルとしたときに一般に0.4モル以下、好ましくは0.2モル以下、より好ましくは0.08モル以下、特に好ましくは0.01モル以下である。Caの含有量は、Mgの含有量を1モルとしたときに一般に0.08モル以下、好ましくは0.01モル以下である。
【0022】
本発明の製造方法により得られるSMS青色発光蛍光体は原料粉末の粒子径にもよるが、Sr源粉末にSrCO3粉末を単独で使用して製造したSMS青色発光蛍光体やSrCO3粉末とSrCl2粉末を併用して製造したSMS青色発光蛍光体と比べて、通常は、粒子径が微細で、かつ粒子径の均一性が高い。
【実施例】
【0023】
[実施例1]
炭酸ストロンチウム(SrCO3)粉末(純度:99.7質量%、レーザー回折散乱法により測定された平均粒子径:0.9μm)と臭化ストロンチウム六水和物(SrBr2・6H2O)粉末(純度:99質量%)とを、モル比で99.2:0.8となる割合にて混合して、Sr源粉末を得た。得られたSr源粉末と、酸化ユウロピウム(Eu23)粉末(純度:99.9質量%、レーザー回折散乱法により測定された平均粒子径:2.7μm)と、酸化マグネシウム(MgO)粉末(気相法により製造したもの、純度:99.98質量%、BET比表面積より換算された平均粒子径:0.2μm)と、酸化ケイ素(SiO2)粉末(純度:99.9質量%、BET比表面積より換算された平均粒子径:0.01μm)とを、Sr:Eu:Mg:Siのモル比で2.995:0.005:1:2.000となるようにそれぞれ秤量し、水中にてボールミルを用いて15時間湿式混合して粉末混合物のスラリーを得た。得られたスラリーをスプレードライヤーにより噴霧乾燥して、平均粒子径が40μmの粉末混合物を得た。得られた粉末混合物をアルミナ坩堝に入れて、大気雰囲気下にて800℃の温度で3時間焼成し、次いで室温まで放冷した後、2体積%水素−98体積%アルゴンの混合ガス雰囲気下にて1200℃の温度で3時間焼成した。そして、得られた焼成物を室温まで放冷した後、水洗して乾燥した。乾燥後の焼成物のX線回折パターンを測定したところ、得られた焼成物は、メルウィナイトと同じ結晶構造を有するSMS青色発光蛍光体であることが確認された。得られたSMS青色発光蛍光体について、波長146nm及び波長172nmの真空紫外光励起による発光強度と粒度分布を下記の方法により測定した。その結果を表1に示す。
【0024】
[発光強度の測定方法]
試料のSMS青色発光蛍光体に波長146nm又は波長172nmの真空紫外光を照射して、発光スペクトルを測定し、得られた発光スペクトルの400〜500nmの波長範囲の中で最大ピーク強度を求め、これを発光強度とする。発光強度は、後述の比較例1で製造したSMS青色発光蛍光体の発光強度を100とした相対値で示す。
【0025】
[粒度分布の測定方法]
粒度分布は、レーザー回折散乱法により測定する。測定装置には、マイクロトラックHRA9320−X100(日機装(株)製)を用い、分散溶媒には水を使用する。試料のSMS青色発光蛍光体(約20mg)と水(約40mL)とを混合し、超音波ホモジナイザー(US−150T、(株)日本精機製作所製)を用いて超音波を3分間照射して、SMS青色発光蛍光体を水中に分散させる。超音波照射後、得られた分散液の粒度分布をただちに測定する。表1中、D10は粒子径の積算篩下分布が10%となる粒子径を、D50は粒子径の積算篩下分布が50%となる粒子径(メジアン径)を、D90は粒子径の積算篩下分布が90%となる粒子径を意味する。
【0026】
[比較例1]
Sr源粉末に臭化ストロンチウム六水和物粉末を加えずに、炭酸ストロンチウム粉末のみを使用したこと以外は実施例1と同様にして、SMS青色発光蛍光体を製造し、波長146nm及び波長172nmの真空紫外光励起による発光強度と粒度分布を測定した。その結果を表1に示す。
【0027】
[比較例2]
Sr源粉末に、炭酸ストロンチウム粉末と塩化ストロンチウム六水和物(SrCl2・6H2O)粉末(純度:99.9質量%)とをモル比で99.2:0.8となる割合にて混合して得た粉末混合物を使用したこと以外は実施例1と同様にして、SMS青色発光蛍光体を製造し、波長146nm及び波長172nmの真空紫外光励起による発光強度と粒度分布を測定した。その結果を表1に示す。
【0028】
表1
────────────────────────────────────────
発光強度 粒度分布
Sr源粉末の組成 ────────────────────────
(モル比) 146nm 172nm D105090
────────────────────────────────────────
実施例1 SrCO3:SrBr2 108 129 1.5 3.5 6.3
=99.2:0.8
────────────────────────────────────────
比較例1 SrCO3単独 100 100 1.1 4.9 38.7
比較例2 SrCO3:SrCl2 106 125 4.3 7.9 14.2
=99.2:0.8
────────────────────────────────────────
【0029】
表1の結果から明らかなように、Sr源粉末にSrCO3粉末とSrBr2粉末とを併用して製造したSMS青色発光蛍光体(実施例1)は、Sr源粉末にSrCO3粉末を単独で使用して製造したSMS青色発光蛍光体(比較例1)、Sr源粉末にSrCO3粉末とSrCl2粉末とを併用して製造したSMS青色発光蛍光体(比較例2)と比較して、真空紫外光励起に対して高い発光強度を示す。また、実施例1のSMS青色発光蛍光体は、比較例1、2のSMS青色発光蛍光体と比較してD50が小さく、D10からD90まで粒子径範囲が狭いことから、微細でかつ粒子径の均一性が高いことが分かる。
【0030】
[実施例2〜5]
Sr源粉末の炭酸ストロンチウム粉末と臭化ストロンチウム六水和物粉末との配合比(モル比)を、下記の表2に記載の配合比としたこと以外は、実施例1と同様にして、SMS青色発光蛍光体を製造し、波長146nm及び波長172nmの真空紫外光励起による発光強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0031】
表2
────────────────────────────────────────
発光強度
Sr源粉末の配合比(モル比) ────────────────
SrCO3:SrBr2 146nm 172nm
────────────────────────────────────────
実施例2 99.5:0.5 112 134
実施例3 98.3:1.7 109 130
実施例4 97.5:2.5 107 125
実施例5 96.7:3.3 105 125
────────────────────────────────────────
【0032】
表2の結果から明らかなように、Sr源粉末にSrCO3粉末とSrBr2粉末とを本発明の割合で併用することによって、真空紫外光励起での発光強度が高いSMS青色発光蛍光体を製造することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sr源粉末とMg源粉末とSi源粉末とEu源粉末とを含む混合物を焼成して、メルウィナイトと同じ結晶構造を有するケイ酸塩をEuで付活した青色発光蛍光体を製造する方法において、Sr源粉末が、SrCO3とSrBr2とを99.9:0.1〜95:5の範囲のモル比にて含む粉末であることを特徴とする青色発光蛍光体の製造方法。
【請求項2】
SrCO3とSrBr2とのモル比が99.8:0.2〜97:3の範囲にある請求項1に記載の青色発光蛍光体の製造方法。
【請求項3】
Sr源粉末が、SrCO3粉末とSrBr2粉末との混合物である請求項1もしくは2に記載の青色発光蛍光体の製造方法。