説明

非可逆回路素子及び通信装置

【課題】相互変調歪みを改善し得る非可逆回路素子、及び、これを用いた通信装置を提供する。
【解決手段】非可逆回路素子は、ケースと、このケース内に積み重ねられた複数の収納物と、数の収納物を押さえつける蓋とを含む。ケースと複数の収納物と蓋は、磁気回路を構成している。複数の収納物は、永久磁石と、磁気回転子と、非磁性体シートとを含む。複数の収納物には、永久磁石と、磁気回転子が含まれるから、永久磁石から磁気回転子に磁界が印加される。非磁性体シートは磁気回路における磁気抵抗として機能する。これにより、磁気回転子に与えられる磁界を弱めるとともに、その一様性が増すように作用するものと推測される。したがって、この作用が電気的特性の安定化をもたらし、結果的に相互変調歪みが改善されるものと考えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイソレータやサーキュレータ等の非可逆回路素子、及び、これを用いた通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アイソレータやサーキュレータ等の非可逆回路素子は、携帯電話、無線機等の移動体通信装置や、その基地局等に用いられており、その一般的な構造は、例えば、特許文献1に記載されているように、ヨークとして機能する金属ケースの内部に、永久磁石、及び、磁気回転子を含む組立体を収容して構成される。
【0003】
近年、この種の非可逆回路素子では、移動体通信装置における形状の小型化とともに、デジタル変調波の信号伝送特性である相互変調歪み(IMD;Inter Modulation Distortion)の改善要求が厳しくなっている。相互変調歪みとは、正常な周波数成分の信号の大きさに対する、歪みの原因となる周波数成分の信号の大きさであり、単位はdBcで表される。これは、言い換えれば、正常な信号伝送の指標であり、入力損失・出力損失・挿入損失に並ぶ重要な特性である。
【0004】
特許文献1には、接着手段によって非可逆回路素子の特性のばらつきを低減する技術が開示されているが、相互変調歪みを改善する技術は何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−288701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、相互変調歪みを改善し得る非可逆回路素子、及び、これを用いた通信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明に係る非可逆回路素子は、ケースと、このケース内に積み重ねられた複数の収納物と、前記複数の収納物を押さえつける蓋とを含む。
【0008】
前記ケースと前記複数の収納物と前記蓋は、磁気回路を構成している。前記複数の収納物は、永久磁石と、磁気回転子と、非磁性体シートとを含む。
【0009】
本発明によると、ケースと、このケース内に積み重ねられた複数の収納物と、複数の収納物を押さえつける蓋とが磁気回路を構成し、複数の収納物には、永久磁石と、磁気回転子が含まれるから、永久磁石から磁気回転子に磁界が印加される。
【0010】
本発明の特徴的部分は、複数の収納物に非磁性体シートが含まれる点にある。この非磁性体シートは磁気回路における磁気抵抗として機能する。これにより、磁気回転子に与えられる磁界を弱めるとともに、その一様性が増すように作用するものと推測される。
【0011】
したがって、この作用が電気的特性の安定化をもたらし、結果的に相互変調歪みが改善されるものと考えられる。
【0012】
しかも、この非磁性体シートの厚みを適宜に設定することによって、上記の磁気抵抗の値を制御することが可能となることから、特性を容易に調整することができる。
【0013】
一方、本発明に係る通信装置は、非可逆回路素子と、送信部または受信部とを含む。本発明に係る非可逆回路素子は、前記送信部または前記受信部と電気的に組み合わされて通信装置を構成する。
【0014】
本発明に係る通信装置によると、上述した非可逆回路素子を含むので、既に述べた内容と同様の作用効果が得られる。
【発明の効果】
【0015】
以上述べたように、本発明によれば、相互変調歪みを改善し得る非可逆回路素子、及び、これを用いた通信装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る非可逆回路素子の斜視図である。
【図2】本発明に係る非可逆回路素子の分解斜視図である。
【図3】本発明に係る非可逆回路素子の部分断面図である。
【図4】電圧定在波比を示すグラフである。
【図5】本発明に係る非可逆回路素子を用いた通信装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明に係る非可逆回路素子の斜視図、図2は分解斜視図、図3は図1の3−3線に沿って切断した部分断面図である。非可逆回路素子は、ケース1と、このケース1内に積み重ねられた複数の収納物2と、複数の収納物2を押さえつける蓋3とを含む。
【0018】
ケース1は、略円柱形状の収納部14を有する略直方体形状の部材であり、好ましくは鉄等の磁性金属材料で構成されている。ケース1は、収納部14を規定する内壁と、この内壁の周面の略等間隔な位置に形成された3つの溝部11〜13とを含む。
【0019】
ケース1は、収納部14に複数の収納物2を積み上げて収納し、その上方で蓋3と螺合することによって複数の収納物2が押さえつけられるように、収納部14を規定する周壁に螺子溝15が設けられている。
【0020】
蓋3は、鉄などの磁性材料からなる円板状体であって、ヨークとして用いられる。蓋2は、ケース1に組みつけられたとき、収納部14に備えられた磁気回転子組立体4に荷重を印加する。蓋3の周面には、ケース1と螺合するための螺子31が形成されている。
【0021】
複数の収納物2は、上部磁極板21と、非磁性体シート22と、第1の永久磁石231と、第1の中間磁極板241と、磁気回転子4と、第2の中間磁極板242と、第2の永久磁石232と、下部磁極板27とを含み、この順序でケース1内に積み重ねられている。
【0022】
磁気回転子4は、第1のフェライト基体251と、中心導体26と、第2のフェライト基体252とを含み、それぞれが上述した順序で積み重ねられている。第1及び第2のフェライト基体251,252は、イットリウム/鉄/ガーネット(YIG)等の軟磁性材料からなる円板状のフェライト部251a,252aと、その外周に設けられた円環板状の誘電体部251b,252bとを有している。なお、フェライト基体251,252,351,352の形状は、この形状に限定されず、角板等であってもよい。
【0023】
中心導体26は、好ましくは、厚さが0.05〜1.0(mm)程度の銅板を加工した導体板あって、外周に突設された第1〜第3の端子261〜263を有する。中心導体26は、第1のフェライト基体251と、第2のフェライト基体252とにより挟持されている。
【0024】
第1及び第2の中間磁極板241,242及び下部磁極板27は、厚さ0.1〜0.3(mm)程度の導体板であって、例えば鉄よりなる。中間磁極板241,242は、それぞれ、フェライト基体251,252と永久磁石231,232の間に各々と隣接して配置され、磁気特性の安定化に寄与する。また、下部磁極板27は、ケース1の底面と第2の永久磁石232との間に各々と隣接して配置され、磁気特性の安定化に寄与する。
【0025】
一方、上部磁極板21は、厚さ0.1〜0.3(mm)程度の導体板であって、例えば鉄とニッケルの合金(整磁鋼など)よりなる。上部磁極板21は蓋3と非磁性体シート22の間に各々と隣接して配置される。上部磁極板21は、永久磁石231,232とフェライト基体251,252の温度変化に対する磁気特性の変化を相殺することにより特性を安定化させる効果を奏する。
【0026】
また、上部磁極板21には、外周の略等間隔な位置に3つの凸部211〜213が設けられている。この凸部211〜213は、ケース1の溝部11〜13に係合することによって回転止めとして機能する。これにより、蓋3を螺子止めするとき、蓋3の回転につられて収納物2が回転し、調整済みの特性が変化してしまうことを防止することができる。
【0027】
第1及び第2の永久磁石231,232は、磁気回転子4の両面と隣接して配置され、図3に示されるように、磁気回転子4に直流磁界Hを印加する。直流磁界Hは、収納物2からケース1の底部、そして側壁に沿って、ヨークである蓋3から収納物2へと戻る経路の閉ループをなす。すなわち、ケース1と複数の収納物2と蓋3は、磁気回路を構成している。
【0028】
本発明の特徴的部分は、非磁性体シート22を備える点にある。非磁性体シート22は、蓋3と第1の永久磁石231の間に各々と隣接して備えられ、典型的には、テフロン(登録商標)や銅板などの非磁性体材料を用いて形成される。実験によって、この非磁性体シート22は相互変調歪みの改善に寄与することが見出された。図4は、電圧定在波比(VSWR:Voltage Standing Wave Racio)を示すグラフである。
【0029】
図中の符号aは、非磁性体シート22を備えていない非可逆回路素子(すなわち、従来技術に係る非可逆回路素子)の特性を表し、符号cは、非磁性体シート22を備えた非可逆回路素子(すなわち、本発明に係る非可逆回路素子)の特性を表す。図示されるように、本発明に係る非可逆回路素子に適宜に調整を行えば、全体的に相互変調歪みの値が減少して、特性が改善されていることが理解される。実験によると、最大で5(dBc)程度の改善が確認された。
【0030】
また、符号bは、非磁性体シート22を備えた非可逆回路素子の特性であって、フェライト基体251,252を透過する磁束数の調整を行う前のものを表している。この磁束数の調整が必要となる理由は次の通りである。
【0031】
まず、符号aに示されるように、中心周波数fc(例えば2G(Hz))に合わせて特性を調整された非可逆回路素子に非磁性体シート22を追加すると、上述した磁気抵抗の効果により磁界Hが弱まるので、特性全体が周波数frcを中心とするように低周波側にずれてしまう(符号bを参照)。このため、符号cに示される特性を得るべく、永久磁石231,232を着磁することによって、磁気回転子4を透過する磁束数を、符号aに示す特性の場合と同数にすることが必要となるのである。そして、その結果として、相互変調歪みが改善される。
【0032】
このように、従来、改善が困難であった相互変調歪みを、非磁性体シート22を備えるだけで、簡便に向上させることができる。その理由としては、非磁性体シート22は磁気回路における磁気抵抗として機能するため、これにより、磁気回転子4に与えられる磁界Hを弱めるとともに、その一様性が増すように作用するものと推測される。
【0033】
したがって、この作用が電気的特性の安定化をもたらし、結果的に相互変調歪みが改善されるものと考えられる。
【0034】
実験では、非磁性体シート22の厚みを0.1〜1.0(mm)とした場合、良好な特性が得られた。この厚みを適宜に設定することによって、上記の磁気抵抗の値を制御することができるから、特性の調整を容易に行うことができる。
【0035】
本実施形態では、非磁性体シート22の形状として円板を例示したが、これに限定される必要はなく、収納部14の形状に応じて、例えば矩形状としてもよいし、また、円環状としてもよいことは言うまでもない。ここで、非磁性体シート22を環状とした場合、中心部分にエアギャップが形成され、このエアギャップも磁気抵抗として機能するから、同様の効果が得られると同時に、中心部分について材料の使用を削減できるから、製造コストを低減することもできる。
【0036】
また、本実施形態では、非磁性体シート22が蓋3と永久磁石23の間に配置されているが、これに限定される必要はなく、磁気回路構成に応じて、永久磁石23と磁気回転子4の間に配置する態様もとり得る。更に言えば、要求される特性に応じて、永久磁石231,232、磁極板21,241,242,27の使用数及び配置も適宜に変更することができるのは自明である。
【0037】
次に、本発明に係る通信装置について説明する。図5は本発明に係る非可逆回路素子を用いた通信装置のブロック図である。
【0038】
この通信装置は、例えば、移動通信システムにおける基地局に備えられるものであって、受信部6と、送信部7とを含み、両者は、送受信用アンテナ8に接続されている。受信部6は、受信用増幅回路62と、受信された信号を処理する受信回路61とを含んでいる。送信部7は、音声信号、映像信号などを生成する送信回路71と、電力増幅回路72とを含んでいる。上述した通信装置において、アンテナ8から受信部6及び送信部7に到る回路や、電力増幅回路72の出力段に、本発明に係る非可逆回路素子73、74が用いられる。非可逆回路素子73はサーキュレータとして機能し、非可逆回路素子74は終端抵抗器R0を有するアイソレータとして機能する。
【0039】
本発明に係る通信装置によると、上述した非可逆回路素子を含むので、既に述べた内容と同様の作用効果が得られる。
【0040】
以上、好ましい実施例を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
【符号の説明】
【0041】
1 ケース
2 複数の収納物
21,241,242,27 磁極板
22 非磁性体シート
231,232 永久磁石
251,252 フェライト基体
26 中心導体
3 蓋
4 磁気回転子
7 送信部
H 直流磁界

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、このケース内に積み重ねられた複数の収納物と、前記複数の収納物を押さえつける蓋とを含む非可逆回路素子であって、
前記ケースと前記複数の収納物と前記蓋は、磁気回路を構成し、
前記複数の収納物は、永久磁石と、磁気回転子と、非磁性体シートとを含む、
非可逆回路素子。
【請求項2】
請求項1に記載された非可逆回路素子であって、
前記非磁性体シートは、前記蓋と前記永久磁石の間に配置されている、
非可逆回路素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載された非可逆回路素子であって、
前記非磁性体シートは、テフロン(登録商標)からなる、
非可逆回路素子。
【請求項4】
請求項1または2に記載された非可逆回路素子であって、
前記非磁性体シートは、銅からなる、
非可逆回路素子。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載された非可逆回路素子であって、
前記非磁性体シートは、環状である、
非可逆回路素子。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載された非可逆回路素子であって、
前記非磁性体シートは、厚みが0.1〜1.0(mm)である、
非可逆回路素子。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載された非可逆回路素子であって、
前記磁気回転子は、2つのフェライト基体と、中心導体とを含み、
前記中心導体は前記2つのフェライト基体の間に配置されている、
非可逆回路素子。
【請求項8】
請求項1乃至6の何れかに記載された非可逆回路素子であって、
前記永久磁石は、前記磁気回転子の両面側に配置されている、
非可逆回路素子。
【請求項9】
請求項8に記載された非可逆回路素子であって、
前記複数の収納物は、さらに導体板を含み、
前記導体板は、前記フェライト基体と前記永久磁石の間に配置されている、
非可逆回路素子。
【請求項10】
非可逆回路素子と、送信部または受信部とを含む通信装置であって、
前記非可逆回路素子は、請求項1乃至9の何れかに記載されたものでなり、前記送信部または前記受信部と電気的に組み合わされている、
通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−160191(P2011−160191A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20184(P2010−20184)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】