非常用貯水槽
【課題】水道管その他の清水の給水管に介設して、蓄えられた清水を非常時に使用できるようにした非常用貯水槽に関し、貯水槽の保守点検を困難にしたり製造コストを上昇させることなく、貯水槽内部の水の滞留を可及的に防止する。
【解決手段】両端に円弧状の鏡板12、13を設けた貯水槽への清水の流入口21を円筒胴11の中心線a上で流入側鏡板12に向けて開口し、貯水槽からの清水の流出口を流入口21の背後に近接した中心線a上に開口させる。流入口21と流出口との間に、円筒胴との間に円環状の連通開口42を残す円板状の遮蔽円板4を設ける。好ましくは、流入口21、流出口及び遮蔽円板4を流出側鏡板13に近い位置にする。更に流入管2の先端部22を円筒胴の中心線上で流入側鏡板12に向かって拡開する案内管23とする。
【解決手段】両端に円弧状の鏡板12、13を設けた貯水槽への清水の流入口21を円筒胴11の中心線a上で流入側鏡板12に向けて開口し、貯水槽からの清水の流出口を流入口21の背後に近接した中心線a上に開口させる。流入口21と流出口との間に、円筒胴との間に円環状の連通開口42を残す円板状の遮蔽円板4を設ける。好ましくは、流入口21、流出口及び遮蔽円板4を流出側鏡板13に近い位置にする。更に流入管2の先端部22を円筒胴の中心線上で流入側鏡板12に向かって拡開する案内管23とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水道管その他の清水の給水管の途中に設けられる非常用貯水槽に関し、通常時は当該貯水槽を経由して清水を給水し、地震などによる断水などの非常時には貯水槽に蓄えられた清水を使用できるようにした非常用貯水槽に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水道管その他の清水の給水管に介設される非常用貯水槽(以下、単に「貯水槽」という。)は、一般的には地下に埋設され、給水源に繋がる流入管と蛇口などの給水口に繋がる流出管とが接続されている。通常時は、流入管から流入する水が貯水槽を通過して流出管から給水口に送られるようになっている。地震などにより給水管が損傷して給水が止まったときは、貯水槽に蓄えられた清水を非常用の水として使用する。
【0003】
このような貯水槽を介設した給水管から供給される水の品質が保証されるには、貯水槽内の水が流入してくる水により常に入れ替っていることが必要である。貯水槽の一部に水が滞留すると、当該部分の水の劣化が懸念され、非常時はもとより、通常時における水の品質が保証できなくなる。貯水槽は、両端に鏡板を備えた円筒形のもので、従来は一方の鏡板の中心に流入管を接続し、他方の鏡板の中心に流出管を接続していた。しかしこの構造では、円筒胴内を軸方向に流れる主流により円筒胴と鏡板周辺の接続部となる隅の部分に小さな旋回流が起こって、この隅の部分の水が流出管へ流れにくくなり、この隅部分に水が滞留しやすいという問題がある。
【0004】
この問題を解決するため、鏡板を円錐形にしてその円錐の頂部に流入管及び流出管を接続した構造を始めとして(特許文献1、特許文献2など)、従来種々の提案が為されている。例えば、特許文献3には、地下に水平に埋設される貯水槽において、流入管の先端が流入側鏡板の中央を貫通して貯水槽の内部に突設され、この流入管の流出口に対向して変流板が配設され、流出側鏡板には多数の支管の排出口が設けられて、支管を流れた水が一本の流出管に合流する構造の貯水槽か提案されている。
【0005】
また、特許文献4には、水平に設置した貯水槽の流入側鏡板直近の円周から貯水槽内に突出した流入管の先端に水の流出方向を円周方向にするT字形のパイプを設けるとともに貯水槽の長手方向の水の流れを均一化する有孔板を設け、貯水槽の他端側の鏡板と円筒胴との連接部に向けて広がるテーパパイプを設け、このテーパパイプの円錐の頂部となる部分に出口管路を接続した構造が提案されている。
【0006】
また、特許文献5には、流入管の開口を前後に分岐し、その一方を流入側鏡板の中央に向いたノズルとし、他方を出口端に多孔板を取付けた拡径部とした貯水槽が提案されている。ノズルからの流水は、鏡板の曲面に沿って拡散して周囲の水と混合したのち、貯水槽の周壁に沿って流出管側に向う。一方、拡径部からの流水は周囲に拡がり、周壁に沿ったノズルからの流れと混合して流出管に向う。流出側では、円曲面の鏡板によって、流れが収束されて流れ出るというものである。
【0007】
また、特許文献6には、両端に円曲面状鏡板を備えた円筒状の貯水槽において、流入側鏡板の中央に開口する流入口に対向して球面整流板を設け、流出側鏡板の中央に開口する流出口に対向して平面整流板を設けた構造の貯水槽が提案されている。流入水は、球面整流板に衝突して方向転換し、流入側鏡板に当たり、その円曲面に沿って方向転換して円筒胴の内面に沿って流出側に向う。流出口側においては、平面整流板に当たった水が平面整流板の周囲に拡散するという作用により、貯水槽の隅部の水の滞留が防止されるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開昭63−64693号公報
【特許文献2】実公平3−29421号公報
【特許文献3】実開昭58−103253号公報
【特許文献4】特開昭57−133881号公報
【特許文献5】特開平9−323790号公報
【特許文献6】特開平10−102553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1、2の構造は、隅部の滞留を有効に防止しようとすると、貯水槽の長さが長くなる問題がある。また、特許文献3のように、鏡板に流出口や流入口を多数設けるものは、配管構造が複雑になり、貯水槽が高価になる問題がある。また、特許文献4は、貯水槽隅部の水の滞留防止は有効に行われると考えられるが、流水抵抗が増して圧力損失が大きく、また、有孔板が貯水槽内を仕切っているため、内面塗膜の点検などが困難であったり、貯水槽の製作費が高くなるなどの問題がある。この問題は、貯水槽内部に仕切り板を設けて貯水槽内部の水流を規定する構造の貯水槽に共通する問題である。
【0010】
特許文献5の構造は、流入側の鏡板と円筒胴との連接部における水の滞留は生じないが、流出側鏡板と円筒胴との連接部における水の滞留が有効に防止できない。また、特許文献6のように、流入口と流出口の両方にその流れの方向を周方向に変換する遮蔽円板を対向させた構造では、円筒胴の中心部に貯水槽軸方向に長い流れの旋回流が生じ、貯水槽中央部に滞留が発生する新たな問題が生ずる。
【0011】
この発明は、貯水槽内部の保守点検を困難にすることなく、また貯水槽の製造コストを上昇させることなく、貯水槽内部の水の滞留を可及的に防止する技術手段を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、円筒胴11の両端に凹面が内側を向いた円弧状の鏡板12、13を設けた構造の貯水槽において、当該貯水槽への清水の流入口21を円筒胴11の中心線a上で鏡板の一方(流入側鏡板)12に向けて開口し、貯水槽からの清水の流出口31を前記流入口21の背後に近接した前記中心線a上に開口するように設けることにより、上記課題を解決している。更にこの発明の貯水槽は、上記のように設けた流入口21と流出口31との間に、円筒胴の内周面16との間に円環状の連通開口42を残す円板状の遮蔽円板4を設けている。
【0013】
上記構造により、この発明の貯水槽では、貯水槽内に流入側と流出側の2つの軸方向旋回流25、35が生じ、流入側旋回流25の外周部から円環状の連通開口42を通って水が流出側旋回流35に合流し、流出側旋回流35の終端となる位置に開口する流出口31から流出する。流入側旋回流25の水の多くは連通開口42を通って流出側へと流れるが、その一部が遮蔽円板4に沿う内向流(中心線aの方向に向かう流れ)となり、遮蔽円板4の面に沿って滞留が生ずるのを防止している。また流出側旋回流35の水の多くは流出口31から流出するが、その一部が遮蔽円板4に沿う外向流(放射方向に向かう流れ)となり、遮蔽円板4の面に沿って滞留が生ずるのを防止している。この循環する一部の水は、次の水と合流して連通開口42や流出口31へと流れるので、循環が繰り返される水の割合は少なく、かつ貯水槽本体内で水の滞留する部分が皆無となるので、貯水槽から流出する水の品質の低下を防止することができる。
【0014】
この発明の貯水槽は、上記基本的な構造に加えて、流入口21、流出口31及び遮蔽円板4の配置位置を流出側鏡板13に近い位置にすることにより、更に先端に流入口21が開口している流入管2の先端部22を円筒胴の中心線上で流入側鏡板12に向かって拡開する案内管23とすることにより、貯水槽内の水の入替率(旧水が充満している貯水槽にその容積に等しい量の新水を流入させたときに流出する旧水の量を当該容積で除した値)を高くできる。
【0015】
貯水槽には、内部の点検や保守のために、通常、マンホール14(14a、14bも同様)を設ける必要があり、当該マンホールは、横置き円筒形の貯水槽本体の上部に設けられる。本願の発明に係る貯水槽では、貯水槽本体内の旧水は、上述した貯水槽本体内の水の循環により、速やかに新水(新たに流入してくる水)に交換される。しかし、マンホール14は、貯水槽本体の上部に突出した形で設けられることが多いため、この部分に水が滞留すると、水の入替率が低くなるおそれがある。
【0016】
この問題は、流入管2又は流出管3をマンホール14を通して槽内に導き、これらの管のマンホール14を通過する部分に補助流入孔27又は補助流出孔37を設けることによって解決できる。もちろん補助流入孔27と補助流出孔37との両者を設けてもよい。補助流入孔27を設けることによって、マンホール14部分に滞留しようとする水が貯水槽本体側に押し出されて、貯水槽本体の循環流に乗って流出する。また、補助流出孔37を設けることによって、マンホール14部分の水が吸い出されて貯水槽本体側から新しい水がマンホール14部分に流入する。
【0017】
また、遮蔽円板4を流出管3(又は流入管2)に固定して支持し、貯水槽本体に設けるマンホール14の内径をこの遮蔽円板4の外径より大きな径としたときは、流入管2、流出管3及び遮蔽円板4の総てをマンホールの蓋板15に取付けて当該蓋板をマンホール口に固定することにより、この発明の貯水槽とすることができ、製作が極めて容易になるとともに、既設の貯水槽をこの発明の構造の貯水槽とすることも容易に可能になる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したこの発明の構造によれば、非常に簡単な構造で給水管に介設した貯水槽内の水の滞留を防止することが可能で、貯水槽内の水が常時入れ替わって貯水槽内に常に新しい清水が貯水されるようにすることができる。
【0019】
特に貯水槽に遮蔽円板4の径より大きなマンホールを設けて流入管2及び流出管3をこのマンホールの蓋に支持させ、遮蔽円板4を流入管2の背面か又は流出管3に固定して支持する構造を採用すれば、貯水槽本体を製作した後で流入口21、流出口31及び遮蔽円板4を当該マンホールを通して貯水槽内に配置することができ、製造や施工が極めて容易になるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施例を示す側面図
【図2】第2実施例を示す側面図
【図3】第3実施例を示す側面図
【図4】図3の貯水槽の平面図
【図5】貯水槽本体を縦に切断して示した図3の貯水槽の斜視図
【図6】第4実施例の要部を示す斜視図
【図7】第5実施例の要部を示す側面図
【図8】第6実施例の貯水槽を縦に切断して示した斜視図
【図9】図8の貯水槽を他の方向から見た斜視図
【図10】第1〜第3実施例の貯水槽について水の滞留の程度を試験した結果を示すグラフ
【図11】第3実施例の貯水槽について、流入する水と貯水槽内の水に温度差があるときの入替数を示すグラフ
【図12】第3〜第5実施例の貯水槽について、流入する水の温度が貯水槽内の水の温度より低いときの、水の滞留の程度を試験した結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照してこの発明の実施形態を説明する。図1は、第1実施例を示す側面図、図2は第2実施例を示す側面図、図3は、第3実施例を示す側面図、図4は第3実施例の平面図、図5は、第3実施例を縦に切断して示した斜視図、図6は、第4実施例の要部を示す斜視図、図7は、第5実施例の要部を示す側面図、図8及び図9は、第6実施例を縦に切断して示した斜視図である。
【0022】
これらの図において、1は貯水槽本体、11はその円筒胴、12は流入側鏡板、13は流出側鏡板であり、鏡板12、13は共に内面が凹となった円弧状の鏡板である。図1〜図7における14及び図8及び9における14a、14bは、貯水槽本体に設けたマンホール、15及び15a、15bはマンホールの蓋板である。2は流入管、21はその先端の流入口、3は流出管、31はその先端の流出口、4は遮蔽円板である。42は遮蔽円板4の外周縁41と円筒胴11の内周面16との間に形成された円環状の連通開口である。
【0023】
図1〜図7の構造においては、貯水槽本体1内に延びる流入管2及び流出管3は、その基端をソケットなどの継手を介してマンホールの蓋板15に溶着されて支持されており、遮蔽円板4は流入側鏡板12に向けて屈曲した流出管3の先端に中心を溶着して固定されている。図1〜7の構造における流出口31は、流出管3の先端側面に開口している。
【0024】
これらの実施例の総てに共通する構成として、流入管2の先端部22は、流入側鏡板12の中央に向けて屈曲され、その先端の流入口21は、円筒胴11の中心線a上において、流入側鏡板12の中央に向いて開口している。遮蔽円板4は、その円中心を円筒胴の中心線aと一致させて、その外周縁41と円筒胴11の内周面16との間に所定幅の円環状の連通開口42を形成した状態で定置されている。流出管3は、その流出口31を円筒胴の中心線a上にして設けられている。図1〜7の例では、流出口31が中心線a上で流入側鏡板12に向けて屈曲した流出管先端部32の側面に開口しているが、この流出口31は、複数個が中心線a回りに対称に設けられているので、これらを合せた流出口31の中心は、中心線a上にある。なお、流出管の先端部32は円筒胴11に比べて充分に細いので、その側面一箇所にのみ流出口31を設けた場合であっても、その流出口31は、中心線a上に設けた構造に含まれるものである。
【0025】
図1に示す第1実施例では、遮蔽円板4は、貯水槽の軸方向長さの中央の位置に設けられており、当該遮蔽板の表裏面に近接して流入口21と流出口31とが開口している。図2に示す第2実施例では、遮蔽円板4は、円筒胴11の中心から軸方向に偏倚して、流出側鏡板13に近い位置に設けられており、この遮蔽円板4に近接する流入口21及び流出口31も、流出側鏡板13に近い位置に開口している。
【0026】
この発明の貯水槽では、図2に示したように、流入口21から流入する水流の勢いによって、貯水槽の中心において流入側鏡板12の中心に向かい、流入側鏡板12に沿って反転して円筒胴の周縁部で逆方向に流れる流入側旋回流25が発生する。そして、この流入側旋回流25の周縁部の流れが連通開口42を通過して流出側鏡板13に沿う内向流となり、流出側鏡板13の中央で全方位からの流れが衝突反転して遮蔽円板4の中央に向けて流れることにより、流出側旋回流35が発生ずる。そして、流出側旋回流35の水が当該旋回流の終端部に開口している流出口31から流出する。流入側旋回流25と流出側旋回流35の水の一部は、遮蔽円板4の面に沿う内向流26及び外向流36となって、後続する旋回流の水と合流する。
【0027】
図2ないし図9の構造は、流入側旋回流25の軸方向長さが流出側旋回流35の軸方向長さより長くなる構造である。後述するように、遮蔽円板4を流出側鏡板13に近い位置に設けて流入側旋回流25の軸方向長さを長くした第2ないし第6実施例の構造が、遮蔽円板4を中央に設置した第1実施例の構造より優れている。これは、流入口21からの流入速度が連通開口42を通る水流の速度より速くかつその方向が安定しているため、流入側旋回流25の方が流出側旋回流35より安定した旋回流となることに起因して、流れの不安定な(従って新旧の水が混じりやすい)流出側旋回流35より流入側旋回流の流路を長くした方が、全体として、繰返し旋回する(流れながら滞留する)水の量を少なくできるためと考えられる。
【0028】
図3〜5に示す第3実施例は、遮蔽円板4を流出側鏡板13に近い位置に設け、かつ流入管2の先端部に流入口21側が拡開した緩いテーパ状の案内管23を設けた構造である。この案内管は、円筒胴の中心線a上に設けられ、テーパ角(周面の傾斜角)が2〜10度、好ましくは2〜5度の円錐管で、後述する比較試験では3度のものを用いている。後述するように、このような案内管23の拡開した先端に流入口21に設けることにより、貯水槽内の水の入替率を大幅に向上させることができる。これは、このような案内管23を設けることによって、流入側旋回流25がより安定化し、内向流26の割合を減少させることができるためと考えられる。なお、案内管23のテーパ角が大き過ぎると、流入口21から拡散しながら流出する水が周縁部の逆方向の流れに衝突して安定な流れを阻害するようになるので、かえって悪影響を生ずると考えられる。
【0029】
図1〜5の構造では、貯水槽本体1に遮蔽円板4の径より大きなマンホール14が設けられ、そのマンホールの蓋板15に流入管2及び流出管3の基端が図示しない継手を介して溶着され、遮蔽円板4は流出管3に溶着されている。従って、貯水槽本体1にはなんら加工を施すことなく、蓋板15をマンホール14に設置することによって、流入口21、流出口31及び遮蔽円板4を所定位置に設置することができる。従って、この構造により、この発明の貯水槽の製造が極めて容易になり、また、既存の貯水槽をこの発明の貯水槽に改良することも容易に可能になる。
【0030】
図10は、上述した各実施例の構造について小型の貯水槽を製作し、貯水槽の容量の何倍(入替数)の新水を流入したときに、貯水槽に充満していた旧水がどれだけ貯水槽内に残っているかを試験した結果を示したグラフである。縦軸は旧水が貯水槽内に残る割合、横軸は入替数(新たに流入した水の量を貯水槽の容量で除した数)である。「理想」として示した線Oは、貯水槽の容量と同量の水を流入するだけで、貯水槽内の水が総て新水に入替えられる場合の線であり、現実にはこのような貯水槽は、製造不可能である。「流入流出口中央(円板あり)」として示した線Aは、第1実施例の貯水槽の、「流入流出口端部(円板あり)」として示した線Bは、第2実施例の貯水槽の、「流入流出口端部(テーパ管あり、円板あり)」として示した線Cは、第3実施例の貯水槽のそれぞれにについての試験結果である。図に示すように、第1から第3実施例の貯水槽の総てが「従来技術品」として示した線Eより改善されており、特に第3実施例の貯水槽の性能向上が顕著である。なお、第1実施例の構造で遮蔽円板4を取り除いたものの試験結果が参考として「流入流出口中央(円板なし)」として示す線Dで示されており、遮蔽円板4を設けない構造では、従来技術品より性能が低下するおそれがあることが示唆されている。なお、試験に用いた従来技術品は、両側の鏡板の周縁部に流入口と流出口とを設けた構造のものである。
【0031】
図10に示すように、本願発明の貯水槽は、貯水槽内での水の滞留が少なく、特に第3実施例の構造では、槽内での水の滞留が著しく減少する。しかし、本願発明者らのその後の試験において、給水の温度が急激に低下したとき、貯水槽内での水の滞留が増加する現象が認められた。図11は、給水の温度が貯水槽内の水の温度と等しい場合(温度差0℃)、給水の温度が貯水槽内の水の温度よりも3℃高い場合(温度差+3℃)及び給水の温度が貯水槽内の水の温度よりも3℃低い場合(温度差‐3℃)について、貯水槽内の旧水の体積比A=1.0%(貯水槽内に旧水が1.0容量%残っている状態)になるまでに貯水槽の容積の何倍の新水を供給しなければならないかを示す入替数Rを測定した結果を示す図である。図に示すように、新水と旧水に温度差がないときの入替数は3.91、温度差が+3℃のとき(新水の温度が高い)は4.17であり、図10の試験結果とほぼ整合しているのに対し、温度差が‐3℃(新水の温度が低い)のときは6.64となって、入替数が大幅に増加することが認められた。この原因を調査した結果、マンホール14が貯水槽本体の上部に設けられているため、新水の温度が低いときは、暖かい、従って比重の軽い旧水がマンホール14部分に滞留して入替数が大幅に増加していることが判った。
【0032】
そこで本願発明者らは、図6に示すように、第3実施例の貯水槽において、流入管2のマンホールの蓋板15の直下の位置に補助流入孔27を設けた第4実施例と、図7に示すように、流出管3のマンホールの蓋板15直下の位置に補助流出孔37を設けた第5実施例について、温度差Δt=−3℃のときの入替数Rとそのときの旧水の体積比Aを測定して、図12の結果を得た。ここで、基本構造は、第3実施例の構造、改良1は第4実施例の構造、改良2は第5実施例の構造である。図12には、参考として第3実施例の構造で新水と旧水に温度差がないときの試験結果も示してある。
【0033】
図12から明らかなように、マンホールの蓋板15の直下の位置において、流入管2に補助流入孔27を設けるか、または流出管3に補助流出孔37を設けることにより、貯水槽内の旧水と供給する新水との間に温度差があるときでも、温度差がないときと同程度の入替率の改善が見られる。特に流出管3に補助流出孔37を設ける構造が、新水と旧水の温度差による入替率の低下を防止する上で有効である。
【0034】
なお、図6、7に示した実施例では、流入管2や流出管3の基端に設けた継手28、38を介してこれらの管の基端をマンホールの蓋板15に溶着しており、補助流入孔27や補助流出孔37を継手28、38部分に設けている。この構造は、製作の容易さを考慮したものであるが、補助流入孔27や補助流出孔37の孔径や方向を変更した試験が容易である点、及び槽内配管の交換などのメンテナンスの点で優れていると言える。
【0035】
また、図12の結果を導いた試験は、流入管2及び流出管3の管径に対する補助流入孔27及び補助流出孔37の孔径比を約1/3としたものであるが、これは配管構造や配管の太さ、円筒胴11やマンホール14の容積などにより最適な値が変化すると考えられるので、試験を行って決定するのが好ましい。
【0036】
図8、9は、この発明の第6実施例を示した図で、マンホールの構造と遮蔽円板4の支持構造のみが第3実施例と異なっている。この第6実施例では、径の小さい2つのマンホール14a、14bが設けられており、その一方のマンホールの蓋板15aに流入管2の基端が溶着され、他方のマンホールの蓋板15bに流出管3の基端が溶着されている。流出管3は、その先端部が、円筒胴の中心線a上において、流入側鏡板12側に向けて屈曲され、流出口31は、遮蔽円板4の中心に向いて開口している。遮蔽円板4は、円筒胴11の内壁に立設した3本のステイ43によって支持されている。
【0037】
なお、図8、9において、45は流入側の給水管、46は流出側の給水管、47は屋外散水等に使うための立上げ管である。立上げ管47は、その基端を貯水槽の底部に開口させてあり、貯水槽のメンテナンス時など、必要があればこの立上げ管47を使って貯水槽内の沈殿物を排出できるようにしてある。給水が停止した非常時には、マンホールの蓋板に設けたソケット48(図4参照)からポンプ等で貯水槽内の水を汲み上げて使用する。
【0038】
この第6実施例のものは、性能的には第3実施例のものと変わらないが、遮蔽円板4は予め貯水槽内に設置しておかなければならない。2つのマンホール14a、14bは、遮蔽円板4で区画された流入側と流出側の空間に繋がるように設けられるので、遮蔽円板4により貯水槽内部の保守点検に支障が生じることはない。
【符号の説明】
【0039】
2 流入管
4 遮蔽円板
11 円筒胴
12 流入側鏡板
13 流出側鏡板
14 マンホール
15 蓋板
21 流入口
23 案内管
27 補助流入孔
31 流出口
37 補助流出孔
42 流水間隙
45,16 給水管
a 中心線
【技術分野】
【0001】
この発明は、水道管その他の清水の給水管の途中に設けられる非常用貯水槽に関し、通常時は当該貯水槽を経由して清水を給水し、地震などによる断水などの非常時には貯水槽に蓄えられた清水を使用できるようにした非常用貯水槽に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水道管その他の清水の給水管に介設される非常用貯水槽(以下、単に「貯水槽」という。)は、一般的には地下に埋設され、給水源に繋がる流入管と蛇口などの給水口に繋がる流出管とが接続されている。通常時は、流入管から流入する水が貯水槽を通過して流出管から給水口に送られるようになっている。地震などにより給水管が損傷して給水が止まったときは、貯水槽に蓄えられた清水を非常用の水として使用する。
【0003】
このような貯水槽を介設した給水管から供給される水の品質が保証されるには、貯水槽内の水が流入してくる水により常に入れ替っていることが必要である。貯水槽の一部に水が滞留すると、当該部分の水の劣化が懸念され、非常時はもとより、通常時における水の品質が保証できなくなる。貯水槽は、両端に鏡板を備えた円筒形のもので、従来は一方の鏡板の中心に流入管を接続し、他方の鏡板の中心に流出管を接続していた。しかしこの構造では、円筒胴内を軸方向に流れる主流により円筒胴と鏡板周辺の接続部となる隅の部分に小さな旋回流が起こって、この隅の部分の水が流出管へ流れにくくなり、この隅部分に水が滞留しやすいという問題がある。
【0004】
この問題を解決するため、鏡板を円錐形にしてその円錐の頂部に流入管及び流出管を接続した構造を始めとして(特許文献1、特許文献2など)、従来種々の提案が為されている。例えば、特許文献3には、地下に水平に埋設される貯水槽において、流入管の先端が流入側鏡板の中央を貫通して貯水槽の内部に突設され、この流入管の流出口に対向して変流板が配設され、流出側鏡板には多数の支管の排出口が設けられて、支管を流れた水が一本の流出管に合流する構造の貯水槽か提案されている。
【0005】
また、特許文献4には、水平に設置した貯水槽の流入側鏡板直近の円周から貯水槽内に突出した流入管の先端に水の流出方向を円周方向にするT字形のパイプを設けるとともに貯水槽の長手方向の水の流れを均一化する有孔板を設け、貯水槽の他端側の鏡板と円筒胴との連接部に向けて広がるテーパパイプを設け、このテーパパイプの円錐の頂部となる部分に出口管路を接続した構造が提案されている。
【0006】
また、特許文献5には、流入管の開口を前後に分岐し、その一方を流入側鏡板の中央に向いたノズルとし、他方を出口端に多孔板を取付けた拡径部とした貯水槽が提案されている。ノズルからの流水は、鏡板の曲面に沿って拡散して周囲の水と混合したのち、貯水槽の周壁に沿って流出管側に向う。一方、拡径部からの流水は周囲に拡がり、周壁に沿ったノズルからの流れと混合して流出管に向う。流出側では、円曲面の鏡板によって、流れが収束されて流れ出るというものである。
【0007】
また、特許文献6には、両端に円曲面状鏡板を備えた円筒状の貯水槽において、流入側鏡板の中央に開口する流入口に対向して球面整流板を設け、流出側鏡板の中央に開口する流出口に対向して平面整流板を設けた構造の貯水槽が提案されている。流入水は、球面整流板に衝突して方向転換し、流入側鏡板に当たり、その円曲面に沿って方向転換して円筒胴の内面に沿って流出側に向う。流出口側においては、平面整流板に当たった水が平面整流板の周囲に拡散するという作用により、貯水槽の隅部の水の滞留が防止されるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開昭63−64693号公報
【特許文献2】実公平3−29421号公報
【特許文献3】実開昭58−103253号公報
【特許文献4】特開昭57−133881号公報
【特許文献5】特開平9−323790号公報
【特許文献6】特開平10−102553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1、2の構造は、隅部の滞留を有効に防止しようとすると、貯水槽の長さが長くなる問題がある。また、特許文献3のように、鏡板に流出口や流入口を多数設けるものは、配管構造が複雑になり、貯水槽が高価になる問題がある。また、特許文献4は、貯水槽隅部の水の滞留防止は有効に行われると考えられるが、流水抵抗が増して圧力損失が大きく、また、有孔板が貯水槽内を仕切っているため、内面塗膜の点検などが困難であったり、貯水槽の製作費が高くなるなどの問題がある。この問題は、貯水槽内部に仕切り板を設けて貯水槽内部の水流を規定する構造の貯水槽に共通する問題である。
【0010】
特許文献5の構造は、流入側の鏡板と円筒胴との連接部における水の滞留は生じないが、流出側鏡板と円筒胴との連接部における水の滞留が有効に防止できない。また、特許文献6のように、流入口と流出口の両方にその流れの方向を周方向に変換する遮蔽円板を対向させた構造では、円筒胴の中心部に貯水槽軸方向に長い流れの旋回流が生じ、貯水槽中央部に滞留が発生する新たな問題が生ずる。
【0011】
この発明は、貯水槽内部の保守点検を困難にすることなく、また貯水槽の製造コストを上昇させることなく、貯水槽内部の水の滞留を可及的に防止する技術手段を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、円筒胴11の両端に凹面が内側を向いた円弧状の鏡板12、13を設けた構造の貯水槽において、当該貯水槽への清水の流入口21を円筒胴11の中心線a上で鏡板の一方(流入側鏡板)12に向けて開口し、貯水槽からの清水の流出口31を前記流入口21の背後に近接した前記中心線a上に開口するように設けることにより、上記課題を解決している。更にこの発明の貯水槽は、上記のように設けた流入口21と流出口31との間に、円筒胴の内周面16との間に円環状の連通開口42を残す円板状の遮蔽円板4を設けている。
【0013】
上記構造により、この発明の貯水槽では、貯水槽内に流入側と流出側の2つの軸方向旋回流25、35が生じ、流入側旋回流25の外周部から円環状の連通開口42を通って水が流出側旋回流35に合流し、流出側旋回流35の終端となる位置に開口する流出口31から流出する。流入側旋回流25の水の多くは連通開口42を通って流出側へと流れるが、その一部が遮蔽円板4に沿う内向流(中心線aの方向に向かう流れ)となり、遮蔽円板4の面に沿って滞留が生ずるのを防止している。また流出側旋回流35の水の多くは流出口31から流出するが、その一部が遮蔽円板4に沿う外向流(放射方向に向かう流れ)となり、遮蔽円板4の面に沿って滞留が生ずるのを防止している。この循環する一部の水は、次の水と合流して連通開口42や流出口31へと流れるので、循環が繰り返される水の割合は少なく、かつ貯水槽本体内で水の滞留する部分が皆無となるので、貯水槽から流出する水の品質の低下を防止することができる。
【0014】
この発明の貯水槽は、上記基本的な構造に加えて、流入口21、流出口31及び遮蔽円板4の配置位置を流出側鏡板13に近い位置にすることにより、更に先端に流入口21が開口している流入管2の先端部22を円筒胴の中心線上で流入側鏡板12に向かって拡開する案内管23とすることにより、貯水槽内の水の入替率(旧水が充満している貯水槽にその容積に等しい量の新水を流入させたときに流出する旧水の量を当該容積で除した値)を高くできる。
【0015】
貯水槽には、内部の点検や保守のために、通常、マンホール14(14a、14bも同様)を設ける必要があり、当該マンホールは、横置き円筒形の貯水槽本体の上部に設けられる。本願の発明に係る貯水槽では、貯水槽本体内の旧水は、上述した貯水槽本体内の水の循環により、速やかに新水(新たに流入してくる水)に交換される。しかし、マンホール14は、貯水槽本体の上部に突出した形で設けられることが多いため、この部分に水が滞留すると、水の入替率が低くなるおそれがある。
【0016】
この問題は、流入管2又は流出管3をマンホール14を通して槽内に導き、これらの管のマンホール14を通過する部分に補助流入孔27又は補助流出孔37を設けることによって解決できる。もちろん補助流入孔27と補助流出孔37との両者を設けてもよい。補助流入孔27を設けることによって、マンホール14部分に滞留しようとする水が貯水槽本体側に押し出されて、貯水槽本体の循環流に乗って流出する。また、補助流出孔37を設けることによって、マンホール14部分の水が吸い出されて貯水槽本体側から新しい水がマンホール14部分に流入する。
【0017】
また、遮蔽円板4を流出管3(又は流入管2)に固定して支持し、貯水槽本体に設けるマンホール14の内径をこの遮蔽円板4の外径より大きな径としたときは、流入管2、流出管3及び遮蔽円板4の総てをマンホールの蓋板15に取付けて当該蓋板をマンホール口に固定することにより、この発明の貯水槽とすることができ、製作が極めて容易になるとともに、既設の貯水槽をこの発明の構造の貯水槽とすることも容易に可能になる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したこの発明の構造によれば、非常に簡単な構造で給水管に介設した貯水槽内の水の滞留を防止することが可能で、貯水槽内の水が常時入れ替わって貯水槽内に常に新しい清水が貯水されるようにすることができる。
【0019】
特に貯水槽に遮蔽円板4の径より大きなマンホールを設けて流入管2及び流出管3をこのマンホールの蓋に支持させ、遮蔽円板4を流入管2の背面か又は流出管3に固定して支持する構造を採用すれば、貯水槽本体を製作した後で流入口21、流出口31及び遮蔽円板4を当該マンホールを通して貯水槽内に配置することができ、製造や施工が極めて容易になるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施例を示す側面図
【図2】第2実施例を示す側面図
【図3】第3実施例を示す側面図
【図4】図3の貯水槽の平面図
【図5】貯水槽本体を縦に切断して示した図3の貯水槽の斜視図
【図6】第4実施例の要部を示す斜視図
【図7】第5実施例の要部を示す側面図
【図8】第6実施例の貯水槽を縦に切断して示した斜視図
【図9】図8の貯水槽を他の方向から見た斜視図
【図10】第1〜第3実施例の貯水槽について水の滞留の程度を試験した結果を示すグラフ
【図11】第3実施例の貯水槽について、流入する水と貯水槽内の水に温度差があるときの入替数を示すグラフ
【図12】第3〜第5実施例の貯水槽について、流入する水の温度が貯水槽内の水の温度より低いときの、水の滞留の程度を試験した結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照してこの発明の実施形態を説明する。図1は、第1実施例を示す側面図、図2は第2実施例を示す側面図、図3は、第3実施例を示す側面図、図4は第3実施例の平面図、図5は、第3実施例を縦に切断して示した斜視図、図6は、第4実施例の要部を示す斜視図、図7は、第5実施例の要部を示す側面図、図8及び図9は、第6実施例を縦に切断して示した斜視図である。
【0022】
これらの図において、1は貯水槽本体、11はその円筒胴、12は流入側鏡板、13は流出側鏡板であり、鏡板12、13は共に内面が凹となった円弧状の鏡板である。図1〜図7における14及び図8及び9における14a、14bは、貯水槽本体に設けたマンホール、15及び15a、15bはマンホールの蓋板である。2は流入管、21はその先端の流入口、3は流出管、31はその先端の流出口、4は遮蔽円板である。42は遮蔽円板4の外周縁41と円筒胴11の内周面16との間に形成された円環状の連通開口である。
【0023】
図1〜図7の構造においては、貯水槽本体1内に延びる流入管2及び流出管3は、その基端をソケットなどの継手を介してマンホールの蓋板15に溶着されて支持されており、遮蔽円板4は流入側鏡板12に向けて屈曲した流出管3の先端に中心を溶着して固定されている。図1〜7の構造における流出口31は、流出管3の先端側面に開口している。
【0024】
これらの実施例の総てに共通する構成として、流入管2の先端部22は、流入側鏡板12の中央に向けて屈曲され、その先端の流入口21は、円筒胴11の中心線a上において、流入側鏡板12の中央に向いて開口している。遮蔽円板4は、その円中心を円筒胴の中心線aと一致させて、その外周縁41と円筒胴11の内周面16との間に所定幅の円環状の連通開口42を形成した状態で定置されている。流出管3は、その流出口31を円筒胴の中心線a上にして設けられている。図1〜7の例では、流出口31が中心線a上で流入側鏡板12に向けて屈曲した流出管先端部32の側面に開口しているが、この流出口31は、複数個が中心線a回りに対称に設けられているので、これらを合せた流出口31の中心は、中心線a上にある。なお、流出管の先端部32は円筒胴11に比べて充分に細いので、その側面一箇所にのみ流出口31を設けた場合であっても、その流出口31は、中心線a上に設けた構造に含まれるものである。
【0025】
図1に示す第1実施例では、遮蔽円板4は、貯水槽の軸方向長さの中央の位置に設けられており、当該遮蔽板の表裏面に近接して流入口21と流出口31とが開口している。図2に示す第2実施例では、遮蔽円板4は、円筒胴11の中心から軸方向に偏倚して、流出側鏡板13に近い位置に設けられており、この遮蔽円板4に近接する流入口21及び流出口31も、流出側鏡板13に近い位置に開口している。
【0026】
この発明の貯水槽では、図2に示したように、流入口21から流入する水流の勢いによって、貯水槽の中心において流入側鏡板12の中心に向かい、流入側鏡板12に沿って反転して円筒胴の周縁部で逆方向に流れる流入側旋回流25が発生する。そして、この流入側旋回流25の周縁部の流れが連通開口42を通過して流出側鏡板13に沿う内向流となり、流出側鏡板13の中央で全方位からの流れが衝突反転して遮蔽円板4の中央に向けて流れることにより、流出側旋回流35が発生ずる。そして、流出側旋回流35の水が当該旋回流の終端部に開口している流出口31から流出する。流入側旋回流25と流出側旋回流35の水の一部は、遮蔽円板4の面に沿う内向流26及び外向流36となって、後続する旋回流の水と合流する。
【0027】
図2ないし図9の構造は、流入側旋回流25の軸方向長さが流出側旋回流35の軸方向長さより長くなる構造である。後述するように、遮蔽円板4を流出側鏡板13に近い位置に設けて流入側旋回流25の軸方向長さを長くした第2ないし第6実施例の構造が、遮蔽円板4を中央に設置した第1実施例の構造より優れている。これは、流入口21からの流入速度が連通開口42を通る水流の速度より速くかつその方向が安定しているため、流入側旋回流25の方が流出側旋回流35より安定した旋回流となることに起因して、流れの不安定な(従って新旧の水が混じりやすい)流出側旋回流35より流入側旋回流の流路を長くした方が、全体として、繰返し旋回する(流れながら滞留する)水の量を少なくできるためと考えられる。
【0028】
図3〜5に示す第3実施例は、遮蔽円板4を流出側鏡板13に近い位置に設け、かつ流入管2の先端部に流入口21側が拡開した緩いテーパ状の案内管23を設けた構造である。この案内管は、円筒胴の中心線a上に設けられ、テーパ角(周面の傾斜角)が2〜10度、好ましくは2〜5度の円錐管で、後述する比較試験では3度のものを用いている。後述するように、このような案内管23の拡開した先端に流入口21に設けることにより、貯水槽内の水の入替率を大幅に向上させることができる。これは、このような案内管23を設けることによって、流入側旋回流25がより安定化し、内向流26の割合を減少させることができるためと考えられる。なお、案内管23のテーパ角が大き過ぎると、流入口21から拡散しながら流出する水が周縁部の逆方向の流れに衝突して安定な流れを阻害するようになるので、かえって悪影響を生ずると考えられる。
【0029】
図1〜5の構造では、貯水槽本体1に遮蔽円板4の径より大きなマンホール14が設けられ、そのマンホールの蓋板15に流入管2及び流出管3の基端が図示しない継手を介して溶着され、遮蔽円板4は流出管3に溶着されている。従って、貯水槽本体1にはなんら加工を施すことなく、蓋板15をマンホール14に設置することによって、流入口21、流出口31及び遮蔽円板4を所定位置に設置することができる。従って、この構造により、この発明の貯水槽の製造が極めて容易になり、また、既存の貯水槽をこの発明の貯水槽に改良することも容易に可能になる。
【0030】
図10は、上述した各実施例の構造について小型の貯水槽を製作し、貯水槽の容量の何倍(入替数)の新水を流入したときに、貯水槽に充満していた旧水がどれだけ貯水槽内に残っているかを試験した結果を示したグラフである。縦軸は旧水が貯水槽内に残る割合、横軸は入替数(新たに流入した水の量を貯水槽の容量で除した数)である。「理想」として示した線Oは、貯水槽の容量と同量の水を流入するだけで、貯水槽内の水が総て新水に入替えられる場合の線であり、現実にはこのような貯水槽は、製造不可能である。「流入流出口中央(円板あり)」として示した線Aは、第1実施例の貯水槽の、「流入流出口端部(円板あり)」として示した線Bは、第2実施例の貯水槽の、「流入流出口端部(テーパ管あり、円板あり)」として示した線Cは、第3実施例の貯水槽のそれぞれにについての試験結果である。図に示すように、第1から第3実施例の貯水槽の総てが「従来技術品」として示した線Eより改善されており、特に第3実施例の貯水槽の性能向上が顕著である。なお、第1実施例の構造で遮蔽円板4を取り除いたものの試験結果が参考として「流入流出口中央(円板なし)」として示す線Dで示されており、遮蔽円板4を設けない構造では、従来技術品より性能が低下するおそれがあることが示唆されている。なお、試験に用いた従来技術品は、両側の鏡板の周縁部に流入口と流出口とを設けた構造のものである。
【0031】
図10に示すように、本願発明の貯水槽は、貯水槽内での水の滞留が少なく、特に第3実施例の構造では、槽内での水の滞留が著しく減少する。しかし、本願発明者らのその後の試験において、給水の温度が急激に低下したとき、貯水槽内での水の滞留が増加する現象が認められた。図11は、給水の温度が貯水槽内の水の温度と等しい場合(温度差0℃)、給水の温度が貯水槽内の水の温度よりも3℃高い場合(温度差+3℃)及び給水の温度が貯水槽内の水の温度よりも3℃低い場合(温度差‐3℃)について、貯水槽内の旧水の体積比A=1.0%(貯水槽内に旧水が1.0容量%残っている状態)になるまでに貯水槽の容積の何倍の新水を供給しなければならないかを示す入替数Rを測定した結果を示す図である。図に示すように、新水と旧水に温度差がないときの入替数は3.91、温度差が+3℃のとき(新水の温度が高い)は4.17であり、図10の試験結果とほぼ整合しているのに対し、温度差が‐3℃(新水の温度が低い)のときは6.64となって、入替数が大幅に増加することが認められた。この原因を調査した結果、マンホール14が貯水槽本体の上部に設けられているため、新水の温度が低いときは、暖かい、従って比重の軽い旧水がマンホール14部分に滞留して入替数が大幅に増加していることが判った。
【0032】
そこで本願発明者らは、図6に示すように、第3実施例の貯水槽において、流入管2のマンホールの蓋板15の直下の位置に補助流入孔27を設けた第4実施例と、図7に示すように、流出管3のマンホールの蓋板15直下の位置に補助流出孔37を設けた第5実施例について、温度差Δt=−3℃のときの入替数Rとそのときの旧水の体積比Aを測定して、図12の結果を得た。ここで、基本構造は、第3実施例の構造、改良1は第4実施例の構造、改良2は第5実施例の構造である。図12には、参考として第3実施例の構造で新水と旧水に温度差がないときの試験結果も示してある。
【0033】
図12から明らかなように、マンホールの蓋板15の直下の位置において、流入管2に補助流入孔27を設けるか、または流出管3に補助流出孔37を設けることにより、貯水槽内の旧水と供給する新水との間に温度差があるときでも、温度差がないときと同程度の入替率の改善が見られる。特に流出管3に補助流出孔37を設ける構造が、新水と旧水の温度差による入替率の低下を防止する上で有効である。
【0034】
なお、図6、7に示した実施例では、流入管2や流出管3の基端に設けた継手28、38を介してこれらの管の基端をマンホールの蓋板15に溶着しており、補助流入孔27や補助流出孔37を継手28、38部分に設けている。この構造は、製作の容易さを考慮したものであるが、補助流入孔27や補助流出孔37の孔径や方向を変更した試験が容易である点、及び槽内配管の交換などのメンテナンスの点で優れていると言える。
【0035】
また、図12の結果を導いた試験は、流入管2及び流出管3の管径に対する補助流入孔27及び補助流出孔37の孔径比を約1/3としたものであるが、これは配管構造や配管の太さ、円筒胴11やマンホール14の容積などにより最適な値が変化すると考えられるので、試験を行って決定するのが好ましい。
【0036】
図8、9は、この発明の第6実施例を示した図で、マンホールの構造と遮蔽円板4の支持構造のみが第3実施例と異なっている。この第6実施例では、径の小さい2つのマンホール14a、14bが設けられており、その一方のマンホールの蓋板15aに流入管2の基端が溶着され、他方のマンホールの蓋板15bに流出管3の基端が溶着されている。流出管3は、その先端部が、円筒胴の中心線a上において、流入側鏡板12側に向けて屈曲され、流出口31は、遮蔽円板4の中心に向いて開口している。遮蔽円板4は、円筒胴11の内壁に立設した3本のステイ43によって支持されている。
【0037】
なお、図8、9において、45は流入側の給水管、46は流出側の給水管、47は屋外散水等に使うための立上げ管である。立上げ管47は、その基端を貯水槽の底部に開口させてあり、貯水槽のメンテナンス時など、必要があればこの立上げ管47を使って貯水槽内の沈殿物を排出できるようにしてある。給水が停止した非常時には、マンホールの蓋板に設けたソケット48(図4参照)からポンプ等で貯水槽内の水を汲み上げて使用する。
【0038】
この第6実施例のものは、性能的には第3実施例のものと変わらないが、遮蔽円板4は予め貯水槽内に設置しておかなければならない。2つのマンホール14a、14bは、遮蔽円板4で区画された流入側と流出側の空間に繋がるように設けられるので、遮蔽円板4により貯水槽内部の保守点検に支障が生じることはない。
【符号の説明】
【0039】
2 流入管
4 遮蔽円板
11 円筒胴
12 流入側鏡板
13 流出側鏡板
14 マンホール
15 蓋板
21 流入口
23 案内管
27 補助流入孔
31 流出口
37 補助流出孔
42 流水間隙
45,16 給水管
a 中心線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水道管その他の給水管(45,46)に介設される非常用貯水槽であって、通常時には当該貯水槽を経由して給水され、非常時に当該貯水槽に貯えられた水を利用できるようにする非常用貯水槽において、
円筒胴(11)の両端に凹面が内側を向いた円弧状の流入側と流出側の鏡板(12,13)を備え、当該貯水槽への清水の流入口(21)が前記円筒胴の中心線(a)上で流入側鏡板(12)に向けて開口し、貯水槽からの清水の流出口(31)が前記流入口(21)の背後に近接した前記中心線(a)上に開口し、これらの流入口(21)と流出口(31)との間に、前記円筒胴の内周面との間に円環状の連通開口(42)を残して配置された遮蔽円板(4)を備えていることを特徴とする、非常用貯水槽。
【請求項2】
前記流入口(21)、流出口(31)及び遮蔽円版(4)が貯水槽本体の流出側鏡板(13)に近い位置に配置されていることを特徴とする、請求項1記載の非常用貯水槽。
【請求項3】
先端に前記流入口(21)が開口している流入管(2)の先端部に前記中心線(a)上で流入側鏡板(12)の中央に向かう流入口(21)側が広がる案内管(23)が設けられている、請求項1又は2記載の非常用貯水槽。
【請求項4】
流入管(2)が貯水槽本体に設けたマンホール(14,14a)を通って貯水槽本体内に導かれており、当該流入管のマンホール(14,14a)を通過する部分に当該流入管内を流れる水の一部をマンホール(14,14a)部分に流入させる補助流入孔(27)が設けられている、請求項1、2又は3記載の非常用貯水槽。
【請求項5】
流出管(3)が貯水槽本体に設けたマンホール(14,14b)を通って貯水槽本体内に導かれており、当該流出管のマンホール(14,14b)を通過する部分に当該流出管内にマンホール(14,14b)部分の水を吸込む補助流出孔(37)が設けられている、請求項1、2又は3記載の非常用貯水槽。
【請求項6】
貯水槽本体のマンホール(14)が前記遮蔽円板(4)の外径より大きな内径を備え、先端に前記流入口(21)が開口している流入管(2)及び先端に前記流出口(31)が開口している流出管(3)がその基端をこのマンホールの蓋板(15)に固定して支持され、前記遮蔽円板が当該流入管又は流出管に固定して支持されており、前記蓋板をマンホールに固定することにより貯水槽内の所定位置に前記流入口、流出口及び遮蔽円板が配置されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一に記載の非常用貯水槽。
【請求項1】
水道管その他の給水管(45,46)に介設される非常用貯水槽であって、通常時には当該貯水槽を経由して給水され、非常時に当該貯水槽に貯えられた水を利用できるようにする非常用貯水槽において、
円筒胴(11)の両端に凹面が内側を向いた円弧状の流入側と流出側の鏡板(12,13)を備え、当該貯水槽への清水の流入口(21)が前記円筒胴の中心線(a)上で流入側鏡板(12)に向けて開口し、貯水槽からの清水の流出口(31)が前記流入口(21)の背後に近接した前記中心線(a)上に開口し、これらの流入口(21)と流出口(31)との間に、前記円筒胴の内周面との間に円環状の連通開口(42)を残して配置された遮蔽円板(4)を備えていることを特徴とする、非常用貯水槽。
【請求項2】
前記流入口(21)、流出口(31)及び遮蔽円版(4)が貯水槽本体の流出側鏡板(13)に近い位置に配置されていることを特徴とする、請求項1記載の非常用貯水槽。
【請求項3】
先端に前記流入口(21)が開口している流入管(2)の先端部に前記中心線(a)上で流入側鏡板(12)の中央に向かう流入口(21)側が広がる案内管(23)が設けられている、請求項1又は2記載の非常用貯水槽。
【請求項4】
流入管(2)が貯水槽本体に設けたマンホール(14,14a)を通って貯水槽本体内に導かれており、当該流入管のマンホール(14,14a)を通過する部分に当該流入管内を流れる水の一部をマンホール(14,14a)部分に流入させる補助流入孔(27)が設けられている、請求項1、2又は3記載の非常用貯水槽。
【請求項5】
流出管(3)が貯水槽本体に設けたマンホール(14,14b)を通って貯水槽本体内に導かれており、当該流出管のマンホール(14,14b)を通過する部分に当該流出管内にマンホール(14,14b)部分の水を吸込む補助流出孔(37)が設けられている、請求項1、2又は3記載の非常用貯水槽。
【請求項6】
貯水槽本体のマンホール(14)が前記遮蔽円板(4)の外径より大きな内径を備え、先端に前記流入口(21)が開口している流入管(2)及び先端に前記流出口(31)が開口している流出管(3)がその基端をこのマンホールの蓋板(15)に固定して支持され、前記遮蔽円板が当該流入管又は流出管に固定して支持されており、前記蓋板をマンホールに固定することにより貯水槽内の所定位置に前記流入口、流出口及び遮蔽円板が配置されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一に記載の非常用貯水槽。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−264098(P2009−264098A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74599(P2009−74599)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(593140956)玉田工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(593140956)玉田工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】
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