説明

非ランゲルハンス島組織における調節された膵臓ホルモンを誘導する方法

【課題】膵臓ホルモン産生を誘導するための方法および薬学的組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】PDX発現またはPDX活性を増大させる化合物を、被験体における膵臓ホルモン産生を誘導するのに十分な量で含む薬学的組成物を提供することによって、上記課題は、解決された。本発明は、被験体における膵臓関連障害を処置する方法を提供し、その方法は、該被験体におけるPDX発現またはPDX活性を増加させる、治療的に有効な量の化合物を、処置の必要にある被験体に投与し、それにより該被験体における該膵臓関連障害を処置する工程を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、1999年6月1日提出のUSSN60/137,143および2000年4月19日提出のUSSN60/198,532に対して優先権を主張する。これらの出願の内容は、本明細書中でその全体において参考として援用される。
(発明の分野)
【0002】
本発明は、一般に、膵臓の内分泌表現型を誘導する方法、および非内分泌組織における膵臓ホルモンの産生を含む機能に関し、特に内分泌関連障害の処置のための方法および薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
内分泌の膵臓は、主に、ペプチドホルモングルカゴン、インスリン、ソマトスタチンおよび膵臓のポリペプチドを合成し、そして分泌する島細胞からなる。インスリン遺伝子発現は、特定の転写因子によって部分的に媒介される制御機構を介して、哺乳動物膵臓の膵島β細胞に限定される。他の細胞において、インスリン、他の膵臓ホルモンおよび特定のペプチダーゼ遺伝子は、転写的にサイレントである。ホメオドメインタンパク質PDX−1(膵臓および十二指腸のホメオボックス遺伝子−1、また、IDX−1、IPF−1、STF−1またはIUF−1としても公知)は、膵島の発達および機能の調節における中心的な役割を果たす。PDX−1は、直接的または間接的のいずれかで、種々の遺伝子の島細胞特異的発現(例えば、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、プロインスリンコンバターゼ1/3(PC1/3)、GLUT−2およびグルコキナーゼ)に関与する。さらに、PDX−1は、グルコースに対する応答におけるインスリン遺伝子の転写を媒介する。
【0004】
(発明の要旨)
本発明は、肝臓における膵臓および十二指腸のホメオボックス(homobox)遺伝子1(PDX−1)の異所性の発現が、サイレントな膵臓ホルモン遺伝子の発現およびプロセシング機構(これは、プロホルモンを成熟した生物学的に活性なホルモンへと転換する)を誘導するという発見に部分的に基づく。
【0005】
本発明は、被験体における膵臓ホルモン(例えば、インスリン、グルカゴン、およびソマトスタチン)のレベルを誘導する方法を提供する。1つの局面において、この方法は、その必要がある被験体に、PDXの発現または活性を増加する化合物を、被験体における膵臓ホルモンの産生を誘導するのに十分な量で投与する工程を包含する。別の局面において、この方法は、膵臓ホルモンを発現し得る細胞を提供する工程、この細胞を、PDXの発現または活性を増加する化合物と接触させる工程、およびこの細胞を被験体に導入する工程を包含し、これによって被験体における膵臓ホルモンの産生を誘導する。
【0006】
被験体における膵臓関連障害(例えば、糖尿病)を処置する方法もまた、本発明において提供される。この方法は、被験体に、PDX発現を増加する化合物の治療的有効量を投与する工程を包含する。
【0007】
別の局面において、本発明は、被験体において膵島遺伝子発現プロフィールを誘導する方法を提供する。この方法は、その必要がある被験体に、PDXの発現または活性を増加する化合物を、膵島遺伝子の発現を誘導するのに十分な量で投与する工程を包含する。
【0008】
本発明のなおさらなる局面は、細胞における膵島細胞の表現型を誘導または増大する方法である。この方法は、細胞を、この細胞において膵島細胞の表現型を誘導または増大するのに十分な量の、PDXの発現または活性を増加する化合物と接触させる工程を包含する。
【0009】
PDX発現を増加する化合物および薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物もまた、含まれる。
【0010】
他に規定しない限り、本明細書中で使用される全ての技術および科学的な用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載される方法および材料と同様の、または等価な方法および材料が、本発明の実施または試験において使用され得るが、適切な方法および材料は、以下に記載される。本明細書中で言及される全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、その全体において参考として援用される。コンフリクトの場合において、本明細書(規定を含む)が規制する。さらに、材料、方法および実施例は、単なる例示であり、そして限定するようには意図されない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の他の特色および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかである。
【0012】
(発明の詳細な説明)
本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1) 被験体において膵臓ホルモン産生を誘導する方法であって、該方法は、PDX発現またはPDX活性を増加させる化合物を、該被験体において膵臓ホルモン産生を誘導するのに十分な量で、その必要にある被験体に投与する工程を包含する、方法。
(項目2) 項目1に記載の方法であって、ここで、前記化合物は、PDXポリペプチド、PDXポリペプチドをコードする核酸、またはPDXポリペプチドをコードする核酸の発現を増加させる核酸である、方法。
(項目3) PDXポリペプチドをコードする前記核酸がDNA分子である、項目2に記載の方法。
(項目4) PDXポリペプチドをコードする前記核酸がプラスミドに存在する、項目2に記載の方法。
(項目5) PDXポリペプチドをコードする前記核酸がウイルスベクターに存在する、項目2に記載の方法。
(項目6) PDXポリペプチドをコードする前記核酸がウイルスに被包されている、項目2に記載の方法。
(項目7) 前記ウイルスが肝臓向性である、項目6に記載の方法。
(項目8) 前記膵臓ホルモンが、インスリン、グルカゴンおよびソマトスタチンからなる群より選択される、項目1に記載の方法。
(項目9) 前記膵臓ホルモンがインスリンである、項目1に記載の方法。
(項目10) 前記化合物を投与する工程が、前記被験体における肝性インスリンレベルを増加させる、項目1に記載の方法。
(項目11) 前記化合物を投与する工程が、前記被験体における血清インスリンレベルを増加させる、項目1に記載の方法。
(項目12) 前記被験体がげっ歯動物またはヒトである、項目1に記載の方法。
(項目13) 前記化合物が、トランスフェクション薬剤と共同して前記被験体に投与される、項目1に記載の方法。
(項目14) 前記投与が、腹腔内送達、皮下送達、経鼻送達、静脈内送達、経口送達および経皮送達からなる群より選択される経路によるものである、項目1に記載の方法。
(項目15) 前記投与が静脈内投与である、項目1に記載の方法。
(項目16) 被験体における膵臓関連障害を処置する方法であって、該方法は、該被験体におけるPDX発現またはPDX活性を増加させる、治療的に有効な量の化合物を、処置の必要にある被験体に投与し、それにより該被験体における該膵臓関連障害を処置する工程を包含する、方法。
(項目17) 前記膵臓障害が糖尿病である、項目16に記載の方法。
(項目18) 項目16に記載の方法であって、ここで前記化合物がPDXポリペプチド、PDXポリペプチドをコードする核酸、またはPDXポリペプチドをコードする核酸の発現を増加させる核酸である、方法。
(項目19) PDXポリペプチドをコードする前記核酸がDNAである、項目18に記載の方法。
(項目20) PDXポリペプチドをコードする前記核酸がプラスミドに存在する、項目18に記載の方法。
(項目21) PDXポリペプチドをコードする前記核酸がウイルスベクターに存在する、項目18に記載の方法。
(項目22) PDXポリペプチドをコードする前記核酸がウイルスに被包されている、項目18に記載の方法。
(項目23) 前記ウイルスが肝臓向性である、項目22に記載の方法。
(項目24) 前記化合物を投与する工程が、前記被験体における肝性インスリンレベルを増加させる、項目16に記載の方法。
(項目25) 前記化合物を投与する工程が、前記被験体における血清インスリンレベルを増加させる、項目16に記載の方法。
(項目26) 前記被験体がげっ歯動物またはヒトである、項目16に記載の方法。
(項目27) 前記投与が、腹腔内送達、皮下送達、経鼻送達、静脈内送達、経口送達および経皮送達からなる群より選択される経路によるものである、項目16に記載の方法。
(項目28) 前記投与が静脈内投与である、項目16に記載の方法。
(項目29) 前記化合物が、トランスフェクション薬剤と共同して前記被験体に投与される、項目16に記載の方法。
(項目30) 細胞において、ランゲルハンス島細胞の表現型を誘導するか、または増強させる方法であって、該方法は、該細胞を、該細胞においてランゲルハンス島細胞の表現型を誘導または増強させるのに十分な量で、PDX発現またはPDX活性を増加させる化合物と接触させる工程を包含する、方法。
(項目31) 項目30に記載の方法であって、ここで、前記化合物は、PDXポリペプチド、PDXポリペプチドをコードする核酸、またはPDXポリペプチドをコードする核酸の発現を増加させる核酸である、方法。
(項目32) PDXポリペプチドをコードする前記核酸がDNAである、項目31に記載の方法。
(項目33) PDXポリペプチドをコードする前記核酸がプラスミドに存在する、項目31に記載の方法。
(項目34) PDXポリペプチドをコードする前記核酸がウイルスベクターに存在する、項目31に記載の方法。
(項目35) PDXポリペプチドをコードする前記核酸がウイルスに被包されている、項目31に記載の方法。
(項目36) 前記ウイルスが肝臓向性である、項目35に記載の方法。
(項目37) 前記細胞が多能性幹細胞である、項目30に記載の方法。
(項目38) 前記細胞が肝性幹細胞である、項目30に記載の方法。
(項目39) 前記細胞が肝細胞である、項目30に記載の方法。
(項目40) 前記細胞がインビトロで提供される、項目30に記載の方法。
(項目41) 前記細胞が哺乳動物被験体からエキソビボで提供される、項目30に記載の方法。
(項目42) 被験体における膵臓ホルモン産生を誘導する方法であって、該方法は、以下:
a)膵臓ホルモンを発現し得る細胞を提供する工程;
b)該細胞を、該細胞における膵臓ホルモン産生を増加させるのに十分な量においてPDX発現またはPDX活性を増加させる化合物と接触させる工程;および
c)該細胞を該被験体内へ導入する工程、
を包含し、それにより該被験体における膵臓ホルモン産生を誘導する、方法。
(項目43) 項目42に記載の方法であって、ここで、前記化合物は、PDXポリペプチド、PDXポリペプチドをコードする核酸、またはPDXポリペプチドをコードする核酸の発現を増加させる核酸である、方法。
(項目44) PDXポリペプチドをコードする前記核酸がDNAである、項目43に記載の方法。
(項目45) PDXポリペプチドをコードする前記核酸がプラスミドに存在する、項目43に記載の方法。
(項目46) PDXポリペプチドをコードする前記核酸がウイルスベクターに存在する、項目43に記載の方法。
(項目47) PDXポリペプチドをコードする前記核酸がウイルスに被包されている、項目43に記載の方法。
(項目48) 前記ウイルスが肝臓向性である、項目47に記載の方法。
(項目49) 前記細胞が多能性幹細胞である、項目42に記載の方法。
(項目50) 前記細胞が肝性幹細胞である、項目42に記載の方法。
(項目51) 前記細胞が肝細胞である、項目42に記載の方法。
(項目52) 前記被験体がげっ歯動物またはヒトである、項目42に記載の方法。
(項目53) 前記膵臓ホルモンが、インスリン、グルカゴンおよびソマトスタチンからなる群より選択される、項目42に記載の方法。
(項目54) 前記膵臓ホルモンがインスリンである、項目42に記載の方法。
(項目55) 前記化合物を投与する工程が、前記被験体における肝性インスリンレベルを増加させる、項目42に記載の方法。
(項目56) 前記化合物を投与する工程が、前記被験体における血清インスリンレベルを増加させる、項目42に記載の方法。
(項目57) 被験体においてランゲルハンス島遺伝子発現プロフィールを誘導する方法であって、該方法は、PDX発現またはPDX活性を増加させる化合物を、該被験体においてランゲルハンス島遺伝子発現を誘導するのに十分な量で、その必要にある被験体に投与する工程を包含する、方法。
(項目58) 項目57に記載の方法であって、ここで、前記化合物は、PDXポリペプチド、PDXポリペプチドをコードする核酸、またはPDX発現を増加させる核酸である、方法。
(項目59) PDXポリペプチドをコードする前記核酸がDNA分子である、項目58に記載の方法。
(項目60) PDXポリペプチドをコードする前記核酸がプラスミドに存在する、項目58に記載の方法。
(項目61) PDXポリペプチドをコードする前記核酸がウイルスベクターに存在する、項目58に記載の方法。
(項目62) PDXポリペプチドをコードする前記核酸がウイルスに被包されている、項目58に記載の方法。
(項目63) 前記ウイルスが肝臓向性である、項目62に記載の方法。
(項目64) 前記ランゲルハンス島遺伝子が、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチンおよびプロインスリンコンバターゼ1/3からなる群より選択される、項目57に記載の方法。
(項目65) 前記被験体がげっ歯動物またはヒトである、項目57に記載の方法。
(項目66) 前記化合物が、トランスフェクション薬剤と共同して前記被験体に投与される、項目57に記載の方法。
(項目67) 前記投与が、腹腔内送達、皮下送達、経鼻送達、静脈内送達、経口送達および経皮送達からなる群より選択される経路によるものである、項目57に記載の方法。
(項目68) 前記投与が静脈内投与である、項目57に記載の方法。
(項目69) PDX発現またはPDX活性を増加させる化合物および薬学的に受容可能なキャリアを含む、薬学的組成物。
(項目70) 項目69に記載の方法であって、ここで、前記化合物は、PDXポリペプチド、PDXポリペプチドをコードする核酸、またはPDXポリペプチドをコードする核酸の発現を増加させる核酸である、方法。

【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、アデノウイルス処置後の、マウスインスリンI(mI−1)、マウスインスリンII(mI−2)、ヒトインスリン、PDX−1およびβ−アクチンについての、Balb/cマウス肝臓組織におけるmRNAの検出を示す図である(RT−PCRにより決定した)。レーン1:DNAなし(PCRのネガティブコントロール);レーン2〜6:AdCMV−PDX−1処置したマウスからの肝臓;レーン7、8:AdCMV−PDX−1 + AdRIP−1−hIns処置したマウスからの肝臓;レーン9〜11:コントロールAdCMV−β−gal + AdRIP−1−hIns処置したマウスからの肝臓;レーン12、13:AdCMV−hIns処置したマウスからの肝臓;レーン14:正常なマウス膵臓。
【図2】図2は、マウス組織から抽出したインスリン関連ペプチドのHPLC溶出プロフィールの例示である。パネルAは、PDX−1処置したマウスの膵臓からのプロフィールを示す。パネルBは、PDX−1処置したマウスの肝臓からのプロフィールを示す。
【図3】図3は、RT−PCRにより決定される、PDX−1(ソマトスタチン Somato)、プロインスリンコンバターゼPC1/3(PC1/3)、グルカゴン(Glucg)およびβ−アクチンについてのmRNAの検出を示す図である:PDX−1およびコントロール処置したマウスから抽出した全RNAを、PC1/3特異的プライマーを使用して逆転写した。レーン1〜3:AdCMV−PDX−1により処置したマウス;レーン4〜5:AdCMV−β−galにより処置したマウス;レーン6:膵臓;レーン7:cDNAなし(PCRのコントロール)。
【図4】図4は、マウス肝臓における異所性PDX−1発現が、STZ誘導高血糖症を寛解することを示す図である:12〜13週齢のC57BL/6雄性マウスをクエン酸緩衝液中の220mg/kgのSTZにより処置した。36〜48時間後、STZ処置マウスをAdCMVPDX−1により注射するか(n=15匹のマウス)、またはコントロールとしてAdCMVβ−galにより注射した(n=22、しかし、STZ処置の3〜5日後に12匹が死亡し、STZ処置の6〜7日後にさらに3匹のマウスが死亡した)。AdCMVPDX−1処置に際して、死亡率は生じなかった。各処置は、200μl生理食塩水中の2×109PFU(プラーク形成単位)の組換えアデノウイルスの全身注射を含んだ。グルコースレベルを、眼の静脈から採取した血液において決定した。
【図5】図5は、培養中の成熟肝細胞における異所性PDX発現が、インスリンプロモーター(ラットインスリン−1プロモーター)を活性化すること(これは、AdRIPhInsによって同じ細胞へ同時送達される)を示す図である。ヒトインスリンは図1におけるように検出される。レーン1:AdCMV PDX−1 + AdRIP hInsにより処置された細胞、レーン2:AdCMVβ−ガラクトシダーゼ+AdRIP hIns、レーン3:コントロール。
【図6】図6は、胎仔Fisherラット(E14)肝細胞の一次単層培養物におけるインスリン1およびソマトスタチン遺伝子発現の誘発を示す図である。胎仔肝細胞は、妊娠の14日目でFisher344ラット胚から単離し、そしてコラーゲンで被覆した組織培養ディッシュ上にプレーティングした。細胞を2〜5MOI(感染多重度=1細胞あたりのウイルス粒子数)のAdCMVPDX−1により感染させた。全RNAをウイルス処置の4日後に培養物から抽出し、そしてRT−PCRにより、ソマトスタチン遺伝子発現について分析した。RNAを、オリゴ(dT)15プライマーを使用して、図1におけるように逆転写し、そしてPCRによる増幅を、表1に述べるようなプライマーおよび条件を使用して実施した。レーン1〜3:PDX−1により処置した細胞からの例、レーン4〜6:未処置サンプル(コントロール);レーン7:DNAなし、PCR産物を1.7%アガロースゲル電気泳動上で分離した。
【図7】図7は、インスリンプロモーター上のA3/A4部位へのPDX−1結合のグルコース調節に対するGLUT2およびGK過剰発現の効果を示す図である。中間継代のRIN−38細胞を、未処置(レーン1)、AdCMV−GLUT2またはAdCMV−GKで処置(レーン3、4)、またはコントロールAdCMVCATで処置(レーン5)について研究した。ウイルス処置の48時間後、核抽出物を調製し、そしてEMSA分析を、プローブとしてA3/A4配列を使用して実施した。最後の2つのレーン:1μlの抗PDX−1抗体(C.Wrightからの提供物)を核抽出物(+)に添加し、そして複合体形成をブロックした。免疫前の血清を核抽出物(−)(PDX−1が、実際にインスリンプロモーターの所定の部分に結合したタンパク質であることを認識するのに使用される)に添加した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、肝臓における膵臓および十二指腸のホメオボックス遺伝子1(PDX−1)の異所性発現が、肝臓細胞におけるランゲルハンス島細胞の表現型を誘導し、そして膵臓ホルモンの発現、産生およびプロセシングを生じるという発見に一部基づく。PDX−1はまた、IDX−1、IPF−1、STF−1およびIUF−1としても公知であり、これらのすべてを、本明細書中で集合的に「PDX」という。さらに、本発明は、膵臓障害の処置のための方法および薬学的組成物を提供する。
【0015】
その種々の局面および実施形態において、本発明は、PDX発現または活性を増大する化合物を用いて被験体に投与する工程、あるいはこのような化合物と細胞とを接触させる工程を包含する。この化合物は、例えば、(i)PDXポリペプチド;(ii)PDXポリペプチドをコードする核酸;(iii)PDXポリペプチドをコードする核酸の発現を増大する核酸ならびにその誘導体、フラグメント、アナログおよびホモログであり得る。PDXポリペプチドをコードする核酸の発現を増大する核酸としては、例えば、プロモーター、エンハンサーが挙げられる。この核酸は、内因性または外因性のいずれかであり得る。
【0016】
本明細書中で使用される場合、用語「核酸」は、DNA分子(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)、RNA分子(例えば、mRNA)、ヌクレオチドアナログを使用して作製された、DNAまたはRNAのアナログ、ならびにそれらの誘導体、フラグメントおよびホモログを含むことが意図される。この核酸分子は、一本鎖または二本鎖であり得る。好ましくは、この核酸はDNAである。PDXポリペプチドをコードする核酸の発現を増大する核酸としては、例えば、プロモーター、エンハンサーが挙げられる。この核酸は、内因性または外因性のいずれかであり得る。
【0017】
PDXをコードする核酸の適切な供給源としては、例えば、それぞれGenBank受託番号U35632およびAAA88820として入手可能なヒトPDX核酸(およびそのコードされたタンパク質配列)が挙げられる。他の供給源としては、ラットのPDX核酸が挙げられ、そしてタンパク質配列は、それぞれGenBank受託番号U35632およびAAA18355において示される。これは、本明細書中でその全体において参考として援用される。さらなる供給源としては、ゼブラフィッシュのPDX核酸が挙げられ、そしてタンパク質配列は、それぞれGenBank受託番号AF036325およびAAC41260において示される。これは、本明細書中でその全体において参考として援用される。
【0018】
化合物は、被験体に、直接的(すなわち、被験体は、核酸または核酸含有ベクターに直接的に曝露される)または間接的(すなわち、細胞を、まずインビトロで核酸を用いて形質転換し、次いで、被験体に移植する)のいずれかで投与され得る。例えば、1つの実施形態において、哺乳動物細胞を、被験体から単離し、そしてPDX核酸をインビトロで単離された細胞に導入する。細胞を、適切な哺乳動物被験体に再導入する。好ましくは、この細胞を、自己の被験体に導入する。化合物の投与経路としては、例えば、非経口投与、静脈内投与、皮内投与、皮下投与、経口投与(例えば、吸入)、経皮(局所)投与、経粘膜投与および直腸投与が挙げられ得る。1つの実施形態において、この化合物は、静脈内投与される。好ましくは、この化合物は、腎臓嚢(capsule)の下に移植されるか、または門脈に注射される。
【0019】
細胞は、膵臓ホルモンを産生し得る任意の細胞(例えば、筋肉、脾臓、腎臓、血液、皮膚、膵臓または肝臓)であり得る。1つの実施形態において、この細胞は、ランゲルハンス島細胞として機能し得る(すなわち、膵臓ホルモン(好ましくは、細胞外刺激によるインスリン)を蓄積し、プロセスし、そして分泌する)。別の実施形態において、この細胞は肝細胞(すなわち、肝臓細胞)である。さらなる実施形態において、この細胞は、全能性(tutipont)または多能性である。代替の実施形態において、この細胞は、造血幹細胞、胚性幹細胞または好ましくは、肝性幹細胞である。
【0020】
被験体は、好ましくは哺乳動物である。哺乳動物は、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマまたは雌ウシであり得る。
【0021】
(膵臓ホルモン産生を誘導する方法)
種々の局面において、本発明は、被験体において膵臓ホルモン産生を誘導する方法を提供する。例えば、この方法は、被験体に、PDXの発現または活性を増加させる化合物を、膵臓ホルモン産生を誘導するに十分な量で投与することを包含し得る。
【0022】
別の局面において、この方法は、細胞を被験体から提供すること、この細胞を、膵臓ホルモン産生を増加させるに十分な量の、PDX発現を増加させる化合物と接触させること、およびこの細胞を被験体に導入することを包含する。1つの実施形態において、膵臓ホルモン産生は、被験体に細胞を導入する際に、インビトロおよびインビボで起こる。代替の実施形態において、膵臓ホルモン産生は、被験体に細胞を導入する際に、インビボで起こる。
【0023】
膵臓ホルモンは、例えば、インスリン、グルカゴン(glucogon)、ソマトスタチンまたは島アミロイドポリペプチド(IAPP)であり得る。インスリンは、肝性インスリンまたは血清インスリンであり得る。別の実施形態において、膵臓ホルモンは、肝性インスリンである。代替の実施形態において、膵臓ホルモンは、血清インスリンである(すなわち、例えばグルコースの利用、炭水化物、脂肪およびタンパク質の代謝を促進し得る、インスリンの完全にプロセシングされた形態)。
【0024】
いくつかの実施形態において、膵臓ホルモンは、「プロホルモン」形態である。他の実施形態において、膵臓ホルモンは、このホルモンの、完全にプロセシングされた、生物学的に活性な形態である。他の実施形態において、膵臓ホルモンは、調節制御下にある。すなわち、このホルモンの分泌が、内因的に産生された膵臓ホルモンと同様に、栄養制御下かつホルモン制御下にある。例えば、本発明の1つの局面において、ホルモンは、グルコースの調節制御下にある。
【0025】
化合物に曝露される(すなわち、接触される)細胞集団は、任意数の細胞(すなわち、1つ以上の細胞)であり得、そしてインビトロ、インビボ、またはエキソビボで、提供され得る。
【0026】
(膵臓関連障害を処置または予防する方法)
被験体における膵臓関連障害の徴候を処置する(すなわち、予防または遅延させる)方法もまた、本発明に含まれる。種々の局面において、この方法は、PDXの発現または活性を調節する化合物を被験体に投与する工程を包含する。「調節する」は、PDXの発現または活性の増加または減少を含むことを意味する。好ましくは、調節は、被験体におけるPDXの発現または活性を膵臓障害に罹患しない被験体に類似するレベルまたは同一のレベルまで変化させることを生じる。他の局面において、この方法は、ランゲルハンス島細胞機能(例えば、インスリン、ソマトスタチンまたはグルカゴンを発現し得る)を有する非膵臓細胞を誘導する化合物を被験体に投与する工程を包含する。1つの実施形態において、化合物は、PDXの発現または活性を調節する。
【0027】
膵臓障害は、膵臓に関連する任意の障害であり得る。例えば、方法は、膵臓のホルモン不全(例えば、糖尿病)、インスリノーマおよび高血糖を処置するに有用であり得る。本質的には、病因論的にPDX活性と関連する任意の障害は、処置可能であると考えられる。
【0028】
治療的に使用される場合、本明細書中に記載されるPDX調節化合物は、本明細書中で「治療薬」という。治療薬の投与の方法としては、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、および経口の経路が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の治療薬は、任意の都合よい経路によって(例えば、注入またはボーラス注射によって、上皮または皮膚粘膜層(例えば、口腔粘膜、直腸および腸管の粘膜など)を通じた吸収によって)投与され得、そして他の生物学的活性剤とともに投与され得る。投与は、全身性または局所性であり得る。さらに、任意の適切な経路(脳室内注射および髄腔内注射を含む)によって治療薬を中枢神経系に投与することは有利であり得る。脳室内注射は、リザーバーに結合した脳室内カテーテル(例えば、Ommayaリザーバー)によって容易にされ得る。肺への投与はまた、吸入器または噴霧器、およびエアロゾル剤を備える処方物の使用によって利用され得る。処置が必要な領域に治療薬を局所的に投与することもまた所望され得る;これは、例えば(限定の目的ではないが)、外科手術中の局所注入、局所的適用、注射、カテーテルの方法、坐剤の方法、または移植の方法によって達成され得る。種々の送達系が公知であり、そして例えば、以下を含む本発明の治療薬を投与するために使用され得る:(i)リポソーム、微粒子、微小カプセルへのカプセル化;(ii)治療薬を発現し得る組換え細胞;(iii)レセプター媒介エンドサイトーシス(例えば、WuおよびWu、1987.J.Biol.Chem.262:4429−4432を参照のこと);(iv)レトロウイルス、アデノウイルスまたは他のベクターなどの一部としての治療薬核酸の構築物。本発明の1つの実施形態において、治療薬は、ビヒクル(特に、リポソーム)中で送達され得る。リポソームにおいて、本発明のタンパク質は、他の薬学的に受容可能なキャリアに加えて、ミセル、不溶性単層、液晶、または水溶液中の層状の層として凝集した形態で存在する両親媒性剤(例えば、脂質)と組合せられる。リポソーム処方物に適切な脂質は、以下を含むがこれらに限定されない:モノグリセリド、ジグリセリド、スルファチド、リゾレシチン、リン脂質、サポニン、胆汁酸など。このようなリポソーム処方物の調製は、例えば、米国特許第4,837,028号;および米国特許第4,737,323号(これらの全てが本明細書中に参考として援用される)に開示されるように、当技術分野のレベル内である。さらに別の実施形態において、治療薬は、制御された放出系(例えば、送達ポンプ(例えば、Saudekら、1989 New Engl J Med 321:574を参照のこと)および半透性のポリマー物質(例えば、Howardら、1989.J Neurosurg 71:105を参照のこと)を含む)で送達され得る。さらに、制御された放出系は、治療標的(例えば、脳)の近傍に置かれ得、従って、全身性用量の画分のみが要求される。例えば、Goodson、Medical Applications of Controlled Release 1984(CRC Press,Bocca Raton,FL)を参照のこと。
【0029】
本発明の特定の実施形態において、治療薬がタンパク質をコードする核酸である場合、治療薬核酸は、インビボで投与され、適切な核酸発現ベクターの一部として構築される工程およびそれが細胞内になるように投与される工程によって(例えば、レトロウイルスベクターの使用、直接注射、微粒子ボンバードメントの使用、脂質または細胞表面レセプターまたはトランスフェクション剤による被覆によって)、または核へ侵入することが公知のホメオボックス様ペプチド(例えば、Joliotら、1991.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:1864−1868を参照のこと)に連結されて投与される工程などによって、そのコードするタンパク質の発現を促進し得る。あるいは、核酸治療薬は、細胞内へ導入され得、そして同種組換えまたはエピソームの残存によって、発現のために宿主細胞DNA内に組み込まれ得る。
【0030】
本明細書中で使用されるように、用語「治療的有効量」は、意義のある患者の利点(すなわち、処置、治癒、予防もしくは関連する医療状態の改善、または処置、治癒、予防もしくはこのような状態の改善の割合の増加)を示すに十分である薬学的組成物の活性成分または方法のそれぞれの総量を意味する。個々の活性成分に適用され、単独で投与される場合、この用語は、その成分をいう。組み合わせに適用される場合、この用語は、連続的か同時にかのいずれで組み合わせて投与されても治療効果を生じる活性成分の結合した量をいう。
【0031】
特定の障害または状態の処置に効果的である本発明の治療薬の量は、その障害または状態の特性に依存し、そして平均的な当業者による標準的な医療技術によって決定され得る。さらに、インビトロアッセイは、必要に応じて利用され、最適な用量範囲を同定するに役立ち得る。処方物において利用されるべき正確な用量はまた、投与の経路、および疾患または障害の全体的な重篤度に依存し、そして開業医の判断およびそれぞれの患者の環境に従って決定されるべきである。最終的には、担当医は、個々の患者それぞれを処置するための量で本発明のタンパク質の量を決定する。最初は、担当医は、低用量の本発明のタンパク質を投与し、そして患者の応答を観察する。本発明のタンパク質のより多い用量は、患者に最適な治療効果が得られるまで投与され得、その時点で用量はそれ以上増加されない。しかし、本発明の治療薬の静脈内投与について適切な用量範囲は、一般に体重1キログラム(Kg)当たり約20〜500マイクログラム(μg)の活性化合物である。鼻腔内投与について適切な用量範囲は、一般に約0.01pg/kg体重〜1mg/kg体重である。効果的な用量は、インビトロまたは動物モデル試験系由来の用量応答曲線から外挿され得る。坐剤は、体重の0.5%〜10%の範囲で一般に活性成分を含み;経口処方物は、好ましくは10%〜95%の活性成分を含む。
【0032】
本発明の治療薬を使用する静脈内治療の持続は、処置される疾患の重篤度および個々の患者それぞれの状態および潜在的な特有の応答に依存して変動する。本発明のタンパク質のそれぞれの適用の持続は、連続静脈投与の12〜24時間の範囲である。最終的には、担当医は、本発明の薬学的組成物を使用する静脈内治療の適切な持続を決定する。
【0033】
細胞はまた、増殖させるため、またはこのような細胞に対する所望の効果もしくはこのような細胞における所望の活性を産生させるために、本発明の治療薬またはタンパク質の存在下でエクソビボで培養され得る。次いで、処置された細胞は、インビボでの治療目的のために導入され得る。
【0034】
(ランゲルハンス島細胞表現型を誘導する方法)
本発明はまた、細胞に1つ以上のランゲルハンス島細胞表現型を誘導または増加する方法を含む。1つの実施形態において、膵臓細胞表現型は、非ランゲルハンス島細胞型において誘導される。この方法は、ランゲルハンス島細胞表現型(例えば、β、αおよびδランゲルハンス島細胞)を誘導または増加するに十分な量でランゲルハンス島細胞特異的転写因子を調節する化合物を細胞に接触させる工程を包含する。好ましくは、化合物は、PDX発現、産生または活性を増加する。好ましくは、方法は、ランゲルハンス島β細胞表現型を誘導する。
【0035】
「ランゲルハンス島細胞表現型」によって、ランゲルハンス島細胞に代表的な1つ以上の特性(すなわち、ホルモン産生、プロセシング、分泌顆粒における貯蔵、栄養的およびホルモン的に調節された分泌または特徴的なランゲルハンス島細胞遺伝子発現のプロファイル)を示す細胞が意味される。ランゲルハンス島細胞表現型は、例えば、膵臓ホルモン(例えば、インスリン、ソマトスタチンまたはグルカゴン)の産生を測定することによって決定され得る。ホルモン産生は、当該分野において公知の方法(例えば、免疫アッセイ、ウエスタンブロッティング、レセプター結合アッセイ)によって決定され得るか、または糖尿病宿主での移植における高血糖を改善する能力によって機能的に決定され得る。
【0036】
細胞は、ランゲルハンス島細胞表現型を発現し得る任意の細胞(例えば、筋肉、脾臓、腎臓、皮膚、膵臓、または肝臓)であり得る。1つの実施形態においては、細胞は、ランゲルハンス島細胞としての機能(すなわち、膵臓ホルモン(好ましくは、細胞外の引き金におけるインスリン)の貯蔵、進行および分泌)が可能である。別の実施形態において、細胞は肝細胞(すなわち、肝臓の細胞)である。さらなる実施形態においては、細胞は、全能性(tutipont)または多能性である。代替の実施形態において、細胞は造血幹細胞、胚性幹細胞または好ましくは肝性幹細胞である。
【0037】
化合物に曝露される(すなわち接触される)細胞集団は、任意の数の細胞(すなわち、1以上の細胞)の細胞であり、そしてインビトロ、インビボまたはエクソビボで提供され得る。
【0038】
(ランゲルハンス島遺伝子発現プロファイルを導入する方法)
本発明はまた、被験体または細胞においてランゲルハンス島遺伝子発現プロファイルを導入または増加する方法を含む。「膵臓遺伝子発現プロファイル」によって、非内分泌の組織において通常転写的にはサイレントな1つ以上の遺伝子(例えば、PC1/3、インスリン、グルカゴンまたはソマトスタチン)を含むことが意味される。この方法は、ランゲルハンス島遺伝子発現プロファイルまたは内分泌遺伝子発現プロファイルを誘導するに十分な量でPDX発現または活性を増加する化合物を被験体に投与する工程を包含する。1つの実施形態において、この方法は、被験体にPC1/3遺伝子発現を誘導する。
【0039】
膵臓遺伝子発現プロファイルの誘導は、当業者に周知の技術を使用して検出され得る。例えば、膵臓ホルモンRNA配列は、例えば、ノーザンブロットハイブリダイゼーション分析、逆転写に基づくポリメラーゼ連鎖反応のような増幅ベースの検出法またはマイクロアレイチップ分析による全身性の検出で検出され得る。あるいは、発現はまた、タンパク質レベルで(すなわち、遺伝子によってコードされるポリペプチドのレベルを測定することによって)測定され得る。特定の実施形態において、PC1/3遺伝子またはタンパク質の発現は、プロホルモンがその活性な成熟形態へプロセスする際の活性によって決定され得る。このような方法は、当該分野において周知であり、そして例えば、遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体に基づく免疫アッセイ、またはプロセスしたプロホルモンのHPLCを含む。
【0040】
(PDXにより調整される遺伝子を同定する方法)
本発明はまた、PDXにより調整される核酸を同定する方法を含む。この方法は、PDX活性または発現を調整する化合物に曝された試験細胞集団中の1つ以上の核酸の発現を測定することを含む。次いで、試験細胞集団中の核酸配列の発現を、参照細胞集団(これはこの化合物に曝されたことがないか、またはいくつかの実施形態ではこの化合物に曝された細胞集団である)中の核酸配列の発現と比較する。比較は、同時かまたは時間的に別個の時間に測定された試験および参照試料について実施され得る。後者の例は、編集された発現情報、例えば、種々の薬剤の投与後の既知の配列の発現レベルについて情報をアセンブルしている配列データベースの使用である。例えば、化合物の投与後の発現レベルの変化が、PDX核酸のようなコントロール薬剤の投与後に核酸配列において観察される発現変化と比較され得る。
【0041】
化合物に曝されなかった参照細胞集団における核酸配列の発現と比較した、試験細胞集団における核酸配列の発現の変化は、この核酸の発現がPDXにより調整されることを示す。
【0042】
試験細胞は、PDXにより調整され得る任意の組織,例えば、膵臓、肝臓、脾臓、または腎臓から採取され得る。1つの実施形態では、細胞は、非内分泌組織由来である。好ましくは、細胞は肝臓組織である。
【0043】
好ましくは、この参照細胞集団中の細胞は、試験細胞にできるだけ類似の組織型、例えば、肝臓組織に由来する。いくつかの実施形態では、コントロール細胞は、試験細胞と同じ被験体から、例えば、この試験細胞の起源の領域の近傍にある領域に由来する。その他の実施形態では、このコントロール細胞集団は、アッセイされたパラメータまたは条件が既知の細胞に由来する分子情報のデータベースに由来する。
【0044】
核酸の発現は、当該分野で公知の任意の方法を用いてRNAレベルで測定され得る。例えば、これらの配列の1つ以上を特異的に認識するプローブを用いるノーザンハイブリダイゼーション分析を用い、遺伝子発現を決定し得る。あるいは、発現は、逆転写を基礎にしたPCRアッセイを用いて測定され得る。発現はまた、すなわち、遺伝子産物によってコードされるポリペプチドのレベルを測定することによりタンパク質レベルで測定され得る。このような方法は当該分野で周知であり、そして例えば、これら遺伝子によりコードされるタンパク質に対する抗体を基礎にする免疫アッセイを包含する。
【0045】
遺伝子発現における変化が遺伝子増幅または欠失をともなうとき、試験および参照集団における配列比較は、試験および参照細胞集団中の調査されたDNA配列の相対量を比較することによりなされ得る。
【0046】
本発明はまた、このスクリーニング法により同定されるPDX調整核酸、およびそのように同定されたPDX調整核酸を含む薬学的組成物を含む。
【0047】
(PDX組換え発現ベクターおよび宿主細胞)
本発明の別の局面は、PDXタンパク質、またはその誘導体、フラグメント、アナログまたはホモログをコードする核酸を含むベクター、好ましくは発現ベクターに関する。本明細書で用いられる用語「ベクター」は、これに連結された別の核酸を輸送し得る核酸分子をいう。ベクターの1つの型は「プラスミド」であり、これは、付加的なDNAセグメントが連結され得る直線状または環状の二本鎖DNAループをいう。別の型のベクターはウイルスベクターであり、ここでは付加的なDNAセグメントは、ウイルスゲノム中に連結され得る。特定のベクターは、それらが導入される宿主細胞中で自己複製し得る(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム性哺乳動物ベクター)。その他のベクター(例えば、非エピソーム性哺乳動物ベクター)は、宿主細胞中への導入に際し宿主細胞のゲノム中に組み込まれ、そしてそれによって宿主ゲノムとともに複製する。さらに、特定のベクターは、それらが作動可能に連結する遺伝子の発現を指向し得る。このようなベクターは、本明細書では「発現ベクター」と称される。一般に、組換えDNA技法において有用な発現ベクターは、しばしばプラスミドの形態である。本明細書では、「プラスミド」および「ベクター」は交換可能に用いられ得る。なぜなら、このプラスミドは、ベクターの形態で最も普通に用いられるからである。しかし、本発明には、ウイルスベクターのようなその他の形態の発現ベクターを含むことが意図され(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)、これらは等価な機能を供する。さらに、いくつかのウイルスベクターは、特異的または非特異的いずれかで特定の細胞型を標的にし得る。
【0048】
本発明の組換え発現ベクターは、宿主細胞中で核酸の発現に適切な形態にある本発明の核酸を含み、これは、この組換え発現ベクターが、発現される核酸配列に作動可能に連結される、発現のために用いられる宿主細胞を基礎にして選択された1つ以上の調節配列を含むことを意味する。組換え発現ベクター内で、「作動可能に連結される」は、目的のヌクレオチド配列が、ヌクレオチド配列の発現を可能にする様式で(例えば、インビトロ転写/翻訳系中、またはベクターが宿主細胞中に導入されるとき宿主細胞中)、調節配列(単数または複数)に連結されることを意味する。用語「調節配列」は、プロモーター、エンハンサーおよびその他の発現制御エレメント(例えば、ポリアデニル化シグナル)を含むことが意図される。このような調節配列は、例えば、Goeddel;GENE EXPRESSION TECHNOLOGY:METHODS IN ENZYMOLOGY 185、Academic Press、San Diego、Calf.(1990)中に記載されている。調節配列は、多くの型の宿主細胞中でヌクレオチド配列の構成的発現を行う配列、および特定の宿主細胞中でのみヌクレオチド配列の発現を行う配列(例えば、組織特異的調節配列)を含む。発現ベクターの設計が、形質転換される宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現のレベルなどのような因子に依存し得ることは、当業者により認識される。本発明の発現ベクターは、宿主細胞中に導入され、それによって本明細書で記載されるような核酸によりコードされる、融合タンパク質またはペプチドを含むタンパク質またはペプチドを産生し得る(例えば、PDXタンパク質、PDXの変異体形態、融合タンパク質など)。
【0049】
本発明の組換え発現ベクターは、原核細胞または真核細胞におけるPDXの発現のために設計され得る。例えば、PDXは、E.coliのような細菌細胞、昆虫細胞(バキュロウイルス発現ベクターを用いる)、酵母細胞または哺乳動物細胞中で発現され得る。適切な宿主細胞は、Goeddel;GENE EXPRESSION TECHNOLOGY:METHODS IN ENZYMOLOGY 185、Academic Press、San Diego、Calf.(1990)中でさらに論議されている。あるいは、組換え発現ベクターは、例えば、T7プロモーター調節配列およびT7ポリメラーゼを用いてインビトロで転写および翻訳され得る。
【0050】
原核生物におけるタンパク質の発現は、融合または非融合タンパク質のいずれかの発現を行う構成的または誘導性プロモーターを含むベクターを用い、E.coli中で最もしばしば実施される。融合ベクターは、その中にコードされる多くのアミノ酸をタンパク質に付加する(通常組換えタンパク質のアミノ末端に)。代表的には、このような融合ベクターは3つの目的を供する:(1)組換えタンパク質の発現を増加するため;(2)組換えタンパク質の溶解性を増加するため;および(3)アフィニティー精製におけるリガンドとして作用することによって組換えタンパク質の精製を補助するためである。しばしば、融合発現ベクターでは、タンパク質分解切断部位が、融合成分と組換えタンパク質との接続部に導入され、融合成分からの組換えタンパク質を分離し、引き続く融合タンパク質の精製を可能にする。このような酵素、およびそれらの同種の認識配列は、第Xa因子、トロンビンおよびエンテロキナーゼを含む。代表的な融合発現ベクターは、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合性タンパク質、またはプロテインAをそれぞれ標的組換えタンパク質に融合する、pGEX(Pharmacia Biotech Inc;SimthおよびJohnson(1988)Gene 67:31−40)、pMAL(New England Biolabs、Beverly、Mass.)およびpRIT5(Pharmacia、Piscataway、N.J.)を含む。
【0051】
適切な誘導性非融合E.coli発現ベクターの例は、pTrc(Amrannら(1988)Gene 69:301−315)およびpET 11d(Studierら、GENE EXPRESSION TECHNOLOGY:METHODS IN ENZYMOLOGY 185、Academic Press、San Diego、Calf.(1990)60−89)を含む。
【0052】
E.coli中の組換えタンパク質発現を最大にする1つの戦略は、組換えタンパク質をタンパク質分解的に切断する能力を損傷した宿主細胞中でタンパク質を発現することである。Gottesman、GENE EXPRESSION
TECHNOLOGY:METHODS IN ENZYMOLOGY 185、Academic Press、San Diego、Calif.(1990)119−128を参照のこと。別の戦略は、発現ベクター中に挿入される核酸の核酸配列を、各アミノ酸に対する個々のコドンがE.coli中で優先的に利用されるコドン(Wadaら(1992)Nucleic Acids Res.20:2111−2118)であるように改変することである。本発明の核酸配列のこのような改変は、標準的なDNA合成技法により実施され得る。
【0053】
別の実施形態では、PDX発現ベクターは酵母発現ベクターである。酵母S.cerevisiaeにおける発現のためのベクターの例は、pYepSec1(Baldariら(1987)EMBO J 6:229−234)、pMFa(KurjanおよびHerskowitz、(1982)Cell 30:933−943)、pJRY88(Schultzら(1987)Gene 54:113−123)、pYES2(Invitrogen Corporation、San Diego、Calif.)、およびpicZ(InVitrogen Corp、San Diego、Calif.)を含む。
【0054】
あるいは、PDXは、バキュロウイルスベクター発現ベクターを用いて昆虫細胞中で発現され得る。培養昆虫細胞(例えばSF9細胞)中のタンパク質の発現に利用可能なバキュロウイルスベクターは、pAcシリーズ(Smithら(1983)Mol Cell Biol 3:2156−2165)およびpVLシリーズ(LucklowおよびSummers(1989)Virology 170:31−39)を含む。
【0055】
なお別の実施形態では、本発明の核酸は、哺乳動物ベクターを用いて哺乳動物細胞中で発現される。哺乳動物発現ベクターの例は、pCDM8(Seed(1987)Nature 329:840)およびpMT2PC(Kaufmanら(1987)EMBO J 6:187−195)を含む。哺乳動物細胞中で用いられるとき、発現ベクターの制御機能は、しばしばウイルス調節エレメントにより提供される。例えば、従来用いられているプロモーターは、ポリオーマ、アデノウイルス2、サイトメガロウイルスおよびシミアンウイルス40に由来する。原核生物細胞および真核生物細胞の両方に適切なその他の発現系については、例えば、Sambrookら、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANNUAL.第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、1989の16章および17章を参照のこと。
【0056】
別の実施形態では、組換え哺乳動物発現ベクターは、特定の細胞型において優先的に核酸の発現を行い得る(例えば、組織特異的調節エレメントを用いて核酸を発現する)。組織特異的調節エレメントは当該分野で公知である。適切な組織特異的プロモーターの非制限的な例は、アルブミンプロモーター(肝臓特異的;Pinkertら(1987)Genes Dev 1:268−277)、リンパ特異的プロモーター(CalameおよびEaton(1988)Adv Immunol 43:235−275)、特にT細胞レセプターのプロモーター(WinotoおよびBaltimore(1989)EMBO J 8:729−733)および免疫グロブリン(Banerjiら(1983)Cell 33:729−740;QueenおよびBaltimore(1983)Cell 33:741−748)、ニューロン特異的プロモーター(例えば、神経フィラメントプロモーター;ByrneおよびRuddle(1989)PNAS 86:5473−5477)、膵臓特異的プロモーター(Edlundら(1985)Science 230:912−916)、および乳腺特異的プロモーター(例えば、乳清プロモーター;米国特許第4,873,316号および欧州出願公開第264,166号)を含む。発生的に調節されるプロモーターもまた包含される。例えば、マウスhoxプロモーター(KesselおよびGruss(1990)Science 249:374−379)およびα−フェトプロテインプロモーター(CampesおよびTilghman(1989)Genes Dev 3:537−546)。
【0057】
本発明はさらに、発現ベクター中にアンチセンス配向でクローン化された本発明のDNA分子を含む組換え発現ベクターを提供する。すなわち、このDNA分子は、PDX mRNAに対してアンチセンスであるRNA分子の発現を(このDNA分子の転写によって)可能にする様式で調節配列に作動可能に連結されている。アンチセンス配向でクローン化された核酸に作動可能に連結される調節配列は、種々の細胞型においてこのアンチセンスRNA分子の連続的発現を行うよう選択され得、例えば、ウイルスプロモーターおよび/またはエンハンサー、または調節配列がアンチセンスRNAの構成的、組織特異的または細胞型特異的発現を行うよう選択され得る。このアンチセンス発現ベクターは、組換えプラスミド、ファージミドまたは弱毒化ウイルスの形態であり得、ここでは、アンチセンス核酸が、高効率調節領域の制御下で産生され、その活性は、ベクターが導入される細胞型によって決定され得る。アンチセンス遺伝子を用いる遺伝子発現の調節の論議については、Weintraubら、「Antisense RNA as a molecular tool for genetic analysis」Reviews−Trends in Genetics、第1巻(1)1986を参照のこと。
【0058】
本発明の別の局面は、本発明の組換え発現ベクターが導入された宿主細胞に関する。用語「宿主細胞」および「組換え宿主細胞」は、本明細書中で交換可能に用いられる。このような用語は、特定の被験体細胞をいうのみならず、このような細胞の子孫または可能な子孫をいうことが理解される。継承する世代において変異または環境の影響のいずれかに起因して特定の改変が生じ得るので、このような子孫は、実際、親細胞と同一でないかも知れないが、本明細書で用いられるときこの用語の範囲内になお含まれる。さらに、宿主細胞は、一旦PDXを発現すると調整され得、そして元の特徴を維持し得るか、または失い得る。
【0059】
宿主細胞は任意の原核細胞または真核細胞であり得る。例えば、PDXタンパク質は、E.coliのような細菌細胞、昆虫細胞、酵母または(チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)またはCOS細胞のような)哺乳動物細胞中で発現され得る。あるいは、宿主細胞は、未成熟哺乳動物細胞(すなわち、多能幹細胞)であり得る。宿主細胞はまた、その他のヒト組織に由来し得る。その他の適切な宿主細胞は当業者に公知である。
【0060】
ベクターDNAは、原核細胞または真核細胞中に、従来の形質転換、形質導入、感染またはトランスフェクション手法により導入され得る。本明細書で用いる用語「形質転換」、「形質導入」、「感染」および「トランスフェクション」は、宿主細胞中に外来核酸(例えば、DNA)を導入するための種々の当該分野で認識された技法をいうことが意図され、これには、リン酸カルシウムまたは塩化カルシウム共沈殿、DEAE−デキストラン−媒介トランスフェクション、リポフェクション、またはエレクトロポレーションが含まれる。さらに、トランスフェクションは、トランスフェクション薬剤により媒介され得る。「トランスフェクション薬剤」により、宿主細胞中にDNAの取り込みを媒介する任意の化合物、例えば、リポソームを含むことを意味する。宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトするために適切な方法は、Sambrookら(MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANNUAL.第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、1989)、およびその他の実験室マニュアル中に見出され得る。
【0061】
トランスフェクションは、「安定」(すなわち、宿主ゲノム中への外来DNAの組込み)または「一過性」(すなわち、DNAは宿主細胞中のエピソームで発現する)であり得る。
【0062】
哺乳動物細胞の安定なトランスフェクションのために、用いる発現ベクターおよびトランスフェクション技法に依存して、細胞の小フラクションのみが外来DNAをそれらのゲノム中に組込み得、DNAの残りはエピソームのままであることが知られている。これらの組込み体を同定および選択するために、一般に、選択マーカー(例えば、抗生物質に対する耐性)をコードする遺伝子が目的の遺伝子とともに宿主細胞中に導入される。種々の選択マーカーは、G418、ハイグロマイシンおよびメトトレキセートのような薬物に対する耐性を付与するものを含む。選択マーカーをコードする核酸は、PDXをコードするのと同一ベクター上で宿主細胞中に導入され得るか、または別のベクター上で導入され得る。導入された核酸で安定にトランスフェクトされた細胞は、薬物選択により同定され得る(例えば、選択マーカー遺伝子を取り込んだ細胞は生存しその他の細胞は死滅する)。別の実施形態では、PDXにより調整された細胞またはトランスフェクトされた細胞は、内因性レポーター遺伝子の発現の誘導により同定される。特定の実施形態では、プロモーターは、グリーン蛍光タンパク質(GFP)の発現を駆動するインスリンプロモーターである。
【0063】
1つの実施形態では、PDX核酸はウイルスベクター中に存在する。別の実施形態では、PDX核酸はウイルス中にカプセル化される。いくつかの実施形態では、ウイルスは、好ましくは種々の組織型の多能細胞(例えば、造血幹細胞、ニューロン幹細胞、肝性幹細胞または胚性幹細胞)に感染し、好ましくはウイルスは肝臓向性である。「肝臓向性」により、ウイルスが、特異的または非特異的のいずれかで、好ましくは肝臓の細胞を標的にする能力を有することを意味する。さらなる実施形態では、ウイルスは、調整された肝炎ウイルス、SV−40、またはエプスタイン−バーウイルスである。なお、さらに別の実施形態では、ウイルスはアデノウイルスである。
【0064】
(遺伝子治療)
本発明の1つの局面において、PDXポリペプチドをコードする核酸(単数または複数)、あるいはそれらの機能的誘導体は、遺伝子治療の方法により投与される。遺伝子治療とは、被験体への特定の核酸の投与によって行われる治療をいう。本発明の局面において、その核酸は、そのコードされるペプチドを生成し、これは次いで、上記の疾患または障害(例えば、糖尿病)の機能を調節することによって治療効果を発揮するように機能する。当該分野で利用可能な遺伝子治療に関連する任意の方法論が本発明の実施において使用され得る。例えば、以下を参照のこと:Goldspiel,et al.,1993.Clin Pharm 12:488−505。
【0065】
好ましい実施形態において、この治療剤は、PDXポリペプチドまたはそのフラグメント、誘導体もしくはアナログのうち任意の1つ以上を発現する発現ベクターの部分である核酸を、適切な宿主内に含む。特定の実施形態において、そのような核酸は、PDXポリペプチドのコード領域に作動可能に連結されたプロモーターを有する。このプロモーターは、誘導性または構成的であり得、そして必要に応じて組織特異的であり得る。そのプロモーターは、例えば、ウイルス起源または哺乳動物起源であり得る。別の特定の実施形態において、コード配列(および任意の他の所望の配列)がゲノム中の所望の部位で相同組換えを促進する領域に隣接する核酸分子を使用し、従って、核酸の染色体内発現を提供する。例えば、以下を参照のこと:Koller and Smithies,1989.Proc Natl Acad Sci USA 86:8932−8935。なお別の実施形態において、送達される核酸は、エピソーム性のままであり、そして内因性でかつそうでなければサイレントな遺伝子を誘導する。
【0066】
患者への治療核酸の送達は、直接(すなわち、患者は、核酸または核酸含有ベクターに直接曝露される)か、または間接的(すなわち、細胞がまず核酸にインビトロで接触され、次いで患者に移植される)であり得る。これらの2つのアプローチは、それぞれインビボまたはエキソビボの遺伝子治療として知られる。本発明の特定の実施形態において、核酸は、インビボで直接投与され、そこで発現されて、コードされる産物が産生される。これは、以下を含むがそれらに限定されない、当該分野で公知の多数の方法のいずれかにより達成され得る:適切な核酸発現ベクターの一部としてその核酸を構築すること、およびそのものをそれが細胞内に存在するような様式で投与すること(例えば、欠失もしくは弱毒化したレトロウイルスまたは他のウイルスベクターを用いて感染させることによる;以下を参照のこと:米国特許第4,980,286号);裸のDNAを直接注射すること;微粒子ボンバードメントを用いること(例えば、「GeneGun(登録商標)」Biolistic、DuPont);脂質でその核酸をコーティングすること;会合する細胞表面レセプター/トランスフェクト剤を用いること;リポソーム、微粒子もしくは微小カプセル中にカプセル化すること;それを核へと侵入することが知られるペプチドと連結して投与すること;またはそれをレセプター媒介エンドサイトーシスの素因があるリガンドへと連結して投与することによる(例えば、以下を参照のこと:Wu and Wu,1987.J Biol Chem 262:4429−4432)。これを使用して、目的のレセプターを特異的に発現する細胞型を「標的化(target)」し得る、などである。
【0067】
本発明の実施における遺伝子治療に対するさらなるアプローチは、エレクトロポレーション、リポフェクション、リン酸カルシウム媒介トランスフェクション、ウイルス感染などのような方法による、インビトロ組織培養物中の細胞へ遺伝子を移入する工程を包含する。一般に、移入の方法論は、細胞に選択マーカーを同時に移入することを包含する。次いで、この細胞を、選択圧(例えば、抗生物質耐性)の下に置いて、移入される遺伝子を取り込み、そして発現中である細胞の単離を容易にする。次いで、この細胞を、患者に送達する。特定の実施形態において、得られた組換え細胞のインビボ投与の前に、その核酸を以下を含むがそれらに限定されない、当該分野において公知の任意の方法によって細胞へと導入する:トランスフェクション、エレクトロポレーション、微小注入、目的の核酸配列を含むウイルスベクターもしくはバクテリオファージベクターを用いた感染、細胞融合、染色体媒介遺伝子移入、マイクロセル媒介遺伝子移入、スフェロプラスト融合、ならびにレシピエント細胞に必要な発達機能および生理学的機能がその移入によって破壊されないことを保証する類似の方法論。例えば、以下を参照のこと:Loeffler and Behr,1993.Meth Enzymol 217:599−618。選択された技術は、その細胞へその核酸を安定に移入することを提供するはずである。その結果、その核酸はその細胞によって発現され得る。好ましくは、その移入された核酸は、その細胞の子孫によって遺伝保持されそして発現され得る。代替の実施形態において、移入された核酸は、エピソーム性のままであり、そしてそうでなければサイレントな内因性核酸の発現を誘導する。
【0068】
本発明の好ましい実施形態において、得られた組換え細胞は、以下を含むがそれらに限定されない、当該分野において公知の様々な方法によって患者へと送達され得る:上皮細胞の注射(例えば、皮下)、組換え皮膚細胞の皮膚移植片としての患者への適用、および組換え血球(例えば、造血幹細胞または前駆細胞)または肝臓細胞の静脈内注射。使用が意図される細胞の総量は、所望の効果、患者の状態等に依存し、そして当業者によって決定され得る。
【0069】
核酸が遺伝子治療の目的で導入され得る細胞は、任意の所望の利用可能な細胞型を包含し、そして異種(xenogeneic)、異種(不均質、heterogeneic)、同種(syngeneic)、または自己性であり得る。細胞型としては、以下が挙げられるがそれらに限定されない:分化した細胞(例えば、上皮細胞、内皮細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、筋肉細胞、肝細胞および血球)、または種々の幹細胞もしくは前駆細胞、特に胚性心筋細胞、肝性幹細胞(国際特許公開WO 94/08598)、神経幹細胞(Stemple and Anderson,1992,Cell 71:973−985)、造血幹細胞または前駆細胞(例えば、骨髄、臍帯血、末梢血、胎児肝臓等から得られる)。好ましい実施形態において、遺伝子治療のために利用される細胞は、患者に対し自己性である。
【0070】
(薬学的組成物)
化合物(例えば、本発明のPDXポリペプチド、PDXポリペプチドをコードする核酸またはPDXポリペプチドをコードする核酸の発現を増加させる核酸(本明細書においてまた、「活性化合物」ともいう))、ならびにそれらの誘導体、フラグメント、アナログおよびホモログは、投与に適切な薬学的組成物へと取り込まれ得る。そのような組成物は、代表的に、核酸分子、またはタンパク質、および薬学的に受容可能なキャリアを含む。本明細書において使用される場合、「薬学的に受容可能なキャリア」とは、薬学的投与に適合する、任意のおよびすべての溶媒、拡散媒体、コーティング、抗細菌剤および抗真菌剤、等張性剤および吸収遅延剤などを含むことが意図される。適切なキャリアは、当該分野における標準的な参考書である、最新版のRemington’s Pharmaceutical Sciencesに記載されている。これは、本明細書において参考として援用される。そのようなキャリアまたは希釈剤の好ましい例としては、以下が挙げられるがそれらに限定されない:水、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、および5%ヒト血清アルブミン。リポソームおよび非水性ビヒクル(例えば、不揮発油)もまた使用され得る。薬学的に活性な物質のためのそのような媒体および薬剤は、当該分野において周知である。その活性化合物に対して不適合である従来の媒体または薬剤の範囲を除き、組成物におけるそれらの使用が意図される。補助的活性化合物もまた、その組成物に取り込まれ得る。
【0071】
本発明の薬学的組成物は、それが意図する投与経路に適合するように処方される。投与経路の例としては、以下が挙げられる:非経口、例えば、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば、吸入)、経皮(局所的)、経粘膜、および直腸投与。非経口、皮内、または皮下の適用のために使用される溶液または懸濁液としては、以下の成分が挙げられ得る:注射用の水、生理食塩水、不揮発油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒のような滅菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンのような抗細菌剤;アスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウムのような抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸のようなキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩のような緩衝剤、および塩化ナトリウムまたはデキストロースのような等張性の調整のための薬剤。pHは、酸または塩基(例えば、塩酸または水酸化ナトリウム)を用いて調整され得る。非経口調製物は、硝子またはプラスチックでできた、アンプル、使い捨てのシリンジ、または複数用量バイアル中に封入され得る。
【0072】
注射可能な使用のために適切な薬学的組成物としては、以下が挙げられる:滅菌水溶液(水溶性の場合)または分散物、および滅菌注射用溶液または分散物の即座調製物のための滅菌粉末。静脈内投与のために適切なキャリアは、生理食塩水、静菌水、Cremophor ELTM(BASF,Parsippany,N.J.)またはリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)を含む。すべての場合、その組成物は、滅菌でなければならず、そして容易なシリンジ処理性が存在する程度に流動性であるべきである。この組成物は、製造および保存の条件下で安定でなければならず、そして細菌および真菌のような微生物の夾雑作用に対して保存しなければならない。そのキャリアは、例えば、以下を含む溶媒または分散媒体であり得る:水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、およびそれらの適切な混合物。適切な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティングの使用により、分散物の場合において必要とされる粒子径を維持することにより、および表面活性剤の使用により、維持され得る。微生物の作用の予防は、種々の抗細菌剤および抗真菌剤(例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなど)によって達成され得る。多くの場合、等張剤(例えば、糖、ポリアルコール(例えば、マンニトール、ソルビトール)、塩化ナトリウム)を組成物中に含むことが好ましい。注射用の組成物の長期の吸収は、吸収を遅らせる薬剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチン)をその組成物中に含ませることによって実施され得る。
【0073】
滅菌注射溶液は、活性化合物(例えば、PDXポリペプチドまたはPDXコード核酸)を、必要とされる量で、適切な溶媒中において、必要に応じて上記の成分の1またはその組合せとともに、取り込ませること、続いて、濾過滅菌をすることによって調製され得る。一般に、分散物は、上記のもの由来の基本となる分散媒体および必要とされる他の成分を含む、滅菌ビヒクル中に活性化合物を取り込ませることによって調製される。滅菌注射溶液の調製のための滅菌粉末の場合において、調製方法は真空乾燥および凍結乾燥であり、これは、予め濾過滅菌したその溶液から活性成分およびさらなる所望の成分の粉末を得る。
【0074】
経口組成物は、一般に、不活性の希釈剤またはその可食のキャリアを含む。それらは、ゼラチンカプセル中に封入され得、または錠剤へと圧縮され得る。経口治療投与の目的のために、活性化合物は、賦形剤と共に取り込まれ得、そして錠剤、トローチまたはカプセルの形態で使用され得る。経口組成物はまた、マウスウォッシュとして使用するための流体キャリアを用いて調製され得る。ここで、流体キャリア中のこの化合物は、経口適用し、そして口の中で滞留(swish)され、そして喀痰されるかまたは飲み込まれる。薬学的に適合性の結合剤および/またはアジュバント材料は、その組成物の一部として含まれ得る。この錠剤、丸剤、カプセル、トローチなどは、任意の以下の成分または類似の性質の化合物を含み得る:結合剤(例えば、微結晶性セルロース、ガム、トラガカント、またはゼラチン);賦形剤(例えば、デンプンまたはラクトース)、崩壊剤(例えば、アルギン酸、Primogelまたはコーンスターチ);滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウムまたはSterotes);滑り剤(glidant)(たとえば、コロイド二酸化ケイ素);甘味剤(例えば、スクロースまたはサッカリン);または香味料(例えば、ペパーミント、サリチル酸メチルまたはオレンジ香味料)。
【0075】
吸入による投与のために、これらの化合物は、加圧された容器またはディスペンサーからのエアロゾルスプレーの形態で送達され、この加圧された容器またはディスペンサーは、適切な噴霧体(例えば、二酸化炭素のような気体)、または噴霧器を含む。
【0076】
全身投与はまた、経粘膜的手順または経皮的手順によってであり得る。経粘膜的投与または経皮的投与のために、浸透されるバリアに適切な浸透剤が、処方物において使用される。このような浸透剤は、一般に、当該分野で公知であり、そして、このような浸透剤には、例えば、経粘膜的投与のために、界面活性剤、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体が挙げられる。経粘膜投与は、鼻スプレーまたは坐薬の使用を介して達成され得る。経皮的投与のために、活性化合物が、一般に当該分野で公知である軟膏(ointment)、軟膏、ジェルまたはクリームに処方される。
【0077】
これらの化合物はまた、直腸送達のための坐薬(例えば、カカオ脂および他のグリセリドのような従来の坐薬ベースとともに)または保持浣腸の形態で調製され得る。
【0078】
1つの実施形態において、活性化合物は、身体からの急速な排出に対してこの化合物を保護するキャリア(例えば、制御放出処方物)とともに調製され、このキャリアは、移植片およびマイクロカプセル化送達系を含む。生分解性の、生体適合性ポリマー(例えば、エチレンビニルアセテート、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸)が使用され得る。このような処方物を調製するための方法は、当業者に明らかである。これらの物質は、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Incから商業的に得られ得る。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体を用い感染された細胞に標的化されたリポソームを含む)はまた、薬学的に受容可能なキャリアとして使用され得る。これらは、例えば、米国特許第4,522,811号(これは、本明細書中で参考として、全面的に援用される)に記載されるように、当業者に公知の方法に従って調製され得る。
【0079】
投与の容易さおよび投薬の均一性のために、経口または非経口組成物を投薬単位形態で処方することは、特に有利である。本明細書中で使用される場合、投薬単位形態は、処置される被験体に対して、単位投薬として適する物理的に個別の単位をいい;各単位は、必要とされる薬学的キャリアと関連して、所望の治療効果を発生するように計算された所定の量の活性化合物を含む。本発明の投薬単位形態のための仕様は、活性化合物の固有の特徴および達成される特定の治療効果によって影響され、そしてこれらに直接依存する。
【0080】
本発明の核酸分子はベクターに挿入され得、そして遺伝子治療ベクターとして使用され得る。遺伝子治療ベクターは、例えば、米国特許第5,703,055号に記載されるように、多くの経路のいずれかによって被験体に送達され得る。従って、送達はまた、例えば、静脈内注射、局所的投与(米国特許第5,328,470号を参照のこと)、または定位注射(例えば、Chenら(1994)PNAS 91:3054−3057を参照のこと)を含み得る。遺伝子治療ベクターの薬学的調製物は、受容可能な希釈剤中に遺伝子治療ベクターを含み得るか、または遺伝子送達ビヒクルが埋め込まれる徐放マトリックスを含み得る。あるいは、完全な遺伝子送達ベクターが組換え細胞(例えば、レトロウイルスベクター)からインタクトに生成される場合、薬学的調製物は、遺伝子送達系を生成する1つ以上の細胞を含み得る。
【0081】
薬学的組成物を、投与のための説明書とともに、容器、パックまたはディスペンサー中に含み得る。
【0082】
本発明は、さらに、以下の実施例に記載され、これらは、本特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を制限しない。
【実施例】
【0083】
(特定の実施例)
(実施例1:組換えアデノウイルス)
AdCMVPDX−1を、R.Seijffersら、Endocrinology 140:1133(1999)によって記載されるように構築した。これは、STF−1 cDNA(pACCMVpLpAベクターのBamH1部位に連結されたPDX−1のラットホモログ)を含む。
【0084】
AdCMVβ−galは、β−ガラクトシダーゼに対する核限局化シグナルを含む。
【0085】
AdCMV−hInsは、異種サイトメガロウイルスプロモーターの制御下でヒトインスリンcDNAを含む。
【0086】
AdRIP−1−hInsは、ラットインスリンプロモーター1(RIP−1)の制御下でヒトインスリンcDNAを含む。RIP−1は、410塩基のラットインスリン−1遺伝子の5’隣接DNA領域である。
【0087】
(実施例2:PDX−1誘導内因性インスリン遺伝子発現の決定および異所的に同時送達されるインスリンプロモーターの活性化)
肝臓における異所性PDX−1発現の効果を評価するために、雄性Balb/cおよびC57BL/6マウス(11〜14週齢)の尾静脈に、2×109プラーク形成単位(0.2mlの生理食塩水中)のAdCMV−PDX−1組換えアデノウイルスを注射した。コントロールとして、同様に、マウスにAdCMV−β−gal、またはAdCMV−hInsおよびAdRIP−1−hIns組換えアデノウイルスを注射した。これらの動物を、空調した環境中、12時間の明/暗サイクル下、普通の非制約的な食事のもとにおき、そしてウイルス投与の1週間後に屠殺した。全RNAの単離のため、肝臓、脾臓、膵臓および腎臓を切除し、そして直ちに液体窒素中で冷凍し、そして−70℃で保存した。
【0088】
PDX−1およびインスリン遺伝子発現を、RT−PCRによって決定した。全RNAを、RNAzol(CINNA−BIOTEX)を使用して冷凍組織から単離した。RNAサンプルを10μlのDNaseI(Promega)により処理した。cDNAを、1μgの無DNAの全RNAおよび0.5μgのオリゴ(dT)15を使用して、逆転写によって調製した。以下の表1に記載されるようなプライマーおよびPCR条件を使用して、1.5μlのRT反応物を増幅した。PCRを、GemeAmp PCRシステム2400(Perkin Elmer)で行い、そして産物を、1.7%アガロースゲルで分離した。別個のPCR反応を、逆転写酵素を使用せずに各RNAサンプルについて行い、増幅された産物は、DNA混入に起因しないことを保証した。プライマーを、マウスホモログではなく異所性ラットPDX−1発現のみを検出するように設計した。mI−2増幅のためのプライマーは、異なるエキソン上に位置する。サンプルの変性の第1工程は、全ての増幅遺伝子について同一であった(94℃で1分間)。
【0089】
全RNAの分析は、AdCMV−PDX−1の投与は、主に肝臓におけるPDX−1の発現を生じることを示した。同じマウス由来の脾臓、膵臓および腎臓は、RT−PCRによる試験の結果、PDX−1のラットホモログに対して陰性であることが分かった。
【0090】
異所性ラットPDX−1メッセージについて陽性であると試験された75%(35匹のうち25匹)のマウスは、mI−2遺伝子を発現し、一方、35%のマウスは、mI−1遺伝子を発現した(図1)。mI−2とmI−1との間の発現の相違が、同一性または肝細胞を発現するPDX−1中に存在する転写因子のレベルにより差次的に影響を受けるmI−1プロモーターに起因するか否かを決定するために、AdRIP−I−hIns組換えアデノウイルスを、上記のように、AdCMV−PDX−1と共に、マウスに同時送達した。図1に示されるように、PDX−1が内因性mI−2の発現のみを誘導する肝臓において、これはまたインスリン−1プロモーター(RIP−1)の速度を活性化した。これは、異なるレベルのDNAメチル化または異なるクロマチン構造は、肝臓におけるPDX−1の発現による内因性mI−1発現の活性化の低効率の原因であり得ることを示唆する。さらに、これらのデータは、PDXと共に同時送達された場合、肝臓におけるβ細胞特異的インスリンプロモーターを活性化する能力を示す。
【0091】
内因性マウスインスリンおよび異所性ヒトインスリン遺伝子の発現は、それぞれ、同じ濃度のコントロール組換えアデノウイルスAdCMV−β−gal、またはAdCMV−hInsおよびAdRIP−1hInsを用いる処理により誘導しなかった(n=20)。これらの結果は、PDX−1が必須であり、そして内因性インスリン遺伝子の発現を誘導し、膵臓外組織においてRIP−1を活性化するのに十分であることを示す。
【0092】
(実施例3:インビボにおけるPDX−1誘導ソマトスタチン遺伝子発現の決定およびタンパク質産生)
動物を、実施例2に記載されるように、組換えアデノウイルスで処置した。ソマトスタチン遺伝子発現を、表1に記載される条件に従って、実施例2に記載されるように、RT−PCRにより決定した。
【0093】
図3に示されるように、AdCMV−PDX−1で処置したマウスの肝臓は、ソマトスタチン遺伝子発現を示した。AdCMV−PDX−1で処置したマウスは、免疫化学により分析された肝臓組織において、ソマトスタチンタンパク質について陽性染色を示した。AdCMV−β−galで処置したマウスは、ソマトスタチンを発現しなかった。
【0094】
(実施例4:PDX−1誘導グルカゴン遺伝子発現の決定)
動物を、実施例2に記載されるようにAdCMVPDX−1組換えアデノウイルスで処置した。グルカゴン遺伝子発現を、表1に記載されるような条件およびプライマーを使用して、実施例2に記載されるようにRT−PCRにより決定した。
【0095】
図3に示されるように、AdCMV−PDX−1で処置したマウスの肝臓は、グルカゴン遺伝子発現を示した。AdCMV−β−galで処置したマウスは、グルカゴンを発現しなかった。
【0096】
(実施例5:プロホルモンコンバターゼ1/3誘導遺伝子発現の決定)
動物を、実施例2に記載されるように、組換えアデノウイルスで処置した。オリゴ(dT)15の代わりに、遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(TCCAGGTGCCTACAGGATTCTCT;配列番号1)を使用して、cDNAを逆転する以外は、実施例2に記載されるようにして、プロホルモンコンバターゼ1/3(PC1/3)遺伝子発現をRT−PCRによって決定した。図3に示されるように、PDX−1で処置した動物由来の肝臓のみがPC1/3発現の誘導を示し、Kexinファミリープロテアーゼのメンバー、PC1/3発現は、調節された分泌経路を有する内分泌および神経内分泌細胞に制限される。まとめると、産生されたホルモンを細胞内画分内に保持する能力は、ホルモン産生、プロセシング、貯蔵および分泌のための調節された経路の誘導を含む内分泌表現型のPDX−1依存性誘導を示唆する。
【0097】
表1:PDX−1誘導遺伝子発現の決定のためのRT−PCR分析
【0098】
【表1】

(実施例6:肝臓におけるPDX−1誘導性プロインスリン合成)
動物を、実施例2に記載したように組換えアデノウイルスで処理した。肝臓、脾臓、膵臓、および腎臓を切開した。免疫組織化学染色のために、組織の一部を4%ホルムアルデヒド中で固定し、そしてパラフィン中に包埋した。残りの肝臓および膵臓組織を、IRI含量のRIA測定のために、70%エタノール−0.18N HCl中でホモジナイズし、凍結乾燥し、そしてPBS(リン酸緩衝化生理食塩水)中に再懸濁した。
【0099】
(免疫組織化学)
パラフィン包埋した組織の5μm切片を、脱パラフィン化し、3%H22中でインキュベートし、次いで、ブロッキング溶液中でのインキュベーションの前に、抗原の回収のためにクエン酸緩衝液中でマイクロ波を照射する(PDX−1検出)か、またはブロッキング溶液に直ちに曝す(インスリン検出)(HistomouseTM−SPキット、Zymed laboratories,CA,USA)かのいずれかを行った。
【0100】
PDX−1検出:切片を、カエルPDX−1のN末端部分に対して惹起された抗血清とともに4℃で一晩インキュベートした。
【0101】
インスリン検出:切片を、モノクローナル抗ヒトインスリン(Sigma,St−Louis MO)とともに37℃で1時間インキュベートした。
【0102】
スライドを、二次ビオチン化IgGに30分間さらし、ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ中でインキュベートし、その後、色素原−ペルオキシド溶液で処理した。
【0103】
PDX−1で処理したマウスからの肝臓切片の免疫組織化学分析は、肝細胞核の30〜60%におけるホメオプロテインの発現を示し、肝細胞の0.1〜1%が(プロ)インスリンについて陽性に染色された。コントロールAdCMV β−gal処理肝臓は、(プロ)インスリンについて陽性に染色されなかったが、β−ガラクトシダーゼ活性は、核の50%で明白であった。AdCMV−hInsによって処理したマウス由来の肝臓は、肝臓切片においてインスリンについて陽性に染色されなかったが、同じマウスからの血清IRIは、PDX−1処理マウスにおける血清IRIレベルと同様に、3倍増加した。インスリンでなくPDX−1の異所性発現が(プロ)インスリンについての陽性の免疫染色を生じたという事実は、細胞の調節の誘導を示唆し、これは、肝細胞の小さな亜集団中でインスリン保持を支持し、(分泌ベシクルは調節された経路に属し、これは内分泌細胞に特徴的であるが肝細胞に特徴的ではない)、これは、β−細胞表現型に向かってシフトし得る。
【0104】
(ラジオイムノアッセイ)
肝臓のインスリンmRNAがタンパク質に有効に翻訳されるか否かを決定するために、ラジオイムノアッセイ(RIA)によって、肝臓組織由来の抽出物中で免疫反応性インスリン(IRI)含量を試験した。RT−PCR(図1)によってインスリン遺伝子発現について陽性であると試験されたPDX−1処理したマウスからの肝臓は、コントロールウイルスによって処理された動物の肝臓よりも約25倍高いIRIを含んでいた(表2)。PDX−1処理した肝臓由来の抽出物中の平均IRIレベルは、20.7±3.97μU/mg タンパク質であったが、コントロール肝臓においては、IRIはわずか0.78±0.25μU/mg タンパク質であった。コントロール肝臓サンプルにおいて測定されるインスリンのバックグラウンドレベルは、おそらく、この器官中に豊富に存在するそのレセプターへの結合したインスリン(膵臓起源)を表す。PDX−1処理した肝臓抽出物中で検出されたIRIは、膵臓抽出物中で検出されたレベルの1%未満であった(表2)が、PDX−1処理したマウス中の血清IRIレベルは、コントロールと比較してほぼ3倍高かった(それぞれ、323±48.4対118.2±23.7μU/ml(表2))。このことは、インスリンが合成され、そしてその大部分が血流に分泌されることを示す。これらのデータは、分子的操作によって誘導されるインスリン遺伝子発現が、首尾良くプロ/ホルモンの特異的肝産生に翻訳されることを示す。
【0105】
PDX−1処理肝臓において検出される免疫反応性インスリンは、膵臓抽出物中でのIRIレベルの1%未満であった(表2)。肝臓抽出物におけるラジオイムノアッセイ(RIA)によって決定されたIRI値は、この器官における実際のインスリン産生を低く見積もり得る。RIAのために本発明者らが使用した抗体は、プロセスされたホルモンに優先的に結合し、そしてプロインスリン(これは、肝細胞において主として存在すると予測され、そして膵臓においてはより低い含量である)とは60%のみの交差反応性を有する。
【0106】
(実施例7:血糖レベルおよび血清インスリンレベル)
動物を、実施例2に記載したように組換えアデノウイルスで処理した。屠殺する前に、グルコース濃度の決定のために(Accutrend(登録商標)GC、Boehringer Mannheim,Mannheim,Germany)、およびラジオイムノアッセイによるインスリンレベルの決定のために(Coat−a−count,DPC,Los−Angeles,CA,USA、ラットインスリン標準物(Linco)を使用、使用した抗インスリン抗体は、ヒトプロインスリンと60%のみの交差反応性を有する)、血液を下大静脈から採取した。
【0107】
AdCMV−PDX−1組換えアデノウイルスによって処置されたマウスは、低血糖症ではなかったが、しかし、それらの血液グルコースレベルは、AdCMV−β−galまたはAdCMV−Lucによって処理されたマウスのレベルよりも有意に低かった[それぞれ、197±11.2対228±15.74mg/dl](表2)。血漿免疫反応性インスリンレベルは、コントロールに比較したPDX−1処理マウスにおいて有意に高かった[それぞれ、323±48.4対118.2±23.7μU/ml](表2)。
【0108】
PDX−1処理マウスにおける血清IRIレベルの3倍の増加は、PDX−1処理肝臓抽出物において実証された肝臓IRI含量における25倍の増加をそれ自体で説明し得ない(表2)。従って、肝臓プロ/インスリン含量における増加は、局所産生に起因する。
【0109】
(表2:血清および肝臓抽出物における血液グルコースおよび免疫応答性インスリン(IRI)レベル)
【0110】
【表2】

(実施例8:インスリン関連ペプチドのHPLC分析)
動物を実施例2に記載されるように組換えアデノウイルスで処理した。肝臓および膵臓を解剖し、そして70%エタノール−0.18N HCl中でホモジナイズし、凍結乾燥し、そしてHPLC分析のために0.1M HCl−0.1%BSA中に再懸濁した。
【0111】
肝臓および膵臓抽出物由来のインスリン関連ペプチドを、Lichrospher 100RP−18カラム(Merck,Darmstadt,Germany)およびGrossら、によって記載される溶出条件を使用して逆相HPLCによって分離した。1mlの画分を0.1mlの0.1%BSA(水中)を含むチューブに収集し、Speed−Vac装置内で乾燥し、そしてRIAによるペプチド決定のために1mlのRIA緩衝液(PBS中、0.1%BSA)内に再構成した。ラットまたはヒトインスリン標準のいずれかを用いてモルモット抗ブタインスリン抗体(Linco,St Charles,MO)を使用し、マウスまたはヒトIRIをそれぞれ決定した。
【0112】
PDX−1処理マウス由来の肝臓IRI含量のHPLC分析によって、十分にプロセシングされたmI−1およびmI−2への59±7%(n=3)の転換が明らかになった。比較すると、膵臓抽出物は85±5%(n=3)の成熟インスリンを含んだが(図2)、ヒトインスリン(AdCMV−hIns)の異所性発現は、ほとんどの抽出されたIRIが未成熟のインスリンであった1つの肝臓を除いて肝臓細胞におけるIRIの保有を生じなかった。これは、トランスフェクトされたFAO細胞における以前の観察と一致する。このFAO細胞において、インスリン遺伝子産物の保有は観察されず、そしてそれのほとんどは構成的分泌経路によって分泌された。これらのデータは、以下のことを実証する:肝臓における異所性PDX−1の発現は、誘発されたプロホルモンをプロセシングし得る内分泌組織の特徴である細胞性機構を誘発し、そしてプロインスリンのみが肝臓で異所的に発現される場合には誘導されない。従って、肝臓細胞における、異所性PDX−1発現による伸展したβ細胞表現型を誘導する。
【0113】
(実施例9:肝臓プロ/インスリン産生の生物学的活性)
糖尿病マウスにおけるPDX−1誘導性肝臓インスリン産生の血液グルコースレベルを調節する能力を研究した。C57BL/6マウスを、200mg/kgの腹腔内STZ注入の24時間後、ケトアシドーシスを有する糖尿病(>600mg/dl)にした。STZ注入の24〜28時間後、マウスを、尾静脈を介して投与されたAdCMV−PDX−1またはAdCMVβ−gal(コントロール)組換えアデノウイルス(生理食塩水溶液中)のいずれかで処理した。図4に示されるように、AdCMV−PDX−1処理マウスは、組換えアデノウイルス処理の2日後に始まる約600から200〜300mg/dlへの血液グルコースレベルにおける漸進的な減少を示した。対照的に、アデノウイルス処理の1〜3日後、コントロールAdCMVβ−gal処理マウスにおいて、高血糖症が持続し、そして試験された22匹のうちの12匹が死んだという死亡の増加率を伴い、重度のケトアシドーシスを有した。さらに、両方の群は高血糖症の誘発後に重量を減少し、そしてマウスが屠殺されるまでそれを回復しなかった。まとめると、データは以下のことを実証する:PDX−1の発現は、β細胞の機能が除去されているマウスにおける高血糖症を回復する肝臓において、成熟な生物学的に活性なインスリン産生を十分に誘導する。
【0114】
(実施例10:異所性PDX−1発現によるインスリンプロモーターのインビトロ活性化)
PDX−1は、組換えアデノウイルスAdRip−1hInsと同時誘導された場合(ここでは、ヒトインスリン発現がラットインスリン−1プロモーターにより送達される)に、ラットインスリン−1プロモーターを活性化する。(実施例2および図1を参照のこと)。PDX−1は、ラット肝臓細胞において、インビトロでラットインスリンプロモーター1を活性化するのに十分であることが示された。初代培養物は、成熟肝細胞および胎児肝細胞がコラーゲン−1上で培養される場合に、無血清の既知組成培地中で組織培養皿を被覆した。プレーティング2日後、細胞をAdCMV−PDX−1&AdRIP−1hInsか、またはAdCMV β−gal&AdRIP−1hInsのいずれかで処理した。アデノウイルス処理の48時間後、総RNAを抽出し、そしてプロインスリン遺伝子発現を実施例2に記載のとおり評価した。
【0115】
PDX−1は、異所的に発現されたRIP−hIns(組換えアデノウイルスを介して導入された、ヒトインスリンを駆動する、ラットインスリンプロモーター−1(このプロモーターの410bps))を活性化したが、β−galは、このような能力を有さなかった(図5)。
【0116】
(実施例11:肝細胞における内因性ソマトスタチン遺伝子発現のインビトロ誘導)
胎児(E14−Fisher−344ラット)から単離した肝細胞の初代培養物を培養し、そして実施例9に記載のように組換えアデノウイルスにより処理した。表1に記載のようなプライマーおよびRT−PCR条件を用い、実施例2に記載のように、逆転写した総RNAサンプル中で、ソマトスタチン遺伝子発現を検出した。
【0117】
このデータにより、肝細胞におけるインビトロの異所性PDX−1発現は、インビトロで、内因性の発現を誘導するか、さもなければ肝細胞におけるサイレントなソマトスタチン遺伝子発現を誘導することが実証される(図6)。
【0118】
(実施例12:肝細胞における内因性インスリン遺伝子発現のインビトロ誘導)
胎児(E14−Fisher−344ラット)の初代培養物を培養し、そして実施例10に記載のように、組換えアデノウイルスにより処理した。表1に記載のようなプライマーおよびRT−PCR条件を用い、実施例2に記載のように、逆転写した総RNAサンプル中で、ラットインスリン1遺伝子発現を検出した。
【0119】
このデータにより、胎児の肝細胞の初代培養物におけるインビトロの異所性PDX−1発現は、内因性の発現を誘導するか、さもなければサイレントなインスリン発現を誘導することが実証される(図6)。
【0120】
(実施例13:肝臓細胞における異所性PDX−1発現は、内分泌細胞および神経内分泌細胞の細胞内区画の特徴を誘導し、産生されたホルモンの保持およびそのホルモンの分泌の調節を可能にする)
実施例2に記載のように、マウスをAd−CMVhInsまたはAdCMVPDX−1のいずれかで処理した。処理により血清IRIは3倍に増大し、肝臓細胞によるヒトインスリン産生が実証された(図1)。AdCMVPDX−処理でのみ、免疫細胞化学で、インスリンタンパク質に陽性の細胞を検出した。さらに、肝臓抽出物のHPLC分析により、肝臓抽出物中でごくわずかなレベルのIRIを検出した(その全てが、AdCMVPDX−1処理マウスでの25倍増大に比べて、Ad−CMVhIns処理マウスでは未プロセスであった)。さらに、AdCMVPDX−1処理マウスで産生されたインスリンの59%がプロセスされていた。さらに、AdCMVPDX−1で処理した肝臓のみがプロホルモンプロセス化酵素PC1/3の誘導を示した。この酵素は、インスリンプロセス化貯蔵および分泌調節についての経路を調節し得る細胞にのみ特徴付けられる。これらのデータにより、PDXが肝臓細胞においてインスリンの分泌調節を誘導することが実証される。
【0121】
(実施例14:PDXにより調節された核酸の同定)
PDXにより調節された核酸は、異所性PDX発現により同定される。膵臓組織に比べて、コントロールの処理されたランゲルハンス島外の組織において発現されない核酸は、PDXにより調節されている。このように同定されたこれらの核酸を治療用化合物として用いて、膵臓関連障害を処置する。
【0122】
標的遺伝子の同定を以下のいずれかにより実施する:サブトラクティブライブラリー、市販のマイクロアレイChip(Incyte、またはAffimetrix)、またはメンブレンハイブリダイゼーション(CLONTECH.AtlasTM発現アレイ、またはMultiple Tissue Northern(MTN(登録商標))Blot)。製造業者の指示に従って、処理した組織からのRNAの単離、その精製、およびcDNAプローブ合成を実施する。
【0123】
PDX処理した非ランゲルハンス島組織において発現され、そしてまたランゲルハンス島プローブ化メンブレンまたはチップに存在するが、コントロールの処理した非ランゲルハンス島組織には存在しない遺伝子は、直接および間接のPDX標的遺伝子である。この遺伝子は、島細胞特徴プロフィールの遺伝子発現を示す。直接か間接かの識別については、図7にしめすような、電気移動度偏移アッセイ(electromobility shift assay(EMSA))により、候補の標的遺伝子プロモーター分析によって、およびプロモーターフットプリンティングによって解明される(Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)に記載のとおり)。
【0124】
(実施例15:宿主組織において所望される異所的に発現された遺伝子の調節された発現の誘導)
この実施例は、任意のレポーター、さらにインシュリンの調節された発現の誘導を例示する。PDXが非ランゲルハンス島組織においてインシュリンプロモーターを活性化し、そしてそのグルコースおよび増殖因子を感知する能力を媒介する場合、任意の追加のプロモーターは、グルコースおよび増殖因子によって同様に調節される。従って、本発明は、他の非内分泌組織由来の、多数の分泌された/または分泌されていない因子(例えば、インシュリンプロモーターによって駆動され、従ってそれらの転写および調節された分泌を制御するグルカゴン、成長ホルモン、ステロイドホルモンなど)の発現を栄養学的におよびホルモン学的に調節するために利用され得る(図7)。
【0125】
(実施例16:B細胞または島細胞の特異的な転写因子の階層におけるPDX位置の同定)
この実施例は、β細胞または島細胞の特異的な転写因子の階層におけるPDX位置の同定を例示する。ランゲルハンス島において発現されるが、肝臓における異所性PDX−1発現によって誘導されない全ての転写因子は、肝臓のような非内分泌膵臓組織におけるより包括的な、完全に近い〜完全なβ細胞表現型の誘導のためのPDXと協同し得る。肝臓における島細胞特異的な転写因子の誘導された発現の検出は、適切なプライマーおよび条件を使用して、実施例2におけるように実施され、それらの例は、表1に示される。
【0126】
実施例2に従ってポジティブな転写因子の活性を分析するための追加の方法は、フットプリンティングによって実施される。
【0127】
(エレクトロ移動度シフトアッセイ(EMSA)):核抽出物(3〜4μgのタンパク質)を、10%グリセロール、15mM Hepes(pH 7.9)、150mM KCl、5mM DTTおよび0.3μgのポリdIdC、ポリdAdT(SIGMA St−Louis MO)を含有するDNA結合混合物中に、10分間氷上でインキュベートした。最初のインキュベーション後、約0.2ngのプローブをさらに25分間のインキュベーションのために氷上に加えた。結合反応は、ネーティブ4%ポリアクリルアミドゲル上で分析した。
【0128】
(オリゴヌクレオチド(プローブ))合成二本鎖オリゴヌクレオチドを、DNAポリメラーゼのKlenowフラグメントを使用して、[α32P]ATPで末端標識した。オリゴヌクレオチドA3/A4の配列は、インシュリンプロモーター5’GATCTGCC CCTTGTTAATAATCTAATG3’(配列番号24)上のPDX−1結合部位(それらの1つ)のための例である。A1(インシュリンプロモーター上のさらなるPDX−1結合部位)についての配列は、5’GATCCGCCCTTAATGGGCCAAACGGCA−3’(配列番号25)である。この標識したオリゴを、図7に記載されるように、エレクトロ移動度シフトアッセイのためのプローブとして使用する。PDX−1の同一性は、プロモーター上の同族座位に結合するPDX−1を妨げるか、またはpdx−1+標識したプローブのみを含むものと比べてPAGE(抗体+pdx−1+プローブ)上で分離した複合体の分子量を増加する特異的抗体を使用して、スーパーシフト(supershift)によって二重と評価される(図7の最後の2本のレーン)。
【0129】
(等価物)
本発明の特定の実施形態の前述の詳細な説明から、膵臓ホルモン産生を誘導する特定の方法が記載されていることが明らかである。特定の実施形態が本明細書中に詳細に開示されるが、これは、例示のみの目的で実施例の様式で行なわれ、以下の添付の特許請求の範囲を限定することは意図されない。特に、種々の置換、変更、および改変が、本特許請求の範囲によって規定される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明に対して行なわれ得ることが本発明者によって考慮される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−57716(P2011−57716A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288937(P2010−288937)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【分割の表示】特願2000−620991(P2000−620991)の分割
【原出願日】平成12年6月1日(2000.6.1)
【出願人】(501464543)
【Fターム(参考)】