説明

非水電解質二次電池の作製方法

【課題】リチウムイオン電池等の非水電解質二次電池において、イオン伝導性や導電率が低い活物質を用いる際には、微粒子化が必要とされるが、微粒子化すると電極密度が低下する。
【解決手段】遷移金属を有する平均の大きさが5nm乃至50nmの酸化物の活物質粒子を電解質、バインダー等と混合してスラリーを形成し、これを集電体に塗布した後、磁場中に放置すると、活物質粒子が凝集し、高密度化する。あるいは、磁場中で活物質粒子を塗布してもよい。このように凝集した活物質粒子を用いることにより電極密度を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解質二次電池、中でもリチウムイオン二次電池(以下、単にリチウムイオン電池とも言う)に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は蓄電容量が大きな二次電池として、小型の携帯電気機器だけでなく、近年では電気自動車等にも搭載されている。従来、リチウムイオン電池の正極には、コバルト酸リチウム(LiCoO)が用いられてきた。
【0003】
ところが、コバルトは資源として少なく、LiCoO等を正極活物質に使用した二次電池では、電気自動車用電池をにらんだ量産化、大型化に対応しにくく、また価格的にも極めて高価なものにならざるを得ない。そこでコバルトに代えて、資源として豊富であり、かつ安価な鉄を主たる構成元素として用いたオリビン構造のリチウム鉄複合酸化物(例えば、燐酸鉄リチウム(LiFePO))やリチウムマンガン複合酸化物(例えば、燐酸マンガンリチウム(LiMnPO))を正極活物質に採用する試みがされている(特許文献1参照)。
【0004】
また、燐酸鉄リチウムの物性面でも研究がおこなわれ、単結晶燐酸鉄リチウムの磁性についても研究されている(非特許文献1参照)。非特許文献1によれば、燐酸鉄リチウムは室温で常磁性体であり、(010)方向の磁化率が大きいことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−079276号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】G. Liang et al., ”Anisotropy in magnetic properties and electric structure of single−crystalLiFePO4”, Phys. Rev. B77 (2008) 064414.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、燐酸鉄リチウムは、電気伝導およびイオンの伝導がコバルト酸リチウムよりも悪く、その分、電池としての特性も劣るものである。これらの問題を解決するためには、これらの粒子を微細化し、粒子から電解質へ電子およびイオンが移動する経路を短くすることが必要とされている。すなわち、粒子の大きさの平均値(本明細書では、粒子の大きさとは、粒子の体積の立方根と定義する)を50nm以下、好ましくは20nm以下とすることが求められている。
【0008】
しかしながら、そのような微細な粒子を扱う場合には、活物質を高密度にできないという問題がある。これは粒子の大きさが50nm以下の場合には、粒子表面が活性化するためである。例えば、同じ1gの粒子の集合体(粉体)であっても、粒子の大きさが1μmのものと10nmのものとを比較すると、後者は前者の5倍以上の体積を必要とする。このことは活物質粒子を電極として用いる場合、微細な粒子では電極の密度(言い換えれば、電気容量)が低下することを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、遷移金属を有するオリビン型酸化物が常磁性、強磁性、あるいは反強磁性を示すという特徴を利用し、粉体を凝集させ、高密度な電極を得ることを特徴とする。例えば、上記オリビン型酸化物の活物質粒子を0.01テスラ乃至2テスラの磁場中で集電体上に形成することにより活物質粒子を集電体上に凝集させる。このような磁場による凝集は、オリビン型酸化物に限られず、一般に磁化率が大きい材料に適用することが好ましい。
【0010】
すなわち、本発明の一態様は、遷移金属を有する平均の大きさが5nm乃至50nm以下の酸化物の活物質粒子と電解液やバインダーを混合して、スラリーを形成する工程と、前記スラリーを集電体に塗布する工程と、前記スラリーを塗布された集電体を0.01テスラ乃至2テスラの磁場中に放置する工程と、を有する非水電解質二次電池の作製方法である。
【0011】
また、別の本発明の一態様は、遷移金属を有する平均の大きさが5nm乃至50nm以下の酸化物の活物質粒子と電解液やバインダーを混合して、スラリーを形成する工程と、前記スラリーを0.01テスラ乃至2テスラの磁場中で集電体に塗布する工程と、を有する非水電解質二次電池の作製方法である。
【0012】
上記において、活物質粒子の平均の大きさは、5nm乃至20nmであることがより好ましい。また、最も理想的には、個々の活物質粒子は単結晶(1つの結晶)よりなっていることが好ましい。なお、実用上は、全ての活物質粒子が単結晶である必要はないが、60%以上が単結晶であることが好ましい。また、活物質粒子はその表面にカーボンがコーティングされていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
以上の説明は、リチウムイオン電池に関するものであるが、それに限られず、非水電解質二次電池一般に適用できる。上記の構成を有することで非水電解質二次電池の電力取り出し効率を向上させることができる。これは、蓄電容量の向上を意味するが、一時的にせよ大電力が必要な用途にも向いている。
【0014】
例えば、電気自動車の電源は、平坦地を走行するときには、比較的、電力消費量が少ない。しかしながら、急加速するときや、坂を上るときは多くの電力を消費する。その際、電源は多くの電流を流す必要があるが、電力取り出し効率が悪いと、内部抵抗が増大し、電圧降下が著しくなり、また、内部抵抗による損失も発生する。
【0015】
その結果、そのような状況では、本来使用できる電力の何割かは損失となってしまう。例えば、二次電池を電源とする場合は、蓄えたはずの電力は、平坦地走行であればほぼ100%使用できるのに、登坂時や加速時には、その何割かが失われてしまう。電力取り出し効率を改善することで、そのような損失を抑制できる。
【0016】
上記の方法により作製された正極では、活物質粒子間の距離が狭められ、活物質の高密度化(すなわち、蓄電容量の増加)を図ることができる。なお、磁場による粉体の高密度化に関しては、活物質の磁化率が大きければ大きいほど好ましい。
【0017】
本発明を実施するには、図1(A)に示すように集電体103上に、電解液101(バインダや導電助剤を含む)に分散させた活物質粒子102(カーボンコートされていてもよい)を塗布する。ここでは、8つの活物質粒子(A乃至H)が示されている。集電体103はアルミニウム等の磁化率の小さな常磁性体であることが好ましい。この段階では、活物質粒子の向きはランダムである。
【0018】
上述のように、活物質粒子が50nm以下であると、粒子間の間隔が拡がり、活物質の密度は低い。例えば、粒子の大きさが1μmであると、電解液は活物質の10%以下でよいが、粒子が20nm以下であると、電解液は活物質と同量以上必要となる。
【0019】
その後、上記の範囲内の磁場を活物質粒子102に印加すると、活物質粒子102は集電体103に引き寄せられる。特に大きさに傾斜がある磁場を用いることが好ましい。また、活物質の磁化率に異方性がなければ、粒子の長辺方向が磁場の方向と一致するように配列する。そのため、活物質粒子102は集電体103上に高密度に凝集することとなる。
【0020】
このように凝集した活物質粒子は磁場がなくなった後でもその状態を維持できる。そのため、例えば、永久磁石や電磁石等の有限な大きさの磁場発生手段を集電体裏面を移動させることによっても、大きな面積の集電体上に形成された活物質粒子を凝集させることができる。
【0021】
例えば、図2(A)および図2(B)に示すように、集電体103の裏面を図の左から右に磁場発生手段を移動させることにより、左側の活物質粒子102から順次、凝集させ、最終的にはほとんどの活物質粒子102を凝集させることができる。
【0022】
また、この際には、図3(A)に示すように長尺状の磁場発生手段106を用いて、集電体103の裏面側を走査させてもよい。このような磁場発生手段106は、集電体103に比較すると十分に小さいので、図3(B)に示すように、磁場の大きさは不均質であり、磁場発生手段106の磁場発生面の中央部付近が最も磁場の大きさが大きく、周辺部へ移るにしたがって弱くなり、また、磁力線107に示すように、磁場の向きも変化する。
【0023】
すなわち、磁場の大きさに傾斜がある。このように磁場の大きさに傾斜があると、電解液101の表層付近の活物質粒子102は、磁場発生手段に近いほど磁場が強くなるため集電体103の表面付近に集まりやすくなる。この際、集電体103の表面での磁場の大きさは0.01テスラ乃至2テスラとするとよい。
【0024】
なお、一度、集電体103の表面付近に集まった活物質粒子102は、それ自体が磁場を発生させる物体でない限り、その後、磁場の大きさや向きが変化したとしても、その位置を変化させることはほとんどない。
【0025】
これに対し、磁場の大きさに全く傾斜のない場合(平行磁場)では、活物質粒子102は、その磁化率の異方性にしたがって、粒子の向きを変化させ、1つの方向に結晶軸が揃う(配向する)が、凝集させることは困難である。これは、磁場の大きさに傾斜がない場合、活物質粒子102が位置を変えることによって、エネルギー的により安定となることがないためである。
【0026】
また、活物質粒子102の温度を低下させると、磁化率が向上するので、電解液101の粘度が同じであれば、より凝集しやすくなる。
【0027】
以上の処理の結果、活物質粒子102の間隔が狭まり、上層の電解液105は不要となるので、その部分は取り除くとよい。その結果、図1(C)に示すような正極104を得ることができる。正極104は十分に高密度化され、かつ、電力取り出し効率も高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】活物質粒子を凝集させる方法を示す図である。
【図2】活物質粒子を凝集させる方法を示す図である。
【図3】活物質粒子を凝集させる手段を示す図である。
【図4】二次電池の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、実施の形態について図面を参照しながら説明する。但し、実施の形態は多くの異なる態様で実施することが可能であり、趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は、以下の実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0030】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様であるリチウムイオン二次電池の作製方法について説明する。正極活物質の粒子の大きさは、平均値が5nm乃至50nm、好ましくは5nm乃至20nmとなるようにするとよい。
【0031】
正極活物質粒子の作製には、固相反応法以外に、水熱法等の溶液法を用いてもよい。水熱法によって、例えば、燐酸鉄リチウムを作製するには、塩化鉄、燐酸アンモニウム、水酸化リチウムあるいはこれらの水和物を出発原料とすればよい。
【0032】
特に十分な本発明の効果を得るには、正極活物質粒子は単結晶よりなることが好ましく、そのためには水熱法は好適である。また、焼成時にグルコース等の炭水化物を混合して、正極活物質粒子にカーボンがコーティングされるようにしてもよい。この処理により導電性が高まる。しかし、正極活物質粒子が十分に微細であれば、カーボンコーティングは必要ない。
【0033】
このようにして得られた正極活物質粒子とバインダー、電解液を混合して、スラリーを作製する。電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒にLiPFを溶解させたものを用いるとよいが、これに限られない。
【0034】
そして、正極集電体に上記スラリーを塗布し、これを磁場中に2秒乃至1時間放置する。あるいは、磁場中でスラリーを塗布してもよい。磁場の大きさは、正極集電体表面で0.01テスラ乃至2テスラとする。正極集電体としてはアルミニウムを主成分とする金属材料を用いるとよい。また、正極集電体は、鉄、ニッケル、コバルト等の磁化率の大きな遷移金属やイッテリビウム、ディスプロシウム等のランタノイド元素の濃度があわせて1原子%以下であることが好ましい。
【0035】
正極活物質粒子は正極集電体に引き寄せられ、集電体上で凝集するので、スラリーの上層部はほとんど活物質粒子のない状態となるので、この部分は取り除く。その後、スラリーを乾燥させる。これによって正極が完成する。このようにして作製した正極を用いてリチウムイオン電池を作製できる。
【0036】
以下、図4を用いて説明する。図4はコイン型の二次電池の構造を示す模式図である。正極232は、正極集電体228と、上記の方法によって作成された正極活物質層230(すなわち、凝集した正極活物質粒子と電解液とバインダーよりなる)を有する。
【0037】
なお、図4に示すように、コイン型の二次電池は、負極204、正極232、セパレータ210、電解液(図示せず)、筐体206及び筐体244を有する。このほかにはリング状絶縁体220、スペーサー240及びワッシャー242を有する。正極232は、上記工程により得られた正極集電体228に正極活物質層230が設けられたものを用いる。
【0038】
電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒にLiPFを溶解させたものを用いるとよいが、これに限られない。
【0039】
負極204は、負極集電体200上に負極活物質層202を有する。負極集電体200としては、例えば銅を用いるとよい。負極活物質としては、グラファイトやポリアセン等を用い、これを単独、あるいはバインダーで混合したものを負極活物質層202として用いるとよい。
【0040】
セパレータ210には、空孔が設けられた絶縁体(例えば、ポリプロピレン)を用いてもよいが、リチウムイオンを透過させる固体電解質を用いてもよい。
【0041】
筐体206、筐体244、スペーサー240及びワッシャー242は、金属(例えば、ステンレス)製のものを用いるとよい。筐体206及び筐体244は、負極204及び正極232を外部と電気的に接続する機能を有している。
【0042】
これら負極204、正極232及びセパレータ210を電解液に含浸させ、図4に示すように、筐体206の中に負極204、セパレータ210、リング状絶縁体220、正極232、スペーサー240、ワッシャー242、筐体244をこの順で積層し、筐体206と筐体244とを圧着してコイン型の二次電池を作製する。
【0043】
(実施の形態2)
本発明の電気機器の例として、各種の乾電池、充電池等が挙げられる。これらの正極として、例えば、実施の形態1で示した方法で作製されたものを用いればよい。
【0044】
また、本発明の電気機器の例としては、例えば、電気自動車、電動工具、パーソナルコンピュータ、携帯電話等が挙げられる。これらの電気機器は、有線で電源が供給されるとは限らないため、内部に充電池を有する。その充電池の正極として、例えば、実施の形態1で示した方法で作製されたものを用いればよい。
【0045】
特に、瞬間的にせよ大きな電流を流すことが必要とされる用途、あるいは、必要とされる電流値が大きく変動する用途では、内部抵抗の小さい充電池が求められるので、本発明を適用すると、十分な効果が得られる。
【符号の説明】
【0046】
101 電解液
102 活物質粒子
103 集電体
104 正極
105 上層の電解液
106 磁場発生手段
107 磁力線
200 負極集電体
202 負極活物質層
204 負極
206 筐体
210 セパレータ
220 リング状絶縁体
228 正極集電体
230 正極活物質層
232 正極
240 スペーサー
242 ワッシャー
244 筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属を有する体積の立方根の平均値が5nm乃至50nmの酸化物の活物質粒子と電解液を混合して、スラリーを形成する工程と、
前記スラリーを集電体に塗布する工程と、
前記スラリーを塗布された集電体を0.01テスラ乃至2テスラの磁場中に放置する工程と、
を有する非水電解質二次電池の作製方法。
【請求項2】
遷移金属を有する体積の立方根の平均値が5nm乃至50nmの酸化物の活物質粒子と電解液を混合して、スラリーを形成する工程と、
前記スラリーを0.01テスラ乃至2テスラの磁場中で集電体に塗布する工程と、
を有する非水電解質二次電池の作製方法。
【請求項3】
遷移金属を有する体積の立方根の平均値が5nm乃至50nmの酸化物の活物質粒子と電解液を混合して、スラリーを形成する工程と、
前記スラリーを集電体の一の面に塗布する工程と、
前記集電体の他の面に面して、磁場発生手段を移動させる工程と、
を有する非水電解質二次電池の作製方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一において、
前記活物質粒子の体積の立方根の平均値は、5nm乃至20nmであることを特徴とする非水電解質二次電池の作製方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一において、前記活物質粒子は鉄を有し、オリビン構造を有することを特徴とする非水電解質二次電池の作製方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一において、前記活物質粒子はその表面にカーボンがコーティングされていることを特徴とする非水電解質二次電池の作製方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一において、前記活物質粒子の60%以上が単結晶であることを特徴とする非水電解質二次電池の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−156129(P2012−156129A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−995(P2012−995)
【出願日】平成24年1月6日(2012.1.6)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】