説明

静電塗装用スプレーガン及び静電塗装システム

【課題】塗装作業中に作業者に対して確実に報知することができ、安全且つ安定した静電塗装を行うことができる静電塗装用スプレーガン及び静電塗装システムを提供する。
【解決手段】スプレーガン12は、ガン本体31と、このガン本体に備えられたグリップ部32と、塗料を帯電させるための直流高電圧を発生する高電圧発生装置15と、当該高電圧発生装置15により発生させた高電圧が印加される電極16と、グリップ部32に設けられた振動モータ17とを具備する。このスプレーガン12では、振動モータ17の振動動作に基づきグリップ部32を振動させて使用者に対する報知を行うように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電させた塗料を噴霧して被塗物に塗着させる静電塗装用スプレーガン及び静電塗装システムに関する。
【背景技術】
【0002】
静電塗装は、例えば車体等の被塗物と塗装装置との間に高電圧を加えて静電界を形成すると共に塗料粒子を帯電させて噴出することによって、静電引力により被塗物に塗料を吸着させる塗装方法である。この静電塗装に用いられるスプレーガンは、ガン本体の塗料流路内に電極を有しており、この電極に高電圧を供給することによって、電極と被塗物との間に高電圧を印加し、塗料粒子を帯電させるようになっている。図5は、この種の従来の静電塗装システム1の構成を概略的に示している。
【0003】
即ち、静電塗装システム1は、図示しない直流高電圧発生回路(これをカスケードと称す)を内蔵したスプレーガン2と、このスプレーガン2に接続される制御装置3とを備えて構成されている。制御装置3は、例えば、商用電源等の外部電源4に接続され、そのAC100Vの商用電源を比較的低い電圧の高周波の交流電圧(例えばAC24V/20kHz)に変換する電源回路(図示せず)を備えている。電源回路により発生させた交流電圧は、ケーブル4aを介して、スプレーガン2の前記カスケードに供給されるようになっている。また、制御装置3には、コンプレッサ等の高圧エア供給源5が接続され、供給された高圧エアはレギュレータ5bにより所定の圧力に調整され、エアホース5aを介してスプレーガン2に供給される。また、スプレーガン2には、塗料供給源6から塗料ホース6aを介して塗料が供給される。
【0004】
静電塗装が行われる塗装ブースには、当該塗装ブースを仕切る壁7に防爆型のスイッチボックス8が設けられている。スイッチボックス8は、作業者に対する報知手段として表示ランプ8aやブザー(図示せず)を有しており、ケーブル9介して制御装置3に接続されている。そして、制御装置3は、静電塗装の際、表示ランプ8aを点灯させることで前記カスケードにおける高電圧の発生を報知し、異常が発生した場合にはブザーを鳴動させて当該異常を報知するようになっている。
【0005】
しかしながら、高電圧の発生の有無の確認は、作業者が塗装中に塗装ブースの壁7側の表示ランプ8aを見なければならず、事実上、被塗物から目を離すことになり、塗装作業に影響を来たす虞がある。そこで、例えば特許文献1には、静電塗装システムにおいて、スプレーガン2の如き外観をなすアナライザに対して、電圧点検ないし電流確認のための電流計を配設したものが開示されている。このような電流計をスプレーガン2に適用すれば、作業者はスプレーガン2を持ったまま、そのスプレーガン2の電流計の電流値ひいては高電圧の発生を確認することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−255162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記スプレーガン2は、塗装ブース内で作業者がこれを直接操作する「手持ち式」であって、スプレーガン2に塗料が附着して電流計が読みづらくなる虞がある。一方、例えば塗装ブースで用いられる複数のスプレーガン2のうちの1つに異常が発生した場合、ブザーの鳴動によっては、どのスプレーガン2に異常が発生したかを報知することはできず、又、周囲の騒音により作業者がその異常を認識できない虞もある。つまり、静電塗装においては、作業環境上、各種の情報を作業者に確実に報知することは困難であり、依然として解決すべき課題を残している。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、塗装作業中に作業者に対して確実に報知することができ、安全且つ安定した静電塗装を行うことができる静電塗装用スプレーガン及び静電塗装システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明の静電塗装用スプレーガンは、帯電させた塗料を噴霧して被塗物に塗着させるものであり、前記スプレーガンのガン本体と、前記ガン本体に備えられたグリップ部と、前記塗料を帯電させるための直流高電圧を発生する高電圧発生手段と、前記高電圧発生手段により発生させた高電圧が印加される電極と、前記グリップ部又は前記ガン本体に設けられた振動手段とを具備し、前記振動手段により前記グリップ部を振動させて使用者に対する報知を行うように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
スプレーガンは、ガン本体に備えられたグリップ部を有する所謂「手持ち式」であることから、塗装作業中に、グリップ部の振動によって、作業者(使用者)に直接的に報知することができる。従って、スプレーガンの塗料による当該スプレーガン自身の汚れや、周囲(塗装ブース)の騒音の状況如何にかかわらず、前記振動手段によって各作業者に対し確実に報知することができる。よって、例えば直流高電圧の発生の有無や、スプレーガンの異常等、スプレーガンの動作状態を報知して、各作業者に確実に知らしめることが可能となり、安全且つ安定した静電塗装を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施形態を示す静電塗装用スプレーガンの縦断面図
【図2】静電塗装システムの電気的構成図
【図3】扁平型振動モータの外観斜視図
【図4】複数の振動パターンを説明するための図
【図5】従来の静電塗装システムを説明するための概略図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について、図1〜図4を参照しながら説明する。
図2は、本実施形態に係る静電塗装システム11の電気的構成を概略的に示すブロック図である。静電塗装システム11は、帯電させた塗料を噴霧して被塗物に塗着させる静電塗装用スプレーガン12(以下、スプレーガン12と称する)と、このスプレーガン12に電源線13a,13bを介して交流電圧Vacを供給する電源装置14とを備えて構成されている。
【0013】
スプレーガン12は、高電圧発生手段としての高電圧発生装置15と、ピン電極16とを備えて構成されている。高電圧発生装置15は、高電圧発生回路を構成する昇圧トランス15aと、高圧整流回路15b(例えばコッククロフト−ウォルトン型の倍電圧整流回路)と、出力抵抗15cとを一体にモールドしたカスケード型のものである。この高電圧発生装置15は、電源装置14から供給された交流電圧Vacに基づいて直流高電圧Vdcを発生する。ピン電極16は、高電圧発生装置15により発生させた直流高電圧Vdcが印加されるようになっており、スプレーガン12から噴霧する塗料を帯電させる放電電極である。
【0014】
一方、電源装置14は、交流電圧Vacを発生するものであり、制御回路18、直流電源19(例えばDC20V)と、2つのスイッチング素子20,21と、出力トランス22と、検出手段たるカレントコイル23と、安全回路24とを備えて構成されている。
【0015】
直流電源19の出力は、出力トランス22の1次側において、スイッチング素子20,21を介して電源グランドに接続されている。具体的には、直流電源19の出力端子は、出力トランス22とスイッチング素子20とによって接地電位に対して正側に、出力トランス22とスイッチング素子21とによって接地電位に対して負側になるように接続されている。スイッチング素子20,21は、例えば半導体スイッチとしてのトランジスタから構成されており、通電されると導通状態になり、通電が停止されると非導通状態になる。このスイッチング素子20,21のオン/オフは、制御回路18によって制御される。制御回路18は、例えばマイクロコンピュータを主体に構成されており、スイッチング素子20,21を含むシステム11全般の制御を司る制御手段として機能し、後述するROM、RAM等からなる記憶部18aを備える。
【0016】
スイッチング素子20,21は、制御回路18から出力される駆動信号に連動してその通電状態(オン/オフ状態)が変化し、直流電源19の出力を正側、或いは、負側に切り換える。駆動信号は、スイッチング素子20,21のオン状態が互いに重なることがないタイミングで出力される。この駆動信号のパルス幅に応じてスイッチング素子20,21が交互にオン/オフを繰り返すことにより、出力トランス22の2次側に、直流電源19の出力電圧に応じた低電圧の交流電圧Vac(例えばAC24V/20kHz)が発生する。この交流電圧Vacは、電源線13a,13bを介して、スプレーガン12内の高電圧発生装置15に供給される。
【0017】
即ち、電源装置14とスプレーガン12とを接続するケーブル(配線)13のうち、電源線13aは、接地電位に保持される接地側供給線であり、電源装置14側において接地線25を介して接地が施されている。これに対して、電源線13bは、電源線13aに対して電位が変動するようになっている。カレントコイル23は、接地電位に保持されない電源線13bに設けられており、制御回路18は、カレントコイル23を介して、電源線13bを流れる電流を検出する。制御回路18は、この検出電流、並びに後述するトリガ47の操作に基づいて、電源線13a,13bを介した高電圧発生装置15への交流電圧Vacの供給を制御するようになっている。
【0018】
安全回路24は、前記ケーブル13のうち電流検出用ケーブル26を介して高電圧発生装置15の高圧整流回路15bに接続されている。この安全回路24は、高電圧発生装置15に流れる電流の大きさを、電流検出用ケーブル26を介して検出するためのものである。制御回路18は、安全回路24によって、高電圧発生装置15を流れる電流を検出し、高電圧発生装置15に過剰な電流が流れたと判断した場合には、電源線13a,13bを介したスプレーガン12への交流電圧Vacの供給を停止するなどの処理を実行する。また、詳しくは後述するように、前記ケーブル13は、スプレーガン12に設けた振動モータ17に接続される制御用ケーブル27を含む。
【0019】
続いて、スプレーガン12の構成について図1を参照して説明する。
図1に示すように、スプレーガン12は、前後方向に延びるガン本体31と、このガン本体31の後端部(同図中、右端部)から下方に延設されたグリップ部32とを一体に有して構成されている。ガン本体31は、例えば電気的絶縁性を有するポリアセタール樹脂やフッ素樹脂等の非導電性の合成樹脂材料からなり、スプレーガン12の銃身部(バレル部)を構成する。このガン本体31とグリップ部32との間に形成される空間内には、前記高電圧発生装置15が内蔵されている。
【0020】
ガン本体31内部の前部には、導電性を有する連体棒33が前方に向って下方に傾斜するように配設されている。高電圧発生装置15の前側には、連体棒33の後部を露出させる孔部34が設けられており、この孔部34に導電性のスプリング35が収容されている。スプリング35は、その後部が高電圧発生装置15の前端から突出する出力端子15dに装着され、前部が連体棒33と当接している。ガン本体31の前部には、ピン電極16を有する塗料ノズル36が設けられている。連体棒33とピン電極16は電気的に接続されており、ピン電極16に前記直流高電圧Vdcが印加されるようになっている。
【0021】
即ち、電源装置14から供給される交流電圧Vacは、電源コネクタ37から取り入れられ、高電圧発生装置15内の昇圧トランス15aに供給される。供給された交流電圧Vacは、昇圧トランス15aで昇圧された後、高圧整流回路15bでさらに昇圧されると同時に整流され、出力抵抗15cを介して直流高電圧Vdc(例えば60kV程度)に変換される。高電圧発生装置15が発生した直流高電圧Vdcは、出力端子15dからスプリング35を介して連体棒33に導かれ、ピン電極16に印加されるようになっている。尚、高圧整流回路15bは、回路内のダイオードの向きを変えることで、出力電圧の極性を接地電位に対してプラス(正)またはマイナス(負)の何れかに設定することができる。本実施形態では、例えば前記出力電圧の極性は接地電位に対して負になるように構成されており、ピン電極16に負極性の直流高電圧Vdc(−60kV)が印加される。
【0022】
一方、グリップ部32は、例えば金属繊維や金属粉を含む樹脂材料で構成されており、従って、導電性を有している。このグリップ部32の下部には、電源コネクタ37及びエアホース用ジョイント38が取り付けられると共に、連結部材39を介して塗料ホース用ジョイント40が連結されている。尚、連結部材39は、ねじ41によってグリップ部32の下端部に固定されている。連結部材39およびねじ41は、何れも導電性材料から構成されている。また、連結部材39には、電源コネクタ37のアース線に電線37aを介して接続されたねじ42が螺挿されている。これにより、塗料ホース用ジョイント40と電源コネクタ37のアース線とが連結部材39を介して電気的に接続されている。
【0023】
ガン本体31内の下部には、前後方向に延びる孔部43が形成されており、この孔部43に、塗料用開閉弁45とエア用開閉弁46とが前後に離間して同軸状に配置されている。塗料用開閉弁45及びエア用開閉弁46の開閉は、ガン本体31に設けられたトリガ47の操作に基づいて行われる。即ち、図示は省略するが、静電塗装に供される溶剤系の塗料は、塗料供給源たる塗料タンクから塗料ホースを介して塗料ホース用ジョイント40に供給され、塗料チューブ50を通って塗料用開閉弁45側に導かれる。また、グリップ部32内には、エアホース用ジョイント38とエア用開閉弁46とをつなぐエア流路51が設けられており、圧縮空気が、圧縮空気発生装置から高圧エアホース(何れも図示せず)を介してエアホース用ジョイント38に供給され、エア流路51を通ってエア用開閉弁46に導かれる。
【0024】
そして、トリガ47がグリップ部32側に引かれると、エア用開閉弁46と塗料用開閉弁45との双方が開放される。これにより、塗料ホース用ジョイント40側から供給された塗料が、電極16の表面を伝うようにしてガン本体31前端のノズル52から吐出される。また、エアホース用ジョイント38側から供給される圧縮空気が、霧化エアとしてノズル52からガン本体31の前方に噴出される。この結果、ピン電極16の表面を伝って吐出される塗料は、霧化エアによって霧化される。
【0025】
また、トリガ47がグリップ部32側に引かれると、電源装置14から電源線13a,13bを介して、高電圧発生装置15に交流電圧Vacが供給される。そして、前述のように高電圧発生装置15により発生した直流高電圧Vdcが、出力端子15dからスプリング35及び連体棒33等を介してピン電極16に供給される。これにより、ピン電極16を伝う塗料に電荷が誘起され、前記霧化エアによって霧化された塗料粒子は、帯電した状態で且つ塗装に適した所定のパターン形状に形成される。こうして、当該塗料粒子は、接地された図示しない被塗物に対して静電作用により塗着する。
【0026】
さて、本実施形態のスプレーガン12は、例えばグリップ部32に振動モータ17を配設しており、当該振動モータ17の振動動作に基づき使用者(作業者)に対する報知を行うように構成されている。この振動モータ17に係る構成について、図3、図4も参照しながら詳述する。
【0027】
先ず図1に示すように、前記電源コネクタ37は、上記した電線37aを有する他、高電圧発生装置15後端の端子台53に接続される3つの電線37b〜電線37dや、振動モータ17用の電線37eをグリップ部32内に延設した構成となっている。即ち、電線37b〜37dは、電源線13a,13bや電流検出用ケーブル26の一部(スプレーガン12内に配設された部分)を夫々構成する。また、電線37eは、制御用ケーブル27の一部を構成するもので、電源装置14から直流電源が供給される。
【0028】
振動モータ17は、図3に模式的に例示するように、全体として薄型円筒形(円盤状)をなす扁平型の振動手段である。以下、振動モータ17の概略構成につき簡単に説明すると、振動モータ17には、その外殻をなす円盤状のステータケース17a内に、シャフト17b及びロータ17cが配置されている。また、図示は省略するが、ステータケース17a内には磁石及びブラシを備えたステータがロータ17cと面対向するように固定されている。シャフト17bは、中空状をなすステータケース17aの中心部で回転可能に支持されている。このシャフト17bに設けられるロータ17cは、略半円状をなすように、そのベース上に電機子コイル(何れも図示せず)が偏って存在していることから、回転によって振動が発生する。
【0029】
前記振動モータ17は、図1に示すように、グリップ部32内においてトリガ47に対応する位置に配置され、樹脂によりモールドされている。このモールド部55は、グリップ部32内にあって、振動モータ17を強固に固定すると共に外気を遮断したモータ17用の収容空間を形成する。このように、振動モータ17は、ステータケース17a内の閉空間に前記ブラシやロータ17c等を配した構成にあり、且つ当該モールド構成が相俟って、防爆対策、つまり噴出された塗料に含まれる有機溶剤がガス化したもの等に着火する危険を確実に解消する対策が施されることとなる。尚、振動モータ17は、上記したように比較的小型の振動手段であることから、グリップ部32の内部に、当該グリップ部32の大型化を招くことなく収容配置することができる。
【0030】
一方、図2に示すように、前記制御回路18には、例えば火災等が発生したときに閉じる外部接点54(異常検出手段)からの信号が入力される。また、制御回路18には、スプレーガン12の動作状態を検出するための検出信号が入力されるようになっており、その入力信号等に応じた(つまり報知の内容に対応した)複数の振動パターンで、振動モータ17を駆動制御するようになっている。
【0031】
具体的には、例えば前記記憶部18aのROMには、図4に示すように、複数の異なる振動パターンA〜Cが、入力信号(乃至検出信号)等と対応付けて記憶されている。振動パターンAは、例えば、外部接点54からの入力信号と対応付けられており、図4中「ON」で示す期間、振動モータ17の振動を継続させて、塗装ブースの火災等を作業者全員に対して報知する。
【0032】
振動パターンBは、例えば、安全回路24やカレントコイル23によって検出される信号と対応付けられており、振動モータ17を数秒間隔で間欠的に振動させることで、スプレーガン12ごとに過電流や電流の減少等の異常を報知する。また、制御回路18は、かかる検出信号に基づき、直流高電圧Vdcの発生時間が例えば2分以上継続している場合には、エア漏れが発生していると判断する。この場合にも、制御回路18は、振動モータ17を振動パターンBで振動させることにより、当該スプレーガン12の異常としてエア漏れを報知する。
【0033】
振動パターンCは、例えば、振動モータ17の「ON、OFF」の間隔がリズムを刻むように設定されることで、所定の期間ごと(所謂定刻)に作業者全員に対して、休み時間の開始や作業終了時間を報知する。
【0034】
次に、上記構成の作用・効果について説明する。
作業者によりトリガ47がグリップ部32側に引かれると、前述のように電源装置14から電源線13a,13bを介して高電圧発生装置15に交流電圧Vacが供給される。この交流電圧Vacに基づいて、高電圧発生装置15により発生した直流高電圧Vdcがピン電極16に供給されて前記被塗物に対する静電塗装が開始される。
【0035】
この静電塗装において、制御回路18は、カレントコイル23による検出電流に基づいて、電源線13bを流れる電流が減少したと判断した場合には、高電圧発生装置15への交流電圧Vacの供給を直ちに停止する。そして、制御回路18は、振動モータ17を数秒間隔で間欠的に振動させる振動パターンBでの振動動作に基づいて、グリップ部32ごと振動させる。また、制御回路18は、安全回路24によって高電圧発生装置15を流れる電流を検出し、高電圧発生装置15に過剰な電流が流れたと判断した場合にも、前記交流電圧Vacの供給を停止すると共に振動モータ17を振動パターンBで振動動作させる。
【0036】
この場合、作業者はグリップ部32を把持していることから、周囲の騒音等に係わらず、当該作業者に対して確実に振動パターンBが伝達される。従って、作業者は、その振動パターンBが伝わることで、スプレーガン12の電流に係る異常を直ぐに把握することができ、塗装作業の安全性を高めることができる。また、こうしたスプレーガン12における電流値等の異常は塗装不良を招くことから、制御回路18による上記の制御を実行することで、安定した静電塗装を行うことができる。尚、制御回路18によって、前記エア漏れが発生したと判断した場合も、交流電圧Vacの供給を停止すると共に振動モータ17を振動パターンBで振動動作させる。このように、制御回路18は、カレントコイル23や安全回路24と共に異常検出手段を構成する。
【0037】
更に、制御回路18は、例えば外部接点54からの入力信号に基づき、火災等の異常事態が発生したと判断した場合には、前記交流電圧Vacの供給を停止すると共に振動モータ17を振動パターンAで振動動作させる。従って、火災等が発生した場合、スプレーガン12を用いて塗装作業を行っている全ての者に対して、その異常事態をグリップ部32における振動パターンAの振動に基づいて確実に報知することができる。
【0038】
振動モータ17は、このような異常報知のみならず、制御回路18によって、所定の時間に振動パターンCで振動するように制御されることで、作業者全員に対して、例えば休み時間の開始や作業終了時間等を報知することができる。
【0039】
以上説明したようにスプレーガン12は、グリップ部32に設けられた振動モータ17を具備し、当該モータ17の振動動作に基づきグリップ部32を振動させて作業者に対する報知を行う構成とした。これによれば、塗装作業中に、グリップ部32の振動によって、作業者に直接的に報知することができる。従って、スプレーガン12の塗料によるガン12自身の汚れや、周囲(塗装ブース)の騒音の状況如何にかかわらず、振動モータ17によって各作業者に対し確実に報知することができる。よって、上記したスプレーガン12の電流に係る異常、或はピン電極16に対する直流高電圧の供給停止等、スプレーガン12の動作状態を報知して、各作業者に確実に知らしめることが可能となり、安全且つ安定した静電塗装を行うことができる。
【0040】
振動手段を、グリップ部32に収容されるように配置した振動モータ17から構成した。これによれば、振動手段を安価で簡単な構成にすることができると共に、グリップ部32内にコンパクトに収容することができる。
【0041】
振動モータ17を、グリップ部32内で樹脂によりモールドしたので、スプレーガン12から噴出された塗料に含まれる有機溶剤がガス化したもの等に着火する危険を確実に解消することができる。また、本実施形態の振動モータ17は、ステータケース17a内の閉空間に前記ブラシやロータ17c等を収容した構成にあることから、前記モールド構成が相俟って、確実な防爆対策を施すことができ、より安全性を向上させることができる。
【0042】
本実施形態の静電塗装システム11にあっては、振動モータ17に接続されて振動動作を制御する制御回路18を備え、当該制御回路18は、報知の内容に応じて予め定められた複数の振動パターンで振動モータ17の振動動作を制御する。これによれば、静電塗装システム11において、スプレーガン12の動作状態を含む複数の報知内容を、複数の振動パターンで作業者に伝えることができ、実用上において有益なものとすることができる。
【0043】
本発明は、上記した各実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。
振動手段は、扁平型の振動モータ17に限定するものではなく、他の振動モータを用いてもよい。また、振動モータ17をグリップ部32内に設けたが、ガン本体31側に設けるようにしてもよい。静電塗装システム11において、電源装置14をスプレーガン12の外部に設けたが、これに限定するものではない。即ち、例えば電源装置14(乃至振動モータ17への電源供給回路)をスプレーガン12に内蔵してもよいし、前記振動手段を制御する制御手段をスプレーガン12に内蔵してもよい。
【0044】
本発明において使用可能な塗料は、上記した溶剤系塗料に限られるものではなく、例えば、メタリック系塗料を使用することもできる。本発明は、例えば、パターンエアを噴出しない構成の静電塗装用スプレーガンを備えてなる静電塗装システムにも適用することが可能である。要は、帯電させた塗料を被塗物に塗着させる構成の静電塗装用スプレーガン全般を備えた静電塗装システムに適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
図面中、11は静電塗装システム、12は静電塗装用スプレーガン、14は電源装置、15は高電圧発生手段、16はピン電極(電極)、17は振動モータ(振動手段)、18は制御手段、31はガン本体、32はグリップ部、55はモールド部を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電させた塗料を噴霧して被塗物に塗着させる静電塗装用スプレーガンにおいて、
前記スプレーガンのガン本体と、
前記ガン本体に備えられたグリップ部と、
前記塗料を帯電させるための直流高電圧を発生する高電圧発生手段と、
前記高電圧発生手段により発生させた高電圧が印加される電極と、
前記グリップ部又は前記ガン本体に設けられた振動手段とを具備し、
前記振動手段の振動動作に基づき前記グリップ部を振動させて使用者に対する報知を行うように構成したことを特徴とする静電塗装用スプレーガン。
【請求項2】
前記振動手段は、前記グリップ部又は前記ガン本体に収容されるように配置した振動モータからなることを特徴とする請求項1記載の静電塗装用スプレーガン。
【請求項3】
前記振動モータは、前記グリップ部内又は前記ガン本体内で樹脂によりモールドされていることを特徴とする請求項2記載の静電塗装用スプレーガン。
【請求項4】
帯電させた塗料を噴霧して被塗物に塗着させる静電塗装用スプレーガンと、交流電圧を発生する電源装置とを有して構成される静電塗装システムにおいて、
前記スプレーガンは、ガン本体と、前記ガン本体に備えられたグリップ部と、前記電源装置から供給された交流電圧に基づいて、前記塗料を帯電させるための直流高電圧を発生する高電圧発生手段と、前記高電圧発生手段により発生させた高電圧が印加される電極と、前記グリップ部又は前記ガン本体に設けられた振動手段とを具備し、前記振動手段により前記グリップ部を振動させて使用者に対する報知を行うように構成され、
前記振動手段に接続されて振動動作を制御する制御手段を備え、
前記制御手段は、前記報知の内容に応じて予め定められた複数の振動パターンで前記振動手段の振動動作を制御することを特徴とする静電塗装システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−86143(P2012−86143A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234462(P2010−234462)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000117009)旭サナック株式会社 (194)
【Fターム(参考)】