説明

静電荷像現像用トナー

【課題】ワックスを多量に含有しても流動性が良好であると共に、製造装置内で付着や堆積が生じにくく、保存性が良好であり、OPCフィルミングやブレード融着を起こさず、しかも定着性及びオフセット性が良好な静電荷像現像用トナーを提供する。
【解決手段】バインダー樹脂、シリカ及びワックスを含むトナー母粒子を含有する静電荷像現像用トナーであって、前記トナー母粒子におけるバインダー樹脂が、ポリエステル系樹脂80重量%以上を含むと共に、ワックス/シリカ重量比が0.5以上であり、かつ透過型電子顕微鏡で観察したとき、トナー母粒子の表面より0.5μm以上内側の領域において、(a)平均一次粒径15nm以下のシリカ微粒子が含まれていること、及び/ワックス部分の内部及び周囲0.1μm以内の領域に、前記(a)のシリカ微粒子の内50個数%以上が存在していることを特徴とする静電荷像現像用トナーである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電荷像現像用トナーに関する。さらに詳しくは、本発明は、ワックスを多量に含有しても流動性が良好であると共に、製造装置内で付着や堆積が生じにくく、保存性が良好であり、OPCフィルミングやブレード融着を起こさず、しかも定着性及びオフセット性が良好な静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を利用した画像形成方法においては、感光体を一様に帯電させ、次いで感光体を露光して露光部分の電荷を消散させることにより静電荷的な潜像を形成し、静電荷像にトナーを付着させることにより可視化して現像し、可視化像を紙などの材料に転写し、転写された像を加熱などの手段により定着させる。現像方式には、磁性又は非磁性トナー1種類のみを用いる1成分方式と、トナーとキャリアの2種類の粉体を用いる2成分方式がある。いずれの方式においても、定着時において、ヒートローラからの離型性をもたせるために、静電荷像現像用トナーにワックスの添加が行われる。近年、省エネルギーのために定着機温度の低温化や、プリンタや複写機の高速化で、トナーの低温定着性が求められている。省エネルギー定着のために様々な形で工夫された定着方法が考案されており、それぞれに適したワックスの種類や融点は異なっている。したがって、種類や特性を限定せずに様々な種類のワックスを安定して分散させる技術が要求される。
プリンタや複写機の高速化においても、定着性、耐オフセット性を満足し、かつ製造時の粉砕工程における優位性、トナー化したときの帯電能力などの面から、バインダー樹脂としてはポリエステル系樹脂を用いるのが好ましい。しかしながら、混練時のポリエステル系樹脂へのワックス分散が難しく、多量に添加すると安定した混練ができず、大量生産時に品質の振れがおきやすく、また粉体の流動性が悪化して粉砕以降の工程におけるトナーの製造装置内での付着や堆積が激しくなり、生産が困難となって時間当たりの生産量が低下する。このために、ポリエステル樹脂への分散におけるワックスの種類や混練方法などが様々な形で検討されている。
例えば、定着時の離型性に優れ、保存時及び複写作業時の凝集性が小さく、感光ドラムの汚染が少ないトナーとして、不飽和カルボン酸でグラフト変性されたポリオレフィンワックス、スチレン系重合体からなる結着剤樹脂及び着色剤を含んでなる熱定着型電子写真用現像材が提案されている(特許文献1)。高温高湿の環境下においてもトナー当たりの帯電量、軟化点などの特性の安定な耐久性の高い現像トナーとして、非線状ポリエステルと分子蒸留法によって精製した植物系天然ワックス又はモンタン系エステルワックスを含有する静電荷像現像トナーが提案されている(特許文献2)。これらのワックスにより一定の効果は認められるものの、多量に添加しようとすると限界があり、重合法で製造されるトナーに比べると実用的なワックス配合量は少ない。
特許文献3ではポリエステル樹脂に酸化型ポリオレフィン樹脂を分散させ、透過型電子顕微鏡で観察した分散しているワックスの平均径が1μm以下とする方法が考案されている。しかしながら、この公報では具体的な混練方法や条件が示されておらず、実際は1μm以下に分散させることは困難であり、配合量にも限界がある。また、考案されている種類のワックスでは高分散させすぎることでオフセットを起こしやすくなるという問題がある。また、これらいずれの方法も、ワックスの種類を限定するものであり、ワックス種に関わらず安定して分散させる方法ではない。
製造方法の工夫によりワックスのポリエステル樹脂への分散を向上させる方法も考案されている。たとえば特許文献4においては4〜10μmの樹脂粉末とワックスを予め混合しておいてから他の材料と混合、溶融混練することでワックスの分散状態を制御する方法が提案されている。しかし、この方法で得られる分散状態は、粉砕以降の工程における製造機内での付着や堆積を防ぐためには不十分であり、さらに小さいワックス分散径が好ましい。
予め樹脂にワックスを含有させておくことで最終的なポリエステル樹脂への分散を向上させる方法も考案されている。特許文献5においては、ポリエステル系樹脂の重合時にワックスを存在させた状態で反応を行い、5μm以下に分散させた樹脂を用いて混練することが考案されている。また特許文献6では樹脂を2種類以上使い、うち片方の軟化点に近い融点のワックスをそちらの樹脂に予め含有させておき、より高軟化点の樹脂と併用することで高分散化させることが考案されている。しかしながら、これらのワックス内添樹脂やマスターを用いる方法では、ワックスを含有した樹脂を安定して製造することが困難であり、二種以上の樹脂を併用する場合に、選び方が限定されるという問題がある。また、一度分散させたワックスが溶融混練時に再凝集することがあり、安定した生産が困難となる。
ワックスに予め微粒子化などの処理を行うことで分散を向上させる方法も考案されている。特許文献7では水分散ワックスを使うことで、もともとのワックス粒子を小さくして分散を向上させる方法が考案されている。しかしながら、この方法は原料が高価になり、また微粉末状のワックスを再凝集させずに混練するためにオープンロール型混練機などを用いた特殊な方法がとられるため、加工費が高価になるばかりか、大量生産が困難となる。
静電荷像現像用トナーは、現像方式や未使用トナーの回収方式・転写方式などの印刷機特性に応じて有利な形状が異なっており、球形に近い状態が好ましい印刷機、表面に荒さを持った粉砕形状が好ましい印刷機などがある。様々な印刷機に対応したトナーを製造するためには、同じ混練物から様々な形状のトナー粒子を製造できることが好ましい。このような方法のひとつとして、粉砕・分級をして得た形状の粗いトナー粒子を熱気流中に分散させて表面を溶融させて形状を変化させる方法がとられている。この方法により、角を持った粉砕形状から真球に近い形状まで様々な粒子形状の制御が可能である。加熱処理して形状を変化させたトナーは、ワックスがトナー粒子の表面に滲み出してくるため、保存性の悪化、長期印字におけるトナーの劣化、フィルミングやブレード融着など現像機内の部材汚染が問題となっている。
加熱処理で球形化したトナーのワックス滲み出しを抑える方法が考案されている。例えば特許文献8、9及び10では含有するワックスの種類を工夫することで滲み出しを抑える方法が考案されている。しかしながら、いずれの特許文献で考案されているワックスも、熱処理時の滲み出しがなくなるわけではなく、多量に添加した場合には著しく滲み出しが発生し、保存性悪化やフィルミングの問題が起こる。また、滲み出しが少ない量と種類を選択しても、熱処理前の粉砕工程における製造機内での付着や堆積が抑えられず、生産性に問題がある。特許文献11では熱処理前に樹脂微粒子を外添することで表面に樹脂被覆を形成してワックスの熱処理による滲み出し抑制する方法が考案されている。しかし、この方法も樹脂微粒子を均一に外添することが困難であり、均一化するための粒径がそろった樹脂微粒子が高価であり、それを外添する前の粉砕・分級工程における製造機器内の付着や堆積は防げない。
シリカ微粒子をトナーに内添することによる改質が、さまざまに試みられている。例えば、シリカ微粒子を内添することで、バインダー樹脂の強化と帯電性を向上させた非磁性一成分用トナーが開示されている(特許文献12)。しかしながら、この技術は、非磁性一成分系トナーに限定され、その帯電性を向上させるための技術であり、二成分系への応用は言及されていない。また、実施例ではシリカ5重量%及びワックス4重量%が用いられており、シリカ量が多いために、バインダー樹脂の粘度が高くなって、定着性やオフセット性が悪化する上、混練機への供給時に、シリカ粒子の偏析が生じやすいなどの問題がある。さらに、実施例では、バインダー樹脂としてスチレン−アクリル系樹脂が用いられているが、疎水化処理したシリカ粒子は、前記樹脂との相性がよく、ワックス近傍でなく樹脂全体に分散してしまい、ワックス分散に与える影響が小さくなってしまう。
また、結着樹脂中への着色剤の分散性を向上することにより、トナーを重ね合わせたときの透明性が優れ、長期にわたり使用しても初期の特性を維持し、トナーの凝集がないカラー現像剤組成物として、結着樹脂と着色剤と疎水性シリカとを溶融混練してなるカラー現像剤組成物において、疎水性シリカの添加量が結着樹脂100重量部に対し0.1〜5.0重量部であるカラー現像剤組成物が提案されている(特許文献13)。しかしながら、この技術における着色剤の分散性を向上させる予備混合や混練の条件では、シリカ粒子と着色剤の凝集ができてしまい、逆にワックス分散への寄与が少なくなるという問題がある。さらに、実施例ではスチレン−アクリル系樹脂が20%以上用いられており、前述文献と同様、ワックス分散への影響が小さい。
【特許文献1】特公平6−73023号公報
【特許文献2】特開平1−238672号公報
【特許文献3】特許第2973364号公報
【特許文献4】特許第2856494号公報
【特許文献5】特開平8−44113号公報
【特許文献6】特開2002−162787号公報
【特許文献7】特開2004−177714号公報
【特許文献8】特開昭59−231547号公報
【特許文献9】特開2004−85829号公報
【特許文献10】特開昭59−231548号公報
【特許文献11】特開2001−265049号公報
【特許文献12】特開平5−216267号公報
【特許文献13】特開平4−90558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、ワックスを多量に含有しても流動性が良好であると共に、製造装置内で付着や堆積が生じにくく、保存性が良好であり、OPCフィルミングやブレード融着を起こさず、しかも定着性及びオフセット性が良好な静電荷像現像用トナーを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前記の好ましい性質を有する静電荷像現像用トナーを開発すべく鋭意研究を重ねた結果、(1)ポリエステル系樹脂が80重量%以上であるバインダー樹脂と、シリカ及びワックスをワックス/シリカ重量比が0.5以上になるように含むトナー母粒子を含有し、かつ(2)該トナー母粒子の表面より0.5μm以内の内側の領域において、平均一次粒径が15nm以下のシリカ微粒子が含まれていると共に、(3)ワックス部分の内部及び周囲0.1μm以内の領域に、前記シリカ微粒子の内50個数%以上が存在している静電荷像現像用トナーにより、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)少なくともバインダー樹脂、シリカ及びワックスを含むトナー母粒子を含有する静電荷像現像用トナーであって、
前記トナー母粒子におけるバインダー樹脂が、ポリエステル系樹脂80重量%以上を含むと共に、ワックス/シリカ重量比が0.5以上であり、かつ当該トナー母粒子の断面を元素分析機能を備えた透過型電子顕微鏡で観察した際に、トナー母粒子の表面より0.5μm以上内側の領域において、
(a)平均一次粒径15nm以下のシリカ微粒子が含まれていること、及び
(b)トナー母粒子断面を染色して、バインダー樹脂部分とワックス部分の判別をすると、ワックス部分の内部及び周囲0.1μm以内の領域に、前記(a)のシリカ微粒子の内50個数%以上が存在していること、
を特徴とする静電荷像現像用トナー、
(2)トナー母粒子が、バインダー樹脂に少なくともシリカとワックスを溶融混練し、粉砕して得られたものである上記(1)項に記載の静電荷像現像用トナー、
(3)トナー母粒子におけるワックスの含有量が1〜10重量%であり、かつシリカの含有量が0.25〜8重量%である上記(1)又は(2)項に記載の静電荷像現像用トナー、
(4)トナー母粒子に含まれるシリカが、BET比表面積200m2/g以上のシリカを疎水化処理してなるものである上記(1)〜(3)項のいずれかに記載の静電荷像現像用トナー、
(5)疎水化処理が、シリコーンオイルによる処理である上記(4)項に記載の静電荷像現像用トナー、及び
(6)浮遊状態で加熱処理することにより、トナー粒子が平均円形度0.930〜0.980に球形化されてなる上記(1)〜(5)項のいずれかに記載の静電荷像現像用トナー、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、ワックスを多量に含有しても流動性が良好であると共に、製造装置内で付着や堆積が生じにくく、保存性が良好であり、OPCフィルミングやブレード融着を起こさず、しかも定着性及びオフセット性が良好な静電荷像現像用トナーを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の静電荷像現像用トナーは、少なくともバインダー樹脂、シリカ及びワックスを含むトナー母粒子を含有するものであって、前記バインダー樹脂として、ポリエステル系樹脂80重量%以上を含む樹脂が用いられる。
バインダー樹脂として、一般によく用いられるスチレン−アクリル系樹脂を使用した場合、樹脂とシリカ粒子との相性が良いことから、シリカ粒子がワックス近傍だけでなく、樹脂全体に細かく分散してしまい、ワックス分散に与える影響が小さい。これに対し、バインダー樹脂として、ポリエステル系樹脂を用いることにより、疎水性シリカ粒子とバインダー樹脂の相性が相対的に悪くなり、疎水性シリカ粒子がワックスの内部及び近傍に集中的に分散する。このワックス内部及び近傍のシリカ粒子が、分散したワックスの再凝集を防ぐことにより、分散性が向上する。
本発明において、バインダー樹脂として用いられるポリエステル系樹脂は、多価カルボン酸類と多価アルコールとが脱水縮合されることにより製造される。
【0007】
多価カルボン酸類としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレンジカルボン酸のごとき芳香族カルボン酸類;マレイン酸、フマール酸、コハク酸、アジピン酸などの脂肪族カルボン酸類;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式カルボン酸類などのそれぞれのカルボン酸、カルボン酸無水物、カルボン酸の低級アルキルエステルなどの化合物が挙げられる。これらの多価カルボン酸類は、単独で用いることもでき、2種類以上を併用して用いることもできる。これらの多価カルボン酸類の中でも芳香族カルボン酸ないしその無水物、低級アルキルエステルを使用することが好ましい。
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールのごとき脂肪族ジオール類;シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールAのごとき脂環式ジオール類;ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物のごとき芳香族ジオール類などが挙げられる。これらの多価アルコールは、単独で用いることもでき、2種以上を併用して用いることもできる。
なお、多価カルボン酸と多価アルコールとの縮重合によって得られたポリエステル樹脂に、さらにモノカルボン酸、その無水物やエステル、モノアルコールなどの中から選ばれる少なくとも1種の化合物を加えて、重合末端のヒドロキシル基、及び/又はカルボキシル基をエステル化し、ポリエステル系樹脂の酸価を調整することができる。
ポリエステル系樹脂は、上記多価アルコールと多価カルボン酸類とを常法に従って縮合反応させることにより、製造することができる。例えば、上記多価アルコールと多価カルボン酸類とを、窒素等の不活性ガスの存在下で150〜250℃程度の温度で加熱し、副生する低分子化合物を連続的に反応系外に除去し、所定の物性値に達した時点で反応を停止させ、冷却することにより、目的とする反応物を得ることができる。
このようなポリエステル系樹脂の合成は、触媒を添加して行うこともできる。使用するエステル化触媒としては、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫オキサイドのごとき有機金属や、テトラブチルチタネートのごとき金属アルコキシドなどが挙げられる。また、使用するカルボン酸成分が低級アルキルエステルである場合には、エステル交換触媒を使用することができる。エステル交換触媒としては、例えば、酢酸亜鉛、酢酸鉛、酢酸マグネシウムのごとき金属酢酸塩;酸化亜鉛、酸化アンチモンのごとき金属酸化物;テトラブチルチタネートのごとき金属アルコキシド、などが挙げられる。触媒の添加量については、原材料の総量に対して0.01〜1重量%の範囲とするのが好ましい。
【0008】
なお、このような縮重合反応において、特に分岐、または架橋ポリエステル系樹脂を製造するためには、1分子中に3個以上のカルボキシル基を有する多価カルボン酸類またはその無水物、及び/又は、1分子中に3個以上の水酸基を有する多価アルコールを必須の合成原料として用いればよい。
このようにして得られるポリエステル系樹脂は、定荷重押し出し形細管式レオメーター(以下、フローテスターという)による測定値が以下の範囲のものであることが好ましい。すなわち、フローテスターによる流出開始温度Tfbが80〜120℃の範囲、T1/2温度が110〜180℃の範囲、流出終了温度Tendが130〜210℃の範囲である。このようなフローテスター値を有するポリエステル系樹脂を用いることにより、本発明の静電荷像現像用トナーは良好なオイルレス定着性を有するようになる。また、ガラス転移温度(Tg)が40〜75℃であることが好ましい。
流出開始温度Tfbは、ポリエステル系樹脂のシャープメルト性、低温定着性の指標となるもので、あまり高温であると低温定着性が悪化し、コールドオフセットが発生しやすくなる。また、あまり低温であると保存安定性が低下し、ホットオフセットが発生しやすくなる。したがって、本発明の静電荷像現像用トナーの流出開始温度Tfbは90〜115℃であることがより好ましく、90〜110℃であることが特に好ましい。
また、1/2法によるトナーの溶融温度T1/2及び流出終了温度Tendは、耐ホットオフセット性の指標となるもので、いずれもがあまり高温すぎると、溶液粘度が高くなるため粒子形成時の粉砕性が悪化する。また、いずれもが低温すぎるとオフセットが発生しやすくなり、実用性が低下する。そのため、1/2法による溶融温度T1/2は110〜180℃が好ましく、120〜160℃であることがより好ましく、流出終了温度Tendは130〜210℃が好ましく、130〜180℃がより好ましい。Tfb、T1/2、Tendを上記範囲内とすることで幅広い温度範囲で定着が可能となる。
【0009】
本発明におけるバインダー樹脂は、1種類のポリエステル系樹脂によって構成してもよいが、一般的に高分子量で高粘性となる架橋型のポリエステル系樹脂(架橋ポリエステル系樹脂)と、低分子量で低粘性となる分岐型、あるいは直鎖型ポリエステル系樹脂とをブレンドして用いることが、樹脂の製造上も、また良好な定着開始温度及び耐ホットオフセット性を得るためにも実際的であり好ましい。ブレンドして用いる場合には、ブレンドした樹脂のフローテスター値が上記数値範囲に入ればよい。本発明では、架橋ポリエステル系樹脂はテトラヒドロフランに不溶な成分を有する樹脂を示し、分岐型、あるいは直鎖型ポリエステル系樹脂は、テトラヒドロフラン不溶分の測定方法において不溶分が検出されない樹脂を示す。
本発明では、バインダー樹脂として溶融粘度の異なる複数のポリエステル系樹脂を用いることができるが、例えば、低粘度の分岐型あるいは直鎖型ポリエステル樹脂と架橋ポリエステル系樹脂との混合物を用いる場合、以下に示すような条件の分岐型あるいは直鎖状ポリエステル系樹脂(A)と架橋型あるいは分岐型のポリエステル系樹脂(B)との混合物とするのがより好ましい。この時、ブレンドした樹脂のフローテスター値は上記数値範囲内に入ることが好ましい。
すなわち、ポリエステル系樹脂(A)としてフローテスターによるT1/2温度が80℃以上、120℃未満であり、ガラス転移温度Tgが40〜70℃の分岐型あるいは直鎖状ポリエステル系樹脂、またポリエステル系樹脂(B)として、フローテスターによるT1/2温度が120℃以上、210℃以下であり、ガラス転移温度Tgが50〜75℃の架橋型あるいは分岐型のポリエステル系樹脂、さらに、これらポリエステル系樹脂(A)とポリエステル系樹脂(B)との重量比率が、(A)/(B)=20/80〜80/20であり、また、T1/2温度をそれぞれT1/2(A)、T1/2(B)としたとき、20℃<T1/2(B)−T1/2(A)<100℃の関係にあるものが好ましく用いられる。
フローテスターによる各温度特性を考えると、樹脂(A)の1/2法による溶融温度T1/2(A)はシャープメルト性、低温定着性を付与するための指標となるもので、T1/2(A)が80〜115℃の範囲であることがより好ましく、90〜110℃の範囲であることが特に好ましい。
【0010】
これらの性能により規定される樹脂(A)は軟化温度が低く、ヒートロールによる定着プロセスにおいて、ヒートロールの低温化、或いはプロセス速度の高速化により、与えられる熱エネルギーが減少した場合でも、十分に溶融し、耐コールドオフセット及び低温定着性に優れた性能を発揮する。
樹脂(B)の1/2法による溶融温度T1/2(B)及び流出終了温度Tend(B)がともに低すぎる場合には、ホットオフセットが発生しやすくなり、また、高すぎる場合には粒子形成時の粉砕性が悪化して生産性が低下するため、T1/2(B)は125〜210℃であることがより好ましく、130〜200℃であることが特に好ましい。
これらの性能により規定される樹脂(B)は、ゴム弾性傾向が強く、かつ高い溶融粘度を持つため、定着プロセスにおける加熱溶融時でも溶融したトナー層の内部凝集力が維持され、ホットオフセットが発生しにくく、かつ定着後もその強靱さから優れた耐摩擦性を発揮する。
樹脂(A)と樹脂(B)をバランス良く配合することで、広い温度領域における耐オフセット性能と低温定着性能を十分に満足するトナーが提供できる。
樹脂(A)と樹脂(B)の重量比率(A)/(B)が20/80未満では定着性に影響を及ぼし、また、80/20を超えると耐オフセット性に影響を及ぼす。重量比率(A)/(B)は30/70〜70/30であることが更に好ましい。
【0011】
また、樹脂(A)と樹脂(B)との1/2法による溶融温度をそれぞれT1/2(A)、T1/2(B)としたときに、低温定着性と耐オフセット性の両立の観点から、また、樹脂間の粘度の差からくる問題を生じることなく均一に混合しやすくためには、T1/2(B)−T1/2(A)の範囲は20℃を越え、90℃以下であることがより好ましく、20を越え〜80℃以下であることが特に好ましい。
ポリエステル系樹脂(A)のTgが40℃未満、あるいはポリエステル系樹脂(B)のTgが50℃未満であると、得られるトナーが貯蔵中または現像機中でブロッキング(トナーの粒子が凝集して塊になる現象)を起こしやすくなり好ましくない。一方、ポリエステル系樹脂(A)のTgが70℃を越えると、あるいはポリエステル系樹脂(B)のTgが75℃を越えると、トナーの定着温度が高くなり好ましくない。このように、バインダー樹脂となるポリエステル系樹脂として、上記の関係にあるポリエステル系樹脂(A)およびポリエステル系樹脂(B)を用いることにより、得られるトナーはより良好な定着性を有するようになり、好ましい。
さらに、ポリエステル系樹脂からなるバインダー樹脂としては、テトラヒドロフラン(THF)可溶分のゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)法による分子量測定で、(イ)重量平均分子量が3万以上、好ましくは37,000以上、(ロ)重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)が12以上、好ましくは15以上、(ハ)分子量60万以上の成分の面積比率が全体の0.3%以上、好ましくは0.5%以上、(ニ)分子量1万以下の成分の面積比率が20〜80%、好ましくは30〜70%、の条件を満たすことが良好な定着性を得るうえで好ましい。複数の樹脂をブレンドする場合には、最終的な樹脂混合物のGPC測定結果が上記数値範囲内に入ればよい。
本発明に用いられるポリエステル系樹脂において、分子量60万以上の高分子量成分は耐ホットオフセット性を確保する機能を有している。一方、分子量が1万以下の低分子量成分は樹脂の溶融粘度を下げ、シャープメルト性を発現させ定着開始温度を低下するために効果的であり、分子量1万以下の樹脂成分を含有することが好ましい。オイルレス定着方式における低温定着、耐ホットオフセット性、透明性等の良好な熱特性を得るには、バインダー樹脂がこのようにブロードな分子量分布を有することが好ましい。
【0012】
また、ポリエステル系樹脂の酸価(樹脂1gを中和するのに必要なKOHのmg数)は、(イ)上記のような分子量分布を得やすいこと、(ロ)得られるトナーの環境安定性(温度・湿度が変化したときの帯電性の安定性)を良好なものに保ちやすいこと、などから、1〜20mgKOH/gの範囲が好ましい。なお、ポリエステル系樹脂の酸価は、前述したように多価カルボン酸類と多価アルコールとの縮重合によって得られたポリエステル系樹脂に、さらにモノカルボン酸、その無水物やエステル、モノアルコールの中から選ばれる少なくとも1種の化合物を加える以外にも、原料の多価カルボン酸類と多価アルコールの配合比と反応率により、ポリエステルの末端のカルボキシル基を制御することによって調整することができる。あるいは、多価カルボン酸類として無水トリメリット酸を使用することにより、ポリエステルの主鎖中にカルボキシル基を有するものを形成することができる。
本発明においては、バインダー樹脂として、前記ポリエステル系樹脂を80重量%以上、好ましくは、90重量%、より好ましくは95重量%以上の割合で含む樹脂が用いられる。
本発明においては、バインダー樹脂として、該樹脂全量に基づき、20重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下の割合で、他の樹脂を当該ポリエステル系樹脂と併用することができる。この併用できる他の樹脂としては、例えばポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン−ノルボルネン共重合体などの環状オレフィン共重合体、ジエン系樹脂、シリコーン系樹脂、ケトン樹脂、マレイン酸樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、テルペン樹脂、石油樹脂、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体などのスチレン系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、ポリビニルブチラールなどを挙げることができる。
これらの樹脂を当該ポリエステル系樹脂と併用する場合、得られるバインダー樹脂の流出開始温度Tfbが80〜120℃の範囲、T1/2温度が110〜180℃の範囲、流出終了温度Tendが130〜210℃の範囲、ガラス転移温度が40〜75℃の範囲にあるように、併用することが好ましい。
【0013】
本発明におけるトナー母粒子に含まれるワックスに特に制限はなく、例えば、カルナウバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックスなどの植物ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの石油ワックス、モンタンワックスなどの鉱物ワックス、カーボワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、塩素化ナフタレンワックスなどの合成ワックス、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸などの高級脂肪酸、セリルアルコール、メリシルアルコールなどの高級アルコール、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミドなどのアミド系ワックス、脂肪酸エステル、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレートなどの多価アルコールエステル、シリコーンワニスなどを挙げることができる。これらのワックスは、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
このワックスの融点は好ましくは50〜150℃であり、より好ましくは60〜140℃である。ワックスの融点が50℃未満であると、静電荷像現像用トナーの保存性が低下するおそれがある。ワックスの融点が150℃を超えると、静電荷像現像用トナーの低温定着性が不十分となるおそれがある。ワックスの融点は、示差走査熱量計(DSC)を用いる分析において、10℃/分で昇温したときの吸熱ピーク温度として求めることができる。
本発明においては、トナー母粒子中のワックスの含有量は、1〜10重量%であることが好ましく、2〜8重量%であることがより好ましい。このワックスの含有量が1重量%未満であると、静電荷像現像用トナーの低温定着性と耐オフセット性が共に不十分となるおそれがある。ワックスの含有量が10重量%を超えると、製造工程において粒子の付着と堆積が生じ、また、静電荷像現像用トナーの流動性や保存性が低下するおそれがある。本発明によれば、ワックスを多量に含有させることができるので、定着性と耐オフセット性が共に優れた静電荷像現像用トナーを得ることができる。
【0014】
本発明におけるトナー母粒子に含まれるシリカに特に制限はなく、例えば、乾式法シリカ、湿式沈降法シリカ、湿式ゲル法シリカなどを挙げることができる。また、多数のシラノール基を有する親水性シリカ、シラノール基をヘキサメチレンジシラザン、トリメチルシラン、トリメチルクロルシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジクロルシラン、メチルトリクロルシラン、エチルトリクロルシラン、アリルジメチルクロルシラン、アリルフェニルジクロルシラン、ベンジルジメチルクロルシラン、ブロムメチルジメチルクロルシラン、α−クロルエチルトリクロルシラン、β−クロルエチルトリクロルシラン、クロルメチルジメチルクロルシラン、トリオルガノシリルメルカプタン、トリメチルシリルメルカプタン、トリオルガノシリルアクリレート、ビニルジメチルアセトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン、1,3−ジフェニルテトラメチルジシロキサン、及び1分子辺り2〜12個のシロキサン単位を有し末端に位置する単位にそれぞれ一個宛のケイ素原子に結合した水酸基を含有したジメチルポリシロキサンのごときシランカップリング処理剤;アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジプロピルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジブチルアミノプロピルトリメトキシシラン、モノブチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジオクチルアミノプロピルジメトキシシラン、ジブチルアミノプロピルジメトキシシラン、ジブチルアミノプロピルモノメトキシシラン、ジメチルアミノフェニルトリエトキシシラン、トリメトキシシリル−γ−プロピルベンジルアミンのごとき窒素原子を含有するシランカップリング剤;ポリジメチルシロキサン(ジメチルシリコーンオイル)、メチルフェニルシリコーンオイル、クロルフェニルシリコーンオイルのごときシリコーンオイル;これらシリコーンオイルのアミノ変性、エポキシ変性、カルボキシル変性、カルビノール変性、異種官能基変性、ポリエーテル変性、メチルスチリル変性、アルキル変性、脂肪酸変性、アルコキシ変性、フッ素変性などの変性シリコーンオイルなどで疎水化処理した疎水性のシリカのいずれをも用いることができる。特に、BET比表面積が200m2/g以上、好ましくは200〜400m2/gのシリカをポリジメチルシロキサンなどのシリコーンオイルで、疎水化処理してなるシリカが好適である。
【0015】
このシリカのBET比表面積が200m2/g未満であると、ワックスに対する吸着保持力が不足してワックスの分散が悪くなり、製造工程において粒子の付着や堆積が生じやすく、また、静電荷像現像用トナーの保存性が低下するおそれがある。BET比表面積が400m2/gを超えるシリカは、製造が困難である。
このトナー母粒子に含まれるシリカについては、当該トナー母粒子の断面を元素分析機能を備えた透過型電子顕微鏡で観察した際に、トナー母粒子の表面より0.5μm以上内側の領域において、
(a)平均一次粒径15nm以下のシリカ微粒子が含まれていること、及び
(b)トナー母粒子断面を染色して、バインダー樹脂部分とワックス部分の判別をすると、ワックス部分の内部及び周囲0.1μm以内の領域に、前記(a)のシリカ微粒子の内50個数%以上が存在していること、
が必要である。
トナー母粒子中のシリカが、前記条件を満たすことにより、バインダー樹脂と親和性の低いワックスがシリカ凝集体に吸着され、バインダー樹脂中に均一に分散し、トナー母粒子の表面への滲み出しが抑制される。その結果、トナー母粒子の流動性が向上し、製造装置内での付着と堆積が防止される。
【0016】
前記(a)において、シリカ微粒子の平均一次粒径は、好ましくは3〜10nmであり、また(b)において、ワックス部分の内部及び周囲0.1μm以内の領域に存在するシリカ微粒子は70個数%以上であることが好ましい。
なお、前記(b)におけるトナー母粒子断面の染色は、四酸化ルテニウムで行うことができ、樹脂部分は染色され、ワックス部分は染色されないので判別できる。
本発明においては、トナー母粒子におけるワックスとシリカの含有割合は、ワックス/シリカ重量比で0.5以上、好ましくは0.9以上、より好ましくは0.9〜2.0である。ワックス/シリカ重量比が0.5未満ではバインダー樹脂の粘度が上昇し、定着性及びオフセット性が悪化すると共に、混練機への供給時にシリカ粒子が偏析されやすくなる。
トナー母粒子におけるシリカの含有量は0.25〜8重量%が好ましく、より好ましくは1〜5重量%である。このシリカの含有量が0.25重量%未満であると、ワックスを吸着し保持する効果が十分に発現しないおそれがあり、8重量%を超えると、静電荷像現像用トナーの定着性が阻害されるとともに、カラートナーの場合は、トナーの透明性が低下するおそれがある。
【0017】
本発明におけるトナー母粒子には、前述のバインダー樹脂、シリカ及びワックスと共に、着色剤、電荷制御剤などを含むことができる。
前記着色剤に特に制限はなく、無機又は有機の各種の顔料、染料などを用いることができる。黒色顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化銅、四三酸化鉄、二酸化マンガン、アニリンブラックなどを挙げることができる。黄色顔料としては、例えば、パーマネントイエロー、クロムイエロー、キノリンイエロー、ベンジジンイエロー、黄色酸化鉄、C.I.ピグメント・イエロー97、C.I.ピグメント・イエロー17、C.I.ピグメント・イエロー180、C.I.ソルベント・イエロー162などを挙げることができる。赤色顔料としては、例えば、ベンガラ、レーキレッド、ローダミン6B、キナクリドン、カーミン6B、C.I.ピグメント・レッド48:1、C.I.ピグメント・レッド122、C.I.ピグメント・レッド57:1、C.I.ピグメント・レッド184などを挙げることができる。青色顔料としては、例えば、紺青、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、アニリンブルー、C.I.ピグメント・ブルー15:1、C.I.ピグメント・ブルー15:3などを挙げることができる。本発明において、静電荷像現像用トナー中の着色剤の含有量は1〜20重量%であることが好ましく、2〜8重量%であることがより好ましい。着色剤の含有量が1重量%未満であると、必要な画像濃度が得られないおそれがある。着色剤の含有量が20重量%を超えると、トナーの定着性が低下するおそれがある。
また、電荷制御剤としては、例えば、モノアゾ金属化合物、アセチルアセトン金属化合物、芳香族ヒドロキシカルボン酸、含金属サリチル酸系化合物、ホウ素錯体化合物、カリックスアレーンなどを挙げることができる。トナーを正帯電性に制御する電荷制御剤としては、例えば、トリブチルベンジルアンモニウム−1−ヒドロキシ−4−ナフトスルホン酸塩、ニグロシン、グアニジン化合物、トリフェニルメタン染料、第四級アンモニウム塩などを挙げることができる。
トナー母粒子に、この電荷制御剤を含有させることにより、静電荷像現像用トナーの帯電特性を安定させ、かぶりの発生を防止することができる。
【0018】
本発明におけるトナー母粒子の製造方法に特に制限はなく、例えば懸濁重合、乳化重合凝集などによる重合トナー法や、バインダー樹脂、シリカ、ワックス、着色剤、電荷制御剤などを溶融混練したのち、粉砕分級する粉砕トナー法などを用いることができる。これらの中で、トナー母粒子の平均円形度の制御が可能な粉砕トナー法が好適である。
粉砕トナー法により、トナー母粒子を製造する場合、バインダー樹脂、シリカ、ワックス、着色剤、電荷制御剤などを溶融混練する方法に特に制限はなく、例えば、これらの材料をリボン型混合機、二重円錐型混合機、高速混合機、円錐型スクリュー混合機などを用いてあらかじめ混合したのち、バンバリーミキサー、二軸混練押出機などを用いて溶融混練することができる。溶融混練物は、冷却後、粉砕される。用いる粉砕機としては、例えば、インパクトクラッシャー、ハンマークラッシャーなどの衝撃式粉砕機、ロッドミル、ボールミルなどの打撃式粉砕機、カウンタージェットミルなどの圧縮空気源を利用したジェット式粉砕機などを挙げることができる。粉砕された粒子は、分級することにより粗粒子と微粒子を除いて粒径分布の狭いトナー母粒子とすることが好ましい。分級する方法に特に制限はなく、例えば、気流式分級装置などを用いて分級することができる。
本発明においては、分級により粒径分布が狭められた粉体をトナー母粒子として、浮遊状態で加熱処理することにより、粒子を球形化することが好ましい。加熱処理に際しては、あらかじめ無機微粒子や樹脂微粒子などを流動化剤として外添することにより、球形化工程の生産性を向上することができる。外添剤の添加量は、トナー母粒子100重量部に対して、0.1〜6重量部であることが好ましく、0.3〜5重量部であることがより好ましい。トナー母粒子を加熱処理する手段としては、例えば、流動床槽や、熱気流中にトナー母粒子を分散させて表面を溶融させて球形化する熱風球形化装置などを用いることができる。加熱処理により、トナー母粒子の平均円形度を転写性に優れる0.930〜0.980とすることが好ましく、平均円形度を0.945〜0.970とすることがより好ましい。
【0019】
加熱処理により球形化したトナー母粒子には、最終外添剤として、疎水性シリカ、酸化チタンなどの無機酸化物の微粒子や、ポリメタクリル酸メチルなどの有機樹脂微粒子を添加して、トナーの帯電特性や流動性の調整を行うことが好ましい。最終外添剤の添加量は、トナー母粒子100重量部に対して0.1〜6重量部であることが好ましく、0.3〜5重量部であることがより好ましい。
本発明によれば、トナー母粒子を加熱処理して球形化を行っても、バインダー樹脂と親和性の低いワックスはシリカの凝集体に吸着されているために、球形化工程では溶融しても滲み出してこない。ワックスが粒子の表面に滲み出していないので、保存性が良好で、長期間印字を継続しても劣化の少ない静電荷像現像用トナーを得ることができる。また、遊離の最終外添剤の添加量を減少することができる。電子写真などの画像形成プロセスの定着時においては、トナー粒子には熱と圧力がかけられ、圧力の作用によりシリカの凝集体が壊され、ワックスが滲み出してくると考えられる。
本発明の静電荷像現像用トナーは、通常の非磁性一成分現像方式の印刷装置、あるいは二成分現像方式の印刷装置のいずれにも使用することができる。
【実施例】
【0020】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
なお、実施例において、特性の分析及び評価は下記の方法により行った。
(1)バインダー樹脂のT1/2温度
JIS K 7199に規定するキャピラリーレオメータを用い、シリンダ内径11.329mm、キャピラリーダイ内径1mm、長さ1mmとし、シリンダ内に樹脂1.0gを充填し、ピストンに荷重98Nをかけ、50℃から5℃/分で昇温し、充填された樹脂の2分の1が流出したときの温度をフローテスタT1/2とする。
(2)バインダー樹脂のガラス転移温度(Tg)
島津製作所製「DSC−50」により樹脂サンプルをメルトクエンチ後、加熱速度15℃毎分で加熱して得られたDSC曲線のショルダーオンセット値として測定した。
(3)バインダー樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定したポリスチレン換算の値である。
(4)トナー母粒子中のシリカ微粒子の平均一次粒径
元素分析機能付き透過型電子顕微鏡[(株)日立製作所、H−7500]を用いて、トナー母粒子5個分に含まれるシリカ微粒子を観察し、スキャナにかけて画像解析を行い、平均一次粒径を求める。
(5)トナー粒子中のワックス周辺のシリカ微粒子の個数%
トナー母粒子断面を四酸化ルテニウムで染色して、透過型電子顕微鏡[(株)日立製作所、H−7500]を用いて観察し、画像解析を行い、ワックス部分の内部及び周囲0.1μm以内の領域に存在するシリカ微粒子の個数%を求める。
(6)画像評価
市販の非磁性一成分現像器を備えたフルカラープリンタのシアンカートリッジに、各静電荷像現像用トナーを160g充填し、5000枚印字を行い、ブレード融着、フィルミング、オフセット及び巻き付きを、下記の判定基準で評価した。
・ブレード融着(現像機内のドクターブレードに融着物が発生する現象)
○:融着物無し
△:ブレード上に僅かに融着物が確認できるが、画像に影響なし。
×:ブレード上に融着物が確認でき、画像にベタのヌケ、縦筋上カブリなどとして影響。
・フィルミング(OPC表面に融着物が発生する現象)
○:フィルミング無し
△:OPC上を顕微鏡で観察すると融着物が見られるが、画像への影響は無し。
×:OPC上に融着物がはっきりと多数確認され、画像にベタのヌケ・白地汚損などとして影響。
・オフセット(画像定着時に、定着不十分のトナーが定着ローラー周回時に画像を汚す現象。または、定着したトナー塊が定着ローラーに張り付いて、周回後に画像を汚す現象。)
○:オフセット無し。
△:極厚紙などの厳しい条件でのみ発生。実用上問題ない。
×:一般的な条件で発生。
・巻き付き(定着ローラーへの紙の巻き付き)
○:巻き付き無し。
△:極薄紙、繰り返し重ね印字などの厳しい条件でのみ発生。実用上問題なし
×:一般的な条件で発生。
(7)トナー母粒子の装置内付着(粉砕機・分級機などの製造装置内に付着して生産性が低下する現象。)
粉砕機、分級機内へのトナー母粒子の付着程度を目視観察し、下記の判定基準で評価した。
○:良好
△:実用上問題ない
×:不良
(8)トナーの保存性
トナーを55℃の恒温槽内に8時間放置したのち、42メッシュ篩にトナー20gをのせ、篩ったのちの残量を測定する。
○:0.3g未満(良好)
△:0.3g以上0.8g未満(実用上問題ない)
×:0.8g以上(不良)
また、静電荷像現像用トナーの製造に用いた各成分の種類を以下に示す。
(1)PES樹脂:ポリエステル樹脂、Mn=3400、Mw=133800、酸価=5.0mgKOH/g、Tg=61℃、T1/2=140℃
(2)StAc:スチレン−アクリル系樹脂、Tg=54℃、T1/2=130℃
(3)顔料:大日精化工業社製、商品名「ECB−301」、銅フタロシアニン顔料
(4)電荷制御剤:オリエント化学工業社製、商品名「E−304」
(5)シリカ粒子:HDK H30TD、HDK H30TM、HDK H20TD、HDK H13TD、HDK T30、いずれもワッカー社製
【0021】
【表1】

【0022】
(6)ワックス
・ライスワックス:日本精鑞社製、商品名「LAX−N−300A」、融点79℃
・ポリプロピレン系ワックス:三洋化成社製、商品名「ビスコール660P」、融点140℃
(7)外添剤
・RX−50:日本アエロジル社製、疎水性シリカ
・TG−308F:キャボット社製、疎水性シリカ
・酸化チタン:個数平均粒径100nm
【0023】
実施例1
バインダー樹脂としてPES樹脂87重量部、ワックスとしてライスワックス5質量部、シリカとしてシリカ粒子「HDK H30TD」(BET比表面積300m2/g、ポリジメチルシロキサン処理)3重量部、銅フタロシアニン顔料「ECB−301」4重量部及び電荷制御剤「E−304」1重量部を、ヘンシェルミキサー[三井鉱山(株)]を用いて予備混合し、二軸押出機[(株)池貝、PCM−30]を用いて溶融混練し、ジェット式粉砕機[ホソカワミクロン(株)、カウンタージェットミル]を用いて体積平均粒径7.5μmに粉砕し、さらに分級装置[日鉄鉱業(株)、エルボージェットEJ−PURO]を用いて粗粉と微粉を分級して、粒度分布が狭いトナー母粒子を得た。
このトナー母粒子について、その中のシリカ微粒子に関する特性を評価した。結果を第2表に示す。
このトナー母粒子100重量部に、外添剤として疎水性シリカ「RX−50」2重量部及び酸化チタン1.0重量部を添加したのち、ヘンシェルミキサー[三井鉱山(株)]を用いて混合し、さらに目開き200メッシュのスクリーンを備えた超音波振動篩いを通して、静電荷像現像用トナーを得た。
静電荷像現像用トナーの製造工程を通じて、装置への粒子の付着、堆積は生じなかった。保存性試験において、篩い後の残量は0.1gであった。
この静電荷像現像用トナーについて、その特性を評価した。結果を第2表に示す。
実施例2〜5及び比較例1〜4
第2表に示す種類と量の各バインダー樹脂、ワックス及びシリカを用いた以外は、実施例1と同様にして各トナー母粒子を得た。各トナー母粒子について、その中のシリカ微粒子に関する特性を評価した。結果を第2表に示す。
次に、前記各トナー母粒子を用い、実施例1と同様な操作を行い、各静電荷像現像用トナーを製造した。
この各静電荷像現像用トナーについて、その特性を評価した。結果を第2表に示す。
実施例6
第2表に示す種類と量のバインダー樹脂、ワックス及びシリカを用い、実施例1と同様にしてトナー母粒子を得た。このトナー母粒子について、その中のシリカ微粒子に関する特性を評価した。結果を第2表に示す。
次に、前記トナー母粒子100重量部に疎水性シリカ[キャボット社、TG−308F]0.5重量部を添加し、ヘンシェルミキサー[三井鉱山(株)]を用いて混合したのち、熱風球形化装置[日本ニューマチック工業(株)、SFS−3]を用いて、熱風温度280℃で加熱処理し、平均円形度0.960、体積平均粒径は8.1μmの球形化トナー粒子を得た。
得られた球形化トナー粒子を分級装置[日鉄鉱業(株)、エルボージェットEJ−PURO]を用いて分級し、カップリング粒子を除去して、体積平均粒径7.8μmの分級トナー粒子を得た。
この分級トナー粒子100重量部に、外添剤として疎水性シリカ[RX−50」2重量部及び酸化チタン1.0重量部を添加したのち、ヘンシェルミキサー[三井鉱山(株)]を用いて混合し、さらに目開き200メッシュのスクリーンを備えた超音波振動篩いを通して、静電荷像現像用トナーを得た。
この静電荷像現像用トナーについて、その特性を評価した。結果を第2表に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の静電荷像現像用トナーは、ワックスを多量に含有しても流動性が良好であると共に、製造装置内で付着や堆積が生じにくく、保存性が良好であり、OPCフィルミングやブレード融着を起こさず、しかも定着性及びオフセット性が良好であって、通常の非磁性一成分現像方式の印刷装置、あるいは二成分現像方式の印刷装置のいずれにも使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともバインダー樹脂、シリカ及びワックスを含むトナー母粒子を含有する静電荷像現像用トナーであって、
前記トナー母粒子におけるバインダー樹脂が、ポリエステル系樹脂80重量%以上を含むと共に、ワックス/シリカ重量比が0.5以上であり、かつ当該トナー母粒子の断面を元素分析機能を備えた透過型電子顕微鏡で観察した際に、トナー母粒子の表面より0.5μm以上内側の領域において、
(a)平均一次粒径15nm以下のシリカ微粒子が含まれていること、及び
(b)トナー母粒子断面を染色して、バインダー樹脂部分とワックス部分の判別をすると、ワックス部分の内部及び周囲0.1μm以内の領域に、前記(a)のシリカ微粒子の内50個数%以上が存在していること、
を特徴とする静電荷像現像用トナー。
【請求項2】
トナー母粒子が、バインダー樹脂に少なくともシリカとワックスを溶融混練し、粉砕して得られたものである請求項1に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項3】
トナー母粒子におけるワックスの含有量が1〜10重量%であり、かつシリカの含有量が0.25〜8重量%である請求項1又は2に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項4】
トナー母粒子に含まれるシリカが、BET比表面積200m2/g以上のシリカを疎水化処理してなるものである請求項1〜3のいずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項5】
疎水化処理が、シリコーンオイルによる処理である請求項4に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項6】
浮遊状態で加熱処理することにより、トナー粒子が平均円形度0.930〜0.980に球形化されてなる請求項1〜5のいずれかに記載の静電荷像現像用トナー。