説明

静電噴霧装置の噴口

【課題】 重量を軽量化するとともにコストを低減する。
【解決手段】 本発明の静電噴霧装置の噴口10は、噴霧対象の液体を液滴Dにして噴出するノズル11と、液滴Dの拡散範囲の外周に内周が近接するように配設されるとともに、噴霧時に液滴Dが付着することにより表面が液体の連続膜Sで覆われることを許容するように形成された、非導電性材料からなる環状部17と、連続膜Sに接触可能に露出する導電面を有する導電体18と、環状部17からノズル11までの沿面の途中部に設けられ、該途中部で連続膜Sを途切れさせることにより環状部17及びノズル11の間での漏電を防止するように構成された、非導電性材料からなる環状凹部23とを備え、ノズル11に供給する液体に対する相対的な高電圧を、導電体18を介して連続膜Sに印加することにより、液滴Dを誘導帯電させるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電気を利用して薬液等の噴霧を行う誘導帯電型・静電噴霧装置の噴口に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の静電噴霧装置の噴口は、噴霧対象の薬液を液滴にして噴出するノズルと、前記液滴の拡散範囲の外側に近接するように配設された電極とを備え、前記ノズルに供給する液体と前記電極の間に高電圧を加えることにより、前記液滴を誘導帯電させるように構成されている。電極は円環状に形成された金属からなり、ノズルの周囲を囲うように形成された電極ホルダーの先端に設置されている。電極ホルダーは、ノズルの基端側に支持されている。
【0003】
この噴口により噴霧を開始すると、前記ノズルから噴出した薬液が前記電極ホルダーに付着し、前記電極及び前記ノズルに接続した連続膜が形成される。通常、この主の薬液には、作物や虫等に付着し易くするための展着剤が含まれているため、前記連続膜が形成され易くなっている。この連続膜により、前記電極及び前記ノズルの間で漏電が発生することがある。この不具合現象に対し、前記電極近傍における連続膜の形成を妨害するようにすることで、これらの不具合現象を解決すべく、次のように構成されたものもある。
(1)図4に示すように、噴口50の電極ホルダー51を撥水性材料で形成し、ノズル52から噴出した液滴Dが付着しても水滴状になるようにすることにより、該電極ホルダー51に電極53に接続する前記連続膜が形成されないようにした態様(特許文献1参照。)。
(2)図5に示すように、噴口60の電極ホルダー61に圧縮エアを放出するエア放出口64を設け、ノズル62から噴出した液滴Dが付着しないように該圧縮エアで吹き飛ばすことにより、電極63に接続する広範囲な連続膜が形成されることを防止するようにした態様(特許文献2参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−125175号公報
【特許文献2】特開2006−21148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の静電噴霧装置の噴口は、金属製の電極を備えているため、重量が重く、コストも高くなるという課題がある。この課題は、特にスズラン型等の複数の噴口を備えている場合に重量やコストへの影響が大きい。
【0006】
また、前記連続膜が形成されないようにするために、特許文献1や特許文献2に記載された手段を設けると、さらに、噴口の重量が重くなったり、コストが高くなったりするという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の発明者は、上記課題を解決するための静電噴霧装置に関する研究を通じて、前記連続膜について次の事実を発見した。
(1)前記電極が配設されている部位に前記連続膜が形成された後は、仮に該電極がなかったとしても、導電性を有する前記連続膜が電極として作用するので、前記液滴を誘導帯電させることが可能であること。
(2)前記液滴を電極と同等の帯電量に誘導帯電させるための所要の連続膜が形成されるまでの時間は、該連続膜が形成される部位の広さ、形状、材質、表面の状態、前記液体の成分等の条件にもよるが、噴霧開始から遅くとも数十秒以内であること。
【0008】
そこで、本発明の静電噴霧装置の噴口は、
噴霧対象の液体を液滴にして噴出するノズルと、
前記液滴の拡散範囲の外周に内周が近接するように配設されるとともに、噴霧時に前記液滴が付着することにより表面が前記液体の連続膜で覆われることを許容するように形成された、非導電性材料からなる環状部と、
前記連続膜に接触可能に露出する導電面を有する導電体と、
前記環状部から前記ノズルまでの沿面の途中部に設けられ、該途中部で前記連続膜を途切れさせることにより前記環状部及び前記ノズルの間での漏電を防止するように構成された、非導電性材料からなる漏電防止部とを備え、
前記ノズルに供給する前記液体に対する相対的な高電圧を、前記導電体を介して前記連続膜に印加することにより、前記液滴を誘導帯電させるように構成されている。
【0009】
ここで、「噴霧時に前記液滴が付着することにより表面が前記液体の連続膜で覆われることを許容するように形成された」態様とは、前記表面が前記連続膜で覆われ易くする構成を設けている態様のほかに、前記表面が前記連続膜で覆われることを妨害する構成を特に設けていない態様をも含む。
【0010】
この構成によれば、前記噴口に電極を設けなくても、前記連続膜を利用することにより、前記ノズルから噴出する前記液滴を誘導帯電させることができる。このため、前記噴口の重量を軽量化するとともにコストを低減することができる。
【0011】
前記静電噴霧装置の噴口においては、前記環状部は、表面が前記液体に対する親和性を有するように形成された態様を例示する。
【0012】
この構成によれば、前記環状部の表面にスムーズに連続膜が形成されるようになり、該連続膜による液滴の誘導帯電が始まるまでの時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る静電噴霧装置の噴口によれば、重量を軽量化するとともにコストを低減することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1〜図3は本発明を具体化した一実施形態の噴口10を備えた静電噴霧装置の手持ち式ノズル部1を示している。図1に示すように、このノズル部1は、作業者が手持ちするためのグリップ2と該グリップ2に突設された噴管3と、該噴管3の先端側に間隔をおいて列設された複数個(本例では5個)の噴口10とを備えている。
【0015】
噴口10は、図2及び図3に示すように、ノズル11と、該ノズル11を支持するノズルホルダー12と、ノズルホルダー12を噴管3に接続する継手13と、ノズルホルダー12に着脱可能に取り付けられ、ノズル11の周囲をカバーするノズルカバー14と、ノズルホルダー12の基端側に取り付けられる後部カバー15とを備えている。
【0016】
ノズル11は、噴管3、継手13、ノズルホルダー12等の内部に設けられた流路16を通じて供給される噴霧対象の液体を液滴Dにして噴出するように構成されている。ノズル11は、非導電性材料又は導電性材料のいずれからなっていても構わない。本例のノズル11は、噴口10の重量を軽量化するために、樹脂製となっている。
【0017】
ノズルカバー14は、非導電性材料からなり、略円筒状に形成されている。ノズルカバー14の周壁には、該周壁内外を貫通する複数の通気窓14aが設けられている。このノズルカバー14の先端側は、液滴Dの拡散範囲の外周に内周が近接するように配設されるとともに、噴霧時に液滴Dが付着することにより表面が液体の連続膜Sで覆われることを許容するように形成された環状部17となっている。本例の環状部17は、「噴霧時に液滴Dが付着することにより表面が液体の連続膜Sで覆われることを許容するように形成された」態様として、表面が連続膜Sで覆われることを妨害する構成を特に設けてない態様としている。環状部17の好ましい態様としては、表面が液体に対する親和性を有するように形成された態様を例示する。この具体的な態様としては、特に限定されないが、環状部17の表面に細かい凹凸を設けたり、環状部17を液体に対する親和性を有する材料で形成したりすることを例示する。
【0018】
ノズルカバー14の内周面には、ノズルカバー14の長さ方向(周幅方向)に延びる板状の導電体18が配設されている。この導電体18の表面は、連続膜Sに接触可能に露出する導電面となっている。この導電体18には、グリップ2に内蔵された高電圧発生部(図示略)により発生される高電圧(ノズル11に供給する液体に対する相対的な高電圧)が高圧リード線4及び接点軸5を介して印加されるようになっている。導電体18の設け方としては、本例のようにノズルカバー14に装着する態様のほかに、ノズルカバー14にインサートしたり、非導電樹脂のノズルカバー14に導電樹脂からなるリードを一体形成したりすることを例示する。
【0019】
ノズルホルダー12は、非導電性材料からなり、円筒状のホルダー本体20を備えている。ホルダー本体20の先端側には、該本体よりも小径に形成された中円筒部21と、該中円筒部21よりもさらに小径に形成された小円筒部22が一体形成されている。小円筒部22の先端側には、ノズル11が取り付けられるようになっている。小円筒部22と中円筒部21の間に形成される環状凹部23は、ノズルカバー14の環状部17からノズル11までの沿面の途中部に設けられ、該途中部で連続膜Sを途切れさせることにより環状部17及びノズル11の間での漏電を防止するように構成された、非導電性材料からなる漏電防止部となっている。ホルダー本体20の基端側の開口には、継手13が嵌入されるようになっている。
【0020】
後部カバー15は、非導電性材料からなり、継手13に装着される環状円板部25と、該環状円板部25の外周からノズル11先端側に突設された円筒部26とが一体形成されてなっている。後部カバー15は、ノズルホルダー12の基端側に接触せずに覆い被さるように配設されている。ノズルホルダー12の基端側と後部カバー15との間に形成される環状凹部27は、ノズルカバー14の環状部17からグリップ2までの沿面の途中部に設けられ、該途中部で連続膜Sを途切れさせることにより環状部17及びグリップ2の間での漏電を防止するように構成された、非導電性材料からなる漏電防止部となっている。
【0021】
本発明の噴口10の作用について説明すると、まず、導電体18に対し、前記高電圧を印加するとともに噴霧を開始すると、図3に示すように、ノズル11から噴出する液滴Dがノズルカバー14の環状部17に付着し、該環状部17表面に連続膜Sが形成される。すると、導電体18を介して連続膜Sに前記高電圧が印加されることにより、該連続膜Sが高圧側の電極として作用し、ノズル11から噴出する液滴Dを誘導帯電させ始める。そして、連続膜Sの成長とともに液滴Dの帯電量が多くなって行き、噴霧開始から短時間(本例の場合、液体が展着剤を含む農薬の場合で約1秒、液体が水の場合で約4秒)で、環状部17に電極が設けられている場合と同等の帯電量に、液滴Dが誘導帯電されるようになる。
【0022】
以上のように構成された本例の静電噴霧装置の噴口10によれば、前記高電圧を、導電体18を介して連続膜Sに印加することにより、液滴Dを誘導帯電させるように構成されているので、噴口10に電極を設けなくても、連続膜Sを利用することにより、ノズル11から噴出する液滴Dを誘導帯電させることができる。このため、噴口10の重量を軽量化するとともにコストを低減することができる。特に、本例のように長尺の噴管の先端側に複数の噴口10が列設されたスズラン型のノズル部の場合、噴口10の重量の軽量化により操作性を大幅に向上させることができる。
【0023】
また、環状部17は、表面が液体に対する親和性を有するように形成されていれば、環状部17の表面にスムーズに連続膜Sが形成されるようになり、該連続膜Sによる液滴Dの誘導帯電が始まるまでの時間を短縮することができる。
【0024】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のように、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
(1)単頭口等の他の形態のノズル部の噴口に、本発明を適用すること。
(2)圃場を走行可能に構成された機体に支持された噴口に、本発明を適用すること。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明を具体化した一実施形態に係る噴口を備えた静電噴霧装置のノズル部を示す斜視図である。
【図2】同噴口の分解斜視図である。
【図3】噴霧中における同噴口の断面図である。
【図4】従来の静電噴霧装置のノズル部を示す断面図である。
【図5】従来の別の静電噴霧装置のノズル部を示す断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 ノズル部
2 グリップ
3 噴管
4 高圧リード線
5 接点軸
10 噴口
11 ノズル
12 ノズルホルダー
13 継手
14 ノズルカバー
14a 通気窓
15 後部カバー
16 流路
17 環状部
18 導電体
20 ホルダー本体
21 中円筒部
22 小円筒部
23 環状凹部
25 環状円板部
26 円筒部
27 環状凹部
D 液滴
S 連続膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴霧対象の液体を液滴にして噴出するノズルと、
前記液滴の拡散範囲の外周に内周が近接するように配設されるとともに、噴霧時に前記液滴が付着することにより表面が前記液体の連続膜で覆われることを許容するように形成された、非導電性材料からなる環状部と、
前記連続膜に接触可能に露出する導電面を有する導電体と、
前記環状部から前記ノズルまでの沿面の途中部に設けられ、該途中部で前記連続膜を途切れさせることにより前記環状部及び前記ノズルの間での漏電を防止するように構成された、非導電性材料からなる漏電防止部とを備え、
前記ノズルに供給する前記液体に対する相対的な高電圧を、前記導電体を介して前記連続膜に印加することにより、前記液滴を誘導帯電させるように構成された静電噴霧装置の噴口。
【請求項2】
前記環状部は、表面が前記液体に対する親和性を有するように形成された請求項1記載の静電噴霧装置の噴口。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−131772(P2009−131772A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309549(P2007−309549)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000100469)みのる産業株式会社 (158)
【Fターム(参考)】