静電容量センサ
【課題】 容量変化率を大きくして、検出精度または感度の向上を図る。
【解決手段】 静電容量センサ10であって、行配線14に接続された検出行配線34と、 列配線17に接続された検出列配線37と、検出行配線34上を被覆する第1の誘電体層15と、検出列配線37上を被覆する第2の誘電体層16と、が設けられ、第1の誘電体層15の比誘電率よりも第2の誘電体層16の比誘電率のほうが大きく設定されてなる。
【解決手段】 静電容量センサ10であって、行配線14に接続された検出行配線34と、 列配線17に接続された検出列配線37と、検出行配線34上を被覆する第1の誘電体層15と、検出列配線37上を被覆する第2の誘電体層16と、が設けられ、第1の誘電体層15の比誘電率よりも第2の誘電体層16の比誘電率のほうが大きく設定されてなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物の微細な凹凸などを測定するための静電容量センサ、および、タッチパッド等に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
検出面に押し付けられた被測定物の表面の微細な凹凸を検出するセンサとしては、アレイ状に配置した電極と被検出物との静電容量の変化を測定するものとして例えば特許文献1が知られている。
また指等の接触位置を静電容量の変化から測定するタッチパッドとしては、行配線と列配線を絶縁体を介して交差させ、交差部の静電容量が被検出物により変化するものとして例えば特許文献2が知られている。
【特許文献1】特開2000−213908号公報
【特許文献2】特表平09−511086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1に記載される技術では検出電極を選択するのにトランジスタが必要になる。例えば、指紋のように微細な形状を検出する場合、100μm以下のピッチでかつ検出範囲全体に連続して、検出電極・スイッチング用トランジスタを配設する必要があり、半導体基板にこれらを集積化することが必須となる。従って広い面積の検出器を構成しようとした場合コストが上昇してしまうという問題があった。
また、特許文献2の技術では、検出感度をある程度確保するためには配線交差部の容量を大きくする必要がある。この際、容量を大きくするために配線幅を大きくすることが必要なため、配線ピッチを小さくできない。その結果、この技術では指紋のような微細構造を高感度で検出するセンサ構造が実現できないという問題があった。
また、容量変化を検出する際に、初期の容量に対してその変化量が小さすぎると容量変化を検出することができないため、より検出のしやすい静電検出センサを得たいという要求があった。
【0004】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的は、低コストで検出感度を向上できる静電容量センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の静電容量センサは、絶縁基板上に複数の導体が並列して第1方向に延びる行配線と、複数の導体が並列し、前記第1方向と交差する第2方向に延びる列配線とを有し、前記行配線と前記列配線とで形成される静電容量の変化に基づいて被検出導体の接近を検出する静電容量センサであって、
前記行配線に接続された検出行配線と、
前記検出行配線上に第1の誘電体層を挟んで設けられ、該第1の誘電体層に積層されて前記列配線に接続された検出列配線と、
前記検出列配線上を被覆する第2の誘電体層と、が設けられ、
前記第1の誘電体層の比誘電率よりも前記第2の誘電体層の比誘電率のほうが大きく設定されてなることにより上記課題を解決した。
本発明において、前記行配線および前記列配線においてそれぞれ隣り合う配線間距離で規定される検出領域が設けられ、
前記検出領域には、前記行配線に接続された検出行配線と、前記列配線に接続された検出列配線とが設けられ、前記検出行配線と前記検出列配線とが平面視して互いにその隙間を埋めるようにくし歯状に形成されることがより好ましい。
本発明は、前記検出行配線と前記検出列配線とは、平面視して互いにその隙間を埋めるようにL字型状に形成されることが可能である。
また、本発明において、前記検出行配線と前記検出列配線とは、平面視して互いにその隙間を埋めるように渦巻き状に形成される手段を採用することもできる。
また、前記検出行配線と前記検出列配線とは、平面視して互いにその隙間を埋めるように四分円型状に形成されることができる。
本発明においては、前記第1の誘電体層の比誘電率ε1と前記第2の誘電体層の比誘電率ε2との比が、
3 ≦ ε2/ε1 ≦ 3500
とされてなることが望ましい。
さらに、前記第1の誘電体層が、SiO2,Si3N4,MgO,Al2O3,アクリル樹脂,ポリイミド,エポキシ樹脂から少なくとも一つが選択されてなり、
前記第2の誘電体層が、Ta2O5,ZrO2,HfO2,La2O3,Pr2O3,TiO2,CaTiO3,SrTiO3,BaTiO3から少なくとも一つが選択されてなることが可能である。
【0006】
本発明の静電容量センサは、前記検出行配線上を被覆する第1の誘電体層の比誘電率よりも、前記検出列配線上を被覆する第2の誘電体層の比誘電率のほうが大きく設定されてなることにより、主に被検出物が静電容量センサの表面に位置しない初期状態において容量を形成する際に、検出行配線と検出列配線との間に位置する第1の誘電体層の比誘電率よりも、検出列配線と被検出物との間で容量を形成して初期容量に対して変化する容量となる検出列配線と被検出物との間に位置することになる第2の誘電体層の比誘電率を高くすることで、初期容量に対して、変化する容量の大きさを大きくして、容量変化率を大きくし、検出精度または感度を向上することが可能となる。
【0007】
本発明において、隣り合う前記行配線どうし、および、隣り合う前記列配線どうしで囲まれた検出領域に、この検出領域を埋め尽くすように検出行配線と検出列配線とが設けられることにより、検出行配線と検出列配線とで形成される静電容量が指等の被検出物(被検出導体)の接触によって変化する量を増大することが可能となる。これにより、各検出セルにおける感度を向上することができ、トランジスタを形成することなく検出する際の分解能を向上することが可能となる。
ここで、「配線間距離で規定される」とは、周囲を行配線と列配線とで囲まれた範囲、または、この配線で囲まれた範囲と同等の面積を有する範囲を意味し、一つの組みとなる行配線と列配線により動作する検出セルに対応した範囲とすることができる。また、「検出領域を埋め尽くすように」とは、後述するように、検出配線対向長が増大するように配置されることを意味する。
なお、本発明の静電容量センサは電極(配線)間距離が変化する必要がないので、ガラス基板等に形成することが可能である。
【0008】
本発明は、検出行配線と検出列配線とは、検出領域を埋め尽くす際に、これらの配線間で形成される静電容量を大きくするように前記検出配線間の検出配線対向長(対向長)が増大するように配置されることにより、静電容量の変化分を大きくして検出感度を向上することができる。
ここで、「検出配線対向長(対向長)」は、検出行配線と検出列配線とが互いに対向して静電容量を形成する部分において、各検出配線が互いに対向する方向と交差する方向におけるそれぞれの検出配線の長さ寸法を意味しており、本来、物理量としての静電容量を形成するパラメータは極板面積であるが、後述するように、平面視してくし歯状、渦巻き状、L字型状、四分円型状等として積層された検出配線どうしの間で静電容量を形成する際の面積であることから、実際の設計パラメータとしては長さとして認識できるので、この対向長を増大するようにそれぞれの検出配線を配置したものである。この場合、静電容量を形成する検出配線(電極)どうしは、それぞれ異なる層に積層されたものである。
【0009】
また、本発明において、検出行配線と検出列配線とは、検出領域を埋め尽くす際に、これらの配線間で形成される静電容量を大きくするように前記静電容量を形成する検出配線対向間距離(対向間距離)が減少されるように位置されることにより、静電容量の変化分を大きくして検出感度を向上することができる。
ここで、「検出配線対向間距離(対向間距離)」は、前述の「検出配線対向長(対向長)」に交差する方向における検出行配線と検出列配線との間の距離を意味し、この場合、静電容量を形成する検出配線(電極)どうしは、それぞれ異なる層に積層されたものである。また、検出行配線と検出列配線とが異なる層に形成されている場合、実際の検出に関わる検出配線(検出行配線および検出列配線)どうしは平面視して重ならない構成とされることが好ましい。これは、検出行配線と検出列配線とが特許文献2の交差部のように重なってしまうと、重なった部分の静電容量は被検出物(被検出導体)の接触・離間によって変化しないため、静電容量の変化分が小さく検出感度が低下するためである。
【0010】
本発明における検出領域を埋める検出配線の平面パターンが、図2,図12〜図15に示すようにくし歯状、渦巻き状、L字型状、四分円型状等が可能であり、これらにより、「対向長」を増大しかつ、「対向間距離」を減少して、検出配線間で形成される静電容量の変動を大きくすることが可能となる。この場合、静電容量を形成する検出配線(電極)どうしは、それぞれ異なる層に積層された構造に適応することができる。
【0011】
また、前記検出列配線が、前記第1の誘電体層に積層されてなることで、検出時に検出列配線と被検出物との距離を小さくし、被検出物と検出列配線との間で形成される容量を大きくして、検出両々における変化率を大きくすることが可能となる。
【0012】
本発明においては、前記第1の誘電体層の比誘電率ε1と前記第2の誘電体層の比誘電率ε2との比が、3 ≦ ε2/ε1 ≦ 3500 とされてなることにより、第1の誘電体層を挟んで形成される初期容量に対して第2の誘電体層を挟んで形成される検出時の容量を充分検出可能なほど大きくすることができ、検出時における容量変化率を増大することができる。
【0013】
さらに、前記第1の誘電体層が、SiO2,Si3N4,MgO,Al2O3,アクリル樹脂,ポリイミド,エポキシ樹脂等比誘電率が10程度以下のものから少なくとも一つが選択されてなり、前記第2の誘電体層が、Ta2O5,ZrO2,HfO2,La2O3,Pr2O3,TiO2,CaTiO3,SrTiO3,BaTiO3等比誘電率が10〜100より大きいものから少なくとも一つが選択されてなることにより、上記の3 ≦ ε2/ε1 ≦ 3500という比を実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、前記検出行配線上を被覆する第1の誘電体層の比誘電率よりも、前記検出列配線上を被覆する第2の誘電体層の比誘電率のほうが大きく設定されてなることにより、主に被検出物が静電容量センサの表面に位置しない初期状態において容量を形成する際に、検出行配線と検出列配線との間に位置する第1の誘電体層の比誘電率よりも、検出列配線と被検出物との間で容量を形成して初期容量に対して変化する容量となる検出列配線と被検出物との間に位置することになる第2の誘電体層の比誘電率を高くすることで、初期容量に対して、変化する容量の大きさを大きくして、容量変化率を大きくし、検出精度または感度を向上するという効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る静電容量センサの一実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態における静電容量センサの等価回路を示す説明図であり、図2は本発明の静電容量センサの要部拡大平面図であり、図3は本発明の静電容量センサの要部拡大断面図である。図において、符号10は静電容量センサである。
【0016】
本実施形態における静電センサ10は、指紋センサをして適応されるもので、ガラス基板13上に、第1方向X平行として多数配列された行配線14と、この行配線14を覆う絶縁膜15と、絶縁膜15上に、第1方向Xと交わる第2方向Y平行として多数配列された列配線17と、この行配線17を覆う絶縁膜16とを有する。これら行配線14と列配線17とで囲まれた領域が検出領域30とされている。
【0017】
行配線14は、例えば0.1μm厚のITO膜から構成され、厚さ0.7mmのガラス基板13上に30〜100μmピッチ、例えば50μmピッチで200本形成される。絶縁膜15は、Si3 N4 等のSiNx を積層したものであればよい。それぞれの行配線14は、静電容量を検出する容量検出回路22に接続されている。
列配線17は、例えば0.1μm厚のlTO膜から構成され、絶縁膜15上に30〜100μmピッチ、例えば50μmピッチで200本形成される。それぞれの列配線17は、列選択回路23に接続されている。こうした列選択回路23は、静電容量の測定時に選択された列配線17以外を全てグランド側に接続する。
【0018】
検出領域30には、この検出領域30を埋め尽くすように検出行配線34と検出列配線37とが設けられる。この検出行配線34は行配線14と同じ高さに設けられ、また検出列配線37は列配線17と同じ高さに設けられる。ここで、高さとは、ガラス基板13上で同じ層内にあることを意味しており、検出行配線34は行配線14とが絶縁膜(第1の誘電体層)15内に設けられ、また検出列配線37は列配線17とが絶縁膜(第2の誘電体層)16内に設けられること意味する。
【0019】
この検出行配線34と検出列配線37とは、検出領域30を埋め尽くす際に、これらの配線14,17間で形成される静電容量を大きくするように検出配線34,37間の対向長が増大するように配置されるとともに、静電容量を形成する対向間距離が減少されるように位置される。具体的には、検出領域30を埋める検出配線34,37の平面パターンが、図2に示すように、くし歯状とされることができる。このように検出配線34,37を平面視して互いにその隙間を埋めるようにくし歯状に形成することで、検出配線34,37間の「対向長」を増大しかつ、「対向間距離」を減少して、検出配線34,37間で形成される静電容量の変動を大きくすることが可能となる。
【0020】
絶縁膜(第1の誘電体層)15は、検出行配線34上を被覆するように設けられ、絶縁膜15上には検出列配線37が設けら、この検出列配線14を被覆するように絶縁膜(第2の誘電体層)16が設けられる。
この下側の絶縁膜15の比誘電率ε1よりも、上側の絶縁膜16の比誘電率ε2のほうが大きく設定され、具体的には、絶縁膜15の比誘電率ε1と絶縁膜16の比誘電率ε2との比が、
3 ≦ ε2/ε1 ≦ 3500
の範囲になるように設定される。
【0021】
さらに詳細には、絶縁層15が、比誘電率10程度以下のものからなるとともに、絶縁層16が、比誘電率10〜100より大きいものからなることができる。
絶縁層15が、SiO2,Si3N4,MgO,Al2O3,アクリル樹脂,ポリイミド,エポキシ樹脂等から選択された少なくとも一つからなることが好ましく、より好ましくはSiO2,Si3N4からなることができる。
絶縁層16が、Ta2O5,ZrO2,HfO2,La2O3,Pr2O3,TiO2,CaTiO3,SrTiO3,BaTiO3等から選択された少なくとも一つからなることが好ましく、より好ましくは、TiO2,からなることができる。
【0022】
このような静電容量センサ10表面に被検出導体Fとしての指等を接触させた場合、指紋の凹部に対応するピクセルにおいては、図4に示すように、検出行電極34と検出列電極37とで形成される静電容量は被検出導体Fの接触していない初期容量値からあまり変化しない。これに対し、指紋の凸部に対応するピクセルにおいては、図5に示すように、検出列電極37から検出行電極34に向かっていた電気力線Dのうち一部の電気力線dが指(被検出導体)Fに向かい、結果として検出配線34,37間で形成される静電容量は被検出導体Fの接触していない初期容量値に比べて小さくなる。
【0023】
本実施形態の静電容量センサ10は、上述したような構成によって、図1に示す等価回路に示すように、行配線14と列配線17とが交差している交差部21に対応した検出領域30における静電容量の変化を容量検出回路22で検出することができる。こうして、絶縁膜16の表面に微細な凹凸面が押し付けられた際に発生する、多数の検出領域30の静電容量の変化を検出することによって、被測定物Fの凹凸面の形状を信号データとして出力することが可能になる。
【0024】
ここで、比検出導体(被検出物)Fがセンサ表面に接触しない初期状態の容量(初期容量)は検出行配線34と検出列配線37との間で形成されるとともに、比検出導体Fがセンサ表面に接触した状態の変化容量(容量変化分)が、検出列配線37と被検出導体Fとの間で形成されている。したがって、初期容量は検出行配線34と検出列配線37との間に位置する絶縁膜15の比誘電率ε1に依存するとともに、変化容量は検出列配線37と比検出導体Fとの間に位置する絶縁膜16の比誘電率ε2に依存することになる。
本実施形態においては、絶縁膜15の比誘電率ε1よりも絶縁膜16の比誘電率ε2を大きく設定することにより、初期容量に対して変化容量を大きくして、容量変化率を大きくし、検出精度または感度を向上することが可能となる。
【0025】
容量検出回路22は、例えば、図6に示すような回路が用いられ、測定時には列選択回路23で選択されている列配線17以外は全てグランド側に接続されるとともに、同一の行配線14上の測定対象外の静電容量は全て寄生容量として測定系に並列に入力されるが、寄生容量の反対側の電極がグランド側に接続されていることにより、キャンセルすることが可能になっている。こうした構成によって、微細な凹凸面の検出、即ち微小な静電容量の変化を精度良く検出することが可能になる。その結果半導体基板等高価な材料を使うことなく低コスト化を実現でき、またドットピッチを小さくした場合でも、各ドットの初期静電容量、静電容量の変化量を大きくしてセンサの感度を向上することができる。
【0026】
このように、絶縁膜15と絶縁膜16との比誘電率を異ならせたのは、例えば、図6において、出力側電圧Voutは、入力側電圧Vinに対して、
Vout=(ΔCx/Cf)Vin (1)
となっており、この状態で、出力信号処理可能とするために、
Vout≧100mV (2)
であることが好ましく、このとき、入力電圧Vinと初期容量Cfとが
Vin=3.3V
Cf=1pF (3)
であるとすると、容量変化は、
ΔCx=30fF (4)
となる。ここで、初期容量Cfを100fF以下に抑えるとき、式(4)とするためには、変化量が30%以上必要である。従って、この条件を満たすためには、
ε2/ε1≧3 (5)
とすることが必要である。
これにより、絶縁膜(第1の誘電体層)15を挟んで形成される初期容量に対して絶縁膜(第2の誘電体層)16を挟んで形成される検出時の容量を充分検出可能なほど大きくすることができ、検出時における容量変化率を増大することができる。
【0027】
このような静電容量センサ10は用途を限定するものではないが、静電容量センサ10を例えば指紋センサに適用した例として、図7に示すように、例えば携帯電話26の持ち主認証システムなどに適用することができる。近年は携帯電話26などで決済などを行うことが考えられているが、携帯電話26に静電容量センサ10を形成することによって、静電容量センサ10に押し付けられた指紋を正確に検出して、予め登録された指紋データと照合することで持ち主を正しく認証することができる。なお、図7においては、携帯電話26の液晶等の表示画面26aに形成した例を図示している。この場合、配線14,17および検出配線34,37を透明電極で形成して静電容量センサ(指紋センサ)10を光透過型とすることにより、表示画面26a以外の部分に指紋センサ10を配置する必要がなく小型化を図ることができる。
【0028】
以下、本発明に係る静電容量センサの第2実施形態を図面に基づいて説明する。
図8は本実施形態の静電容量センサの要部拡大平面図であり、図9は本実施形態の静電容量センサの要部拡大断面図である。
【0029】
本実施形態の静電容量センサ10が、前述した実施形態と異なるのは、センサ表面10aに接続されたアース配線Aが設けられた点である。
即ち、図8,図9に示すように、アース配線Aは、行配線14、検出行配線34と同じ高さ位置に設けられたアース配線33と、列配線17、検出列配線37と同じ高さ位置に設けられたアース配線35と、センサ表面10aに設けられたアース配線36とを有する。アース配線33は行配線14と平行に設けられて、アース電位とされている。アース配線35,36はそれぞれガラス基板13側のアース配線33,35と電気的に接続されるようにスルーホールにより接続されている。
【0030】
本実施形態によれば、アース配線Aが設けられたことによりセンサ表面10aに接触した被検出導体Fとアース配線Aとを同電位(アース電位)とすることができ、被検出導体Fの電位を強制的にアース電位として、検出配線34,37間の静電容量変化を大きくするとともに被検出導体Fからの電気的ノイズを低減し、安定な測定を可能とすることができる。
【0031】
以下、本発明に係る静電容量センサの第3実施形態を図面に基づいて説明する。
図10は本実施形態の静電容量センサの模式平面図である。
【0032】
本実施形態においては、上述した各実施形態と異なるところは、検出領域30が連続して設けられた精細部Sと、検出領域30が不連続に設けられた非精細部Tとを有し、精細部Sが作動状態を切替可能とされてなる点である。
本実施形態の静電容量センサ10では、図10において、精細部Sは中央付近とされ、検出領域30が密に連続して設けられている。また、非精細部Tは精細部Sの周囲に位置して、検出領域30が粗になるように設けられている。
また、精細部Sでは、配線14,17間隔が50μmピッチ、256本ずつ設けられ、非精細部Tでは、配線14,17間隔は3.2mmで、精細部S周囲の左右上下にそれぞれ6本ずつ設けられる。
【0033】
この実施形態では、検出領域30の連続する精細部Sにおいて、全ての検出領域30を作動させる全域動作状態(認証状態)と、検出領域30が不連続に配置される非精細部Tにおける検出領域30の密度(配置間隔)に等しい検出領域30のみを作動状態としてそれ以外の検出領域30を非作動状態とする部分動作状態(座標入力状態)と、を切替可能とされる。具体的には、非精細部Tはポインティングデバイスとしてのタッチパッドとして使用され、その一部を指紋センサとして検出可能な精細部Sとするものである。
【0034】
このような静電容量センサ10では、図示しない切替回路部によって精細部Sの動作を指紋センサとタッチパッドとの動作切替をおこなう。具体的には、非精細部Tの出力はセンサ表面での指(被検出導体)の動きを検出するものとされ、精細部Sは、この動きを検出する座標入力状態の場合には、非精細部Tと同程度の密度とされる検出領域30からの信号のみを出力するように設定され、また、指紋認識をおこなうパターン認識状態(認証状態)においては、精細部Sの全ての検出領域30からの信号を出力するように設定される。
【0035】
また、この精細部Sの動作状態切替は図11に示すようにおこなわれる。
まず、S1で示すように、ノートパソコン等において、起動時または待機画面を解除しようとした場合には、S2に示すように、切替回路部によって精細部Sの動作モードが指紋センサ(認証状態)に設定される。次に、S3で示すように、画面にはLOGIN画面を表示するとともに、指紋認証かキーボード等によるパスワードの入力を選択する選択画面を表示する。ここで、S4においてキーボード等による入力を選択した場合には、S5のように動作モードをタッチパッド(座標入力状態)として、パスワードの入力を待つ。また、S4において指紋認証を選択した場合には、S6に示すように精細部Sにおいて認証動作にはいり、当人の指紋であることが確認された場合には、S7に示すように、精細部Sの動作モードをタッチパッド(座標入力状態)に切り替え、S8に示すようにLOGINを完了し通常作業可能な状態とする。
【0036】
本実施形態においては、タッチパッドTの一部分に精細部Sを設けてこの精細部Sを指紋センサとすることが可能となる。これにより、指紋センサとタッチパッドを一体に形成することが可能であるとともに、指紋センサとしての高精細検出および、タッチパッドとしての高速スキャン検出を同時に可能とすることができる。
【0037】
なお、上述の実施形態において、検出電極34,37の検出領域30における配置パターンはくし歯状だけでなく、図12に示す渦巻き状、図13に示すL字型状、図14に示す四分円型状等が可能である。また、くし歯としても、行配線14と列配線17によって囲まれた範囲を検出領域とするのではなく、図15に示すように、行配線14を跨いだ領域を検出領域30とすることも可能である。
いずれにしても、検出配線34,37の「対向長」を増大しかつ、「対向間距離」を減少して、検出配線間で形成される静電容量の変動を大きくすることが可能であれば、どのようなパターンでもかまわない。
【0038】
さらに、本発明の静電容量センサは指紋センサ以外にも、図16に示すように、印章読み取り装置等として適応することが可能である。すなわち、被検出導体(指)Fのかわりに、非導電性の被検出物(印鑑)F2の形状を検出する際であっても、上記の各実施形態における静電容量センサ10の表面に接触するように導電膜F0を有する導電性フィルムF1または、図示しないが、導電性ゴム等可撓性を揺する導電膜を別途配置し、このフィルムの上から印鑑を載置することで、形状(印章)読み取りをおこなうことが可能となる。
【実施例】
【0039】
本発明の実施例を説明する。
上述の第1実施形態と等しい構造を有する静電容量センサにおける検出領域に対する静電容量の変化率を計算した。以下に検出配線の諸元の値を記す。
【0040】
a)ギャップおよび水の影響
検出配線幅寸法:3μm
検出配線長さ:42μm
下側絶縁層(第1の誘電体層):SiNx
下側絶縁層(第1の誘電体層)膜厚:300nm
下側絶縁層(第1の誘電体層)比誘電率ε1:7
上側絶縁層(第2の誘電体層):任意
上側絶縁層(第2の誘電体層)膜厚:400nm
上側絶縁層(第2の誘電体層)比誘電率ε2:1〜100
検出領域:50μm角
検出配線:ITO
検出配線膜厚:100nm
検出配線幅:3μm
ガラス基板の比誘電率εG=4
水の比誘電率:80
【0041】
上記のような検出領域において、図3に示すような下側絶縁膜15の比誘電率ε1を固定し、上側絶縁膜16の比誘電率ε2を変化させてその静電容量の変化率を計算した。その結果および、表面に水のついた状態における変化率を表1に示す。
【表1】
【0042】
表1の結果から、本発明においては容量変化率を30%以上にするためには、下側絶縁膜15の比誘電率ε1と上側絶縁膜ε2との比が
3≦ε2/ε1
とされてなることが好ましい。
【0043】
b)次に、上下絶縁膜の膜厚変化に対する容量変化率を計算した。
検出配線幅寸法:3μm
検出配線長さ:42μm
下側絶縁層(第1の誘電体層):TiO2およびSiNx
下側絶縁層(第1の誘電体層)膜厚:300nm
下側絶縁層(第1の誘電体層)比誘電率ε1:7
上側絶縁層(第2の誘電体層):TiO2
上側絶縁層(第2の誘電体層)膜厚:400nm
上側絶縁層(第2の誘電体層)比誘電率ε2:65
検出領域:50μm角
検出配線:ITO
検出配線膜厚:100nm
検出配線幅:3μm
ガラス基板の比誘電率εG=4
水の比誘電率:80
【0044】
その結果を表2、表3に示す。
【表2】
【表3】
【0045】
表2の結果から、上下絶縁膜に同一の誘電体を用いた場合でも、高い比誘電率の誘電体を用いることにより、容量変化を大きくすることができ、ギャップGを広げることによって容量変化率を上げることができる。しかし、実際には検出回路(増幅回路)の性能、周囲のノイズの影響により寄生容量を小さくし容積変化率を大きくすることが好ましい。また、ギャップGを広げることによって容積変化率を大きくすることができるが、そのことによってセンサ表面に水がついた際の影響が大きくなるため、ギャップGはなるべく小さく抑えられることが好ましい。ここで、センサ表面に水のついた状態とは、初期状態における上側絶縁膜の膜厚が増大した状態であると考えられる。そこで、表3の結果で示されるように、下側絶縁膜の比誘電率ε1よりも上側絶縁膜の比誘電率ε2を大きくすることにより、上下絶縁膜に同一の誘電体を用いた場合よりも寄生容量を小さく容量変化を大きくすることができ、ギャップGを小さく抑えることができる。このように、上下絶縁膜の誘電体(比誘電率)の選択やギャップGを制御することによって、容量変化・変化率を使用目的によって適した値に制御することができる。
【0046】
c)次に、上下絶縁膜の膜厚変化に対する容量変化率を計算した。
検出配線幅寸法:3μm
検出配線長さ:42μm
下側絶縁層(第1の誘電体層):SiNx
下側絶縁層(第1の誘電体層)膜厚:300nm
下側絶縁層(第1の誘電体層)比誘電率ε1:7
上側絶縁層(第2の誘電体層):TiO2
上側絶縁層(第2の誘電体層)膜厚:400nm
上側絶縁層(第2の誘電体層)比誘電率ε2:65
検出領域:50μm角
検出配線:ITO
検出配線膜厚:100nm
検出配線幅:3μm
ガラス基板の比誘電率εG=4
水の比誘電率:80
【0047】
その結果を表4〜表10に示す。
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【0048】
上記の結果、および、絶縁耐力の好ましい値が10kV/mmであることから、下側絶縁膜(第1の誘電体層)は絶縁耐力を充分に満たす厚さとすることが好ましく、0.1μm〜3μm程度であることが好ましい。
また、上側絶縁膜(第2の誘電体膜)は、膜厚が厚くなると容量変化量、変化率が低下することから、パッシベーション膜として機能する厚さ、0.1μm〜3μm程度であることが好ましい。
【0049】
なお、特許文献2記載のタッチパッドにおいても、本発明における検出配線材質・膜厚等、本発明の内容を適応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る静電容量センサの等価回路を示す説明図である。
【図2】本発明に係る静電容量センサの第1実施形態における要部拡大平面図である。
【図3】本発明の静電容量センサの第1実施形態における要部拡大断面図である。
【図4】本発明の静電容量センサの第1実施形態における動作を示す説明断面図である。
【図5】本発明の静電容量センサの第1実施形態における動作を示す説明断面図である。
【図6】容量検出回路の一例を示す等価回路図である。
【図7】本発明の静電容量センサを備えた携帯電話を示す外観斜視図である。
【図8】本発明に係る静電容量センサの第2実施形態における要部拡大平面図である。
【図9】本発明の静電容量センサの第2実施形態における要部拡大断面図である。
【図10】本発明に係る静電容量センサの第3実施形態における模式平面図である。
【図11】本発明に係る静電容量センサの第3実施形態における動作を示すフローチャートである。
【図12】本発明に係る静電容量センサの平面パターンを示す模式図である。
【図13】本発明に係る静電容量センサの平面パターンを示す模式図である。
【図14】本発明に係る静電容量センサの平面パターンを示す模式図である。
【図15】本発明に係る静電容量センサの平面パターンを示す模式図である。
【図16】本発明に係る静電容量センサの他の実施形態を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0051】
10…静電容量センサ、14…行配線(配線)、15…第1の誘電体層(絶縁膜)、16…第2の誘電体層(絶縁膜)、17…列配線(配線)、30…検出領域、34…検出行配線(検出配線)、37…検出列配線(検出配線)、S…精細部、T…非精細部、F…被検出導体
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物の微細な凹凸などを測定するための静電容量センサ、および、タッチパッド等に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
検出面に押し付けられた被測定物の表面の微細な凹凸を検出するセンサとしては、アレイ状に配置した電極と被検出物との静電容量の変化を測定するものとして例えば特許文献1が知られている。
また指等の接触位置を静電容量の変化から測定するタッチパッドとしては、行配線と列配線を絶縁体を介して交差させ、交差部の静電容量が被検出物により変化するものとして例えば特許文献2が知られている。
【特許文献1】特開2000−213908号公報
【特許文献2】特表平09−511086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1に記載される技術では検出電極を選択するのにトランジスタが必要になる。例えば、指紋のように微細な形状を検出する場合、100μm以下のピッチでかつ検出範囲全体に連続して、検出電極・スイッチング用トランジスタを配設する必要があり、半導体基板にこれらを集積化することが必須となる。従って広い面積の検出器を構成しようとした場合コストが上昇してしまうという問題があった。
また、特許文献2の技術では、検出感度をある程度確保するためには配線交差部の容量を大きくする必要がある。この際、容量を大きくするために配線幅を大きくすることが必要なため、配線ピッチを小さくできない。その結果、この技術では指紋のような微細構造を高感度で検出するセンサ構造が実現できないという問題があった。
また、容量変化を検出する際に、初期の容量に対してその変化量が小さすぎると容量変化を検出することができないため、より検出のしやすい静電検出センサを得たいという要求があった。
【0004】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的は、低コストで検出感度を向上できる静電容量センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の静電容量センサは、絶縁基板上に複数の導体が並列して第1方向に延びる行配線と、複数の導体が並列し、前記第1方向と交差する第2方向に延びる列配線とを有し、前記行配線と前記列配線とで形成される静電容量の変化に基づいて被検出導体の接近を検出する静電容量センサであって、
前記行配線に接続された検出行配線と、
前記検出行配線上に第1の誘電体層を挟んで設けられ、該第1の誘電体層に積層されて前記列配線に接続された検出列配線と、
前記検出列配線上を被覆する第2の誘電体層と、が設けられ、
前記第1の誘電体層の比誘電率よりも前記第2の誘電体層の比誘電率のほうが大きく設定されてなることにより上記課題を解決した。
本発明において、前記行配線および前記列配線においてそれぞれ隣り合う配線間距離で規定される検出領域が設けられ、
前記検出領域には、前記行配線に接続された検出行配線と、前記列配線に接続された検出列配線とが設けられ、前記検出行配線と前記検出列配線とが平面視して互いにその隙間を埋めるようにくし歯状に形成されることがより好ましい。
本発明は、前記検出行配線と前記検出列配線とは、平面視して互いにその隙間を埋めるようにL字型状に形成されることが可能である。
また、本発明において、前記検出行配線と前記検出列配線とは、平面視して互いにその隙間を埋めるように渦巻き状に形成される手段を採用することもできる。
また、前記検出行配線と前記検出列配線とは、平面視して互いにその隙間を埋めるように四分円型状に形成されることができる。
本発明においては、前記第1の誘電体層の比誘電率ε1と前記第2の誘電体層の比誘電率ε2との比が、
3 ≦ ε2/ε1 ≦ 3500
とされてなることが望ましい。
さらに、前記第1の誘電体層が、SiO2,Si3N4,MgO,Al2O3,アクリル樹脂,ポリイミド,エポキシ樹脂から少なくとも一つが選択されてなり、
前記第2の誘電体層が、Ta2O5,ZrO2,HfO2,La2O3,Pr2O3,TiO2,CaTiO3,SrTiO3,BaTiO3から少なくとも一つが選択されてなることが可能である。
【0006】
本発明の静電容量センサは、前記検出行配線上を被覆する第1の誘電体層の比誘電率よりも、前記検出列配線上を被覆する第2の誘電体層の比誘電率のほうが大きく設定されてなることにより、主に被検出物が静電容量センサの表面に位置しない初期状態において容量を形成する際に、検出行配線と検出列配線との間に位置する第1の誘電体層の比誘電率よりも、検出列配線と被検出物との間で容量を形成して初期容量に対して変化する容量となる検出列配線と被検出物との間に位置することになる第2の誘電体層の比誘電率を高くすることで、初期容量に対して、変化する容量の大きさを大きくして、容量変化率を大きくし、検出精度または感度を向上することが可能となる。
【0007】
本発明において、隣り合う前記行配線どうし、および、隣り合う前記列配線どうしで囲まれた検出領域に、この検出領域を埋め尽くすように検出行配線と検出列配線とが設けられることにより、検出行配線と検出列配線とで形成される静電容量が指等の被検出物(被検出導体)の接触によって変化する量を増大することが可能となる。これにより、各検出セルにおける感度を向上することができ、トランジスタを形成することなく検出する際の分解能を向上することが可能となる。
ここで、「配線間距離で規定される」とは、周囲を行配線と列配線とで囲まれた範囲、または、この配線で囲まれた範囲と同等の面積を有する範囲を意味し、一つの組みとなる行配線と列配線により動作する検出セルに対応した範囲とすることができる。また、「検出領域を埋め尽くすように」とは、後述するように、検出配線対向長が増大するように配置されることを意味する。
なお、本発明の静電容量センサは電極(配線)間距離が変化する必要がないので、ガラス基板等に形成することが可能である。
【0008】
本発明は、検出行配線と検出列配線とは、検出領域を埋め尽くす際に、これらの配線間で形成される静電容量を大きくするように前記検出配線間の検出配線対向長(対向長)が増大するように配置されることにより、静電容量の変化分を大きくして検出感度を向上することができる。
ここで、「検出配線対向長(対向長)」は、検出行配線と検出列配線とが互いに対向して静電容量を形成する部分において、各検出配線が互いに対向する方向と交差する方向におけるそれぞれの検出配線の長さ寸法を意味しており、本来、物理量としての静電容量を形成するパラメータは極板面積であるが、後述するように、平面視してくし歯状、渦巻き状、L字型状、四分円型状等として積層された検出配線どうしの間で静電容量を形成する際の面積であることから、実際の設計パラメータとしては長さとして認識できるので、この対向長を増大するようにそれぞれの検出配線を配置したものである。この場合、静電容量を形成する検出配線(電極)どうしは、それぞれ異なる層に積層されたものである。
【0009】
また、本発明において、検出行配線と検出列配線とは、検出領域を埋め尽くす際に、これらの配線間で形成される静電容量を大きくするように前記静電容量を形成する検出配線対向間距離(対向間距離)が減少されるように位置されることにより、静電容量の変化分を大きくして検出感度を向上することができる。
ここで、「検出配線対向間距離(対向間距離)」は、前述の「検出配線対向長(対向長)」に交差する方向における検出行配線と検出列配線との間の距離を意味し、この場合、静電容量を形成する検出配線(電極)どうしは、それぞれ異なる層に積層されたものである。また、検出行配線と検出列配線とが異なる層に形成されている場合、実際の検出に関わる検出配線(検出行配線および検出列配線)どうしは平面視して重ならない構成とされることが好ましい。これは、検出行配線と検出列配線とが特許文献2の交差部のように重なってしまうと、重なった部分の静電容量は被検出物(被検出導体)の接触・離間によって変化しないため、静電容量の変化分が小さく検出感度が低下するためである。
【0010】
本発明における検出領域を埋める検出配線の平面パターンが、図2,図12〜図15に示すようにくし歯状、渦巻き状、L字型状、四分円型状等が可能であり、これらにより、「対向長」を増大しかつ、「対向間距離」を減少して、検出配線間で形成される静電容量の変動を大きくすることが可能となる。この場合、静電容量を形成する検出配線(電極)どうしは、それぞれ異なる層に積層された構造に適応することができる。
【0011】
また、前記検出列配線が、前記第1の誘電体層に積層されてなることで、検出時に検出列配線と被検出物との距離を小さくし、被検出物と検出列配線との間で形成される容量を大きくして、検出両々における変化率を大きくすることが可能となる。
【0012】
本発明においては、前記第1の誘電体層の比誘電率ε1と前記第2の誘電体層の比誘電率ε2との比が、3 ≦ ε2/ε1 ≦ 3500 とされてなることにより、第1の誘電体層を挟んで形成される初期容量に対して第2の誘電体層を挟んで形成される検出時の容量を充分検出可能なほど大きくすることができ、検出時における容量変化率を増大することができる。
【0013】
さらに、前記第1の誘電体層が、SiO2,Si3N4,MgO,Al2O3,アクリル樹脂,ポリイミド,エポキシ樹脂等比誘電率が10程度以下のものから少なくとも一つが選択されてなり、前記第2の誘電体層が、Ta2O5,ZrO2,HfO2,La2O3,Pr2O3,TiO2,CaTiO3,SrTiO3,BaTiO3等比誘電率が10〜100より大きいものから少なくとも一つが選択されてなることにより、上記の3 ≦ ε2/ε1 ≦ 3500という比を実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、前記検出行配線上を被覆する第1の誘電体層の比誘電率よりも、前記検出列配線上を被覆する第2の誘電体層の比誘電率のほうが大きく設定されてなることにより、主に被検出物が静電容量センサの表面に位置しない初期状態において容量を形成する際に、検出行配線と検出列配線との間に位置する第1の誘電体層の比誘電率よりも、検出列配線と被検出物との間で容量を形成して初期容量に対して変化する容量となる検出列配線と被検出物との間に位置することになる第2の誘電体層の比誘電率を高くすることで、初期容量に対して、変化する容量の大きさを大きくして、容量変化率を大きくし、検出精度または感度を向上するという効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る静電容量センサの一実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態における静電容量センサの等価回路を示す説明図であり、図2は本発明の静電容量センサの要部拡大平面図であり、図3は本発明の静電容量センサの要部拡大断面図である。図において、符号10は静電容量センサである。
【0016】
本実施形態における静電センサ10は、指紋センサをして適応されるもので、ガラス基板13上に、第1方向X平行として多数配列された行配線14と、この行配線14を覆う絶縁膜15と、絶縁膜15上に、第1方向Xと交わる第2方向Y平行として多数配列された列配線17と、この行配線17を覆う絶縁膜16とを有する。これら行配線14と列配線17とで囲まれた領域が検出領域30とされている。
【0017】
行配線14は、例えば0.1μm厚のITO膜から構成され、厚さ0.7mmのガラス基板13上に30〜100μmピッチ、例えば50μmピッチで200本形成される。絶縁膜15は、Si3 N4 等のSiNx を積層したものであればよい。それぞれの行配線14は、静電容量を検出する容量検出回路22に接続されている。
列配線17は、例えば0.1μm厚のlTO膜から構成され、絶縁膜15上に30〜100μmピッチ、例えば50μmピッチで200本形成される。それぞれの列配線17は、列選択回路23に接続されている。こうした列選択回路23は、静電容量の測定時に選択された列配線17以外を全てグランド側に接続する。
【0018】
検出領域30には、この検出領域30を埋め尽くすように検出行配線34と検出列配線37とが設けられる。この検出行配線34は行配線14と同じ高さに設けられ、また検出列配線37は列配線17と同じ高さに設けられる。ここで、高さとは、ガラス基板13上で同じ層内にあることを意味しており、検出行配線34は行配線14とが絶縁膜(第1の誘電体層)15内に設けられ、また検出列配線37は列配線17とが絶縁膜(第2の誘電体層)16内に設けられること意味する。
【0019】
この検出行配線34と検出列配線37とは、検出領域30を埋め尽くす際に、これらの配線14,17間で形成される静電容量を大きくするように検出配線34,37間の対向長が増大するように配置されるとともに、静電容量を形成する対向間距離が減少されるように位置される。具体的には、検出領域30を埋める検出配線34,37の平面パターンが、図2に示すように、くし歯状とされることができる。このように検出配線34,37を平面視して互いにその隙間を埋めるようにくし歯状に形成することで、検出配線34,37間の「対向長」を増大しかつ、「対向間距離」を減少して、検出配線34,37間で形成される静電容量の変動を大きくすることが可能となる。
【0020】
絶縁膜(第1の誘電体層)15は、検出行配線34上を被覆するように設けられ、絶縁膜15上には検出列配線37が設けら、この検出列配線14を被覆するように絶縁膜(第2の誘電体層)16が設けられる。
この下側の絶縁膜15の比誘電率ε1よりも、上側の絶縁膜16の比誘電率ε2のほうが大きく設定され、具体的には、絶縁膜15の比誘電率ε1と絶縁膜16の比誘電率ε2との比が、
3 ≦ ε2/ε1 ≦ 3500
の範囲になるように設定される。
【0021】
さらに詳細には、絶縁層15が、比誘電率10程度以下のものからなるとともに、絶縁層16が、比誘電率10〜100より大きいものからなることができる。
絶縁層15が、SiO2,Si3N4,MgO,Al2O3,アクリル樹脂,ポリイミド,エポキシ樹脂等から選択された少なくとも一つからなることが好ましく、より好ましくはSiO2,Si3N4からなることができる。
絶縁層16が、Ta2O5,ZrO2,HfO2,La2O3,Pr2O3,TiO2,CaTiO3,SrTiO3,BaTiO3等から選択された少なくとも一つからなることが好ましく、より好ましくは、TiO2,からなることができる。
【0022】
このような静電容量センサ10表面に被検出導体Fとしての指等を接触させた場合、指紋の凹部に対応するピクセルにおいては、図4に示すように、検出行電極34と検出列電極37とで形成される静電容量は被検出導体Fの接触していない初期容量値からあまり変化しない。これに対し、指紋の凸部に対応するピクセルにおいては、図5に示すように、検出列電極37から検出行電極34に向かっていた電気力線Dのうち一部の電気力線dが指(被検出導体)Fに向かい、結果として検出配線34,37間で形成される静電容量は被検出導体Fの接触していない初期容量値に比べて小さくなる。
【0023】
本実施形態の静電容量センサ10は、上述したような構成によって、図1に示す等価回路に示すように、行配線14と列配線17とが交差している交差部21に対応した検出領域30における静電容量の変化を容量検出回路22で検出することができる。こうして、絶縁膜16の表面に微細な凹凸面が押し付けられた際に発生する、多数の検出領域30の静電容量の変化を検出することによって、被測定物Fの凹凸面の形状を信号データとして出力することが可能になる。
【0024】
ここで、比検出導体(被検出物)Fがセンサ表面に接触しない初期状態の容量(初期容量)は検出行配線34と検出列配線37との間で形成されるとともに、比検出導体Fがセンサ表面に接触した状態の変化容量(容量変化分)が、検出列配線37と被検出導体Fとの間で形成されている。したがって、初期容量は検出行配線34と検出列配線37との間に位置する絶縁膜15の比誘電率ε1に依存するとともに、変化容量は検出列配線37と比検出導体Fとの間に位置する絶縁膜16の比誘電率ε2に依存することになる。
本実施形態においては、絶縁膜15の比誘電率ε1よりも絶縁膜16の比誘電率ε2を大きく設定することにより、初期容量に対して変化容量を大きくして、容量変化率を大きくし、検出精度または感度を向上することが可能となる。
【0025】
容量検出回路22は、例えば、図6に示すような回路が用いられ、測定時には列選択回路23で選択されている列配線17以外は全てグランド側に接続されるとともに、同一の行配線14上の測定対象外の静電容量は全て寄生容量として測定系に並列に入力されるが、寄生容量の反対側の電極がグランド側に接続されていることにより、キャンセルすることが可能になっている。こうした構成によって、微細な凹凸面の検出、即ち微小な静電容量の変化を精度良く検出することが可能になる。その結果半導体基板等高価な材料を使うことなく低コスト化を実現でき、またドットピッチを小さくした場合でも、各ドットの初期静電容量、静電容量の変化量を大きくしてセンサの感度を向上することができる。
【0026】
このように、絶縁膜15と絶縁膜16との比誘電率を異ならせたのは、例えば、図6において、出力側電圧Voutは、入力側電圧Vinに対して、
Vout=(ΔCx/Cf)Vin (1)
となっており、この状態で、出力信号処理可能とするために、
Vout≧100mV (2)
であることが好ましく、このとき、入力電圧Vinと初期容量Cfとが
Vin=3.3V
Cf=1pF (3)
であるとすると、容量変化は、
ΔCx=30fF (4)
となる。ここで、初期容量Cfを100fF以下に抑えるとき、式(4)とするためには、変化量が30%以上必要である。従って、この条件を満たすためには、
ε2/ε1≧3 (5)
とすることが必要である。
これにより、絶縁膜(第1の誘電体層)15を挟んで形成される初期容量に対して絶縁膜(第2の誘電体層)16を挟んで形成される検出時の容量を充分検出可能なほど大きくすることができ、検出時における容量変化率を増大することができる。
【0027】
このような静電容量センサ10は用途を限定するものではないが、静電容量センサ10を例えば指紋センサに適用した例として、図7に示すように、例えば携帯電話26の持ち主認証システムなどに適用することができる。近年は携帯電話26などで決済などを行うことが考えられているが、携帯電話26に静電容量センサ10を形成することによって、静電容量センサ10に押し付けられた指紋を正確に検出して、予め登録された指紋データと照合することで持ち主を正しく認証することができる。なお、図7においては、携帯電話26の液晶等の表示画面26aに形成した例を図示している。この場合、配線14,17および検出配線34,37を透明電極で形成して静電容量センサ(指紋センサ)10を光透過型とすることにより、表示画面26a以外の部分に指紋センサ10を配置する必要がなく小型化を図ることができる。
【0028】
以下、本発明に係る静電容量センサの第2実施形態を図面に基づいて説明する。
図8は本実施形態の静電容量センサの要部拡大平面図であり、図9は本実施形態の静電容量センサの要部拡大断面図である。
【0029】
本実施形態の静電容量センサ10が、前述した実施形態と異なるのは、センサ表面10aに接続されたアース配線Aが設けられた点である。
即ち、図8,図9に示すように、アース配線Aは、行配線14、検出行配線34と同じ高さ位置に設けられたアース配線33と、列配線17、検出列配線37と同じ高さ位置に設けられたアース配線35と、センサ表面10aに設けられたアース配線36とを有する。アース配線33は行配線14と平行に設けられて、アース電位とされている。アース配線35,36はそれぞれガラス基板13側のアース配線33,35と電気的に接続されるようにスルーホールにより接続されている。
【0030】
本実施形態によれば、アース配線Aが設けられたことによりセンサ表面10aに接触した被検出導体Fとアース配線Aとを同電位(アース電位)とすることができ、被検出導体Fの電位を強制的にアース電位として、検出配線34,37間の静電容量変化を大きくするとともに被検出導体Fからの電気的ノイズを低減し、安定な測定を可能とすることができる。
【0031】
以下、本発明に係る静電容量センサの第3実施形態を図面に基づいて説明する。
図10は本実施形態の静電容量センサの模式平面図である。
【0032】
本実施形態においては、上述した各実施形態と異なるところは、検出領域30が連続して設けられた精細部Sと、検出領域30が不連続に設けられた非精細部Tとを有し、精細部Sが作動状態を切替可能とされてなる点である。
本実施形態の静電容量センサ10では、図10において、精細部Sは中央付近とされ、検出領域30が密に連続して設けられている。また、非精細部Tは精細部Sの周囲に位置して、検出領域30が粗になるように設けられている。
また、精細部Sでは、配線14,17間隔が50μmピッチ、256本ずつ設けられ、非精細部Tでは、配線14,17間隔は3.2mmで、精細部S周囲の左右上下にそれぞれ6本ずつ設けられる。
【0033】
この実施形態では、検出領域30の連続する精細部Sにおいて、全ての検出領域30を作動させる全域動作状態(認証状態)と、検出領域30が不連続に配置される非精細部Tにおける検出領域30の密度(配置間隔)に等しい検出領域30のみを作動状態としてそれ以外の検出領域30を非作動状態とする部分動作状態(座標入力状態)と、を切替可能とされる。具体的には、非精細部Tはポインティングデバイスとしてのタッチパッドとして使用され、その一部を指紋センサとして検出可能な精細部Sとするものである。
【0034】
このような静電容量センサ10では、図示しない切替回路部によって精細部Sの動作を指紋センサとタッチパッドとの動作切替をおこなう。具体的には、非精細部Tの出力はセンサ表面での指(被検出導体)の動きを検出するものとされ、精細部Sは、この動きを検出する座標入力状態の場合には、非精細部Tと同程度の密度とされる検出領域30からの信号のみを出力するように設定され、また、指紋認識をおこなうパターン認識状態(認証状態)においては、精細部Sの全ての検出領域30からの信号を出力するように設定される。
【0035】
また、この精細部Sの動作状態切替は図11に示すようにおこなわれる。
まず、S1で示すように、ノートパソコン等において、起動時または待機画面を解除しようとした場合には、S2に示すように、切替回路部によって精細部Sの動作モードが指紋センサ(認証状態)に設定される。次に、S3で示すように、画面にはLOGIN画面を表示するとともに、指紋認証かキーボード等によるパスワードの入力を選択する選択画面を表示する。ここで、S4においてキーボード等による入力を選択した場合には、S5のように動作モードをタッチパッド(座標入力状態)として、パスワードの入力を待つ。また、S4において指紋認証を選択した場合には、S6に示すように精細部Sにおいて認証動作にはいり、当人の指紋であることが確認された場合には、S7に示すように、精細部Sの動作モードをタッチパッド(座標入力状態)に切り替え、S8に示すようにLOGINを完了し通常作業可能な状態とする。
【0036】
本実施形態においては、タッチパッドTの一部分に精細部Sを設けてこの精細部Sを指紋センサとすることが可能となる。これにより、指紋センサとタッチパッドを一体に形成することが可能であるとともに、指紋センサとしての高精細検出および、タッチパッドとしての高速スキャン検出を同時に可能とすることができる。
【0037】
なお、上述の実施形態において、検出電極34,37の検出領域30における配置パターンはくし歯状だけでなく、図12に示す渦巻き状、図13に示すL字型状、図14に示す四分円型状等が可能である。また、くし歯としても、行配線14と列配線17によって囲まれた範囲を検出領域とするのではなく、図15に示すように、行配線14を跨いだ領域を検出領域30とすることも可能である。
いずれにしても、検出配線34,37の「対向長」を増大しかつ、「対向間距離」を減少して、検出配線間で形成される静電容量の変動を大きくすることが可能であれば、どのようなパターンでもかまわない。
【0038】
さらに、本発明の静電容量センサは指紋センサ以外にも、図16に示すように、印章読み取り装置等として適応することが可能である。すなわち、被検出導体(指)Fのかわりに、非導電性の被検出物(印鑑)F2の形状を検出する際であっても、上記の各実施形態における静電容量センサ10の表面に接触するように導電膜F0を有する導電性フィルムF1または、図示しないが、導電性ゴム等可撓性を揺する導電膜を別途配置し、このフィルムの上から印鑑を載置することで、形状(印章)読み取りをおこなうことが可能となる。
【実施例】
【0039】
本発明の実施例を説明する。
上述の第1実施形態と等しい構造を有する静電容量センサにおける検出領域に対する静電容量の変化率を計算した。以下に検出配線の諸元の値を記す。
【0040】
a)ギャップおよび水の影響
検出配線幅寸法:3μm
検出配線長さ:42μm
下側絶縁層(第1の誘電体層):SiNx
下側絶縁層(第1の誘電体層)膜厚:300nm
下側絶縁層(第1の誘電体層)比誘電率ε1:7
上側絶縁層(第2の誘電体層):任意
上側絶縁層(第2の誘電体層)膜厚:400nm
上側絶縁層(第2の誘電体層)比誘電率ε2:1〜100
検出領域:50μm角
検出配線:ITO
検出配線膜厚:100nm
検出配線幅:3μm
ガラス基板の比誘電率εG=4
水の比誘電率:80
【0041】
上記のような検出領域において、図3に示すような下側絶縁膜15の比誘電率ε1を固定し、上側絶縁膜16の比誘電率ε2を変化させてその静電容量の変化率を計算した。その結果および、表面に水のついた状態における変化率を表1に示す。
【表1】
【0042】
表1の結果から、本発明においては容量変化率を30%以上にするためには、下側絶縁膜15の比誘電率ε1と上側絶縁膜ε2との比が
3≦ε2/ε1
とされてなることが好ましい。
【0043】
b)次に、上下絶縁膜の膜厚変化に対する容量変化率を計算した。
検出配線幅寸法:3μm
検出配線長さ:42μm
下側絶縁層(第1の誘電体層):TiO2およびSiNx
下側絶縁層(第1の誘電体層)膜厚:300nm
下側絶縁層(第1の誘電体層)比誘電率ε1:7
上側絶縁層(第2の誘電体層):TiO2
上側絶縁層(第2の誘電体層)膜厚:400nm
上側絶縁層(第2の誘電体層)比誘電率ε2:65
検出領域:50μm角
検出配線:ITO
検出配線膜厚:100nm
検出配線幅:3μm
ガラス基板の比誘電率εG=4
水の比誘電率:80
【0044】
その結果を表2、表3に示す。
【表2】
【表3】
【0045】
表2の結果から、上下絶縁膜に同一の誘電体を用いた場合でも、高い比誘電率の誘電体を用いることにより、容量変化を大きくすることができ、ギャップGを広げることによって容量変化率を上げることができる。しかし、実際には検出回路(増幅回路)の性能、周囲のノイズの影響により寄生容量を小さくし容積変化率を大きくすることが好ましい。また、ギャップGを広げることによって容積変化率を大きくすることができるが、そのことによってセンサ表面に水がついた際の影響が大きくなるため、ギャップGはなるべく小さく抑えられることが好ましい。ここで、センサ表面に水のついた状態とは、初期状態における上側絶縁膜の膜厚が増大した状態であると考えられる。そこで、表3の結果で示されるように、下側絶縁膜の比誘電率ε1よりも上側絶縁膜の比誘電率ε2を大きくすることにより、上下絶縁膜に同一の誘電体を用いた場合よりも寄生容量を小さく容量変化を大きくすることができ、ギャップGを小さく抑えることができる。このように、上下絶縁膜の誘電体(比誘電率)の選択やギャップGを制御することによって、容量変化・変化率を使用目的によって適した値に制御することができる。
【0046】
c)次に、上下絶縁膜の膜厚変化に対する容量変化率を計算した。
検出配線幅寸法:3μm
検出配線長さ:42μm
下側絶縁層(第1の誘電体層):SiNx
下側絶縁層(第1の誘電体層)膜厚:300nm
下側絶縁層(第1の誘電体層)比誘電率ε1:7
上側絶縁層(第2の誘電体層):TiO2
上側絶縁層(第2の誘電体層)膜厚:400nm
上側絶縁層(第2の誘電体層)比誘電率ε2:65
検出領域:50μm角
検出配線:ITO
検出配線膜厚:100nm
検出配線幅:3μm
ガラス基板の比誘電率εG=4
水の比誘電率:80
【0047】
その結果を表4〜表10に示す。
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【0048】
上記の結果、および、絶縁耐力の好ましい値が10kV/mmであることから、下側絶縁膜(第1の誘電体層)は絶縁耐力を充分に満たす厚さとすることが好ましく、0.1μm〜3μm程度であることが好ましい。
また、上側絶縁膜(第2の誘電体膜)は、膜厚が厚くなると容量変化量、変化率が低下することから、パッシベーション膜として機能する厚さ、0.1μm〜3μm程度であることが好ましい。
【0049】
なお、特許文献2記載のタッチパッドにおいても、本発明における検出配線材質・膜厚等、本発明の内容を適応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る静電容量センサの等価回路を示す説明図である。
【図2】本発明に係る静電容量センサの第1実施形態における要部拡大平面図である。
【図3】本発明の静電容量センサの第1実施形態における要部拡大断面図である。
【図4】本発明の静電容量センサの第1実施形態における動作を示す説明断面図である。
【図5】本発明の静電容量センサの第1実施形態における動作を示す説明断面図である。
【図6】容量検出回路の一例を示す等価回路図である。
【図7】本発明の静電容量センサを備えた携帯電話を示す外観斜視図である。
【図8】本発明に係る静電容量センサの第2実施形態における要部拡大平面図である。
【図9】本発明の静電容量センサの第2実施形態における要部拡大断面図である。
【図10】本発明に係る静電容量センサの第3実施形態における模式平面図である。
【図11】本発明に係る静電容量センサの第3実施形態における動作を示すフローチャートである。
【図12】本発明に係る静電容量センサの平面パターンを示す模式図である。
【図13】本発明に係る静電容量センサの平面パターンを示す模式図である。
【図14】本発明に係る静電容量センサの平面パターンを示す模式図である。
【図15】本発明に係る静電容量センサの平面パターンを示す模式図である。
【図16】本発明に係る静電容量センサの他の実施形態を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0051】
10…静電容量センサ、14…行配線(配線)、15…第1の誘電体層(絶縁膜)、16…第2の誘電体層(絶縁膜)、17…列配線(配線)、30…検出領域、34…検出行配線(検出配線)、37…検出列配線(検出配線)、S…精細部、T…非精細部、F…被検出導体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板上に複数の導体が並列して第1方向に延びる行配線と、複数の導体が並列し、前記第1方向と交差する第2方向に延びる列配線とを有し、前記行配線と前記列配線とで形成される静電容量の変化に基づいて被検出導体の接近を検出する静電容量センサであって、
前記行配線に接続された検出行配線と、
前記検出行配線上に第1の誘電体層を挟んで設けられ、該第1の誘電体層に積層されて前記列配線に接続された検出列配線と、
前記検出列配線上を被覆する第2の誘電体層と、が設けられ、
前記第1の誘電体層の比誘電率よりも前記第2の誘電体層の比誘電率のほうが大きく設定されてなることを特徴とする静電容量センサ。
【請求項2】
前記行配線および前記列配線においてそれぞれ隣り合う配線間距離で規定される検出領域が設けられ、
前記検出領域には、前記行配線に接続された検出行配線と、前記列配線に接続された検出列配線とが設けられ、前記検出行配線と前記検出列配線とが平面視して互いにその隙間を埋めるようにくし歯状に形成されることを特徴とする請求項1記載の静電容量センサ。
【請求項3】
前記検出行配線と前記検出列配線とは、平面視して互いにその隙間を埋めるようにL字型状に形成されることを特徴とする請求項1記載の静電容量センサ。
【請求項4】
前記検出行配線と前記検出列配線とは、平面視して互いにその隙間を埋めるように渦巻き状に形成されることを特徴とする請求項1記載の静電容量センサ。
【請求項5】
前記検出行配線と前記検出列配線とは、平面視して互いにその隙間を埋めるように四分円型状に形成されることを特徴とする請求項1記載の静電容量センサ。
【請求項6】
前記第1の誘電体層の比誘電率ε1と前記第2の誘電体層の比誘電率ε2との比が、
3 ≦ ε2/ε1 ≦ 3500
とされてなることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の静電容量センサ。
【請求項7】
前記第1の誘電体層が、SiO2,Si3N4,MgO,Al2O3,アクリル樹脂,ポリイミド,エポキシ樹脂から選択される少なくとも一つからなり、
前記第2の誘電体層が、Ta2O5,ZrO2,HfO2,La2O3,Pr2O3,TiO2,CaTiO3,SrTiO3,BaTiO3から選択される少なくとも一つからなることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の静電容量センサ。
【請求項1】
絶縁基板上に複数の導体が並列して第1方向に延びる行配線と、複数の導体が並列し、前記第1方向と交差する第2方向に延びる列配線とを有し、前記行配線と前記列配線とで形成される静電容量の変化に基づいて被検出導体の接近を検出する静電容量センサであって、
前記行配線に接続された検出行配線と、
前記検出行配線上に第1の誘電体層を挟んで設けられ、該第1の誘電体層に積層されて前記列配線に接続された検出列配線と、
前記検出列配線上を被覆する第2の誘電体層と、が設けられ、
前記第1の誘電体層の比誘電率よりも前記第2の誘電体層の比誘電率のほうが大きく設定されてなることを特徴とする静電容量センサ。
【請求項2】
前記行配線および前記列配線においてそれぞれ隣り合う配線間距離で規定される検出領域が設けられ、
前記検出領域には、前記行配線に接続された検出行配線と、前記列配線に接続された検出列配線とが設けられ、前記検出行配線と前記検出列配線とが平面視して互いにその隙間を埋めるようにくし歯状に形成されることを特徴とする請求項1記載の静電容量センサ。
【請求項3】
前記検出行配線と前記検出列配線とは、平面視して互いにその隙間を埋めるようにL字型状に形成されることを特徴とする請求項1記載の静電容量センサ。
【請求項4】
前記検出行配線と前記検出列配線とは、平面視して互いにその隙間を埋めるように渦巻き状に形成されることを特徴とする請求項1記載の静電容量センサ。
【請求項5】
前記検出行配線と前記検出列配線とは、平面視して互いにその隙間を埋めるように四分円型状に形成されることを特徴とする請求項1記載の静電容量センサ。
【請求項6】
前記第1の誘電体層の比誘電率ε1と前記第2の誘電体層の比誘電率ε2との比が、
3 ≦ ε2/ε1 ≦ 3500
とされてなることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の静電容量センサ。
【請求項7】
前記第1の誘電体層が、SiO2,Si3N4,MgO,Al2O3,アクリル樹脂,ポリイミド,エポキシ樹脂から選択される少なくとも一つからなり、
前記第2の誘電体層が、Ta2O5,ZrO2,HfO2,La2O3,Pr2O3,TiO2,CaTiO3,SrTiO3,BaTiO3から選択される少なくとも一つからなることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の静電容量センサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2006−14838(P2006−14838A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−194095(P2004−194095)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】
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