説明

非水電解液二次電池用正極活物質の製造方法

【課題】充放電時に電解液の酸化、分解を抑制でき、且つ二次電池の容量を向上させることのできる非水電解液二次電池用正極活物質の製造方法を提供する。
【解決手段】リチウムを含む遷移金属正極活物質にフッ素ガスの分圧が0.5〜50kPaであるフッ素ガスを含有したガスを接触させ、リチウムを含む遷移金属正極活物質の一部分にフッ素原子を含ませる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池用正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器特に携帯電話やノート型パソコンなどの携帯機器では小型化、軽量化の傾向がめざましくこれに伴いこれらを駆動させる二次電池が非常に重要になってきている。これら二次電池の中でもリチウムイオン二次電池は軽量でエネルギー密度が高いことからこれら携帯機器の駆動用電源として研究・工業化が進んでいる。以下、リチウムイオン二次電池を例にとって説明を加えていくが、本発明はリチウムイオン二次電池に限定されるものではない。
【0003】
通常、リチウムイオン二次電池は、
(1)正極:正極活物質としてコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム
(2)負極:負極活物質として金属リチウムあるいは炭素系材料
(3)セパレーター:高分子フィルム
(4)電解液:エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の有機溶剤(非水溶媒)にリチウム塩(電解質)を溶解したもの
で構成される。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、他の二次電池に比べて貯蔵・保管時における自己放電も少なく、作動温度も−20〜60℃という広い範囲で電流を取り出すことができるという利点も有する。
【0005】
しかしながら、電子機器特に携帯電話やノート型パソコンなどの携帯機器でさらに性能向上が期待されており、これに対応するためにはリチウムイオン二次電池においてもさらに容量を向上させることが不可欠である。
【0006】
電池の容量を向上させるためには充電電圧を上げることがもっとも簡便な方法ではあるが、充電電圧を上げると電解液の酸化や分解を生じる。そのような状態で充放電を繰り返して行うと容量が徐々に減少してしまうという問題がある。
【0007】
また、正極活物質自体の利用率を上げると当該活物質に含まれる遷移金属の溶出及び構造崩壊を生じ、電池のサイクル寿命特性の劣化を招く。しかし、それらを防止するための具体的手段は見出されていないのが現状である。
【0008】
上記問題点に対して、電解液の酸化、分解を抑制することを目的とし、リチウム遷移金属複合酸化物(例えば、チタン酸リチウムやスピネル型マンガン酸化物)で構成された正極活物質にフッ素処理を施すことにより、高い充電電圧で高温環境下に保存したときに生じる電解液の分解が抑制できることが特開平8−213014号公報、特開2000−113907号公報、特開2001−210325号公報に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−213014号公報
【特許文献2】特開2000−113907号公報
【特許文献3】特開2001−210325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、上記先行技術において正極活物質をフッ素処理すると、リチウム遷移金属複合酸化物中の成分であるコバルトやリチウムまでがフッ素と反応してフッ化コバルト(CoF)やフッ化リチウム(LiF)等の絶縁膜を形成してしまう。そうするとその絶縁膜により充電不能や早期の容量劣化を起こすという新たな問題を生じ、二次電池としての容量の向上が望めないだけでなく、電解液を分解したり、電池の充放電効率及びサイクル特性を低下させる原因にもなり得る。
【0011】
そこで、本発明は二次電池の容量を向上させ且つ充放電時に電解液の酸化、分解及び容量劣化を抑制できる非水電解液二次電池用正極活物質の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明者らは前記課題を解決するために正極活物質のフッ素化処理についてさらに鋭意検討を加えた結果、正極活物質の一部分のみがフッ素原子を含むようにすることによって上記課題を解決することができ本発明を完成するに至ったものである。すなわち、本発明の請求項1に係る発明は、リチウムを含む遷移金属正極活物質に、フッ素ガスの分圧が0.5〜50kPaであるフッ素ガスを含有したガスを接触させる前記リチウムを含む遷移金属正極活物質の一部分にフッ素原子を含ませる非水電解液二次電池用正極活物質の製造方法である。また、本願の請求項2に係る発明は、リチウムを含む遷移金属正極活物質に、フッ素ガスの分圧が0.5〜50kPaであるフッ素ガスを単独で接触させる前記リチウムを含む遷移金属正極活物質の一部分にフッ素原子を含ませる非水電解液二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0013】
また、本発明の請求項3に係る発明は、フッ素ガスを含有したガス、フッ素ガスの何れかを−50〜300℃で正極活物質と接触させる請求項1又は2に記載の非水電解液二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0014】
また、本発明の請求項4に係る発明は、フッ素ガスを含有したガス、フッ素ガスの何れのガスとリチウムを含む遷移金属正極活物質とが均一に反応するように接触させる請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0015】
また、本発明の請求項5に係る発明は、リチウムを含む遷移金属正極活物質の平均粒子径が0.1〜100μmである請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0016】
本発明によると、リチウムを含む遷移金属正極活物質について緩徐な処理条件でフッ素処理を行ったのでフッ素と結合するフッ化リチウム(LiF)の絶対量が減少し絶縁膜の生成が抑制される。即ち、移動可能なリチウムイオンの絶対量が増加するので二次電池の電池容量を増加させることが可能となる。しかも、正極活物質の一部分にフッ素原子が導入されているのでリチウムイオンを放出した後でも正極活物質の構造が維持でき、放電時にリチウムイオンが正極活物質の中にスムーズに入ることができ、容量の低下が少ないという作用を奏する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法は、正極活物質のフッ素処理条件をコントロールし、正極活物質の一部分にフッ素原子が含まれるので、二次電池を作製したときの放電容量が大きく、電解液の分解、酸化が起こりにくい。特に、ニッケル酸リチウムの一部にフッ素を含有させることによりコバルト酸リチウムをフッ素処理したときよりも高容量の二次電池を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の非水電解液二次電池用の正極活物質を得るための製造方法は、正極活物質の一部分がフッ素原子を含むようにすることを目的としているためフッ素処理条件はなるべく緩やかな方が好ましい。正極活物質のフッ素処理方法としては、
(1)ペルフルオロ化合物による光化学フッ素化法等を用いる方法、
(2)AHF(Anhydrous Hydrogen Fluoride)を用いる方法、
(3)フッ素ガスやフッ素原子を含むガス(例えば、NF(三フッ化窒素))を正極活物質と直接接触させる方法、
が例示できる。
【0019】
その中でも所望する特性の非水電解液二次電池用の正極活物質を一定の品質で安定供給でき、しかも一度に多量にフッ素処理できる上記(3)に示される正極活物質とフッ素ガスを含んだガスとを直接接触させることが好ましい。フッ素ガスを含有したガスとしては、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、窒素ガス、酸素ガス、三フッ化窒素ガス等のキャリアガスで希釈したガスが例示できる。その中でも安価で取り扱いが容易な窒素ガス、アルゴンガスをキャリアガスとしフッ素ガスと混合したフッ素含有ガスを用いることが好ましい。
【0020】
また、本発明は、リチウムを含む遷移金属正極活物質に、フッ素ガスを接触させるリチウムを含む遷移金属正極活物質の一部分にフッ素原子を含ませる非水電解液二次電池用正極活物質の製造方法である。正極活物質のフッ素処理は上述したようなフッ素ガスを含有したガスで行うことができるだけでなく、フッ素ガス単独であっても短時間のフッ素処理により上記正極活物質と同等の性能を有する正極活物質を得ることが可能である。フッ素ガス単独でフッ素処理する場合には、フッ素ガスとキャリアガスとを混合する手間が省けるので作業工程が簡略化できる。
【0021】
フッ素ガスの分圧(濃度)は、0.01〜200kPaとなるように調節することが好ましい。フッ素ガスの分圧が0.01kPaよりも小さいと正極活物質のフッ素処理を十分に行うことができない。また、フッ素の分圧が200kPaよりも大きくなると、正極活物質のフッ素化が進行しすぎるため電解液の酸化や分解の原因となる。その中でもフッ素ガスの分圧は0.1〜150kPaがさらに好ましく、0.2〜100kPaが特に好ましく、0.5〜50kPaの範囲内であることが最も好ましい。
【0022】
また、リチウムを含む遷移金属正極活物質とフッ素ガスを含むガス、フッ素ガスの何れかのガスを−50〜300℃で接触させることが好ましい。正極活物質と接触するときの温度が−50℃よりも低いと正極活物質のフッ素処理を十分に行えないので好ましくない。また、正極活物質とガスを接触させる温度が300℃よりも高いと正極活物質の結晶構造が変化したり、分解したりするので好ましくない。そのため−10〜50℃の温度範囲でガスと接触させることがより好ましい。
【0023】
また、リチウムを含む遷移金属正極活物質を、フッ素ガスを含有したガス、フッ素ガスの何れかと均一に反応させることが好ましい。この場合、均一にフッ素ガスあるいはフッ素含有ガスと正極活物質とを接触反応させる方法としては、正極活物質を反応容器内で撹拌させたり、粉末状の正極活物質を収納する容器に薄く満遍なく敷き詰め、要は上記ガスと正極活物質の接触面積を増加できるようにする。
【0024】
リチウムを含む遷移金属正極活物質の平均粒子径は、0.1〜100μmであることが好ましい。フッ素ガスを含むガス、フッ素ガスと接触させる正極活物質の平均粒子径が0.1μmよりも小さいとバインダー量が増加したり、フッ素との反応速度が大きくなりすぎて正極活物質のフッ素化処理を制御することが困難となるので好ましくない。一方、100μmよりも大きくなると正極を製造することが困難となるだけでなく、セパレーターが破壊される原因にもなるので好ましくない。したがって、正極活物質の平均粒子径は1〜50μmとすることがさらに好ましい。
【0025】
上述の製造方法により製造された遷移金属正極活物質は、リチウムを含む遷移金属正極活物質の一部分がフッ素原子を含んでなる非水電解液二次電池用正極活物質である。
【0026】
本発明で使用される正極活物質としては、従来から非水電解液二次電池用の正極活物質として知られたものが例示でき、例えば、LiMO(但し、MはNi、Mn、Fe等の遷移金属)で表されるリチウムと遷移金属との複合酸化物が例示できる。また、放電容量が高く、しかも安価であるニッケル酸リチウム(LiNiO)が正極活物質としてさらに好ましい。
【実施例】
【0027】
以下に本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
【0028】
(実施例1〜実施例9)
平均粒子径が10μmのコバルト酸リチウム(LiCoO)とニッケル酸リチウム(LiNiO)各々10gを別々にニッケル製反応容器に入れ、真空ポンプにて100Paまで減圧し、表1に示す条件でフッ素含有ガスまたはフッ素ガスでフッ素処理した。
【0029】
(電極(正極)の製造及び非水電解液二次電池の作製)
上記フッ素処理されたコバルト酸リチウムもしくはニッケル酸リチウム各々95wt%に、アセチレンブラック2wt%、ポリフッ化ビニリデン3wt%を十分混合し、成形して40mm×40mmの正極電極を作成した。また負極にはリチウム金属を用い、電解液には六フッ化リン酸リチウム1mol/dmを含むエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒(混合体積比3:7)を用いた。このようにして調製した正極と負極の間に、ポリプロピレン不織布からなるセパレータを配し、非水電解液二次電池を作製した。
【0030】
(比較例1、比較例2)
正極電極を作成するに当たり、コバルト酸リチウム(比較例1)あるいはニッケル酸リチウム(比較例2)にフッ素処理を行わずに、実施例と同様にして非水電解液二次電池を作成した。
【0031】
(二次電池性能評価試験)
以上のようにして作成された電池について、電流密度1.0mA/cm、cut off 電位上限4.3V、下限2.0V、温度25℃とし、初回放電容量と電圧の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1から適切な条件でフッ素処理されたリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いた二次電池は、フッ素処理をしていないものに比べて放電容量が大きく(即ち、電解液の分解が起こりにくい。)、しかも電池としての電圧にも優れていることが判る。
【0034】
以上、本発明の好適な実施形態及び実施例について説明したが、本発明は上述の実施の形態及び実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムを含む遷移金属正極活物質に、フッ素ガスの分圧が0.5〜50kPaであるフッ素ガスを含有したガスを接触させる前記リチウムを含む遷移金属正極活物質の一部分にフッ素原子を含ませる非水電解液二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項2】
リチウムを含む遷移金属正極活物質に、フッ素ガスの分圧が0.5〜50kPaであるフッ素ガスを単独で接触させる前記リチウムを含む遷移金属正極活物質の一部分にフッ素原子を含ませる非水電解液二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
フッ素ガスを含有したガス、フッ素ガスの何れかを−50〜300℃で正極活物質と接触させる請求項1又は2に記載の非水電解液二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
フッ素ガスを含有したガス、フッ素ガスの何れのガスとリチウムを含む遷移金属正極活物質とが均一に反応するように接触させる請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
リチウムを含む遷移金属正極活物質の平均粒子径が0.1〜100μmである請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用正極活物質の製造方法。





【公開番号】特開2009−164139(P2009−164139A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102447(P2009−102447)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【分割の表示】特願2003−174856(P2003−174856)の分割
【原出願日】平成15年6月19日(2003.6.19)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【出願人】(502318560)エス・イー・アイ株式会社 (12)
【Fターム(参考)】