説明

非接触ICカードリーダライタ装置、その受信制御装置

【課題】ヌル状態による通信エラーの発生頻度を低減する。
【解決手段】アンテナ部30による受信信号をインピーダンスが異なる2点(インダクタンス素子L21の両端)から入力して、2系統の復調回路(復調処理部41,42、2値化部43,44)によって復調信号Q1,Q2を生成する。そして、復号制御部45において、これら2系統の復調信号Q1,Q2の何れか一方(正常な方)を選択して受信データ(NRZ符号)を生成・出力する。この選択判定には、受信開始位置や復号誤りの検出結果を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触ICカードリーダライタ装置に係り、特にその受信制御に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触ICカードシステムは、非接触ICカードリーダライタ装置(以下、単にリーダライタという場合もある)および非接触ICカードで構成され、リーダライタから放射される電磁波により非接触ICカードは電源を生成し、生成された電源により内蔵するICを起動する。リーダライタから非接触ICカードへのデータ通信は、放射する電磁波の振幅に変調をかけることにより実現する。また非接触ICカードからリーダライタへの通信は、リーダライタが放射する電磁波に対して非接触ICカード内の負荷を切替え、これをリーダライタが検出することにより行われる(負荷変調方式)。
【0003】
リーダライタと非接触ICカードとは、上記のようにして近距離無線通信を行う。
また、リーダライタは、通常、不図示の上位装置(ホスト)との通信機能(有線)も有し、上位装置からの指示に応じて、非接触ICカードとの近距離無線通信を行う。
【0004】
図7に、上記非接触ICカードシステムに関する従来のリーダライタ装置とICカードの構成例を示す。
図7に示される非接触ICカードリーダライタ装置であるリーダライタ装置100は、RF送信制御部120と、アンテナ回路130と、RF受信制御部140と、送信データおよび受信データの遣り取りを制御する制御部110で構成される。
【0005】
RF送信制御部120は、制御部110から送信データを受け取り、送信データをRF変調してアンテナ回路130に印加する。これより、アンテナ回路130からICカード200に電磁波を送信するものである。RF送信制御部120は、RF搬送波を発生させるキャリア発振器122と、このRF搬送波を送信データに基づいて振幅変調する変調部121と、この変調波を増幅する増幅部123とで構成される。
【0006】
RF受信制御部140は、ICカード200から負荷変調された信号を受信して、この受信信号S1から受信データを生成して制御部110に渡すものであり、受信信号S1を復調(検波・増幅)する復調処理部141と、復調処理部141が生成・出力した復調信号を2値化する2値化部142と、2値化された復調信号Qを復号制御する復号制御部143とで構成される。
【0007】
アンテナ回路130は、共振回路を形成するL(アンテナコイル),C(コンデンサ)からなる回路部品を備える。すなわち、図示のアンテナコイルL11、コンデンサC11,C12等から成る。
【0008】
また、非接触ICカードであるICカード200は、共振回路を形成するL(アンテナコイル),C(コンデンサ)からなる回路部品、および負荷変調を行うためのR及びスイッチ素子などの回路部品を備え、これらの回路部品をIC(半導体集積回路)で構成している。すなわち、図示の符号L21、C21、R21、R22、負荷変調SW等の回路部品から成る。また、特に図示しないが、制御部(メモリ含む)等も有する。
【0009】
上記リーダライタ装置100、ICカード200の構成は、よく知られている一般的な構成であり、これ以上詳細には説明しない。
図8に、リーダライタ装置100とICカード200との通信距離(横軸)と通信成功
率(縦軸)との関係を示す。
【0010】
図示の通り、基本的には、ICカード200に電力が供給できている領域、すなわち図示の距離0〜距離d2までの領域では、通信成功率はほぼ100%を維持しており、ICカード200の電源電圧が規定値以下となる距離d2を越えると通信成功率が下がっていく。そして、図示の距離d3では通信成功率が‘0’となる(通信不能となる)。
【0011】
しかしながら、ICカード200とリーダライタ装置100との通信において、ICカード200に電力が供給できている領域(通信距離0〜d2のエリア)であるにもかかわらず、あるポイント(いわゆる、ヌルポイント)で通信ができない状態が発生することがある(通信距離d1の位置)。ICカード200とリーダライタ装置100は、それぞれがアンテナ回路を備え、搬送周波数に合わせて同調を取っており、伝送特性が最適になるように調整されている。しかし、アンテナ同士の距離が近づいたり、アンテナと金属体が結合すると、リーダライタ100の送信回路のインピーダンスが変化し、ICカード200からの負荷変調信号がアンテナコイルの電圧振幅変化として現れない状態(いわゆる、ヌル状態)となり、通信が行えなくなるという問題があることが従来から知られている。
【0012】
図9〜図11は、ICカード200による負荷変調信号をリーダライタ装置100のアンテナ回路130で受信した時の電流(もしくは電圧)波形を示す図である。また、図12は、負荷変調ON時とOFF時の差電圧に関する距離特性例を示す図である。
【0013】
図9〜図11には、リーダライタ搬送波、ICカード負荷変調SW、リーダライタ受信波S1、検波・増幅部出力、及び復調信号2値化出力の各信号例を示している。
上述した通り、ICカード200からリーダライタ装置100へのデータ送信は負荷変調方式で行われる。よって、RF送信制御部120は、変調部121による振幅変調は行わずにRF搬送波を送出し、これが図示のリーダライタ搬送波である。これに対して、ICカード側では、上記負荷変調SWをON/OFF制御することでデータ送信する。図示のICカード負荷変調SWが、このON/OFF制御の一例を示すものである。これより、アンテナ回路130で図示のリーダライタ受信波S1が検出されてRF受信制御部140に入力される。
【0014】
図示の検波・増幅部出力、復調信号2値化出力は、このリーダライタ受信波S1に応じた復調処理部141、2値化部142の出力例である。尚、図示の通り、2値化部142は、予め設定される2値化処理閾値を用いて、検波・増幅部出力信号を1/0の2値化する。
【0015】
ここで、リーダライタ装置−ICカード200間の通信距離が図8、図12に示す0〜d1(但し、d1は含まない)の位置では、図10に示すようにリーダライタ受信波S1はICカード200の負荷変調ON時に+側の電圧変化として現れる。よって、リーダライタ装置100のRF受信制御部140で検波・増幅・2値化などの復調処理を行って、更に復号処理を行うと、正常に受信データとして再生可能である。
【0016】
また、リーダライタ装置100−ICカード200間の通信距離が図8、図12に示すd1〜d2(但し、d1は含まない)の位置では、図9に示すようにリーダライタ受信波S1はICカード200の負荷変調ON時に−側の電圧変化として現れる。これは、図10のケースとは逆の電圧変化であるが(極性が反転しているが)正常に受信データとして再生可能である。
【0017】
これに対して、リーダライタ装置100−ICカード200間の通信距離が図8、図12に示すd1の位置では、図11に示すように、ICカードの負荷変調ON/OFF時に、リーダ
ライタ受信波S1において上記のような電圧変化が殆ど見られず、この為、検波・増幅部出力(復調信号)が例えば図示のように+方向または−方向の三角波のようになったり、振幅がほとんど無い状態となる。
【0018】
尚、上記図11に示すようなリーダライタ受信波S1の場合、図12に示すように、その差電圧ΔV(=Va−Vb)すなわちICカードの負荷変調OFF時の電圧Vaと負荷変調ON時の電圧Vbとの電圧差は、殆ど‘0’となる。
【0019】
この為、この様な状態の復調信号を2値化部142においてコンパレータ等で2値化すると、Duty歪みが大きくなったり(図11の復調信号2値化出力例1、2)、ノイズパルスが重畳されて(図11の復調信号2値化出力例3)、後段の復号処理が正常に行えなくなり、結果として間欠的に通信エラーが発生したり受信不能状態となっていた。
【0020】
この様な問題(ヌル問題)に対して、従来のリーダライタ装置は、送信制御部のインピーダンス切換え機能やアンテナ部の共振周波数切換え機能を備え、かつリーダライタ装置の上位装置(ソフトウェア制御)でICカードからの応答タイムアウト監視機能を備え、タイムアウト検出時に、上記の切換え制御を行うことでヌル発生位置を変えて通信できるようにしていた。しかしこのような従来方式では、ソフトウェア変更を要し、ソフトウェア処理が煩雑になるという問題があった。
【0021】
この問題を改善するために、インピーダンスの異なる複数点の信号を復調するための受信回路を備え、ハードウェア制御で復調信号を合成する(特許文献1参照)、または選択する(特許文献2参照)方式がそれぞれ提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開2007−012076号公報
【特許文献2】特開2008−167259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
上記特許文献1に開示された技術は、復調信号を論理和演算して合成する方式で、復調信号は受信回路特性により極性反転する場合もあるので、論理和演算による合成では受信できない領域が発生し問題を解決できない、という課題がある。例えば、両方とも正常であっても一方が極性反転せず(図10)他方が極性反転(図9)した場合、両者を合成すると正常な信号にはならない。
【0024】
また上記特許文献2に開示された技術は、通信フレーム内の固有コードを検出することで復調信号を選択する方式で、一方の復調信号が完全に通信不可能な状態であれば選択制御が可能だが、復調信号のDuty歪みやノイズで間欠的にビットエラーが発生するような場合は、選択判定以降のデータ部で通信エラーが発生する可能性があり、問題を解決できない、という課題がある。
【0025】
すなわち、ビットエラーが発生していても、それがデータ部以前(プリアンブルや同期符号領域(SYNC))では生じておらず、データ部(ペイロード領域等)で生じていた場合には、プリアンブル等を用いて判定を行っても異常が検出されないので、この復調信号が選択される可能性があり、通信エラーが発生する可能性がある。
【0026】
例えば、両方とも完全に通信不可能な状態とはなっていないが、例えば一方において(あるいは両方とも)復調信号が不安定な状態となっている場合も有り得る。そして、通信
フレーム内において上記選択判定に用いる領域(Preamble等)では、不安定ながらもビットエラー発生とはならない状態であるが、受信データとなる領域(Payload等のデータ部)においてビットエラー発生する状態である、等という場合も有り得る。よって、選択判定においては特に問題ないものとして選択されたが、結果的に、Payload等のデータ部に関する復号データが異常となり、通信エラーが発生する場合が有り得る。
【0027】
本発明の課題は、リーダライタ装置−ICカード間の非接触近距離無線通信におけるリーダライタ装置側の受信処理の際に、ヌル状態が生じても極力通信エラーが生じないように制御し、通信エラーの発生頻度を低減することができる非接触ICカードリーダライタ装置、その受信制御装置等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明の非接触ICカードリーダライタ装置における受信制御装置は、第1に、受信特性が異なる2系統の復調回路と、該2系統の復調回路が生成・出力する2つ復調信号を入力して復号データを生成・出力する復号制御部とを有し、前記復号制御部は、前記2つの復調信号各々に応じた2つの受信開始位置検出手段と、前記2つの復調信号の両方を入力して、選択判定手段からの選択指示に応じて何れか一方の復調信号を選択・出力する選択出力手段と、該選択出力手段から出力された復調信号に基づいて復号データを生成・出力するデータ復号手段と、該データ復号手段から出力される前記復号データを入力して、復号誤りの有無を検出して、該復号誤り検出結果を前記選択判定手段へ出力する復号誤り検出手段と、前記2つの受信開始位置検出手段が出力する受信開始位置検出情報と、前記復号誤り検出結果とに基づいて、前記2つの復調信号のどちらを選択するかを判定して、該判定結果を前記選択指示として前記切換え制御手段へ出力する前記選択判定手段とを有する。
【0029】
本発明の非接触ICカードリーダライタ装置における受信制御装置は、第2に、受信特性が異なる2つの復調回路と、該2つの復調回路が生成・出力する2つの復調信号を入力して、復号データを出力する復号制御部とを有し、前記復号制御部は、前記2つの復調信号各々に応じた2系統の復号部を有し、該各復号部は、前記復調信号を入力してその受信開始位置を検出して該検出情報を出力する受信開始位置検出手段と、前記復調信号を入力して該復調信号に基づいて復号データを生成・出力するデータ復号手段と、該データ復号手段から出力される前記復号データを入力して、復号誤りの有無を検出して、該復号誤り検出結果を選択判定手段へ出力する復号誤り検出手段と、前記データ復号手段から出力される前記復号データを一時的に記憶する復号データ記憶手段とを有し、前記選択判定手段からの選択指示に従って前記2系統の復号部の何れか一方の前記復号データ記憶手段に記憶されている前記復号データを、取得して出力する選択出力手段と、前記各復号部からの前記復号誤り検出結果を入力して、該2つの復号誤り検出結果に基づいて前記2系統の何れか一方を選択して、前記選択出力手段へ前記選択指示を出力する前記選択判定手段とを有する。
【0030】
上記第1、第2の構成は、何れも、復号制御部において、復号誤りの有無の検出結果を用いて、2つの受信系統による2つの復調信号(またはその復号データ)の何れか一方を選択する。これによって、特にヌル状態やヌル状態に近い状態において同期符号領域等には異常が無くてもデータ部に異常があるケース等でも、上位装置による制御を必要とすることなく正常な復号データを出力することができ、従来に比べて通信エラーの発生頻度を低減することができる。
【0031】
特に第2の構成の場合、2つの受信系統に応じた2つの復号データを生成・一時記憶して、これら復号データに関する復号誤りの有無の検出結果に基づいて何れか一方の復号データを選択・出力するので、通信エラーの発生頻度を著しく低減することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の非接触ICカードリーダライタ装置、その受信制御装置等によれば、リーダライタ装置−ICカード間の非接触近距離無線通信におけるリーダライタ装置側の受信処理の際に、ヌル状態が生じても極力通信エラーが生じないように制御し、通信エラーの発生頻度を低減することができる。インピーダンスの異なる2点の受信信号を用いて、何れか一方の受信信号を選択して復号を行う方式であって、特にヌル状態やヌル状態に近い状態において同期符号領域等には異常が無くてもデータ部に異常があるケース等でも、上位装置による制御を必要とすることなく正常な復号データを出力することができ、従来に比べて通信エラーの発生頻度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本例のリーダライタ装置の構成図である。
【図2】差電圧と通信距離との関係を示す特性図である。
【図3】通信パケットのフォーマット例である。
【図4】復号制御部の詳細な構成例(実施例1)を示す図である。
【図5】受信選択判定制御部の処理フローチャート図である。
【図6】実施例2における復号制御部の構成図である。
【図7】従来のリーダライタ装置とICカードの構成例である。
【図8】リーダライタ装置とICカードとの通信距離と通信成功率との関係を示す図である。
【図9】ICカードによる負荷変調信号をリーダライタ側で受信した時の各種信号波形を示す図(その1)である。
【図10】ICカードによる負荷変調信号をリーダライタ側で受信した時の各種信号波形を示す図(その2)である。
【図11】ICカードによる負荷変調信号をリーダライタ側で受信した時の各種信号波形を示す図(その3)である。
【図12】負荷変調ON時とOFF時の差電圧に関する距離特性例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る非接触ICカードシステムの構成例を示す図であり、特に本例のリーダライタ装置の構成例を示す図である。これは、実施例1、2に共通の構成図である。
【0035】
図示の非接触ICカードシステムは、リーダライタ装置1とICカード2とを有する。また、通常、不図示の上位装置も存在する。
リーダライタ装置1、ICカード2は、上述した非接触ICカードリーダライタ装置、非接触ICカードである。
【0036】
リーダライタ装置1は、不図示の上位装置(ホスト)との通信機能を有し、上位装置からの指示に応じて、ICカード2との近距離無線通信を行う。
リーダライタ装置1は、制御部10、RF送信制御部20、アンテナ部30、RF受信制御部40を有する。また、RF送信制御部20−アンテナ部30間に、インダクタンス素子L21を設けている。
【0037】
制御部10、RF送信制御部20、アンテナ部30は、上記従来のリーダライタ装置100における制御部110、RF送信制御部120、アンテナ回路130と略同様であってよく、以下、簡単に説明する。
【0038】
制御部10は、送信時の符号化処理、および受信時のフレーム生成、データチェック等を行う集積回路(通信制御LSI)で構成されるものであり、RF送信制御部20、RF受信制御部40を介してアンテナ部30に接続される。制御部10は、上記制御部110と略同様に、RF送信制御部20に任意の送信データを送出し、あるいはRF受信制御部40から任意の受信データを受け取る。
【0039】
RF送信制御部20は、変調部21、キャリア発振器22、増幅部23を備える。データ送信の際には、変調部21は、キャリア発振器22が発生させる所定周波数(例えば、13.56MHz)の搬送波を、制御部10からの送信データで振幅変調する。この振幅変調波を次段の増幅部23で増幅して所定の送信出力とする処理を行い、アンテナ部30に供給する。
【0040】
また、ICカード2からのデータ受信の際には、上記搬送波を振幅変調せずにアンテナ部30に供給する。
アンテナ部30は、送受信を兼用しており、RF送信制御部20と共にRF受信制御部40が接続されており、RF送信制御部20から出力される上記振幅変調波または搬送波に応じた電磁波を、周辺空間上に送出するものである。また、ICカード2からのデータ受信の際には、ICカード200からの負荷変調信号を受信するものである。
【0041】
アンテナ部30は、少なくともコンデンサC11,C12,および自己インダクタンスL11を有するループアンテナで構成されている。自己インダクタンスL11を有するループアンテナは、配線もしくは基板の銅箔パターンで渦巻き状に複数回巻いた形態とする。
【0042】
アンテナ部30は、搬送波周波数に同調させる調整を行っており、ループアンテナの自己インダクタンスL11、およびコンデンサC11により、その同調周波数foは、以下に示す(1)式で定義される。
【0043】
fo = 1 / 2π√(L11×C11)・・・(1)式
また、本構成では、RF送信制御部20−アンテナ部30間に、インダクタンス素子L21を設けている。そして、RF受信制御部40は、アンテナ部30による受信信号をインピーダンスが異なる2点(インダクタンス素子L21の両端)から入力して、この2つの入力それぞれに対して検波・増幅・2値化して復調信号Q1,Q2を生成する。つまり、2系統の復調信号生成回路を有する。
【0044】
すなわち、一方の受信系統は、インダクタンス素子L21の1端(RF送信制御部20側)からの受信信号S1を、復調処理部41で検波・増幅し、これを2値化部43で2値化することで、復調信号Q1を生成する。同様に、他方の受信系統は、インダクタンス素子L21の他端(アンテナ部30側)からの受信信号S2を、復調処理部42で検波・増幅し、これを2値化部44で2値化することで、復調信号Q2を生成する。
【0045】
尚、復調処理部41、42、及び2値化部43、44は、その処理機能自体は、上記従来の復調処理部141及び2値化部142と同じであってよく、相違点は従来では1系統であったのが本例では2系統となっている点であるので、ここでは特に説明しない。
【0046】
上記2系統の検波・増幅・2値化構成によって生成された上記2つの復調信号Q1、Q2は、復号制御部45に入力される。復号制御部45は、この2つの復調信号Q1、Q2の何れか一方を選択して、選択した復調信号QをNRZ符号化データに復号処理して受信データを生成する。そして、この受信データ(NRZ符号)を制御部10に渡す。
【0047】
図2は、通信距離を変化させた時のインダクタンス素子L21の両端におけるリーダライタ受信信号(但し、ここでは、受信信号を検波・増幅した信号)の差電圧V1,V2と通信距離との関係を示す特性図である。
【0048】
ここでは仮に、インダクタンス素子L21の一端(送信制御部20側)に係る受信信号の差電圧ΔVをV1、インダクタンス素子L21の他端(ループアンテナ側)に係る受信信号の差電圧ΔVをV2として示す。尚、差電圧ΔVとは、既に述べた通り、電圧Vaと電圧Vbとの電圧差であり、換言すれば負荷変調ON時の電圧とOFF時の電圧との電圧差である。
【0049】
図2に示されるように、差電圧V1に係る受信信号は、通信距離d1においてヌル点が発生するが、同通信距離d1において差電圧V2に係る受信信号は十分な電圧差を有した受信信号となる。このようにインダクタンス素子L21を介した2点の受信信号を検波することで、受信特性が異なる(ヌルの発生位置が異なる)2種類の受信信号を得ることが可能となる。尚、図2には、差電圧V2に係る受信信号においてヌル点が発生する状態は示していないが、当然、ヌル点は発生し得る。しかし、1つの受信信号の両方で、同じ通信距離においてヌル点が発生することは、基本的にはない。
【0050】
このような構成のリーダライタ装置1と近接したICカード2は、リーダライタ装置11から無線送信される13.56MHzの搬送波(電磁波)から電源を生成し、リーダライタ装置1と無線通信できる。尚、ICカード2の構成は、従来のICカード200と同じであってよく(従来公知のものを使用する)、それ故に同一符号を付してあり、その説明は省略する。
【0051】
また本実施例では、変調/復調信号は212kbpsの伝送速度でやりとりされるマンチェスタ符号とし、通信パケットのフォーマットは図3に示す形態とする。
すなわち図3に示すように通信パケットフォーマットは、少なくとも48ビット長の論理‘0’のプリアンブル領域(Preamble)、2バイト長の同期符号領域(SYNC)、1バイト長のデータ長領域(Length)、最大254バイト長のペイロード領域(Payload)、および巡回冗長検査領域(CRC)の各領域を持つように形成される。同期符号領域のデータは、固定値(本例では、B2_4D(hex))を使用するものとする。
【0052】
また、データ長領域(Length)、ペイロード領域(Payload)、及び巡回冗長検査領域(CRC)の3つの領域から成る部分を、データ部というものとする。後述するデータ復号制御部55では、このデータ部を復号することで、受信データ(NRZ符号)を生成する。
【0053】
図4は、図1に示す復号制御部45の詳細な構成例を示す図である。尚、これは、実施例1における構成例である。
図4に示す復号制御部45には、図1に示した2つの2値化部43,44により2値化
された復調信号(復調信号Q1,復調信号Q2)、およびリーダライタ装置1の制御部10で使用する基準クロック(例えば13.56MHz)が入力される。
【0054】
復号制御部45は、復調信号Qの入力、及び入力した復調信号Qに基づいて受信クロック生成及び受信開始位置を検出するための構成(受信系統)を、上記各復調信号Q1、Q2に応じて2系統備える。すなわち、復調信号Q1に応じて、受信クロック信号P1を生成する受信クロック生成部51aと受信開始位置を検出するための同期符号検出部52aとから成る受信系統Aと、復調信号Q2に応じて、受信クロック信号P2を生成する受信クロック生成部51bと受信開始位置を検出するための同期符号検出部52bとから成る受信系統Bとの、2系統を備える。
【0055】
尚、上記2系統の受信系統A,Bは、広義には、上記2系統の検波・増幅・2値化構成(復調処理部41、42、及び2値化部43、44)も含まれると考えてもよい。つまり、この場合、復調処理部41及び2値化部43は受信系統Aに含まれ、復調処理部42及び2値化部44は受信系統Bに含まることになる。
【0056】
また、尚、上記受信開始位置とは、上記データ部の先頭位置すなわちデータ長領域(Length)の先頭位置を意味するが、同期符号領域(SYNC)の最後尾を検出することで、この最後尾の次のビットが受信開始位置であることが分かるので、ここでは同期符号領域(SYNC)の最後尾の検出が、受信開始位置を意味するものとして説明する。
【0057】
尚、同期符号検出部52a、52bの出力は、図示の通り同期符号検出信号R1,R2とし、これは上記の通り同期符号領域(SYNC)の最後尾の検出信号であり、受信開始位置を示すものである。
【0058】
尚、受信クロック生成部51aと51bとは同じ構成なので、両者を区別して説明する必要が無い場合は、受信クロック生成部51と記す場合がある。同様に、同期符号検出部52a、52bも、その構成・機能自体は同じであるので、両者を特に区別せずに同期符号検出部52と記す場合がある。これは、各種信号についても同様であり、上記復調信号Q1、Q2を特に区別せずに復調信号Qと記す場合もあるし、受信クロック信号P1、P2を特に区別せずに受信クロック信号Pと記す場合もある。同期符号検出信号R1,R2を特に区別せずに同期符号検出信号Rと記す場合もある。
【0059】
復号制御部45は、更に、受信系統切換え制御部53、受信選択判定制御部54、データ復号制御部55、受信パケット解析部56、信号誤り検出部57を備える。
受信系統切換え制御部53には、上記2系統からの入力がある。すなわち、上記受信系統Aからは、上記復調信号Q1と受信クロック信号P1、及び同期符号検出信号R1が、受信系統切換え制御部53に入力される。同様に、上記受信系統Bからは、上記復調信号Q2と受信クロック信号P2、及び同期符号検出信号R2が、受信系統切換え制御部53に入力される。そして、受信系統切換え制御部53は、これら2系統の入力の何れか一方を選択・出力する。
【0060】
尚、受信系統切換え制御部53において、入力に関しては図示のIN1a等の入力端子に入力され、出力に関しては図示のOut1等の出力端子から出力されるが、詳しい説明は省略する。また、同期符号検出信号R1,R2は、受信系統切換え制御部53だけでなく、受信選択判定制御部54にも入力される。
【0061】
受信選択判定制御部54は、上記同期符号検出信号R1,R2を入力して、更に復号誤り検出部57の出力(復号誤り検出結果)も入力して、これら各種入力に基づいて、受信系統切換え制御部53に上記2系統からの入力の何れか一方を選択・出力させる為の選択
信号を、生成する。そして、この選択信号を受信系統切換え制御部53へ出力する(図示の例ではSel_a/b端子に入力される。
【0062】
受信系統切換え制御部53は、この選択信号に従って、上記2系統からの入力の何れか一方を選択・出力する。すなわち、何れか一方の復調信号Q、受信クロック信号P、及び同期符号検出信号Rを、上記Out1等の出力端子から出力する。これによって、データ復号制御部55は、これら選択出力された各種信号Q,P,Rを入力することになる。
【0063】
データ復号制御部55は、これら入力した復調信号Q、受信クロック信号P、及び同期符号検出信号Rに基づいて、NRZ符号に復号した受信データ(復号データ)を生成・出力する。すなわち、データ復号制御部55は、復調信号Qを、受信クロック信号Pによってサンプリングし、また同期符号検出信号Rによって受信開始位置(データ部先頭)を認識して、復調信号Qのデータ部をNRZ符号に復号した受信データ(復号データ)を生成して、制御部10へ出力する。尚、データ復号制御部55は、受信パケット解析部56の出力も入力する。
【0064】
受信パケット解析部56は、受信系統切換え制御部53から出力される同期符号検出信号Rと、データ復号制御部55から出力される受信データ(NRZ符号)とを入力して、通信パケット(受信データ)内の各領域の区切りのタイミングを検出し、これを信号誤り検出部57へ出力する。
【0065】
信号誤り検出部57は、上記受信パケット解析部56の出力と、データ復号制御部55から出力される受信データ(復号データ)とを入力して、復号誤りの有無を検出して、この復号誤り検出結果を、受信選択判定制御部54へ出力する。
【0066】
以下、上記各種機能部毎の構成・動作について更に説明する。
但し、基本的に、受信系統切換え制御部53及び受信選択判定制御部54以外の構成は、従来から存在するものであり、その詳細構成等を図示することなく、簡単に説明するのみとする。
【0067】
まず、受信クロック生成部51は、不図示のディジタルPLL回路にて構成され、復調信号Q(例えば、マンチェスタ符号化信号;212kbps)のレベル変化タイミングから、ビットレートの2倍の周波数(本例では424kHz)のパルス信号を生成し、復調信号1bit長の中で概1/4,3/4の位置で信号出力する。これが上記受信クロック信号Pである。この受信クロック信号Pは、後段の同期符号検出部52、データ復号制御部55において、復調信号Qをサンプリングするタイミングとして使用する。上記の通り、受信クロック生成部51は、公知の構成であり、これ以上詳細には説明しない。
【0068】
同期符号検出部52は、復調信号Qと受信クロック信号Pが入力されて、受信クロックの出力タイミングで復調信号Qをサンプリングし、通信パケット内の同期符号領域(SYNC)の最後尾を検出する。
【0069】
尚、同期符号検出部52も、それ自体は公知の構成であり、特に詳細には説明しないが、その検出方法は例えば、同期符号領域(SYNC)のデータ値は予め決まっている固定値(例えば、B24D(16進)等)なので、上記復調信号Qのサンプリング結果として得られるデータ値が、この固定値と一致したタイミングで、最後尾の検出信号を出力する(例えば1パルス出力する)。尚、上記の通り、これは、受信開始位置を検出するものと言える。
【0070】
尚、上記のことから、この最後尾の検出信号出力は、単に同期符号領域(SYNC)の最後
尾のタイミングを示すというだけでなく、同期符号領域(SYNC)が正常受信されたことを示すことを意味する。つまり、受信した復調信号Qにおける同期符号領域(SYNC)のデータが、上記固定値(例えば、B24D(16進)等)となっていない場合、すなわち何らかの異常(ヌル状態等)によって同期符号領域(SYNC)中の一部にエラービットがあった場合等には、上記最後尾の検出信号出力は行われないことになる。
【0071】
この様に、同期符号検出部52は、同期符号領域(SYNC)が正常受信できたこと及び受信開始位置を、検出するものと言える。
また、上述したことから、データ復号制御部55、受信パケット解析部56、及び信号誤り検出部57も、それぞれ、それ自体は既存の構成であり、以下、簡単に説明する。
【0072】
但し、データ復号制御部55については、既に説明した通りであり、ここでは特に説明しない。
受信パケット解析部56は、上記同期符号検出信号R、及び上記復号データを入力し、受信パケットのデータ部内の各領域(データ長領域(Length)、ペイロード領域(Payload)、および巡回冗長検査領域(CRC))の区切りのタイミングを検出し、この検出結果をデータ復号制御部55と信号誤り検出部57へ出力する。
【0073】
復号誤り検出部57は、復号データ、及び受信パケット解析部56からの出力を入力して、復号誤りの有無を検出する。具体的には、例えば、受信パケット内の巡回冗長検査領域(CRC)のデータを用いてCRCチェックを行うことで、受信パケットのデータ長領域(Length)、ペイロード領域(Payload)内で復号誤りが発生したかどうかを検出する。
【0074】
そして、検出結果(復号誤りの有/無)を受信選択判定制御部54へ出力する。
上記の通り、データ復号制御部55、受信パケット解析部56、及び信号誤り検出部57は、それ自体は既存の構成であるが、これらの構成による上記復号誤り検出結果を、受信選択判定制御部54における判定に利用する。同様に、受信クロック生成部51及び同期符号検出部52から成る構成も、既存の構成であるが、本例ではこれらを2系統分設けると共に、当該2系統それぞれの同期符号検出部52の出力を、受信選択判定制御部54における判定に利用する。
【0075】
そして、上記の通り、受信系統切換え制御部53には、2系統の受信系統それぞれから各種信号(復調信号Q、受信クロックP、及び同期符号検出信号R)が入力され、受信選択判定制御部54による選択判定結果に基づいて、いずれか一方の受信系統からの各種信号を、後段のデータ復号制御部55に出力する。
【0076】
以下、受信選択判定制御部54について、詳細に説明する。
受信選択判定制御部54は、上記の通り、2系統の同期符号検出信号R1,R2と復号誤り検出結果の情報を得て、当該2系統のどちらの受信系統を受信系統切換え制御部53に選択させるかを判定する。
【0077】
受信選択判定制御部54は、初期状態では、いずれか一方の受信系統を選択する(ここでは仮に受信系統A選択とする)。そして、必要に応じて受信系統の切換え制御を行う。受信系統の切換えタイミングは、同期符号検出信号R受信時、及び復号誤り検出結果受信時の2箇所である。
【0078】
受信選択判定制御部54は、通常時は(どちらの受信系統を選択しても正常に復号できる状態では)、2系統の同期符号検出信号R1,R2が概ね同時に入力されるため、受信系統の切換え制御は行なわない(現在の受信系統選択状態を維持)。
【0079】
しかしながら、どちらか一方の受信系統でヌル状態になっている場合、他方の同期符号検出信号Rのみが入力されるケースがあるため、どちらか1系統のみの同期符号検出信号Rが入力された場合はその受信系統を選択することになる。そして、この選択すべき受信系統が、現在選択している受信系統と異なる場合には、受信系統の切換える制御を行う。例えば、受信系統B選択状態において、受信系統Aからのみ同期符号検出信号Rがあった場合には、受信系統Aに切り換える制御を行う。つまり、受信系統切換え制御部53に対して受信系統Bの選択信号を出力している状態から、受信系統Aの選択信号を出力する状態へと切り換える。
【0080】
更に、2系統の同期符号検出信号R1,R2が両方とも入力され、かつ復号誤りが検出された場合、現在選択している受信系統はヌル状態になっていると考えられるため、受信系統を切換える制御を行なう。
【0081】
また、どちらか1系統の同期符号検出信号Rのみが入力される場合、他方の受信系統は同期符号さえ検出できていないため、同期符号検出のあった受信系統を選択する状態とした後、たとえ復号誤りが検出された場合であっても、受信系統の切換え処理は行なわない。
【0082】
以上説明した受信選択判定制御部54による処理のフローチャートの一例を、図5に示す。
図5では、仮に、現在の系統選択状態は、受信系統Aが選択された状態であるものとする。尚、以下の説明では、受信系統AをA系、受信系統BをB系と記す場合もある。
【0083】
この状態において、任意の通信パケットを受信してこれに応じて上記2種類の復調信号Q1,Q2が生成されて復号制御部45に入力されると、受信選択判定制御部54は、まず、上記2系統からの同期符号検出信号R1,R2の入力状態をチェックする。そして、入力状態に応じて処理を分岐させる(ステップS11)。すなわち、同期符号検出信号Rの入力状態として、「A系、B系両方入力あり」、「A系のみ入力あり」、「B系のみ入力あり」、「両系とも入力なし」の4つの状態が考えられ、現在の入力状態に応じた処理を実行する。
【0084】
尚、同期符号検出信号Rは、上記の通り、例えば受信パケット内の同期符号領域(SYNC)の最後尾のタイミングで出力される1パルスであり、各受信系統A,B毎に、この1パルス信号があれば“入力あり”と判定し、無ければ“入力なし”と判定することになる。
【0085】
まず、ステップS11において「A系、B系両方入力あり」と判定した場合には、現在の系統選択状態を維持する(ステップS12)。上記の通り、本例では、受信系統A選択状態を維持することになる。これより受信系統切換え制御部53は、選択されている系統(ここでは系統A)の上記各種信号(復調信号Q、受信クロックP、及び同期符号検出信号R)を、データ復号制御部55等に選択・出力することになる。そして、上記各種機能部55,56,57による既存の処理によって、復号誤り検出部57から復号誤り検出結果が受信選択判定制御部54へ出力されることになる。
【0086】
受信選択判定制御部54は、この復号誤り検出結果を入力し、復号誤りが無い場合には(ステップS13,NO)、ステップS11に戻り、次の通信パケット受信まで待機し、次の受信パケットを受信したら、上記ステップS11の判定を行って、判定結果に応じた処理を実行することになる。
【0087】
一方、復号誤りがある場合には(ステップS13,YES)、受信系統の切換え処理を
実行する(ステップS14)。そして、ステップS11に戻る。つまり、現在選択している受信系統から他方の受信系統へと切り換える。上記の例では、受信系統A選択状態から受信系統B選択状態へと切り換えることになる。これは例えば、受信系統切換え制御部53に対して、受信系統Aの選択信号を出力していた状態から、受信系統Bの選択信号を出力する状態へと切り換える。これに応じて、受信系統切換え制御部53は、受信系統Bからの上記各種信号を選択出力する状態に切り替わる。
【0088】
但し、この場合、今回の受信パケットに関しては既に受信系統Aに係わる各種信号に基づいて復号データが生成・出力済みの状態となっているので、上記復号誤りがあった受信データが制御部10に渡されることになる。しかし、次の通信パケット受信時には、今度は受信系統B選択状態で本処理を実行することになるので、今度は正常データが制御部10に渡される可能性は高いものとなる。
【0089】
また、上記ステップS11において“現在選択している受信系統のみ入力あり”と判定した場合(上記の例では「A系のみ入力あり」と判定した場合)、現在の選択状態を維持する(ステップS15)。上記の例では、受信系統Aの選択状態を維持する。そして、この場合には、既に述べた理由により上記ステップS13のような復号誤り検出結果を用いる処理を行うことなく、ステップS11に戻り、次の通信パケット受信を待つ。
【0090】
つまり、この場合でも、復号誤りがある可能性はある。しかしながら、この場合、現在選択していない系統(上記の例では受信系統B)に関しては、そもそも、同期符号検出信号Rが検出されない状態である。つまり、受信系統Bに関しては同期符号領域に関して既に問題がある。よって、たとえ復号誤りがあっても、受信系統Bに切り換えても意味がないと考えられるので、復号誤り検出結果を用いる処理自体、行わないようにしている(無駄な処理であるので)。
【0091】
また、上記ステップS11において“現在選択していない受信系統のみ入力あり”と判定した場合(上記の例では「B系のみ入力あり」と判定した場合)、受信系統の切換え処理を実行する(ステップS16)。つまり、受信系統切換え制御部53において選択させる受信系統を、現在選択している受信系統から他方の系統受信へと切り換える。上記の例では、受信系統A選択状態から受信系統B選択状態へと切り換えることになる。そして、ステップS11に戻る。
【0092】
つまり、この場合も、上記と同様の理由により、復号誤り検出結果を用いる処理を行うことなく、ステップS11に戻り、次の通信パケット受信を待つ。
尚、この場合、次の通信パケットを受信すると、今度は受信系統B選択状態で上述した処理を行うことになる。よって、この場合、ステップS13の判定がYESもしくはステップS11で「A系のみ入力あり」と判定した場合に、受信系統の切換え処理を実行することになる。当然、今度は、受信系統A選択状態へと切り替わることになる。
【0093】
尚、ステップS11で「両系とも入力なし」と判定した場合には、何も処理を行うことなく、ステップS11に戻り、通信パケット受信を待つ。これは、例えば通信パケットを受信していない状態では、この様な処理になる。基本的に、通信パケットを受信したならば、「両系とも入力なし」以外の判定結果となるはずである。
【0094】
以上説明したように、本手法によれば、基本的に、同期符号検出信号Rに基づいて受信系統選択制御を行い、同期符号領域が正常である受信系統が選択されるようにすることで、ヌル状態の受信系統の復調信号Qによって受信データ(復号データ)が生成されるような事態とならないように制御する。しかしながら、既に述べた通り、特にヌル状態やヌル状態に近い状態において、同期符号領域(SYNC)検出には異常が無くても、データ部(デ
ータ長領域(Length)やペイロード領域(Payload)等)に異常があるケースがある。
【0095】
本手法では、この様な場合でも、復号制御部45において上記データ部における復号誤り検出結果を用いて、受信系統切換えを行うことができ、不図示の上位装置によるソフトウェア制御不要でこの様な事態に対処することができ、データ部異常検出された受信パケットはともかく、それ以降の受信パケットに関しては通信エラー発生を回避できる。つまり、従来の問題を解決できる。
【0096】
以上説明した実施例(図4の例)を、実施例1とする。
以下、実施例2について説明する。
上記実施例1では、特にステップS13の判定がYESでステップS14の受信系統切換え処理を実行した場合、今回の受信パケットについては既に手遅れであり、問題のある復号データが出力されてしまう可能性があった。実施例2では、この様な問題を解消できる。
【0097】
図6は、実施例2における復号制御部45の構成図である。
尚、全体構成は実施例1と同様であり、例えば図1に示す構成である。
図6に示す復号制御部45は、受信クロック生成部、同期符号検出部、データ復号制御部、受信パケット解析部、復号誤り検出部、及び受信データ格納メモリを、2系統の各受信系統A,B毎に備える構成とする。
【0098】
すなわち、受信系統Aに関しては、受信クロック生成部61a、同期符号検出部62a、データ復号制御部63a、受信パケット解析部64a、復号誤り検出部65a、及び受信データ格納メモリ66aを備える。同様に、受信系統Bに関しては、受信クロック生成部61b、同期符号検出部62b、データ復号制御部63b、受信パケット解析部64b、復号誤り検出部65b、及び受信データ格納メモリ66bを備える。
【0099】
そして、更に、受信選択判定制御部67、受信データ出力制御部68で構成される。
尚、上記受信系統Aの構成と受信系統Bの構成は、同じ構成である。よって、特に区別せずに説明する場合は、例えば受信クロック生成部61等と記すものとする(a、bを記さないものとする)。
【0100】
上記受信クロック生成部61、同期符号検出部62、データ復号制御部63、受信パケット解析部64、復号誤り検出部65は、それぞれ、上記実施例1の受信クロック生成部51、同期符号検出部52、データ復号制御部55、受信パケット解析部56、復号誤り検出部57と略同様の構成であってよい。よって、ここでは、これら各機能部の構成・動作については特に説明しない。
【0101】
本例では、上記の通り、受信クロック生成部61と同期符号検出部62だけでなく、データ復号制御部63と受信パケット解析部64と復号誤り検出部65についても、各受信系統A,B毎にそれぞれ設けている。よって、復号データ(受信データ)や復号誤り検出結果も、各受信系統毎にそれぞれ生成される。そして、データ復号制御部63a、63bでそれぞれ生成された各受信系統A,B毎の復号データa,bは、それぞれ、受信データ格納メモリ66a、66bに一時的に格納される。受信データ格納メモリ66a、66bは、例えばFIFO(First In First Out)メモリであり、上記復号データすなわち受信パケットのデータ部の復号データが格納される。
【0102】
受信データ出力制御部68は、これら受信データ格納メモリ66a、66bに格納された復号データa,bの何れか一方を、受信選択判定制御部67からの選択信号に応じて、選択・出力する。
【0103】
ここで、受信選択判定制御部67は、実施例1の受信選択判定制御部54とは異なり、同期符号検出部の出力を受信系統選択判定処理に利用していない。本例の受信選択判定制御部67は、復号誤り検出部65a、65bの出力のみを用いて、受信系統選択判定を行う。
【0104】
すなわち、受信選択判定制御部67は、上記2系統の各復号誤り検出部65a、65bの出力に基づいて、各受信系統の正常/異常を判定する。当然、復号誤りがあれば異常、無ければ正常である。そして、基本的に、正常な方の受信系統を選択して受信データ出力制御部68に選択信号出力する。例えば、受信系統Aが正常で受信系統Bが異常であれば、受信データ出力制御部68に対して受信系統Aの選択信号を出力する。
【0105】
尚、実施例2に関しては受信系統選択判定処理フローチャート図は、特に図示しない。上記の通り単純に、正常/異常を判定して、正常な方の受信系統を選択すればよい。尚、両系とも正常の場合には、例えば、最初に復号誤り無しを出力してきた受信系統を、選択すればよい(早いもの勝ち)。また、両系とも異常の場合には、何も処理せずに、次のパケット受信待ち状態に移行するか、もしくはエラー出力する。尚、上記のことから、本例では、上記実施例1の場合(図5)のような“現在の選択状態を維持する”ことは、特に必要ないものとなる。
【0106】
尚、実施例2の場合、上記の通り実施例1とは異なり、受信選択判定制御部67の判定において同期符号検出部62の出力を用いてはいない。しかしながら、同期符号検出部62から受信開始位置の検出出力が無い場合には、後段の構成は機能せず、従って復号誤り検出部65からの出力は無いものとなる。従って、復号誤りの有無に係わらず、復号誤り検出部65からの出力があったならば、同期符号検出部62から受信開始位置の検出出力があったことになる。
【0107】
従って、受信選択判定制御部67は、上記の通り処理上は復号誤り検出部65の出力のみを用いて選択判定を行っているが、実質的には、“同期符号検出部62から受信開始位置の検出出力があり、且つ復号誤り無し”であることが、系統選択の条件となっている。
【0108】
この様に、実施例2では、2系統の両方について復号データを生成させて一時的に保持し、生成した復号データ(受信パケットのデータ部の復号データ)に基づいて2系統それぞれの正常/異常を判定する。そして、判定結果に基づいて2系統の何れか一方の復号データを選択・出力するので、正常な復号データを選択・出力させることができる。
【0109】
上記の通り、実施例1では、同期符号領域(SYNC)に異常がなければ、復号データ(例えばペイロード領域)に異常があっても、(次以降の受信パケットはともかく)今回の受信パケットに関しては異常な復号データが出力されてしまう。これに対して、実施例2では、この様な問題を解消できる。
【0110】
以上説明したように、本手法によれば、受信特性が異なる2系統の復調回路によって、2種類の復調信号Q1,Q2を生成して復号制御部45に入力させる。復号制御部45は、受信開始位置検出、復号誤り検出等の既存の構成を2系統分備えて、これらの検出結果を利用して受信系統の選択・切換え制御を行なうことで、上位装置によるソフトウェア制御不要でヌル状態を回避し、通信エラーの発生頻度を低減できる。
【0111】
そして、実施例2では、1パケットに対応する受信データ(復号データ)を一旦メモリに格納後、選択判定して出力するために、通信にかかる時間は増加するが、通信エラーが発生することなくヌル状態を回避可能である。
【0112】
一方、実施例1の場合は、現在選択されている受信系統がヌル状態になると、1パケット分は受信エラーとなる可能性があるが、以降は受信系統が切替えることで、正常通信が可能となりヌル状態を回避可能である。実施例1では通信にかかる時間の増加は無い為、ユーザは、通信処理の許容時間と通信エラー発生率の仕様等から、実施例1,2の何れかの構成を選択すればよい。
【符号の説明】
【0113】
1 リーダライタ装置
10 制御部
20 RF送信制御部
21 変調部
22 キャリア発振器
23 増幅部
30 アンテナ部
40 RF受信制御部
41、42 復調処理部
43,44 2値化部
45 復号制御部
L21 インダクタンス素子
C11,C12 コンデンサ
L11 自己インダクタンス
51(51a、51b) 受信クロック生成部
52(52a、52b) 同期符号検出部
53 受信系統切換え制御部
54 受信選択判定制御部
55 データ復号制御部
56 受信パケット解析部
57 信号誤り検出部
61(61a、61b) 受信クロック生成部
62(62a,62b) 同期符号検出部
63(63a,63b) データ復号制御部
64(64a,64b) 受信パケット解析部
65(65a,65b) 復号誤り検出部
66(66a,66b) 受信データ格納メモリ
67 受信選択判定制御部
68 受信データ出力制御部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信特性が異なる2系統の復調回路と、該2系統の復調回路が生成・出力する2つ復調信号を入力して復号データを生成・出力する復号制御部とを有し、
前記復号制御部は、
前記2つの復調信号各々に応じた2つの受信開始位置検出手段と、
前記2つの復調信号の両方を入力して、選択判定手段からの選択指示に応じて何れか一方の復調信号を選択・出力する選択出力手段と、
該選択出力手段から出力された復調信号に基づいて復号データを生成・出力するデータ復号手段と、
該データ復号手段から出力される前記復号データを入力して、復号誤りの有無を検出して、該復号誤り検出結果を前記選択判定手段へ出力する復号誤り検出手段と、
前記2つの受信開始位置検出手段が出力する受信開始位置検出情報と、前記復号誤り検出結果とに基づいて、前記2つの復調信号のどちらを選択するかを判定して、該判定結果を前記選択指示として前記切換え制御手段へ出力する前記選択判定手段と、
を有することを特徴とする非接触ICカードリーダライタ装置における受信制御装置。
【請求項2】
前記選択判定手段は、前記2系統の何れか一方の系統を選択している状態であり、前記2つの受信開始位置検出手段の両方から前記受信開始位置検出情報の出力があった場合には、現在の系統選択状態を維持して前記データ復号手段により前記復号データ生成・出力を実行させ、該復号データに応じた前記復号誤り検出結果に基づいて、復号誤りがある場合には系統選択切換えを行うことを特徴とする請求項1記載の非接触ICカードリーダライタ装置における受信制御装置。
【請求項3】
前記選択判定手段は、前記2系統の何れか一方の系統を選択している状態であり、前記2つの受信開始位置検出手段の何れか一方のみから前記受信開始位置検出情報の出力があった場合には、該検出情報出力のあった系統を選択することを特徴とする請求項1または2記載の非接触ICカードリーダライタ装置における受信制御装置。
【請求項4】
受信特性が異なる2つの復調回路と、該2つの復調回路が生成・出力する2つの復調信号を入力して、復号データを出力する復号制御部とを有し、
前記復号制御部は、
前記2つの復調信号各々に応じた2系統の復号部を有し、
該各復号部は、前記復調信号を入力してその受信開始位置を検出して該検出情報を出力する受信開始位置検出手段と、前記復調信号を入力して該復調信号に基づいて復号データを生成・出力するデータ復号手段と、該データ復号手段から出力される前記復号データを入力して、復号誤りの有無を検出して、該復号誤り検出結果を選択判定手段へ出力する復号誤り検出手段と、前記データ復号手段から出力される前記復号データを一時的に記憶する復号データ記憶手段とを有し、
前記選択判定手段からの選択指示に従って前記2系統の復号部の何れか一方の前記復号データ記憶手段に記憶されている前記復号データを、取得して出力する選択出力手段と、
前記各復号部からの前記復号誤り検出結果を入力して、該2つの復号誤り検出結果に基づいて前記2系統の何れか一方を選択して、前記選択出力手段へ前記選択指示を出力する前記選択判定手段と、
を有することを特徴とする非接触ICカードリーダライタ装置における受信制御装置。
【請求項5】
前記選択判定手段は、前記2系統の復号誤り検出結果に基づいて、復号誤りが無い系統を選択することを特徴とする請求項4記載の非接触ICカードリーダライタ装置における受信制御装置。
【請求項6】
送信制御部とアンテナ部と受信制御部とを有するリーダライタ装置であって、
前記受信制御部は、前記アンテナ部による受信信号をインピーダンスが異なる2点から入力する2系統の復調回路と、該2系統の復調回路がそれぞれ生成・出力する2つの復調信号を入力して復号データを生成・出力する復号制御部とを有し、
前記復号制御部は、
前記2つの復調信号各々に応じた2つの受信開始位置検出手段と、
前記2つの復調信号の両方を入力して、選択判定手段からの選択指示に応じて何れか一方の復調信号を選択・出力する選択出力手段と、
該選択出力手段から出力された復調信号に基づいて復号データを生成・出力するデータ復号手段と、
該データ復号手段から出力される前記復号データを入力して、復号誤りの有無を検出して、該復号誤り検出結果を前記選択判定手段へ出力する復号誤り検出手段と、
前記2つの受信開始位置検出手段が出力する受信開始位置検出情報と、前記復号誤り検出結果とに基づいて、前記2つの復調信号のどちらを選択するかを判定して、該判定結果を前記選択指示として前記切換え制御手段へ出力する前記選択判定手段と、
を有することを特徴とする非接触ICカードリーダライタ装置。
【請求項7】
送信制御部とアンテナ部と受信制御部とを有するリーダライタ装置であって、
前記受信制御部は、前記アンテナ部による受信信号をインピーダンスが異なる2点から入力する2つの復調回路と、該2つの復調回路がそれぞれ生成・出力する2つの復調信号を入力して復号データを生成・出力する復号制御部とを有し、
前記復号制御部は、
前記2つの復調信号各々に応じた2系統の復号部を有し、
該各復号部は、前記復調信号を入力してその受信開始位置を検出して該検出情報を出力する受信開始位置検出手段と、前記復調信号を入力して該復調信号に基づいて復号データを生成・出力するデータ復号手段と、該データ復号手段から出力される前記復号データを入力して、復号誤りの有無を検出して、該復号誤り検出結果を選択判定手段へ出力する復号誤り検出手段と、前記データ復号手段から出力される前記復号データを一時的に記憶する復号データ記憶手段とを有し、
前記選択判定手段からの選択指示に従って前記2系統の復号部の何れか一方の前記復号データ記憶手段に記憶されている前記復号データを、取得して出力する選択出力手段と、
前記各復号部からの前記復号誤り検出結果を入力して、該2つの復号誤り検出結果に基づいて前記2系統の何れか一方を選択して、前記選択出力手段へ前記選択指示を出力する前記選択判定手段と、
を有することを特徴とする非接触ICカードリーダライタ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−109531(P2011−109531A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264137(P2009−264137)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000237710)富士電機リテイルシステムズ株式会社 (1,851)
【Fターム(参考)】