説明

静磁場磁石、設計方法、及び磁気共鳴イメージング装置

【課題】静磁場磁石近傍で、磁性体に及ぶ吸引力を低減すること。
【解決手段】実施形態に係る静磁場磁石は、主コイルと、アクティブシールドコイルとを備える。前記主コイルは、前記静磁場磁石内部で軸方向沿いに方向付けられた磁場を生成するように構成される。前記アクティブシールドコイルは、前記主コイルによって生成された磁場であって前記静磁場磁石外部に漏洩する漏洩磁場を低減するシールド磁場を生成するように構成される。前記静磁場磁石は、前記静磁場磁石の中心から軸方向に3〜5mの範囲内、径方向に2〜3mの範囲内において、50〜100ガウスの範囲内の強度の磁場を生成するように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、静磁場磁石、設計方法、及び磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング装置(「MRI(Magnetic Resonance Imaging)システム」とも称する)が備える静磁場磁石は、強い磁場を発生し、その磁場は、外部にも漏洩する。外部に漏洩する磁場は、漏洩磁場(fringe field)等と呼ばれ、IEC(International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議)規格では、漏洩磁場の5ガウスラインを制限管理区域として識別表示することを定めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−289670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、静磁場磁石近傍で、磁性体に及ぶ吸引力を低減することができる静磁場磁石、設計方法、及び磁気共鳴イメージング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る静磁場磁石は、主コイルと、アクティブシールドコイルとを備える。前記主コイルは、前記静磁場磁石内部で軸方向沿いに方向付けられた磁場を生成するように構成される。前記アクティブシールドコイルは、前記主コイルによって生成された磁場であって前記静磁場磁石外部に漏洩する漏洩磁場を低減するシールド磁場を生成するように構成される。前記静磁場磁石は、前記静磁場磁石の中心から軸方向に3〜5mの範囲内、径方向に2〜3mの範囲内において、50〜100ガウスの範囲内の強度の磁場を生成するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1は、本実施形態に係るMRIシステムの構成を示す図。
【図2】図2は、本実施形態に係る静磁場磁石の漏洩磁場を説明するための図。
【図3A】図3Aは、本実施形態における軸方向の漏洩磁場強度を示す図。
【図3B】図3Bは、本実施形態における軸方向の漏洩磁場変化量を示す図。
【図3C】図3Cは、本実施形態における軸方向の吸引力を示す図。
【図4A】図4Aは、本実施形態における径方向の漏洩磁場強度を示す図。
【図4B】図4Bは、本実施形態における径方向の漏洩磁場変化量を示す図。
【図4C】図4Cは、本実施形態における径方向の吸引力を示す図。
【図5】図5は、本実施形態に係る静磁場磁石の設計手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら、実施形態に係る静磁場磁石、設計方法、及び磁気共鳴イメージング装置を説明する。
【0008】
以下の実施形態に係るMRIシステム100は、漏洩磁場に関する制約が最適化された静磁場磁石(「静磁場B磁石」、「静磁場Bm磁石」とも称される)を備える。漏洩磁場に関する制約とは、例えば、空間的に規定される境界や、吸引力の境界、トルクの境界である。具体的には、本実施形態に係る静磁場磁石は、少なくとも1つの主コイル(main electromagnet winding)と、少なくとも1つのバッキングコイル(bucking electromagnet winding)とを備える。主コイルは、静磁場磁石の第1半径内に配設され、バッキングコイルは、第1半径より大きい第2半径内に配設される。バッキングコイルは、主コイルによって生成される漏洩磁場を低減する自己シールド磁場(serf-shielding magnetic fields)を提供するように構成される。主コイル及びバッキングコイルによって生成される複合的磁場は、少なくともイメージングボリューム内部において、MRI要件に準拠する。メインコイルの巻線及びバッキングコイルの巻線は、静磁場磁石の中心(「磁石中心」、「アイソセンタ(iso-center)」とも称する)から軸方向に3〜5m、径方向に2〜3mの範囲内の距離において、静磁場磁石の外部に50〜100ガウスの範囲内の漏洩磁場を生成するように構成されている。
【0009】
図1は、本実施形態に係るMRIシステム100の構成を示す図であり、改良型静磁場B磁石の代表例を備えたMRIシステム100の例示的な実施形態を高度に図式化したブロック図である。図1に示すMRIシステム100は、架台10(概略的に断面図で示す)、及び、架台10と接続される種々の関連システムコンポーネント20を備える。通常、少なくとも架台10は、シールドされた部屋に設置される。図1に示すMRIシステム100の結合構造には、静磁場磁石12と、G、G、G傾斜磁場コイルセット14と、RFコイル16とを含む、1つの実質的に同軸で円筒形の構造体が含まれている。これらのエレメントから成るこの円筒形の配列体の水平軸沿いに、被検体テーブル11に支持された被検体9の頭部を実質的に包囲するものとして示される、イメージングボリューム18がある。
【0010】
MRIシステム制御部22は、表示部24、キーボード/マウス26、及びプリンタ28に接続される入出力ポートを有する。自明であるが、表示部24は、制御入力の機能も果たすように、タッチスクリーンの類であってもかまわない。
【0011】
MRIシステム制御部22は、MRIシーケンス制御部30に接続する。MRIシーケンス制御部30は、G、G、G傾斜磁場コイルドライバ32を制御し、更には、RF(Radio Frequency)送信部34及び(送信及び受信のどちらにも同じRFコイル16が使用される場合に)送受信スイッチ36を制御する。当然、図1に示すホールボディコイル16に代えて又はホールボディコイル16と一緒に、被検体の身体の様々な表面領域に密接して平行になるように構成されたアレイコイルが使用される場合も少なくない。当業者には自明であるが、ECG(electrocardiogram)信号及び/又は末梢脈波ゲート信号をMRIシーケンス制御部30に提供するために、患者の体に1又は複数のしかるべき体表面電極8を貼着することができる。更に、MRIシーケンス制御部30は、MRIデータ取得シーケンスを遂行するためのしかるべきプログラムコード構造38へのアクセスも有している。なお、MRIデータ取得シーケンスは、特定のMRIデータ取得シーケンスパラメータを規定する操作者入力及び/又はシステム入力により、利用可能になっている。
【0012】
MRIシステム100は、受信部40を備えているが、これは、表示部24に送る処理済み画像データを生成するため、MRIデータ処理部42に入力を提供するものである。MRIデータ処理部42は、更に、画像再構成プログラムコード構造44、及び、(例えば、例示的な実施形態及び画像再構成プログラムコード構造44に従った処理から導かれるMR画像データを記録するための)MR画像記憶部46にもアクセスできるように構成されている。
【0013】
MRIシステム100の動作を制御するためのプログラムコード構造が格納されるプログラム/データ格納部50も、一般化した形で図1に示している。そういったプログラムコード構造は、MRIシステムの種々のデータ処理コンポーネントにとってアクセス可能な、コンピュータ可読記録媒体に記録される。当業者には自明であるが、プログラム/データ格納部50を細分化し、少なくともその一部分を、MRIシステム100の諸々の処理コンピュータのうちの異なる処理コンピュータであって、通常の動作においてプログラムコード構造を最も早急に必要とするものに直接接続することができる(即ち、共有した形で記録し、MRIシステム制御部22に直接接続するのではない)。
【0014】
実際、当業者には自明であるが、図1は、簡易化して表示した典型的MRIシステム100の非常に高度な略図であり、後述する例示的な実施形態を具現化すべく、若干の改変が加えられている。MRIシステム100のコンポーネントは、「箱」の形をした様々な論理処理に分割することができる。典型的には、DSP(Digital Signal Processor)、マイクロプロセッサ、特定用途処理回路(例えば、高速A/D変換、高速フーリエ変換、アレイ処理等のための)を数多く備える。これらのプロセッサの各々は、典型的にはクロック制御式の「ステートマシーン」であり、それらの物理的データ処理回路は、各クロックサイクル(又は予め定められた数のクロックサイクル)が起こると直ぐに、ある物理的状態から別の物理的状態に進行する。
【0015】
処理回路(例えば、CPU(Central Processing Unit)、レジスタ、バッファ、演算ユニット等)の物理的状態が、動作中に、1つのクロックサイクルから別のクロックサイクルに前進的に変化するだけでなく、関連のデータ記録媒体(例えば、磁気記録媒体のビット記録部位)の物理的状態も、かかるシステムの動作中に、1つの状態から別の状態に移される。例えば、MRイメージング再構成プロセスの終了時に、物理的記録媒体内のアレイ状のコンピュータ可読アクセス可能データ値記録部位(例えば、画素値の多数桁バイナリ表現)は、何らかの前の状態(例えば、全てが一様に「0」値又は全てが「1」値)から新しい状態に移されることになるであろう。この場合、かかるアレイの物理的部位の物理的状態(例えば画素値の)は、現実の物理的事象及び状態(例えば、画像化されたボリューム空間全体にわたる患者の諸組織)を反映して、最小値と最大値との間のまちまちの値になっている。当業者には自明であるが、かかるアレイ状の記録データ値は、物理的構造を表すものであり、更にはそれを構成する。これは、命令レジスタへの書き込みと、MRIシステム100の1つ又は複数のCPUによる実行が逐次的に行われたときに、特定の動作状態のシーケンスを生成し、それをMRIシステム100内部で遷移させる特定の構造のコンピュータ制御プログラムコードの場合と同様である。
【0016】
上述したように、MRIシステム100は、典型的には、架台10と、それと接続される種々の関連システムコンポーネント20とを備えている。通常、少なくとも架台10は、シールドされた部屋に設置される。MRIシステム100の結合構造には、静磁場B磁石と、G、G、G傾斜磁場コイルセットと、RFコイルとを含む、1つの実質的に同軸で円筒形の構造体が含まれている。これらのエレメントから成るこの円筒形の配列体の水平軸沿いにイメージングボリューム18があり、被検体テーブル11に支持された被検体9の、画像形成対象の解剖学的構造を実質的に包囲している。
【0017】
図2は、本実施形態に係る静磁場磁石12の漏洩磁場を説明するための図であり、円筒形に構成された静磁場磁石12の例示的な実施形態を示す。なお、以下において「B」と表記する場合と「B」と表記する場合とがあるが、概ね、前者は、静磁場磁石によって発生する磁場の軸方向成分に着目することを意図した場合に用い、後者は、軸方向成分及び径方向成分の両方を含むことを意図した場合に用いる。イメージングには、磁場の軸方向成分が用いられる。
【0018】
当業者には自明であるが、図2に示す構成は、MRIシステム100の静磁場磁石12の1つの可能性としての構成である。静磁場磁石12は、MRイメージングボリューム(典型的には、磁石構造の磁石中心に関連する)内で十分な磁場均一性を有する静磁場Bを生成するために用いられる。この円筒形の実施形態の代表例では、極低温に冷却された電磁石巻線が利用されている。通常は、このようにするのが一般的である。当業者には自明であるが、図2では、実際の巻線は省略されている。即ち、実際には巻線が中に設置される円筒形モジュールだけが、概略的に示されている。図2に示すように、主コイルは、典型的には、アクティブシールドコイルの径方向内側に設置される。アクティブシールドコイルは、静磁場磁石12の外側に必然的に存在する無用な漏洩磁場Bを低減するために活用される。当業者には自明であるが、図2では、通常のG、G、G傾斜磁場コイルセット、RFコイル(1又は複数)、信号源、ドライバ、及び制御システムは省略されている。なお、主コイルは、「主磁石巻線」とも称する。また、アクティブシールドコイルは、「バッキングコイル」、「アクティブシールド磁石巻線」、「バッキング磁石巻線」等とも称する。
【0019】
図2に示すように、静磁場磁石12は、典型的には、部分的(partial)又は全体的(full)なアクティブシールドを備えるように設計される。このアクティブシールドは、漏洩磁場Bを、軸方向距離Aの範囲及び径方向距離Rの範囲に制限する。軸方向距離Aは、軸方向座標軸における漏洩磁場Bの境界FFAに関連し、径方向距離Rは、径方向座標軸において漏洩磁場Bの境界FFRに関連する。
【0020】
例示的な実施形態においては、漏洩磁場Bの境界の最大値は、漏洩磁場の境界までの軸方向距離A及び径方向距離Rを拡張できるように(例えば、それぞれΔZ及びΔRだけ拡張できるように)、若干緩和される。例えば、例示的な実施形態においては、径方向及び軸方向の各漏洩磁場の境界は、それぞれ3m及び5mの通常の径方向距離R及び軸方向距離Aにおいて、約50〜100ガウスに緩和される。自明であるが、このことは、より典型的な5ガウスの境界位置が、ΔZ及びΔRの分だけ大幅に拡張されたことを意味する。
【0021】
即ち、一般に、5ガウスは、それ以上の立ち入りを制限する磁場強度を示し、5ガウスラインは、立ち入りを制限する区域を示す。また、通常、静磁場磁石は、5ガウスラインが、径方向に2〜3m程度、軸方向に3〜5m程度の位置になるように設計される。この点、本実施形態に係る静磁場磁石12は、径方向に2〜3m程度、軸方向に3〜5m程度の位置における磁場強度を、5ガウスに制限せず、約50〜100ガウスに緩和する。この結果、5ガウスラインは、径方向及び軸方向に、磁石中心から更に離れた位置に位置付けられる。
【0022】
5ガウスラインの位置が拡張されたとは言え、磁石構造近傍で強磁性体にもたらされる外部吸引力やトルク力を最小限に抑えるべく、主コイルやアクティブシールド(バッキング)コイルを最適化すれば、静磁場磁石12に接近した位置で強くなっている漏洩磁場の強度(大きさ)に適応することができる。図2に示すように、かかる外部吸引力/トルク力は、漏洩磁場の強度と、距離に対するその変化率との積に比例する。なお、吸引力には、水平方向の吸引力と回転方向の吸引力とがあり、「(外部)吸引力」と表記した場合には、その両者を含む場合と、前者のみを示す場合とがある。また、特に後者を「トルク」と表記する場合がある。
【0023】
即ち、本実施形態に係る静磁場磁石12は、磁場強度の変化の勾配を緩やかにすべく、主コイルやアクティブシールド(バッキング)コイルの設計を行う。例えば、軸方向3m程度の位置が5ガウスラインである通常の場合を考え、磁石中心の磁場強度が1.5Tであると仮定すると、わずか3m程度で、5ガウス(0.5mT(Tesla))から1.5T(1,500mT)まで、磁場強度が急激に増えることになる。このような磁場強度の急激な変化は、強い外部吸引力やトルク力をもたらす。このため、5ガウスラインは、その立ち入りが制限されている。これに対し、本実施形態に係る静磁場磁石12は、逆の発想に立ち、磁場強度の変化の勾配を緩やかにすることで、強い外部吸引力やトルク力の発生を抑制する。本実施形態において、5ガウスラインの位置は拡張されるが、それは立ち入りが制限される区域が拡張されたことにはならない。5ガウスラインの内側において磁場強度の変化の勾配は緩やかであるため、そこに強い外部吸引力やトルク力は発生しないからである。
【0024】
図3Aは、静磁場Bのz軸沿いの磁場強度(flux density magnitude)を示し、本実施形態に係る静磁場磁石12に関連する領域に斜線を引いたグラフである。図3Bは、静磁場Bのz軸沿いの磁場強度の変化量(gradient magnitude)を示し、本実施形態に係る静磁場磁石12に関連する領域に斜線を引いたグラフである。図3Cは、静磁場Bのz軸沿いの外部吸引力/トルク力(torque forces)を示し、本実施形態に係る静磁場磁石12に関連する領域に斜線を引いたグラフである。
【0025】
図3A〜3Cは、それぞれ、Bの磁場強度、磁場強度の変化量、及び、結果としての外部吸引力/トルク力を、z軸沿いに、磁石中心からの軸方向の距離zの関数として示すグラフである。典型的な従来のフルシールド(FS(Fully Shielded))、パーシャルシールド(PS(Partially Shielded))、及び、ノンシールドについて、いずれも1.5Tにおいて示している。また、例示的な実施形態を示す実線、及び、例示的な実施形態の範囲を示す斜線模様領域が、これらのグラフ上で重ね合わされている。
【0026】
図4Aは、同じ静磁場Bの径方向たるy軸沿いの磁場強度を示し、本実施形態に係る静磁場磁石12に関連する領域に斜線を引いたグラフである。図4Bは、同じ静磁場Bの径方向たるy軸沿いの磁場強度の変化量を示し、本実施形態に係る静磁場磁石12に関連する領域に斜線を引いたグラフである。図4Cは、同じ静磁場Bの径方向たるy軸沿いの外部吸引力/トルク力を示し、本実施形態に係る静磁場磁石12に関連する領域に斜線を引いたグラフである。図3A〜図3Cと同様に、図4A〜4Cは、同じものを、例示的な実施形態の直交する径方向(x,y)座標軸との関係で示している。
【0027】
現行のMRI磁石の技術は、自己シールド設計を使って、典型的な5ガウス設計仕様ライン(5 gauss design specification line)を包囲するのに要するボリュームを最小限に抑え、同時に、目的とするイメージング領域内での磁場の均一性を最適化している。外部5ガウスラインは、それを下回ると現行の心臓ペースメーカ等が適正に動作し、それを上回ると誤動作するおそれがある典型的な閾値を指している。その空間要件(space requirements)を最小限に抑えることができれば、MRIシステムの空間要件は、引き下げることができるであろう(例えば、コストが下がる)。
【0028】
現在は、自己シールド型磁石(本明細書では、全体的にシールドされた「FS」磁石を指す)が活用されているが、それ以前は、目的とするイメージング領域内で磁場を均一化するためだけに最適化されたノンシールド型磁石、又は、重量及びコストを犠牲にして、外部磁場を制御するパッシブシールド型磁石というものがあった。
【0029】
磁界によって鉄系の物体にもたらされる水平方向の吸引力は、磁場エネルギー密度(the magnetic field energy density)の変化量(the gradient of change)の関数である。この磁場エネルギー密度自体は、磁束密度及び磁場強度(磁束密度とも称する)の関数である。回転方向の吸引力(トルク)は、鉄系の物体が存在する場所における磁場強度(磁束密度)の関数である。
【0030】
現行の自己シールド(FS)型磁石は、磁石を包囲する空間において高い磁場強度及び磁場強度の変化量を有し、非常に強力な吸引力及びトルクを生成するが、これらは位置とともに急速に変化する。そういった強力な吸引力及びトルクは、人が保持している鉄系の物体(例えば、酸素ボンベ又はツール)を容易に引き寄せる。位置に対して吸引力が極めて非直線的であるため、人が最大吸引力位置に接近していることについて警告がなされることは、殆どない。
【0031】
旧式のノンシールド型磁石では、5ガウスラインの区域を最小限に抑えるという設計上の取り組みがなされていなかったため、磁石付近の磁場強度及び外部の磁場強度の変化量は低くなっている。自己シールド(FS)型磁石に比較して、対応する磁場強度及び磁場強度の変化量が低下しているため、吸引力やトルクはより低くなっており、吸引力の警報はより多くなり、安全性は向上する。
【0032】
我々は将来、全てのアクティブインプラント(例えば、ペースメーカ等)がMRI磁石の磁場内で動作できるところを目にするかも知れない。そうなれば、潜在的に、制御空間内部の5ガウス領域を配置する必要性を排除できるようになるであろう。しかしながら、磁石周辺の空間を制御することは、安全を確保するために、依然として極めて重要なことである。というのは、次の主たる安全面の気がかりは、鉄系の物体に対する吸引力やトルクだからである。磁石周辺の空間を他の機器の動作と矛盾しないレベルに制御することは、機能面からも必要なことである。機器が正常に機能することに関連する1つの典型値は、50ガウスである(例えば、コンピュータシステム)。これら個別装置が特別に且つ安価にシールドされていれば、要件を100ガウス以上に更に緩和することが可能になる。
【0033】
これらの進展に鑑み、ここで、磁石設計のアルゴリズム及び要件について考察する。これにより、マグネットルームの壁のガウスレベルを大幅に高くすることが可能になる(例えば、100ガウス)。磁石は、最適化された機構又は技法であって、受動性のもの及び能動性のものを任意に使用して、吸引力及び/又はトルクを最小限に抑えるように設計することができる。磁石設計の最適化では、吸引力要件及び/又は(例えば)100ガウスの空間限界要件と相まって、磁石によって生成される最適イメージングボリュームの構成も、検討することができる。また、最適化では、サイトの壁のシールド費、部分的アクティブシールド及び/又はパッシブシールドの費用、造影ルーム及び周辺領域双方の床空間の費用等を下げるように、派生的に、磁石設計のコストも検討することができる。
【0034】
他の手段によって周辺空間の安全が適切に確保され、潜在的に危険であるが不可欠な機器の安全が適正に確保され、他の方法を使ってMRIプロセス時に受信機(コイル)及び被検体に必要なRFシールドが提供されている場合は、磁石周辺の壁を不要にすることも可能である。
【0035】
例示的な実施形態においては、新世代の静磁場磁石に繋がる概念及び方法論を提供する。新世代の静磁場磁石は、インプラント可能なデバイスの磁場限界や吸引力によって外部磁場の制約が構築されている状態で動作する。結果としての低減された外部磁場限界によって、相乗効果的な磁石及びサイトシールド構成も可能になる。全体的な便益としては、構成上の複雑性及びコストが下がること、強磁性サイトシールドが再度最適化されること、及び磁石付近で本来的に磁力及び磁気トルクが低下し、したがって全体の動作上の安全性が向上することが挙げられるであろう。
【0036】
新規な設計方法論を提案しており、これらの方法論によれば、再度最適化された現場の強磁性シールドを含めたMRI磁石の全体的コストが、遥かに低くなるはずである。磁石自体の近傍において、局所磁場及び磁場強度の変化量が最小限に抑えられ、したがって磁石に内在する強磁性物体に対する吸引力及びトルクが弱まるため、動作上の安全性は改善されるであろう。
【0037】
磁場強度が1.0T以上のMRI磁石では、本来的に大きな磁石の外部磁場をシールドすることが必要である。磁石を直接的にパッシブシールドすることは、必要なシールドが10トンを超えかねないため、望ましくない。磁石を自己シールドするのに、アクティブシールドすることが、業界の標準的な手法となっている。加えて、FDAが行った勧告によると、AIMD(Active Implanted Medical Device)の照射限界のため、一般公衆は、5ガウスを超えるDC磁場に曝されるべきではない。
【0038】
典型的なノンシールド型1.5T磁石の径方向及び軸方向の5ガウスラインは、磁石中心からそれぞれ径方向7.5m×軸方向10.0mの位置に存在することになる。他方、アクティブシールド型1.5T磁石では、径方向及び軸方向の5ガウスラインは、磁石中心からそれぞれ径方向2.5m〜3.0m×軸方向4.0〜5.0mの位置に存在することになる。アクティブ自己シールドに関連するコスト及び磁石の複雑性は、かなりのものである。典型的な自己シールド型磁石では、コイル設計において、2〜3倍のアンペアターンが必要になる(例えば、主コイルよりも大きな半径の逆極性バッキングコイル又はシールドコイルを含む)。
【0039】
ハイブリッドシールド型磁石(アクティブシールドとパッシブシールドの組み合わせ)も使用されてきたが、重量及びコストの問題で、解決策としては同じく不十分である。
【0040】
MR適合AIMDが標準になると、5ガウスラインに限定することは、必要とされなくなるであろう。例えば、MRスキャナに関連する電子機器は、最大で約100ガウスまで動作することができる。他の一般的な電子機器も、略同一磁場を照射された状態で動作することができる。しかし、AIMDから波及する安全上の諸問題が排除されれば、次なる重要なMR磁石の危険要因は、強磁性物体に対する吸引力及びトルクである。アクティブインプラント及び不注意で磁石室に持ち込まれた物品に対する安全性が気がかりである。これらの吸引力/トルクは、所与の位置における磁場強度及び/又は同じ位置における磁場強度の変化量の関数である。
【0041】
5ガウス(又は任意の他のレベル)ボリューム要件を制約する既存のアクティブ自己シールド型磁石の方法論は、主磁場の空間的変化率を増大させており、磁場を増大させる可能性もある。どちらが増大しても、物体に働く吸引力及びトルクは増大する。
【0042】
低減された又は排除されたアクティブシールドを最小限の径方向及び/又は軸方向のサイト(部屋)シールドと組み合わせるという相乗効果的概念を採り入れて、5ガウスレベルではなく、磁石のAIMD許容50〜100ガウス位置を包含することによって、磁石吸引力は大幅に低下し、ひいては、動作上の安全性が向上し、同時に、磁石の複雑性及びコスト、更には磁気シールドコスト及び据付コストも大幅に低下する。
【0043】
例示的な実施形態は、安全性を向上し(吸引力及びトルクの低減)、コストを節減し(サイトシールドの低減又は排除)、コイル及び必要なコイルボビン/巻型のコストを下げ(即ち、今は実現可能な部分的にシールドする設計)、且つ磁石を小型化する(半径は5〜15%小径化する可能性があり、重量は5〜10%軽量化する可能性がある)。
【0044】
磁石及びサイトシールドを相乗効果的に設計することで、これら3つの改善が可能になる。磁石の許容外部磁場基準は、5ガウスから50〜100ガウスに上昇することになり、ひいては、磁石のコストを大幅に下げる(10〜25%)とともに大幅に小型化し、同時に外部吸引力及びトルクを低減する設計が可能になる。
【0045】
コイル設計の最適化プロセスの一環として、外部吸引力及びトルクを最小限に抑えることも可能である。吸引力及びトルクを最小限に抑えることを磁石設計の方法論に本来的に組み込み、このようにして、動作上の安全性を向上しながら吸引力/トルクを更に低減できることも、合わせて想定されている。これは、コイル設計及び最適化の新規な方法を提示するものである。
【0046】
改めて、図3A〜3C及び図4A〜4Cを説明する。上述したように、図3A〜3Cは、軸方向の漏洩磁場の強度(「Bm」、単位は『ガウス』)、漏洩磁場の変化量(「dBm/dZ」、単位は『ガウス/cm』)、吸引力(「Bm×dBm/dZ」、単位は『ガウス2/cm』)をそれぞれ示す。また、図4A〜4Cは、径方向の漏洩磁場の強度、漏洩磁場の変化量、吸引力をそれぞれ示す。
【0047】
図3A〜3C及び図4A〜4Cにおいては、1.5Tの静磁場磁石を想定し、フルシールド(FS)のアクティブシールド型の静磁場磁石(以下、「FS型」)と、パーシャルシールド(PS)のアクティブシールド型の静磁場磁石(以下、「PS型」)と、ノンシールド型の静磁場磁石(以下、「ノンシールド型」)と、本実施形態に係る静磁場磁石12とを比較している。FS型については黒色菱形の記号でプロットし、PS型については白色四角の記号でプロットし、ノンシールド型については黒色三角の記号でプロットしている。また、本実施形態に係る静磁場磁石12については、実線で示す。なお、FS型の5ガウスラインは、径方向2.5m×軸方向4.0mである。PS型の5ガウスラインは、径方向3.0m×軸方向5.0mである。ノンシールド型には、シールドが備わっていない。
【0048】
まず、図3Aを参照すると、磁石近傍においては、タイプの異なる静磁場磁石同士で、磁場強度の勾配特性に大きな違いは生じていない。もっとも、磁石中心から離れるに従い、徐々にタイプ間の違いが生じている。具体的には、ノンシールド型の場合に、磁場強度は最も緩やかに推移している。すなわち、磁場強度の変化量及び吸引力は、ノンシールド型のものが小さくなっている。対象領域において、ノンシールド型は、吸引力が、本来的に他ほど強くない。但し、ノンシールド型の場合、磁石中心からの距離がある程度離れても、磁場強度が十分に低下していない。一方、磁場強度は、FS型の場合に最も急峻に推移し、続いて、PS型の場合に急峻に推移する。この点、実線で示す本実施形態に係る静磁場磁石12の場合、磁石中心から離れるに従い、ノンシールド型と、FS型及びPS型との中間程度の勾配で、その磁場強度が推移している。そして、静磁場磁石12の場合、磁石中心からの距離がある程度離れた場合には、FS型及びPS型同様、十分にその磁場強度が低下している。このようなことから、本実施形態に係る静磁場磁石12は、図3Aに示す斜線部分において、FS型やPS型に比較して有効であるといえる。
【0049】
次に、図3Bを参照すると、まず、ノンシールド型は、磁石近傍において磁場強度の変化量が最も小さいが、磁石中心からの距離がある程度離れた場合に、磁場強度の変化量が十分に低下していない。一方、磁石近傍において、FS型及びPS型の磁場強度の変化量は、特に急激に変化している。この点、実線で示す本実施形態に係る静磁場磁石12の場合、磁石近傍においては、FS型及びPS型よりもノンシールド型に近い変化を示し、磁石中心からの距離がある程度離れた場合には、FS型及びPS型同様、十分にその磁場強度の変化量が低下している。このようなことから、本実施形態に係る静磁場磁石12は、図3Bに示す斜線部分において、FS型やPS型に比較して有効であるといえる。
【0050】
続いて、図3Cを参照すると、まず、ノンシールド型は、磁石近傍において吸引力が最も小さく、磁石中心からの距離がある程度離れた場合にも、吸引力は十分に低下している。もっとも、その推移の過程において、ノンシールド型は、吸引力の低下がやや不十分な面がある。一方、磁石近傍において、FS型及びPS型の吸引力は、特に急激に変化している。この点、実線で示す本実施形態に係る静磁場磁石12の場合、磁石近傍においては、FS型及びPS型よりもノンシールド型に近い変化を示し、磁石中心からの距離がある程度離れた場合にも、十分にその吸引力が低下している。また、その推移の過程においても、ノンシールド型よりも、その吸引力が小さい。このようなことから、本実施形態に係る静磁場磁石12は、図3Cに示す斜線部分において、FS型やPS型に比較して有効であるといえる。
【0051】
また、図4A〜4Cについても同様に参照すると、磁場強度、磁場強度の変化量、及び吸引力のいずれの場合も、ノンシールド型は、その値が小さく、変化の度合いも緩やかである。一方、FS型及びPS型は、互いの値が交差する場合もあるが、いずれも、比較的急峻な変化を示している。この点、本実施形態に係る静磁場磁石12は、図4A〜4Cのいずれの場合も、FS型及びPS型よりは比較的緩やかな変化を示している。すなわち、本実施形態に係る静磁場磁石12は、少なくとも図4A〜4Cに示す斜線部分において、FS型やPS型に比較して有効であるといえる。
【0052】
同じくグラフが示しているように、磁場強度の低下は、バッキングコイルが除かれていることに起因して、径方向の方が遥かに緩やかである。磁場強度の変化量及び吸引力は、大幅に小さくなっている。したがって、対象の領域において、この設計のものは、無用な吸引力が大幅に小さくなっている。
【0053】
MRIを設置する際のサイトシールドの必要性は、全体的に最適化された形でMRIシステム100が得られるように、主コイル、バッキングコイル、及びサイトシールドの各要件間で相乗効果的設計手法を用いることによって、最小限に抑え、又は排除することができる。
【0054】
その全体的(主及びバッキング)コイルの設計プロセスに、磁場強度、磁場強度の変化量、及び吸引力の計算、並びに、それに続く最適化を付け足してもかまわない。「焼きなまし法による最適化」等の最適化アルゴリズム又は代替の最適化ルーチンを使って、各コイルパラメータを同時に最適化することができる。これらのコイルパラメータの例として、典型的には、中央磁場、磁場のルジャンドル係数Z2、Z4、Z6、Z8、Z10、Z12、Z14等、径方向及び軸方向の外部漏洩磁場、コイルの総アンペアターン又はアンペアメートル、並びにコイル部の内部ピーク磁場及び応力が挙げられる。同時に行われる全体的最適化プロセスに、磁場強度、磁場強度の変化量、及び吸引力を付け足してもかまわない。
【0055】
主コイル及びバッキングコイルの各巻線は、磁石の中心から軸方向に3〜5m、径方向に2〜3mの範囲内の距離において、磁石外部に50〜100ガウスの範囲内の漏洩磁場Bを生成するように構成することができる。
【0056】
少なくとも1つのプログラム済みデータプロセッサを使って主コイル及びバッキングコイルの各巻線の構成を設計し、磁石の中心から軸方向に3〜5m、径方向に2〜3mの内で磁石外部に設置された透磁性物体に働く磁力及びトルクを最小限に抑えることができる。
【0057】
図5は、本実施形態に係る静磁場磁石12の設計手順を示すフローチャートであり、改良型MRIシステム磁石を設計するための方法の例示的な実施形態を実施するのに利用できる例示的なコンピュータプログラムコード構造を図式化したフローチャートである。なお、例示的なコンピュータプログラムコード構造は、各種設計パラメータの入力を受け付け、所定の最適化技法を用いて、ある制約条件下におけるコイルの所要導線長等を求めるものとして、予め準備される。
【0058】
MRIシステム制御部22は、静磁場B磁石設計のサブルーチンとしてコンピュータプログラムコード構造の実行を開始する(ステップS400)。まず、MRIシステム制御部22は、設計パラメータが全て入力されているか否かを判定する(ステップS402)。
【0059】
全ての設計パラメータが入力されていない場合(ステップS402,No)、MRIシステム制御部22は、設計パラメータを入力するための機会を操作者に与える(ステップS404)。例えば、MRIシステム制御部22は、ステップS404に示す内容を表示するGUI(Graphical User Interface)を表示部24に出力し、操作者から設計パラメータの入力を受け付ける。なお、『最大コイル長』は、静磁場磁石12のz軸方向の長さである。また、『最大主コイル直径』は、静磁場磁石12が有する主コイルの直径である。また、『最大バッキングモジュール直径』は、静磁場磁石12が有するバッキングコイルの直径である。また、『最大径方向漏洩磁場』は、径方向の漏洩磁場に関して設定する制約条件である。本実施形態においては、例えば、『2〜3mにおいて、50〜100ガウス』が入力される。また、『最大軸方向漏洩磁場』は、軸方向の漏洩磁場に関して設定する制約条件である。本実施形態においては、例えば、『3〜5mにおいて、50〜100ガウス』が入力される。また、『B0中心磁場』は、静磁場磁石の中心磁場強度であり、例えば、『1.5T』が入力される。また、『主コイル電流密度』は、静磁場磁石12が有する主コイルを流れる電流密度である。また、『DSVサイズ』は、DSV(Diameter of Surface Volume)、すなわちイメージング領域の大きさである。
【0060】
最終的に全入力パラメータが打ち込まれると(ステップS402,Yes)、MRIシステム制御部22は、漏洩磁場、並びに、外部吸引力及びトルクを最小限に抑えるように、少なくともバッキングコイルの設計を開始する(ステップS406)。
【0061】
例えば、MRIシステム制御部22は、主コイル及びバッキングコイルを、漏洩磁場B並びに外部吸引力及びトルクを最小限に抑えながら(すなわち、漏洩磁場Bの磁場強度の変化の勾配が緩やかになるように)、且つ、所望の中央磁場Bを生成するよう設計する。例えば、MRIシステム制御部22は、焼きなまし法による最適化等の最適化アルゴリズム又は他の最適化技法を使って、外部磁場要件を満たし、ルジャンドル係数Z2、Z4、・・、Z14をゼロにし、主コイル及びバッキングコイルの所要導線長、磁場強度、及び吸引力の傾きを最小限に抑えるように、並行して最適化が行われる(ステップS408)。
【0062】
そして、MRIシステム制御部22は、主コイル及びバッキングコイルについて、コイルパラメータの最適化を行う(ステップS410)。次に、MRIシステム制御部22は、中間設計結果を表示し(ステップS412)、例えば、操作者から「許容できない」との入力を受け付けると(ステップS414,No)、ステップS402に制御を戻す。この場合には、新たな設計パラメータ群が1組入力され(ステップS404)、再び、ステップS406以降の処理が開始される。一方、ステップS412で表示された中間設計結果に対して、操作者から「許容できる」との入力を受け付けると(ステップS414,Yes)、MRIシステム制御部22は、本サブルーチンから抜け、呼び出し元のプログラム又はオペレーティングシステムに制御が戻される。
【0063】
上述してきたように、本実施形態に係る静磁場磁石は、MRIシステム磁石であって、少なくとも1つの主コイルと、少なくとも1つのバッキングコイルとを備える。主コイルは、静磁場磁石の第1半径内に配設されるとともに、静磁場磁石内で軸方向沿いに方向付けられた磁場を提供するように構成される。また、主コイルは、静磁場磁石外部に漏洩磁場を生成する。また、バッキングコイルは、第1半径よりも大きな第2半径内に配設されるとともに、主コイルによって生成される静磁場磁石外部の漏洩磁場を実質的に低減する自己シールド磁場を提供するように構成される。また、主コイル及びバッキングコイル双方によって生成される複合的磁場は、少なくともイメージングボリューム内部において、MRI要件に準拠するものである。そして、主コイル及びバッキングコイルは、静磁場磁石の中心から軸方向に3〜5m、径方向に2〜3mの範囲内の距離において、静磁場磁石外部に50〜100ガウスの範囲内の正味漏洩磁場を生成するように構成されている。
【0064】
また、本実施形態に係る静磁場磁石の主コイル及びバッキングコイルは、サイトシールドの必要性を最小限に抑えるように構成されている。また、本実施形態に係る静磁場磁石の主コイル及びバッキングコイル、並びにサイトシールド要件は、全体的に最適化されたMRIシステムを得るように相乗効果的に構成されている。
【0065】
また、本実施形態に係る静磁場磁石は、静磁場磁石の外部まで延在する軸方向のz座標軸を有する円筒形である。それに沿って、図3A〜3Cのグラフに図示した網掛け領域内部の強度、変化量、及び吸引力/トルクをz座標軸沿いに有する静磁場Bが、提供されている。
【0066】
また、本実施形態に係る静磁場磁石は、静磁場磁石の外部まで延在する軸方向のz座標軸を有する円筒形である。それに沿って静磁場Bが提供されている。本実施形態に係る静磁場磁石は、同じく静磁場磁石の外部まで延在する直交する径方向のy座標軸を有する円筒形である。それに沿って、図4A〜4Cのグラフに図示した網掛け領域内部の強度、変化量、及び吸引力/トルクをy座標軸沿いに有する静磁場Bが存在している。
【0067】
また、本実施形態に係るMRIシステム制御部22は、MRIシステム磁石を設計するためのプロセスを実行する。このプロセスは、少なくとも1つのプログラム済みデータプロセッサを使って、静磁場磁石の中心から軸方向に3〜5m、径方向に2〜3mの範囲内で、静磁場磁石外部に設置された磁性物体に働く磁力及びトルクを最小限に抑えるように、少なくともバッキングコイルの構成を設計する。
【0068】
また、このプロセスは、少なくとも主コイル及びバッキングコイルの構成を設計する際に、外部磁場の強度、磁場強度の変化量、及び吸引力の勾配のうち、少なくとも1つを計算し、次に、それらを最小化する処理を含む。
【0069】
また、このプロセスは、少なくとも主コイル及びバッキングコイルの構成を設計しながら、最適化アルゴリズムを使って、中央磁場、磁場のルジャンドル係数、径方向及び軸方向の外部漏洩磁場、コイルの総アンペアターン、並びに主コイル及び/又はバッキングコイルの部分における内部ピーク磁場及び応力を含むコイルパラメータを最適化する処理を更に含む。
【0070】
以上述べた少なくとも一つの実施形態の静磁場磁石、設計方法、及び磁気共鳴イメージング装置によれば、静磁場磁石近傍で、磁性体に及ぶ吸引力を低減することができる。
【0071】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0072】
100 MRIシステム
12 静磁場磁石
22 MRIシステム制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場磁石内部で軸方向沿いに方向付けられた磁場を生成するように構成された主コイルと、
前記主コイルによって生成された磁場であって前記静磁場磁石外部に漏洩する漏洩磁場を低減するシールド磁場を生成するように構成されたアクティブシールドコイルとを備え、
前記静磁場磁石の中心から軸方向に3〜5mの範囲内、径方向に2〜3mの範囲内において、50〜100ガウスの範囲内の強度の磁場を生成するように構成されたことを特徴とする静磁場磁石。
【請求項2】
前記静磁場磁石によって生成された磁場の強度は、該静磁場磁石の中心から軸方向に3〜5mの範囲内、径方向に2〜3mの範囲内において、略5ガウスに生成された場合の磁場の強度の変化に比較して、緩やかに低減することを特徴とする請求項1に記載の静磁場磁石。
【請求項3】
静磁場磁石を設計する設計方法であって、
前記静磁場磁石は、
静磁場磁石内部で軸方向沿いに方向付けられた磁場を生成するように構成された主コイルと、
前記主コイルによって生成された磁場であって前記静磁場磁石外部に漏洩する漏洩磁場を低減するシールド磁場を生成するように構成されたアクティブシールドコイルとを備え、
コンピュータが、前記静磁場磁石の中心から軸方向に3〜5mの範囲内、径方向に2〜3mの範囲内において、50〜100ガウスの範囲内の強度の磁場を生成する指示の入力を、設計パラメータとして受け付ける受付工程と、
コンピュータが、前記設計パラメータに基づいて、最適化の計算を行う計算工程と、
コンピュータが、少なくとも、前記主コイル及び前記アクティブシールドコイルの導線長を含むコイルパラメータを出力する出力工程と
を含んだことを特徴とする設計方法。
【請求項4】
イメージング領域に静磁場を生成するように構成された静磁場磁石と、
前記イメージング領域に傾斜磁場を生成するように構成された傾斜磁場コイルと、
前記イメージング領域にRF(Radio Frequency)信号を送信し、該イメージング領域からMR(Magnetic Resonance)信号を受信するRFコイルと、
前記MR信号に基づいてMR画像を再構成する処理部とを備え、
前記静磁場磁石は、
静磁場磁石内部で軸方向沿いに方向付けられた磁場を生成するように構成された主コイルと、
前記主コイルによって生成された磁場であって前記静磁場磁石外部に漏洩する漏洩磁場を低減するシールド磁場を生成するように構成されたアクティブシールドコイルとを備え、
前記静磁場磁石の中心から軸方向に3〜5mの範囲内、径方向に2〜3mの範囲内において、50〜100ガウスの範囲内の強度の磁場を生成するように構成されたことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−17817(P2013−17817A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−153964(P2012−153964)
【出願日】平成24年7月9日(2012.7.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】