説明

静電塗装装置

【課題】液体を均一に被塗装物に塗装できる静電塗装装置を提供すること。
【解決手段】帯電可能な油系液体が流れる流路と、前記流路の一端部に連通する円形状の吐出口と、を有する単一又は複数のノズル組立体と、前記流路の他端部に連通する液体導入路を有し前記単一又は複数のノズル組立体が装着される装置筐体と、前記液体導入路内に延在し、前記油系液体に電荷を帯電させるための帯電用電極と、を備え、前記吐出口は前記油系液体の吐出方向に沿って拡開している静電塗装装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電可能な油等の液体を被塗装物に塗装することができる静電塗装装置に関し、特に、鋼材の潤滑および防錆のためや食品が型に固着することを防止するために、鋼材や型の外面に塗油することや塗膜を形成するための静電塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鋼材の潤滑および防錆のためや食品が型に固着することを防止するために、鋼材や型の外周面に塗油することや塗膜を形成することが、静電塗装装置により行われている。静電塗装装置は、液体に帯電させることにより霧状の液体を吐出し被塗装物を塗装する構成である。例えば、特許文献1及び特許文献2は、従来の静電塗装装置を開示する。特許文献1の静電塗装装置は、流動材料を収容するための中空部を有するハウジングと、中空部に連通するノズルと、を備える。ノズルは、板状の上方ノズルリップと、板状の下方ノズルリップと、を接合することにより形成される。
【0003】
上方ノズルリップと下方ノズルリップとの間には、流路が形成され、下方ノズルリップの前縁部が、上方ノズルリップの前縁部に対して突出している。さらに、上方及び下方ノズルリップの前縁部により規定されるスロットは、矩形状の開口である。流路内には、流路の間隙を調整するための金属製の板状部材であるシムがスロットの近くまで延在し、シムによりスロットから吐出される液体の量が調整可能である。
【0004】
また、シムは、ハウジングを介して高電圧の電源に電気的に連結され、流路内の液体は、シムを介して帯電する。上記構成の静電塗装装置によれば、ハウジング内に供給された液体は、流路内で帯電し、スロットを通り、下方ノズルリップの前縁部から吐出される。また、従来の静電塗装装置は、被塗装物の比較的広範囲な領域を液体で塗装するため、下方ノズルリップの前縁部を下方ノズルリップの長手方向直線状に形成し、塗装領域を大きくしている。
【0005】
特許文献2は、特許文献1の静電塗装装置にインダクターバーを加えた構成である。特許文献1と同様に、霧状の液体が被塗装物の矩形状領域に塗装される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平1−501849号公報
【特許文献2】米国特許第5503336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の静電塗装装置では、スロットが矩形状であるため、上方ノズルリップと下方ノズルリップとの間に延びるメニスカスを安定して形成することが困難である。結果として、下方ノズルリップから吐出される液体の吐出方向や吐出量が安定せず、被塗装物に対して液体を安定して均一に塗装することが困難である。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものである。すなわち、液体を均一に被塗装物に塗装できる静電塗装装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の静電塗装装置の第1の態様は、帯電可能な油系液体が流れる流路と、前記流路の一端部に連通する円形状の吐出口と、を有する単一又は複数のノズル組立体と、前記流路の他端部に連通する液体導入路を有し前記単一又は複数のノズル組立体が装着される装置筐体と、前記液体導入路内に延在し、前記油系液体に電荷を帯電させるための帯電用電極と、を備え、前記吐出口は前記油系液体の吐出方向に沿って拡開している。
【0010】
また、本発明の静電塗装装置の第2態様によれば、前記単一又は複数のノズル組立体各々の前記液体導入路内に前記油系液体が0.5cc/min〜4cc/minで供給されるように制御する制御手段を備え、前記吐出口の径が1mm〜5mmである。
【0011】
さらに、本発明の静電塗装装置の第3態様によれば、前記流路を形成する側壁部の肉厚が一定である。
【0012】
本発明の静電塗装装置の第4態様によれば、前記帯電用電極から前記油系液体に帯電する電圧は+10KV以上+40KV以下又は−40KV以上−10KV以下である。
【0013】
また、本発明の静電塗装装置の第5態様によれば、前記流路の径は、前記吐出口に向かい同一である又は漸減している。
【0014】
また、本発明の静電塗装装置の第6態様によれば、前記帯電用電極を接地するための放電接地手段を備える。
【0015】
さらに、本発明の静電塗装装置の第7態様によれば、前記吐出口と同心で、前記単一又は複数のノズル組立体の各々から前記吐出方向に離間して配置されるリング状の抵抗体を備え、前記帯電用電極と前記抵抗体との間に電位差を設ける。
【0016】
なお、本明細書中における油系液体は、潤滑油、離型油、防錆油等の油成分を含有する液体を意味する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る静電塗装装置は、円形状の吐出口を有するノズルを用い、かつ、帯電した液体をノズル内の流路に供給し、吐出口から吐出される液体を霧化する構成である。従って、吐出口に形成されるメニスカスの形状が均整のとれた、正面視で円形状となる。また、吐出口及びその近傍にメニスカスを阻害する障害物が無い為、吐出口にメニスカスを安定かつ確実に形成できる。結果として、吐出口の液体を安定して吐出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態に係る静電塗装装置を模式的に示す部分断面正面図である。
【図2】図1に示す静電塗装装置の下面図である。
【図3】(a)は、図1に示すノズル組立体の正面図であり、(b)は、図3(a)の上面図であり、(c)は、図3(a)の下面図である。
【図4】図3(c)の線IV−IVに沿った断面図である。
【図5】図4のV部の拡大図である。
【図6】(a)は、ノズルの吐出口に形成されるメニスカスの挙動及び液体の霧化を説明するためのノズルの断面図であり、(b)は、図6(a)の線VI−VIに沿った吐出された液体を示す図であり、(c)は、図6(a)の線VII−VIIに沿った吐出された液体を示す図である。
【図7】ノズル組立体の変形例の断面図である。
【図8】第2の実施形態に係る静電塗装装置を模式的に示す部分断面正面図である。
【図9】図8の静電塗装装置の下面図である。
【図10】(a)は、図8に示すノズル組立体の正面図であり、(b)は、図10(a)の上面図であり、(c)は、図10(a)の下面図であである。
【図11】図10(a)の線XI−XIに沿った断面図である。
【図12】吐出口に形成されるメニスカスの挙動及び液体の霧化を説明するための図11のXII部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係る静電塗装装置を適用した実施形態を図面に基づいて説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0020】
〔第1の実施形態〕
〔静電塗装装置〕
第1の実施形態に係る静電塗装装置1の構成について図1及び図2を参照しつつ説明する。図1は、第1の実施形態に係る静電塗装装置1を模式的に示す部分断面正面図であり、図2は、図1の静電塗装装置の下面図である。
【0021】
静電塗装装置1は、帯電可能な油系液体(以下、液体と称す。)が流れる流路2(図4参照。)と、流路2の一端部に連通する円形状の吐出口7dと、を有するノズル組立体6と、流路2の他端部に連通する液体導入路13を有しノズル組立体6を保持する装置筐体11と、液体導入路13内(図4参照。)に延び、液体に電荷を帯電させるための帯電用電極9と、吐出口7dと同心で、ノズル組立体6から吐出方向(図1の下方(すなわち鉛直方向下方))に離間して配置されるリング状の抵抗体25と、を主として備える。本実施形態のノズル組立体6は、ノズル7とノズル保持部8とにより構成されている。また、吐出口7dは、液体の吐出方向(図1の上下方向下方)に向かい拡開し(図4参照。)、帯電用電極9と抵抗体25との間に電位差を設けている。なお、流路2、吐出口7dの詳細については後述する。
【0022】
さらに、静電塗装装置1は、ノズル7を保持するノズル保持部8が螺合される装置筐体11を備える。装置筐体11は、本体部11aと、固定部11bと、を有し、固定部11bは、ネジ等の締結部材15により本体部11aに固定される。
【0023】
本体部11aは、図2に示すように、下面視で正方形の6面体であり、固定部11bは、下面視で矩形状の6面体である。本体部11aの内部で長手方向に延びる貫通孔すなわち液体導入路13(図1参照。)の一端部には、液体を貯留する貯留部43に連結されている液体供給管17が固定されている。また、液体導入路13の他端部は、ノズル保持部8の流路2の液体経路5(図4参照。)へ連通されている。貯留部43から液体供給管17へ液体を供給するために公知のポンプ45が設けられている。ポンプ45は、静電塗装装置1の動作を司る制御手段45(例えば、マイコン)に電気的に連結され、制御手段41からの信号によりポンプ45が作動し、所定量の液体が液体供給管17を介してノズル組立体6の流路2へ供給される。
【0024】
また、固定部11bの本体部11aに対向する面には、本体部11aの液体導入路13にほぼ平行に延びるケーブル導入溝21が設けられている。ケーブル導入溝21内には、高電圧の電流を供給する電源47に連結される電源ケーブル23が延在している。電源ケーブル23の先端部23aは、棒状の導電性部材から構成される帯電用電極9に電気的に連結されている。電源47には、静電塗装装置1の制御手段41が電気的に連結され、制御手段41による制御により電極から電極9へ所定電圧を印加する。
【0025】
また、本体部11aには、液体導入路13の半径方向に延び、本体部11aの一側面から液体経路5に連続する電極収容穴29が設けられている。帯電用電極9が本体部11aの電極収容穴29内に延在するように、ケーブル導入溝21内に電源ケーブル23を配置した状態で、固定部11bは本体部11aに固定される。なお、液体導入路13内の液体が、電極収容穴29に流入しないような構成としていることは言うまでもない。
【0026】
さらに、本体部11aには、抵抗体(帯電用電極の電位よりも低く、接地電位より高く保持されている部材)25が装着されている。なお、抵抗体25の電位は、電圧が印加されている電極9からの放電により確立される。従って、抵抗体25に積極的に電圧を印加する構成を設ける必要はない。抵抗体25は、リング形状の金属製部材であるリング部25aと、リング部25aを装置筐体11に固定するための固定部材25bと、を備える。リング部25aは、その軸心が吐出口7dの中心軸心Cと整合するように配置されている。また、抵抗体25のリング部25aは、吐出口7d及びその近傍位置であって中心軸心Cに対して垂直に延在する面と、中心軸心Cに沿って被塗装物33上の液体が塗布される面との間に位置するように固定する。この範囲内にリング部25が配置されるように固定することで、液体の塗装領域(図6(c)参照。)の寸法を適宜変更することができる。
【0027】
図1に示すように、固定部材25bは、図1の正面視で、鉛直方向に延びる鉛直部と、鉛直方向に対して所定角度で傾斜する方向に延び、鉛直部に連続する傾斜部と、水平方向に延び、傾斜部に連続する水平部と、を有する。また、複数(本実施形態では3個)の固定部材25bの水平部が、リング部25aの周方向等間隔に、ボルト及びナット27(図2参照。)により締結されている。固定部材25bの鉛直部は、本体部11aの側面に固定されている。なお、リング部25aの外径、内径、及び半径方向の寸法は、吐出される液体の種類、導電率、吐出量、高電圧源の電流の大きさ等により適宜設定される。
【0028】
〔ノズル組立体〕
次に、静電塗装装置1のノズル組立体6の構成について図3〜6を参照しつつ説明する。図3(a)は、図1に示すノズル組立体6の正面図であり、図3(b)は、図3(a)の上面図であり、図3(c)は、図3(a)の下面図であり、図4は、図3(c)の線IV−IV(流路2の直径方向)に沿った断面図であり、図5は、図4のV部の拡大図であり、図6(a)は、吐出口7dに形成されるメニスカス111の挙動及び液体の霧化を説明するためのノズル7の断面図であり、(b)は、図6(a)の線VI−VIに沿った吐出された液体を示す図であり、(c)は、図6(a)の線VII−VIに沿った吐出された液体を示す図である。図6に示すノズル7は、図5に示されるノズル7と同じである。
【0029】
図4に示されるように、ノズル7には、その長手方向に貫通し直線状に延びる、流路2を構成する流路構成路3が設けられている。ノズル7は、その先端部7aに設けられ、流路構成路3に連通する吐出口7dを有する。ノズル7の後端部7bは、ノズル保持部8が装着され、ノズル保持部8の長手方向に延びる液体経路5が、ノズル7の流路構成路3に連通している。このように、本実施形態では、流路2は、流路構成路3と流体経路5とにより構成されている。なお、流路構成路3と液体経路5とは、同径で円形の形状を有する。
【0030】
ノズル保持部8の後端部8bに設けられる開口は、供給口5cであり、液体経路5に連続する。なお、ノズル7とノズル保持部8は、Oリング16を介して互いに連結されている。従って、流路構成路3及び流体経路5との連結部において液体が流路構成路3及び流体経路5外へ流出したり、ノズル組立体6の外部から異物が流路構成路3及び流体経路5内へ進入することがない。
【0031】
ノズル7の吐出口7dは、図5に示されるように、流路構成路3を規定する内周面3aとノズル7の前端面7eとを接続し、前端面7eに近づくに従い径の寸法が漸増(吐出方向に沿って拡開)するテーパー面により構成されている。また、吐出される液体は、ノズル組立体2に導入される前に、帯電されているので、ノズル7及びノズル保持部8は、電気導電性及び電気絶縁性の何れの材料からも形成することができる。
【0032】
上記のように、吐出口7dをテーパー面により構成することにより、図6(a)に示すように、均整のとれたメニスカス111が吐出口7dに形成される。具体的には、流路構成路3と吐出口7dとの境にある液体の液面は、図6(a)に示すように、流路構成路3方向(鉛直方向上方)に突出し、吐出口7dの中心軸心Cに対して軸心対称なメニスカス111を形成する。さらに、吐出口7dの先端部7fに到達している液体は、後述するように帯電用電極9に供給される電位に対して電位差がある塗装対象物33に引かれ、下方に飛翔する。
【0033】
発明者等は、吐出口7d及びその近傍に、メニスカスの形成及び挙動を阻害する部材等が延在していないこと、及び吐出口が円形であることから、均整の取れたメニスカスが形成される、という知見を得た。結果として被塗装物に対して、均一の塗装を行なうことができる。
【0034】
さらに、吐出口7dが、その直径方向断面において、中心軸心C方向(図5の上下方向)に対して所定の拡開角度θを有すると、被塗装物33の塗装領域に対して均一な量の液体が付着する、という知見を得ている。より詳細には、図5に示すように吐出口3を直径方向断面で視たときに、吐出口7dの前端面7eに接続する先端部7fにおける吐出口接線Dと、吐出口7dの中心軸心Cとの角度、すなわち拡開角度θが、0度より大きく90度より小さくなるように吐出口7dが構成される。
【0035】
拡開角度θが0度以下(すなわち、吐出口7dの径が前端面7e側において流路構成路203の径と同一又は流路構成路203の径より狭くする)場合には、吐出される液体が、中心軸心Cの方向(吐出口7dの半径方向内方)へ飛翔する傾向が強くなり、飛翔する液体同士が被塗装物に到達する行程で衝突し被塗装物に均一に液体が到達しない。また、拡開角度θが90度以上の場合(すなわち、吐出口7dが流路202(流路構成路203)と同一の径となる)には、拡開角度θが0度以下の場合と同様に、吐出される液体が、中心軸心Cの方向へ飛翔する傾向が強くなり、飛翔する液体が被塗装物33に到達する工程で衝突し合い被塗装物33に均一に液体が到達しない。
【0036】
さらに、本実施形態では、帯電用電極9を装置筐体11内に配置し、ノズル組立体6の流路2内へ液体が供給される前に、装置筐体11内で液体を帯電させる構成である。従って、ノズル組立体の吐出口近傍で帯電させる従来の構成に比べ、外部雰囲気(例えば、雰囲気湿度)の影響を受け難いため、本実施形態の構成によれば、安定かつ確実に帯電工程を行うことができる。また、液体を帯電させるための領域を装置筐体11内に設けているので、ノズル組立体6及び流路2の形状は、液体の吐出に適した形状とすることができる。本実施形態では、液体を効率良く帯電させるために必要な空間を確保するため、液体導入路13の径は、流路2の径より大きく寸法付けられている。
【0037】
上述の静電塗装装置1の動作について説明する。静電塗装装置1のノズル7が、被塗装物33(図6参照。)に対して鉛直方向下方に位置するように、静電塗装装置1が方向付けられている。液体は、ポンプ45により貯留部43から、液体供給管17を介してノズル保持部8の液体経路5内に導入される。液体経路5内の液体は、帯電電極12により高電圧(例えば、電位が−80kV)の電流により帯電する。負に帯電した液体は、流路構成路3内を鉛直方向下方に流れ、吐出口7dの前端部7fから吐出され、帯電電極9との間で電位差がある抵抗体25(例えば、電位が−20kV)へ向かう(図6(a)、(b))。帯電電極9と抵抗体25との間には、電位差があるものの、帯電電極9と抵抗体25とが同じ極性の電荷を有しているので、液体は抵抗体25に到達せずに、アースされている被塗装物33に向かう。また、吐出口7dでメニスカスを形成する液体は、抵抗体25と同一の極性の電荷に帯びているため、液体の液粒子同士が反発することで霧化する(図6(c)参照)。
【0038】
なお、液体を貯留部43から流路2内に供給するために液体へ付与する圧力は、吐出口7dから液体が吐出する程の大きさはない。なお、吐出口7dから吐出される液体の拡散半径は、抵抗体25の径や、液体の供給スピード等に依存する。
【0039】
さらに、本実施形態の静電塗装装置1は、帯電用電極9、ノズル組立体6等に残留する電荷を逃がすための放電接地手段である放電接地装置51を備える。制御手段41からの信号により電源47から帯電用電極9への給電を断った後であっても、帯電用電極9に電荷が残っていると、吐出口207dから液体が吐出する恐れや、作業者が感電する恐れがある。そこで、放電接地装置51を設け、電源47の給電を断つタイミングと、放電接地装置51を作動させるタイミングとを制御手段41により同期させ、上記好ましくない事態を未然に防いでいる。
【0040】
放電接地装置51は、制御手段41によりオン、オフされる電磁コイル53と、絶縁油や純水等の電気絶縁性を有する絶縁液55を収容する絶縁液槽56と、絶縁液55内に浸漬され、互いに離間配置される一対の端子57、59と、端子57、59間を電気的に連結可能な導電性の可動片61と、を備える。一方の端子57は、電源ケーブル23に電気的に連結され、他方の端子59は、接地されている。
【0041】
放電接地装置51は、制御手段41からの信号により電磁コイル53がオンされると、電磁力により可動片61が、一対の端子57、59から離れた位置へ(電磁コイル53側へ)移動する(可動片61が実線で示された状態)。電磁コイル53がオフされると、電磁力が消滅し、不図示の弾性部材により、可動片61が両端子57、59に接する位置(可動片61が2点鎖線で示された状態)に戻る。
【0042】
静電塗装装置1による液体の吐出を止める際、制御手段41からの信号により、ポンプ45による液体供給及び電源47による電圧印加を停止するとともに、電磁コイル53をオフする。放電接地装置51の両端子57、59間が短絡し、帯電用電極9及びノズル組立体206等に残留している電荷が、アースを介して放電される。一方、静電塗装装置1を作動させて液体による塗布を行っているときには、電磁コイル53はオンされており、両端子57、59間が切断された状態である。従って、帯電用電極9へ印加される電圧が放電されることはない。
【0043】
〔第2の実施形態〕
以下に第2の実施形態に係る静電塗装装置201について、第1の実施形態に係る静電塗装装置1と異なる点について、図8及び図9を参照しつつ説明する。図8は、第2の実施形態に係る静電塗装装置201を模式的に示す部分断面正面図であり、図9は、図8の静電塗装装置201の下面図である。
【0044】
本実施形態の静電塗装装置201は、ノズル組立体の構造と、抵抗体を備えない点で、第1の実施形態と異なる。なお、静電塗装装置201の構成、作用、効果については、特に明記しない限り静電塗装装置1と同じである。
【0045】
静電塗装装置201は、主として帯電可能な油系液体が流れる流路202と、流路202の一端部に連通する円形状の吐出口207dと、を有するノズル組立体206と、流路202の他端部に連通する液体導入路13を有しノズル組立体106が装着される装置筐体11と、液体導入路13内に延在し、油系液体に電荷を帯電させるための帯電用電極9と、を備え、吐出口207dは油系液体(以下、液体と称す。)の吐出方向に沿って拡開している(図12参照。)。
【0046】
本実施形態のノズル組立体206は、ノズル207と、ノズル207の外径より大きい外径を有するノズル保持部208と、により構成されている。なお、流路202、吐出口207dの詳細については後述する。
【0047】
さらに、静電塗装装置201は、ノズル保持部208のねじ部208aが螺合される装置筐体11を備える。装置筐体11の本体部11aの内部で長手方向に延びる液体導入路13(図8参照。)の一端部には、液体を貯留する貯留部43に連結されている液体供給管17が連結されている。また、液体導入路13の他端部は、ノズル保持部208の液体経路205(図11参照。)に連通している。また、第1の実施形態と同様に放電接地装置51が設けられている。
【0048】
〔ノズル組立体〕
次に、静電塗装装置201のノズル組立体206の構成について図10〜12を参照しつつ説明する。図10(a)は、図8に示すノズル組立体206の正面図であり、図10(b)は、図10(a)の上面図であり、図10(c)は、図10(a)の下面図であり、図11は、図10(a)の線XI−XI(流路102の直径方向)に沿った断面図であり、図12は、吐出口207dに形成されるメニスカス311の挙動及び液体の霧化を説明するための図11のXII部の拡大図である。
【0049】
図11、12に示されるように、ノズル207には、その長手方向に貫通し直線状に延びる、流路202を構成する流路構成路203が設けられている。ノズル207は、その先端部207aに設けられ、流路構成路203に連通する吐出口207dを有する。ノズル207の後端部207bは、ノズル保持部208が装着され、ノズル保持部208の長手方向に延びる液体経路205が、ノズル207の流路構成路203に連通している。このように、本実施形態では、流路202は、流路構成路203と流体経路205とにより構成されている。なお、流路構成路203と液体経路205とは、その中心線が互いに同心に形成され、前者の径D2は、後者の径D1より、小さく寸法付けされている。
【0050】
ノズル207の吐出口207dは、図12に示されるように、流路構成路203を規定する内周面203aとノズル207の前端面207eとを接続し、前端面207eに近づくに従い径の寸法が漸増するテーパー面により構成されている。さらに、ノズル207の内周面203aを形成する円筒状の側壁部203bの厚さ(側壁部203bの外周面の半径と内周面203aの半径(D2/2)との差分)は、ノズル207の全長に亘り一定である。従って、内周面203aの径も、ノズル207の全長に亘り一定となる。なお、吐出される液体は、ノズル組立体202に導入される前に、帯電されているので、ノズル207及びノズル保持部208は、電気導電性及び電気絶縁性の何れの材料からも形成することができる。
【0051】
上記のように、吐出口207dをテーパー面により構成することにより、図12に示すように、均整のとれたメニスカス311が吐出口207dに形成される。具体的には、流路構成路203と吐出口207dとの境にある液体の液面は、図12に示すように、流路構成路203方向(鉛直方向上方)に突出し、吐出口207dの中心軸心Cに対して軸心対称なメニスカス311を形成する。さらに、吐出口207dの先端部207fに到達している液体は、後述するように帯電用電極209に供給される電位に対して電位差がある塗装対象物に引かれ、下方に飛翔する。
【0052】
発明者等は、吐出口207d及びその近傍に、メニスカス311の形成及び挙動を阻害する部材等が延在せず、吐出口207dを円形とした構成において、所望の吐出量の液体をノズル207から均整の取れたスプレー状態で吐出できるノズルを鋭意研究したところ、ノズル207の流路構成路203の径を所定範囲内の寸法に設定することが必要である、という知見を得た。
【0053】
具体的には、吐出口207dの径(より好ましくは、先端部207fの径D3)を1mm以上5mm以下に寸法付けし、流路構成路203(流路202)への送油量を0.5cc/min〜4cc/minにすると、吐出口207dから吐出される液体を構成する粒子をより微小化できるという知見が得られた。このように吐出口207d及び送油量を規定することで、被塗装物に対して液体を非常に薄い塗膜厚(例えば、5μm〜20μm)で被覆できる。
【0054】
なお、吐出口207dの径(特に、前端部207fの径D3)が1mmより小さい場合に、上記送油量の液体を供給すると吐出口207dを通り前端部207fからの飛翔が安定せず、均等に液体が吐出されない。さらに、吐出口207dの径(特に、前端部207fの径D3)が5mmより大きい場合には、上記送油量が吐出口207dを通り前端部207fから液体が飛翔できる量より多くなり、液体がスプレー状に飛翔しない場合がある。
【0055】
又、上記のようにノズル207の形状を構成すると、第1の実施形態のノズル7に比べ、液体を吐出するために必要な電圧を下げることができる、という知見を得た。すなわち、第1の実施形態の静電塗装装置1に用いる印加電圧は、−30KV〜−80KVであるが、第2の実施形態の静電塗装装置301では、−15KV〜−30KVの電圧を印加することで塗装出来る。従って、第2の実施形態によれば、より低い印加電圧で塗装作業が可能となるため、人体に対する感電や静電塗装装置の附帯機器の破壊等に対する安全性を、さらに向上させることができる。また、第1及び第2の実施形態の静電塗装装置は、負電荷を印加し、液体塗布を行う構成であるが、正電荷を印加し、液体を塗布する構成も可能である。例えば、第1の実施形態では、+30KV〜+80KVの電圧を用い、第2の実施形態では、+15KV〜+30KVの電圧を用いても本発明の作用及び効果を奏する。
【0056】
さらに、吐出口207dが、その直径方向断面(図12)において、中心軸心C方向(図12の上下方向)に対して所定の拡開角度θを有すると、被塗装物33の塗装領域に対して均一な量の液体が付着する、という知見を得ている。より詳細には、図12に示すように、流路構成路203を直径方向断面で視たときに、吐出口207dの、前端面207eに接続する先端部207fにおける接線である吐出口接線Dと、吐出口207dの中心軸心Cとの角度、すなわち拡開角度θが、0度より大きく90度より小さくなるように吐出口207dが構成される。
【0057】
拡開角度θが0度以下(すなわち、吐出口207dの先端部207fの径D3が、前端面207e側において流路構成路203の径と同一又は流路構成路203の径より狭くなる)場合には、吐出される液体が、中心軸心Cの方向(吐出口207dの半径方向内方)へ飛翔する傾向が強くなり、飛翔する液体同士が被塗装物に到達する行程で衝突し被塗装物に均一に液体が到達しない。また、拡開角度θが90度以上の場合(すなわち、吐出口7dが流路2(流路構成路3)と同一の径となる)には、拡開角度θが0度以下の場合と同様に、吐出される液体が、中心軸心Cの方向へ飛翔する傾向が強くなり、飛翔する液体が被塗装物33に到達する工程で衝突し合い被塗装物に均一に液体が到達しない。
【0058】
さらに、本実施形態では、帯電用電極9を装置筐体11内に配置し、ノズル組立体206の流路202内へ液体が供給される前に、装置筐体11内で液体を帯電させる構成である。従って、ノズル組立体206の吐出口207d近傍で帯電させる従来の構成に比べ、外部雰囲気(例えば、雰囲気湿度)の影響を受け難いため、本実施形態の構成によれば、安定かつ確実に帯電工程を行うことができる。
【0059】
また、液体を帯電させるための領域を装置筐体11内に設けているので、ノズル組立体206及び流路202の形状は、液体の吐出に適した形状とすることができる。本実施形態では、液体を効率良く帯電させるために必要な空間を確保するため、液体導入路13の径は、流路202の径より大きく寸付けられている。
【0060】
上述の静電塗装装置1の動作について説明する。静電塗装装置1のノズル7が、被塗装物33(図6参照。)に対して鉛直方向下方に位置するように、静電塗装装置1が方向付けられている。液体は、ポンプ45により貯留部43から、液体供給管17を介してノズル保持部208の液体経路205内に導入される。液体経路205内の液体は、帯電電極12により高電圧(例えば、電位が−20kV)の電流により帯電する。負に帯電した液体は、流路構成路203内を鉛直方向下方に流れ、吐出口207dでメニスカス311を形成し、前端部207fから静電気力により吐出され、アースされている被塗装物33に向かう。吐出された液体は、同一の極性の電荷に帯びているため、液体を構成する微粒子同士が反発することで霧化する(図12参照。)。
【0061】
なお、液体を貯留部43から流路202内に供給するためのポンプ45から液体に付与される圧力は、吐出口207dから液体が吐出する程の大きさはない。なお、吐出口207dから吐出される液体の拡散半径は、送油量、吐出口207dから被塗装物33までの距離等に依存する。
【0062】
第1及び第2の実施形態の静電塗装装置は、吐出口が鉛直方向下方を向く構成を採用したが、本発明は、この構成に限定されない。本発明は、静電吐出口が鉛直方向上方を向く静電塗装装置に適用することが可能である。
【0063】
また、第1の実施形態のノズル組立体6は、互いに別体であるノズル7とノズル保持部8とを備える構成としたが、ノズル組立体6は、一部材から構成することも可能である。ノズル組立体6が一部材から構成される場合には、流路2は、流路構成路3と液体経路5とから構成するのではなく、単一の路から構成されることになる。
【0064】
本発明のノズル組立体の流路は、その長手方向に亘り一定の径に形成された構成に限定されない。図7は、ノズル組立体の変形例の縦断面図である。図7に示すようにノズル組立体106は、その供給口側(図4の5c参照)から吐出口107に向かい内周面103aの径が漸減する構成の流路103を備える。この場合には、流路103の径は、液体導入路(図4の符号13参照。)の径より小さく寸法付けられる。なお、図7に示すノズル組立体106を第2の実施形態のノズル組立体として用いる場合には、その吐出口107(好ましくは、先端部107f)の径は、1mm〜5mmの範囲内に寸法付ける。
【0065】
なお、第1及び第2の実施形態では、吐出口7d(207d)と流路構成路3a(203a)とは、所定の角度で連結しているが、本発明はこの構成に限定されない。吐出口7d(207d)と流路構成路3a(203a)とは滑らかな曲面で連結する構成とすることも可能である。さらに、前端面7e(207e)は水平方向に延在しているが、本発明はこの構成に限定されない。図5(図12)に示すように、ノズル7(207)を流路構成路3(203)の直径方向断面で視たときに、前端面7e(207e)の先端部7f(207f)近傍における接線(両実施形形態では、前端面7e(207e)を構成する水平面に延在する)と、中心軸心Cとの角度、すなわち前端面角度αが90度以下、かつ、−θ(θは前述の拡開角度)以上となるように構成する。例えば、第1の実施形態の場合、−θとは、前端面7eが吐出口7dを構成する斜面に平行となる。この範囲に前端面角度αを規定することにより、液体がノズル7(207)から離れる部位である先端部7fが、中心軸心Cに沿った吐出方向に関し、最も下流側に位置し、安定したスプレー状態を実現できる。
【0066】
第1及び第2の実施形態及びそれらの変形例における静電塗装装置1、201は、単一のノズル組立体を備える構成であるが、本発明はこの構成に限定されず、ノズル組立体を複数備える構成とすることもできる。なお、第2の実施形態及びその変形例のノズル組立体を複数備える静電塗装装置の場合には、各吐出口(好ましくはその先端部)の径を1mm以上5mm以下に寸法付けし、流路構成路への送油量を0.5cc/min〜4cc/minにすると、各吐出口から吐出される液体を構成する粒子をより微小化できる。
【0067】
第1及び第2の実施形態、及びそれらの変形例では、下面視で円形の吐出口を有する構成としたが、本発明は当該構成に限定されない。吐出口は、下面視で三角形、四角形等の多角形で点対称の形状とすることができる。また、吐出口の形状に合わせて、リング部の形状も、下面視で三角形、四角形等の多角形で点対称の形状とすることが好ましい。
【0068】
第1の実施形態の静電塗装装置1に設けられている抵抗体25は、塗装領域の寸法を調整するための部材である。例えば、吐出口7dからの距離及び抵抗体25の径の寸法を図1のように構成すると、抵抗体25を備えない状態で塗装する場合より、塗装領域を広くすることができる。従って、第1及び第2の実施形態、及び変形例のいずれの構成においても、抵抗体を設けるか否かは任意であり、抵抗体の有無に拘わらず本発明の目的、作用、効果を実現できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0069】
1、201 静電塗装装置
2、202 流路
3、203 流路構成路
5、205 液体経路
6、206 ノズル組立体
7、207 ノズル
7d、207d 吐出口
8、208 ノズル保持部
9 帯電用電極
11 装置筐体
13、213 液体導入路
17 液体供給管
21 ケーブル導入路
25 抵抗体
29 電極収容穴
41 制御手段
45 ポンプ
47 電源
51 放電接地装置
111、311 メニスカス



【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電可能な油系液体が流れる流路と、前記流路の一端部に連通する円形状の吐出口と、を有する単一又は複数のノズル組立体と、
前記流路の他端部に連通する液体導入路を有し前記単一又は複数のノズル組立体が装着される装置筐体と、
前記液体導入路内に延在し、前記油系液体に電荷を帯電させるための帯電用電極と、を備え、
前記吐出口は前記油系液体の吐出方向に沿って拡開している静電塗装装置。
【請求項2】
前記単一又は複数のノズル組立体各々の前記液体導入路内に前記油系液体が0.5cc/min〜4cc/minで供給されるように制御する制御手段を備え、前記吐出口の径が1mm〜5mmである請求項1に記載の静電塗装装置。
【請求項3】
前記流路を形成する側壁部の肉厚が一定である請求項1又は請求項2に記載の静電塗装装置。
【請求項4】
前記帯電用電極から前記油系液体に帯電する電圧は+10KV以上+40KV以下又は−40KV以上−10KV以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載の静電塗装装置。
【請求項5】
前記流路の径は、前記吐出口に向かい同一である又は漸減している請求項1〜4のいずれか一項に記載の静電塗装装置。
【請求項6】
前記帯電用電極を接地するための放電接地手段を備える請求項1〜5のいずれか一項に記載の静電塗装装置。
【請求項7】
前記吐出口と同心で、前記単一又は複数のノズル組立体の各々から前記吐出方向に離間して配置されるリング状の抵抗体を備え、前記帯電用電極と前記抵抗体との間に電位差を設ける請求項1〜6のいずれか一項に記載の静電塗装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−35254(P2012−35254A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37563(P2011−37563)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年8月23日 インターネットアドレス「http://assistgikenn.web.fc2.com/index.html」 「http://assistgikenn.web.fc2.com/sub2.html」に発表
【出願人】(510195272)合同会社アシスト技研 (1)
【Fターム(参考)】