説明

静電荷像現像用黒トナーおよびその製造方法

【課題】 基本的に低温定着性が得られながら、優れた耐ホットオフセット性および高光沢性が得られ、さらに、十分な画像濃度が得られる黒トナーおよびその製造方法の提供。
【解決手段】 結着樹脂にカーボンブラックが分散されてなるトナー粒子よりなる黒トナーであって、結着樹脂は、スチレン系単量体に由来および(メタ)アクリル酸系単量体に由来の構造単位を含む共重合体Aからなる樹脂Aと、メタクリル酸エステル系単量体に由来およびカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体に由来の構造単位を含む共重合体Bからなる樹脂Bとを含有し、樹脂Aによる連続相中に樹脂Bによる相が分散された状態であり、共重合体Bにおけるメタクリル酸エステル系単量体およびカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体の共重合比率の値の合計が70〜95質量%であり、カーボンブラックの分散径が10〜300nmであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の画像形成に用いられる静電荷像現像用黒トナー(以下、単に「黒トナー」ともいう。)およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止の観点から、種々の分野で省エネルギー化の検討が行われており、画像形成装置などの情報機器においても、待機時の省電力化など低エネルギーで使用できるよう取り組みが進められてきており、一方では、最もエネルギーを消費する定着工程において定着温度を低くする検討がなされている。なお、一般的に、定着温度とは、加熱部材において設定された表面温度のことをいう。
【0003】
例えば、定着装置においては、ウォームアップタイム短縮のために、加熱部材の熱容量を低減させる技術が開発されてきており、具体的には、加熱部材のアルミニウム基体を薄肉化する方法や、加熱部材としてフィルムまたはベルトを用いる方法が普及している。
このような熱容量が低減された加熱部材を用いた定着装置においては、ウォームアップタイム短縮という利点が得られる一方、加熱部材における非画像部に対応する領域の表面温度が過度に上昇、または、加熱部材における画像部に対応する領域の表面温度が過度に低下することがある。特に、同じ画像を連続出力した後に画像パターンまたは転写材のサイズを変更した場合に、加熱部材の表面温度が過度に上昇した領域においてはホットオフセット現象が発生し、表面温度が過度に低下した領域においては形成される画像の定着強度が低下するという問題が生じる。
一般的に、ホットオフセット現象の発生を抑制する方法としては、用いるトナーの結着樹脂に高弾性成分を導入する方法が知られているが、形成される画像においては、高弾性成分の存在によってその表面が平滑なものとならないために高い光沢性が得られない、という問題がある。
近年、低熱容量化した加熱部材を用いた定着装置がカラーの画像形成装置にも展開されるようになり、形成される画像に高い光沢性が求められるようになってきた。形成される画像に高い光沢性を付与する方法としては、トナーの結着樹脂として溶融特性がいわゆるシャープメルト性を有するものを用いる方法が一般的であるが、この方法によっては、広い定着可能温度領域において耐ホットオフセット性が得られないという問題がある。また、トナーの結着樹脂として軟化点が低いものを用いることにより、低温定着が可能となり、省エネルギー化を実現することができるが、単にトナーの熱物性を下げるのみでは、ホットオフセット現象を誘発するという問題がある。以上のように、従来のトナーにおいては、高光沢性、低温定着性および耐ホットオフセット性という3つの課題を同時に解決することが困難であった。
【0004】
以上のような課題のいくつかを同時に解消するための技術として、例えば特許文献1および特許文献2には、低温定着性を有するトナーにおいて、さらに高光沢性を得るために、高い溶融性を有するトナーを用いることが開示されている。
【0005】
しかしながら、溶融性が高められたトナーほど、その粘弾性は低くなり、定着工程において定着部材からの分離性が低下して巻き付き現象が発生する、すなわち耐ホットオフセット性が十分に得られず、結局、これらの技術によっては、低温定着性、高光沢性および耐ホットオフセット性という3つの課題を同時に解決することはできない、または、できたとしても十分とはいえなかった。
【0006】
一方、上記のような高光沢性が得られる低温定着トナー、特に黒色のトナーにおいては、定着工程において速やかに溶融するために、構成する樹脂を低分子量化する必要があるところ、低分子量化すると分子量末端が増大するために、この分子量末端の影響で黒色のトナーを構成する樹脂中にカーボンブラックを良好に分散させることができず、カーボンブラックが凝集して偏在した状態でトナー粒子中に存在することとなり、結局、隠ぺい力が低下して十分な画像濃度が得られない、という問題がある。
【0007】
このような問題を解決するために、例えば特許文献3には、トナーを構成する樹脂の表面カルボン酸量を規定し、pHが7〜10に調整されたカーボンブラックを用いることにより、高光沢性と高画像濃度を両立させる技術が開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献3の技術によっては、pHが7〜10に調整されたカーボンブラックは水に対する濡れ性が低いため、凝集し易く、トナー粒子中における分散性の確保はしづらい、という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−173044号公報
【特許文献2】特開2008−26645号公報
【特許文献3】特開2010−191343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上のような事情を考慮してなされたものであって、その目的は、基本的に低温定着性が得られながら、優れた耐ホットオフセット性および高光沢性が得られ、さらに、十分な画像濃度が得られる静電荷像現像用黒トナーおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の静電荷像現像用黒トナーは、結着樹脂にカーボンブラックが分散されてなるトナー粒子よりなる静電荷像現像用黒トナーであって、
前記結着樹脂は、少なくともスチレン系単量体に由来の構造単位および(メタ)アクリル酸系単量体に由来の構造単位を含む共重合体Aからなる樹脂Aと、少なくともメタクリル酸エステル系単量体に由来の構造単位およびカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体に由来の構造単位を含む共重合体Bからなる樹脂Bとを含有し、樹脂Aによる連続相中に樹脂Bによる相が分散された状態とされており、
前記樹脂Bを構成する共重合体Bにおけるメタクリル酸エステル系単量体に由来の構造単位の共重合比率の値およびカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体に由来の構造単位の共重合比率の値の合計が、70〜95質量%であり、
前記トナー粒子中のカーボンブラックの分散径が10〜300nmであることを特徴とする。
【0012】
本発明の静電荷像現像用黒トナーにおいては、前記樹脂Aを構成する共重合体Aは、少なくともスチレンに由来の構造単位、n−ブチルアクリレートに由来の構造単位およびメタクリル酸に由来の構造単位を含むものであり、ガラス転移点が30〜50℃、重量平均分子量(Mw)が10,000〜30,000であり、
前記樹脂Bを構成する共重合体Bは、少なくともメタクリル酸メチルに由来の構造単位およびイタコン酸に由来の構造単位を含むものであり、ガラス転移点が60〜85℃、重量平均分子量(Mw)が100,000〜400,000であり、
前記トナー粒子においては、樹脂Aによる連続相中に樹脂Bが微粒子状に分散された状態とされており、
当該樹脂Bによる微粒子の分散径が10〜70nmであることが好ましい。
【0013】
また、本発明の静電荷像現像用黒トナーにおいては、前記結着樹脂中における樹脂Aおよび樹脂Bの含有質量比が、樹脂A:樹脂Bで99:1〜85:15であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の静電荷像現像用黒トナーにおいては、前記樹脂Bを構成する共重合体Bにおけるメタクリル酸エステル系単量体に由来の構造単位の共重合比率が、63.0〜93.0質量%であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の静電荷像現像用黒トナーにおいては、前記カルボキシル基を有するラジカル重合性単量体が、複数のカルボキシル基を有するものであることが好ましい。
【0016】
また、本発明の静電荷像現像用黒トナーにおいては、前記カーボンブラックが、前記結着樹脂に対して1〜30質量%含有されていることが好ましい。
【0017】
本発明の静電荷像現像用黒トナーの製造方法は、結着樹脂にカーボンブラックが分散されてなるトナー粒子よりなる静電荷像現像用黒トナーを製造する方法であって、
前記結着樹脂は、少なくともスチレン系単量体に由来の構造単位および(メタ)アクリル酸系単量体に由来の構造単位を含む共重合体Aからなる樹脂Aと、少なくともメタクリル酸エステル系単量体に由来の構造単位およびカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体に由来の構造単位を含む共重合体Bからなる樹脂Bとを含有し、樹脂Aの連続相中に樹脂Bによる相が分散された状態とされており、
水系媒体中において、少なくともメタクリル酸エステル系単量体およびカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体を用いて重合反応を行うことにより、共重合体Bからなる樹脂Bの微粒子を造粒し、
前記メタクリル酸エステル系単量体およびカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体の合計使用量が、前記共重合体Bを形成するための全重合性単量体のうちの70〜95質量%であり、
水系媒体中において、当該樹脂Bの微粒子の存在下において、少なくともスチレン系単量体および(メタ)アクリル酸系単量体を用いて重合反応を行うことにより、前記共重合体Bからなる樹脂Bの微粒子の表面が当該樹脂Bを構成する共重合体Bと非相溶である共重合体Aからなる樹脂Aによって被覆されてなる複合微粒子を造粒し、
水系媒体中において、前記複合微粒子と、体積基準のメジアン径が10〜300nmである着色剤の微粒子を凝集させることにより、トナー粒子を形成する工程を経ることを特徴とする。
【0018】
本発明の静電荷像現像用黒トナーの製造方法においては、前記樹脂Aを構成する共重合体Aを形成するための重合性単量体としてスチレン、n−ブチルアクリレートおよびメタクリル酸を用い、当該樹脂Aを構成する共重合体Aはガラス転移点が30〜50℃、重量平均分子量(Mw)が10,000〜30,000であり、
前記樹脂Bを構成する共重合体Bを形成するための重合性単量体として少なくともメタクリル酸メチルおよびイタコン酸を用い、当該樹脂Bを構成する共重合体Bはガラス転移点が60〜85℃、重量平均分子量(Mw)が100,000〜400,000であり、
前記樹脂Bの微粒子の分散径が10〜70nmであることが好ましい。
【0019】
また、本発明の静電荷像現像用黒トナーの製造方法においては、前記結着樹脂中における樹脂Aおよび樹脂Bの含有質量比が、樹脂A:樹脂Bで99:1〜85:15であることが好ましい。
【0020】
また、本発明の静電荷像現像用黒トナーの製造方法においては、前記樹脂Bを構成する共重合体Bを形成するためのメタクリル酸エステル系単量体の使用量が、当該共重合体Bを形成するための全重合性単量体のうちの63.0〜93.0質量%であることが好ましい。
【0021】
また、本発明の静電荷像現像用黒トナーの製造方法においては、前記カルボキシル基を有するラジカル重合性単量体が、複数のカルボキシル基を有するものであることが好ましい。
【0022】
さらに、本発明の静電荷像現像用黒トナーの製造方法においては、前記カーボンブラックが、前記結着樹脂に対して1〜30質量%含有されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の静電荷像現像用黒トナーによれば、基本的に、結着樹脂として、低温定着性および高光沢性が得られる特定の樹脂Aと、耐ホットオフセット性が得られる特定の樹脂Bとを、互いに相分離した状態で含有することによって、互いに低温定着性および高光沢性、または耐ホットオフセット性が阻害されずにこれらを両立して有しており、さらに、カーボンブラックが高い分散性で分散されることによって十分な画像濃度が得られる。
【0024】
カーボンブラックが高い分散性で分散される理由は、樹脂Bを構成する共重合体Bを形成するメタクリル酸エステルに由来の構造単位とカーボンブラックとの親和性が、メタクリル酸エステル単量体に由来の構造単位とカーボンブラック表面官能基の水素結合によって高く、そして、特定の樹脂Aおよび樹脂Bを相分離の状態に含有することによって、樹脂Bによる相の表面積が大きなものとなり、従って、カーボンブラックの分散性が高くなると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0026】
〔黒トナー〕
本発明の黒トナーは、結着樹脂にカーボンブラックが分散されてなるトナー粒子よりなるものであって、結着樹脂が、少なくともスチレン系単量体に由来の構造単位および(メタ)アクリル酸系単量体に由来の構造単位を含む共重合体Aからなる樹脂Aと、少なくともメタクリル酸エステル系単量体に由来の構造単位およびカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体に由来の構造単位を含む共重合体Bからなる樹脂Bとを含有し、樹脂Aの連続相中に樹脂Bによる相が分散された状態とされており、樹脂Bを構成する共重合体Bにおけるメタクリル酸エステル系単量体に由来の構造単位の共重合比率の値およびカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体に由来の構造単位の共重合比率の値の合計が、70〜95質量%であり、トナー粒子中のカーボンブラックの分散径が10〜300nmであることを特徴とするものである。
【0027】
〔樹脂A〕
本発明の黒トナーに係る結着樹脂を構成する樹脂Aは、少なくともスチレン系単量体に由来の構造単位および(メタ)アクリル酸系単量体に由来の構造単位を含む共重合体Aからなるいわゆるスチレン−アクリル系樹脂である。
【0028】
この樹脂Aを構成する共重合体Aを形成するためのスチレン系単量体としては、具体的には、下記(1)に示すスチレンあるいはスチレン誘導体が挙げられる。
(1)スチレンあるいはスチレン誘導体:スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−フェニルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレンなど。
スチレン系単量体としては、スチレンを用いることが好ましい。
これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
この樹脂Aを構成する共重合体Aにおけるスチレン系単量体に由来の構造単位の共重合比率は、45.0〜80.0質量%であることが好ましい。
【0029】
また、この樹脂Aを構成する共重合体Aを形成するための(メタ)アクリル酸系単量体としては、具体的には、メタクリル酸および下記(2)に示すメタクリル酸エステル誘導体、並びに、アクリル酸および下記(3)に示すアクリル酸エステル誘導体が挙げられる。
(2)メタクリル酸エステル誘導体:メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸エチル(EMA)、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルなど。
(3)アクリル酸エステル誘導体:アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニルなど。
(メタ)アクリル酸系単量体としては、アクリル酸n−ブチルを用いることが好ましい。
これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
この樹脂Aを構成する共重合体Aにおける(メタ)アクリル酸系単量体に由来の構造単位の共重合比率は、20.0〜55.0質量%であることが好ましい。
【0030】
樹脂Aを構成する共重合体Aとしては、スチレン系単量体としてスチレンを用いると共に(メタ)アクリル酸系単量体としてアクリル酸n−ブチルおよびメタクリル酸を用いたものであることが好ましい。
【0031】
さらに、樹脂Aを構成する共重合体Aは、スチレン系単量体および(メタ)アクリル酸系単量体の他に、
(1)オレフィン類:エチレン、プロピレン、イソブチレンなど
(2)ビニルエステル類:プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニルなど
(3)ビニルエーテル類:ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルなど
(4)ビニルケトン類:ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトンなど
(5)N−ビニル化合物:N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドンなど
(6)ビニル化合物類:ビニルナフタレン、ビニルピリジンなど
(7)アクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体:アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドなど
のその他の共重合用ラジカル重合性単量体を用いて共重合したものであってもよい。
その他の共重合用ラジカル重合性単量体としては、さらに、カルボキシル基以外のイオン性解離基、例えばスルホン酸基、リン酸基などの置換基を有するラジカル重合性単量が挙げられる。カルボキシル基以外のイオン性解離基とは、例えばスルホン酸基、リン酸基などである。
カルボキシル基以外のイオン性解離基を有するラジカル重合性単量体としては、例えば、スチレンスルホン酸、アリルスルホコハク酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アシドホスホオキシエチルメタクリレート、3−クロロ−2−アシドホスホオキシプロピルメタクリレートなどが挙げられる。
またさらに、その他の共重合用ラジカル重合性単量体として多官能性ビニル類を使用して樹脂Aを架橋構造を有するものとすることもできる。多官能性ビニル類としては、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレートなどが挙げられる。
この樹脂Aを構成する共重合体Aにおけるその他の共重合用ラジカル重合性単量体に由来の構造単位の共重合比率は、5質量%以下であることが好ましい。
【0032】
樹脂Aを構成する共重合体Aは、ガラス転移点が30〜50℃であることが好ましく、より好ましくは35.0〜45.0℃である。また、重量平均分子量(Mw)が10,000〜30,000であることが好ましく、より好ましくは20,000〜30,000である。
樹脂Aを構成する共重合体Aのガラス転移点が上記の範囲にあることにより樹脂Bによる相との相分離の状態が確実に得られて低温定着性、高光沢性と耐ホットオフセット性を両立して得られる。一方、ガラス転移点が30℃未満である場合は耐ホットオフセット性を十分に得られないおそれがあり、また、ガラス転移点が50℃を超える場合は低温定着性および高光沢性を十分に得られないおそれがある。
また、重量平均分子量(Mw)が上記の範囲にあることにより、上記の範囲のガラス転移点が得られて樹脂Bによる相との相分離の状態が確実に得られて低温定着性、高光沢性と耐ホットオフセット性を両立して得られる。一方、重量平均分子量(Mw)が過小である場合は耐ホットオフセット性を十分に得られないおそれがあり、また、重量平均分子量(Mw)が過大である場合は低温定着性および高光沢性を十分に得られないおそれがある。
【0033】
樹脂Aを構成する共重合体Aのガラス転移点は、示差走査カロリメーター「DSC−7」(パーキンエルマー製)、および熱分析装置コントローラー「TAC7/DX」(パーキンエルマー製)を用いて測定されるものである。具体的には、測定試料(共重合体A)5.00mgをアルミニウム製パン「KITNO.0219−0041」に封入し、これを「DSC−7」のサンプルホルダーにセットし、リファレンスの測定には空のアルミニウム製パンを使用し、測定温度0〜200℃で、昇温速度10℃/分、降温速度10℃/分の測定条件で、Heat−cool−Heatの温度制御を行い、その2nd.Heatにおけるデータを取得し、第1の吸熱ピークの立ち上がり前のベースラインの延長線と、第1の吸熱ピークの立ち上がり部分からピーク頂点までの間で最大傾斜を示す接線との交点をガラス転移点として示す。なお、1st.Heat昇温時は200℃にて5分間保持した。
【0034】
また、樹脂Aを構成する共重合体Aの重合平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるものである。具体的には、装置「HLC−8220」(東ソー社製)およびカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZM−M3連」(東ソー社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2ml/minで流し、測定試料(共重合体A)を室温において超音波分散機を用いて5分間処理を行う溶解条件で濃度1mg/mlになるようにテトラヒドロフランに溶解させ、次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得、この試料溶液10μLを上記のキャリア溶媒と共に装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出し、測定試料の有する分子量分布を単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて算出される。検量線測定用のポリスチレンとしては10点用いた。
【0035】
〔樹脂B〕
本発明の黒トナーに係る結着樹脂を構成する樹脂Bは、少なくともメタクリル酸エステル系単量体に由来の構造単位およびカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体に由来の構造単位を含む共重合体Bからなるものである。
【0036】
この樹脂Bを構成する共重合体Bを形成するためのメタクリル酸エステル系単量体としては、具体的には、上記(2)に示すメタクリル酸エステル誘導体が挙げられる。
上記(2)に示すメタクリル酸エステル誘導体は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
この樹脂Bを構成する共重合体Bにおけるメタクリル酸エステル系単量体に由来の構造単位の共重合比率は、63.0〜93.0質量%であることが好ましい。
【0037】
また、この樹脂Bを構成する共重合体Bを形成するためのカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体としては、具体的には、下記(4)に示すものが挙げられる。
(4)カルボキシル基を有するラジカル重合性単量体:メタクリル酸、アクリル酸などの1つのカルボキシル基を有するもの;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、2−ペンテニン二酸、アリルマロン酸、イソプロピリデンコハク酸、2,4−ヘキサジエン二酸、アセチレンジカルボン酸、アコニット酸などの複数のカルボキシル基を有するもの。
カルボキシル基を有するラジカル重合性単量体としては、複数のカルボキシル基を有するものを用いることが好ましく、その中でもイタコン酸、マレイン酸またはフマル酸を用いることがより好ましく、特にイタコン酸を用いることが好ましい。
これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
樹脂Bを構成する共重合体Bとしては、メタクリル酸エステル系単量体としてメタクリル酸メチルを用いると共にカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体としてイタコン酸を用いたもの、メタクリル酸エステル系単量体としてメタクリル酸エチルを用いると共にカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体としてマレイン酸を用いたもの、メタクリル酸エステル系単量体としてメタクリル酸エチルを用いると共にカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体としてイタコン酸を用いたものであるのいずれかであることが好ましい。
【0039】
この樹脂Bを構成する共重合体Bにおけるメタクリル酸エステル系単量体に由来の構造単位の共重合比率の値およびカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体に由来の構造単位の共重合比率の値の合計は、70〜95質量%である。
この共重合比率の値の合計が上記の範囲であることにより、カーボンブラックがトナー粒子中において高い分散性で分散されて十分な画像濃度が得られ、かつ、高光沢性および耐ホットオフセット性を十分に得られる。一方、これが70質量%未満である場合は、カーボンブラックがトナー粒子中において十分に分散されずに偏在することによって、十分な画像濃度が得られず、また、相分離の状態が不十分のために高光沢性と耐ホットオフセット性のいずれも十分に得ることができない。また、これが95質量%を超える場合は、カーボンブラックが過度に微分散されるために隠ぺい力が低下し、十分な画像濃度が得られず、また、低温定着性および高光沢性を十分に得られない。
【0040】
さらに、樹脂Bを構成する共重合体Bは、メタクリル酸エステル系単量体およびカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体の他に、下記(5−1)〜下記(5−7)に示すラジカル重合性単量体や、下記(6)に示す、スルホン酸基、リン酸基などのカルボキシル基以外のイオン性解離基を有するラジカル重合性単量体を用いて共重合したものであってもよく、さらに、下記(7)に示す多官能性ビニル系単量体を用いて共重合した架橋構造を有するものであってもよい。
【0041】
(5−1)オレフィン類:エチレン、プロピレン、イソブチレンなど。
(5−2)ビニルエステル類:プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニルなど。
(5−3)ビニルエーテル類:ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルなど。
(5−4)ビニルケトン類:ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトンなど。
(5−5)N−ビニル化合物:N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドンなど。
(5−6)ビニル化合物類:ビニルナフタレン、ビニルピリジンなど。
(5−7)アクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体:アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドなど。
【0042】
(6)カルボキシル基以外のイオン性解離基を有するラジカル重合性単量体:マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル、スチレンスルホン酸、アリルスルホコハク酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アシドホスホオキシエチルメタクリレート、3−クロロ−2−アシドホスホオキシプロピルメタクリレートなど。
【0043】
(7)多官能性ビニル系単量体;ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレートなど。
【0044】
樹脂Bを構成する共重合体Bは、ガラス転移点が60〜85℃であることが好ましく、より好ましくは65.0〜80.0℃である。また、重量平均分子量(Mw)が100,000〜400,000であることが好ましく、より好ましくは150,000〜350,000である。
樹脂Bを構成する共重合体Bのガラス転移点が上記の範囲にあることにより、樹脂Aによる相との相分離の状態が確実に得られて低温定着性、高光沢性と耐ホットオフセット性を両立して得られる。一方、ガラス転移点が60℃未満である場合は、樹脂Aによる相との相分離の状態が十分に得られず一部において相溶してしまい、その結果、低温定着性、高光沢性および/または耐ホットオフセット性を十分に得られないおそれがあり、また、ガラス転移点が85℃を超える場合は、低温定着性および高光沢性を十分に得られないおそれがある。
また、重量平均分子量(Mw)が上記の範囲にあることにより、上記の範囲のガラス転移点が得られて樹脂Aによる相との相分離の状態が確実に得られて低温定着性、高光沢性と耐ホットオフセット性を両立して得られる。一方、重量平均分子量(Mw)が過小である場合は、樹脂Aによる相との相分離の状態が十分に得られず一部において相溶してしまい、その結果、低温定着性、高光沢性および/または耐ホットオフセット性を十分に得られないおそれがあり、また、重量平均分子量(Mw)が過大である場合は、低温定着性および高光沢性を十分に得られないおそれがある。
【0045】
樹脂Bを構成する共重合体Bのガラス転移点は、測定試料として共重合体Bを用いて上述のように測定されるものである。
また、樹脂Bを構成する重合平均分子量(Mw)は、測定試料として共重合体Bを用いて上述のように測定されるものである。
【0046】
結着樹脂中における樹脂Aおよび樹脂Bの含有質量比は、樹脂A:樹脂Bで99:1〜85:15であることが好ましい。
樹脂Aの含有質量が過多である場合は、十分な耐ホットオフセット性が得られないおそれあり、樹脂Aの含有質量が過少である場合は、十分な低温定着性および高光沢性が得られないおそれがある。
【0047】
本発明に係るトナー粒子においては、樹脂A中に樹脂Bによる微粒子が分散された状態とされており、当該樹脂Bによる微粒子の分散径は10〜70nmであることが好ましい。樹脂Bによる微粒子の分散径がこの範囲であることにより、十分な画像濃度が得られる。一方、樹脂Bによる微粒子の分散径が10nm未満である場合は、隠ぺい力が低下して十分な画像濃度が得られないおそれがある。また、樹脂Bによる微粒子の分散径が70nmを超える場合は、カーボンブラックがトナー粒子中において十分に分散されずに偏在することによって十分な画像濃度が得られないおそれがある。
【0048】
〔カーボンブラック〕
本発明の黒トナーに含有されるカーボンブラックは、着色剤であって、このカーボンブラックとしては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラックなどが挙げられる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
本発明の黒トナーには、カーボンブラックと共にマグネタイト、フェライトなどの磁性粉が着色剤として含まれていてもよい。
【0049】
カーボンブラックは、トナー粒子中における分散径が10〜300nmとされる。
トナー粒子中における分散径が上記の範囲であることにより、偏在することなしに十分な量のカーボンブラックをトナー粒子中に存在させることができるために、十分な画像濃度が得られる。トナー粒子中における分散径が10nm未満である場合は、隠ぺい力が低下して十分な画像濃度が得られない。また、トナー粒子中における分散径が300nmを超える場合は、カーボンブラックがトナー粒子中において十分に分散されずに偏在することによって十分な画像濃度が得られないおそれがある。
【0050】
トナー粒子中のカーボンブラックの分散径は、当該黒トナーを光硬化性樹脂に包埋後、ウルトラミクロトーム「EM UC6」(LEICA社製)により加速電圧200kVで設定厚100nmの超薄切片を作製し、当該超薄切片について透過型電子顕微鏡(TEM)「2000FX」(日本電子社製)によって倍率が10,000倍の断面写真を撮影し、当該断面写真におけるトナー粒子100個について、当該トナー粒子中に観察されるカーボンブラック粒子をランダムに1次粒子として測定し、画像解析により水平方向のフェレ径を算出し、その平均値として得られる。
【0051】
カーボンブラックの含有割合は、結着樹脂に対して1〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは2〜20質量%である。カーボンブラックの含有量が結着樹脂に対して1質量%未満である場合は、得られる黒トナーが着色力の不足したものとなるおそれがあり、一方、カーボンブラックの含有量が結着樹脂に対して30質量%を超える場合は、カーボンブラックの遊離やキャリアなどへの付着が発生し、帯電性に影響を与える場合がある。
【0052】
〔黒トナーの平均粒径〕
この黒トナーの平均粒径は、例えば体積基準のメジアン径で3〜9μmであることが好ましく、更に好ましくは3〜8μmとされる。この粒径は、例えば後述する乳化会合法を採用して製造する場合には、使用する凝集剤の濃度や有機溶媒の添加量、融着時間、重合体の組成によって制御することができる。
体積基準のメジアン径が上記の範囲にあることにより、転写効率が高くなってハーフトーンの画質が向上し、細線やドットなどの画質が向上する。
【0053】
トナー粒子の体積基準のメジアン径は「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用ソフト「Software V3.51」を搭載したコンピューターシステムを接続した測定装置を用いて測定・算出されるものである。具体的には、黒トナー0.02gを、界面活性剤溶液20mL(トナー粒子の分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加して馴染ませた後、超音波分散を1分間行い、黒トナー分散液を調製し、この黒トナー分散液を、サンプルスタンド内の「ISOTONII」(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。ここで、この濃度範囲にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャ径を50μmにし、測定範囲である1〜30μmの範囲を256分割しての頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒子径が体積基準のメジアン径とされる。
【0054】
〔トナー粒子の平均円形度〕
本発明の黒トナーは、この黒トナーを構成する個々のトナー粒子について、転写効率の向上の観点から、下記式(T)で示される平均円形度が0.930〜1.000であることが好ましく、より好ましくは0.950〜0.995である。
式(T):平均円形度=円相当径から求めた円の周囲長/粒子投影像の周囲長
【0055】
以上のような黒トナーは、ガラス転移点が30〜50℃であることが好ましく、より好ましくは35〜45℃である。
さらに、軟化点は80〜110℃であることが好ましく、より好ましくは90〜105℃である。
【0056】
黒トナーのガラス転移点(Tg)は、測定試料を黒トナーとして上記と同様の方法によって測定されるものである。
また、黒トナーの軟化点は、以下のように測定されるものである。
まず、温度20±1℃、相対湿度50±5%RHの環境下において、黒トナー1.1gをシャーレに入れ平らにならし、12時間以上放置した後、成型器「SSP−10A」(島津製作所製)によって3820kg/cm2 の力で30秒間加圧し、直径1cmの円柱型の成型サンプルを作成し、次いで、この成型サンプルを、温度24±5℃、相対温度50±20%RHの環境下において、フローテスター「CFT−500D」(島津製作所製)により、荷重196N(20kgf)、開始温度60℃、予熱時間300秒間、昇温速度6℃/分の条件で、円柱型ダイの穴(1mm径×1mm)より、直径1cmのピストンを用いて予熱終了時から押し出し、昇温法の溶融温度測定方法でオフセット値5mmの設定で測定したオフセット法温度Toffsetが、黒トナーの軟化点とされる。
【0057】
このような黒トナーによれば、基本的に、結着樹脂として、低温定着性および高光沢性が得られる特定の樹脂Aと、耐ホットオフセット性が得られる特定の樹脂Bとを、互いに相分離した状態で含有することによって、互いに低温定着性および高光沢性、または耐ホットオフセット性が阻害されずにこれらを両立して有しており、さらに、カーボンブラックが高い分散性で分散されることによって十分な画像濃度が得られる。
【0058】
カーボンブラックが高い分散性で分散される理由は、樹脂Bを構成する共重合体Bを形成するメタクリル酸エステルに由来の構造単位とカーボンブラックとの親和性が、メタクリル酸エステル単量体に由来の構造単位とカーボンブラック表面官能基の水素結合によって高く、そして、特定の樹脂Aおよび樹脂Bを相分離の状態に含有することによって、樹脂Bによる相の表面積が大きなものとなり、従って、カーボンブラックの分散性が高くなると考えられる。
【0059】
〔黒トナーの製造方法〕
本発明の黒トナーは、公知の種々の方法によって製造することができる。本発明の黒トナーを製造する方法の代表的なものとしては、例えば、界面活性剤を含有する水系媒体中で形成した樹脂微粒子を、水系媒体中で凝集、融着してトナー粒子を作製する乳化会合法と呼ばれる方法が挙げられる。この乳化会合法によって作製された黒トナーは、確実に粒径や形状の揃ったものとなるために、高い細線再現性や微細なドット画像形成の機会の多いデジタル方式の画像形成に使用する黒トナーとして、特に好適に用いることができる。
【0060】
本発明の黒トナーを乳化会合法によって製造する場合の一例を具体的に示すと、
(1)水系媒体中において、結着樹脂を形成するための樹脂Aおよび樹脂Bによる樹脂微粒子を重合により形成して当該樹脂微粒子が分散されてなる分散液を調製する重合工程、
(2)水系媒体中に、カーボンブラックを含む着色剤による着色剤微粒子が分散されてなる分散液を調製する着色剤微粒子分散液調製工程、
(3)水系媒体中で樹脂Aおよび/または樹脂Bによる樹脂微粒子および着色剤微粒子を凝集、融着させて会合粒子を形成する凝集、融着工程、
(4)会合粒子を熱エネルギーにより熟成して形状を調整する熟成工程、
(5)会合粒子の分散系(水系媒体)から会合粒子を濾別し、当該会合粒子から界面活性剤などを除去する洗浄工程、
(6)洗浄処理された会合粒子を乾燥してトナー粒子母体を得る乾燥工程、
から構成され、必要に応じて、
(7)乾燥処理されたトナー粒子母体に外添剤を添加する外添剤添加工程、
を加えることができる。
【0061】
また、本発明の黒トナーをコア−シェル構造を有するものとする場合は、上記(4)熟成工程と(5)洗浄工程の間に、
(4−1)熟成工程を経た会合粒子をコア粒子として、このコア粒子の分散液中に、シェル層を形成するための樹脂によるシェル樹脂微粒子を添加してコア粒子の表面にシェル樹脂微粒子を凝集、融着させてコア−シェル構造を有するコア−シェル型会合粒子を形成するシェル化工程、
(4−2)コア−シェル型会合粒子を熱エネルギーにより熟成して、当該コア−シェル型会合粒子の形状を調整する第2の熟成工程、
の2つの工程を加えることの他は同様の手順で作製することができる。
【0062】
(1)重合工程
この重合工程においては、樹脂Aおよび樹脂Bに係る樹脂微粒子が形成されて、これが凝集、融着工程に供される。具体的には、樹脂Aによる樹脂微粒子と、樹脂Bによる樹脂微粒子が別個に作製されてこれらが同時に凝集、融着工程に供されてもよく、また、樹脂Aによる相中に樹脂Bによる相が相分離した状態に内包された状態の複合樹脂微粒子が作製されてこれが凝集、融着工程に供されてもよい。
以下、樹脂Aによる相中に樹脂Bによる相が内包された状態の複合樹脂微粒子が作製される場合について説明する。
【0063】
樹脂Aおよび樹脂Bを含有する複合樹脂微粒子は、具体的には、まず、常法に従って樹脂Bによる樹脂微粒子を作製し、次いで、当該樹脂Bによる樹脂微粒子の分散液に、樹脂Aを構成する共重合体Aを形成すべき単量体による単量体溶液Aを添加して、樹脂Bによる樹脂微粒子の存在下において、この系を重合処理することにより、作製することができる。
【0064】
樹脂Bによる樹脂微粒子は、反応系に重合開始剤を投入した後、これを形成すべきメタクリル酸エステル系単量体およびカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体を少なくとも含有する単量体溶液Bを当該反応系に添加し、単量体を重合させることにより、作製することができる。具体的には、界面活性剤を含有させた水系媒体中に水溶性のラジカル重合開始剤を添加した後、単量体溶液Bを添加し、重合反応を進行させることにより、樹脂Bによる樹脂微粒子が作製される。
【0065】
樹脂Aおよび樹脂Bを含有する複合樹脂微粒子は、臨界ミセル濃度(CMC)以下の界面活性剤を含有した水系媒体中に、ワックスを溶解あるいは分散させた単量体溶液Aを添加し、機械的エネルギーを加えて液滴を形成させ、次いで、樹脂Bによる樹脂微粒子、水溶性のラジカル重合開始剤を添加し、樹脂Bによる樹脂微粒子の表面上に存在する液滴中において重合反応を進行させる。なお、前記液滴中に油溶性の重合開始剤が含有されていてもよい。このような重合工程においては、機械的エネルギーを付与して強制的に乳化(液滴の形成)処理が必須となる。かかる機械的エネルギーの付与手段としては、ホモミキサー、超音波、マントンゴーリンなどの強い撹拌または超音波振動エネルギーの付与手段を挙げることができる。
【0066】
単量体溶液Bに含有されるメタクリル酸エステル系単量体としては上記に挙げたものを挙げることができ、また、カルボキシル基を有するラジカル重合性単量体としても、上記に挙げたものを挙げることができる。
樹脂Bに係る単量体溶液において、メタクリル酸エステル系単量体およびカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体のそれぞれの共重合比率は、所望のメタクリル酸エステル系単量体に由来の構造単位およびカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体に由来の構造単位の質量比率に従った比率とされればよい。
【0067】
また、樹脂Aに係る単量体溶液Aは、スチレン系単量体および(メタ)アクリル酸系単量体を少なくとも含有するものであり、スチレン系単量体としては上記に挙げたものを挙げることができ、また、(メタ)アクリル酸系単量体も、上記に挙げたものを挙げることができる。
また、これらの共重合比率は、所望のスチレン系単量体に由来の構造単位および(メタ)アクリル酸系単量体に由来の構造単位の質量比率に従った比率とされればよい。
【0068】
さらに、樹脂Aに係る単量体溶液Aにおける単量体と、樹脂Bに係る単量体溶液Bにおける単量体の質量比は、所望の樹脂Aおよび樹脂Bの質量比率となる比率とされればよい。
【0069】
本発明において、「水系媒体」とは、水50〜100質量%と、水溶性の有機溶媒0〜50質量%とからなる媒体をいう。水溶性の有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランを例示することができ、得られる樹脂を溶解しないアルコール系有機溶媒が好ましい。
【0070】
〔分散安定剤〕
水系媒体中において液滴を安定化した状態において重合することや、水系媒体中に分散された樹脂微粒子などを安定的に凝集、融着させる観点から、水系媒体中には分散安定剤が添加されていることが好ましい。
分散安定剤としては、例えば、リン酸三カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、メタケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、ベントナイト、シリカ、アルミナなどのものがある。また、ポリビニルアルコール、ゼラチン、メチルセルロース、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、エチレンオキサイド付加物、高級アルコール硫酸ナトリウムなどの、一般に界面活性剤として使用することができるものを分散安定剤として使用することができる。
【0071】
また、以下の界面活性剤を使用することもできる。
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アリールアルキルポリエーテルスルホン酸ナトリウム、3,3−ジスルホンジフェニル尿素−4,4−ジアゾ−ビス−アミノ−8−ナフトール−6−スルホン酸ナトリウム、オルト−カルボキシベンゼン−アゾ−ジメチルアニリン、2,2,5,5−テトラメチル−トリフェニルメタン−4,4−ジアゾ−ビス−β−ナフトール−6−スルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸塩;ドデシル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ペンタデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウムなどの硫酸エステル塩;オレイン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウム、カプロン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸カルシウムなどの脂肪酸塩などのイオン性界面活性剤や、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドとポリエチレンオキサイドの組み合わせ、ポリエチレングリコールと高級脂肪酸とのエステル、アルキルフェノールポリエチレンオキサイド、高級脂肪酸とポリエチレングリコールのエステル、高級脂肪酸とポリプロピレンオキサイドのエステル、ソルビタンエステルなどのノニオン性界面活性剤が挙げられる。
以上の分散安定剤および/または界面活性剤は、所望に応じて、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0072】
〔重合開始剤〕
重合工程において使用される重合開始剤としては、公知の種々の油溶性あるいは水溶性の重合開始剤を使用することができる。油溶性の重合開始剤の具体例としては、例えば、以下に示すアゾ系またはジアゾ系重合開始剤および過酸化物系重合開始剤が挙げられる。
(1)アゾ系またはジアゾ系重合開始剤:2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,17−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリルなど。
(2)過酸化物系重合開始剤:ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンペルオキサイド、ジイソプロピルペルオキシカーボネート、クメンヒドロペルオキサイド、t−ブチルヒドロペルオキサイド、ジ−t−ブチルペルオキサイド、ジクミルペルオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキサイド、ラウロイルペルオキサイド、2,2−ビスー(4,4−t−ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、トリス−(t−ブチルペルオキシ)トリアジンなど。
また、乳化会合法で樹脂微粒子を形成する場合においては、水溶性の重合開始剤を使用することができる。水溶性の重合開始剤の具体例としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、アゾビスアミノジプロパン酢酸塩、アゾビスシアノ吉草酸およびその塩、過酸化水素などが挙げられる。
【0073】
〔連鎖移動剤〕
重合工程においては、樹脂Aおよび/または樹脂Bの分子量を調整することを目的として、一般的に用いられる連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては特に限定されるものではなく、例えばオクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、n−オクチル−3−メルカプトプロピオン酸エステル、ターピノーレン、四臭化炭素、α−メチルスチレンダイマーなどを挙げることができる。
【0074】
樹脂Bによる樹脂微粒子の水系媒体中における分散径は、体積基準のメジアン径で10〜70nmとされることが好ましく、より好ましくは30〜70nmである。樹脂Bによる樹脂微粒子の水系媒体中における分散径がこの範囲であることにより、十分な画像濃度が得られる。一方、樹脂Bによる樹脂微粒子の水系媒体中における分散径が10nm未満である場合は、隠ぺい力が低下して十分な画像濃度が得られないおそれがある。また、樹脂Bによる樹脂微粒子の水系媒体中における分散径が70nmを超える場合は、カーボンブラックがトナー粒子中において十分に分散されずに偏在することによって十分な画像濃度が得られないおそれがある。
【0075】
樹脂Bによる樹脂微粒子の水系媒体中における体積基準のメジアン径は、「マイクロトラックUPA−150」(日機装社製)を用いて測定されるものである。
具体的には、まず、50mlのメスシリンダーに測定用の樹脂微粒子を数滴滴下し、これに純水25mlを添加し、超音波洗浄機「US−1」(as one社製)を用いて、3分間分散処理することにより測定用試料を作製する。次に、測定用試料3mLを「マイクロトラックUPA−150」(日機装社製)のセル内に投入し、Sample・Loadingの値が0.1〜100の範囲内にあることを確認した後、下記測定条件および溶媒条件に従って測定を行う。
−測定条件−
・Transparency(透明度):Yes
・Refractive Index(屈折率):1.59
・Particle Density(粒子密度):1.05g/cm3
・Spherical Particles(球形粒子):Yes
−溶媒条件−
・Refractive Index(屈折率):1.33
・Viscosity(粘度):
High(temp) 0.797×10-3Pa・s
Low(temp) 1.002×10-3Pa・s
【0076】
本発明のトナー粒子中には、結着樹脂およびカーボンブラックの他に、必要に応じてワックスや荷電制御剤などの内添剤が含有されていてもよく、このような内添剤は、例えば、この重合工程において、予め、樹脂Aを構成する共重合体Aを形成するための単量体溶液Aまたは樹脂Bを構成する共重合体Bを形成するための単量体溶液Bに溶解または分散させておくことによってトナー粒子中に導入することができる。
また、このような内添剤は、別途内添剤のみよりなる内添剤微粒子の分散液を調製し、(3)凝集、融着工程において樹脂微粒子および着色剤微粒子と共に当該内添剤微粒子を凝集させることにより、トナー粒子中に導入することもできる。
【0077】
〔ワックス〕
ワックスとしては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどのポリオレフィンワックスや、パラフィンワックス、サゾールワックスなどの長鎖炭化水素系ワックス;トリメチロールプロパントリベヘネート、ペンタエリスリトールテトラミリステート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールジアセテートジベヘネート、グリセリントリベヘネート、1,18−オクタデカンジオールジステアレート、トリメリット酸トリステアリル、ジステアリルマレエートなどのエステル系ワックス;エチレンジアミンジベヘニルアミド、トリメリット酸トリステアリルアミドなどのアミド系ワックス;ジステアリルケトンなどのジアルキルケトン系ワックス;カルナウバワックス、モンタンワックスなどを挙げることができる。
ワックスとしては、その融点が通常40〜160℃、好ましくは50〜120℃、より好ましくは60〜90℃であるものを用いることが好ましい。上記の範囲の融点を有するワックスを用いることにより、得られる黒トナーに耐熱保存性が確保されると共に、低温定着を行う場合にも安定した画像形成を行うことができる。
ワックスの含有割合は、結着樹脂に対して1〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜20質量%である。
【0078】
〔荷電制御剤〕
荷電制御剤としては、公知の種々の化合物を用いることができる。
荷電制御剤の含有割合は、結着樹脂に対して通常0.1〜10質量%とされ、好ましくは0.5〜5質量%とされる。
【0079】
(2)着色剤微粒子分散液調製工程
着色剤微粒子分散液は、カーボンブラックを含む着色剤を水系媒体中に分散することにより調製することができる。着色剤の分散処理は、水系媒体中において界面活性剤濃度を臨界ミセル濃度(CMC)以上にした状態で行われる。着色剤の分散処理に使用する分散機としては特に限定されないが、好ましくは超音波分散機、機械的ホモジナイザ、マントンゴーリンや圧力式ホモジナイザなどの加圧分散機、サンドグラインダ、ゲッツマンミルやダイヤモンドファインミルなどの媒体型分散機が挙げられる。
使用される界面活性剤としては、上述の界面活性剤と同様のものを挙げることができる。
【0080】
着色剤として用いられるカーボンブラックは、その表面をカップリング剤などの表面改質剤で処理して用いてもよい。具体的には、溶媒中にカーボンブラックを分散させ、その分散液中に表面改質剤を添加し、この系を昇温することにより反応させ、反応終了後、カーボンブラックを濾別し、同一の溶媒で洗浄濾過を繰り返した後、乾燥することにより、表面改質剤で処理されたカーボンブラックを得、これを用いる。
【0081】
この着色剤微粒子分散液調製工程において調製される着色剤微粒子分散液中の着色剤微粒子の分散径は、体積基準のメジアン径で10〜300nmとされ、10〜200nmとされることがより好ましい。このような分散径の着色剤微粒子を調製することにより、得られる黒トナーにおけるカーボンブラックの分散径を適当なものにすることができる。
この着色剤微粒子分散液中の着色剤微粒子の体積基準のメジアン径は、電気泳動光散乱光度計「ELS−800(大塚電子社製)」で測定されるものである。
【0082】
(3)凝集・融着工程
この凝集・融着工程において、樹脂微粒子および着色剤微粒子を凝集、融着する具体的な方法としては、塩析/融着法を用いることが好ましい。また、当該凝集・融着工程においては、必要に応じて、樹脂微粒子および着色剤微粒子と共に、ワックス微粒子や荷電制御剤などの内添剤の微粒子を凝集、融着させることもできる。
ここで、「塩析/融着法」とは、水系媒体中に塩析剤を臨界凝集濃度以上の凝集剤として添加し、次いで、樹脂Aに係る樹脂微粒子のガラス転移点以上であって、かつ、これら混合物の融解ピーク温度(℃)以上の温度に加熱することによって、樹脂微粒子および着色剤微粒子などの微粒子の塩析を進行させると同時に融着を並行して進め、所望の粒子径まで成長したところで、凝集停止剤を添加して粒子成長を停止させ、さらに、必要に応じて粒子形状を制御するために加熱を継続して行う方法である。
【0083】
〔塩析剤〕
この凝集、融着工程において使用する塩析剤としては、例えばアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩を挙げることができる。凝集剤を構成するアルカリ金属としては、リチウム、カリウム、ナトリウムなどが挙げられ、アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどが挙げられる。これらのうち、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウムが好ましい。アルカリ金属またはアルカリ土類金属の対イオン(塩を構成する陰イオン)としては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、炭酸イオン、硫酸イオンなどが挙げられる。
【0084】
塩析/融着法を用いる場合においては、塩析剤を添加した後に放置する時間をできるだけ短くして速やかに樹脂Aに係る樹脂微粒子のガラス転移点以上であって、かつ、これら混合物の融解ピーク温度(℃)以上の温度に加熱することが好ましい。この理由は、塩析した後の放置時間によっては粒子の凝集状態が変動して粒径分布が不安定になったり、融着させた粒子の表面性が変動したりする問題が発生することが懸念されるためである。この昇温までの時間としては1時間未満であることが好ましく、また、昇温速度としては0.25℃/分以上であることが好ましい。昇温速度の上限は特に規定されるものではないが、急速に昇温させると塩析が急激に進行するため、粒径を制御しにくくなるという問題が発生するおそれがある。
また、塩析剤の添加温度は少なくとも樹脂Aに係る樹脂微粒子のガラス転移点以下にすることが好ましい。この理由は、塩析剤の添加温度が樹脂Aに係る樹脂微粒子のガラス転移点以上であると、樹脂微粒子の塩析/融着は速やかに進行するものの、粒径の制御を行うことが困難になり、大粒径の粒子を発生させるなどの問題の発生が懸念されるためである。塩析剤の添加温度の好ましい範囲としては、樹脂Aに係る樹脂微粒子のガラス転移点以下であればよいが、一般には5〜55℃、好ましくは10〜45℃とされる。
【0085】
(4)熟成工程
上記の凝集・融着工程における加熱温度の制御によりある程度黒トナーにおけるトナー粒子の形状の均一化を図ることができるが、さらなる形状の均一化を図るために、熟成工程を経る。
この熟成工程は、加熱温度と時間の制御を行うことにより、粒径が一定で分布が狭く形成した会合粒子表面が平滑だが均一な形状を有するものとなるよう制御する。具体的には、凝集、融着工程において加熱温度を低めにして樹脂微粒子同士の融着の進行を抑制させて均―化を促進させ、この熟成工程においても加熱温度を低めに、かつ、時間を長くして会合粒子を所望の平均円形度となる、すなわち表面が均一な形状のものとなるよう制御する。
【0086】
(4−1)シェル化工程
コア−シェル構造のトナー粒子を作製する場合に行うシェル化工程は、シェル層に係る樹脂微粒子の凝集とシェル層の融着を同時に進行させる工程である。このシェル化工程においては、コア粒子となる会合粒子の分散液中にシェル層を形成するための樹脂によるシェル樹脂微粒子を添加してコア粒子の表面にシェル樹脂微粒子を凝集、融着させ、コア粒子の表面にシェル層を被覆させて会合粒子を形成する。
具体的には、コア粒子の分散液は凝集、融着工程および熟成工程における温度を維持した状態でシェル樹脂微粒子の分散液を添加し、加熱撹拌を継続しながら数時間かけてゆっくりとシェル樹脂微粒子をコア粒子の表面に凝集、融着させることによってコア粒子の表面に厚さ100〜300nmのシェル層を被覆させて会合粒子を形成する。加熱撹拌時間は、1〜7時間が好ましく、3〜5時間が特に好ましい。
【0087】
(4−2)第2の熟成工程
シェル化工程を実施した後、会合粒子が所定の粒径になった段階で塩化ナトリウムなどの停止剤を添加して粒子成長を停止させ、その後もコア粒子に付着させたシェル樹脂微粒子を融着させるために数時間加熱撹拌を継続することにより、丸みを帯び、しかも形状の揃った会合粒子を形成する。
コア−シェル構造の黒トナーを作製する場合において、この第2の熟成工程の時間を長めに設定する、あるいは、熟成温度を高めに設定するなどにより、形成される会合粒子の形状を真球方向に制御することができる。
【0088】
(5)洗浄工程
この洗浄工程においては、まず、会合粒子の分散液の冷却処理(急冷処理)を行う。この冷却処理は、例えば1〜20℃/分の冷却速度で行う。冷却処理の具体的な方法としては、特に限定されるものではなく、反応容器の外部より冷媒を導入して冷却する方法や、冷水を直接反応系に投入して冷却する方法などの公知の方法を例示することができる。
次に、冷却処理した会合粒子分散液を固液分離し、固液分離した会合粒子を洗浄する。すなわち、冷却処理を行って所定温度に冷却した会合粒子の分散液から当該会合粒子を固液分離する固液分離処理を行い、固液分離して形成された会合粒子のトナーケーキ(ウェット状態にある会合粒子をケーキ状に凝集させた集合物)より界面活性剤や塩析剤などの付着物を除去する。固液分離処理の代表的なものとしてはろ過処理が挙げられるが、ろ過処理の具体的な方法としては、例えば遠心分離法やヌッチェ等の使用による減圧ろ過法、フィルタプレスなどを使用するろ過法などを用いることができる。
【0089】
(6)乾燥工程
この乾燥工程においては、洗浄処理されたトナーケーキを解砕して乾燥処理を行い、乾燥処理された会合粒子、すなわち、トナー母体粒子を得る。この工程において使用することのできる乾燥機としては、例えば、スプレードライヤ、真空凍結乾燥機、減圧乾燥機などの公知の乾燥処理機や、静置棚乾燥機、移動式棚乾燥機、流動層乾燥機、回転式乾燥機、撹拌式乾燥機などが挙げられる。乾燥処理された会合粒子の含水量は5質量%以下とすることが好ましく2質量%以下がより好ましい。
なお、乾燥処理された会合粒子同士が弱い粒子間引力で凝集して凝集体を形成している場合は、当該凝集体を解砕処理することも可能である。解砕処理装置の具体例としては、ジェットミル、ヘンシェルミキサ、コーヒーミル、フードプロセッサなどの機械式解砕処理装置が挙げられる。
【0090】
(7)外添剤添加工程
この外添剤添加工程は、乾燥処理したトナー母体粒子に必要に応じて外添剤を添加、混合することにより、トナー粒子を調製する工程である。
乾燥工程までの工程を経て作製されたトナー母体粒子は、そのままトナー粒子として使用することが可能であるが、黒トナーとしての帯電性能や流動性、あるいはクリーニング性を向上させる観点から、その表面に公知の無機微粒子や有機微粒子などの粒子、滑材を外添剤として添加することが好ましい。
【0091】
無機微粒子としては、シリカ、チタニア、アルミナ、チタン酸ストロンチウムなどによる無機微粒子を好ましいものとして挙げられる。
必要に応じてこれらの無機微粒子は疎水化処理されていてもよい。
シリカ微粒子の具体的な市販品としては、例えば、日本アエロジル社製の「R−805」、「R−976」、「R−974」、「R−972」、「R−812」、「R−809」、ヘキスト社製の「HVK−2150」、「H−200」、キャボット社製の「TS−720」、「TS−530」、「TS−610」、「H−5」、「MS−5」などが挙げられる。
チタニア微粒子としては、例えば、日本アエロジル社製の「T−805」、「T−604」、テイカ社製の「MT−100S」、「MT−100B」、「MT−500BS」、「MT−600」、「MT−600SS」、「JA−1」、富士チタン社製の「TA−300SI」、「TA−500」、「TAF−130」、「TAF−510」、「TAF−510T」、出光興産社製の「IT−S」、「IT−OA」、「IT−OB」、「IT−OC」などが挙げられる。
アルミナ微粒子としては、例えば、日本アエロジル社製の「RFY−C」、「C−604」、石原産業社製の「TTO−55」などが挙げられる。
【0092】
有機微粒子としては、数平均一次粒子径が10〜2000nm程度の球形の有機微粒子を使用することができる。具体的には、スチレンやメチルメタクリレートなどの単独重合体やこれらの共重合体による有機微粒子ものを使用することができる。
【0093】
滑材は、クリーニング性や転写性をさらに向上させる目的で使用されるものであって、滑材としては、例えば、ステアリン酸の亜鉛、アルミニウム、銅、マグネシウム、カルシウムなどの塩、オレイン酸の亜鉛、マンガン、鉄、銅、マグネシウムなどの塩、パルミチン酸の亜鉛、銅、マグネシウム、カルシウムなどの塩、リノール酸の亜鉛、カルシウムなどの塩、リシノール酸の亜鉛、カルシウムなどの塩などの高級脂肪酸の金属塩が挙げられる。
【0094】
外添剤としては種々のものを組み合わせて使用してもよい。
これらの外添剤の添加量は、その合計の添加量が黒トナー中に好ましくは0.1〜10.0質量%とされる。
外添剤の添加方法としては、タービュラーミキサー、ヘンシェルミキサ、ナウターミキサー、V型混合機などの公知の種々の混合装置を使用して添加する方法が挙げられる。
【0095】
〔現像剤〕
本発明の黒トナーは、磁性または非磁性の一成分現像剤として使用することもできるが、キャリアと混合して二成分現像剤として使用してもよい。
黒トナーを二成分現像剤として使用する場合において、当該黒トナーのキャリアに対する混合量は、2〜10質量%であることが好ましい。
黒トナーとキャリアを混合する混合装置は、特に限定されるものではなく、ナウターミキサー、WコーンおよびV型混合機などが挙げられる。
【0096】
キャリアとしては、体積基準のメジアン径が10〜60μm、飽和磁化値が20〜80emu/gであるフェライトキャリアを用いることが好ましい。このような粒径が小さく、飽和磁化値も低いキャリアを用いることにより、現像スリーブ上の磁気ブラシが柔らかいものとなり、鮮鋭性が良好な画像を形成することができる。
キャリアの体積基準のメジアン径は、代表的には湿式分散機を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置「ヘロス(HELOS)」(シンパティック(SYMPATEC)社製)により測定することができる。
また、キャリアの飽和磁化は、「直流磁化特性自動記録装置3257−35」(横河電気株式会社製)により測定されるものである。
【0097】
また、キャリアとしては、磁性体粒子を芯材(コア)とし、その表面を樹脂で被覆したコートキャリアを用いることが好ましい。芯材の被覆に用いられる樹脂としては、特に制限はなく、各種の樹脂を用いることができ、例えば正帯電性のものとして構成された黒トナーに対しては、フッ素系樹脂、フッ素−アクリル酸系樹脂、シリコーン系樹脂、変性シリコーン系樹脂などを用いることができ、特に縮合型のシリコーン系樹脂を用いることが好ましく、また例えば負帯電性のものとして構成された黒トナーに対しては、スチレン−アクリル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂とメラミン系樹脂の混合樹脂およびその硬化樹脂、シリコーン系樹脂、変性シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエチレン系樹脂などを用いることができ、その中でも、スチレン−アクリル系樹脂とメラミン系樹脂の混合樹脂およびその硬化樹脂、並びに縮合型のシリコーン系樹脂を用いることが好ましい。
【0098】
本発明の黒トナーが二成分現像剤として使用される場合には、黒トナーおよびキャリアに、さらに、必要に応じて、荷電制御剤、密着性向上剤、プライマー処理剤、抵抗制御剤などを添加して二成分現像剤を形成することもできる。
【0099】
〔画像形成方法〕
本発明の黒トナーは、一般的な電子写真方式の画像形成方法に用いることができる。
【0100】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明の実施形態は上記の例に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0101】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔黒トナーの製造例1〕
(1)樹脂微粒子A1B1の作製
(a)第1段重合(樹脂微粒子〔B1〕の形成)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた反応容器にアニオン系界面活性剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム:SDS)6.5質量部をイオン交換水3200質量部に溶解させて界面活性剤溶液を調製し、これを窒素気流下230rpmの回転速度で撹拌しながら、温度を80℃に昇温させ、これに過硫酸カリウム(KPS)9.0質量部を添加した後、
n−ブチルアクリレート 132質量部
メタクリル酸メチル 628質量部
イタコン酸 40質量部
からなる単量体溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、液温を78℃にして1時間保持して重合反応を進行させることにより、上記3つの重合性単量体より生成された共重合体〔B1〕からなる樹脂微粒子〔B1〕が分散されてなる樹脂微粒子分散液〔B1〕を調製した。
樹脂微粒子〔B1〕を構成する共重合体〔B1〕におけるメタクリル酸メチルとイタコン酸の合計の使用比率は、樹脂微粒子〔B1〕の生成に用いた全重合性単量体に対して83.5質量%であった。
また、樹脂微粒子〔B1〕を構成する共重合体の重量平均分子量(Mw)は180,000、ガラス転移点は65℃、分散径は40nmであった。
(b)第2段重合
アニオン系界面活性剤(ポリオキシ(2)ドデシルエーテル硫酸エステルナトリウム塩)2質量部をイオン交換水1100質量部に溶解させて界面活性剤溶液を調製した。
また、別途に、撹拌装置を取り付けたフラスコ内に、
スチレン 230質量部
n−ブチルアクリレート 103質量部
メタクリル酸 19質量部
n−オクチルメルカプタン 4質量部
パラフィンワックス「WBM−1」 190質量部
を添加した後、85℃に加温して単量体溶液を調製した。
前記界面活性剤溶液を90℃に加温した後、上記の樹脂微粒子分散液〔B1〕75質量部(固形分換算)と前記の単量体溶液を添加し、循環経路を有する機械式分散機「クレアミックス」(エム・テクニック社製)により4時間にわたって混合、分散処理することにより分散液を調製し、これに過硫酸カリウム(KPS)15質量部をイオン交換水211質量部に溶解させた重合開始剤溶液を添加し、液温90℃で2時間撹拌処理して重合反応を進行させることにより樹脂微粒子分散液〔a1B1〕を作製した。
(c)第3段重合
上記の樹脂微粒子分散液〔a1B1〕中に、過硫酸カリウム(KPS)7質量部をイオン交換水184質量部に溶解させた重合開始剤溶液を添加しておき、液温を80℃にして、
スチレン 415質量部
n−ブチルアクリレート 156質量部
n−オクチルメルカプタン 7.5質量部
からなる単量体溶液を滴下した。滴下終了後、上記温度下で2時間の撹拌処理を行って重合反応を進行させた後、液温を28℃に冷却した。
以上のように、共重合体〔B1〕の存在下で、スチレン系単量体および(メタ)アクリル酸系単量体を重合反応させて共重合体〔A1〕を生成させることにより、共重合体〔B1〕よりなる樹脂微粒子〔B1〕が共重合体〔A1〕よりなる樹脂〔A1〕に内包された構造を有する樹脂微粒子〔A1B1〕が分散されてなる樹脂微粒子分散液〔A1B1〕を作製した。
樹脂微粒子〔A1B1〕中の樹脂微粒子〔B1〕の含有量は、7.5質量%である。
【0102】
なお、上記第2段重合工程および第3段重合工程を、樹脂微粒子〔B1〕を存在させない条件下で行って得られた共重合体〔A1〕は、重量平均分子量(Mw)が20,000、ガラス転移点が40℃であった。
【0103】
(2)樹脂微粒子C1の作製
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた反応装置にアニオン系界面活性剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム:SDS)2質量部をイオン交換水2900質量部に溶解させて界面活性剤溶液を調製し、これを窒素気流下230rpmの回転速度で撹拌しながら、液温を80℃に昇温させ、これに過硫酸カリウム(KPS)9.0質量部を添加した後、
スチレン 516質量部
n−ブチルアクリレート 204質量部
メタクリル酸 100質量部
n−オクチルメルカプタン 22質量部
からなる単量体溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、液温を78℃にして1時間保持して重合反応を進行させることにより、重量平均分子量(Mw)が10,000、ガラス転移点が50℃である樹脂微粒子〔C1〕が分散されてなる樹脂微粒子分散液〔C1〕を作製した。
(3)着色剤微粒子分散液の調製
ドデシル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1600質量部に溶解させた溶液を撹拌しながら、着色剤「Mogul−L」(キャボット社製)229質量部を徐々に添加した。その後、機械式分散機「クレアミックス」(エム・テクニック社製)を用いて分散処理を行うことにより着色剤微粒子分散液〔Bk〕を調製した。
この着色剤微粒子分散液〔Bk〕中の着色剤微粒子の質量平均粒径を電気泳動光散乱光度計「ELS−800(大塚電子社製)」で測定したところ、110nmであった。
(4)トナー粒子の造粒
(a)コア粒子の形成
撹拌装置、温度センサー、冷却管を取り付けた反応容器に、
樹脂微粒子分散液〔A1B1〕 430質量部(固形分換算)
イオン交換水 1650質量部
着色剤微粒子分散液〔Bk〕 150質量部
を投入して撹拌することにより、分散液を調製とした。この分散液に、25%水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10.2に調整した。なお、上記の樹脂微粒子分散液〔A1B1〕430質量部(固形分換算)中には、樹脂微粒子〔B1〕が固形分換算で32.25質量部含有されている。
次いで、塩化マグネシウム・6水和物水溶液(50質量%)150質量部を撹拌状態の上記分散液中に20分間かけて添加した後、昇温を開始して60分かけて80℃まで昇温させ、80℃に保持したまま粒子の凝集、融着を行った。この状態で「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)を用いて反応容器内で成長する粒子の粒径測定を行い、凝集粒子の粒径が体積基準のメジアン径で6.5μmになった時点で25質量%の塩化ナトリウム水溶液100質量部を添加して粒子の成長を停止させた。その後、熟成処理として液温83℃にて2時間にわたって加熱撹拌を行って形状を制御することにより、コア粒子が分散されてなるコア粒子分散液を得た。
(b)シェル層の形成
上記のコア粒子分散液を液温83℃にしておき、
樹脂微粒子分散液〔C1〕 50質量部(固形分換算)
を20分かけて添加した後、塩化マグネシウム・6水和物0.7質量部をイオン交換水4質量部に溶解させた水溶液を添加し、その後、2時間にわたって撹拌を継続して上記のコア粒子の表面に樹脂微粒子〔C1〕を凝集、融着させ、その後、融着処理を30分継続することにより、シェル層を形成した。
(c)熟成、洗浄、乾燥処理工程および外添剤添加工程
その後、25質量%の塩化ナトリウム水溶液200質量部を添加して融着反応を停止させ、88℃まで昇温させて熟成処理を行った。このようにして形成した粒子分散液を4℃/分で冷却した後、20℃のイオン交換水で十分に洗浄し、さらに、室温下で乾燥処理を行うことにより、コア−シェル構造を有するトナー粒子〔1X〕を作製した。
このトナー粒子〔1X〕に、外添剤として、
ヘキサメチルシラザン処理をしたシリカ(平均一次粒径12nm):0.6質量部
n−オクチルシラン処理をした二酸化チタン(平均一次粒径24nm):0.8質量部
を添加し、「ヘンシェルミキサ」(三井三池鉱業社製)を用いて外添処理を行うことにより、黒トナー〔1〕を得た。
なお、ヘンシェルミキサによる外添処理は、撹拌羽根の周速35m/秒、処理温度35℃、処理時間15分の条件下で行った。
【0104】
〔黒トナーの製造例2〜22〕
黒トナーの製造例1において、樹脂微粒子〔B1〕を生成するための重合性単量体の種類および使用量を表1に従って変更し、当該表1の通りの重量平均分子量(Mw)、ガラス転移点(Tg)を有し、その分散径が当該表1の通りである樹脂微粒子を用いると共に、樹脂微粒子〔B1〕を存在させない条件下で行って得られる樹脂Aに係る共重合体が当該表1の通りの重量平均分子量(Mw)、ガラス転移点(Tg)を有する樹脂Aを用いたことの他は同様にして、黒トナー〔2〕〜〔22〕を得た。
【0105】
【表1】

【0106】
〔現像剤の製造例1〜22〕
黒トナー〔1〕〜〔22〕の各々に対して、シリコーン樹脂を被覆した体積平均粒径50μmのフェライトキャリアをトナー濃度が6%となるよう混合することにより、二成分現像剤〔1〕〜〔22〕を調製した。
【0107】
〔評価1:カーボンブラックの分散径の評価〕
それぞれの黒トナーについて、これを光硬化性樹脂に包埋後、ウルトラミクロトーム「EM UC6」(LEICA社製)により加速電圧200kVで設定厚100nmの超薄切片を作製し、当該超薄切片について透過型電子顕微鏡(TEM)「2000FX」(日本電子社製)によって倍率が10,000倍の断面写真を撮影し、当該断面写真におけるトナー粒子100個について、当該トナー粒子中に観察されるカーボンブラック粒子をランダムに1次粒子として測定し、画像解析により水平方向のフェレ径を算出し、その平均値をカーボンブラックの分散径として測定した。結果を表2に示す。
黒トナー〔1〕〜〔18〕が本発明の要件を満たすものであり、黒トナー〔19〕〜〔22〕が本発明の要件を満たさないものであった。
【0108】
〔評価2:光沢性の評価〕
画像形成装置として、市販の複合機「bishub PRO C6501」(コニカミノルタビジネステクノロジーズ社製)を用い、この複合機に上記の現像剤を投入し、熱ローラ定着方式による定着装置の加熱ローラの表面温度を150℃として、常温常温(温度20℃、湿度50%RH)の環境下において、転写材「PODグロスコート(128g/m2 )」(王子製紙社製)上に、トナー量1.2mg/cm2 のベタ画像を形成した。このベタ画像の光沢度を、光沢度については、光沢度計「Gloss Meter」(村上色彩工学研究所製)を用い、屈折率1.567のガラス表面を基準として入射角を75°として測定して評価した。結果を表2に示す。
なお、光沢度が60%以上である場合に実用上問題がなく合格であると判断される。
【0109】
〔評価3:耐ホットオフセット性の評価〕
画像形成装置として、市販の複合機「bishub PRO C6501」(コニカミノルタビジネステクノロジーズ社製)を用い、この複合機に上記の現像剤を投入し、熱ローラ定着方式による定着装置の加熱ローラの表面温度を100〜180℃の範囲において5℃刻みで変更し、各温度について、常温常温(温度20℃、湿度50%RH)の環境下において、下記項目について定着試験を行った。
まず、A4コート紙「PODグロスコート(84.9g/m2 )」(王子製紙社製)上に、搬送方向に対して垂直方向に5cm幅のベタ帯状画像を横送り搬送で定着して、ホットオフセット現象の発生の有無から定着温度の下限温度Aを確認した。次いで、A4コート紙「PODグロスコート(84.9g/m2 )」(王子製紙社製)上に、搬送方向に対して垂直方向に5mm幅のベタ帯状画像および20mm幅のハーフトーン画像を横送り搬送で定着して、ホットオフセット現象に起因する画像表面の荒れや加熱ローラ汚染が生じたときの温度Bを確認し、温度Bと下限温度Aとの差を定着温度領域すなわち非ホットオフセット領域として評価した。結果を表2に示す。
なお、非ホットオフセット領域が65℃以上である場合に実用上問題がなく合格であると判断される。
【0110】
〔評価4:画像濃度の評価〕
画像形成装置として、市販の複合機「bishub PRO C6501」(コニカミノルタビジネステクノロジーズ社製)を用い、この複合機に上記の現像剤を投入し、ベタ黒のパッチ画像を1万枚形成し、1万枚目について、反射濃度計「RD−918」(マクベス社製)を使用して任意の12ヶ所の絶対画像濃度を測定して平均し、これを画像濃度として評価した。結果を表2に示す。
なお、画像濃度が1.2以上であれば、実用上問題がなく、合格であると判断される。
【0111】
【表2】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂にカーボンブラックが分散されてなるトナー粒子よりなる静電荷像現像用黒トナーであって、
前記結着樹脂は、少なくともスチレン系単量体に由来の構造単位および(メタ)アクリル酸系単量体に由来の構造単位を含む共重合体Aからなる樹脂Aと、少なくともメタクリル酸エステル系単量体に由来の構造単位およびカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体に由来の構造単位を含む共重合体Bからなる樹脂Bとを含有し、樹脂Aによる連続相中に樹脂Bによる相が分散された状態とされており、
前記樹脂Bを構成する共重合体Bにおけるメタクリル酸エステル系単量体に由来の構造単位の共重合比率の値およびカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体に由来の構造単位の共重合比率の値の合計が、70〜95質量%であり、
前記トナー粒子中のカーボンブラックの分散径が10〜300nmであることを特徴とする静電荷像現像用黒トナー。
【請求項2】
前記樹脂Aを構成する共重合体Aは、少なくともスチレンに由来の構造単位、n−ブチルアクリレートに由来の構造単位およびメタクリル酸に由来の構造単位を含むものであり、ガラス転移点が30〜50℃、重量平均分子量(Mw)が10,000〜30,000であり、
前記樹脂Bを構成する共重合体Bは、少なくともメタクリル酸メチルに由来の構造単位およびイタコン酸に由来の構造単位を含むものであり、ガラス転移点が60〜85℃、重量平均分子量(Mw)が100,000〜400,000であり、
前記トナー粒子においては、樹脂Aによる連続相中に樹脂Bが微粒子状に分散された状態とされており、
当該樹脂Bによる微粒子の分散径が10〜70nmであることを特徴とする請求項1に記載の静電荷像現像用黒トナー。
【請求項3】
前記結着樹脂中における樹脂Aおよび樹脂Bの含有質量比が、樹脂A:樹脂Bで99:1〜85:15であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の静電荷像現像用黒トナー。
【請求項4】
前記樹脂Bを構成する共重合体Bにおけるメタクリル酸エステル系単量体に由来の構造単位の共重合比率が、63.0〜93.0質量%であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の静電荷像現像用黒トナー。
【請求項5】
前記カルボキシル基を有するラジカル重合性単量体が、複数のカルボキシル基を有するものであることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の静電荷像現像用黒トナー。
【請求項6】
前記カーボンブラックが、前記結着樹脂に対して1〜30質量%含有されていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の静電荷像現像用黒トナー。
【請求項7】
結着樹脂にカーボンブラックが分散されてなるトナー粒子よりなる静電荷像現像用黒トナーを製造する方法であって、
前記結着樹脂は、少なくともスチレン系単量体に由来の構造単位および(メタ)アクリル酸系単量体に由来の構造単位を含む共重合体Aからなる樹脂Aと、少なくともメタクリル酸エステル系単量体に由来の構造単位およびカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体に由来の構造単位を含む共重合体Bからなる樹脂Bとを含有し、樹脂Aの連続相中に樹脂Bによる相が分散された状態とされており、
水系媒体中において、少なくともメタクリル酸エステル系単量体およびカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体を用いて重合反応を行うことにより、共重合体Bからなる樹脂Bの微粒子を造粒し、
前記メタクリル酸エステル系単量体およびカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体の合計使用量が、前記共重合体Bを形成するための全重合性単量体のうちの70〜95質量%であり、
水系媒体中において、当該樹脂Bの微粒子の存在下において、少なくともスチレン系単量体および(メタ)アクリル酸系単量体を用いて重合反応を行うことにより、前記共重合体Bからなる樹脂Bの微粒子の表面が当該樹脂Bを構成する共重合体Bと非相溶である共重合体Aからなる樹脂Aによって被覆されてなる複合微粒子を造粒し、
水系媒体中において、前記複合微粒子と、体積基準のメジアン径が10〜300nmである着色剤の微粒子を凝集させることにより、トナー粒子を形成する工程を経ることを特徴とする静電荷像現像用黒トナーの製造方法。
【請求項8】
前記樹脂Aを構成する共重合体Aを形成するための重合性単量体としてスチレン、n−ブチルアクリレートおよびメタクリル酸を用い、当該樹脂Aを構成する共重合体Aはガラス転移点が30〜50℃、重量平均分子量(Mw)が10,000〜30,000であり、
前記樹脂Bを構成する共重合体Bを形成するための重合性単量体として少なくともメタクリル酸メチルおよびイタコン酸を用い、当該樹脂Bを構成する共重合体Bはガラス転移点が60〜85℃、重量平均分子量(Mw)が100,000〜400,000であり、
前記樹脂Bの微粒子の分散径が10〜70nmであることを特徴とする請求項7に記載の静電荷像現像用黒トナーの製造方法。
【請求項9】
前記結着樹脂中における樹脂Aおよび樹脂Bの含有質量比が、樹脂A:樹脂Bで99:1〜85:15であることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の静電荷像現像用黒トナーの製造方法。
【請求項10】
前記樹脂Bを構成する共重合体Bを形成するためのメタクリル酸エステル系単量体の使用量が、当該共重合体Bを形成するための全重合性単量体のうちの63.0〜93.0質量%であることを特徴とする請求項7〜請求項9のいずれかに記載の静電荷像現像用黒トナーの製造方法。
【請求項11】
前記カルボキシル基を有するラジカル重合性単量体が、複数のカルボキシル基を有するものであることを特徴とする請求項7〜請求項10のいずれかに記載の静電荷像現像用黒トナーの製造方法。
【請求項12】
前記カーボンブラックが、前記結着樹脂に対して1〜30質量%含有されていることを特徴とする請求項7〜請求項11のいずれかに記載の静電荷像現像用黒トナーの製造方法。