説明

静電破壊防止用材料の評価方法および静電破壊防止用材料の評価装置

【課題】 電子機器を静電破壊から効果的に回避する物の構成材料となり得るか否かを、正確に判断できる静電破壊防止用材料の評価方法および静電破壊防止用材料の評価装置を提供する。
【解決手段】 静電気による半導体デバイス又は電子機器の破壊を回避するために用いられる物の構成材料である被評価材料について、複数値の電圧を該被評価材料に印加して該複数値の電圧毎に該被評価材料に流れる電流を測定する電圧対電流特性の測定処理(ステップS10)と、ステップS10での測定処理の結果に、非直線性を示す箇所があるか否かを判断する処理(ステップS20)と、被評価材料の帯電量を測定する処理(ステップS30)とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電破壊防止用材料の評価方法および静電破壊防止用材料の評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
静電気放電耐量(ESD:Electro Static Discharge)は、電子機器が人体又は他の帯電しているものから静電気放電を受けた場合において、その電子機器の耐量を規定したものである。すなわち、半導体デバイス又はハードディスクドライブ(HDD)などの電子機器の製造工程では、静電気放電が生じ、これにより部品又は素子内に電流が流れて破壊が生じる。従来から静電気の発生を防ぐための対策又は発生した静電気を中和するための対策が試みられてはいるが、それにも限界がある。そこで、半導体デバイスや装置がどの程度静電気放電に対して耐量があるかをあらかじめ試験しておき、製造工程内での静電気発生量などの管理をして破壊を未然に防ぐことが考えられている。また、静電気放電による破壊を未然に防ぐために、静電気を帯電した人や物が載った時にその静電気を地面に容易に流す帯電防止マットも考えだされている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、半導体デバイスを電子機器に実装するまでの取り扱い中において、半導体デバイスが受ける静電気放電に対する耐性を評価するための試験としては2つの試験がある。第1の試験は、半導体デバイス自体には静電気が帯電していないが、静電気が帯電した他の物体が半導体デバイスの近くに存在する場合を想定した試験である。この試験は、帯電物体が半導体デバイス(試供品)の端子に接触して放電が起こり、これにより半導体デバイスが破壊するときの状態を見るものである。第1の試験には、外部帯電物体が人体である「人体帯電モデル静電破壊試験(HBM/ESD)」と、外部帯電物体が機械である「マシンモデル静電破壊試験(MM/ESD)」とがある。人体帯電モデル静電破壊試験及びマシンモデル静電破壊試験は、一般に、規格(EIAJ ED-4701 304)に準拠して行われる。このような試験方法によって試験された半導体デバイスの破壊耐量は、破壊電圧又は絶縁破壊電圧として表示される。
【0004】
一方、前記第1の試験の人体帯電モデル静電破壊試験及びマシンモデル静電破壊試験では、自動製造ラインや、フィールドでの不良モードとの相関が低いので、これらの試験に代わる新たな第2の試験が提唱された。これは、半導体デバイス自身が静電気を帯び、その電荷がデバイスのピンから外部へ急速に放電するときの耐性を試験するもので、デバイス帯電モデル(CDM:Charged Device Model)静電破壊試験と呼ばれる。半導体デバイスの持つ容量は外部からの静電気放電の容量に比べ桁違いに小さく、低抵抗であり、低インダクタンスなので、放電は1n秒以内という、きわめて短時間にピーク電流値が数A〜10Aに達するような高電流の放電が起こる。
【0005】
特に半導体デバイスではそのESD保護素子が低インピーダンスになって、放電経路を形成する前に内部被保護回路の電圧が高くなって、半導体デバイスの絶縁膜(酸化膜)の破壊又は絶縁低下を引き起こすなど、破壊モードが人体帯電モデル静電破壊試験及びマシンモデル静電破壊試験の状態とは異なっている。デバイス帯電モデル(CDM:Charged Device Model)静電破壊試験は、一般に、規格(EIAJ ED-4701 305)に準拠して行われる。そして、CDM静電破壊試験は、試供品に電荷を充電して、その後、放電させたときの特性を観測するものである。
【特許文献1】特開2004−147780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、LSI(Large Scale Integration)、CCD(Charge Coupled Devices)、発光ダイオード、LCD(liquid crystal monitor )、レーザダイオード、SOI(Silicon on Insulator)デバイスなどは、CDM静電破壊試験において数千ボルトから数十ボルトの印加電圧で破壊される。そこで、従来のCDM静電破壊試験では、試供品である上記デバイスに対して数千ボルトから10ボルト以上までの範囲の電圧を印加して、耐性を試験している。
【0007】
しかしながら、近年の電子デバイスにおいては、CDM静電破壊試験において10ボルト未満の印加電圧でも破壊されてしまうものが開発されている。例えば、HDDにおけるMR(Magneto Resistive Head)ヘッドは、CDM静電破壊試験での10ボルト未満の印加電圧で破壊されてしまう。そこで、従来のCDM静電破壊試験では、10ボルト未満の印加電圧で破壊される試供品について、静電気に対する耐性を正確に評価することができないという問題点があった。また、従来のCDM静電破壊試験では、電圧対電流特性について具体的な判断基準がなく、この点でも、静電気に対する耐性を正確に評価できなかった。
【0008】
また、従来の帯電防止マットでは、抵抗値及び硬度については考慮しているものがあるが、その構成材料についての電圧対電流特性についてまでは考慮していなかった。すなわち従来の帯電防止マットでは、静電破壊を回避しようとする電子機器のCDM静電破壊試験の耐性などについて何ら考慮していない。そこで、従来の帯電防止マットでは、MRヘッドなどの低電圧で静電破壊されてしまうような電子機器について、有効に機能するか否か不明確であるという問題点がある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、電子機器を静電破壊から効果的に回避する物(トレイ又は導電マットなど)の構成材料となり得るか否かを、判断できる静電破壊防止用材料の評価方法および静電破壊防止用材料の評価装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、CDM静電破壊試験において10ボルト以下で破壊される電子機器に対しても、静電破壊から効果的に回避できる物の構成材料となり得るか否かを、正確に判断できる静電破壊防止用材料の評価方法および静電破壊防止用材料の評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を有する。
本発明に係る静電破壊防止用材料の評価方法は、静電気による半導体デバイス又は電子機器の破壊を回避するために用いられる物の構成材料である被評価材料について、複数値の電圧を該被評価材料に印加して該複数値の電圧毎に該被評価材料に流れる電流を測定する電圧対電流特性の測定処理と、前記電圧対電流特性の測定処理の結果に、非直線性を示す箇所があるか否かを判断する処理と、前記被評価材料の帯電量を測定する処理とを有することを特徴とする。
本発明によれば、被評価材料の電圧対電流特性及び帯電量を把握できるので、その被評価材料が電子機器を静電破壊から効果的に回避する物(トレイ又は導電マットなど)の構成材料となり得るか否かを、正確に判断することが可能となる。
例えば、電圧対電流特性が直線的であっても、その特性から導かれる抵抗が低すぎる場合は、被評価材料及び電子機器を通る放電電流が過大となるので、その被評価材料は好ましくないこととなる。また、電圧対電流特性から導かれる抵抗が高すぎる場合は、その被評価材料に電荷が溜まり易くなるので、その被評価材料も好ましくないこととなる。ここで、前記抵抗における好ましい範囲は、例えば10KΩから100MΩである。
また、電圧対電流特性に非直線性を示す箇所がある場合も、その被評価材料は好ましくない。この場合は、印加電圧の値に応じて被評価材料の抵抗値が変化することとなる。例えば、印加電圧が低いときは高抵抗となっているが、印加電圧がある閾値(ブレークダウン電圧)を超えると急に低抵抗となる。したがって、印加電圧が低いときにその被評価材料に電荷が溜まり、印加電圧がブレークダウン電圧を超えたときに被評価材料及び電子機器に過大な放電電流が流れることとなる。これらにより、本発明によれば、半導体デバイスなどの電子機器が載せられるトレイ又は導電マットの構成材料とされる被評価材料が、その半導体デバイスなどを静電破壊から効果的に回避できるか否かを、正確に判断することが可能となる。
【0011】
また、本発明に係る静電破壊防止用材料の評価方法は、前記電圧対電流特性の測定が、少なくとも10ボルト未満の電圧に対する電流値について測定することが好ましい。このようにすると、CDM静電破壊試験において10ボルト以下で破壊される電子機器(例えばMRヘッド)に対しても、静電破壊から効果的に回避できる物(トレイ又は導電マットなど)の構成材料として被評価材料がなり得るか否かを、正確に判断することができる。
MRヘッドとは、磁気抵抗効果を応用したハードディスクの読み取り装置(ヘッド)である。MRヘッドには外部磁界の変動に応じて電気抵抗が変化する素子が使われており、従来よりも感度が高いためより記録密度を高めることができる。コバルト系の素子を使ってさらに感度を高めたヘッドがGMRヘッドであり、本発明はGMRヘッド用のトレイの構成材料を評価するものとしても好適である。
【0012】
また、本発明に係る静電破壊防止用材料の評価方法は、前記電圧対電流特性の測定が、正の電圧と負の電圧とを交互に前記被評価材料に印加するものであって、該印加において該正の電圧及び負の電圧について絶対値を順次増大させ、該印加毎に前記電流を測定するものであることが好ましい。このようにすると、前記電圧対電流特性の測定中において、被評価材料の特性を変動させることなく、高精度に前記電圧対電流特性を測定することができる。また、前記ブレークダウン電圧を見逃すことなく簡便に且つ高精度に検出することができる。そこで、本発明によれば、被評価材料が、電子機器を静電破壊から効果的に回避する物の構成材料となり得るか否かを、より正確に判断することが可能となる。
【0013】
また、本発明に係る静電破壊防止用材料の評価方法は、前記電圧対電流特性の測定処理の結果における非直線性の度合いが所定の基準値よりも大きい場合に、該結果に対応する前記被評価材料について、静電破壊防止用材料としての評価を下げることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る静電破壊防止用材料の評価方法は、前記電圧対電流特性の測定処理の結果において、前記複数値の電圧相互間の変化量と該複数値の電圧に対応する前記電流相互の変化量との比が基準値以上に(急激に)変化する箇所であるブレークダウンがあると判断したときは、該判断に対応する前記被評価材料について、静電破壊防止用材料としての評価を下げることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る静電破壊防止用材料の評価方法は、前記帯電量が所定の基準帯電量以上であると判断したときは、該判断に対応する前記被評価材料について、静電破壊防止用材料としての評価を下げることが好ましい。本発明によれば、被評価材料が電荷の溜まりやすい物であるか否かを把握できるので、静電破壊防止用材料としての評価をより正確に行うことが可能となる。なお、帯電量の測定は、電圧対電流特性の測定処理とほぼ同時に行ってもよい。
【0016】
また、本発明に係る静電破壊防止用材料の評価方法は、トレイ、導電マット、ピンセット、グローブ、床のいずれかの構成材料とされることが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る静電破壊防止用材料の評価方法は、前記電圧対電流特性の測定が、前記被評価材料に対してほぼ点接触させた箇所に前記電圧を印加して前記電流を測定するものであるとともに、該測定を該被評価材料における複数の箇所について行うことが好ましい。
突起形状電極を用いて前記電圧対電流特性(抵抗)を測定すると、その被評価材料における測定箇所によって、測定結果が数10倍から数100倍も異なることがある。すなわち、測定箇所によって電圧対電流特性の測定結果が大きくばらつく。一方、平面的な電極を用いて前記電圧対電流特性(抵抗)を測定すると前記「バラツキ」が平均化されてしまう。そこで、本発明は、静電破壊防止用材料としての評価をより正確に行うことが可能となる。
【0018】
また、本発明に係る静電破壊防止用材料の評価方法は、前記被評価材料に対する複数の箇所についての電圧対電流特性の測定での少なくとも1箇所の測定結果で、非直線性の度合いが所定の基準値よりも大きい場合は、該結果に対応する前記被評価材料について、静電破壊防止用材料としての評価を下げることが好ましい。
【0019】
また、本発明に係る静電破壊防止用材料の評価装置は、静電気による半導体デバイス又は電子機器の破壊を回避するために用いられる物の構成材料である被評価材料について評価する静電破壊防止用材料の評価装置であって、複数値の電圧を該被評価材料に印加する電圧印加手段と、前記複数値の電圧の印加毎に前記被評価材料に流れる電流を測定する電流測定手段と、前記複数値の電圧に対する前記電流の値である電圧対電流特性において、非直線性を示す箇所があるか否かを判断する非直線性判断手段と、前記被評価材料の帯電量を測定する帯電量測定手段とを有することを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る静電破壊防止用材料の評価装置は、前記電圧印加手段は、前記被評価材料にほぼ点接触して前記電圧を印加する突起形状電極を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、被評価材料が、電子機器を静電破壊から効果的に回避する物の構成材料となり得るか否かを、正確に判断することができる。
また、本発明によれば、CDM静電破壊試験において10ボルト以下で破壊される電子機器に対しても、静電破壊から効果的に回避する物の構成材料として、被評価材料がなり得るか否かを正確に判断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら発明を実施するための最良の形態について説明する。
(静電破壊防止用材料の評価装置)
図1は、本発明の実施形態に係る静電破壊防止用材料の評価装置の概要構成を示す模式図である。
本静電破壊防止用材料の評価装置は、静電気による半導体デバイス又は電子機器などの破壊を回避するために用いられる物の構成材料である被評価材料1について評価する装置である。すなわち、被評価材料1は、例えばトレイ、導電マット、ピンセット、グローブ、床などの構成材料として、適切なものであるか否か評価されるものである。ここで、トレイは半導体デバイスなどが載せられるものであり、導電マット、ピンセット、グローブ、床は電子機器の製造ラインで用いられるものとすることができる。被評価材料1は、例えば板形状となっており、導電体2の上に置かれている。そして、導電体2は、グランド(GND)に接続されている。したがって、被評価材料1の底面全体が接地されている状態となっている。
【0023】
本静電破壊防止用材料の評価装置は、電源11と、電流計12と、リミッタ13と、突起形状電極14と、制御手段15とを有して構成されている。電源11及び突起形状電極14は、複数値の電圧を被評価材料1に印加する電圧印加手段となるものである。すなわち電源11は、電圧可変の定電圧電源となっている。例えば電源11は、ゼロボルトから±200ボルトの範囲で、出力電圧を滑らかに又は段階的に可変できるものとする。
【0024】
電流計12は、電源11及び突起形状電極14による被評価材料1への電圧印加時に、その被評価材料1に流れる電流を測定する電流測定手段である。換言すれば、電源11から出力されて突起形状電極14及び被評価材料1を通ってグランドへと流れ込む電流の値を電流計12が測定する。リミッタ13は、上記のようにして被評価材料1に流れる電流が所望の一定値以上にならないように、制限するものである。なお、リミッタ13は、本静電破壊防止用材料の評価装置の構成要素としなくてもよい。突起形状電極14は、被評価材料1の表面にほぼ点接触する針形状の電極であり、電源11から出力された電圧を被評価材料1表面の所望の一点に印加するものである。
【0025】
制御手段15は、電源11、電流計12、リミッタ13及び突起形状電極14の動作を制御するとともに、本静電破壊防止用材料の評価装置の各種動作について制御する。制御手段15は、例えばCPUと記憶手段とを有した構成とすることができる。そして、制御手段15は、突起形状電極14における電圧と電流計12が計測した電流値とを入力して、電圧対電流特性を自ら認識でき、その電圧対電流特性をグラフとして表示することができる。また、制御手段15は、認識した電圧対電流特性に、非直線性を示す箇所があるか否かを判断する非直線性判断手段(図示せず)を備えている。また、制御手段15は、被評価材料1の帯電量を測定する帯電量測定手段(図示せず)を備えている。
【0026】
(静電破壊防止用材料の評価方法)
次に、上記構成の静電破壊防止用材料の評価装置によって実行される本発明に係る静電破壊防止用材料の評価方法について説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る静電破壊防止用材料の評価方法の概要手順を示すフローチャートである。
先ず、制御手段15は、被評価材料1についての電圧対電流(V−I)特性の測定処理をする(ステップS10)。
すなわち制御手段15は、電源11を制御して複数値の電圧を被評価材料1に印加し、その複数値の電圧毎に被評価材料1に流れる電流を測定する。この電圧対電流特性の測定では、少なくとも10ボルト未満の印加電圧に対する電流値について測定することが好ましい。さらに、印加電圧は、正の電圧と負の電圧とを交互に被評価材料1に印加するものであって、その正の電圧及び負の電圧について絶対値を順次増大させ、その印加毎に電流を測定することが好ましい。例えば、0V,+1V,−1V,+2V,−2V,+3V,−3V…というように、印加電圧を段階的に変化させる。そして、制御手段15は、電圧対電流特性の測定結果をグラフとして表示することが好ましい。
【0027】
次いで、制御手段15は、ステップS10で測定した電圧対電流特性に、非直線性を示す箇所があるか否かを判断する処理を行う(ステップS20)。
このステップS20において、制御手段15は、非直線性の度合いが所定の基準値よりも大きい場合に、被評価材料1について静電破壊防止用材料としての評価を下げることが好ましい。そして、制御手段15は、その評価結果を表示することが好ましい。また、ステップS20において、制御手段15は、電圧対電流特性の測定結果において、印加電圧相互間の変化量とその印加電圧に対応する電流相互間の変化量との比が基準値以上に急激に変化する箇所であるブレークダウンがあるか否か判断する。換言すれば、電圧対電流特性をなす曲線の傾きの変化量(電圧対電流特性の微分値の変化量)が基準値以上である箇所があるか否か判断する。そして、ブレークダウンがあると判断したときは、被評価材料1について静電破壊防止用材料としての評価を下げることが好ましい。
【0028】
例えば、n番目の印加電圧時の電流I(n)と、n+1番目の印加電圧時の電流I(n+1)との比{I(n)/I(n+1)}を算出し、この比が10以上又は0.1以下のときにブレークダウンが生じたと判断する。
【0029】
次いで、制御手段15は、被評価材料1の帯電量を測定する処理を行う(ステップS30)。
この帯電量を測定する処理は、上記ステップS10又はステップS20と時間的に並列に行ってもよく、ステップS10又はステップS20の以前に行ってもよい。そして、ステップS30において、制御手段15は、帯電量が所定の基準帯電量以上であると判断したときは、被評価材料1について静電破壊防止用材料としての評価を下げることが好ましい。上記ステップS20,S30の評価結果について、制御手段15は表示手段に表示させる又はプリントアウトさせることとしてもよい。
【0030】
これらにより、本実施形態の静電破壊防止用材料の評価装置及び静電破壊防止用材料の評価方法によれば、被評価材料1の電圧対電流特性及び帯電量を把握できるので、その被評価材料1が電子機器を静電破壊から効果的に回避する物の構成材料となり得るか否かを正確に判断及び評価できる。
【0031】
また、本実施形態によれば、電圧対電流特性の測定において10ボルト未満の電圧に対する電流値を測定するので、CDM静電破壊試験において10ボルト以下で破壊される電子機器に対しても静電破壊から回避できる物の構成材料として被評価材料1がなり得るか否かを、正確に判断することができる。
【0032】
(測定例)
図3から図5は、前記ステップS10で測定した3種類の被評価材料1それぞれの電圧対電流特性の例を示す図である。
図3に示す電圧対電流特性例では、横軸の電圧の単位が[V]であり、縦軸の電流の単位が[μA]と[mA]である。この電圧対電流特性には、直線に近い特性となっており、非直線性を示す箇所(ブレークダウン)はないといえる。そして、この電圧対電流特性では20[V]の変化で約1000[μA]変化するので、被評価材料1の抵抗が約20[KΩ]であることがわかる。この20[KΩ]という値は、電子機器を静電破壊から効果的に回避するトレイなどの構成材料の抵抗値としては低すぎるおそれがある。すなわち、図3に示す特性の被評価材料1は、電圧対電流特性が直線的であっても、MRヘッドなどのCDM静電破壊試験での耐性の低い電子機器に使用されるトレイなどの構成材料としては好ましくなく。
【0033】
図4に示す電圧対電流特性では、横軸の電圧の単位が[V]であり、縦軸の電流の単位が[nA]である。この電圧対電流特性には、非直線性を示す箇所(ブレークダウン)がある。ブレークダウン電圧は、±90[V]となっている。印加電圧が0[V]から±90[V]までの範囲ではほぼ無限大の抵抗となっている。そして、ブレークダウン電圧を超えると急に抵抗が低くなり、+90[V]以上及び−90[V]の範囲では抵抗が約8.6[GΩ]となっている。
【0034】
したがって、図4に示す特性の被評価材料1では、印加電圧がブレークダウン電圧以下のときはその被評価材料1に帯電している電荷を他の物に逃がすことができない。したがって、この特性の被評価材料1は、帯電量が過大となりやすい。そして、ブレークダウン電圧を超えた電圧が印加されると、被評価材料に過大な放電電流が流れることとなる。そこで、図4に示す特性の被評価材料1は、ブレークダウンがあるので、MRヘッドなどのCDM静電破壊試験での耐性の低い電子機器に使用されるトレイなどの構成材料としては好ましくなく。
【0035】
図5に示す電圧対電流特性では、横軸の電圧の単位が[V]であり、縦軸の電流の単位が[μA]である。この電圧対電流特性は、少し曲がりはあるが直線に近い特性となっており、ブレークダウンはないといえる。そして、この電圧対電流特性では100[V]の変化で約37[μA]変化するので、被評価材料1の抵抗は約2.7[MΩ]である。この2.7[MΩ]という値は、電子機器を静電破壊から効果的に回避するトレイなどの構成材料の抵抗値としては低すぎず且つ高すぎることもない。これらにより、図5に示す特性の被評価材料1は、電圧対電流特性が直線的であり、且つその抵抗値も丁度よいので、MRヘッドなどのCDM静電破壊試験での耐性の低い電子機器に使用されるトレイなどの構成材料として好ましい。
【0036】
したがって、本実施形態の静電破壊防止用材料の評価装置は、図3及び図4の特性の被評価材料1に対しては静電破壊防止用材料としての評価を下げ、図5の特性の被評価材料1に対しては静電破壊防止用材料としての評価を上げる。これらにより、本実施形態によれば、MRヘッドが載せられるトレイなどの構成材料として、被評価材料1が適しているか否かを正確に判断することができる。また、本実施形態では、電圧対電流特性とともに帯電量も測定するので、上記判断をより正確に行うことができる。
【0037】
図6は、前記ステップS10で測定した各種の被評価材料1の電圧対電流特性を対数グラフとして表したものである。すなわち、図6に示す電圧対電流特性例では、横軸の電圧値のスケールが対数であり、縦軸の電流値のスケールも対数となっている。そして、点線LIは、電圧対電流特性が直線であることを示しており、点線NIは、電圧対電流特性が非直線であることを示している。
【0038】
そこで、図6においてグループMAに属する被評価材料1の特性には非直線性があり、グループMBに属する被評価材料1の特性には非直線性がないこととなる。したがって、図3及び図4に示す特性の被評価材料1はグループMAに属し、図5に示す特性の被評価材料1はグループMBに属する。本実施形態の静電破壊防止用材料の評価装置は、図6のようにして、評価結果を表示することとしてもよい。
【0039】
(特定方法の具体例)
図7は、上記ステップS10における電圧対電流特性の測定処理の具体例を示すフローチャートである。このフローチャートでは、正の電圧と負の電圧とを交互に被評価材料1に印加するとともに、その印加電圧の絶対値を順次増大させ、印加毎に電流を測定するものである。そして、測定電流Iが所望のプラス側の基準電流値Ia又はマイナス側の基準電圧Ibの絶対値を超えたときは、超えた側(プラス側又はマイナス側)の計測を終了することとしている。
【0040】
具体的には、先ず、初期値の電圧Vi(例えば+1V)を被評価材料1に印加し(ステップS1)、このとき被評価材料1に流れる電流Iを測定する(ステップS2)。次いで電流Iが基準電流値Ia以上か判断する(ステップS3)。
【0041】
ステップS3で「No」と判断したときは、マイナス側の計測「V(−)」が終了したか判断する(ステップS4)。ステップS4で「No」と判断したときは、−Viの電圧(例えば−1V)を被評価材料1に印加し(ステップS5)、このとき被評価材料1に流れる電流Iを測定する(ステップS6)。次いで電流Iの絶対値が基準電流値−Ibの絶対値以上か判断する(ステップS7)。
【0042】
ステップS7で「No」と判断したときは、電圧Viの値を所定値C(例えば1V)だけ増加させる(ステップS8)。次いで、プラス側の計測「V(+)」が終了したか判断する(ステップS9)。ステップS9で「No」と判断したときは、上記ステップS1に戻る。
【0043】
そこで、上記ステップS1〜S9が順次繰り替えされ、電圧Viが+1V,−1V,+2V,−2V,+3V,−3V…のように変化し、その変化の毎に電流Iが測定される。これにより、図3から図6に示すような電圧対電流特性が測定される。
【0044】
ステップS3で「Yes」と判断したときは、プラス側の計測「V(+)」を終了し、この事を記憶する(ステップS10)。次いで、マイナス側の計測「V(−)」が終了したか判断する(ステップS11)。ステップS11で「No」と判断したときは、上記ステップS5の処理に行き、マイナス側の計測を続行する。ステップS11で「Yes」と判断したときは、プラス側及びマイナス側の計測が終了したので、本測定処理を全体的に終了する。
【0045】
ステップS7で「Yes」と判断したときは、マイナス側の計測「V(−)」を終了し、この事を記憶する(ステップS12)。次いで、プラス側の計測「V(+)」が終了したか判断する(ステップS13)。ステップS13で「No」と判断したときは、上記ステップS8の処理に行き、プラス側の計測を続行する。ステップS13で「Yes」と判断したときは、プラス側及びマイナス側の計測が終了したので、本測定処理を全体的に終了する。
【0046】
これらにより、図7に示す測定手順によれば、電圧対電流特性の測定中において、被評価材料1の特性を変動させることなく、高精度に前記電圧対電流特性を測定することができる。また、ブレークダウン電圧を簡便に且つ高精度に検出することができる。そこで、本測定手順によれば、被評価材料1が、電子機器を静電破壊から効果的に回避する物の構成材料となり得るか否かを、より正確に判断することが可能となる。
【0047】
(特性のバラツキ対処法)
次に、被評価材料1の測定部位による測定結果のバラツキとその対処法について、図1を参照して説明する。図1に示すように、突起形状電極14を用いて上記電圧対電流特性を測定すると、その被評価材料1における測定箇所によって、測定結果が大きく異なることがある。例えば、被評価材料の部位1aに突起形状電極14を点接触させたときと、被評価材料の部位1bに突起形状電極14を点接触させたときとでは、電流値が数10倍から数100倍も異なることがある。これが、被評価材料1における測定箇所によるバラツキである。このバラツキは、被評価材料1の抵抗を調整するための導電性物質などがその被評価材料1のなかで分散配置されていることなどで生じると考えられる。
【0048】
ここで、突起形状電極14の代わりに、従来の人体帯電モデル静電破壊試験(HBM/ESD)で用いられるような釣り鐘型の電極を用いると、その電極と被評価材料1との接触面積が大きくなる。これにより、釣り鐘型の電極では、上記「バラツキ」が平均化されてしまう。
【0049】
そこで、本実施形態では、上記電圧対電流特性の測定を被評価材料1における複数箇所について行う。そして、この複数箇所の測定で、1箇所でも非直線性の度合いが所定の基準値よりも大きい場合は、その被評価材料1について静電破壊防止用材料としての評価を下げる。これにより、静電破壊防止用材料として、より好適な被評価材料1を選択することができる。
【0050】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能であり、実施形態で挙げた具体的な材料や層構成などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
【0051】
例えば、上記実施形態の静電破壊防止用材料の評価装置における制御手段15が行う動作の全部又は一部は、人手によって行ってもよく、通信回線などを介したデータ送受信によって行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態に係る静電破壊防止用材料の評価装置を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る静電破壊防止用材料の評価方法のフローチャートである。
【図3】同上の評価方法を用いて測定した電圧対電流特性の例を示す図である。
【図4】同上の評価方法を用いて測定した電圧対電流特性の例を示す図である。
【図5】同上の評価方法を用いて測定した電圧対電流特性の例を示す図である。
【図6】同上の評価方法を用いて測定した電圧対電流特性の例を示す図である。
【図7】同上の評価方法における測定処理の具体例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0053】
1…被評価材料、2…導電体、11…電源、12…電流計、13…リミッタ、14…突起形状電極、15…制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電気による半導体デバイス又は電子機器の破壊を回避するために用いられる物の構成材料である被評価材料について、複数値の電圧を該被評価材料に印加して該複数値の電圧毎に該被評価材料に流れる電流を測定する電圧対電流特性の測定処理と、
前記電圧対電流特性の測定処理の結果に、非直線性を示す箇所があるか否かを判断する処理と、
前記被評価材料の帯電量を測定する処理とを有することを特徴とする静電破壊防止用材料の評価方法。
【請求項2】
前記電圧対電流特性の測定は、少なくとも10ボルト未満の電圧に対する電流値について測定することを特徴とする請求項1に記載の静電破壊防止用材料の評価方法。
【請求項3】
前記電圧対電流特性の測定は、正の電圧と負の電圧とを交互に前記被評価材料に印加するものであって、該印加において該正の電圧及び負の電圧について絶対値を順次増大させ、該印加毎に前記電流を測定するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の静電破壊防止用材料の評価方法。
【請求項4】
前記電圧対電流特性の測定処理の結果における非直線性の度合いが所定の基準値よりも大きい場合は、該結果に対応する前記被評価材料について、静電破壊防止用材料としての評価を下げることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の静電破壊防止用材料の評価方法。
【請求項5】
前記電圧対電流特性の測定処理の結果において、前記複数値の電圧相互間の変化量と該複数値の電圧に対応する前記電流相互の変化量との比が基準値以上に変化する箇所であるブレークダウンがあると判断したときは、該判断に対応する前記被評価材料について、静電破壊防止用材料としての評価を下げることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の静電破壊防止用材料の評価方法。
【請求項6】
前記帯電量が所定の基準帯電量以上であると判断したときは、該判断に対応する前記被評価材料について、静電破壊防止用材料としての評価を下げることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の静電破壊防止用材料の評価方法。
【請求項7】
前記被評価材料は、トレイ、導電マット、ピンセット、グローブ、床のいずれかの構成材料とされることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の静電破壊防止用材料の評価方法。
【請求項8】
前記電圧対電流特性の測定は、前記被評価材料に対してほぼ点接触させた箇所に前記電圧を印加して前記電流を測定するものであるとともに、該測定を該被評価材料における複数の箇所について行うことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の静電破壊防止用材料の評価方法。
【請求項9】
前記被評価材料に対する複数の箇所についての電圧対電流特性の測定での少なくとも1箇所の測定結果で、非直線性の度合いが所定の基準値よりも大きい場合は、該結果に対応する前記被評価材料について、静電破壊防止用材料としての評価を下げることを特徴とする請求項8に記載の静電破壊防止用材料の評価方法。
【請求項10】
静電気による半導体デバイス又は電子機器の破壊を回避するために用いられる物の構成材料である被評価材料について評価する静電破壊防止用材料の評価装置であって、
複数値の電圧を該被評価材料に印加する電圧印加手段と、
前記複数値の電圧の印加毎に前記被評価材料に流れる電流を測定する電流測定手段と、
前記複数値の電圧に対する前記電流の値である電圧対電流特性において、非直線性を示す箇所があるか否かを判断する非直線性判断手段と、
前記被評価材料の帯電量を測定する帯電量測定手段とを有することを特徴とする静電破壊防止用材料の評価装置。
【請求項11】
前記電圧印加手段は、前記被評価材料にほぼ点接触して前記電圧を印加する突起形状電極を有することを特徴とする請求項10に記載の静電破壊防止用材料の評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−23119(P2006−23119A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−199447(P2004−199447)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(502277762)ファブソリューション株式会社 (9)
【Fターム(参考)】