説明

非接触充電モジュール及びこれを備えた送信側非接触充電機器と受信側非接触充電機器

【課題】位置合わせのためのマグネットによる悪影響を受けにくく、薄型化が可能な磁性シートを備えることで、位置合わせのためのマグネットを用いても、マグネットからの悪影響を防止し、電力伝送効率を向上させる非接触充電モジュール及び非接触充電機器を提供することができる。また、電力伝送効率を向上させた状態でモジュール全体の薄型を達成した非接触充電モジュール及び非接触充電機器を提供することができる。
【解決手段】導線が巻回された平面コイル部2と、平面コイル部2のコイル21の面に対向するように設けられた磁性シート3と、を備え、磁性シート3は、Mn−Zn系のフェライトシートであって、透磁率が250以上、飽和磁束密度が350mT以上、厚みが400μm以上であることを特徴とする非接触充電モジュールである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦巻状の導線からなる平面コイル部と磁性シートとを有する非接触充電モジュール及び非接触充電機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、本体機器を充電器で非接触充電することのできるものが多く利用されている。これは、充電器側に送電用コイル、本体機器側に受電用コイルを配し、両コイル間に電磁誘導を生じさせることにより充電器側から本体機器側に電力を伝送するものである。そして、上記本体機器として携帯端末機器などを適用することも提案されている。
【0003】
この携帯端末機器などの本体機器や充電器は、薄型化や小型化が要望されるものである。この要望に応えるため、(特許文献1)のように、送電用コイルや受電用コイルとしての平面コイル部と、磁性シートとを備えることが考えられる。また、この種の非接触充電モジュールは1次側非接触充電モジュールと2次側非接触充電モジュールとの位置合わせにマグネットが利用されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−284059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、(特許文献1)のような非接触充電モジュールでは、マグネットによって磁性シートの透磁率が低下してコイルのL値が低下してしまう。これは、マグネットが存在することで1次側、2次側非接触充電モジュール間の磁束を妨げてしまうからである。一定の透磁率を維持するためには、磁性シートを厚く形成しなくてはならない。一方で、非接触充電モジュールを搭載する電子機器に対しては小型化が要求され、非接触充電モジュールに対しても小型化、薄型化が要求されている。すなわち、磁性シートの薄型化が必須となる。しかしながら、磁性シートを薄く形成するとコイルのL値が低下してしまう。
【0006】
そこで、本願発明は、上記の問題に鑑み、位置合わせのためのマグネットによる悪影響を受けにくく、薄型化が可能な磁性シートを備えることで、位置合わせのためのマグネットを用いても、マグネットからの悪影響を防止し、電力伝送効率を向上させる非接触充電モジュール及び非接触充電機器を提供することを目的とする。また、電力伝送効率を向上させた状態でモジュール全体の薄型を達成した非接触充電モジュール及び非接触充電機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、他方の非接触充電モジュールと電磁誘導によって電力伝送を行う非接触充電モジュールであって、前記他方の非接触充電モジュールとの位置合わせに際し、前記他方の非接触充電モジュールに備えられたマグネットを利用して位置合わせを行う場合と、及びマグネットを利用しないで位置合わせを行う場合とのどちらの場合においても前記他方の非接触充電モジュールと位置合わせ可能な非接触充電モジュールにおいて、導線が巻回された平面コイル部と、前記平面コイル部のコイルの面に対向するように設けられ、前記マグネットを位置合わせに使う際は前記マグネットと引き合うことのできる磁性シートと、を備え、前記磁性シートは、Mn−Zn系のフェライトシートであって、透磁率が250以上、飽和磁束密度が350mT以上、厚みが400μm以上であることを特徴とする非接触充電モジュールとした。
【発明の効果】
【0008】
位置合わせのためのマグネットによる悪影響を受けにくく、薄型化が可能な磁性シートを備えることで、位置合わせのためのマグネットを用いても、マグネットからの悪影響を防止し、電力伝送効率を向上させる非接触充電モジュール及び非接触充電機器を提供することができる。また、電力伝送効率を向上させた状態でモジュール全体の薄型を達成した非接触充電モジュール及び非接触充電機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態における非接触充電モジュールの組立図
【図2】本発明の実施の形態における非接触充電モジュールの概念図
【図3】本発明の実施の形態における非接触充電モジュールの磁性シートの概念図
【図4】本発明の実施の形態における非接触充電モジュールの断面を示す概念図
【図5】本発明の実施の形態における磁性シートの厚みと平面コイル部のL値との関係を示す図
【図6】本発明の実施の形態における磁性シートの厚みと位置合わせのマグネットを使用する場合と使用しない場合におけるL値減少率との関係を示す図
【図7】本発明の実施の形態におけるコイルが円形の場合と矩形の場合の磁性シートの厚みと平面コイル部のL値との関係を示す図
【図8】本発明の実施の形態におけるコイルが円形の場合と矩形の場合のコイルの内径とL値減少率との関係を示す図
【図9】本発明の実施の形態における磁性シートの厚みと平面コイル部のL値との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
請求項1に記載の発明は、他方の非接触充電モジュールと電磁誘導によって電力伝送を行う非接触充電モジュールであって、前記他方の非接触充電モジュールとの位置合わせに際し、前記他方の非接触充電モジュールに備えられたマグネットを利用して位置合わせを行う場合と、及びマグネットを利用しないで位置合わせを行う場合とのどちらの場合においても前記他方の非接触充電モジュールと位置合わせ可能な非接触充電モジュールにおいて、導線が巻回された平面コイル部と、前記平面コイル部のコイルの面に対向するように設けられ、前記マグネットを位置合わせに使う際は前記マグネットと引き合うことのできる磁性シートと、を備え、前記磁性シートは、Mn−Zn系のフェライトシートであって、透磁率が250以上、飽和磁束密度が350mT以上、厚みが400μm以上であることを特徴とする非接触充電モジュールであって、位置合わせのためのマグネットによる悪影響を受けにくく、薄型化が可能な磁性シートを備えることで、位置合わせのためのマグネットを用いても、マグネットからの悪影響を防止し、電力伝送効率を向上させる非接触充電モジュール及び非接触充電機器を提供することができる。また、電力伝送効率を向上させた状態でモジュール全体の薄型を達成した非接触充電モジュールを提供することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記平面コイル部は、略円形状に巻回され、前記磁性シートは、透磁率が1800以上、飽和磁束密度が400mT以上、厚みが600μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の非接触充電モジュールであって、非常に効率的な電力伝送をすることができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記平面コイル部は、略矩形状に巻回され、前記磁性シートは、透磁率が1800以上、飽和磁束密度が400mT以上、厚みが400μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の非接触充電モジュールであって、非常に効率的な電力伝送をすることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、前記磁性シートは、磁性部材の小片がシート上に敷き詰められることで柔軟性を備えたことを特徴とする請求項1に記載の非接触充電モジュールであって、柔軟性のためのスリットによる電力伝送の悪影響をカバーすることができる磁性シートとすることができる。また、電力伝送効率を向上させた状態でモジュール全体の薄型を達成した非接触充電モジュールとすることができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかひとつに記載の非接触充電モジュールを送信側非接触充電モジュールとして備えたことを特徴とする送信側非接触充電機器であって、位置合わせのためのマグネットによる悪影響を受けにくく、薄型化が可能な磁性シートを備えることで、位置合わせのためのマグネットを用いても、マグネットからの悪影響を防止し、電力伝送効率を向上させる送信側非接触充電モジュール及び送信側非接触充電機器を提供することができる。また、電力伝送効率を向上させた状態でモジュール全体の薄型を達成した送信側非接触充電機器を提供することができる。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかひとつに記載の非接触充電モジュールを受信側非接触充電モジュールとして備えたことを特徴とする受信側非接触充電機器であって、位置合わせのためのマグネットによる悪影響を受けにくく、薄型化が可能な磁性シートを備えることで、位置合わせのためのマグネットを用いても、マグネットからの悪影響を防止し、電力伝送効率を向上させる受信側非接触充電モジュール及び受信側非接触充電機器を提供することができる。また、電力伝送効率を向上させた状態でモジュール全体の薄型を達成した受信側非接触充電機器を提供することができる。
【0016】
(実施の形態)
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態における非接触充電モジュールの組立図、図2は、本発明の実施の形態における非接触充電モジュールの概念図であって(a)は上面図、(b)は図2(a)のA方向から見た断面図、(c)及び(d)は図2(a)のB方向から見た断面図である。図3は、本発明の実施の形態における非接触充電モジュールの磁性シートの概念図であり、(a)は上面図、(b)は図3(a)のA方向から見た断面図、(c)及び(d)は図3(a)のB方向から見た断面図である。
【0017】
本願発明の非接触充電モジュール1は、導線が渦巻き状に巻回された平面コイル部2と、平面コイル部2のコイル21の面に対向するように設けられた磁性シート3とを備える。
【0018】
図1に示すとおり、平面コイル部2は、面上で渦を描くように径方向に向けて導電体を巻いたコイル21と、コイル21の両端に設けられた端子22、23を備える。コイル21は導線を平面上で平行に巻きまわしたものであり、コイルによって形成された面をコイル面と呼ぶ。なお、厚み方向とは、平面コイル部2と磁性シート3との積層方向である。本実施の形態では、コイル21は直径が20mmの内径から外に向かって巻回され、外径が30mmとなっている。すなわち、コイル21はドーナツ形状に巻回されている。なお、コイル21は円形に巻回されてもよいし、多角形に巻回されてもよい。
【0019】
また、導線はお互いに空間を空けるように巻回されることによって、上段の導線と下段の導線との間の浮遊容量が小さくなり、コイル21の交流抵抗を小さく抑えることができる。また、空間を詰めるように巻回されることによって、コイル21の厚みを抑えることができる。
【0020】
また、図3のように本実施の形態においては、断面積が円形状の導線としているが、方形形状などの導線でもよい。ただし、断面積が方形状の導線と比較して円形状の導線とでは、隣り合う導線どうしの間に隙間が生じるため、導線間の浮遊容量が小さくなり、コイル21の交流抵抗を小さく抑えることができる。
【0021】
また、コイル21は厚さ方向に2段で巻回するよりも1段で巻回した方がコイル21の交流抵抗が低くなり、伝送効率を高くすることができる。これは、2段で導線を巻回すると、上段の導線と下段の導線との間に浮遊容量が発生するためである。従って、コイル21は全体を2段で巻回するよりも、なるべく多くの部分を1段によって巻回した方がよい。また、1段で巻回することによって、非接触充電モジュール1として薄型化することができる。なお、コイル21の交流抵抗が低いことでコイル21における損失を防ぎ、L値を向上させることによって、L値に依存する非接触充電モジュール1の電力伝送効率を向上させることができる。
【0022】
また、本実施の形態においては、図1に示すコイル21の内側の内径xは10mm〜20mmであり、外径は約30mmであり、一般的には20mm〜40mm程度であるが、これに限られるものではない。内径xが小さいほど、同じ大きさの非接触充電モジュール1においてコイル21のターン数を増やすことができ、L値を向上させることができる。
【0023】
なお、端子22、23はお互いに近接してもよく、離れて配置されてもよいが、離れて配置された方が非接触充電モジュール1を実装しやすい。
【0024】
磁性シート3は電磁誘導作用を利用した非接触充電の電力伝送効率を向上させるために設けたものであって、図2に示す通り、平坦部31と、中心であってコイル21の内径に相当する中心部32と、直線凹部33とを備える。なお、図3に示すとおり、中心部32は必ずしも凸型とする必要なく、平坦でもよいし、貫通孔でも、凹型でも良い。また、直線凹部33はスリット34であってもよいし、直線凹部33またはスリット34は必ずしも必要であるわけではない。ただし、図2(c)、(d)にあるように、直線凹部33またはスリット34を設けることによって、コイル21の巻き終わりから端子23までの導線を直線凹部33またはスリット34内に収納することができるので、薄型化することができる。すなわち、直線凹部33またはスリット34は磁性シート3の端部とほぼ垂直であり、中心部32の外周の接線と重なるように形成される。このように直線凹部33またはスリット34を形成することによって、導線を折り曲げることなく端子22、23を形成することができる。なお、この場合、直線凹部33またはスリット34の長さは約7mm〜20mmである。ただし、直線凹部33またはスリット34の長さはコイル21の内径に依存する。また、直線凹部33またはスリット34は、磁性シート3の端部と中心部32の外周が最も近づく部分に形成してもよい。これによって、直線凹部33またはスリット34の形成面積を最低限に抑えることができ、非接触充電モジュール1の伝送効率を向上させることができる。なお、この場合、直線凹部33またはスリット34の長さは約5mm〜10mmである。どちらの配置であっても、直線凹部33またはスリット34の内側端部は中心部32に接続している。また、直線凹部33またはスリット34は、他の配置にしてもよい。すなわち、コイル21はなるべく1段構造であることが望ましく、その場合、コイル21の半径方向のすべてのターンを1段構造とするか、1部を1段構造として他の部分を2段構造とすることが考えられる。従って、端子22、23のうち1方はコイル21外周から引き出すことができるが、他方は内側から引き出さなくてはならない。従って、コイル21が巻回されている部分と、コイル21の巻き終わりから端子22または23までの部分とが、必ず厚さ方向において重なってしまう。従って、その重なる部分に直線凹部33またはスリット34を設ければよい。直線凹部33であれば磁性シート3に貫通孔やスリットを設けないので磁束が漏れることを防ぎ、非接触充電モジュール1の電力伝送効率を向上させることができる。対して、スリット34の場合は、磁性シート3の形成が容易となる。直線凹部33である場合、図5に示すように断面形状が方形状となるような直線凹部33に限定されず、円弧状や、丸みを帯びてもよい。
【0025】
また、本実施の形態においては、磁性シート3としてNi−Zn系のフェライトシート、Mn−Zn系のフェライトシート、Mg−Zn系のフェライトシートなどを使うことができる。フェライトシートは、アモルファス金属の磁性シートに比較してコイル21の交流抵抗を低下させることができる。また、磁性シート3は、特に、Mn−Zn系のフェライトシートであって、透磁率が250以上、飽和磁束密度が350mT以上であることが好ましい。本実施の形態においては、透磁率が1500〜2000、飽和磁束密度が約400mTとなっている。このようなMn−Zn系のフェライトシートで磁性シート3を構成することによって、マグネットの悪影響を受けにくく、薄型化することができる。すなわち、マグネットを位置合わせとして使用する場合と使用しない場合とで非接触充電モジュール1のコイル21のL値が大幅に変化する。これは、マグネットが存在することで1次側、2次側非接触充電モジュール間の磁束を妨げてしまうからである。従って、マグネットがある場合、非接触充電モジュール1のコイル21のL値が大幅に減少する。このマグネットによる影響を抑えるために、磁性シート3は高飽和磁束密度材(飽和磁束密度が350mT以上)を備える。高飽和磁束密度材は磁場が強くなっても磁束が飽和しにくいため、マグネットの影響を受けにくく、マグネットが使用されている際のコイル21のL値を向上させることができる。従って、磁性シート3を薄型化させることができる。しかしながら、磁性シート3の透磁率が低くなりすぎるとコイル21のL値が非常に低下してしまう。その結果、非接触充電モジュール1の効率を低下させてしまうことがある。従って、透磁率は少なくとも250以上、好ましくは1500以上が好ましい。また、L値は磁性シート3の厚みにも依存するが、フェライトシートの厚み400μm以上であれば良い。
【0026】
また、フェライトシートがMn−Zn系であることによって、更なる薄型化が可能となる。すなわち、規格(WPC)によって、電磁誘導の周波数は100kHz〜200kHz程度(例えば120kHz)と決まっている。このような低周波数帯において、Mn−Zn系のフェライトシートは高効率となる。なお、Ni−Zn系のフェライトシートは高周波において高効率である。
【0027】
図4は、本発明の実施の形態における非接触充電モジュールの断面を示す概念図である。更に、本実施の形態の磁性シート3は柔軟性を備えるために、図4に示されるような(特許第4400509号公報)の技術のように磁性シート3にスリットが入れられ、磁性部材の小片301がシート状にしきつめられて形成されている。そのため、磁性部材の小片301の間のスリット(割れ目)からコイル21の磁束が漏れやすくなり、L値が低下し、伝送効率が低下しやすくなる。しかしながら、上記のように磁性シート3の飽和磁束密度及び透磁率を決定することで、柔軟性のためのスリットが入った磁性シート3であっても、位置合わせのためのマグネットによる悪影響を受けにくく、薄型化が可能となる。すなわち、柔軟性のためのスリットによる悪影響をカバーすることができる磁性シートとすることができる。また、電力伝送効率を向上させた状態でモジュール全体の薄型を達成した非接触充電モジュールとすることができる。
【0028】
上記のように、磁性シート3を、Mn−Zn系のフェライトシートであって透磁率が250以上、飽和磁束密度が350mT以上であることによって初めて、位置合わせのためのマグネットを用いても、マグネットからの悪影響を防止し、電力伝送効率を向上させる非接触充電モジュール及び非接触充電機器を提供することができる。また、電力伝送効率を向上させた状態でモジュール全体の薄型を達成した非接触充電モジュール及び非接触充電機器を提供することができる。すなわち、磁性シート3の透磁率を上げることでコイル21のL値が向上する。しかしながら、位置合わせのマグネットを使用する場合を考えると、例え透磁率が高くても飽和磁束密度が低いと高いL値を得ることができない。すなわち、飽和磁束密度が低いので、マグネットの影響を受けやすい。しかしながた、飽和磁束密度が高いと、透磁率が比較的に低めであっても高いL値を得ることができる。それは、マグネットの影響を受けにくくなるからである。但し、透磁率及び飽和磁束密度の双方が高いことで、マグネットの使用の有無に関わらず高いL値を得ることが出来る。このような結果から、少なくとも透磁率が250以上、飽和磁束密度が350mT以上であれば、マグネットの有無に関わらず一定以上の高いL値を得ることができる。それによって、電力伝送をする十分な値のL値を得ることが出来る。
【0029】
次に、磁性シート3の厚みと平面コイル部2のL値との関係について説明する。なお、ここでいう磁性シート3の厚みとは、図3(c)のd2、すなわち平坦部の厚みのことをいう。中心部32の厚みや直線凹部33の厚みではなく、平面コイル部2のコイル21が載置される部分の磁性シート3の厚みである。平坦部31の厚みが一定でない場合は、その平均をいう。
【0030】
図5は、本発明の実施の形態における磁性シートの厚みと平面コイル部のL値との関係を示す図(位置合わせのためのマグネットを使用した場合)であり、図6は、本発明の実施の形態における磁性シートの厚みと位置合わせのマグネットを使用する場合と使用しない場合におけるL値減少率との関係を示す図である。すなわち、L値減少率とは、一定の条件のコイルをマグネットが近くに存在しない場合に測定したL値に対して、同じの条件のコイルをマグネットの近くに配置して測定したL値の減少の割合を示す。従って、L値減少率が小さいほど、コイルのL値がマグネットの有無に影響を受けない。また、図5、図6においては、円形状に巻いたコイルを使用している。また、磁性シート3は、Mn−Zn系のフェライトシートを主成分としている。
【0031】
また、交流飽和磁束密度が400mTの材料は、透磁率が1800程度である。交流飽和磁束密度が350mTの材料は、透磁率が250程度である。交流飽和磁束密度が285mTの材料は、透磁率が2200程度である。
【0032】
図5、図6から明らかな通り、磁性シートの厚みが400μm以上であって、交流飽和磁束密度が350mT以上、透磁率が250以上以上であれば、位置合わせのためのマグネットが近接した場合でもコイル21のL値が8μH以上となり、L値減少率も半分以下に抑えることができる。すなわち、位置合わせのためのマグネットが近接した場合、コイル21のL値は低下するが、そのときに最低でもL値が8μHなければ、電磁誘導により充電することが難しくなる。また、L値が大きいほど、送信側及び受信側非接触充電モジュール間の電力伝送効率が向上する。また、L値減少率が50%以上となると、位置合わせのためのマグネットが使用される場合と使用されない場合とで、コイル21のL値が2倍以上はなれることとなる。このコイル21のL値は、送信側及び受信側非接触充電モジュール間の電力伝送における送受信の周波数を決定するものであり、コイル21のL値が2倍以上はなれてしまうと周波数がかなり変化してしまう。位置合わせのためのマグネットが使用される場合と使用されない場合の双方において効率的に電力伝送をすることができる非接触充電モジュールとするためには、L値減少率を50%以下に抑え、位置合わせのためのマグネットが使用される場合と使用されない場合での周波数を近い値にすることが必要である。
【0033】
また、磁性シート3の厚みを600μm以上にすることで、コイル21のL値が10μH以上となる。また、飽和密度が350mT及び400mTの場合ではL値減少率が約30%以下となる。従って、非接触充電モジュールのサイズが許す限り、磁性シート3の厚みは600μm以上であることが好ましい。特に、交流飽和磁束密度が400mT、透磁率が1800の材料の厚みを600μm以上とすると、L値は12μHを越え、L値減少率は20%以下となるので、非常に効率的な電力伝送をすることができる。
【0034】
次に、コイル21を円形状に巻回した場合と、矩形上に巻回した場合との、磁性シート3の厚みと平面コイル部2のL値との関係について説明する。
【0035】
図7は、本発明の実施の形態におけるコイルが円形の場合と矩形の場合の磁性シートの厚みと平面コイル部のL値との関係を示す図(位置合わせのためのマグネットを使用した場合)であって、図8は、本発明の実施の形態におけるコイルが円形の場合と矩形の場合のコイルの内径とL値減少率との関係を示す図である。
【0036】
また、図7においては、L値とは平面コイル部2のインダクタンス値であり、その値が大きいほど非接触充電モジュールの電力伝送の効率が高くなる。
【0037】
非接触充電モジュールの電力伝送の性能を満足させるには、コイル21のL値は8μH程度必要であるが、位置合わせマグネットが有る場合には位置合わせマグネットの影響で磁性シートの磁界強度アップの効果が低減する。
【0038】
図7によると、位置合わせマグネットがある時には円形の平面コイル部が6〜8μH発生するには磁性シート3のフェライト厚みは500μm必要である。それに比較し、同じフェライト厚みを持つ矩形の平面コイル部2のL値は12μHとなる(矢印A)。
【0039】
磁性シート3のフェライト厚みと面積が同一の条件下では矩形の平面コイル部のL値のほうが円形の平面コイル部に比べて大きい値になっている。したがって、矩形の平面コイル部で生じる磁界は大きく、非接触充電モジュールの電力伝送効率は大きくなることとなる。
【0040】
矩形の平面コイル部と円形の平面コイル部のL値を同じにしようとした場合では矩形の平面コイル部のほうが磁性シート3のフェライト厚みを薄く設定することができる。すなわち、L値の目標値にするには、矩形の平面コイル部の磁性シート3のフェライト厚みを300μmにすることができ(矢印B)、フェライトの厚みを薄くすることができる。したがって、非接触充電モジュール1の厚さを薄くすることができ、小型化しやすくなる。
【0041】
このように、非接触充電モジュールの用いる平面コイルを矩形にすることで位置合わせマグネットの磁界の影響を避け、非接触充電モジュールの電力伝送効率を向上させることにより非接触充電モジュールの小型化を達成することができる。
【0042】
なお、コイル21は矩形に巻回されることに限定されず、角にRを有した方形状や多角形状に巻回される場合もある。すなわち、コイル21の形状は、その全体が磁性シート3上にあって、コイル21の内縁が位置合わせマグネットの外縁から離れる部分を多く有する形状であればよい。その中でも、矩形の形状は上述した効果を得られるとともに、矩形コイルを容易に作成することができるものである。
【0043】
図8に示す通り、コイルの内寸法が大きいほど平面コイル部2のL値減少率が少ない。位置合わせマグネット4と平面コイル部2の内側との間隔を余分に取れる領域が多くなるので位置合わせマグネット4の影響が小さくなるためである。一方、矩形の平面コイル部2内側の対角線寸法と円形の平面コイル部2の内径寸法とが同じ値の場合には平面コイル部2のL値減少率も同じ値である。
【0044】
すなわち、矩形の平面コイル部内側の対角線寸法xおよび円形の平面コイル部2の内径寸法yが位置合わせマグネット4の直径mより大きいと(x=y>m)、平面コイル部の内辺と位置合わせマグネットの外周辺との間に隙間ができる。ところが、この場合平面コイルの平面の面積は矩形の平面コイル部のほうが円形の平面コイル部に比較して小さい。そこで、磁性シート3の大きさに合うように矩形の平面コイル部内側の対角寸法を大きくすることができる。そうすることで、磁性シート3内に平面コイル部2を設置した場合矩形の平面コイル部のほうが円形の平面コイル部に比較して平面コイル部2の内辺と位置合わせマグネットの外周辺との間に隙間が作ることができ、位置合わせマグネットの影響を小さくすることができる。
【0045】
要するに、上述した円形の平面コイル部ではコイル内径のどこでもマグネットとの距離が一定であり、円形の平面コイル部で生じる磁界は小さい。すなわち電磁誘導の相互インダクタンスに影響を与える円形の平面コイル部のL値は小さくなり、非接触充電モジュールの電力伝送効率は低い。一方、上述した矩形の平面コイル部ではコイルの内径がマグネットとの距離が狭い部分と広い部分ができ、矩形の平面コイル部で生じる磁界はマグネットと離れている部分で大きくなる。すなわち電磁誘導の相互インダクタンスに影響を与える矩形の平面コイル部のL値は円形の平面コイル部のL値より大きくなり、それで非接触充電モジュールの電力伝送効率は円形の平面コイル部に比べ大きく向上することになる。
【0046】
以上のことから、コイル21が略矩形形状である場合は、磁性シート3の厚みを400μm以上にすることで、コイル21が円形形状である場合での磁性シート3の厚みが600μmであるのとほとんど同じ効果が得られる。すなわち、コイル21は、略矩形状に巻回され、磁性シート3は、透磁率が360以上、飽和磁束密度が1800mT以上、厚みが400μm以上であることによって、非常に効率的な電力伝送をすることができる。
【0047】
次に、本発明の非接触充電モジュール1を備えた非接触充電機器について説明する。非接触電力伝送機器は、送電用コイル及び磁性シートを備える充電器と、受電用コイル及び磁性シートを備える本体機器とから成るものであり、本体機器が携帯電話などの電子機器となっている。充電器側の回路は、整流平滑回路部と、電圧変換回路部と、発振回路部と、表示回路部と、制御回路部と、上記送電用コイルとで構成されている。また本体機器側の回路は、上記受電用コイルと、整流回路部と、制御回路部と、主として2次電池から成る負荷Lとで構成されている。
【0048】
この充電器から本体機器への電力伝送は、1次側である充電器の送電用コイルと、2次側である本体機器の受電用コイルとの間の電磁誘導作用を利用して行われる。
【0049】
本実施の形態の非接触充電機器は、上記で説明した非接触充電モジュール1を備えるため、平面コイル部の断面積を十分に確保して電力伝送効率を向上させた状態で、非接触充電機器を小型化及び薄型化することができる。
【0050】
なお、前述した交流飽和磁束密度が400mTの材料、交流飽和磁束密度が350mTの材料、交流飽和磁束密度が285mTの材料は、マグネットが位置合わせに使用されていないと、図9のようなL値となる。図9は、本発明の実施の形態における磁性シートの厚みと平面コイル部のL値との関係を示す図(位置合わせのためのマグネットを使用しない場合)である。マグネットが位置合わせに使用されている場合と比較して、3種類の材料のL値が高く、その差が小さくなる。そして、磁性シート3の厚みが400μm以上では、どれも12μHを超えているため、十分に電力伝送が可能となる。
【0051】
また、マグネットによって平面コイル部2のL値が下がるのは、以下の理由による。すなわち、マグネットによって磁性シート3の透磁率が低下して、それに応じて平面コイル部2のL値も低下する。また、平面コイル部2が発生させる磁束の多くが、マグネットを避けるように伸び、マグネットを突き抜けようとする磁束は消滅してしまうこともあるので、さらに磁束が弱まってしまうからである。
【0052】
したがって、例えば送信側非接触充電モジュールにマグネットを備え、受信側非接触充電モジュールに備えられた磁性シートとマグネットが引き合うことによって位置合わせを行う場合であっても、送信側非接触充電モジュールにマグネットを備えずにほかの方法で位置合わせを行う場合であっても、どちらの場合であっても、Mn−Zn系のフェライトシートであって、透磁率が250以上、飽和磁束密度が350mT以上、磁性シートの厚みである平坦部(コイル21が載置される面)の厚みが400μm以上の磁性シートであれば、送信側非接触充電モジュール及び受信側非接触充電モジュール間の位置合わせ及び効率的な電力伝送が可能となる。また、受信側非接触充電モジュールにマグネットを備え、送信側非接触充電モジュールに備えられた磁性シートとマグネットが引き合うことによって位置合わせを行う場合であっても、受信側非接触充電モジュールにマグネットを備えずにほかの方法で位置合わせを行う場合であっても、どちらの場合であっても、同様に位置合わせ及び効率的な電力伝送が可能となる。なお、二次側非接触充電モジュールにはマグネットを配置しないことのほうが、一般的である。
【0053】
以上の結果から、他方の非接触充電モジュールと電磁誘導によって電力伝送を行う非接触充電モジュールであって、他方の非接触充電モジュールとの位置合わせに際し、他方の非接触充電モジュールに備えられたマグネットを利用して位置合わせを行う場合と、及びマグネットを利用しないで位置合わせを行う場合とにおいて、他方の非接触充電モジュールと位置合わせ可能な非接触充電モジュールにおいて、導線が巻回された平面コイル部2と、平面コイル部2のコイルの面に対向するように設けられた磁性シート3と、を備え、磁性シート3は、Mn−Zn系のフェライトシートであって、透磁率が250以上、飽和磁束密度が350mT以上、厚みが400μm以上であることを特徴とする非接触充電モジュールとすることで、位置合わせのマグネットの有無によらず、磁性シート3の薄型化、効率的な電力伝送(特に低周波数において)を実現することが分かる。さらに、好ましくは、透磁率が400以上、飽和磁束密度が1800mT以上であると良い。すなわち、位置合わせのためのマグネットによる悪影響を受けにくく、薄型化が可能な磁性シートを備えることで、位置合わせのためのマグネットを用いても、マグネットからの悪影響を防止し、電力伝送効率を向上させる非接触充電モジュール及び非接触充電機器を提供することができる。また、電力伝送効率を向上させた状態でモジュール全体の薄型を達成した非接触充電モジュールを提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の非接触充電モジュールによれば、平面コイル部の断面積を十分に確保して電力伝送効率を向上させた状態で、非接触充電モジュールを小型化及び薄型化することができるため、特にポータブルである電子機器に有用であり、携帯電話、ポータブルオーディオ、携帯用のコンピュータなどの携帯端末、デジタルカメラ、ビデオカメラなどの携帯機器などの様々な電子機器の非接触充電モジュールとして有用である。
【符号の説明】
【0055】
1 非接触充電モジュール
2 平面コイル部
21 コイル
22、23 端子
3 磁性シート
31 平坦部
32 中心部
33 直線凹部
34 スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
他方の非接触充電モジュールと電磁誘導によって電力伝送を行う非接触充電モジュールであって、
前記他方の非接触充電モジュールとの位置合わせに際し、前記他方の非接触充電モジュールに備えられたマグネットを利用して位置合わせを行う場合と、及びマグネットを利用しないで位置合わせを行う場合とのどちらの場合においても前記他方の非接触充電モジュールと位置合わせ可能な非接触充電モジュールにおいて、
導線が巻回された平面コイル部と、
前記平面コイル部のコイルの面に対向するように設けられ、前記マグネットを位置合わせに使う際は前記マグネットと引き合うことのできる磁性シートと、を備え、
前記磁性シートは、Mn−Zn系のフェライトシートであって、透磁率が250以上、飽和磁束密度が350mT以上、厚みが400μm以上であることを特徴とする非接触充電モジュール。
【請求項2】
前記平面コイル部は、略円形状に巻回され、
前記磁性シートは、透磁率が1800以上、飽和磁束密度が400mT以上、厚みが600μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の非接触充電モジュール。
【請求項3】
前記平面コイル部は、略矩形状に巻回され、
前記磁性シートは、透磁率が1800以上、飽和磁束密度が400mT以上、厚みが400μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の非接触充電モジュール。
【請求項4】
前記磁性シートは、磁性部材の小片がシート上に敷き詰められることで柔軟性を備えたことを特徴とする請求項1に記載の非接触充電モジュール。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかひとつに記載の非接触充電モジュールを送信側非接触充電モジュールとして備えたことを特徴とする送信側非接触充電機器。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかひとつに記載の非接触充電モジュールを受信側非接触充電モジュールとして備えたことを特徴とする受信側非接触充電機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−199505(P2012−199505A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135946(P2011−135946)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【特許番号】特許第4900525号(P4900525)
【特許公報発行日】平成24年3月21日(2012.3.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】