説明

非アルコール性脂肪肝障害の検査方法

【課題】非アルコール性脂肪肝障害を予測するための検査方法を提供する。
【解決手段】iNOS遺伝子上の、特定の塩基配列の塩基番号61番目の塩基に相当する塩基における一塩基多型または該塩基と連鎖不平衡にある塩基の一塩基多型を分析し、該分析結果に基づいて非アルコール性脂肪肝障害を検査する方法。特定の塩基配列において、塩基番号61番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有する非アルコール性脂肪肝障害検査用プローブ。特定の塩基配列において、塩基番号61番目の塩基を含む領域を増幅することのできる非アルコール性脂肪肝障害検査用プライマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非アルコール性脂肪肝障害の検査方法およびそれに使用するプローブやプライマーに関する。
【背景技術】
【0002】
非アルコール性脂肪肝障害(NAFLD)は、現在、重要な健康問題のひとつとして認識されている。NAFLDは、単純性脂肪肝から非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に至るまでの幅広い症状を有する。NAFLDは自覚症状がなく、判定が困難である。NAFLDは種々の臨床面(ALTの上昇、肥満及び2型糖尿病の存在)に基づいて推測されるが、これらの臨床面はNAFLDの診断及び予測を確立するには十分ではない。現在のところ、NAFLDとNASHの間の境界も肝臓の生検によってのみ判定でき、それ以外の検査方法によっては予測することはできない。そして、肝臓への過剰な脂肪の蓄積は先進国の人口の20−30%に観察され、人口の約1−3%が肝臓への過剰な脂肪の蓄積、すなわち脂肪肝からNASHへと進展する。
NAFLDの進行には、環境要因と同様に遺伝的要因が重要であると考えられている(非特許文献1〜4)。しかしながら、遺伝学的な研究報告は僅かしかない。
【0003】
誘導型NO合成酵素(inducible nitric oxide synthase: iNOS)は炎症やストレスによ
って誘導され、フリーラジカルである一酸化窒素を合成し、様々な病態に関与している。iNOSが重度のNASH患者において高発現しているという報告(非特許文献5)や、iNOSのノックアウトマウスが高脂肪食による肝線維化を受けやすいという報告がある(非特許文献6)。また、iNOSの選択的阻害剤がラットの肝硬変モデルにおいて線維化を抑制したという報告もある(非特許文献7)。
しかしながら、iNOS遺伝子の一塩基多型がNAFLDと関連するという報告はない。
【非特許文献1】Namikawa C, Shu-Ping Z, Vyselaar JR, Nozaki Y, Nemoto Y, et al. Polymorphisms of microsomal triglyceride transfer protein gene and manganese superoxide dismutase gene in non-alcoholic steatohepatitis. J Hepatol. 2004;40:781-6
【非特許文献2】Gambino R, Cassader M, Pagano G, Durazzo M, Musso G. Polymorphism in microsomal triglyceride transfer protein: a link between liver disease and atherogenic postprandial lipid profile in NASH? Hepatology. 2007;45:1097-107.
【非特許文献3】Tokushige K, Takakura M, Tsuchiya-Matsushita N, Taniai M, Hashimoto E, et al. Influence of TNF gene polymorphisms in Japanese patients with NASH and simple steatosis. J Hepatol. 2007;46:1104-10.
【非特許文献4】Merriman RB, Aouizerat BE, Bass NM. Genetic influences in nonalcoholic fatty liver disease. J Clin Gastroenterol. 2006;40:S30-3.
【非特許文献5】Garcia-Monzon C, Martin-Perez E, Iacono OL, Fernandez-Bermejo M, Majano PL, Apolinario A, Larranaga E, Moreno-Otero R. Characterization of pathogenic and prognostic factors of nonalcoholic steatohepetitis associated with obesity. J Hepatol 2000;33:716-724
【非特許文献6】Chen Y, Hozawa S, Sawamura S Sato S, Fukuyama N, Tsuji C, Mine T, Okada Y, Tanino R, Osugi Y, Nakazawa H. Defiency of inducible nitric oxide synthase exacerbates hepatic fibrosis in mice fed high-fat diet. Biochem Biophys Res Commun 2005;326:45-51
【非特許文献7】Kikuchi H, Katsuramaki T, Kukita K, Taketani S, Meguro M, Nagayama M, Isobe M, Mizuguchu T, Hirata K. New straregy for the antifibrotic therapy woth oral administration of FR260330 (a slective inducible nitiric oxide synthase inhibitor) in rat experimental liver cirrhosis. Wound Repair Regen 2007;15:881-888
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、NAFLDの発症や進行を正確に予測するための検査方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、iNOS遺伝子上に存在する特定の塩基の一塩基多型または該塩基と連鎖不平衡にある塩基の一塩基多型がNAFLDに関連することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)iNOS遺伝子上の、配列番号1〜4のいずれかの塩基配列の塩基番号61番目の塩基に相当する塩基における一塩基多型または該塩基と連鎖不平衡にある塩基の一塩基多型を分析し、該分析結果に基づいて非アルコール性脂肪肝障害を検査する方法。
(2)配列番号1〜4のいずれかの塩基配列において、塩基番号61番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有する非アルコール性脂肪肝障害検査用プローブ。
(3)配列番号1〜4のいずれかの塩基配列において、塩基番号61番目の塩基を含む領域を増幅することのできる非アルコール性脂肪肝障害検査用プライマー。
【発明の効果】
【0007】
本発明の検査方法により、NAFLDの発症リスクや進行を正確に非侵襲的に予測することができるため、NAFLDを予防したり、進行を抑えたりすることができる。また、iNOS遺伝子の多型は、NAFLDになりやすい素因(SNP)をもっている人にiNOS阻害剤を投与
したとき、NAFLD やNASHを発症、あるいは増悪させるといった副作用のリスク判断にも優れた指標となりうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<1>本発明の検査方法
本発明の検査方法は、inducible nitric oxide synthase(iNOS)遺伝子上に存在する
塩基の一塩基多型(SNP;single nucleotide polymorphism)または該塩基と連鎖不平衡
にある塩基の一塩基多型を分析し、該分析に基づいてNAFLDを検査する方法である。NAFLDとは、感染性肝炎、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、硬化性胆管炎、ヘモクロマトーシス、α1−抗トリプシン欠損症、ウィルソン病、薬剤性肝炎またはアルコ
ール性肝炎の患者、及び大量飲酒者以外において、例えば、Sanyal AJ. AGA technical review on nonalcoholic fatty liver disease. Gastroenterol. 2002:123:1705-25の基準によって診断される病態をいう。なお、本発明において、「検査」とは将来、NAFLDになるかどうかを予測するための検査、及びNAFLDの程度が悪化する(例えば、NASHに進行する)かどうかを予測するための検査を含む。
【0009】
iNOS遺伝子としては、ヒトiNOS遺伝子が好ましく、例えば、GenBank Accession No. NM_000625に登録された配列を有する遺伝子を挙げることができる。ただし、該遺伝子は人
種の違いなどによって1又は複数の塩基に置換や欠失等が存在する可能性があるため、上記配列の遺伝子に限定されない。
【0010】
NAFLDに関連するiNOS遺伝子の一塩基多型は、以下に示すSNP-1〜SNP-4が挙げられる。
【0011】
【表1】

【0012】
表1において、例えば、SNP-1はGenBank Accession No. NT_010799.14の827748番目の
塩基におけるシトシン(C)/チミン(T)の多型を意味し、この塩基がTである場合はN
AFLDになる確率が高い。また、アレルを考慮して解析した場合は、SNP-1がTT>TC>CCの順でNAFLDになる確率が高い。SNP-1はiNOS遺伝子のイントロン21に存在するSNPである。dbSNPはNational Center for Biotechnology InformationのdbSNPデータベース(//www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/SNP/)の登録番号を示す。
その他のSNPについても同様であるが、いずれについても右側の塩基がNAFLDになりやすい塩基である(例えば、SNP-2の場合、T/CのうちCの場合がNAFLDになりや
すく、SNP-3の場合、A/GのうちGの場合がNAFLDになりやすく、SNP-4の場合、C/Tの
うちTの場合がNAFLDになりやすい)。
なお、SNP-1〜SNP-4について、SNP塩基及びその前後60bpの領域を含む合計121bpの長さの配列を、それぞれ配列番号1〜4に示した。それぞれ61番目の塩基が多型を有する。
これらの塩基に相当する塩基を本発明においては解析する。ここで、「相当する」とは、ヒトiNOS遺伝子上の上記配列を有する領域中の該当塩基を意味し、仮に、人種の違いなどによって上記配列がSNP以外の位置で若干変化したとしても、その中の該当塩基を解析することも含む。
【0013】
上記SNPの塩基の種類を調べることによって、NAFLDを検査することができる。検査するSNPの数は、一種類でもよいし、複数(ハプロタイプ解析)でもよい。なお、SNP-1がCであれば他のSNPも左側の塩基(SNP-2=T、SNP-3=A、SNP-4=C)であるというように、上記SNPのタイプは互いに相関するため、一箇所のみを解析することによって
も十分正確なNAFLDの予測を行うことができる。なお、iNOS遺伝子の配列はセンス鎖を解析してもよいし、アンチセンス鎖を解析してもよい。
また、本発明において解析する塩基は上記のものに限定されず、上記の塩基と連鎖不平衡にある塩基の多型を分析してもよい。ここで「上記の塩基と連鎖不平衡にある塩基」とは、上記の塩基とr2>0.5の関係を満たす塩基をいう。
【0014】
iNOS遺伝子の一塩基多型の解析に用いる試料としては、染色体DNAを含む試料であれば特に制限されないが、例えば、血液、尿等の体液サンプル、細胞、毛髪等の体毛、爪などが挙げられる。一塩基多型の解析にはこれらの試料を直接使用することもできるが、これらの試料から染色体DNAを常法により単離し、これを用いて解析することが好ましい。
【0015】
iNOS遺伝子の一塩基多型の解析は、通常の一塩基多型解析方法によって行うことができる。例えば、シークエンス解析、PCR、ハイブリダイゼーションなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
シークエンスは通常の方法により行うことができる。具体的には、多型を示す塩基の5’側 数十塩基の位置に設定したプライマーを使用してシークエンス反応を行い、その解
析結果から、該当する位置がどの種類の塩基であるかを決定することができる。なお、シークエンスを行う場合、あらかじめ多型を含む断片をPCRなどによって増幅しておくことが好ましい。
【0017】
また、PCRによる増幅の有無を調べることによっても解析することができる。例えば、多型を示す塩基を含む領域に対応する配列を有し、かつ、各多型に対応するプライマーをそれぞれ用意する。それぞれのプライマーを使用してPCRを行い、増幅産物の有無によってどのタイプの多型であるかを決定することができる。
【0018】
また、多型を含むDNA断片を増幅し、増幅産物の電気泳動における移動度の違いによっ
てどのタイプの多型であるかを決定することもできる。このような方法としては、例えば、PCR-SSCP(single−strand conformation polymorphism)法(Genomics. 1992 Jan 1; 12(1): 139−146.)が挙げられる。具体的には、まず、iNOS遺伝子の多型部位を含むDNAを増幅し、増幅したDNAを一本鎖DNAに解離させる。次いで、解離させた一本鎖DNAを非変性ゲル上で分離し、分離した一本鎖DNAのゲル上での移動度の違いによってどのタイプの多型であるかを決定することができる。
【0019】
さらに、多型を示す塩基が制限酵素認識配列に含まれる場合は、制限酵素による切断の有無によって解析することもできる(RFLP法)。この場合、まず、DNA試料をPCRで増幅し、それを制限酵素により切断する。次いで、DNA断片を分離し、検出されたDNA断片の大きさによってどのタイプの多型であるかを決定することができる。
【0020】
ハイブリダイゼーションの有無を調べることによって多型の種類を解析することも可能である。すなわち、各塩基に対応するプローブを用意し、いずれのプローブにハイブリダイズするかを調べることによってSNPがいずれの塩基であるかを調べることもできる。
【0021】
<2>本発明の検査用試薬
本発明はまた、NAFLDを検査するためのプライマーやプローブなどの検査試薬を提供する。このようなプローブとしては、iNOS遺伝子における上記多型部位を含み、ハイブリダイズの有無によって多型部位の塩基の種類を判定できるプローブが挙げられる。具体的には、配列番号1〜4のいずれかの塩基配列の61番目の塩基を含む配列、又はその相補配列を有する15塩基以上の長さのプローブが挙げられる。プローブの長さは好ましくは15〜35塩基、より好ましくは20〜35塩基である。このようなプローブとして、配列番号11や配列番号12のプローブ(SNP-3)、配列番号13や配列番号14のプローブ(SNP-4)などが例示される。SNP-1およびSNP-2についても配列番号1および2に基づいて設計できる。
【0022】
また、プライマーとしては、iNOS遺伝子における上記多型部位を増幅するためのPCRに
用いることのできるプライマー、又は上記多型部位を配列解析(シークエンシング)するために用いることのできるプライマーが挙げられる。具体的には、配列番号1〜4のいずれかの塩基配列の61番目の塩基を含む領域を増幅したりシークエンシングしたりすることのできるプライマーが挙げられる。このようなプライマーの長さは15〜50塩基が好ましく、20〜35塩基がより好ましい。このようなプライマーは、例えば、配列番号1〜4において、多型部位の上流または下流の位置に設定することができる。
上記多型部位をシークエンシングするためのプライマーとしては、上記多型塩基の5’側領域、好ましくは30〜100塩基上流の配列を有するプライマーや、上記多型塩基の3’
側領域、好ましくは30〜100塩基下流の領域に相補的な配列を有するプライマーが例示さ
れる。PCRによる増幅の有無で多型を判定するために用いるプライマーとしては、上記多
型塩基を含む配列を有し、上記多型塩基を3’側に含むプライマーや、上記多型塩基を含む配列の相補配列を有し、上記多型塩基の相補塩基を3’側に含むプライマーなどが例示される。
なお、本発明の検査用試薬はこれらのプライマーやプローブに加えて、PCR用のポリメ
ラーゼやバッファー、ハイブリダイゼーション用試薬などを含むものであってもよい。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0024】
材料と方法
被検者
115人の日本人NAFLD患者(65人のNASHと50人の単純性脂肪肝)と、435人の健常な対照被検者は横浜市立大学病院において募集された。
全ての対照被検者は正常な肝機能を有し、ウィルス性肝炎の感染がなく、アルコール依存症ではないことが確認された。対照被検者は、BMI<25kg/m2であり、空腹時
血糖(<110mg/dl)、中性脂肪(<150mg/dl)、HDLコレステロール(>40mg/dl)は正常であり、最高血圧(<130mmHg)および最低血圧(<85mmHg)も正常であった。
一方、115人全ての患者は、肝生検によってNAFLDと確認された。すなわち、肝生検組織は、ヘマトキシリン−エオジン、レチクリン、及びマッソントリクローム染色により染色され、二人の病理学者によって調べられた。NAFLDの診断のための組織学的基準は、細胞の縁への核の移動を伴う、肝細胞の大滴性脂肪化の存在であり(Sanyal AJ.
AGA technical review on nonalcoholic fatty liver disease. Gastroenterol. 2002:123:1705-25)、この基準によってNAFLDと診断された。5%を超える肝細胞に大滴性脂肪化が認められた場合、その患者を単純性脂肪肝かあるいはNASHに分類した。NASHの診断の基準は、肝細胞の大滴性脂肪化に加え、小葉内炎症、zone3における肝細胞の風船様腫大(あるいは風船様膨化ともいう)、中心静脈周囲繊維化、肝細胞周囲の繊維化の存在である(Matteoni CA, Younossi ZM, Gramlich T, Boparai N, Liu YC, et al. Nonalcoholic fatty liver disease: a spectrum of clinical and pathological severity. Gastroenterology. 1999;116:1413-1419.;Teli MR, James OF, Burt AD, Bennett MK, Day CP. The natural history of nonalcoholic fatty liver: a follow-up study. Hepatology. 1995;22:1714-1719.)。
なお、以下の疾病の患者は本研究からは除外した:感染性肝炎(B型およびC型肝炎、エプスタイン−バーウイルス感染症)、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、硬化性胆管炎、ヘモクロマトーシス、α1−抗トリプシン欠損症、ウィルソン病、薬剤
性肝炎、アルコール性肝炎、及び大量飲酒者(現在もしくは過去の1日当りアルコール消費量が20gを超える者)。
被検者としたいずれのNAFLD患者にも、肝代償不全の臨床的所見(肝性脳症、腹水、静脈瘤出血、または正常上限値の2倍を超える血清ビリルビン濃度等)は認められなかった。
全ての被検者から、本研究への参加に先立って書面によるインフォームド・コンセントを得た。研究のプロトコルは、1975年のヘルシンキ宣言の倫理指針に準拠しており、横浜市立病院および理化学研究所の研究委員会の承認を得たものである。
【0025】
臨床および実験室評価
静脈血サンプルは、一晩絶食(12時間)後の被検者から採取し、血清中のアスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)、アラニンアミノ基転移酵素(ALT)、グルコース、ヘモグロビンA1c(HbA1c)、免疫反応性インスリン、総コレステロール、および
中性脂肪を測定した。全ての実験の生化学的パラメータは自動化分析器で測定した。
【0026】
DNAの調製およびSNPのジェノタイピング
ゲノムDNAは、それぞれの血液サンプルからGenomix(Talent SRL, Trieste, Italy
)を用いて調製した。iNOS内でのSNPsは、IMS−JST(医科学研究所−科学技術振興機構)のSNPデータベースから選択した。マイナーアレル頻度が0.1を超え、観測された遺伝子多型(例えばTT、CT、CC)の頻度がハーディ・ワインベルグ平衡(Hardy-Weinberg equilibrium)から大きく外れなかった10のSNPsを選択した(P>0.001)。これらのSNPsに対してインベーダープローブ(Third Wave Technologies, Madison, WI)を合成し、以前に報告した多重PCRとインベーダーアッセイの組合せにより、患者及び対照におけるSNPsをジェノタイピングした(Ohnishi Y, Tanaka T, Ozaki K, Yamada R, Suzuki H, Nakamura Y. A high-throughput SNP typing system for genome-wide association studies. J Hum Genet 2001;46:471-477)。
【0027】
統計分析
それぞれのNAFLD患者−対照の比較については、χ2テストを用い、3つの異なる
モードにおいて、遺伝子型またはアレルの頻度をNAFLD患者と対照の間で比較した。第1のモード(アレル頻度モード)では、2×2分割表を用いて、NAFLD患者と対照の間でアレル頻度を比較した。第2のモード(劣性モード)では、2×2分割表を用いて、アレル1に関してホモ接合性である被検者の頻度をその他の被検者と比較し、第3のモード(優性モード)では、2×2分割表を用いて、アレル1を有する被検者(アレル1のホモ接合性及びヘテロ接合性)の頻度をその他の被検者と比較した。オッズ比およびその95%信頼区間(CI)はウルフ法(Woolf's method)によって算出した。ハーディ・ワインベルグ平衡は、χ2テストを用いて評価した。ハプロタイプブロックはハプロビュー
3.2(Haploview 3.2)を用いて決定した(Barrett JC, Fry B, Maller J, Daly MJ. Haploview: analysis and visualization of LD and haplotype maps. Bioinformatics. 2005;21:263-265.)。臨床データは平均±標準偏差(SD)で表した。NAFLD患者群
と対照群の間の臨床的パラメータは、スチューデントtテストによって比較した。
【0028】
結果
NAFLD患者−対照相関解析
NAFLD患者群および対照群の臨床データを表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
IMS−JSTのSNPデータベースから、0.1を超えるマイナーアレル頻度を持つiNOS遺伝子内の10のSNPs(rs3794756、rs2255929、rs2297510、rs2297511、rs2297512、rs1060822、rs2297516、rs2248814、rs2297520、rs3794764)を選択し、NAFLDとの相関を調べた。その結果、10のSNPsのうち、4つのSNPs(rs2297510、rs2297511、rs2297512、rs1060822)に有意な相関がみられ、これらは、劣性モデルにおいて
最も低いP値を示した(P=0.0008、表3)。OR(95%信頼区間)は劣性モデルにおいて0.70(0.51−0.97)であり、従って、メジャーアレルがNAFLD発症に対して保護的であることがわかった。
なお、rs3794756、rs2255929、rs2297516、rs2248814、rs2297520、rs3794764について、それぞれ、SNPsとその前後60bpを含む配列をそれぞれ、配列番号5〜10に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
さらに、rs2297510及びrs1060822について詳細に検討した(表4)。
NAFLD群をNASHおよび単純性脂肪肝(simple stearosis)に分け、rs2297510
及びrs1060822を用いてNAFLD患者−対照相関解析を実施した。rs2297510及びrs1060822におけるアレル1ホモザイゴートの頻度は、NASH被検者では対照被検者と比較し
て有意に低かった。NASH患者のアレル1ホモザイゴートの頻度を単純性脂肪肝の被検者と比較した場合には、これらのグループ間での頻度は有意なものではなかった。従って、rs2297510及びrs1060822はNASH及び単純性脂肪肝を合わせたNAFLDと有意に相
関していた。
【0033】
【表4】

【0034】
また、連鎖不均衡分析により、上記4つのSNPs(rs2297510、rs2297511、rs2297512、rs1060822)は絶対的な連鎖不平衡(r2=1)にあることがわかった(表5)。
【0035】
【表5】

【0036】
考察
NAFLD表現型は、無症状から肝不全の合併症及び肝細胞癌を伴う肝硬変にわたるまで様々である。現在のところ、肝臓の生検がNAFLDの診断及び予測を評価し得る唯一の方法である。今回、我々はiNOS遺伝子の多型がNAFLDに関連していることを発見し
た。これらの多型はNAFLDの診断及び/又は予測の有用な手段となると考えられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
iNOS遺伝子上の、配列番号1〜4のいずれかの塩基配列の塩基番号61番目の塩基に相当する塩基における一塩基多型または該塩基と連鎖不平衡にある塩基の一塩基多型を分析し、該分析結果に基づいて非アルコール性脂肪肝障害を検査する方法。
【請求項2】
配列番号1〜4のいずれかの塩基配列において、塩基番号61番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有する非アルコール性脂肪肝障害検査用プローブ。
【請求項3】
配列番号1〜4のいずれかの塩基配列において、塩基番号61番目の塩基を含む領域を増幅することのできる非アルコール性脂肪肝障害検査用プライマー。

【公開番号】特開2010−22293(P2010−22293A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188560(P2008−188560)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(505155528)公立大学法人横浜市立大学 (101)
【Fターム(参考)】