説明

非接触シール装置

【課題】回転軸に設けた工具と回転軸の軸受との間の距離を長くすることなく、工具のモーメント剛性を向上させるとともに、工具内の気体を工具外へ放出されることを防ぐ。
【解決手段】非接触シール装置20は、回転軸21と回転軸21に取り付けられた回転フランジ2とが工具装置ケース3との隙間において回転軸動圧溝6及びフランジ動圧溝7を有している。回転軸が一定方向に回転したとき、回転軸動圧溝6及びフランジ動圧溝7が互いに対向する方向に動圧を生じる向きの力を、回転軸隙間23とフランジ隙間22とにいる気体と液体とに与える。液相4及び気相5の境界面24では、液相4及び気相5の静圧と境界面における表面張力に加えて、回転軸動圧溝6及びフランジ動圧溝7より発生した動圧の釣り合いにより境界面24の圧力の釣り合いを保つ。これによって、境界面24を回転軸隙間23とフランジ隙間23との領域内に保持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸と軸受孔との隙間を流体が流出と流入をしないようにシールし、かつ回転軸と軸受孔とが接触しない非接触状態で回転軸を軸受孔に支持する非接触シール装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、防水シール装置は、大きく分けると、接触シール装置と非接触シール装置との2種類に分類される。
【0003】
接触シール装置は、回転軸とシール部材との摺動面同士を圧接させて、回転軸の軸受をシールするようになっている。通常、Oリングやオイルシールなどのシール部材を使用する接触シール装置は、回転軸の回転精度が劣化するだけでなく、摺動面に研磨液が直接触れる構成になっているため、摺動面が研摩されて、シール機能の寿命が短かった。
【0004】
これに対して、非接触シール装置は、原理的に、内外の圧力の釣り合いにより回転軸の軸受をシールするようになっており、シール内外の漏れを無くすためには非常に高精度な圧力制御が必要であった。このため、非接触シール装置は、シール内の圧力を高くして、シール内に存在する流体を噴出することでシールを行っていた(特許文献1参照)。
【0005】
また、非接触シール装置には、静圧を補助するため、回転軸に動圧溝を形成して、動圧を発生させることで外部圧力より内部圧力を高めてシールする方法を採用したものもあった(特許文献2参照)。
【0006】
さらに、図6に示す非接触シール装置18のように、気相5を内在した工具装置ケース3の軸受孔16と、この軸受孔を貫通する回転軸1との間の隙間17を狭くして、長くすることで液相4の液体が気相に侵入する抵抗を増やしたものもある。
【0007】
【特許文献1】特開平06−066374号公報(第1頁、第1図)
【特許文献2】特開平11−50994号公報(第1頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来、EEMに代表される工具を備えた回転軸に高い回転精度が要求されている高精度研磨において、回転軸の軸受と工具との距離を短くして工具のモーメント剛性を高めるため、回転軸を研磨液に入れて被加工物を加工する方法が提案されている。
【0009】
図7に、従来の一般的な高精度な研摩装置に使用される、不図示の工具を備えた回転軸を研摩液中で支持した非接触シール装置19を示す。この従来例の非接触シール装置19は、回転軸1と工具装置ケース3の軸受孔16との隙間17において、内部の気相5の内圧を液相の研磨液圧以上に維持して、液相の研磨液14が気相5内に侵入しないように隙間17をシールしていた。工具装置ケース3の内部には、回転軸1を回転させる回転駆動源であるモータ15が収納されて、液相4の研磨液14が進入しないように気体を送り込まれている。
【0010】
しかし、この非接触シール装置は、気相5の気体が常に研磨液14中に放出されており、EEMのような超精密研磨加工では工具とワークとの間に気泡が混入して、加工プロセスに悪影響を与えるおそれがある。そのため、装置内をシールだけでなく装置外に対してもシールすることで外部研磨液(外部流体)の流入はもとより内部気体の流出も防ぐシール装置が必要であった。
【0011】
気泡を研磨液中に放出させないためには、気相5内の内圧を研磨液圧と等しくすれば原理的には達成されることは公知である。しかし、工具ユニット若しくはワークが走査されることによる水位変動に対応するためには、多数の配管を、弾性部材を介して研摩装置に接続するため、研摩装置の機構が複雑になっていた。また、非常に高精度な圧力制御が要求されていた。
【0012】
そこで、非接触シール装置には、圧力の制御を簡略化するため、図6に示す非接触シール装置18がある。
【0013】
しかし、図6の非接触シール装置18は、隙間17を狭くし、かつ軸方向の長さを長くする構成であるため、回転軸に設けた工具と回転軸の軸受との距離が長くなりモーメント剛性が低くかった。そこで、モーメント剛性を維持するため、研磨装置が大型になっていた。
【0014】
本発明は、回転軸に設けた工具と回転軸の軸受との間の距離を長くすることなく、装置サイズを維持したままで、工具のモーメント剛性を向上させるとともに、工具内の気体を工具外へ放出されることを防いだ非接触シール装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の非接触シール装置は、気相と液相とを分離する隔壁の軸受孔に貫通して、一端が前記気相に位置し、他端が液相に位置する回転軸を、前記軸受孔に対して非接触状態で支持するようになっており、径が前記回転軸より大きく形成されて前記回転軸と同軸に前記回転軸に固定された、前記気相と前記液相との一方に位置する回転フランジと、前記回転フランジと前記隔壁との間に形成された第1の隙間と、前記回転フランジの前記第1の隙間を形成する部分に形成されて、前記回転軸が一方向に回転したとき、前記第1の隙間に存在する前記液相及び気相のいずれか一方の相に対して他方の相に前記回転軸の方向への動圧を生じる第1の動圧溝と、前記隔壁の前記軸受孔と前記回転軸との間に形成された第2の隙間と、前記回転軸の前記第2の隙間を形成する部分に形成されて、前記回転軸が前記一方向に回転したとき、前記第2の隙間に存在する前記液相及び気相のいずれか一方の相に対して他方の相に前記回転フランジの方向への動圧を生じる第2の動圧溝と、を備え、前記第1の動圧溝と前記第2の動圧溝とが、前記回転軸が前記一方向に回転したとき、前記気相と前記液相との境目を前記第1の隙間と前記第2の隙間との領域内に保持する、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の非接触シール装置は、回転軸が一方向に回転したとき、第1の動圧溝と第2の動圧溝とで、気相と液相との境目を第1の隙間と第2の隙間との領域内に保持するようになっている。このため、本発明の非接触シール装置は、回転軸に設けた工具と回転軸の軸受との間の距離を長くすることなく、装置サイズを維持したままで、工具のモーメント剛性を向上させることができる。また、本発明の非接触シール装置は、気相の気体を液相の液体内に放出することを防ぐ確率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1に示すように、本発明の非接触シール装置20は、気相5と液相4とを分離する隔壁としての工具装置ケース3の軸受孔16に貫通して、一端が気相に位置し、他端が液相に位置する回転軸21を、軸受孔16に対して非接触状態で支持するようになっている。そして、本発明の非接触シール装置20は、第1の隙間としてのフランジ隙間22と第2の隙間としての回転軸隙間23との領域内において存在する液体と気体の境目である境界面24で、気相5と液相4の圧力を釣り合わせるようになっている。なお、回転フランジ側が液相4、回転フランジの反対側が気相5になっているものとするが、液相4、気相5が逆になっていても、動作は同様である。
【0019】
フランジ隙間22は、回転フランジ2と工具装置ケース3の側面3aとの間に形成されている。回転軸隙間23は、工具装置ケース3の軸受孔16と回転軸21との間に形成されている。隔壁としての工具装置ケース3は、液相4と気相5とを分離している。
【0020】
回転フランジ2には、第1の動圧溝としてのフランジ動圧溝7が形成されている。また、回転軸21には、第2の動圧溝としての回転軸動圧溝6が形成されている。
【0021】
回転軸21が矢印12方向に回転したとき、フランジ動圧溝7によって、液相4側に、気相5側へと向かう方向(矢印11の方向)の動圧を生じる。また、回転軸動圧溝6によって、気相5側に、液相4側へと向かう方向(矢印10方向)の動圧を生じる。非接触シール装置20は、生じた動圧及び気相5の気圧、液相4の液圧により、隙間22,23における液体と気体の境界面24において、気相5と液相4の圧力を釣り合わせることができる。
【0022】
液相4の内圧が高く回転軸動圧溝6に液体が侵入した場合、回転軸動圧溝6によって、侵入した液体に液相4に押し戻す動圧が加わる。すなわち、液相4に対して負圧が生じる。したがって、液圧と気圧の差分だけ浸入した液体に負圧が生じるので、隙間22,23における液体と気体の境界面24では、気相5と液相4の圧力が釣り合う。
【0023】
図4に示すように、回転軸隙間23の全面に回転軸動圧溝6を形成しないで、回転軸121と回転フランジ2とのフランジ継ぎ目部13付近に回転軸絞り部8を形成することで、一部の気体がポンプ作用で液中に気泡となって放出されることを防ぐことができる。さらに、回転軸絞り部8により、境界面24における気相5側の静圧が高まると同時に、液体の粘性が浸入する液体に対して抵抗となる。なお、第2の絞り部としての回転軸絞り部8は、回転軸121に対する回転フランジ2の取付け部としてのフランジ継ぎ目部13近傍の回転軸121と軸受孔16との間に、回転軸隙間23よりも狭く形成された部分のことである。
【0024】
同様に、液相4のフランジ隙間22で、フランジ継ぎ目部13付近にフランジ絞り部9を有することで、回転軸絞り部8と同様の効果が得られる。加えて、フランジ継ぎ目部13における最大圧力が加わる位置において、回転軸絞り部8による気相5側の圧力勾配が液相4側よりも急な圧力勾配になることで、フランジ継ぎ目部13における気泡が圧力差により気相5側へと戻される。なお、第1の絞り部としてのフランジ絞り部9は、回転軸121に対する回転フランジ2の取付け部としてのフランジ継ぎ目部13近傍の回転フランジ2と工具装置ケース3との間に、フランジ隙間22より狭く形成された部分のことである。
【0025】
気相5側に与圧機構としてのフランジ継ぎ目部13を備えていると、回転軸動圧溝6によって発生する動圧以上に液圧が高い場合、液相と気相の境界面24でフランジ継ぎ目部13がオフセットとして気相5の内圧を上昇させることができる。これによって、気相5側と液相4側の圧力を釣り合わせることができる。
【0026】
以上説明したように、本発明の非接触シール装置20は、上記従来例に用いられていた静圧だけでなく、回転軸21が回転することにより回転軸動圧溝6及びフランジ動圧溝7から生じる動圧も用いることができるようになっている。このため、本発明の非接触シール装置20は、液相4及び気相5の境界面24では液相4及び気相5の静圧と境界面24における表面張力に加えて、回転軸動圧溝6及びフランジ動圧溝7より発生した動圧により圧力の釣り合いを保つことができる。
【0027】
また、回転軸動圧溝6及びフランジ動圧溝7は、気相5の気体と液相4の液体とにそれぞれ対向した向きに動圧を与えて、流入している液体の量に応じて生じる動圧に変化が生じても、水位変動等の外乱に対して圧力を釣り合わせる許容値を保つようになっている。
【0028】
したがって、本発明の非接触シール装置20は、液相4及び気相5の境界面24の圧力を釣り合わせて、境界面24を軸方向に静止した状態に保ち、回転軸21が非接触状態で気体或いは液体の流出を防止することができるようになっている。
【0029】
さらに、本発明の非接触シール装置20は、非接触式であるため、回転軸21に高い回転精度が得られるだけでなく、非接触シール装置を装備した装置内の気体の噴出を防いで加工プロセスへの悪影響を防ぐことができる。加えて、シールのための配管及び圧力制御用の図6に示す長い隙間17が不要となるので、非接触シール装置20を小型にすることができる。結果として回転軸に設けた工具と非接触シール装置との距離を短くすることができて、工具のモーメント剛性が向上させることができる。
【0030】
また、他の非接触シール装置120のように、回転軸隙間23を狭くする回転軸絞り部8を備えていると、回転軸動圧溝6のポンプ効果により回転軸隙間23に進入している気体の気泡が液体側に漏れることを防ぐことができる。しかも、回転軸絞り部8により気相5の内圧を高く保つことができて、釣り合いの許容圧力範囲をより広くすることができる。
【0031】
同様に、非接触シール装置120は、フランジ隙間22を狭くするフランジ絞り部9によって、釣り合いの許容圧力範囲をより広くすることができる。さらに、フランジ絞り部9により気相5側の圧力勾配が液相4側よりも急な圧力勾配とすることで一部の気泡が液相4側へ向かい液体中に放出されることを防ぐことができる。
【0032】
さらに、本発明の非接触シール装置120のように、気相5側に与圧機構としての継ぎ目部13を備えると、より高い液圧に対してシールをすることができる。
【実施例1】
【0033】
図1は、実施例1における非接触シール装置の回転軸に沿った断面図である。図1において、符号21は回転軸を示し、符号2は回転フランジを示し、符号3は工具装置ケースを示し、符号4は液相を示し、符号5は気相を示している。さらに、符号6は回転軸21に形成された回転軸動圧溝を示し、符号7は回転フランジ2に形成されたフランジ動圧溝を示している。
【0034】
回転フランジ2は、径が回転軸21より大きく形成されて、回転軸21と同軸に回転軸21に固定され、液相4側に位置している。なお、矢印11は、回転フランジ2が一方向(矢印12方向)に回転したとき、フランジ動圧溝7によって、回転軸21側に液相の液体に加わる力の向きを示している。矢印10は、回転軸21が一方向(矢印12方向)に回転したとき、回転軸動圧溝6によって回転フランジ2側に気相の気体に加わる力の向きを示している。
【0035】
回転軸21の回転軸動圧溝6は、回転軸21が矢印12方向に回転したとき、気相の気体を回転フランジ2側へ送る(矢印10方向へ送る)ねじ状に形成された溝である。このため、回転軸21が矢印12の方向に回転すると、回転軸動圧溝6は、気相5の気体に矢印10の方向へ流れる力を与えるので、気相5側より液相4側へ向かう動圧を気体に与える。すなわち、回転軸動圧溝6は、液相(一方の相)に対して液相(他方の相)に動圧を生じるようになっている。この動圧により液相4と気相5の境界面24において気相側の内圧が上昇する。
【0036】
なお、回転軸動圧溝6は、ねじ溝に形成されているが、へリングボーンのような溝形状であっても、同様の動圧が生じて、液相4と気相5の境界面24において気相側の内圧が上昇するため、ねじ溝に限定されるものではない。
【0037】
図2は、回転フランジ2に形成されたフランジ動圧溝7を示す図である。回転フランジ2のフランジ面上には、放射状でかつ湾曲したフランジ動圧溝7が複数形成されている。回転軸21が矢印12の向きに(一方向の向きに)回転すると、回転フランジ2は回転軸21と同軸であるので、回転軸21と同様に矢印12の向きに回転する。フランジ動圧溝7の断面形状は、図3に示すように、回転フランジ2の外周からフランジ動圧溝7に沿って回転軸21に向かう方向に液体に流れる力を与えるように、回転方向の上流側の壁面7aの傾斜が下流側の壁面7bの傾斜より急勾配に形成されている。したがって、フランジ動圧溝7が液体に対して矢印11の方向へ流れる力を与えるので、回転中心側、すなわち、液相4側から気相5側へ向かう動圧が液体に加わる。この動圧により液相4と気相5の境界面24において液相側の内圧が上昇する。
【0038】
図1において、液相4側の静圧と動圧を合わせた圧力と、気相5側の静圧と動圧を合わせた圧力とが等しい場合にはシールが行われて、液体が工具装置ケース3に進入しない。しかし、加工動作等により液相4の液圧が上昇して、液相4側の静圧と動圧を合わせた圧力の方が、気相5側の静圧と動圧を合わせた圧力より高くなると、液体が気相5側に浸入する。
【0039】
このとき、浸入してきた液体に、回転軸21に形成された回転軸動圧溝6が矢印10側への力を加えるので、侵入してきた液体により矢印10方向へ動圧が生じる。
【0040】
液体の侵入前後において、回転軸動圧溝6の一部で気体が液体に入れ替わり、液体の粘度と気体の粘度の差により擬似的に液相4と気相5の境界面24において気相5側の内圧が上昇する。結果として液体の侵入が進行することで気相5側の内圧が上昇し、液相4側の圧力と釣り合った位置において液体の浸入が止まる。よって、非接触シール装置20は、回転軸隙間23をシールすることができる。なお、液相4側の圧力と気相5側の圧力とが釣り合ったときの液相4と気相5の境界面24は、回転軸隙間23の領域に限らず、フランジ隙間22の領域に位置して保持される場合もある。
【0041】
このように、非接触シール装置20は、液相4と気相5との圧力を釣り合わせて、隙間23,22に液相4と気相5の境界面24を有することで気相5から液相4への気体の噴出を少なくして隙間23,22をシールすることができる。
【実施例2】
【0042】
図4は、実施例2における非接触シール装置の回転軸に沿った断面図である。
【0043】
実施例2の非接触シール装置120は、実施例1の非接触シール装置20に、回転軸絞り部8と、フランジ絞り部9とを加えた構成になっている。さらに、回転軸21に対する回転フランジ2の取付け部であり与圧機構であるフランジ継ぎ目部13を加えた構成になっている。実施例1の非接触シール装置20と同一部分には、同一の符号を付して、その部分の説明を省略する。
【0044】
回転軸絞り部8は、回転軸隙間23において液相4側の端で回転軸動圧溝6を形成しないで、回転軸121と軸受孔16との隙間を狭くしている部分である。すなわち、回転軸絞り部8は、フランジ継ぎ目部13近傍の回転軸上に形成された鍔状部25と軸受孔16との間の隙間であり、回転軸隙間23よりも狭く形成された隙間である。
【0045】
フランジ絞り部9は、フランジ隙間22で回転中心側の端の隙間を狭くしている部分である。すなわち、フランジ絞り部9は、軸受孔16の液相4側端部の工具装置ケース3に、液相4側に環状に突出した環状突条部26と、フランジ継ぎ目部13近傍の回転フランジ2との間の隙間であり、フランジ隙間22より狭く形成された隙間である。
【0046】
回転軸動圧溝6が、回転軸絞り部8によって、回転軸隙間23の途中で途切れているため、気体と液体の釣り合い位置は気相5側の回転軸動圧溝6の位置で釣り合い、回転軸動圧溝6のポンプ効果で一部の気泡を液相4側へ放出することを防ぐことができる。さらに、この回転軸絞り部8により気相5側の動圧による内圧上昇が大きくなるので、釣り合いの許容圧力範囲をより広くすることができる。
【0047】
フランジ絞り部9は、回転軸絞り部8と同様に釣り合いの許容圧力範囲をより広くすることができる。また、最大圧力が加わる回転フランジ2と回転軸21の継ぎ目部13において、フランジ絞り部9により、気相5側の圧力勾配が液相4側よりも急な圧力勾配となり、フランジ継ぎ目部における気泡が圧力差により気相5側へと戻されることになる。
【0048】
さらに、気相5側に与圧機構として備えたフランジ継ぎ目部13によって、回転軸側の気相5に与圧を付与されて内圧が上昇すると、液相と気相との境界面24において、気相5の内圧がフランジ継ぎ目部13による圧力上昇分だけ高くなる。
【0049】
したがって、この状態で回転軸動圧溝6とフランジ動圧溝7とによる動圧で圧力調整を行い、気相5側と液相4側の圧力を釣り合わせるように設定すると、非接触シール装置120は、より高い液圧に対してシールすることができる。
【0050】
このように、本実施例の非接触シール装置120は、回転軸絞り部8、フランジ絞り部9の他に、与圧機構としてのフランジ継ぎ目部13を組み合わせることで、圧力許容範囲を広げることができる。さらに、本実施例の非接触シール装置120は、回転軸絞り部8及びフランジ絞り部9により一部の気泡が液相4中へ放出されることを防止することができて、より高いシール性を得ることができる。
【0051】
なお、以上説明した回転軸絞り部8は、回転軸121に形成された鍔状部25と軸受孔16との間に形成されているが、鍔状部25の代わりに軸受孔16の内周に環状突部を形成し、その環状突部と回転軸121との間に形成してもよい。すなわち、回転軸絞り部8は、回転軸121と軸受孔16との間に回転軸隙間23より狭く形成された隙間であればよい。
【0052】
また、フランジ絞り部9は、工具装置ケース3に突出した環状突条部26の代わりに軸受孔16の端部に対向した回転フランジ上に環状突条部を形成し、その環状突条部と工具装置ケースとの間に形成してもよい。すなわち、フランジ絞り部9は、工具装置ケース3と回転フランジ2との間に、フランジ隙間22より狭く形成された隙間であればよい。
【0053】
さらに、実施例1、2の非接触シール装置20,120における、液相4と気相5とを図5に示すように入れ換えても、実施例1、2の非接触シール装置20,120は、同様な動作をして、回転軸隙間23をシールすることができる。ただし、この場合、フランジ動圧溝7の周速が早くなり、気相5側の動圧が大きくなる。したがって、液相4のより高い液圧に対してのシール性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施例1における非接触シール装置の回転軸に沿った断面図である。
【図2】図1のA−A矢視断面図である。
【図3】図2のB−B矢視断面図である。
【図4】本発明の実施例2における非接触シール装置の回転軸に沿った断面図である。
【図5】図4において、液相と気相を入れ換えた図である。
【図6】従来の非接触シール装置の回転軸に沿った断面図である。
【図7】従来の一般的な高精度な研摩装置において、不図示の回転工具を研摩液中に設置した非接触シール装置を採用した軸受部分を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
2 回転フランジ
3 工具装置ケース(隔壁)
4 液相
5 気相
6 回転軸動圧溝(第2の動圧溝)
7 フランジ動圧溝(第1の動圧溝)
8 回転軸絞り部(第2の絞り部)
9 フランジ絞り部(第1の絞り部)
10 回転軸動圧溝による動圧の発生方向を示す矢印
11 回転フランジの動圧溝による動圧の発生方向を示す矢印
12 回転フランジと回転軸の回転方向を示す矢印
13 フランジ継ぎ目部(回転軸に対する回転フランジの取付け部、与圧機構)
20 非接触シール装置
21 回転軸
22 フランジ隙間(第1の隙間)
23 回転軸隙間(第2の隙間)
24 液相と気相との境界面(境目)
25 鍔状部
26 環状突条部
120 非接触シール装置
121 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相と液相とを分離する隔壁の軸受孔に貫通して、一端が前記気相に位置し、他端が液相に位置する回転軸を、前記軸受孔に対して非接触状態で支持する非接触シール装置において、
径が前記回転軸より大きく形成されて前記回転軸と同軸に前記回転軸に固定された、前記気相と前記液相との一方に位置する回転フランジと、
前記回転フランジと前記隔壁との間に形成された第1の隙間と、
前記回転フランジの前記第1の隙間を形成する部分に形成されて、前記回転軸が一方向に回転したとき、前記第1の隙間に存在する前記液相及び気相のいずれか一方の相に対して他方の相に前記回転軸の方向への動圧を生じる第1の動圧溝と、
前記隔壁の前記軸受孔と前記回転軸との間に形成された第2の隙間と、
前記回転軸の前記第2の隙間を形成する部分に形成されて、前記回転軸が前記一方向に回転したとき、前記第2の隙間に存在する前記液相及び気相のいずれか一方の相に対して他方の相に前記回転フランジの方向への動圧を生じる第2の動圧溝と、を備え、
前記第1の動圧溝と前記第2の動圧溝とが、前記回転軸が前記一方向に回転したとき、前記気相と前記液相との境目を前記第1の隙間と前記第2の隙間との領域内に保持する、
ことを特徴とする非接触シール装置。
【請求項2】
前記第1の隙間の前記回転軸に対する回転フランジの取付け部の近傍に、前記第1の隙間より狭い隙間を形成する第1の絞り部を備えた、
ことを特徴とする請求項1に記載の非接触シール装置。
【請求項3】
前記第2の隙間の前記回転軸に対する回転フランジの取付け部の近傍に、前記第2の隙間より狭い隙間を形成する第2の絞り部を備えた、
ことを特徴とする請求項1に記載の非接触シール装置。
【請求項4】
前記回転軸に対する回転フランジの取付け部が、前記回転軸側に位置する前記相に該相の内圧を高める与圧を付与する与圧機構である、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の非接触シール装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−85359(P2009−85359A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−257073(P2007−257073)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「極端紫外線(EUV)露光システムの開発」に関する委託研究)産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】