説明

非晶性ポリエステル樹脂の製造法、トナー粒子の製造法およびトナー粒子

【課題】エマルション凝集トナーの製造のための、再生可能な資源から得られる非晶性ポリエステル樹脂の製造法を提供する。
【解決手段】非晶性ポリエステル樹脂の製造法であって、前記製造法は、D−グルコースからイソソルビドを合成する工程と、液内培養嫌気的発酵法によって得られたコハク酸と、クロム酸を用いたオレイン酸の酸化的開裂、またはオゾン分解によって生成したアゼライン酸と、から成る群より選ばれる少なくとも1つの二酸を得る工程と、触媒存在下で、D−グルコースから合成したイソソルビドを、コハク酸、アゼライン酸、またはコハク酸とアゼライン酸との混合物と重縮合させて、非晶性ポリエステル樹脂を得る工程と、を含む非晶性ポリエステル樹脂の製造法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルション凝集トナーの製造に用いられる生物系非晶性ポリエステル樹脂(bio-based amorphous polyester resins)と、生物系非晶性ポリエステル樹脂を含むエマルション凝集トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
エマルション凝集(EA)トナーは、印刷物および/または電子写真画像の作製に用いられる。エマルション凝集技術は一般に、水中で樹脂を、必要ならば溶媒と共に加熱することにより、あるいは、乳化重合法を用いて水中でラテックスを作ることで、例えば、直径約5から約500nmと粒径の小さな樹脂粒子のエマルションラテックスを生成する工程を含んでいる。必要に応じた着色剤分散液、例えば、必要に応じて樹脂を加えた、顔料の水中分散液を、別に製造する。着色剤分散液をエマルションラテックス混合物に加えた後、凝集剤または錯化剤を加え、および/または、別な方法で凝集させて、凝集したトナー粒子を生成する。この凝集トナー粒子を加熱して合一/融合させ、凝集し、融合したトナー粒子とする。エマルション凝集トナーについて述べている米国特許文献としては、例えば、特許文献1〜特許文献50が挙げられる。
【0003】
前述の特許および公開のそれぞれの開示の内容は、全て本件に引用して援用する。前述の特許および公開のそれぞれの適当な成分および製造法の態様は、本組成物および製造法の実施の形態においても使用される。
【0004】
エネルギおよび環境政策、不安定で上昇傾向にある原油価格、世界的な化石燃料埋蔵量の急激な枯渇の社会的/政治的認識により、生物材料から得られる持続可能なモノマの発見が求められるようになった。生物的に再生可能な材料を使用することで、製造業者は二酸化炭素排出量を削減し、ゼロカーボンまたはカーボンニュートラルな排出量とすることもできる。生物系ポリマは、その特徴的な省エネ、低廃棄物の点でも非常に魅力的である。生物系材料の利用により、埋め立ての対象となるプラスチックの量を減らし、国内農業に新たな収入源を与え、不安定な地域からの石油輸入に依存する経済的リスクと不確実性を小さくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,278,020号明細書
【特許文献2】米国特許第5,290,654号明細書
【特許文献3】米国特許第5,308,734号明細書
【特許文献4】米国特許第5,344,738号明細書
【特許文献5】米国特許第5,346,797号明細書
【特許文献6】米国特許第5,348,832号明細書
【特許文献7】米国特許第5,364,729号明細書
【特許文献8】米国特許第5,366,841号明細書
【特許文献9】米国特許第5,370,963号明細書
【特許文献10】米国特許第5,403,693号明細書
【特許文献11】米国特許第5,405,728号明細書
【特許文献12】米国特許第5,418,108号明細書
【特許文献13】米国特許第5,496,676号明細書
【特許文献14】米国特許第5,501,935号明細書
【特許文献15】米国特許第5,527,658号明細書
【特許文献16】米国特許第5,585,215号明細書
【特許文献17】米国特許第5,650,255号明細書
【特許文献18】米国特許第5,650,256号明細書
【特許文献19】米国特許第5,723,253号明細書
【特許文献20】米国特許第5,744,520号明細書
【特許文献21】米国特許第5,747,215号明細書
【特許文献22】米国特許第5,763,133号明細書
【特許文献23】米国特許第5,766,818号明細書
【特許文献24】米国特許第5,804,349号明細書
【特許文献25】米国特許第5,827,633号明細書
【特許文献26】米国特許第5,840,462号明細書
【特許文献27】米国特許第5,853,944号明細書
【特許文献28】米国特許第5,863,698号明細書
【特許文献29】米国特許第5,869,215号明細書
【特許文献30】米国特許第5,902,710号明細書
【特許文献31】米国特許第5,910,387号明細書
【特許文献32】米国特許第5,916,725号明細書
【特許文献33】米国特許第5,919,595号明細書
【特許文献34】米国特許第5,925,488号明細書
【特許文献35】米国特許第5,977,210号明細書
【特許文献36】米国特許第6,576,389号明細書
【特許文献37】米国特許第6,617,092号明細書
【特許文献38】米国特許第6,627,373号明細書
【特許文献39】米国特許第6,638,677号明細書
【特許文献40】米国特許第6,656,657号明細書
【特許文献41】米国特許第6,656,658号明細書
【特許文献42】米国特許第6,664,017号明細書
【特許文献43】米国特許第6,673,505号明細書
【特許文献44】米国特許第6,730,450号明細書
【特許文献45】米国特許第6,743,559号明細書
【特許文献46】米国特許第6,756,176号明細書
【特許文献47】米国特許第6,780,500号明細書
【特許文献48】米国特許第6,830,860号明細書
【特許文献49】米国特許第7,029,817号明細書
【特許文献50】米国特許出願公開第2008/0107989号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、エマルション凝集トナーの製造のための、再生可能な資源から得られる非晶性ポリエステル樹脂の製造法、その非晶性ポリエステル樹脂を含むトナー粒子の製造法およびトナー粒子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、非晶性ポリエステル樹脂の製造法であって、前記製造法は、D−グルコースからイソソルビドを合成する工程と、液内培養嫌気的発酵法(submerged culture anaerobic fermentation process)によって得られたコハク酸と、クロム酸を用いたオレイン酸の酸化的開裂(oxidative cleavage)、またはオゾン分解(Ozonolysis)によって生成したアゼライン酸と、から成る群より選ばれる少なくとも1つの二酸を得る工程と、触媒存在下で、D−グルコースから合成した前記イソソルビドを、前記コハク酸、前記アゼライン酸、または前記コハク酸と前記アゼライン酸との混合物と重縮合させて、非晶性ポリエステル樹脂を得る工程と、を含む非晶性ポリエステル樹脂の製造法である。
【0008】
また、本発明は、トナー粒子の製造法であって、前記製造法は、スラリを生成する工程と、前記スラリを加熱して、前記スラリ中で、凝集した粒子を生成する工程と、pHを調整して、前記粒子の凝集を止める工程と、前記スラリ中で前記凝集粒子を加熱し、前記粒子を合一させてトナー粒子とする工程と、を含み、前記スラリは、非晶性ポリエステル樹脂を含むエマルションと、必要に応じて、ワックスと、必要に応じて、着色剤と、必要に応じて、界面活性剤と、必要に応じた凝析剤と、1つ以上の必要に応じた追加の添加剤と、を混合することによって生成し、前記非晶性ポリエステル樹脂は、D−グルコースからイソソルビドを合成する工程と、液内培養嫌気的発酵法によって得られたコハク酸と、クロム酸を用いたオレイン酸の酸化的開裂、またはオゾン分解によって生成したアゼライン酸と、から成る群より選ばれる少なくとも1つの二酸を得る工程と、触媒存在下で、D−グルコースから合成した前記イソソルビドを、前記コハク酸、前記アゼライン酸、または前記コハク酸と前記アゼライン酸との混合物と重縮合させて、非晶性ポリエステル樹脂を得る工程と、を含む方法によって得られるトナー粒子の製造法である。
【0009】
また、本発明は、非晶性ポリエステル樹脂と、必要に応じた着色剤と、必要に応じたワックスと、を含み、前記非晶性ポリエステル樹脂は、イソソルビドと、コハク酸とアゼライン酸とから成る群より選ばれる少なくとも1つの二酸と、の重縮合生成物であるトナー粒子である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本件では、例えば、EAトナー製造のために考案した、再生可能な資源だけを含む非晶性ポリエステルを開示する。より詳細には、本非晶性ポリエステルは、3つの異なるモノマ(1,4:3,6−ジアンヒドロ−D−ソルビトール(イソソルビド)、ノナン二酸(アゼライン酸)、ブタン二酸(コハク酸))の混合物から得られる。この3つのモノマの比に応じて、異なる性質のポリマが得られる。比を変えることで、酸価の高いポリマから低いポリマまで得られ、更に、ガラス転移温度範囲の異なるものが得られる。
【0011】
本明細書および後述の請求項において、“a”、“an”、“the”などの単数形には、内容が明らかに別のものを示していない限り、複数形も含まれる。本件に開示の範囲は全て、特に指示のない限り、全ての終点と中間値を含んでいる。更に、多くの用語は以下のように定義されるものとする。
【0012】
用語“官能基”とは、例えば、基と、それが結合する分子の化学的性質を決定するよう配列した原子の群を指す。官能基の例としては、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボン酸基などが挙げられる。
【0013】
“必要に応じた”または“必要に応じて”とは、例えば、その次に述べられている状況が起こる、または起こらない場合を指しており、その状況が起こる場合と、その状況が起こらない場合とを含んでいる。
【0014】
用語“1つ以上”および“少なくとも1つ”は、例えば、その次に述べられている状況の1つが起こる場合と、その次に述べられている状況の2つ以上が起こる場合とを指している。
【0015】
ポリエステルは、ジオールと二酸との重縮合によって得られる。本件に開示の非晶性ポリエステルは、再生可能な資源から容易に得られるジオールと二酸との生成物である。
【0016】
ジオールは、イソソルビドとも呼ばれる、1,4:3,6−ジアンヒドロ−D−ソルビトールである。イソソルビドの構造式は次のとおりである。
【化1】

【0017】
イソソルビドは、糖類や澱粉類(コーンスターチなど)など、再生可能な資源から容易に作られる。例えば、イソソルビドは、澱粉を加水分解してD−グルコースとし、D−グルコースを水素添加してソルビトールとし、ソルビトールに酸触媒脱水反応を行ってイソソルビトールとする、多段階プロセスによって製造される。イソソルビドの調製は、文献中、例えば、Flecheら, Starch/Starke, 38(1), pp. 26-30 (1986) および Ballauff ら, Polyesters (Derived from Renewable Sources), Polymeric Materials Encyclopedia, Vol. 8, p. 5892 (1996)に知られている。
【0018】
ポリエステルの製造に用いられる2つの二酸は、コハク酸とアゼライン酸である。コハク酸は次の構造式で示される。
【化2】

【0019】
コハク酸は、様々な種類の細菌およびカビ類の液内培養嫌気的発酵で、シュウ酸、フマル酸、リンゴ酸と共に、生物的経路で産生される。この産生プロセスは、Lockwood, L. B., "Production of Organic Acids by Fermentation," In Microbial Technology, Peppler, H. J. and Perlman, D. Eds., Academic Press: New York, pp. 356-387 (1979)に述べられている。
【0020】
アゼライン酸は、オレイン酸から化学的合成経路で製造される。オレイン酸は、殆どの動物性脂肪および植物油中に見られる、一不飽和C18脂肪酸である。アゼライン酸は、クロム酸を用いたオレイン酸の酸化的開裂、またはオゾン分解によって製造される。オゾン分解は、www.cyberlipid.org/cyberlip/home0001.htm のCyberlipid, 2009 に開示されている。アゼライン酸は次の構造式で示される。
【化3】

【0021】
本ポリエステル樹脂は、触媒存在下で、イソソルビドを、コハク酸またはアゼライン酸のいずれかと、あるいは、コハク酸とアゼライン酸との混合物と重縮合させて生成することができる。イソソルビドの量は、例えば、ポリエステル樹脂の約40から約60mol%、例えば、約42から約55mol%または約45から約53mol%とすればよい。二酸の総量は、例えば、ポリエステル樹脂の約40から約60mol%、例えば、約42から約55mol%または約45から約53mol%とすればよい。二酸がコハク酸とアゼライン酸との組み合わせである場合、コハク酸の量を、例えば、ポリエステル樹脂の約30から約60mol%とし、アゼライン酸の量を、例えば、ポリエステル樹脂の0mol%以上から約20mol%とすればよい。ポリエステル樹脂中における、イソソルビドと、少なくとも1つの二酸との比は、例えば、約40:60から約60:40mol%である。
【0022】
重縮合触媒としては、テトラアルキルチタン酸類(チタン(IV)ブトキシド、チタン(IV)イソプロポキシドなど)、ジアルキルスズオキシド類(ジブチルスズオキシドなど)、テトラアルキルスズ類(ジブチルスズジラウラートなど)、ジアルキルスズオキシドヒドロキシド類(ブチルスズオキシドヒドロキシドなど)、アルミニウムアルコキシド類、アルキル亜鉛、ジアルキル亜鉛、酸化亜鉛、酸化スズ、およびこられの組み合わせが挙げられる。触媒の使用量は、例えば、ポリエステル樹脂の生成に用いられる開始物質の二酸またはジエステルの約0.001mol%から約0.55mol%とすればよい。
【0023】
本ポリエステル樹脂の含有量は、例えば、トナー成分の約5から約50質量%、例えば、トナー成分の約10から約35質量%とすればよい。ポリエステル樹脂は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)による測定で、例えば、約1,000から約5万、例えば、約2,000から約25,000の数平均分子量(M)と、ポリスチレン標準を用いたGPCによる測定で、例えば、約2,000から約10万、例えば、約3,000から約14,000の質量平均分子量(M)を持つ。ポリエステル樹脂の分子量分布(M/M)は、例えば、約1から約6、例えば、約1.5から約4である。
【0024】
本ポリエステル樹脂は、例えば、約30℃から約120℃、例えば、約40℃から約90℃または約45℃から約75℃のガラス転移温度(Tg)を持つ。ポリマ配合物中においてコハク酸の量に対してアゼライン酸を多くすると、樹脂のガラス転移温度が下がると考えられる。
【0025】
本ポリエステル樹脂は、例えば、約90℃から約150℃、例えば、約95℃から約135℃、約95℃から約125℃または約100℃から約120℃の軟化点(Ts)を持つ。軟化点を変えると、光沢度の異なるトナーを得ることができる。例えば、一部の実施の形態において、101℃から103℃の軟化点を持つ樹脂では、105℃以上の軟化点を持つ樹脂で製造したトナーよりも光沢の高いトナーを得ることができる。
【0026】
本ポリエステル樹脂は、例えば、約2から約30mgKOH/g、例えば、約5から約30mgKOH/g、約9から約16mgKOH/gまたは約10から約14mgKOH/gの酸価(acid value)を持つ。酸価(または“中和数(neutralization number)”または酸価(acid number)または“酸性度(acidity)”)は、既知量のポリマ試料を有機溶媒に溶かし、変色指示薬としてフェノールフタレインを用いて既知濃度の水酸化カリウム(KOH)溶液で滴定して求める。酸価は、1gの化学物質の中和に必要な水酸化カリウムの量(mg)である。本ポリエステル樹脂の酸価は、ポリエステル分子中のカルボン酸基の量の指標である。
【0027】
着色剤、ワックス類、トナー組成物の製造に用いられるその他の添加剤は、界面活性剤を含む分散液となっていてもよい。更に、トナー粒子は、例えば、樹脂と、トナーの他の成分とを1つ以上の界面活性剤と接触させてエマルションとし、トナー粒子を凝集し、合一し、必要に応じて洗浄と乾燥を行い、回収する、エマルション凝集法により生成する。
【0028】
1つ、2つ、またはそれ以上の界面活性剤が用いられてもよい。界面活性剤は、イオン界面活性剤と非イオン界面活性剤から選ばれればよい。アニオン界面活性剤およびカチオン界面活性剤は、用語“イオン界面活性剤”に含まれる。界面活性剤の含有量は、例えば、トナー組成物の約0.01から約5質量%、例えば、トナー組成物の約0.75から約4質量%、または、トナー組成物の約1から約3質量%である。
【0029】
適当な非イオン界面活性剤の例としては、例えば、ポリアクリル酸、メタロース、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ジアルキルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノール(Rhone-Poulenacより、IGEPAL CA-210(登録商標)、IGEPAL CA-520(登録商標)、IGEPAL CA-720(登録商標)、IGEPAL CO-890(登録商標)、IGEPAL CO-720(登録商標)、IGEPAL CO-290(登録商標)、IGEPAL CA-210(登録商標)、ANTAROX 890(登録商標)、およびANTAROX 897(登録商標)として入手可能)が挙げられる。その他の適当な非イオン界面活性剤の例としては、ポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドとのブロック共重合体、例えば、SYNPERONIC PE/F(SYNPERONIC PE/F 108など)として市販のものが挙げられる。
【0030】
適当なアニオン界面活性剤としては、硫酸塩類およびスルホン酸塩類、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルナフタレン硫酸ナトリウム、ジアルキルベンゼンアルキル硫酸塩類およびスルホン酸塩類、Aldrich製の、アビエチン酸(abitic acid)などの酸類、第一工業製薬製の、NEOGEN R(登録商標)、NEOGEN SC(登録商標)、これらの組み合わせなどが挙げられる。その他の適当なアニオン界面活性剤としては、The Dow Chemical Company製の、DOWFAX(登録商標)2A1(アルキルジフェニルオキシドジスルホナート)、および/または、テイカ・コーポレーション製の、TAYCA POWER BN2060(分枝ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム類)が挙げられる。これらの界面活性剤や、前述のアニオン界面活性剤のいずれかとの組み合わせも使用できる。
【0031】
カチオン界面活性剤(通常、正に荷電する)の例としては、例えば、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロリド、ジアルキルベンゼンアルキルアンモニウムクロリド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド、アルキルベンジルメチルアンモニウムクロリド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムブロミド、セチルピリジニウムブロミド、塩化ベンザルコニウム、C12、C15、C17トリメチルアンモニウムブロミド類、四級化ポリオキシエチルアルキルアミン類のハロゲン化物塩、ドデシルベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、Alkaril Chemical Company製のMIRAPOL(登録商標)およびALKAQUAT(登録商標)、花王(株)製のSANIZOL(登録商標)(塩化ベンザルコニウム)など、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0032】
樹脂エマルションは、ワックスを加えて調製してもよい。このような実施の形態では、エマルションに、所望の負荷量で樹脂およびワックス粒子を加え、これにより、別々の樹脂エマルションとワックスエマルションではなく、樹脂とワックスとのひとつのエマルションを作ることができる。更に、この併用したエマルションは、トナー組成物に加えるために、別々にエマルションを調製するよりも必要な界面活性剤の量を減らすことができる。これは、ワックスをエマルションに加えることが他の方法では難しい場合には、特に有益である。しかし、ワックスを、樹脂などと共にまたは樹脂などとは別に乳化させておき、最終生成物にそれを単独で加えることも可能である。
【0033】
ポリマバインダ樹脂の他に、トナーには、ワックス(1種類のワックスでも、2種類以上の、できれば異なるワックス類の混合物でもよい)を加えてもよい。特定のトナーの性質、例えば、トナー粒子の形状、トナー粒子表面のワックスの存在とその量、荷電および/または定着特性、光沢、剥離性(stripping)、オフセット性などを向上させるため、1つのワックスをトナー配合物に加えることができる。あるいは、複数の性質を向上させるため、組み合わせたワックス類をトナー組成物に加えてもよい。
【0034】
適当なワックス類の例としては、天然植物性ワックス類、天然動物性ワックス類、ミネラルワックス類、合成ワックス類、官能化ワックス類から選ばれるワックス類が挙げられる。天然植物性ワックス類としては、例えば、カルナウバろう、カンデリラろう、ライスワックス(rice wax)、はぜろう(sumacs wax, Japan wax)、ホホバ油、ベーベリろうが挙げられる。天然動物性ワックス類の例としては、例えば、蜜ろう、ピューニクワックス(punic wax)、ラノリン、ラックワックス、セラックろう、鯨ろうが挙げられる。鉱物系ワックス類としては、例えば、パラフィンろう、微晶ろう(ミクロクリスタリンろう)、モンタンろう、地ろう、セレシンろう、ペトロラタムワックス、石油ろうが挙げられる。合成ワックス類としては、例えば、フィッシャー・トロプシュワックス、アクリラートワックス、脂肪酸アミドワックス、シリコーンワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックス、ポリエチレンワックス、高級脂肪酸と高級アルコールから得たエステルワックス類(ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニルなど)、高級脂肪酸と1価または多価低級アルコールから得たエステルワックス類(ステアリン酸ブチル、オレイン酸プロピル、モノステアリン酸グリセリド、ジステアリン酸グリセリド、テトラベヘン酸ペンタエリトリトールなど)、高級脂肪酸と多価アルコールマルチマ(multimer)から得たエステルワックス類(モノステアリン酸ジエチレングリコール、ジステアリン酸ジグリセリル、ジステアリン酸ジプロピレングリコール、テトラステアリン酸トリグリセリルなど)、ソルビタン高級脂肪酸エステルワックス類(モノステアリン酸ソルビタンなど)、コレステロール高級脂肪酸エステルワックス類(ステアリン酸コレステリルなど)、ポリプロピレンワックス、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0035】
一部の実施の形態において、ワックスは、Allied ChemicalおよびBaker Petroliteより市販のポリプロピレン類およびポリエチレン類(例えば、Baker Petrolite製のPOLYWAX(登録商標)ポリエチレンワックス類)、Michelman Inc.およびDaniels Products Company製のワックスエマルション類、Eastman Chemical Products, Inc.より市販のEPOLENE N-15、三洋化成工業(株)製のVISCOL 550-P(低質量平均分子量ポリプロピレン)、および同様の材料から選ばれる。市販のポリエチレン類は一般に、例えば、約500から約2,000、例えば、約1,000から約1,500の分子量(Mw)を持ち、使用する市販のポリプロピレン類は、例えば、約1,000から約1万の分子量を持つ。官能化ワックス類の例としては、アミン類、アミド類、イミド類、エステル類、第4級アミン類、カルボン酸類、または、アクリルポリマエマルション、例えば、JONCRYL 74、89、130、537、538(全て、Johnson Diversey, Inc.製)、および、塩素化ポリエチレン類およびポリプロピレン類(Allied Chemical、Petrolite CorporationおよびJohnson Diversey, Inc.より市販)が挙げられる。ポリエチレンおよびポリプロピレン組成物は、英国特許第1,442,835号に記載のものから選ぶことができる。
【0036】
トナーに含まれるワックスはどのような量であってもよく、例えば、乾燥ベースで、トナーの約1から約25質量%、例えば、トナーの約3から約15質量%、トナーの約5から約20質量%、またはトナーの約5から約11質量%である。
【0037】
トナーにはまた、少なくとも1つ着色剤が含まれてもよい。例えば、本件で用いる着色剤または顔料としては、顔料、染料、顔料と染料との混合物、顔料の混合物、染料の混合物などが挙げられる。簡単にするため、本件で用いる用語“着色剤”は、特定の顔料または他の着色剤成分が指定されていない限り、このような着色剤、染料、顔料、およびこれらの混合物を含むものとする。着色剤は、例えば、顔料、染料、これらの混合物、カーボンブラック、マグネタイト、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、レッド、グリーン、ブルー、ブラウン、およびこれらの混合物を含むもので、その量は、例えば、組成物の総質量の約0.1から約35質量%、例えば、約1から約25質量%である。
【0038】
カーボンブラック、シアン、マゼンタ、および/またはイエロー着色剤などの着色剤は、所望の色とするのに十分な量でトナーに加えればよい。一般に、顔料または染料の使用量は、例えば、固体ベースで、トナー粒子の約1から約35質量%、例えば、約5から約25質量%または約5から約15質量%であるが、この範囲を超える量を用いてもよい。
【0039】
トナー製造のためのエマルション凝集法で用いられる凝析剤(coagulant)としては、1価金属凝析剤、2価金属凝析剤、ポリイオン凝析剤などが挙げられる。ここでいう“ポリイオン凝析剤”とは、塩または酸化物、例えば、少なくとも3、少なくとも4、または少なくとも5の原子価を持つ金属種から生じた金属塩または金属酸化物である凝析剤を指す。適当な凝析剤としては、例えば、アルミニウムを材料とした凝析剤、例えば、ポリフッ化アルミニウムおよびポリ塩化アルミニウム(PAC)などのポリハロゲン化アルミニウム類、ポリスルホケイ酸アルミニウム(PASS)などのポリケイ酸アルミニウム類、ポリ水酸化アルミニウム、ポリリン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなどが挙げられる。その他の適当な凝析剤としては、チタン酸テトラアルキル類、ジアルキルスズオキシド、テトラアルキルスズオキシドヒドロキシド、ジアルキルスズオキシドヒドロキシド、アルミニウムアルコキシド類、アルキル亜鉛、ジアルキル亜鉛、酸化亜鉛、酸化第1スズ、ジブチルスズオキシド、ジブチルスズオキシドヒドロキシド、テトラアルキルスズなどが挙げられる。凝析剤がポリイオン凝析剤である場合、凝析剤は、どのような所望の数のポリイオン原子を含むものでもよい。例えば、適当なポリアルミニウム化合物は、化合物中に約2から約13個、例えば、約3から約8個のアルミニウムイオンを含んでいる。
【0040】
凝析剤は、粒子を凝集させる際にトナー粒子に加えればよい。このため、凝析剤はトナー粒子中に存在してもよく、その量は、例えば、外部添加剤を除く乾燥質量ベースで、トナー粒子の0から約5質量%、例えば、トナー粒子の約0質量%以上から約3質量%である。
【0041】
本件に開示の非晶性ポリエステル樹脂を含むエマルション凝集トナー粒子の製造には、どのような適当なエマルション凝集法を用いてもよく、またその方法に制限無く変更を加えることができる。これらの方法は一般に、例えば、ポリマまたは樹脂を含むエマルションと、必要に応じて1つ以上のワックス類と、必要に応じて1つ以上の着色剤と、必要に応じて1つ以上の界面活性剤と、必要に応じた凝析剤と、1つ以上の必要に応じた追加の添加剤とを混合してスラリとする工程と、スラリを加熱して、スラリ中で、凝集した粒子を生成する工程と、pHを調節して、粒子の凝集を止める工程と、スラリ中で凝集粒子を加熱し、粒子を合一させてトナー粒子とする工程と、次に、得られたエマルション凝集トナー粒子を、回収し、必要に応じて洗浄し、必要に応じて乾燥する工程とを含む、基本的な製造工程を含んでいる。
【0042】
本トナー粒子は、例えば、約0.920から約0.999、例えば、約0.940から約0.980、約0.962から約0.980、または約0.965以上から約0.990の真円度を持つ。1.000の真円度とは、完全に丸い球体を指す。真円度は、例えば、Sysmex FPIA 2100分析器で測定する。
【0043】
エマルション凝集法では、トナー中の微細粒子と粗大粒子の両者の量を制限して、トナーの粒度分布を非常によく制御することができる。一部の実施の形態において、本トナー粒子は、例えば、約1.15から約1.40、例えば、約1.15から約1.25または約1.20から約1.35の下位(lower)数比幾何学的標準偏差(GSDn)という、比較的狭い粒度分布を持つ。本トナー粒子はまた、例えば、約1.15から約1.35、例えば、約1.15から約1.21または約1.18から約1.30の範囲の上位(upper)体積幾何学的標準偏差(GSDv)を示す。
【0044】
本トナー粒子は、例えば、約3から約25μm、例えば、約4から約15μmまたは約5から約12μmの体積平均直径(“体積平均粒径”または“D50v”ともいう)を持つ。
【0045】
50v、GSDv、GSDnは、製造者の指示に従って操作した、Beckman Coulter Multisizer 3などの測定装置を用いて求める。代表的サンプリングは次のように行う。少量のトナー試料(約1g)を取って25μmのふるいに通し、等張液に加えて約10%の濃度とする。次に、この試料をBeckman Coulter Multisizer 3にかける。
【0046】
本トナー粒子は、例えば、約105から約170、例えば、約110から約160SF1aの形状係数(shape factor)を持つ。走査型電子顕微鏡法(SEM)を用い、SEMと画像解析(IA)により、トナーの形状係数分析を行った。次の形状係数(SF1a)方程式:SF1a=100πd/(4A)を用いて、平均的な粒子の形状を定量化する。式中、Aは粒子の面積であり、dはその長軸である。完全に丸い、または球状の粒子は、正確に100の形状係数を持つ。形状係数(SF1a)は、形がより不規則に、または形が引き延ばされて表面積が大きくなるほど増大する。
【0047】
トナー粒子の特性は、前述の装置および手法に限らず、どのような適当な手法および装置で求めてもよい。
【0048】
本トナー粒子は、例えば、約2,500から約6万ダルトンの範囲の質量平均分子量(Mw)と、約1,500から約18,000ダルトンの数平均分子量(Mn)と、約1.7から約10のMWD(トナー粒子のMnに対するMwの比であって、ポリマの多分散性または幅の指標である)を持つ。シアンおよびイエロートナーでは、トナー粒子は、例えば、約2,500から約45,000ダルトンのMwと、約1,500から約15,000ダルトンのMnと、約1.7から約10のMWDを示すことができる。ブラックおよびマゼンタでは、トナー粒子は、例えば、約2,500から約45,000ダルトンのMwと、約1,500から約15,000ダルトンのMnと、約1.7から約10のMWDを示すことができる。
【0049】
更に、所望ならば、本トナーは、ラテックスバインダの分子量と、エマルション凝集法で得られたトナー粒子の分子量との間で、特定の関係を持つことができる。当該技術で理解されているように、処理の間にバインダは架橋し、架橋の程度は処理の間に制御することが可能である。この関係は、Mwの最も高いピークを示している、バインダの分子ピーク値(Mp)に、最もよく見ることができる。本発明において、バインダは、例えば、約5,000から約3万ダルトン、例えば、約7,500から約29,000ダルトンの範囲にMp値を持つことができる。このバインダから調製したトナー粒子も、例えば、約5,000から約32,000、例えば、約7,500から約31,500ダルトンに高い分子ピークを示し、これは、分子ピークが、着色剤などの他の成分よりも、バインダの性質によって決まることを示している。
【0050】
本発明に従って製造されたトナーは、極端な相対湿度(RH)条件に曝された場合に、優れた荷電特性を持つことができる。低湿度ゾーン(Cゾーン)は、例えば、約12℃/15%RHであり、高湿度ゾーン(Aゾーン)は、例えば、約28℃/85%RHである。本発明のトナーは、例えば、約−2μC/gから約−50μC/g、例えば、約−4μC/gから約−35μC/gの親核(parent)トナー電荷/質量比(Q/M)と、表面添加剤混合後には、例えば、−8μC/gから約−40μC/g、例えば、約−10μC/gから約−25μC/gの最終トナー荷電性を持つ。
【0051】
本トナーは、54℃で、例えば、約0%から約60%、例えば、約5%から約20%、約0%から約10%、または約5%の熱凝集(heat cohesion)を示す。本トナーは、55℃で、例えば、約0%から約80%、例えば、約5%から約20%、約0%から約60%、または約8%の熱凝集を示す。本トナーは、56℃で、例えば、約0%から約90%、例えば、約5%から約30%、約0%から約70%、または約20%の熱凝集を示す。
【0052】
本トナーは、例えば、約100℃から約140℃、例えば、約110℃から約130℃または約115℃から約120℃のコールドオフセット温度を示す。
【0053】
本トナー組成物は、最小定着温度(MFT)で測定された、BYK 75度ミクロ光沢計による測定で、例えば、約10から約50光沢単位(gloss units)、例えば、約20から約40光沢単位または約25から約35光沢単位の光沢を持つ。“光沢単位(gloss unit)”とは、普通紙(Xerox 90 gsm COLOR XPRESSIONS+紙またはXerox 4024紙など)上で測定した、ガードナー光沢単位(Gardner Gloss Units:ggu)を指す。本トナーは、例えば、約170℃から約210℃、例えば、約180℃から約200℃または約185℃から約195℃の温度で、40光沢単位(TG40)に達する。本トナーは、例えば、約40gguから約75ggu、例えば、約50gguから約70gguまたは約55gguから約65gguのピーク光沢を持つ。
【0054】
折り曲げ定着(crease fix)MFTは、広い範囲の定着温度で定着した画像を折り畳み、折り畳んだ部分に所定の重量のものを転がして測定する。印刷物は、Duplo D-590ペーパーフォルダなど、市販のフォルダを用いて折り畳んでもよい。次に、紙のシートを開き、紙シートから剥がれ落ちたトナーを表面からぬぐう。次に、剥落した面積を内部参照チャートと比較する。剥落面積が小さいほどトナーの付着性がよいことを示し、基準に適う付着性とするために必要な温度を折り曲げ定着MFTと定義する。本トナー組成物は、例えば、約115℃から約145℃、例えば、約120℃から約140℃または約125℃から約135℃の折り曲げ定着MFTを持つ。
【実施例】
【0055】
<実施例1>
1リットル容量のパールベンチトップ反応器(Parr Bench Top Reactor)に、短経路凝縮器と、窒素流入路と、コントローラに繋いだ磁気撹拌シャフトとを取り付けた。この容器に、292.28gのイソソルビド(IS)と、236.18gのコハク酸(SA)と、0.528gのFascat 4201(ジブチルスズオキシド)とを入れた。容器と中身を窒素でパージし、容器周囲のアルミニウムブロックを加熱して、50分かけて容器の中身を150℃とした。容器の温度が180℃に達すると、反応物のジオールと二酸の重縮合が始まった。1日目に、約44mlの留出物が集められた。この容器を、190℃で一晩加熱し続けた。
【0056】
2日目、温度を220℃に上げ、集められた全留出物はほぼ50mlに達した。ホースで減圧受け器(vacuum receiver)を真空ポンプに繋げ、反応容器内の圧力を6時間かけて大気圧から0.09Torr(約12Pa)まで下げながら、更に留出物を集めた。滴点セル(Dropping Point Cell)(Mettler FP83HT滴点セルの付いた、Mettler FP90中央処理装置)で測定した軟化点の値で確認しながら、減圧下で6時間反応を続け、分子量を上げた。適当な軟化点に達したら、大気圧に戻して反応を止め、ポリマをアルミニウム皿に取り出した。
【0057】
ポリマ樹脂が室温まで冷えたら、ポリマをのみで小さな塊に砕き、少量をM20 IKA Werkeミルで粉砕した。粉砕ポリマを分析して、ゲル浸透クロマトグラフ法(GPC)で分子量を、示差走査熱量測定法(DSC)でガラス転移温度(Tg)を、SR-5000 Rheometric Scientificレオメータで粘度を求めた。酸価(または“中和数”または“酸性度”)は、既知量のポリマ試料を有機溶媒に溶かし、変色指示薬としてフェノールフタレインを用いて既知濃度の水酸化カリウム溶液で滴定して求めた。酸価は、1gの化学物質の中和に必要な水酸化カリウム(KOH)の量(mg)である。この場合、酸価は、ポリエステル分子中のカルボン酸基の量の指標であった。
【0058】
<実施例2>
1リットル容量のパールベンチトップ反応器に、短経路凝縮器と、窒素流入路と、コントローラに繋いだ磁気撹拌シャフトとを取り付けた。この容器に、328.82gのイソソルビド(IS)と、225.85gのコハク酸(SA)と、84.70gのアゼライン酸(AzA)と、0.639gのFascat 4201(ジブチルスズオキシド)とを加えた。この容器と中身を窒素でパージし、容器周囲のアルミニウムブロックを加熱して、50分かけて容器の中身を150℃とした。容器の温度が180℃に達すると、反応物のジオールと二酸の重縮合が始まった。1日目に、約55mlの留出物が集められた。この容器を、190℃で一晩加熱し続けた。
【0059】
2日目、温度を220℃に上げ、集められた全留出物はほぼ65mlに達した。ホースで減圧受け器を真空ポンプに繋げ、反応容器内の圧力を6時間かけて大気圧から0.09Torr(約12Pa)まで下げながら、更に留出物を集めた。滴点セル(Mettler FP83HT滴点セルの付いた、Mettler FP90中央処理装置)で測定した軟化点の値で確認しながら、減圧下で6時間反応を続け、分子量を上げた。適当な軟化点に達したら、大気圧に戻して反応を止め、ポリマをアルミニウム皿に取り出した。
【0060】
ポリマ樹脂が室温まで冷えたら、ポリマをのみで小さな塊に砕き、少量をM20 IKA Werkeミルで粉砕した。粉砕ポリマ試料を、GPC、DSC、レオメータで分析し、酸値も求めた。
【0061】
<実施例3〜実施例5>
反応混合物に加えるイソソルビドとコハク酸とアゼライン酸の量以外は、実施例2と基本的に同じ方法で、実施例3から実施例5のポリマを作った。表1に、使用したそれぞれのモノマの割合(モル/当量)を一覧した。
【0062】
表1に示すように、様々な樹脂の設計を実施した。3つのモノマのそれぞれのモル濃度を変えることで、様々なポリマ組成物および性質が得られる。例えば、ポリマ配合物中においてコハク酸に対してアゼライン酸を多くすると、ガラス転移温度が下がると考えられる。ポリマの配合を調整して、様々な光沢度のトナーを製造することができる。例えば、101〜103℃と軟化点(Ts)の低い樹脂では、105℃以上のTsを持つ樹脂よりも光沢の高いトナーができると考えられる。
【0063】
【表1】

【0064】
<実施例6>
以下に示すように、実施例2の樹脂を用いてトナーを製造した。
【0065】
約1129.6gのジクロロメタンを入れた2リットルのビーカに、112.96gの実施例2の樹脂を量り入れた。この混合物を、室温において約300rpmで撹拌し、樹脂をジクロロメタンに溶解させた。約700gの脱イオン水を入れた3リットルのパイレックス(登録商標)ガラスフラスコ反応器に、1.05gの重炭酸ナトリウムと4.83gのDOWFAX(46.75質量%)とを量り入れた。4リットルのガラスフラスコ反応器中の水溶液を、IKA Ultra Turrax T50ホモジナイザを用い、4,000rpmでホモジナイズした。次に、樹脂溶液を、ゆっくりと水溶液に注ぎ込みながら、この混合物をホモジナイズし続けた。この間、ホモジナイザ速度を8,000rpmに上げ、この状態で約30分間ホモジナイズを行った。ホモジナイズを終えたら、ガラスフラスコ反応器とその中身を加熱マントル内に置き、蒸留装置に繋いだ。混合物を約200rpmで撹拌し、混合物の温度を約1℃/分で50℃まで上げて、混合物からジクロロメタンを留去した。50℃で約180分間、撹拌を続けた後、約2℃/分で室温まで冷した。生成物を25μmのふるいに通した。得られた樹脂エマルションは、水中に約20.80質量%の固体を含むものであり、平均粒径は199.8nmであった。
【0066】
2リットルのビーカに、517.85gの、実施例2の生物系樹脂を含むエマルションと、48gの不飽和CPE樹脂エマルション(UCPE、30質量%)とを加えた。ホモジナイズしながら、凝集剤として、59.74gのAl(SO溶液(1質量%)を加えた。次に、この混合物を2リットルのビュッヒ(Buchi)に移し替え、23.2℃に暖めて、500rpmで凝集させた。コールターカウンタで測定したところ、体積平均粒径は8.68μm、GSDは1.32であった。次に、NaOH(4質量%)を用いて反応スラリのpHを8.39に上げ、トナーの成長を止めた。停止後、合一のため、反応混合物を59.2℃に加熱し、pHを7.59に下げた。合一後、トナーを放冷した。その最終粒径は9.95μm、GSDは1.26、真円度は0.949であった。次に、トナースラリをふるい(25μm)にかけて粗粒子を除き、濾過し、次に洗浄と凍結乾燥とを行った。
【0067】
次の方法を用いて、トナー上の静電電荷を求めた。現像剤を調製するため、75から175μmの粒径と、120μmの中位粒径(medium particle size)と、球状の粒子形を持つ、99%の鉄粉末を、1%のトナーと共に正確に量り取り、この混合物をロールミル上で10分間活性化した。その後、現像剤上の静電電荷を求めた。約5gの活性化した現像剤を、市販のq/m計測器(ノイファールン(Neufahrn)、Epping GmbH製)の、電位計に電気的に接続したハードブローオフセル(hard blow off cell)に入れた。測定セルで用いたふるいのメッシュサイズは50μmであった。これにより、ほぼ全てのトナーが吹き飛ばされ、測定セル中にキャリアが残る。キャリア粒子からほぼ全てのトナーを除き、キャリア粒子を測定セル中に残すため、速い気流(約4000cm/分)と同時に吸引を行った。電位計は、キャリア上の電荷の量を示し、これはトナー粒子上の電荷の量(符号のみが反対)に相当する。q/m値を計算するため、qの絶対量を反対符号と共に使用する。吹き飛ばされたトナーの重さを求めるため、測定セルを計量し、この重さを用いて静電電荷(q/m)を算出した。荷電の結果(q/m)は、Aゾーン(28℃/85%RH)で12、Cゾーン(10℃/15%RH)では34であった。
【0068】
次の方法を用いて、トナーの熱凝集を求めた。5gのトナーを蓋なしの皿に入れ、54℃、50%RHの環境チャンバ内で状態調節した。24時間後、試料を取り出し、30分間、周囲条件に順化させた。再順化した試料を、予め計量しておいた、上が1,000μm、下が106μmの、2つのメッシュのふるいを含む、積み重ねたふるいに通した。ふるいは、ホソカワフローテスタを用い、振幅1mmで90秒間振動させた。振動終了後、ふるいを再び計量し、開始時の重さとの割合として、2つのふるい上に残っているトナーの総量からトナーの熱凝集を算出した。測定されたこのトナーの熱凝集は、僅かに、54℃で5%、55℃で8%であった。
【0069】
DuPont示差走査熱量計(DSC)を使用し、10℃/分の温度勾配で測定した、本トナーのオンセットガラス転移温度は、52.6℃であった。
【0070】
13,000rpmで30秒間、EA粒子を、EA HG添加剤パッケージと混合した。改造したDC12プリンタ(S/N=FU0−025042)を使用して、90gsmCX+(Color Xpressions+)無コート紙の上に、約0.50mg/cmの量で、更に、120gsmDCEG(Digital Color Elite Gloss)コート紙に、未定着の画像を形成した。より均一な画像品質が得られるよう、公称(0.48mg/cm)よりも僅かに高いトナー質量面積(TMA)を用いた。現像剤の投入量は、35gのトナーと、365gのDnieperキャリアである。定着の間の環境条件は、TAPPI室内環境(約24℃、約50%RH)であった。光沢、折り目、ホットオフセットに使用した対象画像は、正方形(6.35cm×6.35cm)で、ページの中央付近に設けた。75gsm4200紙、30枚を定着器に通して、オイル速度と定着ローラ温度を安定化させた。30枚のシートを通した直後に、2枚の未定着画像を輸送ベルト上に置いて定着器に通した。定着ローラの処理速度は、468mm/秒(100PPM)、定着ローラのニップ幅は約14.0mm/秒で、公称滞留時間は30msであった。
【0071】
CX+紙上、対照トナー(iGen3シアントナー) は、149℃でコールドオフセット (CO)が始まり、これは以前の結果と一致する。供試したトナーは、114℃でコールドオフセットが起きた。
【0072】
非コートCX+紙上、供試トナーは、188℃で40光沢単位(TG40)に達し、このトナーのピーク光沢は54gguであった。DCEG紙上、供試トナーは、181℃で40光沢単位(TG40)に達し、このトナーのピーク光沢は40gguであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性ポリエステル樹脂の製造法であって、
前記製造法は、
D−グルコースからイソソルビドを合成する工程と、
液内培養嫌気的発酵法によって得られたコハク酸と、クロム酸を用いたオレイン酸の酸化的開裂、またはオゾン分解によって生成したアゼライン酸と、から成る群より選ばれる少なくとも1つの二酸を得る工程と、
触媒存在下で、D−グルコースから合成した前記イソソルビドを、前記コハク酸、前記アゼライン酸、または前記コハク酸と前記アゼライン酸との混合物と重縮合させて、非晶性ポリエステル樹脂を得る工程と、
を含むことを特徴とする非晶性ポリエステル樹脂の製造法。
【請求項2】
トナー粒子の製造法であって、
前記製造法は、
スラリを生成する工程と、
前記スラリを加熱して、前記スラリ中で、凝集した粒子を生成する工程と、
pHを調整して、前記粒子の凝集を止める工程と、
前記スラリ中で前記凝集粒子を加熱し、前記粒子を合一させてトナー粒子とする工程と、
を含み、
前記スラリは、
非晶性ポリエステル樹脂を含むエマルションと、
必要に応じて、ワックスと、
必要に応じて、着色剤と、
必要に応じて、界面活性剤と、
必要に応じた凝析剤と、
1つ以上の必要に応じた追加の添加剤と、
を混合することによって生成し、
前記非晶性ポリエステル樹脂は、
D−グルコースからイソソルビドを合成する工程と、
液内培養嫌気的発酵法によって得られたコハク酸と、クロム酸を用いたオレイン酸の酸化的開裂、またはオゾン分解によって生成したアゼライン酸と、から成る群より選ばれる少なくとも1つの二酸を得る工程と、
触媒存在下で、D−グルコースから合成した前記イソソルビドを、前記コハク酸、前記アゼライン酸、または前記コハク酸と前記アゼライン酸との混合物と重縮合させて、非晶性ポリエステル樹脂を得る工程と、
を含む方法によって得られることを特徴とするトナー粒子の製造法。
【請求項3】
非晶性ポリエステル樹脂と、
必要に応じた着色剤と、
必要に応じたワックスと、
を含み、
前記非晶性ポリエステル樹脂は、イソソルビドと、コハク酸とアゼライン酸とから成る群より選ばれる少なくとも1つの二酸と、の重縮合生成物であることを特徴とするトナー粒子。

【公開番号】特開2011−180591(P2011−180591A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37795(P2011−37795)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】