説明

非水電解液二次電池用負極

【課題】充放電のサイクル特性が向上し、しかも充放電に起因する極板の膨張が効果的に抑制された非水電解液二次電池用負極を提供すること。
【解決手段】本発明の非水電解液二次電池用負極は、Siを含有する活物質粒子を含む活物質層を備える。活物質粒子は、累積体積50容量%における粒径D50に対して1/2以下の粒径の粒子の累積頻度が、小粒子径側からの累積で8〜25%である。活物質粒子は、小粒子径側から粒径1.38μmまでの粒子の累積頻度が体積基準で好ましくは10〜30%であり、かつ小粒子径側から粒径0.5μmまでの粒子の累積頻度が体積基準で好ましくは1.5〜7.5%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池用負極に関する。また本発明は、該負極を備えた非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は先に、Siの活物質の粒子を含む活物質層を備え、該粒子の表面の少なくとも一部がリチウム化合物の形成能の低い金属材料で被覆されているとともに、該金属材料で被覆された該粒子どうしの間に空隙が形成されている構造を有する非水電解液二次電池用の負極を提案した(特許文献1参照)。この負極においては、活物質層に形成されている空隙の割合を特定の範囲に設定することによって、該活物質層内における非水電解液の流通が円滑になり、その結果、充放電のサイクル特性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−66278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、グラファイトのような炭素材料からなる負極活物質に比較してSiからなる活物質は、リチウムの吸蔵・放出時の体積変化が大きいことが知られている。したがって、電池の充放電を繰り返すと極板の厚みが増して、ひいては電池の厚みが増すことになる。電池の厚みの増加は、該電池を、例えば薄型であり、電池収納スペースに限りがある電子機器(例えば携帯電話等)の電源として用いる場合に問題となることがある。
【0005】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術よりも各種の性能が更に向上した非水電解液二次電池用の負極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、Siを含有する活物質粒子を含む活物質層を備えた非水電解液二次電池用負極において、
前記活物質粒子は、累積体積50容量%における粒径D50に対して1/2以下の粒径の粒子の累積頻度が、小粒子径側からの累積で8〜25%である非水電解液二次電池用負極を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、充放電のサイクル特性が向上し、しかも充放電に起因する極板の膨張が効果的に抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1(a)は、実施例1及び比較例1で用いた負極活物質粒子の体積基準の粒度分布を示すグラフであり、図1(b)は個数基準の粒度分布を示すグラフである。
【図2】図2(a)及び(b)はそれぞれ、実施例1及び比較例1で得られた負極における活物質層の縦断面の走査型電子顕微鏡像である。
【図3】図3は、実施例及び比較例で得られたコインセルの充放電サイクル特性を表すグラフである。
【図4】図4は、実施例及び比較例で得られたラミネートセルの充放電に伴う厚みの変化の割合を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の負極は、リチウム二次電池等の非水電解液二次電池に用いられるものである。本発明の負極はその基本構成部材として、集電体と、該集電体の少なくとも一方の面に設けられた活物質層とを有している。活物質層は、負極活物質の粒子を含んで構成されている。集電体としては、充電時にリチウムと化合物を形成しない金属の箔などが用いられる。そのような金属としては、例えばCu、Ni、Fe、Co等が挙げられる。
【0010】
本発明で用いる負極活物質は、Siを含有する物質からなる。Siを含有する負極活物質としては、例えば純Si、Si固溶体及びSi合金並びにそれらの2種以上の混合物などが挙げられる。Si合金とは、Siと他の元素とが化合物を形成しているものをいう。Si固溶体及びSi合金に含まれるSi以外の元素としては、例えばホウ素、ゲルマニウム、スズ、窒素、リン、ヒ素、アンチモン及びビスマスなどが用いられる。これらの元素は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0011】
負極活物質は、上述のとおり粒子状のものである。使用する粒子の形状に特に制限はない。例えば球状、多面体状、板状、針状及び紡錘状などの種々の形状のものを用いることができる。これらの形状の粒子の混合物を用いてもよい。
【0012】
負極活物質は、その粒径によって特徴付けられる。具体的には、活物質層を形成するための原料として用いられる活物質の粉体は、累積体積50容量%における粒径D50に対して1/2以下の粒径の粒子の累積頻度が、小粒子径側からの累積で8〜25%であり、好ましくは10〜24%であり、更に好ましくは15〜20%である。粒度分布の尺度として、D50に対して1/2以下の粒径の粒子の累積頻度を採用した理由は、体積基準での粒度分布において、高い頻度を占める粒径D50を中心とする粒子群に対して、その1/2以下の粒径の粒子群を相当程度存在させることで、電池の充放電のサイクル特性が向上し、また充放電に起因する活物質層の膨張が効果的に抑制される効果が奏されるという本発明者の知見に基づくものである。
【0013】
上述の粒度分布を有する活物質の粉体を用いると、後述する図2(a)に示すように、活物質層は、相対的に小粒径の粒子(以下、「小粒径粒子」ともいう。)が、相対的に大粒径の粒子(以下、「大粒径粒子」ともいう。)どうしの間に形成された空間を埋めるように、該空間に多数存在している状態になることが、本発明者らの検討の結果判明した。活物質粒子がこのような充填状態になっていることによって、本発明の負極によれば、充放電のサイクル特性が向上する。また、充放電に起因する活物質層の膨張が効果的に抑制される。この理由を本発明者らは以下のように考えている。大粒径粒子どうしの間に形成された空間を、小粒径粒子が埋めることで、大粒径粒子どうしが小粒径粒子によってあたかも結合されたような状態となる。この状態が実現することによって、大粒径粒子のみを用いた場合に比較して、大粒径粒子どうしの結合力が向上していると考えられる。その結果、充放電を繰り返しても活物質層の構造が変化しづらくなり、粒子間の距離が増大しにくくなり、粒子間での電子伝導性が維持される。その結果、サイクル特性が向上するものと考えられる。また、活物質層の膨張が抑制されるものと考えられる。
【0014】
大粒径粒子どうしの間に形成された空間を埋めるように、該空間に小粒径粒子を首尾よく存在させるためには、上述した事項に加えて、活物質の粉体は、小粒径側から粒径1.38μmまでの粒子の累積頻度が、体積基準で10〜30%、特に15〜28%、とりわけ20〜25%であることが好ましい。更に、粒径0.5μmの粒子の頻度が、体積基準で1.5〜7.5%、特に2〜7%、とりわけ4〜6%であることが好ましい。粒径として1.38μm及び0.5μmを選定した理由は、これらの粒径を有する粒子(つまり小粒径粒子)が、大粒径粒子どうしの間に形成された空間を首尾良く埋めるのに重要な役割を果たしているという本発明者らの知見に基づくものである。
【0015】
累積体積50容量%における粒径D50に対する1/2以下の粒径の粒子の累積頻度は上述のとおりであるところ、粒径D50の値そのものは、1.4〜10μm、特に1.5〜5μmであることが好ましい。また、粒径D50は、1.38μmよりも大きいことが好ましい。こうすることで、活物質層の内部に適度な空間を形成することができるので、活物質内への電解液の含浸性を容易に確保でき、かつ活物質層の膨張を容易に抑制できる。同様の観点から、体積基準での粒度分布曲線における極大値での活物質粒子の粒径の値は、1.5〜10μm、特に1.8〜5μmであることが好ましい。
【0016】
活物質の粉体の粒度分布は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法によって求めることができる。
【0017】
上述の粒度分布を有する活物質の粉体を得るためには、例えば粒度分布の異なる2種以上の粉体を適切な量比で混合すればよい。また、例えばD50が比較的大きな値である粉体を、D50が比較的小さな値である粉体と混合することで、上述の粒度分布を有する活物質の粉体を得ることができる。後述する実施例1で用いた活物質の粉体の体積基準粒度分布曲線は図1(a)に示すとおりとなり、シャープなピークを一つ有し、該ピークの小粒径側に該ピークよりも小さなピークを更に有するものである。つまり、2つのピークを有するものである。これとは対照的に、比較例1で用いた活物質の粉体では、同図に示すように、シャープなピークを一つだけ有し、該ピークの小粒径側に小さなピークは観察されない。実施例1と比較例1で用いた粉体の粒度分布が大きく相違するものであることは、図1(b)に示す該粉体の個数基準粒度分布曲線から一層明らかなものとなる。同図に示す比較例1で用いた粉体は、2つのシャープなピークを有している。2つのピークは、相対的に小粒径側に位置するピークP1の方が、相対的に大粒子径側に位置するピークP2よりも、ピーク高さが高くなっている。これに対して、実施例1で用いた活物質の粉体でも、2つのピークP1,P2が観察されるものの、相対的に大粒子径側に位置するピークP2のピーク高さは、比較例1の場合よりも非常に低くなっている。この場合、〔(ピークP2のピーク高さ/ピークP1のピーク高さ)×100〕の値(以下、「ピーク高さ比」ともいう)が好ましくは1〜10、更に好ましくは1.5〜7であると、大粒径粒子と小粒径粒子との割合が好適なものとなる。尤も、個数基準の粒度分布曲線において二つのピークを有することやピーク高さ比がこの範囲を満たすことは、本発明の好ましい一条件であり、本発明において必須のものではない。活物質の粉体は、粒径1/2D50以下の粒子の累積頻度が上述の範囲を満たせば、本発明の所望の効果は奏される。
【0018】
異なる粒度分布を有する2種以上の粉体を混合して本発明で用いられる活物質の粉体を得る方法の具体例としては、体積基準粒度分布曲線におけるD50が好ましくは1.4〜5μm、更に好ましくは1.4〜3μmであり、該粒度分布曲線において単一のピークを示す粉体Aと、体積基準粒度分布曲線におけるD50が好ましくは0.5〜3μm、更に好ましくは1〜2μmであり、該粒度分布曲線において単一のピークを示す粉体Bとを、粉体A:粉体Bの質量比が好ましくは60:40〜90:10、更に好ましくは70:30〜80:20となるように混合する方法が挙げられる。
【0019】
本発明の負極においては、活物質層を構成する活物質の粉体として、上述の粒度分布を有しているものを用いる場合には、活物質層の厚みを比較的薄くすることが有利であることが判明した。活物質層の厚みを薄くすることで、充放電に起因する活物質層の膨張を一層抑制できるからである。この観点から、活物質層の厚みは、活物質の粉体の粒度分布が上述のとおりであることを条件として、1〜20μm、特に2〜12μmであることが好ましい。この厚みは、負極の縦断面の顕微鏡観察から測定できる。
【0020】
また活物質層の厚みは、該活物質層を構成する活物質の粒子の大きさとも関係している。具体的には、活物質層はその厚みが、体積基準での粒度分布曲線における最も高いピークの極大値での活物質粒子の粒径の1〜15倍、特に2〜8倍とすることが好ましい。活物質の粒子の粒径との関係で、活物質層の厚みをこの範囲内に設定することで、充放電に起因する活物質層の膨張を更に一層抑制できる。極大値での活物質粒子の粒径は先に述べたとおりである。
【0021】
本発明の負極における活物質層は、例えば(イ)上述の活物質の粉体を含む負極合剤を集電体上に塗布してなる塗布層の形態とすることができる。あるいは、(ロ)上述の活物質の粉体を含み、活物質の粒子どうしが焼結した状態になっている形態とすることができる。更に、(ハ)上述の活物質の粉体を含み、活物質の粒子の表面を、リチウムと合金を形成しない金属元素の被膜が密着被覆しており、かつ各活物質の粒子を被覆する該被膜どうしが結合して、該金属元素からなる網目状連続体が活物質層内に形成されている形態とすることもできる。
【0022】
活物質層が前記の(イ)の形態である場合、活物質の粉体を、常法にしたがい、結着剤、導電材及び溶媒とともに混合して負極合剤を調製する。これを金属箔からなる集電体の少なくとも面に塗布し乾燥させることで、負極活物質層が形成される。必要に応じ、乾燥後の活物質層をプレスすることもできる。
【0023】
活物質層が前記の(ロ)の形態である場合には、上述した方法で負極合剤を調製し、該負極合剤を金属箔からなる集電体の少なくとも面に塗布した後、所定温度で焼結を行うことで、活物質層が形成される。焼結の条件としては、例えば特開2002−75332号公報に記載の条件を採用することができる。
【0024】
活物質層が前記の(ハ)の形態である場合には、上述した方法で負極合剤を調製し、該負極合剤をCu、Ni、Fe、Co等の金属箔からなる集電体の少なくとも面に塗布し、塗布後の活物質層をめっき液中に浸漬して、負極活物質の粒子間にめっき液を浸透させた状態で電解めっき又は無電解めっきを行い、該活物質層内にめっき金属を析出させ、該めっき金属による連続した三次元のネットワーク構造を活物質層の全域にわたって形成する。負極活物質の粒子は、その表面の少なくとも一部がめっき金属によって被覆されており、かつめっき金属の三次元ネットワーク構造内に保持されている。また、活物質層中にはその全域にわたり、非水電解液の流通が可能な三次元のネットワーク構造の空隙が形成されている。めっき金属としては、充電時にリチウムと化合物を形成しない金属が好適に用いられる。そのような金属としては、例えばCu、Ni、Fe、Coなどが挙げられる。このような構造の負極活物質を有する負極の詳細は、例えば特開2008−66278号公報に記載されている。
【0025】
特に活物質層が前記の(ハ)の形態である場合には、充電時にリチウムと化合物を形成しない金属が、活物質の粒子間を連結して粒子間結合力が高まるので、充放電に起因する活物質層の構造変化が起こりづらくなり、充放電のサイクル特性が一層高まるという利点がある。また充放電に起因する活物質層の膨張が一層抑制されるという利点もある。この観点から、活物質層が前記の(ハ)の形態である場合には、隣り合う大粒径粒子に着目したとき、各大粒径粒子の表面を密着被覆している前記の金属の被膜が、隣り合う該大粒径粒子間に多数存在している小粒径粒子の表面を密着被覆している前記金属の被膜を介し、連続体になっていることが好ましい。
【0026】
以上の構造を有する本発明の負極は、正極、セパレータ、非水電解液等とともに用いられて非水電解液二次電池を構成する。正極は、例えば集電体の少なくとも一面に正極活物質層が形成されてなるものである。正極活物質層には活物質が含まれている。正極活物質としては、当該技術分野において従来知られているものを特に制限なく用いることができる。例えば各種のリチウム遷移金属複合酸化物を用いることができる。そのような物質としては、例えばLiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn24、LiCo1/3Ni1/3Mn1/32、LiCo0.5Ni0.52、LiNi0.7Co0.2Mn0.12、Li(LixMn2xCo1-3x)O2(式中、0<x<1/3である)、LiFePO4、LiMn1-zzPO4 (式中、0<z≦0.1であり、MはCo、Ni、Fe、Mg、Zn及びCuからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素である。)などが挙げられる。
【0027】
負極及び正極とともに用いられるセパレータとしては、合成樹脂製不織布、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、又はポリテトラフルオロエチレンの多孔質フィルム等が好ましく用いられる。
【0028】
非水電解液は、支持電解質であるリチウム塩を有機溶媒に溶解した溶液からなる。有機溶媒としては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の1種又は2種以上の組み合わせが用いられる。リチウム塩としては、CF3SO3Li、(CF3SO2)NLi、(C25SO22NLi、LiClO4、LiA1Cl4、LiBF4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiCl、LiBr、LiI、LiC49SO3等が例示される。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0030】
〔実施例1〕
負極活物質としてSiを用いた。粒度分布及び粒径D50の異なる2種類のSi粉(D50=2.6μmであり、体積基準粒度分布曲線において単一のピークを示す粉76質量%と、D50=1.6μmであり、体積基準粒度分布曲線において単一のピークを示す粉24質量%との混合粉)を混合し、負極活物質として用いた。この混合粉は、異なる2種類のSi粉を、乳鉢を用いて混合して調製した。混合後のSi粉の体積基準の粒度分布を図1(a)及び以下の表1に示す。また、個数基準の粒度分布を図1(b)に示す。これらの粒度分布は、日機装(株)製のマイクロトラック粒度分布測定装置(No.9320−X100)を用い、測定溶媒である水の中に測定サンプル粉を0.5g程度入れた後、30Wで150秒間、超音波で分散してから測定した。このSi粉の詳細を以下の表2に示す。
【0031】
このSi粉を用い、特開2008−66278号公報に記載の方法にしたがい負極を製造した。厚さ18μmの電解銅箔からなる集電体を室温で30秒間酸洗浄した。処理後、15秒間純水洗浄した。集電体の両面上に、前記のSi粉からなる負極活物質を含むスラリーを膜厚10μmになるように塗布し塗膜を形成した。スラリーの組成は、Si粉:スチレンブタジエンラバー(結着剤):アセチレンブラック=100:1.7:2(重量比)であった。
【0032】
塗膜が形成された集電体を、以下の浴組成を有するピロリン酸銅浴に浸漬させ、電解により、塗膜に対して銅のめっきを行い、活物質層を形成した。電解の条件は以下のとおりとした。陽極にはDSEを用いた。電源は直流電源を用いた。電解めっきは、塗膜の厚み方向全域にわたって銅が析出した時点で終了させた。このようにして活物質層を形成し負極を得た。ピロリン酸銅浴におけるP27の重量とCuの重量との比(P27/Cu)は7とした。得られた負極における活物質層の縦断面の走査型電子顕微鏡像を図2(a)に示す。同図から明らかなように、本実施例で得られた負極の活物質層においては、大粒径粒子どうしの間の空間を小粒径粒子が埋めるように、該空間に該小粒径粒子が多数存在していることが判る。
・ピロリン酸銅三水和物:105g/l
・ピロリン酸カリウム:450g/l
・硝酸カリウム:15g/l
・浴温度:50℃
・電流密度:3A/dm2
・pH:アンモニア水とポリリン酸を添加してpH8.2になるように調整した。
【0033】
得られた負極を直径14mmの円形に打ち抜き、160℃で6時間真空乾燥を施した。そして、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、2032コインセルを組み立てた。対極としては金属リチウムを用いた。電解液としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1:1体積比混合溶媒に1mol/lのLiPF6を溶解した溶液を用いた。セパレータとしては、ポリプロピレン製多孔質フィルムを用いた。
【0034】
〔実施例2〕
実施例1において負極活物質層の厚みを18μmとする以外は実施例1と同様にして負極を作製し、該負極を用いて実施例1と同様にしてコインセルを作製した。
【0035】
〔実施例3〕
Si粉として以下の表2に示すもの(D50=2.6μmであり、体積基準粒度分布曲線において単一のピークを示す粉70質量%と、D50=1.6μmであり、体積基準粒度分布曲線において単一のピークを示す粉30質量%との混合粉)を用い、かつ負極活物質層の厚みを同表に示す値とする以外は実施例1と同様にして負極を作製し、該負極を用いて実施例1と同様にしてコインセルを作製した。
【0036】
〔比較例1〕
図1(a)及び(b)並びに以下の表1に示す粒度分布を有するSi粉(D50=2.6μmであり、体積基準粒度分布曲線において単一のピークを示す粉のみを使用)を負極活物質として用いた。この粒度分布は、実施例1と同様にして測定した。このSi粉の詳細を以下の表2に示す。このSi粉を用い、負極活物質層の厚みを18μmとする以外は実施例1と同様にして負極を作製した。得られた負極における活物質層の縦断面の走査型電子顕微鏡像を図2(b)に示す。同図から明らかなように、本比較例で得られた負極の活物質層においては、Si粒子どうしの間に大きな空間が存在していることが判る。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
〔評価1〕
実施例1ないし3及び比較例1で得られたコインセルについて、充放電サイクル特性を測定した。その結果を図3に示す。これらの測定を行ったときの充放電条件は、充電は1.5Vまで行い、放電は0.001Vまで行った。充電及び放電のレートは、1回目は0.05C、2〜5回目は0.1C、6回目以降は0.5Cとした。その結果を図3に示す。同図から明らかなように、各実施例で得られた負極を用いると、比較例で得られた負極を用いた場合よりも、充放電のサイクル特性が良好になることが判る。
【0040】
〔実施例4〕
実施例1で用いた負極と同様のものを用いた。正極としては、実施例1で用いたリチウムに代えて次のものを用いた。すなわち、正極活物質として、LiNi1/3Mn1/3Co1/32に、Li1.05Ni0.7Ti0.2(Mn2/3Li1/30.12を20重量%添加したものを用いた。これを、アセチレンブラック及びポリフッ化ビニリデンとともに、溶媒であるN−メチルピロリドンに懸濁させ正極合剤を得た。配合の重量比は、正極活物質:アセチレンブラック:ポリフッ化ビニリデン=88:6:6とした。この正極合剤をアルミニウム箔(厚さ20μm)からなる集電体にアプリケータを用いて塗布し、120℃で乾燥した後、荷重0.5ton/cmのロールプレスを行い、正極を得た。電解液として、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1:1体積比混合溶媒に1mol/lのLiPF6を溶解した溶液を用いた。セパレータとして、ポリプロピレン製多孔質フィルムを用いた。これらを用いてラミネートセル(電極サイズ:負極42mm×31mm、正極40mm×29mm)を作製した。
【0041】
〔実施例5及び比較例2〕
実施例2及び比較例1で用いた負極と同様のものを用いた。これ以外は実施例4と同様にしてラミネートセルを作製した。
【0042】
〔評価2〕
実施例4及び5並びに比較例2で得られたラミネートセルについて、充放電に伴う厚みの変化を測定した。その結果を図4に示す。ラミネートセルの厚みは、その最大幅広面の中央部の位置においてマイクロメータを用いて測定した。図4中、縦軸は、〔(T2+T1)/T1〕×100から算出した。T1は充放電を行う前の負極活物質層の厚みを表し、T2は各充放電サイクルでのラミネートセルの厚みの増加分を表す。測定を行ったときの充放電条件は、充電は、4.2Vまで行い、定電流、定電圧(CC−CV)のモードでC/5となったところで充電完了とした。放電は、2.7Vまで行い、定電流(CC)のモードとした。充電及び放電のレートは、1回目は0.05C、2〜5回目は0.1C、6回目以降は0.5Cとした。同図から明らかなように、各実施例で得られた負極を用いると、比較例で得られた負極を用いた場合よりも、充放電に起因する膨張が抑制されていることが判る。特に、実施例4と実施例5との対比から明らかなように、活物質層の厚みが小さい(10μm)実施例3は、活物質層の厚みが大きい(20μm)実施例4に比べて、膨張が一層抑制されていることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siを含有する活物質粒子を含む活物質層を備えた非水電解液二次電池用負極において、
前記活物質粒子は、累積体積50容量%における粒径D50に対して1/2以下の粒径の粒子の累積頻度が、小粒子径側からの累積で8〜25%である非水電解液二次電池用負極。
【請求項2】
前記活物質粒子は、小粒子径側から粒径1.38μmまでの粒子の累積頻度が体積基準で10〜30%であり、かつ小粒子径側から粒径0.5μmまでの粒子の累積頻度が体積基準で1.5〜7.5%である請求項1に記載の非水電解液二次電池用負極。
【請求項3】
前記活物質層はその厚みが、体積基準での粒度分布曲線における極大値での粒径の1〜15倍である請求項1又は2に記載の非水電解液二次電池用負極。
【請求項4】
前記活物質粒子の表面を、リチウムと合金を形成しない金属元素の被膜が密着被覆しており、かつ各活物質粒子を被覆する該被膜どうしが結合して、該金属元素からなる網目状連続体が前記活物質層内に形成されている請求項1ないし3のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池用負極。
【請求項5】
前記活物質粒子が純Si、Si固溶体又はSi合金からなる請求項1ないし4のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池用負極。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池用負極を備えた非水電解液二次電池。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−256543(P2012−256543A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129511(P2011−129511)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】