説明

非接触温度センサ

【課題】簡単な構造で良好な温度補償性能を実現することができ、各感温素子の出力を取り出す引き出し線等の取り扱いが容易な非接触温度センサを提供する。
【解決手段】赤外線検知用感温素子12および温度補償用感温素子14が実装されたフレキシブルプリント配線板16と、フレキシブルプリント配線板16の導体パターン32と樹脂フィルム30を挟んで反対側の表面部分に貼り付けられた補強板17を備える。導光口54が形成された天板52と蓋側壁部56とを有する蓋部分50と、底板42とケース側壁部46とを有し蓋側壁部56の内側面に嵌合するケース部分40をと備える。組み付け状態で、フレキシブルプリント配線板16の周縁部分及びリード線20が、蓋部分50とケース部分40との間に挟持される。補強板17がケース側壁部46の内側面に当接し、フレキシブルプリント配線板16の位置決めをし、赤外線検知用感温素子12が導光口54側に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、赤外線を検知して温度を測定する非接触温度センサに関し、特に、赤外線検知用感温素子と温度補償用感温素子を備えた非接触温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
被測定物の温度を接触式で測定する温度センサは、一般に接触部分が摩耗する点や、被測定物に接触する感熱素子自体の熱容量が測定誤差の要因となる点、及び被測定物が回転動作などしている場合に温度センサを取付けることが困難である等の問題があり、非接触式の温度センサの需要が高まっている。
【0003】
非接触温度センサとして、照射された赤外線を吸収してエネルギーに変換し、その赤外線吸収体の温度上昇を、感温素子を用いて検知し、電気信号に変換する方式があり、近年では、赤外線検知用感温素子と温度補償用感温素子を組み合わせ、温度測定の精度を向上させた非接触温度センサが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1に開示されている非接触温度センサは、筐体と筐体内部に組み込まれる枠体とを備え、感温素子である2つのサーミスタ素子が2枚の樹脂フィルムの中央部分に各々密着固定され、その樹脂フィルムは枠体に形成された二つの開口を塞ぐように各々貼り渡されている。そして、その枠体が筐体内部に組み込まれると、一方のサーミスタ素子である赤外線検知用感温素子が赤外線が入射する窓側の位置に配置され、他方のサーミスタ素子である温度補償用感温素子は筐体によって赤外線が遮蔽される位置に配置された構造を備えた赤外線検出器である。さらに、各感温素子が有する一対の端子にはリード線の一端が接続され、そのリード線の他端は、筐体の底板中央部に形成された小さな貫通穴に挿通され、各感温素子の出力を筐体の外部に取り出される構造が開示されている。
【特許文献1】特開平7−260579号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の赤外線検出器は、リード線が延出した各感温素子が樹脂フィルムに密着するように固定される旨の記載がなされているが、その具体的な方法については言及されていない。
【0006】
また、特許文献1の赤外線検出器を装置に取り付け、リード線の配線処理をする等の作業において、各感温素子の出力を筐体の外部に引き出されたリード線に引っ張り力が加わる場合がある。そのとき、この赤外線検出器の構造にあっては、各感温素子や樹脂フィルム等の部分が容易に破損するおそれがあるため、取り扱いに注意が必要であった。
【0007】
この発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたものであり、簡単な構造で良好な温度補償性能を実現することができ、各感温素子の出力を取り出す引き出し線等の取り扱いが容易な非接触温度センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、赤外線を導く導光口を有する筐体と、面実装型の赤外線検知用感温素子および温度補償用感温素子とを備えた非接触温度センサにおいて、樹脂フィルムの一方の表面に導体パターンが形成され、前記導体パターン上に前記赤外線検知用感温素子および前記温度補償用感温素子が実装されたフレキシブルプリント配線板と、前記各感温素子の出力を筐体外部に取り出す引き出し線と、前記フレキシブルプリント配線板の前記導体パターンと前記樹脂フィルムを挟んで反対側の表面部分に貼り付けられた補強板とを備え、前記筐体は、前記導光口が形成された天板と、前記天板の周縁に立設された蓋側壁部とを有する蓋部分と、底板と前記底板に立設されたケース側壁部とを有し、前記ケース側壁部の外側面が前記蓋側壁部の内側面に嵌合するケース部分とを備え、上記各部材が組み付けられた状態で、前記フレキシブルプリント配線板の周縁部分及び前記引き出し線の少なくとも一方が、前記蓋部分と前記ケース部分との間に挟持され、前記赤外線検知用感温素子は前記導光口側に配置され、前記温度補償用感温素子は前記天板で遮光される位置に配置され、前記補強板はその周縁の一部が前記ケース側壁部の内側面に当接して前記フレキシブルプリント配線板の位置決めをする非接触温度センサである。
【0009】
また、前記補強板は、前記フレキシブルプリント配線板の前記導体パターンと前記樹脂フィルムを挟んで反対側の表面の互いに対向する端部に一対に貼り付けられた第一の補強板および第二の補強板から成り、上記各部材が組み付けられた状態で、前記第一の補強板は前記引き出し線側の前記樹脂フィルム端部に固定され前記第一の補強板の一部が前記ケース側壁部の内側面に当接し、前記第二の補強板は、前記引き出し線側とは反対側の前記樹脂フィルム端部に固定され、前記第一、第二の各補強板を前記天板側にして前記第一、第二の各補強板が前記筐体内に収納される非接触温度センサである。
【0010】
前記赤外線検知用感温素子および前記温度補償用感温素子は、絶縁性のチップ状基板の表面に形成され、一対の端子電極間に塗布され焼成された厚膜型のサーミスタ抵抗体と、前記サーミスタ抵抗体の表面を被覆する保護膜とを備え、前記サーミスタ抵抗体は、遷移金属の酸化物の半導体セラミックスであって、スピネル構造の結晶粒による多結晶体のサーミスタ酸化物と、導体成分およびバインダガラスを主成分とし、これに希土類元素のPrの酸化物を無機成分量に対して5〜15質量%含有したものである。
【0011】
前記引き出し線は、一端が前記導体パターン中の所定のランドに接続されたリード線であり、前記リード線は、前記蓋側壁部の先端から前記天板方向に設けられた蓋側溝部と、前記ケース側壁部の先端から前記底板方向に設けられたケース側溝部とで形成される貫通孔によって位置決めされたものである。
【0012】
また、前記赤外線検知用感温素子の前記保護膜の表面は黒色系の材料であると良い。さらに、前記フレキシブルプリント配線板の周縁部分には、導体によるダミーパターンが設けられていると良いものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明の非接触温度センサによれば、赤外線検知用感温素子により簡単な構成で、正確に非接触で温度検知を行うことができる。特に、フレキシブルプリント配線板の周縁部分及び前記引き出し線の少なくとも一方が、蓋部分とケース部分との間に挟持された構造であるので、赤外線検知用感温素子と温度補償用感温素子に対して、筐体からの熱の影響を等しくすることができ、温度補償を正確に行うことができる。さらに、フレキシブルプリント配線板に補強板を固定して位置決めを行っているので、筐体へのフレキシブルプリント配線板の取り付けが正確且つ容易となり、引き出し線の取付強度等も高いものである。
【0014】
また、請求項2記載の発明のように、補強板を一対に設けることにより、筐体からフレキシブルプリント配線板への熱伝導を抑え、かつ赤外線検知用感温素子が設けられた部分のフレキシブルプリント配線板の熱が筐体側へ逃げることも抑えられ、温度検知をより正確なものとすることが出来る。
【0015】
また、請求項3記載の発明の厚膜型のサーミスタ抵抗体を用いることにより、小型で熱容量が小さく、応答性の良い温度検知が可能となる。
【0016】
さらに、請求項4記載の発明によれば、リード線である引き出し線が、蓋側溝部とケース側溝部とで形成される貫通孔によって挟持されて位置決めされ、組み立て作業が容易であり、フレキシブルプリント配線板を筐体の一部で保持する箇所を減らし、筐体からの熱の影響を抑えることができる。
【0017】
さらに、請求項5記載の発明によれば、赤外線検知用感温素子の前記保護膜の表面は黒色系の材料であり、赤外線の吸収が良く、検知精度及び検知応答性の良いセンサを形成することが出来る。
【0018】
また、請求項6記載の発明によれば、フレキシブルプリント配線板の周縁部分には、導体によるダミーパターンが設けられ、フレキシブルプリント配線板の撓みに対する強度が向上し、筐体からフレキシブルプリント配線板への熱の伝導が全体に均一化し、温度補償をより正確なものとすることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の第一の実施形態の非接触温度センサ10について、図1〜図5に基づいて説明する。この非接触温度センサ10は、図1に示すように、赤外線検知用感温素子12と温度補償用感温素子14とが取り付けられるフレキシブルプリント配線板16と、フレキシブルプリント配線板16に貼り付けられる補強板17と、フレキシブルプリント配線板16が内部に収納される筐体18と、各感温素子12,14の出力を筐体18の外部に取り出すためのリード線20を備えている。
【0020】
赤外線検知用感温素子12は、図2に示すように、アルミナ等の絶縁性を有する基板22と、基板22の表面に設けられた一対の端子電極24と、一対の端子電極24の間に印刷されたサーミスタ抵抗体26およびガラス保護膜27とを備えている。
【0021】
端子電極24は、例えばAg−Pd系の導電ペーストが所定の間隔を空けて印刷されたものであり、面実装可能な一対の端子である。なお、図2には示していないが、端子電極24は、端子電極24が対向する方向に連続する側端面にも電極材料を塗布し、上面から側端面にかけて一体に形成されたものであってもよい。
【0022】
一対の端子電極24の間には、厚膜のサーミスタ抵抗体26が形成さている。サーミスタ抵抗体26は、厚みが10μm〜50μm程度に印刷されたもので、例えばMn,Co,Niなどの遷移金属の酸化物の半導体セラミックスであって、スピネル構造の結晶粒による多結晶体からなるサーミスタ酸化物と、RuO等の導体成分およびガラスフリットのパインダガラスを主成分とし、これに希土類元素のPrの酸化物を全無機成分量に対して5〜15質量%含有したものある。さらに、サーミスタ抵抗体26の表面には、ガラス保護膜28が印刷され、サーミスタ抵抗体26全体を覆っている。ガラス保護膜28は、赤外線の集光効率を高めるため、例えば鉛ホウ珪酸やビスマスホウ珪酸系の黒体色ガラスセラミックスであることが好ましい。これによって、センサ出力や温度検知応答性を約15〜20%向上させることができる。
【0023】
上記構成の赤外線検知用感温素子12は、本願発明者による特開2006−332192号公報に開示されているように、優れた耐サージ性能を備え、例えば静電気等によるサージ電流にもサーミスタ特性が変化せず、安定性、耐久性に優れた厚膜サーミスタ素子である。また、温度補償用感温素子14は、この赤外線検知用感温素子12と同一のものが用いられる。
【0024】
フレキシブルプリント配線板16は、図3(a)(b)に示すように、外形が略長方形で、厚みが10μm〜50μm程度の樹脂フィルム30から成る。ここでは、例えばポリイミドフィルム等のような高耐熱素材が好ましく、後述するはんだ付け工程の加熱に耐え、安定な特性を維持し得る素材が選択されている。
【0025】
樹脂フィルム30の一方の表面には、厚みが10μm〜50μm程度の銅箔による導体パターン32が形成されている。導体パターン32には、面実装型の赤外線検知用感温素子12、温度補償用感温素子14が各々実装される各一対のランド32a,32bと、被覆電線であるリード線20の心線10aが接続される三つのランド32cが設けられている。ランド32aはフレキシブルプリント配線板16のほぼ中央に配置され、ランド32bはランド32cとは長手方向の反対側端部に偏って配置され、各感温素子12,14が直列回路を構成するように導体パターン32によって接続されている。また、ランド32cは、フレキシブルプリント配線板16の一方の短辺である端縁16aの近傍に密集して設けられ、導体パターン32によって、各感温素子12,14の直列回路の中点とその直列回路の両方の開放端の電位が各々接続されている。
【0026】
また、フレキシブルプリント配線板16の端縁16aを除く周縁には、撓み抑制用等の銅箔によるダミーパターン34がコの字型に形成されている。このダミーパターン34は、薄くて撓みやすいフレキシブルプリント配線板16を補強し、組み立て等する際の取り扱いを容易にする働きをする。
【0027】
フレキシブルプリント配線板16は、一層耐熱性を向上させるため、ポリアミド樹脂、イミド樹脂あるいはシリコン樹脂を表面にコーティングしてもよい。また、赤外線の透過率(反射率)を調整し、または全赤外線波長を吸収するようにするため、光学系塗料を表面にコーティングしてもよい。
【0028】
補強板17は、例えば厚さ1mm程度の平板であり、ガラスエポキシ基板等のように比較的硬質の絶縁体基材が好ましい。外形は略長方形で、長辺の長さはフレキシブルプリント配線板16の端縁16aの長さにほぼ等しく、短辺の長さは密集して設けられた三つのランド32cを含む領域が覆われる程度の長さを有している。
【0029】
次に、フレキシブルプリント配線板16に各感温素子12,14、リード線20、補強板17が一体に取り付けられたセンサ構造体36の全体構造について説明する。赤外線検知用感温素子12、温度補償用感温素子14は、各端子電極24がランド32a,32b上にはんだ付けされることによって取り付けられる。具体的には、一定量のはんだペーストをランド32a,32b上にスクリーン印刷し、はんだペースト上に各感温素子12,14を自動マウントし、リフロー炉で加熱してはんだペーストを溶融させ、そして冷却することによって溶融はんだが固化する。このとき、リフロー炉の加熱ではんだペーストが溶融すると、各感温素子12,14は自重によって一様に樹脂層30側に近づけられ、各感温素子12,14は樹脂層30に密着する。そして、その状態のままで溶融はんだが固化する。
【0030】
三本のリード線20は、互いに平行に、かつ被覆部分20bがフレキシブルプリント配線板16の端縁16aに対してほぼ直角の角度で外側に向けて配置され、リード線20の端部の被覆が除去されて露出した心線20aが、フレキシブルプリント配線板16のランド32cにはんだ付けされている。
【0031】
補強板17は、フレキシブルプリント配線板16の樹脂フィルム30を挟んでランド32cと反対側の面に、一方の長辺である補強板端縁17aをフレキシブルプリント配線板16の端縁16aに揃えて配置させ、接着剤等で固着されている。従って、補強板17によって、フレキシブルプリント配線板16の端縁16a付近に位置した三つのランド32cが形成された部分が補強される。
【0032】
次に、筐体18の構造について説明する。筐体18は、熱伝導性に優れたアルミニウム等の金属、PPS(ポリフェニレンスルファイド)樹脂、あるいは熱可塑性樹脂に金属または金属酸化物の粒子が混合された複合樹脂を用いた成形されたもので、ケース部分40と蓋部分50を組み合わせて構成される。ケース部分40は、図4に示すように、略長方形の底板42を備え、底板42の一対の長辺に沿って立設した二つのケース側壁部44と、一方の短辺に沿って立設したケース側壁部46とが設けられ、他の一方の短辺側は開放されている。また、ケース側壁部44のケース側壁部46側の端は、ケース側壁部46から所定の距離を空けて開放されている。
【0033】
底板42は、長手方向の長さが、フレキシブルプリント配線板16の長手方向の長さにケース側壁部44の厚み分を加算した程度の寸法であり、短手方向の長さは、フレキシブルプリント配線板16の短手方向の長さにほぼ等しい寸法を有している。
【0034】
一対のケース側壁部44は、上端に底板42とほぼ平行な水平端面44aが形成され、外側面には後述する蓋部分50の凹部56aと嵌合して蓋部分50を固定する凸部44bが設けられている。ケース側壁部44のケース側壁部46側の端からケース側壁部46の内側面までの開放部分は、補強板17の短辺の長さよりもやや長めに設定されている。
【0035】
ケース側壁部46は、上端に底板42と平行な水平端面46aが形成され、その高さは、ケース側壁部44の水平端面44aよりもフレキシブルプリント配線板16の厚み分ほど高めである。また、ケース側溝部46bには、フレキシブルプリント配線板16に取り付けられた三本のリード線20を筐体18の外部に取り出すためのケース側溝部46bが設けられている。ケース側溝部46bは、水平端面46aから根元に向けてほぼ垂直の角度に入れられたスリットで、図3(b)に示す三本のリード線20の間隔とほぼ等しい間隔で三つ設けられている。各ケース側溝部46bの幅はリード線20の被覆部分20bとほぼ等しく、深さはケース側壁部46の高さ寸法の約3分の2程度である。
【0036】
蓋部分50は、図5に示すように、赤外線を遮光する天板52を備え、天板52の中央には、上方に円筒状に突出して開口された赤外線の導光口54が設けられ、また、天板52の周縁には、蓋側壁部56が導光口54の突出方向と反対の方向に立設され、蓋側壁部56の先端に天板52とほぼ平行な水平端面56aが形成されている。蓋部分50は、ケース部分40に水平端面44a側から被せられると、ケース部分40全体がちょうど蓋部分50の内側に収まる寸法に設定されており、天板52と蓋側壁部56の内側の空間の寸法は、ケース部分40の外形寸法とほぼ等しい。
【0037】
蓋側壁部56の、天板52の短手方向に対向する一対の外側面には、上記ケース部分40の凸部44bと嵌合し蓋部分50を固定する凹部56bが設けられている。また、天板52の一方の短辺側の蓋側壁部56には、フレキシブルプリント配線板16に取り付けられた三本のリード線20を筐体18の外部に取り出すための蓋側溝部56cが設けられている。蓋側溝部56cは、水平端面56aから根元に向けてほぼ垂直の角度に入れられたスリットで、ケース側溝部46に対応する位置に、図3(b)に示す三本のリード線20の間隔とほぼ等しい間隔で三つ設けられている。各ケース側溝部46bの幅はリード線20の被覆部分20bとほぼ等しく、深さは蓋側壁部56の高さ寸法より若干短い程度である。蓋側溝部56cとケース側溝部46の働きについては後で詳しく述べる。
【0038】
次に、センサ構造体36が筐体18に収納される組み立て構造について説明する。センサ構造体36は、フレキシブルプリント配線板16に取り付けられた各感温素子12,14を下方に向け、リード線20の被覆部分20aをケース側壁部46の側に向けた状態とし、ケース部分40の上方から取り付ける。まず、三本のリード線20を、各ケース側溝部46bに差し込み、補強板端縁17aがケース側壁部46の内側面に当接するよう左右方向の位置を調整する。すると、フレキシブルプリント配線板16の撓み抑制用等のダミーパターン34がある周縁部分が、水平端面44a上に誘導される。このとき、ダミーパターン34の働きでフレキシブルプリント配線板16の樹脂フィルム30が撓みにくく、組み付けやすい。
【0039】
次に、蓋部分50は、蓋側壁部56を下方に向け、蓋側溝部56cをケース側溝部46bがある側に向けた状態とし、上方からケース部分40に被せる。そして、そのまま押し込むことにより、ケース部分40の凸部46bと蓋部分50の凹部56bとが嵌合し、蓋部分50が固定される。
【0040】
蓋部分50がケース部分40に固定されたときの内部の状態は、図1に示すように、フレキシブルプリント配線板16の周縁部分が、ケース部分40の水平端面44aと蓋部分50の天板52で挟持される。また、各ケース側溝部46bに差し込まれた三本のリード線20は、対向する蓋側溝部56cにより挟持される。このとき、ケース側溝部46bと蓋側溝部56cは、互いの溝の頂点部分が対向し、リード線20の被覆部分20bの外径とほぼ等しい内径の貫通孔を形成するよう調節され、さらにそれを小さくできるように形成されており、その貫通孔によってリード線20が保持される。補強板17は、補強板端縁17aがケース側壁部46の内側面に当接するよう左右方向の位置決めがなされ、上下方向の位置は、前記貫通孔に保持されたリード線20の位置によって定められる。また、赤外線検知用感熱素子12は蓋部分50の導光口54の下方に、温度補償用感温素子14は赤外線が遮光される天板52の下方の位置に各々配置される
次に、非接触温度センサ10の動作を説明する。非接触温度センサ10は、外部の装置に設けられた所定の電子回路に接続され、各感温素子12,14の抵抗値の変化を電気信号に変換することによって温度を検知することができる。具体的には、赤外線検知用感熱素子12および温度補償用感温素子14と、外部に設けた複数の抵抗とでブリッジ回路を構成し、各感温素子12,14の抵抗値の変化を電気信号に変換して出力する方法が一般的で、例えば、特許文献1に開示されているブリッジ回路の構成等が該当する。
【0041】
赤外線が照射されていないときには、赤外線検知用感熱素子12と温度補償用感温素子14は、筐体18内部の雰囲気温度に応じた等しい抵抗値を示し、ブリッジ回路によって、赤外線の照射による温度上昇がない旨が検出される。なお、雰囲気温度が変化しても、温度補償用感温素子14の作用によって、雰囲気温度の変化分は電圧信号に現れない。
【0042】
一方、蓋部分50の上方に位置した被測定物から赤外線が照射されると、導光口54から入射した赤外線が、樹脂フィルム30を通過するとともに、一部は樹脂フィルム30の内部で乱反射して吸収され、赤外線を吸収した樹脂フィルム30の温度が導光口54の下方で局所的に上昇する。そして、樹脂フィルム30を通過した赤外線は、赤外線検知用感熱素子12に照射されて熱エネルギーに変換されサーミスタ抵抗体26の温度を上昇させる。また、樹脂フィルム30の温度上昇により、熱伝導によってもサーミスタ抵抗体26に熱エネルギーが伝わり、これらによりサーミスタ抵抗体26の温度が上昇し抵抗値が変化する。一方、天板50によって赤外線が遮光されている樹脂層30の部分は、赤外線の直接の照射によるエネルギーの供給はない。また、筐体18に供給された赤外線エネルギーによる筐体18自体の温度上昇は、赤外線検知用感熱素子12と温度補償用感温素子14の両方に等しく伝わり、赤外線検知用感熱素子12と温度補償用感温素子14のサーミスタ抵抗体26に等しく影響する。従って、赤外線検知用感熱素子12と温度補償用感温素子14の抵抗値の偏差がブリッジ回路によって電圧信号に変換され、赤外線の照射量に応じた温度上昇が検出される。
【0043】
この実施形態の非接触温度センサ10によれば、フレキシブルプリント配線板16の周縁部分が、蓋部分50とケース部分40との間に挟持された構造であるので、フレキシブルプリント配線板16の保持が確実に成されるとともに、赤外線検知用感温素子12と温度補償用感温素子14に対して、筐体18からの熱の影響を容易に等しくすることができ、温度補償を正確に行うことができる。さらに、フレキシブルプリント配線板16に補強板17を固定して位置決めを行っているので、筐体18へのフレキシブルプリント配線板16の取り付けが正確且つ容易となり、リード線20の取付強度等も高いものにすることができる。
【0044】
さらに、リード線20が、蓋側溝部56cとケース側溝部46bとで形成される貫通孔によって挟持されて位置決めされ、フレキシブルプリント配線板16を筐体18で保持する箇所を減らし、筐体18から赤外線検知用感温素子12への熱の影響を抑えることができる。さらに、作業者がリード線20を取り扱うときに、リード線20に引っ張り力を加えてしまうことがあるが、補強板端縁17aがケース側壁部46の内側面に係止されて引っ張り力を吸収するので、フレキシブルプリント配線板16の樹脂フィルム30にはストレスが生ぜず破損しにくい。
【0045】
また、厚膜型のサーミスタ抵抗体26を用いることにより、小型で熱容量が小さく、赤外線の輻射熱によっても、応答性の良い温度検知が可能となる。さらに、各感温素子12,14の両端が開放された状態で外部に引き出されているので、配線作業等を行うときに、リード線20を介して各感温素子12,14に静電気が印加され、サージ電流が流れることがある。しかし、各感温素子12,14として耐静電気特性の優れた厚膜サーミスタ素子を用いることによって、静電気に起因する故障が起こりにくい。従って、非接触温度センサ10は、装置に取り付けてリード線の配線処理を行う作業において取り扱いが容易である。
【0046】
さらに、赤外線検知用感温素子12及び温度補償用感温素子14は、フレキシブルプリント配線板16上に熱伝導率の高いはんだを介して固着されているため、樹脂フィルム30と各感温素子12,14とが良好に熱結合するので、温度補償の誤差や温度変化に対する応答速度のずれが小さい。
【0047】
その他、赤外線検知用感温素子12の保護膜28の表面は黒色系の色であり、赤外線の吸収が良く、検知精度及び検知応答性の良い非接触温度センサ10を形成することが出来る。また、フレキシブルプリント配線板16の周縁部分には、導体によるダミーパターン34が設けられ、フレキシブルプリント配線板16の撓みに対する強度が向上し、筐体18からフレキシブルプリント配線板16への熱の伝導が全体に均一化し、温度補償をより正確なものとすることが出来る。
【0048】
次に、この発明の第二の実施形態の非接触温度センサ60について、図6、図7に基づいて説明する。ここで、上述の非接触温度センサ10と同様の構成は、同一の符号を付して説明を省略する。この実施形態の非接触加速度センサ60は、フレキシブルプリント配線板16の所定の部分に第二の補強板62が取り付けられている。その他の構成は、非接触温度センサ10と同様である。
【0049】
第二の補強板62は、補強板17と同様に、例えば厚さ1mm程度の平板で、熱伝導率が低く、比較的硬質の絶縁体基材が好ましく、ここでは、補強板17と同様にガラスエポキシ基板を用いている。外形も略長方形であり、補強板17とほぼ等しい。そして、第二の補強板62は、図7に示すように、フレキシブルプリント配線板16の、補強板17と長手方向に対向する端部に接着剤等で固着されている。
【0050】
センサ構造体64が筐体18が組み付けられと、図6に示すように、フレキシブルプリント配線板16の周縁部分と第二の補強板62は、第二の補強板62を蓋部分50の天板52側にして、天板52と前記ケース側壁部44の水平端面44aとの間に挟持される。なお、非接触センサ60のケース部分40の水平端面44aの高さは、フレキシブルプリント配線板16と第二の補強板62の合計厚み分だけ、水平端面46aの高さよりも低く設定されているので、蓋部分50はケース部分40に対して傾くことなく装着される。
【0051】
非接触センサ60の構造によれば、フレキシブルプリント配線板16の樹脂フィルム30は、蓋部分50と非接触状態となり、赤外線の照射を受けた蓋部分50の温度上昇が、温度補償用感温素子14に伝わりにくくなる。従って、温度補償の動作が一層正確に行われ、温度測定の精度をさらに向上させることができる。
【0052】
なお、本発明は上記実施形態に限定するものではなく、ケース側溝部46bと蓋側溝部56cとで形成され、リード線20の被覆部分20bを保持する貫通孔部分は、リード線20内部の心線20aに達しない範囲で被覆に噛み込ませ、又はかしめる等してリード線20を強固に固定する構造であってもよい。それによって、リード線20に対する引っ張り力に対する強度を向上させることができ、また、筐体18内部のフレキシブルプリント配線板16が所定の位置に確実に固定されるので、各感温素子12,14の位置ずれによる温度測定の誤差やばらつきを小さくすることができる。さらに、フレキシブルプリント配線板16の樹脂フィルム30を挟持しないで、リード線20の挟持によりフレキシブルプリント配線板16を保持する構造でも良い。
【0053】
また、リード線20は、フレキシブルプリント配線板16を延長して筐体18の外部まで取り出し、各感温素子12,14の出力を導体パターンによって引き出す構造であってもよい。この構造であれば、フレキシブルプリント配線板16にリード線20を接続する工程等が不要となり、また、各感温素子12,14を取り付けるはんだ付け工程の中で引き出された部分の終端にコネクタ等を取り付けておけば、特別な工程を追加することなく、非接触センサの引き出し線を装置の電子回路に配線する作業の効率化を図ることができる。
【0054】
また、感温素子12,14の各端電極24をフレキシブルプリント配線板16のランド32a,32bに接続する方法については、はんだ付けのほか、金属フィラーを含み、熱伝導率が比較的高い導電性接着剤等を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】この発明の第一の実施形態の非接触温度センサを示す縦断面図である。
【図2】第一の実施形態の赤外線検知用感温素子の斜視図である。
【図3】第一の実施形態のセンサ構造体を示す側面図(a)と下面図(b)である。
【図4】第一の実施形態のケース部分を示す平面図(a)と側面図(b)である。
【図5】第一の実施形態の蓋部分を示す平面図(a)と側面図(b)である。
【図6】この発明の第二の実施形態の非接触温度センサを示す縦断面図である。
【図7】第二の実施形態のセンサ構造体を示す側面図である。
【符号の説明】
【0056】
10,60 非接触温度センサ
12 赤外線検知用感温素子
14 温度補償用感温素子
16 フレキシブルプリント配線板
17 補強板
17a 補強板端縁
18 筐体
20 リード線
26 サーミスタ抵抗体
28 ガラス保護膜
30 樹脂フィルム
32 導体パターン
34 ダミーパターン
36,64 センサ構造体
40 ケース部分
42 底板
44 ケース側壁部
44a 水平端面
46 ケース側壁部
46b ケース側溝部
50 蓋部分
52 天板
54 導光口
56 蓋側壁部
56a 水平端面
56c 蓋側溝部
62 第二の補強板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を導く導光口を有する筐体と、面実装型の赤外線検知用感温素子および温度補償用感温素子とを備えた非接触温度センサにおいて、
樹脂フィルムの一方の表面に導体パターンが形成され、前記導体パターン上に前記赤外線検知用感温素子および前記温度補償用感温素子が実装されたフレキシブルプリント配線板と、
前記各感温素子の出力を筐体外部に取り出す引き出し線と、
前記フレキシブルプリント配線板の前記導体パターンと前記樹脂フィルムを挟んで反対側の表面部分に貼り付けられた補強板とを備え、
前記筐体は、前記導光口が形成された天板と、前記天板の周縁に立設された蓋側壁部とを有する蓋部分と、底板と前記底板に立設されたケース側壁部とを有し、前記ケース側壁部の外側面が前記蓋側壁部の内側面に嵌合するケース部分とを備え、
上記各部材が組み付けられた状態で、前記フレキシブルプリント配線板の周縁部分及び前記引き出し線の少なくとも一方が、前記蓋部分と前記ケース部分との間に挟持され、前記赤外線検知用感温素子は前記導光口側に配置され、前記温度補償用感温素子は前記天板で遮光される位置に配置され、前記補強板はその周縁の一部が前記ケース側壁部の内側面に当接して前記フレキシブルプリント配線板の位置決めをすることを特徴とする非接触温度センサ。
【請求項2】
前記補強板は、前記フレキシブルプリント配線板の前記導体パターンと前記樹脂フィルムを挟んで反対側の表面の互いに対向する端部に一対に貼り付けられた第一の補強板および第二の補強板から成り、
上記各部材が組み付けられた状態で、前記第一の補強板は前記引き出し線側の前記樹脂フィルム端部に固定され前記第一の補強板の一部が前記ケース側壁部の内側面に当接し、前記第二の補強板は、前記引き出し線側とは反対側の前記樹脂フィルム端部に固定され、前記第一、第二の各補強板を前記天板側にして前記第一、第二の各補強板が前記筐体内に収納されることを特徴とする請求項1記載の非接触温度センサ。
【請求項3】
前記赤外線検知用感温素子および前記温度補償用感温素子は、絶縁性のチップ状基板の表面に形成され、一対の端子電極間に塗布され焼成された厚膜型のサーミスタ抵抗体と、前記サーミスタ抵抗体の表面を被覆する保護膜とを備え、前記サーミスタ抵抗体は、遷移金属の酸化物の半導体セラミックスであって、スピネル構造の結晶粒による多結晶体のサーミスタ酸化物と、導体成分およびバインダガラスを主成分とし、これに希土類元素のPrの酸化物を無機成分量に対して5〜15質量%含有したことを特徴とする請求項1または2記載の非接触温度センサ。
【請求項4】
前記引き出し線は、一端が前記導体パターン中の所定のランドに接続されたリード線であり、前記リード線は、前記蓋側壁部の先端から前記天板方向に設けられた蓋側溝部と、前記ケース側壁部の先端から前記底板方向に設けられたケース側溝部とで形成される貫通孔によって位置決めされたことを特徴とする請求項1または2記載の非接触温度センサ。
【請求項5】
前記赤外線検知用感温素子の前記保護膜の表面は黒色系の材料であることを特徴とする請求項1,2または3記載の非接触温度センサ。
【請求項6】
前記フレキシブルプリント配線板の周縁部分には、導体によるダミーパターンが設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の非接触温度センサ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−43930(P2010−43930A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207861(P2008−207861)
【出願日】平成20年8月12日(2008.8.12)
【出願人】(591020445)立山科学工業株式会社 (71)
【Fターム(参考)】