説明

非晶質ポリ(D,L−ラクチド)被膜

メソ−D,L−ラクチドなどの出発原料から形成される非晶質ポリ(D,L−ラクチド)を含む材料から形成又は被覆される植込式装具を提供する。植込式装具は、アテローム性動脈硬化症、血栓症、再狭窄、出血、血管解離若しくは穿孔、血管動脈瘤、不安定プラーク、慢性完全閉塞、卵円孔開存、跛行、静脈及び人工グラフトに対する吻合部増殖、胆管閉塞、尿管閉塞、腫瘍性閉塞、及びこれらの組み合わせなどの障害の治療、軽減、予防、又は抑制のために使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の背景]
[技術分野]
本発明は、全般的に、約10%以下の結晶化度を有する非晶質ポリ(D,L−ラクチド)(PDLLA)を含有する材料から形成される、ステント又はステント上の被膜などの被膜又は植込式装具に関する。
[背景の説明]
【0002】
ステントは機械的に上手く作動するが、再狭窄、及びそれ程ではないがステント血栓症の長期的な問題が依然としてある。薬物送達ステントの形での薬理学的治療は、これらの生体から派生する問題に取り組む実行可能な手段と思われる。ステント上に付着したポリマー被膜は、薬物貯蔵体として作用するためにも、薬物の放出を制御するためにも働く。市販のポリマー被覆品の1つは、Boston Scientificによって製造されるステントである。例えば、Boston Scientific Corporationに譲渡された米国特許第5869127号、第6099563号、第6179817号、及び第6197051号には、医療装具を被覆する様々な組成物が記載されている。これらの組成物は、これらの特許に記載のステントに対して生体適合性を高め、場合により生物活性薬剤を含んでいてもよい。Scimed Life Systems,Inc.に対する米国特許第6231590号には、生物活性薬剤、コラーゲン物質、又は他の生物活性薬剤を場合により含有する若しくは他の生体活性薬剤で被覆されたコラーゲン性被膜を含むコーティング組成物が記載されている。
【0003】
生体材料における現在のパラダイムは、インプラント表面上のタンパク質吸着の制御である。部分変性タンパク質の混合層となる無制御のタンパク質吸着は、現在の生体材料を植え込んだ場合の特徴である。このような表面は、フィブロゲン(fibrogen)、免疫グロブリンGなどの吸着した血漿タンパク質由来の様々な細胞結合部位を示す。血小板及び単球/マクロファージ、好中球などの炎症細胞は、これらの表面に接着する。好ましくない事象を、非汚染性表面の使用によって制御することができる。この非汚染性表面は、主にこの表面の親水性により、殆ど又は全くタンパク質を吸収しない材料である。
【0004】
現在の薬物送達ステントのもう1つの制約は、ステントが異物であることに起因する。薬物送達ステントの使用は、再狭窄を制御するための抗増殖性又は抗炎症性薬物の制御放出の使用により成功した。しかしながら、薬物送達ステントは、依然、亜急性血栓症の小さいが無視できない発生率を有する。更に、薬物送達ステントでは、糖尿病などのより過酷な患者の一部、又は小血管病変及び/若しくは長期のび慢性病変を有する患者において特に、再狭窄がゼロの水準にはならなかった。この薬物送達ステントの結果を更に改善するための、生体材料に基づく方策は、ステント被膜中に生体有益性の材料又は表面を使用することによるものである。生体有益性材料は、非汚染性、血液適合性、活発な抗血栓性、又は抗炎症性を、いずれも医薬として活性な薬剤の放出に依らずに示すことによって、装具の生体適合性を高める材料である。
【0005】
ポリ(乳酸)(PLA)は、使用の歴史が長い生体吸収性材料である。生体吸収性材料を使用する負の側面の1つは、遅発性炎症反応である。遅発性炎症反応を起こす理由の1つは、遅い時点での酸性分解生成物のバースト放出である。別の原因は、一度、非晶質ポリマー相が分解した後の、遅い時点でのポリマー結晶子の放出である。D,L−乳酸の重合で生じたポリマーの分解中に、PLAポリマーのステレオコンプレックスが形成できることは文書で十分に裏づけられている。これらのステレオコンプレックスは、鏡像異性的に純粋なポリ(D−乳酸)(PDLA)及びポリ(L−乳酸)(PLLA)のポリマー又はポリマーブロックの共結晶化の結果である(例えば、Ikada,Y.ら、Macromolecules 20:904−06(1987)参照)。研究によれば、これらのステレオコンプレックスが、結晶構造を有することが示された(例えば、Okihara,T.ら、J.Macromol.Sci.Phys.B30(1/1):119−140(1991); Tsuji,H.ら、Macromolecules 24:5651−6(1991)参照)。したがって、L−乳酸及び/又はD−乳酸の同種配列を形成する可能性のあるD,L−乳酸の重合により生成されるPLAによって、遅発性炎症反応が起こる恐れがある。
【0006】
本発明は、植込式装具を被覆するポリマー材料を提供することによってこのような問題に対処する。
[発明の概要]
【0007】
本発明では、植込式装具上の被膜を提供する。この被膜は、D−乳酸及びL−乳酸から形成される非晶質PLAポリマーを含有するが、このポリマーは、L,L−ラクチド及びD,D−ラクチドの50/50のブレンドから作製されたものではない。非晶質PLAポリマーは、約10%以下、約5%以下、約2%以下、約1%以下、約0.5%以下、約0.2%以下、約0.1%以下、約0.05%以下、約0.01%以下、約0.005%以下、又は約0.0001%の結晶化度を有する。本明細書で定義するポリマーは、単独又は別の生体適合性ポリマー及び/若しくは生体有益性材料と組み合わせて使用でき、植込式医療装具上の被膜、又は植込式医療装具それ自体を形成する。幾つかの実施形態では、この被膜又は医療装具は、場合により生物活性薬剤を含む。幾つかの例となる生物活性薬剤は、パクリタキセル、ドセタキセル、エストラジオール、酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣物質、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノTEMPO)、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、ラパマイシン誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチルラパマイシン(エベロリムス)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピルラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチルラパマイシン、及び40−O−テトラゾール−ラパマイシン、40−エピ−(N1−テトラゾリル)ラパマイシン(ABT−578)、ピメクロリムス、メシル酸イマチニブ、ミドスタウリン(midostaurin)、クロベタゾール、これらのプロドラッグ、これらの供薬剤(co−drug)、及びこれらの組み合わせである。植込式装具は、アテローム性動脈硬化症、血栓症、再狭窄、出血、血管解離若しくは穿孔、血管動脈瘤、不安定プラーク、慢性完全閉塞、跛行、静脈及び人工グラフトに対する吻合部増殖、胆管閉塞、尿管閉塞、腫瘍性閉塞、又はこれらの組み合わせなどの障害の治療、軽減、予防、又は抑制のために患者に植え込むことができる。
[詳細な説明]
【0008】
本発明では、植込式装具上の被膜を提供する。この被膜は、L,L−ラクチド及びD,D−ラクチドの50/50のブレンドから作製されたものではないD−乳酸及びL−乳酸から形成される非晶質PLAポリマーを含有する。この非晶質PLAポリマーは、約10%以下、約5%以下、約2%以下、約1%以下、約0.5%以下、約0.2%以下、約0.1%以下、約0.05%以下、約0.01%以下、約0.005%以下、又は約0.0001%の結晶化度を有する。本明細書で定義するポリマーは、単独又は別の生体適合性ポリマー及び/若しくは生体有益性材料と組み合わせて使用でき、植込式医療装具上の被膜、又は植込式医療装具それ自体を形成する。幾つかの実施形態では、被膜又は医療装具は、場合により生物活性薬剤を含む。幾つかの例となる生物活性薬剤は、パクリタキセル、ドセタキセル、エストラジオール、酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣物質、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノTEMPO)、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、ラパマイシン誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチルラパマイシン(エベロリムス)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピルラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチルラパマイシン、40−O−テトラゾールラパマイシン、40−エピ−(N1−テトラゾリル)ラパマイシン(ABT−578)、ピメクロリムス、メシル酸イマチニブ、ミドスタウリン、クロベタゾール、これらのプロドラッグ、これらの供薬剤、及びこれらの組み合わせである。植込式装具は、アテローム性動脈硬化症、血栓症、再狭窄、出血、血管解離若しくは穿孔、血管動脈瘤、不安定プラーク、慢性完全閉塞、跛行、静脈及び人工グラフトに対する吻合部増殖、胆管閉塞、尿管閉塞、腫瘍性閉塞、又はこれらの組み合わせなどの障害を治療又は予防するために患者に植え込むことができる。
【0009】
ポリマー結晶化度は、ポリマーの形態を規定するために一般に使用する。材料の結晶状態は、幾つかの様々な方法、例えば、密度、加熱時のエンタルピー変化若しくは自由エネルギー変化、分光法の組み合わせ、顕微鏡における特定のレジストリ(registry)面の存在率で規定することができる。例えば、XRD(X線回折)に関しては、結晶は、完全な3次元配列として規定される。完全な3次元配列とは、その構造を局所的に(3次元繰り返し単位で)表すことにより構造全体を独自に表し得るように、その構造が全方向に繰り返すことを意味する。ポリマーでは、結晶化度は、同じ配向を有する同一の繰り返し単位からなる3次元配列の、ポリマー領域中での存在率を反映する。最も直接的な証拠は、サンプルが1つ又は複数の鋭い回折ピークを表す場合のX線回折の研究から得られるが、DSCによる融点の決定などの他の方法も使用する。ポリマーの結晶化度は、ポリマー構造及び分子間力、例えば、ポリマー分子の水素結合又はファンデルワールス力に依存する。ポリマー中の結晶化度の十分な考察は、Odian,George,Principles of Polymerization,第3版,John Wiley & Sons,New York,1991,p.27に示されている。
[非晶質PLAの形成]
【0010】
ステレオコンプレックスの形成には、L−乳酸及びD−乳酸の同種配列の存在が必要である。一連の所与の条件(例:温度、圧力、溶媒(複数も)、及び濃度)下において、PLAポリマー中のL−ラクチド及びD−ラクチドの同種配列が存在する程度が高い程、PLAがステレオコンプレックスを形成する傾向が一般に高くなり、より高い結晶化度を有するPLAポリマーを生成するであろう。したがって、低い結晶化度を有するPLAポリマーを形成するためには、PLAポリマー中のL−ラクチド及びD−ラクチドの同種配列の程度を下げることが望ましい。
【0011】
PDLLAポリマーは、触媒としてオクタン酸錫を使用してD,L−ラクチドの重合によって一般に合成する。3種類のD,L−ラクチド、即ちメソ−D,L−ラクチド、ラセミ−D,L−ラクチド、及びブレンド−D,L−ラクチドがある(式I〜III)。
【化1】

【0012】
本発明の一実施形態では、非晶質PLAポリマーは、メソ−ラクチドの重合によって合成することができる(スキームI)。
【化2】


メソ−D,L−ラクチドを使用して、D又はLが連続する最大数は2である。したがって、ポリマー中に2を超えるD又はLを有する同種配列がない。
【0013】
別の実施形態では、非晶質PLAポリマーは、ラセミ−ラクチドの重合によって合成することができる(スキームII)。
【化3】


D−ラクチド及びL−ラクチドの様々な組み合わせの分布は、ポリマー配列の長さに依存するが、統計学的に予測可能である。例えば、8つのラクテートの配列では、全てのD又は全てのLの分布を表1に示す。
【表1】

【0014】
本発明の別の実施形態では、非晶質PLAポリマーは、ブレンド−D,L−ラクチドの重合によって合成することができる。統計分布によれば、D−ラクチド50%及びL−ラクチド50%のブレンドは、D,D−ラクチド25%、メソ−D,L−ラクチド50%、及びL−ラクチド25%の分布を有し(式III)、これは、本質的にメソ−D,L−ラクチドとラセミ−D,L−ラクチドとの混合物である。したがって、ブレンド−D,L−ラクチドの重合により、ラクテートの同種配列を有し、そのポリマー中におけるその数及びサイズが、メソ−D,L−ラクチド及びラセミ−D,L−ラクチドの重合からの各PLAポリマーの配列の間にあるPLAポリマーが生成するであろう。
【0015】
本発明で使用する場合のD,L−ラクチドは、環状ラクチドである。環状ラクチドの調製は、当分野において十分に実証されており、また、環状ラクチドは、(1)乳酸を重縮合による、低MWのポリ(乳酸)の作製、(2)昇温、加圧によるポリ(乳酸)の解重合、及び(3)形成された環状ラクチドの蒸留分離、によって一般に作製される。
【0016】
メソ−D,L−ラクチドは、上記手順に従って作製される環状ラクチドから分離することができる。D,D/L,L−ラクチドの双極子モーメント及びメソ−D,L−ラクチドの双極子モーメントは異なる。したがって、メソ−D,L−ラクチドは、蒸留、再結晶、及び/又はクロマトグラフィーなどの従来の分離方法によってD,D/L,L−ラクチドから分離することができる。
【0017】
非晶質PLAポリマーは、ステントなどの植込式装具又はステントなどの植込式装具上の被膜を形成するために使用することができる。幾つかの実施形態では、非晶質PLAポリマーは、単独又は別の生体適合性ポリマー、場合により生体有益性材料及び/若しくは生物活性薬剤と組み合わせて使用することができる。
[被覆剤の構成]
【0018】
幾つかの実施形態では、ポリ(メソ−D,L−ラクチド)(メソ−DLPLA)は、薬物送達ステント上に形成される被膜などの被膜とステントなどの吸収性の十分な装具との双方に対して吸収速度をin vivoで調節するために使用することができる。メソ−DLPLA組成物は、被膜又は吸収性装具中に約5%〜約100%の範囲にあり得る。例えば、メソ−DLPLAは、ラセミ−ポリ(D,L−ラクチド)(ラセミ−DLPLA)と組み合わせて使用することができ、以下の構成スキームのいずれかを有する被膜を形成する。
(1)メソ−DLPLAとラセミ−DLPLAとのブレンド、
(2)被膜の吸収速度を調節する及び/又はもしあれば薬物の放出速度を調節するための、外層としてのメソ−DLPLAの層及び内層としてのラセミ−DLPLAの層又はその逆、並びに
(3)メソ−DLPLA及びラセミ−DLPLAを交互にしたもの。
【0019】
或いは、メソ−DLPLAは、以下の構成スキームのいずれかを各々独立に又は組み合わせて有する被膜を形成するために、シンジオタクチックポリ(L−ラクチド)(LPLA)と使用することができる。
(1)メソ−DLPLAとLPLAとのブレンド、
(2)被膜の吸収速度を調節する及び/又はもしあれば薬物の放出速度を調節する、外層としてのメソ−DLPLAの層及び内層としてのLPLAの層又はその逆、並びに
(3)メソ−DLPLA及びLPLAを交互にしたもの。
【0020】
幾つかの実施形態では、メソ−DLPLAは、以下の構成スキームのいずれかを各々独立に又は組み合わせて有する、LPLAを有する被膜を形成するために、ラセミ−DLPLAを有する組成物を形成することができる。
(1)LPLAとメソ−DLPLA及びラセミ−DLPLAを含む組成物とのブレンドと、
(2)LPLAを含む層と交互になる、メソ−DLPLA及びラセミ−DLPLAを含む層。この交互構造は、DLPLAを被覆するか又は押出するかによって施し得る。
【0021】
一実施形態では、メソ−DLPLAは、以下の構成スキーム
(1)LPLAとメソ−DLPLA及びLPLA−co−DLPLAを含む組成物とのブレンドと、
(2)LPLAを含む層と交互になる、メソ−DLPLA及びLPLA−co−DLPLAを含む層。
【0022】
シンジオタクチックLPLAは、キラル触媒(例えば、Ovit,T.M.ら、Stereochemistry of lactide polymerization with chiral catalysts: new opportunities for stereocontrol using polymer exchange mechanisms,J Am Chem Soc.124(7):1316−26(2002)参照)を使用することによってメソ−ラクチドから合成することができる。
【0023】
メソ−ポリ(D,L−ラクチド)を有する被膜は、様々な有利な特性を有し得る。例えば、メソ−ポリ(D,L−ラクチド)を含むと、被膜中のポリマー基質の吸収速度が増加し、また、メソ−ポリ(D,L−ラクチド)を含むと、ポリマー中にD−D−D又はL−L−Lのブロック性がないためポリマー基質の水の吸収が高まる。したがって、ポリマー基質の吸収速度及び水の吸収を変化させることによって、ポリマー基質内にカプセル化した薬物の放出速度を調節することができる。更に、ポリマー基質の吸収速度及び水の吸収の増加によって、特定の用途において関連する機械特性のために高MWの出発原料を使用することができる。
[メソ−DLPLA以外の生体適合性ポリマー]
【0024】
本発明の幾つかの実施形態では、メソ−DLPLAは、メソ−DLPLAではない1種又は複数の追加の生体適合性ポリマーと組み合わせて使用することができる。追加の生体適合性ポリマーは、生分解性(生体侵食性(bioerodable)又は生体吸収性の双方)又は非分解性であり、親水性又は疎水性であり得る。親水性は、約8.5(cal/cm)1/2を超えるδ(cal/cm)1/2値(ヒルデブランド溶解パラメータ)、例えば、約8.5(cal/cm)1/2、約9.5(cal/cm)1/2、約10.5(cal/cm)1/2、又は約11.5(cal/cm)1/2のδ値を有すると定義される。ヒルデブランド溶解パラメータは、凝集エネルギー密度、又は物質の極性の尺度である。
【0025】
代表的な生体適合性ポリマーには、これに限らないが、ポリ(エステルアミド)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリ(3−ヒドロキシプロパノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(3−ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3−ヒドロキシヘプタノエート)、ポリ(3−ヒドロキシオクタノエート)などのポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)、ポリ(4−ヒドロキシブチレート)、ポリ(4−ヒドロキシバレレート)、ポリ(4−ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(4−ヒドロキシヘプタノエート)、ポリ(4−ヒドロキシオクタノエート)などのポリ(4−ヒドロキシアルカノエート)、及びここに記載の3−ヒドロキシアルカノエートモノマー若しくは4−ヒドロキシアルカノエートモノマーのいずれかを含むコポリマー又はこれらのブレンド、ポリポリエステル、ポリ(D,L−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド)、ポリグリコリド、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリカプロラクトン、ポリ(ラクチド−co−カプロラクトン)、ポリ(グリコリド−co−カプロラクトン)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(オルトエステル)、ポリ(酸無水物)、ポリ(チロシンカーボネート)、及びその誘導体、ポリ(チロシンエステル)、及びその誘導体、ポリ(イミノカーボネート)、ポリ(グリコール酸−co−トリメチレンカーボネート)、ポリホスホエステル、ポリホスホエステルウレタン、ポリ(アミノ酸)、ポリシアノアクリレート、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(イミノカーボネート)、ポリウレタン、ポリホスファゼン、シリコーン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリイソブチレン及びエチレン−αオレフィンコポリマー、アクリルポリマー及びコポリマー、ポリ塩化ビニルなどのハロゲン化ビニルポリマー及びコポリマー、ポリビニルメチルエーテルなどのポリビニルエーテル、塩化ポリビニリデンなどのハロゲン化ポリビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルケトン、ポリスチレンなどのポリビニル芳香族、ポリビニルアセテートなどのポリビニルエステル、エチレン−メタクリル酸メチルコポリマー、アクリロニトリル−スチレンコポリマー、ABS樹脂、エチレン−酢酸ビニルコポリマーなどのビニルモノマーの相互間及びオレフィンとのコポリマー、ナイロン66、ポリカプロラクタムなどのポリアミド、アルキド樹脂、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリイミド、ポリエーテル、ポリ(セバシン酸グリセリル)、ポリ(プロピレンフマレート)、ポリ(メタクリル酸n−ブチル)、ポリ(メタクリル酸sec−ブチル)、ポリ(メタクリル酸イソブチル)、ポリ(メタクリル酸tert−ブチル)、ポリ(メタクリル酸n−プロピル)、ポリ(メタクリル酸イソプロピル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸メチル)、エポキシ樹脂、ポリウレタン、レーヨン、レーヨントリアセテート、酢酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、セロハン、硝酸セルロース、プロピオン酸セルロース、セルロースエーテル、カルボキシメチルセルロース、ポリ(エチレングリコール)(PEG)などのポリエーテル、コポリ(エーテルエステル)(例:ポリ(エチレンオキサイド/ポリ(乳酸)(PEO/PLA))、ポリ(エチレンオキサイド)、ポリ(プロピレンオキサイド)などのポリアルキレンオキサイド、ポリ(エーテルエステル)、ポリアルキレンオキサレート、ポリホスファゼン、ホスホリルコリン、コリン、ポリ(アスピリン)、HEMA、メタクリル酸ヒドロキシプロピル(HPMA)、ヒドロキシプロピルメタクリル酸アミド、アクリル酸PEG(PEGA)、メタクリル酸PEG、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)、n−ビニルピロリドン(VP)などのヒドロキシル含有モノマーのポリマー及びコポリマー、メタクリル酸(MA)、アクリル酸(AA)、アルコキシメタクリレート、アルコキシアクリレート、メタクリル酸3−トリメチルシリルプロピル(TMSPMA)などのカルボン酸含有モノマー、ポリ(スチレン−イソプレン−スチレン)−PEG(SIS−PEG)、ポリスチレン−PEG、ポリイソブチレン−PEG、ポリカプロラクトン−PEG(PCL−PEG)、PLA−PEG、ポリ(メタクリル酸メチル)−PEG(PMMA−PEG)、ポリジメチルシロキサン−co−PEG(PDMS−PEG)、ポリ(フッ化ビニリデン)−PEG(PVDF−PEG)、PLURONIC(商標)界面活性剤(ポリプロピレンオキサイド−co−ポリエチレングリコール)、ポリ(テトラメチレングリコール)、ヒドロキシ官能性ポリ(ビニルピロリドン)、コラーゲン、キトサン、アルギン酸塩、フィブリン、フィブリノゲン、セルロース、デンプン、コラーゲン、デキストラン、デキストリン、ヒアルロン酸のフラグメント及び誘導体、ヘパリン、ヘパリンのフラグメント及び誘導体、グリコサミノグリカン(GAG)、GAG誘導体、多糖、エラスチン、キトサン、アルギン酸塩などの生体分子、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。幾つかの実施形態では、ポリマーは、前述のポリマーのいずれか1つを除外してもよい。
【0026】
本明細書で使用する場合、ポリ(D,L−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)、及びポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)という用語は、ポリ(D,L−乳酸)、ポリ(L−乳酸)、ポリ(D,L−乳酸−co−グリコール酸)、及びポリ(L−乳酸−co−グリコール酸)という用語とそれぞれ交換可能で使用することができる。
[生体有益性材料]
【0027】
メソ−DLPLAは、場合により生体有益性材料と共に、吸収性装具、又は被膜を形成することができる。この組み合わせは、混合、ブレンド、又は個別の層中に被覆し得る。本明細書に記載の、被膜に有用な生体有益性材料は、ポリマー材料又は非ポリマー材料となり得る。生体有益性材料は、無毒性、非抗原性、及び非免疫原性であることが好ましい。生体有益性材料は、非汚染性、血液適合性、活発な抗血栓性、又は抗炎症性を、いずれも医薬として活性な薬剤の放出に依らずに示すことによって、装具の生体適合性を高める材料である。
【0028】
代表的な生体有益性材料には、これに限らないが、ポリ(エチレングリコール)などのポリエーテル、コポリ(エーテルエステル)(例:ポリ(エチレンオキサイド/ポリ乳酸)(PEO/PLA))、ポリ(エチレンオキサイド)、ポリ(プロピレンオキサイド)などのポリアルキレンオキサイド、ポリ(エーテルエステル)、ポリアルキレンオキサレート、ポリホスファゼン、ホスホリルコリン、コリン、ポリ(アスピリン)、メタクリル酸ヒドロキシエチル(HEMA)、メタクリル酸ヒドロキシプロピル(HPMA)、ヒドロキシプロピルメタクリル酸アミド、ポリ(エチレングリコール)アクリレート(PEGA)、メタクリル酸PEG、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)、n−ビニルピロリドン(VP)などのヒドロキシル含有モノマーのポリマー及びコポリマー、メタクリル酸(MA)、アクリル酸(AA)、アルコキシメタクリレート、アルコキシアクリレート、メタクリル酸3−トリメチルシリルプロピル(TMSPMA)などのカルボン酸含有モノマー、ポリ(スチレン−イソプレン−スチレン)−PEG(SIS−PEG)、ポリスチレン−PEG、ポリイソブチレン−PEG、ポリカプロラクトン−PEG(PCL−PEG)、PLA−PEG、ポリ(メタクリル酸メチル)−PEG(PMMA−PEG)、ポリジメチルシロキサン−co−PEG(PDMS−PEG)、ポリ(フッ化ビニリデン)−PEG(PVDF−PEG)、PLURONIC(商標)界面活性剤(ポリプロピレンオキサイド−co−ポリエチレングリコール)、ポリ(テトラメチレングリコール)、ヒドロキシ官能性ポリ(ビニルピロリドン)、アルブミン、フィブリン、フィブリノゲン、セルロース、デンプン、コラーゲン、デキストラン、デキストリン、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸のフラグメント及び誘導体、ヘパリン、ヘパリンのフラグメント及び誘導体、グリコサミノグリカン(GAG)、GAG誘導体、多糖、エラスチン、キトサン、アルギン酸塩、シリコーン、PolyActive(商標)などの生体分子、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。幾つかの実施形態では、この被膜は、前述のポリマーのいずれか1つを除外してもよい。
【0029】
PolyActive(商標)という用語は、柔軟性のあるポリ(エチレングリコール)及びポリ(ブチレンテレフタレート)のブロック(PEGT/PBT)を有するブロックコポリマーを指す。PolyActive(商標)は、PEG及びPBTのようなセグメントを有するAB、ABA、BABコポリマー(例:ポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリ(ブチレンテレフタレート)−ブロック−ポリ(エチレングリコール)(PEG−PBT−PEG)を含む意図がある。
【0030】
ある好ましい実施形態では、生体有益性材料は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)又はポリアルキレンオキサイドなどのポリエーテルであり得る。
[生物活性薬剤]
【0031】
メソ−DLPLAは、場合により1種又は複数の生物活性薬剤と共に、吸収性装具又は被膜を形成することができる。これらの生物活性薬剤は、治療薬、予防薬、診断薬である任意の薬剤となり得る。これらの薬剤は、抗増殖特性又は抗炎症特性を有し、或いは細胞増殖抑制剤と同様に、抗腫瘍性、抗血小板形成性、抗凝血性、抗フィブリン性、抗血栓性、抗有糸分裂性、抗菌性、抗アレルギー性、抗酸化性などの他の特性を有することができる。好適な治療薬及び予防薬の例には、無機及び有機合成化合物、タンパク質及びペプチド、多糖及び他の糖類、脂質と、治療的、予防的、又は診断的活性を有するDNA及びRNA核酸配列が挙げられる。核酸配列には、遺伝子、転写を抑制する相補的DNAと結合するアンチセンス分子、及びリボザイムが挙げられる。他の生物活性薬剤の他の幾つかの例には、抗体、受容体リガンド、酵素、接着性ペプチド、血液凝固因子、阻害薬、又はストレプトキナーゼ、組織プラスミノーゲン活性化因子などの血栓溶解薬、免疫化のための抗原、ホルモン及び成長因子、アンチセンスオリゴヌクレオチドなどのオリゴヌクレオチドと、遺伝子治療に使用するためのリボザイム及びレトロウイルスベクターが挙げられる。抗増殖剤の例には、ラパマイシン及びその官能性又は構造性誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチルラパマイシン(エベロリムス)及びその官能性又は構造性誘導体、パクリタキセル及びその官能性又は構造性誘導体が挙げられる。ラパマイシン誘導体の例には、メチルラパマイシン(ABT−578)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピルラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチルラパマイシン、及び40−O−テトラゾールラパマイシンが挙げられる。パクリタキセル誘導体の例には、ドセタキセルが挙げられる。抗腫瘍薬及び/又は抗有糸分裂薬の例には、メトトレキサート、アザチオプリン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、フルオロウラシル、塩酸ドキソルビシン(例:Pharmacia & Upjohn製Adriamycin(登録商標)、Peapack NJ.)、及びマイトマイシン(例:Bristol−Myers Squibb Co.製Mutamycin(登録商標)、Stamford,Conn.)が挙げられる。このような抗血小板薬、抗凝血剤、抗フィブリン、及び抗トロンビンの例には、ヘパリンナトリウム、低分子量ヘパリン、ヘパリノイド、ヒルジン、アルガトロバン、フォルスコリン、バピプロスト、プロスタサイクリン及びプロスタサイクリン類似物、デキストラン、D−phe−pro−arg−クロロメチルケトン(合成抗トロンビン)、ジピリダモール、血小板膜糖タンパク質IIb/IIIa受容体アンタゴニスト抗体、組み換えヒルジン、Angiomax a(Biogen,Inc.製、Cambridge,Mass.)などのトロンビン阻害薬、カルシウムチャネル遮断剤(ニフェジピンなどの)、コルヒチン、線維芽細胞成長因子(FGF)拮抗薬、魚油(オメガ3−脂肪酸)、ヒスタミン拮抗薬、ロバスタチン(HMG−CoA還元酵素阻害薬、コレステロール低下薬、商品名Mevacor(登録商標)、Merck & Co.製、Whitehouse Station,NJ)、モノクローナル抗体(血小板由来成長因子(PDGF)受容体に特異的な抗体などの)、ニトロプルシド、ホスホジエステラーゼ阻害薬、プロスタグランジン阻害薬、スラミン、セロトニン阻害薬、ステロイド、チオプロテアーゼ阻害薬、トリアゾロピリミジン(PDGF拮抗薬)、一酸化窒素若しくは一酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣物質、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノTEMPO)、エストラジオール、抗癌剤、様々なビタミンなどの栄養補助食品、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。ステロイド性及び非ステロイド性抗炎症薬を含む抗炎症薬の例には、タクロリムス、デキサメタゾン、クロベタゾール、及びこれらの組み合わせが挙げられる。このような細胞分裂阻害物質の例には、アンギオペプチン、カプトプリルなどのアンギオテンシン変換酵素阻害薬(例:Capoten(登録商標)及びCapozide(登録商標)、Bristol−Myers Squibb Co.製、Stamford,Conn.)、シラザプリル又はリシノプリル(例:Prinivil(登録商標)及びPrinzide(登録商標)、Merck & Co.,Inc.製、Whitehouse Station,NJ)が挙げられる。抗アレルギー剤の例は、ペミロラストカリウムである。好適となり得る他の治療物質又は治療薬には、α−インターフェロン、ピメクロリムス、メシル酸イマチニブ、ミドスタウリン、生物活性RGD、及び遺伝子組み換え上皮細胞が挙げられる。前述の物質は、これらのプロドラッグ又は共薬剤の形態でも使用することができる。前述の物質は、例として挙げるものであり、これに限定するものではない。現在市販されている、又は将来開発される可能性のある他の活性薬剤も、同様に適用できる。
【0032】
好ましい治療効果が生じるのに必要な生物活性薬剤の投与量又は濃度は、生物活性薬剤が毒性作用を起こす水準未満であり、治療結果が得られない水準以上であるべきである。生物活性薬剤の投与量又は濃度は、患者の特定の環境、外傷の種類、所望の治療の性質、投与成分が血管部位に残存する時間、並びに他の活性薬剤を採用する場合、その物質の性質及び種類又は物質の組み合わせなどの因子に依存し得る。治療有効投与量は、例えば、適切な動物モデル系の血管に注入し、免疫組織化学的蛍光顕微鏡法若しくは電子顕微鏡法を使用して、薬剤を検出しその効果を認めること、又は適切なin vitroでの研究を実施することによって経験的に決定することができる。投与量を決定する標準薬理試験手順は、一般当業者によって理解されている。
[植込式装具の例]
【0033】
本発明で使用する場合、植込式装具は、ヒト又は動物の患者に植え込み得る任意の好適な医療用基材であり得る。このような植込式装具の例には、自己拡張型ステント、バルーン拡張型ステント、ステントグラフト、グラフト(例:大動脈グラフト)、人工心臓弁、卵円孔開存症閉鎖装具、脳脊髄液誘導法、ペースメーカー電極、及び心内膜リード(例:Santa Clara,CAのGuidant Corporationから入手できるFINELINE及びENDOTAK)。この装具の基礎構造は、実質的に任意のデザインであり得る。この装具は、金属材料又はこれに限らないがコバルトクロム合金(ELGILOY)、ステンレス鋼(316L)、高窒素ステンレス鋼などの合金、例えば、BIODUR 108、コバルトクロム合金L−605、「MP35N」、「MP20N」、ELASTINITE(ニチノール)、タンタル、ニッケル−チタン合金、プラチナ−イリジウム合金、金、マグネシウム、或いはこれらの組み合わせから作製できる。「MP35N」及び「MP20N」は、Jenkintown,PAのStandard Press Steel Co.から入手できる、コバルト、ニッケル、クロム及びモリブデンの合金ついての商標である。「MP35N」は、コバルト35%、ニッケル35%、クロム20%及びモリブデン10%からなる。「MP20N」は、コバルト50%、ニッケル20%、クロム20%及びモリブデン10%からなる。生体吸収性又は生体安定性ポリマーから作製される装具も、本発明の実施形態で使用できよう。ステントなどの装具それ自体も、記載する発明のポリマー又はポリマーのブレンドから製造できる。
[使用方法]
【0034】
本発明の実施形態によれば、記載する様々な実施形態の被膜又は装具は、植込式装具又はプロテーゼ、例えば、ステント上に形成することができる。1種又は複数の活性薬剤を含む被膜の場合、この薬剤は、ステントなどの医療装具上に、その装具をデリバリー及び拡張する間保持し、所望の速度で、所定の時間、植え込む場所で放出する。本発明の他の幾つかの実施形態によれば、生体吸収性又は非分解性装具は、式Iのポリマーを含有する材料から形成することができる。この材料は、式Iのポリマー或いは1つ又は複数の生体適合性ポリマーを有し、場合により上記で定義した生体有益性材料及び/若しくは生物活性薬剤を有する式Iのポリマーを含有するポリマーのブレンドであり得る。
【0035】
医療装具はステントであることが好ましい。本明細書に記載のステントは、例として、胆管、食道、気管/気管支、及び他の生体の通路内の腫瘍によって生じる障害の治療を含む様々な医療処置に対して有用である。上述の被膜を有するステントは、平滑筋細胞の異常な又は不適切な移動及び増殖、血栓症と再狭窄により生じる血管の閉塞領域を治療するために特に有用である。ステントは、動脈静脈双方の様々な血管中に置くことができる。部位の代表例には、腸骨動脈、腎動脈、冠動脈が挙げられる。
【0036】
ステントを植え込む場合、まず血管造影を行い、ステント治療のための適切な位置を決定する。血管造影は、X線を撮る際、動脈又は静脈中に挿入するカテーテルを介してX線造影剤を注入することによって通常行われる。次いで、ガイドワイヤーを、病巣又は標的の治療部位を通して進める。ガイドワイヤー上にデリバリーカテーテルを通すことにより、縮ませた状態のステントを通路中に挿入できる。デリバリーカテーテルは、大腿動脈、上腕動脈、大腿静脈、又は上腕静脈中に経皮的に又は外科的に挿入し、蛍光透視による誘導の下、血管系を通してカテーテルを操縦することにより適切な血管中に進める。次いで、上述の被膜を有するステントは、所望の治療領域で拡張させることができる。挿入後の血管造影も、適切な位置決めを確認するために利用することができる。
[実施例]
【0037】
本発明の実施形態は、以下に記載する、予測的実施例によって例示する。全てのパラメータ及びデータは、本発明の実施形態の範囲を過度に限定すると解釈されるべきではない。
【0038】
本発明の特定の実施形態を示して記述するが、本発明から逸脱することなくそのより広い観点で変更及び修正し得ることは当業者なら明らかであろう。したがって、添付の請求項は、本発明の真の趣旨及び範囲内にある場合、このような変更及び修正全てをこれらの請求項の範囲内に含めるものとする。
[実施例1.メソ−ポリ(D,L−ラクチド)の合成]
【0039】
アルゴンパージ、真空ライン、短経路型蒸留ヘッド、及び機械攪拌機を備えた500mlの3つ口フラスコにL−乳酸(125g、yモル)、D−乳酸(125g、yモル)、及び酸化亜鉛(5g、Yモル)を加える。100mmHgの真空をかけ、この溶液を加熱して140℃で約8時間攪拌し、形成される水を蒸留除去しながら乳酸オリゴマーを形成する。圧力を2mmHgに下げ、溶液温度を約210℃に上げ、L−ラクチド、D−ラクチド、及びメソ−D,L−ラクチドの25/25/50のブレンドからなる、解重合により形成されるラクチドを蒸留除去する。形成されたラクチドを別の500mlフラスコに移し、圧力1mmHgで真空蒸留してラセミ−D,L−ラクチドをメソ−D,L−ラクチドから分離する。メソ−BD,L−ラクチドは、再結晶化によってもラセミ−D,L−ラクチドから分離することができる。一般に、ラセミ−D,L−ラクチドは、より容易に結晶化し、メソ−D,L−ラクチドは母液中に残るであろう。
[実施例2.ポリ(メソ−D,L−ラクチド)の合成]
【0040】
磁気攪拌機、真空、及びアルゴンパージを備えた250mlの3つ口フラスコに1,6−ヘキサンジオール(14.77g、0.125モル)を加える。オイルバスを使用してジオールを60℃に加熱し、真空下で2時間攪拌して水を除去する。フラスコをアルゴンパージし、実施例1からのメソ−D,L−ラクチド(108.0g、0.75モル)を加える。真空をかけ更に30分間攪拌する。アルゴンパージした後、フラスコを140℃に加熱し、オクチル酸スズの5%(w/w)乾燥トルエン溶液10.8mlを加えることによって重合を開始する。24時間攪拌した後、反応溶液を冷却し、冷メタノール500ml中に注いでポリマーを沈殿させる。このポリマーをメタノール/石油エーテルで洗浄し、真空下で乾燥させる。
[実施例3.ポリ(メソ−D,L−ラクチド)でのステント被覆]
【0041】
エベロリムスを含み、2層の被膜を有する医療物品は、第1の組成物が、ポリラクチドの基質を含むプライマー層であり、第2の組成物が、ポリラクチドの基質及び活性薬剤となり得る、第1の組成物及び第2の組成物を調製することにより製造できる。第1の組成物は、ポリ(メソ−D,L−ラクチド)を2%固形分(w/w)でアセトン/シクロヘキサノンの70/30(w/w)ブレンド中に混合することによって調製することができる。この第1の組成物は、12mmVISION(商標)の未被覆のステント(Guidant Corp.)(「例示のステント」)の表面上にスプレーし、乾燥させてプライマーを形成し得る。例示の被覆技法は、径0.014の円形ノズル、供給圧約0.2atm、及び噴霧圧約1.3atmでスプレーコーティングし、未乾燥塗膜重量約80μgに達するまでパス当たりの未乾燥塗膜約20μgを塗布し、被膜を約50℃で約10秒間パス間で乾燥させ、最後のパスの後、被膜を約80℃で約1時間を焼成し固形分約60μgを有する乾燥プライマー層を形成することを含む。第2の組成物は、2%(w/w)ポリマー固形分のアセトン/シクロヘキサノン70/30のブレンドと共に、ポリ(メソ−D,L−ラクチド)をエベロリムスと1/2の重量比で混合することによって調製することができる。この溶液をプライマー処理したステント上にスプレーし乾燥させて薬剤層の被膜を形成する。スプレーコーティングは、径0.014のノズル、供給圧約0.2atm、及び噴霧圧約1.3atmで行い、未乾燥塗膜重量約190μgに達するまでパス当たりの未乾燥塗膜約20μgを塗布し、被膜を約50℃で約10秒間、パス間で乾燥させ、最後のパスの後、被膜を約50℃で約1時間を焼成し、固形分約167μgを有する乾燥薬剤層を形成する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
約10%以下の結晶化度を有する非晶質ポリ(D,L−ラクチド)(PDLLA)を含み、
該PDLLAが、L,L−ラクチドとD,D−ラクチドとの50/50のブレンドから作製されたものではない被膜。
【請求項2】
非晶質PDLLAがメソ−D,L−ラクチドの重合によって調製される請求項1の被膜。
【請求項3】
非晶質PDLLAが約1%以下の結晶化度を有する請求項1の被膜。
【請求項4】
少なくとも1種の追加の生体適合性ポリマーを含む請求項2の被膜。
【請求項5】
請求項1の被膜を含む植込式装具。
【請求項6】
請求項2の被膜を含む植込式装具。
【請求項7】
請求項3の被膜を含む植込式装具。
【請求項8】
被膜が、生体適合性ポリマー及び場合により生体有益性材料を更に含み、
該生体適合性ポリマーが、ポリ(エステルアミド)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)、ポリ(4−ヒドロキシアルカノエート)、3−ヒドロキシプロパノエート、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシバレレート、3−ヒドロキシヘキサノエート、3−ヒドロキシヘプタノエート、3−ヒドロキシオクタノエート、4−ヒドロキシブチレート、4−ヒドロキシバレレート、4−ヒドロキシヘキサノエート、4−ヒドロキシヘプタノエート及び4−ヒドロキシオクタノエートからなる群から選択されるモノマーを含むポリマー及びコポリマー、ポリポリエステル、ポリ(D,L−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド)、ポリグリコリド、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリカプロラクトン、ポリ(ラクチド−co−カプロラクトン)、ポリ(グリコリド−co−カプロラクトン)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(オルトエステル)、ポリ(酸無水物)、ポリ(チロシンカーボネート)及びその誘導体、ポリ(チロシンエステル)及びその誘導体、ポリ(イミノカーボネート)、ポリ(グリコール酸−co−トリメチレンカーボネート)、ポリホスホエステル、ポリホスホエステルウレタン、ポリ(アミノ酸)、ポリシアノアクリレート、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(イミノカーボネート)、ポリウレタン、ポリホスファゼン、シリコーン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリイソブチレン及びエチレン−αオレフィンコポリマー、アクリルポリマー及びコポリマー、ポリ塩化ビニルなどのハロゲン化ビニルポリマー及びコポリマー、ポリビニルエーテル、ポリビニルメチルエーテル、ハロゲン化ポリビニリデン、ポリ(フッ化ビニリデン−co−ヘキサフルオロプロピレン)、塩化ポリビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルケトン、ポリビニル芳香族、ポリスチレン、ポリビニルエステル、ポリビニルアセテート、ビニルモノマーの相互間及びオレフィンとのコポリマー、エチレン−メタクリル酸メチルコポリマー、アクリロニトリル−スチレンコポリマー、ABS樹脂、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、ポリ(メタクリル酸n−ブチル)、ポリ(メタクリル酸sec−ブチル)、ポリ(メタクリル酸イソブチル)、ポリ(メタクリル酸tert−ブチル)、ポリ(メタクリル酸n−プロピル)、ポリ(メタクリル酸イソプロピル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリアミド、ナイロン66及びポリカプロラクタム、アルキド樹脂、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリイミド、ポリエーテル、ポリ(セバシン酸グリセリル)、ポリ(プロピレンフマレート)、エポキシ樹脂、ポリウレタン、レーヨン、レーヨントリアセテート、酢酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、セロハン、硝酸セルロース、プロピオン酸セルロース、セルロースエーテル、カルボキシメチルセルロース、ポリエーテル、ポリ(エーテルエステル)、ポリ(エチレンオキサイド−co−乳酸)(PEO/PLA)、ポリアルキレンオキサイド、ポリ(プロピレンオキサイド)、ポリアルキレンオキサレート、ポリホスファゼン、ホスホリルコリン、ポリ(アスピリン)、ヒドロキシル含有モノマーであるHEMA、メタクリル酸ヒドロキシプロピル(HPMA)、ヒドロキシプロピルメタクリル酸アミド、アクリル酸PEG(PEGA)、メタクリル酸PEG、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)及びn−ビニルピロリドン(VP)のポリマー及びコポリマー、カルボン酸含有モノマーであるメタクリル酸(MA)、アクリル酸(AA)、アルコキシメタクリレート、アルコキシアクリレート及びメタクリル酸3−トリメチルシリルプロピル(TMSPMA)のポリマー及びコポリマー、ポリ(スチレン−イソプレン−スチレン)−PEG(SIS−PEG)、ポリスチレン−PEG、ポリイソブチレン−PEG、ポリカプロラクトン−PEG(PCL−PEG)、PLA−PEG、ポリ(メタクリル酸メチル)−PEG(PMMA−PEG)、ポリジメチルシロキサン−co−PEG(PDMS−PEG)、PLURONIC(商標)界面活性剤(ポリプロピレンオキサイド−co−ポリエチレングリコール)、ポリ(テトラメチレングリコール)、ヒドロキシ官能性ポリ(ビニルピロリドン)、グリコサミノグリカン(GAG)、GAG誘導体、シリコーン、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項5の植込式装具。
【請求項9】
生体有益性材料が、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(アルキレンオキサイド)、ホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(スルホン化スチレン)、酸化窒素保存物質、ペプチド両親媒性物質、治癒促進性ポリマー、NO供与体ポリマー、ヒアルロン酸、フィブリン、アルブミン、エラスチン、デキストラン、デキストリン、多糖、ヘパリン、フラーレン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項8の植込式装具。
【請求項10】
生物活性薬剤を更に含む請求項5の植込式装具。
【請求項11】
生物活性薬剤を更に含む請求項6の植込式装具。
【請求項12】
生物活性薬剤が、パクリタキセル、ドセタキセル、エストラジオール、酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣物質、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノTEMPO)、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、ラパマイシン誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチルラパマイシン(エベロリムス)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピルラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチルラパマイシン、及び40−O−テトラゾールラパマイシン、ABT−578、ピメクロリムス、メシル酸イマチニブ、ミドスタウリン、クロベタゾール、これらのプロドラッグ、これらの補助薬、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項10の植込式装具。
【請求項13】
生物活性薬剤が、パクリタキセル、ドセタキセル、エストラジオール、酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣物質、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノTEMPO)、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、ラパマイシン誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチルラパマイシン(エベロリムス)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピルラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチルラパマイシン、及び40−O−テトラゾールラパマイシン、ABT−578、ピメクロリムス、メシル酸イマチニブ、ミドスタウリン、クロベタゾール、これらのプロドラッグ、これらの補助薬、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項11の植込式装具。
【請求項14】
ステントである、請求項5の植込式装具。
【請求項15】
ステントである、請求項12の植込式装具。
【請求項16】
ステントである、請求項13の植込式装具。
【請求項17】
約10%以下の結晶化度を有する非晶質ポリ(D,L−ラクチド)(PDLLA)を含み、該PDLLAが、L,L−ラクチドとD,D−ラクチドとの50/50のブレンドから作製されたものではない材料から形成される吸収性ステント。
【請求項18】
非晶質PDLLAが、メソ−D,L−ラクチドの重合によって調製される、請求項17の吸収性ステント。
【請求項19】
少なくとも1つの追加の生体適合性ポリマーと場合により生体有益性材料及び/又は生物活性薬剤を更に含む、請求項17の吸収性ステント。
【請求項20】
少なくとも1つの追加の生体適合性ポリマーと場合により生体有益性材料及び/又は生体活性薬剤を更に含む、請求項18の吸収性ステント。
【請求項21】
生体有益性材料及び/又は場合により生物活性薬剤を更に含む、請求項17の吸収性ステント。
【請求項22】
生体有益性材料及び/又は場合により生物活性薬剤を更に含む、請求項18の吸収性ステント。
【請求項23】
請求項5の植込式装具を患者に植え込むことを含む、該患者の障害の治療、軽減、予防、又は抑制の方法であって、該障害が、アテローム性動脈硬化症、血栓症、再狭窄、出血、血管解離若しくは穿孔、血管動脈瘤、不安定プラーク、慢性完全閉塞、卵円孔開存、跛行、静脈及び人工グラフトに対する吻合部増殖、胆管閉塞、尿管閉塞、腫瘍性閉塞、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される方法。
【請求項24】
請求項17の吸収性ステントを患者に植え込むことを含む、該患者の障害の治療方法であって、該障害が、アテローム性動脈硬化症、血栓症、再狭窄、出血、血管解離若しくは穿孔、血管動脈瘤、不安定プラーク、慢性完全閉塞、卵円孔開存、跛行、静脈及び人工グラフトに対する吻合部増殖、胆管閉塞、尿管閉塞、腫瘍性閉塞、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される方法。
【請求項25】
(1)メソ−DLPLAとラセミ−DLPLAとのブレンドの層、
(2)外層としてのメソ−DLPLAの層及び内層としてのラセミ−DLPLAの層、又は外層としてのラセミ−DLPLAの層及び内層としてのメソ−DLPLAの層、
(3)メソ−DLPLAとラセミ−DLPLAとの交互の層、或いは
(4)これらの組み合わせ
を含んだ被膜を含む植込式装具。
【請求項26】
(1)メソ−DLPLAとLPLAとのブレンドの層、
(2)外層としてのメソ−DLPLAの層及び内層としてのLPLAの層、又は外層としてのLPLAの層及び内層としてのメソ−DLPLAの層、
(3)メソ−DLPLAとLPLAとの交互の層、或いは
(4)これらの組み合わせ
を含んだ被膜を含む植込式装具。
【請求項27】
(1)LPLAとメソ−DLPLA及びラセミ−DLPLAを含む組成物とのブレンドの層、
(2)LPLAを含む層と交互となる、メソ−DLPLA及びラセミ−DLPLAを含む層、或いは
(3)これらの組み合わせ
を含んだ被膜を含む植込式装具。
【請求項28】
(1)LPLAとメソ−DLPLA及びLPLA−co−DLPLAを含む組成物とのブレンドの層、
(2)LPLAを含む層と交互となる、メソ−DLPLA及びLPLA−co−DLPLAを含む層、或いは
(3)これらの組み合わせ
を含んだ被膜を含む植込式装具。


【公表番号】特表2008−539002(P2008−539002A)
【公表日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−508936(P2008−508936)
【出願日】平成18年4月19日(2006.4.19)
【国際出願番号】PCT/US2006/014889
【国際公開番号】WO2006/118808
【国際公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(507135788)アボット カーディオヴァスキュラー システムズ インコーポレイテッド (92)
【Fターム(参考)】