説明

非水系二次電池用セパレータ、その製造方法および非水系二次電池

【課題】本発明はセパレータの残留溶媒等を適切に管理することで、電池特性が良好なセパレータを提供することを目的する。
【解決手段】電気絶縁性の通気性基材と、この基材の片面又は両面に積層された多孔質層とを備えた非水系二次電池用セパレータであって、前記通気性基材ないし前記多孔質層に含有され、かつ、前記多孔質層を形成する高分子に対して貧溶剤である溶媒が、前記セパレータの重量に対して0.001〜3重量%含まれていることを特徴とする非水系二次電池用セパレータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池特性を向上させる非水系二次電池用セパレータ、その製造方法および非水系二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非水系の電解液を用いるリチウムイオン二次電池は、高容量および高エネルギー密度が得られるといった特性から、携帯電話・ノートパソコンといった携帯用電子機器の主電源として幅広く使用されている。これらの電池は、正・負の電極間に電気絶縁性の多孔性フィルムからなるセパレータが挟み込まれた構造をとっており、電極間を電解液中のリチウムイオンが往来することにより、蓄電・放電がなされる。
【0003】
セパレータの基本特性としては、電極間の電気絶縁性、電解液中のイオンの透過性、機械的強度などが必要とされるが、セパレータの原料・製造方法・後処理等によって、特性は大きく変化する。
【0004】
セパレータの製造方法としては、大きく分けて乾式プロセスと湿式プロセスとがある。乾式プロセスは、ポリオレフィン樹脂などのポリマーを溶解し、フィルム状に押し出し、アニーリング後、延伸することで多孔性フィルムを得る方法である。一方、湿式プロセスは、炭化水素溶媒あるいは他の低分子溶媒とポリオレフィン樹脂などのポリマーとを混合し、これをシート状に加工し、溶媒を除去することで、多孔性フィルムを得る方法である。
【0005】
また、電池の安全性向上のために、異種ポリマーの積層構造を持つセパレータも知られている。この積層構造のセパレータを製造するためには、ポリオレフィンなどの基材に異種ポリマーを塗工する方法が挙げられる。
【0006】
塗工による方法で積層セパレータを作製する場合、塗工液にはポリマーを溶解させる溶媒と場合によってはポリマーに対して貧溶剤となる溶媒も一部混合して用いられ、塗工後の水洗、乾燥工程等により溶媒が除去されることが一般的であり、例えば特許文献1に示された方法が知られている。
【0007】
特許文献1においては、ポリマーを溶解させる溶媒としてジメチルアセトアミド、貧溶剤となる溶媒としてトリプロピレングリコールを用いた塗工液をポリエチレン基材上に塗工し、凝固液で凝固後、水洗、乾燥を行っている。
【特許文献1】特開2005−209570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、非水系二次電池において、電極や電解液、セパレータなどの材料に不純物が多量に混入していると、放電特性等の電池特性に悪影響を及ぼすことが知られている。そのため、セパレータ中に残留する塗工用溶媒や電解液中に存在する当該残留溶媒についても、電池特性に悪影響が及ぼすことがないように適切に管理する必要がある。
【0009】
しかしながら、上記特許文献1のように、従来の技術文献では塗工工程後に溶媒を除去することを記載したものの、残留溶媒等に対する知見がなかったため、セパレータ中の残留溶媒等に関しては記載していなかった。
そこで、本発明はセパレータの残留溶媒等を適切に管理することで、電池特性が良好なセパレータを提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用する。
(1) 電気絶縁性の通気性基材と、この基材の片面又は両面に積層された多孔質層とを備えた非水系二次電池用セパレータであって、前記通気性基材ないし前記多孔質層に含有され、かつ、前記多孔質層を形成する高分子に対して貧溶剤である溶媒が、前記セパレータの重量に対して0.001〜3重量%以下含まれていることを特徴とする非水系二次電池用セパレータ。
(2) 前記溶媒は、前記セパレータの重量に対して0.001〜1.5重量%以下含まれていることを特徴とする上記(1)に記載の非水系二次電池用セパレータ。
(3) 前記溶媒は、アルコール類、および多価アルコールから選ばれる1種または2種以上の溶媒であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の非水系二次電池用セパレータ。
(4) 前記通気性基材は、熱可塑性樹脂にて形成され内部に空孔ないし空隙を有する基材であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の非水系二次電池用セパレータ。
(5) 前記高分子は、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、およびポリエーテルイミドから選ばれる1種または2種以上の高分子であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の非水系二次電池用セパレータ。
(6) 上記(1)記載の非水系二次電池用セパレータの製造方法であって、(i)前記多孔質層を形成するための高分子を、この高分子を溶解する溶媒および前記高分子に対して貧溶剤である溶媒を含む溶液中に溶解させて、塗工液を作製する工程と、(ii)前記塗工液を前記通気性基材の片面または両面に塗布する工程と、(iii)この塗布工程後の基材を凝固浴に浸漬して前記高分子を凝固させる工程と、(iv)この凝固工程後の基材を水洗する工程と、(v)この水洗工程後の基材を乾燥する工程と、を実施することを特徴とする非水系二次電池用セパレータの製造方法。
(7) 上記(1)記載の非水系二次電池用セパレータの製造方法であって、(i)前記多孔質層を形成するための高分子を、この高分子を溶解する溶媒および前記高分子に対して貧溶剤である溶媒を含む溶液中に溶解させて、塗工液を作製する工程と、(ii)前記塗工液を前記通気性基材の片面または両面に塗布する工程と、(iii)この塗布工程後の基材を乾燥させて前記溶媒を揮発させ、前記高分子を凝固させる工程と、を実施することを特徴とする非水系二次電池用セパレータの製造方法。
(8) リチウムのドープおよび脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池であって、正極と、負極と、これらの電極間に配置されたセパレータと、電解液とを備えて構成されており、前記セパレータとして、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の非水系二次電池用セパレータを用いたことを特徴とする非水系二次電池。
(9) リチウムのドープおよび脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池であって、正極と、負極と、これらの電極間に配置されたセパレータと、電解液とを備えて構成されており、前記セパレータは、電気絶縁性の通気性基材と、この基材の片面又は両面に塗工法により形成された多孔質層とを備えており、前記電解液中には、前記多孔質層を形成する高分子に対して貧溶剤である溶媒が、前記電解液の重量に対して0.001〜0.15重量%含まれていることを特徴とする非水系二次電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、セパレータ中の残留溶媒濃度又は電解液中に存在する当該残留溶媒濃度を適切な範囲内に管理しているので、残留溶媒による電池特性への悪影響を解決でき、初期の充放電特性等が良好な電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[非水系二次電池用セパレータ]
本発明は、電気絶縁性の通気性基材と、この基材の片面又は両面に積層された多孔質層とを備えた非水系二次電池用セパレータであって、前記通気性基材ないし前記多孔質層に含有され、かつ、前記多孔質層を形成する高分子に対して貧溶剤である溶媒が、前記セパレータの重量に対して0.001〜3重量%含まれていることを特徴とする非水系二次電池用セパレータである。
【0013】
本発明においては、前記多孔質層を形成する高分子に対して貧溶剤である溶媒が前記セパレータの重量に対して0.001〜3重量%含まれていることが重要である。このような範囲内に調整すると、初期の充放電特性が良好でかつ自己放電が小さい電池が得られるようになるためである。前記溶媒がセパレータ中に3重量%より多く含まれると、電極表面に電池特性を悪化させる皮膜が形成されてしまうが、3重量%以下の範囲内であれば、性能を悪化させない良好な被膜が形成され、初期の充放電特性が良好な電池を得ることができる。また、セパレータ中の前記溶媒濃度が0.001重量%未満であると、良好な皮膜が形成されないために自己放電量の大きな電池となってしまうが、0.001重量%以上の範囲内であればこのような現象が生じることもなく、自己放電量が小さな電池を得ることができる。
【0014】
本発明では、さらに前記溶媒濃度が0.001〜1.5重量%であると好ましい。このような範囲にすると、上記の良好な初期充放電特性および自己放電特性に加えて、さらにインピーダンス特性が良好な電池が得られるようになる。
【0015】
本発明において、セパレータ中の残留溶媒は、前記通気性基材ないし前記多孔質層に含有されていればよい。すなわち、これは、通気性基材にのみ残留溶媒が存在している状態、多孔質層にのみ残留溶媒が存在している状態、通気性基材および多孔質層の両方に残留溶媒が存在している状態のいずれをも含む意味である。
【0016】
本発明において、前記高分子に対して貧溶剤となる溶媒とは、アルコール類、および多価アルコールから選ばれる1種または2種以上の溶媒などである。具体的に、アルコール類としては例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、1―ブタノールなどが挙げられ、多価アルコールとしてはエチレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。
【0017】
本発明において通気性基材とは、内部に空孔ないし空隙を有する基材を意味する。このような基材としては、微多孔膜、不織布、紙状シート、その他三次元ネットーワーク構造を有するシート等を挙げることができるが、特に、微多孔膜が好ましい。微多孔膜とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった膜を意味する。また、かかる基材を構成する材料は、電気絶縁性を有する有機材料あるいは無機材料のいずれをも使用できるが、基材にシャットダウン機能を付与する観点から、熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。ここで、シャットダウン機能とは、電池温度が高められた場合に、熱可塑性樹脂が溶解して通気性基材の孔を閉塞することによりイオンの移動を阻止し、電池の熱暴走を防止する機能を意味する。熱可塑性樹脂としては、融点200℃未満の熱可塑性樹脂が適当であり、好ましくはポリオレフィンであり、特に好ましいのは、ポリエチレンである。ポリエチレンは、特に限定されるものではないが、高密度ポリエチレンや、高密度ポリエチレンと超高分子量ポリエチレンの混合物が好適である。また、例えば、ポリエチレン以外に、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等の他のポリオレフィンを混合して用いても良い。
【0018】
前記通気性基材の膜厚は5μm以上18μm以下であることが好ましい。通気性基材の膜厚が5μmより薄いと引張強度や突刺強度といった機械物性が不十分となり、通気性基材の膜厚が18μmより厚いと適切なセパレータ厚みを実現することが困難となるため好ましくない。
【0019】
前記通気性基材の空孔率は20〜60%のものが好ましい。通気性基材の空孔率が20%未満となるとセパレータ全体の膜抵抗が高くなり過ぎ、電池の出力を顕著に低下させるため好ましくない。また、60%を超えると、シャットダウン特性の低下が顕著となり好ましくない。
【0020】
前記通気性基材のガーレ値(JIS・P8117)は、10sec/100cc以上、500sec/100cc以下が好ましい。通気性基材のガーレ値が500sec/100ccより高いと、イオン透過性が不十分となりセパレータの抵抗が高くなるという不具合が生じる。通気性基材のガーレ値が10sec/100ccより低いとシャットダウン機能の低下が著しく実用的でない。通気性基材の突刺強度は、10g以上が好適である。
【0021】
本発明において前記多孔質層は、セパレータに付与する機能に応じて種々の高分子を使用することができるが、特に耐熱性を付与する観点から、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、およびポリエーテルイミドから選ばれる1種または2種以上の耐熱性高分子にて形成されることが好ましい。なお、多孔質層には金属酸化物や金属水酸化物などの無機フィラーを添加しても良く、このような無機フィラーの添加によりさらに耐熱性を向上させる等の効果が得られるようになる。
【0022】
また、前記多孔質層は、前記基材の少なくとも一方の面に形成すればよいが、ハンドリング性、耐久性および熱収縮の抑制効果の観点から、表裏両面に形成した方がより好ましい。そして、前記多孔質層が耐熱性多孔質層である場合においては、耐熱性多孔質層が該基材の両面に形成されている場合は該耐熱性多孔質層の厚みの合計が3μm以上12μm以下であるか、または、該耐熱性多孔質層が該基材の片面にのみ形成されている場合は該耐熱性多孔質層の厚みが3μm以上12μm以下であることが好ましい。いずれの場合においても、該耐熱性多孔質層の厚みの合計が3μm未満となると、十分な耐熱性、特に熱収縮抑制効果が得られなくなる。一方、該耐熱性多孔質層の厚みの合計が12μmを超えると、適切なセパレータ厚みを実現することが困難となる。また、該耐熱性多孔質層の空孔率は50〜90%の範囲が好適である。該耐熱性多孔質層の空孔率が90%を超えると耐熱性が不十分となる傾向にあり、50%より低いとサイクル特性や保存特性、放電性が低下する傾向となり好ましくない。
【0023】
[非水系二次電池用セパレータの製造方法]
本発明の非水系二次電池セパレータの製造方法は特に限定されないが、例えば、以下の(i)〜(v)の工程を経て製造することが可能である。即ち、(i)前記多孔質層を形成するための高分子を、この高分子を溶解する溶媒および前記高分子に対して貧溶剤である溶媒を含む溶液中に溶解させて、塗工液を作製する工程と、(ii)前記塗工液を前記通気性基材の片面または両面に塗布する工程と、(iii)この塗布工程後の基材を凝固浴に浸漬して前記高分子を凝固させる工程と、(iv)この凝固工程後の基材を水洗する工程と、(v)この水洗工程後の基材を乾燥する工程と、を実施することからなる製造方法である。
【0024】
前記高分子として、例えば、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジアミンとから得られる芳香族ポリアミドを用いる場合には、前記工程(i)で、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジアミンを、生成するポリアミドに対し良溶媒である有機溶媒中で反応せしめて芳香族ポリアミドを製造(溶液重合)し、直接、塗工液となる芳香族ポリアミド溶液を製造することができる。
【0025】
また、前記高分子として、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミドを用いる場合には、前記工程(i)で、イソフタル酸クロライドとメタフェニレンジアミンを、生成するポリアミドに対し良溶媒でない有機溶媒、例えば、テトラハイドロフラン中で反応せしめて溶液若しくは分散液を作り、これを、炭酸ソーダ等の酸受容剤の水溶液と接触させ反応を完結せしめる、いわゆる界面重合法でポリメタフェニレンイソフタルアミドを製造するのが便利である。
【0026】
前記工程(i)において、前記高分子を溶解する溶媒(良溶媒)としては、特に限定されないが、具体的には極性溶剤が好ましく、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。前記貧溶剤となる溶媒については上述した通りであるが、このような溶剤を適用することでミクロ相分離構造が誘発され、多孔質層を形成する上で多孔化が容易となる。
【0027】
前記工程(ii)では、前記通気性基材の少なくとも一方の表面に前記高分子の塗工液を塗工する。本発明においては、前記通気性基材の両面に塗工するのが好ましい。塗工液の高分子濃度は4〜9重量%、基材への塗工量は20〜40g/m程度が好ましい。塗工する方法は、ナイフコーター法、グラビアコーター法、スクリーン印刷法、マイヤーバー法、ダイコーター法、リバースロールコーター法、インクジェット法、スプレー法、ロールコーター法などが挙げられる。塗膜を均一に塗布するという観点において、特にリバースロールコーター法が好適である。より具体的には、例えば、通気性基材の両面に塗工液を塗工する場合は、一対のマイヤーバーの間を通して基材の両面に過剰に塗工液を塗布し、これを一対のリバースロールコーターの間を通し、過剰な塗工液を掻き落すことで精密計量するという方法が挙げられる。
【0028】
前記工程(iii)では、塗工された基材を、前記高分子を凝固させることが可能な凝固液中に浸漬することで、前記高分子を凝固させ、多孔質層を成形する。凝固の方法としては、凝固液をスプレーで吹き付ける方法や、凝固液の入った浴(凝固浴)中に浸漬する方法などが挙げられる。凝固液は、前記高分子を凝固できるものであれば特に限定されないが、水又は塗工に用いた良溶媒に水を適当量混合させたものが好ましい。ここで、水の混合量は凝固液に対して40〜80重量%が好適である。水の量が40重量%より少ないと前記高分子を凝固するのに必要な時間が長くなったり、凝固が不十分になるという問題が生じる。また、80重量%より多いと溶剤回収においてコスト高となったり、凝固液と接触する表面の凝固が速すぎ表面が十分に多孔化されないという問題が生じる。
【0029】
前記工程(iv)は、凝固液中に浸漬したセパレータについて、水洗で凝固液を除去するものであるが、例えば水洗浴の中にセパレータを浸漬することにより実施される。この時、浸漬する時間が長い方が、セパレータ中に残留する溶媒濃度が低くなる。
【0030】
前記工程(v)は、上記の水洗工程後のセパレータを乾燥するものである。乾燥方法は特に限定されないが、乾燥温度は40〜80℃が適当であり、高い乾燥温度を適用する場合は、熱収縮による寸法変化が起こらないようにするためにロールに接触させるような方法を適用することが好ましい。
【0031】
なお、本発明の非水系二次電池用セパレータの製造方法は、上述した湿式プロセスに限定されるものではなく、例えば次の(i)〜(iii)を実施するものであってもよい。すなわち、(i)前記多孔質層を形成するための高分子を、この高分子を溶解する溶媒および前記高分子に対して貧溶剤である溶媒を含む溶液中に溶解させて、塗工液を作製する工程と、(ii)前記塗工液を前記通気性基材の片面または両面に塗布する工程と、(iii)この塗布工程後の基材を乾燥させて前記溶媒を揮発させ、前記高分子を凝固させる工程と、を実施する方法である。このような方法において、高分子を溶解する溶媒および高分子に対して貧溶剤である溶媒には、上述した湿式プロセスにおけるものと同様のものを使用できる。
【0032】
[非水系二次電池]
本発明の非水系二次電池は、リチウムのドープおよび脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池であり、このような非水系二次電池の中でもリチウムイオン二次電池が好ましい。
【0033】
具体的に、本発明の非水系二次電池は、正極と、負極と、これらの電極間に配置されたセパレータと、電解液とを備えて構成されており、このような電池要素は外装に封入されている。
【0034】
本発明の非水系二次電池において、セパレータとしては、上述した本発明の非水系二次電池用セパレータを用いることが特徴である。このような電池であれば、上述したように、残留溶媒による電池特性への悪影響がなく、初期の充放電特性が良好でかつ自己放電が小さいと言った、良好な電池特性を得ることができる。
【0035】
また、本発明の非水系二次電池では、上述した非水系二次電池用セパレータを用いない場合であっても、セパレータとして、電気絶縁性の通気性基材と、この基材の片面又は両面に塗工法により形成された多孔質層とを備えたものを使用し、電解液中には、前記多孔質層を形成する高分子に対して貧溶剤である溶媒が、前記電解液の重量に対して0.001〜0.15重量%含まれているものであってもよい。このような電池でも、上述した良好な電池特性を得ることができる。なお、上記の貧溶剤である溶媒は、添加剤として電解液中に添加されても良い。
【0036】
負極は、負極活物質、導電助剤、バインダーからなる負極合剤が集電体(銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔等)上に成形された構造となっている。負極活物質としては、リチウムを電気化学的にドープすることが可能な材料、例えば、炭素材料、シリコン、アルミニウム、スズなどが用いられる。
【0037】
正極は、正極活物質、導電助剤、バインダーからなる正極合剤が集電体上に成形された構造となっている。正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMn0.5Ni0.5、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiMn、LiFePOが用いられる。
【0038】
電解液は、リチウム塩、例えば、LiPF、LiBF、LiClOを非水系溶媒に溶解した構成である。非水系溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ビニレンカーボネートなどが挙げられる。
【0039】
外装材は金属缶またはアルミラミネートパック等が挙げられる。電池の形状は角型、円筒型、コイン型などがあるが、本発明のセパレータはいずれの形状においても好適に適用することが可能である。
【実施例】
【0040】
本発明の実施例における試験方法は次の通りである。
[セパレータ中の貧溶剤濃度の測定]
セパレータ(0.1g、8.3×10−3)にN−メチル−2−ピロリドンを10ml加え、24時間浸漬後、30分間超音波処理を行い、セパレータ中に残留する溶媒をN−メチル−2−ピロリドンで抽出した。その後、GC−MS(Agilent6890/5973−GC/MS)により、セパレータ重量あたりに含有される貧溶剤濃度を求めた。
【0041】
[充放電特性の測定]
電池の充放電特性を評価するために、以下のようにして非水系二次電池を作製した。
1)正極
コバルト酸リチウム(LiCoO、日本化学工業社製)粉末89.5重量部と、アセチレンブラック4.5重量部及びPVdFの乾燥重量が6重量部となるように、6重量%のPVdFのNMP溶液を用い、正極剤ペーストを作製した。得られたペーストを、厚さ20μmのアルミ箔上に塗布乾燥後プレスして、厚さ97μmの正極を得た。
2)負極
負極活物質としてメソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB、大阪瓦斯化学社製)粉末87重量部と、アセチレンブラック3重量部及びPVdFの乾燥重量が10重量部となるように、6重量%のPVdFのNMP溶液を用い、負極剤ペーストを作製した。得られたペーストを、厚さ18μmの銅箔上に塗布乾燥後プレスして、厚さ90μmの負極を作製した。
3)電解液
エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを3:7の重量比で混合した溶液に、LiPFが1mol/Lとなるように溶解したものを用いた。
4)非水系二次電池の試作
上記正極(2cm×1.4cm)及び負極(2.2cm×1.6cm)を以下の実施例および比較例で作製したセパレータ(2.6cm×2.2cm)を介して対向させた。これに上記電解液(0.15〜0.21g)を含浸させアルミラミネートフィルムからなる外装に封入して非水系二次電池を作製した。
5)充放電特性
充放電測定装置(北斗電工社製 HJ−101SM6)を使用し、上記の方法で試作した非水系二次電池の充放電特性を調べた。測定は、1.6mA/hで4.2Vまで充電を行い、その後、1.6mA/hで2.75Vまで放電を行い、これを1サイクルとした。また、初期の充放電特性は1サイクル目の充放電特性を示す。
【0042】
[インピーダンス特性の測定]
上記充放電特性の測定を継続して5サイクル行った後(5サイクル充放電後)、4.2Vまで充電した非水系二次電池について、交流インピーダンス測定装置(東洋テクニカ社製 SI1260、SI1287)を使用し、交流インピーダンス法で、振幅10mV、周波数0.1〜100000Hzの条件にて測定した。
【0043】
[耐久性試験]
上記充放電特性の測定を継続して5サイクル行った後(5サイクル充放電後)、4.2Vまで充電した非水系二次電池について、加熱乾燥炉を用いて80℃で3日間保存した後、非水系二次電池の電圧を測定し、保存前後に起きた電圧降下を調査した。そして、電圧降下が小さいほど自己放電が小さいので、良好な耐久性を示すと評価した。
【0044】
[電解液中の貧溶剤濃度の測定]
上記の方法で作製した非水系二次電池を分解して得た電解液について、GC−MS(Agilent6890/5973−GC/MS)を用いて、電解液重量あたりに含有される貧溶剤濃度を求めた。
【0045】
[実施例1]
1)ポリメタフェニレンイソフタルアミドの製造
温度計、撹拌装置及び原料投入口を備えた反応容器に、水分率が100ppm以下のNMP753gを入れ、このNMP中にメタフェニレンジアミン85.2gとアニリン0.5gを溶解し、0℃に冷却した。この冷却したジアミン溶液にイソフタル酸クロライド160.5gを撹拌しながら徐々に添加し反応させた。この反応で溶液の温度は70℃に上昇した。粘度変化が止まった後、水酸化カルシウム粉末を58.4g添加し、さらに40分間撹拌して反応を終了させて重合溶液を取り出し、水中で再沈殿させポリメタフェニレンイソフタルアミドを184.0g得た。
【0046】
2)ポリエチレン微多孔膜の製造
ポリエチレンパウダーとして、Ticona社製のGUR2126(重量平均分子量415万、融点141℃)とGURX143(重量平均分子量56万、融点135℃)を用いた。GUR2126とGURX143を、1:9(重量比)となるようにして、ポリエチレン濃度が30重量%となるように流動パラフィン(松村石油研究所社製;スモイルP−350P;沸点480℃)とデカリンの混合溶媒中に溶解させ、ポリエチレン溶液を作製した。このポリエチレン溶液の組成は、ポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=30:45:25(重量比)であった。
【0047】
このポリエチレン溶液を148℃でダイから押し出し、水浴中で冷却してゲル状テープ(ベーステープ)を作製した。このベーステープを60℃で8分、95℃で15分乾燥し、次いで、ベーステープを縦延伸、横延伸と逐次行う2軸延伸にて延伸した。ここで、縦延伸は5.5倍、延伸温度は90℃、横延伸は延伸倍率11.0倍、延伸温度は105℃とした。横延伸の後に125℃で熱固定を行った。次にこれを塩化メチレン浴に浸漬し、流動パラフィンとデカリンを抽出した。その後、50℃で乾燥し、120℃でアニール処理しポリエチレン微多孔膜を得た。
【0048】
3)非水系二次電池セパレータの製造
前記で得られたポリメタフェニレンイソフタルアミドとポリエチレン多孔膜を用い、そして、これに無機フィラーを併用して、本発明の非水系二次電池用セパレータを製造した。
【0049】
具体的には、ポリメタフェニレンイソフタルアミドと平均粒子径0.8μmの水酸化アルミニウム(昭和電工社製;H−43M)からなる無機フィラーとが、重量比で25:75となるように調整し、これらをポリメタフェニレンイソフタルアミド濃度が5.5重量%となるように、ジメチルアセトアミド(DMAc)と貧溶剤としてトリプロピレングリコール(TPG)が重量比50:50となっている混合溶媒に混合し、塗工用スラリーを得た。
【0050】
マイヤーバーに上記塗工用スラリーを適量のせ、一対のマイヤーバー間にポリエチレン微多孔膜を通すことでポリエチレン微多孔膜の両面に塗工用スラリーを塗工した。これを、重量比で水:DMAc:TPG = 50:25:25で40℃となっている凝固液中に浸漬した。その後、得られたフィルムを水温40℃の水洗槽に23分浸漬させた後、乾燥した。これにより、本発明の非水系二次電池用セパレータを得た。
【0051】
[実施例2]
水洗時間を9分に変更した以外は、実施例1と同様の方法で本発明の非水系二次電池用セパレータを得た。
【0052】
[実施例3]
水洗時間を6分に変更した以外は、実施例1と同様の方法で本発明の非水系二次電池用セパレータを得た。
【0053】
[実施例4]
塗工用スラリーと凝固液に使用した貧溶剤をトリプロピレングリコールからエチレングリコールに変更した以外は、実施例1と同様の方法で本発明の非水系二次電池用セパレータを得た。
【0054】
[実施例5]
塗工用スラリーと凝固液に使用した貧溶剤をトリプロピレングリコールからメタノールに変更した以外は、実施例1と同様の方法で本発明の非水系二次電池用セパレータを得た。
【0055】
[実施例6]
塗工用スラリーと凝固液に使用した貧溶剤をトリプロピレングリコールからイソプロピルアルコールに変更した以外は、実施例1と同様の方法で本発明の非水系二次電池用セパレータを得た。
【0056】
[比較例1]
水洗時間を3分に変更した以外は、実施例1と同様の方法で非水系二次電池用セパレータを得た。
【0057】
[比較例2]
水洗時間を120分に変更した以外は、実施例1と同様の方法で非水系二次電池用セパレータを得た。
【0058】
(1)セパレータ中の貧溶剤濃度について
上述のようにして作製した実施例1〜6および比較例1、2のそれぞれのセパレータについて、貧溶剤濃度を測定した結果を表1に示す。表1の結果から、水洗時間が長いほど、溶媒濃度が低くなっていることが分かる。なお、表1中、比較例2は検出限界濃度以下であったため、「<0.002」と表した。
【0059】
(2)電解液中の貧溶剤濃度について
上述のようにして作製した実施例1〜6および比較例1、2のそれぞれのセパレータについて、非水系二次電池を作製し、電解液中に含まれる貧溶剤量の測定を行った結果を、表1に示す。なお、表1中、比較例2は検出限界濃度以下であったため、「<0.002」と表した
【0060】
【表1】

【0061】
(3)初期の充放電特性の評価・耐久性試験
上述のようにして作製した実施例1〜6および比較例1、2のそれぞれのセパレータついて、充電容量、放電容量および初期の充放電効率をそれぞれ測定した結果を表2に示す。また、耐久性試験により求めた電圧降下も合わせて表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
表2より、実施例1〜6の初期の充放電特性は同等に優れていると評価できるが、比較例1は他の実施例と比べて放電容量と効率が劣っていることが分かる。また、実施例1〜6の電圧降下は小さく同等に優れていると評価できるが、比較例2は他の実施例と比べて電圧降下が大きく劣っていることが分かる。これらの結果より、セパレータ中の貧溶剤濃度が0.001〜3重量%であれば、初期充放電特性と耐久性が良好な電池が得られることが分かる。
【0064】
(4)インピーダンス特性の評価
次に、実施例1〜3および比較例1、2の各セパレータについて、インピーダンス特性を測定した結果を図1に示す。
図1より、実施例1,2はそれぞれ同程度の優れたインピーダンス特性を有すると評価できるが、実施例3はこれら実施例1、2と比較してインピーダンス特性が劣っていることが分かる。さらに、比較例1は実施例3と比較して、よりインピーダンス特性が劣っていることが分かる。なお、図は省略するが、実施例4〜6についても実施例1、2と同程度のインピーダンス特性が得られた。
【0065】
以上より、セパレータ中の貧溶剤濃度が0.001〜1.5重量%であれば、良好な初期充放電特性に加えて、インピーダンス特性にも優れた電池が得られることが分かる。
また、以上の結果を電解液中の貧溶剤濃度と比較すると、電解液中に貧溶剤濃度が0.001〜0.15重量%であれば、初期充放電特性、耐久性、およびインピーダンス特性が良好であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施例および比較例のインピーダンス特性を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁性の通気性基材と、この基材の片面又は両面に積層された多孔質層とを備えた非水系二次電池用セパレータであって、
前記通気性基材ないし前記多孔質層に含有され、かつ、前記多孔質層を形成する高分子に対して貧溶剤である溶媒が、前記セパレータの重量に対して0.001〜3重量%含まれていること
を特徴とする非水系二次電池用セパレータ。
【請求項2】
前記溶媒は、前記セパレータの重量に対して0.001〜1.5重量%含まれていることを特徴とする請求項1に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項3】
前記溶媒は、アルコール類、および多価アルコールから選ばれる1種または2種以上の溶媒であることを特徴とする請求項1または2に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項4】
前記通気性基材は、熱可塑性樹脂にて形成され内部に空孔ないし空隙を有する基材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項5】
前記高分子は、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、およびポリエーテルイミドから選ばれる1種または2種以上の高分子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項6】
請求項1記載の非水系二次電池用セパレータの製造方法であって、
(i)前記多孔質層を形成するための高分子を、この高分子を溶解する溶媒および前記高分子に対して貧溶剤である溶媒を含む溶液中に溶解させて、塗工液を作製する工程と、
(ii)前記塗工液を前記通気性基材の片面または両面に塗布する工程と、
(iii)この塗布工程後の基材を凝固浴に浸漬して前記高分子を凝固させる工程と、
(iv)この凝固工程後の基材を水洗する工程と、
(v)この水洗工程後の基材を乾燥する工程と、を実施すること
を特徴とする非水系二次電池用セパレータの製造方法。
【請求項7】
請求項1記載の非水系二次電池用セパレータの製造方法であって、
(i)前記多孔質層を形成するための高分子を、この高分子を溶解する溶媒および前記高分子に対して貧溶剤である溶媒を含む溶液中に溶解させて、塗工液を作製する工程と、
(ii)前記塗工液を前記通気性基材の片面または両面に塗布する工程と、
(iii)この塗布工程後の基材を乾燥させて前記溶媒を揮発させ、前記高分子を凝固させる工程と、を実施すること
を特徴とする非水系二次電池用セパレータの製造方法。
【請求項8】
リチウムのドープおよび脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池であって、
正極と、負極と、これらの電極間に配置されたセパレータと、電解液とを備えて構成されており、
前記セパレータとして、請求項1〜5のいずれかに記載の非水系二次電池用セパレータを用いたこと
を特徴とする非水系二次電池。
【請求項9】
リチウムのドープおよび脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池であって、
正極と、負極と、これらの電極間に配置されたセパレータと、電解液とを備えて構成されており、
前記セパレータは、電気絶縁性の通気性基材と、この基材の片面又は両面に塗工法により形成された多孔質層とを備えており、
前記電解液中には、前記多孔質層を形成する高分子に対して貧溶剤である溶媒が、前記電解液の重量に対して0.001〜0.15重量%含まれていること
を特徴とする非水系二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2010−50024(P2010−50024A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215208(P2008−215208)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】