説明

非対称ガス分離膜を用いた、混合有機蒸気から有機蒸気を分離回収する方法。

【課題】本発明は、ポリイミド骨格を含有して構成された非対称膜であって、有機溶剤に対する耐溶剤性が改良され且つ有機蒸気に対して実用的な分離性能を安定して有する非対称ガス分離膜を提供することを目的とする。
【解決手段】ポリイミド骨格を含有して構成された非対称膜であって、(1)50℃のパラクロロフェノール中に30分間浸漬しても溶解しない、(2)メタノール蒸気の透過速度(P'MeOH)が1×10-4cm3(STP)/cm2・sec・cmHg以上であることを特徴とする非対称ガス分離膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド骨格を含有して構成され且つ不融化された非対称ガス分離膜であって、有機溶剤に対する耐溶剤性が改良され且つ有機蒸気に対する実用的な分離性能を有する非対称ガス分離膜に関する。特に、アルコール類、エステル類、ケトン類などの有機物の蒸気を効率よく分離することに適した非対称ガス分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド非対称ガス分離膜は、ポリイミドを有機溶剤に溶解させたドープを用いて、Loebらが提案(例えば、特許文献1参照)した方法、即ち、ポリマー溶液をノズルから押し出して目的形状物とし空気または窒素空間を通過させた後で凝固浴に浸漬するいわゆる乾湿式法により好適に製造できる。このような方法で製造されたポリイミド非対称ガス分離膜は、水蒸気や無機ガスなどの分離回収用途に好適に用いられている。しかしながら、このポリイミド非対称ガス分離膜は、有機蒸気の分離回収に用いるには耐溶剤性に関して限界があった。すなわち、このポリイミド非対称ガス分離膜は、例えばアルコール類、ケトン類、エステル類などの有機蒸気の分離回収において、耐溶剤性が低いために有機蒸気によって膜が膨潤又は溶解して分離性能が低下するなどの問題が生じた。また有機蒸気の透過速度や分離度で示される分離性能も十分なものではなかった。
一方、有機溶媒に溶解しないポリイミドの場合は、非対称膜を形成するためにポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を有機溶剤に溶解させたドープを用いなければならないが、ポリアミド酸では膜を形成後に高温の加熱処理などによってイミド化しなければならず、このような製造工程では良好な分離性能を示すポリイミド非対称ガス分離膜を得ることは難しかった。
【0003】
また、有機蒸気を分離回収するガス分離膜として、無機又は有機材料からなる多孔性支持膜上に架橋型シリコーンやポリブタジエンなどのゴム状高分子あるいは無機キセロゲルなどからなる薄い分離層を備えた複合膜(例えば、特許文献2及び特許文献3参照)が検討されている。しかし、これらの膜は製造工程が複雑で高性能膜を安定して製造するのが困難であり、また、分離性能が低かったり、有機蒸気の影響で安定した分離性能を保持できないなど実用的な分離膜としては問題があった。
【0004】
【特許文献1】米国特許3,133,132号
【特許文献2】特開平6−246126号
【特許文献3】特開平10−202073号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ポリイミド骨格を含有して構成された非対称膜であって、有機溶剤に対する耐溶剤性が改良され且つ有機蒸気に対して実用的な分離性能を安定して有する非対称ガス分離膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、ポリイミド骨格を含有して構成された非対称膜であって、50℃のパラクロロフェノール中に30分間浸漬しても溶解しないこと、メタノール蒸気の透過速度(P’MeOH)が1×10-4cm3(STP)/cm2・sec・cmHg以上であること、好ましくは前記非対称ガス分離膜のメタノール蒸気の透過速度とイソプロパノール蒸気の透過速度との速度比(P’MeOH/P’iPrOH)が10以上であること、を特徴とする非対称ガス分離膜に関する。
また、前記非対称ガス分離膜が置換基を有するポリイミドによって構成された非対称膜を270℃〜450℃の温度範囲であって且つ前記ポリイミドのガラス転移温度未満の温度で加熱処理することによって不融化して得られたものであること、及び、前記置換基がSO3H基、SO3HNL123基(L1、L2、L3は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基である)、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン基、アルキル基、アルコキシ基、及び、アリールオキシ基のいずれかであることに関する。
更に、前記非対称ガス分離膜が中空糸膜であること、及び、有機蒸気を分離回収するために用いられるものであることに関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、有機溶剤に対する耐溶剤性が改良され且つ有機蒸気に対して実用的な分離性能を安定して有する非対称ガス分離膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の非対称ガス分離膜は、ポリイミド骨格を含有して構成された非対称膜であって、50℃のパラクロロフェノール中に30分間浸漬しても溶解しないだけの改良された耐有機溶剤性を有し、且つ、メタノール蒸気の透過速度(P’MeOH)が1×10-4cm3(STP)/cm2・sec・cmHg以上と高く、更に好ましくは、メタノール蒸気の透過速度とイソプロパノール蒸気の透過速度の比(P’MeOH/P’iPrOH)が10以上と大きく、有機蒸気の分離回収に対して実用的な分離性能を有していることを特徴とする。
【0009】
本発明におけるメタノール蒸気の透過速度(P’MeOH)、及び、メタノール蒸気の透過速度とイソプロパノール蒸気の透過速度の比(P’MeOH/P’iPrOH)は、メタノール蒸気及びイソプロパノール蒸気が等モルからなる120℃、大気圧の混合有機蒸気を分離膜に供給し、分離膜の透過側を5mmHgに減圧して測定されたものである。
【0010】
パラクロロフェノールは、ポリイミドに対し最も高い溶解性を示す有機溶剤の一つであり、しばしば、乾湿式法によりポリイミド非対称分離膜を製造するときにポリイミドを溶解する溶剤として用いられている。このような最も高い溶解性を持っているパラクロロフェノールに対して高い耐溶剤性を示すものは、パラクロロフェノールよりも低い溶解性しか持っていないアルコール類、ケトン類、エステル類など他の有機蒸気に対しては十分な耐溶剤性を有する。即ち、本発明の非対称ガス分離膜は、50℃のパラクロロフェノール中に30分間浸漬しても溶解しないだけの改良された耐有機溶剤性を有するから、アルコール類、ケトン類、エステル類などの有機蒸気を分離回収するのに十分な耐溶剤性を持っている。
【0011】
本発明の非対称ガス分離膜は、メタノール蒸気の透過速度(P’MeOH)が1×10-4cm3(STP)/cm2・sec・cmHg以上特に2×10-4cm3(STP)/cm2・sec・cmHg以上であり、また、好ましくはメタノール蒸気の透過速度とイソプロパノール蒸気の透過速度の比(P’MeOH/P’iPrOH)が10以上特に30以上更に100以上である。このようにメタノール蒸気の透過速度が大きく且つ好ましくはメタノール蒸気の透過速度とイソプロパノール蒸気の透過速度の比が大きな非対称ガス分離膜は、アルコール類、ケトン類、エステル類などの有機蒸気を分離回収するときに十分に実用的な分離性能を持っている。尚、本発明の非対称ガス分離膜のメタノール蒸気の透過速度(P’MeOH)は、通常100×10-4cm3(STP)/cm2・sec・cmHg以下特に50×10-4cm3(STP)/cm2・sec・cmHg以下であり、また、メタノール蒸気の透過速度とイソプロパノール蒸気の透過速度の比は、通常1000以下特に500以下である。
【0012】
本発明の非対称ガス分離膜は、置換基を有するポリイミドを用いてポリイミド非対称膜を形成し、次いで、その非対称膜のポリイミド骨格と非対称構造とが保持され且つ置換基が分解脱離して不融化する程度の温度条件で加熱処理する方法によって好適に得ることができる。この加熱処理は次のように説明できる。▲1▼この加熱処理はポリイミドの主鎖を構成するポリイミド骨格が実質的に保持される温度範囲でなされなければならない。この結果、非対称膜の機械的な強度が保持される。より高温で加熱処理してポリイミド骨格の分解が進むと機械的な強度が低下するという問題が生じる。▲2▼この加熱処理は非対称構造が保持される温度範囲でなされなければならない。このためには、加熱処理温度はポリイミドの主鎖のガラス転移温度よりも低い温度でなければならない。ガラス転移温度以上の温度で加熱処理すると非対称構造が損なわれてガス分離機能を失う。▲3▼この加熱処理によって有機蒸気に対する透過速度と透過速度比とで示される分離性能が実用的なものに改良される。▲4▼この加熱処理によって少なくとも一部の置換基が分解脱離すると同時に架橋してポリイミドを不融化する。本発明において、不融化とは、50℃のパラクロロフェノール中に30分間浸漬しても溶解しないようになることである。この結果、非対称膜の耐溶剤性が改良される。
すなわち、本発明の非対称ガス分離膜は、ポリイミド骨格を保持しているから機械的強度が優れており、ガス分離膜として必要な非対称構造を保持し且つ有機蒸気に対する改良されたガス分離性能を有しており、更に、不融化されて優れた耐有機溶剤性を有している。このため、有機蒸気を分離回収するための実用的なガス分離膜として好適なものである。
【0013】
本発明の非対称ガス分離膜を調製するときに用いる置換基を有するポリイミドのガラス転移温度は、それ自身の置換基が分解脱離して不融化する温度よりも高くなければならない。置換基が分解脱離する温度は270℃以上好ましくは300℃以上更に360℃以上であるから、本発明の非対称ガス分離膜を調製するときに用いる置換基を有するポリイミドのガラス転移温度も同様に270℃以上好ましくは300℃以上更に360℃以上であることが好適である。
尚、ポリイミドは450℃を超えると主鎖を形成する結合が分解し始め更に高温ではポリイミド環が分解して炭化が進行するから、前記置換基は450℃以下の温度で分解脱離することが好適である。
【0014】
本発明の非対称ガス分離膜を形成するときに用いる置換基を有するポリイミドは、限定するものではないが、下記化学式(1)で示されるポリイミド単位を有する芳香族ポリイミドを好適に挙げることができる。
【化1】

[ここで、Aは芳香族テトラカルボン酸からカルボン酸基を除いた4価の残基である。また、Bは芳香族ジアミンのアミノ基を除く2価の残基であって、下記化学式(2)〜化学式(7)で示される。]
【化2】

[ここで、R1〜R4は置換基であって、これら置換基のうち少なくとも一つは、SO3H基、SO3HNL123基(L1、L2、L3は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基である)、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン基、アルキル基、アルコキシ基、及び、アリールオキシ基からなる群から選ばれるいずれかの基であり、その他は水素原子である。]
【化3】

[ここで、R1〜R8は置換基であって、これら置換基のうち少なくとも一つは、SO3H基、SO3HNL123基(L1、L2、L3は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基である)、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン基、アルキル基、アルコキシ基、及び、アリールオキシ基からなる群から選ばれるいずれかの基であり、その他は水素原子である。]
【化4】

[ここで、R1〜R8は置換基であって、これら置換基のうち少なくとも一つは、SO3H基、SO3HNL123基(L1、L2、L3は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基である)、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン基、アルキル基、アルコキシ基、及び、アリールオキシ基からなる群から選ばれるいずれかの基であり、その他は水素原子である。]
【化5】

[ここで、R1〜R8は置換基であって、これら置換基のうち少なくとも一つは、SO3H基、SO3HNL123基(L1、L2、L3は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基である)、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン基、アルキル基、アルコキシ基、及び、アリールオキシ基からなる群から選ばれるいずれかの基であり、その他は水素原子である。]
【化6】

[ここで、R1〜R6は置換基であって、これら置換基のうち少なくとも一つは、SO3H基、SO3HNL123基(L1、L2、L3は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基である)、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン基、アルキル基、アルコキシ基、及び、アリールオキシ基からなる群から選ばれるいずれかの基であり、その他は水素原子である。]
【化7】

[ここで、R1〜R8は置換基であって、これら置換基のうち少なくとも一つは、SO3H基、SO3HNL123基(L1、L2、L3は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基である)、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン基、アルキル基、アルコキシ基、及び、アリールオキシ基からなる群から選ばれるいずれかの基であり、その他は水素原子である。]
【0015】
Aの具体例としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、及び、ピロメリット酸などのテトラカルボン酸からカルボン酸基を除く4価の残基を好適に挙げることができる。
【0016】
Bの具体例としては、1,3−ジアミノベンゼン−4−スルホン酸及びそのトリエチルアンモニウム塩、1,3−ジアミノベンゼン−4,6−ジスルホン酸及びそのトリエチルアンモニウム塩、3,5−ジアミノ安息香酸、2,5−ジクロロ‐p−フェニレンジアミン、2,5−ジメチル‐p−フェニレンジアミン、ベンジジン−2,2’−ジスルホン酸及びそのトリエチルアンモニウム塩、2,2’,5,5’−テトラクロロベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、o−ジアニシジン、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’,5,5’−テトラブロモ−6,6’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、2,2−ビス(3−アミノ−4‐メチルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4‐ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,8−ジメチル−3,7−ジアミノジベンゾチオフェン−5,5−ジオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル−2,2’−ジスルホン酸及びそのトリエチルアンモニウム塩などのジアミンからアミノ基を除く2価の残基を好適に挙げることができる。
【0017】
本発明の非対称ガス分離膜を形成するときに用いる置換基を有するポリイミドは、前記の化学式(1)で示されるポリイミド単位のみから構成された芳香族ポリイミドが好ましいが、本発明の効果を発現する範囲内において、他のポリイミド単位を含有しても構わない。他のポリイミド単位の含有する割合は、概ね、全ポリイミド単位に対して30モル%以下好ましくは20モル%以下である。
【0018】
本発明の非対称ガス分離膜を形成するときに用いる置換基を有するポリイミドの置換基は、それを有するポリイミドのガラス転移温度未満の温度で分解脱離するものであり、具体的には、SO3H基、スルホン酸トリエチルアンモニウム、スルホン酸トリブチルアンモニウムなどのSO3HNL123基(L1、L2及びL3は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基である)、カルボキシル基、水酸基、ClやBrなどのハロゲン基、Cが1〜3のアルキル基、Cが1〜3のアルコキシ基、及び、フェノキシなどのアリールオキシ基などを好適に挙げることができる。これらの置換基は、それを有するポリイミドの有機溶媒に対する溶解性を高めるので、非対称膜を好適に形成することができるので有用である。SO3HNL123基(L1、L2及びL3は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基である)は、その効果が顕著であるから、特に有用である。
【0019】
本発明の非対称ガス分離膜は、スキン層の厚さが10〜200nmであり、多孔質層の厚さは20〜200μmであることが好ましい。スキン層の厚さが10nm未満は製造することが困難であり、200nmを越えると気体の透過速度が小さくなって好ましくない。また、多孔質層が20μm未満では機械的強度が小さくなって実用的でなくなり、200μmを越えると多孔質の気体の透過速度が小さくなるので好ましくない。
本発明の非対称ガス分離膜は、フィルム・シート状の平膜、中空糸状の中空糸膜等いずれの形状であってもよいが、分離膜として有効膜面積を大きくとれる中空糸膜が好適である。また、中空糸膜の内径は30〜500μmが好ましい。
【0020】
本発明の非対称ガス分離膜は、まず置換基を有するポリイミドによってポリイミド非対称膜を形成し、次いでそのポリイミド非対称膜を非対称構造が保持され且つ置換基が分解脱離して不融化する温度条件で加熱処理する方法によって好適に得ることができる。以下、限定するものではないが、本発明の非対称ガス分離膜を製造する方法について説明する。
【0021】
フェノール系などの溶媒中にテトラカルボン酸二無水物などの芳香族テトラカルボン酸化合物と芳香族ジアミン化合物とを略等モル溶解させ、100〜250℃、好ましくは130〜200℃の反応温度で加熱し、脱離する水またはアルコールを除去しながら重合イミド化させる。前記反応温度において、重縮合反応とイミド化反応とが進行し、一段でフェノール系溶媒に溶解したポリイミドの溶液が得られる。反応時間は10〜60時間程度である。その際、溶媒に対する芳香族テトラカルボン酸化合物と芳香族ジアミン化合物の使用量は、溶媒中のポリイミドの濃度が、5〜50重量%、特に重合液を直接中空糸膜等の製造に用いる場合には濃度が10〜40重量%、さらには12〜25重量%になるようにするのが好ましく、重合液の回転粘度(100℃で測定)が10〜8000ポイズ、特に100〜3000ポイズであることが好ましい。回転粘度が過度に高すぎたり低すぎたりすると、紡糸や製膜が困難になるので好ましくない。
【0022】
前記ポリイミドの重合イミド化に用いられる溶媒は、溶解性が優れるのでフェノール系溶媒が特に好ましい。フェノール系溶媒としては、融点が約100℃以下、好ましくは80℃以下のものが好適である。具体的には、フェノール、クレゾールなどの1価のフェノール類、カテコール類、1価のフェノールのベンゼン核の水素をハロゲン原子で置換したハロゲン化フェノール、および、これらの混合物が好適である。ハロゲン化フェノールとしては、例えば、メタクロロフェノール、パラクロロフェノール、メタブロモフェノール、2−クロロ−4−ヒドロキシトルエン、2−ブロモ−4−ヒドロキシトルエンなどであり、溶解性や取扱性が良好なパラクロロフェノールが特に好ましい。
フェノール系以外の溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどを用いることができる。
【0023】
ポリイミドによって構成された非対称膜は、重合イミド化によって得られたポリイミドの溶液からなるドープを用いて、乾式法、湿式法、乾湿式法等の製膜方法で製造することができる。特にポリイミドの溶液を流延あるいは成形機から窒素ガスなどの気体雰囲気中に吐出又は押出した後、凝固液中に導いて凝固させ、洗浄後乾燥・熱処理する乾湿式法は、透過性、選択性の良好な非対称膜を得ることができるので好適である。湿式法や乾湿式法で使用される凝固液としては、例えば水やメタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系溶媒や、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトンなどのケトン系溶媒や、それらの混合溶媒など、ポリイミドを溶解せずポリイミド溶液の溶媒と相溶性を有する極性溶媒が使用される。
凝固させた非対称膜はメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒で洗浄後、更に、イソペンタン、n−ヘキサン、イソオクタン、n−ヘプタンなどの脂肪族炭化水素系溶媒で洗浄しその後十分乾燥した。
【0024】
尚、得られた非対称膜が置換基としてSO3HNL123基(L1、L2、L3は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基である)を有する場合は、この非対称膜を無機酸の溶液又は有機酸の溶液に浸漬する酸処理することによって、SO3HNL123基(L1、L2、L3は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基である)をSO3H基に変換して、SO3H基を有する非対称膜を得ることができる。即ち、ポリイミドの溶液を流延あるいは成形機から気相中に吐出又は押出した後、凝固液中に導いて凝固させ、付着凝固液を洗浄後乾燥処理する乾湿式法では、後工程に酸処理を設けることによって、容易にSO3H基を有する非対称膜を得ることができる。
【0025】
次にポリイミドによって構成された非対称膜が中空糸膜の場合について、製造方法の一例を説明する。
フェノール系溶媒中で重合・イミド化したポリイミドの溶液をドープ液として使用し、中空糸紡糸用ノズルから、紡糸用ノズル吐出温度60〜150℃、好ましくは、70〜120℃で、その温度での回転粘度が10〜10000ポイズ、特に100〜6000ポイズのドープ液を乾燥空気または窒素ガス雰囲気中に押出して中空糸状成形物を形成させた後、前記中空糸状成形物を−10〜60℃、好ましくは−5〜40℃の温度に保持されたアルコール系溶媒又は水とアルコール系溶媒との混合溶媒中に導いて凝固させ、アルコール系溶媒及び脂肪族炭化水素系溶媒で洗浄後、乾燥・熱処理することによってポリイミド非対称中空糸膜が好適に得られる。
【0026】
このようにして得られたポリイミドによって構成された非対称膜は、次いで加熱処理される。加熱処理は、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気中でも構わないが、置換基の分解脱離をおこなわせ不融化を効率よくおこなうことができるので、酸素を含むガス雰囲気中、特に空気中が好適である。加熱処理は、非対称膜を構成するポリイミドのガラス転移温度未満且つポリイミド骨格を保持するために450℃以下であって、置換基が分解脱離して不融化がおこなわれる温度以上の温度範囲でおこなわれなければならない。この温度範囲は、用いるポリイミドとその置換基によって決まるものである。置換基の分解脱離温度は、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析、熱重量質量分析法で確認できるほか、熱重量分析による重量減少や更に加熱処理によって不融化するかどうかを調べることによって推定することができる。
本発明における加熱処理温度は、通常は、270〜450℃、好ましくは300〜450℃、更に360〜450℃が好適である。また、加熱処理時間は、特に限定されないが、0.01〜10時間特に0.1〜2時間が処理の効率面から好適である。
【0027】
加熱処理は、ポリイミド非対称膜を加熱槽に所定時間入れるバッチ方式でもよいし、ポリイミド非対称膜を連続的に加熱トンネル内を通過させる連続方式でも構わない。尚、加熱処理の際、置換基は分解脱離して排ガスを発生するから、加熱槽及び加熱トンネル内の気体は適当に排ガスとして導出されて処理される必要がある。
【0028】
このようにして加熱処理された本発明の非対称ガス分離膜は、加熱前のポリイミド非対称膜が有するポリイミド骨格と非対称構造を実質的に保持している。また、置換基の分解脱離に伴う架橋によって不融化している。このため、パラクロロフェノールのような加熱処理前には溶解性を示した溶剤に対して溶解しない。更に、この加熱処理によって有機蒸気の分離性能が実用レベルにまで改良されている。
本発明の非対称ガス分離膜は、耐熱性に優れるから少なくとも加熱処理温度近傍までの高温において有機蒸気を分離回収することが可能である。また、主鎖のポリイミド骨格を実質的に保持しているから加熱処理前と同程度の機械的強度を保持しており、膜形成、加熱処理、分離膜モジュール化などの各製造工程で、破損や破断しにくく容易に取扱うことができるし、分離膜モジュールとして使用した時にもガス流による変形などによって容易に破損や破断することがなく優れた耐久性を示す。
【0029】
本発明の非対称ガス分離膜は、通常、ガス供給口、透過ガス排出口、非透過ガス排出口を備えた容器内にガス分離膜のガス供給側とガス透過側の空間が隔絶するようにして装着した分離膜モジュールとして用いられる。この分離膜モジュールは、プレートアンドフレーム型、スパイラル型、中空糸型などの通常の形態で用いられるが、モジュール体積当たりの有効膜面積を高められるので中空糸型の分離膜モジュールが好ましい。中空糸分離膜を用いるときは、中空糸分離膜の糸束を形成し、少なくとも一方の端部をその端面で中空糸分離膜が開口するようにエポキシ樹脂などの樹脂で固着させて結束した中空糸膜束エレメントを前記の容器内に装着して分離膜モジュールを形成する。
【0030】
本発明の非対称ガス分離膜は、飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、ケトン類、アルコール類、及びエステル類などの有機蒸気を含む混合ガスから有機蒸気を分離回収したり、大気中の有機蒸気(揮発性有機化合物)の分離回収に好適に用いることができる。更に、この分離膜を化学反応プロセスへ適用して、例えば反応系から一成分を選択的に分離除去して反応の平衡を生成系にずらすことによって反応効率を高めることなどがこの分離膜の特性を利用することによって可能である。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例によって更に詳しく説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
以下の各例における、測定や評価は次の方法でおこなった。
(混合蒸気のガス分離性能の測定)
測定モジュールの作成:中空糸膜10本を束ね裁断して中空糸膜束を形成し、その糸束の一方の端を中空糸端部が開口するようにエポキシ樹脂で固着し、他方の端を中空糸端部が閉塞されるようにエポキシ樹脂で固着して中空糸膜エレメントを製造した。この中空糸膜束エレメントを、原料の混合蒸気供給口、透過ガス排出口、及び、未透過ガス排出口を有する容器内に内設し、中空糸膜の有効長さ7.5cm、有効膜面積9.4cm2であるガス分離性能測定用のモジュールを製造した。
混合有機蒸気の調製:2種の有機物からなる混合溶液を大気圧下、蒸発器で加熱気化して混合有機蒸気を発生させ、更に、その混合有機蒸気を加熱器でスーパーヒートすることによって120℃の2種の有機物からなる大気圧の混合有機蒸気を発生させた。この混合有機蒸気は、混合溶液の組成比を調節することによって、両蒸気成分が等モルになるように制御された。具体的には、例えば、モル比が35:65の割合でメタノールとイソプロパノールからなる混合溶液を調製し、その混合溶液を蒸発器で気化し更に加熱器でスーパーヒートして、蒸気モル組成比が1:1のメタノール蒸気とイソプロパノール蒸気からなる混合有機蒸気(120℃、大気圧)を調製した。
ガス分離性能の測定:混合有機蒸気の調製を2時間以上続けた後で調製した混合有機蒸気をドライアイス−メタノールトラップで凝縮して捕集し、その凝縮物を分析してモル組成比が1:1になっていることを確認した。その後、混合有機蒸気を、前記測定モジュールの混合蒸気供給口から供給し、中空糸膜の供給側(中空糸膜の外側)の表面に接触させ、中空糸膜の透過側(中空糸膜の内側)を5mmHgの減圧に維持して、前記混合有機蒸気のガス分離を開始した。慣らし運転として30分以上ガス分離を続けた後で、測定モジュールの透過ガス排出口から得られる透過ガスを30分間ドライアイス−メタノールトラップに導いて凝縮物として捕集した。捕集した凝縮物の重量を求めると共に、各成分の濃度をガスクロマトグラフィー分析法によって測定し、透過した有機蒸気の各成分の量を求めた。求めた各有機蒸気成分量から、各有機蒸気成分の透過速度と透過速度比とを算出した。
尚、混合有機蒸気の組成が測定値に影響を与えるほど変化しないように、サンプルの中空糸膜を透過する有機蒸気量に比べて大過剰量の混合溶液を用いた。また、測定時に未透過ガス排出口から排出される未透過有機蒸気は前記蒸気発生器へ循環して使用した。
【0033】
(耐溶剤性の測定)
2cmの長さに切断した中空糸膜3本を、温度50℃に調温されたパラクロロフェノール20ミリリットル中に完全に浸漬し30分間保持した後で、該中空糸膜を取出して、目視により観察した。浸漬中に溶解した場合は×、中空糸膜形状を保っているが膨潤が見られるものを△、全く変化がないものを○で示す。
(ガラス転移温度の測定)
示差熱分析によって中空糸膜のガラス転移温度を測定した。具体的には、セイコーインスツルメンツ社製RDC220を用い、40ミリリットル/分の窒素ガス流通下、10℃/分の昇温速度で室温から450℃まで昇温して測定した。
(中空糸膜の機械的強度の測定)
25℃に温度調節された室内に設置してある引張試験機に試料の中空糸膜を有効長が20mmになるようにセットし、引張速度10mm/分で引張り試験をおこなった。引張り破断強度を算出するための中空糸膜の見掛けの断面積は、光学顕微鏡を用いて断面の寸法を測定して求めた。引張り破断伸度は、元の中空糸の長さL0、引張り破断時の長さLとしたとき、((L−L0)/L0)×100(単位:%)で示した。
(回転粘度の測定方法)
ポリマー溶液の回転粘度は、回転粘度計(ローターのずり速度1.75/sec)を用い温度100℃で測定した。
【0034】
以下の各例で用いた化学物質の略号は次のとおりである。
s−BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
6FDA:2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
m−DABS−N(Et)3:1,3−ジアミノベンゼン−4−スルホン酸トリエチルアンモニウム
m−DABDS−N(Et)3:1,3−ジアミノベンゼン−4,6−ジスルホン酸トリエチルアンモニウム
TSN:2,8−ジメチル−3,7−ジアミノジベンゾチオフェン−5,5−ジオキシド
TCB:2,2’,5,5’−テトラクロロベンジジン
TPEQ:1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン
DADE:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
DADM:4,4’−ジアミノジフェニルメタン
DABA:3,5−ジアミノ安息香酸
MeOH:メタノール
EtOH:エタノール
iPrOH:イソプロパノール
BuOH:ノルマルブタノール
DMC:炭酸ジメチル
【0035】
参考例1
(置換基を有するポリイミド溶液の調製)
0.070モルのs−BPDA、0.050モルのTSN、及び、0.021モルのm−DABS‐N(Et)3とを、パラクロロフェノール185gとともに、加熱装置と攪拌機と窒素ガス導入管及び排出管とが付設されたセパラブルフラスコに秤取って入れ、窒素ガス雰囲気中で攪拌しながら170℃の温度で15時間重合イミド化反応をおこなって、パラクロロフェノール中に溶解しているポリイミド濃度が17重量%の置換基を有するポリイミド溶液を調製した。
(置換基を有するポリイミドからなる非対称中空糸膜の製造)
この溶液を400メッシュのステンレス製金網でろ過して、紡糸用ドープとした。このドープを中空糸紡糸用ノズル(円形開口部の外径:1000μm、円形開口部のスリット幅:200μm、芯部開口部の外径:400μm)を備えた紡糸装置に仕込み、中空糸紡糸用ノズルから窒素雰囲気中に中空糸状に吐出させ、次いで中空糸状成形物を70重量%エタノール水溶液からなる温度0℃の一次凝固浴に浸漬し、更に一対の案内ロールを備えた二次凝固浴(凝固液:70重量%エタノール水溶液、温度:0℃)中の案内ロール間を往復させて凝固を完了させ、湿潤状態の非対称中空糸膜をボビンに巻き取った。引き取り速度は10m/分でおこなった。この非対称中空糸膜をエタノール中で十分洗浄し、次いでイソオクタンでエタノールを置換した後、100℃でイソオクタンを蒸発乾燥し、置換基を有するポリイミドによって構成された非対称中空糸膜を得た。
【0036】
参考例2〜7
表1に示した酸無水物成分とジアミン成分とを用いて、参考例1と同様の操作により、置換基を有するポリイミドによって構成された非対称中空糸膜を得た。
【0037】
参考例1〜7におけるポリイミド溶液の調製結果と得られたポリイミドによって構成された非対称中空糸膜のガラス転移温度とを表1に示す。
【表1】

【0038】
実施例1
参考例1で得た置換基を有するポリイミドによって構成された非対称中空糸膜を、空気雰囲気のオーブン中で、温度350℃又は400℃で30分間加熱処理して、外径が約400μmで内径が約200μmの非対称ガス分離膜を得た。
加熱処理条件と得られた非対称ガス分離膜の耐溶剤性及びガス分離特性を測定した結果を表2に示す。
【表2】

【0039】
実施例2
参考例2で得た置換基を有するポリイミドによって構成された非対称中空糸膜を、空気雰囲気のオーブン中で、温度400℃で30分間加熱処理して、外径が約400μmで内径が約200μmの非対称ガス分離膜を得た。
得られた非対称ガス分離膜の耐溶剤性及びガス分離特性を測定した結果を表3に示す。
【表3】

【0040】
実施例3
参考例3で得た置換基を有するポリイミドによって構成された非対称中空糸膜を、空気雰囲気又は窒素雰囲気のオーブン中で、温度400℃で30分間加熱処理して、外径が約400μmで内径が約200μmの非対称ガス分離膜を得た。
空気雰囲気のオーブン中で加熱処理して得られた非対称ガス分離膜の耐溶剤性及びガス分離特性を測定した結果を表4に示す。また、窒素雰囲気のオーブン中で加熱処理して得られた非対称ガス分離膜の耐溶剤性及びガス分離特性を測定した結果を表5に示す。
【表4】

【表5】

【0041】
実施例3の空気雰囲気のオーブン中で加熱処理して得られた非対称中空糸ガス分離膜について機械的強度を測定したところ、引張り破断強度:6.0kgf/mm2、引張り破断伸度:12%であった。
【0042】
実施例4
参考例4で得た置換基を有するポリイミドによって構成された非対称中空糸膜を、空気雰囲気のオーブン中で、温度400℃で30分間加熱処理して、外径が約400μmで内径が約200μmの非対称ガス分離膜を得た。
得られた非対称ガス分離膜の耐溶剤性及びガス分離特性を測定した結果を表6に示す。
【表6】

【0043】
実施例5
参考例5で得た置換基を有するポリイミドによって構成された非対称中空糸膜を、空気雰囲気のオーブン中で、温度400℃で30分間加熱処理して、外径が約400μmで内径が約200μmの非対称ガス分離膜を得た。
得られた非対称ガス分離膜の耐溶剤性及びガス分離特性を測定した結果を表7に示す。
【表7】

更に、得られた非対称ガス分離膜について、メタノール蒸気とイソプロパノール蒸気からなる混合蒸気を用いたガス分離を連続的におこなったところ、200時間までの経過で、P’MeOHは初期値に対して90〜102%の範囲内に保持され、且つ、P’MeOH/P’iPrOHは初期値に対して100〜127%の範囲内に保持されており、実用的な分離性能を維持した。
【0044】
比較例1
参考例3で得た置換基を有するポリイミドによって構成された非対称中空糸膜を加熱処理することなしに、耐溶剤性を測定したところ、パラクロロフェノールに完全に溶解した。
【0045】
比較例2
参考例3で得た置換基を有するポリイミドによって構成された非対称中空糸膜を、酸素雰囲気のオーブン中、温度250℃で30分間加熱処理した。この中空糸膜の耐溶剤性を測定したところ、パラクロロフェノールに完全に溶解した。
【0046】
比較例3
参考例3で得た置換基を有するポリイミドによって構成された非対称中空糸膜を、窒素雰囲気のオーブン中で、温度600℃で30分間加熱処理した。この中空糸膜は黒色に変色していた。また、引張り破断強度は8.1kgf/mm2、引張り破断伸度は1.1%であって、わずかな変形によって容易に破断するものであった。
【0047】
比較例4
参考例6で得た置換基を有さないポリイミドによって構成された非対称中空糸膜(ガラス転移温度:242℃)を、空気雰囲気のオーブン中で、温度300℃で30分間加熱処理した。この中空糸膜の耐溶剤性及びガス分離性能を測定した結果、耐溶剤性は×であり(溶解した)、ガス分離性能の測定では測定時間内には透過蒸気をトラップで凝縮して捕集することができず、透過性は検知できなかった。
【0048】
比較例5
参考例7で得た置換基を有するポリイミドによって構成された非対称中空糸膜(ガラス転移温度:280℃)を、空気雰囲気のオーブン中で、温度300℃で30分間加熱処理した。この中空糸膜の耐溶剤性及びガス分離性能を測定した結果、耐溶剤性は△であり(膨潤した)、ガス分離性能の測定では測定時間内には透過蒸気をトラップで凝縮して捕集することができず、透過性は検知できなかった。
【0049】
実施例6
実施例4と同様にして得られたポリイミド系非対称中空糸ガス分離膜について、予めメタノール蒸気とイソプロパノール蒸気の混合蒸気についてガス分離性能を測定し、次いで該中空糸膜を室温でアセトン中に5分間浸漬後、取出して70℃のオーブン中で2時間乾燥した後で、再度メタノール蒸気とイソプロパノール蒸気の混合蒸気についてガス分離性能を測定した。測定結果を表8に示す。
【表8】

比較例6
参考例4で得た置換基を有する芳香族ポリイミドからなる非対称中空糸ガス分離膜を室温でアセトン中に5分間浸漬後、取出して70℃のオーブン中で2時間乾燥した後で、メタノール蒸気とイソプロパノール蒸気の混合蒸気についてガス分離性能を測定したが、測定時間内には透過蒸気をトラップで凝縮して捕集することができず、透過性は検知できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド骨格を含有して構成された非対称膜であって、
(1)50℃のパラクロロフェノール中に30分間浸漬しても溶解しない
(2)メタノール蒸気の透過速度(P’MeOH)が1×10-4cm3(STP)/cm2・sec・cmHg以上である
ことを特徴とする非対称ガス分離膜。
【請求項2】
メタノール蒸気の透過速度とイソプロパノール蒸気の透過速度との速度比(P’MeOH/P’iPrOH)が10以上であることを特徴とする前記請求項1に記載の非対称ガス分離膜。
【請求項3】
置換基を有するポリイミドによって構成された非対称膜を、270℃〜450℃の温度範囲であって且つ前記ポリイミドのガラス転移温度未満の温度で加熱処理することによって不融化して得られることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の非対称ガス分離膜。
【請求項4】
置換基がSO3H基、SO3HNL123基(L1、L2、L3は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基である)、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン基、アルキル基、アルコキシ基、及び、アリールオキシ基のいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非対称ガス分離膜。
【請求項5】
中空糸膜であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の非対称ガス分離膜。
【請求項6】
有機蒸気を分離回収するために用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の非対称ガス分離膜。

【公開番号】特開2009−72781(P2009−72781A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291713(P2008−291713)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【分割の表示】特願2003−57928(P2003−57928)の分割
【原出願日】平成15年3月5日(2003.3.5)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】