説明

非水系インクジェットインク

【課題】非水系インクジェットインクを顔料分散安定性、吐出安定性を確保しながら、インクのウォームアップ所要時間を短縮することが可能なものとする。
【解決手段】少なくとも、非水系溶剤とこの溶剤に自己分散可能な顔料とを含み、インク中のポリマー成分の含有量が顔料の20質量%以下の非水系インクジェットインクであって、インクの比熱が3.0J/(g・K)以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置の使用に適した非水系インクジェットインクであって、とりわけインクヘッドから循環インクを吐出して印字するインク循環式のインクジェット記録装置に適した非水系インクジェットインクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクヘッドのノズルからインクを吐出して印刷用紙などの記録媒体に印字するインクジェット記録装置の使用に適した非水系インクジェットインク(非水系インク)として、例えば特許文献1に記載されているような顔料と顔料分散剤(ポリマー成分)および特定の有機溶剤を含むインクが知られている。このインクは、ノズル目詰まりがしにくく、メンテナンスが容易といった特徴を有している。
【0003】
ところで、インクジェット記録装置には、インクの冷却やインク流路内のゴミを取り除くために、印字状態のときにインクを絶えず循環しているインク循環式のものがある。循環式ヘッドを搭載していないライン方式インクジェット記録装置の場合、吐出不良が画質に影響を及ぼしやすいが、経路内でインク循環が可能な循環式ヘッドを搭載したライン方式インクジェット記録装置の場合、ヘッド内部のインクが循環されるため、気泡や異物がヘッドノズルに詰まりにくくなり、吐出不良の発生が軽減されるという利点がある。
【0004】
ところが、非水系インクは水性インクに比べてインク粘度の温度依存性が高い傾向にあるため、常温におけるインク粘度を吐出可能な粘度範囲の中央値に持ってきた場合、低温におけるインク粘度が吐出可能な粘度範囲をはずれやすく、吐出可能な粘度範囲に調整するためには、インクをウォームアップ(加温)する必要がある。
【0005】
循環式ヘッドを搭載したライン方式インクジェット記録装置は前述したとおり、不吐出がおきにくいといったメリットがある一方、インクがインクジェット記録装置内を循環するために記録装置内のインクが全てヘッドを経由する構造となっており、低温環境時にウォームアップしなければならいインク量が多量となり、ウォームアップに時間がかかるといったデメリットがあった。このような課題を解決するために、出願人は特許文献2において、インク循環経路の循環インクの温度に応じて、この循環インクの量を変更することで循環インクの温度を規定温度にするために要する時間(以下、ウォームアップ所要時間ともいう)を短縮したインクジェット記録装置を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−2666号公報
【特許文献2】特開2009−196208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載されているインクジェット記録装置を用いれば、ウォームアップ所要時間を短縮することが可能であるが、従来の循環式ヘッドを搭載したインクジェット記録装置を使用している場合には装置を買い替える必要がある。このため、このような買い替えコストをかけることなく、インクの側面からウォームアップ所要時間を短縮したいという要望がある。
【0008】
インクのウォームアップ所要時間を短縮するためには、インクの比熱を小さくすればいいと考えられるが、顔料分散性等を担保するためにはポリマー成分で顔料を分散させる必要がある。しかし、ポリマー成分を多用するとインク粘度が上昇するため、インクの吐出性能を担保することが困難となる。
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、顔料分散安定性、吐出安定性を確保しながら、インクのウォームアップ所要時間を短縮することが可能な非水系インクジェットインクを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の非水系インクジェットインクは、少なくとも、非水系溶剤と該溶剤に自己分散可能な顔料とを含み、インク中のポリマー成分の含有量が前記顔料の20質量%以下の非水系インクジェットインクであって、該インクの比熱が3.0J/(g・K)以下であることを特徴とするものである。
【0010】
前記自己分散可能な顔料は、R1−XまたはR2−Y−R3で表される化合物(一般式中、Xは−SH、−NCO、−NH2、−NHR(Rはアルキル基)のいずれかであり、Yは−CO−O−O−CO−、−CO−O−O−のいずれかであり、R1、R2およびR3は炭素数8〜22のアルキル基であって、該アルキル基は、直鎖でも分岐していてもよく、R2およびR3は同じものであっても、異なっているものでもよい。)により処理されてなることが好ましい。
【0011】
前記インクの比熱は2.5J/(g・K)以下であることが好ましい。
前記非水系溶剤は高級脂肪酸エステルおよび/または炭化水素溶剤であって、該溶剤が全溶剤量の50質量%以上であることが好ましい。前記非水系溶剤は炭化水素溶剤であって、該溶剤が全溶剤量の50質量%以上であることがより好ましい。
前記顔料はカーボンブラックであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の非水系インクジェットインクは、顔料が非水系溶剤に自己分散可能な顔料であるので、非水系インクの顔料分散で一般的に使用されるポリマー成分の含有量が顔料の20質量%以下であっても顔料の分散安定性、吐出安定性を確保することが可能であるポリマー成分の含有量が低いので、低温環境におけるインク粘度の上昇を抑制することができ、インク粘度の変動を小さくすることができる結果、吐出可能な粘度範囲に調整するためのウォームアップ所要時間を短縮することが可能となる。
【0013】
また、インクの比熱が3.0J/(g・K)以下であるので、インクの温度上昇が容易となり、低温環境においても短時間で吐出可能な温度範囲にウォームアップすることができるようになるため、ウォームアップ所要時間の短縮およびウォームアップにかかる電力を節約することができる。
【0014】
とりわけ、R1−XまたはR2−Y−R3で表される化合物(一般式中、Xは−SH、−NCO、−NH2、−NHR(Rはアルキル基)のいずれかであり、Yは−CO−O−O−CO−、−CO−O−O−のいずれかであり、R1、R2およびR3は炭素数8〜22のアルキル基であって、このアルキル基は、直鎖でも分岐していてもよく、R2およびR3は同じものであっても、異なっているものでもよい。)により処理されてなる顔料を使用することで、非水系インクの顔料分散で一般的に使用される高分子分散剤の使用量を低減することができ、ポリマー成分の含有量が低減する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の非水系インクジェットインク(以下、単にインクともいう)は、少なくとも、非水系溶剤とこの溶剤に自己分散可能な顔料とを含み、インク中のポリマー成分の含有量が顔料の20質量%以下のインクであって、インクの比熱が3.0J/(g・K)以下であることを特徴とする。
【0016】
ポリマー成分の含有量が20質量%よりも多くなると自己分散可能な顔料であっても顔料分散安定性が得られにくくなる。ポリマー成分の含有量は顔料の10質量%以下であることがより好ましく、さらには5質量%以下であることがより好ましく、実質的には含まれないことが望ましい。ここで、実質的に含まないとはポリマー成分を全く含まない場合の他、例えばポリマー成分を不可避的不純物として含有する場合を意味する。
【0017】
上記ポリマー成分としては、例えば市販品として、日本ルーブリゾール株式会社製のソルスパースシリーズ(ソルスパース20000、27000、41000、41090、43000、44000)、BASFジャパン社製のジョンクリルシリーズ(ジョンクリル57、60、62、63、71、501)、第一工業製薬株式会社製のポリビニルピロリドンK−30、K−90等が挙げられる。
【0018】
本発明のインクに含まれる顔料は非水系溶剤に自己分散可能な顔料であり、好ましくはR1−XまたはR2−Y−R3で表される化合物(一般式中、Xは−SH、−NCO、−NH2、−NHR(Rはアルキル基)のいずれかであり、Yは−CO−O−O−CO−、−CO−O−O−のいずれかであり、R1、R2およびR3は炭素数8〜22のアルキル基であって、該アルキル基は、直鎖でも分岐していてもよく、R2およびR3は同じものであっても、異なっているものでもよい。)により処理されてなる顔料が好ましい。
【0019】
顔料がR1−XまたはR2−Y−R3で表される化合物により処理されることにより、顔料表面に長鎖アルキル基(R1またはR2およびR3)がグラフト鎖として導入される。詳細には、一般式R1−Xで表される化合物は、一般式中のXが顔料表面の官能基と反応することにより、グラフト鎖としてR1が顔料表面に導入される。一般式R2−Y−R3で表される化合物は一般式中のYがラジカル開裂することにより顔料のラジカル補足能(顔料中の縮合芳香族環は各種のラジカルを選択的に補足して結合をする性質がある)によって、R2およびR3がグラフト鎖として顔料表面に導入される。これによって、顔料は非水系溶剤に自己分散が可能となり、分散安定性、吐出安定性を確保することが可能である。
【0020】
より詳細には、顔料表面に水酸基やカルボン酸基が存在している場合には、一般式R1−Xで表される化合物の、Xが−NCO(イソシアネート基)、−NH2(アミノ基)、−NHR(Rは炭素数1〜22のアルキル基であって、このアルキル基は、直鎖でも分岐していてもよい)である化合物により処理することで、−NCOの場合にはイソシアネート基によるウレタン化により、−NH2、−NHRの場合にはアミノ基による塩形成により、グラフト鎖としてR1が顔料表面に導入される。
【0021】
顔料表面に上記のような特定の官能基が存在していなくても、一般式R2−Y−R3で表される化合物の場合には、一般式中のYがラジカル開裂、例えばYが−CO−O−O−CO−の場合には、R2−CO−O−O−CO−R3が、R2−COO・とR3−COO・に開列することにより、顔料のラジカル補足能によって、R2およびR3(あるいはR2−COOおよびR3−COO)がグラフト鎖として顔料表面に導入される。また、一般式R1−Xで表される化合物であっても、Xが−SH(チオール基)である化合物の場合には、チオールによってグラフト鎖としてR1が顔料表面に導入される。
【0022】
一般式中、R1、R2およびR3は炭素数8〜22のアルキル基である。このアルキル基は、直鎖でも分岐していてもよく、R2およびR3は同じものであっても、異なっているものでもよい。また、R1、R2およびR3のアルキル基は飽和であっても不飽和であってもよいが、顔料の発色官能基と反応するような官能基は含まないことが好ましい。R1、R2およびR3としては、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ドデシル基、ミリスチル基、セチル基、ステアリル基、イソステアリル基、ベヘニル基、オレイル基等を好ましく例示することができる。
【0023】
一般式R1−Xで表される化合物およびR2−Y−R3で表される化合物の分子量は400以下である。このように比較的低分子量の化合物によるグラフト化により、インク粘度を上げることなく、安定した顔料分散が可能である。一般式R1−Xで表される化合物およびR2−Y−R3で表される化合物の含有量は、質量比で顔料1に対して0.1〜30の範囲であることが好ましく、0.2〜10の範囲であることがより好ましい。
【0024】
上記一般式R1−Xで表される化合物としては、オクチルイソシアネート(MW155)、ドデシルイソシアネート(MW202)、ステアリルイソシアネート(MW296)、オクチルアミン(MW129)、ドデシルアミン(MW185)、ステアリルアミン(MW270)、オクタンチオール(MW146)、ドデカンチオール(MW202)、オクタデカンチオール(MW287)を例示することができる。また、R2−Y−R3で表される化合物としては、ジラウロイルペルオキシド、ビス(3,5,5−トリメチルヘキサノイルペルオキシド)等の脂肪族系ジアシルパーオキサイド(市販品として日油製のパーロイル(登録商標)L(MW399)、パーロイル355(MW314))、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエートの脂肪族系ジアルキルパーオキシエステル(市販品として日油製のパーオクタND(MW300))、ジ−(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネートの脂肪族系パーオキシジカーボネート(市販品として日油製パーロイルOPP(MW346))を例示することができる。
【0025】
顔料をR1−XまたはR2−Y−R3で表される化合物により処理して顔料表面にグラフト鎖としてR1あるいはR2およびR3を導入するには、窒素雰囲気下、有機溶剤中で顔料とR1−Xで表される化合物またはR2−Y−R3で表される化合物を反応させることにより行うことができる。有機溶剤としては、AF−4、AF−5、AF−6、AF−7、(いずれもJX日鉱日石エネルギー)等のナフテン系溶剤や、IOP(パルミチン酸イソオクチル:日光ケミカルズ)、エキセパールMOL(オレイン酸メチル:花王株式会社)、セチオールA(ラウリン酸ヘキシル:コグニス)等のエステル溶剤等を用いることができる。
【0026】
本発明のインクは、比熱が3.0J/(g・K)以下であり、好ましくは2.5J/(g・K)以下、さらには2.0J/(g・K)以下であることが望ましい。比熱が3.0J/(g・K)よりも大きくなると、ウォームアップ所要時間の短縮が困難となる。一方で比熱が低すぎるとインクの温度が急激に上昇してしまい、オーバーヒートによる印刷動作停止が起こりやすくなるため、1.5J/(g・K)以上とすることがより好ましい。このような比熱のインクとするためには、非水系溶剤により調製することができ、高級脂肪酸エステル、炭化水素溶剤、高級脂肪酸、高級アルコール、エーテル等を適宜選択することができる。但し、ウォームアップ所要時間の短縮という観点からは、全溶剤量に対して50質量%以上を高級脂肪酸エステルおよび/または炭化水素溶剤とすることが好ましく、さらには全溶剤量の50質量%以上を炭化水素溶剤とすることがより好ましい。
【0027】
具体的には、炭化水素溶剤としては、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素溶剤等を好ましく挙げることができる。脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素系溶剤としては、たとえば、JX日鉱日石エネルギー(株)製「テクリーンN−16、テクリーンN−20、テクリーンN−22、日石ナフテゾールL、日石ナフテゾールM、日石ナフテゾールH、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、日石アイソゾール300、日石アイソゾール400、AF−4、AF−5、AF−6、AF−7」、Exxon社製「Isopar(アイソパー)G、IsoparH、IsoparL、IsoparM、ExxsolD40、ExxsolD80、ExxsolD100、ExxsolD130、ExxsolD140」等を好ましく挙げることができる。芳香族炭化水素溶剤としては、JX日鉱日石エネルギー(株)製「日石クリーンソルG」(アルキルベンゼン)、Exxon社製「ソルベッソ200」などを例示することができる。
【0028】
高級脂肪酸エステルとしては1分子中の炭素数が14以上のエステル系溶剤、およびこれらの混合溶剤を用いることができる。より具体的には、ラウリン酸メチル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソステアリル、パルミチン酸イソオクチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、リノール酸メチル、リノール酸イソブチル、リノール酸エチル、イソステアリン酸イソプロピル、大豆油メチル、大豆油イソブチル、トール油メチル、トール油イソブチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、モノカプリン酸プロピレングリコール、トリ2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリルなどを例示することができる。
【0029】
アルコール溶剤としては、イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール等が挙げられる。
高級脂肪酸溶剤としては炭素数8〜24の脂肪酸が好ましく、イソノナン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、オレイン酸、イソステアリン酸等が挙げられる。
【0030】
エーテル溶剤としては、ジエチルグリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル等が挙げられる。
これらの非水系溶剤は単独で、または2種類以上を適宜組み合わせて使用することができる。非水系溶剤の含有量は、インク全量に対し75〜99.5質量%であることが好ましい。
【0031】
本発明のインクには従来公知の無機顔料および有機顔料を適宜使用することができる。例えば、無機顔料としては、酸化チタン、ベンガラ、コバルトブルー、群青、紺青、カーボンブラック、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、硫酸バリウム、タルク、シリカ等が挙げられる。有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、縮合多環顔料、銅フタロシアニン顔料等が挙げられる。これらの顔料は、単独で用いてもよいし、適宜組み合わせて使用することも可能である。顔料の添加量は、インク全量に対して0.5〜20質量%が好ましい。
【0032】
上記各成分に加えて、本発明のインクには慣用の添加剤が含まれていてよい。添加剤としては、界面活性剤、例えばアニオン性、カチオン性、両性、もしくはノニオン性の界面活性剤、酸化防止剤、例えばジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、及びノルジヒドログアヤレチック酸等、が挙げられる。
【0033】
本発明のインクは、例えばビーズミル等の公知の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。
以下に本発明の非水系インクジェットインクの実施例を示す。
【実施例】
【0034】
(表面処理顔料P−1の準備)
500mlの4つ口フラスコに顔料MA600(カーボンブラック:三菱化学)15.0g、パーロイルL(日本油脂)5.6g、AF−7(ナフテン系溶剤:JX日鉱日石エネルギー)135g、IOP(パルミチン酸イソオクチル(エステル溶剤):日光ケミカルズ)135g、直径2mmのジルコニアビーズ1000gを入れ、窒素雰囲気下で攪拌して充分に窒素置換をし、100℃に昇温して6時間反応させた。ジルコニアビーズを取り除き、得られた分散液を遠心分離機にかけ表面処理顔料を沈降させた(13000rpm、5分間)。次に、沈降させた顔料をメチルエチルケトン(MEK)に超音波で強制分散させ、得られた分散液(MEK)を再度遠心分離機にかけ表面処理顔料を沈降させた。この工程を3回繰り返し、得られた表面処理顔料を乾燥してMEKを完全に除去して表面処理顔料P−1を得た。TG/DTA(示差熱熱重量同時測定装置)により測定した、顔料表面に結合した成分の量と顔料との割合は質量比で25%であった。
【0035】
(表面処理顔料P−2〜4の準備)
上記(表面処理顔料P−1の準備)において、パーロイルL 5.6gを入れるところを、それぞれドデシルイソシアネート(和光純薬)、ドデシルアミン(和光純薬)、チオカルコール20(ドデシルメルカプタン:花王)に変えた以外は同様に調整して、表面処理顔料P−2〜P−4を得た。P−2、P−3、P−4のTG/DTAによる顔料表面に結合した成分の量は顔料との割合は、質量比でそれぞれ24%、18%、21%であった。
【0036】
(インクの調製)
下記表1に示す配合(表1に示す数値は質量部である)で原材料をプレミックスした後、滞留時間約12分間で分散させ、孔径3μmのメンブレンフィルターでろ過し、実施例1〜8、比較例1および2のインクを調製した。
【0037】
(比熱測定方法)
DSC8230L(リガク社製)でDSC測定を行い、比熱を式(1)で算出した。
式(1)・・・Cp=[(STW×SAH)/(SAW×STH)]×STCP
STW :基準試料(アルミナ)重量
SAW :測定試料重量
SAH :測定試料のベースラインシフト量
STH :基準試料のベースラインシフト量
STCP:温度T1での基準試料比熱容量(アルミナは0.8)
【0038】
(評価)
(ウォームアップ所要時間)
循環式ライン方式インクジェット記録装置ORPHIS-X(理想科学社製)に、市販のXインク(理想科学社製:比熱2.1J/(g・K))を充填し、常温(23℃)における吐出可能な駆動電圧範囲を求め、吐出可能な駆動電圧範囲中央の駆動電圧をVcとする。次に、インクジェット記録装置を15℃環境に24時間放置する。放置後、15℃環境において印字動作を指示させ、Vcの駆動電圧で、印字可能になるまでの所要時間(基準)を求めた。
実施例1〜実施例8および比較例1のインクについて上記と同様にウォームアップ所要時間を求め、(基準)に対する相対評価を以下のように行った。
○:所要時間が基準よりも顕著に短くなった
△:所要時間は基準よりも若干短くなった
×:所要時間が基準と同等か基準よりも長くなった
【0039】
(分散安定性)
実施例1〜実施例8、比較例1および2のインクをそれぞれSV50(ガラス容器)に40g充填し、50℃環境に1週間放置したのち、沈降の有無を観察し以下の基準で評価した。
○:底面に沈降は確認されない
×:底面に沈降が確認された
各インクの処方と評価の結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1から明らかなように、表面処理顔料を用いた実施例1〜8はいずれも長鎖アルキル基(炭素数12のアルキル基)が導入されているため、ポリマー成分を添加しなくても、ナフテンなどの極性の低い溶剤中で顔料分散安定性を確保することができた。また、比熱を3.0J/(g・K)以下とすることができた。これによって、顔料分散安定性、吐出安定性を確保しながら、インクのウォームアップ所要時間を短縮することが可能となった。
【0042】
一方、比較例1に示すようにポリマー成分を添加すると比熱が2.1J/(g・K)であっても、ウォームアップ所要時間を短縮することができなかった。これは、ポリマー成分を添加することによって粘度が上昇することにより、吐出可能な粘度範囲に調整するためのウォームアップ所要時間が長くなったためである。比較例1のインクは基準としたXインクと比熱が同じであることから、比熱のみの調整ではウォームアップ所要時間を短縮できないことがわかる。また、ポリマー成分を添加しなかった比較例2では当然のことながら分散安定性を確保できなかった(このため、比較例2に関してはウォームアップ所要時間は評価していない)。
【0043】
実施例1〜4は高級脂肪酸エステルおよび炭化水素溶剤が全溶剤の91.4質量%、炭化水素溶剤が全溶剤の45.7質量%、実施例5は高級脂肪酸エステルおよび炭化水素溶剤が全溶剤の91.4質量%、炭化水素溶剤が全溶剤の0質量%、実施例6は高級脂肪酸エステルおよび炭化水素溶剤が全溶剤の45.7質量%、炭化水素溶剤が全溶剤の0質量%、実施例7および8は高級脂肪酸エステルおよび炭化水素溶剤が全溶剤の100質量%、炭化水素溶剤が全溶剤の100質量%である。この結果から高級脂肪酸エステルおよび/または炭化水素溶剤を全溶剤の50質量%以上含むインクは、比熱を低く抑えることが可能であり、高級脂肪酸エステルと炭化水素溶剤を比較すると、炭化水素溶剤の方がより比熱を低く抑えることが可能であり、炭化水素溶剤を全溶剤の50質量%以上含むインクは、比熱をより低く抑えることができ、ウォームアップ所要時間の短縮に効果的であると考えられる。
【0044】
なお、本実施例では顔料としてカーボンブラックを用いた例を示したが、顔料表面の長鎖アルキル基のグラフトによる顔料分散という効果からすれば、その他の顔料でも同様の結果が得られるものと推測される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、非水系溶剤と該溶剤に自己分散可能な顔料とを含み、インク中のポリマー成分の含有量が前記顔料の20質量%以下の非水系インクジェットインクであって、該インクの比熱が3.0J/(g・K)以下であることを特徴とする非水系インクジェットインク。
【請求項2】
前記自己分散可能な顔料が、R1−XまたはR2−Y−R3で表される化合物(一般式中、Xは−SH、−NCO、−NH2、−NHR(Rはアルキル基)のいずれかであり、Yは−CO−O−O−CO−、−CO−O−O−のいずれかであり、R1、R2およびR3は炭素数8〜22のアルキル基であって、該アルキル基は、直鎖でも分岐していてもよく、R2およびR3は同じものであっても、異なっているものでもよい。)により処理されてなることを特徴とする請求項1記載のインクジェットインク。
【請求項3】
前記インクの比熱が2.5J/(g・K)以下であることを特徴とする請求項1または2記載の非水系インクジェットインク。
【請求項4】
前記非水系溶剤が高級脂肪酸エステルおよび/または炭化水素溶剤であって、該溶剤が全溶剤量の50質量%以上であることを特徴とする請求項1、2または3記載の非水系インクジェットインク。
【請求項5】
前記非水系溶剤が炭化水素溶剤であって、該溶剤が全溶剤量の50質量%以上であることを特徴とする請求項4記載の非水系インクジェットインク。
【請求項6】
前記顔料がカーボンブラックであることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載の非水系インクジェットインク。

【公開番号】特開2012−131910(P2012−131910A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285455(P2010−285455)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】