説明

静電塗装装置

【課題】静電塗装用のスプレーガンと静電コントローラとの間のケーブルの接続を誤って作業者がいない所で高電圧が発生することを防止し、安全且つ確実に静電塗装を行うことができる静電塗装装置を提供する。
【解決手段】静電塗装装置1は、帯電させた塗料を噴霧して被塗装物Wに塗着させる静電塗装用のスプレーガン2と、制御装置3とを備えて構成される。スプレーガン2は、トリガ7と高電圧発生回路4とを有する。制御装置3は、噴霧用エアがエアホース13内を流通することに基づいてオン動作するエアフロースイッチ22を有する。制御装置3は、トリガ7が操作され、且つ、エアフロースイッチ22がオン動作することに基づいて、高電圧発生回路4に送電ケーブル32を介して電源を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電させた塗料を噴霧して被塗装物に塗着させる静電塗装用スプレーガンを備えた静電塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の車体などの被塗装物を塗装する装置として、静電塗装用のスプレーガンから噴霧される塗料の微粒子を、該スプレーガンに内蔵された直流高電圧発生回路(カスケード)により負の高電圧(例えば−60kV)に帯電させ、接地(アース)された被塗装物(陽極)との間に作用する静電気力によって被塗装物の表面に塗着させる静電塗装装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
図5は、この種の従来の静電塗装装置の電気的構成を示すブロック図であり、図6は、この静電塗装装置全体の概略図である。図5及び図6に示すように、静電塗装装置101は、スプレーガン102と、静電コントローラ103とを備えて構成されている。スプレーガン102は、高電圧発生回路104、昇圧トランス105、ピン電極106、トリガ107、塗料用弁108、エア用弁109などを有している。静電コントローラ103は、制御回路110、エアフロースイッチ111、電源回路112、高周波発振回路113、高周波トランス114などを備えている。
【0004】
作業者がトリガ107を操作すると、塗料用弁108及びエア用弁109が開弁する。塗料用弁108は塗料タンク115に接続され、エア用弁109はエア供給源116にエアホース117を介して接続されている。エア用弁109が開弁すると、エア供給源116から噴霧用エアがエアホース117を通ってエア噴出口118から噴出する。塗料用弁108が開弁すると、塗料が噴霧用エアに乗ることで霧化されて塗料吐出口119から塗装対象物120に噴霧される。
【0005】
前記エアホース117内に噴霧用エアが流通すると、前記エアフロースイッチ111がオン動作して、オン信号が前記制御回路110に送られる。制御回路110は、前記電源回路112を介して直流電源を高周波発振回路113に出力する。この制御回路110に前記オン信号が送られると、高周波発振回路113をスイッチングし、該高周波発振回路113は高周波交流電源を出力する。そして、高周波トランス114により降圧されて、送電ケーブル121を介して前記昇圧トランス105に交流電源として送電される。この交流電源が、昇圧トランス105により昇圧され、高電圧発生回路104により直流高電圧に変換された後、ピン電極106に供給される。
【0006】
直流高電圧が印加されたピン電極106により塗料粒子が帯電した状態で噴出され、塗料粒子と被塗装物120との間に静電気力が働き、塗料粒子は被塗装物120に向かう吸引力を受ける。この吸引力とエアによる吹き付け力との双方の力によって、塗料粒子は被塗装物120に塗着される。
【0007】
このような静電塗装装置101においては、静電塗装の際に、制御回路110は、送電電流検出回路122及び電流検出回路123により検出される電流値に基づいて高電圧発生回路104への通電を制御し、スプレーガン102と被塗装物120が接近し過ぎたり、トリガ107を操作した状態で所定時間以上続けて静電がかかったりするなどの異常が発生した場合には、高電圧発生回路104への通電を停止するようになっている。
【0008】
なお、前記電流検出回路123は、帰還ケーブル124を介して高電圧発生回路104に接続されている。これら帰還ケーブル124及び送電ケーブル121は、1つのケーブル125を構成し、シールド126により保護されている。そして、該ケーブル125の一端はコネクタ127により静電コントローラ103側に分離可能に接続され、他端はコネクタ128によりスプレーガン102側に分離可能に接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−24834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の構成の静電塗装装置を複数並べて、もしくは近接して用いたり、清掃したりすることがある。図7は、複数(この場合2つ)の静電塗装装置のうちの一方の静電塗装装置の各部符号に「a」の添字を付し、他方の静電塗装装置の各部符号に「b」の添字を付して示したものであり、例えば、図7に示すように、一方のスプレーガン102aのケーブル125aを誤って他方のスプレーガン102bに接続してしまうことがある。このような場合、トリガ107aを動作させたスプレーガン101aとは別のスプレーガン102bの高電圧発生回路104bに高電圧が印加されてしまい、作業者がいない所で高電圧が発生して安全上良くないという問題がある。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、静電塗装用のスプレーガンと静電コントローラとの間のケーブルの接続を誤って作業者がいない所で高電圧が発生することを防止し、安全且つ確実に静電塗装を行うことができる静電塗装装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の静電塗装装置は、トリガと高電圧発生回路とを有し、前記トリガの操作に応じて帯電させた塗料を噴霧して被塗装物に塗着させる静電塗装用のスプレーガンと、前記トリガの操作に応じて前記スプレーガンにエア供給路を通って供給される噴霧用エアの流通に基づいてオン動作するエアフロースイッチを有し、前記高電圧発生回路にケーブルを介して電源を供給する制御装置と、を備えて構成される静電塗装装置であって、前記制御装置は、前記トリガが操作され、且つ、前記エアフロースイッチがオン動作することに基づいて、前記高電圧発生回路に電源を供給することに特徴を有する(請求項1の発明)。
【0013】
上記構成によれば、作業者がスプレーガンのトリガを操作し、且つ、エアフロースイッチがオン動作する場合に限って、制御装置(静電コントローラ)が高電圧発生回路に電源を供給して高電圧が発生する。従って、例えば2つの静電塗装装置があって、一方のスプレーガンの制御装置のケーブルを誤って他方のスプレーガンに接続してしまった場合は、一方のスプレーガンのトリガを操作しても、作業者がトリガを操作していない方のスプレーガンの高電圧発生回路には電源が供給されない。これにより、作業者がいない方のスプレーガンに高電圧が印加されることを防止することができる。このようにして、スプレーガンと制御装置を正しく接続した状態で、安全且つ確実に静電塗装を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施形態を示す静電塗装装置の電気的構成図
【図2】スプレーガンと静電コントローラの接続状態を表した図
【図3】静電塗装用スプレーガンの縦断面図
【図4】第2の実施形態を示す図1相当図
【図5】従来例を示す図1相当図
【図6】従来例を示す図2相当図
【図7】従来例によるケーブルの誤接続を示す図2相当図
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1の実施形態]
以下、本発明の第1の実施形態について、図1から図3を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る静電塗装装置1の電気的構成を概略的に示すブロック図である。静電塗装装置1は、帯電させた塗料を噴霧して被塗装物Wに塗着させる静電塗装用のスプレーガン2と、静電コントローラ3(制御装置に相当)とを備えて構成されている(図2参照)。
【0016】
スプレーガン2は、高電圧発生回路4、昇圧トランス5、ピン電極6、トリガ7、塗料用弁8、エア用弁9、後述するスイッチ10などを備えて構成されている。塗料用弁8は、塗料ホース11及び塗料流路54を介して塗料タンク12に接続されている。エア用弁9はエアホース13及びエア流路55を介してエア供給源14に接続されている。塗料用弁8及びエア用弁9は、トリガ7の操作に基づいて開閉する。
【0017】
高電圧発生回路4は、図示しない高圧整流回路(例えば、コッククロフト−ウォルトン型の倍電圧整流回路)と出力抵抗(図示せず)とを一体にモールドして構成されている。この高電圧発生回路4と昇圧トランス5とにより、カスケード型の高電圧発生装置15が構成される。昇圧トランス5は、静電コントローラ3から供給された交流電源Vacを昇圧するものである。高電圧発生回路4は、昇圧された交流電源Vacを直流高電圧Vdcに変換するものである。ピン電極6は、高電圧発生回路4の負極に接続され、このピン電極6に高電圧発生回路4により発生した直流高電圧Vdcが印加される。これにより、ピン電極6と被塗装物Wとの間に静電界が形成される。この静電界の作用で、スプレーガン2から噴霧される塗料は、被塗装物Wに付着する。
【0018】
静電コントローラ3は、スプレーガン2を電気的にコントロールするものであり、制御回路21、エアフロースイッチ22、電源回路23、高周波発振回路24、高周波トランス25、電流検出回路26、送電電流検出回路27、入力判定回路28などを備えて構成されている。制御回路21は、CPU29、ROM30、RAM31などを備えたマイクロコンピュータを主体に構成されている。制御回路21には、エアフロースイッチ22、電流検出回路26、送電電流検出回路27、入力判定回路28からの入力信号が送られ、電源回路23及び高周波発振回路24へ出力信号を送るようになっている。
【0019】
エアフロースイッチ22は、静電コントローラ3の内部にあって、エア供給源14からスプレーガン2へ噴霧用エアを供給するためのエア供給路であるエアホース13の途中に設けられている。このエアフロースイッチ22は、トリガ7の操作に応じて噴霧用エアがエアホース13内を流通することに基づいてオン動作し、制御回路21へオン信号を出力するものである。
【0020】
電源回路23は、高周波発振回路24へ直流電源(例えばDC20V)を出力する。高周波発振回路24は、電源回路23から出力される直流電源を高周波交流電源に変換する。高周波トランス25は、高周波発振回路24から出力される高周波交流電源を降圧する。この高周波トランス25は、送電ケーブル32を介して昇圧トランス5に接続されていて、昇圧トランス5には高周波トランス25から交流電源Vacが送電される。このように静電コントローラ3は、送電ケーブル32を介してスプレーガン2に交流電源Vacを供給する。
【0021】
入力判定回路28は、検出ケーブル17を介してスプレーガン2の前記スイッチ10に接続されている。トリガ7が引かれる(塗装を開始するための操作がされる)と、スイッチ10がオン動作して、入力判定回路28にオン信号が送られ、入力判定回路28から制御回路21へオン信号が送られるようになっている。なお、トリガ7が操作されていないときは、スイッチ10はオフ動作となり、入力判定回路28へオフ信号が送られる。
【0022】
電流検出回路26は、帰還ケーブル16を介して高電圧発生装置15(高電圧発生回路4)に接続されている。この電流検出回路26は、高電圧発生装置15に流れる電流の大きさを帰還ケーブル16を介して検出する。制御回路21は、電流検出回路26によって高電圧発生装置15に流れる電流を検出し、高電圧発生装置15に過剰な電流が流れたと判断した場合は、送電ケーブル32を介したスプレーガン2への交流電源Vacの供給を停止する。
【0023】
送電電流検出回路27は、接地電位に保持されない送電ケーブル32に設けられている。制御回路21は、送電電流検出回路27により、送電ケーブル32を介して流れる電流を検出し、この検出電流に基づいて、送電ケーブル32を介した高電圧発生装置15への交流電源Vacの供給を制御する。
【0024】
なお、送電ケーブル32、帰還ケーブル16、及び検出ケーブル17の外周部には、シールド34が装着されていて、これらのケーブルが1本のケーブル35を構成している。シールド34は、送電ケーブル32で発生する高周波ノイズが外部に飛散することを防止すると共に、帰還ケーブル16を流れる電流に外部からノイズが乗ることを防止している。このケーブル35の両端には、コネクタ36,37が設けられていて、コネクタ36が静電コントローラ3側の送電コネクタ38に分離可能に接続され、コネクタ37がスプレーガン2側の給電コネクタ47に分離可能に接続されている。
【0025】
次に、スプレーガン2の詳細な構成について図3を参照して説明する。
図3に示すように、スプレーガン2は、ガン本体41と、このガン本体41の後端部(図3では右端部)に設けたグリップ部42とから構成されている。ガン本体41は、例えば電気的絶縁性を有するポリアセタール樹脂やフッ素樹脂等の非導電性の合成樹脂材料からなり、スプレーガン2の銃身部(バレル部)を構成する。このガン本体41とグリップ部42との間に形成される空間内には、前記高電圧発生装置15が内蔵されている。
【0026】
ガン本体41内部の前部には、導電性を有する連体棒43が前方に向って下方に傾斜するように配設されている。高電圧発生装置15の前側には、連体棒43の後部が露出するように孔部44が設けられていて、この孔部44には導電性のスプリング45が収容されている。また、高電圧発生装置15の後側には、前記スイッチ10がトリガ7に対応して配設されている。
【0027】
スプリング45は、その後部が高電圧発生装置15の前端から突出する出力端子15aに装着され、前部が連体棒43と当接している。ガン本体41の前部には、ピン電極6を有する塗料ノズル46が設けられている。連体棒43とピン電極6は電気的に接続されていて、ピン電極6に前記直流高電圧Vdcが印加されるようになっている。
【0028】
すなわち、静電コントローラ3から供給される交流電源Vacは、グリップ部42の下部の給電コネクタ47(前記コネクタ37が接続される)から取り入れられ、高電圧発生装置15内の昇圧トランス5に供給される。供給された交流電源Vacは、昇圧トランス5で昇圧された後、高電圧発生回路4で直流高電圧Vdc(例えば60kV程度)に変換される。高電圧発生回路4(高電圧発生装置15)で発生した直流高電圧Vdcは、出力端子15aからスプリング45を介して連体棒43に導かれ、ピン電極6に印加されるようになっている。
【0029】
なお、高電圧発生回路4は、回路内のダイオードの向きを変えることにより、出力電圧の極性を接地電位に対して正(プラス)または負(マイナス)のいずれかに設定することができる。本実施形態の場合、高電圧発生回路4の出力電圧の極性は接地電位に対して負になるように構成されている。従って、高電圧発生装置15は、ピン電極6に負極性の直流高電圧Vdc(−60kV)を印加する。
【0030】
一方、グリップ部42は、導電性を有する樹脂材料で構成されている。このグリップ部42の下部には、電源コネクタ47及びエアホース用ジョイント48が取り付けられると共に、連結部材49を介して塗料ホース用ジョイント50が連結されている。
連結部材49は、ねじ51によってグリップ部42の下端部に固定されている。連結部材49およびねじ51は、いずれも導電性材料から構成されている。また、連結部材49には、電源コネクタ47のアース線に電線47aを介して接続されたねじ52が螺挿されている。これにより、塗料ホース用ジョイント50と電源コネクタ47のアース線とが連結部材49を介して電気的に接続されている。
【0031】
ガン本体41内の下部には、前後方向に延びる孔部53が形成されている。この孔部53に、塗料用弁8及びエア用弁9が前後に離間して同軸状に配置されている。上記したように、塗料用弁8及びエア用弁9の開閉は、前記トリガ7の操作に基づいて行われる。すなわち、静電塗装に供される塗料(例えば溶剤系塗料)は、図2及び図3に示すように、塗料供給源である塗料タンク12から塗料ホース11を介して塗料ホース用ジョイント50に供給され、塗料流路54を通って塗料用弁8側に導かれる。また、グリップ部42内には、エアホース用ジョイント48とエア用弁9とをつなぐエア流路55が設けられている。噴霧用エアが、前記エア供給源14からエアホース13を介してエアホース用ジョイント48に供給され、エア流路55を通ってエア用弁9に導かれる。
【0032】
次に、上記構成の静電塗装装置1を用いて静電塗装を行うときの動作について説明する。なお、静電塗装装置1の塗装対象となる被塗装物Wは、接地(アース)されていて、静電コントローラ3などと同電位(接地電位)になっている。また、このように接地された被塗装物Wは、この場合、負極となるピン電極6に対して陽極となる。
【0033】
まず、作業者がトリガ7を操作すると、塗料用弁8及びエア用弁9が開放される。すると、塗料タンク12内の塗料が、塗料ホース11を介して塗料ホース用ジョイント50に供給され、塗料流路54を通って、塗料ノズル46前端の塗料吐出口56からピン電極6の表面を伝って皮膜状に吐出される。
【0034】
また、噴霧用エアがエア供給源14からエアホース13を介してエアホース用ジョイント48に供給され、エア流路55を通って、霧化エア噴出孔57の内周と塗料吐出口56の外周との間の狭い隙間から霧化エアとして前方に噴出される。この結果、ピン電極6の表面を伝って塗料吐出口56から吐出される塗料は、霧化エアによって霧化される。
【0035】
噴霧用エアがエアホース13内に流通すると、エアフロースイッチ22がオン動作し、エアフロースイッチ22から制御回路21へオン信号が送られる。また、作業者がトリガ7を操作すると、スイッチ10がトリガ7の操作に応じてオン動作することによって、前記入力判定回路28から制御回路21へオン信号が送られる。制御回路21は、これらエアフロースイッチ22及び入力判定回路28の両方からのオン信号に基づいて、電源回路23及び高周波発振回路24へオン信号を出力する。制御回路21は、エアフロースイッチ22または入力判定回路28のどちらか一方のみのオン信号の場合は、電源回路23及び高周波発振回路24へオフ信号を出力すると共に、静電塗装装置1の動作状態が異常であると判断して、静電コントローラ3に設けられた表示ランプ(図示しない)によりその旨を報知する。
【0036】
制御回路21から電源回路23及び高周波発振回路24へオン信号が出力されると、電源回路23から高周波発振回路24へ直流電源が出力される。また、電源回路23から出力される直流電源は、高周波発振回路24により、高周波交流電源に変換され、高周波トランス25により、降圧される。そして、高周波トランス25から送電ケーブル32を介して、スプレーガン2(昇圧トランス5)に交流電源Vacが供給される。
【0037】
スプレーガン2に供給された交流電源Vacは、昇圧トランス5により昇圧された後、高電圧発生回路4により直流高電圧Vdcに変換される。この直流高電圧Vdc(この場合、−30kV)が、出力端子15aからスプリング45及び連体棒43等を介してピン電極6に供給される。これにより、ピン電極6を伝う塗料に電荷が誘起され、霧化エアによって霧化された塗料粒子は、帯電した状態で且つ塗装に適した所定のパターン形状に形成される。このようにして、塗料粒子は、接地された被塗装物Wに対して静電作用により塗着する。
【0038】
すなわち、帯電した塗料粒子が被塗装物Wに近づくと、静電誘導によって、接地された被塗装物Wの表面に塗料粒子の電荷とは反対極性の電荷が誘起される。これにより、塗料粒子と被塗装物Wとの間に静電気力が働き、塗料粒子は被塗装物Wに向かう吸引力を受ける。つまり、この吸引力と霧化エアによる吹き付け力との双方の力によって、塗料粒子は被塗装物Wの表面に塗着される。なお、静電気力による吸引力が働くため、塗料粒子はスプレーガン2に面していない被塗装物Wの裏側にも回り込み塗着される。以上のような作用により、被塗装物Wに静電塗装が行なわれる。
【0039】
なお、この静電塗装において、制御回路21は、電流検出回路26によって高電圧発生装置15を流れる電流を検出し、高電圧発生装置15に過剰な電流が流れたと判断した場合は、前記交流電源Vacの供給を停止する。また、制御回路21は、トリガ7が操作されていない状態で、エアフロースイッチ22が所定時間以上オン動作しているかどうかを検出していて、所定時間以上オン動作している場合は、エア供給源14からエアが漏れ出している場合などの異常であると判断して、交流電源Vacの供給を停止する。
【0040】
このような静電塗装装置1によれば、作業者がトリガ7を操作する(静電塗装を開始する)ことにより、スプレーガン2内部に設けられたスイッチ10がオン動作し、且つ、噴霧用エアがエアホース13内に流通してエアフロースイッチ22がオン動作することに基づいて、静電コントローラ3から高電圧発生回路4(高電圧発生装置15)に電源が供給されて、スプレーガン2に高電圧が発生する。これにより、スプレーガン2と静電コントローラ3との間のケーブル35(送電ケーブル32)の接続を誤った場合は、スプレーガン2に高電圧が発生しないので、スプレーガン2と静電コントローラ3との間のケーブル35を正しく接続した状態で、安全且つ確実に静電塗装を行うことができる。
【0041】
すなわち、複数の静電塗装装置1を用いるとき、あるいは複数の静電塗装装置1の清掃後にスプレーガン2と静電コントローラ3とを接続するときにおいて、1つのスプレーガン2のケーブル35を誤って別のスプレーガン2の静電コントローラ3に接続してしまった場合、1つのスプレーガン2のトリガ7を操作すると、このトリガ7内のスイッチ10のオン信号が検出ケーブル17を介して別のスプレーガン2の静電コントローラ3の入力判定回路28へ送られる。
【0042】
従って、作業者が接続すべきはずであった静電コントローラ3においては、制御回路22にエアフロースイッチ22からのオン信号は送られてくるが、入力判定回路28からのオン信号は送られてこない。このため、当該静電コントローラ3から、別のスプレーガン2(トリガ7が操作されていない方のスプレーガン2)の高電圧発生回路4には電源が供給されない。これにより、作業者がいない方のスプレーガン2に高電圧が印加されることを防止することができ、作業者がいない所で高電圧が発生してしまうことを防止できる。
【0043】
また、ケーブル35を誤って接続している場合は、エアフロースイッチ22または入力判定回路28のどちらか一方のみのオン信号しか制御回路21に送られないので、制御回路21が異常であると判断して前記表示ランプを点灯させる。これにより、作業者は異常であることを表示ランプにより認識することができ、スプレーガン2と静電コントローラ3との間のケーブル35の接続を正しい状態に直すことができる。
【0044】
また、静電塗装装置1の故障などにより、トリガ7を操作していないにもかかわらずエア供給源14から噴霧用エアがエアホース13内に漏れ出して、エアフロースイッチ22がオン動作してしまうことがある。このような場合、制御回路21にはエアフロースイッチ22からのオン信号しか送られてこないため、スプレーガン2の高電圧発生装置15に電源が供給されることがなく、作業者がいない所で高電圧が発生してしまうことを防止できる。
【0045】
また、スプレーガン2のスイッチ10が故障して、トリガ7を操作していないにもかかわらずスイッチ10がオン動作してしまったとしても、エアフロースイッチ22はオン動作しないので、制御回路21には入力判定回路28からのオン信号しか送られてこない。このため、スプレーガン2の高電圧発生装置15に電源が供給されることがない。これにより、スプレーガン2を落とすなどしてスイッチ10が故障したときに、作業者が予期せずスプレーガン2に高電圧が発生してしまうことを防止できる。
【0046】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について図4を参照して説明する。なお、第1の実施形態と同一の部分には同一の符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ述べる。
図4は、第2の実施形態の静電塗装装置の電気的構成を示すものである。図4に示すように、第2の実施形態では、第1の実施形態のスイッチ10に代わって、スプレーガン2内部におけるコネクタ47と昇圧トランス5との間の通電路の途中に、開閉スイッチ61が設けられている。この開閉スイッチ61は、トリガ7の操作に応じて送電ケーブル32の通電路(コネクタ47と昇圧トランス5との間の通電路)を開閉路するものである。トリガ7が操作されているときは、開閉スイッチ61が閉じ、静電コントローラ3とスプレーガン2との間が送電ケーブル32を介して電気的に接続された状態になる。一方、トリガ7が操作されていないときは、開閉スイッチ61が開き、静電コントローラ3とスプレーガン2との間が送電ケーブル32を介して電気的に非接続状態になる。
【0047】
上記した構成において、作業者がトリガ7を操作すると、第1の実施形態と同様に、塗料用弁8及びエア用弁9が開放されると共に、前記開閉スイッチ61が閉じ、静電コントローラ3とスプレーガン2との間が送電ケーブル32を介して電気的に接続された状態になる。塗料用弁8及びエア用弁9が開放されると、塗料タンク12内の塗料が、塗料ホース11を介して塗料ホース用ジョイント50に供給され、塗料流路54を通って塗料吐出口56から吐出される。また、噴霧用エアがエア供給源14からエアホース13を介してエアホース用ジョイント48に供給され、エア流路55を通って、霧化エア噴出孔57の内周と塗料吐出口56の外周との間の狭い隙間から霧化エアとして前方に噴出される(図2及び図3参照)。
【0048】
噴霧用エアがエアホース13内に流通すると、エアフロースイッチ22がオン動作し、エアフロースイッチ22から制御回路21へオン信号が送られる。制御回路21は、エアフロースイッチ22からのオン信号に基づいて、電源回路23及び高周波発振回路24へオン信号を出力し、電源回路23から高周波発振回路24へ直流電源が出力される。この直流電源は、高周波発振回路24により、高周波交流電源に変換され、高周波トランス25により降圧される。この後、交流電源Vacは、昇圧トランス5により昇圧され、高電圧発生回路4に供給される。この交流電源Vacは、高電圧発生回路4により直流高電圧Vdcに変換された後、ピン電極6に供給される。
【0049】
このような第2の実施形態の静電塗装装置1によれば、作業者がトリガ7を操作することによりスプレーガン2に設けられた開閉スイッチ61が閉じ、且つ、エアフロースイッチ22がオン動作することに基づいて、静電コントローラ3から高電圧発生回路4(高電圧発生装置15)に電源が供給され、スプレーガン2に高電圧が発生する。このため、スプレーガン2と静電コントローラ3との間のケーブル35(送電ケーブル32)の接続を誤った場合、作業者がトリガ7を操作していないスプレーガン2においては、開閉スイッチ61は開いたままである(スプレーガン2と静電コントローラ3との間が電気的に非接続状態である)ので、静電コントローラ3から電源が供給されることがない。従って、作業者がいない所でスプレーガン2に高電圧が発生することが起こらない。これにより、安全且つ確実に静電塗装を行うことができる。
【0050】
また、静電塗装装置1の故障などにより、トリガ7を操作していないにもかかわらずエア供給源14から噴霧用エアがエアホース13内に漏れ出して、エアフロースイッチ22がオン動作した場合は、トリガ7は操作されていないので、開閉スイッチ61は開いた状態で、スプレーガン2の高電圧発生装置15に電源が供給されない。これにより、作業者がいない所でスプレーガン2に高電圧が発生してしまうことを防止できる。
【0051】
なお、本発明は上記し且つ図面に示した実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。
例えば、スイッチ10及び開閉スイッチ61は、スプレーガン2の内部に設けたが、外部に設けてもよい。
上記した実施形態では、スプレーガン2を作業者が把持して使用するハンドガンに適用した場合について説明したが、自動ガンにも適用することができる。この場合も、スイッチ10または開閉スイッチ61を自動ガンに設ければよい。
また、スプレーガン2は、トリガ7による引き金式のものとしたが、これに限られるものではなく、例えば、押圧操作式のものであってもよい。
【0052】
本発明において使用可能な塗料は、上記した溶剤系塗料に限られるものではなく、例えば、メタリック系塗料を使用することもできる。本発明は、帯電させた塗料を被塗物に塗着させる構成の静電塗装用スプレーガン全般を備えた静電塗装システムに適用することができる。
また、静電コントローラ3にブザーを設け、トリガ7が操作されるか、あるいは、エアフロースイッチ22がオン動作されるかのどちらか一方で、制御回路21が異常であると判断した場合は、ブザーにより作業者に異常であることを報知するようにしてもよい。
この他、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得る。
【符号の説明】
【0053】
図面中、1は静電塗装装置、2はスプレーガン、3は静電コントローラ(制御装置)、4は高電圧発生回路、7はトリガ、10はスイッチ、13はエアホース(エア供給路)、21は制御回路、22はエアフロースイッチ、32は送電ケーブル、35はケーブル、61は開閉スイッチ、Wは被塗装物を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリガと高電圧発生回路とを有し、前記トリガの操作に応じて帯電させた塗料を噴霧して被塗装物に塗着させる静電塗装用のスプレーガンと、
前記トリガの操作に応じて前記スプレーガンにエア供給路を通って供給される噴霧用エアの流通に基づいてオン動作するエアフロースイッチを有し、前記高電圧発生回路にケーブルを介して電源を供給する制御装置と、を備えて構成される静電塗装装置において、
前記制御装置は、前記トリガが操作され、且つ、前記エアフロースイッチがオン動作することに基づいて、前記高電圧発生回路に電源を供給することを特徴とする静電塗装装置。
【請求項2】
前記スプレーガンに前記トリガの操作に応じてオン動作するスイッチを設け、
前記スイッチは、前記トリガが操作されているときは前記制御装置へオン信号を送り、前記トリガが操作されていないときは前記制御装置へオフ信号を送るものであって、
前記制御装置は、前記スイッチからオン信号が入力され、且つ、前記エアフロースイッチがオン動作することに基づいて、前記高電圧発生回路に電源を供給することを特徴とする請求項1に記載の静電塗装装置。
【請求項3】
前記スプレーガンに前記トリガの操作に応じて前記ケーブルの通電路を開閉路する開閉スイッチを設け、
前記開閉スイッチは、前記トリガが操作されているときは閉じ、前記トリガが操作されていないときは開くものであって、
前記制御装置は、前記開閉スイッチが閉じ、且つ、前記エアフロースイッチがオン動作することに基づいて、前記高電圧発生回路に電源を供給することを特徴とする請求項1に記載の静電塗装装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記トリガが操作されるか、あるいは、前記エアフロースイッチがオン動作するかのどちらか一方だけの場合は、前記静電塗装装置の動作状態が異常であると判断することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の静電塗装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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