説明

静電会合したブロック共重合体から生成される接着複合コアセルベート並びにその作製及び使用方法

静電会合したブロック共重合体からの接着複合コアセルベートの合成が本明細書に記載されており、ここで、前記ブロック共重合体は、交互のポリカチオン性ブロックとポリアニオン性ブロックを含む。接着複合コアセルベートの作製及び使用方法も本明細書に記載されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2010年2月26日に出願された米国仮特許出願第61/308,454号明細書に基づく優先権を主張するものである。本出願は、その教示の全てについて、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
謝辞
本発明に至る研究は、一部、米国国立科学財団の材料研究部門(National Science Foundation Division of Materials Research)、助成金番号0906014による資金援助を受けた。米国政府は、本発明における一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
商業的に重要なカイコシルクは、比較的よく研究されている。この繊維の中心部は、重鎖フィブロイン(H−フィブロイン、250〜500kDa)、軽鎖フィブロイン(L−フィブロイン、約25kDa)、及び糖タンパク質P25(約30kDa)から構成されている。これらのタンパク質は、後部絹糸腺細胞で産生され、会合して、6:6:1のモル比の基本分泌ユニットになり、分泌顆粒から絹糸腺内腔に放出される。重鎖フィブロインと軽鎖フィブロインは、単一の分子間ジスルフィド結合を介して共有結合している。口唇部の出糸突起から不溶性フィラメントとして引き出される途中で、濃縮されたフィブロイン懸濁物は、粘着性のあるセリシンの不均一な混合物で被覆され、整列して微小繊維になり、場合によっては、それが絹糸腺の中央及び前部領域を通過するときに脱水される。最終的に紡ぎ出されるシルクは、融合して接着性のセリシンで被覆された1本の繊維となる、対をなす絹糸腺からの2本のフィラメントからなる。
【0004】
ガやカイコのような陸生昆虫から産生されるシルクは集中的に研究されているが、トビケラによって産生されるシルクについては、はるかに少ししか知られていない。トビケラ(トビケラ(Trichoptera)目)は、水生昆虫の大きなグループである。それらは、冷たくて流れの速い渓流から流れのない湿地にまで及ぶ淡水生息地を占有し、多くの場合、いくつかの種が、各々の生息地内で資源を分け合っている。幼虫期は、水中で餌を食べ、成熟し、蛹化する。蛹は「孵化」して、寿命の短い有翅成虫になり、成虫は交尾するために水辺を離れる。トビケラの多様な水生生息地への進出の成功は、防御及び食糧採集用の精巧な構造を構築するための、その幼虫による水中シルクの使用によるところが大きい。
【0005】
トビケラによって産生される繊維は、生体接着剤としての、及び工業的応用における数多くの用途を有するので、これらの繊維の合成類似体を生成させることが望ましい。
【発明の概要】
【0006】
静電会合したブロック共重合体からの接着複合コアセルベートの合成が本明細書に記載されており、ここで、このブロック共重合体は、交互のポリカチオン性ブロックとポリアニオン性ブロックを含む。接着複合コアセルベートの作製及び使用方法も本明細書に記載されている。本発明の利点は、以下の説明に一部示され、かつこの説明から一部明らかになるか、又は下記の態様の実施によって習得することができる。下記の利点は、添付の特許請求の範囲に特に指摘されている要素及び組合せによって実現及び達成される。前述の一般的な説明と以下の詳細な説明はともに、単に例示的かつ説明的なものであって、限定的なものではないことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
本明細書に組み込まれ、かつ本明細書の一部を構成する添付の図面は、下記のいくつかの態様を例証するものである。
【0008】
【図1】図1は、本明細書における合成繊維を生成させるための静電会合したブロック共重合体間の静電相互作用を示す。
【図2】図2は、以下のものを示す:(A)研究室の水槽内のガラスビーズで一部構築された筒巣中のブラキセントラス・エコー(Brachycentrus echo)の幼虫。(B〜D)次第に高くなる倍率でのガラスの筒巣の内側のSEM(スケールバー:それぞれ、500、250、100ミクロン)。(E)EDSで解析されたF内の領域のSEM。青色=リン、紫色=シリコン(スケールバー:10ミクロン)。
【図3】図3は、以下のものを示す:(A)抗pS抗体を用いたシルクタンパク質のウェスタンブロット。レーン1:解剖した絹糸腺から8M尿素で抽出したトビケラ(B.エコー(B.echo))シルク、レーン2:SDSで抽出したトビケラシルク、レーン3:解剖した絹糸腺から8M尿素で抽出したカイコ(カイコガ(B.mori))シルク、レーン4:SDSで抽出したカイコシルク。(B)B.エコー(B.echo)幼虫の絹糸腺免疫染色対照。(C)抗pS抗体で免疫染色した幼虫の絹糸腺。頭部(黒い物体)は対をなす絹糸腺にまだ付着している。染色は、無傷の絹糸腺の後部領域でのみ生じた。(D)抗pS対照。B.エコー(B.echo)のシルク繊維を、抗pS一次抗体なしで、Eと同様に処理した。(E)抗pS抗体で標識したガラスビーズ表面のB.エコー(B.echo)シルク繊維。
【図4】図4は、ホスホセリン及びCa2+によって形成される仮想的反復ドメイン構造の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本化合物、組成物、物品、装置、及び/又は方法を開示及び記載する前に、具体的な化合物、合成法、又は用途は、当然、様々に異なり得るので、下記の態様は、そのようなものに限定されないことが理解されるべきである。本明細書で用いられる専門用語は、単に特定の態様を説明するためのものであって、限定的であることが意図されないことも理解されるべきである。
【0010】
本明細書及び以下の特許請求の範囲において、いくつかの用語に対する言及が行なわれるが、これらは、以下の意味を有するよう定義されるものとする。
【0011】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、文脈から明らかにそうでないことが示されていない限り、複数の指示対象を含むことに留意しなければならない。したがって、例えば、「生体活性作用物質(a bioactive agent)」に対する言及は、2つ以上のそのような作用物質の混合物などを含む。
【0012】
「任意の」又は「任意に」とは、続いて記載される事象又は状況が生じても、生じなくてもよいこと、及びその記載が、その事象又は状況が生じる場合とそれらが生じない場合の両方を含むことを意味する。例えば、「任意に置換された低級アルキル」という語句は、その低級アルキル基が、置換されていても、置換されていなくてもよいこと、及びその記載が、非置換低級アルキルと置換が存在する低級アルキルの両方を含むことを意味する。
【0013】
範囲は、本明細書では、「約」ある特定の値から、及び/又は「約」別の特定の値までとして表すことができる。そのような範囲を表す場合、別の態様は、ある特定の値から、及び/又は他の特定の値までを含む。同様に、先行する「約」の使用によって、値を近似値として表す場合、特定の値は別の態様を形成するものと理解される。さらに、範囲の各々の終点は、他の終点との関連においても、他の終点とは無関係であっても、重要であることが理解される。
【0014】
本明細書及び最後の特許請求の範囲における、組成物又は物品中の特定の要素又は成分の重量部に対する言及は、重量部が表される組成物又は物品中の要素又は成分と任意の他の要素又は成分との間の重量関係を意味する。したがって、2重量部の成分Xと5重量部の成分Yを含む化合物では、XとYは重量比2:5で存在し、その化合物中にさらなる成分が含まれているかどうかにかかわらず、そのような比率で存在する。
【0015】
成分の重量パーセントは、それとは反対のことが特に明記されない限り、その成分が含まれる製剤又は組成物の総重量に基づく。
【0016】
本明細書で使用される「アルキル基」という用語は、1〜25個の炭素原子の分岐状又は非分岐状飽和炭化水素基、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、テトラデシル、ヘキサデシル、エイコシル、テトラコシルなどである。長鎖アルキル基の例としては、パルミテート基が挙げられるが、これに限定されない。「低級アルキル」基は、1〜6個の炭素原子を含むアルキル基である。
【0017】
本明細書において有用なブロック共重合体はいずれも、薬学的に許容可能な塩であることができる。一態様では、薬学的に許容可能な塩は、遊離酸を適量の薬学的に許容可能な塩基で処理することによって調製される。代表的な薬学的に許容可能な塩基は、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化第一鉄、水酸化亜鉛、水酸化銅、水酸化アルミニウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、リジン、アルギニン、ヒスチジンなどである。一態様では、反応は、約0℃〜約100℃の温度、例えば、室温で、単独又は不活性な水混和性有機溶媒と組み合わせた水の中で行なわれる。適用可能な特定の態様では、本明細書に記載の化合物と使用される塩基のモル比は、任意の特定の塩に望ましい比を提供するように選択される。例えば、遊離酸出発材料のアンモニウム塩を調製するために、出発材料を約1当量の薬学的に許容可能な塩基で処理して、中性塩を生成させることができる。
【0018】
別の態様では、ブロック共重合体が塩基性基を有する場合、それを、例えば、HCl、HBr、又はHSOなどの酸でプロトン化して、カチオン塩を生成させることができる。一態様では、ブロック共重合体と酸又は塩基との反応は、約0℃〜約100℃の温度、例えば、室温で、単独又は不活性な水混和性有機溶媒と組み合わせた水の中で行なわれる。適用可能な特定の態様では、本明細書に記載のブロック共重合体と使用される塩基のモル比は、任意の特定の塩に望ましい比を提供するように選択される。例えば、遊離酸出発材料のアンモニウム塩を調製するために、出発材料を約1当量の薬学的に許容可能な塩基で処理して、中性塩を生じさせることができる。
【0019】
静電会合したブロック共重合体から生成される接着複合コアセルベート及びその用途が本明細書で提供される。静電会合したブロック共重合体は、交互のポリカチオン性ブロックとポリアニオン性ブロックから構成された水溶性重合体である。ある共重合体のポリカチオン性ブロックは、別のブロック共重合体中に存在する1つ以上のポリアニオン性ブロックに静電的に引き付けられる。これを図1に示す。図1では、共重合体10のポリカチオン性ブロック11が、共重合体12のポリアニオン性ブロック13に静電的に引き付けられている。これらの例は、トビケラによって産生される繊維の詳細な解析を提供するものであり、トビケラは、正の電荷を帯びたブロックの基と負の電荷を帯びたブロックの基の同様のパターンを示した。以下で詳細に論じるように、共重合体の正味の電荷が中性に近づくとき、ブロック共重合体は、水中で不溶性材料を形成する。本明細書に記載の接着複合コアセルベートのこの特徴は、接着剤、特に、医療用接着剤としての数多くの用途を有する。
【0020】
接着複合コアセルベートは、個々の共重合体成分が相全体に拡散している、動的構造を有する結合液(associative liquid)である。複合コアセルベートは、レオロジー的には、粘弾性重合体溶液ではなく、粘性粒子分散液のように振る舞う。上記のように、接着複合コアセルベートは、浸水しているか、又は湿っているかのいずれかの基材に適用したとき、水中での低い界面張力を示す。つまり、複合コアセルベートは、ビードアップする(beading up)のではなく、界面全体に均一に拡散する。
【0021】
ブロック共重合体は、通常、交互のポリカチオン性ブロック(すなわち、正味の正電荷を有するブロック)とポリアニオン性ブロック(すなわち、正味の負電荷を有するブロック)を有する重合体骨格から構成される。個々の正の電荷を帯びた基又は負の電荷を帯びた基は、各ブロック中に存在する。これらの基は、重合体骨格に垂れ下がったもの、及び/又は重合体骨格内に組み込まれたものであることができる。特定の態様(例えば、生物医学的用途)では、ポリカチオン性ブロックは、一連のカチオン性基又はpHを調整することによってカチオン性基に容易に変換することができる基から構成される。一態様では、ポリカチオン性ブロックは、ポリアミン化合物である。ポリアミンのアミノ基は、分岐状であるか、又は重合体骨格の部分であることができる。アミノ基は、一級基、二級基、三級基、又は選択されたpHでカチオン性アンモニウム基を生成させるようにプロトン化することができるグアニジン基であることができる。
【0022】
一態様では、共重合体のポリカチオン性ブロックは、リジン、ヒスチジン、アルギニン、及び/又はイミダゾールの残基に由来することができる。任意のアニオン性対イオンは、ポリカチオン性ブロックと関連させて用いることができる。対イオンは、組成物の基本成分と物理的かつ化学的に適合すべきであり、さもなければ、製品の性能、安定性又は美を過度に損なわないものである。そのような対イオンの非限定的な例としては、ハロゲン化物(例えば、塩化物、フッ化物、臭化物、ヨウ化物)、硫酸塩及び硫酸メチルが挙げられる。
【0023】
別の態様では、ポリカチオン性ブロックは、生体分解性ポリアミンであることができる。生体分解性ポリアミンは、合成重合体又は天然重合体であることができる。ポリアミンが分解することができるメカニズムは、使用されるポリアミンによって異なる。天然重合体の場合、この重合体を加水分解し、その重合体鎖を分解することができる酵素があるので、それらは生体分解性である。例えば、プロテアーゼは、ゼラチンのような天然タンパク質を加水分解することができる。合成の生体分解性ポリアミンの場合、それらは化学的に不安定な結合も有する。例えば、β−アミノエステルは、加水分解可能なエステル基を有する。生体分解性の程度を修飾するために、ポリアミンの性質の他に、ポリアミンの分子量や接着剤の架橋密度などの他の検討事項を変化させることができる。
【0024】
一態様では、生体分解性ポリアミンには、多糖、タンパク質、ペプチド、又は合成ポリアミンが含まれる。1つ以上のアミノ基を有する多糖を本明細書で用いることができる。一態様では、多糖は、キトサンなどの天然多糖である。同様に、タンパク質は、合成又は天然化合物であることができる。別の態様では、生体分解性ポリアミンは、ポリ(β−アミノエステル)、ポリエステルアミン、ポリ(ジスルフィドアミン)、混合ポリ(エステル及びアミドアミン)、並びにペプチド架橋ポリアミンなどの合成ポリアミンである。
【0025】
ポリカチオン性ブロックが合成重合体である場合、種々の異なる重合体を用いることができる;しかしながら、例えば、生物医学的用途などの特定の用途では、重合体が生体適合性であり、かつ細胞や組織にとって毒性がないことが望ましい。一態様では、生体分解性ポリアミンは、アミン修飾天然重合体であることができる。例えば、アミン修飾天然重合体は、1つ以上のアルキルアミノ基、ヘテロアリール基、又は1つ以上のアミノ基で置換された芳香族基で修飾されたゼラチンであることができる。アルキルアミノ基の例は、式III〜V

(式中、
13〜R22は、独立に、水素、アルキル基、又は窒素含有置換基であり;
s、t、u、v、w、及びxは、1〜10の整数であり;かつ
Aは、1〜50の整数である)
に示されており、その場合、アルキルアミノ基は、天然重合体に共有結合している。一態様では、天然重合体がカルボキシル基(例えば、酸又はエステル)を有する場合、このカルボキシル基をポリアミン化合物と反応させて、アミド結合を生成させ、アルキルアミノ基を重合体に組み込むことができる。したがって、式III〜Vに関して、アミノ基NR13は、天然重合体のカルボニル基に共有結合している。
【0026】
式III〜Vに示すように、アミノ基の数は、様々であることができる。一態様では、アルキルアミノ基は、−NHCHNH、−NHCHCHNH、−NHCHCHCHNH、−NHCHCHCHCHNH、−NHCHCHCHCHCHNH、−NHCHNHCHCHCHNH、−NHCHCHNHCHCHCHNH、−NHCHCHCHNHCHCHCHCHNHCHCHCHNH、−NHCHCHNHCHCHCHCHNH、−NHCHCHNHCHCHCHNHCHCHCHNH、又は−NHCHCHNH(CHCHNH)CHCHNHであり、ここで、dは、0〜50である。
【0027】
一態様では、ポリカチオン性ブロックがアミン修飾天然重合体であるとき、アミン修飾天然重合体は、芳香族基に直接的又は間接的に結合した1つ以上のアミノ基を有するアリール基を含むことができる。あるいは、アミノ基を芳香環に組み込むことができる。例えば、芳香族アミノ基は、ピロール、イソピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、又はインドールである。別の態様では、芳香族アミノ基は、ヒスチジン中に存在するイソイミダゾール基を含む。別の態様では、生体分解性ポリアミンは、エチレンジアミンで修飾されたゼラチンであることができる。
【0028】
一態様では、ポリカチオン性ブロックには、1つ以上のペンダントアミノ基を有するポリアクリレートが含まれる。例えば、ポリカチオン性ブロックの骨格は、アクリレート又はメタクリレート単量体の重合から得られるホモ重合体又は共重合体であることができる。
【0029】
他の態様では、ポリカチオン性ブロックは、それ自体、共重合体(すなわち、ランダム又はブロック)であることができ、その場合、共重合体のセグメント又は部分は、共重合体を生成させるために用いられる単量体の選択次第では、カチオン性基を有する。この態様では、ポリカチオン性ブロック中に存在する正の電荷を帯びた基の数は、数パーセントから最大100パーセント(例えば、10〜50%)まで様々であることができる。この態様では、ポリカチオン性ブロックは、中性単量体(すなわち、電荷を持たない基)と正の電荷を帯びた基を有する単量体との間の重合生成物であることができ、その場合、各単量体の量が、ポリカチオン性ブロックの全体の正電荷を決定する。したがって、静電会合したブロック共重合体内に異なるポリカチオン性ブロックを生成させることが可能である。
【0030】
下記の式1〜3は、ポリカチオン性ブロックに関する異なる実施形態を示している。式1では、同じポリカチオン性ブロック(A)がブロック共重合体に組み込まれている。式2では、2つの異なるポリカチオン性ブロック(A及びB)が、各ポリカチオン性ブロック中に存在する。式2のポリカチオン性ブロックABの場合、異なるカチオン性基を有する単量体を用いて、ポリカチオン性ブロックABを生成させることができる。したがって、ポリカチオン性ブロックは、それ自体、ブロック共重合体であることができる。これは、式2に示されており、ここで、Aは、ポリカチオン性ブロック中の第1のブロックを示し、Bは第2のブロックを示す。式3では、2つの異なるポリカチオン性ブロックがあり、ここで、各ブロック(A及びB)は、同じ単量体の重合生成物である。

【0031】
一態様では、ポリカチオン性ブロックは、式I

(式中、R、R、及びRは、独立に、水素、アルキル基、もしくはグアニジン基[−C=NH(NH)]であり、Xは、酸素もしくはNR(式中、Rは、水素もしくはアルキル基である)であり、かつmは1〜10である)、又は薬学的に許容可能なその塩の少なくとも1つの断片を有する。別の態様では、R、R、及びRはメチルであり、かつmは2である。別の態様では、Rは水素であり、かつRはグアニジン基である。式Iに関して、ポリカチオン性ブロックの重合体骨格は、ペンダント−C(O)X(CHNR単位を有するCH−CR単位から構成されている。この態様では、式Iを有する断片は、アクリレート又はメタクリレート残基である。
【0032】
ポリカチオン性ブロックと同様に、本明細書に記載の共重合体中のポリアニオン性ブロックは、合成重合体であることができる。ポリアニオン性ブロックは、通常、アニオン性基又はpHを調整することによってアニオン性基に容易に変換することができる基を有する任意の重合体である。アニオン性基に変換することができる基の例としては、カルボキシレート、スルホネート、ホスホネート、ボロネート、スルフェート、ボレート、又はホスフェートが挙げられるが、これらに限定されない。上で論じた検討事項が満たされるならば、任意のカチオン性対イオンをアニオン性重合体と関連させて用いることができる。
【0033】
ポリカチオン性ブロックは、それ自体、共重合体(すなわち、ランダム又はブロック)であることができ、その場合、共重合体のセグメント又は部分は、共重合体を生成させるために用いられる単量体の選択次第では、カチオン性基を有する。この態様では、ポリアニオン性ブロック中に存在する負の電荷を帯びた基の数は、数パーセントから最大100パーセント(例えば、10〜50%)まで様々であることができる。この態様では、ポリアニオン性ブロックは、中性単量体(すなわち、電荷を持たない基)と負の電荷を帯びた基を有する単量体との間の重合生成物であることができ、その場合、各単量体の量が、ポリアニオン性ブロックの全体の負電荷を決定する。したがって、静電会合したブロック共重合体内に異なるポリアニオン性ブロックを生成させることが可能である。
【0034】
一態様では、ポリアニオン性ブロックは、ポリホスフェートである。別の態様では、ポリアニオンは、10〜90モル%のリン酸基を有するポリリン酸化合物(すなわち、ランダム共重合体)である。例えば、ポリホスフェートは、ポリアニオン性ブロックの重合体骨格に結合する、及び/又はポリアニオン性ブロックの重合体骨格(例えば、ホスホジエステル骨格)中に存在するペンダントリン酸基を有する重合体であることができる。一態様では、ポリホスフェートは、タンパク質(例えば、セリンが豊富な天然タンパク質)を化学的又は酵素的にリン酸化することによって生成させることができる。
【0035】
一態様では、ポリアニオン性ブロックには、1つ以上のペンダントリン酸基を有するポリアクリレートが含まれる。例えば、ポリアニオン性ブロックの骨格は、限定するものではないが、アクリレートやメタクリレートをはじめとする、アクリレート単量体の重合から得られるホモ重合体又は共重合体であることができる。式1〜3に示したようなポリカチオン性ブロックについて上に記載したのと同様に、ポリカチオン性ブロックは、同じ又は異なるブロック(A及びB)から構成されることができる。
【0036】
一態様では、ポリアニオン性ブロックは、ポリホスフェートである。別の態様では、ポリアニオン性ブロックは、式II

(式中、Rは、水素もしくはアルキル基であり、Xは、酸素もしくはNR(式中、Rは、水素もしくはアルキル基である)であり、かつnは1〜10である)、又は薬学的に許容可能なその塩を有する少なくとも1つの断片を有する重合体である。別の態様では、上式において、Rはメチルであり、nは、2、3、又は4であることができる。式VIIと同様に、式IIの重合体骨格は、アクリレート又はメタクリレートの残基から構成されている。式IIの残りの部分は、ペンダントリン酸基である。
【0037】
特定の態様では、ポリカチオン性ブロックとポリアニオン性ブロックは、硬化によって異なる共重合体間の架橋を可能にし、新たな共有結合と合成繊維とを生成させる基を含む。架橋のメカニズムは、架橋基の選択によって様々であることができる。一態様では、架橋基は、求電子剤及び求核剤であることができる。例えば、ポリアニオン性ブロックは、1つ以上の求電子基を有することができ、かつポリカチオン性ブロックは、求電子基と反応して、新たな共有結合を生成させることができる1つ以上の求核基を有することができる。求電子基の例としては、無水物基、エステル、ケトン、ラクタム(例えば、マレイミド及びスクシンイミド)、ラクトン、エポキシド基、イソシアネート基、並びにアルデヒドが挙げられるが、これらに限定されない。求核基の例は、以下に示されている。
【0038】
別の態様では、ポリカチオン性ブロックとポリアニオン性ブロックは、各々、化学線架橋性基を有する。本明細書で使用されるように、硬化又は重合との関連における「化学線架橋性基」は、ポリカチオンとポリアニオンの間の架橋が、例えば、UV照射、可視光線照射、電離放射線(例えば、γ線又はX線照射)、マイクロ波照射などのような化学線照射によって行なわれることを意味する。化学線硬化法は当業者に周知である。化学線架橋性基は、例えば、オレフィン基などの不飽和有機基であることができる。本明細書において有用なオレフィン基の例としては、アクリレート基、メタクリレート基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、アリル基、ビニル基、ビニルエステル基、又はスチレニル基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
他の態様では、ポリカチオン性及び/又はポリアニオン性ブロック上に存在するクロスリンカーは、遷移金属イオンと配位錯体を形成することができる。例えば、遷移金属イオンを共重合体に付加することができ、その場合、共重合体は、遷移金属イオンと配位することができるクロスリンカーを含む。配位と解離の割合は、クロスリンカー、遷移金属イオン、及びpHの選択によって制御することができる。例えば、鉄、銅、バナジウム、亜鉛、及びニッケルなどの遷移金属イオンを本明細書で用いることができる。
【0040】
一態様では、ポリカチオン性ブロックは、1つ以上のペンダントアミノ基(例えば、イミダゾール基)を有するポリアクリレートであることができる。ポリアニオン性ブロックの場合、一態様では、ポリホスフェートを、化学線架橋性基を含むように修飾することができる。N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、イミダゾリルカルバメート誘導体などを含む、活性化エステルを用いて、広範囲の共有結合的架橋を達成することができる。特定の態様では、チオピリジン誘導体、マレイミドなどを架橋可能部分としてポリホスフェート共重合体上に含めて、好適な機械特性を有する接着剤を生じさせることができる。例えば、ポリカチオン性ブロックは、上で論じた式Iを有する少なくとも1つの断片を含み、式中、R又はRのうちの少なくとも1つは化学線架橋性基である。
【0041】
特定の態様では、交互のポリカチオン性ブロックとポリアニオン性ブロックから構成されたブロック共重合体を互いに架橋し、温度の変化を制御することによって接着複合コアセルベートを生成させることができる。一態様では、熱可逆的なディールス・アルダー反応の使用を用いて、共重合体を架橋することができる。この態様では、ジエノフィルと共役ジエン(例えば、フラン及びマレイミド基)の間の環共役は、化学触媒又は開始剤を必要とせずに、温度を上昇させることによって起こることができる。さらに、水の存在が反応速度を速めることができる。ジエノフィル及び共役ジエンは、ポリカチオン性ブロック及び/又はポリアニオン性ブロック上に存在することができる。
【0042】
別の態様では、架橋可能基は、オキシダントの存在下で酸化を受けることができるジヒドロキシル置換芳香族基を含む。一態様では、ジヒドロキシル置換芳香族基は、例えば、DOPAやカテコール(3,4ジヒドロキシフェノール)などのジヒドロキシフェノール又はハロゲン化ジヒドロキシフェノール基である。例えば、DOPAの場合、それを酸化してドーパキノンにすることができる。ドーパキノンは、隣接DOPA基又は別の求核基のどちらかと反応することができる求電子基である。酸素などのオキシダント、又は限定するものではないが、過酸化物、過ヨウ素酸塩(例えば、NaIO)、過硫酸塩、過マンガン酸塩、ジクロム酸塩、遷移金属オキシダント(例えば、Fe+3化合物、四酸化オスミウム)、もしくは酵素(例えば、カテコールオキシダーゼ)をはじめとする、他の添加剤の存在下で、ジヒドロキシル置換芳香族基を酸化することができる。別の態様では、架橋は、アジド基を通した光活性化架橋によって、ポリカチオンとポリアニオンの間で起こることができる。この場合にも、この種の架橋の間に、新しい共有結合が形成される。
【0043】
特定の態様では、オキシダントを安定化することができる。例えば、レドックス活性のない過ヨウ素酸塩と配位錯体を形成する化合物は、安定化されたオキシダントを生じさせることができる。つまり、過ヨウ素酸塩は、非酸化的形態で安定化され、錯体中にある間は、ジヒドロキシル置換芳香族基を酸化することができない。配位錯体は可逆的であり、それが非常に高い安定化定数を有する場合であっても、少量の非錯化過ヨウ素酸塩が存在する。ジヒドロキシル置換芳香族基は、この化合物と、この少量の遊離過ヨウ素酸塩を競合する。この遊離過ヨウ素酸塩が酸化されるにつれて、より多くがこの可逆的錯体から放出される。一態様では、6員環上で一団となるシス,シス−1,2,3−トリオールを有する糖は、競合的過ヨウ素酸塩錯体を形成することができる。安定な過ヨウ素酸塩錯体を形成する具体的な化合物の一例は、1,2−O−イソプロピリデン−α−D−グルコフラノースである。安定化されたオキシダントは、架橋の速度を制御することができる。理論に束縛されることを望むものではないが、安定化されたオキシダントは、繊維(すなわち、接着剤)が不可逆的に固まる前に、オキシダントを添加して、基材の位置を合せる時間があるように、酸化の速度を低下させる。
【0044】
酸化されたクロスリンカーの安定性は様々であることができる。例えば、本明細書に記載のホスホノ含有ポリアニオン性ブロックは、溶液中で安定であり、かつそれ自体で架橋しない酸化可能なクロスリンカーを含むことができる。これは、ポリカチオン性ブロック上に存在する求核基が、酸化されたクロスリンカーと反応するのを可能にする。これは、分子間結合の形成、及び最終的には、強力な接着剤の形成を可能する望ましい特徴である。有用である求核基の例としては、ヒドロキシル基、チオール基、並びに置換又は非置換アミノ基及びイミダゾール基などの窒素含有基が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、リジン、ヒスチジン、及び/もしくはシステイン、又は化学的類似体の残基は、ポリカチオン性ブロックに取り込まれ、求核基を導入することができる。
【0045】
コアセルベートは、任意に1つ以上の多価カチオン(すなわち、+2又はそれより多くの電荷を有するカチオン)を含むことができる。一態様では、多価カチオンは、1つ以上のアルカリ土類金属から構成された二価カチオンであることができる。例えば、二価カチオンは、Ca+2とMg+2の混合物であることができる。他の態様では、+2又はそれより多くの電荷を有する遷移金属イオンを多価カチオンとして用いることができる。pHの他に、多価カチオンの濃度が、水中での繊維形成の速度及び程度を決定することができる。本明細書で用いられる多価カチオンの量は、様々であることができる。一態様では、量は、それぞれ、ポリアニオン性ブロックとポリカチオン性ブロックの中に存在するアニオン性基とカチオン性基の数に基づく。
【0046】
本明細書に記載の共重合体は、当技術分野で公知の技術を用いて生成させることができる。例えば、可逆的付加断片化鎖転移(RAFT)重合は、アクリレート単量体とメタクリレート単量体を用いるブロック共重合体の正確な合成を可能にする。RAFT法では、熱的、光化学的、又は化学的レドックス開始剤を用いる従来のフリーラジカル重合と同様に、一次ラジカルが生成する。RAFT重合は、単量体よりも高いフリーラジカルとの反応性を有する、例えば、その形態のジチオエステル(S=C(Z)−S−R)などの、鎖転移剤(CTA)の存在下で行なわれる。CTAは、一次開始剤ラジカルに可逆的に付加して、中間体ラジカル種を生成させ、このラジカル種は、新しいCTA(マクロ−CTA)と重合を再開するCTA由来ラジカル(R・)とに断片化する。反応が進むにつれて、CTAが、休止状態の重合体鎖と成長する重合体鎖の間を迅速かつ可逆的に転移する定常状態が確立され、その効果は、重合体鎖を早期に終了させて広い多分散性を有する重合体を生成させるラジカル二量体化や不均化反応を防ぐことである。リビング重合が成功したときには、重合体鎖が迅速にイニシエートされた後、一定の速度で相対的ゆっくりと成長し、重合体質量が直線的に増加し、狭い多分散性を有する重合体が生じる。
【0047】
一態様では、交互のポリカチオン性ブロックとポリアニオン性ブロックを有する共重合体は、線形成長期に、共単量体(例えば、カチオン性基を有するアクリレート)を第2の共単量体(例えば、アニオン性基を有するアクリレート)との重合反応に送り込むことによって、RAFT重合により生成させることができる。相対的な反応性を考慮して、各々の共単量体をプログラムされた割合で送り込み、定められた方法で鎖に沿って組成を変化させることができる。例えば、1つの共単量体の一定の送り込みの割合によって、勾配のある共重合体が得られるであろう。したがって、鎖伸長時の様々な時点で共単量体比を変化させることにより、共重合体中のポリカチオン性ブロックとポリアニオン性ブロックのサイズや分布を操作することができる。
【0048】
別の態様では、ブロックの合成後に生成されるマクロ−CTA複合体を単離し、その後、異なる単量体を用いて重合体成長を再開させる。例えば、ホスフェートブロック(ポリアニオン性ブロックY)をRAFT重合させ、単離し、その後、アミン含有単量体(ポリカチオン性ブロックZ)を用いて伸長させて、YZジブロック共重合体を生成させることができる。したがって、このプロセスを繰り返すことにより、YZ−共重合体を生成させることができる。タンパク質、ペプチド、又は他の天然重合体をブロック共重合体中のブロックとして組み込むために、RAFT作用剤を、タンパク質、ペプチド、もしくは天然重合体上で合成するか、又はタンパク質、ペプチド、もしくは天然重合体にコンジュゲートすることができる。得られる構築物は、タンパク質又はペプチド又は他の天然重合体上での電荷を帯びたブロックの重合を開始させるためのマクロ−CTAとして用いることができる。
【0049】
接着複合コアセルベートは、制御されたpH及び温度の下、水中で1つ以上の静電会合したブロック共重合体を混合することにより生成させることができる。この時点で、コアセルベートを簡単に操作し、必要に応じて処理することができる。例えば、pHや温度などの条件を変えることによって、コアセルベートを水不溶性材料に変換することが可能である。例えば、コアセルベートを、シリンジポンプを用いて、制御された温度及びpHでカニューレを通して水中に押し出し、繊維又はフィラメントを生成させることができる。この態様では、トビケラシルク類似体の湿式スピニングをシミュレートし(実施例参照)、その場合、接着複合コアセルベートは、水不溶性繊維を形成することができる。理論に束縛されることを望むものではないが、共重合体中に存在する反対の電荷を有する交互のブロックの互い違いの静電会合は、複合コアセルベートとしての液−液相分離を促進する場合がある。複合コアセルベーションと繊維形成は、反対の電荷を帯びた多価電解質が相互の電荷中和によって水溶液中で会合するときに起こる。この溶液が正味の電荷的中性付近にあるとき、高密度の濃縮重合体水相は、小さい対イオンと水の放出によるエントロピー増大によって一部押し出された重合体欠損水相から分離する。繊維押出し過程における後の段階で、圧力により誘導されるコアセルベート化共重合体相の伸長及び再組織化は、水中への押出し時のナノ微細繊維形成、さらなる電荷中和、及び繊維の脱水をもたらすことができる。その後、繊維を紡いで、2次元の布にすることができる。
【0050】
本明細書に記載の接着複合コアセルベートは、その特性のために、湿った条件での理想的な接着剤となる。例えば、接着複合コアセルベートは、感圧接着剤として用いることができる。例えば、接着複合コアセルベートは、湿った又は水分を含む基材に後で接着させることができる被覆剤として、裏当て材(例えば、プラスチック)の表面に直接適用することができる。この場合、接着複合コアセルベートは、「湿式バンドエイド」のように作用する。あるいは、コアセルベートを、論じられているような裏当てに繊維として押し出して、感圧接着剤を生成させることができる。したがって、これらの態様では、接着複合コアセルベート及びそれから生成される繊維は、医療用接着剤としての数多くの用途を有する。
【0051】
一態様では、接着複合コアセルベート及びそれから生成される繊維を用いて、スキャフォールドを、骨、及び例えば、軟骨、靱帯、腱、軟組織、器官などの他の組織、並びにこれらの材料の合成誘導体に固定することができる。接着複合コアセルベート及び繊維を用いて、対象内に生物学的スキャフォールドを配置することができる。特定の態様では、スキャフォールドは、骨及び組織の成長又は修復を促進する1つ以上の薬物を含むことができる。他の態様では、スキャフォールドは、例えば、抗生物質などの、感染を予防する薬物を含むことができる。例えば、スキャフォールドを薬物で被覆することができるか、又は別の方法では、薬物が経時的にスキャフォールドから溶出するように、スキャフォールド内に薬物を組み込むことができる。
【0052】
一態様では、コアセルベートは、手術部位での出血を低減又は停止させるための収斂剤を含む。したがって、外科的処置で切断された1つ以上の組織の閉鎖を助けることに加え、コアセルベートは、止血を低減又は防止することができる。収斂剤の例としては、アンモニア、鉄、亜鉛、マンガン、ビスマスなどの無機塩、及び過マンガン酸塩などの、これらの金属を含む他の塩が挙げられる。好適な止血収斂剤の非限定的な例としては、硫酸第二鉄、塩基性硫酸鉄、塩化第二鉄、塩化亜鉛、塩化アンモニウム、硫酸アルミニウム、クロルヒドロキシアルミニウム、及び酢酸アルミニウムが挙げられる。硫酸カリウムアルミニウムや硫酸アンモニウムアルミニウムなどのミョウバンを用いることもできる。さらに、タンニン又は他の関連ポリフェノール化合物を収斂剤として用いることができる。特定の態様では、収斂剤は、コアセルベートの硬化を促進し、出血を止めることができる。例えば、硫酸第二鉄はこの機能を果たすことができる。
【0053】
他の態様では、接着複合コアセルベート及びそれから生成される繊維は、金属基材を骨に接着させることができる。例えば、酸化チタン、ステンレス鋼、又は他の材料から作製されるインプラントは、骨折した骨を修復するためによく用いられる。基材を骨に接着させる前に、接着複合コアセルベート及びそれから生成される繊維を、金属基材、骨、又は両方に適用することができる。特定の態様では、ポリカチオン性ブロック又はポリアニオン性ブロック上に存在する架橋基は、酸化チタンとの強い結合を形成することができる。例えば、DOPAは、湿った酸化チタン表面に強く結合することができることが示されている(Lee et al.,PNAS 103:12999(2006))。したがって、骨断片を結合させることに加え、接着複合コアセルベート及びそれから生成される繊維は、骨への金属基材の結合を促進することができ、これは、骨の修復及び回復を促進することができる。金属基材の他に、接着複合コアセルベート及びそれから生成される繊維を、例えば、裏当て材、プラスチックフィルム、又はホイルなどの、他の基材に適用することができる。
【0054】
接着複合コアセルベート及びそれから生成される繊維が、1種以上の生体活性作用物質を封入することができることも考えられる。放出の速度は、複合体を調製するために用いられる材料の選択、及び生体活性作用物質が塩である場合は、その作用物質の電荷によって制御することができる。
【0055】
例えば、接着複合コアセルベートが、温度及び/又はpHの変化によって水不溶性材料(すなわち、合成繊維)に変換される場合、接着複合コアセルベートを対象に投与し、インサイチュで不溶性材料を生成させることができる。したがって、この態様では、水不溶性材料は、局所制御型薬物放出デポーとして働くことができる。組織や骨を固定し、同時に、患者により大きな快適さを提供し、骨の治癒を加速し、かつ/又は感染を予防するために生体活性作用物質を送達することが可能であり得る。
【0056】
接着複合コアセルベート及び繊維を種々の他の外科的処置において用いることができる。例えば、それらを用いて、外傷、又は外科的処置それ自体が原因で生じた裂傷を修復することができる。一態様では、接着複合コアセルベート及び繊維を用いて、対象の角膜裂傷を修復することができる。他の態様では、接着複合コアセルベート及び繊維を用いて、対象の血管内の血流を阻害することができる。一態様では、接着複合コアセルベートを血管に注射し、その後、コアセルベートを水不溶性材料に変換し、それにより、血管を部分的に又は完全に遮断することができる。この方法は、止血又は腫瘍もしくは動脈瘤への血流を阻害するための人工塞栓症の作出をはじめとする、数多くの用途を有する。
【0057】
生物医学的用途に加えて、本明細書に記載の接着複合コアセルベート及び繊維は、工業的応用における数多くの用途を有する。一般に、接着複合コアセルベート及び繊維は、湿った又は水分を含む基材に適用される任意の組成物に添加することができる。上で論じられているように、接着複合コアセルベート及び繊維は、湿った又は水分を含む基材への組成物の接着を強化する。例えば、接着複合コアセルベート及び繊維は、塗料のような水性組成物に添加することができる。この態様では、接着複合コアセルベート及び繊維は、塗料と基材の間の結合を強化する。
【実施例】
【0058】
以下の実施例は、本明細書に記載及び特許請求された化合物、組成物、及び方法を作製し、評価する方法の完全な開示及び記載を当業者に提供するために提示されたものであり、単に例示的であることを意図したものであって、本発明者らが本発明者らの発明とみなす物事の範囲を限定することを意図したものではない。数(例えば、量、温度など)に関しては正確を期す努力をしたが、若干の誤差及び偏差が考慮されるべきである。特に示さない限り、部は重量部であり、温度は℃であるか、又は周囲温度であり、かつ圧力は大気圧又はほぼ大気圧である。反応条件、例えば、成分濃度、所望の溶媒、溶媒混合物、温度、圧力、並びに記載されたプロセスから得られる生成物の純度及び収量を最適化するために用いることができる他の反応範囲及び条件の数多くのバリエーション及び組合せがある。そのようなプロセス条件を最適化するために、合理的でかつ日常的な実験のみが必要とされる。
【0059】
材料及び方法
試料調製。ブラキセントラス・エコー(Brachycentrus echo)というトビケラの幼虫を米国ユタ州のプロボ川下流から採集した。天然の筒巣を有する幼虫を、12℃で蒸留水を循環させた水槽中で維持した。天然の石の筒巣を細いピンセットで一部又は完全に取り除いた。その後、幼虫をきれいなガラスバイアル中の予め洗浄した0.5mmガラスビーズ床の上に置いた。1〜2日後、天然の筒巣の端に構築されたか、又はガラスビーズで完全に再構築されたガラスの筒巣を、その筒巣の再構築をやり直している幼虫から取り去った。回収したガラスの筒巣を、−80℃で凍結させ、凍結乾燥させ、その後、SEM及びEDS解析用の導電性カーボンテープ(FEI Company,Quanta 600 FEG)の上に装着した。
【0060】
アミノ酸及び元素分析。再構築された筒巣由来のガラスビーズを、混入している砂又は鉱物について調べた。凍結乾燥後、同じバイアルから回収したシルクを含むビーズとシルクを含まないビーズの計量済み試料を、0.1%フェノールを含む500mlの5.7N HClに入れて、真空中、110℃で24時間消化した。加水分解物のアリコートをアミノ酸について分析し(Beckman 6300)、40%硝酸に希釈した後、同じ加水分解物由来の第2のアリコートをICP−OES(PerkinElmer,Optima 3100XL)で金属について解析した。市販の混合金属標準(PerkinElmer)を用いて作成した標準曲線との比較により、元素を定量した。
【0061】
ゲル電気泳動及びウェスタンブロット解析。解剖した絹糸腺を、4℃のDI水を含むきれいなエッペンドルフチューブに移した。シルクタンパク質は、この腺から20分以内に放出された。シルクタンパク質の可溶性画分を回収するために、試料を、室温で5分間、13,000rpmでスピンした。上清を、タンパク質濃度決定用の新しいチューブ(Bio−Rad)に移した。40mgの可溶性シルクタンパク質を15%ゲル上でのSDS−PAGEに供した。ウェスタンブロット解析のために、分離したタンパク質をPVDF膜に転写し、その後、この膜を、室温で少なくとも2時間、リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)中の2mg/mL BSAでブロッキングした。このブロットを、抗ホスホセリンマウス抗体(Abcam、#PSR45、1:1000)を用いて4℃で一晩プロービングした。セイヨウワサビペルオキシダーゼヤギ抗マウス−HRP(1:5000)二次抗体(Jackson Immuno Research、#115−035−166)とともに室温で1時間インキュベートした後、ECL(Pierce、#32109)を用いてシグナルを発色させた。
【0062】
絹糸腺免疫染色。幼虫をDI水中の7%エタノールで殺した後、頭部にまだ付着している、対をなす絹糸腺を取り除いた。この腺をPBS中の4%パラホルムアルデヒドを用いて室温で30分間固定した後、プロテイナーゼ消化バッファー(PBS中の2ug/mLプロテイナーゼK、1%SDS、0.1%Triton X−100)を用いて室温で15分間透過処理した。この絹糸腺を、PBS中の2mg/mL BSAを用いて、室温で少なくとも2時間ブロッキングし、その後、抗pS抗体(Abcam、#PSR45、1:1000)とともに室温で1時間インキュベートした。一次抗体を、ヤギ抗マウスアルカリホスファターゼコンジュゲート二次抗体(Abcam、#6729、1:5000)を用いて、室温でさらに1時間標識した。青い色が現われるまで、APバッファー(150mM NaCl、100mM Tris(pH 8.8)、5mM MgCl及び0.05% Tween−20)中のNBT/BCIP(3:1モル比)で青色のシグナルを発色させた。その後、腺をエタノールの連続希釈液(100%、70%、50%及びTBS)で脱水して、非特異的染色を除去し、その後、光学イメージングのために連続的に水和させた。
【0063】
タンデムマススペクトロメトリー。シルクタンパク質を、25mM重炭酸アンモニウム中で、解剖したB.エコー(B.echo)の絹糸腺から単離した。このシルクタンパク質を100℃で熱変性し、氷上で素速く冷却して、再生を制限し、酵素対シルクタンパク質を約1:25の比にして、トリプシンを用いて、37℃で2時間消化した。ホスホペプチド濃縮のために、シルクタンパク質消化物由来のホスホペプチドを、製造者の指示書に従ってSwellGel Gallium Disc(Pierce)を用いて、固定化金属親和性クロマトグラフィー(IMAC)で濃縮した。IMACで濃縮されたペプチドを、LTQ−FTハイブリッドマススペクトロメーター(ThermoElectron Corp.)を用いるLC/MS/MSで分析した。ペプチドを、C18ナノボアカラム及びナノエレクトロスプレーイオン化(ThermoElectron Corp.)を用いるナノLC(Eksigent Inc.)によって、スペクトロメーターに導入した。ペプチドを、0.1%ギ酸を含む5〜60%アセトニトリルの50分の線形勾配を用いて溶出させた。一次ペプチド分子質量をFT−ICRで決定し、ペプチド配列をLTQ−FTハイブリッドマススペクトロメーターの線形イオントラップ中の衝突誘起解離で決定した。ペプチドを、Mascot検索エンジン(ver.2.2.1、Matrix Science)を用いるMS/MS検索で同定した。S、T、及びY上での可能性のあるリン酸化が検索に含まれた。Mascot閾値は、一次質量誤差<3ppm、MS/MSイオンスコア>20、及び期待値<1であった。
【0064】
結果
米国西部山岳諸州で「ロック・ローラー」として知られている、石の筒巣を作る虫(stone case maker)の在来種(ブラキセントラス・エコー(Brachycentrus echo))をユタ州のプロボ川下流から採集して、水中シルクの分子適応をさらに調べた。この石の筒巣を一部又は完全に取り去り、幼虫にガラスビーズを供給すると、それらは、ガラスの筒巣を再構築した(図2A)。このガラスの筒巣を走査電子顕微鏡法(SEM)で調べることにより、このビーズが、管の内側で、シルク繊維と一緒に「縫い合わされ」ていたことが明らかになった(図2B及びC)。このシルク繊維は、リボンとリボンの間の縫い目がきれいな、対をなす扁平なリボンであるように見えた(図2C及びD)。高解像度SEM画像から、繊維中の繊維状基礎構造が明らかになった(図2D)。エネルギー分散X線分光分析(EDS)により、高濃度のリンがシルク繊維と同一の位置に存在することが分かった(図2E及びF)。リンは、カイコシルクでは検出されなかった。
【0065】
リン酸化セリン(pS)の形態でのリンの存在を、トビケラ絹糸腺から単離されたタンパク質を用いるウェスタンブロットでホスホセリンに対する抗体(α−pS)を用いて確認した。リン酸化されたバンドを、MW>200kDa(H−フィブロインと一致する)、約50kDa、約30kDa(L−フィブロインについて予想される近似MW)、並びに17kDa及びそれ未満で検出した(図3A、レーン1、2)。バンドパターンは、抽出方法に依存した;トビケラのH−フィブロインはドデシル硫酸ナトリウム(SDS)で可溶化されたが、8M尿素では可溶化されなかった。尿素又はSDSのいずれかを用いてカイコガ(B.mori)の絹糸腺から抽出され、α−pSでプロービングされたタンパク質は、H−フィブロインに対応するバンドを有していなかったが、約30kDa及び17kDa未満の弱い免疫反応性バンドを有していた(図3A、レーン3、4)。リン酸化されたシルクタンパク質のさらなる確認は、単離されたトビケラ幼虫の絹糸腺を抗pSで免疫染色することによって得られた。対をなす腺の後方部はpSについて染色された(図3C)。筒巣から回収されたガラスビーズ表面のシルク繊維も抗pS抗体で強く標識された(図3E)。
【0066】
解剖された絹糸腺から単離されたトビケラのシルクタンパク質を熱変性させ、速やかに冷却し、トリプシンで消化した。ホスホペプチドが濃縮されたトリプシン消化性ペプチドを固定化金属親和性クロマトグラフィー(IMAC)で単離し、タンデムマススペクトロメトリーで分析した。実験的ペプチド質量を、Mascot検索エンジンを用いて、GenBankに寄託されている翻訳されたトビケラフィブロイン配列から算出されるペプチド質量と比較した。Genbankは、H.アウグスティペンニス(H.augustipennis)、L.デシピエンス(L.decipiens)、及びR.オブリテラータ(R.obliterata)の部分的H−フィブロイン配列と、3つのトビケラ種全ての完全L−フィブロイン配列とを含んでいる。18個の独特のペプチドが同定され、そのうちの16個は、ほとんどの場合、多重リン酸化されていた(表1)。トビケラのH−フィブロインの中心領域は、一連の独特の反復が繰り返されたものであり、これには、A〜Fの文字が割り当てられている。4種全てが、表1に示す保存されたD反復を共有する。同時に、同定されたペプチドは、L.ディシピエンス(L.dicipiens)のH−フィブロイン配列からランダムに得られるD反復全体に及んでいた。L.デシピエンス(L.decipiens)のH−フィブロインと同じ配列を有するB.エコー(B.echo)のシルクのペプチドの同定により、これらの種が密接に関連することが示される。全4種における2つの(SX)モチーフの位置の保存から、B.エコー(B.echo)のリン酸化パターンも同様に保存されている可能性が高いことが示唆される。中央のプロリンを有する疎水性領域に隣接する2つのリン酸化ブロックのより大きい反復モチーフは、トビケラシルクの重要な構造エレメントであるに違いない。L.デシピエンス(L.decipiens)のF反復は、15〜18残基のトリプシン消化性ペプチド中に(SX)3−5モチーフを含むが、対応するペプチド又はホスホペプチドは、B.エコー(B.echo)の質量分析では同定されなかった。これらのペプチドは、B.エコー(B.echo)で正確には保存されていない可能性があるか、又はこの部位は、トリプシンに利用されない可能性がある。同様に、L−フィブロイン由来のホスホタンパク質は同定されなかった。
【0067】
研究室の水槽でE.エコー(E.echo)により構築されたガラスの筒巣から回収されたビーズを凍結乾燥させ、50%HCl中での加水分解の後、アミノ酸分析に供した。酸で消化したシルク繊維のアミノ酸組成は、GenBank中の部分H−フィブロイン配列から推定される他の3つのトビケラ種のアミノ酸組成と同様であった。アラニン含有量はより高かったが、これは、シルク繊維全体とH−フィブロインのみの比較のためである可能性が高い。L.デシピエンス(L.decipiens)のL−フィブロインは、例えば、14mol%のアラニンを含む。B.エコー(B.echo)のL−フィブロイン中の同様のmol%のアラニンと1:1の比のH−フィブロイン対L−フィブロインは、その組成を他のトビケラと一致させるであろう。ホスフェート対セリン残基の比を推定するために、酸加水分解物のうちの2つからのアリコートを誘導結合プラズマ発光分析法によっても分析した。ガラスの筒巣と同じ時に水槽の同じ場所から回収された、付着物が取り除かれた(unglued)ビーズを用いて行なわれたバックグラウンド測定では、感知できるほどのセリン又はPが存在しなかった。トビケラシルクは、加水分解物中の166nmolのセリンに相当する114nmolのP及び第2の加水分解物中の256nmolのセリンに相当する164nmolのPを、それぞれ、0.69及び0.64の比で含んでいた。これらの推定は、マススペクトロメトリーによって見出されるリン酸化セリンの比を考えると、妥当であるように思われる。シルクタンパク質中の2番目に豊富な元素は、Pに対する比が0.5及び0.7のCa2+であった(表3)。
【0068】
考察
B.エコー(B.echo)のシルクタンパク質は(セリンの60%がリン酸化されていると仮定すれば)正電荷と比べて2〜3倍過剰な負電荷を含み(表2及び3)、この負電荷は、小さい対イオンで釣り合わされなければならない。観察されたシルク繊維のCa2+とリン酸側鎖との会合によって、(pSX)モチーフの分子内及び/又は分子間架橋が生成されて、クモやカイコのシルクのβ−クリスタリン領域と類似した硬いドメインになることができる(図4)。実際、いくつかのトビケラシルクのX線回折研究により、アラニンが存在しないにもかかわらず、反復する3層秩序構造の証拠が得られた。ポリホスフェート及びCa2+の溶解度が中性pHでは低いので、Ca2+架橋ホスホセリンドメインの形成は、水中に沈んでいる間の主に親水性のシルクタンパク質の脱水の一因にもなる。この役割は、乾燥シルク中での広範囲に及ぶβ−シート形成による水の排除と類似している。
【0069】
より長い長さ規模では、交互の親水性ブロックと疎水性ブロックの相分離は、クモとカイコの両方についてのシルク繊維会合モデルの主要な側面である。その両親媒性構造は、まず、後部絹糸腺における液晶又はミセル形成をもたらし、次に、繊維押出し時のシルクタンパク質のストレス誘発性伸長の間に、互い違いの両親媒性ブロックが横方向に会合するときに、微細繊維形成をもたらすことができる。水生動物のトビケラは、広範な類似性を有するが、重要な変化を含むメカニズムを用いることができる。交互の親水性ブロックと疎水性ブロックではなく、反対の電荷を有する交互のブロックの互い違いの静電会合は、複合コアセルベートとしての液−液相分離を促進することができる。繊維形成過程の後の段階で、コアセルベート化したタンパク質相のストレス誘発性伸長及び再組織化は、押出し時の繊維のナノ微細繊維形成、さらなる電荷中和、及び脱水をもたらすことができる。反対の電荷を帯びたセグメントの完全なレジストリは、タンパク質の沈殿を引き起こし得るが、電荷配置の一部の不完全性は、対イオンと水の保持をもたらし、局所的な可塑性を提供する。
【0070】
トビケラのH−フィブロインは、ガのH−フィブロインといくつかの構造設計上の特徴:反復ブロック中に配置された保存されたモチーフの長い中心領域に隣接する非反復性N末端及びC末端、中心コア中の規則的に交互になった疎水性領域と親水性領域、並びにH−フィブロインとL−フィブロインを共有結合的に架橋するシステイン残基の保存された位置及び間隔を共有している。アミノ酸レベルでは、共通点としては、GX、GGX、GPGXX、及びSXSXSXのような圧倒的多数の単純なモチーフが挙げられ、これは、トビケラのH−フィブロインとガのH−フィブロインの両方における高レベルのG及びSに反映されている(表2)。アミノ酸組成における顕著な違いは、トビケラでのアラニンの比較的低い発生率であり、アラニンは、ガのH−フィブロインとクモのH−フィブロインでは、一連のポリ(A)及びポリ(GA)に生じ、これは、そのシルク繊維にβ−結晶性及び機械的強度を付与する。別の目立った違いは、高濃度(約15mol%)の正電荷を有する塩基性残基、特に、アルギニンであり、これは、ガのシルクでは比較的少ない。P25のcDNAもタンパク質ホモログも、3つのトビケラ種の全てで同定することができない。ガのシルクフィラメントの会合及び分泌におけるP25の重要な役割は、これが、乾燥シルクと湿潤シルクのプロセシング及び会合における別の重要な差異であり得ることを示唆している。
【0071】
本明細書を通じて、様々な刊行物が参照されている。その全体としてのこれらの刊行物の開示は、本明細書に記載の化合物、組成物及び方法をより完全に説明するために、参照により本明細書に組み込まれる。
【0072】
様々な変更及び変形を、本明細書に記載の化合物、組成物及び方法に対して行なうことができる。本明細書に記載の化合物、組成物及び方法の他の態様は、本明細書に開示されている化合物、組成物及び方法の仕様及び実施の検討から明らかであろう。本明細書及び実施例は例示的なものであるとみなされることが意図される。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
交互のポリカチオン性ブロックとポリアニオン性ブロックを含む、静電会合したブロック共重合体を含む接着複合コアセルベート。
【請求項2】
請求項1に記載のコアセルベートにおいて、前記ポリカチオン性ブロックが生体分解性ポリアミンを含むことを特徴とするコアセルベート。
【請求項3】
請求項2に記載のコアセルベートにおいて、前記生体分解性ポリアミンが、多糖、タンパク質、合成ポリアミン、又は任意のそれらの組合せを含むことを特徴とするコアセルベート。
【請求項4】
請求項2に記載のコアセルベートにおいて、前記生体分解性ポリアミンがアミン修飾天然重合体を含むことを特徴とするコアセルベート。
【請求項5】
請求項1に記載のコアセルベートにおいて、前記ポリカチオン性ブロックが、式I

(式中、R、R、及びRは、独立に、水素、アルキル基、又はグアニジン基であり、Xは、酸素もしくはNR(式中、Rは、水素もしくはアルキル基である)であり、かつmは1〜10である)、又は薬学的に許容可能なその塩を含む少なくとも1つの断片を含み、ここで、R又はRのうちの少なくとも1つは化学線架橋性基であることを特徴とするコアセルベート。
【請求項6】
請求項1に記載のコアセルベートにおいて、前記ポリアニオン性ブロックがポリリン酸化合物を含むことを特徴とするコアセルベート。
【請求項7】
請求項1に記載のコアセルベートにおいて、前記ポリアニオン性ブロックが、1つ以上のペンダントリン酸基を含むポリアクリレートを含むことを特徴とするコアセルベート。
【請求項8】
請求項1に記載のコアセルベートにおいて、前記ポリアニオン性ブロックが、式II

(式中、Rは、水素もしくはアルキル基であり、Xは、酸素もしくはNR(式中、Rは、水素もしくはアルキル基である)であり、かつnは1〜10である)、又は薬学的に許容可能なその塩を含む少なくとも1つの断片を含む重合体を含むことを特徴とするコアセルベート。
【請求項9】
請求項1に記載のコアセルベートにおいて、前記コアセルベートが、少なくとも1つの多価カチオンをさらに含み、かつ前記多価カチオンが、Ca+2及び/又はMg+2を含むことを特徴とするコアセルベート。
【請求項10】
請求項1に記載のコアセルベートにおいて、前記コアセルベートが、前記コアセルベート中に封入された1種以上の生体活性作用物質をさらに含むことを特徴とするコアセルベート。
【請求項11】
請求項10に記載のコアセルベートにおいて、前記生体活性作用物質が収斂剤を含むことを特徴とするコアセルベート。
【請求項12】
請求項11に記載のコアセルベートにおいて、前記収斂剤が、アンモニア、鉄、亜鉛、マンガン、ビスマスの無機塩、又は任意のそれらの組合せを含むことを特徴とするコアセルベート。
【請求項13】
請求項11に記載のコアセルベートにおいて、前記収斂剤が、硫酸第二鉄、塩基性硫酸鉄、塩化第二鉄、塩化亜鉛、塩化アンモニウム、硫酸アルミニウム、クロルヒドロキシアルミニウム、酢酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アンモニウムアルミニウム、又は任意のそれらの組合せを含むことを特徴とするコアセルベート。
【請求項14】
請求項1に記載のコアセルベートにおいて、前記ポリアニオン性ブロックが、酸化を受けることができる少なくとも1つのジヒドロキシル芳香族基を含み、ここで、前記ジヒドロキシル芳香族基は前記ポリアニオンと共有結合していることを特徴とするコアセルベート。
【請求項15】
請求項1に記載のコアセルベートにおいて、前記コアセルベートが、安定化されたオキシダント複合体をさらに含むことを特徴とするコアセルベート。
【請求項16】
請求項1に記載のコアセルベートにおいて、前記ブロック共重合体が、ディールス・アルダー反応によって互いに架橋されていることを特徴とするコアセルベート。
【請求項17】
材料又は物体を湿った基材に接着させるための請求項1〜16のいずれか一項に記載のコアセルベートの使用。
【請求項18】
請求項17に記載の使用において、前記湿った基材が、金属基材又はガラスを含むことを特徴とする使用。
【請求項19】
基材を対象の骨に接着させる方法であって、前記骨を請求項1〜16のいずれか一項に記載のコアセルベートと接触させることと、前記基材を被覆した骨に適用することとを含む、方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法において、前記基材が、金属基材、裏当て材、プラスチックフィルム、又はホイルであることを特徴とする方法。
【請求項21】
骨−組織スキャフォールドを対象の骨に接着させる方法であって、前記骨及び組織を請求項1〜16のいずれか一項に記載のコアセルベートと接触させることと、前記骨−組織スキャフォールドを前記骨及び組織に適用することとを含む、方法。
【請求項22】
1種以上の生体活性作用物質を送達する方法であって、請求項1〜16のいずれか一項に記載のコアセルベートを対象に投与することを含む、方法。
【請求項23】
対象の角膜裂傷を修復する方法であって、前記裂傷に請求項1〜16のいずれか一項に記載のコアセルベートを適用することを含む、方法。
【請求項24】
対象の血管内の血流を阻害する方法であって、請求項1〜16のいずれか一項に記載のコアセルベートを前記血管に導入することを含む、方法。
【請求項25】
対象の血管内の血流を阻害する方法であって、静電会合したブロック共重合体を前記血管に導入することを含み、ここで、前記ブロック共重合体は、交互のポリカチオン性ブロックとポリアニオン性ブロックを含む、方法。
【請求項26】
請求項1〜16のいずれか一項に記載のコアセルベートを含む水性組成物。
【請求項27】
請求項26に記載の組成物において、前記組成物が水性塗料を含むことを特徴とする組成物。
【請求項28】
請求項1〜16のいずれか一項に記載のコアセルベートの感圧接着剤としての使用。
【請求項29】
請求項28に記載の使用において、前記感圧接着剤が医療用接着剤であることを特徴とする使用。
【請求項30】
請求項1〜16のいずれか一項に記載のコアセルベートによって生成される合成繊維。
【請求項31】
請求項30に記載の繊維から生成される布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−521342(P2013−521342A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555168(P2012−555168)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【国際出願番号】PCT/US2011/026169
【国際公開番号】WO2011/106595
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(504260058)ユニバーシティ・オブ・ユタ・リサーチ・ファウンデイション (19)
【Fターム(参考)】