説明

非増殖性細胞用核酸分子送達用担体

【課題】本発明の課題は、神経細胞のような非増殖性細胞に対しても、細胞毒性が低く遺伝子発現効率に優れた核酸分子送達用担体、及び該核酸分子送達用担体を用いた遺伝子導入方法、及びキットを提供することである。
【解決手段】本発明は、リン脂質、カチオン性脂質、及びマンノシッドリピド系糖脂質化合物を含むことを特徴とする核酸分子送達用担体、および該核酸分子送達用担体を用いた遺伝子導入方法、及び、該核酸分子送達用担体を含むキットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非増殖性細胞用高い遺伝子発現率を示す核酸分子導入剤としてカチオン性脂質、及びマンノシッドリピド系糖脂質化合物を含む核酸分子送達用担体と、及び該核酸分子送達用担体による非増殖性細胞用への核酸分子導入方法、及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、遺伝子導入効率の向上を目的に、リポソームの構成成分の検討が行われており、主成分である中性のリン脂質以外に、正電荷を持つ脂質化合物、例えばコレステロール誘導体などを少量添加する試みも行われている(非特許文献1)。特に正電荷を有するリポソームは、遺伝子との複合体を形成する上で必要であるが、カチオン性のリポソームベクターは一般に細胞毒性が高く、未だ満足する効果は得られていない。
【0003】
先に、本発明者らの一人は、MELを含有したリポソーム(MELリポソーム)が細胞に対して高い遺伝子導入作用を有していることを見出している(特許文献1、非特許文献2)。また、エタノール注入法で粒子サイズが小さいリポソームを調製することで、in vivo投与で有効なMELリポソームを見出している(特許文献2)。さらに、細胞が浮遊している状態でのトランスフェクションについても有効であることを見出している(特許文献3)。また、リポフェクトアミンなど優れたin vitro発現効果を有するリポソームが市販されている。しかし、それらはCOS細胞やHeLa細胞などのような増殖性の細胞での有効性であり、神経細胞のような非増殖性細胞では未だ満足のいく結果が得られていないのが現状である。
【0004】
ある種のウィルスは宿主細胞の膜表面に結合し、細胞膜と融合することによりヌクレオカプシドを細胞質内に送り込む。一般に、リポソームの場合は細胞との融合は起こりにくく、エンドサイトーシスにより取り込まれ、ライソゾームによる分解を免れた遺伝子の一部が核に取り込まれ発現すると言われている。膜融合の場合はリソゾームによる分解を受けることなく細胞内に送達される。MELリポソームは膜融合性を持っていることが知られている(非特許文献3)。さらに、本発明者らの一人は、カチオン性のコレステロール誘導体の中で、OH-Cholを用いたものに神経細胞への遺伝子導入効果が見られることを報告している(非特許文献4)。しかし、いまだ神経細胞のような非増殖性細胞に対しても遺伝子発現効率に優れた、満足のいく方法は見いだされていないのが現状である。
【特許文献1】特開2003−40767
【特許文献2】特願2004−93524
【特許文献3】特願2004−369299
【非特許文献1】中西ら、蛋白質・核酸・酵素、44 (11), 1590-1596 (1999)
【非特許文献2】北本大、フレグランスジャーナル、5, 29-38 (2002)
【非特許文献3】Y. Inoh, D. Kitamoto, N. Hirashima, and M. Nakanishi, BiosurfactantMEL-A drastically increase gene transfection via membrane fusionc, J.Contr. Release., 94 (2), 423-431 (2004)
【非特許文献4】A. Noguchi, N. Hirashima, T. Furuno and M. Nakanishi, Activation of receptor tyrosinase kinase gene transfection in rat neuronal PC12 cells by cationic liposomees, Nueroscience Lett., 325, 29-32 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、神経細胞のような非増殖性細胞に対しても、細胞毒性が低く遺伝子発現効率に優れた核酸分子送達用担体、及び該核酸分子送達用担体を用いた遺伝子導入方法、及びキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示すような手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、非増殖性細胞に対しても核酸分子、特に遺伝子発現効率に優れた核酸分子送達用担体、及び該核酸分子送達用担体を用いた核酸分子導入方法、及びキットに関する。
1.
非増殖性細胞への核酸分子送達用担体であって、カチオン性脂質、及びマンノシッドリピド系糖脂質化合物を含むことを特徴とする核酸分子送達用担体。
2.
マンノシッドリピド系糖脂質化合物が、マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)であることを特徴とする項1記載の核酸分子送達用担体。
3.
マンノシッドリピド系糖脂質化合物が、式(I):
【0007】
【化1】

【0008】
で表されるMEL-A、MEL-B及びMEL-Cからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする項1または2に記載の核酸分子送達用担体。
4.
カチオン性脂質が、3β[N−(N7,N’−ジメチルアミノ−エタン)−カルバモイル]コレステロール、3β−[N−(N‘、2’−ヒドロキシエチルアミノエタン)−カルバモイル]コレステロール、ステアリルアミン、N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ドデシル−D−グルタメートクロリド、N−[1−(2,3−オレオイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド、2,3−ジオレオイルオキシ−N−[2−(スペルミンカルボキシアミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアンモニウムトリフルオロアセテートからなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする項1記載の核酸分子送達用担体。
5.
非増殖性細胞が神経細胞であることを特徴とする項5に記載の核酸分子送達用担体。
6.
さらに、リン脂質を含むことを特徴とする項1記載の核酸分子送達用担体
7.
非増殖性細胞への核酸分子導入方法であって、
カチオン性脂質、及びマンノシッドリピド系糖脂質化合物を含む核酸分子送達用担体と核酸分子を混合し複合体を形成させる工程、該複合体と標的細胞とを接触させる工程を含むことを特徴とする核酸分子導入法。
8.
マンノシッドリピド系糖脂質化合物が、マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)であることを特徴とする項7記載の核酸分子導入法。
9.
マンノシッドリピド系糖脂質化合物が、式(I):
【0009】
【化2】

【0010】
で表されるMEL-A、MEL-B及びMEL-Cからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする項7または8に記載の核酸分子導入法。
10.
カチオン性脂質が、3β[N−(N7,N’−ジメチルアミノ−エタン)−カルバモイル]コレステロール、3β−[N−(N‘、2’−ドロキシエチルアミノエタン)−カルバモイル]コレステロール、ステアリルアミン、N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ドデシル−D−グルタメートクロリド、N−[1−(2,3−オレオイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド、2,3−ジオレオイルオキシ−N−[2−(スペルミンカルボキシアミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアンモニウムトリフルオロアセテートからなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする項7記載の核酸分子導入法。
11.
非増殖性細胞が神経細胞であることを特徴とする項7記載の核酸分子導入法。
12.
さらに、核酸分子送達用担体にリン脂質を含むことを特徴とする項7記載の遺伝子導入法。
13.
非増殖性細胞への核酸分子導入キットであって、
カチオン性脂質、及びマンノシッドリピド系糖脂質化合物を含むことを特徴とする核酸分子導入キット。
14.
マンノシッドリピド系糖脂質化合物が、マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)であることを特徴とする項13に記載の核酸分子導入キット。
15.
マンノシッドリピド系糖脂質化合物が、式(I):
【0011】
【化3】

【0012】
で表されるMEL-A、MEL-B及びMEL-Cからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする項13または14に記載の核酸分子導入キット。
16.
カチオン性脂質が、3β[N−(N7,N’−ジメチルアミノ−エタン)−カルバモイル]コレステロール、3β−[N−(N‘、2’−ドロキシエチルアミノエタン)−カルバモイル]コレステロール、ステアリルアミン、N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ドデシル−D−グルタメートクロリド、N−[1−(2,3−オレオイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド、2,3−ジオレオイルオキシ−N−[2−(スペルミンカルボキシアミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアンモニウムトリフルオロアセテートからなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする項13記載の核酸分子導入キット。
17.
非増殖性細胞が神経細胞であることを特徴とする項10記載の核酸分子導入キット。
18.
さらに、リン脂質を含むことを特徴とする項13に記載の核酸分子導入キット。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、非増殖性細胞に対しても核酸分子、特に遺伝子発現効率に優れた核酸分子送達用担体、及び該核酸分子送達用担体を用いた核酸分子導入方法、及びキットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の核酸分子送達用担体の一つの好ましい態様はリポソームである。核酸分子送達用担体は、リン脂質、カチオン性脂質、及びマンノシッドリピド系糖脂質化合物から構成される。これらの物質によりミセルが形成される。このミセルに結合する物質としては、遺伝子が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0015】
本発明では、毒性の低いカチオン性脂質としてコレステロール誘導体を用いて作製した核酸分子送達用担体に、さらにマンノシッドリピド系糖脂質化合物であるマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を添加することにより、COS細胞やHeLa細胞などの増殖性の細胞以外にも神経細胞のような非増殖性の細胞にも核酸分子の導入及び発現効果があることを見出した。
【0016】
カチオン性コレステロール誘導体は毒性が低いという利点を有するが、一方、核酸分子送達用担体が固くなり安定性が低く取り扱いしにくいという欠点を有する。本発明では意外にも、MELを添加することで膜流動性が変化し安定性を向上することができ、しかもエンドサイトーシスだけでなく膜融合により細胞内に導入することができるということを見いだした。
【0017】
本発明で用いられるリン脂質としては特に限定はされないが、例えば1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE)の他、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、リゾレシチン等の天然リン脂質、或いはこれらを定法により水素添加したもの(例えば水素添加大豆レシチン等)等が挙げられる。好ましくはDOPEがよい。
【0018】
本発明で用いられるカチオン性脂質としては特に限定はされないが、例えば3β[N−(N7,N’−ジメチルアミノ−エタン)−カルバモイル]コレステロール(以下「DC−コレステロール」と記す。)、3β−[N−(N‘、2’−ドロキシエチルアミノエタン)−カルバモイル]コレステロール(以下「OH−コレステロール」と記す。)、ステアリルアミン、N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ドデシル−D−グルタメートクロリド、N−[1−(2,3−オレオイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド、2,3−ジオレオイルオキシ−N−[2−(スペルミンカルボキシアミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアンモニウムトリフルオロアセテート等が挙げられる。中でも、OH−コレステロールが細胞毒性の低い点から好ましい。
【0019】
本発明で用いられるMELとしては特に限定はされないが、例えば、MEL−A、MEL−B、MEL−Cの3種類がある。特に好ましいものは、MEL−Aであり、式(1)
【0020】
【化4】

【0021】
に対応させれば、マンノースの2位、3位に炭素数8〜12のアルカノイルを有し、RI、RIIがアセチル基である化合物である。
【0022】
本発明の核酸分子送達用担体の調製は、好ましくは中性脂質DOPE、カチオン性脂質DC−Chol及びMELを用いて調製すればよい。
中性脂質とカチオン性脂質のモル比は、通常モル比で10:1〜10:20、好ましくは、5:1〜1:1である。MELは中性脂質とカチオン性脂質の混合物に対し、通常モル比で、(中性脂質とカチオン性脂質の混合物):MEL=1000:1〜0:1であり、好ましくは、50:1〜1:1、さらに好ましくは5:1の混合物とするのがよい。
【0023】
核酸分子送達用担体に遺伝子を結合させる方法としては、そのまま懸濁させるか、又は凍結乾燥若しくはスプレードライによって粉末化したものを水、生理食塩液等で再懸濁させればよい。
【0024】
本発明によって得られた核酸分子送達用担体は、静脈内投与することができる。また、本発明のMELリポソームは、培養細胞を用いる核酸分子(特に遺伝子)の導入、発現等の研究用試薬としても使用することができる。
【0025】
本発明の核酸分子送達用担体を含む核酸分子導入キットは、核酸分子送達用担体、懸濁用媒体、容器及び必要に応じて導入用核酸分子を含む。
【0026】
好ましくは、核酸分子送達用担体は、核酸分子送達用担体懸濁液又は粉末であり、懸濁用媒体は水又はバッファー溶液を用いることができる。
【0027】
本発明においては、核酸分子としてDNAあるいはRNAあるいはその他の遺伝子を用いることができる。DNAあるいはRNAは、一本鎖もしくは二本鎖であってよく、また線状、環状等であってもよく、さらに1種類以上のDNAあるいはRNAを同時に用いることもできる。また、PNAなども用いることができる。
【実施例】
【0028】
以下の実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらに何ら限定されるものではない。
調製例1
(MELリポソームの調製)
MELリポソームはバンガム法により調製した。すなわち、OH−Chol:L- ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン (DOPE) (アバンチボーラーリピッド社):マンノシルエリスリトールリピッド(MEL−A)= 3/ 2/ 1 (モル比)で各種成分を量りとり、クロロホルム適当量に溶解し、ロータリーエバポレーター(N-1000S. S-W型、東京理化機器株式会社)で留去し、引き続き真空下1時間乾燥した。そこへ、PBS4mLを加え、これを水浴型超音波装置(W-220R、本多電子株式会社)を用い約5分間ソニケーションした後、さらにチップ型超音波装置で10分間ソニケーションし0.44μmのフィルターを通した。
(MELリポソームと遺伝子との複合体(リポプレックス)の調製)
リポプレックスの作製は電荷比DC-Chol (+) / DNA (-) =1/1で行った。まず、滅菌水に溶解したルシフェラーゼ遺伝子pCMV-luc (pGL3 enhanced Plasmid) (Promega社) 1μgに対し、核酸のアニオンに対するリホ゜ソームのカチオンモル比で1〜4になるようにMELリポソームを添加し、十分に混合し、室温で15分間インキュべートすることにより、複合体を調製した。
[実施例1]神経細胞への遺伝子導入
(神経細胞の培養方法)
ラット副腎髄質褐色細胞腫(PC12)は、10%FBS、5%HSを含むDMEM培地で37℃、5%CO2 存在下で培養した。また、神経細胞様に分化させる場合は50ng/mlのNGF存在下で7日間培養した。神経細胞への分化は神経突起の伸長により確認した。
(神経細胞への遺伝子導入方法)
正電荷リポソームは中性リン脂質、正電荷コレステロール誘導体、バイオサーファクタント(L-CMV)と混合後細胞に加え、無血清培地(SFM101)中で4時間導入した。導入40時間後に、遺伝子導入効率を評価した。結果は表1に示した。
(ルシフェラーゼ活性の測定)
MELリポソームを用いた導入遺伝子の活性を評価するためピッカジーン(東洋インキ株式会社)を用いて ルシフェラーゼ活性を測定した。
(PC12細胞への遺伝子導入効率の評価)
未分化のPC12細胞を用いて遺伝子導入効率を評価した結果、MEL-Aを含まないリポソームの場合と比較して、MEL-A含有リポソームの方が導入効率が約3倍に増大した。次に、PC12をNGF(nervegrowth factor)存在下で7日間培養し、神経様に分化した段階で同様に遺伝子導入を行なった結果、MEL-Aを添加したリポソームでは未添加のものに比べて導入効率が約3倍に増大した。このことは、株化培養神経細胞においてMEL-Aが遺伝子導入効率を増大させる作用をもつことを示している。
【0029】
【表1】

【0030】
[実施例2]上頚神経節の初代培養細胞への蛍光蛋白質YFPの遺伝子導入
(上頚神経節の初代培養細胞を用いたMEL-A含有正電荷リポソームによる遺伝子導入)
上頚神経節(superior servical ganglia ;SCG)は、CBAマウスの新生児から単離した。単離した神経を0.25%トリプシンを含むハンクス緩衝液中で、37℃1時間インキュベートした。トリプシン除去後、F12培地中でピペッティングして細胞を分散させ、マトリゲルコートしたチャンバーにまき、10%FCS、50ng/ml NGF、2μM cytosine β-D-arabino-furanosideを加えたF12培地中で培養した。
【0031】
遺伝子導入後は、PC-12細胞と同様に行なった。ただし、遺伝子は蛍光蛋白質YFP(yellow fluorescence protein)を発現するpEYFP-N1を導入した。
YFP発現細胞の蛍光画像の取得は、蛍光蛍光共焦点レーザー顕微鏡(LSM510;Zeiss)を用いて行なった(ex.488nm,em.515−565nm)。得られた蛍光画像を画像解析ソフトNIH Imageを用いて解析した。結果は表2に示した。
【0032】
【表2】

【0033】
50個の上頚神経節(SCG)細胞について細胞体領域のYFPの蛍光強度を測定し、単位面積あたりの平均蛍光強度を比較した。その結果、MEL-A含有リポソームの方がMEL-Aを含有しないリポソームに比べて約2.5倍蛍光強度が高くなった。このことは、神経細胞の初代培養系においてもMEL-Aが遺伝子導入効率を高める作用をもつことを示している。
[実施例3]上頚神経節の初代培養細胞へのNGF受容体遺伝子の導入
(上頚神経節へのNGF受容体遺伝子の導入とその作用)
神経成長因子(nerve growth factor;NGF)の高親和性受容体であるTrkAをコードするcDNAをPC12細胞からRT-PCR法により得た。Trk−Aと蛍光蛋白質YFPの融合蛋白質を発現するプラスミドを構築後、上と同様の方法で、上頚神経節(SCG)に導入した。蛍光画像は、共焦点レーザー顕微鏡を用いて取得し、NIH imageを用いて解析した。結果は表3に示した。
【0034】
【表3】

【0035】
導入40時間後、細胞を観察した結果、Trk-YFPの蛍光が観察され、導入遺伝子が発現していることが確認された。また、Trk-YFPを導入した細胞としなかった細胞についてSCG細胞の神経突起の長さを測定し、細胞1個あたりの総突起長を比較した結果、Trk-YFPを導入した細胞で突起の伸長が亢進していることが明らかとなった。このことは、MEL-A含有リポソームを用いて導入された蛋白質が初代神経細胞で発現し、正常に機能することを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明により、神経細胞のような非増殖性細胞に対しても、細胞毒性が低く遺伝子発現効率に優れた核酸分子送達用担体、及び該核酸分子送達用担体を用いた遺伝子導入方法、及びキットを提供することで、産業界に大きく寄与することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非増殖性細胞への核酸分子送達用担体であって、カチオン性脂質、及びマンノシッドリピド系糖脂質化合物を含むことを特徴とする核酸分子送達用担体。
【請求項2】
マンノシッドリピド系糖脂質化合物が、マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)であることを特徴とする請求項1記載の核酸分子送達用担体。
【請求項3】
マンノシッドリピド系糖脂質化合物が、式(I):
【化1】

で表されるMEL-A、MEL-B及びMEL-Cからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の核酸分子送達用担体。
【請求項4】
カチオン性脂質が、3β[N−(N7,N’−ジメチルアミノ−エタン)−カルバモイル]コレステロール、3β−[N−(N‘、2’−ヒドロキシエチルアミノエタン)−カルバモイル]コレステロール、ステアリルアミン、N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ドデシル−D−グルタメートクロリド、N−[1−(2,3−オレオイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド、2,3−ジオレオイルオキシ−N−[2−(スペルミンカルボキシアミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアンモニウムトリフルオロアセテートからなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする請求項1記載の核酸分子送達用担体。
【請求項5】
非増殖性細胞が神経細胞であることを特徴とする請求項5に記載の核酸分子送達用担体。
【請求項6】
さらに、リン脂質を含むことを特徴とする請求項1記載の核酸分子送達用担体
【請求項7】
非増殖性細胞への核酸分子導入方法であって、
カチオン性脂質、及びマンノシッドリピド系糖脂質化合物を含む核酸分子送達用担体と核酸分子を混合し複合体を形成させる工程、該複合体と標的細胞とを接触させる工程を含むことを特徴とする核酸分子導入法。
【請求項8】
マンノシッドリピド系糖脂質化合物が、マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)であることを特徴とする請求項7記載の核酸分子導入法。
【請求項9】
マンノシッドリピド系糖脂質化合物が、式(I):
【化2】

で表されるMEL-A、MEL-B及びMEL-Cからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項7または8に記載の核酸分子導入法。
【請求項10】
カチオン性脂質が、3β[N−(N7,N’−ジメチルアミノ−エタン)−カルバモイル]コレステロール、3β−[N−(N‘、2’−ドロキシエチルアミノエタン)−カルバモイル]コレステロール、ステアリルアミン、N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ドデシル−D−グルタメートクロリド、N−[1−(2,3−オレオイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド、2,3−ジオレオイルオキシ−N−[2−(スペルミンカルボキシアミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアンモニウムトリフルオロアセテートからなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする請求項7記載の核酸分子導入法。
【請求項11】
非増殖性細胞が神経細胞であることを特徴とする請求項7記載の核酸分子導入法。
【請求項12】
さらに、核酸分子送達用担体にリン脂質を含むことを特徴とする請求項7記載の遺伝子導入法。
【請求項13】
非増殖性細胞への核酸分子導入キットであって、
カチオン性脂質、及びマンノシッドリピド系糖脂質化合物を含むことを特徴とする核酸分子導入キット。
【請求項14】
マンノシッドリピド系糖脂質化合物が、マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)であることを特徴とする請求項13に記載の核酸分子導入キット。
【請求項15】
マンノシッドリピド系糖脂質化合物が、式(I):
【化3】

で表されるMEL-A、MEL-B及びMEL-Cからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項13または14に記載の核酸分子導入キット。
【請求項16】
カチオン性脂質が、3β[N−(N7,N’−ジメチルアミノ−エタン)−カルバモイル]コレステロール、3β−[N−(N‘、2’−ドロキシエチルアミノエタン)−カルバモイル]コレステロール、ステアリルアミン、N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ドデシル−D−グルタメートクロリド、N−[1−(2,3−オレオイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド、2,3−ジオレオイルオキシ−N−[2−(スペルミンカルボキシアミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアンモニウムトリフルオロアセテートからなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする請求項13記載の核酸分子導入キット。
【請求項17】
非増殖性細胞が神経細胞であることを特徴とする請求項10記載の核酸分子導入キット。
【請求項18】
さらに、リン脂質を含むことを特徴とする請求項13に記載の核酸分子導入キット。

【公開番号】特開2007−112749(P2007−112749A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−305959(P2005−305959)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】