静電型トランスデューサ
【課題】静電型トランスデューサにおいて、静電型スピーカとして用いられた場合には、空間へ出力される複数の音を合わせた状態で聴者に聴かせ、静電型マイクロフォンとして用いられた場合には、空間から入力される複数の音を合わせた音声信号に変換すること。
【解決手段】静電型スピーカ1は、振動体10を挟んで対向する第1及び第2の電極対を備える。第1の電極対を構成する電極20U−1,20L−1は、基部20U−A,20L−Aと、基部20U−A,20L−Aから第2の電極対に向かって突出する複数の櫛歯部分を有し、第2の電極対を構成する電極20U−2,20L−2は基部20U−C,0L−Cと、基部20U−C,20L−Cから第1の電極対に向かって突出する1以上の櫛歯部分とを有する。振動体10から見て同じ側にある電極のうち、一方の電極が有する2つの櫛歯部分に挟まれる位置に、他方の電極の櫛歯部分が配置される。
【解決手段】静電型スピーカ1は、振動体10を挟んで対向する第1及び第2の電極対を備える。第1の電極対を構成する電極20U−1,20L−1は、基部20U−A,20L−Aと、基部20U−A,20L−Aから第2の電極対に向かって突出する複数の櫛歯部分を有し、第2の電極対を構成する電極20U−2,20L−2は基部20U−C,0L−Cと、基部20U−C,20L−Cから第1の電極対に向かって突出する1以上の櫛歯部分とを有する。振動体10から見て同じ側にある電極のうち、一方の電極が有する2つの櫛歯部分に挟まれる位置に、他方の電極の櫛歯部分が配置される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電型トランスデューサに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示された静電型スピーカシステムは、一対の静電型スピーカを備えており、向かって左側の静電型スピーカをステレオ信号の左チャンネルの中高域再生用とし、向かって右側の静電型スピーカを同じステレオ信号の右チャンネルの中高域再生用に分けることができる構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−148893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、静電型スピーカは、指向性が強く、出力された音が空間内であまり拡がらないことが知られている。このため、特許文献1に開示された平面スピーカシステムを隣り合うように配置した場合であっても、一方の静電型スピーカから出力された音と、他方の静電型スピーカから出力された音とが、それぞれ分離した状態で聴者に聴こえる場合がある。また、静電型スピーカの構成を、静電型マイクロフォンの構成として用いることも可能である。この場合においても、一方の静電型マイクロフォンの振動板を振動させる音と、他方の静電型マイクロフォンの振動板を振動させる音とが、それぞれ分離した状態で聴者に聴こえる音を示す音声信号に変換されてしまう場合がある。
そこで、本発明は、静電型スピーカとして用いられた場合には、空間へ出力される複数の音を合わせた状態で聴者に聴かせ、静電型マイクロフォンとして用いられた場合には、空間から入力される複数の音を合わせた音声信号に変換する静電型トランスデューサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため本発明は、導電性を有する振動体と、前記振動体を挟んで対向する2つの電極によってそれぞれ構成される第1及び第2の電極対であって、異なるチャンネルの音声信号に応じた電圧が印加可能な第1及び第2の電極対と、絶縁性を有し、前記振動体と各々の前記電極とを離間させて、当該振動体と当該電極との間に空気層を形成する離間部材とを備え、前記振動体から見て同じ側にある電極群のうち、前記第1の電極対を構成する電極は、第1の電極部分と、当該第1の電極部分から前記第2の電極対を構成する電極に向かって突出する複数の第2の電極部分とを有し、前記第2の電極対を構成する電極は、第3の電極部分と、当該第3の電極部分から前記第1の電極対を構成する電極に向かって突出する1以上の第4の電極部分とを有し、前記振動体から見て同じ側にある電極群のうち、2つの前記第2の電極部分によって挟まれる位置に、前記第4の電極部分が配置されていることを特徴とする静電型トランスデューサを提供する。
【0006】
上述した課題を解決するため本発明は、導電性を有する第1の振動体と、前記第1の振動体を挟んで対向する2つの電極によって構成され、第1のチャンネルの音声信号に応じた電圧が印加可能な第1の電極対と、絶縁性を有し、前記第1の電極対を構成する各々の前記電極と前記第1の振動体とを離間させて、当該電極と当該第1の振動体との間に空気層を形成する第1の離間部材とを備える第1の静電放音部と、導電性を有する第2の振動体と、前記第2の振動体を挟んで対向する2つの電極によって構成され、第2のチャンネルの音声信号に応じた電圧が印加可能な第2の電極対と、絶縁性を有し、前記第2の電極対を構成する各々の前記電極と前記第2の振動体とを離間させて、当該電極と当該第2の振動体との間に空気層を形成する第2の離間部材とを備える第2の静電放音部とを具備し、前記第1の電極対を構成する電極は、第1の電極部分と、当該第1の電極部分から突出する複数の第2の電極部分とを有し、前記第2の電極対を構成する電極は、第3の電極部分と、当該第3の電極部分から突出する1以上の第4の電極部分とを有し、前記第2の電極部分が前記第2の電極対を構成する電極に向かって突出し、且つ、前記第4の電極部分が前記第1の電極対を構成する電極に向かって突出し、さらに、2つの前記第2の電極部分によって挟まれる位置に前記第4の電極部分が配置された状態となるようにして、前記第1の静電放音部及び前記第2の静電放音部が支持されることを特徴とする静電型トランスデューサを提供する。
【0007】
本発明においては、前記第1の電極部分からの距離が大きくなるほど、前記第2の電極部分の幅が徐々に小さくなり、前記第3の電極部分からの距離が大きくなるほど、前記第4の電極部分の幅が徐々に小さくなるようにしてもよい。
【0008】
上述した課題を解決するため本発明は、導電性を有する振動体と、前記振動体を挟んで対向する2つの電極によってそれぞれ構成される第N及び第N+1の電極対であって(Nは正の整数)、異なるチャンネルの音声信号に応じた電圧が印加可能な第N及び第N+1の電極対と、絶縁性を有し、前記振動体と各々の前記電極とを離間させて、当該振動体と当該電極との間に空気層を形成する離間部材とを備え、前記振動体から見て同じ側にある電極群のうち、前記第Nの電極対を構成する電極は、第1の電極部分と、当該第1の電極部分から前記第N+1の電極対を構成する電極に向かって突出する複数の第2の電極部分とを有し、前記第N+1の電極対を構成する電極は、第3の電極部分と、当該第3の電極部分から前記第Nの電極対を構成する電極に向かって突出する1以上の第4の電極部分とを有し、前記振動体から見て同じ側にある電極群のうち、2つの前記第2の電極部分によって挟まれる位置に、前記第4の電極部分が配置されており、複数の前記電極対が一方向または面方向に連なっていることを特徴とする静電型トランスデューサを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、静電型トランスデューサにおいて、静電型スピーカとして用いられた場合には、空間へ出力される複数の音を合わせた状態で聴者に聴かせ、静電型マイクロフォンとして用いられた場合には、空間から入力される複数の音を合わせた音声信号に変換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る静電型スピーカの外観を示した斜視図である。
【図2】同実施形態に係る静電型スピーカの分解斜視図である。
【図3】同実施形態に係る静電型スピーカの電気的構成を示した図である。
【図4】同実施形態に係る振動体の形状と、該振動体から発生した音圧を説明する図である。
【図5】同実施形態に係る静電型スピーカを広告媒体として用いた例を説明する図である。
【図6】本発明の変形例に係る振動体の形状と、該振動体から発生した音圧を説明する図である。
【図7】本発明の変形例に係る電極の形状を示す図である。
【図8】本発明の変形例に係る電極の形状を示す図である。
【図9】本発明の変形例に係る静電型スピーカの外観を示した斜視図である。
【図10】本発明の変形例に係る静電型スピーカの外観を示した斜視図である。
【図11】本発明の変形例に係る静電型スピーカの外観を示した斜視図である。
【図12】本発明の変形例に係る静電型スピーカの外観を示した斜視図である。
【図13】本発明の変形例に係る静電型マイクロフォンの電気的構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施形態]
本実施形態においては、静電型トランスデューサを、音声信号を音に変換する静電型スピーカとして適用した例を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る静電型スピーカ1の外観を示した斜視図である。図において、X,Y,Zは3軸の直交座標系の座標軸を意味している。互いに直交するX軸、Y軸はいずれも静電型スピーカ1の放音面と平行であり、Z軸が静電型スピーカ1の放音面に対して垂直である。静電型スピーカ1は、振動体10、電極20U−1,20U―2、電極20L−1,20L−2、スペーサ30U,30Lを備えている。なお、スペーサ30Uとスペーサ30Lの構成及び作用、電極20U−1と電極20L−1の構成及び作用、及び電極20L−2と電極20U―2の構成及び作用は、夫々同じであるため、両者を区別する必要が特に無い場合は「L」および「U」の記載を省略する。また、静電型スピーカ1のサイズの一例を挙げると、Y軸方向の長さは例えば数m程度であり、X軸方向の長さは例えば数十cm程度であるが、図において静電型スピーカ1を構成する各部の寸法は、各部の形状を容易に理解できるように実際の寸法とは異ならせてある。静電型スピーカ1の厚み(Z軸方向の長さ)は、実際には、図1に示したものよりも小さく、静電型スピーカ1は全体としてシート状の形状である。また、図4,6,7,8,12において、「○」の中に「・」が記載されたものは図面の裏から表に向かう矢印を意味し、「○」の中に「×」が記載されたものは図面の表から裏に向かう矢印を意味するものとする。
【0012】
(静電型スピーカ1の各部の構成)
まず、静電型スピーカ1を構成する各部について説明する。図2は、静電型スピーカ1の分解斜視図である。振動体10は、例えば、PET(polyethylene terephthalate、ポリエチレンテレフタレート)またはPP(polypropylene、ポリプロピレン)などの透明
フィルムの表面に、導電性を有する金属の導電膜が形成されたものである。振動体10は、数μm程度の厚さで薄い膜状となっているため、外力を受けると自在に変形する。振動体10は、Z軸方向からみて矩形の形状となっている。
【0013】
スペーサ30は、絶縁性を有する材料で形成されており、Z軸正方向からみて矩形となる枠部材である。このスペーサ30は、振動体10と電極とを離間させて、振動体10と電極20との間に空気層を形成するものであり、離間部材に相当する。スペーサ30のX軸方向の長さと、振動体10のX軸方向の長さは同じとなっている。同様に、スペーサ30のY軸方向の長さと、振動体10のY軸方向の長さは同じとなっている。また、スペーサ30Uとスペーサ30LのZ軸方向の長さは、いずれも同じとなっている。
【0014】
電極20−1及び電極20−2は、所謂パンチングメタルであって、導電性を有する金属板の表面から裏面に貫通する複数の貫通孔が所定間隔で複数設けられたものである。なお、図面においては、この貫通孔の図示を省略している。図1,2に示すように、電極20−1及び電極20−2は、Z軸正方向からみて櫛歯状に形成されている。ここでいう櫛歯状とは、あたかも櫛のように、或る部材の1辺に或る間隔で複数の切り込みが入れられている状態をいう。具体的には、図2に示すように、電極20U−1は、基部20U−Aと、基部20U−Aから電極20U−2に向かって突出する櫛歯部分20U−B1〜B3とを有し、電極20U−2は、基部20U−Cと、基部20U−Cから電極20U−1に向かって突出する櫛歯部分20U−D1〜D3とを有している。また、電極20L−1は、基部20L−Aと、基部20L−Aから電極20L−2に向かって突出する櫛歯部分20L−B1〜B3とを有し、電極20L−2は、基部20L−Cと、基部20L−Cから電極20L−1に向かって突出する櫛歯部分20L−D1〜D3とを有している。なお、基部20U−Aと基部20L−Aの構成及び作用、及び櫛歯部分20U−B1〜B3と櫛歯部分20L−B1〜B3の構成及び作用は、夫々同じであるため、両者を区別する必要が特に無い場合は「L」および「U」の記載を省略する。また、基部20U−Cと基部20L−Cの構成及び作用、及び櫛歯部分20U−D1〜D3と櫛歯部分20L−D1〜D3の構成及び作用は、夫々同じであるため、両者を区別する必要が特に無い場合は「L」および「U」の記載を省略する。なお、基部20−Aは第1の電極部分に相当し、櫛歯部分20−B1〜B3は第2の電極部分に相当する。基部20−Cは第3の電極部分に相当し、櫛歯部分20−D1〜D3は第4の電極部分に相当する。櫛歯部分20−B1〜B3及び櫛歯部分20−D1〜D3は、例えば、Z軸正方向からみて矩形の形状となっている。静電型スピーカ1のY軸方向の長さが例えば3m程度だとした場合、櫛歯部分20−B1〜B3及び櫛歯部分20−D1〜D3のY軸方向の長さは、例えば1m程度である。櫛歯部分20−B1と櫛歯部分20−B2との間のX軸方向の長さは、櫛歯部分20−D1のX軸方向の長さよりも長い。櫛歯部分20−B2と櫛歯部分20−B3との間のX軸方向の長さは、櫛歯部分20−D2のX軸方向の長さよりも長い。そして、櫛歯部分20−D2と櫛歯部分20−D3との間のX軸方向の長さは、櫛歯部分20−B3のX軸方向の長さよりも長い。櫛歯部分20−D2と櫛歯部分20−D1との間のX軸方向の長さは、櫛歯部分20−B2のX軸方向の長さよりも長い。静電型スピーカ1のX軸方向の長さが例えば60cm程度だとした場合、櫛歯部分20−B1〜B3及び櫛歯部分20−D1〜D3のX軸方向の長さは、例えば4〜4.5cm程度である。各櫛歯部分は上記のような関係にあるため、電極20−1及び電極20−2が図のように噛み合わせる(入り組ませる)ことが可能となっている。
【0015】
(静電型スピーカ1の構造)
次に、静電型スピーカ1の構造について説明する。振動体10は、たるみが生じないように張力を掛けられた状態でスペーサ30Uとスペーサ30Lの枠の間に挟まれている。振動体10は、そのX軸方向の縁とY軸方向の縁からそれぞれ内側へ数mmの幅で接着剤が塗布されてスペーサ30Uとスペーサ30Lに固着されている。振動体10の接着剤が塗布されていない部分は、スペーサ30Uとスペーサ30Lに固着されていない。
【0016】
電極20U−1及び電極20U−2は、櫛歯部分20U−B1〜B3と、櫛歯部分20U−D1〜D3とが交互に入り組んだ状態で、互いに接触しないように所定の間隔を開けた状態でスペーサ30Uに固着されている。また、電極20L−1及び電極20L−2においても、電極20U−1及び電極20U−2と同様にして、櫛歯部分20L−B1〜B3と、櫛歯部分20L−D1〜D3とが交互に入り組んだ状態で、互いに接触しないように間隔を開けた状態でスペーサ30Lに固着される。この構成によれば、電極20U−1は振動体10を挟んで電極20L−1と対向し、電極20U−2は振動体10を挟んで電極20L−2と対向する。つまり、電極20U−1及び電極20L−1は、振動体10を挟んで対向する第1電極対に相当し、電極20U−2及び電極20L−2は、振動体10を挟んで対向する第2電極対に相当する。電極20−1の櫛歯部分と、電極20−2の櫛歯部分とを交互に入り組んだように組み合わせた場合において、その全体をZ軸方向から
見た形状は矩形となり、その大きさ(X軸方向、Y軸方向の長さ)は振動体10の大きさと同じである。
【0017】
(静電型スピーカ1の電気的構成)
次に、静電型スピーカ1の電気的構成について説明する。図3は、静電型スピーカ1の電気的構成を示した図である。図3に示したように、静電型スピーカ1は変圧器50−1,50−2と、異なるチャンネルの音声信号が入力可能な入力部60−1,60−2と、振動体10に対して直流バイアスを与えるバイアス電源70とを備えている。
【0018】
バイアス電源70は、正極側が振動体10の導電膜に接続され、負極側が変圧器50−1,50−2の出力側の中点に接続されている。また、変圧器50−1の出力側の一端は電極20U−1に接続され、他端は電極20U−1に対向している電極20L−1に接続されている。そして、変圧器50−1の入力側は入力部60−1に接続されており、入力部60−1に音声信号が入力されると音声信号に応じた電圧が電極20U−1と電極20L−1に印加される。この構成において、入力部60−1に入力された音声信号に応じた電圧が電極20U−1及び電極20L−1に印加されることで、静電型スピーカ1は、プッシュプル型の静電型スピーカとして動作する。また、変圧器50−2の出力側の一端は電極20U−2に接続され、他端は電極20U−2に対向している電極20L−2に接続されている。そして、変圧器50−2の入力側は入力部60−2に接続されており、入力部60−2に音声信号が入力されると音声信号に応じた電圧が電極20U−2と電極20L−2に印加される。この構成において、入力部60−2に入力された音声信号に応じた電圧が、振動体10を挟んで対向する電極20U−2及び電極20L−2に印加されることで、静電型スピーカ1は、プッシュプル型の静電型スピーカとして動作する。
【0019】
(静電型スピーカ1の動作)
次に、静電型スピーカ1の動作について説明する。
入力部60−1に音声信号が入力されると、入力された音声信号に応じた電圧が変圧器50−1から電極20U−1と電極20L−1に印加される。そして、印加された電圧によって電極20U−1と電極20L−1との間に電位差が生じると、振動体10において電極20U−1と電極20L−1の間にある部分(以下、第1部分という)には、電極20U−1と電極20L−1のいずれかの側へ引き寄せられる方向に静電力が働く。
【0020】
例えば、入力部60−1に入力された音声信号が変圧器50−1に供給されたことにより、電極20U−1にプラスの電圧(例えば+100V)が印加され、電極20L−1にマイナスの電圧(例えば−100V)が印加されたものとする。この場合、振動体10にはバイアス電源70によりプラスの電圧(例えば+350V)が印加されているため、電極20U−1にかかる電圧は350−100=250Vとなって引力が弱くなり、電極20L−1にかかる電圧は350−(−100)=450Vとなって引力が強くなる。このため振動体10の第1部分は、引力の差分だけ電極20L−1側に変位する。また、入力部60−1に音声信号が入力された音声信号が変圧器50−1に供給されたことにより、電極20U−1にマイナスの電圧(例えば−100V)が印加され、電極20L−1にプラスの電圧(例えば+100V)が印加されたものとする。この場合、振動体10にはバイアス電源70によりプラスの電圧(例えば+350V)が印加されているため、電極20U−1にかかる電圧は350−(−100)=450Vとなって引力が強くなり、電極20L−1にかかる電圧は350−100=250Vとなって引力が弱くなる。このため振動体10の第1部分は、引力の差分だけ電極20U−1側に変位する。このように、振動体10の第1部分は、入力部60−1に入力された音声信号に応じて、電極20U−1側または電極20L−1側に変位し、その変位する方向が逐次変わることによって振動する。そして、この振動の状態、具体的には周波数や振幅に応じた音が振動体10の第1部分から発生する。発生した音は、少なくとも電極20U−1側または電極20L−1側の一方を通り抜けて静電型スピーカ1の外部に放射される。
【0021】
また、入力部60−2に音声信号が入力されると、入力された音声信号に応じた電圧が変圧器50−2から電極20U−2と電極20L−2に印加される。そして、印加された電圧によって電極20U−2と電極20L−2との間に電位差が生じると、振動体10において電極20U−2と電極20L−2の間にある部分(以下、第2部分という)には、電極20U−2と電極20L−2のいずれかの側へ引き寄せられる方向に静電力が働く。そして、振動体10の第2部分は、振動体10の第1部分と同様にして、入力部60−2に入力された音声信号に応じて、電極20U−2側または電極20L−2側に変位し、その変位する方向が逐次変わることによって振動する。そして、その振動状態(周波数、振幅)に応じた音が振動体10の第2部分から発生する。発生した音は、少なくとも電極20U−2側または電極20L−2側の一方を通り抜けて静電型スピーカ1の外部に放射される。
【0022】
静電型スピーカ1において、互いに異なるチャンネルの音声信号を入力部60−1及び入力部60−2に入力されると、第1部分と第2部分において各音声信号に応じた振動が発生するから、これらの第1部分と第2部分から互いに異なる音を発生させることができる。つまり、静電型スピーカ1は、電極20U−1と電極20L−1および振動体10の第1部分で一つのスピーカユニットとして機能し、電極20U−2と電極20L−2および振動体10の第2部分で一つのスピーカユニットとして機能する。
【0023】
ここで、それぞれ異なるチャンネルの音声信号R及び音声信号Lなるものを想定し、電極20U−1,20L−1に音声信号Rに応じた電圧が印加され、電極20U−2,20L−2に音声信号Lに応じた電圧が印加されたものとする。この場合において、振動体10から発生した音の音圧について図4を用いて説明する。なお、図4(a)に図示された振動体10、電極20−1,20−2の寸法は、構成要素の形状を容易に理解できるように実際の寸法とは異ならせてある。特に、波線を付した箇所については、夫々の構成要素のY軸方向の長さを省略したことを示している。なお、図中の破線は、電極20の櫛歯部分及び基部の形状を表している。これは、以降の図の説明においても同様である。まず、図4(a)に示すように、振動体10の第1部分10−1の形状は、電極20−1の形状と同様にZ軸正方向からみて櫛歯状となっており、振動体10の第2部分10−2の形状は、電極20−2の形状と同様にZ軸正方向からみて櫛歯状となっている。ここにおいて、振動体10の第1部分10−1において、電極20U−1の櫛歯部分20U−B1〜B3と、電極20L−1の櫛歯部分20L−B1〜B3との間にある部分を第1櫛歯領域11−Bとし、残りの部分を第1基部領域11−Aとする。また、振動体10の第2部分10−2において、電極20U−2の櫛歯部分20U−D1〜D3と、電極20L−2の櫛歯部分20L−D1〜D3との間にある部分を第2櫛歯領域11−Dとし、残りの部分を第2基部領域11−Cとする。また、第2基部領域11−CのY軸方向の長さをL1、第1櫛歯領域11−B及び第2櫛歯領域11−DのY軸方向の長さをL2、及び第1基部領域11−AのY軸方向の長さをL3とする。
【0024】
図4(b)において、横軸は、振動体10のいずれかの隅の部分を(ここでは図4(a)の右下隅)をXYZ座標空間の原点としたときのY軸上の位置(mm)を表し、縦軸は、その位置で振動体10から出力される音の音圧(dB)を表している。まず、振動体10の原点からL3の位置に至る領域では、第1基部領域11−Aのみが存在しているから、音声信号Rに応じた音の音圧Rαのみを得ることができる。次に、振動体10のL3の位置からL2+L3の位置に至る領域では、第1櫛歯領域11−Bが存在しているから、音声信号Rに応じた音の音圧Rβを得ることができる。ここで、図4(a)に示したように、第1櫛歯領域11−Bの面積は第1基部領域11−Aよりも面積が狭いから、その面積にほぼ比例して音圧Rβは音圧Rαよりも小さくなる。また、この位置においては、第1櫛歯領域11−Bだけでなく、第2櫛歯領域11−Dも存在しているから、音声信号Lに応じた音の音圧Lβも得ることができる。したがって、振動体10のL3の位置からL2+L3の位置に至る領域においては、音声信号Lに応じた音の音圧Lβ及び音声信号Rに応じた音の音圧Rβを夫々得ることができる。そして、振動体10のL2+L3の位置からL1+L2+L3の位置に至る領域では、第2基部領域11−Cのみが存在しているから、音声信号Lに応じた音の音圧Lαのみを得ることができる。ここで、図4(a)に示したように、第2基部領域11−Cの面積は第2櫛歯領域11−Dの面積よりも広いから、その面積にほぼ比例して音圧Lαは音圧Lβよりも大きくなる。
【0025】
このように、静電型スピーカ1は、振動体10のL3の位置からL2+L3の位置に至る領域に居る人に対し、音声信号Rに応じた音及び音声信号Lに応じた音を聴こえさせることができる。その一方で、静電型スピーカ1は、振動体10の原点の位置からL3の位置に至る領域に居る人に対し、音声信号Rに応じた音を聴こえさせることができ、また、振動体10のL2+L3の位置からL1+L2+L3の位置に至る領域に居る人に対し、音声信号Lに応じた音を聴こえさせることができる。
【0026】
静電型スピーカ1のこのような作用を利用して、静電型スピーカ1を、広告媒体として用いた場合の効果について説明する。図5に示したように、静電型スピーカ1は、その最外面を音響透過性及び絶縁性を有したカバー部材90で覆われている例を想定する。カバー部材90の表面には、広告に関連する画像(広告画像91)が形成されている。そして、静電型スピーカ1は、X軸正方向を上にして壁に貼り付けられている。そして、バックグラウンドミュージックを表す音声信号Rが入力部60−1に入力され、広告画像91に応じた宣伝文句を表す音声信号Lが入力部60−2に入力される。このような状況において、聴者となる通行人が、振動体10の原点付近からY軸正方向に向かって歩行した場合を考える。通行人は、振動体10の原点からL3の位置に至るまでは、静電型スピーカ1から発せられたバックグラウンドミュージック(音声信号R)の音を聴くこととなる。通行人は、その音に気付いて音の発生方向を見たときに、静電型スピーカ1を覆う広告画像91を視認することとなる。次に、通行人が歩行を続けて、振動体10のL3の位置からL2+L3の位置に至る領域に来ると、バックグラウンドミュージックに加えて宣伝文句(音声信号L)を聴くことになる。この際、通行人は広告画像91の内容を見ながら、バックグランドミュージックに加えて、広告画像91に応じた宣伝文句を聴くこととなる。つまり、これは複数チャンネルの音を合わせた音を聴く状態であるから、この通行人がにぎやかな雰囲気の中で広告に対する興味を持つようになることを期待できる。そして、通行人がさらに歩行を続けると、振動体10のL2+L3の位置からL1+L2+L3の位置に至る領域において、バックグラウンドミュージックを除いた、宣伝文句のみを聴くことになる。このように、通行人はにぎやかな雰囲気から一変して広告の宣伝文句のみを聴くことがきる状態、つまりその宣伝文句を注意深く聴き内容を理解しやすい状態になるので、広告の内容そのものに対する理解が深まることが期待できる。このように、静電型スピーカ1は、聴者との相対的な位置関係に応じて聴者に聴かせる音を変化させることで、広告に対する聴者の注意を喚起することができる。
【0027】
[変形例]
上述した実施形態の内容を以下のように変形してもよい。以下に示す各変形例は、必要に応じて組み合わせて実施されてもよい。
【0028】
(変形例1)
上述した実施形態においては、静電型スピーカ1は、その最外面に電極20−1及び電極20−2が配置されているが、音響透過性及び絶縁性を有するカバーで覆われていてもよい。この構成によれば、振動体10から発生した音を静電型スピーカ1の外部に放射することができるとともに、人体が感電する可能性を低くすることができる。
【0029】
(変形例2)
上述した実施形態においては、電極20−1,20−2は互いに接触しないように間隔を開けてスペーサ30に固定されているが、各電極間に絶縁体を配置して隣あう電極が互いに接触しないようにしてもよい。この構成によれば、静電型スピーカ1は、電極同士が接触しても短絡することがない。また、電極20−1,20−2は、絶縁性を有するカバーで覆われていてもよい。この構成によれば、静電型スピーカ1は、人体が感電する可能性を低くすることができる。
【0030】
(変形例3)
上述した実施形態においては、電極20−1,20−2は導電性を有する金属で形成されているが、導電性を有する糸を織った布であってもよい。また、上述した実施形態においては、電極20−1,20−2と振動体10との間にスペーサ30が設けられているが、このスペーサ30に変えて、弾性部材80を設けてもよい。弾性部材80は、弾性及び絶縁性を有し、振動体10と電極20とを離間させて、振動体10と電極20との間に空気層を形成するための離間部材である。弾性部材80は、Z軸方向からみて矩形の形状である。弾性部材80のX軸方向の長さと、振動体10のX軸方向の長さは同じであり、弾性部材80のY軸方向の長さと、振動体10のY軸方向の長さは同じである。この構成によれば、静電型スピーカ1aは、その形状を曲面状にしたり折り曲げたりするなど自在に変形させることができる。
【0031】
(変形例4)
上述した実施形態においては、電極20−1の櫛歯部分20−B1〜B3及び電極20−2の櫛歯部分20−D1〜D3は、Z軸正方向からみて矩形の形状となっていたが、矩形以外の形状であってもよい。例えば、図6(a)に示すように、電極20−1b,20−2bの櫛歯部分が、Z軸正方向からみて三角形の形状であってもよい。なお、図6(a)に図示された振動体10、電極20U−1,20L−1の寸法は、構成要素の形状を容易に理解できるように実際の寸法とは異ならせてある。特に、波線を付した箇所については、夫々の構成要素のY軸方向の長さを省略したことを示している。この場合、電極20−1bの櫛歯部分は、基部から距離が大きくなるほど、その幅が徐々に小さくなり、電極20−2bの櫛歯部分は、基部から距離が大きくなるほど、その幅が徐々に小さくなる。ここでいう幅とは、突出方向に垂直な方向であって、振動体10の振動面に平行な方向の長さをいう。更にこの場合には、振動体10において、電極20U−1bの櫛歯部分と、電極20L−1bの櫛歯部分との間にある部分もZ軸正方向からみて三角形の形状となる。この部分を、第1櫛歯領域11−Bbとする。同様に、振動体10において、電極20U−2bの櫛歯部分と、電極20L−2bの櫛歯部分との間にある部分もZ軸正方向からみて三角形の形状となる。この部分を、第2櫛歯領域11−Dbとする。そして、振動体10において、第1櫛歯領域11−Bb及び第2櫛歯領域11−DbのY軸方向の長さをL2、それ以外の部分(第1基部領域11−Ab及び第2基部領域11−Cb)のY軸方向の長さをY軸正方向に向かって順にL3,L1とする。電極20U−1b,20L−1bには音声信号Rに応じた電圧が印加され、電極20U−2b,20L−2bには音声信号Lに応じた電圧が印加される。この場合において、振動体10から発生した音の音圧について図6(b)を用いて説明する。
【0032】
図6(b)において、横軸は振動体10の原点(ここでは図6(a)の右下隅)からのY軸正方向の位置(mm)を表し、縦軸はその位置で得ることができる音の音圧(デシベル)を表している。振動体10の原点からL3の位置に至る領域では、音声信号Rに応じた音の音圧Rαのみを得ることができる。また、振動体10のL2+L3の位置からL1+L2+L3の位置に至る領域では、音声信号Lに応じた音の音圧Lαのみを得ることができる。そして、振動体10のL3の位置からL2+L3の位置に至る領域においては、まず、第1櫛歯領域11−Bbが存在しているから、音声信号Rに応じた音の音圧を得ることができる。ここで、図6(a)に示したように、第1櫛歯領域11−Bbの面積は、振動体10のL3の位置からY軸正方向に向かうにつれて徐々に小さくなり、振動体10のL2+L3の位置において0となる。したがって、第1櫛歯領域11−Bbの面積にほぼ比例する音声信号Rに応じた音の音圧は、振動体10のL3の位置において音圧Rαであるが、振動体10のL3の位置からL2+L3の位置に向かうにつれて徐々に小さくなり、振動体10のL2+L3の位置において音圧0となる。更に、振動体10のL3の位置からL2+L3の位置においては、第1櫛歯領域11−Bbだけでなく、第2櫛歯領域11−Dbも存在しているから、音声信号Lに応じた音の音圧も得ることができる。ここで、図6(a)に示したように、第2櫛歯領域11−Dbの面積は、振動体10のL2+L3の位置からY軸負方向に向かうにつれて徐々に小さくなり、振動体10のL3の位置において0となる。したがって、第2櫛歯領域11−Dbの面積にほぼ比例する音声信号Lに応じた音の音圧は、振動体10のL2+L3の位置において音圧Lαであるが、振動体10のL2+L3の位置からL3の位置に向かうにつれて徐々に小さくなり、振動体10のL3の位置においては音圧0となる。
【0033】
この電極20−1b,20−2bを備えた静電型スピーカ1bは、振動体10のL3の位置からL2+L3の位置に応じて、音声信号L及び音声信号Rに応じた音の音圧を徐々に変化させることができる。例えば、女性のボーカル音を表す音声信号Rを入力部60−1に入力し、男性のボーカル音を表す音声信号Lを入力部60−2に入力した場合について説明する。静電型スピーカ1bは、X軸正方向を上にして壁に貼り付けられ、聴者となる通行人が、振動体10の原点付近からY軸正方向に向かって歩行した場合を想定する。まず、通行人は、振動体10の原点からL3の位置に至るまでは、静電型スピーカ1bから発せられた女性のボーカル音(音声信号R)を聴くこととなる。つまり、静電型スピーカ1bは、単チャンネルの音のみを聴者に聴かせることになる。次に、通行人が歩行を続けて、振動体10のL3の位置からL2+L3の位置に至る領域に来ると、女性のボーカル音に加えて男性のボーカル音(音声信号L)を聴くことになる。この際、通行人は、振動体10のL3の位置からL2+L3の位置に向かうにつれて、徐々に小さくなる女性のボーカル音と、徐々に大きくなる男性のボーカル音とを聴くことになる。つまり、静電型スピーカ1bは、複数チャンネルの音を合わせた状態で聴者に聴かせることになる。そして、通行人がさらに歩行を続けると、振動体10のL2+L3の位置からL1+L2+L3の位置に至る領域において、女性のボーカル音を除いた、男性のボーカル音のみを聴くことになる。つまり、静電型スピーカ1bは、単チャンネルの音のみを聴者に聴かせることになる。このように、通行人は、Y軸方向への移動により、女性のボーカル音が聞こえる状態から、男性のボーカル音が聞こえる状態へという、音が聞こえる状態の移り変わりを体験することができる。
【0034】
なお、本変形例においては、図6(a)に示すように、電極20−1b,20−2bの櫛歯部分がZ軸正方向からみて三角形の形状であるものとしたが櫛歯部分の形状これに限られない。基部からの距離が大きくなるほど、櫛歯部分の幅が徐々に小さくなればよく、例えば、波形のように曲線の構造を有していてもよい。
【0035】
(変形例5)
上述した実施形態においては、電極20−1の櫛歯部分20−B1〜B3及び電極20−2の櫛歯部分20−D1〜D3は、Y軸方向の長さが夫々同じとなっていたが、Y軸方向の長さが夫々異なっていてもよい。例えば、図7に示すように、X軸正方向に向かうにつれて、電極20−1cの櫛歯部分20−Bc、及び電極20−2cの櫛歯部分20−DcのY軸方向の長さが短くなるようにしてもよい。
【0036】
この電極20−1c,20−2cを備えた静電型スピーカ1cは、電極20−1c,20−2cのX軸正方向が上方向となるように壁などに貼り付けられることにより、聴者の耳の高さに応じて異なる音を発生させることができる。これは、例えば背の低い子供に対しては、音声信号L及び音声信号Rをミキシングした状態を長期間維持したい一方、背の高い大人に対しては、音声信号L及び音声信号Rをミキシングした状態を短期間維持するだけでよいといった利用シーンに適している。
【0037】
(変形例6)
上述した実施形態においては、電極20−1の櫛歯部分20−B1〜B3と、電極20−2の櫛歯部分20−D1〜D3とが入り組んだ状態で、互いに接触しないように間隔を開けた状態でスペーサ30に固着されていた。しかしながら、電極20−1の櫛歯部分の数及び電極20−2の櫛歯部分の数はこれに限られない。例えば、図8(a)に示すように、電極20−1dは、基部20−Ad(第1の電極部分)と、基部20−Adから電極20−2dに向かって突出する複数の櫛歯部分20−Bd(第2の電極部分)を有し、さらに、電極20−2dは、基部20−Cd(第3の電極部分)と、基部20−Cdから電極20−1dに向かって突出する1以上の櫛歯部分20−Dd(第4の電極部分)を有していればよい。そして、更に、振動体10から見て同じ側にある電極群のうち、2つの櫛歯部分20−Bdによって挟まれる位置に、櫛歯部分20−Ddが配置されていればよい。このように構成された電極20−1d及び電極20−2dを備えた静電型スピーカ1dは、出力される音の位相制御を行わなかったとしても、あるときは複数チャンネルの音を合わせた状態で聴者に聴かせ、また、あるときは単チャンネルの音のみを聴者に聴かせたりすることができる。
【0038】
更に、電極20−1の櫛歯部分及び電極20−2の櫛歯部分の間隔は均一でなくてもよい。例えば、図8(b)に示すように、電極20−1eは、基部20−Aeと、基部20−Aeから電極20−2eに向かって突出する櫛歯部分20−B1e,20−B2eを有し、さらに、電極20−2eは、基部20−Ceと、基部20−Ceから電極20−1eに向かって突出する櫛歯部分20−D1e,20−D2eを有している。櫛歯部分20−B1e,20−B2e及び櫛歯部分20−D1e,20−D2eは、Z軸正方向からみて矩形の形状となっており、夫々のX軸方向及びY軸方向の長さが同じである。櫛歯部分20−B1eと櫛歯部分20−D1eのX軸方向の間隔は、櫛歯部分20−B2eと櫛歯部分20−D2eのX軸方向の間隔と同じであり、櫛歯部分20−B1eと櫛歯部分20−D2eのX軸方向の間隔よりも短い。櫛歯部分20−B1eと櫛歯部分20−D2eの間のように、電極20U−1eと電極20L−1e、電極20U−2eと電極20L−2eに挟まれていない振動体10の部分(以降、第3部分13という)は、振動して音を発生することがない。このように構成された電極20−1e及び電極20−2eを備えた静電型スピーカ1eは、第3部分13を設けることで、出力する音の音圧を調整することができる。これは、例えば第3部分13に対向する位置に居る人に対しては音を聴こえさせない状態にしたい一方、第3部分13に対向する位置以外に居る人に対しては音を聴こえさせる状態にしたいといった利用シーンに適している。
【0039】
(変形例7)
上述した実施形態においては、電極20L−1は振動体10を挟んで電極20U−1と対向し、電極20L−2は振動体10を挟んで電極20U−2と対向していた。しかしながら、振動体10を挟んで対向する電極対の数は2つに限定されるものではない。
【0040】
図9は、この変形例7に係る静電型スピーカ1fの外観を示した斜視図である。同図に示すように、図中のY軸方向に向かって3つの電極対(電極20U−1f〜20U−3f,20L−1f〜20L−3f)を配置し、夫々の電極20−1f〜20−3fの櫛歯部分が交互に入り組んだ状態で、互いに接触しないように間隔を開けた状態でスペーサ30U,30Lに固着されていている。振動体10は、たるみが生じないように張力を掛けられた状態でスペーサ30Uとスペーサ30Lの枠の間に配置されている。そして、第1チャンネルの音声信号に応じた電圧が電極20U−1f及び電極20L−1fに印加され、第2チャンネルの音声信号に応じた電圧が電極20U−2f及び電極20L−2fに印加され、第3チャンネルの音声信号に応じた電圧が電極20U−3f及び電極20L−3fに印加される。なお、静電型スピーカ1fは、図中のY軸方向に向かって4つ以上の電極対を配置してもよい。このように構成された静電型スピーカ1fが、X軸正方向を上方向として壁に貼り付けられた場合、人は、Y軸方向への移動により、単音が聴こえる状態から複数音のミキシング音が聴こえる状態へ、または、複数音のミキシング音が聴こえる状態から単音が聴こえる状態へという、音が聴こえる状態の移り変わりを4回以上体験することができる。
【0041】
図10は、この変形例7に係る、別の静電型スピーカ1gの外観を示した斜視図である。同図に示すように、図中のX軸方向とY軸方向に2行2列の電極対(電極20U−1g〜20U−4g,20L−1g〜20L−4g)を配置し、夫々の電極20−1g〜20−4gの櫛歯部分が交互に入り組んだ状態で、互いに接触しないように間隔を開けた状態でスペーサ30U,30Lに固着されていている。振動体10は、たるみが生じないように張力を掛けられた状態でスペーサ30Uとスペーサ30Lの枠の間に配置されている。そして、第1チャンネルの音声信号に応じた電圧が電極20U−1g及び電極20L−1gに印加され、第2チャンネルの音声信号に応じた電圧が電極20U−2g及び電極20L−2gに印加され、第3チャンネルの音声信号に応じた電圧が電極20U−3g及び電極20L−3gに印加され、第4チャンネルの音声信号に応じた電圧が電極20U−4g及び電極20L−4gに印加される。このように構成された静電型スピーカ1gが、Z軸正方向を天井などに貼り付けられた場合、人は、Y軸方向への移動に加え、X軸方向に移動しても、音が聴こえる状態の移り変わりを体験することができる。なお、ここで述べたように、静電型スピーカの配置場所は壁に限らず、例えば天井や床など、どのような場所であってもよい。
【0042】
(変形例8)
上述した実施形態においては、電極20−1の櫛歯部分と、電極20−2の櫛歯部分とが入り組んだ状態でスペーサ30に固着されていた。しかしながら、電極20−1の櫛歯部分と電極20−2の櫛歯部分の間隔を動的に変更できるようにしてもよい。図11は、この変形例8に係る静電型スピーカ1hの外観を示した斜視図である。同図に示すように、静電型スピーカ1hは、第1の静電放音部に相当する放音部40−1と、第2の静電放音部に相当する放音部40−2とを備えている。これら放音部40−1及び放音部40−2はそれぞれが単体で機能し得る静電型スピーカとして構成されている。
【0043】
振動体10−1h,10−2hは、例えば、PETまたはPPなどの透明フィルムの表面に、導電性を有する金属の導電膜を形成したものである。振動体10−1h,10−2hの厚さは、数μm程度の厚さで薄い膜状となっているため、外力を受けると自在に変形する。振動体10−1hはZ軸方向からみて電極20−1の形状と同じであり、振動体10−2hはZ軸方向からみて電極20−2の形状と同じである。弾性部材80U−1h,80L−1h,80U−2h,80L−2hは、絶縁性、弾性及び音響透過性を有する素材で形成されていれば、スポンジ状、シート状、不織布など様々な形態をとることができる。弾性部材80U−1h,80L−1hはZ軸方向からみて電極20−1の形状と同じであり、弾性部材80U−2h,80L−2hはZ軸方向からみて電極20−2の形状と同じである。
【0044】
次に、静電型スピーカ1hの構造について説明する。振動体10−1hは、弾性部材80U−1hと弾性部材80L−1hの間に配置されている。振動体10−1hは、X軸方向の縁とY軸方向の縁からそれぞれ内側へ数mmの幅で接着剤が塗布されて弾性部材80U−1hと弾性部材80L−1hに固着されている。振動体10−1hの接着剤が塗布されていない部分は、弾性部材80U−1hと弾性部材80L−1hに固着されていない。電極20U−1は、振動体10−1hを挟んで電極20L−1と対向した状態で弾性部材80U−1hに固着されており、電極20L−1は、振動体10−1hを挟んで電極20U−1と対向した状態で弾性部材80L−1hに固着されている。電極20−1は、基部20−Aと、基部20−Aから突出する複数の櫛歯部分20−B1〜B3を有している。また、電極20U−2は、振動体10−2hを挟んで電極20L−2と対向した状態で弾性部材80U−2hに固着されており、電極20L−2は、振動体10−2hを挟んで電極20U−2と対向した状態で弾性部材80L−2hに固着されている。電極20−2は、基部20−Cと、基部20−Cから突出する1以上の櫛歯部分20−D1〜D3を有している。このように構成された静電型スピーカ1hは、櫛歯部分20−B1〜B3が電極20−2に向かって突出し、櫛歯部分20−D1〜D3が電極20−1に向かって突出し、2つの櫛歯部分20−Bによって挟まれる位置に櫛歯部分20−Dが配置された状態で、放音部40−1及び放音部40−2を支持することが可能となる。
【0045】
Rチャンネルの音声信号Rに応じた電圧が電極20U−1及び電極20L−1に印加され、Lチャンネルの音声信号Lに応じた電圧が電極20U−2及び電極20L−2に印加された場合、放音部40−1と放音部40−2とがお互いに入り組む長さを動的に変更することで、複数音のミキシング音が聴こえる領域の大きさを変えることができる。例えば図12(a)と図12(b)とを比較すると、図12(a)の放音部40−1と放音部40−2とが互いに入り組む長さは図12(b)のそれよりも短くなっている。つまり、図12(a)に示した静電型スピーカ1hは、図12(b)に示した静電型スピーカ1hよりも、音声信号Rに応じた音及び音声信号Lに応じた音を同時に聴くことができる領域が狭くなっている。この構成によれば、静電型スピーカ1hは、放音部40−1と放音部40−2の入り組む長さを変更することにより、複数音のステレオ音が聴こえる領域の大きさを動的に変更することができる。
【0046】
(変形例9)
なお、上述した実施形態では、静電型スピーカ1が第1電極対に相当する電極20U−1及び電極20L−1と、第2電極対に相当する電極20U−2及び電極20L−2を備える場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、静電型スピーカは、複数の電極対(第1〜第N+1の電極対,Nは正の整数)を備えていてもよい。この場合においても上述した実施形態と同様に、振動体10から見て同じ側にある電極群のうち、第Nの電極対を構成する電極は、第1の電極部分と、当該第1の電極部分から第N+1の電極対を構成する電極に向かって突出する複数の第2の電極部分とを有し、前記第N+1の電極対を構成する電極は、第3の電極部分と、当該第3の電極部分から前記第Nの電極対を構成する電極に向かって突出する1以上の第4の電極部分とを有し、振動体10から見て同じ側にある電極群のうち、2つの前記第2の電極部分によって挟まれる位置に、前記第4の電極部分が配置されており、複数の前記電極対が一方向または面方向に連なるように構成されていればよい。この構成においても、静電型スピーカから出力される複数の音を合わせた状態で聴者に聴かせることができる。
【0047】
(変形例10)
上述した実施形態においては、静電型トランスデューサを、音声信号を音に変換する静電型スピーカとしているが、この構成は、音を音声信号に変換する静電型マイクロフォンとすることも可能である。図13は、本発明の変形例に係る静電型マイクロフォン2の電気的構成を示した図である。本発明の変形例において、静電型マイクロフォン2は、信号の流れる方向が静電型スピーカ1と異なる点および静電型スピーカ1の入力部60−1,60−2に替えて増幅部61−1,61−2を備える点を除いて静電型スピーカ1と同様の構成である。このため、静電型マイクロフォン2が備える部品には静電型スピーカ1が備える部品と同じ符号を付し、その説明を省略する。変圧器50−1の一次側コイルに増幅部61−1が接続され、変圧器50−1の二次側コイルに電極20U−1,20L−1が接続される。また、変圧器50−2の一次側コイルに増幅部61−2が接続され、変圧器50−2の二次側コイルに電極20U−2,20L−2が接続される。増幅部61−1,61−2は、変圧器110の一次側コイルに流れた電流を増幅して、静電型マイクロフォン2で収音された音を表す音声信号として出力する。なお、静電型マイクロフォン2を用いて十分な音声信号を出力するために、変圧器50−1,50−2の変圧比および図示せぬ抵抗器の抵抗値が適宜調整されてもよい。
【0048】
電極20U−1,20L−1と振動体10は距離をおいて向かいあっており、電極20U−1,20L−1と振動体10はそれぞれ平行平板の導体によって構成されたコンデンサとして機能している。振動体10にはバイアス電圧が印加されているため、静電型マイクロフォン2の振動体10に音が到達していない状態においては、このコンデンサに一定の電荷が溜まった状態となる。静電型マイクロフォン2の振動体10に音が到達した場合、到達した音によって振動体10が振動する。振動体10が振動すると、振動体10と電極20U−1,20L−1との間の距離が変わるため、振動体10と電極20U−1,20L−1との間の静電容量に変化が生じる。
【0049】
例えば、振動体10が電極20U−1側に変位すると、電極20U−1と振動体10との間の距離が短くなり、電極20U−1と振動体10との間の静電容量が大きくなる。また、電極20L−1と振動体10との間の距離が長くなり、電極20L−1と振動体10との間の静電容量が小さくなる。このように静電容量が変化すると、電極20U−1と振動体10との電位差が小さくなるように電極20U−1の電位が変化し、電極20L−1と振動体10との電位差が大きくなるように電極20L−1の電位が変化する。ここで、電極20U−1と電極20L−1との間で電位差が生じることにより、変圧器50−1に電流が流れることになる。
【0050】
また、振動体10が電極20L−1側に変位すると、電極20L−1と振動体10との間の距離が短くなり、電極20L−1と振動体10との間の静電容量が大きくなる。また、電極20U−1と振動体10との間の距離が長くなり、電極20U−1と振動体10との間の静電容量が小さくなる。このように静電容量が変化すると、電極20L−1と振動体10との電位差が小さくなるように電極20L−1の電位が変化し、電極20U−1と振動体10との電位差が大きくなるように電極20U−1の電位が変化する。ここで、電極20U−1と電極20L−1との間で電位差が生じ、変圧器50−1には、振動体10が電極20U−1側に変位したときとは逆の方向に電流が流れる。変圧器50−1の二次側コイルに電流が流れると、この電流に対応して変圧器50−1の一次側コイルにも電流が流れる。変圧器50−1の一次側コイルに流れた電流は、増幅部61−1で増幅され、静電型マイクロフォン2で収音された音を表す音声信号として増幅部61−1から出力される。
【0051】
電極20U−2,20L−2と振動体10は距離をおいて向かいあっており、電極20U−2,20L−2と振動体10はそれぞれ平行平板の導体によって構成されたコンデンサとして機能している。静電型マイクロフォン2に到達した音によって振動体10が振動すると、振動体10と電極20U−2,20L−2との間の距離が変わるため、振動体10と電極20U−2,20L−2との間の静電容量に変化が生じる。前述した電極20U−1,20L−1と同様の動作により、変圧器50−2の二次側コイルに電流が流れると、この電流に対応して変圧器50−2の一次側コイルにも電流が流れる。変圧器50−2の一次側コイルに流れた電流は、増幅部61−2で増幅され、静電型マイクロフォン2で収音された音を表す音声信号として増幅部61−2から出力される。
【0052】
なお、本変形例においては、変圧器50−1,50−2のインピーダンスが低い場合には、静電型マイクロフォン2の負荷容量の影響により、低い周波数における周波数特性が低下する場合がある。この場合、変圧器50−1,50−2に替えてインピーダンスの高いアンプを電極に接続することで、周波数特性の低下を抑えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…静電型スピーカ(静電型トランスデューサ)、2…静電型マイクロフォン(静電型トランスデューサ)10…振動体、20…電極、30…スペーサ、40−1,40−2…放音部、50−1,50−2…変圧器、60−1,60−2…入力部、61−1,61−2…増幅部、70…バイアス電源、80…弾性部材、90…カバー部材、91…広告画像、20−B,20−D…櫛歯部分、20−A,20−C…基部
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電型トランスデューサに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示された静電型スピーカシステムは、一対の静電型スピーカを備えており、向かって左側の静電型スピーカをステレオ信号の左チャンネルの中高域再生用とし、向かって右側の静電型スピーカを同じステレオ信号の右チャンネルの中高域再生用に分けることができる構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−148893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、静電型スピーカは、指向性が強く、出力された音が空間内であまり拡がらないことが知られている。このため、特許文献1に開示された平面スピーカシステムを隣り合うように配置した場合であっても、一方の静電型スピーカから出力された音と、他方の静電型スピーカから出力された音とが、それぞれ分離した状態で聴者に聴こえる場合がある。また、静電型スピーカの構成を、静電型マイクロフォンの構成として用いることも可能である。この場合においても、一方の静電型マイクロフォンの振動板を振動させる音と、他方の静電型マイクロフォンの振動板を振動させる音とが、それぞれ分離した状態で聴者に聴こえる音を示す音声信号に変換されてしまう場合がある。
そこで、本発明は、静電型スピーカとして用いられた場合には、空間へ出力される複数の音を合わせた状態で聴者に聴かせ、静電型マイクロフォンとして用いられた場合には、空間から入力される複数の音を合わせた音声信号に変換する静電型トランスデューサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため本発明は、導電性を有する振動体と、前記振動体を挟んで対向する2つの電極によってそれぞれ構成される第1及び第2の電極対であって、異なるチャンネルの音声信号に応じた電圧が印加可能な第1及び第2の電極対と、絶縁性を有し、前記振動体と各々の前記電極とを離間させて、当該振動体と当該電極との間に空気層を形成する離間部材とを備え、前記振動体から見て同じ側にある電極群のうち、前記第1の電極対を構成する電極は、第1の電極部分と、当該第1の電極部分から前記第2の電極対を構成する電極に向かって突出する複数の第2の電極部分とを有し、前記第2の電極対を構成する電極は、第3の電極部分と、当該第3の電極部分から前記第1の電極対を構成する電極に向かって突出する1以上の第4の電極部分とを有し、前記振動体から見て同じ側にある電極群のうち、2つの前記第2の電極部分によって挟まれる位置に、前記第4の電極部分が配置されていることを特徴とする静電型トランスデューサを提供する。
【0006】
上述した課題を解決するため本発明は、導電性を有する第1の振動体と、前記第1の振動体を挟んで対向する2つの電極によって構成され、第1のチャンネルの音声信号に応じた電圧が印加可能な第1の電極対と、絶縁性を有し、前記第1の電極対を構成する各々の前記電極と前記第1の振動体とを離間させて、当該電極と当該第1の振動体との間に空気層を形成する第1の離間部材とを備える第1の静電放音部と、導電性を有する第2の振動体と、前記第2の振動体を挟んで対向する2つの電極によって構成され、第2のチャンネルの音声信号に応じた電圧が印加可能な第2の電極対と、絶縁性を有し、前記第2の電極対を構成する各々の前記電極と前記第2の振動体とを離間させて、当該電極と当該第2の振動体との間に空気層を形成する第2の離間部材とを備える第2の静電放音部とを具備し、前記第1の電極対を構成する電極は、第1の電極部分と、当該第1の電極部分から突出する複数の第2の電極部分とを有し、前記第2の電極対を構成する電極は、第3の電極部分と、当該第3の電極部分から突出する1以上の第4の電極部分とを有し、前記第2の電極部分が前記第2の電極対を構成する電極に向かって突出し、且つ、前記第4の電極部分が前記第1の電極対を構成する電極に向かって突出し、さらに、2つの前記第2の電極部分によって挟まれる位置に前記第4の電極部分が配置された状態となるようにして、前記第1の静電放音部及び前記第2の静電放音部が支持されることを特徴とする静電型トランスデューサを提供する。
【0007】
本発明においては、前記第1の電極部分からの距離が大きくなるほど、前記第2の電極部分の幅が徐々に小さくなり、前記第3の電極部分からの距離が大きくなるほど、前記第4の電極部分の幅が徐々に小さくなるようにしてもよい。
【0008】
上述した課題を解決するため本発明は、導電性を有する振動体と、前記振動体を挟んで対向する2つの電極によってそれぞれ構成される第N及び第N+1の電極対であって(Nは正の整数)、異なるチャンネルの音声信号に応じた電圧が印加可能な第N及び第N+1の電極対と、絶縁性を有し、前記振動体と各々の前記電極とを離間させて、当該振動体と当該電極との間に空気層を形成する離間部材とを備え、前記振動体から見て同じ側にある電極群のうち、前記第Nの電極対を構成する電極は、第1の電極部分と、当該第1の電極部分から前記第N+1の電極対を構成する電極に向かって突出する複数の第2の電極部分とを有し、前記第N+1の電極対を構成する電極は、第3の電極部分と、当該第3の電極部分から前記第Nの電極対を構成する電極に向かって突出する1以上の第4の電極部分とを有し、前記振動体から見て同じ側にある電極群のうち、2つの前記第2の電極部分によって挟まれる位置に、前記第4の電極部分が配置されており、複数の前記電極対が一方向または面方向に連なっていることを特徴とする静電型トランスデューサを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、静電型トランスデューサにおいて、静電型スピーカとして用いられた場合には、空間へ出力される複数の音を合わせた状態で聴者に聴かせ、静電型マイクロフォンとして用いられた場合には、空間から入力される複数の音を合わせた音声信号に変換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る静電型スピーカの外観を示した斜視図である。
【図2】同実施形態に係る静電型スピーカの分解斜視図である。
【図3】同実施形態に係る静電型スピーカの電気的構成を示した図である。
【図4】同実施形態に係る振動体の形状と、該振動体から発生した音圧を説明する図である。
【図5】同実施形態に係る静電型スピーカを広告媒体として用いた例を説明する図である。
【図6】本発明の変形例に係る振動体の形状と、該振動体から発生した音圧を説明する図である。
【図7】本発明の変形例に係る電極の形状を示す図である。
【図8】本発明の変形例に係る電極の形状を示す図である。
【図9】本発明の変形例に係る静電型スピーカの外観を示した斜視図である。
【図10】本発明の変形例に係る静電型スピーカの外観を示した斜視図である。
【図11】本発明の変形例に係る静電型スピーカの外観を示した斜視図である。
【図12】本発明の変形例に係る静電型スピーカの外観を示した斜視図である。
【図13】本発明の変形例に係る静電型マイクロフォンの電気的構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施形態]
本実施形態においては、静電型トランスデューサを、音声信号を音に変換する静電型スピーカとして適用した例を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る静電型スピーカ1の外観を示した斜視図である。図において、X,Y,Zは3軸の直交座標系の座標軸を意味している。互いに直交するX軸、Y軸はいずれも静電型スピーカ1の放音面と平行であり、Z軸が静電型スピーカ1の放音面に対して垂直である。静電型スピーカ1は、振動体10、電極20U−1,20U―2、電極20L−1,20L−2、スペーサ30U,30Lを備えている。なお、スペーサ30Uとスペーサ30Lの構成及び作用、電極20U−1と電極20L−1の構成及び作用、及び電極20L−2と電極20U―2の構成及び作用は、夫々同じであるため、両者を区別する必要が特に無い場合は「L」および「U」の記載を省略する。また、静電型スピーカ1のサイズの一例を挙げると、Y軸方向の長さは例えば数m程度であり、X軸方向の長さは例えば数十cm程度であるが、図において静電型スピーカ1を構成する各部の寸法は、各部の形状を容易に理解できるように実際の寸法とは異ならせてある。静電型スピーカ1の厚み(Z軸方向の長さ)は、実際には、図1に示したものよりも小さく、静電型スピーカ1は全体としてシート状の形状である。また、図4,6,7,8,12において、「○」の中に「・」が記載されたものは図面の裏から表に向かう矢印を意味し、「○」の中に「×」が記載されたものは図面の表から裏に向かう矢印を意味するものとする。
【0012】
(静電型スピーカ1の各部の構成)
まず、静電型スピーカ1を構成する各部について説明する。図2は、静電型スピーカ1の分解斜視図である。振動体10は、例えば、PET(polyethylene terephthalate、ポリエチレンテレフタレート)またはPP(polypropylene、ポリプロピレン)などの透明
フィルムの表面に、導電性を有する金属の導電膜が形成されたものである。振動体10は、数μm程度の厚さで薄い膜状となっているため、外力を受けると自在に変形する。振動体10は、Z軸方向からみて矩形の形状となっている。
【0013】
スペーサ30は、絶縁性を有する材料で形成されており、Z軸正方向からみて矩形となる枠部材である。このスペーサ30は、振動体10と電極とを離間させて、振動体10と電極20との間に空気層を形成するものであり、離間部材に相当する。スペーサ30のX軸方向の長さと、振動体10のX軸方向の長さは同じとなっている。同様に、スペーサ30のY軸方向の長さと、振動体10のY軸方向の長さは同じとなっている。また、スペーサ30Uとスペーサ30LのZ軸方向の長さは、いずれも同じとなっている。
【0014】
電極20−1及び電極20−2は、所謂パンチングメタルであって、導電性を有する金属板の表面から裏面に貫通する複数の貫通孔が所定間隔で複数設けられたものである。なお、図面においては、この貫通孔の図示を省略している。図1,2に示すように、電極20−1及び電極20−2は、Z軸正方向からみて櫛歯状に形成されている。ここでいう櫛歯状とは、あたかも櫛のように、或る部材の1辺に或る間隔で複数の切り込みが入れられている状態をいう。具体的には、図2に示すように、電極20U−1は、基部20U−Aと、基部20U−Aから電極20U−2に向かって突出する櫛歯部分20U−B1〜B3とを有し、電極20U−2は、基部20U−Cと、基部20U−Cから電極20U−1に向かって突出する櫛歯部分20U−D1〜D3とを有している。また、電極20L−1は、基部20L−Aと、基部20L−Aから電極20L−2に向かって突出する櫛歯部分20L−B1〜B3とを有し、電極20L−2は、基部20L−Cと、基部20L−Cから電極20L−1に向かって突出する櫛歯部分20L−D1〜D3とを有している。なお、基部20U−Aと基部20L−Aの構成及び作用、及び櫛歯部分20U−B1〜B3と櫛歯部分20L−B1〜B3の構成及び作用は、夫々同じであるため、両者を区別する必要が特に無い場合は「L」および「U」の記載を省略する。また、基部20U−Cと基部20L−Cの構成及び作用、及び櫛歯部分20U−D1〜D3と櫛歯部分20L−D1〜D3の構成及び作用は、夫々同じであるため、両者を区別する必要が特に無い場合は「L」および「U」の記載を省略する。なお、基部20−Aは第1の電極部分に相当し、櫛歯部分20−B1〜B3は第2の電極部分に相当する。基部20−Cは第3の電極部分に相当し、櫛歯部分20−D1〜D3は第4の電極部分に相当する。櫛歯部分20−B1〜B3及び櫛歯部分20−D1〜D3は、例えば、Z軸正方向からみて矩形の形状となっている。静電型スピーカ1のY軸方向の長さが例えば3m程度だとした場合、櫛歯部分20−B1〜B3及び櫛歯部分20−D1〜D3のY軸方向の長さは、例えば1m程度である。櫛歯部分20−B1と櫛歯部分20−B2との間のX軸方向の長さは、櫛歯部分20−D1のX軸方向の長さよりも長い。櫛歯部分20−B2と櫛歯部分20−B3との間のX軸方向の長さは、櫛歯部分20−D2のX軸方向の長さよりも長い。そして、櫛歯部分20−D2と櫛歯部分20−D3との間のX軸方向の長さは、櫛歯部分20−B3のX軸方向の長さよりも長い。櫛歯部分20−D2と櫛歯部分20−D1との間のX軸方向の長さは、櫛歯部分20−B2のX軸方向の長さよりも長い。静電型スピーカ1のX軸方向の長さが例えば60cm程度だとした場合、櫛歯部分20−B1〜B3及び櫛歯部分20−D1〜D3のX軸方向の長さは、例えば4〜4.5cm程度である。各櫛歯部分は上記のような関係にあるため、電極20−1及び電極20−2が図のように噛み合わせる(入り組ませる)ことが可能となっている。
【0015】
(静電型スピーカ1の構造)
次に、静電型スピーカ1の構造について説明する。振動体10は、たるみが生じないように張力を掛けられた状態でスペーサ30Uとスペーサ30Lの枠の間に挟まれている。振動体10は、そのX軸方向の縁とY軸方向の縁からそれぞれ内側へ数mmの幅で接着剤が塗布されてスペーサ30Uとスペーサ30Lに固着されている。振動体10の接着剤が塗布されていない部分は、スペーサ30Uとスペーサ30Lに固着されていない。
【0016】
電極20U−1及び電極20U−2は、櫛歯部分20U−B1〜B3と、櫛歯部分20U−D1〜D3とが交互に入り組んだ状態で、互いに接触しないように所定の間隔を開けた状態でスペーサ30Uに固着されている。また、電極20L−1及び電極20L−2においても、電極20U−1及び電極20U−2と同様にして、櫛歯部分20L−B1〜B3と、櫛歯部分20L−D1〜D3とが交互に入り組んだ状態で、互いに接触しないように間隔を開けた状態でスペーサ30Lに固着される。この構成によれば、電極20U−1は振動体10を挟んで電極20L−1と対向し、電極20U−2は振動体10を挟んで電極20L−2と対向する。つまり、電極20U−1及び電極20L−1は、振動体10を挟んで対向する第1電極対に相当し、電極20U−2及び電極20L−2は、振動体10を挟んで対向する第2電極対に相当する。電極20−1の櫛歯部分と、電極20−2の櫛歯部分とを交互に入り組んだように組み合わせた場合において、その全体をZ軸方向から
見た形状は矩形となり、その大きさ(X軸方向、Y軸方向の長さ)は振動体10の大きさと同じである。
【0017】
(静電型スピーカ1の電気的構成)
次に、静電型スピーカ1の電気的構成について説明する。図3は、静電型スピーカ1の電気的構成を示した図である。図3に示したように、静電型スピーカ1は変圧器50−1,50−2と、異なるチャンネルの音声信号が入力可能な入力部60−1,60−2と、振動体10に対して直流バイアスを与えるバイアス電源70とを備えている。
【0018】
バイアス電源70は、正極側が振動体10の導電膜に接続され、負極側が変圧器50−1,50−2の出力側の中点に接続されている。また、変圧器50−1の出力側の一端は電極20U−1に接続され、他端は電極20U−1に対向している電極20L−1に接続されている。そして、変圧器50−1の入力側は入力部60−1に接続されており、入力部60−1に音声信号が入力されると音声信号に応じた電圧が電極20U−1と電極20L−1に印加される。この構成において、入力部60−1に入力された音声信号に応じた電圧が電極20U−1及び電極20L−1に印加されることで、静電型スピーカ1は、プッシュプル型の静電型スピーカとして動作する。また、変圧器50−2の出力側の一端は電極20U−2に接続され、他端は電極20U−2に対向している電極20L−2に接続されている。そして、変圧器50−2の入力側は入力部60−2に接続されており、入力部60−2に音声信号が入力されると音声信号に応じた電圧が電極20U−2と電極20L−2に印加される。この構成において、入力部60−2に入力された音声信号に応じた電圧が、振動体10を挟んで対向する電極20U−2及び電極20L−2に印加されることで、静電型スピーカ1は、プッシュプル型の静電型スピーカとして動作する。
【0019】
(静電型スピーカ1の動作)
次に、静電型スピーカ1の動作について説明する。
入力部60−1に音声信号が入力されると、入力された音声信号に応じた電圧が変圧器50−1から電極20U−1と電極20L−1に印加される。そして、印加された電圧によって電極20U−1と電極20L−1との間に電位差が生じると、振動体10において電極20U−1と電極20L−1の間にある部分(以下、第1部分という)には、電極20U−1と電極20L−1のいずれかの側へ引き寄せられる方向に静電力が働く。
【0020】
例えば、入力部60−1に入力された音声信号が変圧器50−1に供給されたことにより、電極20U−1にプラスの電圧(例えば+100V)が印加され、電極20L−1にマイナスの電圧(例えば−100V)が印加されたものとする。この場合、振動体10にはバイアス電源70によりプラスの電圧(例えば+350V)が印加されているため、電極20U−1にかかる電圧は350−100=250Vとなって引力が弱くなり、電極20L−1にかかる電圧は350−(−100)=450Vとなって引力が強くなる。このため振動体10の第1部分は、引力の差分だけ電極20L−1側に変位する。また、入力部60−1に音声信号が入力された音声信号が変圧器50−1に供給されたことにより、電極20U−1にマイナスの電圧(例えば−100V)が印加され、電極20L−1にプラスの電圧(例えば+100V)が印加されたものとする。この場合、振動体10にはバイアス電源70によりプラスの電圧(例えば+350V)が印加されているため、電極20U−1にかかる電圧は350−(−100)=450Vとなって引力が強くなり、電極20L−1にかかる電圧は350−100=250Vとなって引力が弱くなる。このため振動体10の第1部分は、引力の差分だけ電極20U−1側に変位する。このように、振動体10の第1部分は、入力部60−1に入力された音声信号に応じて、電極20U−1側または電極20L−1側に変位し、その変位する方向が逐次変わることによって振動する。そして、この振動の状態、具体的には周波数や振幅に応じた音が振動体10の第1部分から発生する。発生した音は、少なくとも電極20U−1側または電極20L−1側の一方を通り抜けて静電型スピーカ1の外部に放射される。
【0021】
また、入力部60−2に音声信号が入力されると、入力された音声信号に応じた電圧が変圧器50−2から電極20U−2と電極20L−2に印加される。そして、印加された電圧によって電極20U−2と電極20L−2との間に電位差が生じると、振動体10において電極20U−2と電極20L−2の間にある部分(以下、第2部分という)には、電極20U−2と電極20L−2のいずれかの側へ引き寄せられる方向に静電力が働く。そして、振動体10の第2部分は、振動体10の第1部分と同様にして、入力部60−2に入力された音声信号に応じて、電極20U−2側または電極20L−2側に変位し、その変位する方向が逐次変わることによって振動する。そして、その振動状態(周波数、振幅)に応じた音が振動体10の第2部分から発生する。発生した音は、少なくとも電極20U−2側または電極20L−2側の一方を通り抜けて静電型スピーカ1の外部に放射される。
【0022】
静電型スピーカ1において、互いに異なるチャンネルの音声信号を入力部60−1及び入力部60−2に入力されると、第1部分と第2部分において各音声信号に応じた振動が発生するから、これらの第1部分と第2部分から互いに異なる音を発生させることができる。つまり、静電型スピーカ1は、電極20U−1と電極20L−1および振動体10の第1部分で一つのスピーカユニットとして機能し、電極20U−2と電極20L−2および振動体10の第2部分で一つのスピーカユニットとして機能する。
【0023】
ここで、それぞれ異なるチャンネルの音声信号R及び音声信号Lなるものを想定し、電極20U−1,20L−1に音声信号Rに応じた電圧が印加され、電極20U−2,20L−2に音声信号Lに応じた電圧が印加されたものとする。この場合において、振動体10から発生した音の音圧について図4を用いて説明する。なお、図4(a)に図示された振動体10、電極20−1,20−2の寸法は、構成要素の形状を容易に理解できるように実際の寸法とは異ならせてある。特に、波線を付した箇所については、夫々の構成要素のY軸方向の長さを省略したことを示している。なお、図中の破線は、電極20の櫛歯部分及び基部の形状を表している。これは、以降の図の説明においても同様である。まず、図4(a)に示すように、振動体10の第1部分10−1の形状は、電極20−1の形状と同様にZ軸正方向からみて櫛歯状となっており、振動体10の第2部分10−2の形状は、電極20−2の形状と同様にZ軸正方向からみて櫛歯状となっている。ここにおいて、振動体10の第1部分10−1において、電極20U−1の櫛歯部分20U−B1〜B3と、電極20L−1の櫛歯部分20L−B1〜B3との間にある部分を第1櫛歯領域11−Bとし、残りの部分を第1基部領域11−Aとする。また、振動体10の第2部分10−2において、電極20U−2の櫛歯部分20U−D1〜D3と、電極20L−2の櫛歯部分20L−D1〜D3との間にある部分を第2櫛歯領域11−Dとし、残りの部分を第2基部領域11−Cとする。また、第2基部領域11−CのY軸方向の長さをL1、第1櫛歯領域11−B及び第2櫛歯領域11−DのY軸方向の長さをL2、及び第1基部領域11−AのY軸方向の長さをL3とする。
【0024】
図4(b)において、横軸は、振動体10のいずれかの隅の部分を(ここでは図4(a)の右下隅)をXYZ座標空間の原点としたときのY軸上の位置(mm)を表し、縦軸は、その位置で振動体10から出力される音の音圧(dB)を表している。まず、振動体10の原点からL3の位置に至る領域では、第1基部領域11−Aのみが存在しているから、音声信号Rに応じた音の音圧Rαのみを得ることができる。次に、振動体10のL3の位置からL2+L3の位置に至る領域では、第1櫛歯領域11−Bが存在しているから、音声信号Rに応じた音の音圧Rβを得ることができる。ここで、図4(a)に示したように、第1櫛歯領域11−Bの面積は第1基部領域11−Aよりも面積が狭いから、その面積にほぼ比例して音圧Rβは音圧Rαよりも小さくなる。また、この位置においては、第1櫛歯領域11−Bだけでなく、第2櫛歯領域11−Dも存在しているから、音声信号Lに応じた音の音圧Lβも得ることができる。したがって、振動体10のL3の位置からL2+L3の位置に至る領域においては、音声信号Lに応じた音の音圧Lβ及び音声信号Rに応じた音の音圧Rβを夫々得ることができる。そして、振動体10のL2+L3の位置からL1+L2+L3の位置に至る領域では、第2基部領域11−Cのみが存在しているから、音声信号Lに応じた音の音圧Lαのみを得ることができる。ここで、図4(a)に示したように、第2基部領域11−Cの面積は第2櫛歯領域11−Dの面積よりも広いから、その面積にほぼ比例して音圧Lαは音圧Lβよりも大きくなる。
【0025】
このように、静電型スピーカ1は、振動体10のL3の位置からL2+L3の位置に至る領域に居る人に対し、音声信号Rに応じた音及び音声信号Lに応じた音を聴こえさせることができる。その一方で、静電型スピーカ1は、振動体10の原点の位置からL3の位置に至る領域に居る人に対し、音声信号Rに応じた音を聴こえさせることができ、また、振動体10のL2+L3の位置からL1+L2+L3の位置に至る領域に居る人に対し、音声信号Lに応じた音を聴こえさせることができる。
【0026】
静電型スピーカ1のこのような作用を利用して、静電型スピーカ1を、広告媒体として用いた場合の効果について説明する。図5に示したように、静電型スピーカ1は、その最外面を音響透過性及び絶縁性を有したカバー部材90で覆われている例を想定する。カバー部材90の表面には、広告に関連する画像(広告画像91)が形成されている。そして、静電型スピーカ1は、X軸正方向を上にして壁に貼り付けられている。そして、バックグラウンドミュージックを表す音声信号Rが入力部60−1に入力され、広告画像91に応じた宣伝文句を表す音声信号Lが入力部60−2に入力される。このような状況において、聴者となる通行人が、振動体10の原点付近からY軸正方向に向かって歩行した場合を考える。通行人は、振動体10の原点からL3の位置に至るまでは、静電型スピーカ1から発せられたバックグラウンドミュージック(音声信号R)の音を聴くこととなる。通行人は、その音に気付いて音の発生方向を見たときに、静電型スピーカ1を覆う広告画像91を視認することとなる。次に、通行人が歩行を続けて、振動体10のL3の位置からL2+L3の位置に至る領域に来ると、バックグラウンドミュージックに加えて宣伝文句(音声信号L)を聴くことになる。この際、通行人は広告画像91の内容を見ながら、バックグランドミュージックに加えて、広告画像91に応じた宣伝文句を聴くこととなる。つまり、これは複数チャンネルの音を合わせた音を聴く状態であるから、この通行人がにぎやかな雰囲気の中で広告に対する興味を持つようになることを期待できる。そして、通行人がさらに歩行を続けると、振動体10のL2+L3の位置からL1+L2+L3の位置に至る領域において、バックグラウンドミュージックを除いた、宣伝文句のみを聴くことになる。このように、通行人はにぎやかな雰囲気から一変して広告の宣伝文句のみを聴くことがきる状態、つまりその宣伝文句を注意深く聴き内容を理解しやすい状態になるので、広告の内容そのものに対する理解が深まることが期待できる。このように、静電型スピーカ1は、聴者との相対的な位置関係に応じて聴者に聴かせる音を変化させることで、広告に対する聴者の注意を喚起することができる。
【0027】
[変形例]
上述した実施形態の内容を以下のように変形してもよい。以下に示す各変形例は、必要に応じて組み合わせて実施されてもよい。
【0028】
(変形例1)
上述した実施形態においては、静電型スピーカ1は、その最外面に電極20−1及び電極20−2が配置されているが、音響透過性及び絶縁性を有するカバーで覆われていてもよい。この構成によれば、振動体10から発生した音を静電型スピーカ1の外部に放射することができるとともに、人体が感電する可能性を低くすることができる。
【0029】
(変形例2)
上述した実施形態においては、電極20−1,20−2は互いに接触しないように間隔を開けてスペーサ30に固定されているが、各電極間に絶縁体を配置して隣あう電極が互いに接触しないようにしてもよい。この構成によれば、静電型スピーカ1は、電極同士が接触しても短絡することがない。また、電極20−1,20−2は、絶縁性を有するカバーで覆われていてもよい。この構成によれば、静電型スピーカ1は、人体が感電する可能性を低くすることができる。
【0030】
(変形例3)
上述した実施形態においては、電極20−1,20−2は導電性を有する金属で形成されているが、導電性を有する糸を織った布であってもよい。また、上述した実施形態においては、電極20−1,20−2と振動体10との間にスペーサ30が設けられているが、このスペーサ30に変えて、弾性部材80を設けてもよい。弾性部材80は、弾性及び絶縁性を有し、振動体10と電極20とを離間させて、振動体10と電極20との間に空気層を形成するための離間部材である。弾性部材80は、Z軸方向からみて矩形の形状である。弾性部材80のX軸方向の長さと、振動体10のX軸方向の長さは同じであり、弾性部材80のY軸方向の長さと、振動体10のY軸方向の長さは同じである。この構成によれば、静電型スピーカ1aは、その形状を曲面状にしたり折り曲げたりするなど自在に変形させることができる。
【0031】
(変形例4)
上述した実施形態においては、電極20−1の櫛歯部分20−B1〜B3及び電極20−2の櫛歯部分20−D1〜D3は、Z軸正方向からみて矩形の形状となっていたが、矩形以外の形状であってもよい。例えば、図6(a)に示すように、電極20−1b,20−2bの櫛歯部分が、Z軸正方向からみて三角形の形状であってもよい。なお、図6(a)に図示された振動体10、電極20U−1,20L−1の寸法は、構成要素の形状を容易に理解できるように実際の寸法とは異ならせてある。特に、波線を付した箇所については、夫々の構成要素のY軸方向の長さを省略したことを示している。この場合、電極20−1bの櫛歯部分は、基部から距離が大きくなるほど、その幅が徐々に小さくなり、電極20−2bの櫛歯部分は、基部から距離が大きくなるほど、その幅が徐々に小さくなる。ここでいう幅とは、突出方向に垂直な方向であって、振動体10の振動面に平行な方向の長さをいう。更にこの場合には、振動体10において、電極20U−1bの櫛歯部分と、電極20L−1bの櫛歯部分との間にある部分もZ軸正方向からみて三角形の形状となる。この部分を、第1櫛歯領域11−Bbとする。同様に、振動体10において、電極20U−2bの櫛歯部分と、電極20L−2bの櫛歯部分との間にある部分もZ軸正方向からみて三角形の形状となる。この部分を、第2櫛歯領域11−Dbとする。そして、振動体10において、第1櫛歯領域11−Bb及び第2櫛歯領域11−DbのY軸方向の長さをL2、それ以外の部分(第1基部領域11−Ab及び第2基部領域11−Cb)のY軸方向の長さをY軸正方向に向かって順にL3,L1とする。電極20U−1b,20L−1bには音声信号Rに応じた電圧が印加され、電極20U−2b,20L−2bには音声信号Lに応じた電圧が印加される。この場合において、振動体10から発生した音の音圧について図6(b)を用いて説明する。
【0032】
図6(b)において、横軸は振動体10の原点(ここでは図6(a)の右下隅)からのY軸正方向の位置(mm)を表し、縦軸はその位置で得ることができる音の音圧(デシベル)を表している。振動体10の原点からL3の位置に至る領域では、音声信号Rに応じた音の音圧Rαのみを得ることができる。また、振動体10のL2+L3の位置からL1+L2+L3の位置に至る領域では、音声信号Lに応じた音の音圧Lαのみを得ることができる。そして、振動体10のL3の位置からL2+L3の位置に至る領域においては、まず、第1櫛歯領域11−Bbが存在しているから、音声信号Rに応じた音の音圧を得ることができる。ここで、図6(a)に示したように、第1櫛歯領域11−Bbの面積は、振動体10のL3の位置からY軸正方向に向かうにつれて徐々に小さくなり、振動体10のL2+L3の位置において0となる。したがって、第1櫛歯領域11−Bbの面積にほぼ比例する音声信号Rに応じた音の音圧は、振動体10のL3の位置において音圧Rαであるが、振動体10のL3の位置からL2+L3の位置に向かうにつれて徐々に小さくなり、振動体10のL2+L3の位置において音圧0となる。更に、振動体10のL3の位置からL2+L3の位置においては、第1櫛歯領域11−Bbだけでなく、第2櫛歯領域11−Dbも存在しているから、音声信号Lに応じた音の音圧も得ることができる。ここで、図6(a)に示したように、第2櫛歯領域11−Dbの面積は、振動体10のL2+L3の位置からY軸負方向に向かうにつれて徐々に小さくなり、振動体10のL3の位置において0となる。したがって、第2櫛歯領域11−Dbの面積にほぼ比例する音声信号Lに応じた音の音圧は、振動体10のL2+L3の位置において音圧Lαであるが、振動体10のL2+L3の位置からL3の位置に向かうにつれて徐々に小さくなり、振動体10のL3の位置においては音圧0となる。
【0033】
この電極20−1b,20−2bを備えた静電型スピーカ1bは、振動体10のL3の位置からL2+L3の位置に応じて、音声信号L及び音声信号Rに応じた音の音圧を徐々に変化させることができる。例えば、女性のボーカル音を表す音声信号Rを入力部60−1に入力し、男性のボーカル音を表す音声信号Lを入力部60−2に入力した場合について説明する。静電型スピーカ1bは、X軸正方向を上にして壁に貼り付けられ、聴者となる通行人が、振動体10の原点付近からY軸正方向に向かって歩行した場合を想定する。まず、通行人は、振動体10の原点からL3の位置に至るまでは、静電型スピーカ1bから発せられた女性のボーカル音(音声信号R)を聴くこととなる。つまり、静電型スピーカ1bは、単チャンネルの音のみを聴者に聴かせることになる。次に、通行人が歩行を続けて、振動体10のL3の位置からL2+L3の位置に至る領域に来ると、女性のボーカル音に加えて男性のボーカル音(音声信号L)を聴くことになる。この際、通行人は、振動体10のL3の位置からL2+L3の位置に向かうにつれて、徐々に小さくなる女性のボーカル音と、徐々に大きくなる男性のボーカル音とを聴くことになる。つまり、静電型スピーカ1bは、複数チャンネルの音を合わせた状態で聴者に聴かせることになる。そして、通行人がさらに歩行を続けると、振動体10のL2+L3の位置からL1+L2+L3の位置に至る領域において、女性のボーカル音を除いた、男性のボーカル音のみを聴くことになる。つまり、静電型スピーカ1bは、単チャンネルの音のみを聴者に聴かせることになる。このように、通行人は、Y軸方向への移動により、女性のボーカル音が聞こえる状態から、男性のボーカル音が聞こえる状態へという、音が聞こえる状態の移り変わりを体験することができる。
【0034】
なお、本変形例においては、図6(a)に示すように、電極20−1b,20−2bの櫛歯部分がZ軸正方向からみて三角形の形状であるものとしたが櫛歯部分の形状これに限られない。基部からの距離が大きくなるほど、櫛歯部分の幅が徐々に小さくなればよく、例えば、波形のように曲線の構造を有していてもよい。
【0035】
(変形例5)
上述した実施形態においては、電極20−1の櫛歯部分20−B1〜B3及び電極20−2の櫛歯部分20−D1〜D3は、Y軸方向の長さが夫々同じとなっていたが、Y軸方向の長さが夫々異なっていてもよい。例えば、図7に示すように、X軸正方向に向かうにつれて、電極20−1cの櫛歯部分20−Bc、及び電極20−2cの櫛歯部分20−DcのY軸方向の長さが短くなるようにしてもよい。
【0036】
この電極20−1c,20−2cを備えた静電型スピーカ1cは、電極20−1c,20−2cのX軸正方向が上方向となるように壁などに貼り付けられることにより、聴者の耳の高さに応じて異なる音を発生させることができる。これは、例えば背の低い子供に対しては、音声信号L及び音声信号Rをミキシングした状態を長期間維持したい一方、背の高い大人に対しては、音声信号L及び音声信号Rをミキシングした状態を短期間維持するだけでよいといった利用シーンに適している。
【0037】
(変形例6)
上述した実施形態においては、電極20−1の櫛歯部分20−B1〜B3と、電極20−2の櫛歯部分20−D1〜D3とが入り組んだ状態で、互いに接触しないように間隔を開けた状態でスペーサ30に固着されていた。しかしながら、電極20−1の櫛歯部分の数及び電極20−2の櫛歯部分の数はこれに限られない。例えば、図8(a)に示すように、電極20−1dは、基部20−Ad(第1の電極部分)と、基部20−Adから電極20−2dに向かって突出する複数の櫛歯部分20−Bd(第2の電極部分)を有し、さらに、電極20−2dは、基部20−Cd(第3の電極部分)と、基部20−Cdから電極20−1dに向かって突出する1以上の櫛歯部分20−Dd(第4の電極部分)を有していればよい。そして、更に、振動体10から見て同じ側にある電極群のうち、2つの櫛歯部分20−Bdによって挟まれる位置に、櫛歯部分20−Ddが配置されていればよい。このように構成された電極20−1d及び電極20−2dを備えた静電型スピーカ1dは、出力される音の位相制御を行わなかったとしても、あるときは複数チャンネルの音を合わせた状態で聴者に聴かせ、また、あるときは単チャンネルの音のみを聴者に聴かせたりすることができる。
【0038】
更に、電極20−1の櫛歯部分及び電極20−2の櫛歯部分の間隔は均一でなくてもよい。例えば、図8(b)に示すように、電極20−1eは、基部20−Aeと、基部20−Aeから電極20−2eに向かって突出する櫛歯部分20−B1e,20−B2eを有し、さらに、電極20−2eは、基部20−Ceと、基部20−Ceから電極20−1eに向かって突出する櫛歯部分20−D1e,20−D2eを有している。櫛歯部分20−B1e,20−B2e及び櫛歯部分20−D1e,20−D2eは、Z軸正方向からみて矩形の形状となっており、夫々のX軸方向及びY軸方向の長さが同じである。櫛歯部分20−B1eと櫛歯部分20−D1eのX軸方向の間隔は、櫛歯部分20−B2eと櫛歯部分20−D2eのX軸方向の間隔と同じであり、櫛歯部分20−B1eと櫛歯部分20−D2eのX軸方向の間隔よりも短い。櫛歯部分20−B1eと櫛歯部分20−D2eの間のように、電極20U−1eと電極20L−1e、電極20U−2eと電極20L−2eに挟まれていない振動体10の部分(以降、第3部分13という)は、振動して音を発生することがない。このように構成された電極20−1e及び電極20−2eを備えた静電型スピーカ1eは、第3部分13を設けることで、出力する音の音圧を調整することができる。これは、例えば第3部分13に対向する位置に居る人に対しては音を聴こえさせない状態にしたい一方、第3部分13に対向する位置以外に居る人に対しては音を聴こえさせる状態にしたいといった利用シーンに適している。
【0039】
(変形例7)
上述した実施形態においては、電極20L−1は振動体10を挟んで電極20U−1と対向し、電極20L−2は振動体10を挟んで電極20U−2と対向していた。しかしながら、振動体10を挟んで対向する電極対の数は2つに限定されるものではない。
【0040】
図9は、この変形例7に係る静電型スピーカ1fの外観を示した斜視図である。同図に示すように、図中のY軸方向に向かって3つの電極対(電極20U−1f〜20U−3f,20L−1f〜20L−3f)を配置し、夫々の電極20−1f〜20−3fの櫛歯部分が交互に入り組んだ状態で、互いに接触しないように間隔を開けた状態でスペーサ30U,30Lに固着されていている。振動体10は、たるみが生じないように張力を掛けられた状態でスペーサ30Uとスペーサ30Lの枠の間に配置されている。そして、第1チャンネルの音声信号に応じた電圧が電極20U−1f及び電極20L−1fに印加され、第2チャンネルの音声信号に応じた電圧が電極20U−2f及び電極20L−2fに印加され、第3チャンネルの音声信号に応じた電圧が電極20U−3f及び電極20L−3fに印加される。なお、静電型スピーカ1fは、図中のY軸方向に向かって4つ以上の電極対を配置してもよい。このように構成された静電型スピーカ1fが、X軸正方向を上方向として壁に貼り付けられた場合、人は、Y軸方向への移動により、単音が聴こえる状態から複数音のミキシング音が聴こえる状態へ、または、複数音のミキシング音が聴こえる状態から単音が聴こえる状態へという、音が聴こえる状態の移り変わりを4回以上体験することができる。
【0041】
図10は、この変形例7に係る、別の静電型スピーカ1gの外観を示した斜視図である。同図に示すように、図中のX軸方向とY軸方向に2行2列の電極対(電極20U−1g〜20U−4g,20L−1g〜20L−4g)を配置し、夫々の電極20−1g〜20−4gの櫛歯部分が交互に入り組んだ状態で、互いに接触しないように間隔を開けた状態でスペーサ30U,30Lに固着されていている。振動体10は、たるみが生じないように張力を掛けられた状態でスペーサ30Uとスペーサ30Lの枠の間に配置されている。そして、第1チャンネルの音声信号に応じた電圧が電極20U−1g及び電極20L−1gに印加され、第2チャンネルの音声信号に応じた電圧が電極20U−2g及び電極20L−2gに印加され、第3チャンネルの音声信号に応じた電圧が電極20U−3g及び電極20L−3gに印加され、第4チャンネルの音声信号に応じた電圧が電極20U−4g及び電極20L−4gに印加される。このように構成された静電型スピーカ1gが、Z軸正方向を天井などに貼り付けられた場合、人は、Y軸方向への移動に加え、X軸方向に移動しても、音が聴こえる状態の移り変わりを体験することができる。なお、ここで述べたように、静電型スピーカの配置場所は壁に限らず、例えば天井や床など、どのような場所であってもよい。
【0042】
(変形例8)
上述した実施形態においては、電極20−1の櫛歯部分と、電極20−2の櫛歯部分とが入り組んだ状態でスペーサ30に固着されていた。しかしながら、電極20−1の櫛歯部分と電極20−2の櫛歯部分の間隔を動的に変更できるようにしてもよい。図11は、この変形例8に係る静電型スピーカ1hの外観を示した斜視図である。同図に示すように、静電型スピーカ1hは、第1の静電放音部に相当する放音部40−1と、第2の静電放音部に相当する放音部40−2とを備えている。これら放音部40−1及び放音部40−2はそれぞれが単体で機能し得る静電型スピーカとして構成されている。
【0043】
振動体10−1h,10−2hは、例えば、PETまたはPPなどの透明フィルムの表面に、導電性を有する金属の導電膜を形成したものである。振動体10−1h,10−2hの厚さは、数μm程度の厚さで薄い膜状となっているため、外力を受けると自在に変形する。振動体10−1hはZ軸方向からみて電極20−1の形状と同じであり、振動体10−2hはZ軸方向からみて電極20−2の形状と同じである。弾性部材80U−1h,80L−1h,80U−2h,80L−2hは、絶縁性、弾性及び音響透過性を有する素材で形成されていれば、スポンジ状、シート状、不織布など様々な形態をとることができる。弾性部材80U−1h,80L−1hはZ軸方向からみて電極20−1の形状と同じであり、弾性部材80U−2h,80L−2hはZ軸方向からみて電極20−2の形状と同じである。
【0044】
次に、静電型スピーカ1hの構造について説明する。振動体10−1hは、弾性部材80U−1hと弾性部材80L−1hの間に配置されている。振動体10−1hは、X軸方向の縁とY軸方向の縁からそれぞれ内側へ数mmの幅で接着剤が塗布されて弾性部材80U−1hと弾性部材80L−1hに固着されている。振動体10−1hの接着剤が塗布されていない部分は、弾性部材80U−1hと弾性部材80L−1hに固着されていない。電極20U−1は、振動体10−1hを挟んで電極20L−1と対向した状態で弾性部材80U−1hに固着されており、電極20L−1は、振動体10−1hを挟んで電極20U−1と対向した状態で弾性部材80L−1hに固着されている。電極20−1は、基部20−Aと、基部20−Aから突出する複数の櫛歯部分20−B1〜B3を有している。また、電極20U−2は、振動体10−2hを挟んで電極20L−2と対向した状態で弾性部材80U−2hに固着されており、電極20L−2は、振動体10−2hを挟んで電極20U−2と対向した状態で弾性部材80L−2hに固着されている。電極20−2は、基部20−Cと、基部20−Cから突出する1以上の櫛歯部分20−D1〜D3を有している。このように構成された静電型スピーカ1hは、櫛歯部分20−B1〜B3が電極20−2に向かって突出し、櫛歯部分20−D1〜D3が電極20−1に向かって突出し、2つの櫛歯部分20−Bによって挟まれる位置に櫛歯部分20−Dが配置された状態で、放音部40−1及び放音部40−2を支持することが可能となる。
【0045】
Rチャンネルの音声信号Rに応じた電圧が電極20U−1及び電極20L−1に印加され、Lチャンネルの音声信号Lに応じた電圧が電極20U−2及び電極20L−2に印加された場合、放音部40−1と放音部40−2とがお互いに入り組む長さを動的に変更することで、複数音のミキシング音が聴こえる領域の大きさを変えることができる。例えば図12(a)と図12(b)とを比較すると、図12(a)の放音部40−1と放音部40−2とが互いに入り組む長さは図12(b)のそれよりも短くなっている。つまり、図12(a)に示した静電型スピーカ1hは、図12(b)に示した静電型スピーカ1hよりも、音声信号Rに応じた音及び音声信号Lに応じた音を同時に聴くことができる領域が狭くなっている。この構成によれば、静電型スピーカ1hは、放音部40−1と放音部40−2の入り組む長さを変更することにより、複数音のステレオ音が聴こえる領域の大きさを動的に変更することができる。
【0046】
(変形例9)
なお、上述した実施形態では、静電型スピーカ1が第1電極対に相当する電極20U−1及び電極20L−1と、第2電極対に相当する電極20U−2及び電極20L−2を備える場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、静電型スピーカは、複数の電極対(第1〜第N+1の電極対,Nは正の整数)を備えていてもよい。この場合においても上述した実施形態と同様に、振動体10から見て同じ側にある電極群のうち、第Nの電極対を構成する電極は、第1の電極部分と、当該第1の電極部分から第N+1の電極対を構成する電極に向かって突出する複数の第2の電極部分とを有し、前記第N+1の電極対を構成する電極は、第3の電極部分と、当該第3の電極部分から前記第Nの電極対を構成する電極に向かって突出する1以上の第4の電極部分とを有し、振動体10から見て同じ側にある電極群のうち、2つの前記第2の電極部分によって挟まれる位置に、前記第4の電極部分が配置されており、複数の前記電極対が一方向または面方向に連なるように構成されていればよい。この構成においても、静電型スピーカから出力される複数の音を合わせた状態で聴者に聴かせることができる。
【0047】
(変形例10)
上述した実施形態においては、静電型トランスデューサを、音声信号を音に変換する静電型スピーカとしているが、この構成は、音を音声信号に変換する静電型マイクロフォンとすることも可能である。図13は、本発明の変形例に係る静電型マイクロフォン2の電気的構成を示した図である。本発明の変形例において、静電型マイクロフォン2は、信号の流れる方向が静電型スピーカ1と異なる点および静電型スピーカ1の入力部60−1,60−2に替えて増幅部61−1,61−2を備える点を除いて静電型スピーカ1と同様の構成である。このため、静電型マイクロフォン2が備える部品には静電型スピーカ1が備える部品と同じ符号を付し、その説明を省略する。変圧器50−1の一次側コイルに増幅部61−1が接続され、変圧器50−1の二次側コイルに電極20U−1,20L−1が接続される。また、変圧器50−2の一次側コイルに増幅部61−2が接続され、変圧器50−2の二次側コイルに電極20U−2,20L−2が接続される。増幅部61−1,61−2は、変圧器110の一次側コイルに流れた電流を増幅して、静電型マイクロフォン2で収音された音を表す音声信号として出力する。なお、静電型マイクロフォン2を用いて十分な音声信号を出力するために、変圧器50−1,50−2の変圧比および図示せぬ抵抗器の抵抗値が適宜調整されてもよい。
【0048】
電極20U−1,20L−1と振動体10は距離をおいて向かいあっており、電極20U−1,20L−1と振動体10はそれぞれ平行平板の導体によって構成されたコンデンサとして機能している。振動体10にはバイアス電圧が印加されているため、静電型マイクロフォン2の振動体10に音が到達していない状態においては、このコンデンサに一定の電荷が溜まった状態となる。静電型マイクロフォン2の振動体10に音が到達した場合、到達した音によって振動体10が振動する。振動体10が振動すると、振動体10と電極20U−1,20L−1との間の距離が変わるため、振動体10と電極20U−1,20L−1との間の静電容量に変化が生じる。
【0049】
例えば、振動体10が電極20U−1側に変位すると、電極20U−1と振動体10との間の距離が短くなり、電極20U−1と振動体10との間の静電容量が大きくなる。また、電極20L−1と振動体10との間の距離が長くなり、電極20L−1と振動体10との間の静電容量が小さくなる。このように静電容量が変化すると、電極20U−1と振動体10との電位差が小さくなるように電極20U−1の電位が変化し、電極20L−1と振動体10との電位差が大きくなるように電極20L−1の電位が変化する。ここで、電極20U−1と電極20L−1との間で電位差が生じることにより、変圧器50−1に電流が流れることになる。
【0050】
また、振動体10が電極20L−1側に変位すると、電極20L−1と振動体10との間の距離が短くなり、電極20L−1と振動体10との間の静電容量が大きくなる。また、電極20U−1と振動体10との間の距離が長くなり、電極20U−1と振動体10との間の静電容量が小さくなる。このように静電容量が変化すると、電極20L−1と振動体10との電位差が小さくなるように電極20L−1の電位が変化し、電極20U−1と振動体10との電位差が大きくなるように電極20U−1の電位が変化する。ここで、電極20U−1と電極20L−1との間で電位差が生じ、変圧器50−1には、振動体10が電極20U−1側に変位したときとは逆の方向に電流が流れる。変圧器50−1の二次側コイルに電流が流れると、この電流に対応して変圧器50−1の一次側コイルにも電流が流れる。変圧器50−1の一次側コイルに流れた電流は、増幅部61−1で増幅され、静電型マイクロフォン2で収音された音を表す音声信号として増幅部61−1から出力される。
【0051】
電極20U−2,20L−2と振動体10は距離をおいて向かいあっており、電極20U−2,20L−2と振動体10はそれぞれ平行平板の導体によって構成されたコンデンサとして機能している。静電型マイクロフォン2に到達した音によって振動体10が振動すると、振動体10と電極20U−2,20L−2との間の距離が変わるため、振動体10と電極20U−2,20L−2との間の静電容量に変化が生じる。前述した電極20U−1,20L−1と同様の動作により、変圧器50−2の二次側コイルに電流が流れると、この電流に対応して変圧器50−2の一次側コイルにも電流が流れる。変圧器50−2の一次側コイルに流れた電流は、増幅部61−2で増幅され、静電型マイクロフォン2で収音された音を表す音声信号として増幅部61−2から出力される。
【0052】
なお、本変形例においては、変圧器50−1,50−2のインピーダンスが低い場合には、静電型マイクロフォン2の負荷容量の影響により、低い周波数における周波数特性が低下する場合がある。この場合、変圧器50−1,50−2に替えてインピーダンスの高いアンプを電極に接続することで、周波数特性の低下を抑えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…静電型スピーカ(静電型トランスデューサ)、2…静電型マイクロフォン(静電型トランスデューサ)10…振動体、20…電極、30…スペーサ、40−1,40−2…放音部、50−1,50−2…変圧器、60−1,60−2…入力部、61−1,61−2…増幅部、70…バイアス電源、80…弾性部材、90…カバー部材、91…広告画像、20−B,20−D…櫛歯部分、20−A,20−C…基部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する振動体と、
前記振動体を挟んで対向する2つの電極によってそれぞれ構成される第1及び第2の電極対であって、異なるチャンネルの音声信号に応じた電圧が印加可能な第1及び第2の電極対と、
絶縁性を有し、前記振動体と各々の前記電極とを離間させて、当該振動体と当該電極との間に空気層を形成する離間部材とを備え、
前記振動体から見て同じ側にある電極群のうち、前記第1の電極対を構成する電極は、第1の電極部分と、当該第1の電極部分から前記第2の電極対を構成する電極に向かって突出する複数の第2の電極部分とを有し、前記第2の電極対を構成する電極は、第3の電極部分と、当該第3の電極部分から前記第1の電極対を構成する電極に向かって突出する1以上の第4の電極部分とを有し、
前記振動体から見て同じ側にある電極群のうち、2つの前記第2の電極部分によって挟まれる位置に、前記第4の電極部分が配置されていることを特徴とする静電型トランスデューサ。
【請求項2】
導電性を有する第1の振動体と、前記第1の振動体を挟んで対向する2つの電極によって構成され、第1のチャンネルの音声信号に応じた電圧が印加可能な第1の電極対と、絶縁性を有し、前記第1の電極対を構成する各々の前記電極と前記第1の振動体とを離間させて、当該電極と当該第1の振動体との間に空気層を形成する第1の離間部材とを備える第1の静電放音部と、
導電性を有する第2の振動体と、前記第2の振動体を挟んで対向する2つの電極によって構成され、第2のチャンネルの音声信号に応じた電圧が印加可能な第2の電極対と、絶縁性を有し、前記第2の電極対を構成する各々の前記電極と前記第2の振動体とを離間させて、当該電極と当該第2の振動体との間に空気層を形成する第2の離間部材とを備える第2の静電放音部と
を具備し、
前記第1の電極対を構成する電極は、第1の電極部分と、当該第1の電極部分から突出する複数の第2の電極部分とを有し、
前記第2の電極対を構成する電極は、第3の電極部分と、当該第3の電極部分から突出する1以上の第4の電極部分とを有し、
前記第2の電極部分が前記第2の電極対を構成する電極に向かって突出し、且つ、前記第4の電極部分が前記第1の電極対を構成する電極に向かって突出し、さらに、2つの前記第2の電極部分によって挟まれる位置に前記第4の電極部分が配置された状態となるようにして、前記第1の静電放音部及び前記第2の静電放音部が支持される
ことを特徴とする静電型トランスデューサ。
【請求項3】
前記第1の電極部分からの距離が大きくなるほど、前記第2の電極部分の幅が徐々に小さくなり、
前記第3の電極部分からの距離が大きくなるほど、前記第4の電極部分の幅が徐々に小さくなる
ことを特徴とする請求項1または2記載の静電型トランスデューサ。
【請求項4】
導電性を有する振動体と、
前記振動体を挟んで対向する2つの電極によってそれぞれ構成される第N及び第N+1の電極対であって(Nは正の整数)、異なるチャンネルの音声信号に応じた電圧が印加可能な第N及び第N+1の電極対と、
絶縁性を有し、前記振動体と各々の前記電極とを離間させて、当該振動体と当該電極との間に空気層を形成する離間部材とを備え、
前記振動体から見て同じ側にある電極群のうち、前記第Nの電極対を構成する電極は、第1の電極部分と、当該第1の電極部分から前記第N+1の電極対を構成する電極に向かって突出する複数の第2の電極部分とを有し、前記第N+1の電極対を構成する電極は、第3の電極部分と、当該第3の電極部分から前記第Nの電極対を構成する電極に向かって突出する1以上の第4の電極部分とを有し、
前記振動体から見て同じ側にある電極群のうち、2つの前記第2の電極部分によって挟まれる位置に、前記第4の電極部分が配置されており、
複数の前記電極対が一方向または面方向に連なっている
ことを特徴とする静電型トランスデューサ。
【請求項1】
導電性を有する振動体と、
前記振動体を挟んで対向する2つの電極によってそれぞれ構成される第1及び第2の電極対であって、異なるチャンネルの音声信号に応じた電圧が印加可能な第1及び第2の電極対と、
絶縁性を有し、前記振動体と各々の前記電極とを離間させて、当該振動体と当該電極との間に空気層を形成する離間部材とを備え、
前記振動体から見て同じ側にある電極群のうち、前記第1の電極対を構成する電極は、第1の電極部分と、当該第1の電極部分から前記第2の電極対を構成する電極に向かって突出する複数の第2の電極部分とを有し、前記第2の電極対を構成する電極は、第3の電極部分と、当該第3の電極部分から前記第1の電極対を構成する電極に向かって突出する1以上の第4の電極部分とを有し、
前記振動体から見て同じ側にある電極群のうち、2つの前記第2の電極部分によって挟まれる位置に、前記第4の電極部分が配置されていることを特徴とする静電型トランスデューサ。
【請求項2】
導電性を有する第1の振動体と、前記第1の振動体を挟んで対向する2つの電極によって構成され、第1のチャンネルの音声信号に応じた電圧が印加可能な第1の電極対と、絶縁性を有し、前記第1の電極対を構成する各々の前記電極と前記第1の振動体とを離間させて、当該電極と当該第1の振動体との間に空気層を形成する第1の離間部材とを備える第1の静電放音部と、
導電性を有する第2の振動体と、前記第2の振動体を挟んで対向する2つの電極によって構成され、第2のチャンネルの音声信号に応じた電圧が印加可能な第2の電極対と、絶縁性を有し、前記第2の電極対を構成する各々の前記電極と前記第2の振動体とを離間させて、当該電極と当該第2の振動体との間に空気層を形成する第2の離間部材とを備える第2の静電放音部と
を具備し、
前記第1の電極対を構成する電極は、第1の電極部分と、当該第1の電極部分から突出する複数の第2の電極部分とを有し、
前記第2の電極対を構成する電極は、第3の電極部分と、当該第3の電極部分から突出する1以上の第4の電極部分とを有し、
前記第2の電極部分が前記第2の電極対を構成する電極に向かって突出し、且つ、前記第4の電極部分が前記第1の電極対を構成する電極に向かって突出し、さらに、2つの前記第2の電極部分によって挟まれる位置に前記第4の電極部分が配置された状態となるようにして、前記第1の静電放音部及び前記第2の静電放音部が支持される
ことを特徴とする静電型トランスデューサ。
【請求項3】
前記第1の電極部分からの距離が大きくなるほど、前記第2の電極部分の幅が徐々に小さくなり、
前記第3の電極部分からの距離が大きくなるほど、前記第4の電極部分の幅が徐々に小さくなる
ことを特徴とする請求項1または2記載の静電型トランスデューサ。
【請求項4】
導電性を有する振動体と、
前記振動体を挟んで対向する2つの電極によってそれぞれ構成される第N及び第N+1の電極対であって(Nは正の整数)、異なるチャンネルの音声信号に応じた電圧が印加可能な第N及び第N+1の電極対と、
絶縁性を有し、前記振動体と各々の前記電極とを離間させて、当該振動体と当該電極との間に空気層を形成する離間部材とを備え、
前記振動体から見て同じ側にある電極群のうち、前記第Nの電極対を構成する電極は、第1の電極部分と、当該第1の電極部分から前記第N+1の電極対を構成する電極に向かって突出する複数の第2の電極部分とを有し、前記第N+1の電極対を構成する電極は、第3の電極部分と、当該第3の電極部分から前記第Nの電極対を構成する電極に向かって突出する1以上の第4の電極部分とを有し、
前記振動体から見て同じ側にある電極群のうち、2つの前記第2の電極部分によって挟まれる位置に、前記第4の電極部分が配置されており、
複数の前記電極対が一方向または面方向に連なっている
ことを特徴とする静電型トランスデューサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−213150(P2012−213150A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−64138(P2012−64138)
【出願日】平成24年3月21日(2012.3.21)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月21日(2012.3.21)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】
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