説明

非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物

非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を開示する。当該ポリカーボネート樹脂組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂約50〜約100重量%、(B)ゴム変性芳香族ビニル樹脂約0〜約50重量%、および(C)アルキル(メタ)アクリレート樹脂約0〜約50重量%、並びに(D)(A)、(B)および(C)を含むベース樹脂約100重量部に対して、環状t−ブチルホスホナート化合物約0.5〜約30重量部を含む。前記ポリカーボネート樹脂組成物は、火に対して安定であり、環境汚染を引き起こすハロゲン系難燃剤を含有しないため環境親和的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物に関する。より具体的には、本発明は、ポリカーボネート樹脂に難燃剤として環状t−ブチルホスホナート化合物を用いた難燃性の優れた非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリカーボネート/スチレン含有共重合体のブレンドは、優れた加工性および高い衝撃強度を有する樹脂混合物である。そのため、当該樹脂は、コンピューターハウジングまたは他の事務用品のような熱を多く放散する大型射出成形物に広く用いられている。したがって、難燃性、耐熱性および高い機械的強度が、ブレンドを製造する際に考慮されるべき重要な要素である。
【0003】
従来、樹脂組成物への難燃性の付与には、ハロゲン系難燃剤やアンチモン化合物が用いられてきた。しかしながら、ハロゲン系難燃剤を用いると、燃焼時に毒性の強いガスが発生する。そのため、ハロゲン系難燃剤を含まない樹脂に対する需要が増加している。リン酸エステル系難燃剤を使用することは、ハロゲン系難燃剤を用いずに難燃性を付与するための方法として、よく知られており、また広く用いられている。
【0004】
米国特許第4,692,488号明細書には、非ハロゲン芳香族ポリカーボネート樹脂、非ハロゲンスチレン−アクリロニトリル共重合体、非ハロゲンリン系化合物、テトラフルオロエチレン重合体および少量のABS共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物が開示されている。
【0005】
また、米国特許第5,061,745号明細書には、芳香族ポリカーボネート樹脂、ABSグラフト共重合体、共重合体およびリン酸エステル単量体を含む難燃性樹脂組成物が開示されている。
【0006】
しかしながら、前記の樹脂組成物は、ある一定の難燃性を獲得するため、過剰量のリン酸エステル系難燃剤を添加する必要がある点で問題がある。
【0007】
また、ポリメチルメタクリレート樹脂の難燃性が不足していることから、ポリカーボネート樹脂とポリメチルメタクリレート樹脂とのブレンドに難燃性を付与するためには、難燃剤を多量に添加する必要がある。少量のポリメチルメタクリレート樹脂を用いることで、難燃性の向上を試みることができるが、優れた耐スクラッチ性は得られにくい。
【0008】
米国特許第5,292,786号明細書には、難燃剤としてリン酸エステル化合物を使用し、ポリカーボネート樹脂およびスチレン系樹脂にポリメチルメタクリレート樹脂をさらに加えることで、優れた溶接線強度を有する組成物が開示されている。しかしながら、耐スクラッチ性に寄与するポリメチルメタクリレート樹脂が相対的に少ないのに加えて、ポリカーボネート樹脂およびスチレン系樹脂の耐スクラッチ性が良くないことから、耐スクラッチ性および難燃性を改善することは困難である。
【0009】
特開平11−199721号公報には、ポリプロピレン樹脂と窒素原子を含有する熱可塑性樹脂とのブレンドに、難燃剤として加えた環状ホスホナートから難燃性を獲得した難燃性樹脂組成物が開示されている。しかしながら、ポリカーボネート樹脂やポリカーボネート樹脂ベースのブレンドに対する難燃化方法については開示されていない。
【0010】
そこで、本発明者らは、ポリカーボネート樹脂またはポリカーボネート樹脂とゴム変性芳香族ビニル樹脂またはアルキル(メタ)アクリレート樹脂とのブレンドを含むベース樹脂に、難燃剤として環状t−ブチルホスホナートを加えることで、環境汚染を起こさないため環境親和的であり、火に対して安定性を有する難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を開発するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4,692,488号明細書
【特許文献2】米国特許第5,061,745号明細書
【特許文献3】米国特許第5,292,786号明細書
【特許文献4】特開平11−19721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、火に対して安定性を有する熱可塑性難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、樹脂組成物の製造や燃焼の際に、毒性汚染物質を発生させるハロゲン系難燃剤を用いない、環境親和的な非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、ポリカーボネート樹脂またはポリカーボネート樹脂とゴム変性芳香族ビニル樹脂またはアルキル(メタ)アクリレート樹脂とのブレンドを含むベース樹脂において、優れた難燃性を有する難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、少量の難燃剤を用いた場合でも、優れた難燃性を有する難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
【0016】
本発明の他の目的は、ポリカーボネート樹脂にゴム変性芳香族ビニル樹脂またはアルキル(メタ)アクリレート樹脂を加えることで、優れた衝撃強度および優れた耐スクラッチ性を有する難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
【0017】
本発明のその他の目的および本発明の利点は、下記で説明される発明の開示および添付の特許請求の範囲から明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂約50〜約100重量%;(B)ゴム変性芳香族ビニル樹脂約0〜約50重量%;および(C)アルキル(メタ)アクリレート樹脂約0〜約50重量%;並びに(D)(A)、(B)および(C)を含むベース樹脂100重量部に対して、環状t−ブチルホスホナート化合物約0.5〜約30重量部を含む。
【0019】
前記樹脂組成物は、芳香族リン酸エステル化合物(E)をさらに含みうる。前記芳香族リン酸エステル化合物(E)の量は、ベース樹脂約100重量部に対して約0.0001重量部〜約20重量部の範囲でありうる。
【0020】
また、本発明の難燃性樹脂組成物は、熱安定剤、滴下防止剤、酸化防止剤、相溶化剤、光安定剤、顔料、染料、無機充填剤等の添加剤をさらに含みうる。
【0021】
本発明は、前記樹脂組成物により成形された成形品を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(A)ポリカーボネート樹脂
本発明に用いられるポリカーボネート樹脂(A)は、本技術分野において周知であり、市販されている。典型的な例では、前記ポリカーボネート樹脂(A)は、下記化学式3で示されるジフェノールをホスゲン、ハロゲンホルメートまたは炭酸ジエステルと反応させることにより製造されうる。
【0023】
【化1】

【0024】
式中、Aは単結合、C−Cアルキレン基、C−Cアルキリデン基、C−Cシクロアルキリデン基、−S−または−SO−を表す。
【0025】
前記化学式3のジフェノールは限定されないが、例としてヒドロキノール、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,4−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−シクロヘキサン、2,2−ビス−(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス−(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパンなどが挙げられる。中でも2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス−(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、および1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−シクロヘキサンが好ましい。工業的によく用いられる芳香族ポリカーボネートとしては、“ビスフェノール−A”と呼ばれる2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパンが最も好ましい。
【0026】
本発明に係る樹脂組成物の製造に適したポリカーボネートは、重量平均分子量(Mw)が約10,000〜約200,000であり、好ましくは約15,000〜約80,000でありうる。
【0027】
本発明の様々な実施形態において、本発明の組成物に含まれる適切なポリカーボネートは公知の方法により分枝しうる。例えば、用いられるジフェノールの全量に対して、三官能以上の化合物、例えば3つまたはそれ以上のフェノール基を有する化合物を約0.05〜約2モル%添加することで、かような分枝したポリカーボネートは製造されうる。
【0028】
本発明では、ポリカーボネートの単独重合体、ポリカーボネートの共重合体またはこれらの混合物が用いられうる。
【0029】
前記ポリカーボネート樹脂の一部は、二官能カルボン酸のようなエステル前駆体存在下、重合により得られる芳香族ポリエステル−カーボネート樹脂に代替されうる。
【0030】
(B)ゴム変性芳香族ビニル樹脂
いくつかの実施形態に係るゴム変性芳香族ビニル樹脂は、芳香族ビニル重合体を含むマトリックス(連続相)にゴム状重合体を分散させた重合体である。
【0031】
前記ゴム変性芳香族ビニル樹脂は、例えば、ゴム状重合体の存在下、芳香族ビニル単量体と、芳香族ビニル単量体と重合可能なビニル基含有単量体とを重合して製造されうる。これらゴム変性芳香族ビニル樹脂は、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、または溶液重合のような公知の方法により製造される。
【0032】
いくつかの実施形態において、ゴム変性芳香族ビニル樹脂は、通常はゴム含量の高いグラフト共重合体樹脂とゴムを含まない芳香族ビニル共重合体樹脂とを別々に製造して、両者を共に混合することで製造される。塊状重合の場合には、グラフト共重合体樹脂と芳香族ビニル共重合体樹脂とを別々に製造することなく、1工程でゴム変性芳香族ビニル樹脂が製造されうる。
【0033】
前記いずれの重合方法においても、最終ゴム変性芳香族ビニル樹脂中のゴムの含量は、約5〜約30重量%でありうる。前記ゴム変性芳香族ビニル樹脂の例としては、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)共重合体樹脂、アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン(AAS)共重合体樹脂、アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン(AES)共重合体樹脂などが挙げられる。これらは2種以上を組み合わせて用いられうる。
【0034】
前記ゴム変性芳香族ビニル樹脂において、グラフト共重合体樹脂は、その相溶性を考慮して、単独でまたは共重合体樹脂と組み合わせて用いられうる。本発明の典型的な実施形態において、ゴム変性芳香族ビニル樹脂は、グラフト共重合体樹脂(B)約20〜約100重量%および共重合体樹脂(B)約0〜約80重量%を含む。
【0035】
(B)グラフト共重合体樹脂
本発明の実施形態において、芳香族ビニル単量体と、芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体とをゴム状重合体に加え、それらをいっしょに重合することでグラフト共重合体樹脂(B)が製造されうる。
【0036】
前記グラフト共重合体樹脂を製造するためのゴム状重合体の例として、ポリブタジエン、ポリ(スチレン−ブタジエン)、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)などのジエン系ゴム;前記ジエン系ゴムに水素添加した飽和ゴム;イソプレンゴム、クロロプレンゴム;ポリアクリル酸ブチルのようなアクリル系ゴム;エチレン−プロピレンゴム;エチレン−プロピレン−ジエン三元重合体(EPDM)などが挙げられる。前記ゴムは、単独でまたは2種以上を互いに組み合わせて用いられうる。好ましくはジエン系ゴム、より好ましくはブタジエン系ゴムが用いられうる。本発明において、前記ゴムは、グラフト共重合体樹脂約100重量%に対して約4〜約65重量%の量で用いられうる。ある実施形態では、衝撃強度および外観を考慮して、前記ゴムは約0.1〜約4.0μmの粒子径を有するのが好ましい。
【0037】
前記芳香族ビニル単量体の例としては、スチレン、α−メチルスチレン、またはp−メチルスチレンのようなスチレン系単量体が挙げられる。前記スチレン系単量体は単独でまたは2種以上を互いに組み合わせて用いられうる。このうち、スチレンが最も好ましい。前記芳香族ビニル単量体は、約30〜約95重量%の量で用いられる。
【0038】
典型的な実施形態において、前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な少なくとも1つの単量体もまた用いられうる。芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体としては、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルのような不飽和ニトリル含有化合物が挙げられる。前記不飽和ニトリル含有化合物は単独でまたは2種以上を互いに組み合わせて用いられうる。芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体は、グラフト共重合体樹脂の全量に対して約1〜約20重量%の量で用いられうる。
【0039】
いくつかの実施形態において、優れた加工性および耐熱性を付与するため、前記グラフト共重合体樹脂は、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、N−置換マレイミドなどのような他の単量体をも含みうる。前記単量体は、単独でまたは2種以上を互いに組み合わせて用いられうる。添加される量は、グラフト共重合体樹脂の全量に対して約0〜約15重量%である。
【0040】
(B)共重合体樹脂
本発明の共重合体樹脂は、芳香族ビニル単量体と、芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体とを共重合することにより製造されうる。
【0041】
前記芳香族ビニル単量体の例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等が挙げられる。前記スチレン系単量体は、単独でまたは2種以上を互いに組み合わせて用いられうる。このうち、スチレンが最も好ましい。ある好ましい実施形態において、全共重合体樹脂中の芳香族ビニル単量体は約60〜約90重量%含まれる。
【0042】
前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体としては、アクリロニトリルまたはメチルメタクリロニトリルのような不飽和ニトリル含有化合物が好ましい。前記不飽和ニトリル含有化合物は単独でまたは2種以上を互いに組み合わせて用いられうる。前記共重合可能な単量体は、グラフト共重合体樹脂の全量に対して約10〜約40重量%の量で用いられうる。
【0043】
いくつかの実施形態において、優れた加工性および耐熱性を付与するため、前記共重合体樹脂は、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、N−置換マレイミドなどのような他の単量体、およびそれらの混合物をも含みうる。前記単量体の量は、共重合体樹脂に対して約0〜約30重量%である。
【0044】
(C)アルキル(メタ)アクリレート樹脂
本発明において、アルキル(メタ)アクリレート樹脂は耐スクラッチ性を付与するためにベース樹脂に任意に添加されうる。
【0045】
前記アルキル(メタ)アクリレート樹脂としては、メチルメタクリレートの単独重合体;アルキルアクリレート類および/またはアルキルメタクリレート類から選択される少なくとも2つの成分を含む共重合体;またはこれらの混合物が挙げられる。前記アルキル(メタ)アクリレート樹脂は市販されている、または当該分野において周知の方法で製造されうる。
【0046】
いくつかの実施形態において、前記アルキル(メタ)アクリレート樹脂は、メチルメタクリレート約50〜約100重量%およびC1−10アルキルアクリレートおよびC1−10アルキルメタクリレートからなる群から選択されるアルキル(メタ)アクリレート約0〜約50重量%を含む(共)重合体でありうる。
【0047】
前記アルキル(メタ)アクリレート樹脂は、好ましくはポリメチルメタクリレート(PMMA)である。
【0048】
本発明において、前記アルキル(メタ)アクリレート樹脂は、ベース樹脂に対して、約0〜約50重量%、好ましくは約10〜約50重量%の量で用いられうる。約50重量%を超過して用いられると、難燃性が著しく低下し、リン含有難燃剤を用いても所望の難燃性を達成することができない。
【0049】
(D)環状t−ブチルホスホナート
本発明の環状t−ブチルスホナート化合物は、ポリカーボネートのベース樹脂に優れた難燃性を付与しうる。前記環状t−ブチルホスホナート化合物は下記化学式1で示される。
【0050】
【化2】

【0051】
式中、RおよびRは独立して水素、C−Cアルキル基またはC−C10アリール基である。
【0052】
前記環状t−ブチルホスホナートは、t−ブチルホスホニックジクロリドとジオール系化合物とを塩基性条件下で還流反応させることにより製造されうる。
【0053】
ある実施形態では、ジオール系化合物1当量に対してt−ブチルホスホニックジクロリド1当量を用い、塩基および溶媒存在下で約80〜約200℃、好ましくは約100〜約150℃で約5〜約20時間、好ましくは約7〜約15時間還流させる。上記塩基はトリエチルアミン、上記溶媒はトルエンのような通常の有機溶媒でありうる。
【0054】
前記環状t−ブチルホスホナート化合物は、ベース樹脂約100重量部に対して約0.5〜約30重量部、好ましくは約1〜約20重量部、より好ましくは約1〜約10重量部、最も好ましくは約1〜約5重量部の量が用いられる。前記環状t−ブチルホスホナートが約30重量部を超過して用いられると、ポリカーボネートが分解するため樹脂組成物の機械的強度が低下しうる。
【0055】
(E)芳香族リン酸エステル化合物
本発明の難燃性樹脂組成物は、芳香族リン酸エステル化合物(E)をさらに任意に含みうる。
【0056】
前記環状t−ブチルホスホナート化合物と芳香族リン酸エステル化合物とをいっしょに用いると、少量でも難燃性は向上し、同時に衝撃強度のような物性も良いバランスで保持されうる。
【0057】
前記芳香族リン酸エステル化合物は下記化学式2で示される。
【0058】
【化3】

【0059】
式中、R、R、およびRは独立して水素またはC−Cアルキル基であり、Xはレゾルシノール、ヒドロキノール、およびビスフェノール−Aから誘導されたC−C20アリール基またはアルキル置換C−C20アリール基であり、nは約0〜4である。
【0060】
nが0の場合、前記化学式2で示される化合物としては、トリフェニルホスフェート、トリ(2,6−ジメチル)ホスフェートなどが挙げられ、nが1の場合、前記化合物としてはレゾルシノールビス(ジフェニル)ホスフェート、レゾルシノールビス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェート、レゾルシノールビス(2,4−ジターシャリーブチルフェニル)ホスフェート、ヒドロキノールビス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェート、ヒドロキノールビス(2,4−ジターシャリーブチルフェニル)ホスフェートなどが挙げられる。前記芳香族リン酸エステル化合物(E)は単独でまたは2種以上を互いに組み合わせて用いられうる。
【0061】
前記芳香族リン酸エステル化合物(E)は、ベース樹脂約100重量部に対して約20重量部以下、好ましくは約0.0001重量部〜約20重量部、より好ましくは約1〜約20重量部、最も好ましくは約5〜約18重量部の量で用いられうる。
【0062】
本発明に係る樹脂組成物は、それぞれの用途に応じて、他の添加剤をさらに含みうる。前記添加剤は、限定されないが、例として可塑剤、熱安定剤、滴下防止剤、酸化防止剤、相溶化剤、光安定剤、顔料、染料および/または無機充填剤などが挙げられる。前記添加剤は単独でまたは2種以上を互いに組み合わせて用いられうる。前記無機充填剤の例としては、石綿、ガラス繊維、タルク、セラミックおよび硫酸塩が挙げられる。前記添加剤は、全樹脂組成物に対して約30重量部以下、好ましくは約1〜約25重量部の量で用いられうる。
【0063】
本発明の樹脂組成物は公知の方法によって製造されうる。例えば、すべての成分と添加剤とをいっしょに混合して、押出機で押出し、ペレット状に製造されうる。前記ペレットは公知の方法により、コンピューター、テレビ、オーディオシステム、CDプレーヤー、カセットプレーヤー、電話機、ラジオ、洗濯機、乾燥器、エアコンなどのような電気・電子製品のハウジングまたはオフィスオートメーション機器の内外部品に形成されうる。本発明の樹脂組成物は、優れた難燃性、衝撃強度および耐スクラッチ性を有するため、電子製品のハウジングにより好適である。
【0064】
本発明は下記の実施例の参照によって、より理解されうるが、下記実施例は本発明の例示目的のためのものであり、いかなる方法においても、添付の特許請求の範囲に規定された本発明の範囲を制限するものではないと解されるべきである。
【実施例】
【0065】
下記の実施例および比較例で用いられた各成分は以下の通りである。
【0066】
(A)ポリカーボネート樹脂
重量平均分子量(Mw)が25,000のビスフェノール−A型のポリカーボネートを用いた。
【0067】
(B)ゴム変性芳香族ビニル樹脂
(B1)グラフト共重合体樹脂
ブタジエンゴムラテックス50重量部、スチレン36重量部、アクリロニトリル14重量部、および脱イオン水150重量部を混合した。前記混合物に、オレイン酸カリウム1.0重量部、クメンヒドロペルオキシド0.4重量部、メルカプタン系連鎖移動剤0.2重量部、ブドウ糖0.4重量部、硫酸鉄水和物0.01重量部、およびピロリン酸ナトリウム0.3重量部を添加した。前記ブレンドを75℃で5時間保ち、g−ABSラテックスを製造した。前記g−ABSラテックスに、硫酸0.4重量部を加え、凝固、乾燥することで、粉末状のゴム変性ポリスチレン樹脂(g−ABS)を製造した。
【0068】
(B2)共重合体樹脂
スチレン75重量部、アクリロニトリル25重量部、および脱イオン水120重量部を混合した。前記混合物に、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2重量部、リン酸三カルシウム0.4質量部およびメルカプタン系連鎖移動剤0.2重量部を添加した。得られた溶液を90分かけて80℃まで昇温させた後、180分間保持した。得られた生成物を洗浄、脱水および乾燥して粉末状のスチレン−アクリロニトリル共重合体(SAN)を製造した。前記スチレン−アクリロニトリル共重合体(SAN)の重量平均分子量(Mw)は約80,000〜約100,000であった。
【0069】
(C)ポリメチルメタクリレート樹脂
韓国の(株)LG化学社製のPMMA IH 830 Gradeを用いた。
【0070】
(d1)環状t−ブチルホスホナート
塩化アルミニウム(130g、1.0mol)とジクロロメタン(200mL)とを容器に入れて三塩化リン(140g、1.0mol)を室温で滴下しながら1時間撹拌した。容器の温度を0℃まで冷却し、窒素雰囲気下、t−ブチルクロリド(93g、1.0mol)を撹拌しながら滴下して加えた。滴下完了後、混合物を室温で12時間さらに撹拌してスラリーとした。得られた混合物にクロロホルム(200mL)を添加して撹拌した後、希塩酸(400mL)を添加して撹拌した。その後、有機層を分取し、減圧留去してt−ブチルホスホニックジクロリドを得た。その後、t−ブチルホスホニックジクロリドと2,2−メチル−プロパンジオールそれぞれ1当量、トリエチルアミン2当量、およびトルエン200mlを容器に入れて130℃で10時間還流した。反応完結後、酢酸エチル(100ml)と水(200ml)を容器に加え、固体が消失するまで撹拌した。次に、有機層を分取し、減圧留去して純度99%以上、収率50%で環状t−ブチルホスホナートを得た。
【0071】
(d2)環状フェニルホスホナート
t−ブチルクロリドの代わりに塩化フェニルを用いて、(d1)と同様の手順により、純度99%以上、収率50%で環状フェニルホスホナートを得た。
【0072】
(d3)環状メチルホスホナート
t−ブチルクロリドの代わりに塩化メチルを用いて、(d1)と同様の手順により、純度99%以上、収率50%で環状メチルホスホナートを得た。
【0073】
(d4)環状n−ブチルホスホナート
t−ブチルクロリドの代わりにn−ブチルクロリドを用いて、(d1)と同様の手順により、純度99%以上、収率50%で環状n−ブチルホスホナート−ブチルクロリドを得た。
【0074】
(E)芳香族リン酸エステル化合物
テトラ−2,6−ジメチルフェニルレゾルシノールジホスフェート(日本大八化学工業株式会社製、製品名: PX−200)を用いた。
(実施例1〜7)
下記表1に示した成分を通常のミキサーに入れて、当該混合物を通常の二軸押出機により200〜280℃で押出してペレットを製造した。製造したペレットを80℃で2時間乾燥した後、成形温度180〜280℃、金型温度40〜80℃で射出成形機により難燃試験片を形成した。難燃性は難燃規定UL94VBに従い、1/8”の厚さで測定した。
【0075】
【表1】

【0076】
(比較例1〜15)
比較例1〜6は、環状t−ブチルホスホナート化合物の代わりに芳香族リン酸エステル化合物を用いて実施例2〜7と同様の手順で実施した。比較例7〜15は、環状t−ブチルホスホナートの代わりに、環状フェニルホスホナート、環状メチルホスホナート、または環状n−ブチルホスホナートを用いて製造した。比較例1〜6および比較例7〜15の測定結果をそれぞれ表2および表3に示した。
【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
表1、表2および表3に示すように、芳香族リン酸エステル化合物のみを難燃剤として用いた比較例1に比べて、環状t−ブチルホスホナートを用いた実施例1は、少量の難燃剤でも優れた難燃性を示す。また、芳香族リン酸エステル化合物のみを用いた比較例1〜6に比べて、環状t−ブチルホスホナートを用いた実施例2〜7は、1/8”の厚さで優れた難燃性を示す。さらに、t−ブチル基の代わりにフェニル基、メチル基、またはn−ブチル基を有する環状ホスホナート化合物を用いた比較例7〜13に比べて、環状t−ブチルホスホナート化合物を用いた実施例1、5および7は、1/8”の厚さで優れた難燃性を示す。
【0080】
以上のように、本発明では特定の推奨される実施形態について示されているが、当業者であれば、その思想、および後述する特許請求の範囲に記載される発明の範囲から逸脱することなく、容易に様々な変更、修飾を加えることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリカーボネート樹脂約50〜約100重量%;
(B)ゴム変性芳香族ビニル樹脂約0〜約50重量%;
(C)アルキル(メタ)アクリレート樹脂約0〜約50重量%;および
(D)(A)、(B)および(C)を含むベース樹脂100重量部に対して、環状t−ブチルホスホナート化合物約0.5〜約30重量部;
を含む、非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
前記環状t−ブチルホスホナート化合物(D)が下記化学式1で示される、請求項1に記載の非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物:
【化1】

式中、RおよびRは、独立して水素、C−CアルキルおよびC−C10アリールである。
【請求項3】
前記ゴム変性芳香族ビニル樹脂(B)が、芳香族ビニル重合体を含むマトリックスにゴム状重合体が分散された重合体である、請求項1に記載の非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
前記ゴム変性芳香族ビニル樹脂(B)が、(B1)ゴム状重合体約4〜約65重量%、芳香族ビニル単量体約30〜約95重量%、前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体約1〜約20重量%、並びに加工性および耐熱性を付与する単量体約0〜約15重量%をグラフト重合することで製造されたグラフト共重合体樹脂約20〜約100重量%;並びに(B2)芳香族ビニル単量体約60〜約90重量%、前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体約10〜約40重量%、並びに加工性および耐熱性を付与する単量体約0〜約30重量%を含む共重合体樹脂約0〜約80重量%を含む、請求項3に記載の非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
芳香族ビニル単量体と共重合可能な前記単量体が不飽和ニトリル含有化合物であり;加工性および耐熱性を付与する前記単量体がアクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、N−置換マレイミドまたはこれらの混合物である、請求項4に記載の非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
約0.0001〜約20重量部の芳香族リン酸エステル化合物(E)をさらに含む、請求項1に記載の非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
前記芳香族リン酸エステル化合物(E)が下記化学式2で示される、請求項6に記載の非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物:
【化2】

式中、R、R、およびRは独立して水素またはC−Cアルキルであり;Xはレゾルシノール、ヒドロキノール、およびビスフェノール−Aから誘導されたC−C20アリールまたはアルキル置換のC−C20アリールであり;nは約0〜4である。
【請求項8】
熱安定剤、滴下防止剤、酸化防止剤、相溶化剤、光安定剤、顔料、染料、無機充填剤およびこれらの混合物からなる群から選択される添加剤をさらに含む、請求項1に記載の非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形品。

【公表番号】特表2011−503318(P2011−503318A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533950(P2010−533950)
【出願日】平成19年12月31日(2007.12.31)
【国際出願番号】PCT/KR2007/007014
【国際公開番号】WO2009/066830
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(500005066)チェイル インダストリーズ インコーポレイテッド (263)
【Fターム(参考)】